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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098523
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/06 20060101AFI20240717BHJP
   F02M 61/20 20060101ALI20240717BHJP
   F02M 61/16 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F02M51/06 K
F02M51/06 J
F02M61/20 Z
F02M61/16 L
F02M61/16 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002053
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉井 泰介
(72)【発明者】
【氏名】向井 寛
(72)【発明者】
【氏名】宮本 明靖
(72)【発明者】
【氏名】米谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三宅 威生
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 真士
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066BA49
3G066CC03
3G066CC14
3G066CC51
3G066CC56
(57)【要約】
【課題】閉弁時におけるアンカーのアンダーシュートを抑制し、燃料の噴射量のばらつきの増大や、アンカーやスペーサの摩耗や変形を抑制することができる燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射装置は、ノズルホルダと、固定コア101と、アンカー110と、弁部材と、を備えている。弁部材は、弁体113と、スペーサ125と、第1低圧部201と、第2低圧部202と、狭小流路203と、を有している。弁体113は、軸部113a及び開弁動作時にアンカー110と係合する係合部128が設けられている。第1低圧部201は、係合部128とスペーサ125により形成される。第2低圧部202は、係合部128の下端面128bとアンカー110により形成される。狭小流路203は、第1低圧部201と第2低圧部202を連通する。そして、第1低圧部201は、狭小流路203を介して第2低圧部202よりも上流側に配置される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射孔形成部材が設けられたノズルホルダと、
前記ノズルホルダに配置された固定コアと、
前記固定コアと対向して配置されるアンカーと、
前記ノズルホルダに移動可能に配置された弁部材と、を備え、
前記弁部材は、
前記噴射孔形成部材に設けた噴射孔を開閉する軸部及び開弁動作時に前記アンカーと係合する係合部が設けられた弁体と、
前記係合部が収容される収容部を有し、閉弁時に前記係合部と前記アンカーとの間に所定の間隙を形成するスペーサと、
前記係合部と前記スペーサにより形成された第1低圧部と、
前記係合部の下端面と前記アンカーにより形成された第2低圧部と、
前記第1低圧部と前記第2低圧部を連通する狭小流路と、を有し、
前記第1低圧部は、前記狭小流路を介して前記第2低圧部よりも上流側に配置される
燃料噴射装置。
【請求項2】
前記スペーサにおける前記アンカーと当接する下端面の角部は、前記スペーサの下端面と前記アンカーとの間を通過する流体の入口損失及び/又は出口損失を増加させる形状に形成されている
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記スペーサの下端面の角部は、C面取りが施された面取り部が形成されている
請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記スペーサの下端面の角部は、直角断面形状に形成されている
請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記スペーサの下端面の角部には、前記スペーサの半径方向の外側に向けて突出する突起部が設けられている
請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記アンカーには、前記係合部の一部が挿入される凹部が形成され、
前記第2低圧部は、前記係合部の下端面と前記凹部により形成される
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記スペーサの下端面と前記アンカーとの隙間は、前記狭小流路を介して、前記第2低圧部と接続される
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
噴射孔形成部材が設けられたノズルホルダと、
前記ノズルホルダに配置された固定コアと、
前記固定コアと対向して配置されるアンカーと、
前記ノズルホルダに移動可能に配置された弁部材と、を備え、
前記弁部材は、
前記噴射孔形成部材に設けた噴射孔を開閉する軸部及び開弁動作時に前記アンカーと係合する係合部が設けられた弁体と、
前記係合部が収容される収容部を有し、閉弁時に前記係合部と前記アンカーとの間に所定の間隙を形成するスペーサと、を有し、
前記スペーサにおける前記アンカーと当接する下端面の角部は、前記スペーサの下端面と前記アンカーとの間を通過する流体の入口損失及び/又は出口損失を増加させる形状に形成されている
燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関として、燃料噴射装置によりシリンダ内に燃料を直接噴射する筒内噴射型の内燃機関が用いられている。従来の燃料噴射装置に関する技術としては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがある。
【0003】
特許文献1には、弁体と弁体の先端側において燃料を噴射する複数の噴射孔が形成された噴射孔形成部を備えた燃料噴射装置に関する技術が記載されている。そして、特許文献1には、弁体が、閉弁時にアンカーと当接している第2の弁体と、開弁途中でアンカーと当接する第1の弁体からなることが記載されている。特許文献1に記載された技術では、開弁時には第2の弁体が固定コアの内周に配置されたストロークストッパと当接し、開弁時も固定コアとアンカーが直接当接することなくギャップが確保されるよう第2の弁体と第2の弁体の長さを規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-227958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、閉弁時にアンカーには、閉弁方向、すなわち弁体の先端方向に向かう慣性力が作用する。そして、特許文献1に記載された技術では、閉弁時にアンカーが基準位置を超えて弁体の先端方向に移動する、いわゆるアンダーシュートが発生するおそれがある。このアンカーのアンダーシュート量が大きくなると、アンカーが基準位置に戻るまでに時間がかかり、燃料の噴射間隔や噴射量のばらつきが増大する、という問題を有していた。また、アンカーがアンダーシュートを経て第2の弁体に大きな速度をもって衝突することにより、第2の弁体やアンカーに摩耗や変形が生じる可能性も有していた。
【0006】
本目的は、上記の問題点を考慮し、閉弁時におけるアンカーのアンダーシュートを抑制し、燃料の噴射量のばらつきの増大や、アンカーやスペーサの摩耗や変形を抑制することができる燃料噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するため、燃料噴射装置は、ノズルホルダと、固定コアと、アンカーと、弁部材と、を備えている。ノズルホルダには、噴射孔形成部材が設けられている。固定コアは、ノズルホルダに配置される。アンカーは、固定コアと対向して配置される。弁部材は、ノズルホルダに移動可能に配置される。
弁部材は、弁体と、スペーサと、第1低圧部と、第2低圧部と、狭小流路と、を有している。弁体は、噴射孔形成部材に設けた噴射孔を開閉する軸部及び開弁動作時にアンカーと係合する係合部が設けられている。スペーサは、係合部が収容される収容部を有し、閉弁時に係合部とアンカーとの間に所定の間隙を形成する。第1低圧部は、係合部とスペーサにより形成される。第2低圧部は、係合部の下端面とアンカーにより形成される。狭小流路は、第1低圧部と第2低圧部を連通する。そして、第1低圧部は、狭小流路を介して第2低圧部よりも上流側に配置される。
【0008】
また、他の燃料噴射装置は、ノズルホルダと、固定コアと、アンカーと、弁部材と、を備えている。ノズルホルダには、噴射孔形成部材が設けられている。固定コアは、ノズルホルダに配置される。アンカーは、固定コアと対向して配置される。弁部材は、ノズルホルダに移動可能に配置される。
弁部材は、弁体と、スペーサと、を有している。弁体は、噴射孔形成部材に設けた噴射孔を開閉する軸部及び開弁動作時にアンカーと係合する係合部が設けられている。スペーサは、係合部が収容される収容部を有し、閉弁時に係合部とアンカーとの間に所定の間隙を形成する。スペーサにおけるアンカーと当接する下端面の角部は、スペーサの下端面とアンカーとの間を通過する流体の入口損失及び/又は出口損失を増加させる形状に形成されている。
【発明の効果】
【0009】
上記構成の燃料噴射装置によれば、閉弁時におけるアンカーのアンダーシュートを抑制し、燃料の噴射量のばらつきの増大や、アンカーやスペーサの摩耗や変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置を示す断面図である。
図2】第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置における弁体の係合部からロッドヘッドまでを拡大して示す断面図である。
図3】第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置における開弁が開始した際の弁体の係合部からロッドヘッドまでを拡大して示す断面図である。
図4】第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置における開弁動作が終了した際の弁体の係合部からロッドヘッドまでを拡大して示す断面図である。
図5】第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置における燃料の噴射が停止された後、アンカーがアンダーシュートした際の弁体の係合部からロッドヘッドまでを拡大して示す断面図である。
図6】第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置における燃料の噴射が停止された後、アンカーがアンダーシュートした際のスペーサ周りを拡大して示す断面図である。
図7】従来の燃料噴射装置における弁体の係合部からロッドヘッドまでを拡大して示す断面図である。
図8】従来の燃料噴射装置における燃料の噴射が停止された後、アンカーがアンダーシュートした際のスペーサ周りを拡大して示す断面図である。
図9】第2の実施の形態例にかかる燃料噴射装置におけるスペーサ周りを拡大して示す断面図である
図10】第3の実施の形態例にかかる燃料噴射装置におけるスペーサ周りを拡大して示す断面図である。
図11】第4の実施の形態例にかかる燃料噴射装置におけるスペーサ周りを拡大し示す断面図である。
図12】第5の実施の形態例にかかる燃料噴射装置におけるスペーサ周りを拡大して示す断面図である。
図13】スペーサにおける下端部の角部の形状の違いによるアンダーシュート時にアンカーに作用する流体力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、燃料噴射装置の実施の形態例について、図1図13を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0012】
1.第1の実施の形態例
1-1.燃料噴射装置の構成
まず、第1の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる燃料噴射装置の構成について図1を参照して説明する。
図1は、燃料噴射装置を示す断面図である。
【0013】
図1に示す燃料噴射装置は、内燃機関として、吸気行程、圧縮行程、燃焼(膨張)行程、排気行程の4行程を繰り返す4サイクルエンジンに用いられるものである。また、燃料噴射装置は、各気筒のシリンダの中に燃料を噴射する筒内噴射型の内燃機関に適用されるものである。
【0014】
図1に示すように、燃料噴射装置1は、固定コア(磁気コア)101と、ノズルホルダ102と、噴射孔形成部材103と、弁部材104と、電磁コイル108と、ハウジング109と、アンカー(可動コア)110と、接続部135と、を備えている。また、燃料噴射装置1は、第1スプリング118と、第2スプリング124と、第3スプリング126とを備えている。
【0015】
[ノズルホルダ]
ノズルホルダ102は、筒状に形成されている。ノズルホルダ102の中心軸線AX1に沿う軸線方向Da(以下、単に「軸線方向Da」という)の一端部である先端部には、噴射孔形成部材103が挿入又は圧入により取り付けられている。この噴射孔形成部材103には、燃料を噴射する噴射孔112が形成されている。
【0016】
また、噴射孔形成部材103には、後述する弁部材104の弁体113の先端部が離接する弁座103aが形成されている、噴射孔形成部材103は、弁体113が弁座103aに着座することで燃料を封止する。また、弁体113は、弁座103aに当接することで燃料をシールし、弁座103aから離反することで燃料の通過を許可する。
【0017】
ノズルホルダ102の先端部には、ガイド部材105が圧入または塑性結合により固定されている。ガイド部材105は、弁部材104における弁体113の外周面を支持し、弁体113の移動をガイドする。
【0018】
ノズルホルダ102の軸線方向Daの他端部である後端部には、先端部よりも外径が大きい大径部102aが形成されている。この大径部102aには、内部空間102bが形成されている。この内部空間102bは、ノズルホルダ102の軸線方向Daに沿って形成された連通孔102cによって先端部に連通している。
【0019】
内部空間102bは、大径部102aの後端側が開口し、軸線方向Daの先端側に向けて凹んだ有底の凹部である。内部空間102bには、後述するアンカー110と、固定コア101の一部が配置される。内部空間102bにおける底部の中央部には、第2スプリング124の一端部が収容される。
【0020】
[弁部材]
このノズルホルダ102の内部には、弁部材104が軸線方向Daに沿って移動可能に配置されている。弁部材104は、弁体113と、スペーサ125と、第3スプリング126と、ロッドヘッド127とを備えている。弁体113は、円柱状をなす棒状の部材により構成されている。弁体113は、後述するアンカー110の挿通孔110c(図2参照)を挿通し、ノズルホルダ102の連通孔102c内に配置されている。そして、弁体113の軸線方向Daの先端部は、噴射孔形成部材103の弁座103aに離反可能に当接し、噴射孔形成部材103に設けた噴射孔112を開閉する。
【0021】
また、弁体113の軸線方向Daの後端部には、接続凹部113b(図2参照)が形成されている。この接続凹部113bには、ロッドヘッド127の接続凸部127a(図2参照)が嵌入されている。これにより、弁体113の後端部にロッドヘッド127が接続される。
【0022】
ロッドヘッド127は、略円板状に形成され、後述する固定コア101の貫通孔101aを摺動する。このロッドヘッド127には、第1スプリング118の軸線方向Daの先端部が当接する。ロッドヘッド127と弁体113の間には、第3スプリング126とスペーサ125が配置されている。
【0023】
スペーサ125は、後述するアンカー110の上端面110a(図2参照)に当接している。第3スプリング126は、軸線方向Daの先端部がスペーサ125に当接し、軸線方向Daの後端部がロッドヘッド127に当接している。すなわち、第3スプリング126は、ロッドヘッド127とスペーサ125の間に介在され、スペーサ125をアンカー110に向けて付勢している。
【0024】
なお、弁体113、スペーサ125及び第3スプリング126の詳細な構成については、後述する。
【0025】
[アンカー]
次に、アンカー110について説明する。アンカー110は、ノズルホルダ102の内部空間102bにおいて、弁部材104のスペーサ125と内部空間102bの底部との間に配置されている。また、アンカー110の外周面と内部空間102bの内周面との間には、微小な間隙が形成されている。そのため、アンカー110は、内部空間102b内において軸線方向Daに沿って移動可能に配置される。
【0026】
アンカー110は、円筒状に形成されている。アンカー110には、挿通孔110c(図2参照)と、偏心貫通孔110dが形成されている。挿通孔110c及び偏心貫通孔110dは、アンカー110における軸線方向Daの先端部から後端部にかけて貫通するガイド孔である。挿通孔110cは、アンカー110の中心軸上に形成されている。そして、挿通孔110cには、弁部材104の弁体113が挿通している。
【0027】
偏心貫通孔110dは、アンカー110の中心軸から偏心した位置に形成されている。偏心貫通孔110dは、固定コア101の貫通孔101aによって形成された流路に連通している。そして、偏心貫通孔110dは、燃料が通過する流路を形成する。
【0028】
アンカー110における軸線方向Daの先端側の端面には、第2スプリング124の後端部が当接している。そのため、第2スプリング124は、アンカー110とノズルホルダ102の内部空間102bの間に介在される。また、アンカー110における軸線方向Daの後端側には、固定コア101が配置されている。
【0029】
また、アンカー110の挿通孔110cにおける上端面110aには、凹部110bが形成されている。凹部110bは、挿通孔110cと同心円上に形成されている。そして、凹部110bは、上端面110aから軸線方向Daの先端側に向けて凹んできる。この凹部110bには、後述する弁体113の係合部128の一部が挿入される。また、アンカー110の上端面110aと、凹部110bの内周面である凹部内周面110fによって形成される角部には、面取り部110gが設けられている(図6参照)。
【0030】
[固定コア]
次に、固定コア101は、アンカー110を磁気吸引力によって吸引する部材である。固定コア101は、外周面に凹凸を有する略円筒状に形成されている。固定コア101における軸線方向Daの先端部は、ノズルホルダ102の大径部102aの内側、すなわち内部空間102b内に圧入されている。そして、ノズルホルダ102と固定コア101は、溶接により接合される。それにより、ノズルホルダ102と固定コア101との間の間隙が密閉され、ノズルホルダ102の内部の空間が密閉される。
【0031】
また、固定コア101の先端部101bは、内部空間102bに配置されたアンカー110における軸線方向Daの他端側の端面(上端面110a)と対向する。なお、固定コア101における軸線方向Daの後端部側は、ノズルホルダ102の内部空間102bから軸線方向Daの後端に向けて突出している。
【0032】
固定コア101には、貫通孔101aが形成されている。貫通孔101aは、中心軸線AX1と同軸上に形成されている。そして、貫通孔101aは、燃料が通過する流路を形成する。また、固定コア101における軸線方向Daの後端部には、貫通孔101aに連通する燃料供給口111が形成されている。この燃料供給口111から貫通孔101aに向けて燃料が導入される。
【0033】
さらに、貫通孔101aにおける軸線方向Daの先端部側には、第1スプリング118及び調整部材119が配置されている。第1スプリング118は、調整部材119よりも貫通孔101aの先端部側に配置されている。調整部材119は、貫通孔101aに圧入されて、固定コア101の内部に固定されている。また、貫通孔101aには、弁部材104のロッドヘッド127、第3スプリング126及びスペーサ125が挿入される。
【0034】
第1スプリング118は、調整部材119と弁部材104のロッドヘッド127の間に介在される。そして、第1スプリング118は、弁部材104をノズルホルダ102の先端部に向けて軸線方向Daに付勢している。
【0035】
また、調整部材119における固定コア101に対する固定位置を調整することで、第1スプリング118における弁部材104の付勢力を調整することができる。これにより、弁部材104における弁体113の先端部がノズルホルダ102の噴射孔形成部材103に設けた弁座103aに押し付ける初期荷重を調整することができる。
【0036】
ここで、第1スプリング118が弁部材104をノズルホルダ102の先端部に向けて付勢する付勢力は、第2スプリング124がアンカー110を固定コア101に向けて付勢する付勢力よりも大きく設定されている。
【0037】
[コイル]
次に、電磁コイル108について説明する。電磁コイル108は、円筒状のコイルボビンに巻回されている。そして、電磁コイル108は、コイルボビンに巻回されて、ノズルホルダ102における大径部102aの外周面の一部及び固定コア101の先端部の外周面の一部を覆うようにして配置される。電磁コイル108の巻き始めと巻き終わりの端部は、不図示の配線を介して後述する接続部135のコネクタ136の電力供給用の端子に接続されている。電磁コイル108の外周には、ハウジング109が固定されている。
【0038】
[ハウジング]
ハウジング109は、有底の円筒状に形成されている。ハウジング109における軸線方向Daの先端部である底部には、ガイド孔が形成されている。ガイド孔は、底部の中央部に形成されている。このガイド孔には、ノズルホルダ102が挿入される。そして、ガイド孔の開口縁とノズルホルダ102の外周面との間は、例えば、全周にわたって溶接されている。これにより、ノズルホルダ102は、ハウジング109に固定される。
【0039】
また、ハウジング109は、固定コア101の先端部側、コイルボビン及び電磁コイル108の外周を囲むようにして配置される。そして、ハウジング109の内周面は、ノズルホルダ102及び電磁コイル108と対向し、外周ヨーク部を形成する。このように、電磁コイル108の周りには、固定コア101、アンカー110、ノズルホルダ102及びハウジング109を含む磁気回路が形成されている。
【0040】
[接続部]
接続部135は、樹脂により形成されている。そして、接続部135は、固定コア101及びハウジング109との間に充填される。また、接続部135は、ハウジング109よりも軸線方向Daの後端側において、固定コア101の後端部を除く外周面を覆う。そして、接続部135は、電力供給用の端子を有するコネクタ136を形成するようにモールド成形されている。端子は、不図示のプラグの接続端子に接続される。これにより、燃料噴射装置1は、高電圧電源又はバッテリ電源に接続される。そして、不図示のエンジンコントロールユニット(ECU)によって電磁コイル108に対する通電が制御される。
【0041】
1-2.弁部材の詳細な構成
次に、弁部材104を構成する弁体113、スペーサ125及び第3スプリング126の詳細な構成について図2及び図3を参照して説明する。
図2は、燃料噴射装置1における弁体113の係合部128からロッドヘッド127までを拡大して示す断面図、図3は、開弁が開始した際の弁体113の係合部128からロッドヘッド127までを拡大して示す図である。なお、図2では、閉弁状態を示す。
【0042】
図2に示すように、弁体113は、アンカー110の挿通孔110cを挿通する軸部113aと、アンカー110に係合する係合部128と、軸部を示す摺動軸部129と、を有している。
【0043】
係合部128は、軸部113aよりも軸線方向Daの後端部側に形成されている。係合部128の直径は、軸部113aの直径及び挿通孔110cの内径よりも大きく形成されている。そして、係合部128は、軸部113aの外周面から半径方向の外側に向けて張り出している。この係合部128、軸部113a及び摺動軸部129は、切削加工により一体に形成される。
【0044】
係合部128には、上端面128aと、下端面128bと、第1面取り部128cと、第2面取り部128dと、円筒部128eと、を有している。係合部128の一部は、アンカー110に形成した凹部110b内に挿入される。上端面128aは、係合部128における軸線方向Daの後端部側に形成され、下端面128bは、係合部128における軸線方向Daの先端部側に形成される。上端面128aは、後述するスペーサ125の当接部16cに当接する。
【0045】
そして、下端面128bは、アンカー110に形成した凹部110bの凹部底面110eと対向する。円筒部128eは、軸線方向Daに沿って係合部128の側面に形成されている。また、円筒部128eは、アンカー110の凹部110bの凹部内周面110fとの間に狭小隙間(狭小流路)203を形成する。この狭小隙間203におけるアンカー110の変位方向、すなわち軸線方向Daの長さは、長さG10に形成されている。開弁動作時において、下端面128bは、アンカー110の凹部底面110eと当接する。
【0046】
第1面取り部128cは、円筒部128eと上端面128aが接続する角部に形成され、第2面取り部128dは、円筒部128eと下端面128bが接続する角部に形成されている。そして、円筒部128eは、第1面取り部128cと第2面取り部128dの間に形成される。
【0047】
閉弁状態においては、係合部128の下端面128bと、凹部底面110eの間には、間隙G2が設けられる。そして、開弁時に、すなわちアンカー110と弁体113の位置が変位する際に、凹部底面110eに係合部128の下端面128bが当接し、アンカー110と係合部128が係合する(図3及び図4参照)。これにより、弁体113は、アンカー110とともに軸線方向Daの後端部側、すなわち開弁方向へ移動する。ここで、軸部113a、係合部128、アンカー110の凹部底面110e、凹部内周面110fの一部によって形成され、かつ概ね下端面128bよりも軸線方向Daの先端部側の領域を、第2低圧部202と称す。
【0048】
摺動軸部129は、係合部128よりも軸線方向Daの後端部側に形成されている。摺動軸部129は、係合部128から軸線方向Daの後端に向けて突出している。また、摺動軸部129の直径は、係合部128の直径よりも小さく形成されている。摺動軸部129における軸線方向Daの後端面には、接続凹部113bが形成されている。上述したように、この接続凹部113bには、ロッドヘッド127の接続凸部127aが嵌入される。
【0049】
弁体113の係合部128及び摺動軸部129の周囲を囲むようにして、スペーサ125が配置されている。図2に示すように、スペーサ125は、略円筒状に形成されている。スペーサ125は、大径部11と、ガイド部となる小径部12とを有している。大径部11と、小径部12は、同心円上に形成されており、大径部11は、小径部12よりも軸線方向Daの先端側に形成されている。そして、大径部11の直径は、小径部12の直径よりも大きく形成されている。
【0050】
また、スペーサ125における大径部11と小径部12が接続する箇所には、段差面13が形成されている。段差面13は、小径部12の外周面から半径方向の外側に向けて略垂直に張り出している。この段差面13には、第3スプリング126における軸線方向Daの先端部側が当接する。そして、第3スプリング126は、スペーサ125をアンカー110に向けて付勢する。そのため、スペーサ125の軸線方向Daの先端部側の端面である下端面14は、アンカー110の上端面110aに当接する。
【0051】
また、下端面14には、第1面取り部125aと、第2面取り部125bが形成されている(図6参照)。第1面取り部125aは、スペーサ125の下端面14における半径方向の外側の角部に形成されている。第2面取り部125bは、スペーサ125の下端面における半径方向の内側の角部に形成されている。また、第1面取り部125a及び第2面取り部125bは、角部を斜め45度に落とした加工である、いわゆるC面取りが施されている。
【0052】
なお、本例では、第3スプリング126を設けた例を説明したが、これに限定されるものではなく、第3スプリング126を設けなくてもよい。
【0053】
大径部11には、収容部16が形成されている。収容部16は、スペーサ125の下端面14から段差面13に向けて凹んだ凹部である。収容部16には、弁体113の係合部128の一部が収容される。
【0054】
収容部16の内径は、弁体113の係合部128の直径よりも大きく設定されている。そのため、係合部128の半径方向の外側の外周面と収容部16の内壁面16aの間には、間隙が形成される。
【0055】
また、スペーサ125が第3スプリング126によってアンカー110に向けて付勢されることで、係合部128の上端面128aと、収容部16の上端面である当接部16cが当接する。ここで、本例において、係合部128及び収容部16によって形成され、かつ概ね上端面110aよりも軸線方向Daの後端部側の領域を、第1低圧部201と称す。第1低圧部201と第2低圧部202は、狭小流路である狭小隙間203によって連通される。そして、第1低圧部201は、狭小隙間203を介して第2低圧部よりも上流側に形成される。
【0056】
小径部12には、小径部側貫通孔を示すガイド孔18が形成されている。ガイド孔18は、スペーサ125の軸線方向Daの後端部側の端面である上端面15から収容部16にかけて貫通している。そして、ガイド孔18は、収容部16に連通している。このガイド孔18には、弁体113の摺動軸部129が挿入される。そして、ガイド孔18の内径は、摺動軸部129の直径よりも大きく設定されている。そして、ガイド孔18の内壁面19は、摺動軸部129を摺動可能に支持する摺動面となる。
【0057】
ここで、アンカー110は、第2スプリング124の付勢力により固定コア101側に向けて付勢されている。そのため、アンカー110の上端面110aは、スペーサ125の下端面14に当接する。なお、第2スプリング124の付勢力は、第3スプリング126の付勢力よりも小さく設定されている。そのため、アンカー110は、スペーサ125を介して第3スプリング126により軸線方向Daの先端側に向けて付勢される。これにより、アンカー110における軸線方向Daの後端側への移動、すなわち開弁方向への移動は、スペーサ125と第3スプリング126により規制される。
【0058】
また、閉弁状態において、収容部16の当接部16cが弁体113の係合部128の上端面128aに当接することで、スペーサ125は、所定の位置(基準位置)に配置される。スペーサ125が基準位置に配置された状態で、スペーサ125の下端面14がアンカー110の上端面110aに当接する。これにより、係合部128の下端面128bとアンカー110の凹部底面110eとの間に、間隙G2、いわゆる予備ストロークを設けることができる。すなわち、スペーサ125は、アンカー110と弁体113の係合部128との間に、予備ストロークとなる所定の間隙G2を形成する。
【0059】
また、弁体113が閉弁した状態において、間隙G2と間隙G1を足した長さ(G1+G2)が、固定コア101の先端部101bとアンカー110の上端面110aとの間隙、いわゆる磁気吸引ギャップとなる。
【0060】
1-3.燃料噴射装置の動作例
次に、上述した構成を有する燃料噴射装置1の動作例について図2から図6を参照して説明する。
図3は、開弁が開始した際の弁体113の係合部128からロッドヘッド127までを示す断面図、図4は、開弁動作が終了した際の弁体113の係合部128からロッドヘッド127までを示す断面図である。
【0061】
ECUによって電磁コイル108に通電されると、固定コア101、アンカー110、ノズルホルダ102及びハウジング109によって形成される磁気回路に磁束が流れる。そして、固定コア101には、アンカー110を吸引する磁気吸引力が発生する。固定コア101の磁気吸引力が、第3スプリング126の付勢力を超えると、アンカー110は、スペーサ125を押圧し、固定コア101に向けて移動する。そのため、アンカー110とスペーサ125は、ともに軸線方向Daの後端側に向けて移動する。この間、弁体113の先端部は、噴射孔形成部材103の弁座103aに当接している。
【0062】
アンカー110が軸線方向Daの後端側に移動することで、図3に示すように、アンカー110の凹部底面110eは、弁体113の係合部128の下端面128bに係合する。そのため、凹部底面110eと係合部128の下端面128bとの間隙G2は、ゼロとなる。
【0063】
また、アンカー110が軸線方向Daの後端側に移動した分だけ、アンカー110と固定コア101との間隙(磁気吸引ギャップ)の大きさが減少し、図3に示す例では、磁気吸引ギャップは、長さG1となる。さらに、スペーサ125も軸線方向Daの後端側に移動するため、収容部16の当接部16cと係合部128の上端面128aには、間隙G3が発生する。
【0064】
また、図2に示す開弁動作を開始する直前では、アンカー110と係合部128との間には、間隙G2が空いている。そのため、アンカー110は、間隙G2を移動した後に、係合部128に当接する。これにより、アンカー110は、係合部128に当接するまでの間、すなわち間隙G2を移動する間に、加速する。その結果、アンカー110が加速した状態で、アンカー110を係合部128に当接させることができる。
【0065】
このように、アンカー110から係合部128を介して弁体113に加える力を上昇させることができ、弁体113を軸線方向Daの後端側に向かう移動を速やかに開始させることができる。その結果、弁体113における開弁動作を速やかに開始することができる。
【0066】
ここで、本例において、開弁動作は、図2に示す閉弁状態からアンカー110及びスペーサ125が動き出し、図4に示す状態(フルリフト)に至るまでの一連の動作のことを示す。したがって、開弁動作開始とは、アンカー110及びスペーサ125が動き出す動作が開始されることをさす。また、開弁あるいは開弁状態とは、実際に弁体113が軸線方向Daの後端側に移動し、弁体113の先端部が、噴射孔形成部材103の弁座103aから離反し、噴射孔112が開放される状態のことをさす。したがって、開弁開始とは、弁体113の先端部が弁座103aから離反し始めることをさす。
【0067】
図4に示すように、アンカー110、スペーサ125及び弁体113がさらに軸線方向Daの後端側に移動すると、弁体113の先端部は、噴射孔形成部材103の弁座103aから離反し、噴射孔112が開放される開弁状態となる。これにより、噴射孔112から燃料が噴射される。
【0068】
また、アンカー110の上端面110aが固定コア101の先端部101bに当接することで、アンカー110における軸線方向Daの後端側に向かう移動が規制される。なお、弁体113は、慣性力で軸線方向Daの後端側へ移動するが、第1スプリング118の付勢力により押し戻される。そのため、弁体113は、図4に示すように、係合部128の下端面128bがアンカー110の凹部底面110eに当接した状態で静止する。これにより、弁体113が所定のストローク量(図2に示す間隙G1)だけ移動した開弁静止状態となる。
【0069】
開弁静止状態では、アンカー110が磁気吸引力により固定コア101に吸引され、弁部材104が第1スプリング118の付勢力により閉弁方向に付勢されている。そのため、アンカー110と弁体113は、互いに当接し、一体となっている。すなわち、弁体113の係合部128の下端面128bがアンカー110の凹部底面110eに当接し、間隙G2の大きさはゼロとなる。
【0070】
さらに、第3スプリング126の付勢力は、磁気吸引力よりも小さいため、第3スプリング126は、スペーサ125を介してアンカー110を軸線方向Daの先端側に押し戻すことはできない。そのため、スペーサ125の下端面14は、アンカー110の上端面110aに当接し、係合部128の上端面128aとスペーサ125の収容部16の当接部16cとの間隙G3は、維持される。さらに、アンカー110は、固定コア101と当接しているため、アンカー110の上端面110aと固定コア101の先端部101bとの間隙G1の大きさはゼロとなる。
【0071】
図4に示す開弁した状態(フルリフト状態)において駆動パルスをOFFにすると、電磁コイル108への通電が遮断される。そのため、アンカー110と固定コア101との間に生じる磁気吸引力が消失する。そして、磁気吸引力が第1スプリング118の付勢力よりも小さくなると、弁部材104は、軸線方向Daの先端側、すなわち閉弁方向への移動を開始する。閉弁方向へ移動を開始した弁部材104は、アンカー110と一体になって変位し、長さG1だけ変位した後、弁体113の先端部が弁座103aに着座する。これにより、図2に示す閉弁状態に戻り、燃料噴射装置1による燃料の噴射が停止される。
【0072】
なお、燃料の噴射が停止された後も、アンカー110は、軸線方向Daの先端側に向かう慣性力を有している。そのため、アンカー110は、図2に示す基準位置を超えて軸線方向Daの先端側に移動(いわゆる、アンダーシュート)する。
【0073】
図5は、燃料の噴射が停止された後、アンカー110がアンダーシュートした際の弁体113の係合部128からロッドヘッド127までを拡大して示す断面図である。また、図6は、燃料の噴射が停止された後、アンカー110がアンダーシュートした際のスペーサ125周りを拡大して示す断面図である。
【0074】
図5に示すように、アンカー110のアンダーシュートによって、スペーサ125の下端面14とアンカー110の上端面110aとの間には、間隙G4が発生する。したがって、係合部128の下端面128bと、アンカー110の凹部底面110eの間には、予備ストローク量である間隙G2と、アンダーシュート量である間隙G4を足した長さ(G2+G4)の間隙が形成される。
【0075】
図6に示すように、アンカー110がアンダーシュートすることにより、第1低圧部201と第2低圧部202の体積が膨張する。そのため、第1低圧部201及び第2低圧部202の内部の圧力は、低下する。また、スペーサ125の下端面14とアンカー110の上端面110aの間には、隙間200が形成される。この隙間200は、狭小隙間203を介して第2低圧部202と接続される。
【0076】
それに伴い、スペーサ125の周りの外部の燃料(流体)は、隙間200を通って、図中矢印Aに示す方向に流れ込む。そのため、第1低圧部201に燃料が流れ込む。また、第1低圧部201に流れ込んだ燃料は、狭小隙間203を通過して、第2低圧部202に流れ込む。
【0077】
ここで、図7及び図8を参照して、従来の燃料噴射装置における動作例について説明する。なお、本例の燃料噴射装置1と共通する部分には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。図7は、従来の燃料噴射装置において、閉弁した直後の状態、すなわち弁体313の先端部が弁座103aに着座した直後の状態における弁体313の係合部328からロッドヘッド127を拡大して示す断面図である。図8は、従来の燃料噴射装置において、弁体313の先端部が弁座103aに着座した後に、アンカー310がアンダーシュート量G5だけアンダーシュートした状態を示している。
【0078】
図7に示す閉弁状態において、アンカー310には、軸線方向Daの先端側に向かう感性力を有している。そのため、アンカー310は、先端側へのアンダーシュートを開始する。このとき、係合部328と、スペーサ225と、アンカー310によって形成される低圧部401の体積は、アンカー310の移動とともに増加する。そのため、低圧部401の圧力が低下し、スペーサ225の周囲にある燃料(流体)が低圧部401に流入する。燃料は、図8の矢印Cに示すように、スペーサ225の下端面214と、アンカー310の上端面310aで形成された隙間400を通過して低圧部401に流入する。また、従来のスペーサ225の下端面214の両端部の角部225a、225bは、角部が丸まった加工である、いわゆるR面取りが施されている。
【0079】
しかしながら、従来の燃料噴射装置では、隙間400を通過した燃料が、直接低圧部401に流れ込み、さらにアンカー310がアンダーシュートすることに伴って隙間400が増大する。そのため、低圧部401の圧力が大きくは下がらず、アンダーシュートすることに伴って低圧部401の圧力が戻る。その結果、低圧部401の圧力は、スペーサ225の外側の圧力と概ね一致する。
【0080】
これらにより、低圧部401によってアンカー310を引き上げようとする流体力が小さくなり、その結果、アンカー310は、想定よりも大きくアンダーシュートする。アンカー310が大きくアンダーシュートすることで、燃料の噴射間隔や噴射のばらつきが増大しやすくなる。
【0081】
さらに、アンカー310がアンダーシュートを終了して基準状態に戻る際に、アンカー310は、大きな速度を有することになる。その結果、アンカー310の上端面310aが当接するスペーサ225の下端面214、あるいはアンカー310の上端面310aの少なくとも一方に摩耗が生じやすくなる。
【0082】
なお、アンカー310には、隙間400や低圧部401を含む領域の圧力だけでなく、アンカー310の周囲を流れる燃料(流体)のせん断によって生じる力も作用する。ここで、圧力と、流体のせん断力を合わせて流体力と称している。しかしながら、アンカー310に作用する流体力は、流体のせん断力よりも低圧部401などから受ける圧力が支配的である。
【0083】
これに対して、本例の燃料噴射装置1では、図6に示すように、隙間200を通過して第1低圧部201に流入した燃料は、狭小隙間203を通過して第2低圧部202に流入する。ここで、流体が狭小隙間を通過する際には、流路の管摩擦損失によってその圧力が低下する。したがって、第2低圧部202の圧力は、第1低圧部201の圧力よりも低くなる。
【0084】
一方、従来の燃料噴射装置では、図8に示したように、隙間400を通過した後は、狭小隙間を通過しないため、圧力の低下は発生しない。そのため、本例の燃料噴射装置1における第2低圧部202の圧力は、従来の燃料噴射装置の低圧部401の圧力よりも低くなる。
【0085】
さらに本例では、スペーサ125の下端面14の両端部の角部は、C面取りが施されて、第1面取り部125a及び第2面取り部125bが形成されている。ここで、流路の入口損失及び出口損失は、流路の入口や出口の形状に大きく依存する。そして、流路の入口損失及び出口損失の圧力損失は、例えばR面取りの場合と比較して、同じ大きさであればC面取りのほうが大きくなる。そのため、本例の燃料噴射装置1によれば、隙間200の入口及び出口に相当する下端面14の両端部の角部に対して、C面取りを施すことで、隙間200を通過した燃料の圧力を大きく低下させることができる。
【0086】
また、本例の燃料噴射装置1では、狭小隙間203の入口及び出口においても、C面取りを設けることで圧力を低下させている。すなわち、アンカー110の上端面110aと、凹部内周面110fによって形成される角部に対してC面取りを施して、面取り部110gを形成している。さらに、係合部128の円筒部128eと下端面128bによって形成される角部には、第2面取り部128dが形成されている。これにより、燃料が狭小隙間203を通過する際に、入口損失及び出口損失によって圧力を大きく低下させることができる。
【0087】
すなわち、本例の燃料噴射装置1によれば、アンカー110のアンダーシュート時に、燃料が隙間200を通過して流入するが、複数箇所の面取り部125a、125b、110g、128dによって流体の入口損失及び出口損失を大きくすることができる。さらに、狭小隙間203による管摩擦損失によって、流体の圧力を大きく低下させることができる。特に、第2低圧部202は、第1低圧部201よりもさらに圧力が低くなる。したがって、アンカー110は、第1低圧部201及び第2低圧部202が低圧になることに起因する上向きの流体力を受ける。そして、この流体力によりアンカー110に作用する慣性力を弱めることができ、アンカー110のアンダーシュート量を低減させることができる。
【0088】
アンカー110のアンダーシュート量が低減することで、燃料の噴射間隔や噴射ばらつきを低減することが可能となる。また、アンカー110がアンダーシュートを終了して基準状態に戻る際の速度、すなわちアンカー110とスペーサ125が衝突する際の速度を従来と比較して小さくすることもできる。その結果、スペーサ125の下端面14やアンカー110の上端面110aの摩耗を抑制できる。
【0089】
なお、本例では、凹部内周面110fと係合部128の円筒部128eによって狭小隙間203を形成するが、狭小隙間203は狭いほど管摩擦損失が大きく圧力低下効果が大きい。また、凹部内周面110fと係合部128の円筒部128eは、摺動していてもよい。これにより、狭小隙間203を狭くすることができる。一方、本例の燃料噴射装置1のように、挿通孔110cと軸部113aが摺動する場合には、凹部内周面110fと係合部128の円筒部128eを摺動させずに、狭小隙間203を形成していても良い。
【0090】
また、狭小隙間203の出口において流路は急拡大するため出口損失を生じる。この時、流路の拡大率が大きいほど出口損失は大きくなる。したがって、狭小隙間203の幅は、係合部128の下端面128bと凹部底面110eとの距離すなわち予備ストローク量(G2)よりも小さいことが望ましい。
【0091】
また、本例では、スペーサ125が第1面取り部125aおよび第2面取り部125bを有する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1面取り部125aのみを有するスペーサであってもよく、または第2面取り部125bのみを有するスペーサであっても良い。
【0092】
さらに、スペーサ125の第1面取り部125a、第2面取り部125b、係合部128の第2面取り部128d及びアンカー110の面取り部110gのうち少なくとも1つのみがあればよい。また、スペーサ125の第1面取り部125a、第2面取り部125b、係合部128の第2面取り部128d及びアンカー110の面取り部110gを周方向に沿って連続して形成する例を説明したが、これに限定されるものではない。スペーサ125の第1面取り部125a、第2面取り部125b、係合部128の第2面取り部128d及びアンカー110の面取り部110gは、周方向の少なくとも一部に形成されていてもよい。
【0093】
また、スペーサ125の第1面取り部125a、第2面取り部125b、係合部128の第2面取り部128d及びアンカー110の面取り部110gの大きさは、小さい方が望ましい。これは、以下の2つの理由がある。
【0094】
1つ目は、流路の出入口においては、燃料の流れに沿って、流路断面積が急激に変化するほうが、すなわち面取り部が小さい方が、出入口損失が大きくなり、圧力低減効果が大きくなるからである。2つ目は、面取り部が小さい方が、流路の長さを長くすることができるため、管摩擦損失が大きくなるからである。
【0095】
したがって、上記面取り部は、圧力の低下を考慮すると、小さいほど望ましい。しかしながら、一般的には、小さな面取りは加工コストが高くなるため、加工コストと得られる効果を鑑みて、面取りの大きさは決定される。すなわち、加工コストが許容される範囲で、小さな面取りを設けることが望ましい。
【0096】
また、狭小隙間203は、アンカー110の変位方向と平行な方向に形成されている。そして、図2に示した狭小隙間203の長さG10は、アンカーの最大アンダーシュート量よりも大きく形成されている。これにより、アンカー110がアンダーシュートしている間、アンカー110の上端面110aは、係合部128の下端面128bよりも、軸線方向Daの先端側に変位しない。すなわち、アンダーシュート中、常に狭小隙間203が形成される。このため、狭小隙間203による管摩擦損失を発生させて、流体の圧力低下を常に生じさせることができる。また、アンダーシュートしている間、第2低圧部202の圧力が低い状態を維持することがき、アンカー110を引き上げる流体力を常に働かせることができる、その結果、アンカー110の速度を低下させて、アンカー110やスペーサ125の摩耗を抑制できる。
【0097】
また、摺動軸部129が係合部128よりも軸線方向Daの後端部側に形成され、スペーサ125と摺動する例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば弁体113とスペーサ125は、円筒部128e及び内壁面16aで摺動していても良い。さらに、本例では、スペーサ125が小径部12を有する例について説明したが、小径部12を有さないスペーサであっても良い。
【0098】
2.第2の実施の形態例
次に、図9を参照して第2の実施の形態例にかかる燃料噴射装置について説明する。
図9は、第2の実施の形態例にかかる燃料噴射装置におけるスペーサ周りを拡大して示す断面図である。
【0099】
第2の実施の形態例にかかる燃料噴射装置が、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と異なる点は、スペーサの形状である。そのため、ここでは、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と共通する部分には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0100】
図8に示すように、スペーサ125Aは、下端面14の角部において、面取りされていない、ほぼ直角断面である第1角部125c及び第2角部125dを有している。上述したように、流路の入口損失及び出口損失の大きさは、流路の入口や出口形状に依存している。そして、C面取りやR面取りよりも、面取りやテーパ加工などのない、直角断面である場合の方が圧力損失が大きい。
【0101】
したがって、第2の実施の形態例においては、燃料が矢印Aで示すように隙間200を通過する際に、第1角部125cや第2角部125dにおいて大きな圧力損失が生じる。その結果、第1低圧部201や第2低圧部202の圧力が低下し、アンカー110に上向きの流体力が作用して、アンカー110のアンダーシュートが低減する。このため、噴射間隔や噴射ばらつきを低減することが可能となる。また、スペーサ125Aやアンカー110の摩耗が抑制される。
【0102】
なお、第2の実施の形態例にかかるスペーサ125Aのように面取りされていない、ほぼ直角断面である第1角部125cと、第2角部125dを設けた場合、第1の実施の形態例と比較して、圧力低下の効果を大きくすることができる。一方で、面取りされていない角部125c、125dを有するため、スペーサ125Aとアンカー110が相対的に傾いた状態で衝突した場合、スペーサ125Aの角部やアンカー110の上端面110aが、部分的に損傷するリスクも生じる。
【0103】
したがって、第1の実施の形態例にかかるスペーサ125のようにC面取りを用いるか、第2の実施の形態例にかかるスペーサ125Aのように直角断面である角部を用いるかは、加工精度や、スペーサやアンカーの材質によって、適切に決定される。すなわち、加工精度が高く、かつ傾いた状態で衝突することが生じにくい場合や、損傷しにくい材質である場合は、圧力損失が大きい第2の実施の形態例にかかるスペーサ125Aを用いることが好ましい。
【0104】
なお、係合部128の第2面取り部128d、アンカー110の面取り部110gに関しても、第2の実施の形態例では面取りを施す例を説明しが、これらもスペーサ125Aと同様に、面取りされていない、ほぼ直角断面であっても良い。
【0105】
その他の構成は、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と同様であるため、それらの説明は省略する。このようなスペーサ125Aを有する燃料噴射装置によっても、上述した第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0106】
3.第3の実施の形態例
次に、図10を参照して第3の実施の形態例にかかる燃料噴射装置について説明する。
図10は、第3の実施の形態例にかかる燃料噴射装置におけるスペーサ周りを拡大して示す断面図である。
【0107】
第3の実施の形態例にかかる燃料噴射装置が、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と異なる点は、スペーサの形状である。そのため、ここでは、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と共通する部分には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0108】
図10に示すように、スペーサ125Bにおける下端面14の外周側の角部には、突起部125eが形成さている。突起部125eは、下端面の角部から半径方向の外側に向けて突出している。なお、突起部125eは、スペーサ125Bの周方向に沿って連続して形成されていてもよく、あるいは、周方向の少なくとも一部に形成されていてもよい。
【0109】
燃料が矢印Aに示すように隙間200を通過する際に、突起部125eにより流れに剥離を発生させて、大きな圧力損失を生じさせることができる。これにより、第1低圧部201や第2低圧部202の圧力が低下し、アンカー110に上向きの流体力が作用してアンカー110のアンダーシュート量が低減する。その結果、噴射間隔や噴射ばらつきを低減することが可能となる。また、スペーサ125Bやアンカー110の摩耗が抑制される。
【0110】
その他の構成は、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と同様であるため、それらの説明は省略する。このようなスペーサ125Bを有する燃料噴射装置によっても、上述した第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0111】
4.第4の実施の形態例
次に、図11を参照して第4の実施の形態例にかかる燃料噴射装置について説明する。
図11は、第4の実施の形態例にかかる燃料噴射装置におけるスペーサ周りを拡大して示す断面図である。
【0112】
第4の実施の形態例にかかる燃料噴射装置が、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と異なる点は、スペーサとアンカーの形状である。そのため、ここでは、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と共通する部分には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0113】
図11に示すように、スペーサ125Cは、第1テーパ部125fと、第2テーパ部125gとを有している、第1テーパ部125f及び第2テーパ部125gは、スペーサ125の下端面14の両端部に形成されている。第1テーパ部125fは、スペーサ125Cの下端面14における半径方向の外側の角部に形成されている。第2テーパ部125gは、スペーサ125Cの下端面における半径方向の内側の角部に形成されている。
【0114】
また、第1テーパ部125fと、アンカー110Aの上端面110aのなす角度Sは、45度よりも大きく形成されている。ここで、一般的に、テーパ部を有する円管流路入口における圧力損失は、流路直径D、テーパ長さL、テーパ角度θ(0度<θ<90度)などの関数となる。そして、あるテーパ角度θで最小となり、θ=0度あるいはθ=90度で大きくなることが知られている。
【0115】
したがって、第4の実施の形態例にかかる燃料噴射装置においても、第1テーパ部125fとアンカー110Aの上端面110aのなす角Sに関しても、S=0度あるいはS=90度に近い方が、入口損失は大きくなるため望ましい。その中でも、S=90度に近い方が、隙間200の長さを長くできるため、圧力低下の観点からは望ましい。一方で、角度Sが90度に近く、かつ、加工精度によってスペーサ125Cとアンカー110Aが相対的に傾いた状態で衝突する場合には、テーパ部125fとアンカー110Aの上端面110aが衝突する可能性がある。そのため、角度Sの値は、加工コスト、圧力損失の効果などを鑑みて、適切に決定される。
【0116】
また、アンカー110Aの上端面110aと、凹部内周面110fの角部には、テーパ部110hが形成されている。さらに、係合部128の下端面128bと円筒部128eの角部にも、テーパ部128fが形成されている。このテーパ部110h、128fは、狭小隙間203の出入口に相当する。
【0117】
テーパ部110hと円筒部128eがなす角度である角度Tは、45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されている。同様に、テーパ部128fと、凹部内周面110fがなす角度である角度Uは、45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されている。これらのテーパ部110h、128fによって、狭小隙間203の入口、出口において圧力損失を発生させることができ、第2低圧部202の圧力を低下させることができる。
【0118】
なお、角度S、角度T、角度Uは、45度よりも大きく、90度に近い値としたが、この角度に限定するものではなく、上述したように、加工コスト、圧力損失の効果などを鑑みて、適切に決定される。
【0119】
その他の構成は、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と同様であるため、それらの説明は省略する。このようなスペーサ125C、アンカー110Aを有する燃料噴射装置によっても、上述した第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0120】
5.第5の実施の形態例
次に、図12を参照して第5の実施の形態例にかかる燃料噴射装置について説明する。
図12は、第5の実施の形態例にかかる燃料噴射装置におけるスペーサ周りを拡大して示す断面図である。
【0121】
第5の実施の形態例にかかる燃料噴射装置が、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と異なる点は、アンカーとスペーサの形状である。そのため、ここでは、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と共通する部分には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0122】
図12に示すように、アンカー110Bは、凹部110bを有していない。そして、アンカー110Bの上端面110aは、スペーサ125Dの外周側から係合部128の軸線方向Daの先端部側、すなわちアンカー110Bの内周側である挿通孔110cまで延在している。
【0123】
スペーサ125Dは、第1の実施の形態例にかかるスペーサ125と同様に、下端面14に第1面取り部125a及び第2面取り部125bを有している。そのため、矢印Aで示すように燃料が隙間200を通過する際に、第1面取り部125a及び第2面取り部125bにおいて大きな圧力損失が生じる。その結果、低圧部204の圧力が低下し、アンカー110に上向きの流体力が作用して、アンカー110のアンダーシュートが低減する。これにより、燃料の噴射間隔や噴射ばらつきを低減することが可能となる。また、スペーサ125Dの下端面14やアンカー110Bの上端面110aにおける摩耗も抑制できる。
【0124】
その他の構成は、第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と同様であるため、それらの説明は省略する。このようなスペーサ125D及びアンカー110Bを有する燃料噴射装置によっても、上述した第1の実施の形態例にかかる燃料噴射装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0125】
6.従来との流体力の比較
次に、図13を参照して、上述した第1、第2及び第3の実施の形態例にかかる燃料噴射装置と、従来の燃料噴射装置とのアンカーに作用する流体力の比較例について説明する。
図13は、スペーサにおける下端部の角部の形状の違いによるアンカーに作用する流体力を示すグラフである。図13における縦軸は、アンダーシュート時にアンカーにかかる上向きの流体力を示し、横軸は時間を示す。
【0126】
図13における実線は従来のスペーサ225を示すもので、図8に示すように角部225aがR面取りされた例の流体力を示している。また、点線は、第1の実施の形態例にかかるスペーサ125のように、C面取りが施された面取り部125aを有する場合の流体力を示している。一点鎖線は、第2の実施の形態例にかかるスペーサ125Bのように、角部125cが直角断面形状の場合の流体力を示している。そして、二点鎖線は、第3の実施の形態例にかかるスペーサ125Cのように角部に突起部125eを設けた場合の流体力を示している。
【0127】
第1から第3の実施の形態例にかかるスペーサ125、125A、125Bの下端面14の角部は、いずれも流体の入口損失を増大させる形状となっている。そのため、図13に示すうように、第1から第3の実施の形態例にかかるスペーサ125、125A、125Bによる流体力は、いずれも従来例にかかるスペーサ225よりもアンダーシュート時にアンカーにかかる上向きの流体力を増加していることが分かる。その結果、第1から第3の実施の形態例にかかるスペーサ125、125A、125Bによれば、アンカー110に作用する慣性力を弱めることができ、アンカー110のアンダーシュート量を低減させることができることが分かる。
【0128】
なお、上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0129】
なお、本明細書においては、「C面取り」及び「テーパ」等の単語を使用したが、これらは厳密な「C面取り」及び「テーパ」のみを意味するものではない。特に、微小なC面取りやテーパにおいては、加工精度の関係上、厳密な形状となっていない場合がある。したがって、本明細書における「C面取り」及び「テーパ」等の表現は、「C面取り」及び「テーパ」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある状態であってもよい。
【0130】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0131】
1…燃料噴射装置、 11…大径部、 12…小径部、 13…段差面、 14…下端面、 15…上端面、 16…収容部、 101…固定コア、 103…噴射孔形成部材、 110、110A、110B…アンカー、 110a…上端面、 110b…凹部、 110c…挿通孔、 110d…偏心貫通孔、 110e…凹部底面、 110f…凹部内周面、 110g…面取り部、 110h…テーパ部、 111…燃料供給口、 112…噴射孔、 113…弁体、 118…第1スプリング、 124…第2スプリング、 125、125A、125B、125C、125D…スペーサ、 125a…第1面取り部、 125b…第2面取り部、 125c…第1角部、 125d…第2角部、 125e…突起部、 125f…第1テーパ部、 125g…第2テーパ部、 126…第3スプリング、 128…係合部、 128a…上端面、 128b…下端面、 128c…第1面取り部、 128d…第2面取り部、 128e…円筒部、 128f…テーパ部、 129…摺動軸部、 200…隙間、 201…第1低圧部、 202…第2低圧部、 203…狭小隙間、 AX1…中心軸線、 G5…アンダーシュート量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13