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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098504
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】ロケット発射システム
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/00 20060101AFI20240716BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20240716BHJP
   B64G 1/24 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B64G1/00 250
B64G1/40 400
B64G1/24 400
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001538
(22)【出願日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2023002022
(32)【優先日】2023-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522204164
【氏名又は名称】AstroX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170449
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 英彦
(72)【発明者】
【氏名】小田 翔武
(57)【要約】      (修正有)
【課題】成層圏からロケットを発射するロケット発射システムを提供する。
【解決手段】ロケット発射システムは、成層圏に浮揚する浮揚体と、前記浮揚体に支持され、前記浮揚体から発射されるロケットと、前記浮揚体に支持された前記ロケットの姿勢を制御する姿勢制御装置とを含み、前記ロケットは、衛星または貨物を積載するフェアリング部と、推進力を発生させるロケットエンジン部とを備え、前記ロケットエンジン部は、液体酸化剤を固体燃料と反応させることで推進力を生じるハイブリッドロケットであることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成層圏に浮揚する浮揚体と、
前記浮揚体に支持され、前記浮揚体から発射されるロケットと、
前記浮揚体に支持された前記ロケットの姿勢を制御する姿勢制御装置とを含み、
前記ロケットは、衛星または貨物を積載するフェアリング部と、推進力を発生させるロケットエンジン部とを備え、
前記ロケットエンジン部は、液体酸化剤を固体燃料と反応させることで推進力を生じるハイブリッドロケットであることを特徴とする、発射システム。
【請求項2】
前記ロケットエンジン部は、第1段エンジン部と第2段エンジン部とを有し、前記第1エンジン部および第2段エンジン部は、ハイブリッドロケットである、請求項1に記載のロケット発射システム。
【請求項3】
前記浮揚体は1つの気球である、請求項1または請求項2に記載のロケット発射システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成層圏からロケットを発射するロケット発射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、宇宙開発は急速な成長を遂げている。例えば、宇宙産業の世界市場は40兆円程度の市場を有し、2040年には120~160兆円の規模にも及ぶという予測がされている。そのような宇宙開発においては、宇宙に物(以下、「ペイロード」ともいう)を運ぶロケットの開発が重要となる。ロケットは、推進力となる燃料の種類により固体燃料ロケット、液体燃料ロケット、ハイブリッドロケットに分類される。
【0003】
固体燃料ロケットは、固体燃料及び固体酸化剤を推進剤として使用する。固体燃料ロケットは、燃料及び酸化剤が同一相であることから燃焼性に優れ、また、固体燃料の充填密度が高く、大きな推進力を得やすい。一方で、固体燃料ロケットに用いる燃料はいわゆる火薬であることから、貯蔵及び輸送時における取扱が煩雑である。そのため、固体燃料の製造、貯蔵及び輸送においては十分な管理が必要とされる。
【0004】
液体燃料ロケットは、液体燃料及び液体酸化剤を推進剤として使用する。液体燃料ロケットは、液体燃料及び液体酸化剤を噴霧状態として混合し、燃焼させることにより推力が得られる。液体燃料ロケットにおける推進剤は、固体燃料ロケット同様、同一相であることから燃焼性に優れ、高比推力を得やすい。しかし、一般的な高性能推進剤では燃料及び酸化剤を安定して低温または極低温状態に保つ必要がある。また、燃料と酸化剤がともに液体であり混ざり易いことから、爆発する危険性を有している。また、ロケットの構成が固体燃料ロケットと比較して複雑であり、設計や製造が難しく高コストになりやすい。
【0005】
ハイブリッドロケットは、主に固体の燃料と液体又は気体の酸化剤を推進剤として使用する。燃料と酸化剤の相が異なるため、容易に混合及び燃焼が生じず、固体燃料ロケットや液体燃料ロケットに比べて大推力が得られにくい。一方で、固体燃料と液体酸化剤を別々に収容するため、固体燃料ロケット及び液体燃料ロケットと比較して、推進剤の管理が容易であり、意図せず固体燃料と酸化剤が反応してしまうことはなく、安全である。特に、ポリマーを固体燃料として使用したハイブリッドロケットは、製造、貯蔵及び輸送時の管理が特に容易である。
【0006】
また、特許文献1に記載のハイブリッドロケットでは、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料により、自己発熱分解により燃焼性が高まり、燃焼ガス生成室や燃焼室を小型化できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特快2020-7960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、ハイブリッドロケットは低コストで小さなスケールの化学燃焼システムとして発展してきた。ハイブリッドロケットはその構造の単純さからコストが抑えられ、また安全性が高いため、民間での使用も期待されている。しかし、低燃焼効率、低推力という課題があり、実用化はあまりなされていないのが現状である。例えば、特許文献1のようなハイブリッドロケットであっても、地上から宇宙空間まで到達するロケット発射システムを構築することは従来技術では困難である。このようにハイブリッドロケットには、利点が多くありながらも大きな推進力を得ることが難しく、宇宙空間までの打ち上げを想定した実用化が難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のような課題に対して、本発明の発明者は、ロケットを浮揚体により成層圏まで浮揚させ、成層圏から発射することで空気抵抗が低減され、推力が低いという課題を解決できるとの知見を得た。
【0010】
ところで、ロケットを発射する場合は、ロケットの一部切り離しや、ロケットの飛行トラブル等により海又は陸にロケットの一部又は全部が落下する可能性があることから、海上又は陸上の安全性を図るためには、漁業者或いは地権者等の利害関係者と連繋した上で、限られた時間帯・場所においてロケットの打ち上げを行う必要があり、それらの調整に多くの時間とコストを要する。
【0011】
そうであるにも関わらず、ロケットを成層圏から発射する場合、装置や機器の誤動作等によりロケットの燃料が爆発した場合にロケットや浮揚体の筐体の一部が四方八方に飛散したのち落下することで広範囲に被害が及ぶ可能性があった。そのような場合を想定すると、前記した調整が困難となり、また、ロケット発射の失敗による被害が甚大になる可能性を常に持ちながらロケット発射を行うことになるという課題がある。さらに、ロケットの推進剤等が海洋汚染の原因となる場合も想定されるといった課題があった。
【0012】
(1)上述の知見と課題に基づき、本発明に係るロケット発射システムは、成層圏に浮揚する浮揚体と、前記浮揚体に支持され、前記浮揚体から発射されるロケットと、前記浮揚体に支持された前記ロケットの姿勢を制御する姿勢制御装置とを含み、前記ロケットは、衛星または貨物を積載するフェアリング部と、推進力を発生させるロケットエンジン部とを備え、前記ロケットエンジン部は、液体酸化剤を固体燃料と反応させることで推進力を生じるハイブリッドロケットであることを特徴とする。
【0013】
このロケット発射システムによれば、成層圏から発射されるロケットは空気抵抗が低減されるため、推力が低くてもフェアリング部に搭載された衛星や貨物を任意の軌道まで投入しやすくなるにもかかわらず、ハイブリッドロケットが爆発等の危険性の低いロケットであるため、ロケット発射の際に燃料が爆発し広範囲に被害が及ぶことを防止できる。また、ハイブリッドロケットは燃料が固体のため落下しても塊のままで汚染はなく、酸化剤も蒸発するため海を汚染することがない。
【0014】
さらに、ロケットは、有人の宇宙船ではなく、フェアリング部とロケットエンジン部を分離した貨物輸送用である。したがって、ロケットは、人間の乗組員を宇宙に運ぶための生命維持システムや乗組員の居住モジュールを持たず、衛星や科学機器などの無人ペイロードの輸送に特化している。これにより、ロケットは、乗組員の安全性や快適性に関連する設計上の制約から解放され、ペイロード容量や打ち上げ効率を最適化することが可能であり、有人宇宙船に比べて設計と運用のコストが低減され、特に商業的な宇宙開発において優位性を持つ。
【0015】
(2)前記した(1)のロケット発射システムにおいて、前記固体燃料は高分子材料であってもよい。そのようにすれば、爆発のリスクを抑えつつ、-50℃という低温になる成層圏においても、燃焼が行われやすく、推力が高いロケットエンジンを構成することができる。また、燃料の単位量当たりの比推力が高くなるため、ロケット全体の燃料を減らすことができ、ロケットを軽量化することもできる。
【0016】
(3)前記した(1)のロケット発射システムにおいて、前記液体酸化剤は、液体酸素、亜酸化窒素、過酸化水素、ヒドロキシルアンモニウムナイトレート等の無毒なものであってもよい。そのようにすれば、低融点熱可塑性樹脂などの高分子材料である固体燃料と反応することで、良好な燃焼が起こり、推力が高いロケットエンジンを構成することができる。
【0017】
(4)前記した(1)のロケット発射システムにおいて、前記液体酸化剤はターボポンプのような加圧機構により加圧されて前記固体燃料と反応させてもよい。そのようにすれば、-50℃という低温になる成層圏においても、液体酸化剤と固体燃料との反応が促進され、推力が高いロケットエンジンを構成することができる。
【0018】
(5)前記した(1)のロケット発射システムにおいて、前記浮揚体がロケット発射時に浮揚する前記成層圏は、高度20km~50kmの範囲であってもよい。そのようにすれば、浮揚体を安全に発射高度まで浮揚させることができ、かつ、爆発のリスクを抑え、広範囲に被害が及ぶことを防止でき、さらに、ロケットの空気抵抗が低減されるため、比推力が低くてもロケットやペイロードを任意の軌道まで投入しやすくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、推力の低いロケットであっても所望の軌道に打ち上げることができるため、低コストのロケット発射システムが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るロケット発射システムの使用イメージを示すイメージ図である。
図2】本発明の実施形態に係るロケットの概略構成図である。
図3】本発明の実施形態に係るロケット発射システムを示す概略図である。
図4図3に示すロケット発射システムに搭載されるロケットのエンジン部を示す概略図である。
図5】本発明に係るロケットシステムを用いて5kNのハイブリッドロケットを発射した場合を想定したシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
図1図4に示すように、本発明に係るロケット発射システムSは、成層圏に浮揚する浮揚体1と、浮揚体1に支持され、浮揚体1から発射されるロケット2と、浮揚体1に支持されたロケット2の姿勢を制御する姿勢制御装置3とを含む。ロケット2は、液体酸化剤を固体燃料と反応させることで推進力を生じるハイブリッドロケットである。
【0023】
図1に示すように、ロケット発射システムSによれば、浮揚体1にロケット2が支持され、例えば、浮揚体1を高度30km程度の成層圏まで放球した後、ロケット2を空中発射する。発射されたロケット2は、高度100kmの宇宙空間に到達し、さらに、高度500kmの衛生軌道にて重量100kg以下の小型衛星を投入する。このように、ロケット発射システムSでは、任意のタイミングで任意の軌道にペイロードを投入できる。なお、図1においては3段式ロケットを図示するが、ロケットはこれに限らない。
【0024】
ここで、成層圏とは、従来よく知られるように、大気の中で地表側の一番下層部である対流圏の上側に位置する層である。対流圏と成層圏の境界は、(対流)圏界面、あるいは対流止面とも称される。圏界面の高さは地表の温度が高いほど高く、地表の温度が低いと低い。圏界面の高さは赤道部で17km程度、両極で10km程度、中緯度では季節により変動するが10数km程度となる。対流圏の高さによる気温の下がり方を気温減率といい、その割合は平均すると概略0.6℃/100mとなる。
【0025】
成層圏においては、対流圏の上に位置する成層圏の最下部は、ほぼ気温が一定であり、最下部の上側で、地表からの高さ20km程度から高さ50km程度では高さとともに気温が上昇する。成層圏には、海などから発生した水蒸気は圏界面以上には昇ってくることはない。また対流圏と違って上空ほど気温が高いので対流も生じにくく、これに伴う気象の変化もなく、安定している。
【0026】
また、成層圏の上側には、中間圏と称される層が存在する。中間圏は、地表からの高さ50km程度から80km程度に位置し、気温は概略-80℃~-90℃となっている。
この中間圏までは大気組成が一般的な空気とほぼ同じになっている。なお、本明細書において、中間層の上側の地表からの高さ100kmからを宇宙空間とする。
【0027】
図2に示すように、ロケット2は、フェアリング部26とロケットエンジン部27を備える。本実施形態において、ロケット2は、フェアリング部に衛星や貨物を積載する、いわゆる貨物ロケットである。
【0028】
本実施形態において、ロケットエンジン部27は、第1段エンジン部28と第2段エンジン部29とを有し、第1段エンジン部28と第2段エンジン部29がともに、液体酸化剤を固体燃料と反応させることで推進力を生じるハイブリッドロケットである。
【0029】
ロケット2のフェアリング部26は、ロケットの先端に位置し、打ち上げ時の大気圏通過に伴う空気抵抗や熱から、ペイロードを保護する。フェアリング部26内にはペイロードとして衛星や貨物が安全に配置され、宇宙空間に到達した後、不要になるとフェアリング部26はロケットエンジン部27から分離される。この分離プロセスは、ペイロードが所定の軌道に達したことを確認した後に行われ、衛星や貨物の展開に必要な空間を提供する。
【0030】
第1段エンジン部28は、ロケットの打ち上げと初期上昇段階を担当する主要な推進部分であり、大量の推進力を提供することが求められる。この段には、後述するように、液体酸化剤と固体燃料が組み合わされ、ハイブリッドロケットエンジンが構成されている。ハイブリッドエンジンは、液体燃料エンジンの効率性と固体燃料エンジンの単純さを兼ね備えており、より安全で信頼性の高い運用が可能となる。
【0031】
第2段エンジン部29は、宇宙空間での推進とペイロードの正確な軌道投入を目的としている。この段では、より精密な制御が可能なエンジンが使用され、ペイロードを目的の軌道に正確に配置するために必要な微調整が行われる。第2段エンジン部29は、第1段エンジン部28と比較して軽量で効率的な設計がされている。この段もハイブリッドロケットエンジンの採用により、運用の柔軟性と効率性が向上している。
【0032】
なお、ロケット2は有人の宇宙船ではなく、純粋に貨物輸送を目的としている。したがって、ロケット2は、人間の乗組員を宇宙に運ぶための生命維持システムや乗組員の居住モジュールを持たず、衛星や科学機器などの無人ペイロードの輸送に特化している。これにより、ロケット2は、乗組員の安全性や快適性に関連する設計上の制約から解放され、ペイロード容量や打ち上げ効率を最適化することが可能となっている。また、ロケット2は、有人宇宙船に比べて設計と運用のコストが低減され、特に商業的な宇宙開発において優位性を持つ。
【0033】
図3に示すように、浮揚体1は、上空に上昇可能な、いわゆる気球である。本実施形態において浮揚体1は、ヘリウムや水素を浮揚ガスとした1つのガス気球である。しかし、浮揚体1は、熱気球、熱とガスのハイブリッド気球等であってもよく、複数の気球を含んでいてもよい。本実施形態において、浮揚体1は、成層圏である地表から高度30km程度まで無人で浮揚する。なお、浮揚体1がロケット2を発射する際の緯度および経度は打ち上げ条件(ペイロードや投入先)によって最適な場所を都度選択される。
【0034】
浮揚体1からロケット2を発射する際、高度30km程度の成層圏では、気温が概略-50度程度の低温で、気圧が概略10hPa(地表付近の1/100)、空気抵抗が概略1/20程度となる。このような条件でロケット2を発射することで、本実施形態に係るロケット2の推力は、地表から発射するロケットの推力と比較して1/3~1/2低減できる。これによりロケットエンジンシステムは、2/3のサイズにすることができる。
【0035】
ロケットエンジン部27は、液体酸化剤を固体燃料と反応させることで推進力を生じるハイブリッドロケットエンジンである。
【0036】
ハイブリッドロケットエンジンは、固体の燃料と液体の酸化剤というように相が異なるため、容易には混合及び燃焼が生じず、従来知られる固体燃料ロケットエンジン及び液体燃料ロケットエンジンより推進剤の管理が容易である。すなわち、燃料を固体で、酸化剤を液体で搭載しているので、燃料と酸化剤が自然に混じり合うことがなく、爆発の危険性は極めて低く、貯蔵及び輸送時の管理が容易であるという特徴を有する。
【0037】
図4に示すように、本実施形態に係るロケットエンジン部27は、液体酸化剤を収容する酸化剤収容室21と、固体燃料を保持し、液体酸化剤と作用させる燃焼室22と、液体酸化剤を燃焼室22に送るターボポンプ23と、固体燃料を着火するための従来よく知られる点火装置24と、液体酸化剤と固体燃料が燃焼することにより生じた燃焼ガスを噴出するノズル25とを備える。なお、図4には第1段エンジン28について図示しているが、第2段エンジン29についても同様の構成を有する。
【0038】
ターボポンプ23は、酸化剤収容室21の液体酸化剤を吸引、加圧し、高圧となる燃焼室22に供給する。本実施形態に係るターボポンプ23は、ポンプ内にて気液混相流の液相と気相を分離する構成を有する。これにより、例えば、ロケットが概略-50℃程度の低温で、気圧が概略10hPa程度の環境であったとしても、液体酸化剤と固体燃料との燃焼等の反応を円滑に行うことができる。
【0039】
ノズル25は、燃焼室22と接続しており、固体燃料及び液体酸化剤が混合及び燃焼することにより生じた高温及び高圧のガスを噴出することで、ロケット2の推力を得ることができる。
【0040】
液体酸化剤は、例えば、高い蒸気圧を有している亜酸化窒素(N2O)や、液体酸素、過酸化水素、ヒドロキシルアンモニウムナイトレート等の無毒なものを用いる。亜酸化窒素(N2O)は化学的に安定であり、また安価で調達も容易である。なお、酸化剤収容室21は、例えば、アルミニウムやステンレス等の耐腐食性を有する材料により形成されている。
【0041】
本実施形態において、固体燃料は、少なくとも120℃で溶融し流動性を有する低融点熱可塑性樹脂である。本実施形態に係る固体燃料は、パラフィンオイルを主成分とし、スチレン系エラストマー樹脂、キシレン樹脂、融解助材(脂肪酸)を含有する。なお、固体燃料は、37~620の弾性率(mN/mm^2)を有する。固体燃料は、燃焼後退速度が高く、溶融状態において低粘度であることが望ましい。また、固体燃料は、弾性や接着性が高いことが望ましい。なお、固体燃料は、円筒形に形成され燃焼室に収容されている。しかし、縦列多段衝突噴流型ハイブリットロケットに用いられるような他の形状であってもよい。
【0042】
ロケット2が発射される際には、ターボポンプ23で加圧された液体酸化剤が固体燃料を充填した燃焼室22に導入される。固体燃料は、自然には着火せず、点火装置24で熱を加えて着火する。着火された固体燃料の表面に火炎が形成される。燃焼室22において、固体燃料は、熱によって分解または溶融し、燃料気体を発生させ、導入された液体酸化剤も熱によって蒸発し、酸化性気体となる。
【0043】
気化した固体燃料と液体燃料が対流および拡散しつつ適度に混じり合ったところで、化学反応が起き拡散火炎を生じる。その後は、拡散火炎の熱によって新たに燃料と酸化剤の気化が促され、化学反応が継続的に起こり火炎を維持される。燃料表面に沿って酸化剤が流れ、固体表面で粘着するために形成される「境界層」内に拡散火炎ができるので、この現象は境界層燃焼と称される。
【0044】
一般的に、ロケット2の推進力は、エンジンの燃焼後退速度を主な要因として決定される。ハイブリットエンジンの燃焼後退速度は、固体燃料が気化する量と、燃料が気化温度にまで上昇するのに要する熱と、燃料物質の気化熱(潜熱)と、外部から加える熱量とによって定まる。ハイブリッドロケットのような境界層燃焼の場合は、拡散火炎と固体燃料の距離が数mm程度となる。
【0045】
固体燃料ロケットや液体燃料ロケットでは、火炎と固体燃料との距離が数μmであり、ハイブリットロケットは、固体燃料ロケットや液体燃料ロケットに比較すると、燃料へ伝達される熱量が小さくなってしまい、燃料の溶融およびガス化がしにくくなり、ひいては推力が低くなる。
【0046】
本発明に係るハイブリットロケット発射システムSでは、固体燃料ロケットや液体燃料ロケットに比較してハイブリットロケットの推力が低い。しかし、浮揚体1により成層圏まで浮上した状態で発射されるため、地表と比較して気圧が概略10hPa(地表付近の1/100)、空気抵抗が概略1/20程度と低くなる。これにより、固体燃料ロケットや液体燃料ロケットが地表からペイロードを宇宙空間の軌道まで運ぶ場合と比較して、ハイブリッドロケットであるロケット2は、推力が低くても、成層圏から発射することにより同じ重量のペイロードを同じ軌道まで運ぶことができる。
【0047】
図5に示すように、本発明の実施形態に係るロケット発射システムにおいて、5kNのハイブリッドロケットを発射した場合を想定したシミュレーションをすると、地上発射(高度0km)の場合は、到達高度が26.4kmであったのに対して、空中発射(高度30km)の場合は、到達高度が107.08kmと宇宙空間へ到達できる結果となった。
【0048】
姿勢制御装置3は、浮揚体1に支持されたロケット2の姿勢を制御する。例えば、姿勢制御装置3は、浮揚体1の下部にワイヤ等で吊り下げられる吊下体31(図3を参照)と、吊下体31の下端に連結された筐体32と、筐体32の内側に設けられたジンバル(図示しない)と、ジンバルに支持されるフライホイール(図示しない)とを備える。フライホイールは、スピンドルモータを有し、スピンドルモータの動力によって自転する。ジンバルは、駆動装置を有し、その駆動装置の動力を利用して1軸、2軸又は3軸の自由度で自転中のフライホイールの回転軸を傾動させる。
【0049】
また、姿勢制御装置3は、制御ユニット、位置検出部、高度検出部、姿勢検出部、温度検出部、風速検出部、風向検出部、出力検出部および無線通信機を備える。
【0050】
位置検出部は例えば慣性航法装置又は衛星航法装置であってもよい。位置検出部は、浮揚体1の緯度及び経度を検出して、検出緯度及び検出経度を制御ユニットに出力する。高度検出部は例えば気圧高度計又は電波高度計である。高度検出部は、浮揚体1の高度を検出して、検出高度を制御ユニットに出力する。なお、位置検出部が高度を検出するものとしてもよい。
【0051】
姿勢検出部は例えばジャイロセンサである。姿勢検出部は、姿勢制御装置3の向きおよび姿勢、ひいてはロケット2の向きおよび姿勢を検出して、検出向きおよび姿勢を制御ユニットに出力する。温度検出部は例えば熱電対又はサーミスタである。温度検出部は、浮揚体1および姿勢制御装置3の周囲の気温を検出して、検出気温を制御ユニットに出力する。
【0052】
風速検出部は、浮揚体1および姿勢制御装置3の周囲の風速を検出して、検出風速を制御ユニットに出力する。風向検出部は、浮揚体1および姿勢制御装置3の周囲の風向を検出して、検出風向を制御ユニットに出力する。出力検出部は、ロケット2のエンジンの出力を検出して、検出出力を制御ユニットに出力する。無線通信機は、地上の管制器機と無線通信を行う。
【0053】
制御ユニットは、位置検出部、高度検出部、姿勢検出部、温度検出部、風速検出部、風向検出部および出力検出部のそれぞれの検出値を監視する。さらに、制御ユニットは、位置検出部、高度検出部、姿勢検出部、温度検出部、風速検出部、風向検出部及び出力検出部のそれぞれの検出値を無線通信機に転送して、地上の管制器機への検出値の送信を無線通信機に行わせる。また、地上の管制器機から送信された操作信号が無線通信機に受信されると、その操作信号が無線通信機から制御ユニットに転送され、制御ユニットがその操作信号に従って姿勢制御装置3、ロケット2ホルダおよびロケット2を制御する。
【0054】
ロケット2は概略円筒形状のペンシル形である形態について説明した。しかし、成層圏から発射するロケットは、円筒形状に限らず、玉ねぎ形、キノコ形のような他の形状であってもよい。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ロケットの発射に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
S ロケット発射システム
1 浮揚体
2 ロケット
3 ロケット発射装置
21 液体酸化材収容室
22 燃焼室
23 ターボポンプ
24 点火装置
25 ノズル
26 フェアリング部
27 ロケットエンジン部
28 第1段エンジン
29 第2段エンジン
31 吊下体
32 筐体

図1
図2
図3
図4
図5