(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098568
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】流量制御板とその設置方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/02 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
E02B3/02 Z
E02B3/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002123
(22)【出願日】2023-01-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】720010660
【氏名又は名称】有限会社祐企建設
(72)【発明者】
【氏名】森岡 祐治
(57)【要約】 (修正有)
【課題】河川、水路等の整備の際、本流と支流の護岸接続角度が直角に整備されることが多く、この場合、流量の少ない方の流れが流量の多い方の流れに対して流れ込みにくく、流量の少ない方の水域で洪水が多発している。加えて、護岸に沿って住宅が存在することが多く改修も困難な状況にある。
【解決手段】本発明の流量制御板は、河川、水路等の本流と支流の2つの流れが合流する護岸に設置され、流量の多い方の流線を曲げることにより流量バランスを調整するための流量制御板であって、前記流量制御板は、流線屈折板1と取付支持板2とからなり、前記流線屈折板1が流量の多い方の護岸に取付けてあり、前記取付支持板2が流線屈折板1を取付けた護岸に連結する護岸の延長線上に迫り出すように取付支持板2の一端を流量が少ない方の護岸に取付けてあると共に、流線屈折板1の他端と取付支持板2の他端とが接して閉じた状態にしてある流量制御板を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川、水路、側溝などの本流と支流の2つの流れが合流する位置にある、本流護岸と支流護岸とが連結する連結護岸のうち、流量の多い方の流れの右岸又は左岸かの少なくともいずれか一方の上流側の連結護岸に設置されて、流量の多い方の流れの流線を曲げることにより、それぞれの流量バランスを調整するための流量制御板であって、前記流量制御板は、流線屈折板1と取付支持板2とからなり、前記流線屈折板1が流量の多い方の流れの護岸に対して鋭角となるように流線屈折板1の一端を流量の多い方の流れの護岸の上流側に取り付けてあり、前記取付支持板2が流線屈折板1を取り付けた護岸に連結する護岸の延長線上に迫り出すように取付支持板2の一端を流量の少ない方の流れの護岸に取り付けてあると共に、流線屈折板1の他端と取付支持板2の他端とが接して閉じた状態にしてあることを特徴とする流量制御板。
【請求項2】
流線屈折板1と流量の多い方の流れの護岸とでなす角度は、45度以下とすることを特徴とする請求項1に記載の流量制御板。
【請求項3】
流線屈折板1の鉛直高さは、流量の少ない方の流れの川底の深さとし、取付支持板2の鉛直高さも流線屈折板1と同じ高さとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の流量制御板。
【請求項4】
請求項1に記載する流量制御板を流量の多い方の流れの右岸又は左岸の少なくともいずれか一方の上流側の連結護岸に設置する流量制御板の設置方法であって、流線屈折板1の一端を流量の多い方の流れの護岸に対し仮留めし、流線屈折板1と流量の多い方の流れの護岸とでなす角度を本流と支流のそれぞれの流量のバランスを確認しながら最適な位置決めをした後、流線屈折板1と取付支持板2の本留めを行うことを特徴とする流量制御板の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、水路、側溝などの本流と支流の2つの流れが合流する位置にある、本流護岸と支流護岸とが連結する連結護岸のうち、流量の多い方の流れの右岸又は左岸かの少なくともいずれか一方の上流側の連結護岸に設置されて、流量の多い方の流れの流線を曲げて、流量の少ない方の流れの水が流量の多い方の流れに対し流れ込む隙きを作ることにより、それぞれの流量バランスを調整するための流量制御板とその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大雨などで増水した河川、水路、側溝などの本流と支流の流れが合流する部分では、上空からの視点で直角に合流するように設計されていることが多く、このような場所では、増水して水位が上昇したときに流量の多い方の流れに対し、流量の少ない方が流れ込むことができず、流量の少ない方の流れの水域で洪水、浸水が発生する地域が多数存在し、この水域の住民は頻繁に洪水被害による生命と財産が重大な危険に直面している。河川、水路、側溝などの多くは、その周囲に既存の家屋などが存在していて改良工事も非常に困難であった。
【0003】
例えば、河川、水路の整備がされるより以前には、その水域に自然にできた遊水地があり、流れが滞ることに加えて無用な土地とされたが、古来遊水地は、大雨などでの増水した際には河川、水路などが洪水にならないようになる自然にできた調整池の役割を果たしていた。現在では、河川、水路の整備が進み、遊水地が潰され、流れが滞ることなく流れるようになったことから洪水が起こりやすくなった。また、この河川、水路の整備の際、本流と支流の護岸接続角度が直角に整備されることが多く、この場合には流量の少ない方の流れが流量の多い方の流れに対して流れ込みにくく、流量の少ない方の流れの水域で洪水が発生する危険性が高まっている。加えて、本流と支流の護岸接続角度の問題に気づいても、護岸の間際まで住宅が立ち並んでしまっているため改善工事もできない状況にある。
河川の氾濫を防止するための従来技術として、例えば下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1は、護岸壁に関するもので、河川の氾濫を防止する構造を有しながらも、製造及び設置に要するコストを削減し、また、環境の異なる様々な河川に設置することができるメリットがある。
しかしながら、特許文献1が開示する護岸壁は、水を貯留可能な貯留部と、貯留部への水の流入を可能とする開口部と、を備え、複数のブロックが連結することにより構成されるため、河川や水路内での水の貯留を行うことから、河川や水路内の絶対容量を消費してしまっている。また、特許文献1が開示する護岸壁は、設備構造が複雑かつ巨大となり、製作設置コストが増大する。またさらに、設備が巨大になることに加え、河川や水路管理者の護岸構造に大きな変更を伴うものであるため、設置可能場所も限られるといった問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来から改善することが困難である課題を解決しようとするものであり、当該課題の水域の住民の生命と財産を守る工事のために既存の河川、水路、側溝などの護岸及びその周辺の道路などの切断、掘削、養生や埋め戻しといった工程を不要とすることに加え、工期を即日完了へと大幅に短縮し、人件費等のコスト削減に加え、洪水を未然に防いで当該住民の生命と財産を守ることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の流量制御板は、河川、水路、側溝などの本流と支流の2つの流れが合流する位置にある、本流護岸と支流護岸とが連結する連結護岸のうち、流量の多い方の流れの右岸又は左岸かの少なくともいずれか一方の上流側の連結護岸に設置されて、流量の多い方の流れの流線を曲げることにより、それぞれの流量バランスを調整するための流量制御板であって、前記流量制御板は、流線屈折板1と取付支持板2とからなり、前記流線屈折板1が流量の多い方の流れの護岸に対して鋭角となるように流線屈折板1の一端を流量の多い方の流れの護岸の上流側に取り付けてあり、前記取付支持板2が流線屈折板1を取り付けた護岸に連結する護岸の延長線上に迫り出すように取付支持板2の一端を流量の少ない方の流れの護岸に取り付けてあると共に、流線屈折板1の他端と取付支持板2の他端とが接して閉じた状態にしてあることを第1の特徴とする。
【0008】
また、本発明の流量制御板は、上記の第1の特徴に加えて、流線屈折板1と流量の多い方の流れの護岸とでなす角度は、45度以下とすることを第2の特徴とする。
【0009】
また、本発明の流量制御板は、上記の第1又は第2の特徴に加えて、流線屈折板1の鉛直高さは、流量の少ない方の流れの川底の深さとし、取付支持板2の鉛直高さも流線屈折板1と同じ高さとすることを第3の特徴とする。
【0010】
また、上記の第1に記載する流量制御板を流量の多い方の流れの右岸又は左岸の少なくともいずれか一方の上流側の連結護岸に設置する流量制御板の設置方法であって、流線屈折板1の一端を流量の多い方の流れの護岸に対し仮留めし、流線屈折板1と流量の多い方の流れの護岸とでなす角度を本流と支流のそれぞれの流量のバランスを確認しながら最適な位置決めをした後、流線屈折板1と取付支持板2の本留めを行うことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の流量制御板によれば、流量の多い方の流れの水位が高いことによって、流量の少ない方の流れの水が流量の多い方の流れに対して流れ込むことが困難な状況を好適に改善できることに加え、既存の河川、水路、側溝などの護岸及びその周辺の道路などの切断、掘削、養生や埋め戻しといった工程を不要とすることができることから、工期を即日へと大幅短縮し、人件費等のコスト削減、洪水を防いで当該住民の生命と財産を守ることができる。
【0012】
また、請求項2に記載の流量制御板によれば、上記請求項1に記載による作用効果に加えて、流量の多い方の流れの流線が流線屈折板1を通過した後の乱流を少なくすることができ、好適な水流屈折ができる。
【0013】
また、請求項3に記載の流量制御板によれば、上記請求項1から請求項2に記載による作用効果に加えて、流量の少ない方の流れから流量の多い方の流れへと流れ込むための流線の確保が必要最小限の流量制御をすることができることに加え、本発明の製作コストも最小限にすることができる。
【0014】
請求項4に記載する流量制御板の設置方法によれば、流線屈折板1と流量の多い方の流れとでなす角度を本流と支流のそれぞれの流量のバランスを確認しながら最適な位置決めを行うため、設置工事前に複雑な流動実験や計算を必要とせず、設計時の負担と工期短縮に寄与できることに加えて、既存の河川、水路、側溝などの護岸及びその周辺の道路などの切断、掘削、養生や埋め戻しといった工程を不要とすることができ、工期を数日間へと大幅短縮し、人件費等のコスト削減をすることができる。またさらに、設置後に流線屈折板1の角度の変更も容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る流量制御板を護岸に設置した状態の平面図
【
図2】本発明の実施形態に係る流量制御板を護岸に設置した状態を側面から見た断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を
図1及び2に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る流量制御板10は、河川、水路、側溝などの本流と支流の2つの流れが合流する位置にある、本流護岸と支流護岸とが連結する連結護岸5のうち、流量の多い方の流れの右岸又は左岸かの少なくともいずれか一方の上流側の連結護岸5に設置されて、流量の多い方の流れの流線を曲げることにより、それぞれの流量バランスを調整するためのものである。なお、以下においては、本流3の流量が多い場合について説明するものとする。
前記流量制御板10は、
図1に示すように、流線屈折板1と取付支持板2とで構成される。
前記流線屈折板1は平板状の部材で構成され、流量の多い方の流れ(本実施形態においては本流3)の護岸に対して鋭角となるように流線屈折板1の一端を流量の多い方の流れの護岸の上流側に取り付けてある。また、護岸と当接する前記一端には、この一端部分が護岸と面接触するように平板状の部材を屈曲させてなる屈曲部を設けてあると共に、この屈曲部に流線屈曲板1を護岸に設置するためのボルト6を取付ける穴を設けてある(図示していない)。
前記取付支持板2は平板状の部材で構成され、流線屈折板1を取り付けた護岸に連結する護岸の延長線上に迫り出すように取付支持板2の一端を流量の少ない方の流れの護岸に取り付けてある。なお、迫り出す長さは、流量の多い方の流れを妨げて水位の変化がないようにすることと、流線屈折板1による流線の屈折により大きな乱流が起こらないように、適宜調整を行うこととする。また、護岸と当接する側の端部には取付支持板2を護岸に設置するためのボルト6を取付ける穴を設けてある(図示していない)。
また、流線屈折板1、取付支持板2の護岸と当接しない側のそれぞれの他端は、流線屈折板1と取付支持板2とが接して閉じた状態としてある。なお、本実施形態においては、溶接にて接合部8を形成することで、流線屈折板1の他端と取付支持板2の他端とが接して閉じた状態としてある。なお、流線屈折板1と取付支持板2とを接して閉じた状態とさせる構成は前記の構成に限るものではなく、流線屈折板1と取付支持板2とを一体成形する構成や流線屈折板1と取付支持板2とを連結部材を使用して閉じた状態としてもよい。
またさらに、
図2に示すように、流線屈折板1と取付支持板2の鉛直高さの上端aは、流量の少ない方の流れの護岸の上流方向10m程度の天板平均地盤高さとし、同鉛直高さの下端bは、流量の少ない方の流れの上流方向10m程度の川底平均地盤高さとしている。なお、同鉛直高さの下端は、流量の少ない方の流れの水が流量の多い方の流れに対し流れ込む隙きを作るためのものであり、流量の少ない方の流れの川底の深さより深くすることは不要である。
【0017】
取付支持板2に設けるボルト6を取付けるための穴は、流量を制御したい河川、水路、側溝に対して取付支持板2が迫り出す大きさを位置決め調整できるように楕円状にしている。
【0018】
流線屈折板1と取付支持板2とを連結部材(例えばボルト)を使用して連結する場合には、連結させる連結部材(例えばボルト)を挿通させる穴を接合部8に設けると共に、この穴を楕円状にする構成とすることが望ましい。このように接合部8に設ける穴を楕円状にすることで、取付支持板2の取付時の位置決め時に流線屈折板1と取付支持板2とでなす角度が変化しても対応できるようにすることができる。
【0019】
流線屈折板1と取付支持板2及びボルト・ナットの材質は、鋳鉄、鋼、ステンレス、アルミ等の金属製若しくは合成樹脂のどれかを統一して使用して確実な接合をすることと、流線屈折板1と取付支持板2のどちらか一方に腐食が大きくならないように電離差が均一となるようにする。
【0020】
流線屈折板1と取付支持板2の厚みは、洪水時の流木等の浮遊物の衝突に耐えうる強度を有する厚みとする。
【0021】
流線屈折板1と流量の多い方の流れの護岸とでなす角度は、45度以下とすることが望ましく、より好適には、20度から40度程度の角度とすることが望ましい。
【0022】
流線屈折板1は、側面から見て平板状に孤を持たせても好適な流線屈折ができる。
【0023】
流線屈折板1の一端に設ける屈曲部は、護岸に設置する際に護岸との接地面積を大きくすることができ、好適に取付をすることができる。
【0024】
以上の構成からなる流線屈折板1と取付支持板2は、例えば、流線屈折板1の一端を流量の多い方の流れの右岸又は左岸の少なくともいずれか一方の上流側の連結護岸に対しボルト6を用いて仮留めし、流線屈折板1と流量の多い方の流れの護岸とでなす角度を本流と支流のそれぞれの流量のバランスを確認しながら最適な位置決めをした後、ボルト6を用いて流線屈折板1と取付支持板2の本留めを行うことで連結護岸に設置することができる。この際、取付支持板2が流量を制御させたい流量の多い方の流れへ迫り出すように位置決めをして本留めを行う。なお、流線屈折板1と取付支持板2とを連結部材を使用して閉じた状態にする場合もこれと同様に取付けることができる。加えて、流線屈折板1と取付支持板2とを溶接により閉じた状態にする場合は、上記連結護岸に対しボルト6を用いて仮留めし、流線屈折板1と流量の多い方の流れの護岸とでなす角度を本流と支流のそれぞれの流量のバランスを確認しながら最適な位置決めをして流線屈折板1と取付支持板2との接点でなす角度を確認した後、流線屈折板1と取付支持板2を一度陸揚げして、陸上で流線屈折板1と取付支持板2とを溶接により閉じた状態にした後、再び上記連結護岸に戻し、ボルト6を用いて流線屈折板1と取付支持板2の本留めを行うことで連結護岸に設置する。
また、流線屈折板1と取付支持板2とを一体成形する構成である場合は、前記取付支持板2を、流線屈折板1を取り付ける護岸に連結する護岸の延長線上に迫り出すように先に固定した後、流線屈折板1を固定すると作業効率が良い。
【0025】
本発明の流量制御板は、洪水対策だけでなく例えば流速が速い河川や水路で、遡河魚などの産卵のために川をのぼる魚類等の移動が困難な水域に、あえて乱流を作って魚類が河川や水路を遡る際の体力を温存するための、魚類の退避場として設置することも可能であり、例えば
図1に破線で示すように下流から上流までの流れが速い区間の右岸と左岸に複数個魚類の退避場7を設置することで、生態系の保護や自然との調和のために使用することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 流線屈折板
2 取付支持板
3 本流
4 支流
5 連結護岸
6 ボルト
7 魚類の退避場
8 接合部
10 流量制御板
a 流線屈折板1と取付支持板2の鉛直高さの上端
b 流線屈折板1と取付支持板2の鉛直高さの下端