(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098466
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】スピーカーキャビネット
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20240716BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20240716BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
H04R1/02 101B
H04R1/02 101F
G10K11/16 160
H04R1/28 310Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023010556
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】523028736
【氏名又は名称】番田 誠
(72)【発明者】
【氏名】番田 誠
【テーマコード(参考)】
5D017
5D018
5D061
【Fターム(参考)】
5D017AD13
5D017AD40
5D018AD17
5D018AD18
5D061GG01
5D061GG06
(57)【要約】
【課題】小型のフルレンジスピーカーユニットでも、普通のバスレフ型などよりも1オクターブ程度低い超低音領域からの平坦な音圧周波数特性の再生音を得ることができ、さらに、普通のバスレフ型などに不適とされた制動係数Q
0が非常に小さなスピーカーも使用可能な、振動減衰特性に優れたキャビネットを提供する。
【解決手段】古典的な「理想バスレフ」の設計をアレンジし現代のハイコンプライアンススピーカーの特性を最大限に生かすことを目的とし、低歪み化と低域再生眼界の拡大を両立させたバスレフ型キャビネット、また、スピーカーの振動による干渉を最大限に抑えるために、キャビネット内の構成をモジュール化することで、第1気室(11)に伝わるスピーカーの振動、第1気室(11)から第2気室(12)、第1ダクト(D1)や第2ダクト(D2)へ伝わる振動を抑制し、さらに、振動軽減部材の追加により、振動減衰特性に優れたキャビネット。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーキャビネットを構成する気室やダクトが、単体で特定の機能を発揮できる単位(本書では「モジュール」という)に細分化されることで、以下の特徴を有するスピーカーキャビネット、
第1気室、第1ダクト、第2気室、第2ダクトの4モジュールをつなぎ合わせることでキャビネットが完成する構造を有し、
モジュール間の嵌め合いをあえて緩く設計することで、発生するモジュール間のすき間に防振材の追加が可能な構成、
また、モジュール間にインシュレーターの追加が可能な構成とし、
かつ、スピーカーの取付部にあたるバッフル板(第1気室の前面の板)は、スピーカーフレームとバッフル板の距離をミリメートル単位で調整可能なスペーサーを設けることで、スピーカーフレームとバッフル板間に適切なクリアランスを保ちつつ、スピーカーフレームがバッフル板に固定される構造を有し、
さらに、前記の第1ダクト、第2ダクトには、内部を分割した多区分のダクトを用いることで、
前記ダクトが駆動する空気質量md1,md2をスピーカーの等価質量m0に対し、md1,md2を同等以上の質量とするヘルムホルツダクトを備え、
上述のダクトについては、開口率が100%を超えるヘルムホルツ共振ダクトを一台当たり1本または2本装着し、
前記の第1ダクト、第2ダクトが、両端開放型共鳴管の働きを併せ持ち、キャビネットが折り返しの一端開放型共鳴管として動作することを特徴とするスピーカーキャビネット。
【請求項2】
電気的には、比誘電率が低く、非磁性体であり、導電性が低い、音響的には、縦弾性係数をE、密度をρとしたときにE/ρ値が高いチタンなどの金属と、内部損失が大きい皮革あるいはフェルト等の防振材を重ね合わせて使用する、電気的・音響的インシュレーターが装着されることを特徴とする請求項1のスピーカーキャビネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピーカーキャビネットに係るものであり、低歪み化と低域再生眼界の拡大を両立させたバスレフ型キャビネット、そして振動減衰特性に優れたキャビネットであり、古典的な「理想バスレフ」の設計をアレンジし現代のハイコンプライアンススピーカーの特性を最大限に生かすことを目的としたキャビネットの構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカーシステムは、スピーカーユニットとキャビネットにより構成されるが、スピーカーユニットを取り付けるキャビネットとしては、その方式の分類として、密閉型やバスレフ型(位相反転型)といったものが知られる。
【0003】
バスレフ型は、主としてユニットの取付面(バッフル面)の一部に開口部を設け、その開口部に音道を形成するパイプ状のダクトを接続するか、あるいはユニットの取付面にダクトを一体に成型し、そのダクトを通じてユニットの背面から放射された音波の位相を反転させてキャビネットの前方に導き、これをユニットの前面から放射される音波と合成することにより低音部の能率を上げるようにしたものであり、密閉型に比べて低周波の音圧レベルを上げられるという利点がある。
【0004】
(理想的なバスレフ)
理想的なバスレフとはモデルスピーカーを使用した最適化バスレフであり、
理論的に、高音部の振動板からの音圧と低音部のダクトの共振周波数f
dまでほぼフラットな音圧周波数特性が得られることが知られており、
ダクトの断面積を有効振動板面積に一致させた最適化バスレフであり、
スピーカーの等価質量をm
0、ダクトが駆動する空気質量をm
dとしたときに、m
0=m
d、モデルスピーカーのQ
0=0.58、スティフネス比がSc/S
0=0.5のときのエンクロージャーの内容積V
0は、数式(1)で与えられる。
【数1】
【0005】
ダクトの断面積Adを実効振動板面積Sdと同じ面積とした場合のダクトの利得は+6dB、また、m0=mdとした場合のダクトの長さは数十cm程度が見込まれる。普通のバスレフなどではダクトの断面積が限られるため長くしないといけない。
【0006】
現実のスピーカーの場合、m0は想定された値より大きいものである。数式(14)に示すように、f0とm0がどちらも分母に記載されており、より低い周波数まで再生するにはf0を下げる(小さくする)必要があり能率を犠牲にしても振動系を重くする(m0を大きくする)か、エッジやダンパーの動きを柔らかくする方向にあり、Cms(Mechanical Compliance Suspension)が変わらなければm0は必然的に大きくなる。普通のバスレフなどではm0=mdは実現不可能といってよく、現状では実現する手段がない。
【0007】
普通のバスレフ型などは、スピーカーをエンクロージャーに入れたときの共振峰の鋭さQ0cを、低域がフラットに再生される条件としてQ0c=0.7程度になるよう数式(11)により調整されるので、スピーカー単体の制動係数Q0の小さなスピーカー(Q0<0.58)は、前述のモデルスピーカー(Q0=0.58)に比べてスティフネス比Sc/S0が大きな値となる。
【0008】
上述を無視して、キャビネットの容積を拡大すれば、f0やQ0の上昇が抑えられ、ダラ下がりの音圧周波数特性となる。低音の再生音圧レベルが低いので低音不足となるが、空気のスティフネスの影響が小さく、コーンの動きに対するストレスが掛からないためハイ・コンプライアンスな再生が実現する。
【0009】
バスレフ型の英語名は「Acoustical Phase Inverter」で、日本では「位相反転型エンクロージャー」と訳されている。位相反転型の名の通り、ダクトの共振周波数fd付近で位相の急激な変化(反転)が起きるのが特徴である。
【0010】
電気インピーダンス曲線について、理想のバスレフは、反共振周波数(ダクトの共振周波数)で最小値を取り、直流抵抗値に近い値となる。これは、反共振周波数では振動板(ボイスコイル)の運動が抑えられ逆起電力の発生が抑えられるからである。つまり、バスレフスピーカーでは、反共振周波数で振動板の振幅が抑えられることで非線形歪み(高調波歪みや相互変調歪み)が抑えられることと、その代わりに位相の急激な変化(反転)が起きることが特徴である。
【0011】
一方、バスレフ型の変形例として、スピーカーキャビネット内のダクト(D1)により連結される2つの気室に分け、一方にスピーカーユニットを取り付けるとともに他方をダクト(D2)により外部に連通したもの(ダブルバスレフという)が知られる。このようなダブルバスレフ方式によりは、2つのダクトの共振点を適切に設定することにより、低域発生限界の拡大と、比較的フラットな音圧周波数特性が得られるという利点を有するものの、その代償として中域に大きなディップが発生するが、これはキャビネットの容量やダクトのチューニングに拘らず、不可避的に発生するダブルバスレフの本質的なものとされている。
【0012】
(振動減衰)
音響的に最適なキャビネットの使用材料としては、機械的な振動が加わったときにその振動の過渡応答に優れ、振動減衰特性のきれいな材料が求められ、一般的には木質材料が使用される。使用される木材は遮蔽効果のある、重くて硬い材料、また、板自身の音の振動減衰特性の良い材料が適するとされている。
【0013】
エンクロージャーの振動に関しては、振動板を駆動するボイスコイルの駆動力の反作用が磁気回路を通じてスピーカーフレームを振動させ、それが伝導伝搬してエンクロージャーを振動させる。伝導性の振動抑制が重要であり、スピーカーフレームの振動をバッフル板がしっかりと受け止めて固定し、制動することが重要であると理解されている。
【0014】
近年のスピーカーフレームはアルミダイキャスト製などが多くなり、強度は高くなっているが、高性能磁石により磁気回路は逆に小形、軽量化されたために共振周波数が高くなり、音質に大きく影響を与えるため上述の振動対策が検討されている。
【0015】
振動対策として、磁気回路をスピーカーフレームで強固に支える方式やスピーカーフレームの直接支持方式などが採用されることがあるが、スピーカーフレームにあらかじめ加工が必要なものが多く、一概にコスト高である。
【0016】
鋼板の間に制振性の高い樹脂を挟み込み、防振・防音機能を持たせた複合材料に、制振鋼板が存在するが、音響用ではない。その制振性は温度に依存するとされるので、高音質が常に求められるスピーカーにはふさわしくない。
【0017】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1は、水頭損失の問題があるため、ヘルムホルツ共振が発生可能な管の太さ及び形状に改善する必要がある。
【0020】
モデルスピーカーを使用した理想的なバスレフの最適化条件は周波数領域の最適化条件であり、時間領域では必ずしも最適化条件であるとは言えない。ダクトの共振周波数(反共振周波数)で振動板の振幅が抑えられるがQ値が大きくなり過渡特性が低下する。前出のQ0の小さなスピーカーで解決可能であるが、現状では数式(11)に示すようにスティフネス比Sc/S0の増加の問題がある。
【0021】
低域再生限界の拡大と、音圧周波数特性の平坦化の両立を図ることは重要であるが、普通のバスレフ型などのヘルムホルツ共振ダクトの最大利得は+6dBが限界とされており、再生帯域(低域側)のさらなる拡大は困難であり、また位相反転の問題もある。
前述のダブルバスレフ方式については、各ダクトの共振周波数に関わる適正値や開口率などが明確でなく、中域ディップの問題もあり、このため低域再生限界の拡大と音圧周波数特性の平坦化との両立を実現できないという問題がある。
【0022】
振動板以外は振動させないようにすることが大切で、音響用にふさわしい制振材料の開発や新思想のキャビネットの開発が必要である。
【0023】
本発明は上述の事情を鑑みてなされたものであり、課題の一つがハイコンプライアンススピーカーの特性を十分に生かした上での、低音再生限界の拡大と音圧周波数特性の平坦化であり、
もう一つが、上記を活かすための振動減衰特性に優れたキャビネットの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は上記目的を達成するため、
スピーカーキャビネット本体と、該キャビネット本体の内部を区分して形成された第1気室(11)と第2気室(12)と、各気室を順次連結する第1ダクト(D1)と第2ダクト(D2)を備えたスピーカーキャビネットであって、
スピーカーの等価質量m0、前記ダクトが駆動する空気質量をmd1,md2としたとき、m0に対し、md1,md2を同等以上の質量とするヘルムホルツダクトを実現するスピーカーキャビネットである。このためにはダクトを太く長くする必要があり、内部を分割した多区分のダクトにすることで上述を解決する。
【0025】
スピーカーの振動による干渉を最大限に抑えるために、第1気室(11)に伝わるスピーカーの振動、第1気室(11)から第2気室(12)、第1ダクト(D1)や第2ダクト(D2)へ伝わる振動を抑制しするために、単体で特定の機能を発揮できる単位に分割したモジュール構造を持つことを特徴とし、モジュールの接合部分に防振材やインシュレーターを追加することで振動減衰特性に優れたキャビネットを提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、
スピーカーキャビネット本体と、該キャビネット本体の内部を区分して形成された第1気室(11)と第2気室(12)と、各気室を順次連結する第1ダクト(D1)と第2ダクト(D2)を備えたスピーカーキャビネットであって、
モジュールの対面やすき間等に振動伝達を抑制する防振材などを挟み込むことでキャビネットの振動減衰特性を改善することを特徴とするスピーカーキャビネットである。
【0027】
理想的なバスレフに適合させるための条件、Sc/S0=0.5、つまり第1気室(11)の容積V1を等価コンプライアンス体積Vasの2倍に設定するステップと、第1ダクトの断面積Ad1、ヘルムホルツ共振周波数fd1としたときに、数式(3)を用いて、ダクト長L1(実効値)を計算し、これにAd1と空気密度ρを掛け合わせることで第1ダクトの空気質量md1を求め、第2ダクト(D2)の空気質量md2は、上述のV1と第2気室(12)の容積V2を足し合わせた容積を基に、第2ダクト(D2)の断面積Ad2、第2ダクト(D2)のヘルムホルツ共振周波数fd2としたときに、上記と同様に、数式(3)を用いて、ダクト長L2(実効値)を計算し、これにAd2と空気密度ρを掛け合わせることで求めることも可能であり、事前にスピーカーの等価質量m0と比較、調整可能とすることを特徴とする。
【0028】
普通のバスレフ型などに比較し、実施例ではスティフネス比Sc/S0が小さいため、空気の弾性要素による低調波歪みや、非直線歪みが少なく、
また、ダクト内の空気質量md1及びmd2が大きいため、相互作用によりfd1及びfd2付近、及び間に挟まれたf0付近の振動板の振幅が減少する。この振幅の減少により高調波歪みや周波数変調歪み(FIM)などの歪みが改善される。
【0029】
加えて、共鳴管としての基本波及びその高調波のスペクトルを利用して、中音域まで、よりフラットな音圧周波数特性を与えること、そして、ベント(Vn)の向きによりスピーカー軸と90度異なる上方にスペクトルが放射されること、また共鳴周波数の高調波が放射されることで臨場感のある音響空間を創造することができる。
【0030】
小型のフルレンジスピーカーユニット(表1参照)でも、普通のバスレフ型などよりも1オクターブ程度低い超低音領域からの平坦な音圧周波数特性の再生音を得ることができ(実施例、及び
図19参照)、
さらに、普通のバスレフ型などに不適とされた制動係数Q
0が非常に小さなスピーカー(表2参照)も使用することができる(別の実施例、参照)。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例のスピーカーキャビネットの内部を示した図である
【
図2】実施例のスピーカーキャビネットの分解図である
【
図3】実施例のインシュレーターやスタンドオフ、取り付け部材の装備位置を示した図である。
【
図4】実施例のスピーカー取り付け部材(A)の詳細図である
【
図5】実施例のスタンドオフ(SF)の詳細図である
【
図6】実施例のインシュレーター(INS1)の詳細図である
【
図7】実施例のインシュレーター(INS)の詳細図である
【
図9】実施例のインシュレーター(直線電流がつくる磁界)
【
図10】実施例で測定したツイーターのインパルス応答特性の変化をパーセント表示で示した図である (a)インシュレーターを追加した状態で測定した (b)インシュレーターなしで測定した
【
図11】実施例で測定したスピーカーのインパルス応答特性の変化をパーセント表示で示した図である (a)インシュレーターを追加した状態で測定した (b)インシュレーターなしで測定した
【
図12】実施例で測定したスピーカーの高調波歪率特性を示した図である
【
図13】実施例で測定したスピーカーのf
0域の位相とインピーダンス変化を示した図である (a)キャビネットに収めた状態で測定した (b)比較のため自由空間で測定した
【
図14】別の実施例で測定したスピーカーのf
0域の位相とインピーダンス変化を示した図である (a)キャビネットに収めた状態で測定した (b)比較のため自由空間で測定した
【
図15】実施例で測定したスピーカーの出力とベント出力の重ね合わせイメージである
【
図16】実施例で測定したスピーカーのベントから出力される放射スペクトラムの詳細である
【
図17】
図16では測定不能な超低音領域の放射スペクトラム成分を測定規格の1mの距離で測定したデーターである
【
図18】実施例の折り返しの一端開放型共鳴管動作のイメージである
【
図19】実施例で測定したスピーカーの3m軸上での周波数特性とインピーダンス特性である
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0033】
図1に示すように、スピーカーキャビネットの外観はトールボーイ型の様相をしておりで、スピーカーユニットはキャビネットの前面上部に、ベント(エンクロージャダクト)は後側に上向きで装備されている。
【0034】
空気室やダクトは単体で特定の機能を発揮できる単位(本書では「モジュール」という)に細分化されているという特徴をもち、第1気室(11)、第1ダクト(D1)、第2気室(12)、第2ダクト(D2)の4つのモジュールを順番につなぎ合わせることでスピーカーが完成する。
【0035】
図2はスピーカーキャビネットを組み立て前の状態に分解した図であり、実施例では、スピーカー取り付け面を正面にして、第1気室(11)と第2気室(12)のそれぞれ左右方向に2ミリメートル、前後方向に5ミリメートルのクリアランスが第1ダクト(D1)に対して確保されている。これは、第1ダクト(D1)と嵌め合いに余裕を持たせ、できるだけ弱く保持するためであり、同時に第1気室(11)と第2気室(12)に防振材VI1を貼付し第1ダクト(D1)との距離を均等保つ。
【0036】
第1ダクト(D1)を第1気室(11)のほうに突出させ、ダクトの開口端の外側を削り薄く加工することで管路入口の損失係数を増大させている。これにより、共振や共鳴を起こしやすくする。実施例では、先端をさじ面加工することで、さらに改善している。
【0037】
第2ダクト(D2)に関しては左右方向に2ミリメートル、前後に2ミリメートルのクリアランスを持たせ、第2ダクト(D2)側に防振材VI1を貼付して、第1気室(11)と第2気室(12)の嵌め合いに対し余裕を持たせ、できるだけ弱く保持する。
【0038】
第2ダクト(D2)の防振材VI1の貼付位置について、ダクトの開口端を避けて中心位置に近づけて貼付することで開口端の共鳴振動に対する配慮を行い、第2ダクト(D2)もまた開口端の外側を削りさじ面加工することで管路入口の損失係数を増大させている。
【0039】
第2気室(12)の上部はキャビネット本体が創る折り返しの一端開放型共鳴管の中継部分にあたるため、また第1気室(11)の重さにより振動伝達係数の上昇、第1気室(11)からのスピーカー振動の再ふく射の懸念、共鳴振動への配慮などから、第1気室(11)との間に距離が必要なことが判明したために、インシュレーターINS1が装着されている。
【0040】
第2気室(12)の内側には、第1ダクト(D1)の落下防止用のためのスタンドオフSFが装備されている。
【0041】
スピーカーキャビネットの組み立てに関しては、はめ合いに余裕があるために、すり合わせ等の労力は最小となる。先ず第2気室(12)を用意し、第1ダクト(D1)をスタンドオフSFに当たるまで差し込む。次に、第1気室(11)の前面と第2気室(12)の前面の位置合わせをしたのち、インシュレーターINS1の位置まで垂直に降ろす。
最後に、第2気室(12)を装着すれば完了となる。
【0042】
図3には、スピーカー取り付け部材A、スタンドオフSF、インシュレーターINS1及び、インシュレーターINSの取付位置を示し、
図4から
図7には個々の詳細を示している。
【0043】
図4はスピーカー取り付け部材Aの詳細図面であり、
スピーカー取り付け部材Aの使用目的は、スピーカー振動がキャビネットに拡散する前に、振動源の直近で防振対策を行うことであり、それにはまず、スピーカーフランジとキャビネットを直に接触させない特徴を持つ。
【0044】
スピーカーユニットのフランジ部分2の表面に、平座金FW3が3段重なっており、それに対応して防振材VI3が交互に挟み込まれることで、インシュレーターの役割を持たせ、先ずはスピーカーフランジ2の直近で振動対策を行う。次に、ボルト(小ネジ)SBを経由して、鬼目ナットDNに接続される。
【0045】
スピーカーユニットのフランジ部分2の裏面の特徴は、スペーサーSPが介在することである。
スペーサーSPの上部は、抜け止め用の平座金FW2があり、防振材VI2が、これらを抑えてバッフル面に接着固定されている。
【0046】
スペーサーSPの下部は、防振材VI4を介し、鬼目ナットDNに接触する構造である。
【0047】
ボルト(小ネジ)SBを締めこんだ場合、フランジ部分2は強く圧迫され固定されるが、防振材によって振動は抑制され、また、フランジ部分2とバッフル面11の距離Dは、スペーサーSPの介在により確保される。
【0048】
フランジ部分2の振動は、表面の振動と裏面の振動は中和される。どちらも鬼目ナットDNに集中するため、振動板のアンバランスな動きを抑制する効果がある。
【0049】
実施例では鬼目ナットDNを使用することで、基本的には従来の取付方法との互換性を持たせている、さらに、実施例では防振材VI2と平座金FW1を追加することで、さらなる防振効果を持たせている。
【0050】
実施例で使用した防振材の材質は鹿革、ワッシャーとボルト(小ねじ)はチタン、スペーサーは黄銅である。
【0051】
図5にスタンドオフSFの構造を示す。
必要な厚さになるように防振材VI3を重ね、平座金FW2で挟み、中央に木ネジWSを通す構造である。
【0052】
【0053】
金属と防振材を交互に重ねて防振・防音効果を持たせる点は従来からの制振鋼板の考え方と同じであるが、音響的に加えて電気的に優れた、穴の開いた金属と、音響的に優れた防振材を使用した点が特徴である。
【0054】
実施例では、金属にチタン、防振材に鹿革を用いている。
チタンの弾性係数Eは106(kN/mm2)、密度ρは4.51(g/cm3)で、はE/ρ=23,5と優れ。また、ピアノのハンマーがフェルトになる前は鹿革が使用されていたほど鹿革は音響特性に優れた材料である。
【0055】
インシュレーターの基本形は
図7である。
実施例は、防振材VI2と平座金FW1を交互に重ねることで必要な高さと防振効果を得る構造であり、交互に重ねるという点では制振鋼板と同じであるが、実施例では、中心に穴がある点が異なる。
中心付近に防振材VI3を充填し、上下の防振材VI2を接着固定する構造であり、接着面の材料が同じになるのが特徴で接着に対する相性がよい。
【0056】
接着剤が音質に影響を与えることは知られており、鹿革の相互接合に糊(のり)が使用できる点が特徴である。
【0057】
実施例では、中心付近に穴をあけることができる長所がある。
図6は、実施例では中心に小穴をあけて釘NLを通している。
φ1.4の真鍮釘を使用しているので、取付面に少し大きめの穴(1.5キリ)を深めにあけておけば差し込むだけで確実に固定ができる。実施例では第2気室(12)の上面に装備されている。
【0058】
図9に示す実施例では上述の小穴に電線を通して電気的なインシュレーターとして使用している。電線を切断しなくてもよい特徴がある。
【0059】
ビオサバール(Biot-Savart)の法則によると、導線からの距離rにおける磁界の強さHは、数式(2)で表される。
【数2】
磁界の向きは円周の接線方向である。(
図8)
Hの単位はA/mなので、A(電流)を制限すれば、それに比例して導線の電流Iが制限される。実施例では穴の開いた金属を用いたが、金属を平行においてその間に導線を通してもよい。
【0060】
図9は
図8にインシュレーターを追加したものである。
3kHzから30kHzは電磁波では超長波(VLF)にあたり、透過率の高い周波数帯であることは知られている。この周波数帯の電磁波の伝搬は大地導電率の影響を受けることは知られており、実施例はこれを模し、電気伝導度の低い金属を用いる。
【0061】
VLF電波は地球大地に侵入するが、透過深度は大地定数、ことに大地導電率によって異なる。また海水中にも約15~20m透過する。一般に導体に近い海水から、良質土、砂、岩、ツンドラ、氷冠の順に減衰率は増加するとされている。
【0062】
実施例は、上述の大地伝導率を電気伝導度に置換したものであり、
実施例で使用した金属はチタンで、カタログによると、電気伝導度は銅を100としたときに3.1,透磁率は1.00005と記載されている、
チタンは非磁性体であり、この点が従来品と異なる。
【0063】
図10(a)は、ホーンツイーターへの実施例である。インパルス応答(IR)特性の測定では、キャビネットの影響を大きく受けるため、効果の有/無を知るための参考資料として添付した。添付図は、IRの%FS(フルスケール)表示であり、スピーカーに理想インパルスを与えたときどのような応答を示すかについて、横軸に経過時間を示している。使用したホーンツイーターは別置きが可能なタイプでありキャビネットの上に置き、10cmの距離で測定した。
【0064】
図10(a)は、ホーンツイーターのカップリングコンデンサーとして使用している、0.3μFのアキシャル(チューブラ)型箔巻コンデンサーのリード線の両端にM5(5.5×12×0.8)のチタン製平ワッシャーを3段重ねで追加した例であり、
図10(a)、(b)の比較により、振動減衰特性の改善効果が確認できる。
【0065】
図11(a)は実施例のスピーカーキャビネットのスピーカー端子への実施例である。プラス/マイナス端子のそれぞれにM5(5.5×12×0.8)のチタン製平ワッシャーを3段重ねで追加した例であり、
図11(a)、(b)の比較により、振動減衰特性の改善効果が図上でも確認できる。
【0066】
改善効果は実施例の場合に確認できるが、その他の実施例では確認できない。このことから、m0に対し、md1,md2を同等以上の質量とする、空気の質量負荷による制動(後述)が不十分な場合にこれを補完する手段となりえる。
スピーカーからアンプ側を見たとき、インシュレーターの追加により回路のインピーダンスが上昇した結果であり、これはアンプのダンピングファクターが上昇するのと同等の効果と考える。
【0067】
インシュレーターを過剰使用した場合はスピーカーの音量低下が生じる。インシュレーターは局所的に使用可能で、ツイーター回路に使用することで簡易的なアッテネーターとして使用できる、また、大型のインシュレーター(21×40×3.0)を2枚重ねにして、音響システムの接続ケーブル(XLRアナログケーブル等)や電源に使用することで、システムノイズの低減効果が得られることを確認する。
【0068】
【0069】
図12は上述のインシュレーターを追加して実施例について周波数歪率特性を示した図である。住宅環境での測定のため暗ノイズの影響が大きいので距離を10cmで測定した。スピーカー出力から第2高調波、又は第3高調波を引いた値が歪率であり、例えば-60dBcは0.1%の歪率に相当する。インシュレーターを含めた特性を見るためのデーターであり、キャビネット内に吸音材等は使用していない。
【0070】
図13は、実施例で測定したスピーカーのf
0域の位相とインピーダンス変化を示した図である。ヘルムホルツ共振周波数f
d1、fd2の影響でf
0付近のインピーダンスが低くなるが、普通のバスレフ型のような位相反転が起きていないことを示すための図である。
【0071】
(位相反転問題)
普通のバスレフ型では、ダクトの共振周波数fdによる反共振のため共振鋒を2つ持つので、ダクトの共振周波数fdを調整して共振鋒の高さを揃える(fdとfcを一致させる)ための微調整が必要であり、このことでベントから放射される音はfd付近では相互作用により放射効率が増加し、振動板の振幅が減少する。この振幅の減少により高調波歪みだけでなく、周波数変調歪み(FIM)などいろいろな歪みが改善される利点があるが、前述のfdとfcを一致させたことで位相反転が起こる。
【0072】
(解決策)
位相反転の原因は、上述のとおり、f
dとf
0と一致させることが知られており、
図13(a)や
図14(a)に示すように、2つの共振周波数f
d1とf
d2をそれぞれf
0から離すことで位相反転を回避でき、密閉型の周波数に対する位相の穏やかさのような位相特性を得ることが証明できる。
【0073】
スピーカーをキャビネットに取り付けたときの最低共振周波数をf0c、第1ダクト(D1)のヘルムホルツ共振周波数をfd1、第1ダクト(D1)のヘルムホルツ共振周波数をfd2としたときに、バスレフの位相反転を防止する目的で、一方の周波数をf0cより低く、他方をf0cより高くした高利得のダクトを有することで、超低周波域からの再生を可能とする手段となりえる。
【0074】
バスレフダクトの周波数特性はバターワース(Butterworth)特
隔を1オクターブとして、ほぼ平坦な特性を確保することが可能となる。
【0075】
ダクトのチューニング周波数は、ダクト長L(cm)とヘルムホルツ共振周波数fd(Hz)の関係は、ダクトの断面積をA
d(cm
2)、キャビネットの容積V(リットル)とすれば、数式(3)で示される。
【数3】
ここでL
Eは開口端係数(open end collection)である。
【0076】
図14は、別の実施例で測定したスピーカーのf
0域の位相とインピーダンス変化を示した図であり、
図13と同様の効果が認められる。ヘルムホルツ共振周波数f
d1、fd2の影響でf
0付近の山がかなり低くなり、反共振周波数f
d1、fd2では直流抵抗値に近い値までインピーダンスが低下していることが示される。
【0077】
図15は実施例で得られた、スピーカー出力とベント出力の重ね合わせイメージであり、ベント出力がヘルムホルツ共振周波数f
d1、fd2で上昇していること、ダクトの分割数の違いにより利得の違いが生じることを実施例について示している。
【0078】
実施例は、コヒーレント特性を持ち、100%を超える開口率で最大利得が+6dBを超えるヘルムホルツダクトの開発により、
先ずは、コヒーレント特性のため、ユニットの前面から放射される音波との重ね合わせは、数式(13)のとおり足し算になることを示す。普通のバスレフ型などは前面の音の位相と後面からの音の位相の干渉による影響という問題があるため、クロスオーバー周波数を設定し、再生帯域を区分してクロスさせるなど、実用面では技術を要するが、実施例では普通のバスレフのようなクロスオーバー周波数の要件がない点を確認する、
次に、Ad1とAd2について、100%を超える開口率によって、前項の空気質量に関する要件をより短いダクトで実現可能とし、
さらに、+6dBを超える高利得によって低域に充分な音圧周波数特性を得ることができることを確認し、
上記ダクトの共振周波数fd2をスピーカーの最低共振周波数f0cより1/2オクターブ低い周波数としても、実施例では音圧不足がなく低域再生限界の拡大が可能で、
さらに、fd2とfd1の間隔を1オクターブ程度とすることで音圧周波数特性の平坦化の両立を図ること可能であることを確認する。
【0079】
(ダクトのヘルムホルツ共振利得についての検証)
実施例は、スピーカーを音源とする目的音を選択的に取得する集音装置であって、前記目的音の周波数に対して共振する長さおよび口径に設定された貫通穴を複数平行配置して備えた集音体を有していることで、Coherent Source Transducer効果を持つことを確認する。
【0080】
実施例で使用したのは、2区分(100%貫通穴×2本)と3区分(67%貫通穴×3本)の多区分のダクトであり、
2区分のダクトは、実施例の第2ダクト(D2)に使用し通過帯域のすそ野が広がることにより、より低域までの音圧をカバーすることを確認するためのものである。
しかし、十分な利得を得るために3区分以上が必要なことは下記で確認する。
4区分以上となると貫通穴単体の扁平率が課題となり、共鳴管としての能率の問題が生じ、特に高調波が出にくい特性を示すことは別途確認済みである。
【0081】
普通のバスレフなどでは、分割されない1本のダクトが使用されており、開口率は20%から最大100%である。開口率を100%以上にしないのは、100%以上にしても通過帯域のすそ野が広がって、スピーカーから放射されるはずのない帯域が、ノイズとなって放射される欠点が知られているためと理解されている。
【0082】
普通のバスレフなどでも、開口率の小さなダクトを2、3本備えたキャビネットが存在するが、合計しても100%未満の開口率である。バップル面にダクトが装備される場合、大きな穴をあけると見た目が悪いのと、バッフル板の強度の問題があるための分割と理解されている。
【0083】
図15に示したfd1とfd2はどちらも、振動板有効面積の約2倍(200%)程度の開口率で、fd2(100%貫通穴×2本)で+8.6dB、fd1(67%貫通穴×3本)で+10.7dBの利得を、スピーカー前面出力に対し確認することができる。
【0084】
利得が異なることから、タイムアライメントをそろえるCoherent Source Transducer効果を発揮するには(実施例の場合は)ダクトの2分割では不十分であり、効果を3分割以上が必要なことを確認する。
(以下はその説明)
【0085】
ヘルムホルツ共振利得が、開口面積比に比例し、コヒーレントと仮定すれば、スピーカーの前面放射に比較した利得は、
【数4】
開口率が2倍の場合は、数式(4)により、
利得=20log(1+2)
=9.54(dB)
【0086】
非コヒーレントの場合、利得は
【数5】
開口率が2倍の場合は、数式(5)により、
【0087】
故に、実効振動板面積の貫通穴×2本で+8.6dBでは、形状損失の面で補っても充分でなく、コヒーレントの必要利得を満足しないことを示し、逆に開口率200%では3本以上が必要なことを示す。
【0088】
図16にはベントからの放射スペクトラムを示している。
実施例が基本波だけでなく高調波までも有効利用することを示すためである。
【0089】
fc1とfc2の相互変調等により、高調波までも発生可能とし、これを利用可能としたことで、基本波だけで得られない幅広い帯域の利得を得て、スピーカーの低域特性を中音域までの改善する効果を示すものである。
【0090】
(ベントからの放射スペクトラム)
a.2つの気室と2つのダクトで、2対のヘルムホルツ共振ダクトを形成することで、第一ダクトと第二ダクトの同調周波数fd1とfd2をベントから放射する、
b.上記の2つのダクトがさらに両端開放の共鳴管を構成することで、fc1とfc2をベントから放射する。
c.キャビネットについては、
図1に示すように前方の第1気室(11)、第1ダクト(D1)、第2気室(12)と、後方の第2ダクト(D2)を等幅で設計することによって、折り返しの一端開放型共鳴管を形成する。
c.1.折り返しの一端開放型共鳴管の長さ(キャビネットの実効高さ×2)と波長λの関係から、一般的な共鳴管として、λ/4に相当する周波数fcを放射する、
c.2.途中のチャンバーを経由することにより、折り返しの一端開放型共鳴管の長さ(キャビネットの実効高さ×2+チャンバーの実効長さ×2)と波長λの関係からλ/4に相当する周波数fccを放射する、
d.また、上記に示したfc、fc1、及びfc2の高調波が形成されることで同様にベントから放射する。
【0091】
図17はキャビネット本体が創る共振周波数fcとfccについては、ダクト直上では測定距離が短すぎて測定不能のため、測定規格に定められた1mの距離で測定した図である。
【0092】
(筐体が創る折り返しの一端開放型共鳴管の動作について)
一般的な共鳴管と同様に実施例にもキャビネット高さHと短縮率Leによって、キャビネットの共振周波数fcが発生する。
【数6】
【0093】
実施例に対しては追加で、キャビネットの高さHにサブソニックチャンバーの深さDが加わった共振周波数fccが発生する。
【数7】
【0094】
電磁界測定には、波長をλとしたときに、λ/2π以下の距離を近傍界とする定義がある。実施例では20Hz以下までリニアに測定する必要があると判断しため、
図19は参考図として添付したものである。
【0095】
(理想的なバスレフに求められる、エンクロージャーの内容積V0とVasとの違いについて)
理想的なバスレフに求められる、エンクロージャーの内容積V0と近年カタログ等に表記されるVasとの違いについて、トレーサビリティの必要性から説明する。また、現用の計算式の問題点について指摘するためのものでもある。
【0096】
実効振動板面積Sd=πa
2[m
2]、S
c/S
0=0.5の条件を基にして前出の理想バスレフの数式(1)を変形する。
【数8】
【0097】
標準大気(25℃)における、空気密度ρ=1.184[kg/m
3]、音速c=346.3[m/s]を数式(8)に代入する
【数9】
【数10】
【0098】
(一般のバスレフに与えられる、実施例にあげたエンクロージャーの第1気室の内容積V
1と前出のV0との関係について)
バスレフや密閉型においてスピーカーキャビネットの容積設計に使用される、一般的な計算式;
数式(11)と数式(12)
【数11】
【0099】
数式(11)を条件とし、振動板有効半径a(cm)と等価質量m
0(g)
式(12)で定義されている。
【数12】
【0100】
上述の数式(10)と数式(12)は同じ式なので、
一般のバスレフと理想的なバスレフとの違いは、数式(11)による調整が行われるかどうかであることが理解できる。
【0101】
(スピーカーユニットの仕様書に記載されるVasと前出のV
0との関係について)
スピーカーユニットの仕様書に記載されるVas(Compliance Equivarent Volume;等価コンプライアンス空気体積)は、数式(13)で示される。
【数13】
【0102】
数式(13)に記載されるCms(Mechanical Compliance Suspension)を数式(14)に示す。
【数14】
【0103】
数式(14)を数式(13)に代入して、数式(15)を得る。
【数15】
【0104】
数式(15)と前出の数式(1)の関係は、数式(16)の通りであり、VasをV
0のトレーサブルな関係として示すことができる。
【数16】
【0105】
(スピーカーキャビネットの容積設計に使用される、前出の数式(15)について)
前出の数式(11)を用いて計算したQ0Cの値は、f0付近の振動系のダンピングの状態が示される。上述の通り、普通のバスレフ型などではQ0c=0.7程度に調整する。
【0106】
前出の数式(8)などに示されるS
0は等価スティフネス(N/m)として数式(17)で示される。
【数17】
前出の数式(14)と見比べることでS
0はCmsの逆数であることが理解できる。
【0107】
また、Scは空気の弾性によるスティフネス(N/m)であり、
スピーカーキャビナット内は、弾性要素を持つ空気で満たされておりユニットをキャビネットに取り付けると、空気の弾性によるスティフネスScが付加される。空気の弾性は、スピーカーで生じる歪みの原因として、振動板がたわむことで中音域に生じる低調波歪みや、高音域に生じる非直線歪みなどが起きることが知られている。
【0108】
(実施例を基にした説明)
(Scの影響について)
以下、実施例に従って説明する。
理想的なバスレフで推奨されるモデルスピーカーユニットの共振先鋭度Q0は0.58とされるので、例えばQ0=0.58の場合と、実施例のスピーカーQ0=0.36の場合を比較する。
【0109】
バスレフで低域がフラットに再生される条件としてQ0c=0.7を適用する場合、数式(11)に代入して、
Q0=0.58の場合は、Sc/S0=0.5、
Q0=0.36の場合は、Sc/S0=2となり、
Q0が小さな0.36のスピーカーは、Q0が推奨の0.58の標準スピーカーに比べて、スティフネス比が4倍となるため空気の弾性によるスティフネスScの影響をより多く受けることが理解できる。
【0110】
(過渡特性の改善)
実施例の場合は、上述に関わらずSc/S0=0.5としているので、数式(11)によりQ0c=0.44となる。オーバーダンピングの特性となり過渡特性が改善する。
【0111】
第1気室(11)の容積V
1を計算する。
数式(16)により、
【0112】
f0=58Hzより、
fd1をf0×1.4=81.2(Hz)、fd2をf0×0.7=40.6(Hz)とする。
【0113】
当該周波数について、メーカー仕様書の周波数特性図からフラットにするための必要な利得を割り出し、数式(4)で逆算することで開口率を決定する。
【0114】
計算で求めた開口率をダクトの断面積Adに換算し、前出のV1をV、fd1をfdとして数式(3)に代入するが、実効値のため、2項目(開口端係数)を無視して計算し、ダクトの長さL(=fd1の長さ)(実効値)を求める。
【0115】
f
d2の長さも同様に計算するが、VがV
1+V
2(任意に設定)から、ダクト
【0116】
実施例では、開口率を各200%としたので、数式(3)の2項目(開口端係数)を無視して計算し、第1ダクト(D1)長は42.3cm、第2ダクト
【0117】
(空気の質量要素)
【0118】
前述のとおり、空気の質量は標準大気(25℃)において、
【0119】
【0120】
一般のスピーカーはf0付近で振動板の振幅が非常に大きくなるものであるが、上述の空気質量負荷により振動板の振幅が抑えられる。
【0121】
(Q0の小さなスピーカー)
本キャビネットの特徴は、普通のバスレフ型などに不適とされるQ0:0.1~0.3など、Q0の小さいスピーカーにも対応可能な点である。
【0122】
(Vasの大きなスピーカー)
Cms値が大きいスピーカーをハイコンプライアンススピーカーと呼ぶので、オーディオマニアが好むスピーカーの多くは、数式(13)に示すようにVasが大きくなる傾向にある。
数式(10)をそのまま当てはめることができない場合は、優先順位を決めて対応することが可能である。
【0123】
【0124】
設置可能なスピーカーキャビネットの最大寸法を定める。
例えば、
400(幅)×1200(高さ)×540(奥行)mm
【0125】
次に、f0を基に、キャビネットの再生周波数を決める。
バスレフダクトは一般に、バターワースの2次(-12dB/octave)として知られているが、一般のバスレフと同様に-18dB/octaveで計算した場合でも、fd2を32Hzとした場合の再生限界は16Hzとなる。
低域の再生限界を16Hzとした場合、fd2とfd1の間隔を1オクターブするためにfd2;32Hz,fd1;64Hzとすれば、fd2<f0c<fd1の関係が保たれる。
【0126】
1,84となる。
VasはSc/S0=1の条件なので、数式(12)を利用し、
Sc/S
0=V1/Vas=44.5/81.84=1.84
【0127】
普通のバスレフの場合は、数式(11)で計算し、Sc/S
0=18.14、
ィフネス比を計算するとSc/S0=8.5となり、別の実施例のSc/S
0=1.84はかなり小さな値であることがわかる。
【0128】
別の実施例のSc/S0を数式(11)に代入すれば、Q0c=0.27が求まる。
非常に小さな値となり、トランジェント(transient)は良好となる。
【0129】
f
d1を64Hzとすると、数式(3)によりL
1=68.8cm(実効長)
量となる。
【0130】
cm
2とすると、L
2=93.7cm(実効長)が数式(3)により求まる。
【0131】
上述の空気質量負荷によりf
0におけるインピーダンスが、189.5Ωから104Ωに低下する[
図14(a)、(b)参照]。
【符号の説明】
)
【0132】
1 キャビネット
11 第1気室
12 第2気室
2 スピーカーユニット
D1 第1ダクト
D2 第2ダクト
Vn ベント
A スピーカー取り付け部材
D スピーカーフランジとバッフル板の距離
INS インシュレーター
INS1 インシュレーター(釘穴付き)
FW1 平座金(大)
FW2 平座金(中)
FW3 平座金(小)
DN 鬼目ナット
NL 釘
SB ボルト(小ネジ)
SF スタンドオフ
SP スペーサー
VI1 防振材
VI2 防振材(丸大)
VI3 防振材(丸中)
VI4 防振材(丸小)
WS 木ネジ