(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098597
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】共振抑制制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 11/36 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
G05B11/36 501C
G05B11/36 501B
G05B11/36 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002172
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】増井 陽二
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA08
5H004GA09
5H004GB12
5H004HA10
5H004HA12
5H004HB10
5H004HB12
5H004KB02
5H004KB04
5H004KB22
5H004KB24
5H004KB26
5H004KB31
5H004KC33
5H004KC34
5H004KC55
5H004LA13
5H004MA14
(57)【要約】
【課題】制御対象の共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置において、振動をロバストに抑制可能な構成を提供する。
【解決手段】制御装置2は、制御対象Pの共振周波数における振動の抑制制御を行う。制御装置2は、バンドパスフィルタ、位相補償器及び振幅調整器の機能を有する制御部20を有し、制御対象Pの出力を入力側に負帰還させることにより制御対象Pの操作量uを求めるフィードバックループ10と、制御対象Pの操作量u及び出力yに応じて、フィードバックループ10の制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを更新する伝達関数更新部30と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置であって、
バンドパスフィルタ、位相補償器及び振幅調整器の機能を有する制御部を有し、前記制御対象の出力を入力側に負帰還させることにより前記制御対象の操作量を求めるフィードバックループと、
前記制御対象の操作量及び出力に応じて、前記フィードバックループの前記制御部の伝達関数の分母及び分子を更新する伝達関数更新部と、
を有する、
共振抑制制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の共振抑制制御装置において、
前記伝達関数更新部は、前記制御対象に対する制御において理想とする伝達関数の分母と、前記制御対象の実際の伝達関数の分子と、前記制御部の伝達関数の分母及び分子と、前記制御対象の操作量と、前記制御対象の出力とを含む関係式を用いて、前記制御部の伝達関数の分母及び分子を更新する、
共振抑制制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の共振抑制制御装置において、
前記伝達関数更新部は、前記関係式として下式を用いて、両辺の誤差が最小になるように、前記制御部の伝達関数の分母及び分子を更新する、
Cy(k)=BRu(k-d)+BSy(k-d)
ここで、Cは前記制御対象に対する制御において理想とする伝達関数の分母であり、Bは前記制御対象の伝達関数の分子であり、Rは前記制御部の伝達関数の分母であり、Sは前記制御部の伝達関数の分子であり、u(k)は前記制御対象の操作量であり、y(k)は前記制御対象の出力であり、dは前記制御対象における応答の遅れである、
共振抑制制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象の共振周波数における振動を抑制する共振抑制制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制御対象の共振周波数における振動を抑制する共振抑制制御装置が知られている。このような共振抑制制御装置の一例として、例えば特許文献1には、制御対象が有する複数の振動モードに対応して、前記制御対象の出力を入力側に負帰還させる複数のフィードバックループを備え、前記複数のフィードバックループは、それぞれ、前記複数の振動モードから一部の振動モードを抽出するバンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部を有する共振抑制制御装置が開示されている。
【0003】
前記共振抑制制御装置では、前記バンドパスフィルタ及び前記位相補償部は、微分器として機能する。これにより、複数の振動モードを有する制御対象の各振動モードの共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置において、簡単で実装しやすく、且つ、前記複数の振動モードにおける共振周波数で振動を抑制可能な構成が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に開示されている共振抑制制御装置では、フィードバックループにおけるバンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部をそれぞれ振動の周波数に応じてパラメータを可変することができる。しかしながら、制御対象の共振周波数が時間とともに変化する場合、または、制御対象のモデルが設計時と実際とで誤差を有する場合などに、それらを考慮して、制御対象の振動を効果的に抑制するのは難しかった。
【0006】
これに対し、制御対象の共振周波数が時間とともに変化する場合、または、制御対象のモデルが設計時と実際とで誤差を有する場合などに、それらを考慮して、振動をロバストに抑制可能な共振抑制制御装置が求められている。
【0007】
本発明の目的は、制御対象の共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置において、振動をロバストに抑制可能な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る共振抑制制御装置は、制御対象の共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置である。この共振抑制制御装置は、バンドパスフィルタ、位相補償器及び振幅調整器の機能を有する制御部を有し、前記制御対象の出力を入力側に負帰還させることにより前記制御対象の操作量を求めるフィードバックループと、前記制御対象の操作量及び出力に応じて、前記フィードバックループの前記制御部の伝達関数の分母及び分子を更新する伝達関数更新部と、を有する(第1の構成)。
【0009】
このようにフィードバックループの制御部の伝達関数の分母及び分子を、制御対象の操作量及び出力に応じて更新することにより、制御対象の伝達関数が時間とともに変化した場合、または、制御対象のモデルが設計時と実際とで誤差を有する場合でも、前記制御部の伝達関数を、前記制御対象の振動を抑制可能な伝達関数に設定することができる。
【0010】
よって、共振抑制制御装置が、上述のように前記制御部の伝達関数の分母及び分子を調整可能な伝達関数更新部を有することにより、前記制御対象の振動をロバストに抑制することができる。
【0011】
しかも、上述の構成により、前記フィードバックループの振動抑制制御をベースにして共振抑制制御を行うことができるため、前記制御部の伝達関数の次数及び伝達関数更新部で前記伝達関数を更新する際に用いる定数等を容易に把握できる。よって、簡単な構成により、前記制御対象の振動をロバストに抑制することができる。
【0012】
前記第1の構成において、前記伝達関数更新部は、前記制御対象に対する制御において理想とする伝達関数と、前記制御対象の実際の伝達関数と、前記制御部の伝達関数と、前記制御対象の操作量と、前記制御対象の出力とを含む関係式を用いて、前記制御部の伝達関数の分母及び分子を更新する(第2の構成)。
【0013】
これにより、制御対象におけるモデル化誤差を考慮して、制御対象に対して理想応答になるように、制御部の伝達関数の分母及び分子を容易に更新することができる。よって、前記制御対象におけるモデル化誤差の影響を低減した振動抑制制御を容易に実現することができる。
【0014】
なお、前記モデル化誤差は、制御対象の伝達関数が時間とともに変化した場合、制御対象のモデルが設計時と実際とで誤差を有する場合などを含む。すなわち、前記モデル化誤差は、設計時の制御対象のモデルに対して、例えば実際の制御対象の共振周波数や該共振周波数におけるピーク値などが異なる場合を意味する。
【0015】
前記第2の構成において、前記伝達関数更新部は、前記関係式として下式を用いて、両辺の誤差が最小になるように、前記制御部の伝達関数の分母及び分子を更新する。
Cy(k)=BRu(k-d)+BSy(k-d)
ここで、Cは前記制御対象に対する制御において理想とする伝達関数の分母であり、Bは前記制御対象の伝達関数の分子であり、Rは前記制御部の伝達関数の分母であり、Sは前記制御部の伝達関数の分子であり、u(k)は前記制御対象の操作量であり、y(k)は前記制御対象の出力であり、dは前記制御対象における応答の遅れである。
【0016】
これにより、前記第2の構成を実現することができる。よって、前記制御対象におけるモデル化誤差の影響を低減した振動抑制制御を容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態に係る共振抑制制御装置は、制御対象の共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置である。この共振抑制制御装置は、バンドパスフィルタ、位相補償器及び振幅調整器の機能を有する制御部を有し、前記制御対象の出力を入力側に負帰還させることにより前記制御対象の操作量を求めるフィードバックループと、前記制御対象の操作量及び出力に応じて、前記フィードバックループの前記制御部の伝達関数の分母及び分子を更新する伝達関数更新部と、を有する。
【0018】
共振抑制制御装置が、上述のように前記制御部の伝達関数の分母及び分子を調整可能な伝達関数更新部を有することにより、前記制御対象の振動をロバストに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る共振抑制制御装置を備えた試験装置の概略構成を機能ブロックで示す図である。
【
図2】
図2は、制御装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す制御装置の機能ブロックを伝達関数で表現した図である。
【
図4】
図4は、制御対象及びフィードバックループを有する制御系の機能ブロック図において、前記制御対象を伝達関数で表現した図である。
【
図5】
図5は、制御対象の周波数特性の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、設計どおりの制御対象に対してチャープ信号を入力した場合の時間応答の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、設計と異なる制御対象に対してチャープ信号を入力した場合の時間応答の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用して、設計どおりの制御対象に対してチャープ信号を入力した場合の時間応答の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用して、設計と異なる制御対象に対してチャープ信号を入力した場合の時間応答の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用して、設計どおりの制御対象に対してステップ信号を入力した場合のステップ応答の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用して、設計と異なる制御対象に対してステップ信号を入力した場合のステップ応答の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[実施形態1]
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態1に係る共振抑制制御装置を備えた試験装置1の概略構成を機能ブロックで示す図である。この試験装置1は、自動車のモータなどの供試体Mの特性を試験するための試験装置である。なお、試験装置1で試験する供試体Mは、モータ以外の回転体であってもよい。
【0022】
具体的には、試験装置1は、制御装置2(共振抑制制御装置)と、モータ駆動回路3と、電動モータ4と、トルク検出器5とを備える。
【0023】
制御装置2は、入力指令であるモータトルク指令rと後述のフィードバック値とを用いて、モータ駆動回路3に対する駆動指令を生成する。制御装置2は、トルク検出器5の出力値を用いてモータトルク指令rに対して負帰還するフィードバックループ10を有する(
図2参照)。なお、制御装置2が前記駆動指令を生成する構成は、従来と同様であるため、制御装置2において前記駆動指令を生成する構成の説明については省略する。フィードバックループ10の構成については後述する。
【0024】
モータ駆動回路3は、特に図示しないが、複数のスイッチング素子を有する。モータ駆動回路3は、前記駆動指令に基づいて前記複数のスイッチング素子が駆動することにより、電動モータ4の図示しないコイルに電力を供給する。
【0025】
電動モータ4は、図示しない回転子及び固定子を有する。前記固定子のコイルにモータ駆動回路3から電力が供給されることにより、前記回転子が前記固定子に対して回転する。前記回転子は、図示しない中間軸を介して、供試体Mに対し、供試体Mと一体で回転可能に連結されている。これにより、前記回転子の回転によって、電動モータ4から供試体Mにトルクを出力することができる。なお、電動モータ4の構成は、一般的なモータの構成と同様であるため、電動モータ4の詳しい説明は省略する。
【0026】
トルク検出器5は、電動モータ4と供試体Mとを接続する中間軸に設けられている。トルク検出器5は、電動モータ4から出力されたトルクを検出する。トルク検出器5によって検出されたトルクの出力値は、制御装置2にフィードバックループ10の入力値として入力される。すなわち、トルク検出器5の出力値は、フィードバック制御に用いられる。なお、トルク検出器5の構成は、従来の構成と同様であるため、トルク検出器5の詳しい説明は省略する。
【0027】
上述のような構成を有する試験装置1は、電動モータ4、トルク検出器5及び供試体Mを含む軸系の剛性によって、電動モータ4の回転時に機械共振(単に共振という)が生じる。供試体Mの試験において、前記共振が周波数の測定範囲内で発生した場合、トルク検出器5では、電動モータ4の出力トルクに前記共振の振動成分が加わったトルク(例えば軸トルク)が検出される。そのため、前記共振の振動成分を除去することが望まれる。
【0028】
これに対し、本実施形態において、制御装置2は、
図2に示すように、入力指令であるモータトルク指令rに対してトルク検出器5の出力値をフィードバックするフィードバックループ10と、伝達関数更新部30とを有する。すなわち、本実施形態の試験装置1は、制御装置2、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含み且つ供試体Mを含まない制御系によって、電動モータ4の駆動を制御する。
【0029】
なお、
図2において、rはモータトルク指令としての目標値であり、yはトルク検出器5の出力値である。
【0030】
また、
図2における符号Pは制御対象であり、本実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含む。なお、制御対象Pには、電動モータ4と供試体Mとを接続する中間軸のうち、電動モータ4からトルク検出器5までの範囲も含む。
【0031】
フィードバックループ10は、微分要素を含む微分フィードバック系である。フィードバックループ10には、トルク検出器5の出力値が入力される。フィードバックループ10は、バンドパスフィルタ、位相補償器及び振幅調整器の機能を有する制御部20を有する。なお、
図2では、制御部20の機能を説明するために、制御部20が、バンドパスフィルタ21と、位相補償部22と、振幅調整部23とを有する点を模式的に示している。
【0032】
バンドパスフィルタ21は、従来の微分器におけるハイパスフィルタと同様の機能を有し、高周波のノイズをカットするローパスフィルタの機能も有する。
【0033】
位相補償部22は、従来の微分器における位相調整と同様の機能を有する。位相補償部22は、共振によって生じる振動を抑制する信号(振動抑制信号)を生成する際に、位相進み補償及び位相遅れ補償の両方の機能を有する。位相補償部22は、位相進み補償または位相遅れ補償として、振動抑制信号の位相を任意の位相に調整できる。
【0034】
このように位相補償部22によって振動抑制信号の位相を任意の位相に調整できることにより、むだ時間の位相も考慮する場合には、振動抑制信号の位相を容易に設定できる。
【0035】
振幅調整部23は、振動抑制信号のゲインを調整する。すなわち、振幅調整部23は、振動抑制信号の振幅を調整する。
【0036】
フィードバックループ10の制御部20は、上述のバンドパスフィルタ21、位相補償部22及び振幅調整部23の各機能を有する。以上の構成により、フィードバックループ10では、制御部20によって、フィードバックする信号の位相及び振幅が調整されることにより、共振によって生じる振動を抑制する振動抑制信号が生成される。
【0037】
伝達関数更新部30は、制御対象Pに入力される操作量uに対して理想的な出力yが得られるように、すなわち制御対象Pに対して理想応答が得られるように、制御部20の伝達関数を、制御対象Pの操作量u及び出力yに応じて更新する。なお、前記理想応答とは、制御対象Pに対して操作量を入力した場合に、制御対象Pの出力に振動やオーバーシュートが抑制され、設計どおりの出力が得られる状態を意味する。
【0038】
図3は、
図2の構成を伝達関数によって表した場合の機能ブロック図である。
図3に示すように、フィードバックループ10の制御部20の伝達関数は、有理式であるS/Rで表される。伝達関数更新部30は、制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを、制御対象Pの操作量u及び出力yに応じて更新する。
【0039】
伝達関数更新部30は、例えば、適応制御によって制御部20の伝達関数を求めて更新する。伝達関数更新部30は、例えば、以下の式が成立するような制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを求める。
Cy(k)=BRu(k-d)+BSy(k-d) (1)
ここで、Cは制御対象Pに対する制御において理想とする伝達関数の分母であり、Bは制御対象Pの伝達関数の分子であり、Rは制御部20の伝達関数の分母であり、Sは制御部20の伝達関数の分子であり、u(k)は制御対象Pの操作量であり、y(k)は制御対象Pの出力であり、dは制御対象Pにおける応答の遅れである。なお、各伝達関数は、有理式で表される。
【0040】
(1)式を用いて制御部20の伝達関数の分子S及び分母Rを求めることにより、制御対象Pに対して理想応答が得られるような有理式である伝達関数の分子S及び分母Rを求めることができる。
【0041】
なお、(1)式は、以下のように導出される。
【0042】
制御対象Pが
図4に示す伝達関数を有する場合、
図4に示す制御系の伝達関数は、(2)式のとおりである。
【数1】
【0043】
(2)式で示す伝達関数において、分子をCとすると、
C=AR+BSz-d (3)
である。
【0044】
(3)式の両辺にyをかけて、y(k)=y、y(k-d)=z-dyとすると、
Cy(k)=ARy(k)+BSy(k-d) (4)
である。
【0045】
一方、
図3の制御対象Pに入力される操作量uと出力y(k)との関係は、下式で表される。
【数2】
(2)式及び(5)式より、(1)式が導かれる。
【0046】
伝達関数更新部30は、上述のように求められる(1)式と既知のC、B、u、yとを用いて、逐次最小二乗法により、(1)式を満たすR、Sを求めることができる。すなわち、(1)式において、伝達関数更新部30は、既知のC、u、y以外に、Bのみを把握していれば、(1)式を満たすようなS、Rを求めることができる。これに対し、(4)式の場合には、伝達関数更新部30は、S、Rを求めるために、既知のC、u、y以外に、A及びBを把握する必要がある。よって、伝達関数更新部30が、制御対象Pに対する制御において理想とする伝達関数の分母Cと、制御対象Pの実際の伝達関数の分子Bと、制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sと、制御対象Pの操作量uと、制御対象Pの出力yとを含む関係式である(1)式を用いてR、Sを求めることにより、R、Sをより容易に求めることができる。
【0047】
一般的に、制御部20の伝達関数の分子S及び分母Rの次数は、それぞれ、制御対象Pに応じて決定される。具体的には、制御対象Pの分子の次数をnB、分母の次数をnAとすると、Rの次数はnB+d-1、Sの次数はnA-1となる。これに対し、本実施形態のように、
図2に示すフィードバックループ10の振動抑制制御をベースにして制御部20の伝達関数を決めることにより、制御対象Pの次数に関係なく、振動抑制制御に対応したR、Sの次数を決定することができる。例えば、R、Sの次数は、
図2に示すフィードバックループ10の制御部20に含まれるバンドパスフィルタ21及び位相補償部22によって決まる。
【0048】
また、
図2に示すフィードバックループ10の振動抑制制御をベースにして制御部20の伝達関数を決めることにより、制御対象Pに対する制御において理想とする伝達関数の分母Cも容易に求めることができる。例えば、理想の伝達関数の分母Cは、制御対象Pの伝達関数に基づいて得られる。制御対象Pの伝達関数を(6)式とすると、ζ=1の場合には振動及びオーバーシュートが生じないシステムであるため、制御対象Pに対する制御において理想とする伝達関数の分母Cは、(6)式においてζ=1の場合で離散化した伝達関数の分母である。このように、制御対象Pに対する制御において理想とする伝達関数の分母Cを容易に求めることができる。
【数3】
【0049】
以上より、本実施形態の構成により、伝達関数更新部30によってR、Sを求める際に用いる(1)式を、容易に決定することができる。
【0050】
以下で、
図5に示す周波数特性を有する制御対象の応答特性について説明する。
図5は、制御対象の周波数特性の一例を示す図である。
図5において、実線は、設計どおりの制御対象の周波数特性の一例であり、破線は、設計と異なる制御対象の周波数特性の一例である。
【0051】
図6は、設計どおりの制御対象(図では、設計の制御対象)に対してチャープ信号を入力した場合の時間応答の一例を示す図である。
図7は、設計と異なる制御対象に対してチャープ信号を入力した場合の時間応答の一例を示す図である。
図6及び
図7において、それぞれ、制御系に対して振動抑制制御を適用した場合を「制御あり」で示し、制御系に対して振動抑制制御を適用していない場合を「制御なし」で示す。
【0052】
図6及び
図7に示すように、設計どおりの制御対象の方が、設計と異なる制御対象よりも、共振周波数の振動を抑制できている。
【0053】
図8は、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用して、設計どおりの制御対象に対してチャープ信号を入力した場合の時間応答の一例を示す図である。
図9は、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用して、設計と異なる制御対象に対してチャープ信号を入力した場合の時間応答の一例を示す図である。
図8及び
図9において、それぞれ、制御系に対して振動抑制制御を適用した場合を「制御あり」で示し、制御系に対して振動抑制制御を適用していない場合を「制御なし」で示す。なお、
図8及び
図9における「制御なし」の場合の時間応答の波形は、
図6及び
図7における「制御なし」の場合の時間応答と同じ波形である。
【0054】
図8及び
図9に示すように、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用することにより、
図6及び
図7に比べて、共振周波数の振動を抑制できている。すなわち、
図8及び
図9における「制御あり」の波形の振幅は、
図6及び
図7における「制御あり」の波形の振幅よりもそれぞれ小さい。よって、
図1に示す制御系に本実施形態の構成を適用することにより、より高い振動抑制の効果が得られる。
【0055】
図10は、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用して、設計どおりの制御対象に対してステップ信号を入力した場合のステップ応答の一例を示す図である。
図11は、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用して、設計と異なる制御対象に対してステップ信号を入力した場合のステップ応答の一例を示す図である。
図10及び
図11において、それぞれ、制御系に対して振動抑制制御を適用した場合を「制御あり」で示し、制御系に対して振動抑制制御を適用していない場合を「制御なし」で示す。
【0056】
図10及び
図11に「制御あり」で示すように、ステップ応答でも、フィードバックループの制御部に本実施形態の構成を適用することにより、共振周波数の振動を抑制できている。よって、この点からも、
図1に示す制御系に本実施形態の構成を適用することにより、より高い振動抑制の効果が得られることが分かる。
【0057】
本実施形態に係る制御装置2は、制御対象Pの共振周波数における振動の抑制制御を行う。制御装置2は、バンドパスフィルタ、位相補償器及び振幅調整器の機能を有する制御部20を有し、制御対象Pの出力を入力側に負帰還させることにより制御対象Pの操作量uを求めるフィードバックループ10と、制御対象Pの操作量u及び出力yに応じて、フィードバックループ10の制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを更新する伝達関数更新部30と、を有する。
【0058】
このようにフィードバックループ10の制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを、制御対象Pの操作量u及び出力yに応じて更新することにより、制御対象Pの伝達関数が時間とともに変化した場合または制御対象Pのモデルが設計時と実際とで誤差を有する場合でも、制御部20の伝達関数を、制御対象Pの振動を抑制可能な伝達関数に設定することができる。
【0059】
よって、制御装置2が、上述のように制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを調整可能な伝達関数更新部30を有することにより、制御対象Pの振動をロバストに抑制することができる。
【0060】
しかも、上述の構成により、フィードバックループ10の振動抑制制御をベースに共振抑制制御を行うことができるため、制御部20の伝達関数の次数及び伝達関数更新部30で前記伝達関数を更新する際に用いる定数等を容易に把握できる。よって、簡単な構成によって、制御対象Pの振動をロバストに抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、伝達関数更新部30は、制御対象Pに対する制御において理想とする伝達関数の分母Cと、制御対象Pの実際の伝達関数の分子Bと、制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sと、制御対象Pの操作量uと、制御対象Pの出力yとを含む関係式である(1)式を用いて、制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを更新する。
【0062】
これにより、制御対象Pにおけるモデル化誤差を考慮して、制御対象Pに対して理想応答になるように、制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを容易に更新することができる。よって、制御対象Pにおけるモデル化誤差の影響を低減した振動抑制制御を容易に実現することができる。なお、前記モデル化誤差は、制御対象の伝達関数が時間とともに変化した場合、制御対象のモデルが設計時と実際とで誤差を有する場合などを含む。
【0063】
また、本実施形態では、伝達関数更新部30は、(1)式を用いて、両辺の誤差が最小になるように、制御部20の伝達関数の分母及び分子を更新する。
Cy(k)=BRu(k-d)+BSy(k-d) (1)
ここで、Cは制御対象Pに対する制御において理想とする伝達関数の分母であり、Bは制御対象Pの伝達関数の分子であり、Rは制御部20の伝達関数の分母であり、Sは制御部20の伝達関数の分子であり、u(k)は制御対象Pの操作量であり、y(k)は制御対象Pの出力であり、dは制御対象Pにおける応答の遅れである。
【0064】
これにより、制御対象Pにおけるモデル化誤差の影響を低減した振動抑制制御を容易に実現することができる。
【0065】
また、本実施形態では、伝達関数更新部30は、適応制御によって、制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを更新する。なお、本実施形態では、前記適応制御におけるセルフチューニングレギュレータを用いて、制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを更新する。
【0066】
これにより、適応制御を用いて、制御対象Pに対して理想応答になるように、制御部20の伝達関数の分母R及び分子Sを容易に求めることができる。
【0067】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0068】
前記実施形態では、制御装置2は、1つのフィードバックループ10を有する。しかしながら、制御装置は、2つ以上のフィードバックループを有していてもよい。この場合には、複数のフィードバックループに対し、トルク検出器の出力値において通過する信号の帯域が異なるのが好ましい。
【0069】
前記実施形態において、制御装置2は、サーボ制御やフィードフォワード制御などの他の制御を行ってもよい。また、制御装置2は、むだ時間制御などを行ってもよい。
【0070】
前記実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含む。しかしながら、制御対象は、他の構成を含んでいてもよいし、他の構成を有する軸系を含んでいてもよい。
【0071】
前記実施形態では、制御装置2のフィードバックループ10の制御部20は、バンドパスフィルタ21、位相補償部22及び振幅調整部23の機能を有する。しかしながら、制御装置のフィードバックループは、他の構成を含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、制御対象の共振周波数における振動を抑制する共振抑制制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 試験装置
2 制御装置(共振抑制制御装置)
3 モータ駆動回路
4 電動モータ
5 トルク検出器
10 フィードバックループ
20 制御部
21 バンドパスフィルタ
22 位相補償部
23 振幅調整部
30 伝達関数更新部
P 制御対象
M 供試体