(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098459
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】階層的な孔構造を有する多孔質酸化チタン凝集体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/053 20060101AFI20240716BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240716BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240716BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20240716BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C01G23/053
B01J35/02 J
B01J35/10 301G
B01J37/03 Z
B01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002016
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100152250
【弁理士】
【氏名又は名称】峰松 勝也
(72)【発明者】
【氏名】小野 洋介
【テーマコード(参考)】
4G047
4G169
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB06
4G047CC03
4G047CD07
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169CA07
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4G169DA05
4G169EA01X
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4G169EC25
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4G169HA01
4G169HB02
4G169HC18
4G169HD03
4G169HE01
4G169HE05
4G169HE06
4G169HE07
(57)【要約】
【課題】階層的な孔構造を有し、吸着能に優れた高い光触媒機能とスピーディーで優れた調湿機能とを合わせ持つ多孔質酸化チタン凝集体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロ孔、メソ孔、マクロ孔からなる階層的な孔構造を有する多孔質酸化チタン凝集体とすることにより、様々な大きさの対象物に対する吸着能が向上し高い光触媒活性を示す。一般的な気体や液体だけでなくウイルス等に対する特異的な吸着能も有する。また、空気中の水分に対する速やかな吸脱着を可能とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子の凝集体であって、マイクロ孔と、メソ孔と、前記凝集体の内部を貫通するマクロ孔とからなる階層的な孔構造を有する、多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項2】
マクロ孔が略直線状部分を有し、前記マクロ孔が凝集体の内部から外部に向かって複数の異なる方向を向いて形成されている、請求項1に記載の多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項3】
マクロ孔の直径が0.5~20μmである、請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項4】
窒素ガス吸着法により測定した吸着等温線からGCMC法により求められるマイクロ孔の細孔分布のピークが1nm以下である、請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項5】
窒素ガス吸着法により測定した吸着等温線からBET法により求められる比表面積が35m2/g以上である、請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項6】
窒素ガス吸着法により測定した吸着等温線からGCMC法により求められる細孔容積が0.15cm3/g以上である、請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項7】
窒素ガス吸着法により測定した吸着等温線からBJH法により求められる平均細孔径が4~30nmである、請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項8】
酸化チタンの結晶相がアナターゼ単相である、請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項9】
CuKα線を用いて測定される粉末X線回折パターンにおけるアナターゼの結晶面(101)に帰属されるピークの半値幅2θが1.0°以下である、請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタン凝集体。
【請求項10】
酸化チタン前駆体及び水又は水溶液の少なくとも一方を液滴状で添加する工程を含む、請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタン凝集体の製造方法。
【請求項11】
大気中200~500℃で加熱する工程を含む、請求項10に記載の多孔質酸化チタン凝集体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階層的な孔構造を有し光触媒機能と調湿機能とを合わせ持つ多孔質酸化チタン凝集体に関する。より詳しくは、マイクロ孔(2nm以下)、メソ孔(2~50nm)、マクロ孔(50nm以上)からなる階層的な孔構造を有し、様々な大きさの対象物に対する吸着能に優れ高い光触媒活性を示し、空気中の水分に対する速やかな吸脱着を可能とする多孔質酸化チタン凝集体に関する。また、その簡易で低コストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、屈折率が高く、安価に製造でき化学的に安定で人体への有害性が低いなどの特徴を有するため、白色顔料として古くから利用されている。また、紫外光照射下で有機物分解や表面超親水化の光触媒作用を示すため、環境浄化、防汚、抗菌、防曇等の用途に広く利用されている。
【0003】
酸化チタンに紫外光が照射されると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、生じた電子とホールが表面の酸素や水と酸化還元反応してラジカル種を生成する。これらのラジカル種が高いエネルギーを持つため、原理上、酸化チタン光触媒はほとんどの有機物を分解できると考えられている。
【0004】
酸化チタンの結晶相としては、常圧下では、アナターゼ、ブルッカイト、ルチルの3種が知られているが、ブルッカイトの結晶構造は一般的な製造方法では比較的形成されにくいため、工業的に利用されている酸化チタンはアナターゼとルチルが大部分を占める。アナターゼは準安定相であり、焼成等によってエネルギーを与えると高温安定相であるルチルに相転移する。多くの条件下においてアナターゼはルチルに比べ高い光触媒活性を示すため、光触媒用途ではアナターゼ単相又はアナターゼが主である酸化チタンが用いられることが多い。
【0005】
電子励起や再結合、ラジカル種生成、有機物分解といった反応を経る光触媒反応は非常に複雑であり、光触媒活性と酸化チタン物性を理論的に明確に関係づけることは困難とされている。分解対象物やその濃度、光照射波長やその照射強度等に依存して、満たすべき酸化チタンの物性は異なり、つまり最適な酸化チタンが異なる。一般的には、酸化チタンの比表面積、アナターゼ相の含有率及びその結晶性が特に重要な因子であり、これらを高いバランスで満たすことが高い光触媒活性につながるとされている。
【0006】
比表面積が光触媒活性に影響する主因子の一つであることは、ラジカル種生成や有機物分解反応が酸化チタン表面で起こる表面反応であることからも想像に難くない。現状、比表面積の高い酸化チタンは、「多孔」よりも「微細」によって成し遂げられる場合がほとんどである。実際、市場に流通している光触媒用酸化チタン粉末の多くは、1次粒子径が100nm以下のナノ粒子が用いられている。
【0007】
ナノ粒子はある程度凝集しているが、それでも微細であるため肺に吸入されやすい。近年、人体に対する有害性が益々懸念されており、例えば欧米を中心にナノマテリアルに対する規制強化の動きが見受けられる。そのため、実用上はナノ粒子を基材に固定した使用法にほぼ限定される。また、ナノ粒子はハンドリング性が悪いだけでなく、嵩密度(タップ密度)が低いために運搬コストが高くなりやすい。
【0008】
このような背景から、酸化チタンナノ粒子をスプレードライ(噴霧乾燥)と呼ばれる方法等によって顆粒状に造粒する技術が用いられることがある。顆粒状に造粒することによって2次粒子径が増大し、ナノ粒子固有の低ハンドリング性、人体有害性が改善されるだけではなく、嵩密度についても改善を図ることが可能となる。
【0009】
しかし、造粒によって凝集体を形成すると、造粒前と比較して光触媒活性は低下してしまう。その理由として、照射される光や、有機物分解能力を持つラジカル種、分解対象である有機物の拡散経路が狭く三次元的に複雑となるために、光が凝集体内部まで届かず、また、ラジカル種と有機物の接触頻度が減少することが原因と考えられる。特にナノ粒子が凝集して形成される孔は微細であるため、拡散速度の低減が顕著である。
【0010】
凝集体形成に伴う拡散速度低減の課題を解決する手段として、体積流量や拡散速度に優れる孔径の大きいマクロ孔を、凝集体内部に形成する技術が知られている。例えば特許文献1には、マクロ孔が略一軸方向に配向して形成される多孔質酸化チタンが、マクロ孔を有さない酸化チタンと比較して高い光触媒活性を有することが報告されている。
【0011】
また、孔形成技術の代表例として、テンプレート(鋳型)法と呼ばれる方法が知られている。テンプレート法においては、繊維状や球状の固体又は界面活性剤をマトリックス中に均一に分布させ、高温焼成や溶媒抽出によってこれらを取り除き、取り除いた跡を孔として形成する。その一例として、本発明者は特許文献2に示すように、アパタイト(リン酸カルシウム化合物)と酸化チタンの複合体を形成した上で、アパタイトを選択的に酸で溶解させることによりマクロ孔を形成した酸化チタン光触媒を報告した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-122056号公報
【特許文献2】特許第6623364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1の技術で得られる酸化チタンについては、マクロ孔の導入による光触媒活性の向上が図られているものの、実施例で作製された酸化チタン粉末のマクロ孔は略一軸方向に配向するとされている。同文献の実施例のようにメチレンブルー色素水溶液中に酸化チタン粉末を懸濁させて光照射する場合には、常に酸化チタン粉末が三次元的に方向を変えながら色素を吸着し光照射されるため、略一軸配向であっても問題無いと考えられる。
【0014】
しかし、実用上は酸化チタンを基材等に固定して用いるため、光や分解対象物に対してマクロ孔が一定方向に配向する特許文献1の酸化チタンでは、基材等への固定化の際に光照射や吸着効果において不利となる個体が多数生じてしまう。
【0015】
具体的には、マクロ孔が光照射方向に対して平行であれば酸化チタン凝集体の内部まで光が侵入すると考えられるが、斜めや垂直方向に配向してしまうと、紫外光の酸化チタンへの侵入長(酸化チタンの光吸収係数)を考慮すると、その内部まで光が侵入しないと考えられる。酸化チタン凝集体の内部まで光が侵入しないと、当然、その内部においては光触媒機能を発揮することができない。分解対象物の吸着に関しても同様に、酸化チタン同士の配列や基材への固定化の際にマクロ孔が塞がる方向に配向する個体が生じると、これらにおいてはマクロ孔の吸着効果がほとんど発揮されない。
【0016】
また、特許文献1の製造方法においては、水熱処理と呼ばれる高圧条件下で行われる合成法が必要であり、製造の再現性、安全性、コスト等の点で量産化が容易ではない。
【0017】
特許文献2の技術で得られる酸化チタンではマクロ孔の方向が特定されていないが、実施例で作製された酸化チタンの比表面積は最も高いもので33m2/g程である。そのため、マクロ孔形成による効果は期待できるとしても、ベースとなる酸化チタンの吸着能は余り期待できない。この技術以外のものも含めて、テンプレート法に用いられるテンプレートのサイズは界面活性剤を用いた場合であっても数nmが限界であり、テンプレート法では微細なマイクロ孔の形成が難しく、すなわち高比表面積化が難しいと考えられる。
【0018】
テンプレート法においてはサイズが揃ったテンプレートが用いられることが通常であるため、形成される孔のサイズが揃う。これがテンプレート法の特徴とされるが、見方を変えると孔のサイズが特定の径に限られるとも言える。
【0019】
また、特許文献2に示したテンプレート法は、製造方法に酸処理の工程を含むため、コスト等の点で量産化が容易でない。その他の一般的なテンプレート法においても、テンプレートを除去する工程において廃液や排ガス等が生成するデメリットがある。
【0020】
以上のように、従来の酸化チタンナノ粒子については、ナノ粒子固有の低ハンドリング性や人体有害性、低嵩密度に課題がある。これを改善しようと凝集体を形成すると光触媒活性の低下につながるため、マクロ孔の形成により改善が図られてきたが、実用下での光触媒能の発揮には課題が残っている。すなわち、基材に固定された状態にあってもマクロ孔の効果を十分に発揮し、マイクロ孔やメソ孔といった微細な細孔による吸着能と合わせて様々な大きさの対象物の吸着能に優れ、特に吸着律速(拡散律速)となる場合において高い光触媒活性を有する酸化チタン光触媒、及びそれを環境負荷が低く安全に再現性良く安価に製造する方法は、いまだ存在しないのが現状である。
【0021】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、凝集体形成に伴う光触媒活性低下を抑制するマクロ孔を凝集体内部に多方向から導入し、同時にマイクロ孔及びメソ孔を形成することにより、様々な大きさの対象物の吸着能に優れ、高い光触媒活性を有する多孔質酸化チタン凝集体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、酸化チタン前駆体及び水又は水溶液の少なくとも一方を液滴状で添加することにより、マイクロ孔とメソ孔に加え、多孔質酸化チタン凝集体内部を貫通するマクロ孔を有し、これらサイズの異なる孔からなる階層的な孔構造が形成された、様々な大きさの物質に対する吸着能に優れ、特に吸着律速となる場合において高い光触媒活性を有する酸化チタン光触媒を実現できることを究明した。
【0023】
また、その階層的な孔構造が表面凹凸として作用し酸化チタンの表面親水性を強調するとともに、階層的な孔構造の毛管凝縮作用による保水効果が有効に働き、光が照射されない状態においても多孔質酸化チタン凝集体が高い親水性を示すことを究明した。
【0024】
さらに、多孔質酸化チタン凝集体の高い親水性及び階層的な孔構造を構成する孔のサイズと分布に起因して、ヒトの住環境に適する湿度域となるよう空気中の水分を吸脱着する調湿機能を有すること、これに加えてマクロ孔によるスピーディーな調湿が可能であることを究明し、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、本発明は、酸化チタン粒子の凝集体であって、マイクロ孔と、メソ孔と、前記凝集体内部を貫通するマクロ孔とからなる階層的な孔構造を有する、多孔質酸化チタン凝集体である。
【0026】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、これらサイズの異なる孔からなる階層的な孔構造が形成されており、様々な大きさの物質に対する吸着能が向上して高い光触媒活性を有する。体積流量や拡散速度に優れるマクロ孔を有し、特に吸着律速となる場合において高い光触媒活性を発揮する。一般的な気体や液体に対してだけでなく、これらより大きなウイルスや細菌、臭い物質や汚染物質等の有機分子に対する特異的な吸着能も有する。
【0027】
また、この階層的な孔構造が表面凹凸として作用し酸化チタンの表面親水性を強調するとともに、階層的な孔構造の毛管凝縮作用による保水効果が有効に働き、紫外光が十分に当たらない環境下においても多孔質酸化チタン凝集体が高い親水性を示し、優れた防汚性及び防曇性を有する。
【0028】
さらに、多孔質酸化チタン凝集体の高い親水性及び階層的な孔構造を構成する孔のサイズと分布に起因して、ヒトの住環境に適する湿度域となるよう空気中の水分を吸脱着する調湿機能を有し、これに加えてマクロ孔によるスピーディーな調湿が可能である。
【0029】
また、本発明の一実施態様は、マクロ孔が略直線状部分を有し、前記マクロ孔が凝集体の内部から外部に向かって複数の異なる方向を向いて形成されている、前記多孔質酸化チタン凝集体である。
【0030】
マクロ孔が略直線状部分を有することで、体積流量や拡散速度が向上し、凝集体形成に伴う拡散速度の低下を抑制することができる。また、マクロ孔が凝集体の内部から外部に向かって複数の異なる方向を向くように多方向から導入することで、多孔質酸化チタン凝集体を基材等に固定した際に、マクロ孔が光の照射方向に対して斜めや垂直に配向する個体や、マクロ孔が塞がる方向に配向する個体が生じることを防止することができる。これにより、多孔質酸化チタン凝集体の使用形態に関わらず、光やラジカル種、分解対象物や水の内部拡散に優れ、凝集体であっても優れた光触媒活性と調湿機能とを発揮することができる。
【0031】
さらに、本発明の一実施態様は、マクロ孔の直径が0.5~20μmである、前記多孔質酸化チタン凝集体である。
【0032】
多孔質酸化チタン凝集体がこの範囲のマクロ孔を有することにより、一般的な光触媒ナノ粒子が分解対象とするナノサイズの分子だけでなく、粒子径0.1~0.2μm程のウイルス、粒子径0.1~1.0μm程のタバコの煙、粒子径1~20μm程の細菌や花粉等を効率よく吸着して分解することができる。
【0033】
また、本発明の一実施態様は、窒素ガス吸着法により測定した吸着等温線からGrand Canonical Monte Carlo法(GCMC法)により求められるマイクロ孔の細孔分布のピークが1nm以下である、前記多孔質酸化チタン凝集体である。
【0034】
多孔質酸化チタン凝集体が1nm以下の微細なマイクロ孔を多数有することにより、その表面積を格段に大きくすることができ、様々な分解対象物質に対して高い光触媒活性を示す。
【0035】
さらに、本発明の一実施態様は、窒素ガス吸着法により測定した吸着等温線からBrunauer-Emmett-Teller法(BET法)により求められる比表面積が35m2/g以上である、前記多孔質酸化チタン凝集体である。
【0036】
多孔質酸化チタン凝集体の比表面積が高いと、電子励起により生じた電子とホールの酸化チタン表面への拡散距離が短くなり、またラジカル種生成反応と有機物分解反応における反応面積が増加し光触媒活性が向上する。
【0037】
また、本発明の一実施態様は、窒素ガス吸着法により測定した吸着等温線からGCMC法により求められる細孔容積が0.15cm3/g以上である、前記多孔質酸化チタン凝集体である。
【0038】
細孔容積が大きいと分解対象物や水を凝集体内部に保持することができ、光触媒機能及び調湿機能が向上する。
【0039】
さらに、本発明の一実施態様は、窒素ガス吸着法により測定した吸着等温線からBarrett-Joyner-Halenda法(BJH法)により求められる平均細孔径が4~30nmである、前記多孔質酸化チタン凝集体である。
【0040】
多孔質酸化チタン凝集体の平均細孔径がこの範囲にあると、階層的な孔構造を構成するマイクロ孔(2nm以下)、メソ孔(2~50nm)及びマクロ孔(50nm以上)のバランスが良く、優れた光触媒機能及び調湿機能を発揮することができる。
【0041】
また、本発明の一実施態様は、酸化チタンの結晶相がアナターゼ単相である、前記多孔質酸化チタン凝集体である。
【0042】
酸化チタンの結晶相をアナターゼ単相とすることにより、多くの条件下において高い光触媒活性を発揮することができる。
【0043】
さらに、本発明の一実施態様は、CuKα線を用いて測定される粉末X線回折パターンにおけるアナターゼの結晶面(101)に帰属されるピークの半値幅2θが1.0°以下である、前記多孔質酸化チタン凝集体である。
【0044】
半値幅の値が小さいことは、アナターゼの結晶性が高く結晶欠陥が少ないことを意味し、半値幅が上記範囲にある場合は、高い光触媒活性を期待できる。
【0045】
また、本発明は、酸化チタン前駆体及び水又は水溶液の少なくとも一方を液滴状で添加する工程を含む、前記多孔質酸化チタン凝集体の製造方法である。
【0046】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体の製造方法は、分相を利用したシンプルな製法でありコストが低廉でありながら、従来製造することができなかった、マイクロ孔と、メソ孔と、凝集体内部を貫通するマクロ孔とからなる階層的な孔構造を有する前記多孔質酸化チタン凝集体を製造することができる。例えば、Tiアルコキシドに蒸留水をスプレー噴射するシンプルで低コストの方法で製造することができる。
【0047】
さらに、本発明の一実施態様は、大気中200~500℃で加熱する工程を含む、前記多孔質酸化チタン凝集体の製造方法である。
【0048】
上記温度範囲で加熱することにより、酸化チタンの結晶性を高めて、高い光触媒活性を有する多孔質酸化チタン凝集体を製造することができる。また、その細孔分布をコントロールして、高い調湿機能を有する多孔質酸化チタン凝集体を製造することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、マイクロ孔、メソ孔、凝集体内部を貫通するマクロ孔からなる階層的な孔構造を有し、市販品と同等以上の優れた光触媒機能と調湿機能とを合わせ持つ。特にマクロ孔を多方向から導入した形態では、基材への固定に伴う両機能の低下を防止することができ実用面で優れている。
【0050】
光触媒機能に関しては、階層的な孔構造により様々な大きさの対象物に対する吸着能と、光やラジカル種及び分解対象物の内部拡散とに優れ、凝集体でも高い光触媒活性を示す。階層的な孔構造の表面凹凸と保水作用により、光を照射せずとも高い親水性を示し防汚性及び防曇性に優れる。メソ孔やマクロ孔を有しこれらと同等サイズのウイルスや細菌及び臭い物質や汚染物質等の有機分子に対する特異的な吸着能を有する。調湿機能に関しては、従来の市販品と同等以上の優れた性能を示し、特にマクロ孔の高い体積流量と拡散速度により、空気中の水分を速やかに吸脱着してスピーディーな調湿を可能とする。
【0051】
また、本発明の多孔質酸化チタン凝集体の製造方法は、マイクロ孔、メソ孔、凝集体内部を貫通するマクロ孔からなる階層的な孔構造を有し、優れた光触媒機能と調湿機能とを合わせ持つ本発明の多孔質酸化チタン凝集体を、コストを抑えた簡易な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明の多孔質酸化チタン凝集体の製造方法の一例を説明する概略図である。
【
図2】実施例1~6及び比較例1~3のGCMC法による細孔分布の解析結果を示すグラフである。
【
図3】実施例6及び比較例1及び2のGCMC法による細孔分布の解析結果を示す拡大グラフである。
【
図4】実施例5の多孔質酸化チタン凝集体の微構造を示す走査電子顕微鏡による観察像である。
【
図5】実施例1~6並びに比較例1及び2の多孔質酸化チタン凝集体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【
図6】実施例1~6及び比較例1~3の多孔質酸化チタン凝集体の調湿性能の評価結果を示すグラフである。
【
図7】実施例1~6並びに比較例1、2及び4の多孔質酸化チタン凝集体の紫外光照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例1~6並びに比較例1、2及び4の多孔質酸化チタン凝集体の紫外光照射時間と有機物分解速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の多孔質酸化チタン凝集体及びその製造方法について、詳細に説明する。なお、説明が省略されている構造、特性、組成、製法等については、当該技術分野の当業者に知られているものと同一又は実質的に同一のものとすることができる。
【0054】
本明細書で「略」とは、厳密に同一である場合に限られず、同一性を失わない程度の誤差や変形を含む概念である。例えば、略直線状とは厳密に直線の場合に限られず、作用効果の観点から直線と同一視できる形態を含むものとする。
【0055】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、マイクロ孔、メソ孔、マクロ孔の3種の孔からなる階層的な孔構造を有する。IUPACの定義と同じく、マイクロ孔が直径2nm以下の微細孔、メソ孔が直径2~50nmの細孔、マクロ孔が直径50nm(0.050μm)以上の孔を、それぞれ意味する。マクロ孔は凝集体の内部を貫通して多数形成され、メソ孔はマクロ孔の内面及び凝集体の外面に無数に形成され、マイクロ孔はマクロ孔の内面、メソ孔の内面及び凝集体の外面に無数に形成される。マイクロ孔及びメソ孔の存在の有無や細孔分布は、窒素ガスを吸着質として吸着等温線を測定し、GCMC法による細孔分布解析で得られるデータにより判断される。その測定条件は、実施例に具体的に例示する。
【0056】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、前記GCMC法による細孔分布において、マイクロ孔(2nm以下)の範囲にピークを有する。一般的な細孔分布の測定においては、数Åの超微細な細孔を対象に含めた測定が困難であることから、ピークの形状は細孔解析の下限となる範囲が途切れている「半ピーク」形状であってもよい。多孔質酸化チタン凝集体がマイクロ孔を有することによって、一般的な気体や液体等の2nm以下の分解対象物に対し反応面積が広くなり、高い光触媒活性を有することが可能となる。ピークとなるマイクロ孔の直径は小さいほど反応面積が広くなるため、1nm以下が好ましく、0.5nm以下がより好ましい。
【0057】
また、本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、前記GCMC法による細孔分布において、メソ孔(2~50nm)の範囲にピークを有する。メソ孔を有することによって、ヒトの住環境にとって適切な湿度となるように環境中の水分を吸脱着しコントロールする調湿機能を持たせることが可能になる。季節による変動があるが具体的には50~70%の湿度になるよう調湿することが好ましく、前記吸着等温線からBJH法によって求められる平均細孔径が、4~30nmとなる範囲が好ましく、11~25nmとなる範囲がより好ましい。
【0058】
さらに、本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、凝集体の内部を貫通するマクロ孔を有する。マクロ孔を有することによって、凝集体内部における光やラジカル種、分解対象有機物の拡散や吸着が十分に機能し、特に吸着律速となる条件下において優れた有機物分解作用を示す。また、マクロ孔が表面凹凸として働くとともにメソ孔と合わせた保水効果により、紫外光照射が不十分な状態であっても親水性が高く優れた防汚性及び防曇性を示す。さらに、体積流量や拡散速度に優れるマクロ孔は、速やかな水分や有機物の吸脱着を可能とし、スピーディーな調湿等を実現する。
【0059】
マクロ孔の形状は、体積流量や拡散の観点から、孔の長手方向の中心線が略直線状となる部分を有する貫通孔が好ましい。中心線とは孔の内面全周から等距離にある点を結んだ線である。長手方向の中心線の全部が略直線状である貫通孔だけでなく、湾曲、蛇行、屈曲部等を有する貫通孔でもよい。体積流量や拡散の観点から略直線状の部分がなるべく長い貫通孔が好ましく、全部が略直線状である貫通孔がより好ましい。なお、網目状に連続した貫通孔は好ましくない。
【0060】
また、孔の長手方向に略円柱状となる部分を有する貫通孔がより好ましい。長手方向の全部が略円柱状である貫通孔だけではなく、湾曲、テーパー、狭窄部等を有する貫通孔でもよい。体積流量や拡散の観点から略円柱状の部分がなるべく長い貫通孔がより好ましく、全部が略円柱状である貫通孔がさらに好ましい。
【0061】
マクロ孔は、凝集体の内部から外部に向かって複数の異なる方向を向いて形成されていることが好ましい。異なる方向とは、凝集体の一つの塊を任意の位置で固定して直上から見た平面視及び/又はそこから視点を90°回転させた側面視において、一つの孔の中心線の直線状部分と、他の複数の孔の中心線の直線状部分とが、略平行でないことを意味する。基材への固定時に光照射や吸着において不利な個体が生じるのを防止する観点から、平面視及び側面視の両方において略平行でないことが好ましい。
【0062】
マクロ孔の貫通孔が凝集体の内部から外部に向かって複数の異なる方向を向くように形成されることによって、多孔質酸化チタン凝集体が基材にランダムな方向に固定された状態であっても、光や分解対象物がマクロ孔を経由して多孔質酸化チタン凝集体の内部に侵入しやすくなり、すなわち高い光触媒活性と調湿機能とを得ることができる。なお、略一軸方向(略同一方向)に配向したマクロ孔は好ましくない。
【0063】
マクロ孔の直径は0.5~20μmの範囲が好ましい。マクロ孔の直径が大きいと体積流量に優れ、小さいと凝集体の凝集力が増大し解砕され難くなるため、この範囲が好適である。マクロ孔の直径、略直線状や略円柱状、形成方向の形態は、凝集体の外観や断面の観察像に基づく目視観察等により評価する。
【0064】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体の比表面積は、前記吸着等温線からBET法によって求められる比表面積の値が、好ましくは35m2/g以上、より好ましくは60m2/g以上である。比表面積が高いとラジカル種生成反応と有機物分解反応における反応面積が増加し、光触媒活性が向上する。
【0065】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体の細孔容積は、好ましくは0.15cm3/g以上、より好ましくは0.25cm3/g以上である。細孔容積が大きいと分解対象物や水を多孔質酸化チタン凝集体内部に保持することができ、有機物分解や表面親水性に係る光触媒機能及び調湿機能が向上する。
【0066】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体の2次粒子(凝集体)としての球相当径の体積平均値は、10~500μmの範囲が好ましく、30~200μmの範囲がより好ましい。大きいと通常のナノ粒子凝集体と比較して、ハンドリング性、人体有害性、嵩密度等の点で改善につながる。一方、小さいと拡散経路が短くなり光触媒活性の向上につながる。なお、球相当径の体積平均値とは、凝集体を同一体積の球体と仮定してその球体の径に換算し、その体積分布データから求めた平均径を意味する。
【0067】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体を構成する結晶質酸化チタン粒子の結晶相は、Cu管球を線源にCuKα線を用いて連続スキャンした粉末X線回折パターンにおいて、ピーク帰属によって含有されていると判断される酸化チタンの結晶相がアナターゼ単相であることが好ましい。粉末X線回折パターンの測定条件は、実施例に具体的に例示する。分解対象物や諸条件に依存して、高い光触媒活性を示すために酸化チタンが満たすべき最適な物性が異なるが、総じてアナターゼはルチルに比べ高い光触媒活性を有することが多いため、含有する酸化チタン結晶相をアナターゼ単相とすることにより優れた光触媒活性を得ることができる。
【0068】
また、上記粉末X線回折パターンにおいてアナターゼの結晶面(101)に帰属されるピークの半値幅2θは1.0°以下が好ましく、より好ましくは0.9°以下である。ピークの半値幅2θが小さいことは、結晶性が高く、結晶の欠陥が少ないことを意味する。結晶の欠陥は電子とホールの再結合中心として働くため、結晶性が高いと優れた光触媒活性を得ることができる。
【0069】
次に、本発明の多孔質酸化チタン凝集体の製造方法は、酸化チタン前駆体及び水又は水溶液の少なくとも一方を、液滴状で添加する工程を含む。液滴状で添加する方法としては滴下又は噴射が挙げられる。
【0070】
酸化チタン前駆体と水又は水溶液との相溶性が低いことにより、いわゆる分相状態で酸化チタン前駆体の加水分解反応やそれに続く脱水縮合反応が急激に起こり、マイクロ孔、メソ孔、マクロ孔が形成される。その際、少なくとも一方を液滴状で添加することにより、同時に複数の異なる方向から酸化チタン前駆体と水又は水溶液の界面が形成され、複数の異なる方向にマクロ孔が形成される。
【0071】
また、少なくとも一方を液滴状で噴射することにより、液滴の速度が高まり、多孔質酸化チタン凝集体内部を略直線状又は略円柱状で貫通するマクロ孔の形成が促進される。本発明の製造方法の一例を説明する概略図を
図1に示す。
【0072】
本発明の製造方法の原理上、一定の条件下において添加される液滴径と得られる多孔質酸化チタン凝集体の凝集粒子径(2次粒子径)とは比例することから、凝集体粒径の好適範囲を考慮して、1つの液滴の平均径は10~500μmの範囲が好ましく、30~200μmの範囲がより好ましい。
【0073】
添加に用いる機器・装置としては、滴下にはビュレット、自動滴定装置、噴射にはハンドスプレー、噴霧器、ミスト発生機、エアゾール、ジェッター等が挙げられる。液滴径を制御することにより凝集体粒径を制御することができる。液滴径は、先端孔の形状、ノズルの種類・構造、液体の圧力、液体の流量、液体の粘性・比重等に依存して変化するが、液滴径が所望の範囲となるように、製造コストや安定性も考慮して適宜設定される。
【0074】
また、噴射により液滴の速度を高めることにより、略直線状又は略円柱状で貫通するマクロ孔の形成を促進することができる。液滴の速度は、同様にノズルの種類・構造、液体の圧力、液体の流量等に依存して変化するが、得られる凝集体のマクロ孔が好適な形状になるように、製造コストや安定性も考慮して適宜設定される。
【0075】
使用する酸化チタン前駆体としては、チタンアルコキシド、チタンのキレート化合物、硫酸チタニル、四塩化チタン、過酸化チタン、硝酸チタン等が挙げられる。中でもチタンアルコキシドは、安価でありマイクロ孔を有する微細な高比表面積の多孔質酸化チタン凝集体が得られやすいため好ましい。
【0076】
そのうちのチタンアルコキシドとしては、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラターシャルブトキシド等が挙げられる。効率的な反応速度と反応制御の容易性の観点から、チタンテトラノルマルプロポキシド及びチタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0077】
また、使用される水溶液としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸の水溶液、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸の水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の塩基性の水溶液、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール水溶液等が挙げられる。酸化チタン前駆体にチタンアルコキシドを選択し、水溶液に酸性水溶液を用いた場合は直鎖状や膜状の多孔質酸化チタン凝集体が形成されやすくなり、塩基性水溶液を用いた場合は三次元的な粒子状の多孔質酸化チタン凝集体が形成されやすくなる。目的に応じて水溶液を選択し、選択した水溶液の種類に応じて濃度やチタンアルコキシドとの配合比を設定する。同様にチタンアルコキシドを選択し、アルコール水溶液を用いた場合はチタンアルコキシドと水溶液との相溶性は高まり、酸化チタンの核生成速度は遅くなる。目的に応じてアルコールを選択し、選択したアルコールの種類に応じて濃度やチタンアルコキシドとの配合比を設定する。
【0078】
得られた多孔質酸化チタン凝集体は、高温で加熱するほど、酸化チタンの結晶性が高まり電子とホールの再結合中心となる結晶欠陥が低減されるため、光触媒活性向上の効果が見込める。一方、焼成温度が高すぎると、アナターゼ相からルチル相への相転移や比表面積低下による影響が結晶性向上による効果を上回り、光触媒活性が低下する。また、多孔質酸化チタン凝集体のメソ孔が、調湿に適さない範囲まで大きくなり、調湿機能も低下する。酸化チタンの結晶性を高めるとともに多孔質酸化チタン凝集体の細孔分布を適切な範囲に調整するために、好ましくは200~500℃、より好ましくは300~500℃の範囲で加熱することが好ましい。雰囲気は大気でも窒素等の不活性ガスでもよい。加熱時間は特に限定されず、加熱の効果と経済性との兼ね合いで温度に応じて適宜設定される。
【0079】
本発明の多孔質酸化チタン凝集体の製造方法では、酸化チタン前駆体と水又は水溶液との反応工程の後に、析出した凝集体を分離する濾過等の固液分離工程、未反応物等の不純物を除去する水洗工程、内部に残る水分を飛ばす乾燥工程等が適宜設けられる。
【実施例0080】
以下、本発明の多孔質酸化チタン凝集体及びその製造方法について、実施例及び比較例を参照して具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0081】
[実施例1]
ガラス瓶にチタンテトライソプロポキシド1.0gを入れ、その上から蒸留水4gをスプレーで噴射した。噴射に伴い、瞬時に固体が析出した。析出した固体を、ろ過により固液分離・水洗した後に、150℃で水分を蒸発させて試料を得た。
【0082】
窒素ガスを吸着質として比表面積・細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)、BELSORP-maxII)を用いて定容法で吸着等温線を測定し、GCMC法により細孔分布と細孔容積を、BJH法により平均細孔径を、BET法により比表面積を、それぞれ解析して求めた。試料の前処理温度は150℃とした。GCMC細孔分布において、マイクロ孔領域とメソ孔領域にピークを持つことが分かった。GCMC細孔容積は0.44cm3/gであった。また、BJH平均細孔径は4nmであり、BET比表面積は405m2/gであった。
【0083】
走査電子顕微鏡(日本電子(株)、JSM-IT200)を用いて、加速電圧10kV、倍率1,000倍の条件で2次電子像を観察した結果、試料は酸化チタンナノ粒子から構成される凝集体であり、凝集体内部を貫通する直径1~10μmの略直線状で略円柱状の部分を有するマクロ孔を多数有することが分かった。また、これらのマクロ孔は凝集体内部において複数の異なる方向を向いて形成され、凝集体外部に向かって複数の異なる方向を向いて開口していることが分かった。
【0084】
X線回折装置((株)リガク、UltimaIV)を用いて、CuKα線、X線出力40kV-40mA、ステップ幅0.02°、スキャンスピード10°/min.の条件で粉末X線回折パターンを測定した。また、アナターゼ(101)に帰属されるピークの半値幅を求めた。粉末X線回折パターンではアナターゼに帰属されるピークのみが検出された。また、アナターゼ(101)ピークの半値幅は1.85°であった。
【0085】
作製した試料200mgをガラス瓶に入れ、恒温恒湿器(ヤマト科学(株)、IH401)を用いて、27℃、湿度90%雰囲気での重量変化及び取り出し後の重量変化を測定することにより、調湿性能を評価した。湿度90%雰囲気投入4時間経過後に重量が23.5mg増加し、取り出し3時間経過後に13.9mg減少した。
【0086】
エタノール2gと蒸留水0.5gの水溶液に試料30mgを分散させた状態でオルトケイ酸テトラエチル20μLと1mol/L塩酸10μLを加え、スライドガラスに滴下し120℃で加熱することにより、試料をスライドガラスに固着させた。これにブラックライトで紫外光(0.4mW/cm2)を照射した時の水接触角変化を、接触角計(協和界面科学(株)、DropMaster300)で測定した。光照射前の水接触角は10°であり、光照射2.5時間後の水接触角は3°であった。
【0087】
試料20mgを濃度20μmol/Lのメチレンブルー水溶液50mLに分散させ、24時間放置しメチレンブルーを試料に吸着させた。この分散水溶液にブラックライトで紫外光(0.4mW/cm2)を照射した時の664nmの吸光度を分光光度計((株)島津製作所、SolidSpec-3700i)で測定し、メチレンブルーの濃度変化ΔC/C0(ここで、C0は初期濃度を表す)から光触媒活性を評価した。光照射1時間後のメチレンブルー濃度変化は0.51であった。
【0088】
[実施例2~6]
実施例1で作製した試料を、大気中300、350、400、450及び500℃で1時間加熱して、実施例2~6の試料を得た。各試料の各項目を実施例1と同様の方法で評価した。何れの試料においてもGCMC細孔分布において、マイクロ孔領域とメソ孔領域にピークを持つことが分かった。また、走査電子顕微鏡観察により、多孔質酸化チタン凝集体内部を貫通する直径1~10μmの略直線状で略円柱状の部分を有するマクロ孔を多数有することが分かった。これらのマクロ孔は凝集体内部において複数の異なる方向を向いて形成され、凝集体外部に向かって複数の異なる方向を向いて開口していることが分かった。X線回折パターンではアナターゼに帰属されるピークのみが検出された。
【0089】
[比較例1及び2]
実施例1で作製した試料を、大気中600及び700℃で1時間加熱して、比較例1及び2の試料を得た。各試料の各項目を実施例1と同様の方法で評価した。何れの試料においてもGCMC細孔分布において、マイクロ孔領域にはピークを持たずメソ孔領域にピークを持つことが分かった。また、走査電子顕微鏡観察により、各実施例と同様のマクロ孔を多数有することが分かった。X線回折パターンではアナターゼとルチルに帰属されるピークが検出された。
【0090】
実施例1~6並びに比較例1及び2の各試料の、GCMC細孔分布におけるマイクロ孔ピークの有無、BJH平均細孔径、SEM観察像におけるマクロ孔の有無、BET比表面積、GCMC細孔容積、粉末X線回折パターンにおける結晶相とアナターゼ(101)ピークの半値幅、調湿性能の評価実験における吸水量、紫外光照射下における水接触角変化及びメチレンブルー色素分解能の測定結果を下記表1及び2にまとめて示す。なお、実施例2~6のマイクロ孔ピーク位置はGCMC細孔分布の解析下限域と推定される。
【0091】
【0092】
【0093】
[比較例3]
調湿機能の比較試料として市販のアロフェン(天然アルミニウムケイ酸塩で構成された粘土)(品川ゼネラル(株)、P-1)を、いずれの処理もすることなくそのままの状態で用いた。ただし、比表面積・細孔分布測定試験では、各実施例と同様に150℃で前処理した。GCMC細孔分布において、マイクロ孔領域とメソ孔領域にピークを持つことが分かった。GCMC細孔容積は0.38cm3/gであった。また、BJH平均細孔径は4nmであり、BET比表面積は304m2/gであった。湿度90%雰囲気投入4時間経過後に重量が26.3mg増加し、取り出し3時間経過後に13.1mg減少した。
【0094】
[比較例4]
光触媒機能の比較試料として市販の酸化チタン(石原産業(株)、ST-01)を、いずれの処理もすることなくそのままの状態で用いた。走査型電子顕微鏡による観察では、試料は酸化チタンナノ粒子から構成される凝集体でありマクロ孔の存在は認められなかった。光照射前の水接触角は28°であり、光照射2.5時間後の水接触角は9°であった。光照射1時間後のメチレンブルー濃度変化は0.36であった。
【0095】
実施例1~6及び比較例1~3の細孔分布の解析結果を
図2及び3に、実施例5の走査電子顕微鏡による観察像を
図4に、実施例1~6及び比較例1及び2の結晶相及び結晶性の解析結果を
図5に、実施例1~6及び比較例1~3の調湿性能の評価結果を
図6に、実施例1~6並びに比較例1、2及び4の水接触角(表面親水性)及びメチレンブルー濃度(有機物分解能)の測定結果を
図7及び8に、それぞれ示す。
【0096】
実施例1~6と比較例1及び2を比較すると、本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、メソ孔領域に加えマイクロ孔領域にも細孔分布のピークを有し、マイクロ孔、メソ孔、多孔質酸化チタン凝集体内部を貫通して凝集体外部に向かって複数の異なる方向を向いて開口するマクロ孔からなる階層的な孔構造を有することが分かる。比較例1及び2ではマイクロ孔領域にピークは認められなかった。また、細孔容積は0.18~0.44cm3/gであり、比較例1及び2(0.10及び0.07cm3/g)に勝っている。さらに、比表面積は35~405m2/gであり、比較例1及び2(5.4及び2.7m2/g)に大きく勝っている。X線回折パターンにおいては、アナターゼ単相であり、比較例1及び2はアナターゼとルチルの混相であることが分かる。調湿実験における吸水量は15.7~35.0mgであり、比較例1及び2(3.5及び0.8mg)に大きく勝ることが分かる。
【0097】
実施例1~6と比較例3を比較すると、本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、市販品と同等かそれ以上の調湿機能を有することが分かる。吸水速度は試料の吸水量に依存して異なるが、
図6に示す直線の傾きから、吸水が飽和に近い状態からの脱水(放水)速度については試料の吸水量によらず同程度となることが分かり、本発明の多孔質酸化チタン凝集体は比較例3に比べ脱水速度が速くスピーディーな調湿が可能であることが分かる。なお、繰り返し5回実験し、本発明の多孔質酸化チタン凝集体は比較例3に比べ脱水速度が速いことを確認した。
【0098】
実施例1~6と比較例4を比較すると、本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、市販品と同等かそれ以上の光触媒機能を有することが分かる。表面親水性については、光照射前の状態であっても水接触角10~17°と低く、防汚及び防曇の性能に優れることが分かる。マクロ孔やメソ孔が表面凹凸として酸化チタンの親水性を強調したこと、マクロ孔やメソ孔による毛管凝縮作用による保水性が親水性に有効に寄与したと考えられる。本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、光照射2.5時間後には水接触角5°以下の超親水性表面となることも分かる。有機物分解作用については、実施例2~4ではやや劣るものの、実施例5はほぼ同等であり、実施例1及び6では大きく勝ることが分かる。実施例1では比表面積の高さが、実施例6では結晶性の高さが有効に寄与したと考えられる。
本発明の多孔質酸化チタン凝集体は、市販品と同等以上の優れた光触媒機能と調湿機能とを合わせ持つ。光触媒機能のうち表面超親水化作用については、光を照射しない状態でも親水性が高いため、紫外光が当たらない又は当たりにくい環境下においても防汚性や防曇性に優れる。光触媒機能のうち有機物分解作用については、メソ孔やマクロ孔を有するため、これらの細孔と同程度のサイズのウイルスや細菌、有機分子(臭い物質や汚染物質等)に対する特異的な吸着能を持ち、これらを効率良く光分解することができる。さらに、調湿機能については、空気中の水分に対する吸脱着速度に優れ、スピーディーな調湿を可能とする。
このような特徴を示す新材料として、壁紙や内装材、外装材、パネル、家具やインテリア、バスマット、カーテン、布、マスク、衣類、靴、鏡、レンズ、空気清浄製品・設備、浄水製品・設備等に利用され、産業の発展に寄与することが期待される。