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特開2024-9849ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009849
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20240101AFI20240116BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20240116BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240116BHJP
   C12N 15/873 20100101ALI20240116BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20240116BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240116BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240116BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240116BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240116BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12Q1/48 Z
C12Q1/68
C12N15/873 Z
C12N15/90 104Z
C12N15/85 Z
C12N5/10
G01N33/48 N
G01N33/15 Z
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171306
(22)【出願日】2023-10-02
(62)【分割の表示】P 2020527921の分割
【原出願日】2018-11-30
(31)【優先権主張番号】62/592,905
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/661,373
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー オー. ムジカ
(72)【発明者】
【氏名】ヤジュン タン
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ディー. リー
(72)【発明者】
【氏名】ミン ガオ
(72)【発明者】
【氏名】スーザン クロール
(72)【発明者】
【氏名】リン マクドナルド
(72)【発明者】
【氏名】イン フー
(72)【発明者】
【氏名】カーメロ ロマーノ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒトTRKB標的化試薬の真のヒト標的または真のヒト標的の密接な近似を提供し、これにより、生きている動物における斯かる薬剤の有効性および作用機序の検査、ならびに薬物動態および薬力学研究を可能にする、適した非ヒト動物を提供する。
【解決手段】遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むマウスであって、前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座が、トロポミオシン受容体キナーゼB(TRKB)タンパク質をコードし、前記TRKBタンパク質が、内在性TRKBシグナルペプチド、内在性TRKB細胞質ドメイン、内在性TRKB膜貫通ドメインおよびヒトTRKB細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインの全体が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列で置き換えられた前記内在性TrkB遺伝子座のセグメントによりコードされる、マウスを提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むマウスであって、前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座が、トロポミオシン受容体キナーゼB(TRKB)タンパク質をコード
前記TRKBタンパク質が、内在性TRKBシグナルペプチド、内在性TRKB細胞質ドメイン、内在性TRKB膜貫通ドメインおよびヒトTRKB細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインの全体が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列で置き換えられた前記内在性TrkB遺伝子座のセグメントによりコードされる、マウス
【請求項2】
前記ヒトTRKB細胞外ドメインが、配列番号60に表記されている配列を含む、請求項1に記載のマウス
【請求項3】
前記ヒトTRKB細胞外ドメインのコード配列が、配列番号72に表記されている配列を含む、請求項1または2に記載のマウス
【請求項4】
前記シグナルペプチドが、配列番号5に表記されている配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のマウス
【請求項5】
前記シグナルペプチドの全体が、内在性TrkB配列によってコードされる、請求項1~4のいずれか一項に記載のマウス
【請求項6】
前記シグナルペプチドのコード配列が、配列番号6に表記されている配列を含む、請求項5に記載のマウス
【請求項7】
前記膜貫通ドメインが、配列番号5に表記されている配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のマウス
【請求項8】
前記膜貫通ドメインの全体が、内在性TrkB配列によってコードされる、請求項1~7のいずれか一項に記載のマウス
【請求項9】
前記膜貫通ドメインのコード配列が、配列番号6に表記されている配列を含む、請求項8に記載のマウス
【請求項10】
前記細胞質ドメインが、配列番号5に表記されている配列を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のマウス
【請求項11】
前記細胞質ドメインの全体が、内在性TrkB配列によってコードされる、請求項1~10のいずれか一項に記載のマウス
【請求項12】
前記細胞質ドメインのコード配列が、配列番号66に表記されている配列を含む、請求項11に記載のマウス
【請求項13】
前記シグナルペプチドが、配列番号5に表記されている配列を含み、前記膜貫通ドメインが、配列番号5に表記されている配列を含み、前記細胞質ドメインが、配列番号5に表記されている配列を含む、
請求項1~12のいずれか一項に記載のマウス
【請求項14】
前記シグナルペプチドの全体、前記膜貫通ドメインの全体、および前記細胞質ドメインの全体が、内在性TrkB配列によってコードされる、
請求項1~13のいずれか一項に記載のマウス
【請求項15】
前記シグナルペプチドのコード配列が、配列番号6に表記されている配列を含み、前記膜貫通ドメインのコード配列が、配列番号6に表記されている配列を含み、前記細胞質ドメインのコード配列が、配列番号66に表記されている配列を含む、
請求項14に記載のマウス
【請求項16】
前記TRKBタンパク質が、配列番号に表記されている配列を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のマウス
【請求項17】
前記TRKBタンパク質をコードする前記遺伝子改変されたTrkB遺伝子座のコード配列が、配列番号1に表記されている配列を含む、請求項16に記載のマウス
【請求項18】
前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座に関してヘテロ接合性である、請求項1~17のいずれか一項に記載のマウス
【請求項19】
前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座に関してホモ接合性である、請求項1~17のいずれか一項に記載のマウス
【請求項20】
ヒトTRKB標的化試薬の活性をin vivoで評価する方法であって、
(a)前記ヒトTRKB標的化試薬を請求項1~19のいずれか一項に記載のマウスに投与するステップと、
(b)前記マウスにおける前記ヒトTRKB標的化試薬の活性を評価するステップとを含む、方法。
【請求項21】
ステップ(a)が、前記ヒトTRKB標的化試薬を前記マウスに注射するステップを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(b)が、対照マウスと比べて、体重、体組成、代謝および移動運動のうち1種または複数または全種の変化を評価するステップを含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
体組成の変化を評価する前記ステップが、対照マウスと比べて、除脂肪量および/または体脂肪量を評価するステップを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
代謝の変化を評価する前記ステップが、食物消費および/または水消費の変化を評価するステップを含む、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(b)が、対照マウスと比べて、TRKBリン酸化、および/またはMAPK/ERKおよびPI3K/Akt経路の活性化を評価するステップを含む、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(b)が、神経保護活性を評価するステップを含む、請求項20~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(b)が、網膜神経節細胞生存度を評価するステップを含む、請求項20~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
網膜神経節細胞生存度が、視神経傷害後の完全視神経切断モデルにおいて評価される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
網膜神経節細胞生存度が、視神経挫滅モデルにおいて評価される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記ヒトTRKB標的化試薬が、抗原結合性タンパク質である、請求項20~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記抗原結合性タンパク質が、ヒトTRKBアゴニスト抗体である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒトTRKB標的化試薬が、小分子である、請求項20~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記小分子が、ヒトTRKBアゴニストである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項1~19のいずれか一項に記載のマウスを作製する方法であって、
(I)
(a)前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むように多能性マウス細胞のゲノムを改変するステップ、
(b)前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む前記遺伝子改変された多能性マウス細胞を識別または選別するステップ、
(c)前記遺伝子改変された多能性マウス細胞をマウス宿主胚に導入するステップ、および
(d)前記マウス宿主胚を代理マウス母に移植し、懐胎させるステップ、または
(II)
(a)前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むようにマウス1細胞期胚のゲノムを改変するステップ、
(b)前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む前記遺伝子改変されたマウス1細胞期胚を選別するステップ、および
(c)前記遺伝子改変されたマウス1細胞期胚を代理マウス母に移植し、懐胎させるステップ
を含む、方法。
【請求項35】
遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むマウス細胞であって、前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座が、トロポミオシン受容体キナーゼB(TRKB)タンパク質をコード
記TRKBタンパク質が、内在性TRKBシグナルペプチド、内在性TRKB細胞質ドメイン、内在性TRKB膜貫通ドメインおよびヒトTRKB細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインの全体が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列で置き換えられた前記内在性TrkB遺伝子座のセグメントによりコードされるマウス細胞。
【請求項36】
遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を生成するための標的化ベクターを含む組成物であって、前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座が、マウストロポミオシン受容体キナーゼB(TRKB)タンパク質細胞外ドメインをコードする内在性マウスTrkBゲノム配列の、ヒトTRKBタンパク質細胞外ドメインをコードする対応するヒトTRKBゲノム配列での置き換えを含み、
前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座が、TRKBタンパク質をコードし、前記TRKBタンパク質が、内在性TRKBシグナルペプチド、内在性TRKB細胞質ドメイン、内在性TRKB膜貫通ドメインおよびヒトTRKB細胞外ドメインを含み、
前記標的化ベクターが、前記内在性TrkB遺伝子座における5’標的配列を標的化する5’相同性アーム、および前記内在性TrkB遺伝子座における3’標的配列を標的化する3’相同性アームに挟まれた前記ヒトTRKB配列を含むインサート核酸を含む、
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年11月30日に出願された米国特許出願第62/592,905号、および2018年4月23日に出願された米国特許出願第62/661,373号の利益を主張するものであり、これらの米国特許出願はそれぞれ、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
EFSウェブ経由でテキストファイルとして提出された配列表の参照
ファイル523380SEQLIST.txtに書き込まれている配列表は、154キロバイトであり、2018年11月30日に作成されており、これにより参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
トロポミオシン受容体キナーゼB(TRKB)は、緑内障等の神経変性疾患における神経保護のための有望な標的である。TRKBは、脳における最も広く分布した神経栄養性受容体(NTR)の1つであり、これは、新皮質、海馬、線条体および脳幹において高度に濃縮されている。TRKB受容体への脳由来神経栄養因子(BDNF)の結合は、コンフォメーション変化によるその二量体化、および細胞内ドメインにおけるチロシン残基の自己リン酸化を誘発し、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)およびホスホリパーゼC-γ(PLC-γ)が関与するシグナル伝達経路の活性化をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
TRKBは、ニューロンの生存、分化および機能に重要であり、TRKBアゴニストは、多数の神経学的、精神的および代謝的障害における治療上の潜在性を有し得る。しかし、依然として、ヒトTRKB標的化試薬の真のヒト標的または真のヒト標的の密接な近似を提供し、これにより、生きている動物における斯かる薬剤の有効性および作用機序の検査、ならびに薬物動態および薬力学研究を可能にする、適した非ヒト動物が必要である。
【0005】
ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物が、斯かる非ヒト動物を使用する方法と共に提供される。ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物ゲノムまたは細胞も提供される。
【0006】
一態様では、ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物が提供される。斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物は、TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むことができ、TRKBタンパク質は、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、細胞外ドメインの全体または一部は、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされる。
【0007】
一態様では、ヒト化TrkB遺伝子座を含む非ヒト動物が提供される。斯かる非ヒト動物は、TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むことができ、TRKBタンパク質は、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、細胞外ドメインの全体または一部は、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされる。
【0008】
別の態様では、そのゲノムに、TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む非ヒト動物細胞であって、TRKBタンパク質が、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、細胞外ドメインの全体または一部が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされる、非ヒト動物細胞が提供される。
【0009】
別の態様では、TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む非ヒト動物ゲノムであって、TRKBタンパク質が、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、細胞外ドメインの全体または一部が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされる、非ヒト動物ゲノムが提供される。
【0010】
一部の斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物では、TRKBタンパク質は、ヒトTRKB細胞外ドメインを含む。必要に応じて、細胞外ドメインは、配列番号60に表記されている配列を含む。必要に応じて、細胞外ドメインの全体は、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされ、必要に応じて、細胞外ドメインのコード配列は、配列番号72に表記されている配列を含む。
【0011】
一部の斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物では、TRKBタンパク質は、内在性シグナルペプチドを含む。必要に応じて、シグナルペプチドは、配列番号51または55に表記されている配列を含む。必要に応じて、シグナルペプチドの全体は、内在性TrkB配列によってコードされ、必要に応じて、シグナルペプチドのコード配列は、配列番号63または67に表記されている配列を含む。
【0012】
一部の斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物では、TRKBタンパク質は、内在性TRKB膜貫通ドメインを含む。必要に応じて、膜貫通ドメインは、配列番号53または57に表記されている配列を含む。必要に応じて、膜貫通ドメインの全体は、内在性TrkB配列によってコードされ、必要に応じて、膜貫通ドメインのコード配列は、配列番号65または69に表記されている配列を含む。
【0013】
一部の斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物では、TRKBタンパク質は、内在性TRKB細胞質ドメインを含む。必要に応じて、細胞質ドメインは、配列番号54または58に表記されている配列を含む。必要に応じて、細胞質ドメインの全体は、内在性TrkB配列によってコードされ、必要に応じて、細胞質ドメインのコード配列は、配列番号66または70に表記されている配列を含む。
【0014】
一部の斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物では、TRKBタンパク質は、内在性TRKBシグナルペプチド、内在性TRKB膜貫通ドメイン、および内在性TRKB細胞質ドメインを含む。必要に応じて、シグナルペプチドは、配列番号51に表記されている配列を含み、膜貫通ドメインは、配列番号53に表記されている配列を含み、細胞質ドメインは、配列番号54に表記されている配列を含む。必要に応じて、シグナルペプチドは、配列番号55に表記されている配列を含み、膜貫通ドメインは、配列番号57に表記されている配列を含み、細胞質ドメインは、配列番号58に表記されている配列を含む。必要に応じて、シグナルペプチドの全体、膜貫通ドメインの全体、および細胞質ドメインの全体は、内在性TrkB配列によってコードされる。必要に応じて、シグナルペプチドのコード配列は、配列番号63に表記されている配列を含み、膜貫通ドメインのコード配列は、配列番号65に表記されている配列を含み、細胞質ドメインのコード配列は、配列番号66に表記されている配列を含む。必要に応じて、シグナルペプチドのコード配列は、配列番号67に表記されている配列を含み、膜貫通ドメインのコード配列は、配列番号69に表記されている配列を含み、細胞質ドメインのコード配列は、配列番号70に表記されている配列を含む。
【0015】
一部の斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物では、TRKBタンパク質は、キメラ非ヒト動物/ヒトTRKBタンパク質である。必要に応じて、細胞外ドメインは、ヒトTRKB細胞外ドメインであり、膜貫通ドメインは、内在性TRKBタンパク質膜貫通ドメインであり、細胞質ドメインは、内在性TRKBタンパク質細胞質ドメインである。必要に応じて、TRKBタンパク質は、配列番号4または5に表記されている配列を含む。必要に応じて、TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変されたTrkB遺伝子座のコード配列は、配列番号12または13に表記されている配列を含む。
【0016】
一部の斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物は、遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座に関してヘテロ接合性である。一部の斯かる非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物は、遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座に関してホモ接合性である。
【0017】
一部の斯かる非ヒト動物は、哺乳動物である。必要に応じて、非ヒト動物は、齧歯類である。必要に応じて、齧歯類は、ラットまたはマウスである。
【0018】
一部の斯かる非ヒト動物は、ラットである。必要に応じて、TRKBタンパク質は、配列番号5に表記されている配列を含む。必要に応じて、TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変されたTrkB遺伝子座のコード配列は、配列番号13に表記されている配列を含む。
【0019】
一部の斯かる非ヒト動物は、マウスである。必要に応じて、TRKBタンパク質は、配列番号4に表記されている配列を含む。必要に応じて、TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変されたTrkB遺伝子座のコード配列は、配列番号12に表記されている配列を含む。
【0020】
別の態様では、上述の非ヒト動物を使用して、ヒトTRKB標的化試薬の活性をin vivoで評価する方法が提供される。一部の斯かる方法は、(a)ヒトTRKB標的化試薬を非ヒト動物に投与するステップと、(b)非ヒト動物におけるヒトTRKB標的化試薬の活性を評価するステップとを含む。
【0021】
一部の斯かる方法では、評価される活性は、神経保護活性である。
【0022】
一部の斯かる方法では、ステップ(a)は、ヒトTRKB標的化試薬を非ヒト動物に注射するステップを含む。
【0023】
一部の斯かる方法では、ステップ(b)は、対照非ヒト動物と比べて、体重、体組成、代謝および移動運動のうち1種または複数または全種の変化を評価するステップを含む。必要に応じて、体組成の変化を評価するステップは、対照非ヒト動物と比べて、除脂肪量(lean mass)および/または体脂肪量(fat mass)を評価するステップを含む。必要に応じて、代謝の変化を評価するステップは、食物消費および/または水消費の変化を評価するステップを含む。
【0024】
一部の斯かる方法では、ステップ(b)は、対照非ヒト動物と比べて、TRKBリン酸化、および/またはMAPK/ERKおよびPI3K/Akt経路の活性化を評価するステップを含む。
【0025】
一部の斯かる方法では、ステップ(b)は、神経保護活性を評価するステップを含む。一部の斯かる方法では、ステップ(b)は、神経保護活性を評価するステップを含み、非ヒト動物は、ラットである。一部の斯かる方法では、ステップ(b)は、網膜神経節細胞生存度を評価するステップを含む。必要に応じて、網膜神経節細胞生存度を評価するステップは、網膜神経節細胞密度を評価するステップを含む。必要に応じて、網膜神経節細胞密度は、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜において測定される。必要に応じて、網膜神経節細胞生存度は、視神経傷害後の完全視神経切断モデルにおいて評価される。必要に応じて、網膜神経節細胞生存度は、視神経挫滅モデルにおいて評価される。
【0026】
一部の斯かる方法では、ヒトTRKB標的化試薬は、抗原結合性タンパク質である。必要に応じて、抗原結合性タンパク質は、ヒトTRKBアゴニスト抗体である。一部の斯かる方法では、ヒトTRKB標的化試薬は、小分子である。必要に応じて、小分子は、ヒトTRKBアゴニストである。
【0027】
別の態様では、TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を生成するための標的化ベクターであって、TRKBタンパク質が、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、細胞外ドメインの全体または一部が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされ、標的化ベクターが、内在性TrkB遺伝子座における5’標的配列を標的化する5’相同性アーム、および内在性TrkB遺伝子座における3’標的配列を標的化する3’相同性アームに挟まれたオルソロガスヒトTRKB配列を含むインサート核酸を含む、標的化ベクターが提供される。
【0028】
別の態様では、上に記載されている非ヒト動物のいずれかを作製する方法が提供される。一部の斯かる方法は、(a)1細胞期胚ではない非ヒト動物多能性細胞に、(i)内在性TrkB遺伝子座における5’標的配列にハイブリダイズする5’相同性アーム、および内在性TrkB遺伝子座における3’標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームに挟まれたインサート核酸を含む外因性修復鋳型であって、インサート核酸が、オルソロガスヒトTRKB配列を含む、外因性修復鋳型、ならびに(ii)内在性TrkB遺伝子座内の標的配列を標的化するヌクレアーゼ剤を導入するステップであって、ゲノムが、遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むように改変される、ステップと、(b)改変された非ヒト動物多能性細胞を宿主胚に導入するステップと、(c)宿主胚を代理母に移植して、遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む遺伝子改変されたF0世代非ヒト動物を産生させるステップとを含むことができる。必要に応じて、多能性細胞は、胚性幹(ES)細胞である。必要に応じて、ヌクレアーゼ剤は、Cas9タンパク質、および内在性TrkB遺伝子座内のガイドRNA標的配列を標的化するガイドRNAである。必要に応じて、ステップ(a)は、非ヒト動物多能性細胞に、内在性TrkB遺伝子座内の第2のガイドRNA標的配列を標的化する第2のガイドRNAを導入するステップをさらに含む。必要に応じて、外因性修復鋳型は、少なくとも10kbの長さの大型の標的化ベクターである、または外因性修復鋳型は、その5’相同性アームおよび3’相同性アームの合計が少なくとも10kbの長さである大型の標的化ベクターである。
【0029】
一部の斯かる方法は、(a)非ヒト動物1細胞期胚に、(i)内在性TrkB遺伝子座における5’標的配列にハイブリダイズする5’相同性アーム、および内在性TrkB遺伝子座における3’標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームに挟まれたインサート核酸を含む外因性修復鋳型であって、インサート核酸が、オルソロガスヒトTRKB配列を含む、外因性修復鋳型、ならびに(ii)内在性TrkB遺伝子座内の標的配列を標的化するヌクレアーゼ剤を導入するステップであって、ゲノムが、遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むように改変される、ステップと、(b)改変された非ヒト動物1細胞期胚を代理母に移植して、遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む遺伝子改変されたF0世代非ヒト動物を産生させるステップとを含む。必要に応じて、ヌクレアーゼ剤は、Cas9タンパク質、および内在性TrkB遺伝子座内のガイドRNA標的配列を標的化するガイドRNAである。必要に応じて、ステップ(a)は、非ヒト1細胞期胚に、内在性TrkB遺伝子座内の第2のガイドRNA標的配列を標的化する第2のガイドRNAを導入するステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1(正確な拡大比でない)は、TRKBの細胞外ドメインをコードするマウスTrkB(マウスNtrk2)遺伝子座の領域のヒト化の標的化スキームの概略図を示す。図の上部は内在性マウスTrkB(マウスNtrk2)遺伝子座を示し、図の下部は大型の標的化ベクターを示す。
【0031】
図2図2(正確な拡大比でない)は、マウスTrkB(マウスNtrk2)遺伝子座のヒト化をスクリーニングするためのTAQMAN(登録商標)アッセイの概略図を示す。対立遺伝子獲得(GOA)アッセイは7138hUおよび7138hDを含む。対立遺伝子喪失(LOA)アッセイは7138Uおよび7138Dを含む。
【0032】
図3図3は、TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2またはアイソタイプ対照抗体を直接海馬に注射した後、1時間、4時間、および18時間でのホモ接合性ヒト化TRKBマウスにおける全TRKBレベルおよびホスホ-TRKBレベルを評価するウエスタンブロットを示す。
【0033】
図4図4(正確な拡大比でない)は、TRKBの細胞外ドメインをコードするラットTrkB(ラットNtrk2)遺伝子座の領域のヒト化の標的化スキームの概略図を示す。図の上部は内在性ラットTrkB(ラットNtrk2)遺伝子座を示し、図の下部は大型の標的化ベクターを示す。
【0034】
図5図5(正確な拡大比でない)は、ラットTrkB(ラットNtrk2)遺伝子座のヒト化をスクリーニングするためのTAQMAN(登録商標)アッセイの概略図およびラットTrkB(ラットNtrk2)遺伝子座を標的化するためのガイドRNAの位置(配列番号41~44に表記されているガイド標的配列)を示す。対立遺伝子獲得(GOA)アッセイは7138hUおよび7138hDを含む。対立遺伝子喪失(LOA)アッセイはrnoTU、rnoTM、およびrnoTDを含む。CRISPR/Cas9標的化によって中断された領域を包含するように設計されたCRISPRアッセイは、rnoTGUおよびrnoTGDを含む。保持アッセイはrnoTAU2およびrnoTAD2を含む。
【0035】
図6-1】図6は、マウス、ラット、およびヒトTRKB(NTRK2)タンパク質のアラインメントを示す。
図6-2】図6は、マウス、ラット、およびヒトTRKB(NTRK2)タンパク質のアラインメントを示す。
【0036】
図7図7は、生後1日のホモ接合性ヒト化TRKB幼若マウスから単離した初代皮質ニューロンを種々のTrkBアゴニスト抗体またはBDNFで処理した後、15分または2時間におけるホスホ-TrkB、全TrkB、ホスホ-Akt、全AKT、ホスホ-ERK、および全ERKのウエスタンブロットを示す。
【0037】
図8図8は、ホモ接合性TrkBhu/huマウスおよび野生型マウスにおける抗TrkB抗体H4H9816P2の薬物動態プロファイルを示す。
【0038】
図9図9は、種々の用量のTrkBアゴニスト抗体またはBDNFで処理した分化したヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞における細胞生存を示す。TrkB mAb1はH4H9816P2であり、TrkB mAb2はヒトTrkB、ラットTrkB、およびマウスTrkBに親和性を有する対照TrkBアゴニスト抗体である。陰性対照としてヒトアイソタイプ対照抗体を用いた。データは抗体を含まない無血清培地に正規化した。
【0039】
図10図10は、種々の用量のTrkBアゴニスト抗体またはBDNFで処理したマウス初代網膜神経節細胞における細胞生存を示す。TrkB mAb2はヒトTrkB、ラットTrkB、およびマウスTrkBに親和性を有する対照TrkBアゴニスト抗体である。データは抗体を含まない無血清培地に正規化した。
【0040】
図11図11Aおよび図11Bは、視神経切断およびBDNF、TrkBアゴニスト抗体、アイソタイプ対照抗体、またはビヒクル対照による処置の後の、それぞれ野生型ラットおよびマウスの、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜における網膜神経節細胞の密度を示す。ラットには、BDNF(5μg)、TrkBアゴニスト抗体(18μg)、アイソタイプ対照抗体(18μg)、またはビヒクル対照を、視神経切断後3日目および10日目に硝子体内投与した。マウスには、BDNF(2.5μg)、TrkBアゴニスト抗体(10μg)、アイソタイプ対照抗体(10μg)、またはビヒクル対照を、視神経切断後3日目および10日目に硝子体内投与した。TrkB mAb2はヒトTrkB、ラットTrkB、およびマウスTrkBに親和性を有する対照TrkBアゴニスト抗体である。
【0041】
図12図12Aおよび図12Bは、視神経切断または視神経挫滅および種々の用量のBDNFによる処置の後の、それぞれ野生型マウスおよびラットの、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜における網膜神経節細胞の密度を示す。図12Aは、WTマウスの視神経挫滅(ONC)モデルにおけるBDNFの用量応答を示す。図12Bは、WTラットの視神経切断モデルにおける0.13μg~30μgのBDNFの用量応答を示す。
【0042】
図13-1】図13Aは、視神経切断後3日目および10日目にTrkBアゴニスト抗体またはアイソタイプ対照抗体を硝子体内投与したホモ接合性TrkBラット、ヘテロ接合性TrkBラット、または野生型TrkBラットの、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜における網膜神経節細胞の密度を示す(****=p<0.0001、***p<0.001、二元配置ANOVA)。網膜は切断の14日後に切除した。TrkB mAb1はH4H9816P2である。
【0043】
図13Bは、ホモ接合性TrkBラット、ヘテロ接合性TrkBラット、または野生型TrkBラットから切除した傷害を受けていない眼における網膜神経節細胞の密度を示す。
【0044】
図13-2】図13Cは、TrkBアゴニスト抗体(H4H9816P2、TrkB)またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945、対照)を投与したヒトTRKBホモ接合性マウスの体重を示す。
【0045】
図14図14は、視神経切断後3日目および10日目にTrkBアゴニスト抗体(hTrkB、H4H9816P2)またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)を硝子体内投与したヒトTRKBホモ接合性ラットの、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜における網膜神経節細胞の密度を示す。網膜は切断の14日後に切除した。
【0046】
図15図15Aおよび図15Bは、視神経切断後3日目および10日目に種々のTrkBアゴニスト抗体(H4H9816P2-L9、H4H9814P-L9、H4H9780P-L5、または3つ全ての組合せ)またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)を硝子体内投与したヒトTRKBホモ接合性ラットの、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜における網膜神経節細胞の密度を示す(**p<0.01、アイソタイプ対照抗体と比較したKruskal-Wallis検定)。網膜は切断の14日後に切除した。図15Aはナイーブ対照(傷害を受けていない反対側の眼)を含み、図15Bはこれを含まない。
【0047】
図16図16は、視神経切断後3日目および10日目に種々のTrkBアゴニスト抗体(H4H9780PおよびH4H9814P)またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)を硝子体内投与した野生型ラットの、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜における網膜神経節細胞の密度を示す。網膜は切断の14日後に切除した。
【0048】
図17図17Aおよび図17Bは、視神経切断後3日目および10日目にTrkBアゴニスト抗体(H4H9780P)またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)を硝子体内投与したヒトTRKBホモ接合性マウスの、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜における網膜神経節細胞の密度を示す。網膜は切断の14日後に切除した。図17Aは正常対照(傷害を受けていない反対側の眼)を含み、図17Bはこれを含まない。
【0049】
図17Cは、TrkBアゴニスト抗体(H4H9780P)またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)を投与したヒトTRKBホモ接合性マウスの体重を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
定義
本明細書で互換的に使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、コードされるおよびコードされないアミノ酸、ならびに化学的にまたは生化学的に改変または誘導体化されたアミノ酸を含む、任意の長さのアミノ酸のポリマー形態を含む。この用語は、改変されたペプチド骨格を有するポリペプチド等、改変されたポリマーも含む。用語「ドメイン」は、特定の機能または構造を有する、タンパク質またはポリペプチドのいずれかの部分を指す。
【0051】
タンパク質は、「N末端」および「C末端」を有すると言われる。用語「N末端」は、遊離アミン基(-NH2)を有するアミノ酸で終わる、タンパク質またはポリペプチドの開始部に関する。用語「C末端」は、遊離カルボキシル基(-COOH)で終わる、アミノ酸鎖(タンパク質またはポリペプチド)の終止部に関する。
【0052】
本明細書で互換的に使用される用語「核酸」および「ポリヌクレオチド」は、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはこれらのアナログもしくは改変バージョンを含む、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を含む。これらの用語は、一本鎖、二本鎖および多重鎖(multistranded)DNAまたはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、ならびにプリン塩基、ピリミジン塩基または他の天然の、化学的に改変された、生化学的に改変された、非天然のもしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーを含む。
【0053】
ある1個のモノヌクレオチドペントース環の5’リン酸が、ホスホジエステル連結を介して一方向で、その近隣の3’酸素に取り付けられるような様式で、モノヌクレオチドが反応してオリゴヌクレオチドを作製するため、核酸は、「5’末端」および「3’末端」を有すると言われる。オリゴヌクレオチドの末端は、その5’リン酸がモノヌクレオチドペントース環の3’酸素に連結されていない場合、「5’末端」と称される。オリゴヌクレオチドの末端は、その3’酸素が別のモノヌクレオチドペントース環の5’リン酸に連結されていない場合、「3’末端」と称される。核酸配列は、より大型のオリゴヌクレオチドの内部にある場合であっても、5’および3’末端を有すると言うこともできる。直鎖状または環状いずれかのDNA分子において、別々のエレメントは、「下流」または3’エレメントの「上流」または5’であると称される。
【0054】
用語「ゲノムに組み込まれた」は、ヌクレオチド配列が、細胞のゲノム内に組み込まれ、その後代に遺伝され得るように、細胞内に導入された核酸を指す。いずれかのプロトコールを、細胞のゲノム内への核酸の安定した取り込みに使用することができる。
【0055】
用語「標的化ベクター」は、相同組換え、非相同末端結合媒介性ライゲーション、または他のいずれかの組換え手段によって、細胞のゲノム内の標的位置に導入され得る組換え核酸を指す。
【0056】
用語「ウイルスベクター」は、ウイルス起源の少なくとも1個のエレメントを含み、ウイルスベクター粒子内へのパッケージングに十分なまたは許容的なエレメントを含む、組換え核酸を指す。ベクターおよび/または粒子は、ex vivoまたはin vivoのいずれかで、細胞にDNA、RNAまたは他の核酸を移入する目的で利用することができる。ウイルスベクターの多数の形態が公知である。
【0057】
用語「野生型」は、正常(変異体、罹患された、変更されたその他と対比して)状態または文脈において見出される構造および/または活性を有する実体を含む。野生型遺伝子およびポリペプチドは多くの場合、複数の異なる形態(例えば、対立遺伝子)で存在する。
【0058】
用語「内在性」は、細胞または非ヒト動物内に天然に存在する核酸配列を指す。例えば、非ヒト動物の内在性TrkB配列は、非ヒト動物におけるTrkB遺伝子座に天然に存在するネイティブTrkB配列を指す。
【0059】
「外因性」分子または配列は、当該形態で細胞に通常存在しない分子または配列を含む。通常の存在は、細胞の特定の発生ステージおよび環境条件に関する存在を含む。外因性分子または配列は、例えば、内在性配列のヒト化バージョン等、細胞内における対応する内在性配列の変異したバージョンを含むことができる、または細胞内における内在性配列に対応するが、異なる形態における(すなわち、染色体内にない)配列を含むことができる。それに対比して、内在性分子または配列は、特定の環境条件下における特定の発生ステージで特定の細胞に当該形態で通常存在する分子または配列を含む。
【0060】
用語「異種」は、核酸またはタンパク質の文脈で使用される場合、核酸またはタンパク質が、同じ分子において天然では一緒に存在しない少なくとも2個の部分を含むことを指し示す。例えば、用語「異種」は、核酸の部分またはタンパク質の部分を参照しつつ使用される場合、核酸またはタンパク質が、自然界では互いに同じ関係性で(例えば、一体に連結されて)見出されない、2個またはそれよりも多い部分配列を含むことを指し示す。一例として、核酸ベクターの「異種」領域は、別の核酸分子内にあるまたはそれに取り付けられた、自然界ではその他の分子に付随した状態では見出されない核酸のセグメントである。例えば、核酸ベクターの異種領域は、自然界では当該のコード配列に付随した状態では見出されない配列と隣接したコード配列を含むことができる。同様に、タンパク質の「異種」領域は、別のペプチド分子内にあるまたはそれに取り付けられた、自然界ではその他のペプチド分子に付随した状態では見出されないアミノ酸のセグメントである(例えば、融合タンパク質、またはタグ付きのタンパク質)。類似して、核酸またはタンパク質は、異種標識または異種分泌もしくは局在化配列を含むことができる。
【0061】
「コドン最適化」は、アミノ酸を指定する3塩基対コドン組合せの多重度によって示される通り、コドンの縮重を活用し、一般に、ネイティブアミノ酸配列を維持しつつ、ネイティブ配列の少なくとも1個のコドンを、宿主細胞の遺伝子においてより高頻度にまたは最も高頻度に使用されるコドンに置き換えることにより、特定の宿主細胞における発現増強のために核酸配列を改変するプロセスを含む。例えば、Cas9タンパク質をコードする核酸は、天然に存在する核酸配列と比較して、細菌細胞、酵母細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳動物細胞、齧歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、ハムスター細胞または他のいずれかの宿主細胞を含む所与の原核または真核細胞においてより高い使用頻度を有するコドンを代わりに使用するように改変することができる。コドン使用表は、例えば、「コドン使用データベース(Codon Usage Database)」において容易に利用できる。このような表は、多数の仕方で適応させることができる。その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Nakamura et al. (2000) Nucleic Acids Research 28:292を参照されたい。特定の宿主における発現のための特定の配列のコドン最適化のためのコンピュータアルゴリズムも、利用できる(例えば、Gene Forgeを参照)。
【0062】
用語「遺伝子座」は、遺伝子(または有意な配列)、DNA配列、ポリペプチドコード配列の特異的な箇所、または生物のゲノムの染色体上の位置を指す。例えば、「TrkB遺伝子座」は、TrkB遺伝子、TrkB DNA配列、TrkBコード配列の特異的な箇所、または斯かる配列が存在する箇所について同定された生物のゲノムの染色体上のTrkB位置を指すことができる。「TrkB遺伝子座」は、例えば、エンハンサー、プロモーター、5’および/または3’非翻訳領域(UTR)、またはこれらの組合せを含む、TrkB遺伝子の調節エレメントを含むことができる。
【0063】
用語「遺伝子」は、産物(例えば、RNA産物および/またはポリペプチド産物)をコードし、非コードイントロンにより中断されるコード領域、ならびに遺伝子が全長mRNA(5’および3’非翻訳配列を含む)に対応するような、5’および3’末端の両方におけるコード領域に近接して配置された配列を含む、染色体中のDNA配列を指す。用語「遺伝子」は、調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーおよび転写因子結合部位)、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位、サイレンサー、インスレーター配列(insulating sequence)およびマトリクス付着領域を含む、他の非コード配列も含む。これらの配列は、遺伝子のコード領域の近くにあっても(例えば、10kb以内)、遠隔部位にあってもよく、遺伝子の転写および翻訳のレベルまたは速度に影響する。
【0064】
用語「対立遺伝子」は、遺伝子のバリアント形態を指す。一部の遺伝子は、染色体上の同じ位置または遺伝子座位に配置された種々の異なる形態を有する。二倍体生物は、各遺伝子座位に2個の対立遺伝子を有する。対立遺伝子の各ペアは、特異的遺伝子座位の遺伝子型を表す。遺伝子型は、特定の遺伝子座に2個の同一対立遺伝子が存在する場合、ホモ接合性として、また、2個の対立遺伝子が異なる場合、ヘテロ接合性として記載される。
【0065】
「プロモーター」は、特定のポリヌクレオチド配列のための適切な転写開始部位においてRNA合成を開始するようにRNAポリメラーゼIIを方向付けることができるTATAボックスを通常含む、DNAの調節領域である。プロモーターは、その上、転写開始速度に影響する他の領域を含むことができる。本明細書に開示されているプロモーター配列は、作動可能に連結されたポリヌクレオチドの転写をモジュレートする。プロモーターは、本明細書に開示されている細胞型(例えば、真核細胞、非ヒト哺乳動物細胞、ヒト細胞、齧歯類細胞、多能性細胞、1細胞期胚、分化した細胞、またはこれらの組合せ)のうち1種または複数において活性であり得る。プロモーターは、例えば、構成的に活性があるプロモーター、コンディショナルプロモーター、誘導性プロモーター、時間的に制限されたプロモーター(例えば、発生的に調節されたプロモーター)または空間的に制限されたプロモーター(例えば、細胞特異的または組織特異的プロモーター)であり得る。プロモーターの例は、例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、WO2013/176772に見出すことができる。
【0066】
「作動可能な連結」または「作動可能に連結されている」ことは、両方の構成成分が、正常に機能し、構成成分のうち少なくとも1個が、他の構成成分のうち少なくとも1個により発揮される機能を媒介することができるという可能性を許容するような、2個またはそれよりも多い構成成分(例えば、プロモーターおよび別の配列エレメント)の並置を含む。例えば、プロモーターが、1種または複数の転写調節因子の存在または非存在に応答してコード配列の転写のレベルを制御する場合、プロモーターは、コード配列に作動可能に連結することができる。作動可能な連結は、互いに近接している、またはトランスで作用する(例えば、調節配列は、コード配列の転写を制御するために、ある距離で作用することができる)斯かる配列を含むことができる。
【0067】
用語「バリアント」は、集団内で最も普及している配列とは異なる(例えば、1ヌクレオチドだけ)ヌクレオチド配列、または集団内で最も普及している配列とは異なる(例えば、1アミノ酸だけ)タンパク質配列を指す。
【0068】
用語「断片」は、タンパク質を指す場合、全長タンパク質よりも短い、またはそれよりも少ないアミノ酸を有するタンパク質を意味する。用語「断片」は、核酸を指す場合、全長核酸よりも短い、またはそれよりも少ないヌクレオチドを有する核酸を意味する。断片は、例えば、N末端断片(すなわち、タンパク質のC末端側の端の部分の除去)、C末端断片(すなわち、タンパク質のN末端側の端の部分の除去)または内部断片であり得る。
【0069】
2種のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の文脈における「配列同一性」または「同一性」は、指定の比較ウィンドウにわたる最大一致のために整列された場合に同じである、2種の配列における残基を参照する。配列同一性のパーセンテージが、タンパク質を参照しつつ使用される場合、同一ではない残基位置は、多くの場合、保存的アミノ酸置換によって異なり、この保存的アミノ酸置換において、アミノ酸残基は、同様の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する他のアミノ酸残基の代わりに使用され、したがって、分子の機能的特性を変化させない。配列が、保存的置換において異なる場合、パーセント配列同一性は、上向きに調整して、置換の保存的性質に関して補正することができる。斯かる保存的置換によって異なる配列は、「配列類似性」または「類似性」を有すると言われる。この調整を為すための手段は周知である。典型的には、これは、完全ではなく部分的ミスマッチとしての保存的置換のスコアリングが関与し、これにより、パーセンテージ配列同一性を増加させる。よって、例えば、同一アミノ酸に、1のスコアを与え、非保存的置換に、ゼロのスコアを与える場合、保存的置換には、ゼロ~1の間のスコアを与える。保存的置換のスコアリングは、例えば、プログラムPC/GENE(Intelligenetics、Mountain View、California)において実行される通りに計算される。
【0070】
「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウにわたって2種の最適に整列された配列(最大数の完璧にマッチした残基)を比較することにより決定される値を含み、比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列の部分は、2種の配列の最適整列のために、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含むことができる。両方の配列における同一核酸塩基またはアミノ酸残基が存在する位置の数を決定して、マッチした位置の数を得て、マッチした位置の数を比較のウィンドウにおける位置の総数で割り、結果に100を掛けて、配列同一性のパーセンテージを得ることにより、パーセンテージは計算される。他に指定がなければ(例えば、短い方の配列が、連結された異種配列を含む)、比較ウィンドウは、比較されている2種の配列のうち短い方の全長である。
【0071】
特段の記述がなければ、配列同一性/類似性値は、次のパラメーターを使用したGAPバージョン10を使用して得られる値を含む:ギャップウエイト50および長さウエイト3、ならびにnwsgapdna.cmpスコアリングマトリクスを使用した、ヌクレオチド配列の%同一性および%類似性;ギャップウエイト8および長さウエイト2、ならびにBLOSUM62スコアリングマトリクスを使用した、アミノ酸配列の%同一性および%類似性;またはこれらのいずれかの等価なプログラム。「等価なプログラム」は、問題のいずれか2種の配列に関して、GAPバージョン10によって生成された対応する整列と比較した場合に、同一ヌクレオチドまたはアミノ酸残基マッチおよび同一パーセント配列同一性を有する整列を生成する、いずれかの配列比較プログラムを含む。
【0072】
用語「保存的アミノ酸置換」は、配列に通常存在するアミノ酸の、同様のサイズ、電荷または極性を有する異なるアミノ酸による置換を指す。保存的置換の例として、イソロイシン、バリンまたはロイシン等の非極性(疎水性)残基による、別の非極性残基の置換が挙げられる。同様に、保存的置換の例として、アルギニンとリシンの間、グルタミンとアスパラギンの間、またはグリシンとセリンの間等、ある極性(親水性)残基による、別の極性(親水性)残基の置換が挙げられる。その上、リシン、アルギニンもしくはヒスチジン等の塩基性残基による、別の塩基性残基の置換、またはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸等のある酸性残基による、別の酸性残基の置換が、保存的置換の追加的な例である。非保存的置換の例として、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニンもしくはメチオニン等の非極性(疎水性)アミノ酸残基による、システイン、グルタミン、グルタミン酸もしくはリシン等の極性(親水性)残基の置換、および/または極性残基の非極性残基の置換が挙げられる。典型的なアミノ酸カテゴリー化を下に要約する。
【表24】
【0073】
「相同」配列(例えば、核酸配列)は、例えば、公知参照配列と少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一であるような、公知参照配列と同一または実質的に同様のいずれかである配列を含む。相同配列は、例えば、オルソロガス配列およびパラロガス配列を含むことができる。相同遺伝子は、例えば、典型的に、種分化事象(オルソロガス遺伝子)または遺伝子重複事象(パラロガス遺伝子)のいずれかを経て、共通祖先DNA配列に由来する。「オルソロガス」遺伝子は、種分化によって共通祖先遺伝子から進化した異なる種における遺伝子を含む。オルソログは、典型的に、進化の過程において同じ機能を保持する。「パラロガス」遺伝子は、ゲノム内の重複によって関係付けられた遺伝子を含む。パラログは、進化の過程において新たな機能を進化させることができる。
【0074】
用語「in vitro」は、人為的な環境、および人為的な環境(例えば、試験管)内で発生するプロセスまたは反応を含む。用語「in vivo」は、天然の環境(例えば、細胞または生物または身体)、および天然の環境内で発生するプロセスまたは反応を含む。用語「ex vivo」は、個体の身体から除去された細胞、および斯かる細胞内で発生するプロセスまたは反応を含む。
【0075】
用語「レポーター遺伝子」は、異種プロモーターおよび/またはエンハンサーエレメントに作動可能に連結したレポーター遺伝子配列を含む構築物が、プロモーターおよび/またはエンハンサーエレメントの活性化に必要な因子を含有する(またはこれを含有するように作製することができる)細胞に導入された場合、簡単にかつ定量化可能にアッセイされる遺伝子産物(典型的には酵素)をコードする配列を有する核酸を指す。レポーター遺伝子の例として、ベータ-ガラクトシダーゼ(lacZ)をコードする遺伝子、細菌クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)遺伝子、ホタルルシフェラーゼ遺伝子、ベータ-グルクロニダーゼ(GUS)をコードする遺伝子、および蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるがこれらに限定されない。「レポータータンパク質」は、レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。
【0076】
用語「蛍光レポータータンパク質」は、本明細書で使用される場合、蛍光に基づき検出可能なレポータータンパク質を意味し、この場合、蛍光は、直接的にレポータータンパク質、蛍光原基質におけるレポータータンパク質の活性、または蛍光タグ付けされた化合物への結合に対し親和性を有するタンパク質のいずれかに由来し得る。蛍光タンパク質の例として、緑色蛍光タンパク質(例えば、GFP、GFP-2、タグGFP、turboGFP、eGFP、Emerald、Azami Green、単量体Azami Green、CopGFP、AceGFPおよびZsGreenl)、黄色蛍光タンパク質(例えば、YFP、eYFP、Citrine、Venus、YPet、PhiYFPおよびZsYellowl)、青色蛍光タンパク質(例えば、BFP、eBFP、eBFP2、Azurite、mKalamal、GFPuv、SapphireおよびT-sapphire)、シアン蛍光タンパク質(例えば、CFP、eCFP、Cerulean、CyPet、AmCyanlおよびMidoriishi-Cyan)、赤色蛍光タンパク質(例えば、RFP、mKate、mKate2、mPlum、DsRed単量体、mCherry、mRFP1、DsRed-Express、DsRed2、DsRed-単量体、HcRed-タンデム、HcRedl、AsRed2、eqFP611、mRaspberry、mStrawberryおよびJred)、オレンジ蛍光タンパク質(例えば、mOrange、mKO、Kusabira-Orange、単量体Kusabira-Orange、mTangerineおよびtdTomato)、および細胞におけるその存在をフローサイトメトリー方法によって検出することができる、他のいずれかの適した蛍光タンパク質が挙げられる。
【0077】
用語「組換え」は、2種のポリヌクレオチド間での遺伝情報交換のいずれかのプロセスを含み、いずれかの機構によって発生し得る。二本鎖切断(DSB)に応答した組換えは、主に、2種の保存されたDNA修復経路を経て発生する:非相同末端結合(NHEJ)および相同組換え(HR)。その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Kasparek & Humphrey (2011) Seminars in Cell & Dev. Biol. 22:886-897を参照されたい。同様に、外因性ドナー核酸によって媒介される標的核酸の修復は、2種のポリヌクレオチド間での遺伝情報交換のいずれかのプロセスを含むことができる。
【0078】
NHEJは、相同鋳型の必要がない、互いへの、または外因性配列への、切断末端の直接的ライゲーションによる核酸における二本鎖切断の修復を含む。NHEJによる非近接配列のライゲーションは、多くの場合、二本鎖切断の部位の付近に欠失、挿入または転座をもたらし得る。例えば、NHEJは、外因性ドナー核酸の末端による切断末端の直接的ライゲーションを介した外因性ドナー核酸の標的化された組み込みをもたらす場合もある(すなわち、NHEJに基づく捕捉)。斯かるNHEJに媒介された標的化された組み込みは、相同組換え修復(HDR)経路が容易に使用可能でない場合(例えば、非分裂細胞、初代細胞、および相同性に基づくDNA修復を不十分に行う細胞において)、外因性ドナー核酸の挿入に好まれる場合がある。加えて、相同組換え修復と対比して、切断部位に隣接する配列同一性の大型領域に関する知識が必要とされず、このことは、限られたゲノム配列知識しかないゲノムを有する生物への標的化挿入を試みる際に有益となり得る。組み込みは、外因性ドナー核酸および切断されたゲノム配列の間の平滑末端のライゲーションを介して、または切断されたゲノム配列におけるヌクレアーゼ剤によって生成されたものと適合性のオーバーハングに挟まれた外因性ドナー核酸を使用して、粘着末端(すなわち、5’または3’オーバーハングを有する)のライゲーションを介して進むことができる。例えば、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、US2011/020722、WO2014/033644、WO2014/089290およびMaresca et al. (2013) Genome Res. 23(3):539-546を参照されたい。平滑末端がライゲーションされる場合、標的および/またはドナーの切除が、断片連結に必要とされるマイクロホモロジーの領域の生成に必要とされる場合があり、これは、標的配列において望まれない変更を生じ得る。
【0079】
組換えは、相同組換え修復(HDR)または相同組換え(HR)を介して発生することもできる。HDRまたはHRは、ヌクレオチド配列相同性を要求し得る核酸修復の形態を含み、「標的」分子(すなわち、二本鎖切断を経験した分子)の修復のための鋳型として「ドナー」分子を使用し、ドナーから標的への遺伝情報の移入をもたらす。いかなる特定の理論にも制約されることは望まないが、斯かる移入は、切断された標的およびドナーの間で形成するヘテロ二重鎖DNAのミスマッチ補正、および/または標的の一部になるであろう遺伝情報の再合成にドナーが使用される合成依存性鎖アニーリング、および/または関係するプロセスが関与し得る。一部の場合、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの部分、ドナーポリヌクレオチドのコピー、またはドナーポリヌクレオチドのコピーの部分は、標的DNAへと組み込む。それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Wang et al. (2013) Cell 153:910-918;Mandalos et al. (2012) PLOS ONE 7:e45768:1-9;およびWang et al. (2013) Nat Biotechnol. 31:530-532を参照されたい。
【0080】
用語「抗原結合性タンパク質」は、抗原に結合するいずれかのタンパク質を含む。抗原結合性タンパク質の例として、抗体、抗体の抗原結合性断片、多特異性抗体(例えば、二特異性抗体)、scFV、ビス-scFV、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、V-NAR、VHH、VL、F(ab)、F(ab)、DVD(二重可変ドメイン抗原結合性タンパク質)、SVD(単一可変ドメイン抗原結合性タンパク質)、二特異性T細胞エンゲージャー(bispecific T-cell engager)(BiTE)またはデイビスボディ(Davisbody)(その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,586,713号)が挙げられる。
【0081】
本明細書で使用される場合、表現「抗TRKB抗体」は、単一の特異性を有する一価抗体、ならびにTRKBに結合する第1のアームおよび第2の(標的)抗原に結合する第2のアームを含む二特異性抗体の両方を含み、抗TRKBアームは、例えば、本明細書の表22に表記されているHCVR/LCVRまたはCDR配列のいずれかを含む。表現「抗TrkB抗体」は、薬物または毒素(すなわち、細胞傷害剤)にコンジュゲートされた抗TRKB抗体またはその抗原結合性部分を含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)も含む。表現「抗TRKB抗体」は、放射性核種にコンジュゲートされた抗TRKB抗体またはその抗原結合性部分を含む抗体-放射性核種コンジュゲート(ARC)も含む。
【0082】
用語「抗TRKB抗体」は、本明細書で使用される場合、TRKBまたはTRKBの部分に特異的に結合するまたはこれと相互作用する、少なくとも1個の相補性決定領域(CDR)を含むいずれかの抗原結合性分子または分子複合体を意味する。用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖である、4本のポリペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書では、HCVRまたはVと省略)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3個のドメイン、C1、C2およびC3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書では、LCVRまたはVと省略)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1個のドメイン(C1)を含む。VおよびV領域は、フレームワーク領域(FR)と命名されるより保存された領域がちりばめられている、相補性決定領域(CDR)と命名される高頻度可変性の領域へとさらに細分することができる。各VおよびVは、次の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された、3個のCDRおよび4個のFRで構成されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の異なる実施形態では、抗TRKB抗体(またはその抗原結合性部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得る、または天然にもしくは人為的に改変することができる。アミノ酸コンセンサス配列は、2種またはそれよりも多いCDRのサイド・バイ・サイドの(side-by-side)解析に基づき定義することができる。
【0083】
用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、全長抗体分子の抗原結合性断片も含む。抗体の「抗原結合性部分」、抗体の「抗原結合性断片」、その他の用語は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、いずれかの、酵素により得ることができる、合成のまたは遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合性断片は、例えば、タンパク質分解性消化、または抗体可変および必要に応じて定常ドメインをコードするDNAの操作および発現が関与する組換え遺伝子操作技法等のいずれか適した標準技法を使用して、完全抗体分子から得ることができる。斯かるDNAは、公知である、および/または例えば、商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に利用できる、または合成することができる。DNAを配列決定し、化学的に、または分子生物学技法を使用することにより操作して、例えば、適した構成に1個または複数の可変および/または定常ドメインを配置する、またはコドンを導入する、システイン残基を作製する、アミノ酸を改変、付加もしくは欠失させる等を、行うことができる。
【0084】
抗原結合性断片の非限定的な例として、(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;および(vii)抗体の高頻度可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、CDR3ペプチド等、単離された相補性決定領域(CDR))、または制約されたFR3-CDR3-FR4ペプチドが挙げられる。ドメイン特異的抗体、シングルドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ(minibody)、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小モジュラー免疫医薬品(small modular immunopharmaceutical)(SMIP)およびサメ可変IgNARドメイン等、他の操作された分子も、本明細書で使用される場合の表現「抗原結合性断片」の内に包含される。
【0085】
抗体の抗原結合性断片は、典型的に、少なくとも1個の可変ドメインを含むであろう。可変ドメインは、いかなるサイズまたはアミノ酸組成のものであってもよく、一般に、1個または複数のフレームワーク配列に近接した、またはこれとインフレームにある、少なくとも1個のCDRを含むであろう。Vドメインと会合したVドメインを有する抗原結合性断片において、VおよびVドメインは、互いに対して、任意の適した配置にあり得る。例えば、可変領域は、二量体となり、V-V、V-VまたはV-V二量体を含有することができる。あるいは、抗体の抗原結合性断片は、単量体VまたはVドメインを含有することができる。
【0086】
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合性断片は、少なくとも1個の定常ドメインに共有結合により連結された少なくとも1個の可変ドメインを含有することができる。本発明の抗体の抗原結合性断片内に見出すことができる可変および定常ドメインの非限定的で例示的な構成は、次のものを含む:(i)V-C1;(ii)V-C2;(iii)V-C3;(iv)V-C1-C2;(v)V-C1-C2-C3;(vi)V-C2-C3;(vii)V-C;(viii)V-C1;(ix)V-C2;(x)V-C3;(xi)V-C1-C2;(xii)V-C1-C2-C3;(xiii)V-C2-C3;および(xiv)V-C。上に収載されている例示的な構成のいずれかを含む可変および定常ドメインのいずれかの構成において、可変および定常ドメインは、互いに直接的に連結することができる、または完全もしくは部分的ヒンジもしくはリンカー領域によって連結することができる。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子における近接可変および/または定常ドメインの間に可撓性または半可撓性連結をもたらす、少なくとも2(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれよりも多い)アミノ酸からなることができる。さらに、本発明の抗体の抗原結合性断片は、互いにおよび/または1個もしくは複数の単量体VもしくはVドメインと非共有結合的に会合した(例えば、ジスルフィド結合(複数可)によって)、上に収載されている可変および定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含むことができる。
【0087】
完全抗体分子と同様に、抗原結合性断片は、単一特異性または多特異性(例えば、二特異性)であり得る。抗体の多特異性抗原結合性断片は、典型的に、各可変ドメインが、別々の抗原または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる、少なくとも2個の異なる可変ドメインを含むであろう。本明細書に開示されている例示的な二特異性抗体フォーマットを含むいずれかの多特異性抗体フォーマットは、ルーチン技法を使用した本発明の抗体の抗原結合性断片の文脈における使用に適応させることができる。
【0088】
用語「エピトープ」は、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合性部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は、2個以上のエピトープを有することができる。よって、異なる抗体が、抗原における異なる区域に結合することができ、異なる生物学的効果を有することができる。エピトープは、コンフォメーション性または直鎖状のいずれかであり得る。コンフォメーションエピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメント由来の空間的に並置されたアミノ酸によって産生される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖における近接アミノ酸残基によって産生されるエピトープである。ある特定の状況では、エピトープは、抗原における糖類、ホスホリル基またはスルホニル基の部分を含むことができる。
【0089】
用語「特異的に結合」または「に特異的に結合する」その他は、抗体またはその抗原結合性断片が、生理学的条件下で比較的安定した複合体を抗原と形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-6Mまたはそれ未満の平衡解離定数(例えば、より小さいKは、より緊密な結合を表示する)によって特徴付けることができる。2個の分子が特異的に結合するか決定するための方法は、周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴その他を含む。本明細書に記載されている通り、TRKBに特異的に結合する抗体は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)によって同定された。さらに、TRKBタンパク質および1種もしくは複数の追加的な抗原に結合する多特異性抗体、またはTRKBの2個の異なる領域に結合する二特異性抗体は、それにもかかわらず、本明細書で使用される場合、「特異的に結合」する抗体と考慮される。
【0090】
本明細書に開示されている抗TRKB抗体は、重および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域において1個または複数のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含むことができる。斯かる変異は、本明細書に開示されているアミノ酸配列を、例えば、公開抗体配列データベースから利用できる配列と比較することにより容易に確かめることができる。ひとたび得られたら、1個または複数の変異を含有する抗体および抗原結合性断片は、例えば、改善された結合特異性、増加した結合親和性、改善されたまたは増強されたアンタゴニストまたはアゴニスト生物学的特性(場合による)、低下した免疫原性等、1種または複数の所望の特性に関して簡単に検査することができる。この一般様式で得られる抗体および抗原結合性断片が含まれる。
【0091】
1個または複数の保存的置換を有する、本明細書に開示されているHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む抗TRKB抗体も、含まれる。例えば、本発明は、例えば、表22に表記されているHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比べて、10個またはそれよりも少ない、8個またはそれよりも少ない、6個またはそれよりも少ない、4個またはそれよりも少ない等の保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列を有する抗TRKB抗体を含む。
【0092】
用語「実質的同一性」または「実質的に同一」は、抗TRKB抗体の文脈において核酸またはその断片を指す場合、適切なヌクレオチド挿入または欠失により、別の核酸(またはその相補鎖)と最適に整列されると、後述するFASTA、BLASTまたはGap等の配列同一性のいずれか周知のアルゴリズムによって測定された場合に、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、より好ましくは、少なくとも約96%、97%、98%または99%にヌクレオチド配列同一性が存在することを指し示す。参照核酸分子と実質的同一性を有する核酸分子は、ある特定の実例では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に同様のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができる。
【0093】
抗TRKB抗体の文脈においてポリペプチドに適用される通り、用語「実質的類似性」または「実質的に同様の」は、2種のペプチド配列が、デフォルトギャップウエイトを使用してプログラムGAPまたはBESTFIT等により最適に整列されると、少なくとも95%配列同一性、さらにより好ましくは、少なくとも98%または99%配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる。抗TRKB抗体の文脈においてポリペプチドに適用される場合の「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、同様の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換される置換である。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させないであろう。2種またはそれよりも多いアミノ酸配列が、保存的置換によって互いに異なる場合、パーセント配列同一性または類似性の程度を上向きに調整して、置換の保存的性質に関して補正することができる。この調整を為すための手段は、当業者に周知である。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Pearson (1994) Methods Mol. Biol. 24: 307-331を参照されたい。同様の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例を次に挙げる:(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびスレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リシン、アルギニンおよびヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸;ならびに(7)硫黄含有側鎖、これは、システインおよびメチオニンである。好まれる保存的アミノ酸置換群を次に示す:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミン。あるいは、保存的置き換えは、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Gonnet et al. (1992) Science 256:1443-1445に開示されているPAM250対数尤度マトリクスにおいて正の値を有するいずれかの変化である。「中程度に保存的」置き換えは、PAM250対数尤度マトリクスにおいて負ではない値を有するいずれかの変化である。
【0094】
1種または複数の列挙されたエレメントを「含む(comprising)」または「含む(including)」組成物または方法は、特に列挙されていない他のエレメントを含むことができる。例えば、タンパク質を「含む(comprise)」または「含む(include)」組成物は、タンパク質を、単独で、または他の成分と組み合わせて含有することができる。移行句「から本質的になる」は、特許請求の範囲が、特許請求の範囲に列挙された指定のエレメント、ならびに請求されている発明の基本および新規の特徴(複数可)に実質的に影響を与えないエレメントを包含するものと解釈されるべきであることを意味する。よって、用語「から本質的になる」は、本発明の特許請求の範囲において使用される場合、「含む(comprising)」と均等であると解釈されることを意図しない。
【0095】
「必要に応じた」または「必要に応じて」は、その後に記載される事象または状況が、発生してもしなくてもよいこと、また、記載が、事象または状況が発生する実例、およびそれが発生しない実例を含むことを意味する。
【0096】
値の範囲の指定は、範囲内のまたは範囲を定義する全ての整数、および範囲内の整数によって定義される全ての部分範囲を含む。
【0097】
そうでないことが文脈から明らかとならない限り、用語「約」は、記述されている値の測定の標準許容誤差(例えば、SEM)内の値を包含する。
【0098】
用語「および/または(and/or)」は、関連する収載された項目のうち1種または複数のありとあらゆる可能な組合せと共に、二者択一(「または(or)」)において解釈された場合には組合せの欠如を指し、これを包含する。
【0099】
用語「または(or)」は、特定のリストのうちいずれか1メンバーを指し、当該リストのメンバーのいずれかの組合せも含む。
【0100】
単数形の冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」および「それ(the)」は、そうでないことを文脈が明確に指示しない限り、複数の参照を含む。例えば、用語「1つのタンパク質(a protein)」または「少なくとも1つのタンパク質」は、それらの混合物を含む複数のタンパク質を含むことができる。
【0101】
統計的に有意は、p≦0.05を意味する。
【0102】
詳細な説明
I.概要
ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞および非ヒト動物、ならびに斯かる非ヒト動物細胞および非ヒト動物を使用する方法が、本明細書に開示されている。ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物細胞または非ヒト動物は、ヒトTRKBタンパク質、またはヒトTRKBタンパク質の1個もしくは複数の断片(例えば、ヒトTRKB細胞外ドメインの全体または一部)を含むキメラTRKBタンパク質を発現する。
【0103】
ヒト化TRKB対立遺伝子(例えば、1対1での(one-for-one)、オルソロガスヒトゲノムDNAによる、非ヒト動物ゲノムDNAの全体または一部の置き換えに起因する)は、ヒトTRKB標的化試薬(例えば、ヒトTRKBを標的化するように設計されたアゴニスト抗体またはアゴニスト小分子)の真のヒト標的または真のヒト標的の密接な近似を提供し、これにより、生きている動物における斯かる薬剤の有効性および作用機序の検査、ならびに薬物動態および薬力学研究を可能にするであろう。例えば、本明細書に開示されている実施例に示す通り、ヒトTRKBアゴニスト抗体の硝子体内投与は、ヒト化TrkBラットにおける視神経傷害後に有意な神経保護的効果を有する。
【0104】
II.ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物
本明細書に開示されている非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞および非ヒト動物は、ヒト化TRKB遺伝子座を含む。ヒト化TRKB遺伝子座を含む細胞または非ヒト動物は、ヒトTRKBタンパク質、またはネイティブTRKBタンパク質の1個もしくは複数の断片がヒトTRKB由来の対応する断片(例えば、細胞外ドメインの全体または一部)に置き換えられた、部分的にヒト化されたキメラTRKBタンパク質を発現する。
【0105】
A.TRKB
本明細書に記載されている細胞および非ヒト動物は、ヒト化TRKB遺伝子座を含む。TRKB(BDNF-NT-3増殖因子受容体、GP145-TrkB、Trk-B、TrkB、神経栄養性チロシンキナーゼ受容体2型、TrkBチロシンキナーゼ、トロポミオシン関連キナーゼB、トロポミオシン受容体キナーゼB、神経栄養性受容体チロシンキナーゼ2およびNTRK2としても公知)は、TRKB遺伝子(NTRK2、OBHD、TRK-BおよびGP145-TRKBとしても公知)によってコードされる。TRKBは、ニューロン生存、増殖、遊走、分化、ならびにシナプス形成および可塑性の調節を介して中枢および末梢神経系の発生および成熟に関与する受容体チロシンキナーゼである。TRKBは、BDNF/脳由来神経栄養因子およびNTF4/ニューロトロフィン-4の受容体である。あるいは、TRKBは、NTF3/ニューロトロフィン-3に結合することもでき、これは、受容体の活性化における効率が低いが、TRKBを介してニューロン生存を調節する。リガンド結合後に、TRKBは、ホモ二量体化、自己リン酸化および活性化を起こす。TRKBの正準アイソフォームは、中枢および末梢神経系において発現される。中枢神経系(CNS)において、発現は、大脳皮質、海馬、視床、脈絡叢、小脳の顆粒層、脳幹および脊髄において観察される。末梢神経系において、これは、多くの頭蓋神経節、眼神経、前庭系、複数の顔面構造、顎下腺および後根神経節において発現される。
【0106】
ヒトTRKBは、第9染色体上のヒト9q21.33にマッピングされる(NCBI RefSeq遺伝子ID 4915;アセンブリGRCh38.p7;位置NC_000009.12(84668368..85027070))。この遺伝子は、23個のエクソンを有することが報告されている。野生型ヒトTRKBタンパク質は、UniProt受託番号Q16620を割り当てられた。少なくとも7種のアイソフォームが公知である(Q16620-1からQ16620-7)。1種のアイソフォーム、Q16620-4(NCBI受託番号NP_006171.2と同一)の配列は、配列番号3に表記されている。正準アイソフォームをコードするmRNA(cDNA)は、NCBI受託番号AF410899.1を割り当てられ、配列番号8に表記されている。ヒトTRKBアイソフォームをコードするmRNA(cDNA)の別の例は、RefSeq mRNA ID NM_006180.4を割り当てられる。例示的なコード配列(CDS)は、配列番号11に表記されている。配列番号3に表記されている全長ヒトTRKBタンパク質は、シグナルペプチド(アミノ酸1~31)、細胞外ドメイン(アミノ酸32~430)、膜貫通ドメイン(アミノ酸431~454)および細胞質ドメイン(アミノ酸455~838)を含む838アミノ酸を有する。これらのドメインの間の描写は、UniProtに指定されている通りのものである。ヒトTRKBの参照は、正準(野生型)形態と共に、あらゆる対立遺伝子形態およびアイソフォームを含む。ヒトTRKBの他のいずれかの形態は、野生型形態との最大整列のためにナンバリングされたアミノ酸を有し、整列されたアミノ酸は、同じ番号を指定される。ヒトTRKBの別のアイソフォームの例は、配列番号75に表記されているQ16620-1(NCBI受託番号NP_001018074.1と同一)である。このアイソフォームをコードするmRNA(cDNA)は、NCBI受託番号NM_001018064.2を割り当てられ、配列番号76に表記されている。このアイソフォームの例示的なコード配列(CDS)(CCDS ID CCDS35050.1)は、配列番号77に表記されている。
【0107】
ラットTrkBは、第17染色体上のラット17p14にマッピングされる(NCBI RefSeq遺伝子ID 25054;アセンブリRnor_6.0;位置NC_005116.4(5934651..6245778、相補体))。この遺伝子は、23個のエクソンを有することが報告されている。野生型ラットTRKBタンパク質は、UniProt受託番号Q63604を割り当てられた。少なくとも3種のアイソフォームが公知である(Q63604-1からQ63604-3)。正準アイソフォーム、Q63604-1(NCBI受託番号NP_036863.1と同一)の配列は、配列番号2に表記されている。正準アイソフォームをコードするmRNA(cDNA)は、NCBI受託番号NM_012731.2を割り当てられ、配列番号7に表記されている。ラットTRKBアイソフォームをコードするmRNA(cDNA)の別の例は、RefSeq mRNA ID M55291を割り当てられる。例示的なコード配列(CDS)は、配列番号10に表記されている。配列番号2に表記されている正準全長ラットTRKBタンパク質は、シグナルペプチド(アミノ酸1~31)、細胞外ドメイン(アミノ酸32~429)、膜貫通ドメイン(アミノ酸430~453)および細胞質ドメイン(アミノ酸454~821)を含む821アミノ酸を有する。これらのドメインの間の描写は、UniProtに指定されている通りのものである。ラットTRKBの参照は、正準(野生型)形態と共に、あらゆる対立遺伝子形態およびアイソフォームを含む。ラットTRKBの他のいずれかの形態は、野生型形態との最大整列のためにナンバリングされたアミノ酸を有し、整列されたアミノ酸は、同じ番号を指定される。
【0108】
マウスTrkBは、第12染色体上のマウス13 B1;13 31.2cMにマッピングされる(NCBI RefSeq遺伝子ID 18212;アセンブリGRCm38.p4(GCF_000001635.24);位置NC_000079.6(58806569..59133970))。この遺伝子は、23個のエクソンを有することが報告されている。野生型マウスTRKBタンパク質は、UniProt受託番号P15209を割り当てられた。少なくとも4種のアイソフォームが公知である(P15209-1からP15209-4)。正準アイソフォーム、P15209-1(NCBI受託番号NP_001020245.1およびNP_001269890.1と同一)の配列は、配列番号1に表記されている。正準アイソフォームをコードする例示的なmRNA(cDNA)アイソフォームは、NCBI受託番号NM_001025074.2を割り当てられ、配列番号6に表記されている。例示的なコード配列(CDS)(CCDS ID CCDS26573.1)は、配列番号9に表記されている。配列番号1に表記されている正準全長マウスTRKBタンパク質は、シグナルペプチド(アミノ酸1~31)、細胞外ドメイン(アミノ酸32~429)、膜貫通ドメイン(アミノ酸430~453)および細胞質ドメイン(アミノ酸454~821)を含む821アミノ酸を有する。これらのドメインの間の描写は、UniProtに指定されている通りのものである。マウスTRKBの参照は、正準(野生型)形態と共に、あらゆる対立遺伝子形態およびアイソフォームを含む。マウスTRKBの他のいずれかの形態は、野生型形態との最大整列のためにナンバリングされたアミノ酸を有し、整列されたアミノ酸は、同じ番号を指定される。
【0109】
B.ヒト化TRKB遺伝子座
ヒト化TRKB遺伝子座は、TrkB遺伝子全体が対応するオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた、TrkB遺伝子座であり得る、またはTrkB遺伝子の部分のみが対応するオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた(すなわち、ヒト化された)、TrkB遺伝子座であり得る。必要に応じて、対応するオルソロガスヒトTRKB配列は、非ヒト動物におけるコドン使用に基づきコドン最適化されるように改変される。置き換えられた(すなわち、ヒト化された)領域は、エクソン等のコード領域、イントロン等の非コード領域、非翻訳領域もしくは調節領域(例えば、プロモーター、エンハンサーまたは転写リプレッサー結合エレメント)、またはこれらのいずれかの組合せを含むことができる。一例として、ヒトTRKB遺伝子の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22または全23個のエクソンに対応するエクソンは、ヒト化することができる。例えば、ヒトTRKB遺伝子のエクソン3~10に対応するエクソンは、ヒト化することができ、シグナルペプチドの直後に始まる、アミノ酸33をコードするコドン由来のエクソン2(コーディングエクソン1)のセグメントを含む。あるいは、抗ヒトTRKB抗原結合性タンパク質によって認識されるエピトープをコードするTrkBの領域、またはヒトTRKB標的化試薬(例えば、小分子)によって標的化される領域は、ヒト化することができる。同様に、ヒトTRKB遺伝子の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21または全22個のイントロンに対応するイントロンは、ヒト化することができる、または内在性のままであってよい。例えば、ヒトTRKB遺伝子のエクソン2および10の間のイントロン(すなわち、イントロン2~9、コーディングエクソン1およびエクソン10の間)に対応するイントロンは、ヒト化することができ、必要に応じて、エクソン10に続くイントロン(すなわち、イントロン10)の一部を含む。調節配列を含む隣接する非翻訳領域もまた、ヒト化しても内在性のままであってもよい。例えば、5’非翻訳領域(UTR)、3’UTR、もしくは5’UTRおよび3’UTRの両方は、ヒト化することができる、または5’UTR、3’UTR、もしくは5’UTRおよび3’UTRの両方は、内在性のままであってよい。具体例では、5’UTRおよび3’UTRの両方は、内在性のままとなる。オルソロガス配列による置き換えの度合に応じて、プロモーター等の調節配列は、内在性であり得る、またはヒトオルソロガス配列を置き換えることにより供給することができる。例えば、ヒト化TRKB遺伝子座は、内在性非ヒト動物TrkBプロモーターを含むことができる。
【0110】
シグナルペプチド、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインもしくは細胞外ドメインをコードする領域のうち1種もしくは複数もしくは全種は、ヒト化することができる、または斯かる領域のうち1種もしくは複数は、内在性のままであってよい。マウスTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインの例示的なコード配列は、それぞれ配列番号63~66に表記されている。ラットTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインの例示的なコード配列は、それぞれ配列番号67~70に表記されている。ヒトTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインの例示的なコード配列は、それぞれ配列番号71~74に表記されている。
【0111】
例えば、シグナルペプチドをコードするTrkB遺伝子座の領域の全体もしくは一部は、ヒト化することができる、および/または細胞外ドメインをコードするTrkB遺伝子座の領域の全体もしくは一部は、ヒト化することができる、および/または膜貫通ドメインをコードするTrkB遺伝子座の領域の全体もしくは一部は、ヒト化することができる、および/または細胞質ドメインをコードするTrkB遺伝子座の領域の全体もしくは一部は、ヒト化することができる。一例では、細胞外ドメインをコードするTrkB遺伝子座の領域の全体または一部は、ヒト化される。必要に応じて、ヒトTRKB細胞外ドメインのCDSは、配列番号72(またはその縮重体(degenerate))と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなる。TRKBタンパク質は、ネイティブTRKBの活性を保持することができる(例えば、リン酸化されるようになる能力を保持する、PI3K/AKTおよびMAPK/ERK経路等の下流シグナル伝達経路を活性化する能力を保持する、またはニューロン生存、増殖、遊走、分化、もしくはシナプス形成および可塑性を調節する、または本明細書の他の箇所に開示されている表現型のいずれかを産生する能力を保持する)。例えば、内在性シグナルペプチド、内在性細胞質ドメイン、内在性膜貫通ドメインおよびヒト化細胞外ドメインを有するキメラTRKBタンパク質が産生されるように、細胞外ドメインをコードするTrkB遺伝子座の領域は、ヒト化することができる。
【0112】
シグナルペプチド、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインまたは細胞外ドメインをコードする領域のうち1種または複数は、内在性のままであってよい。例えば、シグナルペプチドおよび/または細胞質ドメインおよび/または膜貫通ドメインをコードする領域は、内在性のままであってよい。必要に応じて、内在性TRKBシグナルペプチドのCDSは、配列番号63または67(またはその縮重体)と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなる。必要に応じて、内在性TRKB膜貫通ドメインのCDSは、配列番号65または69(またはその縮重体)と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなる。必要に応じて、内在性TRKB細胞質ドメインのCDSは、配列番号66または70(またはその縮重体)と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなる。各場合において、TRKBタンパク質は、ネイティブTRKBの活性を保持することができる。
【0113】
ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKBタンパク質は、ヒトTRKBタンパク質に由来する1種もしくは複数のドメイン、および/または内在性(すなわち、ネイティブ)TRKBタンパク質に由来する1種もしくは複数のドメインを含むことができる。マウスTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインの例示的なアミノ酸配列は、それぞれ配列番号51~54に表記されている。ラットTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインの例示的なアミノ酸配列は、それぞれ配列番号55~58に表記されている。ヒトTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインの例示的なアミノ酸配列は、それぞれ配列番号59~62に表記されている。
【0114】
TRKBタンパク質は、ヒトTRKBシグナルペプチド、ヒトTRKB細胞外ドメイン、ヒトTRKB膜貫通ドメイン、およびヒトTRKB細胞質ドメインのうち1種または複数または全種を含むことができる。一例として、TRKBタンパク質は、ヒトTRKB細胞外ドメインを含むことができる。
【0115】
ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKBタンパク質は、内在性(すなわち、ネイティブ)非ヒト動物TRKBタンパク質に由来する1種または複数のドメインを含むこともできる。一例として、ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKBタンパク質は、内在性(すなわち、ネイティブ)非ヒト動物TRKBタンパク質由来のシグナルペプチド、および/または内在性(すなわち、ネイティブ)非ヒト動物TRKBタンパク質由来の細胞質ドメイン、および/または内在性(すなわち、ネイティブ)非ヒト動物TRKBタンパク質由来の膜貫通ドメインを含むことができる。
【0116】
ヒトTRKBタンパク質に由来するキメラTRKBタンパク質におけるドメインは、完全にヒト化された配列によってコードされ得る(すなわち、当該ドメインをコードする配列全体が、オルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられる)、または部分的にヒト化された配列によってコードされ得る(すなわち、当該ドメインをコードする配列の一部が、オルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられ、コードされるドメインが、ヒトTRKBタンパク質における当該ドメインと同一となるように、当該ドメインをコードする残っている内在性(すなわち、ネイティブ)配列が、オルソロガスヒトTRKB配列と同じアミノ酸をコードする)。同様に、内在性TRKBタンパク質に由来するキメラタンパク質におけるドメインは、完全に内在性の配列によってコードされ得る(すなわち、当該ドメインをコードする配列全体が、内在性TrkB配列である)、または部分的にヒト化された配列によってコードされ得る(すなわち、当該ドメインをコードする配列の一部が、オルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられるが、コードされるドメインが、内在性TRKBタンパク質における当該ドメインと同一となるように、オルソロガスヒトTRKB配列が、置き換えられた内在性TrkB配列と同じアミノ酸をコードする)。例えば、膜貫通ドメインをコードするTrkB遺伝子座の領域の一部(例えば、膜貫通ドメインのN末端領域をコードする)は、オルソロガスヒトTRKB配列に置き換えることができ、オルソロガスヒトTRKB配列によってコードされる膜貫通ドメインの領域のアミノ酸配列は、対応する内在性アミノ酸配列と同一である。
【0117】
一例として、ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKBタンパク質は、ヒトTRKB細胞外ドメインを含むことができる。必要に応じて、ヒトTRKB細胞外ドメインは、配列番号60と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなる。TRKBタンパク質は、ネイティブTRKBの活性を保持する(例えば、リン酸化されるようになる能力を保持する、PI3K/AKTおよびMAPK/ERK経路等の下流シグナル伝達経路を活性化する能力を保持する、またはニューロン生存、増殖、遊走、分化、もしくはシナプス形成および可塑性を調節する、または本明細書の他の箇所に開示されている表現型のいずれかを産生する能力を保持する)。別の例として、ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKBタンパク質は、内在性非ヒト動物TRKB細胞質ドメイン(例えば、マウスTRKB細胞質ドメインまたはラットTRKB細胞質ドメイン)を含むことができる。必要に応じて、非ヒト動物TRKB細胞質ドメインは、配列番号54または58と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなる。別の例として、ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKBタンパク質は、内在性非ヒト動物TRKB膜貫通ドメイン(例えば、マウスTRKB膜貫通ドメインまたはラットTRKB膜貫通ドメイン)を含むことができる。必要に応じて、非ヒト動物TRKB膜貫通ドメインは、配列番号53または57と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなる。別の例として、ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKBタンパク質は、内在性非ヒト動物TRKBシグナルペプチド(例えば、マウスTRKBシグナルペプチドまたはラットTRKBシグナルペプチド)を含むことができる。必要に応じて、非ヒト動物TRKBシグナルペプチドは、配列番号51または55と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなる。各場合において、TRKBタンパク質は、ネイティブTRKBの活性を保持することができる。例えば、ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKBタンパク質は、配列番号4または5と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなることができる。必要に応じて、ヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるTRKB CDSは、配列番号12または13(またはその縮重体)と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む、これから本質的になる、またはこれからなることができる。各場合において、TRKBタンパク質は、ネイティブTRKBの活性を保持することができる。
【0118】
必要に応じて、ヒト化TRKB遺伝子座は、他のエレメントを含むことができる。斯かるエレメントの例として、選択カセット、レポーター遺伝子、リコンビナーゼ認識部位または他のエレメントを挙げることができる。あるいは、ヒト化TRKB遺伝子座は、他のエレメントを欠如することができる(例えば、選択マーカーまたは選択カセットを欠如することができる)。適したレポーター遺伝子およびレポータータンパク質の例は、本明細書の他の箇所に開示されている。適した選択マーカーの例として、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ(puro)、ブラストサイジンSデアミナーゼ(bsr)、キサンチン/グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-k)が挙げられる。リコンビナーゼの例として、Cre、FlpおよびDreリコンビナーゼが挙げられる。Creリコンビナーゼ遺伝子の一例は、Creiであり、この遺伝子において、Creリコンビナーゼをコードする2個のエクソンは、原核細胞におけるその発現を防止するためにイントロンによって分離されている。斯かるリコンビナーゼは、核への局在化を容易にする核局在化シグナルをさらに含むことができる(例えば、NLS-Crei)。リコンビナーゼ認識部位は、部位特異的リコンビナーゼによって認識されるヌクレオチド配列を含み、組換え事象のための基質として機能することができる。リコンビナーゼ認識部位の例として、FRT、FRT11、FRT71、attp、att、rox、ならびにloxP、lox511、lox2272、lox66、lox71、loxM2およびlox5171等のlox部位が挙げられる。
【0119】
レポーター遺伝子または選択カセット等、他のエレメントは、リコンビナーゼ認識部位に挟まれた自己欠失(self-deleting)カセットであり得る。例えば、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、US8,697,851およびUS2013/0312129を参照されたい。例として、自己欠失カセットは、マウスPrm1プロモーターに作動可能に連結したCrei遺伝子(イントロンによって分離された、Creリコンビナーゼをコードする2個のエクソンを含む)、およびヒトユビキチンプロモーターに作動可能に連結したネオマイシン抵抗性遺伝子を含むことができる。Prm1プロモーターを用いることにより、F0動物の雄性胚細胞において自己欠失カセットを特異的に欠失させることができる。選択マーカーをコードするポリヌクレオチドは、標的化されている細胞において活性があるプロモーターに作動可能に連結することができる。プロモーターの例は、本明細書の他の箇所に記載されている。別の具体例として、自己欠失選択カセットは、1個または複数のプロモーター(例えば、ヒトユビキチンおよびEM7プロモーターの両方)に作動可能に連結したハイグロマイシン抵抗性遺伝子コード配列、それに続いて、ポリアデニル化シグナル、それに続いて、1個または複数のプロモーター(例えば、mPrm1プロモーター)に作動可能に連結したCreiコード配列、それに続いて、別のポリアデニル化シグナルを含むことができ、カセット全体は、loxP部位に挟まれている。
【0120】
ヒト化TRKB遺伝子座は、コンディショナル対立遺伝子であってもよい。例えば、コンディショナル対立遺伝子は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるUS2011/0104799に記載されている通り、多機能性対立遺伝子であり得る。例えば、コンディショナル対立遺伝子は、次のものを含むことができる:(a)標的遺伝子の転写に関してセンス配向性にある発動配列;(b)センスまたはアンチセンス配向性にある薬物選択カセット(DSC);(c)アンチセンス配向性にある目的のヌクレオチド配列(NSI);および(d)逆向きの配向性にある反転によりコンディショナルなモジュール(COIN、これは、エクソン分断イントロンおよび反転可能な遺伝子トラップ様モジュールを利用する)。例えば、US2011/0104799を参照されたい。コンディショナル対立遺伝子は、第1のリコンビナーゼへの曝露後に組換えを行って、(i)発動配列およびDSCを欠如し、(ii)センス配向性にあるNSIおよびアンチセンス配向性にあるCOINを含有するコンディショナル対立遺伝子を形成する、組換え可能(recombinable)単位をさらに含むことができる。例えば、US2011/0104799を参照されたい。
【0121】
例示的なヒト化TRKB遺伝子座(例えば、ヒト化マウスTrkB遺伝子座またはヒト化ラットTrkB遺伝子座)の1つは、シグナルペプチドの直後に始まる、アミノ酸33をコードするコドン(またはそれぞれマウスTrkB、ラットTrkBもしくはヒトTRKB CDSと最適に整列された場合に、マウスTrkB、ラットTrkBもしくはヒトTRKBにおけるアミノ酸33をコードするコドンに対応するコドン)由来のエクソン2/コーディングエクソン1から、イントロン10の部分を必要に応じて含む、エクソン10(またはそれぞれマウスTrkB、ラットTrkBもしくはヒトTRKB CDSと最適に整列された場合に、マウスTrkB、ラットTrkBもしくはヒトTRKBエクソン10に対応するエクソン)における領域が、対応するヒト配列に置き換えられた、遺伝子座である。置き換えられた領域は、TRKBの細胞外ドメインをコードする。図1および図4ならびに配列番号4および5を参照されたい。
【0122】
C.ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞および非ヒト動物
本明細書の他の箇所に記載されているヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞および非ヒト動物が提供される。ゲノム、細胞または非ヒト動物は、雄または雌であり得る。ゲノム、細胞または非ヒト動物は、ヒト化TRKB遺伝子座に関してヘテロ接合性またはホモ接合性であり得る。二倍体生物は、各遺伝子座位に2個の対立遺伝子を有する。対立遺伝子の各ペアは、特異的遺伝子座位の遺伝子型を表す。遺伝子型は、特定の遺伝子座に2個の同一対立遺伝子が存在する場合、ホモ接合性として、2個の対立遺伝子が異なる場合、ヘテロ接合性として記載される。
【0123】
本明細書に提供される非ヒト動物ゲノムまたは細胞は、例えば、TrkB遺伝子座またはヒトTRKB遺伝子座と相同またはオルソロガスであるゲノム遺伝子座を含む、いずれかの非ヒト動物ゲノムまたは細胞であり得る。ゲノムは、例えば、真菌細胞(例えば、酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞およびヒト細胞を含む、真核細胞に由来することができる、または細胞は、そのような細胞であり得る。用語「動物」は、例えば、哺乳動物、魚類、爬虫類、両生類、鳥類および虫(worm)を含む、動物界のいずれかのメンバーを含む。哺乳動物細胞は、例えば、非ヒト哺乳動物細胞、齧歯類細胞、ラット細胞、マウス細胞またはハムスター細胞であり得る。他の非ヒト哺乳動物は、例えば、非ヒト霊長類、サル、類人猿、オランウータン、ネコ、イヌ、ウサギ、ウマ、雄ウシ、シカ、バイソン、家畜(例えば、雌ウシ、去勢雄牛(steer)等のウシ種;羊、ヤギ等のヒツジ種;ならびに豚およびイノシシ等のブタ種)を含む。鳥類は、例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、ダチョウ、ガチョウ、アヒルその他を含む。飼い慣らされた動物および農業用動物も含まれる。用語「非ヒト」は、ヒトを除外する。
【0124】
細胞は、いずれかの種類の未分化または分化状態であってもよい。例えば、細胞は、全能性細胞、多能性細胞(例えば、ヒト多能性細胞、またはマウス胚性幹(ES)細胞もしくはラットES細胞等の非ヒト多能性細胞)または非多能性細胞であり得る。全能性細胞は、いかなる細胞型を生じることもできる未分化細胞を含み、多能性細胞は、2種以上の分化した細胞型へと発生する能力を保有する未分化細胞を含む。斯かる多能性および/または全能性細胞は、例えば、ES細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞等のES様細胞であり得る。ES細胞は、胚への導入の際に発生中の胚のいずれかの組織に寄与することができる胚由来全能性または多能性細胞を含む。ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来することができ、3種の脊椎動物胚葉(内胚葉、外胚葉および中胚葉)のいずれかの細胞へと分化することができる。
【0125】
本明細書に提供される細胞は、胚細胞(例えば、精子または卵母細胞)であってもよい。細胞は、有糸分裂する能力がある(competent)細胞または有糸分裂的に不活性な細胞、減数分裂する能力がある細胞または減数分裂的に不活性な細胞であり得る。類似して、細胞は、初代体細胞、または初代体細胞ではない細胞であってもよい。体細胞は、配偶子でも、胚細胞でも、生殖母細胞でも、未分化幹細胞でもない、いずれかの細胞を含む。例えば、細胞は、海馬ニューロンまたは皮質ニューロン等、ニューロンであり得る。
【0126】
本明細書に提供される適した細胞は、初代細胞も含む。初代細胞は、生物、臓器または組織から直接的に単離された細胞または細胞培養物を含む。初代細胞は、形質転換されておらず、不死でもない細胞を含む。これは、組織培養を以前に経験していない、または組織培養を以前に経験したことがあるが、組織培養を無制限に経験することができない、生物、臓器または組織から得られるいずれかの細胞を含む。斯かる細胞は、従来技法によって単離することができ、例えば、海馬ニューロンまたは皮質ニューロンを含む。
【0127】
本明細書に提供される他の適した細胞は、不死化細胞を含む。不死化細胞は、正常では無制限に増殖しないが、変異または変更により、正常な細胞老化を逃れ、その代わりに、分裂を起こし続けることができる、多細胞生物由来の細胞を含む。斯かる変異または変更は、天然に発生し得る、または意図的に誘導することができる。不死化細胞系の具体例は、N18TG2もしくはT48等の神経芽細胞腫細胞系またはNIH-3T3細胞系等の細胞系である。多数の種類の不死化細胞が周知である。不死化または初代細胞は、培養に、または組換え遺伝子もしくはタンパク質の発現に典型的に使用される細胞を含む。
【0128】
本明細書に提供される細胞は、1細胞期胚(すなわち、受精した卵母細胞または接合子)も含む。斯かる1細胞期胚は、いずれの遺伝的背景(例えば、マウスに関してBALB/c、C57BL/6、129またはこれらの組合せ)に由来することもでき、新鮮であっても凍結してもよく、自然交配またはin vitro受精に由来することができる。
【0129】
本明細書に提供される細胞は、正常で健康な細胞であり得る、または罹患したもしくは変異体を有する細胞であり得る。
【0130】
本明細書に記載されているヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物は、本明細書の他の箇所に記載されている方法によって作製することができる。用語「動物」は、例えば、哺乳動物、魚類、爬虫類、両生類、鳥類および虫を含む、動物界のいずれかのメンバーを含む。具体例では、非ヒト動物は、非ヒト哺乳動物である。非ヒト哺乳動物は、例えば、非ヒト霊長類、サル、類人猿、オランウータン、ネコ、イヌ、ウマ、雄ウシ、シカ、バイソン、羊、ウサギ、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモット)および家畜(例えば、雌ウシおよび去勢雄牛等のウシ種;羊およびヤギ等のヒツジ種;ならびに豚およびイノシシ等のブタ種)を含む。鳥類は、例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、ダチョウ、ガチョウおよびアヒルを含む。飼い慣らされた動物および農業用動物も含まれる。用語「非ヒト動物」は、ヒトを除外する。好まれる非ヒト動物は、例えば、マウスおよびラット等の齧歯類を含む。
【0131】
非ヒト動物は、いずれかの遺伝的背景に由来することができる。例えば、適したマウスは、129系統、C57BL/6系統、129およびC57BL/6のミックス、BALB/c系統、またはスイスウェブスター(Swiss Webster)系統に由来することができる。129系統の例として、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/Svlm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1および129T2が挙げられる。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Festing et al. (1999) Mammalian Genome 10:836を参照されたい。C57BL系統の例として、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/Kal_wN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10CrおよびC57BL/Olaが挙げられる。適したマウスは、上述の129系統および上述のC57BL/6系統のミックス(例えば、50%129および50%C57BL/6)に由来することもできる。同様に、適したマウスは、上述の129系統のミックスまたは上述のBL/6系統のミックス(例えば、129S6(129/SvEvTac)系統)に由来することができる。
【0132】
類似して、ラットは、例えば、ACIラット系統、ダークアグーチ(Dark Agouti)(DA)ラット系統、ウィスター(Wistar)ラット系統、LEAラット系統、スプラーグドーリー(Sprague Dawley)(SD)ラット系統、またはフィッシャー(Fisher)F344もしくはフィッシャーF6等のフィッシャー(Fischer)ラット系統を含む、いずれかのラット系統に由来することができる。ラットは、上に列挙されている2種またはそれよりも多い系統のミックスに由来する系統から得ることもできる。例えば、適したラットは、DA系統またはACI系統に由来することができる。ACIラット系統は、白色の腹部および足ならびにRT1av1ハプロタイプを含む黒色アグーチを有するものとして特徴付けられる。斯かる系統は、Harlan Laboratoriesを含む種々の供給源から入手することができる。ダークアグーチ(DA)ラット系統は、アグーチコートおよびRT1av1ハプロタイプを有するものとして特徴付けられる。斯かるラットは、Charles RiverおよびHarlan Laboratoriesを含む種々の供給源から入手することができる。いくつかの適したラットは、純系ラット系統に由来することができる。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、US2014/0235933を参照されたい。
【0133】
III.ヒトTRKB標的化試薬の有効性をin vivoまたはex vivoで評価するためにヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物を使用する方法
ヒトTRKB標的化試薬(例えば、治療アゴニスト分子)の送達または有効性をin vivoまたはex vivoで評価または最適化するために、本明細書の他の箇所に記載されているヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物を使用するための様々な方法が提供される。非ヒト動物は、ヒト化TRKB遺伝子座を含むため、非ヒト動物は、ヒトTRKB標的化試薬の有効性をより正確に反映するであろう。
【0134】
A.ヒトTRKB標的化試薬の有効性をin vivoまたはex vivoで検査する方法
本明細書の他の箇所に記載されているヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物を使用して、ヒトTRKB標的化試薬の送達または有効性をin vivoで評価するための様々な方法が提供される。斯かる方法は、(a)非ヒト動物にヒトTRKB標的化試薬を導入するステップと、(b)ヒトTRKB標的化試薬の活性を評価するステップとを含むことができる。
【0135】
ヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKB標的化抗体もしくは抗原結合性タンパク質、またはヒトTRKBを標的化する他のいずれかの大分子もしくは小分子であり得る。あるいは、ヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKB遺伝子座(ヒトTRKB遺伝子)、ヒトTRKB mRNAまたはヒトTRKBタンパク質を標的化する、いずれかの生物学的または化学的薬剤であり得る。ヒトTRKB標的化試薬の例は、本明細書の他の箇所に開示されている。
【0136】
斯かるヒトTRKB標的化試薬は、本明細書の他の箇所においてより詳細に開示されているいずれかの送達方法(例えば、注射、AAV、LNPまたはHDD)、およびいずれかの投与経路によって投与することができる。治療分子を送達する手段および投与経路は、本明細書の他の箇所においてより詳細に開示されている。特定の方法では、試薬は、注射(例えば、直接的海馬注射、皮下注射または硝子体内注射)により送達される。
【0137】
ヒトTRKB標的化試薬の活性を評価するための方法は、周知であり、本明細書の他の箇所に提供されている。一部の方法では、ヒトTRKB標的化試薬の活性(例えば、アゴニスト活性または阻害活性)を評価するステップは、本明細書の他の箇所に開示されているTRKB活性(例えば、TRKBリン酸化、下流シグナル伝達経路のTRKB媒介性活性化、またはTRKB誘導性表現型)を評価するステップを含む。活性の評価は、本明細書の他の箇所に開示されているいずれかの細胞型、いずれかの組織型、またはいずれかの臓器型において行うことができる。一部の方法では、活性の評価は、脳組織(例えば、海馬または線条体)またはニューロン(例えば、網膜神経節細胞、海馬ニューロンまたは皮質ニューロン)におけるものである。
【0138】
TRKB標的化試薬が、ゲノム編集試薬(例えば、ヌクレアーゼ剤)である場合、斯かる方法は、ヒト化TRKB遺伝子座の改変を評価するステップを含むことができる。例えば、評価するステップは、非ヒト動物から単離された1個または複数の細胞におけるヒト化TRKB遺伝子座を配列決定(例えば、次世代配列決定)するステップを含むことができる。評価は、非ヒト動物から標的臓器(例えば、脳)または組織を単離するステップと、標的臓器または組織におけるヒト化TRKB遺伝子座の改変を評価するステップを含むことができる。評価は、標的臓器または組織内の2種またはそれよりも多い異なる細胞型におけるヒト化TRKB遺伝子座の改変を評価するステップを含むこともできる。類似して、評価は、非ヒト動物から非標的臓器または組織(例えば、2種またはそれよりも多い非標的臓器または組織)を単離するステップと、非標的臓器または組織におけるヒト化TRKB遺伝子座の改変を評価するステップとを含むことができる。
【0139】
斯かる方法は、ヒト化TRKB遺伝子座によって産生されたmRNAの発現レベルを測定するステップ、またはヒト化TRKB遺伝子座によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定するステップを含むこともできる。例えば、タンパク質レベルは、特定の細胞、組織もしくは臓器型(例えば、脳)において測定することができる、または分泌レベルは、血清において測定することができる。ヒト化TRKB遺伝子座から発現されるTRKB mRNAまたはタンパク質の発現を評価するための方法は、本明細書の他の箇所に提供されており、周知である。
【0140】
活性をin vivoで評価するための上に提供されている様々な方法を使用して、本明細書の他の箇所に記載されている通り、ヒトTRKB標的化試薬の活性をex vivoで評価することもできる。
【0141】
B.ヒトTRKB標的化試薬の送達または有効性をin vivoまたはex vivoで最適化する方法
細胞もしくは非ヒト動物へのヒトTRKB標的化試薬の送達を最適化するための、またはヒトTRKB標的化試薬の活性もしくは有効性をin vivoで最適化するための様々な方法が提供される。斯かる方法は、例えば、(a)1回目に、第1の非ヒト動物または第1の細胞において、上に記載されているヒトTRKB標的化試薬の有効性を検査する方法を行うステップと、(b)変数を変化させ、2回目に、第2の非ヒト動物(すなわち、同じ種の)または第2の細胞において、変化させた変数により方法を行うステップと、(c)ステップ(a)におけるヒトTRKB標的化試薬の活性を、ステップ(b)におけるヒトTRKB標的化試薬の活性と比較し、より高い有効性または活性をもたらす方法を選択するステップとを含むことができる。
【0142】
ヒトTRKB標的化試薬の送達、有効性または活性を測定する方法は、本明細書の他の箇所に開示されている。より高い有効性は、非ヒト動物または細胞内の所望の効果に応じて異なる事柄を意味することができる。例えば、より高い有効性は、より高い活性および/またはより高い特異性を意味することができる。より高い活性は、例えば、TRKBの活性化における活性またはTRKBの阻害における活性であり得る。これは、特定の標的細胞型(例えば、網膜神経節細胞等のニューロン)内でまたは特定の標的組織もしくは臓器(例えば、脳)内で、より高いパーセンテージの細胞が標的化されることを指すことができる。より高い特異性は、オフターゲット効果と比較してTRKBに関するより高い特異性、標的化された細胞型に関するより高い特異性、または標的化された組織もしくは臓器型に関するより高い特異性を指すことができる。
【0143】
変化される変数は、いずれかのパラメーターであり得る。一例として、変化される変数は、ヒトTRKB標的化試薬(単数または複数)が細胞または非ヒト動物に導入されるパッケージングまたは送達方法であり得る。送達方法の例は、本明細書の他の箇所に開示されている。別の例として、変化される変数は、細胞または非ヒト動物へのヒトTRKB標的化試薬(単数または複数)の導入のための投与経路であり得る。投与経路の例は、本明細書の他の箇所に開示されている。
【0144】
別の例として、変化される変数は、導入されるヒトTRKB標的化試薬(単数または複数)の濃度または量であり得る。別の例として、変化される変数は、試薬の活性または有効性を評価するタイミングと比べた、ヒトTRKB標的化試薬(単数または複数)を導入するタイミングであり得る。別の例として、変化される変数は、ヒトTRKB標的化試薬(単数または複数)が導入される回数または頻度であり得る。別の例として、変化される変数は、導入されるヒトTRKB標的化試薬(単数または複数)(例えば、ある試薬を異なる試薬と比較する)であり得る。
【0145】
C.ヒトTRKB標的化試薬
ヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKBタンパク質、ヒトTRKB遺伝子またはヒトTRKB mRNAを標的化するいずれかの試薬であり得る。ヒトTRKB標的化試薬は、例えば、アゴニスト(すなわち、ヒトTRKBを間接的にまたは直接的に活性化する分子)であり得る、またはアンタゴニスト(すなわち、ヒトTRKB活性を遮断する阻害剤または阻害性試薬)であり得る。具体例では、ヒトTRKB標的化試薬は、TRKBアゴニストである。本明細書に開示されている方法におけるヒトTRKB標的化試薬は、公知ヒトTRKB標的化試薬であり得る、推定上のヒトTRKB標的化試薬(例えば、ヒトTRKBを標的化するように設計された候補試薬)であり得る、またはヒトTRKB標的化活性に関してスクリーニングされている試薬であり得る。
【0146】
例えば、ヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKBタンパク質のエピトープを標的化する抗原結合性タンパク質(例えば、アゴニスト抗体)であり得る。斯かる試薬の例は、TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2である。他の抗TRKB抗体は、本明細書の他の箇所に開示されている。一部の場合、抗TRKB抗体は、25℃または37℃の表面プラズモン共鳴によって測定された場合に、約200nM未満のKで、ヒトTRKBに結合する。他の場合では、抗TRKB抗体は、約600pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約150pM未満、約100pM未満、約80pM未満、約50pM未満、約40pM未満、約30pM未満、約20pM未満、約10pM未満、約5pM未満、約3pM未満または約1pM未満のKで、ヒトTRKBに結合する。一部の場合、抗TRKB抗体は、25℃または37℃の表面プラズモン共鳴によって測定された場合に、約10分間を超える解離半減期(t1/2)で、ヒトTRKBに結合する。他の場合では、抗TRKB抗体は、約20分間を超える、約50分間を超える、約100分間を超える、約120分間を超える、約150分間を超える、約300分間を超える、約350分間を超える、約400分間を超える、約450分間を超える、約500分間を超える、約550分間を超える、約600分間を超える、約700分間を超える、約800分間を超える、約900分間を超える、約1000分間を超える、約1100分間を超えるまたは約1200分間を超えるt1/2で、ヒトTRKBに結合する。具体例として、抗TRKB抗体は、表22に表記されている群から選択される6個のCDR(HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有する実質的に同様の配列のセットを含むことができる。
【0147】
他のヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKBタンパク質を標的化する小分子(例えば、アゴニスト)を含む。小分子TRKBアゴニストの例として、7,8-ジヒドロキシフラボン(7,8-DHF)、デオキシゲデュニン(deoxygedunin)、LM22A-4(N,N’,N’’-トリス(2-ヒドロキシエチル)-1,3,5-ベンゼントリカルボキサミド)およびLM22B-10(2-[[4-[[4-[ビス-(2-ヒドロキシエチル)-アミノ]-フェニル]-(4-クロロ-フェニル)-メチル]-フェニル]-(2-ヒドロキシ-エチル)-アミノ]-エタノール)が挙げられる。例えば、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Liu et al. (2015) Translational Neurodegeneration 5:2;Massa et al. (2010) J. Clin. Invest. 120(5):1774-1785;およびYang et al. (2016) Neuropharmacology 110:343-361を参照されたい。阻害剤であるTRKB標的化試薬の例は、K252aである。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Yang et al. (2016) Neuropharmacology 110:343-361を参照されたい。
【0148】
他のヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKBタンパク質を標的化するペプチドまたはペプチドミメティック(例えば、アゴニスト)を含む。ヒトTRKBアゴニストとして機能するペプチドミメティックの例は、例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、O'Leary et al. (2003) J. Biol. Chem. 278(28):25738-25744に開示されている。
【0149】
他のヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKB遺伝子内の認識部位を切断するヌクレアーゼ剤(例えば、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspersed short Palindromic Repeat)(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)(CRISPR/Cas)ヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN))等のゲノム編集試薬を含むことができる。同様に、ヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKB遺伝子と組換えるように設計された外因性ドナー核酸(例えば、標的化ベクターまたは一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN))であり得る)。
【0150】
他のヒトTRKB標的化試薬は、ヒトTRKB mRNAを標的化するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、siRNAまたはshRNA)を含むことができる。アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)またはアンチセンスRNAは、標的化されたタンパク質をコードするRNAに選択的に結合し、これにより、翻訳を防止することにより、標的化されたタンパク質の発現を防止するように設計されたヌクレオチドの短い合成ストリングである。これらの化合物は、十分に特徴付けられたワトソン・クリック塩基対形成(ハイブリダイゼーション)により、高い親和性および選択性でRNAに結合する。RNA干渉(RNAi)は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合された低分子干渉RNA(siRNA)が、標的メッセンジャーRNA(mRNA)の切断を媒介する、遺伝子発現を制御するための内在性細胞機構である。
【0151】
本明細書に開示されている非ヒト動物を使用して、他のいずれかの公知のまたは推定上のヒトTRKB標的化試薬の活性を評価することもできる。類似して、本明細書に開示されている非ヒト動物を使用して、他のいずれかの分子を、ヒトTRKB標的化活性に関してスクリーニングすることができる。
【0152】
D.ヒトTRKB標的化試薬を非ヒト動物または細胞に投与するステップ
本明細書に開示されている方法は、核酸、タンパク質、核酸-タンパク質複合体、ペプチドミメティック、抗原結合性タンパク質または小分子を含む様々な分子(例えば、抗体または小分子等のヒトTRKB標的化試薬)を非ヒト動物または細胞に導入するステップを含むことができる。「導入すること」は、分子(例えば、核酸またはタンパク質または小分子)を、細胞内部または非ヒト動物内の細胞内部に到達するような様式で、細胞または非ヒト動物へと与えることを含む。導入は、いずれかの手段によって達成することができる。複数の構成成分が導入される場合、複数の構成成分を、いずれかの組合せで同時にまたは逐次に導入することができる。加えて、構成成分のうち2種またはそれよりも多くは、同じ送達方法または異なる送達方法によって細胞または非ヒト動物に導入することができる。類似して、構成成分のうち2種またはそれよりも多くは、同じ投与経路または異なる投与経路によって非ヒト動物に導入することができる。
【0153】
非ヒト動物または細胞に導入される分子は、導入される分子の安定性を増加させる(例えば、分解産物が、出発核酸もしくはタンパク質の0.5重量%未満等の、閾値未満を維持する、所与の貯蔵条件(例えば、-20℃、4℃または外界温度)下での期間を延長させる;またはin vivoでの安定性を増加させる)担体を含む組成物中に提供することができる。斯かる担体の非限定的な例として、ポリ(乳酸)(PLA)マイクロスフェア、ポリ(D,L-乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)マイクロスフェア、リポソーム、ミセル、逆ミセル、脂質渦巻形(cochleate)および脂質微小管(lipid microtubule)が挙げられる。
【0154】
細胞または非ヒト動物へのヒトTRKB標的化試薬の導入を可能にするために様々な方法および組成物が本明細書に提供される。様々な細胞型に核酸を導入するための方法が公知であり、例えば、安定トランスフェクション方法、一過性トランスフェクション方法およびウイルス媒介性方法を含む。
【0155】
トランスフェクションプロトコールと、細胞に核酸配列を導入するためのプロトコールは変動し得る。非限定的なトランスフェクション方法は、リポソーム;ナノ粒子;リン酸カルシウム(Graham et al. (1973) Virology 52 (2): 456-67、Bacchetti et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74 (4): 1590-4およびKriegler, M (1991). Transfer and Expression: A Laboratory Manual. New York: W. H. Freeman and Company. pp. 96-97);デンドリマー;またはDEAE-デキストランもしくはポリエチレンイミン等のカチオン性ポリマーを使用した化学物質に基づくトランスフェクション方法を含む。化学物質によらない方法は、電気穿孔、ソノポレーション(Sono-poration)および光学的トランスフェクションを含む。粒子に基づくトランスフェクションは、遺伝子銃の使用または磁石支援トランスフェクション(Bertram (2006) Current Pharmaceutical Biotechnology 7, 277-28)を含む。ウイルス方法をトランスフェクションに使用することもできる。
【0156】
細胞へのヒトTRKB標的化試薬の導入は、電気穿孔、細胞質内注射、ウイルス感染、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、トランスフェクション、脂質媒介性トランスフェクションまたはヌクレオフェクション(nucleofection)が媒介することもできる。ヌクレオフェクションは、核酸基質が細胞質のみならず、核膜を通って核内に送達されることを可能にする、改善された電気穿孔技術である。加えて、本明細書に開示されている方法におけるヌクレオフェクションの使用は典型的に、通常の電気穿孔よりもはるかに少ない細胞を要求する(例えば、通常の電気穿孔による7百万個と比較して、僅か約2百万個)。一例では、ヌクレオフェクションは、LONZA(登録商標)NUCLEOFECTOR(商標)システムを使用して行われる。
【0157】
細胞(例えば、接合子)へのヒトTRKB標的化試薬の導入は、マイクロインジェクションによって達成することもできる。接合子(すなわち、1細胞期胚)において、マイクロインジェクションは、母性および/または父性前核中に、または細胞質中に為すことができる。マイクロインジェクションが、1個の前核中にのみ為される場合、そのより大型なサイズのため、父性前核が好ましい。mRNAのマイクロインジェクションは、細胞質中に為されることが好ましい(例えば、翻訳機構に直接的にmRNAを送達するため)一方、タンパク質またはタンパク質をコードするもしくはRNAをコードするポリヌクレオチドのマイクロインジェクションは、核/前核中に為されることが好ましい。あるいは、マイクロインジェクションは、核/前核および細胞質の両方への注射によって実行することができる:針は、先ず、核/前核中に導入し、第1の量を注射することができ、1細胞期胚から針を除去しながら、第2の量を細胞質中に注射することができる。タンパク質は、細胞質中に注射され、核に標的化される必要がある場合、核/前核への送達を確実にするための核局在化シグナルを含むことができる。マイクロインジェクションを実行するための方法は周知である。例えば、Nagy et al. (Nagy A, Gertsenstein M, Vintersten K, Behringer R., 2003, Manipulating the Mouse Embryo. Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press)を参照されたい;また、Meyer et al. (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107:15022-15026およびMeyer et al. (2012) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109:9354-9359も参照されたい。
【0158】
細胞または非ヒト動物にヒトTRKB標的化試薬を導入するための他の方法は、例えば、ベクター送達、粒子媒介性送達、エキソソーム媒介性送達、脂質ナノ粒子媒介性送達、細胞透過ペプチド媒介性送達または移植型デバイス媒介性送達を含むことができる。具体例として、核酸またはタンパク質は、ポリ(乳酸)(PLA)マイクロスフェア、ポリ(D,L-乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)マイクロスフェア、リポソーム、ミセル、逆ミセル、脂質渦巻形または脂質微小管等の担体において細胞または非ヒト動物に導入することができる。非ヒト動物への送達の一部の具体例として、水力学的送達、ウイルス媒介性送達(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)媒介性送達)および脂質ナノ粒子媒介性送達が挙げられる。
【0159】
細胞または非ヒト動物へのヒトTRKB標的化試薬の導入は、水力学的送達(HDD)によって達成することができる。水力学的送達は、in vivoでの細胞内DNA送達のための方法として登場した。実質細胞への遺伝子送達のため、必須DNA配列のみが、選択された血管を経由して注射され、現在のウイルスおよび合成ベクターに伴う安全上の懸念を排除する必要がある。血流中に注射されると、DNAは、血液に到達可能な異なる組織における細胞に達することができる。水力学的送達は、循環における非圧縮性血液への大きい体積の溶液の急速注射によって生成される力を用いて、大型で膜不透過性の化合物が実質細胞に進入するのを防止する内皮および細胞膜の物理的障壁を克服する。DNAの送達に加えて、この方法は、in vivoでのRNA、タンパク質および他の小型の化合物の効率的な細胞内送達に有用である。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Bonamassa et al. (2011) Pharm. Res. 28(4):694-701を参照されたい。
【0160】
ヒトTRKB標的化試薬の導入は、AAV媒介性送達またはレンチウイルス媒介性送達等、ウイルス媒介性送達によって達成することもできる。他の例示的なウイルス/ウイルスベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルスおよび単純ヘルペスウイルスを含む。ウイルスは、分裂細胞、非分裂細胞、または分裂および非分裂細胞の両方に感染することができる。ウイルスは、宿主ゲノム中に組み込むことができる、あるいは、宿主ゲノム中に組み込まない。斯かるウイルスは、低下した免疫を有するように操作することもできる。ウイルスは、複製能力を有することができる、または複製欠損であり得る(例えば、追加的なラウンドのビリオン複製および/またはパッケージングに必要な1種または複数の遺伝子を欠損する)。ウイルスは、一過性発現、持続性発現(例えば、少なくとも1週間、2週間、1ヶ月間、2ヶ月間または3ヶ月間)または永続的発現を引き起こすことができる。例示的なウイルス力価(例えば、AAV力価)は、1012、1013、1014、1015および1016ベクターゲノム/mLを含む。
【0161】
ssDNA AAVゲノムは、相補DNA鎖の合成を可能にする、2個の逆位末端配列に挟まれた2個のオープンリーディングフレーム、RepおよびCapからなる。AAV移入プラスミドを構築する場合、導入遺伝子は、2個のITRの間に配置され、RepおよびCapは、トランスで供給することができる。RepおよびCapに加えて、AAVは、アデノウイルス由来の遺伝子を含有するヘルパープラスミドを要求する場合がある。そのような遺伝子(E4、E2aおよびVA)は、AAV複製を媒介した。例えば、移入プラスミド、Rep/Capおよびヘルパープラスミドは、アデノウイルス遺伝子E1+を含有するHEK293細胞にトランスフェクトして、感染性AAV粒子を産生することができる。あるいは、Rep、Capおよびアデノウイルスヘルパー遺伝子は、単一のプラスミドへと組み合わせることができる。同様のパッケージング細胞および方法を、レトロウイルス等、他のウイルスのために使用することができる。
【0162】
AAVの複数の血清型が同定された。これらの血清型は、感染する細胞の型(すなわち、そのトロピズム)において異なり、特異的な細胞型の優先的形質導入を可能にする。CNS組織のための血清型は、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8およびAAV9を含む。心臓組織のための血清型は、AAV1、AAV8およびAAV9を含む。腎臓組織のための血清型は、AAV2を含む。肺組織のための血清型は、AAV4、AAV5、AAV6およびAAV9を含む。膵臓組織のための血清型は、AAV8を含む。光受容体細胞のための血清型は、AAV2、AAV5およびAAV8を含む。網膜色素上皮組織のための血清型は、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5およびAAV8を含む。骨格筋組織のための血清型は、AAV1、AAV6、AAV7、AAV8およびAAV9を含む。肝臓組織のための血清型は、AAV7、AAV8およびAAV9、特に、AAV8を含む。
【0163】
トロピズムは、異なるウイルス血清型由来のカプシドおよびゲノムの混合であるシュードタイプ化によりさらに精緻化することができる。例えば、AAV2/5は、血清型5由来のカプシドにパッケージングされた血清型2のゲノムを含有するウイルスを指し示す。シュードタイプ化ウイルスの使用は、形質導入効率を改善すると共に、トロピズムを変更することができる。異なる血清型に由来するハイブリッドカプシドを使用して、ウイルストロピズムを変更することもできる。例えば、AAV-DJは、8種の血清型由来のハイブリッドカプシドを含有し、広い範囲の細胞型にわたる高い感染力をin vivoで呈する。AAV-DJ8は、AAV-DJの特性を呈するが、脳取り込みが増強された別の例である。AAV血清型は、変異により改変することもできる。AAV2の変異による改変の例として、Y444F、Y500F、Y730FおよびS662Vが挙げられる。AAV3の変異による改変の例として、Y705F、Y731FおよびT492Vが挙げられる。AAV6の変異による改変の例として、S663VおよびT492Vが挙げられる。他のシュードタイプ化/改変されたAAVバリアントは、AAV2/1、AAV2/6、AAV2/7、AAV2/8、AAV2/9、AAV2.5、AAV8.2およびAAV/SASTGを含む。
【0164】
導入遺伝子発現を加速するために、自己相補的AAV(scAAV)バリアントを使用することができる。AAVは、AAVの一本鎖DNAゲノムの相補鎖を合成するために細胞のDNA複製機構に依存するため、導入遺伝子発現は遅延され得る。この遅延に取り組むため、感染の際に自発的にアニーリングすることができる相補配列を含有するscAAVを使用して、宿主細胞DNA合成の要件を排除することができる。
【0165】
パッケージング容量を増加させるために、より長い導入遺伝子は、2個のAAV移入プラスミドの間で分断し、3’スプライスドナーを有する第1のもの、および5’スプライスアクセプターを有する第2のものとすることができる。細胞の同時感染後に、これらのウイルスは、コンカテマーを形成し、一緒にスプライシングされ、全長導入遺伝子を発現させることができる。これにより、より長い導入遺伝子の発現が可能となるが、発現効率は低くなる。容量を増加させるための同様の方法は、相同組換えを利用する。例えば、導入遺伝子は、2個の移入プラスミドの間で分割することができるが、両者は、同時発現が全長導入遺伝子の相同組換えおよび発現を誘導するように、実質的な配列重複を有する。
【0166】
ヒトTRKB標的化試薬の導入は、脂質ナノ粒子(LNP)媒介性送達によって達成することもできる。脂質製剤は、その細胞取り込みを改善しつつ、分解から生物学的分子を保護することができる。脂質ナノ粒子は、分子間力によって互いに物理的に会合した複数の脂質分子を含む粒子である。これは、マイクロスフェア(単層および多重層小胞、例えば、リポソームを含む)、エマルションにおける分散相、ミセル、または懸濁物における内部相を含む。斯かる脂質ナノ粒子を使用して、送達のために1種または複数の核酸またはタンパク質を被包することができる。カチオン性脂質を含有する製剤は、核酸等のポリアニオンの送達に有用である。含まれ得る他の脂質は、中性脂質(すなわち、無電荷または双性イオン性脂質)、アニオン性脂質、トランスフェクションを増強するヘルパー脂質、およびナノ粒子がin vivoで存在し得る時間の長さを増加させるステルス(stealth)脂質である。適したカチオン性脂質、中性脂質、アニオン性脂質、ヘルパー脂質およびステルス脂質の例は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、WO2016/010840A1に見出すことができる。例示的な脂質ナノ粒子は、カチオン性脂質および1種または複数の他の構成成分を含むことができる。一例では、他の構成成分は、コレステロール等のヘルパー脂質を含むことができる。別の例では、他の構成成分は、コレステロール等のヘルパー脂質、およびDSPC等の中性脂質を含むことができる。別の例では、他の構成成分は、コレステロール等のヘルパー脂質、DSPC等の必要に応じた中性脂質、およびS010、S024、S027、S031またはS033等のステルス脂質を含むことができる。
【0167】
送達機序は、免疫原性を減少させるように選択することができる。例えば、複数の構成成分が送達される場合、それらを異なる機序によって送達することができる(例えば、二峰性送達)。これらの異なる機序は、対象の送達される分子に異なる薬力学または薬物動態特性を付与することができる。例えば、異なる機序は、異なる組織分布、異なる半減期または異なる時間的分布をもたらすことができる。一部の送達機序(例えば、自律的複製またはゲノム組み込みによって細胞において持続する核酸ベクターの送達)は、分子のより持続性の発現および存在をもたらす一方、他の送達機序は、一過性であり持続性がより低い(例えば、RNAまたはタンパク質の送達)。
【0168】
in vivoでの投与は、例えば、非経口的、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、外用、鼻腔内または筋肉内を含むいずれか適した経路によって為すことができる。全身性投与機序は、例えば、経口および非経口的経路を含む。非経口的経路の例として、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、皮内、皮下、鼻腔内および腹腔内経路が挙げられる。具体例は、静脈内注入である。経鼻滴下および硝子体内注射は、他の具体例である。局所的投与機序は、例えば、髄腔内、脳室内、実質内(例えば、線条体(例えば、尾状核または被殻中への)、大脳皮質、中心前回、海馬(例えば、歯状回またはCA3領域中への)、側頭皮質、扁桃体、前頭皮質、視床、小脳、髄質、視床下部、視蓋、被蓋または黒質への局在化された実質内送達)、眼内、眼窩内、結膜下(subconjuctival)、硝子体内、網膜下および経強膜的経路を含む。有意により少ない量の構成成分(全身性アプローチと比較して)は、局所的に(例えば、実質内または硝子体内)投与された場合に、全身性に(例えば、静脈内)投与された場合と比較して、効果を発揮することができる。局所的投与機序は、治療有効量の構成成分が全身性投与された場合に発生し得る潜在的に毒性の副作用の発生率を低下または排除することもできる。具体例では、ヒトTRKB標的化試薬は、直接的海馬注射、皮下注射または硝子体内注射により投与される。
【0169】
ヒトTRKB標的化試薬を含む組成物は、1種または複数の生理学的におよび薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を使用して製剤化することができる。製剤は、選択される投与経路に依存し得る。用語「薬学的に許容される」は、担体、希釈剤、賦形剤または補助剤が、製剤の他の成分と適合性であり、そのレシピエントにとって実質的に有害でないことを意味する。
【0170】
投与の頻度および投薬量の数は、因子の中でもとりわけ、ヒトTRKB標的化試薬の半減期および投与経路に依存し得る。細胞または非ヒト動物へのヒトTRKB標的化試薬の導入は、ある期間にわたって1回または複数回行うことができる。例えば、導入は、ある期間にわたって少なくとも2回、ある期間にわたって少なくとも3回、ある期間にわたって少なくとも4回、ある期間にわたって少なくとも5回、ある期間にわたって少なくとも6回、ある期間にわたって少なくとも7回、ある期間にわたって少なくとも8回、ある期間にわたって少なくとも9回、ある期間にわたって少なくとも10回、少なくとも11回、ある期間にわたって少なくとも12回、ある期間にわたって少なくとも13回、ある期間にわたって少なくとも14回、ある期間にわたって少なくとも15回、ある期間にわたって少なくとも16回、ある期間にわたって少なくとも17回、ある期間にわたって少なくとも18回、ある期間にわたって少なくとも19回、またはある期間にわたって少なくとも20回行うことができる。
【0171】
E.ヒトTRKB標的化試薬の送達、活性または有効性のin vivoまたはex vivoでの測定
本明細書に開示されている方法は、ヒトTRKB標的化試薬の活性を検出または測定するステップをさらに含むことができる。斯かる試薬の活性(例えば、アゴニスト活性または阻害剤活性)を測定するステップは、TRKB活性を測定するステップを含むことができる。TRKB活性は、いずれか公知の手段によって測定することができる。例えば、TRKBリン酸化を評価することができる(例えば、脳またはニューロンにおける)、TRKBによるPI3K/AKTおよびMAPK/ERK等の下流経路の活性化を評価することができる(例えば、初代皮質ニューロン等、脳またはニューロンにおける)、または細胞生存を評価することができる(例えば、網膜神経節細胞生存等、ニューロン細胞生存)。例えば、リン酸化または下流シグナル伝達経路の活性化は、投薬後15分、30分、1時間、2時間、4時間または18時間目に評価することができる。TRKBリン酸化、下流シグナル伝達経路の活性化または細胞生存の増加は、TRKB活性化の指標となることができる一方、減少は、TRKB阻害の指標となることができる。
【0172】
非ヒト動物において、評価するステップは、対照非ヒト動物と比べて、体重、体組成、代謝および移動運動のうち1種または複数または全種を評価するステップを含むことができる(例えば、投薬後12時間、24時間、48時間、72時間、96時間または120時間目に)。例えば、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Lin et al. (2008) PLoS ONE 3(4):e1900;Rios et al. (2013) Trends in Neurosciences 36(2):83-90;およびZorner et al. (2003) Biol. Psychiatry 54:972-982を参照されたい。体組成の変化を評価するステップは、例えば、除脂肪量および/または体脂肪量を評価するステップを含むことができる。代謝の変化を評価するステップは、例えば、食物消費および/または水消費の変化を評価するステップを含むことができる。体重、体脂肪量、除脂肪量、食物摂取および水摂取の減少は、TRKB活性化の指標となることができる一方、増加は、TRKB阻害の指標となることができる。移動運動の増加は、TRKB活性化の指標となることができる一方、減少は、TRKB阻害の指標となることができる。
【0173】
評価するステップは、神経保護活性を評価するステップを含むことができる。一例として、細胞生存は、非ヒト動物において評価することができる。例えば、多くの場合、齧歯類網膜神経節細胞(RGC)を使用して、軸索病変に伴う神経変性プロセスを研究すると共に、神経保護療法をアッセイする。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Nadal-Nicolas et al. (2009) Invest. Ophthalmol. Vis. Sic. 50(8):3860-3868を参照されたい。網膜神経節細胞生存/生存度は、対照非ヒト動物と比べて、ヒトTRKB標的化試薬による処置後に評価することができる(例えば、視神経傷害後の完全視神経切断モデルにおいて)。例えば、網膜神経節細胞生存/生存度は、視神経傷害後の完全視神経切断モデルにおいて評価することができる。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Nadal-Nicolas et al. (2009) Invest. Ophthalmol. Vis. Sic. 50(8):3860-3868を参照されたい。別の例として、網膜神経節細胞生存/生存度は、視神経挫滅モデルにおいて評価することができる。このモデルにおいて、視神経に対する挫滅傷害は、漸進的網膜神経節細胞アポトーシスをもたらす。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Tang et al. (2011) J. Vis. Exp. 50:2685を参照されたい。網膜神経節細胞生存/生存度は、例えば、網膜神経節細胞密度(例えば、切除して網膜神経節細胞を染色した網膜における)を測定することにより評価することができる。生存/生存度増加は、TRKB活性化の指標となることができる一方、生存/生存度減少は、TRKB阻害の指標となることができる。
【0174】
ヒトTRKB標的化試薬が、ゲノム編集試薬である場合、測定するステップは、改変に関してヒト化TRKB遺伝子座を評価するステップを含むことができる。様々な方法を使用して、標的化された遺伝子改変を有する細胞を同定することができる。スクリーニングは、親染色体の対立遺伝子の改変(MOA)を評価するための定量的アッセイを含むことができる。例えば、定量的アッセイは、リアルタイムPCR(qPCR)等の定量的PCRにより実行することができる。リアルタイムPCRは、標的遺伝子座を認識する第1のプライマーセット、および標的化されていない参照遺伝子座を認識する第2のプライマーセットを利用することができる。プライマーセットは、増幅された配列を認識する蛍光プローブを含むことができる。適した定量的アッセイの他の例として、蛍光媒介性in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、等温DNA増幅、固定化されているプローブ(複数可)、INVADER(登録商標)プローブ、TAQMAN(登録商標)分子ビーコンプローブまたはECLIPSE(商標)プローブ技術に対する定量的ハイブリダイゼーションが挙げられる(例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、US2005/0144655を参照)。次世代配列決定(NGS)をスクリーニングに使用することもできる。次世代配列決定は、「NGS」または「大規模並列配列決定」または「ハイスループット配列決定」と称される場合もある。NGSは、標的化された遺伝子改変の正確な性質を明らかにするために、またそれが細胞型または組織型または臓器型にわたって一貫しているかについて明らかにするために、MOAアッセイに加えて、スクリーニングツールとして使用することができる。
【0175】
非ヒト動物において評価するステップは、いずれかの組織または臓器由来のいずれかの細胞型において為すことができる。例えば、評価は、同じ組織もしくは臓器(例えば、脳)由来の複数の細胞型において、または組織もしくは臓器(例えば、海馬および線条体)内の複数の位置由来の細胞において為すことができる。これにより、標的組織もしくは臓器内のいずれの細胞型が標的化されているか、または組織もしくは臓器のいずれのセクションに、ヒトTRKB標的化試薬が達しているかに関する情報を提供することができる。別の例として、評価は、組織の複数の型または複数の臓器において為すことができる。特定の組織、臓器または細胞型が標的化されている方法において、これにより、どの程度有効に当該組織または臓器が標的化されているか、また、他の組織または臓器にオフターゲット効果があるか否かに関する情報を提供することができる。
【0176】
試薬が、ヒト化TRKB遺伝子座を不活性化するように、ヒト化TRKB遺伝子座の発現に影響を与えるように、またはヒト化TRKB mRNAの翻訳を防止するように設計されている場合、測定するステップは、ヒト化TRKB mRNAまたはタンパク質発現を評価するステップを含むことができる。この測定ステップは、脳または特定の細胞型(例えば、網膜神経節細胞等、ニューロン)内で為すことができる。
【0177】
IV.ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物を作製する方法
本明細書の他の箇所に開示されているヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物ゲノム、非ヒト動物細胞または非ヒト動物を作製するための様々な方法が提供される。遺伝子改変された生物を産生するためのいずれか簡便な方法またはプロトコールが、斯かる遺伝子改変された非ヒト動物の産生に適する。例えば、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Cho et al. (2009) Current Protocols in Cell Biology 42:19.11:19.11.1-19.11.22およびGama Sosa et al. (2010) Brain Struct. Funct. 214(2-3):91-109を参照されたい。斯かる遺伝子改変された非ヒト動物は、例えば、標的化されたTrkB遺伝子座における遺伝子ノックインにより生成することができる。
【0178】
例えば、ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物を産生する方法は、(1)ヒト化TRKB遺伝子座を含むように、多能性細胞のゲノムを改変するステップと、(2)ヒト化TRKB遺伝子座を含む遺伝子改変された多能性細胞を同定または選択するステップと、(3)遺伝子改変された多能性細胞を非ヒト動物宿主胚に導入するステップと、(4)代理母に宿主胚を移植し、懐胎させるステップとを含むことができる。例えば、ヒト化TRKB遺伝子座を含む非ヒト動物を産生する方法は、(1)ヒト化TRKB遺伝子座を含むように、多能性細胞のゲノムを改変するステップと、(2)ヒト化TRKB遺伝子座を含む遺伝子改変された多能性細胞を同定または選択するステップと、(3)遺伝子改変された多能性細胞を非ヒト動物宿主胚に導入するステップと、(4)代理母に宿主胚を懐胎させるステップとを含むことができる。必要に応じて、改変された多能性細胞(例えば、非ヒトES細胞)を含む宿主胚は、代理母への移植および懐胎に先立ち、胚盤胞期までインキュベートして、F0非ヒト動物を産生することができる。次に、代理母は、ヒト化TRKB遺伝子座を含むF0世代非ヒト動物を産生することができる。
【0179】
本方法は、改変された標的ゲノム遺伝子座を有する細胞または動物を同定するステップをさらに含むことができる。様々な方法を使用して、標的化された遺伝子改変を有する細胞および動物を同定することができる。
【0180】
ゲノムを改変するステップは、例えば、外因性修復鋳型(例えば、標的化ベクター)を利用して、本明細書に開示されているヒト化TRKB遺伝子座を含むようにTrkB遺伝子座を改変することができる。一例として、標的化ベクターは、内在性TrkB遺伝子座(例えば、内在性非ヒト動物TrkB遺伝子座)にヒト化TRKB遺伝子を生成するためのものであり得、標的化ベクターは、内在性TrkB遺伝子座における5’標的配列を標的化する5’相同性アームおよび内在性TrkB遺伝子座における3’標的配列を標的化する3’相同性アームを含む。外因性修復鋳型は、TrkB遺伝子座に組み込まれるべきDNAのセグメントを含む核酸インサートを含むこともできる。TrkB遺伝子座における核酸インサートの組み込みは、TrkB遺伝子座における目的の核酸配列の付加、TrkB遺伝子座における目的の核酸配列の欠失、またはTrkB遺伝子座における目的の核酸配列の置き換え(すなわち、欠失および挿入)をもたらすことができる。相同性アームは、ヒト化TRKB遺伝子座を生成するためのヒトTRKB配列を含むインサート核酸を挟むことができる(例えば、内在性TrkB遺伝子座のセグメントを欠失させ、オルソロガスヒトTRKB配列に置き換えるために)。
【0181】
外因性修復鋳型は、非相同末端結合媒介性挿入または相同組換えのためのものであり得る。外因性修復鋳型は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)を含むことができ、これは、一本鎖または二本鎖であり得、直鎖状または環状形態であり得る。例えば、修復鋳型は、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)であり得る。
【0182】
外因性修復鋳型は、標的化されていない内在性TrkB遺伝子座には存在しない異種配列を含むこともできる。例えば、外因性修復鋳型は、リコンビナーゼ認識部位に挟まれた選択カセット等、選択カセットを含むことができる。
【0183】
一部の外因性修復鋳型は、相同性アームを含む。外因性修復鋳型核酸が、核酸インサートも含む場合、相同性アームは、核酸インサートを挟むことができる。参照を容易にするために、相同性アームは、本明細書において、5’および3’(すなわち、上流および下流)相同性アームと称される。この用語法は、外因性修復鋳型内における核酸インサートに対する相同性アームの相対的な位置に関する。5’および3’相同性アームは、本明細書においてそれぞれ「5’標的配列」および「3’標的配列」と称される、TrkB遺伝子座内の領域に対応する。
【0184】
相同性アームおよび標的配列は、この2種の領域が、互いに十分なレベルの配列同一性を共有して、相同組換え反応のための基質として作用する場合、互いに「対応」する、または「対応している」。用語「相同性」は、対応する配列と同一であるまたは配列同一性を共有するDNA配列を含む。所与の標的配列および外因性修復鋳型に見出される対応する相同性アームの間の配列同一性は、相同組換えが発生することを可能にするいずれかの程度の配列同一性であり得る。例えば、外因性修復鋳型の相同性アーム(またはその断片)および標的配列(またはその断片)によって共有される配列同一性の量は、配列が相同組換えを起こすように、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%配列同一性であり得る。さらに、相同性アームおよび対応する標的配列の間の相同性の対応する領域は、相同組換えの促進に十分な任意の長さのものであり得る。一部の標的化ベクターにおいて、内在性TrkB遺伝子座における意図される変異が、相同性アームに挟まれたインサート核酸に含まれる。
【0185】
1細胞期胚以外の細胞において、外因性修復鋳型は、細胞において相同組換えを行うことを意図した他のアプローチによって典型的に使用されるものよりも大型の核酸配列に対応し、これに由来する相同性アームを含む標的化ベクターを含む、「大型の標的化ベクター」または「LTVEC」であり得る。LTVECは、細胞において相同組換えを行うことを意図した他のアプローチによって典型的に使用されるものよりも大型の核酸配列を有する核酸インサートを含む標的化ベクターも含む。例えば、LTVECは、そのサイズ限界のために伝統的なプラスミドに基づく標的化ベクターによって収容することができない大型の遺伝子座の改変を可能にする。例えば、標的化される遺伝子座は、従来方法を使用しては標的化不可能な、またはヌクレアーゼ剤(例えば、Casタンパク質)によって誘導されるニックもしくは二本鎖切断の非存在下では、不正確にもしくは有意に低い効率でしか標的化することができない、細胞の遺伝子座であり得る(すなわち、5’および3’相同性アームは、これに対応することができる)。LTVECは、任意の長さのものであり得、典型的には、少なくとも10kbの長さである。LTVECにおける5’相同性アームおよび3’相同性アームの合計は典型的に、少なくとも10kbである。
【0186】
スクリーニングステップは、例えば、親染色体の対立遺伝子の改変(MOA)を評価するための定量的アッセイを含むことができる。例えば、定量的アッセイは、リアルタイムPCR(qPCR)等の定量的PCRにより実行することができる。リアルタイムPCRは、標的遺伝子座を認識する第1のプライマーセット、および標的化されていない参照遺伝子座を認識する第2のプライマーセットを利用することができる。プライマーセットは、増幅された配列を認識する蛍光プローブを含むことができる。
【0187】
適した定量的アッセイの他の例として、蛍光媒介性in situハイブリダイゼーション(FISH)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、等温DNA増幅、固定化されているプローブ(複数可)、INVADER(登録商標)プローブ、TAQMAN(登録商標)分子ビーコンプローブまたはECLIPSE(商標)プローブ技術に対する定量的ハイブリダイゼーション(例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、US2005/0144655を参照)が挙げられる。
【0188】
適した多能性細胞の例は、胚性幹(ES)細胞(例えば、マウスES細胞またはラットES細胞)である。改変された多能性細胞は、例えば、(a)細胞に、例えば、5’および3’標的部位に対応する5’および3’相同性アームに挟まれたインサート核酸を含む1種または複数の外因性ドナー核酸(例えば、標的化ベクター)を導入するステップであって、インサート核酸が、ヒト化TRKB遺伝子座を生成するためのヒトTRKB配列を含む、ステップと、(b)内在性TrkB遺伝子座に組み込まれたインサート核酸をそのゲノム内に含む少なくとも1個の細胞を同定するステップ(すなわち、ヒト化TRKB遺伝子座を含む少なくとも1個の細胞を同定するステップ)による組換えにより生成することができる。改変された多能性細胞は、例えば、(a)細胞に、5’および3’標的部位に対応する5’および3’相同性アームに挟まれたインサート核酸を含む1種または複数の標的化ベクターを導入するステップであって、インサート核酸が、ヒト化TRKB遺伝子座を含む、ステップと、(b)標的ゲノム遺伝子座に組み込まれたインサート核酸をそのゲノム内に含む少なくとも1個の細胞を同定するステップによる組換えにより生成することができる。
【0189】
あるいは、改変された多能性細胞は、(a)細胞に、(i)内在性TrkB遺伝子座内の標的部位にニックまたは二本鎖切断を誘導するヌクレアーゼ剤;ならびに(ii)例えば、ヌクレアーゼ標的部位に十分に近接して配置している5’および3’標的部位に対応する5’および3’相同性アームに挟まれたインサート核酸を必要に応じて含む1種または複数の外因性ドナー核酸(例えば、標的化ベクター)を導入するステップであって、インサート核酸が、ヒト化TRKB遺伝子座を生成するためのヒトTRKB配列を含む、ステップと、(c)内在性TrkB遺伝子座に組み込まれたインサート核酸をそのゲノム内に含む少なくとも1個の細胞を同定するステップ(すなわち、ヒト化TRKB遺伝子座を含む少なくとも1個の細胞を同定するステップ)によって生成することができる。あるいは、改変された多能性細胞は、(a)細胞に、(i)標的ゲノム遺伝子座内の認識部位にニックまたは二本鎖切断を誘導する、ヌクレアーゼ剤;ならびに(ii)認識部位に十分に近接して配置している5’および3’標的部位に対応する5’および3’相同性アームに挟まれたインサート核酸を含む1種または複数の標的化ベクターを導入するステップであって、インサート核酸が、ヒト化TRKB遺伝子座を含む、ステップと、(c)標的ゲノム遺伝子座に改変(例えば、インサート核酸の組み込み)を含む少なくとも1個の細胞を同定するステップによって生成することができる。所望の認識部位にニックまたは二本鎖切断を誘導するいかなるヌクレアーゼ剤を使用してもよい。適したヌクレアーゼの例として、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、メガヌクレアーゼ、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系(例えば、CRISPR/Cas9系)または斯かる系の構成成分(例えば、CRISPR/Cas9)が挙げられる。例えば、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、US2013/0309670およびUS2015/0159175を参照されたい。
【0190】
ドナー細胞は、胚盤胞期または前桑実胚(pre-morula)期(すなわち、4細胞期または8細胞期)等、いずれかの期の宿主胚に導入することができる。生殖系列を通して遺伝子改変を伝えることができる後代が生成される。例えば、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,294,754号を参照されたい。
【0191】
あるいは、本明細書の他の箇所に記載されている非ヒト動物を産生する方法は、(1)多能性細胞を改変するための上に記載されている方法を使用して、ヒト化TRKB遺伝子座を含むように1細胞期胚のゲノムを改変するステップと、(2)遺伝子改変された胚を選択するステップと、(3)代理母に遺伝子改変された胚を移植し、懐胎させるステップとを含むことができる。あるいは、本明細書の他の箇所に記載されている非ヒト動物を産生する方法は、(1)多能性細胞を改変するための上に記載されている方法を使用して、ヒト化TRKB遺伝子座を含むように1細胞期胚のゲノムを改変するステップと、(2)遺伝子改変された胚を選択するステップと、(3)代理母に遺伝子改変された胚を懐胎させるステップとを含むことができる。生殖系列を通して遺伝子改変を伝えることができる後代が生成される。
【0192】
核移植技法を使用して、非ヒト哺乳動物を生成することもできる。簡潔に説明すると、核移植のための方法は、(1)卵母細胞を除核するステップ、または除核された卵母細胞を提供するステップと、(2)除核された卵母細胞と組み合わされるべきドナー細胞または核を単離または提供するステップと、(3)除核された卵母細胞に細胞または核を挿入して、再構成された細胞を形成するステップと、(4)動物の子宮に再構成された細胞を移植して、胚を形成させるステップと、(5)胚を発生させるステップとを含むことができる。斯かる方法において、卵母細胞は一般に、死亡した動物から回収されるが、生きている動物の輸卵管および/または卵巣のいずれかから単離することもできる。卵母細胞は、除核に先立ち、種々の周知培地において成熟させることができる。卵母細胞の除核は、多数の周知様式で行うことができる。再構成された細胞を形成するための、除核された卵母細胞へのドナー細胞または核の挿入は、融合に先立つ透明帯下へのドナー細胞のマイクロインジェクションによって為すことができる。融合は、接触/融合平面にわたるDC電気パルスの印加によって(電気融合)、ポリエチレングリコール等の融合促進化学物質への細胞の曝露によって、またはセンダイウイルス等の不活性化ウイルスによって誘導することができる。再構成された細胞は、核ドナーおよびレシピエント卵母細胞の融合の前、その間、および/またはその後に、電気的および/または非電気的手段によって活性化することができる。活性化方法は、電気的パルス、化学物質により誘導されるショック、精子による透過、卵母細胞における増加するレベルの二価カチオン、および卵母細胞における細胞タンパク質の低下するリン酸化(キナーゼ阻害剤によるものとして)を含む。活性化された再構成された細胞または胚は、周知培地において培養し、次いで、動物の子宮に移すことができる。例えば、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、US2008/0092249、WO1999/005266、US2004/0177390、WO2008/017234および米国特許第7,612,250号を参照されたい。
【0193】
本明細書に提供される様々な方法は、遺伝子改変された非ヒトF0動物の生成を可能にし、遺伝子改変されたF0動物の細胞は、ヒト化TRKB遺伝子座を含む。F0動物の生成に使用される方法に応じて、ヒト化TRKB遺伝子座を有する、F0動物内の細胞の数が変動するであろうことが認識される。例えば、VELOCIMOUSE(登録商標)方法による、対応する生物由来の前桑実胚期の胚(例えば、8細胞期マウス胚)へのドナーES細胞の導入は、F0動物の細胞集団のより大きいパーセンテージが、標的化された遺伝子改変を含む目的のヌクレオチド配列を有する細胞を含むことを可能にする。例えば、非ヒトF0動物の細胞寄与の少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、85%、86%、87%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%が、標的化された改変を有する細胞集団を含むことができる。
【0194】
遺伝子改変されたF0動物の細胞は、ヒト化TRKB遺伝子座に関してヘテロ接合性であり得る、またはヒト化TRKB遺伝子座に関してホモ接合性であり得る。
【0195】
上または下に引用されているあらゆる特許出願、ウェブサイト、他の刊行物、受託番号その他は、それらの全体があらゆる目的のため、あたかも個々の項目それぞれが、参照により本明細書に組み込まれていると特異的にかつ個々に指し示されているのと同じ度合まで、参照により本明細書に組み込まれる。配列の異なるバージョンが、異なる時点においてある受託番号に関連付けられる場合、本願の有効な出願日においてその受託番号に関連付けられるバージョンを意味する。有効な出願日は、実際の出願日、または該当する場合はその受託番号を参照する優先出願の出願日のうち早い方の日付を意味する。同様に、刊行物、ウェブサイトその他の異なるバージョンが、異なる時点において公開されている場合、別段の指示がない限り、本願の有効な出願日において直近に公開されたバージョンを意味する。本発明のいずれかの特色、ステップ、エレメント、実施形態または態様は、特に別の指示がない限り、他のいずれかと組み合わせて使用することができる。本発明について、明確さおよび理解を得ることを目的として、例証および例示としてある程度詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲内で、ある一定の変化および改変を実施し得ることが明らかであろう。
【0196】
配列の簡単な説明
添付の配列表に収載されているヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、ヌクレオチド塩基のための標準文字略語、およびアミノ酸のための3文字コードを使用して示されている。
ヌクレオチド配列は、配列の5’末端から始まり、3’末端へと順方向に進む(すなわち、各行において左から右に)、標準の慣例に従う。各ヌクレオチド配列の一方の鎖のみが示されているが、相補鎖は、表示されている鎖のいずれかの参照によって含まれるものと理解される。アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が提供される場合、同じアミノ酸配列をコードするそのコドン縮重バリアントも提供されていることが理解される。アミノ酸配列は、配列のアミノ末端から始まり、カルボキシ末端へと順方向に進む(すなわち、各行において左から右に)、標準の慣例に従う。
【0197】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【実施例0198】
(実施例1 ヒト化TRKB遺伝子座を含むマウスの作製)
41.6kbのマウスTrkB遺伝子座を含む5’相同性アームおよび62.4kbのマウスTrkB遺伝子座を含む3’相同性アームを含む大型の標的化ベクター(LTVEC)を作製し、マウスTRKB細胞外ドメインをコードするマウスTrkB遺伝子の65.7kbの領域を、対応する74.4kbのヒトTRKB配列で置換した。マウスおよびヒトTRKBに関する情報を表2に示す。大型の標的化ベクターの作製の説明を表3に示す。VELOCIGENE(登録商標)遺伝子操作技術を用いる細菌の相同組換え(BHR)反応による細菌の人工染色体(BAC)DNAに由来する大型の標的化ベクター(LTVEC)の作製および使用は、例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,586,251号およびValenzuela et al. (2003) Nat. Biotechnol. 21(6):652-659に記載されている。in vitroアセンブリ法によるLTVECの作製は、例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2015/0376628号およびWO2015/200334号に記載されている。
【0199】
【表2】
【0200】
【表3】
【0201】
具体的には、エクソン2(コーディングエクソン1、アミノ酸32から、シグナルペプチドを保存する)から始まるエクソン10までの領域を、イントロン10の最初の137塩基対およびエクソン2と10との間(すなわちコーディングエクソン1とエクソン10との間)の全てのイントロンを含めて、マウスTrkB遺伝子座から欠失させた(エクソン10および11によってコードされたマウス膜貫通ドメインを保存する)。エクソン2/コーディングエクソン1(シグナルペプチドの後で始まるアミノ酸32から)を含むエクソン10までの領域を、イントロン10の最初の177塩基対およびエクソン2と10との間(すなわちコーディングエクソン1とエクソン10との間)の全てのイントロンを含めて、欠失させたラットの領域の代わりに挿入した(エクソン10および11によってコードされたラット膜貫通ドメインを保存する)。
【0202】
マウスTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインの配列を、それぞれ配列番号63~66に表記されている対応するコード配列とともに、それぞれ配列番号51~54に表記する。ヒトTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインの配列を、それぞれ配列番号71~74に表記されている対応するコード配列とともに、それぞれ配列番号59~62に表記する。予想されるコードされたキメラTRKBタンパク質は、マウスTRKB膜貫通ドメインおよび細胞内ドメイン、マウスTRKBシグナルペプチド、ならびにヒトTRKB細胞外ドメインを有している。図1を参照されたい。マウスおよびヒトTRKBタンパク質のアラインメントを図6に示す。マウスおよびヒトTrkB/TRKBコード配列をそれぞれ配列番号9および11に表記する。マウスおよびヒトTRKBタンパク質配列をそれぞれ配列番号1および3に表記する。予想されるキメラマウス/ヒトTRKBコード配列および予想されるキメラマウス/ヒトTRKBタンパク質の配列をそれぞれ配列番号12および4に表記する。
【0203】
変異体対立遺伝子を生成するため、大型の標的化ベクターをF1H4マウス胚幹細胞に導入した。抗生剤による選択に続いて、コロニーを採取し、増殖させ、TAQMAN(登録商標)によってスクリーニングした。図2を参照されたい。表4に示すプライマーおよびプローブを用いて、内在性ラット対立遺伝子の喪失を検出するために対立遺伝子喪失アッセイを行い、ヒト化対立遺伝子の獲得を検出するために対立遺伝子獲得アッセイを行った。
【0204】
【表4】
【0205】
対立遺伝子喪失(LOA)および対立遺伝子獲得(GOA)アッセイを含む対立遺伝子改変(MOA)アッセイは、例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2014/0178879号、米国特許出願公開第2016/0145646号、WO2016/081923号、およびFrendewey et al. (2010) Methods Enzymol. 476:295-307に記載されている。対立遺伝子喪失(LOA)アッセイは従来のスクリーニングの論理を逆転させ、変異が導かれたネイティブ遺伝子座のゲノムDNA試料におけるコピー数を定量するものである。正しく標的化されたヘテロ接合性細胞クローンにおいては、2つのネイティブ対立遺伝子の一方が(X染色体上にもY染色体上にもない遺伝子について)LOAアッセイによって検出され、他方の対立遺伝子は標的化された改変によって中断される。ゲノムDNA試料中に挿入された標的化ベクターのコピー数を定量する対立遺伝子獲得(GOA)アッセイとして、同じ原理を逆に適用することができる。
【0206】
VELOCIMOUSE(登録商標)法を用いてF0マウスを作製した。例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,576,259号、同第7,659,442号、同第7,294,754号、米国特許出願公開第2008/0078000号、およびPoueymirou et al. (2007) Nat. Biotechnol. 25(1):91-99を参照されたい。VELOCIMOUSE(登録商標)法では、標的化されたマウス胚幹(ES)細胞をレーザー補助注射によって前桑実胚期の胚、例えば8細胞期の胚に注射する。これにより、完全にES細胞由来のF0世代のマウスが効率的に得られる。以下に記載するヒト化TRKBマウスにおいて実施した全ての実験は、自己欠失選択カセットが自己欠失したマウスで行った。
【0207】
(実施例2 TrkBhu/huマウス(MAID7139)の体重および代謝に対するH4H9816抗体とアイソタイプ対照REGN1945抗体の効果のin vivo比較)
実験手順
TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2の体重および体組成に対する効果を決定するため、抗体の単回皮下注射に続いて、マウスTRKB受容体を代替するヒトTRKB受容体の発現に関するホモ接合性マウス(TrkBhu/huマウス)の代謝研究を行った。これらの研究の一部は、TrkBアゴニストおよびTrkBノックアウトマウスに関する以前の研究に基づいて行った。例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるLin et al. (2008) PLoS ONE 3(4):e1900;Rios et al. (2013) Trends in Neurosciences 36(2):83-90;およびZorner et al. (2003) Biol. Psychiatry 54:972-982を参照されたい。TrkBhu/huマウス(雄、20週齢)は、2週間の馴化のため、最初にグループケージからシングルケージハウジングに移した。この期間の後、抗体投与に続く食物および水の消費、移動運動、エネルギー消費、および呼吸の変化を評価するため、マウスを代謝ケージ(CLAMS、Columbus Instruments)に移した。通常の粉末の固形飼料をフロアチャンバー内でばね荷重天秤(Mettler Toledo、PL602E)の上に保存し、固形飼料の全重量の変化から食物の消費を測定した。水はケージ上の飲み口から摂取可能とし、ポンプラインの体積(Oxymax(登録商標)/CLAMS Liquid Unit)の変化を追跡することによって、摂取量を測定した。本研究の期間を通して、CLAMS代謝ケージによって、16~18分の間隔で連続的にこれらのパラメーターのそれぞれを測定した。代謝データを単一の手段で解析し、OXYMAX(登録商標)/CLAMSソフトウェア(Columbus Instruments、v5.35)を用いて1つの完全な明暗サイクルを含む24時間の間隔でまとめた。2週間ケージに馴化した後、PBS中、pH7.2の、TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2、またはIgG4アイソタイプ対照抗体のいずれかの50mg/kgの単回皮下用量をTrkBhu/huマウスに投与した。ナイーブ対照TrkBhu/huマウスの群には注射しなかった。投薬の直前、ならびに投薬後24、48、72、96、および120時間でマウスを秤量した。それぞれのマウスの体組成を測定するため、EchoMRI(商標)-500Analyzer(EchoMRI LLC)を用いる核磁気共鳴リラキソメトリー(定量的磁気共鳴とも称される)を行った。投薬に先立って、マウスを透明なプラスチックのホルダーに入れ、NMR-MRIデバイスに挿入して、それぞれの対象の除脂肪量、体脂肪量、および水分補給状態を測定した。測定はマウス1匹あたり0.5~3.2分の過程にわたって行い、投薬後約120時間で再び行った。
【0208】
結果および結論
TrkBhu/huマウスにおいてH4H9816P2の単回皮下注射が体重減少を誘起するか否かを決定するため、毎日の体重モニタリングを行った。投薬に先立って、3つの処置群の平均体重に有意差はなかった。なぜなら、各々の用量前の平均体重は28.39~29.85gであったからである(表5)。しかし投薬後48時間では、H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスは平均1.70g、すなわち用量前体重の5.96%を失っていた。同じ時点で、ナイーブおよびアイソタイプ対照抗体で処置したTrkBhu/huマウスの体重はそれらの用量前体重より1.79~2.37%増加していた。H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスは研究の全時間経過を通して体重が減少し続け、投薬後72時間および96時間までにこれらのマウスはそれぞれ用量前体重より平均8.42%および11.80%減少した。投薬後120時間で、H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスはそれらの用量前体重の平均12.67%を失っていた。逆に、ナイーブおよびアイソタイプ対照で処置したTrkBhu/huマウスは、研究を通じて用量前体重からの喪失を示さなかった。H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスの体重は投薬後48、72、96、および120時間においてナイーブ対照およびアイソタイプ対照の両方と比較して有意に減少したので、TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2はTrkBhu/huマウスにおいて有意な体重減少を誘起すると決定された。
【0209】
【表5】
【0210】
投薬の前後にそれぞれの対象についてNMR-MRIを実施することによって、体組成に対するTRKBアゴニスト抗体H4H9816P2の注射の効果をも測定した。投薬に先立って、TrkBhu/huマウスの3つの処置群の体脂肪量または除脂肪量に有意差はなかった。なぜなら、各群は平均4.19~4.75gの体脂肪量および21.32~21.70gの除脂肪量を有していたからである(表6)。しかし抗体の投与後、H4H9816P2を投薬したTrkBhu/huマウスは研究の過程にわたってそれらの全体脂肪量の平均48.90%を失っていた(表6)。ナイーブおよびアイソタイプ対照抗体で処置したTrkBhu/huマウスはそれぞれそれらの投薬前体脂肪量の平均8.49%および9.48%を失っており、これはH4H9816P2で処置した対象より有意に低かった(表6)。さらに、H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスは研究を通してそれらの除脂肪量の平均7.84%を失っており、これはナイーブ群およびアイソタイプ対照抗体処置群がそれぞれ失った投薬前除脂肪量の平均2.41%および1.75%より有意に大きかった(表6)。したがって、記述した体重減少はTrkBhu/huマウスにおけるTRKBアゴニスト抗体H4H9816P2の注射に続く体脂肪量の有意な喪失および除脂肪量の小幅な喪失によって説明することができよう。
【0211】
【表6】
【0212】
TrkBhu/huマウスの体重および体組成に対するTRKBアゴニスト抗体H4H9816P2の注射の効果の評価に加えて、代謝ケージによって給餌、飲水、および運動活性を継続的に測定した。投薬に先立って、TrkBhu/huマウスは1日あたり平均3.49~3.73gの固形飼料を消費していた。しかしH4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスでは投薬後24時間以内に食物摂取量が1日あたり固形飼料2.20gに有意に減少した。H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスの食物摂取量の平均レベルは研究の残りの期間を通して1日あたり固形飼料2.49gを上回ることがなかった。一方、ナイーブおよびアイソタイプ抗体で処置したTrkBhu/huマウスは1日あたり平均3.62~4.07gの固形飼料を継続的に消費した(表7)。
【0213】
同様に、投薬前の処置群の間で毎日の水の消費量に有意差はなかった。TrkBhu/huマウスはそれぞれの処置群で1日あたり平均4.67~5.55mLの水を消費した(表8)。投薬後、H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスの1日あたりの水摂取量は2.05~3.24mLに減少した。これは研究を通して1日あたり4.50~5.77mLの水を継続的に消費したナイーブおよびアイソタイプ対照抗体処置TrkBhu/huマウスより有意に低かった(表8)。したがって、TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2の注射は、ナイーブおよびアイソタイプ対照マウスの両方と比較して、TrkBhu/huマウスにおいて食物摂取量および水摂取量の両方の有意な低減をもたらすと考えられる。
【0214】
【表7】
【0215】
【表8】
【0216】
活動性に対する抗体処置の効果を決定するため、OXYMAX(登録商標)/CLAMSソフトウェア(Columbus Instruments、v5.35)によって移動運動を解析した。これは、それぞれのマウスのx平面歩行の全数を連続的に測定するものである。1匹のマウスは投薬前に多動を示し、用量後の統計解析から除外された。ナイーブ対象およびアイソタイプ抗体で処置した対象は研究を通して1日あたり平均11,000~15,000回の歩行を継続的に記録した。一方、H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスは投薬後24~48時間の間に28,260回の歩行、投薬後48~72時間および72~96時間の間にそれぞれ21,193回および27,028回の歩行を記録した(表9)。H4H9816P2で処置したTrkBhu/huマウスは抗体投与後それぞれの時点で、より多い全歩行数を記録し、多動がH4H9816P2の注射の追加的な効果であることが示唆された。これらを組み合わせると、これらの効果はTRKBアゴニスト抗体H4H9816P2の単回皮下注射がTrkBhu/huマウスにおいて体重、体組成、代謝、および移動運動に有意な変化を誘起したことを示唆している。
【0217】
【表9】
【0218】
(実施例3 TrkBhu/huマウス(MAID7139)における定位注射の後の脳におけるTRKBリン酸化に対するTRKBアゴニスト抗体H4H9816P2およびIgG4アイソタイプ対照REGN1945の効果のin vivo比較)
実験手順
チロシン受容体キナーゼB(TRKB)はそのリガンドである脳由来神経栄養因子(BDNF)の細胞外受容体ドメインにおける結合によって活性化され、それにより細胞内受容体ドメインにおけるチロシン残基の二量化および自己リン酸化が誘起され、引き続いて細胞質シグナル伝達経路が活性化される。例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるHaniu et al. (1997) J. Biol. Chem. 272(40):25296-25303およびRogalski et al. (2000) J. Biol. Chem. 275(33):25082-25088を参照されたい。TRKB活性化動力学に対するTRKBアゴニスト抗体H4H9816P2の効果を決定するため、細胞外ドメインをヒト化したキメラマウス/ヒトTRKB受容体についてホモ接合性のマウス(MAID7139)(TrkBhu/huマウスと称する)において、海馬への直接注射に引き続くTRKBリン酸化の経時的研究を行った。TrkBhu/huマウス(N=48)のブレグマの-2mm後方、+1.5mm側方の海馬に、2μLのビヒクル(PBS)、本明細書でIgG4アイソタイプ対照抗体と称するREGN1945(最終濃度27.5mg/mL)、またはTRKBアゴニスト抗体H4H9816P2(最終濃度27.5mg/mL)の両側定位注射を行った。組織の損傷を最小化するため、注射および針の除去はいずれも5分の間隔にわたってゆっくりと行った。次いで注射後約30分、1時間、4時間、または18時間にCO安楽死によってTrkBhu/huマウスを屠殺した。心穿刺によって最終出血を行って血液を回収し、次いで冷却したヘパリン化食塩水を心臓を経由してマウスを潅流した。頭蓋から脳を注意深く取り出し、注射部位を取り囲む組織の2mmの切片を切除し、エッペンドルフ管に集め、氷上で保存した。次いで2×プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤(ThermoFisher Scientific、Cat#78444)を含有する300μLのRIPA溶解緩衝液(ThermoFisher Scientific、Cat#89901)で脳の切片を溶解し、氷上で保存した。溶解した組織をさらなる処理のため次にホモジナイズし、アリコートにして-80℃で保存した。
【0219】
脳組織中のTRKBリン酸化を評価するため、免疫沈降法およびウエスタンブロットを実施した。H4H9816P2との結合に関して競合しない抗ヒトTRKB抗体H4H10108NをNHS活性化セファロースビーズ(製造業者のプロトコールを用いて調製、GE Healthcare、Cat#17-0906)にカップリングし、DPBSで3回洗浄してあらゆる残存保存溶液を除去した。ホモジナイズした脳溶解物を氷上で解凍し、TBST中1%のNP-40、0.1%のTween-20、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤からなる緩衝液で1mg/mL(脳重量対緩衝液体積)の濃度に希釈した。ホモジナイズした脳溶解物のタンパク質濃度は、製造業者の指示(Thermo Scientific Pierce、Cat#23225)に従って標準的なBCAアッセイを実施することによって定量した。タンパク質100μgについて15μLの抗ヒトTRKB抗体(H4H10108N)NHS活性化セファロースビーズを脳溶解物溶液に添加し、混合物を20rpmで穏やかに振とうしながら(Thermoローテーター)4℃で終夜インキュベートした。翌日、試料を1000×gで1分遠心分離し、次いで上清を注意深く除いた。続いて1%のTween-20(Sigma Aldrich、Cat#P9416)を含む400μLのトリス緩衝食塩水(Bio-Rad、Cat#1706435)(TBST)でビーズを2回洗浄した。洗浄緩衝液を注意深く吸引した後、水中、pH3.0の0.1%トリフルオロ酢酸(TFA、Sigma Aldrich、T62200)60μLをそれぞれの試料に添加した。溶液を混合して2分間静置し、その後採取して別の管に移した。pH3.0の0.1%TFA60μLをさらに用いてこの処理を繰り返した。次に各試料についての2つの0.1%TFA溶液を合わせて、2μLのpH8.5の1MトリスHCl(ThermoFisher Scientific、Cat#15567-027)を添加した。
【0220】
急速真空を用いて溶液を乾燥し、再懸濁して、1×Laemmli緩衝液(Bio-Rad、Cat#1610737)と355nMの2-メルカプトエタノール(BME;Gibco、Cat#21985-023)の混合物20μLで還元した。試料を95℃で10分間煮沸し、10ウェルのMini-Protean4~15%トリスグリシンゲル(Bio-Rad、Cat#4561086)にローディングした。電気泳動の後、タンパク質試料をトリスグリシンゲルからTrans-Blot Turbo Transfer System(Bio-Rad、Cat#1704156)を介して30分にわたって1.3Aおよび25Vの一定速度でPVDF膜(Bio-Rad、Cat#170-4156)に移した。移送の後、TBST中2.5%のミルク(Bio-Rad、Cat#170-6406)で、室温で1時間、膜をブロックし、続いて30rpmの振とう器上、4℃で終夜、2.5%BSA溶液で1:1000に希釈した抗ホスホ-TRKB抗体(Novus、Cat#NB100-92656)または2.5%のミルクTBSTで1:1000に希釈した抗TRKB一次抗体(Cell Signaling、Cat#4603)でプローブした。翌日、ブロットをTBSTで洗浄し、TBST中1%のミルクで1:1000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ウサギIgG抗体(Jackson、Cat#111-035-144)と室温で1時間インキュベートした。次いでブロットを再び洗浄し、ECL溶液(PerkinElmer,Inc. Cat#RPN2106)で発光させ、続いて30秒ごとに画像の露光を取得した。
【0221】
結果および結論
図3に示すように、TrkBhu/huマウスの脳溶解物由来のタンパク質の免疫沈降法および引き続くウエスタンブロットにより、TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2を注射したマウスでは海馬TRKBリン酸化が検出可能であったが、ビヒクルまたはアイソタイプ対照抗体で処置したマウスでは検出されないことが示された。評価した時点の中では、TRKBリン酸化はH4H9816P2を投薬したマウスで定位注射の後、4時間でピークに達した。全てではないが数匹のマウスで、投薬後18時間でも、ウエスタンブロットによりTRKBリン酸化が検出された。逆に、ビヒクルおよびIgG4アイソタイプ対照抗体の注射では、いずれの時点でもTRKBリン酸化は誘起されなかった。ウエスタンブロットにより、全TRKB受容体レベルは、ビヒクルおよびアイソタイプ対照で処置したマウスと比較して、H4H9816P2を投薬した全てではないが数匹のTrkBhu/huマウスで下方制御されていることも示された。H4H9816P2で処置した対象では投薬後18時間で全TRKBレベルが僅かに下方制御されているように思われた。したがって、これらの結果は、TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2の直接注射によりTrkBhu/huマウスにおいて海馬TRJB受容体のリン酸化が誘起されることを示している。
【0222】
(実施例4 生後1日のTrkBhu/huマウスからの初代皮質ニューロンにおけるTrkBアゴニスト抗体による下流シグナル伝達経路の活性化)
実験手順
全ての手順はARVO Statement for Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research and the Regeneron Pharmaceuticals, Inc. IACUCに従って実施した。ヒト化TrkBマウス(MAID7139)からマウス初代皮質ニューロンを単離して培養した。例えばその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるBeaudoin et al. (2012) Nat. Protoc. 7(9):1741-1754を参照されたい。AktおよびErkの下流経路(p-Akt、p-Erk1/2)に対するTrkBアゴニスト抗体の効果を決定するため、ウエスタンブロットを実施した。生後1日(P1)のヒト化TrkB幼若マウスの初代皮質ニューロンを、GS21Neural Supplement(Global Stem、cat#GSM-3100)、Glutamax(Invitrogen、cat#35050-061)およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充したNeuralQ Basal Medium(Global Stem、cat#GSM-9420)中で4日間(DIV-4)培養した。細胞を、TrkBアゴニスト抗体H4H9816P-L1(10μg/mL)、TrkBアゴニスト抗体H4H9780P-L1(10μg/mL)、TrkBアゴニスト抗体H4H9814P-L1(10μg/mL)、IgG4アイソタイプ対照REGN1945(10μg/mL)、対照抗体H1M8037C-L1(10μg/mL)、またはBDNF(1μg/mL)で15分間または2時間処理した。アゴニストが下流シグナル伝達の維持および強度において相違を有するかを決定するために、ウエスタンブロットを実施した。処理した細胞をすすぎ、1%のプロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤(Sigma)を含有する冷PBS中で擦過した。Bradfordタンパク質アッセイ(Pierce)によってタンパク質濃度を決定した。試料(50μg)を3~8%のトリスアセテート還元ゲル(Novex)中のSDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜(Bio-Rad)に移した。
【0223】
5%のミルクおよび0.1%のTween-20を含有するpH7.6のブロッキング溶液中で膜を1時間インキュベートした。続いて5%のBSA、0.1%のTween-20、およびウサギ抗ホスホ-Trk(Cell Signaling、cat#9141、1:500)、ウサギ抗ホスホ-Akt(Cell Signaling、cat#9271、1:1000)、またはウサギ抗ホスホ-ERK1/2抗体(Sigma、cat#E7028、1:5000)を含有するブロッキング緩衝液中、4℃で終夜インキュベートした。続いて、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗ヤギ、抗マウス、または抗ウサギIgGとインキュベートし、HRPの化学発光基質(Pierce)によって発光させることによって、標識したタンパク質を可視化した。それぞれのレーンに存在する全TrkB、MAPK、またはAktの量を決定するため、ストリッピング緩衝液(Pierce)中で20分、ニトロセルロース膜から抗体をストリッピングし、ウサギ抗TrkB(Cell Signaling、cat#4603、1:1000)、ウサギ抗Erk1/2(Cell Signaling、cat#06-182、1:1000)、またはウサギ抗Akt抗体(Cell Signaling、cat#9272、1:1000)とインキュベートし、次いで上述のように可視化した。試料ローディング対照としてベータ-アクチン(Sigma、cat#A5316、1:20000)およびGAPDH(Sigma、cat#G9295)をプローブした。
【0224】
材料
【表10】
【0225】
【表11】
【0226】
【表12】
【0227】
【表13】
【0228】
【表14】
【0229】
結果および結論
図7に示すように、全てのTrkBアゴニスト抗体はインキュベーション後15分でMAPK/ERKおよびPI3K/Akt経路の活性化を示したが、BDNFおよびH4H9814PのみがTrkBリン酸化を示した。インキュベーション後2時間で、全てのTrkBアゴニスト抗体はTrkBの活性化を示した。
【0230】
(実施例5 ヒト化TrkBマウスおよび野生型マウスにおける抗TrkB抗体の薬物動態評価)
実験手順
抗TrkB抗体H4H9816P2(ロットH4H9816P2-L7)の薬物動態の評価を、ヒト化TrkB(キメラマウス/ヒトTrkB発現についてホモ接合性マウス、TrkBhu/hu)(MAID7139)および野生型(WT)マウスについて行った。コホートにはマウスの1血統について5匹のマウスが含まれていた。全てのマウスに10mg/kg用量の単回皮下(SC)投与を行った。投薬後6時間ならびに1、2、3、6、9、16、21、および30日で血液試料を回収した。血液を血清に処理して解析まで-80℃で凍結した。
【0231】
GyroLab xPlore(商標)(Gyros、Uppsala、Sweden)を用いる全ヒトIgG4/hIgG1抗体解析によって、循環抗体濃度を決定した。手短には、抗体希釈緩衝液(0.05%Tween-20+PBS)中、100μg/mLに希釈したビオチン化マウス抗ヒトIgG4/IgG1特異的モノクローナル抗体(REGN2567、ロットRSCH15088)を、ストレプトアビジンコートビーズ(Dynospheres(商標))を予めローディングした親和性カラムを含有するGyrolab Bioaffy 200CDに捕捉した。このアッセイにおける較正に用いた標準は、0.1%の正常マウス血清(NMS)を含有する希釈緩衝液(0.5%BSA+PBS)中、0.488~2000ng/mLの範囲の濃度のH4H9816Pであった。血清試料は抗体希釈緩衝液で1:100に希釈した。室温で試行したCD上の抗REGN2567コート親和性カラムに捕捉されたヒトIgGを、検出緩衝液(Rexxip F緩衝液)で希釈した0.5μg/mLのAlexa-647コンジュゲートマウス抗ヒトカッパモノクローナル抗体(REGN654、ロットRSCH13067)の添加によって検出し、得られる蛍光シグナルを、GyroLab xPlore装置によって応答ユニット(RU)で記録した。Gyrolab Evaluatorソフトウェアを用いる5パラメーターロジスティック曲線フィットを用いてフィットさせた標準曲線の内挿によって、試料濃度を決定した。2回の反復実験の平均濃度を引き続くPK解析のために用いた。
【0232】
Phoenix(登録商標)WinNonlin(登録商標)ソフトウェアバージョン6.3(Certara,L.P.、Princeton、NJ)を用いる非コンパートメント解析(NCA)および血管外投薬モデルによって、PKパラメーターを決定した。各抗体についてのそれぞれの平均濃度値を用い、観察された血清中最大濃度(Cmax)、観察された推定半減期(t1/2)、および測定可能な最終濃度までの時間に対する濃度曲線下面積(AUClast)を含む全てのPKパラメーターを、直線的内挿および均一な重みづけによる直線的台形規則を用いて決定した。
【0233】
結果および結論
抗TrkB抗体H4H9816P2の10mg/kgの皮下投与の後、TrkBhu/huマウスおよびWTマウスの両方において1日目または2日目までに同様の最大抗体濃度(Cmax)が観察された(それぞれ135および131μg/mL)。9日目までに、H4H9816P2はTrkBhu/huマウスにおいてWTマウスよりも急速な薬物排出を示し、標的媒介効果を示した。TrkBhu/huマウスでは30日目の抗体濃度は約35分の1であった。WTマウスにおけるH4H9816P2への抗体曝露(AUClast)は、TrkBhu/huマウスで見られたものよりも約1.7倍高かった(それぞれ1730および1020d*μg/mL)。WTマウスはまた、TrkBhu/huマウスに対して約3倍の半減期(T1/2)の増大を示した(それぞれ8.4および2.9日)。
【0234】
全抗TrkB抗体濃度のデータの要約を表15にまとめ、平均PKパラメーターを表16に記載し、時間に対する平均全抗体濃度を図8に示す。図8において、マウスには0日目で単回の10mg/kgの皮下用量を投与した。血清中の全H4H9816P2の濃度は、Gyrosイムノアッセイによって測定した。用量後6時間、1、2、3、6、9、16、21、および30日目のデータ点は、平均抗体濃度を示す。H4H9816P2の全抗体濃度は、TrkBhu/huマウスについては黒丸で、野生型マウスについては黒四角で表す。データは平均±SDとしてプロットしている。
【0235】
【表15】
【0236】
【表16】
【0237】
(実施例6 ヒト化TRKB遺伝子座を含むラットの作製)
7kbのラットTrkB遺伝子座を含む5’相同性アームおよび47kbのラットTrkB遺伝子座を含む3’相同性アームを含む大型の標的化ベクターを作製し、ラットTRKB細胞外ドメインをコードするラットTrkB遺伝子の68.5kbの領域を、対応する74.4kbのヒトTRKB配列で置換した。VELOCIGENE(登録商標)遺伝子操作技術を用いる細菌の相同組換え(BHR)反応による細菌の人工染色体(BAC)DNAに由来する大型の標的化ベクター(LTVEC)の作製および使用は、例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,586,251号およびValenzuela et al. (2003) Nat. Biotechnol. 21(6):652-659に記載されている。in vitroアセンブリ法によるLTVECの作製は、例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2015/0376628号およびWO2015/200334号に記載されている。ラットおよびヒトTRKBに関する情報を表17に示す。大型の標的化ベクターの作製に関する説明を表18に示す。
【0238】
【表17】
【0239】
【表18】
【0240】
具体的には、エクソン2(コーディングエクソン1、アミノ酸32から、シグナルペプチドを保存する)から始まるエクソン10までの領域を、イントロン10の最初の50塩基対およびエクソン2と10との間(すなわちコーディングエクソン1とエクソン10との間)の全てのイントロンを含めて、ラットTrkB遺伝子座から欠失させた(エクソン10および11によってコードされたラット膜貫通ドメインを保存する)。エクソン2/コーディングエクソン1(シグナルペプチドの後で始まるアミノ酸32から)を含むエクソン10までの領域を、イントロン10の最初の66塩基対およびエクソン2と10との間(すなわちコーディングエクソン1とエクソン10との間)の全てのイントロンを含めて、欠失させたラットの領域の代わりに挿入した(エクソン10および11によってコードされたラット膜貫通ドメインを保存する)。
【0241】
ラットTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインの配列を、それぞれ配列番号67~70に表記されている対応するコード配列とともに、それぞれ配列番号55~58に表記する。ヒトTRKBシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインの配列を、それぞれ配列番号71~74に表記されている対応するコード配列とともに、それぞれ配列番号59~62に表記する。予想されるコードされたキメラTRKBタンパク質は、ラットTRKB膜貫通ドメインおよび細胞内ドメイン、ラットTRKBシグナルペプチド、ならびにヒトTRKB細胞外ドメインを有している。図4を参照されたい。ラットおよびヒトTRKBタンパク質のアラインメントを図6に示す。ラットおよびヒトTrkB/TRKBコード配列をそれぞれ配列番号10および11に表記する。ラットおよびヒトTRKBタンパク質配列をそれぞれ配列番号2および3に表記する。予想されるキメララット/ヒトTRKBコード配列および予想されるキメララット/ヒトTRKBタンパク質の配列をそれぞれ配列番号13および5に表記する。
【0242】
変異体対立遺伝子を生成するため、4つのガイドRNA(配列番号41~44に表記されているガイドRNA標的配列)を含むCRISPR/Cas9成分を、大型の標的化ベクターとともにラット胚幹細胞に導入した。具体的には、4×10個のラットES細胞(ダークアグーチ系統DA2B)を、以下:2mgのTrkB LTVEC、5mgのCas9発現プラスミド、およびそれぞれ5mgのgRNA、すなわちgU、gU2、gD、およびgD2とともに電気穿孔した。電気穿孔の条件は、電圧400V、キャパシタンス100mF、抵抗0Wであった。濃度75mg/mLのG418を用いて抗生剤選択を行った。コロニーを採取し、増殖させ、TAQMAN(登録商標)によってスクリーニングした。図5を参照されたい。表19に示すプライマーおよびプローブを用いて、内在性ラット対立遺伝子の喪失を検出するために対立遺伝子喪失アッセイを行い、ヒト化対立遺伝子の獲得を検出するために対立遺伝子獲得アッセイを行い、CRISPRおよび保持アッセイを行った。
【0243】
【表19】
【0244】
対立遺伝子喪失(LOA)および対立遺伝子獲得(GOA)アッセイを含む対立遺伝子改変(MOA)アッセイは、例えばそれぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2014/0178879号、米国特許出願公開第2016/0145646号、WO2016/081923号、およびFrendewey et al. (2010) Methods Enzymol. 476:295-307に記載されている。対立遺伝子喪失(LOA)アッセイは従来のスクリーニングの論理を逆転させ、変異が導かれたネイティブ遺伝子座のゲノムDNA試料におけるコピー数を定量するものである。正しく標的化されたヘテロ接合性細胞クローンにおいては、2つのネイティブ対立遺伝子の一方が(X染色体上にもY染色体上にもない遺伝子について)LOAアッセイによって検出され、他方の対立遺伝子は標的化された改変によって中断される。ゲノムDNA試料中に挿入された標的化ベクターのコピー数を定量する対立遺伝子獲得(GOA)アッセイとして、同じ原理を逆に適用することができる。
【0245】
保持アッセイは、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2016/0145646号およびWO2016/081923号に記載されている。保持アッセイは、標的化ベクターの5’および3’相同性アームにそれぞれ対応する5’および3’の標的配列のDNA鋳型のコピー数を評価することによって、標的ゲノム遺伝子座への核酸インサートの正しく標的化された挿入と、標的ゲノム遺伝子座の外のゲノム位置への核酸インサートのランダムなトランスジェニック挿入とを区別するものである。具体的には、保持アッセイによって、改変された標的ゲノム遺伝子座の中に保持することが意図された5’標的配列DNA鋳型および/または改変された標的ゲノム遺伝子座の中に保持することが意図された3’標的配列DNA鋳型のゲノムDNA試料中のコピー数を決定する。2倍体細胞においては、正しく標的化されたクローンは2のコピー数を保持することになる。2より大きいコピー数は一般に、標的ゲノム遺伝子座ではなく標的ゲノム遺伝子座の外でのランダムな標的化ベクターのトランスジェニック組み込みを示す。未満のコピー数は一般に、欠失のために標的化した領域を超えて延びる大きな欠失を示す。
【0246】
CRISPRアッセイは、CRISPR gRNAによって中断された領域を包含するように設計されたTAQMAN(登録商標)アッセイである。CRISPR gRNAによってインデル(挿入または欠失)が切断されおよび作製されると、TAQMAN(登録商標)アッセイによって増幅することができず、したがってCRISPR開裂が報告される。
【0247】
陽性クローンCB1を解凍し、増殖させ、TAQMAN(登録商標)によって再確認した。CB1はヒト置換配列の5’末端から5’相同性アームの末端を超え、隣接するラットゲノム配列までのPCRの成功によっても確認された。末端のシーケンシングによって、PCRアンプリコンは正しいことが確認された。
【0248】
F0およびF1ラットは、それぞれその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2014/0235933号、同第2014/0310828号、WO2014/130706号、およびWO2014/172489号に記載された方法を用いて作製した。これらの方法において、確認され標的化されたラットES細胞クローン(例えばダークアグーチES細胞クローン)を胚盤胞(例えばSprague Dawley(SD)胚盤胞)に微量注入し、つぎに偽妊娠したレシピエント雌(例えばSDレシピエント雌)に標準的な技術によって妊娠のために移す。キメラを(例えばコート色によって)同定し、雄のF0キメラを同じ血統(例えばSD雌)の野生型雌ラットと交配させる。次いで生殖細胞系列(例えばアグーチ)F1幼若ラットを標的化された対立遺伝子の存在について遺伝子型決定する。以下に記載するヒト化TRKBラットにおいて実施した全ての実験は、自己欠失選択カセットが自己欠失したラットで行った。
【0249】
(実施例7 TrkBhu/huラットにおける網膜神経節細胞(RGC)生存に対するTRKBアゴニスト抗体H4H9816P2とIgG4アイソタイプ対照REGN1945の効果のin vivo比較)
実験手順
全ての手順はARVO Statement for Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research and the Regeneron Pharmaceuticals Inc. IACUCに従って実施した。8~10週齢でそれぞれ体重200~250gの成体の雌TrkBヒト化ラット(MAID100010)を用いた。ラットに対する全ての手術手順は、ケタミン(63mg/kg)およびキシラジン(6.0mg/kg)の腹腔内注射を用いて全身麻酔下に行った。角膜を保護するためにエリスロマイシン(0.5%、Bausch&Lomb)を含有する眼軟膏を適用した。
【0250】
眼窩内視神経軸索切断および硝子体内注射。左の視神経(ON)を眼窩内で露出し、その硬膜を開いた。眼球の約1.5mm後ろでONを切断した。網膜への血液の供給を損傷しないように注意した。50μLのハミルトンシリンジに連結した、引伸ばしたガラスピペットを用いて毛様体輪の真後ろで硝子体内注射を行った。水晶体を損傷しないよう注意した。顕著な術後合併症(例えば網膜虚血、白内障)を有したラットがあれば、さらなる解析から除外した。動物は異なった実験群に割り付けた。ON軸索切断の後、3日目および10日目に、対照群には3μLのアイソタイプ対照REGN1945(46.6μg/μL)を硝子体内注射し、他の群には3μLの抗ヒトTRKB抗体H4H9816P2(45.7μg/μL)を注射した。
【0251】
免疫組織化学染色および生存している網膜神経節細胞(RGC)の計数。生存している網膜神経節細胞(RGC)のマーカーとしてBRN3A(脳特異的ホメオボックス/POUドメインタンパク質3A)を用いた。なぜなら、これがON傷害後の網膜ホールマウントにおける生存RGCの選択的標識のための効率よく信頼できる方法であることが示されているからである。例えばその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるNadal-Nicolas et al. (2009) Invest. Ophthalmol. Vis. Sic. 50(8):3860-3868を参照されたい。BRN3Aを免疫染色するため、網膜を10%正常ロバ血清および0.5%Triton-X100中で1時間ブロッキングし、次いでBRN3A抗体(1:400、Cat#sc-31984、Santa Cruz)を含む同じ培地中で室温、2時間インキュベートした。さらに洗浄した後、網膜をAlexa594コンジュゲートロバ抗ヤギ二次抗体(1:400、Cat#A-11058、Invitrogen)と4℃で終夜インキュベートした。
【0252】
結果および結論
in vivoにおけるRGCの生存に対するTRKBアゴニスト抗体の効果を評価するため、完全視神経切断モデルを用いた。術後3日目および10日目に、TRKBアゴニスト抗体(H4H9816P2)またはアイソタイプ対照抗体を適用した。軸索切断後14日目に動物を安楽死させた。傷害を受けていない反対側の眼におけるRGC密度は3つのTRKB遺伝子型(ホモ接合性ヒト化、ヘテロ接合性ヒト化、および野生型)で同様で、表20に示すように平均して約1600/mmである。BRN3A染色を用いて、網膜ホールマウントにおける生存RGCの密度を評価した。ホモ接合性TrkBhu/huヒト化ラットにおいて、TRKBアゴニスト抗体(H4H9816P2)は、対照と比較して有意に(p<0.01、Mann-Whitney検定)RGCの生存を増大させたことが見出された(685±106対255±66RGC/mm)。ヘテロ接合性TrkBhu/+ヒト化ラットにおいても、TrkBアゴニストAbの有意な(p<0.05、Mann-Whitney検定)生存効果がある(444±90対208±50RGC/mm)。野生型ラットでは、TRKBアゴニスト抗体で処置したラットで、アイソタイプ対照と比較して僅かであり有意でないRGC数の増加があった(表21)。結論として、TRKBアゴニスト抗体(H4H9816P2)はTrkBhu/huヒト化ラットにおいてRGCの生存を有意に増大させた。
【0253】
【表20】
【0254】
【表21】
【0255】
(実施例8 実施例で用いた抗TRKB抗体の重鎖および軽鎖可変領域のアミノ酸配列)
H4H9780P、H4H9814P、およびH4H9816P2として表される抗体を含むいくつかの完全ヒト抗TRKB抗体(すなわちヒト可変ドメインおよびヒト定常ドメインを有する抗体)を実施例で試験した。表22に、実施例で用いた選択された抗TRKB抗体の重鎖および軽鎖可変領域ならびにCDRのアミノ酸配列の識別子を示す。表23に、実施例で用いた選択された抗TRKB抗体の重鎖および軽鎖可変領域ならびにCDRの核酸配列の識別子を示す。これらの抗体は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる2018年11月28日に出願された米国特許出願公開第16/202,881号により詳細に記載されている。
【0256】
【表22】
【0257】
【表23】
【0258】
抗体は本明細書において典型的には以下の命名法に従って称する。Fc接頭辞(例えば「H4H」)、続いて数字識別子(例えば表22に示す「9780」、「9816」等)、続いて「P」または「P2」接尾辞。抗体表示におけるH4H接頭辞は、抗体の特定のFc領域アイソタイプを示す。したがって、この命名法に従えば、本明細書において抗体は例えば「H4H9780P」と称され、これはヒトIgG4Fc領域を示す。抗体表示において最初の「H」によって表されれば、可変領域は完全にヒトの可変領域である。当業者には認識されるように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は異なったFcアイソタイプを有する抗体に変換することができる(例えばマウスIgG1 Fcを有する抗体はヒトIgG4を有する抗体に変換できる等)が、いずれにしても、(CDRを含む)可変ドメイン(これは表22に示す数字識別子によって示されている)は同じままであり、抗原との結合特性はFcドメインの性質に関わらず同一または実質的に同様であることが予想される。
【0259】
(実施例9 ヒト化TrkBラットにおける抗ヒトTrkBアゴニスト抗体の神経保護効果)
以下の実験は、野生型(WT)マウスおよびラット、ならびにヒト化TrkBマウスおよびラットにおける内在性TRKBアゴニスト、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ならびにTRKBアゴニストモノクローナル抗体(mAb)の神経保護効果を評価するために行った。
【0260】
分化したヒト神経芽細胞腫細胞系SH-SY5Yを用いる細胞生存アッセイによって、BDNFおよびTRKB Abのin vitro効果を定量した。in vitroでは、BDNFまたはTRKB Abはレチノイン酸分化SH-SY5Y細胞の細胞生存を有意に増大させた。効果はベル型の用量応答を示し、最適用量はBDNFで1μg/mL、TRKB Abで10μg/mLであった。神経芽細胞腫細胞系SH-SY5Yを、10μMのオールトランスレチノイン酸を含有する分化培地中で4日間培養した。種々の用量の抗体(0.01~100μg/mL)を含有する無血清分化培地に培養物を交換した。2日後にCCK8試薬を添加し、プレートを3~4時間インキュベートし、OD450を測定して生存細胞のパーセンテージを決定した。データは抗体を含まない無血清培地に正規化した。図9に示すように、TRKB mAb(TrkB mAb1はH4H9816P2であり、TrkB mAb2は対照TrkBアゴニスト抗体である)は用量依存的にSH-SY5Y細胞の生存を増大させた。ヒトアイソタイプ対照はSH-SY5Y細胞の生存に効果がなかった。抗体を含まない無血清培地は100%の生存をもたらした。
【0261】
次いでP2 C57BL/6Jマウスの網膜を切除し、解離させた。網膜神経節細胞をイムノパニング(immuno-panning)によって精製し、処置しまたは処置せずに、96ウェルプレート中で培養した。24時間後に、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を各ウェルに添加して、各群についての細胞生存を計算した。図10に示すように、BDNFはベル型の応答曲線を有し、最適用量は1μg/mLであった。TrkB mAb2(ヒトTrkB、マウスTrkB、およびラットTrkBに親和性を有する対照TrkBアゴニスト抗体)も高い用量ではベル型曲線を有するようであるが、神経保護効果を示す。
【0262】
in vivoの神経保護効果を試験するため、WTおよびヒト化TrkBマウスならびにラットを用いた。視神経切断(ONT)の3日後および10日後に、動物にBDNFまたはTRKB mAbを硝子体内(IVT)注射した。視神経切断の後、マウスでは1週間、ラットでは2週間で、網膜フラットマウントのBrn3a IHCにより、HALOソフトウェア(Indica Labs)を用いて網膜神経節細胞(RGC)の数を定量した。
【0263】
視神経切断後1週または2週で、TrkBhu/huマウスにおけるRGCの死はWTマウスと同様であった。BDNFまたはTRKB AbのWTまたはTrkBhu/huマウスにおける神経保護効果は小さいか、顕著でなかった。対照的に、IVT TRKB
AbではTrkBhu/huラットにおいて顕著なRGC神経保護があった。TrkBhu/huマウスでは体重減少が観察されたが、IVT TRKB Ab処置後のラットでは観察されなかった。BDNFはマウスおよびラットのいずれにおいても体重への影響がなかった。
【0264】
図11Aおよび図11Bに、WTマウスおよびラットの視神経切断モデルにおける神経保護を評価する実験の結果を示す。図11Aでは、8~9週齢のダークアグーチラットに、BDNF(5μg)、TrkB mAb2(18μg)、アイソタイプ対照抗体(18μg)、またはビヒクル対照を、切断後3日目および10日目に硝子体内投与した。TrkB mAb2はヒトTrkB、マウスTrkB、およびラットTrkBに親和性を有する対照TrkBアゴニスト抗体である。切断の14日後に網膜を切除し、網膜神経節細胞を染色した。BDNFおよびTRKB mAbは、網膜神経節細胞(RGC)密度によって測定される顕著な神経保護を示した。図11Bでは、8週齢のC57BL/6J WTマウスに、BDNF(2.5μg)、TrkB mAb2(10μg)、アイソタイプ対照抗体(10μg)、またはビヒクル対照を、切断後3日目および10日目に硝子体内投与した。TrkB mAb2はヒトTrkB、マウスTrkB、およびラットTrkBに親和性を有する対照TrkBアゴニスト抗体である。顕著な神経保護はなかった。したがって、BDNFおよびTRKB mAb処置により、視神経切断後の野生型ラットの切除した網膜においてRGC密度の顕著な増大がもたらされたが、野生型マウスの同じモデルではRGC密度に対する顕著な効果は観察されなかった。
【0265】
図12Aおよび図12Bに、WTマウスおよびラットにおけるBDNFの用量応答を示す。図12Aでは、WTマウスの視神経挫滅(ONC)モデルにおけるBDNFの用量応答は神経保護の小さなウィンドウを示す。図12Bに、WTラットの視神経切断モデルにおける0.13μg~30μgのBDNFの用量応答を示す。in vitroデータと同様のベル型応答があり、最適用量は0.8μgである。切断の14日後に網膜を切除し、網膜神経節細胞を染色した。すなわち、視神経挫滅の後の野生型マウスの切除した網膜におけるRGC密度によって測定される、それほど顕著ではないBDNFの用量応答曲線と比較して、視神経切断の後の野生型ラットの切除した網膜におけるRGC密度によって測定される、より顕著な用量応答曲線がBDNF処置によってもたらされた。
【0266】
次に、ヒト化TrkBラットにおけるTRKB Abの神経保護効果を試験した。図13Aおよび図13Bの結果は、視神経を切断したヒト化TrkBラットにおけるTRKB mAbの硝子体内注射が網膜神経節細胞の顕著な神経保護を示すことを示している。ヒトTRKBホモ接合性ラット、ヒトTRKBヘテロ接合性ラット、または野生型TrkBラットに、TrkB mAb1またはアイソタイプ対照抗体を、視神経切断後3日目および10日目に硝子体内投与した(3μL)。切断の14日後に網膜を切除し、RGCを染色した。ラットは17~19週齢の雌であった。図13Aに示すように、TrkB mAb1(H4H9816P2)で処置したラットは、アイソタイプ対照抗体で処置した対応するラットと比較して3つの遺伝子型全てで神経保護を示した。アイソタイプ対照で処置したヒトTRKBについてホモ接合性およびヘテロ接合性のラットは、アイソタイプ対照で処置した野生型ラットよりも高いRGC密度を有する。図13Bに、ナイーブの眼では遺伝子型の間にRGC数の差異がないことを示す。図13Cに、切断後14日目にTrkBアゴニスト抗体(H4H9816P2)またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)を投与したヒトTRKBホモ接合性マウスの体重を示す。
【0267】
次いで、3つの遺伝子型における無傷の眼および傷害を受けて処置された眼のBrn3a標識細胞を示すラット網膜のホールマウントRGC等密度マップを作製した(データは示していない)。ホールマウントの再構築は、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse Ti)の可動ステージを利用して調製した。RGCは画像解析ソフトウェア(HALO(登録商標)、Indica Labs、Corrales、NM、USA)を用いて計数した。等密度マップはMatlabによって生成した。TrkB mAb1(H4H9816P2)で処置したヒト化TrkBラットにおいて、アイソタイプ対照で処置したラットと比較して高いRGC密度が観察された(データは示していない)。
【0268】
合わせると、図11A図11B図12A図12B、および図13A図13Cに示すデータは、ヒト化TrkBラットの視神経傷害の後のTRKBアゴニストmAbの硝子体内投与が顕著な神経保護効果を有し、ヒト化TrkBマウスの視神経傷害の後に観察された小さなまたは顕著でない神経保護効果と対照的であることを示している。
【0269】
ラットの視神経切断(ONT)モデルにおけるRGCの生存に対するTRKBアゴニスト抗体の効果をさらに評価するため、用量-応答研究を行った。1~9月齢のヒトTRKBホモ接合性ラット(MAID100010、75%SD、25%DA)を用いた。各群で6匹のラットを用いた。ヒトTRKBホモ接合性ラットに、種々の用量のTrkB mAb1またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945)を、視神経切断後3日目および10日目に硝子体内投与した(3μL)。切断の14日後に網膜を切除し、RGCを染色した。図14に示すように、TrkBヒト化ラットにおいて、TrkB mAb1は用量依存的にRGCの生存を増大させた。
【0270】
次に、ヒトTRKBホモ接合性ラットの視神経切断(ONT)モデルにおいて、種々のTrkBアゴニスト抗体の神経保護効果を比較した。8~10週齢のヒト化TrkBラット(MAID100010、75%SD、25%DA)を用いた。各群で5~6匹のラットを用いた。ヒトTRKBホモ接合性ラットに、H4H9816P2-L9(10μg)、H4H9814P-L9(10μg)、H4H9780P-L5(10μg)、3つ全ての組合せ(それぞれ3.3μg)、またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945、10μg)を、視神経切断後3日目および10日目に硝子体内投与した(3μL)。切断の14日後に網膜を切除し、RGCを染色した。結果を図15Aおよび図15Bに示す。それぞれのTrkBアゴニスト抗体は、アイソタイプ対照抗体と比較して神経保護効果を有していた。各群の体重は同様であった(データは示していない)。
【0271】
対照的に、TrkBアゴニスト抗体H4H9780PおよびH4H9814Pは、野生型ラットにおいて神経保護効果を何ら有しなかった。野生型ラットにおいて神経保護効果は視神経切断(ONT)モデルを用いて評価した。8~10週齢の雌野生型ラットを用いた。各群で5~6匹のラットを用いた。野生型ラットに、H4H9780P(120μg)、H4H9814P(120μg)、またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945、120μg)を、視神経切断後3日目および10日目に硝子体内投与した(3μL)。切断の14日後に網膜を切除し、RGCを染色した。図16に示すように、TrkBアゴニスト抗体のいずれも、野生型ラットにおいて顕著な神経保護効果を有しなかった。
【0272】
さらに、TrkBアゴニスト抗体(H4H9780P)はヒトTRKBホモ接合性マウスにおいて神経保護効果を有しなかった。5月齢の雄ヒトTRKBホモ接合性マウス(MAID7139、75% C57BL/6、25% 129)を用いた。各群で5~6匹のマウスを用いた。ヒトTRKBホモ接合性マウスに、H4H9780P(1眼あたり40μg)またはアイソタイプ対照抗体(REGN1945、1眼あたり40μg)を、視神経切断後3日目および10日目に硝子体内投与した(1μL)。切断の14日後に網膜を切除し、RGCを染色した。図17Aおよび図17Bに示すように、TrkBアゴニスト抗体は、ヒトTRKBホモ接合性ラットで見られた神経保護効果とは対照的に、ヒトTRKBホモ接合性マウスにおいて神経保護効果を有しなかった。図17Cに、切断後14日目にH4H9780Pまたはアイソタイプ対照抗体を与えたヒトTRKBホモ接合性マウスの体重を示す。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む非ヒト動物であって、前記TRKBタンパク質が、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインの全体または一部が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた前記内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされる、非ヒト動物。
(項目2)
前記TRKBタンパク質が、ヒトTRKB細胞外ドメインを含む、項目1に記載の非ヒト動物。
(項目3)
前記細胞外ドメインが、配列番号60に表記されている配列を含む、項目2に記載の非ヒト動物。
(項目4)
前記細胞外ドメインの全体が、欠失されて前記オルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた前記内在性TrkB遺伝子座の前記セグメントによってコードされ、必要に応じて、前記細胞外ドメインのコード配列が、配列番号72に表記されている配列を含む、項目2または3に記載の非ヒト動物。
(項目5)
前記TRKBタンパク質が、内在性シグナルペプチドを含む、いずれかの先行する項目に記載の非ヒト動物。
(項目6)
前記シグナルペプチドが、配列番号51または55に表記されている配列を含む、項目5に記載の非ヒト動物。
(項目7)
前記シグナルペプチドの全体が、内在性TrkB配列によってコードされ、必要に応じて、前記シグナルペプチドのコード配列が、配列番号63または67に表記されている配列を含む、項目5または6に記載の非ヒト動物。
(項目8)
前記TRKBタンパク質が、内在性TRKB膜貫通ドメインを含む、いずれかの先行する項目に記載の非ヒト動物。
(項目9)
前記膜貫通ドメインが、配列番号53または57に表記されている配列を含む、項目8に記載の非ヒト動物。
(項目10)
前記膜貫通ドメインの全体が、内在性TrkB配列によってコードされ、必要に応じて、前記膜貫通ドメインのコード配列が、配列番号65または69に表記されている配列を含む、項目8または9に記載の非ヒト動物。
(項目11)
前記TRKBタンパク質が、内在性TRKB細胞質ドメインを含む、いずれかの先行する項目に記載の非ヒト動物。
(項目12)
前記細胞質ドメインが、配列番号54または58に表記されている配列を含む、項目11に記載の非ヒト動物。
(項目13)
前記細胞質ドメインの全体が、内在性TrkB配列によってコードされ、必要に応じて、前記細胞質ドメインのコード配列が、配列番号66または70に表記されている配列を含む、項目11または12に記載の非ヒト動物。
(項目14)
前記TRKBタンパク質が、内在性TRKBシグナルペプチド、内在性TRKB膜貫通ドメイン、および内在性TRKB細胞質ドメインを含む、いずれかの先行する項目に記載の非ヒト動物。
(項目15)
前記シグナルペプチドが、配列番号51に表記されている配列を含み、前記膜貫通ドメインが、配列番号53に表記されている配列を含み、前記細胞質ドメインが、配列番号54に表記されている配列を含む、または
前記シグナルペプチドが、配列番号55に表記されている配列を含み、前記膜貫通ドメインが、配列番号57に表記されている配列を含み、前記細胞質ドメインが、配列番号58に表記されている配列を含む、
項目14に記載の非ヒト動物。
(項目16)
前記シグナルペプチドの全体、前記膜貫通ドメインの全体、および前記細胞質ドメインの全体が、内在性TrkB配列によってコードされ、
必要に応じて、前記シグナルペプチドのコード配列が、配列番号63に表記されている配列を含み、前記膜貫通ドメインのコード配列が、配列番号65に表記されている配列を含み、前記細胞質ドメインのコード配列が、配列番号66に表記されている配列を含む、または
必要に応じて、前記シグナルペプチドのコード配列が、配列番号67に表記されている配列を含み、前記膜貫通ドメインのコード配列が、配列番号69に表記されている配列を含み、前記細胞質ドメインのコード配列が、配列番号70に表記されている配列を含む、
項目14または15に記載の非ヒト動物。
(項目17)
前記TRKBタンパク質が、キメラ非ヒト動物/ヒトTRKBタンパク質である、いずれかの先行する項目に記載の非ヒト動物。
(項目18)
前記細胞外ドメインが、ヒトTRKB細胞外ドメインであり、前記膜貫通ドメインが、内在性TRKBタンパク質膜貫通ドメインであり、前記細胞質ドメインが、内在性TRKBタンパク質細胞質ドメインである、項目17に記載の非ヒト動物。
(項目19)
前記TRKBタンパク質が、配列番号4または5に表記されている配列を含む、項目17または18に記載の非ヒト動物。
(項目20)
前記TRKBタンパク質をコードする前記遺伝子改変されたTrkB遺伝子座のコード配列が、配列番号12または13に表記されている配列を含む、項目19に記載の非ヒト動物。
(項目21)
前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座に関してヘテロ接合性である、いずれかの先行する項目に記載の非ヒト動物。
(項目22)
前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座に関してホモ接合性である、項目1~20のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
(項目23)
哺乳動物である、いずれかの先行する項目に記載の非ヒト動物。
(項目24)
齧歯類である、項目23に記載の非ヒト動物。
(項目25)
ラットまたはマウスである、項目24に記載の非ヒト動物。
(項目26)
ラットである、項目25に記載の非ヒト動物。
(項目27)
前記TRKBタンパク質が、配列番号5に表記されている配列を含む、項目26に記載の非ヒト動物。
(項目28)
前記TRKBタンパク質をコードする前記遺伝子改変されたTrkB遺伝子座のコード配列が、配列番号13に表記されている配列を含む、項目27に記載の非ヒト動物。
(項目29)
マウスである、項目25に記載の非ヒト動物。
(項目30)
前記TRKBタンパク質が、配列番号4に表記されている配列を含む、項目29に記載の非ヒト動物。
(項目31)
前記TRKBタンパク質をコードする前記遺伝子改変されたTrkB遺伝子座のコード配列が、配列番号12に表記されている配列を含む、項目30に記載の非ヒト動物。
(項目32)
ヒトTRKB標的化試薬の活性をin vivoで評価する方法であって、
(a)前記ヒトTRKB標的化試薬を項目1~31のいずれか一項に記載の非ヒト動物に投与するステップと、
(b)前記非ヒト動物における前記ヒトTRKB標的化試薬の活性を評価するステップとを含む、方法。
(項目33)
ステップ(a)が、前記ヒトTRKB標的化試薬を前記非ヒト動物に注射するステップを含む、項目32に記載の方法。
(項目34)
ステップ(b)が、対照非ヒト動物と比べて、体重、体組成、代謝および移動運動のうち1種または複数または全種の変化を評価するステップを含む、項目32または33に記載の方法。
(項目35)
体組成の変化を評価する前記ステップが、対照非ヒト動物と比べて、除脂肪量および/または体脂肪量を評価するステップを含む、項目34に記載の方法。
(項目36)
代謝の変化を評価する前記ステップが、食物消費および/または水消費の変化を評価するステップを含む、項目34または35に記載の方法。
(項目37)
ステップ(b)が、対照非ヒト動物と比べて、TRKBリン酸化、および/またはMAPK/ERKおよびPI3K/Akt経路の活性化を評価するステップを含む、項目32~36のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
ステップ(b)が、神経保護活性を評価するステップを含む、項目32~27のいずれか一項に記載の方法。
(項目39)
ステップ(b)が、神経保護活性を評価するステップを含み、前記非ヒト動物が、ラットである、項目38に記載の方法。
(項目40)
ステップ(b)が、網膜神経節細胞生存度を評価するステップを含む、項目32~39のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)
網膜神経節細胞生存度が、視神経傷害後の完全視神経切断モデルにおいて評価される、項目40に記載の方法。
(項目42)
網膜神経節細胞生存度が、視神経挫滅モデルにおいて評価される、項目40に記載の方法。
(項目43)
前記ヒトTRKB標的化試薬が、抗原結合性タンパク質である、項目32~42のいずれか一項に記載の方法。
(項目44)
前記抗原結合性タンパク質が、ヒトTRKBアゴニスト抗体である、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記ヒトTRKB標的化試薬が、小分子である、項目32~42のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)
前記小分子が、ヒトTRKBアゴニストである、項目45に記載の方法。
(項目47)
項目1~31のいずれか一項に記載の非ヒト動物を作製する方法であって、
(a)1細胞期胚ではない非ヒト動物多能性細胞に、
(i)内在性TrkB遺伝子座における5’標的配列にハイブリダイズする5’相同性アーム、および前記内在性TrkB遺伝子座における3’標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームに挟まれたインサート核酸を含む外因性修復鋳型であって、前記インサート核酸が、オルソロガスヒトTRKB配列を含む、外因性修復鋳型、ならびに
(ii)前記内在性TrkB遺伝子座内の標的配列を標的化するヌクレアーゼ剤
を導入するステップであって、ゲノムが、前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むように改変される、ステップと、
(b)改変された前記非ヒト動物多能性細胞を宿主胚に導入するステップと、
(c)前記宿主胚を代理母に移植して、前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む遺伝子改変されたF0世代非ヒト動物を産生させるステップと
を含む、方法。
(項目48)
前記多能性細胞が、胚性幹(ES)細胞である、項目47に記載の方法。
(項目49)
前記ヌクレアーゼ剤が、Cas9タンパク質、および前記内在性TrkB遺伝子座内のガイドRNA標的配列を標的化するガイドRNAである、項目47または48に記載の方法。
(項目50)
ステップ(a)が、前記非ヒト動物多能性細胞に、前記内在性TrkB遺伝子座内の第2のガイドRNA標的配列を標的化する第2のガイドRNAを導入するステップをさらに含む、項目49に記載の方法。
(項目51)
前記外因性修復鋳型が、少なくとも10kbの長さの大型の標的化ベクターである、または前記外因性修復鋳型が、その前記5’相同性アームおよび前記3’相同性アームの合計が少なくとも10kbの長さである大型の標的化ベクターである、項目47~50のいずれか一項に記載の方法。
(項目52)
項目1~31のいずれか一項に記載の非ヒト動物を作製する方法であって、
(a)非ヒト動物1細胞期胚に、
(i)内在性TrkB遺伝子座における5’標的配列にハイブリダイズする5’相同性アーム、および前記内在性TrkB遺伝子座における3’標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームに挟まれたインサート核酸を含む外因性修復鋳型であって、前記インサート核酸が、オルソロガスヒトTRKB配列を含む、外因性修復鋳型、ならびに
(ii)前記内在性TrkB遺伝子座内の標的配列を標的化するヌクレアーゼ剤
を導入するステップであって、ゲノムが、前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含むように改変される、ステップと、
(b)改変された前記非ヒト動物1細胞期胚を代理母に移植して、前記遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む遺伝子改変されたF0世代非ヒト動物を産生させるステップと
を含む、方法。
(項目53)
前記ヌクレアーゼ剤が、Cas9タンパク質、および前記内在性TrkB遺伝子座内のガイドRNA標的配列を標的化するガイドRNAである、項目52に記載の方法。
(項目54)
ステップ(a)が、前記非ヒト1細胞期胚に、前記内在性TrkB遺伝子座内の第2のガイドRNA標的配列を標的化する第2のガイドRNAを導入するステップをさらに含む、項目53に記載の方法。
(項目55)
TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む非ヒト動物細胞であって、前記TRKBタンパク質が、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインの全体または一部が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた前記内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされる、非ヒト動物細胞。
(項目56)
TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を含む非ヒト動物ゲノムであって、前記TRKBタンパク質が、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインの全体または一部が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた前記内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされる、非ヒト動物ゲノム。
(項目57)
TRKBタンパク質をコードする遺伝子改変された内在性TrkB遺伝子座を生成するための標的化ベクターであって、
前記TRKBタンパク質が、細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインを含み、前記細胞外ドメインの全体または一部が、欠失されてオルソロガスヒトTRKB配列に置き換えられた前記内在性TrkB遺伝子座のセグメントによってコードされ、
前記標的化ベクターが、前記内在性TrkB遺伝子座における5’標的配列を標的化する5’相同性アーム、および前記内在性TrkB遺伝子座における3’標的配列を標的化する3’相同性アームに挟まれた前記オルソロガスヒトTRKB配列を含むインサート核酸を含む、
標的化ベクター。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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