(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098501
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】エラストグラフィデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
A61B8/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024001052
(22)【出願日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】23305032
(32)【優先日】2023-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18/152,516
(32)【優先日】2023-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520180611
【氏名又は名称】エコセンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンドラン,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】オーディエール,ステファーヌ
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD19
4C601DD23
4C601EE09
4C601HH04
(57)【要約】
【課題】エラストグラフィデバイスおよびエラストグラフィ方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、被験者の身体の領域の機械的特性の時間に伴う変動を表す信号を得るためのエラストグラフィデバイスに関し、身体の領域は肝臓または脾臓であり、エラストグラフィデバイスは、少なくとも毎秒4回の測定の繰返し率で、少なくとも1秒の持続時間にわたって、機械的特性の測定値を決定するように適合された電子ユニットを備え、機械的特性の各測定値がそれぞれの時間に関連付けられ、機械的特性の時間に伴う変動を表す信号が、決定した機械的特性の複数の測定値を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の身体の領域(80)の機械的特性の時間に伴う変動を表す信号を得る(840)ためのエラストグラフィデバイス(1)であって、身体の領域(80)が肝臓または脾臓であり、エラストグラフィデバイス(1)が、少なくとも毎秒4回の測定の繰返し率で、少なくとも1秒の持続時間にわたって、機械的特性の測定値を決定する(830)ように適合された電子ユニット(10)を備え、機械的特性の各測定値がそれぞれの時間に関連付けられ、機械的特性の時間に伴う変動を表す信号が、決定した機械的特性の複数の測定値を含む、エラストグラフィデバイス(1)。
【請求項2】
被験者の身体に(8)に対して適用される突起部分(4)と、少なくとも1つの超音波変換器(6)とを備えるプローブ(2)
を備え、
機械的特性の測定値のそれぞれを決定する(830)ために、電子ユニット(10)が、
突起部分(4)を介して、被験者の身体に過渡的な低周波数機械パルスを送達し、
前記機械パルスの送達時に、超音波パルス(USP)のシーケンスを放射するように超音波変換器(6)を制御し、機械パルス(MP)によって誘起された低周波数弾性波がどのように被験者の身体(8)の領域(80)を通じて伝搬するかを追跡するために、超音波変換器(6)によって、応答において受信したエコー信号を取得し、
低周波数弾性波伝搬に関する機械的特性のそれぞれの測定値を決定する
ように適合される、請求項1に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項3】
プローブ(2)が、プローブの突起部分(4)を移動させるように構成された低周波数バイブレータ(5)をさらに備え、
過渡的な低周波数機械パルス(MP)の送達が、
電子ユニット(10)により、被験者の身体に前記過渡的な低周波数機械パルス(MP)を送達するように低周波数バイブレータ(5)を制御すること
を含む、請求項2に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項4】
機械的特性の各測定値に関連付けられるそれぞれの時間が、測定値が決定される時間に対応する、請求項1から3のいずれか一項に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項5】
測定値の決定の持続時間が少なくとも3秒である、請求項1から4のいずれか一項に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項6】
身体の領域(80)が被験者の肝臓であり、肝臓で誘起される機械パルス(MP)の中心周波数が、10Hzから500Hzの間である、請求項2と組み合わせた、請求項1から5のいずれか一項に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項7】
電子ユニット(10)が、放射された超音波パルスのうちの1つ以上について、
超音波パルスの放射をシフトする、放射時の時間オフセットδtTX、および/または
前記放射された超音波パルスに応答して取得されたエコー信号をシフトする、受信時の時間オフセットδtRX
を生成するようにさらに構成され、
超音波パルス(USP)の前記シーケンス(S)中に生じる超音波変換器(6)の変位によって引き起こされた、取得された他のエコー信号に対する前記エコー信号の時間シフトを補償するようにし、
放射時の時間オフセットδtTXおよび/または受信時の時間オフセットδtRXが、それらの差が2.d/vus+Cに等しくなるように調節され、dが基準位置に対するプローブの変位であり、vusが身体の領域(80)内の超音波の速度であり、Cが定数である、請求項3と組み合わせた、請求項1から6のいずれか一項に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項8】
電子ユニット(10)が、得られた信号から、機械的特性に関する少なくとも1つの特徴を決定する(860)ようにさらに適合される、請求項1から7のいずれか一項に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの特徴が、得られた信号の、最大値、最小値、平均値、標準偏差、および/または百分位数の関数である、請求項8に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項10】
電子ユニット(10)が、被験者が呼吸を止めているか否かを示す呼吸停止インディケータを決定する(810)ようにさらに適合される、請求項1から9のいずれか一項に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項11】
呼吸停止インディケータが、連続する超音波信号を放射することと、前記超音波信号の放射に応答してそれぞれのエコー信号を受信することと、受信したエコー信号のうちの連続するエコー信号の間の相関係数を計算することと、計算した相関係数を事前定義されたしきい値と比較することとによって決定される、請求項10に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項12】
電子ユニット(10)が、被験者が呼吸を止めていることを呼吸停止インディケータが示すとき、測定値の決定をトリガする(820)ように適合される、請求項10または11に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項13】
得られた信号の一部分が、被験者が呼吸を止めている間に決定された測定値を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項14】
電子ユニット(10)が、信号の前記一部分の少なくとも1つのスペクトル特性を得るように、得られた信号の前記一部分のスペクトル解析を行うようにさらに適合され、
電子ユニット(10)が、機械的特性に関する少なくとも1つの特徴を決定する(860)ようにさらに適合され、前記少なくとも1つの特徴が、得られた少なくとも1つのスペクトル特性の関数である、請求項13に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項15】
得られた信号の前記一部分が第1の時間間隔に対応し、電子ユニット(10)が、
被験者の心電図を受信し、心電図の一部分が第2の時間間隔に対応し、前記第1の時間間隔と第2の時間間隔が時間的に重複しており、
得られた信号の一部分を表す曲線と、心電図の一部分を表す曲線とを共に表示するようにディスプレイデバイスを制御する
ようにさらに適合される、請求項13または14に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項16】
電子ユニット(10)が、得られた信号の前記一部分から、得られた信号の一部分に対応する時間間隔の間の被験者の中心静脈圧の時間に伴う変動に関する情報を決定するようにさらに適合される、請求項13から15のいずれか一項に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項17】
前記情報が、被験者の中心静脈圧の経時的なドリフトに対する少なくとも1つのインディケータを含む、請求項16に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項18】
電子ユニット(10)が、決定した情報に基づいて、被験者の可能性のある心血管病理に対するアラートを発するようにさらに適合される、請求項16または17に記載のエラストグラフィデバイス(1)。
【請求項19】
被験者の身体の領域(80)の機械的特性の時間に伴う変動を表す信号を得る(840)ためのエラストグラフィデバイス(1)によって実装されるエラストグラフィ方法であって、身体の領域(80)が肝臓または脾臓であり、方法は、
少なくとも毎秒4回の測定の繰返し率で、少なくとも1秒の持続時間にわたって、機械的特性の測定値を決定すること(830)であって、機械的特性の各測定値がそれぞれの時間に関連付けられる、こと(830)
を含み、
機械的特性の時間に伴う変動を表す信号が、決定した機械的特性の複数の測定値を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエラストグラフィ、たとえば肝エラストグラフィの分野に関する。より詳細には、本発明は、被験者の肝硬度の経時的な変動を正確に決定するためのエラストグラフィデバイスおよびエラストグラフィ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝硬度(LS)の測定は、医療従事者が肝疾患または損傷を検出し、または特徴付け、より一般には被験者の肝臓の状態を監視するのを助けるのに非常に有用なツールであることが示されている。
【0003】
基本的には、肝硬度測定値(LSM)のための2つの種類のエラストグラフィデバイスがある:たとえば(たとえば、「Influence of Probe Pressure on Ultrasound-Based Shear Wave Elastography of the Liver Using Comb-Push 2-D Technology」、Byenfeldt、Marie他、Ultrasound in Medicine and Biology、Volume 45、Issue 2、411-428で詳述されているような)せん断波エラストグラフィ、SWEを使用して硬度の画像からLSMを導出する撮像デバイス、およびFibroScan(R)システムなどの、振動制御トランジェントエラストグラフィ(以下ではVCTEと呼ぶ)に基づくデバイス。
【0004】
FibroScan(R)システムでは、オペレータが、やや小さい(通常は、5から10mmの間に含まれる)直径を有するプローブの先端を、被験者の肝臓の予期されるエリアの正面に、被験者の身体と接触して配置する。次いで、オペレータは、ボタンを押して、プローブの先端に、被験者に対して過渡的な低周波数機械パルス(このパルスのスペクトルの中心は、通常は10から500ヘルツの間に含まれる周波数となる)を送達させる。このパルスは、被験者の身体内を進む弾性波を生成する。次いで、被験者の身体と接触するプローブの先端に取り付けられた超音波変換器が、いくつかの超音波ショットを、高い繰返し率、たとえば6キロヘルツで組織内に放射する。放射された相異なる超音波ショットの後方散乱に対応するエコー信号がプローブによって取得されて、通過する弾性波によって引き起こされた組織のわずかな移動が追跡される。追跡は、連続するエコー信号に適用される相関技法を使用して行われる。検出された移動により、「エラストグラム」と呼ばれることのある(「ひずみマップ」または「変位」または「せん断波伝搬マップ」とも呼ばれる)、組織変形を示す弾性波伝搬画像を、深さzと時間tの両方の関数として合成することが可能となる。エラストグラムの一例が
図1に表されている。
【0005】
プローブの先端によって送達される機械パルスは、せん断波と圧縮波の両方を生成する。言い換えれば、前述の弾性波は、せん断波と圧縮波を組み合わせる。これらの2つの波は非常に異なる伝搬速度を有し、機械的励起の過渡的性質のおかげで、容易に時間的に分離され、弾性波伝搬画像内で識別され得る。たとえば、
図1を参照すると、この図は弾性波伝搬画像105を示す。
図1では、圧縮波が参照符号105Cによって識別されると共に、ずっと低速なせん断波が参照符号105Sによって識別される。
図1には、肝臓が一般に位置する患者の皮膚の下の深さに対応する、25mmおよび65mmの2つの破線によって縁取られる関心領域(ROI)も示されている。したがって、この弾性波伝搬画像は、特徴付けるべき組織内のせん断波の伝搬速度を精密に決定するために使用され得、伝搬速度からこの組織の硬度が導出され得る。次いで、これらの硬度結果がオペレータに提供される。
【0006】
VCTEベースのエラストグラフィデバイスは通常、オペレータが測定をトリガする相異なる時点で収集された肝硬度(または身体の他の一部分、システムは肝臓の状態の評価に限定されない)のいくつかの測定値を提供する。次いで、これらのいくつかの測定値から、LSMを表す固有の値が、関心領域(ROI)位置決めに基づいて、および/または相異なる時点で、画像内で収集された測定値の平均(平均値または中央値)として提供される。
【0007】
一般には、肝硬度の信頼できる測定値を得るために、製造業者は、上記で詳述したように肝硬度の一連の10回の測定値を得て、これらの測定値から最終的な肝硬度測定値を計算することを推奨している。たとえば、最終的な測定値は、一連の測定値の平均値または中央値に対応する。したがって、一連の測定値の各測定値は、それぞれの時間にオペレータによって(たとえば、ボタンを押して過渡的な変位を生成することによって)トリガされる。
【0008】
この技術がうまく機能し、非常に満足の行く結果を提供する場合であっても、一連の測定値のうちの測定値の変動があり、変動はかなり大きいことがあることが知られている。そのような変動は、たとえば、the liver meeting of the European Association for the study of the Liver in 2022の間に発表された、Theodore T. Pierce他によるポスタ「Variability of ultrasound-based methods to assess liver stiffness in NAFLD」で述べられている。この変動は、現在まで主に、測定を実施する条件(被験者の位置、プローブの傾き、肝臓の移動など)と、被験者の呼吸周期とに帰せられてきたが、本発明の発明者らは、他の要因がこの変動を説明し得るかどうか、およびそのような要因が被験者の肝硬度の評価でどのように考慮され得るかを調査した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「Influence of Probe Pressure on Ultrasound-Based Shear Wave Elastography of the Liver Using Comb-Push 2-D Technology」、Byenfeldt、Marie他、Ultrasound in Medicine and Biology、Volume 45、Issue 2、411-428
【非特許文献2】ポスタ「Variability of ultrasound-based methods to assess liver stiffness in NAFLD」、Theodore T. Pierce他、the liver meeting of the European Association for the study of the Liver in 2022
【非特許文献3】Taniguchi他、「Usefulness of Transient Elastography for Noninvasive and Reliable Estimation of Right-Sided Filling Pressure in Heart Failure」、Am. J. Cardiol.、2014、113(3):552-8頁
【非特許文献4】Hsu他、「Hemodynamics for the Heart Failure Clinician: A State-of-the-Art Review」、Journal of Cardiac Failure (2021)
【非特許文献5】European Association for the Study of the Liver.「EASL Clinical Practice Guidelines on non-invasive tests for evaluation of liver disease severity and prognosis-2021 update.」J Hepatol、vol.75、n°3、659-689頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、被験者の身体の領域の機械的特性の時間に伴う変動を表す信号を得るためのエラストグラフィデバイスに関し、身体の領域は肝臓または脾臓である。エラストグラフィデバイスは、少なくとも毎秒4回の測定の繰返し率で、少なくとも1秒の持続時間にわたって、機械的特性の測定値を決定するように適合された電子ユニットを備え得、機械的特性の各測定値がそれぞれの時間に関連付けられ、機械的特性の時間に伴う変動を表す信号が、決定した機械的特性の複数の測定値を含む。
【0011】
「機械的特性」とは、1つ以上の機械的応力がかけられたときの人体の領域の挙動に関する任意の物理的性質またはパラメータを意味する。たとえば、機械的特性は、硬度、弾性、ヤング率、せん断弾性率、せん断波速度、粘弾性、粘性などの従来の量であり得る。機械的特性はまた、これらの物理的性質またはパラメータのうちの1つ以上から導出された任意の値であり得る。
【0012】
以下では、硬度に対して特定の参照が行われるが、本発明の態様は他の機械的特性に当てはまる。さらに、身体の領域として肝臓に対して特定の参照が行われるが、本発明の態様は、脳などの身体の他の領域に当てはまり得る。
【0013】
「繰返し率」とは、単位時間で行われる測定数を意味する。「持続時間」とは、測定が取得される時間間隔を意味する。
【0014】
以下で詳述するように、被験者の肝臓の領域の硬度が、人が考えるだろうのとは逆に一定の値ではなく、経時的に変動することを本発明者らは実証した。具体的には、中心静脈圧の経時的な変動が、肝臓の硬度の測定値で発見され得ることを発見した。言い換えれば、肝臓の硬度は、その値が経時的に、具体的には心周期の間に変動する関数である。したがって、弾性信号(および、たとえば1秒のオーダーの短期間にわたるその変動)を得ることが重要な医学的価値を有し、それにより、硬度に関するあるインディケータ(たとえば、信号の中央値)をずっと精密な方法で決定することが可能となる。
【0015】
現在まで、本発明者らの知識では、このようにして硬度を研究することを考えた人はいない。エラストグラフィの従来の方法はすべて、弾性の点測定値の取得に基づき、点測定値間の時間間隔が大き過ぎる(一般には1秒以上)ので、短期間にわたる硬度の変動を視覚化することは不可能である。
【0016】
従来のエラストグラフィ技法とは異なり、本発明の一態様は、そのような変動を観測することができるように十分に高い繰返し率(少なくとも毎秒4回の測定)で測定値を取得することを提案する。これらの測定値は、経時的な硬度信号E(t)のサンプルに対応する。したがって、各測定値Ekがそれぞれの時間tkに関連付けられ、信号E(t)が測定値Ek=E(tk)から構築され得る。
【0017】
構築された信号の精度を増加させるために、一実施形態では、より短い時間で、すなわちより高い繰返し率で、たとえば少なくとも毎秒5回の測定(たとえば毎秒5、6、7、8、9、10回の測定)または毎秒10回超の測定で測定値が取得され得る。繰返し率が高いほど、より正確に信号の変動が取り込まれるが、実装すべき計算資源が多くなる。
【0018】
測定値は、人間の心周期の平均持続時間に対応する、少なくとも1秒の持続時間にわたって取得される。したがって、心周期にわたる硬度の変動が、得られた信号で観測され得る。1秒超の持続時間が使用され得ることを理解されよう。
【0019】
エラストグラフィデバイスが十分な繰返し率で測定を行うように構成されるとすぐに、本発明の態様が任意のエラストグラフィ技法の一一部分として実装され得ることに留意されたい。
【0020】
具体的には、本発明の一態様は、ARFI(音響放射力インパルス)、SWE(せん断波エラストグラフィ)、またはVCTE(振動制御トランジェントエラストグラフィ)を含むトランジェントエラストグラフィ技法のコンテキストで実装され得る。したがって、1つまたはいくつかの実施形態では、エラストグラフィデバイスは:
- 被験者の身体に対して適用される突起部分と、少なくとも1つの超音波変換器とを備えるプローブ
を備え得、
機械的特性の測定値のそれぞれを決定するために、電子ユニットが:
- 突起部分を介して、被験者の身体に過渡的な低周波数機械パルスを送達し;
- 前記機械パルスの送達時に、超音波パルスのシーケンスを放射するように超音波変換器を制御し、機械パルスによって誘起された低周波数弾性波がどのように被験者の身体の領域を通じて伝搬するかを追跡するために、超音波変換器によって、応答において受信したエコー信号を取得し;
- 低周波数弾性波伝搬に関する機械的特性のそれぞれの測定値を決定する
ように構成され得る。
【0021】
具体的には、エラストグラフィデバイスはVCTEデバイスであり得る。このケースでは、プローブは、プローブの突起部分を移動させるように構成された低周波数バイブレータをさらに備え得、過渡的な低周波数機械パルスの送達は:
- 電子ユニットにより、被験者の身体に前記過渡的な低周波数機械パルスを送達するように低周波数バイブレータを制御すること
を含み得る
【0022】
「過渡的パルス」とは、一時的な機械的振動を意味する。アクティブ時間であるパルスの持続時間は、その間に(VCTEデバイスのケースではバイブレータによって誘起される)突起部分のかなりの運動があり、アクティブ時間であるパルスの持続時間の後にダウン時間が続き、ダウン時間の間には突起部分の運動が全くない、またはほぼない。運動がほぼないとは、たとえば、このダウン時間の間、バイブレータによって誘起され得る突起部分の変位が、突起部分のピーク変位の1/10未満、さらには1/20未満のままであることを意味する。前述の過渡的パルスの間、パルスのアクティブ時間をこのアクティブ時間と続くダウン時間の和で割ったものに等しい作動率は、通常は50%未満、さらには20%未満である。ダウン時間は、アクティブ時間の終わりと、突起部分の後続の著しい運動(たとえば、後続の過渡的な機械パルスに対応する)がある場合のその運動との間の持続時間である。
【0023】
低周波数パルスとは、パルスの中心周波数が500Hz未満、さらには250Hz未満であることを意味する。パルスの中心周波数は、たとえば、そのパルスに対応する変位または変位の速度のスペクトルの平均または中央値周波数、あるいはこのスペクトルのメインピークのピーク周波数、あるいはスペクトルの-3dBまたは-6dB遮断周波数の平均値である。
【0024】
1つ以上の実施形態では、エラストグラフィデバイスがVCTEデバイスであるとき、低周波数バイブレータによって誘起されるプローブの突起部分の変位のピーク・トゥ・ピーク振幅は、0.2から10mmの間、たとえば0.5から2mmの間であり得る。
【0025】
1つ以上の実施形態では、エラストグラフィデバイス電子ユニットは、得られた信号の少なくとも一部分を表す曲線を表示するようにディスプレイデバイスを制御するように構成され得る。
【0026】
医療従事者は、この曲線を使用して、被験者の機械的特性を解析し、彼の診断を導き得る。
【0027】
1つ以上の実施形態では、機械的特性の各測定値に関連付けられるそれぞれの時間は、測定値が決定される時間に対応する。
【0028】
代替として、測定値が機械パルスの放射から得られるとき、測定値に関連付けられるそれぞれの時間は、対応する機械パルスが送達される時間であり得る。他の実施形態も可能である。
【0029】
1つ以上の実施形態では、測定値の決定の持続時間は少なくとも3秒であり得る。
【0030】
有利なことに、3秒の持続時間は、ほぼすべての被験者にとって、少なくとも2つの心周期の間の機械的特性の変動を取り込むことを保証する(人口の大部分について、心周期は0.7から1.5秒の間にわたって持続する)。しかしながら、より長い持続時間、たとえば5秒、10秒、または10秒超が使用され得ることを理解されよう。
【0031】
1つ以上の実施形態では、身体の領域は被験者の肝臓であり得、肝臓で誘起される機械パルス(MP)の中心周波数は、10Hzから500Hzの間であり得る。
【0032】
本発明の態様は、肝臓の特徴付けに限定されず、身体の他の一部分、たとえば脳に拡張され得る。
【0033】
信号E(t)の取得は、計算の観点からはチャレンジングであり得ることに留意されたい。実際に、心周期は通常は約1秒持続するので、信号E(t)の取得は、毎秒数回のLSM値のオンザフライ決定(たとえば少なくとも毎秒4回の測定)を伴い、したがってそれぞれの対応する一連のエコーのオンザフライ処理を伴う、そのような処理を行うために、電子ユニットは、たとえば2つのプロセッサを備え得る:
- 相関技法を使用して取得されたエコー信号を処理して、組織ひずみ、またはより一般には組織運動パラメータを(時間および深さの関数として)決定するための、FPGA(「フィールドプログラマブルゲートアレイ」)などの第1の専用プロセッサ、および
- 第2の汎用プロセッサ。
【0034】
このアーキテクチャは、具体的には、第1のプロセッサによって達成される(前)処理が汎用プロセッサに送るべきデータの量をかなり(通常は10分の1、さらにはそれ以上)減らし、したがって対応する伝送時間を削減するので、エコー信号の処理を特に加速する。実際には、この伝送時間は、エコー信号の処理全体のうちの最も時間を限定するステップであることが多い。
【0035】
それでも、そのような専用プロセッサで相関技法を実装すること自体がチャレンジングである。実際に、プローブの先端またはヘッドの変位が、望ましくはエコー信号を互いに相関させる前に補償され、この変位を(強いエコー検出、およびフーリエ領域補償に基づいて)補償するための通常の技法は非常にチャレンジングである。そのような変位補償を達成するために、超音波パルス放射および/または受信時間が、たとえばプローブの先端またはヘッド変位に応じて(放射および/または受信時に)事前補償され得る。
【0036】
したがって、エラストグラフィデバイスが低周波数バイブレータを備える1つ以上の実施形態では、電子ユニットが、放射された超音波パルスのうちの1つ以上について:
- 超音波パルスの放射をシフトする、放射時の時間オフセットδtTX;および/または
- 前記放射された超音波パルスに応答して取得されたエコー信号をシフトする、受信時の時間オフセットδtRX;
を生成するようにさらに構成され得;
超音波パルスの前記シーケンス中に生じる超音波変換器の変位によって引き起こされた、取得された他のエコー信号に対する前記エコー信号の時間シフトを補償するようにし、
放射時の時間オフセットδtTXおよび/または受信時の時間オフセットδtRXは、それらの差が2.d/vus+Cに等しくなるように調節され、dは基準位置に対するプローブの変位であり、vusは身体の領域内の超音波の速度であり、Cは定数である。
【0037】
1つ以上の実施形態では、電子ユニットは、得られた信号から、機械的特性に関する少なくとも1つの特徴を決定するようにさらに適合され得る。
【0038】
たとえば、前記少なくとも1つの特徴は、得られた信号の、最大値、最小値、平均値、標準偏差、および/または百分位数の関数であり得る。
【0039】
前述のように、また以下で詳述するように、得られた信号E(t)は、非常に短い時間間隔(1秒のオーダー)の間であっても、機械的特性の経時的な変動を考慮に入れる。それで、この信号から、機械的特性に関する特徴(具体的には点特徴)を抽出することが可能であり、この特徴は一般に、従来のエラストグラフィ技法によって得られるものよりも正確である。たとえば、信号E(t)の中央値は、ランダムに取られる10回の測定値の中央値よりも正確な情報を提供し、考慮する身体の一部分の現実の機械的挙動をより忠実に反映する。
【0040】
さらに、電子ユニットは、機械的特性に関する少なくとも1つの特徴を表示するようにディスプレイデバイスを制御するようにさらに適合され得る。
【0041】
1つ以上の実施形態では、電子ユニットは、被験者が呼吸を止めているか否かを示す呼吸停止インディケータを決定するようにさらに適合され得る。
【0042】
実際には、以下で詳述するように、被験者が呼吸しているとき、硬度信号は非常に雑音が多い。一方、被験者が呼吸を止めているとき、ノイズの大部分が消滅し、信号E(t)の変動、具体的には心周期にリンクされる変動がより見えるようになる。したがって、得られる信号は、被験者が呼吸している間に得られるか、それとも被験者が呼吸を止めている間に得られるかに応じて、必ずしも同様に解析され、使用されるわけではない。
【0043】
さらに、たとえば被験者が呼吸を止めているときにのみ測定をトリガするため、または患者が呼吸を止める間に信号の一部分を決定し、解析するために、被験者が呼吸しているとき、または呼吸していないとき(これは実際には、調査する媒体が不安定である、または安定していることを意味する)を自動的に決定できることが望ましいことがある。
【0044】
たとえば、呼吸停止インディケータは、連続する超音波信号を放射することと、前記超音波信号の放射に応答してそれぞれのエコー信号を受信することと、受信したエコー信号のうちの連続するエコー信号の間の相関係数を計算することと、計算した相関係数を事前定義されたしきい値と比較することとによって決定され得る。
【0045】
事前定義されたしきい値は、インディケータの所望の精度に応じて、0.5より大きい任意の値に設定され得る。たとえば、事前定義された値は、0.8以上の値、たとえば0.9、0.95、または0.99に設定され得る。
【0046】
呼吸停止インディケータを決定するために放射される超音波信号は、機械パルスによって誘起される低周波数弾性波が被験者の身体の領域を通じてどのように伝播するかを追跡するために使用される超音波パルスのシーケンスのものとは異なる超音波信号であり得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、電子ユニットは、被験者が呼吸を止めていることを呼吸停止インディケータが示すとき、測定値の決定をトリガするように適合され得る。
【0048】
たとえば、エラストグラフィデバイスが低周波数バイブレータを備えるとき、電子ユニットは、被験者が呼吸を止めていることを呼吸停止インディケータが示すとき、複数の機械パルスの送達をトリガするように低周波数バイブレータを制御するように適合され得る。
【0049】
1つ以上の実施形態では、複数の機械パルスが自動的に送達され得る。たとえば、呼吸停止インディケータを介して、被験者が呼吸を止めていると決定されたとき、複数の機械パルスが自動的に送達され得る。
【0050】
1つ以上の実施形態では、得られた信号の一部分が、被験者が呼吸を止めている間に決定された測定値を含み得る。たとえば、得られた信号のこの一部分は、「通常の」被験者が何ら問題なく呼吸を止めることのできる平均最大持続時間に対応する、45秒以下の持続時間を有する時間間隔に対応し得る。
【0051】
そのような実施形態では、電子ユニットは、信号の前記一部分の少なくとも1つのスペクトル特性を得るように、得られた信号の前記一部分のスペクトル解析を行うようにさらに適合され得;電子ユニットは、機械的特性に関する少なくとも1つの特徴を決定するようにさらに適合され得、前記少なくとも1つの特徴は、得られた少なくとも1つのスペクトル特性の関数である。
【0052】
以下で詳述するように、被験者が呼吸を止めているとき、得られた信号は、スペクトル解析を介して特性を抽出することのできる周期的または擬似周期的変動を示し、これらの特性が、機械的特性に関する1つ以上の特徴を決定するために使用され得る。
【0053】
これらの周期的または擬似周期的変動が中心静脈圧の変動にリンクされるので、代替または追加として、スペクトル特性はまた、中心静脈圧に関する1つ以上の特徴を決定するために使用され得る。
【0054】
1つ以上の実施形態では、得られる信号の前記一部分は第1の時間間隔に対応し得、電子ユニットは:
- 被験者の心電図を受信し、心電図の一部分が第2の時間間隔に対応し、前記第1の時間間隔と第2の時間間隔が時間的に重複しており、
- 得られた信号の一部分を表す曲線と、心電図の一部分を表す曲線とを共に表示するようにディスプレイデバイスを制御する
ようにさらに適合され得る。
【0055】
実際には、得られた信号の変動が中心静脈圧の変動、したがって心臓の活動にリンクされるので、医療従事者にとって両方の情報を得ることが望ましいことがある。
【0056】
1つ以上の実施形態では、電子ユニットは、得られた信号の前記一部分から、得られた信号の一部分に対応する時間間隔の間の被験者の中心静脈圧の時間に伴う変動に関する情報を決定するようにさらに構成され得る。
【0057】
たとえば、時間間隔[t1;t2]の間、被験者が呼吸を止める場合、信号の考慮する部分が、t1からt2の間(またはt1からt2に含まれる間隔)に含まれ、t1からt2の間(またはt1からt2に含まれる間隔)の被験者の中心静脈圧の時間変動に関する情報が、信号の考慮する部分から決定される。
【0058】
実際には、得られた信号の変動が中心静脈圧の変動にリンクされるので、点特徴や変動のパターンなどの情報が、得られた信号から抽出され得る。
【0059】
たとえば、前記情報は、被験者の中心静脈圧の経時的なドリフトに対する少なくとも1つのインディケータを含み得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、電子ユニットは、決定した情報に基づいて、被験者の可能性のある心血管病理に対するアラートを発するようにさらに適合され得る。
【0061】
本発明の別の態様は、被験者の身体の領域の機械的特性の時間に伴う変動を表す信号を得るためのエラストグラフィデバイスによって実装されるエラストグラフィ方法に関し、身体の領域は肝臓または脾臓である。エラストグラフィ方法は:
- 少なくとも毎秒4回の測定の繰返し率で、少なくとも1秒の持続時間にわたって、機械的特性の測定値を決定することであって、機械的特性の各測定値がそれぞれの時間に関連付けられる、こと;
を含み、
機械的特性の時間に伴う変動を表す信号が、決定した機械的特性の複数の測定値を含む。
【0062】
本明細書で開示される方法および装置の他の特徴および利点が、添付の図面を参照する、以下の非限定的な実施形態の説明から明らかとなるであろう。
【0063】
本発明が、限定としてではなく、例として添付の図面の各図に示され、各図では、同様の参照番号が同様の要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図2】心周期中の中心静脈圧の変動を表す典型的な曲線を表す図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、エラストグラフィデバイスから得られる肝硬度の経時的な変動を表す曲線の一例を表す図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるエラストグラフィデバイスを概略的に表す図である。
【
図5】本発明の1つ以上の実施形態による、
図4のエラストグラフィデバイスの電子ユニットのいくつかの要素を概略的に表す図である。
【
図6】本発明の1つ以上の実施形態による、
図4のエラストグラフィデバイスの電子ユニットの制御および処理モジュールをより詳細に概略的に表す図である。
【
図7】本発明の1つ以上の実施形態による、
図4のエラストグラフィデバイスによって放射された機械パルスおよび超音波のパルスのシーケンスを表す図である。
【
図8】本発明の一実施形態を説明する流れ図である。
【
図9】本発明の1つ以上の実施形態による、LSM(肝硬度測定値)信号の曲線の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
肝臓病理は脾臓に対する影響を有し得ることが知られている。たとえば、肝硬変は、門脈の圧力の著しい増加に対応する門脈圧亢進症を引き起こし、その結果、脾硬度測定値(SSM)が増加する。
【0066】
同様に、血液は肝静脈および下大静脈を介して肝臓から心臓に循環するので、心臓病理は肝臓に対する影響を有し得る。たとえば、重症の心不全によって血液が心臓から下大静脈に逆流する。この鬱血によって下大静脈の圧力が増加し、この圧力が高過ぎるとき、肝臓が血液で充血(engorged)(鬱血)し、その結果、肝硬度測定値(LSM)が増加する。
【0067】
具体的には、侵襲性カテーテルを使用する右心房圧(RAP)の測定値、すなわち心臓の右心房の血圧の測定値と、LSMとに強い相関があることが、Taniguchi他の「Usefulness of Transient Elastography for Noninvasive and Reliable Estimation of Right-Sided Filling Pressure in Heart Failure」、Am. J. Cardiol.、2014年、113(3):552-8頁で示されている。より具体的には、この論文では、構造的肝疾患のない心不全の患者の集合について、
図1に示されるようなトランジェントエラストグラフィデバイスを使用することによってLSMの値が測定されている。被験者のRAPを評価するための参照方法である右心カテーテル法を使用することによって、同じ患者についてRAPの測定値も得られた。これらの2つのパラメータの間で優れた相関が見つかった(p<0.0001)。
【0068】
Hsu他の「Hemodynamics for the Heart Failure Clinician: A State-of-the-Art Review」、Journal of Cardiac Failure (2021)では、著者らは、被験者のRAP測定値が心周期中の時間の関数として揺動することを確証した。
【0069】
より具体的には、心周期中の、被験者の大静脈の圧力の尺度である、被験者の中心静脈圧(CVP)の変動を表す曲線は、5つの成分:3つのピーク(a,c,v)および2つの下降(x,y)を包含する波形であり、各成分は心周期の特定の瞬間に対応する。そのようなCVP波形の一例が
図2に表されている。
図2では、「D」は「心拡張期」を意味し、「VS」は「心室収縮」を意味する。心拡張期の終わりの、「a波」と呼ばれるピークが、心房収縮による圧力の増加に対応する。a波のすぐ後に、「c波」と呼ばれ、初期心室収縮期を表す第2のピークが観測され、第2のピークは、右心房内への三尖弁上昇による圧力の増加に対応する。c波に続いて、CVP波形の著しい下降が観測され、「x下降」と呼ばれる。x下降は、心房弛緩によって誘起される心室収縮中の心房圧の低下に対応する。心室収縮の終わりに、x下降の後、CVP値は、「v波」と呼ばれる新しいピークまで増加する。この増加は心房の充填に対応する。最後に、次の心拡張期の最初で、「y下降」と呼ばれる心房圧の新しい低下が観測され、この低下は、心室への血液の進入によって引き起こされる。
【0070】
Hsu他の論文では、著者らは、複数の心周期にわたる被験者のRAPの変動を測定し、CVP信号で観測される5つの成分(上記で想起した3つのピークおよび2つの下降)がRAP信号でも観測されることを発見した。
【0071】
本発明の発明者らは、心周期によるLSMの変動を観測すること、具体的にはLSMで直接的にCVP波形の成分を観測することが可能であることを考案した。
【0072】
この発見に対する答えは、Taniguchi他およびHsu他の論文の教示からは決して自明ではないことに留意されたい。実際に、Taniguchi他は、RAPの「静的」測定値とLSMの「静的」測定値との間に相関があることを確証したに過ぎない。「静的」とは、各測定値がそれぞれの特定の時間で得られる、または、それぞれの異なる時間に得られた測定値から導出されることを意味する(たとえば、Taniguchi他は、LSMの決定のために「最大10回の測定が首尾よく行われた」こと、および得られた平均3から5回の周期で、「圧力測定値が終末呼気期間(end-expiratory period)で決定された」ことを述べている)。したがって、そのような静的測定値は、RAPおよびLSM信号の特性値(たとえば、分離値または平均値)に対応するが、具体的には心周期中の、これらの信号の経時的な変動を反映しない。実際に、Taniguchi他は、心周期にわたるRAPおよびLSM信号の変動に関して全く沈黙している。さらに、Taniguchi他は、カテーテルを使用して、直接的に心房内の圧力を測定した。LSMが時間の関数として変動し得ることは、この調査では全く予期されず、示唆されなかった。
【0073】
本発明者らは、心周期ごとに取られた複数の測定値から、いくつかの心周期中のLSMの挙動を決定した。心周期が通常は1秒のオーダーの持続時間を有することを知っているので、したがって本発明者らは、同一の被験者に対して、毎秒いくつかのLSM測定を実施し、いくつかの心周期にわたるLSMの変動の表現を得た。
【0074】
実施した最初の実験に関して、得られた測定値は非常に雑音が多く、得られる信号を解釈することは易しくないことに本発明者らは気付いた。本発明者らは、測定中に被験者に呼吸を止めるように決定することによって、いくつかの心周期にわたって(実際には、数秒にわたって)一連の測定を最終的に実施した。そのようにして得られた結果が
図3に示されている。
【0075】
図3は、時間t(秒で表現される)の関数としての、被験者のLSM(kPaで表現される)の変動の実験曲線を示す。この曲線を得るために、被験者のLSM値が15秒間に毎秒10回(すなわち、毎秒10個のLSMを意味する、繰返し率10Hz)測定された。t=4sからt=15sの間(図の「BH」と表される時間間隔に対応する)、被験者は呼吸を止めるように求められた。この図からわかるように、被験者が呼吸を止める前、信号は非常に雑音が多い。被験者が呼吸を止め始めると、信号の雑音は少なくなり、数秒後(
図3のt=8sのあたり)、規則的に繰り返されるパターンが現れる。具体的には
図3の「CC」と記されるものに関して気付くように、このパターンは、約1秒の持続時間を有し、
図2で表されるCVPと同一の一般的形状を有することが判明した。より具体的には、パターンCCは、3つのピークおよび2つの下降を示し、これらは、CVPのa波、c波、およびv波、ならびにx下降およびy下降に対応する。
【0076】
仮説を確認するために、本発明者らは、被験者のLSM値を測定中に、(たとえば心電
図ECGを使用して)被験者の心拍数を監視し、パターンが実際に被験者の相異なる心周期と一致することを発見した。
【0077】
言い換えれば、LSM信号中のCVP信号(またはCVP信号の少なくともいくつかの特性)を回復することが可能であることを本発明者らは発見した。
【0078】
この結果は予期しないことであった。実際に、LSMの平均値とCVPの平均値との間の相関が予期され得ると考えられる限り、そのような相関は、上記で詳述したように、せいぜい静的値だけに関係すると考えられており、動的信号間の相関を観測すること(すなわち、LSM信号中のCVP信号の特性時間変動を取り出すこと)は予期しないことであった。これは、肝硬度の動的特性が無視されるからである。したがって、肝臓の機械的応答時間が心拍信号の変動を模倣するのに十分なだけ高速であることは予期しないことであった。さらに、心臓ポンプによる変動が肝臓に逆に進み、LSMの変動を誘起することは予期しないことであった。本発明者の知識では、肝硬度に対するそのような効果を示している公開物はない。さらに、
図3からわかるように、LSM信号は非常に雑音が多く、LSM信号中のCVPの変動を観測するために対策を講じるべきである(被験者が呼吸を止める前は、CVP信号の特性変動が雑音に埋もれ、LSM信号中に見つからない)。
【0079】
さらに、高い繰返し率(たとえば少なくとも毎秒4回の測定)でLSM測定値を決定するために、LSMを取得するためのデバイスは、所望の繰返し周波数(毎秒数回の測定)で信号を処理することができるように適合され得る。
【0080】
実施した実験から、LSM変動性に対する心周期の影響は高く、LSMに対する心周期の関わりは非常に多いように見える。
【0081】
人が考えるだろうのとは逆に、患者が安定しており、呼吸を止めているときであっても、LSMは経時的に一定ではない。実際に、患者が安定しており、呼吸を止めているときであっても、LSMの変動は、最大3kPaに達することがある。LSM<8kPaであるとき、患者は低リスクであると考えられ、8kPa≦LSM<12kPaであるとき、中程度のリスクであると考えられ、LSM≧12kPaであるとき、高リスクであると考えられることを考えると(European Association for the Study of the Liver.「EASL Clinical Practice Guidelines on non-invasive tests for evaluation of liver disease severity and prognosis-2021 update.」J Hepatol、vol.75、n°3、659-689頁を参照)、3kPaは著しい変動である。したがって、当業者なら理解するであろうが、3kPaは、LSM結果と診断とを容易に、著しく歪めることがあり、患者重症度分類の著しい変化を示すことがある。その結果、患者は、実際には不要な追加の検査を行うように求められることがある。一例として、侵襲性で痛みを伴う肝臓生検などの確認検査のために患者が照会されることがある。したがって、(たとえば、オペレータによってトリガされる)別個の測定値を決定すること、およびこれらの測定値から肝硬度の単一のインディケータを抽出することによって、LSMの固有の変動性を完全に考慮に入れることは可能とはならず、強力な予防または診断の価値を有し得る情報の喪失が必然的に誘発される。したがって、肝臓の状態に関する精密な情報を有するために、現在まで行われてきたことと比較してパラダイムを変更し、時間の関数として肝臓の弾性の変動を調査することが望ましい。言い換えれば、LSMを先行技術のデバイスの場合のように静的測定値としてではなく、経時的に変動する信号として考えるためのパラダイムの変更が決定されている。
【0082】
弾性信号が時間の関数として得られると、一実施形態では、それから1つ以上のインディケータ、たとえば平均値、百分位数、極値、これらのインディケータの関数または組合せなどが抽出される。しかしながら、LS信号から直接的に得られたこの情報は、たとえば単一のLSM値を得るためにエラストグラムの平均を取ることによって、連続するエラストグラムから得られる情報よりも正確なままであることに留意されたい。
【0083】
実際には、CVP(または同等には血圧)による変動が、呼吸中の、プローブの正面の肝臓の移動に関連する変動に重なる。肝臓では、肝硬度をプローブするために使用されるせん断波周波数は、通常は50Hzに等しく、これは約20msの過渡的な振動に対応する。肝硬度の連続する測定は、せん断波が重ならないために、連続する機械パルス間の時間間隔が少なくとも数周期であることを必要とする。50Hzの中心周波数せん断波では、せん断波速度が1m/s程度の遅さであり得ること、および通常は80mmの深さまで追跡されることを考えると、伝搬は最大80msかかり、100msに達するために、それに対して通常は20msのせん断波周期(過渡的な振動について)が加えられるべきである。このことは、繰返し率が100msごとに1パルスを超え得ることはほとんどないことを示唆する。そのような繰返し率では、通常は1秒のオーダーである心周期を無視することは不可能である。機械パルスの最大繰返し率は、心周期による変動を無視するのに十分な速さではないので、被験者が呼吸を止める場合であっても、肝硬度を計算する前に連続するエラストグラムを平均した結果、肝硬度のより良好な推定が得られることはない。
【0084】
前述のように、本発明の技術の一態様は、被験者の身体の領域の機械的特性の時間に伴う変動を表す信号を得るために、高い繰返し率(たとえば少なくとも毎秒4回の測定)で、この機械的特性の測定値を決定するように構成されたエラストグラフィデバイスに関する。この信号は、いくつかの心周期(1つの心周期は通常、0.7秒から1.5秒の間続く)にわたる機械的特性の変動を取り込むことができるように、少なくとも1秒の持続時間、一実施形態では数秒(たとえば、3から10秒)の持続時間にわたって取り込まれる。
【0085】
一実施形態では、機械的特性は組織硬度であり得、身体の領域は肝臓の領域であり得るが、本発明はこの実施形態に限定されない。たとえば、本発明の一態様は、脾硬度または脳硬度の決定に適用され得る。実際には、脳は大きくて柔らかい組織である。肝臓と同様に、血液が脳を通じて流れ、このケースでは、心臓に入る前に(肝臓のケースのように下大静脈ではなく)上大静脈内に流れる。したがって、脳硬度が中心静脈圧および右心房圧力の代用となる可能性が非常に高い。
【0086】
機械的特性の測定値が、
図4に表されるような振動制御トランジェントエラストグラフィ(VCTE)デバイス1と共に得られ得る。
【0087】
本発明の一態様がVCTEベースのエラストグラフィデバイスについて説明される場合であっても、本発明は、他の手段でせん断波が生成され得るエラストグラフィ技法を含む他のエラストグラフィ技法に適用され得ることに留意されたい。たとえば、本発明は、音響放射力を使用するせん断波生成に適合する。音響放射力は、超音波信号の長いバースト(数十マイクロ秒)を使用してせん断波が生成される技法である。音響放射力は、プローブ内に位置するバイブレータの使用を必要としない。
【0088】
図4のエラストグラフィデバイス1は、手持ち式となるプローブケーシング3(プローブの本体を形成する)と、ケーシング3から突き出る突起部分とを含むプローブ2を備える。したがって、突起部分は、被験者の身体8に対して適用され、身体8に機械パルスが送達され、U/Sショットが送信され、取得され得る。この実施形態では、突起部分は先端4、たとえば(その端部に円形の変換器6を有する)円筒形先端である。
【0089】
さらに、別の実施形態では、突起部分は、アレイ、たとえばU/S変換器の線形アレイを含む(プローブの端部に位置する)超音波ヘッドであり得る。この点で、提案される技法が単一素子超音波変換器(
図4のケースのように、これは様々な形状であり得る:たとえば、長方形または楕円形または円形)と共に、または多素子超音波変換器(U/S変換器のアレイ、たとえば線形または凸形またはフェーズドアレイ超音波プローブなど)と共に使用され得ることに留意されたい。単一素子超音波変換器は、AモードおよびMモード超音波撮像を表示するように適合されるが、多素子超音波変換器は、測定すべき組織のより容易な局所化を可能にするBモード画像も表示することができる。多素子超音波変換器のケースでは、ビーム形成された超音波ラインのうちの少なくとも1つが、どのように機械パルスが伝播するかを追跡するために使用される。この目的で、対称性を考慮して、中心ビーム形成超音波ライン(プローブ軸と整列される)を使用することが有益である。
【0090】
プローブ2はまた、低周波数バイブレータ5と、先端4の端部に固定されるU/S(超音波)変換器6とを備える。ここで、U/S変換器6は、超音波放射器の役割と、(代替として)超音波受信機の役割のどちらも果たす。さらに、別の実施形態では、プローブは、互いに別個のU/S放射器およびU/S受信機を備える。ここで、U/S変換器6はバイブレータの軸z上に構成される。さらに、別の実施形態では、U/S変換器は、必ずしもバイブレータの軸上ではなく、プローブ上の別の場所に位置し得る。
【0091】
先端4は低周波数バイブレータ5によって作動する。ここで、バイブレータ5は、プローブケーシング3に対して先端4を移動させるように構成される。バイブレータ5はシャフト4’を移動させるように構成され、シャフト4’の端部がプローブの先端4を形成する。さらに、別の実施形態では、プローブの先端、またはより一般には突起部分がプローブケーシングに束縛され得、プローブケーシングに対して運動せず、それでバイブレータが、ケーシング内部の質量を移動させ、(反跳効果のおかげで)プローブ全体を組織に対して前後に移動させるように構成される。
【0092】
バイブレータ5は、(中心周波数が通常は1メガヘルツ超、たとえば1から5メガヘルツの間である超音波ショットまたはエコー信号とは対照的に)500ヘルツ未満、さらには100ヘルツ未満の中心平均周波数で先端を移動させるので、低周波数バイブレータである。バイブレータは、たとえばラウドスピーカアクチュエータと同様の1つまたはいくつかのコイルおよび磁石を有する低周波数電気機械アクチュエータである。
【0093】
このデバイス1では、バイブレータ5は、プローブ軸zと一致するバイブレータ軸の周りで回転対称である。バイブレータ5が振動するとき、バイブレータ5は、その軸に平行な、主に縦方向の変位を誘起する。シャフト4’は軸z上に中心が置かれ、バイブレータ5は、軸zに沿ってこのシャフトを移動させるように構成される。
【0094】
実際には、バイブレータ5によって誘起された超音波変換器6の変位は、0.2mmから10mmの間、一実施形態では0.5から2mmの間のピーク・トゥ・ピーク振幅を有する。
【0095】
プローブ2は、超音波変換器6の変位を表す測定信号Sdを出力するように構成された変位センサ11を備える。この実施形態では、測定信号Sdは、プローブケーシング3に対する超音波変換器6の変位を表す。変位センサ11の一部分は、前述のシャフトに固定され、センサの別の一部分はプローブ内にはめ込まれケーシング3に対して運動しない。変位センサ11は、ホール効果センサ、誘起変位センサ、または任意の他の適切なセンサであり得る。
【0096】
デバイス1はまた、バイブレータ5およびU/S変換器6に接続された電子ユニット10をも備える。電子ユニット10の可能な実施形態のブロック図が
図5に表されている。
図5の電子ユニット10は、制御および処理モジュール20と、超音波フロントエンド40と、バイブレータ5を制御するための運動コントローラ30とを備える。電子ユニット10は、バイブレータ5およびU/S変換器6に接続されたコンピュータであり得る。
【0097】
超音波フロントエンド40と運動コントローラ30はどちらも、制御および処理モジュール20に接続される(すなわち、超音波フロントエンド40および運動コントローラ30は、制御および処理モジュール20から命令または制御信号を受信し、あるいは制御および処理モジュール20にデータまたは測定信号を送り得る)。電子ユニットはまた、変位センサ11によって出力された測定信号Sdを調整し、デジタル化する信号調整モジュール32をも備える。この信号調整モジュール32は、ここでは運動コントローラ30の一部分である。
【0098】
運動コントローラ30はまた、バイブレータ5を駆動するための増幅器31をも備える。増幅器31は、電気的な観点からバイブレータを駆動するのに適した形に制御信号Scを変換するように構成される。したがって、増幅器31は、電流増幅器または電力増幅器(たとえばtexas instrumentのLM3886電力増幅器など)であり得る。
【0099】
超音波フロントエンド40は、超音波(U/S)パルサ41と、U/S受信機モジュール42と、超音波信号を交互に送信および受信するためのスイッチ43とを備える。U/Sパルサ41は、制御および処理モジュール20によって出力された送信制御信号STXに基づいて、U/S変換器6を駆動するのに適した電気超音波信号を生成するように構成された電気回路を備える。U/S受信機モジュール42は、先にU/S変換器6によって受信された(スイッチ43を介してU/S受信機モジュール42に送信された)電気超音波信号(エコー信号)を取得し、対応する(デジタル化された)U/S受信信号SRXを制御および処理モジュール20に送信するように構成された電気回路を備える。超音波受信機モジュール42の電気回路は、電圧増幅器、1つ以上のフィルタ、およびアナログ-デジタル変換器(ADC)、たとえば毎秒10から100メガサンプルの速度の8から16ビットADCを備え得る。
【0100】
制御および処理モジュール20は、マシン実行可能命令を含む不揮発性非一時的メモリに結合されたマイクロプロセッサ、および/またはFPGAもしくは別のプログラマブル回路のようなプログラマブル超小型回路などの、データを処理するための電気回路を備えるデバイスまたはシステムである。制御および処理モジュール20はまた、1つまたはいくつかのRAMメモリまたはレジスタをも備え得る。いずれにしても、制御および処理モジュール20は、少なくとも1つの、ここでは2つのプロセッサ50、60と、少なくとも1つのメモリとを備える。
【0101】
変換器の変位の事前補償の技法を実装している、制御および処理モジュール20のいくつかのサブモジュールが、
図6により詳細に表されている。一実施形態では、この事前補償は通常、事前補償がオンザフライで行われるように、FPGAのようなプログラマブル超小型回路で行われる。
【0102】
この電子ユニットまたは回路10の要素のいくつか(たとえば信号調整モジュール32など)が、プローブ2内に収容され得ると共に、このユニット10の他の要素(汎用プロセッサ60など)はリモートであり得る。代替として、電子ユニット10全体がプローブ2内に収容され得、または逆に、完全にプローブの外部に位置し得る。電子回路は、その機能を実施するために様々な電子構成要素を含む。
【0103】
プローブ2は中央ユニット7に動作可能に接続され、中央ユニット7はコンピュータの構造を有する(プローブを制御し、プローブとインターフェースし、取得された信号を処理するように構成されたラップトップ、スマートフォン、または専用電子デバイスであり得る)。中央ユニットは、少なくともメモリおよびプロセッサを備える。ここでは、中央ユニットはまた、タッチスクリーンなどのユーザインターフェースをも備える。中央ユニット7はまた、被験者の検査中の領域80の機械的特性の経時的な変動を表す信号を表す曲線などのいくつかの情報を表示するためのディスプレイをも備える。ディスプレイはまた、他の情報、たとえばエラストグラムを表示するためにも使用され得る。
【0104】
プローブは、接続ケーブル9またはワイヤレスリンクによって中央ユニット7に接続され得る。ここでは、電子ユニット10のいくつかの要素(具体的には汎用プロセッサ60)が中央ユニット7の一部分である。
【0105】
電子ユニット10(より具体的には、ここではその制御および処理モジュール20)は、電子デバイス1を制御するように構成され(たとえば、メモリ内に記憶された命令を介してプログラムされ)、したがって電子ユニット10は、少なくとも1秒、好ましくは数秒の時間間隔にわたって機械的特性の経時的な変動を表す信号を得るために身体の領域80の機械的特性の一連の測定を行うように動作する。
【0106】
1つ以上の実施形態では、機械的特性の一連の測定は、オペレータによる手動トリガリングに応答して行われ得る。この手動トリガリングは、プローブケーシング3上に構成された押ボタンスイッチを作動させることによって、またはたとえばフットスイッチを作動させることによって達成され得る。そのようなケースでは、オペレータが1つ以上の情報に基づいて、一連の測定値の取得を開始できると決定したとき、オペレータは測定値の取得をトリガする。次いで、低周波数弾性波伝搬に関するプロービングした領域の機械的特性のいくつかの測定値(たとえば、そのヤング率)が得られ、各測定値Enがそれぞれの時間tnに関連付けられ、nは1より大きい整数である(たとえば、nは10から1000の間に含まれ得る)。次いで、機械的特性の経時的な変動を表す信号sE(t)が、サンプルEn=sE(tn)から得られ得る。1つ以上の情報に基づいて、一連の測定値の取得をトリガすることができるとオペレータは決定し、1つ以上の情報は、たとえば、(本出願人に譲渡された未公開の米国特許出願US第17/695053号で詳述されているように)プローブ2の位置および方向が適正であるという情報、および/または(たとえば、ひずみゲージのような力センサによって測定される、または先端が被験者の身体に対して押されるときにケーシング内に押し込まれるシャフト4’の位置から推論される接触力レベルに基づいて)先端4が被験者の身体8に対して適用されるという情報、および/または(この説明の後の一部分で詳述するように)被験者が呼吸を止めているという情報を含み得る。
【0107】
これらの実施形態では、実際には、情報は、オペレータによって手動でトリガされる一連の測定に関連する最初の機械パルスの放射であることに留意されたい。続く機械パルスが、毎秒少なくとも4パルスの事前定義された繰返し率で、および少なくとも1秒、一実施形態では数秒(たとえば、3から10秒の間)の、事前定義された持続時間にわたって自動的に送達される。
【0108】
代替実施形態では、1つ以上の情報に基づいて、一連の測定値に関連する最初の機械パルスさえも自動的に放射される。たとえば、電子ユニット10は、1つ以上の条件が満たされるかどうかを決定し、すべての必要な条件が満たされるとき、一連の機械パルスの放射をトリガするように構成され得る。たとえば、電子ユニット10は、プローブ2の位置および方向が適正であるかどうか、および/または先端4が被験者の身体8に対して適用されるかどうか、被験者が呼吸を止めているかどうかを決定するように構成され得、これらの条件が満たされる場合、電子ユニット10は、一連の機械パルスの放射をトリガし得る。
【0109】
これらの実施形態では、1つ以上の条件が満たされるかどうかの電子ユニット10による決定が、たとえば中央ユニット7のタッチスクリーンによって達成される、オペレータによる手動トリガリングに応答して行われ得る。
【0110】
図7に表されるように、機械的特性の一連の測定値を得るために、電子ユニット10は、被験者の身体8に複数のパルスMP(「機械パルス」と呼ばれる)を次々に、反復的に送達するように低周波数バイブレータ5を制御するように構成され得、各パルスMPは過渡的な低周波数機械パルスである。各機械パルスMPは、被験者の身体に向けられる軸zに沿ったシャフト4’の過渡的な変位dに対応する(
図4参照)。
【0111】
制御モジュール20は、シャフト4’を変位させるために運動コントローラ30を制御するように構成され得る(たとえば、メモリ内に記憶されたマシン実行可能命令を介してプログラムされる)。たとえば、シャフト4’の変位dは、所定のコマンド信号に従って制御され得る。具体的には、変位dは、PID(比例、積分、微分)補正器など、増幅器31、変位センサ11、信号調整モジュール32、および振動制御モジュール24(
図6)を含む、制御ループによって制御され得る(さらに、代替実施形態では、バイブレータは、センサフィードバックのない開ループによって制御され得る)。バイブレータによって誘起されるシャフト4’の変位dは、たとえば5msから50msの間の持続時間Tを有するシヌソイドの1周期に対応する、過渡的な変位である。
【0112】
機械パルスMPは通常、毎秒の少なくとも4パルスの事前定義された繰返し率、たとえば毎秒5パルス、さらには10パルス以上の繰返し率で送達される。したがって、機械パルスMPは、かなり短い、通常は0.25秒未満の繰返し周期TRで繰り返される。繰返し周期TRが短いほど、行うことのできる機械的特性の測定がより近くなり、これらの測定から構築される時間信号がより正確となり、機械的特性の値の経時的な変動を適切に監視することが可能となることを理解されよう。一方、繰返し周期TRが短いほど、受信したデータを処理するのに必要とされる計算資源が多くなり、(後で説明するように)前述のエラストグラフィデバイスの特定の構成が必要とされ得る。
【0113】
バイブレータ5によって誘起されるシャフト4’の変位dは、0.2mmから10mmの間、一実施形態では0.5から2mmの間のピーク・トゥ・ピーク振幅Aを有する。
【0114】
エラストグラフィデバイスが患者の肝臓を特徴付けるように構成されるとき、機械パルスMPの中心周波数は、10Hzから500Hzの間、たとえば50Hzから200Hzの間であり得る(このケースでは、通常は50Hz)。
【0115】
図7に表されるように、各機械パルスMPについて、電子ユニット10は、(とりわけ、U/Sフロントエンド40のU/Sパルサ41を有する)U/S(超音波)変換器6を制御し、したがってU/S変換器6は、超音波パルスUSPのシーケンスSeqを放射し、プローブの先端4の正面に位置する、被験者の身体8のプロービングされる領域80を通じて機械パルスMPがどのように伝搬するかを追跡するために、U/S変換器6によって、応答において受信したエコー信号を取得する。
【0116】
このシーケンスSeqについて、各超音波パルスUSPの中心周波数は、たとえば0.5から10メガヘルツの間に含まれる。シーケンスSeqの超音波パルスは、一度に1つずつ送信され得、2つの連続するパルスがパルス繰返し周期RPによって分離され、このパルス繰返し周期は、通常は0.1ミリ秒から2ミリ秒の間であり(これは、0.5キロヘルツから10キロヘルツの間のパルス繰返し周波数に対応する)、一実施形態では0.3msから1msの間である。前述のシーケンスSeqの超音波パルスUSPはまた、グループで、たとえば(2つの対応するエコー信号間の相関を計算するために)2つのパルスのグループで送信され得る。各グループの2つのパルスは、50から200マイクロ秒の間の持続時間だけ分離され得、パルスのグループ自体は、より長い持続時間、たとえば0.2または0.5ms超の持続時間だけ分離される。様々な実施形態では他の送信シーケンスも考慮され得ることを理解されよう。U/SパルスのシーケンスSeqの全持続時間に関しては、25msから200msの間であり得る。この持続時間は、せん断波周波数に応じて、およびより低速の弾性波の伝搬の速度に応じて、および観測すべき領域の深さに応じて選択され得る。たとえば、せん断波周波数50Hz、80mmの深さ、および伝搬の速度1m/s(被験者の肝臓内のせん断波について典型的である)では、シーケンスは100msの持続時間を有し得る。
【0117】
考慮する機械パルスの伝搬を追跡するために取得されたエコー信号に関して、それらのそれぞれは、U/SパルスUSPのうちの1つの放射後にU/S変換器6によって時間tにわたって受信された信号によって形成される。より精密には、エコー信号は、この放射後に開始し、所与の持続時間を有する所与の時間ウィンドウ内で受信された信号である。
【0118】
他の用途および使用のために、他のU/SシーケンスがU/SシーケンスSeqとは独立して放射され、クロノグラム内に挿入され得ることに留意されたい。たとえば、他のU/Sシーケンスが、被験者が呼吸を止めていることを示す呼吸停止インディケータを決定するために放射され得る。
【0119】
本明細書で説明される実施形態では、各機械パルスMPについて、電子ユニット10は、時間tの関数として、および領域80内の深さzの関数として、領域80内の組織ひずみを表す組織ひずみデータを決定する。組織ひずみデータは、機械パルスMPが領域80を通じてどのように伝搬するかを追跡するために取得されたエコー信号から決定される。前述のように、時間および深さの関数として(
図1のように)図式で表されるとき、そのような組織ひずみデータはエラストグラムを形成し、エラストグラムから、機械的特性の測定値(たとえば、組織硬度)が決定され得る。
【0120】
組織ひずみデータは、エコー信号から、相関技法または別のパターニングマッチングアルゴリズムを使用して決定されて、組織の各部分が、それを通過する弾性波の影響下でどのように移動させるかが決定される(弾性波は、システムによって送達される周期的機械的振動によって生成される)。たとえば、2つの次々に受信されるエコー信号の各対について、2つのエコー信号が、相関モジュール25(
図6参照)によって互いに相関付けられ、相関モジュール25により、深さの関数として、所与の時間に、組織変位(すなわち、2つのU/Sパルスの間に生じた組織変位)を決定することが可能となる。
【0121】
前述のように、各機械パルスMPについて、または少なくともそれらのうちのいくつかについて、それぞれの組織ひずみデータが得られ、領域80の機械的特性のそれぞれの測定値(
図7のE
1、E
k-1、E
k、E
k+1)が決定され得る。決定された各測定値E
nが、測定が行われる瞬間を表すそれぞれの時間t
nに関連付けられ得る。たとえば、
図7に表される実施形態のように、各測定値E
nが、対応する機械パルスMPが放射された時間に等しいそれぞれの時間t
nに関連付けられる。他の実施形態も可能である。たとえば、各測定値E
nが、U/SパルスUSPの対応するシーケンスSeqの放射に応答してエコー信号のうちの最後のものが取得される時間に等しいそれぞれの時間t
nに関連付けられ得る。代替として、各測定値E
nが、測定値E
nが決定される(すなわち、対応する組織ひずみデータの決定後の)時間に等しいそれぞれの時間t
nに関連付けられ得る。すべてのこれらの実施形態によって得られる時間のt
nの値は互いにほとんど違いがなく、この違いは、得られる信号E(t)の解釈にほとんど影響を及ぼさないことに留意されたい。
【0122】
すべての決定された測定値E
1、E
k-1、E
k、E
k+1は、領域80の機械的特性の値の経時的な変動を表す信号E(t)の離散的サンプルに対応する。次いで信号E(t)が、サンプルE
1、E
k-1、E
k、E
k+1から、たとえば線形補間(
図7の破線の曲線を参照)またはスプライン補間を使用することによって再構築され得る。
【0123】
低周波数せん断波伝搬に関する、組織の機械的特性は、せん断波の伝搬速度Vs、組織のせん断弾性率、組織のヤング率E(エラストグラムで識別されるストライプの傾きから、または測定パルスの飛行時間の変動から深さの関数として導出され得る)などの組織硬度に関する量であり得る。組織の機械的特性はまた、粘性のような、組織内の低周波数せん断波減衰に関する量でもあり得る。
【0124】
次に、(
図5を参照しながら)上記で述べた任意選択の事前補償技法が、
図6を参照しながら提示される。この事前補償技法は必須ではないことに留意されたい。しかしながら、この事前補償技法により、データの処理を加速することが可能となり、したがって時間的に互いに非常に近い機械的特性の測定値(たとえば、毎秒4から10回の測定値)の取得が容易となる。
【0125】
組織ひずみを決定するために、取得した超音波エコー信号を処理するとき、先端の変位dを補償することが望ましい。実際に、媒体変位をプローブするために送られる超音波パルスが、先端によって放射されるとき、かなりの大きさの先端変位が、測定すべき組織変位に加えられる。したがって、相関計算時間を減らし、信号対雑音比を増加させるために、この変位を補償することが望ましい。知られている補償技法は、エコー信号の後処理に基づき、エコー信号の後処理では、強いエコーが識別され、これらの信号を時間的に再編成するために利用される。しかしながら、そのような技法は時間がかかり、プロセッサ60のような専用プロセッサ(たとえば、FPGAであり得る)で実装するのにはあまり適していない。したがって、この変位dを補償するために、電子ユニット10(より具体的には、そのプロセッサ60)が、ここでは以下の事前補償技法を実装するように構成される。
【0126】
機械パルスMPを追跡するために放射される超音波パルスは:
- 超音波パルスの放射をシフトする、放射時の時間オフセットδtTX;および/または
- 前記放射された超音波パルスに応答して取得されたエコー信号をシフトする、受信時の時間オフセットδtRX
を用いて構成され得、
超音波変換器6(または複数の超音波変換器)の変位dによって引き起こされた、取得された他のエコー信号に対するエコー信号の時間シフトを補償するようにし、
放射時の時間オフセットδtTXおよび/または受信時の時間オフセットδtRXは、それらの差がΔt0-2.d/vusに等しくなるように調節され、Δt0は一定の遅延であり、vusは、検査中の組織内の超音波の速度である。
【0127】
したがって、変換器の変位は、特別な後処理を必要とすることなく、最初から補償される。
【0128】
図6のケースでは、エラストグラフィデバイスが、δt
TX,0が放射時の一定の遅延であるとして、放射時の時間オフセットがδt
TX,0+d/v
usに等しく、δt
RX,0が受信時の一定の遅延であるとして、受信時の時間オフセットがδt
RX,0-d/v
usに等しくなるようにより具体的に構成される。
【0129】
放射時にこの遅延を導入するために、制御モジュール20は、(たとえば、制御モジュールのメモリ内に記憶された所定の送信シーケンスに基づいて)基準送信制御信号S
TX,0を生成し得、機械パルスを追跡すべきであるとき、次いでこの信号が、制御可能な遅延23を使用して、制御された形で遅延され、U/Sフロントエンド40に送られる送信制御信号S
TXが作り出される。受信時の時間シフトδt
RXが、増幅器およびADC42によって出力されたデジタル化信号中の適切な一連の値を選択する、制御可能なシーケンサ22を使用して、たとえばシフトレジスタまたは別の種類のデジタルバッファを使用して得られ得る。補正モジュール21が、信号調整モジュール32によって出力されたデジタル化信号(変位センサ11によって出力された信号を表すデジタル化信号)から可変遅延d/v
usを決定し得る。
図4から6の実施形態では、変換器6の変位dは、プローブのケーシング3に対する変位である。
【0130】
図8は、本発明の一実施形態を説明する流れ図である。この実施形態によれば、領域80の機械的特性の値の経時的な変動を表す、得られた信号E(t)が、機械的特性に対する特徴を決定するために使用される。以下では、機械的特性は組織硬度、より具体的には肝硬度に対応する。任意の他の機械的特性、たとえば弾性、ヤング率、せん断弾性率、せん断波速度、粘弾性、粘性、あるいは先の物理量のうちの1つ以上から導出される(または組み合わされる)任意の複合バイオマーカが測定され得ることを理解されよう。さらに、身体の他の一部分、たとえば脳が考慮され得ることを理解されよう。
【0131】
任意選択のステップ810では、組織硬度(または単に「硬度」)の測定値Ek(kは1より大きい整数)の決定をトリガするための1つ以上の条件が決定され得る。前述のように、1つ以上の条件は、たとえば:
- プローブ2の位置および方向が適正であるかどうか、すなわち機械的特性の測定値を得るべき身体8の領域80に対してプローブ2が正しく位置決めされるかどうかに対する条件。本出願人に譲渡された未公開の米国特許出願US第17/695053号は、そのような条件の決定の例を詳述している;および/または
- 先端4が被験者の身体8に対して適切に適用されるかどうかに対する条件。そのような条件は、たとえば、力センサに(ひずみゲージなど)よって測定された接触力レベルに基づいて決定され、または先端が被験者の身体に対して押されるときにケーシング内に押し込まれるシャフト4’の位置から推論され得る;および/または
- 被験者が呼吸を止めているかどうかに対する条件
を含み得る。
【0132】
一例として、このインディケータは、連続する超音波エコー信号の相関から得られ得る。連続する超音波信号は、調査する身体の領域を通じて放射され得、それぞれのエコー信号が受信され得る。次いで、連続するエコー信号間の相関係数が計算され得る。高い相関係数(1付近)は、プローブの正面に位置する組織が安定していることを示す。たとえば、インディケータは、相関係数が事前定義されたしきい値、たとえば0.9または0.95または0.99未満であるとき、被験者が呼吸を止めていることを示し得る。収集された超音波信号間のパルス繰返し周期は、通常は50ms、より一般には5msから200msの間、通常は100msであり得る。
【0133】
任意選択のステップ820では、電子ユニット10は、ステップ810で決定したすべての条件が満たされるかどうかを決定し得る。少なくとも1つの条件が満たされないとき(ステップ820、矢印「N」)、測定値Ekの取得は開始されない。すべての条件が満たされるとき(ステップ820、矢印「Y」)、測定値Ekの取得を開始することができる(ステップ830)。前述のように、測定値Ekの取得は半自動的に行われる(たとえば、オペレータは、たとえば、画面上に表示される情報、またはプローブ上の視覚的インディケーションを使用して、すべての条件が満たされるという通知を受け、ボタンを押して、最初の測定値の取得をトリガし、すべての後続の測定値は自動的に取得される)、または完全に自動化され得る(たとえば、すべての条件が満たされると電子ユニットが決定するとすぐに、一連の機械パルスが放射され、対応する測定値Ekが決定される)。
【0134】
測定値E
kは、
図4に表されるエラストグラフィデバイスで、前述のように決定され得る(ステップ830)。しかしながら、本発明はこのケースに限定されず、任意のエラストグラフィデバイスが、測定値E
kを決定するために使用され得る。
【0135】
使用されるエラストグラフィ技法が何であっても、得られる弾性信号E(t)で、心周期中の硬度測定値の変動を観測するのに十分な高い繰返し率で測定が行われる。同じ理由で、少なくとも1つの心周期(その持続時間は一般には1秒のオーダーである)をカバーする持続時間にわたって測定が行われる。
【0136】
実際には、少なくとも毎秒4回の測定の繰返し率により、心周期に対応する期間にわたる時間の関数として硬度の変動を変換するのに十分に精密である、得られる信号を得ることが可能となる。この繰返し率は、より高い、たとえば毎秒5、6、7、8、9、10、または10回超の測定であり得ることを理解されよう。
【0137】
測定値が決定される持続時間は少なくとも1秒(心周期の平均持続時間の大きさのオーダー)に等しいが、1秒超であり得る。たとえば、被験者の大多数にとって、3秒の持続時間により、少なくとも2つの心周期中の硬度の値の変動を観測することが可能となる(心周期は一般に、被験者に応じて0.7から1.5秒持続し得る)。測定が行われる持続時間のより大きな値、たとえば5から10秒の間、または10秒超が使用され得ることを理解されよう。被験者が呼吸を止めるように求められるとき、この持続時間を過度に長くすることはできない。
【0138】
前述のように、各測定値Ekがそれぞれの時間tkに関連付けられ、時間tkは、たとえば測定が行われる時間であり得、または測定が機械パルスの放射から得られるとき、測定値に関連付けられるそれぞれの時間は、対応する機械パルスが送達される時間であり得る。他の実施形態も可能である。
【0139】
次いで、ステップ830で決定された測定値Ekから信号E(t)が得られる(ステップ840)。信号E(t)は、取得されたすべての測定値、または取得されたすべての測定値のうちのいくつかの測定値を含み得る。たとえば、経時的に連続する信号を得るために補間(たとえば、線形補間またはスプライン補間)が使用され、2つの連続する測定値Ek、Ek+1に関連付けられる2つの瞬間tk、tk+1の間の硬度の値が「完成」され得る。
【0140】
任意選択のステップ850では、信号の少なくとも一部分を表す曲線が画面上に表示され得る。そのようなディスプレイは、被験者を担当する医療従事者に重要な診断情報を提供し得る。
【0141】
さらに、一実施形態では、被験者の心電
図ECGが、LSM信号E(t)の取得と並行して得られ得、そのようなECGが同一の画面上に表示され得る。したがって、医療従事者は、ECG内に含まれる情報を使用して、LSM信号E(t)の曲線を解析し得る。
【0142】
任意選択のステップ860では、得られた信号E(t)から硬度を表す少なくとも1つの特徴が抽出され得る。様々な実施形態では、そのような特徴は、得られた信号E(t)から決定された単一の値であり得る。たとえば、特徴は、所与の期間にわたる信号の最小値、最大値、所与の百分位数、平均値、標準変差、または任意の統計的特徴の関数であり得る。特徴はまた、信号の少なくとも2つの統計的特徴の組合せの関数であり得る。所与の期間は、信号の持続時間全体、またはその一部分(たとえば、被験者が呼吸を止めている期間)のみであり得る。信号E(t)を考慮に入れることにより、現在のエラストグラフィ技法よりも、正確な硬度を表す特徴が提供される。
【0143】
実際に、現在のエラストグラフィ技法では、硬度のいくつか(たとえば10個)の測定値が、硬度の非常に異なる値に対応し得るそれぞれの瞬間で決定される。これらの測定値から、そのような変動性を考慮に入れずに、硬度を表す特徴が計算される(たとえば、測定値の平均値または中央値)。したがって、この特徴は、完全な信号から決定された場合ほど正確ではない。この例が
図9に与えられている。
【0144】
図9は、被験者の肝硬度測定値の経時的な信号E(t)の曲線の一例を表す。この曲線は2つの部分:被験者が呼吸を止めていない間(0から8秒の間)の破線の一部分と、被験者が呼吸を止めている間(8から16秒の間)の実線の一部分を含む。以下では、硬度を表す特徴が、被験者が呼吸を止めている間の信号E(t)の一部分から抽出される(
図8のステップ860)ことを仮定する。
【0145】
図9の例では、肝硬度の値を決定するための現在の技法で従来通り行われるのと同様に、いくつかの肝硬度測定値M
1、M
2、M
3、M
4、M
5、M
6がそれぞれの瞬間に取られ、単一の「最終」測定値Mを決定するために使用される(「M
i」、「M」という表現は、ここでは本発明で提案される技法と先行技術の技法を区別するために使用される)ことを仮定する。
図9の例は、6つの肝硬度測定値に基づくが、別の数の測定値も使用され得る(一般には10)。最終測定値は、M、たとえば測定値M
1、M
2、M
3、M
4、M
5、M
6の平均値または中央値である。
【0146】
しかしながら、
図9の例では、当業者なら理解するであろうが、これらの測定値M
1、M
2、M
3、M
4、M
5、M
6は、大部分は肝硬度信号の「高」値に対応する。したがって、当業者なら理解するであろうが、標準技法によって得られる最終測定値M(測定値M
1、M
2、M
3、M
4、M
5、M
6の平均値または中央値として計算される)は、信号E(t)の平均値または中央値Eと比べて過大評価される。
【0147】
この例から、測定値Miが取られる時間に応じて、最終測定値Mは非常に異なる値を有し得、たとえば過大評価または過小評価され、これが、診断および患者ケアに関して重要な結果を及ぼし得ることが理解されよう。
【0148】
逆に、当業者なら理解するであろうが、信号E(t)(または信号の一部分)に基づいて決定される肝硬度に対する特徴Eは、前述のようなシナリオを回避するので、はるかに正確である。たとえば、特徴Eは、信号の平均値、信号の中央値、信号の最大値と最小値のハーフサム(half-sum)などとして計算され得る。
【0149】
さらに、高い診断値を有し得るデータの分散に関する情報はまた、たとえば変動係数または四分位範囲として計算され得る。
【0150】
被験者の肝硬度を表す特徴Eはまた、得られた信号E(t)(またはその一部分)のスペクトル解析を行うことによって得られる、得られた信号E(t)(またはその一部分)のスペクトル特性に基づいて決定され得る。たとえば、スペクトル解析は、被験者が呼吸を止めている時間間隔に対応する信号の一部分に関して行われ得る。
【0151】
実際に、
図3または
図9に表される肝硬度測定値の経時的な信号E(t)を表す曲線からわかるように、被験者が呼吸を止めているとき、曲線の対応する部分は、周期的または擬似周期的変動を示し、これは上記で詳述したように中心静脈圧の変動に対応すると考えられる。「擬似周期的」とは、厳密には周期的ではないが、その曲線がほぼ等しい時間間隔についてそれ自体で反復する類似のパターンの連続を含む信号を意味する。被験者が呼吸を止めていないとき、信号E(t)は、そのような周期的または擬似周期的変動を観測するには雑音が多過ぎる。
【0152】
そのような周期的または擬似周期的な信号について、スペクトル解析により、周波数領域内のピークの中心周波数、-3dB(または-6dBなどの他のしきい値)でのピークの帯域幅、ピークの相対的高さなどのスペクトル特性を得ることが可能となる。これらのスペクトル特性はまた、被験者の肝硬度に対する1つ以上の特徴、さらには(カテーテル法などの侵襲性技法によって古典的に得られる)被験者の中心静脈圧に対する1つ以上の特徴を決定するために使用され得る。
【0153】
たとえば、フーリエ変換が、被験者が呼吸を止めている(これは、前述のように、たとえば呼吸停止インディケータを使用することによって決定され得る)時間間隔に対応する信号の一部分に適用され得る。呼吸停止インディケータは、連続する超音波信号間の相関係数を計算し、計算した相関係数を事前定義されたしきい値と比較することによって決定され得る。
【0154】
得られた信号スペクトルは、周期的または擬似周期的変動に関連付けられる周期(被験者の心周期の持続時間に対応する周期)の周りの広がったピークを含み得る。次いで(ピークの幅に基づいて定義された阻止帯域を有する)帯域消去フィルタが適用されて、信号の周期的または擬似周期的変動が除去され、次いで、この周期的または擬似周期的変動から奪われた信号E(t)に対応する処理後信号E’(t)が、逆フーリエ変換によって得られ得る。被験者の肝硬度に対する特徴が、たとえば、処理後信号E’(t)の統計的特徴の平均値または中央値または任意の関数を取ることによって、この処理後信号E’(t)から得られ得る。
【0155】
前述のように、いくつかの実施形態では、ステップ860で、(被験者の硬度に関する特徴の代わりに、またはそれに加えて)被験者の中心静脈圧(CVP)に対する特徴または情報が決定され得る。たとえば、被験者が呼吸を止めているときに信号E(t)で観測される周期的または擬似周期的変動が、CVPの値にリンクされ、この周期的または擬似周期的変動、あるいはその一部分を抽出することにより、CVPの経時的な変動に対する情報が与えられ得る。信号E(t)の周期的または擬似周期的成分の変動を調査することにより、医療従事者は、被験者の心臓病理を示唆し得る、CVPの曲線における異常を検出することができ得る。
【0156】
ステップ860で抽出され得る別の特徴は、被験者が呼吸を止めているときの、LSMの経時的な信号E(t)の曲線のドリフト(または「傾向」)に関する。そのようなドリフトが、
図9ではL
Dと示される破線で表されている。実際に、被験者が呼吸を止めているとき、多かれ少なかれ著しいドリフトがLSM信号E(t)の曲線で観測可能であることを本発明者らは観測した(より具体的には、被験者が呼吸しているときは信号E(t)の雑音が多過ぎるので、このドリフトは、被験者が呼吸を止めている間の曲線の一部分のみで観測可能であり得る)。そのようなドリフトの存在についての可能な説明は、LSM(または他の機械的特性)信号が心臓の血行動態に非常に敏感であるということである。当業者なら理解するであろうが、信号の傾向の解析は、心血管疾患のある患者にとって高い診断上の関心となり得る。たとえば、患者が呼吸を止めている間に傾向が解析され、血圧が腹腔でどれほど変化するかが決定され、または評価され得る。
【0157】
ドリフトに関する特徴は、たとえば直線LDの傾きであり得る。ドリフトは必ずしも線形(したがって直線によって表現可能)ではないことがあり、指数関数的または対数関数的であり得ることを理解されよう。
【0158】
任意選択で、ステップ860で決定された被験者の硬度および/またはCVPに対する少なくとも1つの特徴または1つの情報が、医療従事者によって使用される画面上に表示され得る。
【0159】
前述のように、
図4から6で表されるエラストグラフィデバイスは振動制御トランジェントエラストグラフィ(VCTE)デバイスであっても、本発明の態様は、任意のタイプのエラストグラフィデバイスに一般化され、十分に高い繰返し率(たとえば、少なくとも毎秒4回)で測定値を得ることが可能となり得ることに留意されたい。具体的には、本発明は、他のTE(トランジェントエラストグラフィ)デバイス、たとえばARFI(音響放射力インパルス)またはSWE(せん断波エラストグラフィ)技術を実装するデバイスに適用され得る。ARFIおよびSWEでは、VCTE技術とは異なり、縦方向に動くせん断波は外部バイブレータによって生成されない。その代わりに、ARFIでは、超音波によって生成される圧力放射が関心領域内に集束する。放射圧力が、横方向に動くせん断波を生成し、そのせん断波が、超音波追跡パルスを使用して関心領域の外部で追跡される。
【0160】
「備える(comprise)」、「含む(include)」、「組み込む(incorporate)」、「含む(contain)」、「である(is)」、および「有する(have)」などの表現は、この説明および関連するクレームを解釈するとき、非排他的に解釈されるべきであり、すなわち、明示的に定義されない他の項目または構成要素も存在することが可能となるように解釈されるべきである。単数形に対する参照は、複数形に対する参照でも解釈されるべきであり、逆も同様である。
【0161】
この説明で開示した様々なパラメータが修正され得ること、および本発明の範囲から逸脱することなく、開示される様々な実施形態が組み合わされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【符号の説明】
【0162】
1 振動制御トランジェントエラストグラフィ(VCTE)デバイス
2 プローブ
3 プローブケーシング
4 先端
4’ シャフト
5 バイブレータ
6 超音波変換器
7 中央ユニット
9 接続ケーブル
10 電子ユニット
11 変位センサ
20 制御および処理モジュール
21 補正モジュール
22 シーケンサ
23 遅延
24 振動制御モジュール
25 相関モジュール
30 運動コントローラ
31 増幅器
32 信号調整モジュール
40 超音波フロントエンド
41 超音波(U/S)パルサ
42 U/S受信機モジュール
43 スイッチ
50、60 プロセッサ
【手続補正書】
【提出日】2024-04-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の身体の領域の機械的特性の時間に伴う変動を表す信号を得るためのエラストグラフィデバイスであって、身体の領域が肝臓または脾臓であり、エラストグラフィデバイスが、少なくとも毎秒4回の測定の繰返し率で、少なくとも1秒の持続時間にわたって、機械的特性の測定値を決定するように適合された電子ユニットを備え、機械的特性の各測定値がそれぞれの時間に関連付けられ、機械的特性の時間に伴う変動を表す信号が、決定した機械的特性の複数の測定値を含む、エラストグラフィデバイス。
【請求項2】
被験者の身体にに対して適用される突起部分と、少なくとも1つの超音波変換器とを備えるプローブ
を備え、
機械的特性の測定値のそれぞれを決定するために、電子ユニットが、
突起部分を介して、被験者の身体に過渡的な低周波数機械パルスを送達し、
前記機械パルスの送達時に、超音波パルスのシーケンスを放射するように超音波変換器を制御し、機械パルスによって誘起された低周波数弾性波がどのように被験者の身体の領域を通じて伝搬するかを追跡するために、超音波変換器によって、応答において受信したエコー信号を取得し、
低周波数弾性波伝搬に関する機械的特性のそれぞれの測定値を決定する
ように適合される、請求項1に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項3】
プローブが、プローブの突起部分を移動させるように構成された低周波数バイブレータをさらに備え、
過渡的な低周波数機械パルスの送達が、
電子ユニットにより、被験者の身体に前記過渡的な低周波数機械パルスを送達するように低周波数バイブレータを制御すること
を含む、請求項2に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項4】
機械的特性の各測定値に関連付けられるそれぞれの時間が、測定値が決定される時間に対応する、請求項1に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項5】
測定値の決定の持続時間が少なくとも3秒である、請求項1に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項6】
身体の領域が被験者の肝臓であり、肝臓で誘起される機械パルスの中心周波数が、10Hzから500Hzの間である、請求項2に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項7】
電子ユニットが、放射された超音波パルスのうちの1つ以上について、
超音波パルスの放射をシフトする、放射時の時間オフセットδtTX、および/または
前記放射された超音波パルスに応答して取得されたエコー信号をシフトする、受信時の時間オフセットδtRX
を生成するようにさらに構成され、
超音波パルスの前記シーケンス中に生じる超音波変換器の変位によって引き起こされた、取得された他のエコー信号に対する前記エコー信号の時間シフトを補償するようにし、
放射時の時間オフセットδtTXおよび/または受信時の時間オフセットδtRXが、それらの差が2.d/vus+Cに等しくなるように調節され、dが基準位置に対するプローブの変位であり、vusが身体の領域内の超音波の速度であり、Cが定数である、請求項3に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項8】
電子ユニットが、得られた信号から、機械的特性に関する少なくとも1つの特徴を決定するようにさらに適合される、請求項1に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項9】
前記少なくとも1つの特徴が、得られた信号の、最大値、最小値、平均値、標準偏差、および/または百分位数の関数である、請求項8に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項10】
電子ユニットが、被験者が呼吸を止めているか否かを示す呼吸停止インディケータを決定するようにさらに適合される、請求項1に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項11】
呼吸停止インディケータが、連続する超音波信号を放射することと、前記超音波信号の放射に応答してそれぞれのエコー信号を受信することと、受信したエコー信号のうちの連続するエコー信号の間の相関係数を計算することと、計算した相関係数を事前定義されたしきい値と比較することとによって決定される、請求項10に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項12】
電子ユニットが、被験者が呼吸を止めていることを呼吸停止インディケータが示すとき、測定値の決定をトリガするように適合される、請求項10または11に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項13】
得られた信号の一部分が、被験者が呼吸を止めている間に決定された測定値を含む、請求項1に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項14】
電子ユニットが、信号の前記一部分の少なくとも1つのスペクトル特性を得るように、得られた信号の前記一部分のスペクトル解析を行うようにさらに適合され、
電子ユニットが、機械的特性に関する少なくとも1つの特徴を決定するようにさらに適合され、前記少なくとも1つの特徴が、得られた少なくとも1つのスペクトル特性の関数である、請求項13に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項15】
得られた信号の前記一部分が第1の時間間隔に対応し、電子ユニットが、
被験者の心電図を受信し、心電図の一部分が第2の時間間隔に対応し、前記第1の時間間隔と第2の時間間隔が時間的に重複しており、
得られた信号の一部分を表す曲線と、心電図の一部分を表す曲線とを共に表示するようにディスプレイデバイスを制御する
ようにさらに適合される、請求項13または14に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項16】
電子ユニットが、得られた信号の前記一部分から、得られた信号の一部分に対応する時間間隔の間の被験者の中心静脈圧の時間に伴う変動に関する情報を決定するようにさらに適合される、請求項13または14に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項17】
前記情報が、被験者の中心静脈圧の経時的なドリフトに対する少なくとも1つのインディケータを含む、請求項16に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項18】
電子ユニットが、決定した情報に基づいて、被験者の可能性のある心血管病理に対するアラートを発するようにさらに適合される、請求項16に記載のエラストグラフィデバイス。
【請求項19】
被験者の身体の領域の機械的特性の時間に伴う変動を表す信号を得るためのエラストグラフィデバイスによって実装されるエラストグラフィ方法であって、身体の領域が肝臓または脾臓であり、方法は、
少なくとも毎秒4回の測定の繰返し率で、少なくとも1秒の持続時間にわたって、機械的特性の測定値を決定することであって、機械的特性の各測定値がそれぞれの時間に関連付けられる、こと
を含み、
機械的特性の時間に伴う変動を表す信号が、決定した機械的特性の複数の測定値を含む、方法。
【外国語明細書】