(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000985
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】時計ムーブメントの香箱ぜんまいの自動巻上げ装置
(51)【国際特許分類】
G04B 5/14 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
G04B5/14
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023099176
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】22180159.0
(32)【優先日】2022-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フィリップ・ロシャ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】時計ムーブメントの香箱ぜんまいの自動巻上げ装置を提供する。
【解決手段】振動体11、入口ディスク12、2個の減速ディスク13及びラチェット駆動ディスク14を含む腕時計の香箱ぜんまいの自動巻上げ装置10であって、各減速ディスク13は、少なくとも4個の遊星車131を支持する減速車130、及びその周りに減速車130を緩着する伝達ピニオン132を含み、入口ディスク12を、振動体11が入口ディスク12を駆動させる回転方向に関係なく、入口ディスク12が2個の減速車130を互いに異なる方向に回転させるように、2個の減速車130に運動学的に連結し、遊星車131は、各減速ディスク13において、ラチェットを形成し、ラチェットを、減速車130が所定の回転方向に枢動するときにのみ、伝達ピニオン132と減速車130を回転接続するように構成し、所定の回転方向を、どちらかの減速車130に対して同じにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体(11)、該振動体(11)に運動学的に連結する入口ディスク(12)、2個の減速ディスク(13)及びラチェット駆動ディスク(14)を含む腕時計の香箱ぜんまいの自動巻上げ装置(10)であり、各減速ディスク(13)は、少なくとも4個の遊星車(131)を支持する減速車(130)、及びその周りに前記減速車(130)を緩着する伝達ピニオン(132)を含み、前記入口ディスク(12)を、前記振動体(11)が前記入口ディスク(12)を駆動させる回転方向に関係なく、前記入口ディスク(12)が前記2個の減速車(130)を互いに異なる方向に回転させるように、前記2個の減速車(130)に運動学的に連結し、前記遊星車(131)は、非対称形状の歯を含み、
それによりラチェットを形成し、該ラチェットを、前記各減速ディスク(13)において、前記減速車(130)が所定の回転方向に枢動するときにのみ、前記伝達ピニオン(132)と前記減速車(130)を回転接続するように構成し、前記所定の回転方向を、どちらかの前記減速車(130)に対して同じにする装置であって、前記装置は、前記減速車(130)の一方を前記入口ディスク(12)と、及びもう一方の前記減速車(130)と噛合状態にすることを特徴とする、装置(10)。
【請求項2】
前記入口ディスク(12)及び前記減速車(130)を、前記振動体(11)と前記減速車(130)との間で、減速比が1:3以上となるように寸法取りする、及び/又は、
前記伝達ピニオン(132)及び前記ラチェット駆動ディスク(14)を、前記伝達ピニオン(132)と前記ラチェットとの間に形成する歯車列が、減速比1:50以下となるように寸法取りする、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
前記減速ディスク(13)は、互いに同じである、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項4】
前記伝達ピニオン(132)は、前記遊星車(131)と協働する第1歯列(1320)、及び前記ラチェット駆動ディスク(14)と協働する第2歯列(1321)を含む、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項5】
前記第1歯列(1320)は、前記第2歯列(1321)より多くの歯を含む、請求項4に記載の装置(10)。
【請求項6】
各減速ディスク(13)において、前記遊星車(131)を、前記伝達ピニオン(132)の周りに規則的に分散させ、前記伝達ピニオン(132)の各回転軸周りで、互いに異なる角度位置にそれぞれ配置する、請求項1に記載の装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ムーブメントの分野に関し、特に、腕時計の自動巻上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計の香箱ぜんまいの自動巻上げ装置は、振動体の回転方向に関係なく、上記ぜんまいを巻上げる目的で香箱ラチェットへトルクを伝達可能にすることが知られている。
【0003】
カップリングディスク機構は、従来技術から周知である。この機構は、2個のカップリングディスクを含み、各カップリングディスクは、ピニオン周りに緩着され、ラチェットを支持する車から成る。カップリングディスクの車は、互いに噛合状態にあり、上記車の一方、又は「第1車」は、振動体と強固に回転接続される入口ディスクと噛合する。ピニオンは、回転時に香箱ラチェットと協働する出口ディスクと噛合状態にある。
【0004】
振動体が第1方向に枢動すると、振動体は、第1車を第2方向に回転させ、第1車に支持されるラチェットは、上記第1車と第1車を周着したピニオンとを強固に回転接続するように構成されている。その後上記ピニオンは、出口ディスクを第1方向に回転させるように出口ディスクにトルクを伝達する。それと同時に、第1車は、第2車を第1方向に回転させ、上記第2車が支持するラチェットは、第2車を周着したピニオンの回転から第2車の回転を切断し、上記ピニオンを、出力ディスクによって第2方向に回転させる。
【0005】
それとは逆に、振動体が第2方向に枢動すると、振動体は、第1車を第1方向に回転させ、第1車に支持されるラチェットが、上記第1車と第1車を周着したピニオンとを回転非接続する。それと同時に、第1車は、第2車を第2方向に回転させ、第2車に支持されるラチェットは、第2車の回転を、第2車を周着したピニオンの回転と連係させ、その結果上記ピニオンは、出力ディスクを第1方向に回転させる。
【0006】
既知の方法では、また、香箱ラチェットと運動学的に連結する巻真を作動させ、それにより巻真の回転で、巻真が上記ラチェットを回転させることによって、香箱ぜんまいを手動で巻上げできる。
【0007】
巻真の回転中、香箱ラチェットは、出口ディスクを介してカップリングディスクのピニオンを回転させる。このピニオンの回転中、上記カップリングディスクの2車の各ラチェットを、上記ピニオンを回転状態で上記車から非接続するのに使用する。
【0008】
香箱ラチェットと出口ディスクとピニオン間の減速比のために、ラチェットには極めて大きな角運動速度がかかり、これが上記ラチェットの潤滑問題や早期摩耗の原因となる。
【0009】
更にまた、これらのカップリングディスク機構には、カップリングディスクの車の回転方向を変える際に、ラチェットとカップリングディスクのピニオンの歯との間にかなりの機械的な隙間が生じるという欠点がある。これらの隙間は、当業者によって「デッドゾーン」と呼ばれ、ノイズ、衝撃、震動を発生させるが、可動部品の早期摩耗がこれらの隙間の原因である。また、デッドゾーンは、振動体がこのデッドゾーンを通り移動する間、香箱を巻上げるのに使用できないため、巻上げ装置が香箱を巻上げる能力を低下させる。
【0010】
デッドゾーンは、振動体とカップリングディスクの車間の減速比が増加するのに従い、増加する。
【0011】
特許文献1及び特許文献2では、香箱ぜんまいの自動巻上げ装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3104232号
【特許文献2】欧州特許出願公開第2897000号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した欠点を解消する香箱ぜんまいの自動巻上げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述した欠点を解消し、そのために、振動体、該振動体に運動学的に連結する入口ディスク、2個の減速ディスク及びラチェット駆動ディスクを含む腕時計の香箱ぜんまいの自動巻上げ装置に関する。各減速ディスクは、少なくとも4個の遊星車を支持する減速車、及びその周りに減速車を緩着する伝達ピニオンを含む。入口ディスクを、入口ディスクを振動体が駆動させる回転方向に関係なく、入口ディスクが2個の減速車を互いに異なる方向に回転させるように、2個の減速車に運動学的に連結する。遊星車は、非対称形状の歯を含み、それによりラチェットを形成するが、該ラチェットを、各上記減速ディスクにおいて、上記減速車が所定の回転方向に枢動するときにのみ、伝達ピニオンと減速車を回転接続するように構成し、上記所定の回転方向を、どちらかの減速車に対して同じにする。
【0015】
特定の実施形態では、本発明は、以下の特徴の1つ又は複数を更に含むことができるが、これについては、単独で又は技術的に可能な任意の組合わせに従って検討しなければならない。
【0016】
特定の実施形態では、入口ディスク及び減速車を、振動体と減速車との間で、減速比が1:3以上となるように寸法取りする、及び/又は伝達ピニオン及びラチェット駆動ディスクを、伝達ピニオンとラチェット又はラチェット駆動ディスクとの間に形成する歯車列が、減速比1:50以下となるように寸法取りする。
【0017】
特定の実施形態では、減速車の一方を、入口ディスクと、及びもう一方の減速車と噛合状態にする。
【0018】
特定の実施形態では、減速ディスクは、互いに同じである。
【0019】
特定の実施形態では、伝達ピニオンは、遊星車と協働する第1歯列、及びラチェット駆動ディスクと協働する第2歯列を含む。
【0020】
特定の実施形態では、第1歯列は、第2歯列より多数の歯を含む。
【0021】
特定の実施形態では、各減速ディスクにおいて、遊星車を、伝達ピニオンの周りに規則的に分散させ、伝達ピニオンの各回転軸周りで、互いに異なる角度位置にそれぞれ配置する。
【0022】
本発明の他の特徴及び利点は、非限定的な例として、添付図を参照して提示した以下の詳細な説明を読むと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の好適な実施形態の例による腕時計の香箱ぜんまいを巻上げるための装置の斜視図を示している。
【
図2】
図1の装置の減速ディスクの平面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面は、明瞭化のために、必ずしも正確な縮尺で描かれていないことに留意されたい。
【0025】
図1は、好適な実施形態の例による腕時計の香箱ぜんまいの自動巻上げ装置10の斜視図を示している。この図で見られるように、巻上げ装置10は、振動体11、振動体11と噛合状態の入口ディスク12、2個の減速ディスク13、及びラチェット(図示せず)と協働するよう意図したラチェット駆動ディスク14を含む。
【0026】
入口ディスク12を、振動体11が枢動すると、振動体11が上記入口ディスク12を回転させるように、入口ディスク12が備える入口ディスク120によって、振動体11と運動学的に連結する。好適には、入口車120を、このために、振動体11に強固に、即ち自由度が無い状態で、取着した駆動車110とかみ合わせる。駆動車110は、本発明の好適な実施形態の例では、入口車120の歯と同数の歯を含む。
【0027】
更にまた、入口ディスク12は、ピニオン121を含み、ピニオン121の周りには入口車120を強固に取着し、ピニオン121は、上記入口ディスク12の回転運動を、ピニオン121と噛合する片方の減速ディスク13に伝達するよう意図される。
【0028】
特に、各減速ディスク13は、少なくとも4個の遊星車131を支持する減速車130、及びその周りに減速車130を、例えば、回転自由度を有する状態で、緩着する伝達ピニオン132を含む。
図1で示すように、入口ディスク12を、振動体11が入口ディスク12を駆動させる回転方向に関係なく、入口ディスク12が2個の減速車130を互いに異なる方向に回転させるように、2個の減速車130に運動学的に連結する。このために、
図1で示すような本発明の好適な実施形態の例では、減速車130の一方を、入口ディスク12、特に入口ディスク12のピニオンと、及びもう一方の減速車130と噛合状態にする。
【0029】
好適には、
図1で見られるように、減速ディスク13を互いに同じにする。その結果、装置の製造や組立が容易になり、規模の経済性が得られる。
【0030】
図2及び
図3は、本発明の好適な実施形態の例による減速ディスク13を詳細に示している。
【0031】
図2で示すように、遊星車131は、各減速ディスク13において、ラチェットを形成し、該ラチェットを、上記減速車130が所定の回転方向、ここでは、時計回り方向に枢動するときにのみ、伝達ピニオン132と減速車130を強固に回転接続するように構成する。特に、減速車130が時計回り方向に枢動すると、遊星車131の1つを、伝達ピニオン132に回転係止し、その遊星車131と協働する伝達ピニオン132の歯にトルクを印加し、それにより伝達ピニオン132と減速車130との強固な回転接続を生じさせる。
【0032】
この技術的効果は、特に、遊星車131の歯の非対称形状によるものである。特に、
図2の右側に示したように、遊星車131の1つを回転係止すると、その1つの歯の先端は、伝達ピニオン132の向かい側の歯の頭部に当接するように配置され、その時上記頭部は、止め部(banking)を形成する。
【0033】
逆に、減速車130が反時計回り方向に枢動すると、遊星車131は、伝達ピニオン132と噛合し、それにより上記減速車130が、伝達ピニオン132にトルクを印加することなく、即ち伝達ピニオン132を回転させることなく、上記伝達ピニオン132周りに回転するようになる。
【0034】
有利には、減速ディスク13が互いに同じであるため、遊星車131が減速車130と伝達ピニオン132とを強固に回転接続する所定の回転方向は、どちらかの減速車130に対して同じとする。振動体11の回転中、減速車130がそれぞれ異なる方向に回転するため、その方向に関係なく、伝達ピニオン132の一方が、所定の方向、即ち時計回り方向に枢動するように駆動される。
【0035】
特に、本発明の好適な実施形態の例では、伝達ピニオン132は、遊星車131と協働し、太陽歯車となる第1歯列1320、及びラチェット駆動ディスク14と協働する第2歯列1321を含み、第1歯列1320は、第2歯列1321より多数の歯を含む。第1歯列1320と第2歯列1321を、有利には同じ軸に取着し、互いに関連して回転固定する。図面では、これらの第1歯列1320と第2歯列1321を、それらの基準円筒(reference cylinder)によって図式的に表わす。
【0036】
有利には、各減速ディスク13において、遊星車131を、伝達ピニオン132の周りに規則的に分散させ、伝達ピニオン132の各回転軸周りで、互いに異なる角度位置にそれぞれ配置する。
図2で見られるように、各遊星車131は、異なる指向方向を有し、それにより伝達ピニオン132の歯間での遊星車131の歯の係合が上記遊星車131それぞれに対して異なるようにしている。これは、減速車130の回転方向が変化すると、伝達ピニオン132の歯、特に第1歯列1320の歯に、トルクを印加する遊星車131の歯と、第1歯列1320の歯との間に存在する機械的な隙間、即ちデッドゾーンを最小化するようにしたものである。更に、デッドゾーンは、遊星車131の数によっても減少する。
【0037】
好適には、入口ディスク12及び減速車130を、振動体11と減速車130との間で、減速比が1:3以上、好適には減速比が1:5となるように、寸法取りする。更に、伝達ピニオン132及びラチェット駆動ディスク14を、上記伝達ピニオン132とラチェットとの間、又は上記伝達ピニオン132とラチェット駆動ディスク14との間に形成する歯車列が、減速比1:50以下、好適には減速比1:25以下となるように寸法取りする。
【0038】
よって、本発明には、自動巻上げの場合に振動体11の所定の回転速度に対して、及び巻真を介して手動巻上げした場合に所定のラチェット回転速度に対して、遊星車131の回転速度を抑制するという利点がある。こうした配列(disposition)により、過度の回転速度から生じやすい如何なる振動も抑えつつ、遊星車131の耐用年数を延ばすことが可能になる。
【0039】
上述した入口ディスク12、減速車130,伝達ピニオン132及びラチェット駆動ディスク14の配置や寸法取りは、遊星車131の数の結果生じるデッドゾーンの減少によって有利に可能になる。
【0040】
より一般的には、以上で考察した実装及び実施形態は、非限定的な例として記述したものであり、従って他の代替手段も可能であることに留意されたい。
【0041】
特に、遊星車131を、本文書では歯車の形で記載したが、遊星車131は、如何なる他の種類のラチェットの形も取ることができる。更に、本発明による巻上げ装置10は、他の減速ディスクを含むことができ、入口ディスク12、減速ディスク13及びラチェット駆動ディスク14を、記載した及び図示した配置とは異なって配置できる。
【符号の説明】
【0042】
10 巻上げ装置
11 振動体
12 入口ディスク
13 減速ディスク
14 ラチェット駆動ディスク
110 駆動車
120 入口車
121 ピニオン
130 減速車
131 遊星車
132 伝達ピニオン
1320 第1歯列
1321 第2歯列
【外国語明細書】