(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098452
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240716BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240716BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240716BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20240716BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20240716BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240716BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/36 A
H01G11/06
H01G11/64
H01G11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001998
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】岸本 顕
(72)【発明者】
【氏名】奥坊 崇司
(72)【発明者】
【氏名】山川 勇人
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA15
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA30
5E078DA14
5H029AJ02
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA09
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子であって、不可逆容量が小さい非水電解質蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極と、下記式(1)で表される化合物を含む非水電解質とを備える。式(1)中、R
1からR
3は、それぞれ独立して、フッ素原子又は炭素数1以上10以下の有機基である。但し、R
1からR
3の少なくとも1つは、フッ素原子である。M
m+は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はオニウムイオンである。mは、M
m+の価数と同数の整数である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極と、
下記式(1)で表される化合物を含む非水電解質と
を備える、非水電解質蓄電素子。
【化1】
(式(1)中、R
1からR
3は、それぞれ独立して、フッ素原子又は炭素数1以上10以下の有機基である。但し、R
1からR
3の少なくとも1つは、フッ素原子である。M
m+は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はオニウムイオンである。mは、M
m+の価数と同数の整数である。)
【請求項2】
上記非水電解質が、ホウ素元素を含むアニオンを有する化合物をさらに含む、請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方は、上記正極活物質の粒子の少なくとも表面に存在する、請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
上記正極活物質が上記タングステン元素を含む、請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
上記正極活物質が上記ホウ素元素を含む、請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子の性能向上のために、正極活物質に各種元素を添加することが検討されている。引用文献1には、正極活物質にタングステン元素を添加することにより、非水電解質蓄電素子の初期の出力性能が向上することが記載されている。引用文献2には、正極活物質にホウ素元素を添加することにより、非水電解質蓄電素子の充放電サイクルにおける容量維持率が高まることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-140787号公報
【特許文献2】特開2018-073481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タングステン元素又はホウ素元素が添加された正極活物質が用いられた非水電解質蓄電素子は、上記のような利点を有する一方、不可逆容量(1サイクルの充放電における充電容量と放電容量との差)が大きいという好ましくない点を有する。
【0006】
本発明の目的は、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子であって、不可逆容量が小さい非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極と、下記式(1)で表される化合物を含む非水電解質とを備える。
【化1】
(式(1)中、R
1からR
3は、それぞれ独立して、フッ素原子又は炭素数1以上10以下の有機基である。但し、R
1からR
3の少なくとも1つは、フッ素原子である。M
m+は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はオニウムイオンである。mは、M
m+の価数と同数の整数である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子であって、不可逆容量が小さい非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子の概要について説明する。
【0011】
[1]本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極と、下記式(1)で表される化合物を含む非水電解質とを備える。
【化2】
(式(1)中、R
1からR
3は、それぞれ独立して、フッ素原子又は炭素数1以上10以下の有機基である。但し、R
1からR
3の少なくとも1つは、フッ素原子である。M
m+は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はオニウムイオンである。mは、M
m+の価数と同数の整数である。)
【0012】
上記[1]に記載の非水電解質蓄電素子は、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子であって、不可逆容量が小さい。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。通常、上記式(1)で表される化合物は、主に正極で反応し、正極活物質表面に被膜を形成すると考えられる。しかし、正極活物質がタングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む場合、上記式(1)で表される化合物の正極での反応が抑制されるため、上記式(1)で表される化合物の負極での反応が促進される。この場合、上記式(1)で表される化合物に由来する被膜が負極活物質表面に形成されることで、負極での非水電解質の分解反応が抑制される。このため、上記[1]に記載の非水電解質蓄電素子は、不可逆容量が小さいと推測される。
【0013】
[2]上記[1]に記載の非水電解質蓄電素子において、上記非水電解質が、ホウ素元素を含むアニオンを有する化合物をさらに含んでいてもよい。
【0014】
上記[2]に記載の非水電解質蓄電素子は、不可逆容量がより小さい。この理由も定かではないが、負極活物質表面に形成される被膜に、ホウ素元素を含むアニオンを有する化合物に由来する成分が含まれることで、負極での非水電解質の分解反応がより抑制されること等が推測される。
【0015】
[3]上記[1]又は[2]に記載の非水電解質蓄電素子において、上記タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方は、上記正極活物質の粒子の少なくとも表面に存在していてもよい。
【0016】
上記[3]に記載の非水電解質蓄電素子は、不可逆容量がより小さい。この理由は定かではないが、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方が、上記正極活物質の粒子の表面に存在することで、上記式(1)で表される化合物の正極での反応がより抑制され、上記式(1)で表される化合物に由来する被膜が負極活物質表面により形成され易くなること等が推測される。
【0017】
[4]上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の非水電解質蓄電素子において、上記正極活物質が上記タングステン元素を含んでいてもよい。
【0018】
上記[4]に記載の非水電解質蓄電素子は、不可逆容量が小さいことに加え、正極活物質がタングステン元素を含む場合には充放電サイクル後の抵抗が大きいという点を改善することができる。この理由は定かではないが、上記式(1)で表される化合物に由来する、負極活物質表面に形成される被膜が、正極活物質から溶出したタングステン元素の負極活物質表面での析出を抑制すること等が推測される。
【0019】
[5]上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の非水電解質蓄電素子において、上記正極活物質が上記ホウ素元素を含んでいてもよい。
【0020】
上記[5]に記載の非水電解質蓄電素子は、不可逆容量が小さいことに加え、正極活物質がホウ素元素を含む場合には高温環境下での保存後の抵抗が大きいという点を改善することができる。この理由は定かではないが、正極活物質がホウ素元素を含む場合、上記式(1)で表される化合物の正極での反応がより抑制され、上記式(1)で表される化合物に由来する被膜が負極活物質表面により形成され易くなること等が推測される。
【0021】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0022】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含浸した状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0023】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0024】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0025】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0026】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0027】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0028】
正極活物質は、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む。正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方は、正極活物質の粒子の少なくとも表面に存在していてもよい。タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方は、正極活物質の粒子の表面に点在していてもよく、被覆層を形成していてもよい。また、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方は、正極活物質の粒子の内部に存在していてもよい。正極活物質が二次粒子である場合、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方は、正極活物質の一次粒子の粒界に存在していてもよい。
【0029】
正極活物質に含まれるタングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方は、例えば、酸化物(酸化タングステン、酸化ホウ素等)等の化合物の状態で存在していてもよい。上記酸化物は、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方並びに酸素元素以外の他の元素をさらに含んでいてもよい。タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む化合物は、例えば、正極活物質の粒子の表面に点在していてもよく、被覆層を形成していてもよく、正極活物質が二次粒子である場合、正極活物質の一次粒子の粒界に存在していてもよい。
【0030】
本発明の一実施形態において、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む化合物が、リチウムイオン等の電荷輸送イオンを吸蔵及び放出することができる物質の粒子の表面の少なくとも一部を被覆していてもよい。この一実施形態において、正極活物質は、電荷輸送イオンを吸蔵及び放出することができる物質と、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む化合物とを含む。正極活物質は、電荷輸送イオンを吸蔵及び放出することができる物質と、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む化合物とのみから実質的になるものであってもよい。また、電荷輸送イオンを吸蔵及び放出することができる物質自体が、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0031】
正極活物質にタングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含有させる方法としては、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む化合物を、電荷輸送イオンを吸蔵及び放出することができる物質の粒子表面にコーティングする方法が挙げられる。タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む化合物をコーティング後、熱処理等を行ってもよい。また、電荷輸送イオンを吸蔵及び放出することができる物質の合成の際にタングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む物質を添加し、焼成することで、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を正極活物質の粒子に含有させる方法も挙げられる。タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質としては、市販品を用いてもよい。
【0032】
本発明の一実施形態において、正極活物質がタングステン元素を含んでいてもよい。このような形態の非水電解質蓄電素子は、不可逆容量が小さいことに加え、正極活物質がタングステン元素を含む場合には充放電サイクル後の抵抗が大きいという点を改善することができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、正極活物質はホウ素元素を含んでいてもよい。このような形態の非水電解質蓄電素子は、不可逆容量が小さいことに加え、正極活物質がホウ素元素を含む場合には高温環境下での保存後の抵抗が大きいという点を改善することができる。
【0034】
本発明の一実施形態において、正極活物質はタングステン元素及びホウ素元素の双方を含んでいてもよい。
【0035】
正極活物質におけるタングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方の含有量(タングステン元素及びホウ素元素の双方を含む場合においては、双方の合計含有量)としては、正極活物質に含まれるリチウム元素以外の全ての金属元素の含有量に対して0.05mol%以上3mol%以下が好ましく、0.2mol%以上2mol%がより好ましい。タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方の含有量が上記範囲であることで、これらの元素を含有することによる利点が十分に奏される。正極活物質に含まれるリチウム元素以外の全ての金属元素には、タングステン元素及びホウ素元素も含まれる。
【0036】
タングステン元素、ホウ素元素及び正極活物質に含まれる全ての金属元素の含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)により求めることができる。具体的には、以下の手順で行う。初めに、非水電解質蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。ここで、通常使用時とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。次に、非水電解質蓄電素子を解体し、正極を取り出し、金属Li電極を対極とした試験電池を組み立て、正極合剤1g当たり10mAの電流で、正極電位が2.0V vs.Li/Li+となるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。完全放電状態とした正極から、正極活物質を採取する。そして、採取した正極活物質をマイクロ波分解法により、正極活物質に含まれるタングステン元素、ホウ素元素及びその他の金属元素を溶解可能な酸を用いて正極活物質を全溶解させる。次に、この溶液を純水で一定量に希釈し、測定溶液とする。そして、マルチ型ICP発光分光分析装置ICPE-9820(島津製作所社製)を用い、ICP発光分光分析により上記測定溶液中のタングステン元素、ホウ素元素、その他の金属元素の濃度を測定する。得られた各元素の濃度から、正極活物質中の元素含有量を定量する。なお、上記測定溶液中の各元素の濃度の算出においては、既知の濃度のタングステン元素、ホウ素元素及びその他の金属元素の溶液から検量線を作成し、上記測定溶液のタングステン元素、ホウ素元素及びその他の金属元素の濃度を求める検量線法を用いることができる。また、正極活物質の表面にタングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方が存在していることは、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型エックス線分析装置(SEM-EDX)、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)等で正極活物質表面のタングステン元素、ホウ素元素及びその他の金属元素の分布を観察することにより確認することができる。
【0037】
電荷輸送イオンを吸蔵及び放出することができる物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質が好ましく、これらは従来公知の材料を用いることができる。このような物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの物質中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの物質は他の材料と複合化されていてもよい。正極活物質層においては、これら物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
電荷輸送イオンを吸蔵及び放出することができる物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中でも、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のうちの少なくとも一種を含むものが好ましく、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素を含むものがより好ましい。
【0039】
上述のように、正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0040】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0041】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0042】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0043】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0044】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0045】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0046】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。正極活物質層に増粘剤を使用する場合、正極活物質層における増粘剤の含有量は、0.1質量%以上8質量%以下とすることができ、通常、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。ここで開示される技術は、正極活物質層が増粘剤を含まない態様で好ましく実施され得る。
【0047】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。正極活物質層にフィラーを使用する場合、正極活物質層におけるフィラーの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下とすることができ、通常、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。ここで開示される技術は、正極活物質層がフィラーを含まない態様で好ましく実施され得る。
【0048】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0049】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0050】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0051】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0052】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0053】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0054】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましく、黒鉛がより好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましく、結晶性が高く非水電解質蓄電素子の入力性能を高めるという観点で、天然黒鉛が好ましい。
【0056】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0057】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Li電極を対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0058】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0059】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0060】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよく、5μm以上20μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質層は、箔状であってもよい。
【0061】
負極活物質のBET比表面積は、3m2/g以上12m2/g以下であってもよく、4m2/g以上8m2/g以下であってもよい。このような範囲のBET比表面積を有する負極活物質が用いられた非水電解質蓄電素子に本発明の一実施形態を適用した場合、負極活物質表面に形成される被膜の量が適度になること等により、不可逆容量が小さくなる等の効果が特に顕著に生じ得る。
【0062】
負極活物質の「BET比表面積」は、以下の方法により求める値とする。まず、非水電解質蓄電素子を、0.05Cの電流で、通常使用時の下限電圧まで定電流放電し、放電された状態とする。次に、この放電された状態の非水電解質蓄電素子を解体し、負極を取り出して、付着した成分(非水電解質等)を充分に洗浄し、室温にて24時間減圧乾燥させて得られた負極活物質に対して、窒素吸着法を用いた細孔径分布測定を行う。この測定は、Quantachrome社製「autosorb iQ」により行うことができる。得られる吸着等温線のP/P0=0.06から0.3の領域から5点を抽出してBETプロットを行い、その直線のy切片と傾きからBET比表面積を算出する。
【0063】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0064】
負極活物質層に導電剤を使用する場合、負極活物質層における導電剤の含有量としては、1質量%以上10質量%以下であってもよく、3質量%以上9質量%以下であってもよい。負極活物質が炭素材料等である場合、負極活物質層は導電剤を含有していなくてもよい。
【0065】
負極活物質層におけるバインダの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質を安定して保持することができる。
【0066】
負極活物質層における増粘剤の含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.3質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0067】
負極活物質層にフィラーを使用する場合、負極活物質層におけるフィラーの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下とすることができ、通常、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。ここで開示される技術は、負極活物質層がフィラーを含まない態様で好ましく実施され得る。
【0068】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0069】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0070】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0071】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0072】
(非水電解質)
非水電解質は、下記式(1)で表される化合物(以下、「第1化合物」ともいう。)を含む。非水電解質が第1化合物を含むことにより、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子における不可逆容量を小さくすることができる。また、非水電解質が第1化合物を含むことにより、タングステン元素を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子における充放電サイクル後の抵抗が大きいという点を改善することができ、ホウ素元素を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子における高温環境下での保存後の抵抗が大きいという点を改善することができる。
【化3】
【0073】
式(1)中、R1からR3は、それぞれ独立して、フッ素原子又は炭素数1以上10以下の有機基である。但し、R1からR3の少なくとも1つは、フッ素原子である。Mm+は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はオニウムイオンである。mは、Mm+の価数と同数の整数である。
【0074】
有機基とは、少なくとも一つの炭素原子を含む基をいう。有機基としては、炭化水素基、炭化水素基の炭素原子間又は末端に酸素原子(-O-)、カルボニル基(-CO-)又はこれらの組み合わせが結合した基、これらの基が有する少なくとも一つの水素原子が、他の原子(例えばフッ素原子等のハロゲン原子)又は基(例えば、カルボキシ基、アミノ基等)で置換された基等が挙げられる。有機基としては、炭化水素基、炭化水素基の末端に酸素原子が結合した基、又はこれらの基が有する少なくとも一つの水素原子がフッ素原子で置換された基が好ましい。
【0075】
炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0076】
R1からR3としては、フッ素原子又は炭素数1以上6以下の有機基が好ましく、フッ素原子又は炭素数1以上3以下の有機基がより好ましく、フッ素原子がさらに好ましい。すなわち、R1、R2及びR3がそれぞれフッ素原子であることが最も好ましい。
【0077】
アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)等が挙げられる。オニウムイオン(オニウムカチオン)としては、アンモニウムイオン(NH4
+)、ホスホニウムイオン(PH4
+)、スルホニウムイオン(SH3
+)、及びこれらのイオンが有する少なくとも一つの水素原子が、他の原子(例えばフッ素原子等のハロゲン原子)又は基(例えば、アルキル基、カルボキシ基、アミノ基等)で置換されたイオン等が挙げられる。
【0078】
Mm+としては、アルカリ金属イオンが好ましく、リチウムイオン(Li+)がより好ましい。
【0079】
Mm+が1価のイオンである場合、mは1である。Mm+が2価のイオンである場合、mは2である。
【0080】
第1化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。第1化合物は、非水電解質中において、アニオンとカチオン(Mm+)とに解離した状態で存在していてもよく、アニオンとカチオン(Mm+)とが結合した状態で存在していてもよい。カチオン(Mm+)が2価以上のイオンである場合、アニオンと1以上m未満の数のカチオン(Mm+)とが結合した状態で存在していてもよい。
【0081】
非水電解質における第1化合物の含有量としては、0質量%超5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上3質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がよりさらに好ましい。第1化合物の含有量を上記範囲とすることで、不可逆容量を小さくすることができる等の第1化合物による効果がより十分に奏される。なお、非水電解質に含まれる第1化合物の少なくとも一部は、初期充放電において分解され、主に負極活物質表面を覆う被膜を形成する。そのため、非水電解質蓄電素子に備わる非水電解質中に僅かにでも第1化合物が残存していることが確認できれば、負極活物質表面に既に十分な被膜が形成されているといえることから、第1化合物による効果が奏される。
【0082】
非水電解質は、ホウ素元素を含むアニオンを有する化合物(以下、「第2化合物」ともいう。)をさらに含むことが好ましい。非水電解質が第2化合物をさらに含むことにより、非水電解質蓄電素子の不可逆容量がより小さくなる。
【0083】
ホウ素元素を含むアニオンとしては、テトラフルオロボレートアニオン(BF4
-)、ジフルオロオキサラトボレートアニオン(BF2(C2O4)-)、ビス(オキサラト)ボレートアニオン(B(C2O4)2
-)等が挙げられる。これらの中でも、ジフルオロオキサラトボレートアニオン、ビスオキサラトボレートアニオン等のホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンが好ましい。
【0084】
第2化合物は、通常、ホウ素元素を含むアニオンと、カチオンとからなる塩である。第2化合物を構成するカチオンとしては、上記式(1)におけるMm+で表されるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン又はオニウムイオンとして例示したものと同様のものが挙げられ、アルカリ金属イオンが好ましく、リチウムイオン(Li+)がより好ましい。
【0085】
第2化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。第2化合物は、非水電解質中において、アニオンとカチオンとに解離した状態で存在していてもよく、アニオンとカチオンとが結合した状態で存在していてもよい。カチオンが2価以上のイオンである場合、アニオンと1以上m未満の数のカチオンとが結合した状態で存在していてもよい。
【0086】
非水電解質における第2化合物の含有量としては、0質量%超3質量%以下が好ましく、0.01質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がよりさらに好ましい。第2化合物の含有量を上記範囲とすることで、不可逆容量をより小さくすることができるといった第2化合物による効果がより十分に奏される。なお、非水電解質に含まれる第2化合物の少なくとも一部は、初期充放電において分解され、負極活物質表面に被膜を形成する。そのため、非水電解質蓄電素子に備わる非水電解質中に僅かにでも第2化合物が残存していることが確認できれば、負極活物質表面に既に十分な被膜が形成されているといえることから、第2化合物による効果が奏される。
【0087】
非水電解質は、非水電解液であってもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩及び第1化合物を含む。非水電解液は、非水溶媒に溶解されている成分として、第2化合物をさらに含んでいることが好ましい。第1化合物又は第2化合物が電解質塩として機能してもよい。
【0088】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲン原子に置換されたものを用いてもよい。
【0089】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもEC及びPCが好ましい。
【0090】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0091】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0092】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0093】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0094】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0095】
非水電解液は、第1化合物、第2化合物、非水溶媒及び電解質塩以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート等の不飽和環状カーボネート;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これらの中でも、不飽和環状カーボネートを用いることが好ましい。これらの他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0096】
非水電解液に含まれる上記他の成分の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。上記他の成分の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。上記他の成分の含有量の上限は、2質量%又は1質量%であってもよい。
【0097】
非水電解質としては、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0098】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0099】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0100】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0101】
図2に、電気的に接続された二つ以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二つ以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二つ以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一つ以上の非水電解質蓄電素子1の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0102】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、第1化合物を含む非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極並びに負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0103】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0104】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0105】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0106】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0107】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
[実施例1]
(正極の作製)
LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2の粒子表面に酸化タングステンを付着させた正極活物質(以下、「活物質W」ともいう。)を準備した。この活物質Wにおけるリチウム元素以外の全ての金属元素に対するタングステン元素の含有量は0.5mol%であった。
上記正極活物質と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラック(AB)とを含有し、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを調製した。正極活物質とバインダと導電剤との質量比は、固形分換算で、94.5:1.5:4.0とした。正極合剤ペーストを正極基材としてのアルミニウム箔に塗工し、乾燥させ、プレスすることにより正極活物質層を形成した。これにより、正極基材に正極活物質層が積層された正極を得た。
【0109】
(負極の作製)
負極活物質としての黒鉛(平均粒径10.0μm、BET比表面積6.12m2/g)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを含有し、水を分散媒とする負極合剤ペーストを調製した。負極活物質とバインダと増粘剤との質量比は、固形分換算で、97.8:1.0:1.2とした。負極合剤ペーストを負極基材としての銅箔に塗工し、乾燥させ、プレスすることにより負極活物質層を形成した。これにより、負極基材に負極活物質層が積層された負極を得た。
【0110】
(非水電解質の調製)
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比25:5:70で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/dm3の濃度で混合した。この混合溶液に、添加剤として、リチウムジフルオロホスホニルフルオロスルホニルイミド(上記式(1)において、R1からR3がいずれもフッ素原子であり、Mm+がLi+であり、mが1である化合物;以下、「化合物A」ともいう。)を2.0質量%、及びビニレンカーボネート(VC)を0.5質量%の含有量で混合し、非水電解質を調製した。なお、本実施例(比較例及び参考例を含む)において、非水電解質に含まれる非水溶媒及び電解質塩以外の成分を添加剤という。
【0111】
(非水電解質蓄電素子の組み立て)
上記正極と負極とをポリエチレン製微多孔膜セパレータを介して積層し、電極体を作製した。電極体を容器に収容し、上記非水電解質を容器に注入することにより、実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0112】
[実施例2から5、比較例1から3、参考例1から5]
正極活物質の種類、並びに非水電解質に含有させた添加剤の種類及び含有量を表1に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2から5、比較例1から3及び参考例1から5の各非水電解質蓄電素子を得た。
なお、表1中の「活物質B」には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の粒子表面に酸化ホウ素を付着させた正極活物質を用いた。この活物質Bは、ホウ酸(H3BO3)水溶液にLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の粒子を混合して懸濁溶液を作製した後、上記懸濁溶液を乾燥して熱処理することで得た。この活物質Bにおけるリチウム元素以外の全ての金属元素に対するホウ素元素の含有量は0.5mol%であった。
「活物質X」には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の粒子を用いた。
また、用いた添加剤は以下の通りである。
・化合物A:リチウムジフルオロホスホニルフルオロスルホニルイミド
・LiBOB:リチウムビス(オキサラト)ボレート
・LiFOB:リチウムジフルオロオキサラトボレート
・VC:ビニレンカーボネート
・LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
また、表1並びに後述する表2及び表3中、添加剤の各欄における括弧内の数値は、各添加剤の含有量(質量%)を表す。
【0113】
[評価]
(初期充放電)
得られた各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内において、充電電流1.0C、充電終止電圧4.10Vで定電流定電圧充電を行った。充電終止条件は、充電電流が0.01Cに減衰した時点とした。10分間の休止期間を設けた後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.50Vで定電流放電を行い、さらに10分間の休止期間を設けた。これらの充電及び放電を1サイクルとして、2サイクルの初期充放電を行った。
【0114】
(1)不可逆容量の測定
初期充放電を行った各非水電解質蓄電素子について、以下の要領で充放電を行い、不可逆容量を求めた。25℃の恒温槽内において充電電流1.0C、充電終止電圧4.10Vで定電流定電圧充電を行った。充電終止条件は、充電電流が0.01Cに減衰した時点とした。その後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.50Vで定電流放電を行った。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。この充放電を2サイクル実施し、各サイクルの負極活物質質量当たりの不可逆容量(充電容量と放電容量との差)の合計を不可逆容量とした。不可逆容量の値を表1に示す。また、同じ正極活物質を用いた非水電解質蓄電素子間において、非水電解質が添加剤としてLiBOB(0.5質量%)及びVC(0.5質量%)を含有する非水電解質蓄電素子を基準(100.0%)とした、各非水電解質蓄電素子の不可逆容量の相対値を表1に示す。すなわち、参考例1から5においては、参考例1を基準とした相対値であり、比較例1、2及び実施例1から3においては、比較例1を基準とした相対値であり、比較例3及び実施例4、5においては、比較例3を基準とした相対値である。
【0115】
【0116】
参考例1と比較例1、3との比較から確認できるように、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子は、これらの元素を含まない正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子と比べて、不可逆容量が大きくなった。そして比較例1と実施例1から3、及び比較例3と実施例4、5との比較から確認できるように、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子において、非水電解質に第1化合物を含有させることで、不可逆容量は小さくなった。不可逆容量の相対値から確認できるように、この第1化合物による不可逆容量の低減効果は、タングステン元素及びホウ素元素の少なくとも一方を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子の場合に顕著に奏された。また、実施例1と実施例2、3、及び実施例4と実施例5との比較から確認できるように、非水電解質が第1化合物に加えて第2化合物を含む場合、不可逆容量はより小さくなった。
【0117】
(2)充放電サイクル後の抵抗の測定
(充放電サイクル試験)
実施例3、5、比較例1、3及び参考例1、5の各非水電解質蓄電素子について、上記初期充放電を行ったものを別途用意し、以下の要領で充放電サイクル試験を行った。45℃の恒温槽内において、充電電流1.0C、充電終止電圧4.10Vで定電流定電圧充電を行った。充電終止条件は、充電電流が0.01Cに減衰した時点とした。その後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.50Vで定電流放電を行った。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。この充放電を4290サイクル実施した。
【0118】
(充放電サイクル試験後の直流抵抗の測定)
上記充放電サイクル試験後の各非水電解質蓄電素子について、以下の要領で充放電サイクル試験後の入力時の直流抵抗を測定した。25℃の恒温槽内において、充電電流1.0Cの定電流充電を行い、SOCを50%にした。その後、25℃の恒温槽内において、充電電流0.2C、0.5C、1.0Cの順で、30秒間ずつ充電した。各充電終了後には、放電電流0.05Cで定電流放電を行い、SOCを50%にした。各充電電流における充電電流と充電開始後10秒目の電圧との関係をプロットし、3点のプロットから得られた直線の傾きから入力時の直流抵抗を求めた。結果を表2に示す。また、同じ正極活物質を用いた非水電解質蓄電素子間において、非水電解質が添加剤としてLiBOB(0.5質量%)及びVC(0.5質量%)のみを含有する非水電解質蓄電素子を基準(100.0%)とした、各非水電解質蓄電素子の入力時の直流抵抗の相対値を表2に示す。すなわち、参考例1、5においては、参考例1を基準とした相対値であり、比較例1及び実施例3においては、比較例1を基準とした相対値であり、比較例3及び実施例5においては、比較例3を基準とした相対値である。
【0119】
【0120】
参考例1、比較例1及び比較例3の比較から確認できるように、タングステン元素を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子は、タングステン元素を含まない正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子と比べて、充放電サイクル後の抵抗が大きかった。そして比較例1と実施例3との比較から確認できるように、タングステン元素を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子において、非水電解質に第1化合物を含有させることで、充放電サイクル後の抵抗は小さくなった。
【0121】
(3)高温環境下での保存後の抵抗の測定
(高温保存試験)
実施例3、5、比較例1、3及び参考例1、5の各非水電解質蓄電素子について、上記初期充放電を行ったものを別途用意し、以下の要領で高温保存試験を行った。25℃の恒温槽内にて、充電電流1.0Cで定電流定電圧充電を行い、SOCを85%にした。このSOC85%の状態で各非水電解質蓄電素子を80℃の恒温槽内において60日保存した。
【0122】
(高温保存試験後の直流抵抗の測定)
上記高温保存試験後の各非水電解質蓄電素子について、以下の要領で高温保存試験後の出力時の直流抵抗を測定した。まず、25℃の恒温槽内において3時間以上保存した後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.50Vで定電流放電した。その後、25℃の恒温槽内において、充電電流1.0Cの定電流充電を行い、SOCを15%にした。次いで、25℃の恒温槽内において、放電電流0.2C、0.5C、1.0Cの順で、30秒間ずつ放電した。各放電終了後には、充電電流0.05Cで定電流充電を行い、SOCを15%にした。各放電電流における放電電流と放電開始後10秒目の電圧との関係をプロットし、3点のプロットから得られた直線の傾きから出力時の直流抵抗を求めた。結果を表3に示す。また、同じ正極活物質を用いた非水電解質蓄電素子間において、非水電解質が添加剤としてLiBOB(0.5質量%)及びVC(0.5質量%)のみを含有する非水電解質蓄電素子を基準(100.0%)とした、各非水電解質蓄電素子の出力時の直流抵抗の相対値を表3に示す。すなわち、参考例1、5においては、参考例1を基準とした相対値であり、比較例1及び実施例3においては、比較例1を基準とした相対値であり、比較例3及び実施例5においては、比較例3を基準とした相対値である。
【0123】
【0124】
参考例1、比較例1及び比較例3の比較から確認できるように、ホウ素元素を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子は、ホウ素元素を含まない正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子と比べて、高温保存後の抵抗が大きかった。そして比較例3と実施例5との比較から確認できるように、ホウ素元素を含む正極活物質を有する正極を備える非水電解質蓄電素子において、非水電解質に第1化合物を含有させることで、高温保存後の抵抗は小さくなった。
【0125】
なお、別途参考例1の非水電解質蓄電素子と同様に、正極活物質がLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2であり、非水電解質がLiBOBを含む非水電解質蓄電素子において、初期充放電後に正極活物質に含まれるホウ素元素の含有量をICP発光分光分析により測定したところ、ホウ素元素の含有量は、検出限界値(0.02mol%)未満であった。このことから、非水電解質がLiBOBを含む場合においては、正極活物質の表面にLiBOB由来のホウ素元素がほぼ存在しないと考えられる。