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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098458
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240716BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240716BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240716BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240716BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 655G
H01L29/78 652T
H01L29/91 F
H01L29/91 C
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 655E
H01L29/78 652D
H01L29/78 652M
H01L27/06 102A
H01L27/088 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002015
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】御田村 直樹
【テーマコード(参考)】
5F048
【Fターム(参考)】
5F048AB10
5F048AC06
5F048AC10
5F048BA14
5F048BB05
5F048BB19
5F048BC02
5F048BC03
5F048BC05
5F048BC12
5F048BD07
5F048BE09
5F048BF02
5F048BF07
5F048BF15
5F048BF16
5F048BF18
5F048CB07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】同一の半導体基板にIGBT領域とFWD領域とを設け、ダイオード部の順方向電圧の上昇を抑制しつつ、逆回復損失を低減した半導体装置を提供する。
【解決手段】トランジスタ部70とダイオード部80とを備える半導体装置100であって、半導体基板10のおもて面21に設けられた複数のトレンチ部30と、半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域18と、ダイオード部において、ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のアノード領域84と、アノード領域の上方に設けられ、アノード領域よりもドーピング濃度の絶対値が低い低濃度領域87と、アノード領域の上方に設けられ、アノード領域よりもドーピング濃度が高い第2導電型の高濃度領域85と、を備える。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタ部とダイオード部とを備える半導体装置であって、
半導体基板のおもて面に設けられた複数のトレンチ部と、
前記半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記ダイオード部において、前記ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のアノード領域と、
前記アノード領域の上方に設けられ、前記アノード領域よりもドーピング濃度の絶対値が低い低濃度領域と、
前記アノード領域の上方に設けられ、前記アノード領域よりもドーピング濃度が高い第2導電型の高濃度領域と
を備える
半導体装置。
【請求項2】
前記低濃度領域のドーピング濃度は、前記アノード領域のドーピング濃度のピークの10%以上、50%以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体基板のおもて面における前記低濃度領域のドーピング濃度は、1E15cm-3以上、3E16cm-3以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
上面視で、前記低濃度領域は、前記半導体基板のおもて面において前記高濃度領域を囲んで設けられている
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体基板の深さ方向において、前記低濃度領域は、前記アノード領域のドーピング濃度のピーク位置よりも浅い
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記低濃度領域は第1導電型である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記アノード領域のドーピング濃度のピークは、4E16cm-3以上、1E17cm-3以下である
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体基板の深さ方向において、前記アノード領域のドーピング濃度のピーク位置は、前記半導体基板のおもて面から0.3μm以上、0.8μm以下にある
請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記半導体基板の深さ方向において、前記アノード領域のドーピング濃度のピーク位置は、前記高濃度領域よりも深い
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記アノード領域の前記半導体基板の深さ方向における厚みは、0.5μm以上、1.0μm以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記高濃度領域のドーピング濃度は、2E19cm-3以上、2E20cm-3以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記高濃度領域の前記半導体基板の深さ方向における厚みは、0.1μm以上、1.0μm以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記高濃度領域のドーピング濃度は、前記アノード領域のドーピング濃度の200倍以上、2000倍以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記高濃度領域は、トレンチ延伸方向において、離散的に設けられている
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記高濃度領域は、前記複数のトレンチ部から離間して設けられている
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記低濃度領域および前記高濃度領域の下方に、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度が高い第1導電型のカソード領域を備える
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記半導体基板のおもて面に設けられたトレンチコンタクト部を備える
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記高濃度領域は、前記トレンチコンタクト部の下端に設けられている
請求項17に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記低濃度領域は、前記トレンチコンタクト部の下端および側壁に設けられている
請求項17に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記半導体基板の深さ方向において、前記トレンチコンタクト部の下端は、前記低濃度領域の下端よりも浅い
請求項19に記載の半導体装置。
【請求項21】
前記半導体基板の深さ方向において、前記トレンチコンタクト部の下端は、前記低濃度領域の下端よりも深い
請求項17に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体装置の表面にp-型アノード層を設けることによってアノード側からの注入効率を制御し、オン電圧とリカバリー損失とのトレードオフ特性を調整することが記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2018-152443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
同一の半導体基板にIGBT領域とFWD領域とが設けられた半導体装置において、ダイオード部の順方向電圧の上昇を抑制しつつ、逆回復損失を低減した半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、トランジスタ部とダイオード部とを備える半導体装置であって、半導体基板のおもて面に設けられた複数のトレンチ部と、前記半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、前記ダイオード部において、前記ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のアノード領域と、前記アノード領域の上方に設けられ、前記アノード領域よりもドーピング濃度の絶対値が低い低濃度領域と、前記アノード領域の上方に設けられ、前記アノード領域よりもドーピング濃度が高い第2導電型の高濃度領域とを備える半導体装置を提供する。
【0005】
前記低濃度領域のドーピング濃度は、前記アノード領域のドーピング濃度のピークの10%以上、50%以下であってよい。
【0006】
前記半導体基板のおもて面における前記低濃度領域のドーピング濃度は、1E15cm-3以上、3E16cm-3以下であってよい。
【0007】
上面視で、前記低濃度領域は、前記半導体基板のおもて面において前記高濃度領域を囲んで設けられてよい。
【0008】
前記半導体基板の深さ方向において、前記低濃度領域は、前記アノード領域のドーピング濃度のピーク位置よりも浅くてよい。
【0009】
前記低濃度領域は第1導電型であってよい。
【0010】
前記アノード領域のドーピング濃度のピークは、4E16cm-3以上、1E17cm-3以下であってよい。
【0011】
前記半導体基板の深さ方向において、前記アノード領域のドーピング濃度のピーク位置は、前記半導体基板のおもて面から0.3μm以上、0.8μm以下であってよい。
【0012】
前記半導体基板の深さ方向において、前記アノード領域のドーピング濃度のピーク位置は、前記高濃度領域よりも深くてよい。
【0013】
前記アノード領域の前記半導体基板の深さ方向における厚みは、0.5μm以上、1.0μm以下であってよい。
【0014】
前記高濃度領域のドーピング濃度は、2E19cm-3以上、2E20cm-3以下であってよい。
【0015】
前記高濃度領域の前記半導体基板の深さ方向における厚みは、0.1μm以上、1.0μm以下であってよい。
【0016】
前記高濃度領域のドーピング濃度は、前記アノード領域のドーピング濃度の200倍以上、2000倍以下であってよい。
【0017】
前記高濃度領域は、トレンチ延伸方向において、離散的に設けられてよい。
【0018】
前記高濃度領域は、前記複数のトレンチ部から離間して設けられてよい。
【0019】
半導体装置は、前記低濃度領域および前記高濃度領域の下方に、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度が高い第1導電型のカソード領域を備えてよい。
【0020】
半導体装置は、前記半導体基板のおもて面に設けられたトレンチコンタクト部を備えてよい。
【0021】
前記高濃度領域は、前記トレンチコンタクト部の下端に設けられてよい。
【0022】
前記低濃度領域は、前記トレンチコンタクト部の下端および側壁に設けられてよい。
【0023】
前記半導体基板の深さ方向において、前記トレンチコンタクト部の下端は、前記低濃度領域の下端よりも浅くてよい。
【0024】
前記半導体基板の深さ方向において、前記トレンチコンタクト部の下端は、前記低濃度領域の下端よりも深くてよい。
【0025】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A】実施例に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。
図1B図1Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。
図2A】比較例に係る半導体装置1100の上面図の一例を示す。
図2B図2Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。
図3】実施例および比較例のメサ部81におけるドーピング濃度プロファイルを示す図である。
図4】実施例および比較例のダイオード部80の導通時における正孔電流の経路を概略的に示す図である。
図5A】半導体装置100の上面図の他の一例を示す。
図5B図5Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。
図6A図1Aにおけるa-a'断面の他の一例を示す図である。
図6B図1Aにおけるa-a'断面の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0028】
本明細書においては、半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面をおもて面、他方の面を裏面と称する。「上」、「下」、「おもて」、「裏」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
【0029】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書では、半導体基板のおもて面と平行な面をXY面とし、半導体基板の深さ方向をZ軸とする。なお、本明細書において、Z軸方向に半導体基板を視た場合について上面視と称する。
【0030】
各実施例においては、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示しているが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。
【0031】
本明細書では、NまたはPを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、NやPに付す+および-は、それぞれ、それが付されていない層や領域よりも高ドーピング濃度および低ドーピング濃度であることを意味し、++は+よりも高ドーピング濃度、--は-よりも低ドーピング濃度であることを意味する。
【0032】
本明細書においてドーピング濃度とは、ドナーまたはアクセプタ化したドーパントの濃度を指す。したがって、その単位は、/cmである。本明細書において、ドナーおよびアクセプタの濃度差(すなわちネットドーピング濃度)をドーピング濃度とする場合がある。この場合、ドーピング濃度はSR法で測定できる。また、ドナーおよびアクセプタの化学濃度をドーピング濃度としてもよい。この場合、ドーピング濃度はSIMS法で測定できる。特に限定していなければ、ドーピング濃度として、上記のいずれを用いてもよい。特に限定していなければ、ドーピング領域におけるドーピング濃度分布のピーク値を、当該ドーピング領域におけるドーピング濃度としてよい。
【0033】
また、本明細書においてドーズ量とは、イオン注入を行う際に、ウェハに注入される単位面積あたりのイオンの個数をいう。したがって、その単位は、/cmである。なお、半導体領域のドーズ量は、その半導体領域の深さ方向にわたってドーピング濃度を積分した積分濃度とすることができる。その積分濃度の単位は、/cmである。したがって、ドーズ量と積分濃度とを同じものとして扱ってよい。積分濃度は、半値幅までの積分値としてもよく、他の半導体領域のスペクトルと重なる場合には、他の半導体領域の影響を除いて導出してよい。
【0034】
よって、本明細書では、ドーピング濃度の高低をドーズ量の高低として読み替えることができる。即ち、一の領域のドーピング濃度が他の領域のドーピング濃度よりも高い場合、当該一の領域のドーズ量が他の領域のドーズ量よりも高いものと理解することができる。
【0035】
図1Aは、実施例に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。半導体装置100は、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80とを有する半導体基板を備える。例えば、半導体装置100は、逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)である。
【0036】
なお、本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板のおもて面側から見ることを意味している。本例では、上面視でトランジスタ部70およびダイオード部80の配列方向をX軸、半導体基板のおもて面においてX軸と垂直な方向をY軸、半導体基板のおもて面と垂直な方向をZ軸と称する。
【0037】
トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0038】
トランジスタ部70は、半導体基板の裏面側に設けられたコレクタ領域22を半導体基板のおもて面に投影した領域である。本例のコレクタ領域22は、一例としてP型である。トランジスタ部70は、IGBT等のトランジスタを含む。
【0039】
トランジスタ部70は、半導体基板のおもて面側に、N型のエミッタ領域12、P型のベース領域14、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲートトレンチ部40が周期的に配置されている。ここでいう半導体基板のおもて面側とは、半導体基板のZ軸方向における中心よりもおもて面側を意味してよい。
【0040】
ダイオード部80は、半導体基板の裏面側に設けられたカソード領域82を半導体基板のおもて面に投影した領域である。本例のカソード領域82は、一例としてN型である。ダイオード部80は、半導体基板のおもて面においてトランジスタ部70と隣接して設けられた還流ダイオード(FWD:Free Wheel Diode)等のダイオードを含む。半導体基板の裏面には、カソード領域以外の領域には、P型のコレクタ領域が設けられてよい。
【0041】
半導体基板は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。本例の半導体基板は、シリコン基板である。
【0042】
本例の半導体装置100は、半導体基板のおもて面側に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、エミッタ領域12、コンタクト領域15、ウェル領域17、高濃度領域85、および低濃度領域87を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。
【0043】
また、本例の半導体装置100は、半導体基板のおもて面の上方に設けられたゲート金属層50およびエミッタ電極52を備える。エミッタ電極52およびゲート金属層50と、半導体基板のおもて面との間には層間絶縁膜が設けられているが、図1Aでは省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54、55および56が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられている。図1Aにおいては、それぞれのコンタクトホールが破線で示されている。
【0044】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、エミッタ領域12、コンタクト領域15、ウェル領域17、高濃度領域85、および低濃度領域87の上方に設けられている。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板のおもて面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15、高濃度領域85、および低濃度領域87と電気的に接続する。
【0045】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、金属を含む材料で形成される。エミッタ電極52の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、またはアルミニウムを主成分とする合金(例えば、アルミニウム-シリコン合金、アルミニウム-シリコン-銅合金等)で形成されてよい。ゲート金属層50の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、またはアルミニウムを主成分とする合金(例えば、アルミニウム-シリコン合金、アルミニウム-シリコン-銅合金等)で形成されてよい。
【0046】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、アルミニウム等で形成された領域の下層にチタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。エミッタ電極52およびゲート金属層50は、互いに分離して設けられている。
【0047】
コンタクトホール55は、トランジスタ部70のゲートトレンチ部40内のゲート導電部とゲート金属層50とを接続する。コンタクトホール55の内部には、バリアメタルを介して、タングステン等で形成されたプラグが設けられてもよい。
【0048】
コンタクトホール56は、トランジスタ部70およびダイオード部80に設けられたダミートレンチ部30内のダミー導電部とエミッタ電極52とを接続する。コンタクトホール56の内部には、バリアメタルを介して、タングステン等で形成されたプラグが設けられてもよい。
【0049】
ゲートトレンチ部40は、予め定められた配列方向(本例ではX軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のゲートトレンチ部40は、半導体基板のおもて面に平行であって配列方向と垂直な延伸方向(本例ではY軸方向)に沿って延伸する2つの延伸部分41と、2つの延伸部分41を接続する接続部分43とを有してよい。
【0050】
接続部分43は、少なくとも一部が曲線状に形成されることが好ましい。ゲートトレンチ部40の2つの延伸部分41の端部を接続することで、延伸部分41の端部における電界集中を緩和できる。ゲートトレンチ部40の接続部分43において、ゲート金属層50がゲート導電部と接続されてよい。
【0051】
ダミートレンチ部30は、その内部に設けられたダミー導電部がエミッタ電極52と電気的に接続されたトレンチ部である。ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、予め定められた配列方向(本例ではX軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、半導体基板のおもて面においてU字形状を有してよい。即ち、ダミートレンチ部30は、Y軸方向に沿って延伸する2つの延伸部分31と、2つの延伸部分31を接続する接続部分33とを有してよい。
【0052】
本例のトランジスタ部70は、1つのゲートトレンチ部40と2つのダミートレンチ部30を繰り返し配列させた構造を有する。即ち、本例のトランジスタ部70は、1:2の比率でゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30を有している。例えば、トランジスタ部70では、配列方向において、隣り合う2本の延伸部分41の間に2本の延伸部分31が配列されている。
【0053】
但し、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の比率は本例に限定されない。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の比率は、1:1であってもよく、2:3であってもよい。あるいは、トランジスタ部70においてダミートレンチ部30を設けず、全てゲートトレンチ部40としたいわゆるフルゲート構造であってもよい。
【0054】
ウェル領域17は、後述するドリフト領域18よりも半導体基板のおもて面側に設けられている。ウェル領域17は、半導体装置100のエッジ側に設けられているウェル領域の一例である。ウェル領域17は、一例としてP+型である。ウェル領域17は、ゲート金属層50が設けられた側の活性領域の端部から、予め定められた範囲に設けられている。
【0055】
ウェル領域17の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の、ゲート金属層50側の一部の領域は、ウェル領域17に設けられている。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端の底は、ウェル領域17に覆われていてよい。
【0056】
コンタクトホール54は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12およびコンタクト領域15の各領域の上方に設けられている。コンタクトホール54は、ダイオード部80において、高濃度領域85および低濃度領域87の上方にも設けられている。いずれのコンタクトホール54も、Y軸方向両端に設けられたウェル領域17の上方には設けられていない。このように、層間絶縁膜には、1または複数のコンタクトホール54が設けられている。本例のコンタクトホール54は、Y軸方向に延伸して設けられてよい。
【0057】
メサ部71およびメサ部81は、半導体基板のおもて面と平行な面内において、トレンチ部に隣接して設けられたメサ部である。メサ部とは、隣り合う2つのトレンチ部に挟まれた半導体基板の部分であって、半導体基板のおもて面から、各トレンチ部の最も深い底部の深さまでの部分であってよい。各トレンチ部の延伸部分を1つのトレンチ部としてよい。即ち、2つの延伸部分に挟まれる領域をメサ部としてよい。
【0058】
メサ部71は、トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30またはゲートトレンチ部40の少なくとも1つに隣接して設けられている。メサ部71は、半導体基板のおもて面において、ウェル領域17と、エミッタ領域12と、コンタクト領域15とを有する。
【0059】
エミッタ領域12は、ドリフト領域18と同じ導電型で、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い領域である。本例のエミッタ領域12は、一例としてN+型である。エミッタ領域12のドーパントの一例はヒ素(As)である。エミッタ領域12は、メサ部71のおもて面において、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部71を挟んだ2本のトレンチ部の一方から他方まで、X軸方向に延伸して設けられてよい。
【0060】
また、エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。本例のエミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接している。エミッタ領域12は、メサ部81には設けられていない。
【0061】
コンタクト領域15は、トランジスタ部70において、半導体基板のおもて面に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。本例のコンタクト領域15は、一例としてP+型である。本例のコンタクト領域15は、メサ部71のおもて面に設けられている。コンタクト領域15は、メサ部71を挟んだ2本のトレンチ部の一方から他方まで、X軸方向に延伸して設けられている。本例のトランジスタ部70では、メサ部71のおもて面に、エミッタ領域12およびコンタクト領域15が、Y軸方向において交互に設けられている。コンタクト領域15は、メサ部81には設けられていない。
【0062】
トランジスタ部70は、上面視でダイオード部80側の端部に、境界領域72を有してよい。境界領域72は、ダイオード部80の逆回復時に、トランジスタ部70からダイオード部80へのキャリアの回り込みを防止するための領域である。一例として、境界領域72は、高濃度領域85と、低濃度領域87とを有する。
【0063】
高濃度領域85は、半導体基板のおもて面に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。本例の高濃度領域85は、一例としてP+型である。低濃度領域87は、上面視で、半導体基板のおもて面において高濃度領域85を囲んで設けられた領域である。本例の低濃度領域87は、一例としてP-型である。高濃度領域85は、Y軸方向において、離散的に設けられている。また、高濃度領域85は、ダミートレンチ部30から離間して設けられている。つまり、本例の高濃度領域85は、上面視で、ドット状に設けられている。境界領域72のメサ部71には、高濃度領域85および低濃度領域87に代えて、コンタクト領域15がY軸方向に延伸して設けられてもよい。
【0064】
メサ部81は、ダイオード部80において、ダミートレンチ部30に隣接して設けられている。メサ部81は、半導体基板のおもて面において、ウェル領域17と、高濃度領域85と、低濃度領域87とを有する。
【0065】
高濃度領域85は、ダイオード部80において、半導体基板のおもて面に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。本例の高濃度領域85は、一例としてP+型である。本例の高濃度領域85のドーピング濃度は、2E19cm-3以上、2E20cm-3以下である。なお、Eは10のべき乗を意味し、例えば1E16cm-3は1×1016cm-3を意味する。本例の高濃度領域85のドーピング濃度は、コンタクト領域15のドーピング濃度よりも高い。あるいは、高濃度領域85のドーピング濃度は、コンタクト領域15のドーピング濃度と同じであってよい。この場合、高濃度領域85およびコンタクト領域15は、同じプロセスで形成されてよい。
【0066】
本例の高濃度領域85は、Y軸方向において、離散的に設けられている。また、高濃度領域85は、ダミートレンチ部30から離間して設けられている。つまり、本例の高濃度領域85は、ダイオード部80において、上面視で、ドット状に設けられている。
【0067】
低濃度領域87は、ダイオード部80において、上面視で、半導体基板のおもて面において高濃度領域85を囲んで設けられた領域である。本例の低濃度領域87は、一例としてP-型である。半導体基板のおもて面における低濃度領域87のドーピング濃度は、1E15cm-3以上、3E16cm-3以下である。このように高濃度領域85および低濃度領域87を設けることによって、ダイオード部80における正孔の総量を低減し、正孔の注入を抑えて逆回復損失を抑制することができる。
【0068】
図1Bは、図1Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。a-a'断面は、コンタクト領域15および高濃度領域85を通過するXZ面である。
【0069】
本例の半導体装置100は、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。エミッタ電極52は、半導体基板10および層間絶縁膜38の上方に設けられている。
【0070】
ベース領域14は、メサ部71においてドリフト領域18の上方に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。本例のベース領域14は、一例としてP型である。ベース領域14の上方には、メサ部71のおもて面にエミッタ領域12およびコンタクト領域15が設けられている。ベース領域14は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ベース領域14は、ダミートレンチ部30に接して設けられてよい。
【0071】
エミッタ領域12は、ベース領域14と半導体基板10のおもて面21との間に設けられている。本例のエミッタ領域12は、メサ部71に設けられており、メサ部81には設けられていない。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。
【0072】
コンタクト領域15は、ベース領域14と半導体基板10のおもて面21との間に設けられている。本例のコンタクト領域15は、メサ部71に設けられており、メサ部81には設けられていない。本例のコンタクト領域15は、上面視で、メサ部71において、エミッタ領域12とY軸方向において交互に設けられている。コンタクト領域15は、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30と接して設けられている。
【0073】
アノード領域84は、境界領域72およびメサ部81においてドリフト領域18の上方に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。本例のアノード領域84は、一例としてP-型である。アノード領域84の上方には、境界領域72およびメサ部81のおもて面に高濃度領域85および低濃度領域87が設けられている。
【0074】
アノード領域84の半導体基板10の深さ方向(Z軸方向)における厚みは、0.5μm以上、2.0μm以下である。Z軸方向において、アノード領域84のドーピング濃度のピーク位置は、半導体基板10のおもて面21から0.3μm以上、0.8μm以下、好ましくは0.4μm~0.6μm、例えば0.5μmにある。アノード領域84は、ダミートレンチ部30に接して設けられている。
【0075】
本例のアノード領域84のドーピング濃度のピークは、4E16cm-3以上、1E17cm-3以下である。本例のアノード領域84のドーピング濃度は、ベース領域14のドーピング濃度よりも低い。本例では、アノード領域84のドーピング濃度を低くすることにより、正孔の注入を抑え、逆回復損失を抑制することができる。
【0076】
高濃度領域85は、アノード領域84と半導体基板10のおもて面21との間に設けられている。本例の高濃度領域85は、境界領域72およびメサ部81において、Y軸方向において離散的に設けられている。高濃度領域85は、メサ部81において、ダミートレンチ部30から離間して設けられている。高濃度領域85のZ軸方向における厚みは、0.1μm以上、1.0μm以下である。
【0077】
本例の高濃度領域85は、一例としてP+型である。本例の高濃度領域85のドーピング濃度は、2E19cm-3以上、2E20cm-3以下である。本例の高濃度領域85のドーピング濃度は、アノード領域84よりもドーピング濃度が高い。本例の高濃度領域85のドーピング濃度は、アノード領域84のドーピング濃度の200倍以上、2000倍以下である。
【0078】
本例の高濃度領域85のドーピング濃度は、コンタクト領域15のドーピング濃度よりも高い。あるいは、高濃度領域85のドーピング濃度は、コンタクト領域15のドーピング濃度と同じであってよい。この場合、高濃度領域85およびコンタクト領域15は、同じプロセスで形成されてよい。
【0079】
低濃度領域87は、アノード領域84と半導体基板10のおもて面21との間に設けられている。本例の低濃度領域87は、上面視で、メサ部81のおもて面において高濃度領域85を囲んで設けられている。つまり、本例の境界領域72およびメサ部81のおもて面には高濃度領域85および低濃度領域87が設けられており、アノード領域84は、半導体基板10のおもて面21に露出していない。
【0080】
本例の低濃度領域87のドーピング濃度の絶対値は、アノード領域84のドーピング濃度の絶対値よりも低い。ドーピング濃度の絶対値が低いということは、ドーパントがドナーまたはアクセプタのいずれであるかによらず、ドーピング濃度が低いことを意味する。つまり、低濃度領域87は、アノード領域84におけるアクセプタの濃度よりも、ドナーまたはアクセプタの濃度が低い領域である。本例の低濃度領域87は、一例としてP-型である。
【0081】
半導体基板10のおもて面21における低濃度領域87のドーピング濃度は、1E15cm-3以上、3E16cm-3以下である。低濃度領域87のドーピング濃度は、アノード領域84のドーピング濃度のピークの10%以上、50%以下である。このように高濃度領域85および低濃度領域87を設けることによって、ダイオード部80における正孔の総量を低減し、正孔の注入を抑えて逆回復損失を抑制することができる。
【0082】
ダイオード部80が導通すると、カソード領域82からアノード領域84に電子電流が流れる。電子電流がアノード領域84に到達すると電導度変調が起き、アノード領域84から正孔電流が流れる。また、カソード領域82から拡散した電子電流により、トランジスタ部70のコンタクト領域15からの正孔注入も促進され、半導体基板10の正孔密度が上昇する。これにより、ダイオード部80のターンオフ時に正孔が消滅するまでの時間が長くなるので、逆回復ピーク電流が大きくなり、逆回復損失が増大する。
【0083】
このような正孔電流を抑制する技術として、半導体基板のおもて面側に、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域を設ける技術が知られている。ライフタイムキラーは、一例として、半導体基板全体に注入する電子線や所定の深さに注入されたヘリウム、電子線又はプロトン等であり、ライフタイム制御領域は、ライフタイムキラー注入によって半導体基板の内部に形成された結晶欠陥である。ライフタイム制御領域は、ダイオード部の導通時に発生する電子と正孔との再結合消滅を促進し、逆回復損失を低減する。
【0084】
本例では、メサ部81において、ドーピング濃度の高い高濃度領域85を離散的に設け、アノード領域84よりもドーピング濃度が低い低濃度領域87をアノード領域84の上方に設けることにより、正孔の注入を抑え、ライフタイム制御領域が設けられていなくても、逆回復損失を抑制することができる。
【0085】
コンタクトホール54は、層間絶縁膜38を半導体基板10の深さ方向(Z軸方向)に貫通して設けられ、エミッタ電極52と半導体基板10とを電気的に接続する。コンタクトホール54の内部には、チタンまたはチタン化合物等で形成されたバリアメタルが設けられてよい。さらにコンタクトホール54の内部には、タングステン等で形成されたプラグがバリアメタルを介して設けられてもよい。
【0086】
高濃度領域85は、コンタクトホール54の下方に設けられている。例えば、高濃度領域85は、コンタクトホール54の下端からボロン(B)等のドーパントをイオン注入することにより形成される。X軸方向において、高濃度領域85の幅は、コンタクトホール54の下端の幅以上であってよい。
【0087】
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられた領域である。本例の蓄積領域16はドリフト領域18と同じ導電型であり、一例としてN+型である。本例の蓄積領域16は、境界領域72およびダイオード部80には設けられていない。Z軸方向において、2段以上の蓄積領域16が設けられてもよい。また、蓄積領域16は、境界領域72およびダイオード部80にも設けられてよい。
【0088】
また、蓄積領域16は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。蓄積領域16は、ダミートレンチ部30に接してもよいし、接しなくてもよい。蓄積領域16のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、トランジスタ部70のオン電圧を低減することができる。
【0089】
ドリフト領域18は、半導体基板10に設けられた領域である。本例のドリフト領域18は、一例としてN-型である。ドリフト領域18は、半導体基板10において他のドーピング領域が形成されずに残存した領域であってよい。即ち、ドリフト領域18のドーピング濃度は半導体基板10のドーピング濃度であってよい。
【0090】
バッファ領域20は、ドリフト領域18の下方に設けられた領域である。本例のバッファ領域20は、ドリフト領域18と同じ導電型であり、一例としてN型である。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ベース領域14およびアノード領域84の下面側から広がる空乏層がコレクタ領域22およびカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0091】
コレクタ領域22は、トランジスタ部70においてバッファ領域20の下方に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。カソード領域82は、ダイオード部80においてバッファ領域20の下方に設けられた、ドリフト領域18と同じ導電型の領域である。コレクタ領域22とカソード領域82との境界は、トランジスタ部70とダイオード部80との境界である。
【0092】
コレクタ電極24は、半導体基板10の裏面23に設けられている。コレクタ電極24は、金属等の導電材料で、または導電材料を積層して形成される。
【0093】
1つ以上のゲートトレンチ部40および1つ以上のダミートレンチ部30が、半導体基板10のおもて面21に設けられている。各トレンチ部は、半導体基板10のおもて面21からドリフト領域18まで、Z軸方向に延伸して設けられている。エミッタ領域12、ベース領域14、コンタクト領域15、蓄積領域16およびアノード領域84の少なくともいずれかが設けられた領域においては、各トレンチ部はこれらの領域も貫通して、ドリフト領域18に到達する。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0094】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられている。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられている。ゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面21において層間絶縁膜38により覆われている。
【0095】
ゲート導電部44は、Z軸方向において、ゲート絶縁膜42を挟んでメサ部71側で隣接するベース領域14と対向する領域を含む。ゲート導電部44に所定の電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチに接する界面の表層に、電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0096】
ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10のおもて面21側に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられている。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられている。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミートレンチ部30は、半導体基板10のおもて面21において層間絶縁膜38により覆われている。
【0097】
層間絶縁膜38は、半導体基板10のおもて面21に設けられている。層間絶縁膜38の上方には、エミッタ電極52が設けられている。層間絶縁膜38には、エミッタ電極52と半導体基板10とを電気的に接続するための1または複数のコンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール55およびコンタクトホール56も同様に、層間絶縁膜38を貫通して設けられてよい。
【0098】
図2Aは、比較例に係る半導体装置1100の上面図の一例を示す。図2Bは、図2Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。ここで説明する比較例において、実施例に係る半導体装置100と共通する要素には同じ参照番号を付し、共通する構成については説明を省略する。
【0099】
半導体装置1100のダイオード部80において、メサ部81のおもて面には、高濃度領域85がY軸方向において離散的に設けられ、高濃度領域85は、アノード領域84に囲まれている。つまり、半導体装置1100には低濃度領域87が設けられておらず、上面視で、高濃度領域85は、メサ部81のおもて面に露出したアノード領域84に囲まれている。
【0100】
半導体装置1100は、メサ部81において、Y軸方向において離散的に設けられた高濃度領域85と、ベース領域14よりドーピング濃度が低いアノード領域84とを有することにより、ダイオード部80における正孔の総量を調節し、逆回復損失を低減している。しかしながら、アノード領域84のドーピング濃度が低下すれば、逆回復損失が低減される一方で、アノード領域84における抵抗が上昇し、ダイオード部80の順方向電圧が上昇するため、導通損失が増大する。
【0101】
これに対し、実施例に係る半導体装置100は、メサ部81のおもて面に低濃度領域87を有することにより、逆回復損失を低減しつつ、ダイオード部80の順方向電圧の上昇を抑制する。その原理を、次に、図3および図4を参照して、半導体装置100および半導体装置1100のメサ部81におけるドーピング濃度プロファイルおよび正孔電流経路を対比することにより説明する。
【0102】
図3は、実施例および比較例のメサ部81におけるドーピング濃度プロファイルを示す図である。横軸は半導体基板10のおもて面21を基準とした-Z軸方向の深さ[μm]、縦軸は、半導体基板10のおもて面21からドーパントとしてボロン(B)をイオン注入した場合のボロンのドーピング濃度[cm-3]を示す。実線は、図1Bに示す実施例に係る半導体装置100のb-b'断面におけるドーピング濃度を示し、破線および一点鎖線は、図2Bに示す比較例に係る半導体装置1100のb-b'断面におけるドーピング濃度を示す。
【0103】
まず、破線で示す比較例に係る半導体装置1100のドーピング濃度プロファイルを説明する。図2Bのb-b'断面は、半導体基板10のおもて面21から順に、アノード領域84およびドリフト領域18を通るXZ面である。ドーピング濃度のピークは、アノード領域84のピークドーピング濃度C2である。半導体基板10のおもて面21から、ドーピング濃度がほぼゼロとなる深さまでの範囲がP型のアノード領域84に対応し、それよりも深い範囲がN-型のドリフト領域18に対応する。半導体装置1100のアノード領域84のピークドーピング濃度C2の深さD2は、0.3μm以下である。
【0104】
次に、実線で示す実施例に係る半導体装置100のドーピング濃度プロファイルを説明する。図1Bのb-b'断面は、半導体基板10のおもて面21から順に、低濃度領域87、アノード領域84およびドリフト領域18を通るXZ面である。ドーピング濃度のピークは、アノード領域84のピークドーピング濃度C1である。
【0105】
低濃度領域87は、ドーピング濃度が、アノード領域84のピークドーピング濃度C1の10%以上、50%以下の範囲である。また、低濃度領域87は、Z軸方向において、アノード領域84のピークドーピング濃度C1の深さD1よりも浅い範囲にある。図3では、半導体基板10のおもて面21から深さD1までの範囲がP-型の低濃度領域87に対応し、深さD1から、ドーピング濃度がほぼゼロとなる深さまでの範囲がP型のアノード領域84に対応し、それよりも深い範囲がN-型のドリフト領域18に対応する。
【0106】
なお、図3には高濃度領域85のドーピング濃度プロファイルは示されていないが、本例の低濃度領域87の下端と高濃度領域85の下端とは同じ深さにあるので、アノード領域84のピークドーピング濃度C1の深さD1は、高濃度領域85よりも深い範囲にある。
【0107】
本例の低濃度領域87は、半導体基板10のおもて面21からボロンをイオン注入してアノード領域84を形成した後、半導体基板10のおもて面21に酸化膜を成膜し、酸化膜によって半導体基板10のおもて面21近傍のボロンを吸い出すことによって形成される。半導体基板10のおもて面21近傍のボロンが減少することにより、アノード領域84のピークドーピング濃度C1は、半導体装置1100のアノード領域84のピークドーピング濃度C2よりも低く、ピークドーピング濃度C1の深さD1は、半導体装置1100のアノード領域84のピークドーピング濃度C2の深さD2よりも深い。
【0108】
半導体装置100のアノード領域84のピークドーピング濃度C1の深さD1は、0.3μm以上、0.8μm以下、好ましくは0.4μm~0.6μm、例えば0.5μmである。アノード領域84のピークドーピング濃度C1は、4E16cm-3以上、1E17cm-3以下である。また、半導体基板10のおもて面21における低濃度領域87のドーピング濃度は、1E15cm-3以上、3E16cm-3以下である。
【0109】
次に、一点鎖線で示す比較例に係る半導体装置1100のドーピング濃度プロファイルを説明する。破線で示すドーピング濃度プロファイルの半導体装置1100よりも、少ないドーズ量でボロンをイオン注入することにより、アノード領域84が形成される。そのため、一点鎖線で示すドーピング濃度プロファイルのピークドーピング濃度C3は、破線で示すドーピング濃度プロファイルのピークドーピング濃度C2よりも低い。ただし、ピークドーピング濃度C3の深さD3は、ピークドーピング濃度C2の深さD2とほぼ同じである。
【0110】
図4は、実施例および比較例のダイオード部80の導通時における正孔電流の経路を概略的に示す図である。図4は、実施例に係る半導体装置100のメサ部81および比較例に係る半導体装置1100のメサ部81の概略的なXZ面である。黒矢印は、ダイオード部80の導通時における正孔電流の経路を概略的に示す。
【0111】
正孔電流は、アノード領域84を通って高濃度領域85へと流れる。このとき、アノード領域84のドーピング濃度が低いと、アノード領域84における抵抗が大きいために、正孔電流の流れが阻害される。そのため、ダイオード部80の順方向電圧が上昇し、導通損失が増大する。つまり、図3を再び参照すると、一点鎖線の比較例に係る半導体装置1100では、破線の比較例に係る半導体装置1100よりもアノード領域84のドーピング濃度が低く、正孔の総量が少ないので、逆回復損失が低減されるが、ダイオード部80の順方向電圧が上昇する。
【0112】
これに対し、実施例に係る半導体装置100では、メサ部81のおもて面において低濃度領域87が高濃度領域85を囲んで設けられているが、高濃度領域85の下方にはアノード領域84が設けられており、比較例に係る半導体装置1100の構造と共通する。図4の黒矢印が示すように、正孔電流はアノード領域84を通って高濃度領域85の下端へと流れるので、高濃度領域85の側方、すなわち、半導体装置100の低濃度領域87を通らない。従って、実施例に係る半導体装置100のアノード領域84のドーピング濃度が比較例に係る半導体装置1100のアノード領域84のドーピング濃度と同じであれば、ダイオード部80の順方向電圧も同程度となる。
【0113】
このように、実施例に係る半導体装置100は、メサ部81のおもて面に、アノード領域84よりもドーピング濃度が低い低濃度領域87を有することにより、逆回復損失を低減することができる。その一方で、実施例に係る半導体装置100は、高濃度領域85の下方には低濃度領域87よりもドーピング濃度が高いアノード領域84を有することにより、抵抗の上昇を抑制し、ダイオード部80の順方向電圧の上昇を抑制することができる。
【0114】
図5Aは、半導体装置100の上面図の他の一例を示す。図5Bは、図5Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。本例では、低濃度領域87がアノード領域84と異なる導電型の領域である点で、図1Aおよび図1Bの実施例と異なる。
【0115】
本例の低濃度領域87は、一例としてN-型である。本例の低濃度領域87は、半導体基板10のおもて面21からボロン等のドーパントをイオン注入してアノード領域84を形成した後、ヒ素(As)等のドーパントをイオン注入することにより形成されてよい。このように、N-型の低濃度領域87を設けることにより、正孔注入を抑え、逆回復損失を抑制することができ、図1Aおよび図1Bの実施例と同様の効果が得られる。
【0116】
図6Aは、図1Aにおけるa-a'断面の他の一例を示す図である。図6Aの例では、コンタクトホール54の下方にトレンチコンタクト部60が設けられている点で、図1Aおよび図1Bの実施例と異なる。
【0117】
トレンチコンタクト部60は、半導体基板10のおもて面21に設けられている。トレンチコンタクト部60は、エミッタ電極52と半導体基板とを電気的に接続する。トレンチコンタクト部60は、コンタクトホール54と連続的に設けられている。本例のトレンチコンタクト部60は、メサ部71およびメサ部81のそれぞれにおいて、Y軸方向に延伸して設けられている。
【0118】
トレンチコンタクト部60は、コンタクトホール54に充填された導電性の材料を有する。トレンチコンタクト部60およびコンタクトホール54の内部には、チタンまたはチタン化合物等で形成されたバリアメタルが設けられてよい。さらにトレンチコンタクト部60およびコンタクトホール54の内部には、バリアメタルを介してタングステン等で形成されたプラグが設けられてもよい。
【0119】
トレンチコンタクト部60を設けることにより、少数キャリア(例えば、正孔)を引き抜きやすくなる。これにより、少数キャリアに起因するラッチアップ耐量などの破壊耐量を向上することができる。
【0120】
例えば、トレンチコンタクト部60は、層間絶縁膜38をエッチングすることにより形成される。トレンチコンタクト部60は、略平面形状の下端を有する。トレンチコンタクト部60は、側壁が傾斜したテーパ形状を有してもよい。あるいは、トレンチコンタクト部60の側壁は、半導体基板10のおもて面21に対して、略垂直に設けられてもよい。
【0121】
本例のトレンチコンタクト部60の下端は、Z軸方向において、低濃度領域87の下端よりも深い。本例の低濃度領域87は、トレンチコンタクト部60の側壁に設けられている。低濃度領域87は、トレンチコンタクト部60の下端にも設けられてよい。本例の高濃度領域85は、トレンチコンタクト部60の下端に離散的に設けられている。これにより、接触抵抗が低減して正孔を引き抜きやすくなり、ラッチアップ耐量などの破壊耐量を向上することができる。
【0122】
高濃度領域85は、トレンチコンタクト部60の下端から拡散して、トレンチコンタクト部60の側壁の少なくとも一部を覆ってもよい。高濃度領域85の下端は、低濃度領域87の下端と同じ深さか、それよりも深くてよい。
【0123】
図6Bは、図1Aにおけるa-a'断面の他の一例を示す図である。図6Bの例では、トレンチコンタクト部60の下端が、Z軸方向において、低濃度領域87の下端よりも浅い点で、図6Aの実施例と異なる。
【0124】
本例の低濃度領域87は、トレンチコンタクト部60の側壁に設けられている。本例の高濃度領域85は、トレンチコンタクト部60の下端に離散的に設けられている。これにより、図6Aの実施例と同様に、接触抵抗が低減して正孔を引き抜きやすくなり、ラッチアップ耐量などの破壊耐量を向上することができる。
【0125】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0126】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0127】
10・・・半導体基板、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、17・・・ウェル領域、18・・・ドリフト領域、20・・・バッファ領域、21・・・おもて面、22・・・コレクタ領域、23・・・裏面、24・・・コレクタ電極、30・・・ダミートレンチ部、31・・・延伸部分、33・・・接続部分、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・延伸部分、43・・・接続部分、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、50・・・ゲート金属層、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、55・・・コンタクトホール、56・・・コンタクトホール、60・・・トレンチコンタクト部、70・・・トランジスタ部、71・・・メサ部、72・・・境界領域、80・・・ダイオード部、81・・・メサ部、82・・・カソード領域、84・・・アノード領域、85・・・高濃度領域、87・・・低濃度領域、100・・・半導体装置、1100・・・半導体装置
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B