(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098482
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】車両ボデー構造
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20240716BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B60R13/02 A
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136943
(22)【出願日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2023001549
(32)【優先日】2023-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 勉
(72)【発明者】
【氏名】酒向 慎貴
(72)【発明者】
【氏名】中西 俊明
【テーマコード(参考)】
3D023
4F100
【Fターム(参考)】
3D023BA01
3D023BA05
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4F100JN24
(57)【要約】
【課題】赤外線反射機能を有することに加えて、電磁ノイズや静電気等の影響を効果的に抑制することができる車両ボデー構造を提供する。
【解決手段】内装材14は、基材30と、基材30の車室内側に配されて車室の意匠面を形成する表皮層32と、該内装材14における最も車室外側の層をなしてボデーパネル12側から入射する赤外線を反射する赤外線反射層38と、が積層されたものとされ、その基材30は、熱硬化性樹脂材料から成形され、赤外線反射層38は、導電性を有する複数の鱗片状金属片40と、鱗片状金属片40を互いに略平行にかつ厚み方向に積層した状態で保持する非導電性樹脂42と、を含んで構成され、内装材14は、ボデーパネル12に対して、赤外線反射層38の一部がボデーパネル12に接した状態で取り付けられている構成とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボデーパネルと、前記ボデーパネルの車室内側を覆う内装材と、からなる車両ボデー構造であって、
前記内装材は、
該内装材を構成する主体となる基材と、
前記基材の車室内側に配され、車室の意匠面を形成する表皮層と、
該内装材における最も車室外側の層をなし、前記ボデーパネル側から入射する赤外線を反射する赤外線反射層と、が積層されたものとされ、
前記基材は、熱硬化性樹脂材料から成形され、
前記赤外線反射層は、導電性を有する複数の鱗片状金属片と、前記鱗片状金属片を互いに略平行にかつ厚み方向に積層した状態で保持する非導電性樹脂と、を含んで構成され、
前記内装材は、前記ボデーパネルに対して、前記赤外線反射層の一部が前記ボデーパネルに接した状態で取り付けられている車両ボデー構造。
【請求項2】
前記内装材は、
ベースフィルム上に前記鱗片状金属片と前記非導電性樹脂を含む塗料が塗布されることで前記赤外線反射層が形成された赤外線反射フィルムを有し、
前記赤外線反射フィルムが、前記基材の車室外側面に接着されている請求項1に記載の車両ボデー構造。
【請求項3】
前記赤外線反射フィルムは、前記基材に対して熱硬化性樹脂接着剤によって接着されている請求項2に記載の車両ボデー構造。
【請求項4】
前記内装材は、前記基材と前記赤外線反射フィルムとの間に、前記熱硬化性樹脂接着剤とガラス繊維とが混合された接着層が形成されている請求項3に記載の車両ボデー構造。
【請求項5】
前記内装材は、前記基材と前記表皮層との間に、前記熱硬化性樹脂接着剤とガラス繊維とが混合された接着層が形成されている請求項4に記載の車両ボデー構造。
【請求項6】
前記ボデーパネルと前記内装材との間に、電磁波を送信あるいは受信することが可能な電装品が設けられ、
前記内装材は、車室内外方向において前記電装品と重畳する範囲に、前記赤外線反射層が形成されていない赤外線反射層開口部を有している請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両ボデー構造。
【請求項7】
前記基材は、ウレタンフォームである請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両ボデー構造。
【請求項8】
前記ボデーパネルは、ルーフパネルであり、前記内装材は、天井材である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両ボデー構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ボデー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1,2には、車室内の温度上昇を抑制することができる車両用内装材が記載されいてる。それら特許文献1,2に記載の車両用内装材は、基材の意匠面側に表皮層が設けられ、基材の裏面側に赤外線反射機能を有する層を設けた構成とされている。具体的には、特許文献1には、赤外線反射機能を有する層である裏面層が、合成樹脂製の非通気性フィルムで構成される0.8~25μmの範囲内の厚みのベース層と、ベース層の車体パネル側に蒸着されたアルミニウム蒸着膜からなる赤外線反射層と、からなることが記載されている。また、特許文献2には、赤外線反射機能を有する層に利用可能な輻射熱反射フィルムが記載され、その輻射熱反射フィルムが、互いに略平行に位置する鱗片状金属フレークと、その鱗片状金属フレーム同士の接触を妨げる樹脂とを有する輻射熱反射層を含むことを特徴とするものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5628881号公報
【特許文献2】国際公開第2019/225487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、車両は、走行中に車両自体に電磁ノイズが発生したり、電磁ノイズや静電気を外部から受けたりする。その電磁ノイズや静電気等の影響を抑制するために、ケーブルや電装品の近傍にコンデンサやフェライトコアが設けられる。上記特許文献2の出願人である本願出願人は、特許文献2に記載の赤外線(輻射熱)反射機能を有する内装材を検討する中で、その赤外線反射機能を有する内装材を用いて、電磁ノイズや静電気等の影響を抑制できることを見い出した。
【0005】
本発明は、赤外線反射機能を有することに加えて、電磁ノイズや静電気等の影響を効果的に抑制することができる車両ボデー構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本願に開示される車両ボデー構造は、
ボデーパネルと、前記ボデーパネルの車室内側を覆う内装材と、からなる車両ボデー構造であって、
前記内装材は、
該内装材を構成する主体となる基材と、
前記基材の車室内側に配され、車室の意匠面を形成する表皮層と、
該内装材における最も車室外側の層をなし、前記ボデーパネル側から入射する赤外線を反射する赤外線反射層と、が積層されたものとされ、
前記基材は、熱硬化性樹脂材料から成形され、
前記赤外線反射層は、導電性を有する複数の鱗片状金属片と、前記鱗片状金属片を互いに略平行にかつ厚み方向に積層した状態で保持する非導電性樹脂と、を含んで構成され、
前記内装材は、前記ボデーパネルに対して、前記赤外線反射層の一部が前記ボデーパネルに接した状態で取り付けられていることを特徴とする。
【0007】
車両の走行中において、ボデー表面とボデーの周囲の空気が同じ極性に帯電すると、ボデーと空気との間で斥力(反発力)が作用し、その斥力によって、ボデーの表面近傍に沿って流れる空気流において、ボデーの表面から剥離するような乱れた流れが生じる場合がある。その車両走行中における空気流の剥離によって、狙った空力特性が得られず、走行安定性や走行性能などが低下する虞がある。
【0008】
本願に開示の車両ボデー構造は、赤外線反射層において、平行に並ぶ2つの鱗片状金属片が非導電性樹脂によって離間させられた状態で保持されており、それらによってコンデンサと同様の構造が実現されている。つまり、赤外線反射層において、一時的に電荷を蓄える機能を発揮することができるのであり、本願に開示の車両ボデー構造は、内装材の赤外線反射層のほぼ全体がコンデンサとして機能することとなる。そして、本願に開示の車両ボデー構造は、赤外線反射層の一部がボデーパネルに接していることで、ボデーパネルを介して負あるいは正の電荷を蓄えることができる。その蓄えられた電荷は鱗片状金属片のエッジ部分に集中し、自己放電(コロナ放電)を生じさせる。その自己放電によって生じたイオンは周囲に極性の異なるイオンを引き寄せ、中和除電される。したがって、本願に開示の車両ボデー構造は、ボデーに帯電する電荷を減少させることができ、車両走行中の空気流を安定させて、走行安定性を向上させるとともに、燃費を向上させることができる。なお、本願に開示の車両ボデー構造において、「ボデーパネル」は、金属製のものに限定されず、樹脂,カーボン,ガラス等のパネル材であってもよい。例えば、そのボデーパネルの材料によって、走行時に帯電する極性が正にも負にもなり得る。
【0009】
熱可塑性樹脂から成形された基材に赤外線反射層を積層した内装材も存在するが、そのような内装材を用いた車両ボデー構造に比較して、本願に開示の車両ボデー構造は、燃費向上率が数倍高い効果が得られることが判明した。熱可塑性樹脂から成形された基材を用いた内装材は、成形時において、少なくとも基材と赤外線反射層とを比較的高い温度で加熱して熱可塑性樹脂を軟化させた後に冷間プレスすることで、定められた形状に成形するのが一般的である。一方で、本願に開示の車両ボデー構造に用いられる内装材は、基材に熱硬化性樹脂を用いているため、成形時において、熱可塑子樹脂を軟化させる温度より低い温度での加熱プレスによって、定められた形状に成形することができる。そのことから、基材に熱可塑性樹脂を採用した車両ボデー構造は、その内装材の成形時において比較的高い温度で加熱して冷間プレスする成形方法が、赤外線反射層の構造に対しコンデンサ機能を低下させる要因の一つと推測される。
【0010】
上記構成において、前記内装材は、ベースフィルム上に前記鱗片状金属片と前記非導電性樹脂を含む塗料が塗布されることで前記赤外線反射層が形成された赤外線反射フィルムを有し、前記赤外線反射フィルムが、前記基材の車室外側面に接着されている構成とすることができる。
【0011】
この構成の車両ボデー構造において、赤外線反射層は、ベースフィルム上に印刷によって形成されている。この構成の車両ボデー構造によれば、赤外線反射層の形成範囲や目付量を容易に設定できる。例えば、後述する構成のように、電磁波を車室内に送信あるいは受信する電装品が、内装材の裏面側に配される場合、その電磁波の送信あるいは受信を確実に行うために、赤外線反射層の目付量を他の部分に比較して小さくしたり、赤外線反射層を形成しないような構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記赤外線反射フィルムは、前記基材に対して熱硬化性接着剤によって接着されている構成とすることができる。
【0013】
基材に熱可塑性樹脂を用いる場合、赤外線反射フィルムの接着に、バインダとして熱可塑性樹脂を用いることがある。この構成の車両ボデー構造においては、バインダとして熱可塑性樹脂を用いた場合に比較して、赤外線フィルムと基材との接着力を高めることができる。
【0014】
上記構成において、前記内装材は、前記基材と前記赤外線反射フィルムとの間に、前記熱硬化性接着剤とガラス繊維とが混合された接着層が形成されている構成とすることができる。
【0015】
この構成の車両ボデー構造においては、ガラス繊維がマット状に形成された接着層となる。そのため、内装材の剛性が高いものとなり、内装材をボデーパネルに取り付ける作業等において、作業者による内装材の取り回しが容易になる。
【0016】
上記構成において、前記内装材は、前記基材と前記表皮層との間に、前記熱硬化性接着剤とガラス繊維とが混合された接着層が形成されている構成とすることができる。
【0017】
この構成の車両ボデー構造においては、ガラス繊維がマット状に形成された接着層に基材が挟まれた構成となる。そのため、内装材の剛性がより高いものとなる。
【0018】
上記構成において、前記ボデーパネルと前記内装材との間に、電磁波を送信あるいは受信することが可能な電装品が設けられ、前記内装材は、車室内外方向において前記電装品と重畳する範囲に、前記赤外線反射層が形成されていない赤外線反射層開口部を有している構成とすることができる。
【0019】
この構成の車両ボデー構造は、電装品による電磁波の送信あるいは受信が、赤外線反射層開口部を介して可能とされており、電磁波の送信あるいは受信を確実に行うことが可能となる。
【0020】
上記構成において、前記基材は、ウレタンフォームである構成とすることができる。
【0021】
上記構成において、前記ボデーパネルは、ルーフパネルであり、前記内装材は、天井材である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、赤外線反射機能を有することに加えて、電磁ノイズや静電気等の影響を効果的に抑制することができる車両ボデー構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の車両ボデー構造が採用された車両を概略的に示す正面図
【
図5】赤外線反射層を備えていない車両におけるボデー周辺の空気の流れを示す図
【
図6】本実施形態の車両におけるボデー周辺の空気の流れを示す図
【
図8】本実施形態のルーフトリムと比較例の内装材とにおいて、
図7に示した帯電電圧測定装置を用いた測定結果を示すグラフ
【
図9】比較例のルーフトリムの層構造を示す側面断面図
【
図10】本実施形態の車両および
図9に示す層構造のルーフトリムを備えた車両の燃費向上率を示す表
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の車両ボデー構造が採用された車両10について、
図1から
図10を参照しつつ説明する。詳しく言えば、本発明の車両ボデー構造は、
図1に示すように、車両10の天井に採用されており、金属製のボデーパネルであるルーフパネル12と、そのルーフパネル12の車室内側を覆う内装材であるルーフトリム14と、からなる。
【0025】
ルーフトリム14は、
図2に示すように、概して平板状に形成されたものである。そのルーフトリム14には、ルームランプを取り付けるための開口20、マップランプを取り付けるための開口21、サンバイザを取り付けるための開口22、バニティランプを取り付けるための開口23、アシストグリップを取り付けるための開口24が設けられている。また、ルーフトリム14の後端部には、ルーフパネル12に対して固定するための固定具を挿通させる挿通孔25が設けられている。
【0026】
ルーフトリム14は、大部分が、基材30と、基材30の車室内側(下側)に接着された表皮材32と、基材30の車室外側(上側)に接着された赤外線反射フィルム34とを含み、
図3に示す層構造となっている。基材30は、ルーフトリム14を構成する主体となるものであり、熱硬化性樹脂から成形されたものである。本実施形態においては、半硬質ポリウレタンのフォーム材とされている。また、表皮材(表皮層)32は、従来から内装材の表皮材として用いられているものを採用可能であり、例えば、シボ模様やレザー加工を施した合成樹脂シート、編布、織布、不織布、およびそれらのラミネート品等を採用可能である。
【0027】
赤外線反射フィルム34は、ルーフパネル12からの輻射熱を反射して車室内の温度上昇を抑制するためのものであり、ベースフィルム36と、ベースフィルム36の上に塗膜された赤外線反射機能を有する赤外線反射層38と、からなる。ベースフィルム36は、熱可塑性樹脂からなる。その熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6とナイロン66の三元共重合体などのポリアミド樹脂;ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;環状ポリオレフィン系樹脂;トリアセチルセルロールなどのセルロール系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリカーボネイト系樹脂;アクリル系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;エチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。
【0028】
ただし、ルーフトリム14への成形時の加熱の際に、融解することのない樹脂であることが望ましく、このような樹脂として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/10、ナイロン11、ナイロン12等のアミド系樹脂やこれらの樹脂の共重合体、または、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂を例示することができる。また、ベースフィルム36は、延伸フィルムであっても、未延伸フィルムであってもよいが、未延伸フィルムの方が、耐熱性と柔軟性とを兼ね備えているため、ルーフトリム14への成形時に裂け等が生じることがなく、有効である。そのことを考慮し、本実施形態において、ベースフィルム36は、未延伸ナイロンフィルムとされている。なお、ベースフィルム36には、未延伸ポリプロピレンフィルムも好適である。
【0029】
赤外線反射層38は、上記ベースフィルム36上に、鱗片状金属フレーク含有塗料を塗布して形成される、つまり、印刷によって形成される。赤外線反射層38は、
図4に概略的に示すように、多数の鱗片状金属フレーク(鱗片状金属片)40と、それら複数の鱗片状金属フレーク40を離散的に広がる状態で保持する樹脂42と、を含んで構成される。鱗片状金属フレーク40は、樹脂42によって、互いに略平行にかつ厚み方向に積層した状態で保持される。
【0030】
鱗片状金属フレーク含有塗料は、例えば、アルミニウム、金、銀、インジウム、銅などの金属フレーク顔料と、樹脂42とを含むものである。なお、本実施形態において、金属フレーク顔料は、リーフィングアルミニウムフレーク顔料であり、鱗片状金属フレーク40は、長径1μm~150μmの大きさの鱗片状アルミニウム粉末をステアリン酸等の処理剤で覆ったものである。この顔料を含む鱗片状金属フレーク含有塗料を、上記ベースフィルム36に塗布すると、塗膜表面に鱗片状金属フレーク40が塗膜表面に浮いて平行配列し、互いに略平行に重なるように、樹脂42によって保持された層が形成される。
【0031】
鱗片状金属フレーク含有塗料に含まれる樹脂42は、非導電性の樹脂(以下、「非導電性樹脂42)と呼ぶ場合がある。)であり、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、および、これら樹脂の変性等から採用することができる。本実施形態においては、樹脂42は、ポリウレタン系樹脂とされている。
【0032】
赤外線反射層38における鱗片状金属フレーク40の含有量は、0.1g/m2以上5.0g/m2以下であることが好ましい。鱗片状金属フレーク40の含有量が0.1g/m2未満である場合には、赤外線反射機能が不十分となり、5.0g/m2を超えても赤外線反射効果が飽和してコストアップに繋がる虞がある。なお、0.3g/m2以上3.0g/m2以下であることがより好ましく、0.5g/m2以上1.0g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0033】
また、この塗料には、硬化剤を添加することが好ましい。具体的には、ポリウレタン系樹脂である非導電性樹脂42に、イソシアネート化合物の硬化剤を添加する組み合わせが特に好ましい。この組合せを採用することで、形成される塗膜の樹脂は架橋構造を有することとなり、塗膜の耐熱性が向上し、ルーフトリム14への成形時において、加熱やプレスを行っても、塗膜が剥がれることを抑制することができる。
【0034】
赤外線反射フィルム34は、ルーフパネル12からの輻射熱を反射して、車室内の温度上昇の抑制を図ることができる。具体的には、赤外線反射フィルム34は、輻射熱の波長領域に相当する赤外線領域を含む2μm~20μmの波長領域の赤外線の反射率が高められたものとされ、効果的に輻射熱を反射することができる。
【0035】
表皮材32および赤外線反射フィルム34は、基材30に接着されている。つまり、ルーフトリム14は、
図3に示すように、表皮材32と基材30との間、基材30と赤外線反射フィルム34との間には、接着層50,52が形成されている。この接着層50,52は、熱硬化性樹脂接着剤と、繊維材料と、からなる。詳しく言えば、熱硬化性樹脂接着剤としてのMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)と、ガラス繊維とからなり、ガラス繊維がマット状に形成されたガラスマットに対してMDIが含浸したものとなっている。以上のように、ルーフトリム14は、基材30がガラスマットを含む接着層50,52に挟まれた構成となっており、剛性が高められている。これにより、ルーフトリム14のルーフパネル12への取り付け作業において、作業者によるルーフトリム14の取り回しが容易になっている。
【0036】
ルーフトリム14は、上述したように、赤外線反射フィルム34の赤外線反射層38が、最も車室外側(上側)の層を形成しており、ルーフパネル12に対して取り付けられると、サンバイザを取り付けるための開口22の周辺、アシストグリップを取り付けるための開口24の周辺、挿通孔25の周辺(
図1に概略的に示している)において、ルーフパネル12に対して赤外線反射層38が接した状態となる。ちなみに、従来から、赤外線反射層として、アルミニウム等の金属を蒸着して定められた膜厚の金属膜が形成された内装材は存在するが、その金属膜の表面は、金属の保護のために、非導電性の樹脂からなる保護層で覆われていた。つまり、従来の車両においては、内装材の赤外線反射層とボデーパネルとは導通されていない構造であるのに対して、本実施形態の車両10は、赤外線反射層38とルーフパネル12とが導通された構造となっているのである。
【0037】
走行中の車両のボデー周囲を流れる空気は、負あるいは正に帯電する場合がある、換言すれば、
図5に示すように、走行中の車両の周囲に、負あるいは正のいずれかの電荷(イオン)54が多くなる場合がある。また、車両は、走行に伴う静電気等によって、ボデーが負あるいは正に帯電する。つまり、車両の走行中において、ボデーとその周囲の空気が同じ極性に帯電していると、ボデーの表面と空気との間に斥力が生じ易い。つまり、
図5に示すように、ボデーの表面近傍に流れる空気流において、ボデーの表面から剥離するような乱れた流れが生じる場合がある。その車両走行中における空気流の剥離によって、狙った空力特性が得られず、走行安定性や走行性能などが低下する虞がある。
【0038】
一方、本実施形態の車両10は、ルーフトリム14の赤外線反射層38において、
図4に示すように、平行に並ぶ2つの鱗片状金属フレーク40が非導電性樹脂42によって離間させられた状態で保持されており、それらによってコンデンサと同様の構造が実現されている。つまり、赤外線反射層38において、一時的に電荷を蓄える機能を発揮することができるのであり、本実施形態の車両10は、ルーフトリム14の赤外線反射層38全体がコンデンサとして機能することとなる。
【0039】
そして、本実施形態の車両10は、前述したように、赤外線反射層38の一部がルーフパネル12に直接接していることで、ルーフパネル12が帯電した負あるいは正の電荷を、ルーフパネル12を介して蓄えることができる。その蓄えられた電荷は、各鱗片状金属フレーク40のエッジ部分に集中し易く、自己放電(コロナ放電)が生じる。その自己放電によって生じたマイナスイオンあるいはプラスイオンは周囲に極性の異なるイオンを引き寄せ、中和除電される。したがって、本実施形態の車両10は、ルーフパネル12に帯電する電荷を減少させることができ、
図6に示すように、車両走行中の空気流を安定させて、走行安定性を向上させることができる。また、後に詳しく説明するが、燃費を向上させることもできる。
【0040】
本実施形態におけるルーフトリム14の帯電性試験を行った。その試験方法は、織物および編物の帯電性試験方法(JIS L1094)に用いられる、
図7に示す帯電電圧測定装置60を使用して行っている。帯電電圧測定装置60は、テストピース61を載置可能とされて軸線周りに回転するターンテーブル62と、ターンテーブル62を印加するための帯電電極63と、テストピース61の帯電電圧を測定するレシーバ(シンクロスコープ)64と、を含んで構成される。そして、この帯電電圧測定装置60を用い、まず、ターンテーブル62にテストピース61を載置し、ターンテーブル62を回転させながら、帯電電極63によって印加(印加電圧:7.5kV)を30秒間行って、テストピース61を帯電させる。そして、印加を止め、ターンテーブル62を回転させながら、テストピース61の帯電電圧の変化を測定した。
【0041】
なお、テストピース61としては、本実施形態にかかるルーフトリム14と同じ層構造のもの(実施例の内装材:
図3参照)と、赤外線反射層を備えていない従来からルーフトリムに用いられていた層構造のもの(比較例の内装材)とを、用いている。テストピース61は、車室外側面を上側にして載置して、試験を行った。つまり、本実施形態のルーフトリム14においては、赤外線反射層38を上側にして載置して、試験を行った。
図8に示すように、比較例の内装材が、帯電した電荷の一部を放出できず、帯電したままであったのに対して、本実施例の内装材は、帯電した電荷を全て放出できたことが分かる。
【0042】
<本車両ボデー構造による効果>
次いで、本実施形態の車両10の燃費向上効果を、以下の方法によって検証した。車両の天井材を交換しつつ、同じ条件(速度や加速度等)でテーストコースを周回し、その際の平均燃費を計測した。そして、赤外線反射層を備えていない従来から用いられている層構造のルーフトリムを搭載した車両の燃費からの上昇率(燃費向上率)を測定している。また、比較例1の車両および比較例2の車両の燃費向上率との比較も行った。それら比較例1の車両および比較例2の車両には、
図9に層構造を示すルーフトリム70を採用しており、そのルーフトリム70について先に説明する。
【0043】
ルーフトリム70は、本実施形態におけるルーフトリム14と類似の構造であり、表皮材32と赤外線反射フィルム34を備えている。一方で、基材72は、ルーフトリム14のように熱硬化性樹脂からなるウレタンフォームとは異なり、熱可塑性樹脂であるポリプロピレン樹脂(PP樹脂)を主体とするものであり、そのPP樹脂,ガラス繊維,発泡材を一様に混合して形成したものとなっている。また、その基材72と表皮材32との間、基材72と赤外線反射フィルム34との間には、接着層74,76が設けられているが、それら接着層74,76は、PP樹脂である。そして、本実施形態のルーフトリム14の成形は、すべての層を重ねて温度130℃程度で加熱プレスして成形するのに対して、比較例1,2におけるルーフトリム70は、すべての層を重ねて200℃でプレ加熱を行った後に冷間プレス(20℃程度)を行って成形するものとなっている。
【0044】
そして、比較例1の車両は、サンルーフを備えた車両であり、比較例2の車両は、実施形態の車両10と同様にサンルーフのない車両となっている。そして、これら比較例1の車両および比較例2の車両も、赤外線反射層を備えていない従来から用いられている層構造のルーフトリムを搭載した車両の燃費からの上昇率を測定した。
【0045】
図10に示すように、鱗片状金属フレーク40が配向された赤外線反射層38を含んでその赤外線反射層38をルーフパネル12に接した構造とすることで、いずれの車両においても、赤外線反射層のない車両に比較して燃費が向上したことが分かる。また、サンルーフを備えた比較例1の車両の燃費向上率が3.0%であったのに対して、サンルーフのない比較例2の車両の燃費向上率が5.2%となった。つまり、ルーフトリムの面積が大きいほど、ルーフパネル12の正の電荷を低減でき、燃費を向上させることができたと推測される。
【0046】
さらに、本実施形態の車両10は、燃費向上率が7.5%と、サンルーフがなく熱可塑性樹脂を主体とする基材72を用いた比較例2の車両の燃費向上率5.2%よりも高くなることが分かった。これは、基材72に熱可塑性樹脂を採用した車両ボデー構造は、そのルーフトリム70の成形時において比較的高い温度(200℃)で加熱して冷間プレスする成形方法が、赤外線反射フィルム34の赤外線反射層38の構造に対しコンデンサ機能を低下させた要因の一つとして推測される。
【0047】
以上のように、本実施形態の車両10は、赤外線反射機能を有することに加えて、電磁ノイズや静電気等の影響を効果的に抑制することができる車両ボデー構造を有するものとなっているのである。
【0048】
また、本実施形態の車両10は、
図1,3に示すように、ルーフパネル12とルーフトリム14との間に、乗員を検知する人感センサ80等の電磁波を送受信する電装品が配される場合がある。このような人感センサ80のような電装品がある場合、蒸着された金属膜が形成されていると、電磁波を透過できないが、本実施形態の車両10においては、赤外線反射層38が鱗片状金属フレーク40を分散的に配置したものであるため、電磁波を透過するように構成することができる。例えば、電装品が重畳する範囲において、鱗片状金属フレーク40の含有量を減らした構成とすることで、電磁波を効果的に透過できるようにすることができる。ちなみに、本実施形態の車両10においては、赤外線反射フィルム34が、
図3に示すように、人感センサ80と重畳する部分に、赤外線反射層38が形成されていない赤外線反射層開口部34aが設けられており、人感センサ80が電磁波の送受信を確実に行うことができるようになっている。なお、本実施形態の車両10において、赤外線反射フィルム34は、ベースフィルム36上に印刷によって赤外線反射層38を形成するため、印刷範囲の設定を行うのみで、赤外線反射層開口部34aを適切な位置に容易に形成することができる。
【0049】
さらに、本実施形態の車両10において、ルーフトリム14の裏面(赤外線反射層38側の面)には、ルーフトリム14の裏面に配線を配策する際の配線位置や、材質等を表示する文字等のマーキング14aが施されている。このマーキング14aは、加熱プレス成形時に型枠に凸部を設けることで形成されており、溝状のものとなっている。つまり、このマーキング14aが形成された部分については、他の個所に比較して、厚さを薄くする必要がある。したがって、赤外線反射フィルム34のないルーフトリムに対してマーキングを施す場合、基材を凹ませる必要があるため、比較的深い溝が必要であった。そのため、板厚が薄い外縁近傍等には、全体の板厚に対するマーキングの深さが大きくなり、意匠面にアバタ(凹凸)が生じる虞があった。それに対して、本実施形態の車両10においては、赤外線反射フィルム34に入れる溝が基材を凹ませる場合に比較して浅くても、マーキング14aの視認性が高く、マーキングを施すことができる範囲を広げることができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。例えば、上記実施形態の車両10において、本発明の車両ボデー構造は、車両10の天井に採用されていたが、その箇所に限定されない。車両のピラーやサイドドア等を含む側壁部の構造に採用することもできる。また、上記実施形態において、ボデーパネルであるルーフパネル12は金属製のものとされていたが、それに限定されず、樹脂,カーボン,ガラス等のパネル材であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…車両、12…ルーフパネル〔ボデーパネル〕、14…ルーフトリム〔内装材〕、30…基材、32…表皮材〔表皮層〕、34…赤外線反射フィルム、34a…赤外線反射層開口部、36…ベースフィルム、38…赤外線反射層、40…鱗片状金属フレーク〔鱗片状金属片〕、42…非導電性樹脂、50,52…接着層、80…人感センサ〔電装品〕