(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098605
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】高調波抑制装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240717BHJP
【FI】
H02M7/48 R
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002195
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西尾 元紀
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770AA28
5H770BA05
5H770BA11
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA23
5H770DA41
5H770HA02W
5H770HA02Z
5H770HA03W
5H770HA14W
5H770HA15W
5H770KA01W
(57)【要約】
【課題】ノイズ除去用フィルタおよび変換器用リアクトルについてコストの低減および構成の簡略化が図れる高調波抑制装置を提供する。
【解決手段】
高調波抑制装置は、交流系統と負荷との間の系統ラインに接続され、マルチレベルの交流電圧を生成しそれを前記系統ラインへ出力する電力変換器と;前記系統ラインに流れる負荷電流に含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、その補償電流を前記系統ラインに供給するための補償電圧を前記電力変換器から出力させる制御部と;フィルタ用リアクトルとフィルタ用コンデンサで構成され前記系統ラインに接続されるノイズ除去用フィルタ、および前記フィルタ用リアクトルと特性が同じで前記ノイズ除去用フィルタと前記電力変換器の出力端との間に接続される変換器用リアクトルを含むパッシブフィルタと;を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統と負荷との間の系統ラインに接続され、マルチレベルの交流電圧を生成しそれを前記系統ラインへ出力する電力変換器と、
前記系統ラインに流れる負荷電流に含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、その補償電流を前記系統ラインに供給するための補償電圧を前記電力変換器から出力させる制御部と、
フィルタ用リアクトルとフィルタ用コンデンサで構成され前記系統ラインに接続されるノイズ除去用フィルタ、および前記フィルタ用リアクトルと特性が同じで前記ノイズ除去用フィルタと前記電力変換器の出力端との間に接続される変換器用リアクトルを含むパッシブフィルタと、
を備える高調波抑制装置。
【請求項2】
前記パッシブフィルタは、前記電力変換器とは別体の1つの回路基板を含み、この回路基板に前記フィルタ用リアクトル,前記フィルタ用コンデンサ,前記変換器用リアクトルを実装するとともに、前記フィルタ用リアクトルを前記系統ラインに配線接続するための第1端子と前記変換器用リアクトルを前記電力変換器の出力端に配線接続するための第2端子とを前記回路基板の対象的な位置に配置している、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項3】
前記第1端子および前記第2端子は、仕様が互いに同一のコネクタであり、前記回路基板上に設けられている、
請求項2に記載の高調波抑制装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検出した高調波成分が設定値未満の場合に、前記電力変換器のスイッチングを停止する、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記負荷電流の値に応じて前記電力変換器のスイッチング周波数を変化させる、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記系統ラインに流れる負荷電流の所定周波数域をフィルタ処理により除去し、除去した負荷電流から高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、その補償電流を前記系統ラインに供給するための補償電圧を前記電力変換器から出力させるとともに、前記フィルタ処理のカットオフ周波数を前記系統ラインに流れる負荷電流の値に応じて変化させる、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項7】
前記電力変換器は、前記交流系統に前記負荷とは並列の関係に接続され、複数の単位変換器の直列接続により構成されるクラスタを前記交流系統の相ごとに有するマルチレベル変換器からなる、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の高調波抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高調波を抑制する高調波抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオード整流器など非線形な特性を持つ負荷を交流系統に接続した場合、負荷に流れる電流(負荷電流)に高調波成分が生じる。この高調波成分は交流系統を通して他の負荷へ悪影響を与えるため、それをいかに抑制するかが重要な課題となっている。
【0003】
対策として、負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波抑制装置が使用される。高調波抑制装置は、ノイズ除去用フィルタおよび変換器用リアクトルを介して交流系統と負荷との間の系統ラインに接続される変換器たとえば2レベル変換器を含み、負荷電流の高調波成分に対する抑制用の電圧をその変換器のスイッチングにより生成し、生成した電圧を系統ラインに供給する。
【0004】
ノイズ除去用フィルタは、フィルタ用リアクトルとフィルタ用コンデンサとで構成され、変換器のスイッチングにより生じる高周波ノイズが系統ラインに流れて他の電気機器に悪影響を与えないよう、その高周波ノイズをフィルタ用リアクトルよりもインピーダンスが小さいフィルタ用コンデンサに導いて吸収する。変換器用リアクトルは、変換器のスイッチングにより生じる電流リップルを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態の目的は、ノイズ除去用フィルタおよび変換器用リアクトルについてコストの低減および構成の簡略化が図れる高調波抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の高調波抑制装置は、交流系統と負荷との間の系統ラインに接続され、マルチレベルの交流電圧を生成しそれを前記系統ラインへ出力する電力変換器と;前記系統ラインに流れる負荷電流に含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、その補償電流を前記系統ラインに供給するための補償電圧を前記電力変換器から出力させる制御部と;フィルタ用リアクトルとフィルタ用コンデンサで構成され前記系統ラインに接続されるノイズ除去用フィルタ、および前記フィルタ用リアクトルと同じ特性を有し前記ノイズ除去用フィルタと前記電力変換器の出力端との間に接続される変換器用リアクトルを含むパッシブフィルタと;を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は同実施形態における各単位変換器の構成を示すブロック図。
【
図3】
図3は同実施形態におけるパッシブフィルタの回路基板を示す図。
【
図4】
図4は同実施形態におけるパッシブフィルタのゲイン特性を示す図。
【
図6】
図6は同実施形態におけるパッシブフィルタの共振周波数の変化をリアクトルの直流重畳特性の有無に応じた複数の条件で示す図。
【
図7】
図7は同実施形態の変形例における制御部の要部の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、交流系統(3相交流電源、電力系統、配電系統などを含む)1の系統ライン(電源ライン)Lr,Ls,Ltに負荷たとえば空気調和機2が接続されている。
【0010】
空気調和機2は、6個のダイオード3a~3fのブリッジ接続により構成され交流系統1の系統電圧(交流電圧)Vr,Vs,Vtを全波整流する全波相整流回路(ダイオード整流器)3、この全波整流回路3の出力端に直流リアクトル4を介して接続された直流コンデンサ5、この直流コンデンサ5の両端に接続されたインバータ6、このインバータ6の出力により動作する圧縮機モータ7を含む。インバータ6は、直流コンデンサ5の直流電圧をスイッチングにより所定周波数の交流電圧に変換し、その交流電圧を圧縮機モータ7の駆動電力として出力する。
【0011】
交流系統1と空気調和機2との間の系統ラインLr,Ls,Ltに、本実施形態の高調波抑制装置10が接続されている。高調波抑制装置10のことをアクティブフィルタ10ともいう。
【0012】
高調波抑制装置10は、パッシブフィルタ11を介して系統ラインLr,Ls,Ltに空気調和機2とは並列の関係に接続された電力変換器40、系統ラインLr,Ls,Ltにおけるパッシブフィルタ11の接続位置と空気調和機2との間に配置され交流系統1から空気調和機2の全波整流回路3に流れる電流(負荷電流という)Ir,Isを検出する検出器(検出手段)15、系統ラインLr,Ls,Ltに接続され交流系統1の系統電圧(交流電圧)Vr,Vs,Vtを検出する検出器(検出手段)16、パッシブフィルタ11と電力変換器40との接続間に配置され電力変換器40からパッシブフィルタ11に流れる補償電流Icr,Icsを検出する検出器(検出手段)17、これら検出器15,16,17の検出結果に応じて電力変換器40を制御する制御部30を含む。
【0013】
パッシブフィルタ11は、系統ラインLr,Ls,Ltに一端が接続されるフィルタ用リアクトル12r,12s,12tおよびこれらフィルタ用リアクトル12r,12s,12tの他端に接続されかつ互いに星形結線されたフィルタ用コンデンサ13r,13s,13tにより構成されたノイズ除去用フィルタ18を含むとともに、このノイズ除去用フィルタ18と電力変換器40の出力端40r,40s,40tとの間に接続される変換器用リアクトル14r,14s,14tを含む。フィルタ用リアクトル12r,フィルタ用コンデンサ13r,変換器用リアクトル14rによりLCL回路が形成され、フィルタ用リアクトル12s,フィルタ用コンデンサ13s,変換器用リアクトル14sによりLCL回路が形成され、フィルタ用リアクトル12t,フィルタ用コンデンサ13t,変換器用リアクトル14tによりLCL回路が形成されている。
【0014】
ノイズ除去用フィルタ18は、電力変換器40のスイッチングにより生じる高周波ノイズが系統ラインLr,Ls,Ltに流れて他の電気機器に悪影響を与えないよう、その高周波ノイズをフィルタ用リアクトル12r,12s,12tよりもインピーダンスが小さいフィルタ用コンデンサ13r,13s,13tに導いて吸収する。変換器用リアクトル14r,14s,14tは、電力変換器40のスイッチングにより生じる電流リップルを抑える。
【0015】
電力変換器40は、いわゆるマルチレベル変換器(MMC)であり、系統ラインLr,Ls,Ltの各相に対応する3つのクラスタ41,42,43を含む。
系統ラインLrに出力端(一端側)40rが接続されるクラスタ41は、それぞれが複数レベル(マルチレベル)の直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数の単位変換器(セル)50を直列接続(カスケード接続)してなるいわゆる多直列変換器クラスタであり、各単位変換器50の出力電圧(セル出力電圧)Vcr1,Vcr2,Vcr3を適宜足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形のマルチレベルの交流電圧Vcr0(=Vcr1+Vcr2+Vcr3)を生成し、それを出力端40rから出力する。ここで、通常時は各セル出力電圧は同じであることから、交流電圧Vcr0は0を含む4段階(レベル)の電圧出力が可能となる。直列接続される単位変換器50の数を増やせば、さらに段数を上げることも可能である。
【0016】
系統ラインLsに出力端(一端側)40sが接続されるクラスタ42も、クラスタ41と同一回路構成であり、各単位変換器50の出力電圧Vcs1,Vcs2,Vcs3を適宜足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vcs0(=Vcs1+Vcs2+Vcs3)を生成し、それを出力端40sから出力する。
【0017】
系統ラインLtに出力端(一端側)40tが接続されるクラスタ43も、クラスタ41と同一回路構成であり、各単位変換器50の出力電圧Vct1,Vct2,Vct3を適宜足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vct0(=Vct1+Vct2+Vct3)を生成し、それを出力端40tから出力する。これらクラスタ40r~40tの出力端(他端側)は、点Pで共通接続されている。
【0018】
クラスタ41における各単位変換器50の具体的な構成を代表として
図2に示す。
単位変換器50は、一対の出力端子、それぞれ還流ダイオードDを有する半導体スイッチ素子Qa,Qb,Qc,Qd、これら半導体スイッチ素子Qa~Qdを介して上記出力端子に接続された補償用コンデンサC、制御部30からの駆動信号に応じて半導体スイッチ素子Qa~Qdを駆動するゲートドライブ回路58、このゲートドライブ回路58の動作用電圧を補償用コンデンサCの電圧から生成する給電回路53、補償用コンデンサCの電圧を検出して制御部30に知らせる電圧検出回路51を含み、半導体スイッチ素子Qa~Qdのスイッチング(オン,オフ)による複数の通電路の選択的な形成により複数レベルの直流電圧を生成し出力する。
【0019】
制御部30は、検出器15で検出される負荷電流Ir,Isおよびその負荷電流Ir,Isから算出した負荷電流Itに含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために負荷電流Ir,Is,Itに加えるべき補償電流の目標値Icrs,Icss,Ictsを求め、その補償電流の目標値Icrs,Icss,Ictsと実際に流れている補償電流値Icr,Ics,Ictとの差に基づき系統ラインLr,Ls,Ltに供給するために必要な補償電圧Vcr0,Vcs0,Vct0を電力変換器40で生成し出力させる。この際、実際に流れている補償電流値Ictは、補償電流Icr,Icsを検出する検出器(検出手段)17の検出結果から算出される。
【0020】
[フィルタ用リアクトルと変換器用リアクトル]
高調波抑制装置10では、マルチレベル変換器(MMC)を電力変換器40として用いているので、仮に電力変換器40が2レベル変換器である場合に比べ、変換器用リアクトル14r,14s,14tに加わる電圧を低減できる。これにより、パッシブフィルタ11のフィルタ用リアクトル12r,12s,12tと同じ特性を有する変換器用リアクトル14r,14s,14tの採用が可能となる。すなわち、フィルタ用リアクトル12r,12s,12tおよび変換器用リアクトル14r,14s,14tを同じ特性のものに共通化することができる。具体的には、変換器用リアクトル14r,14s,14tのインダクタンス・形状・大きさ・重量等の仕様をフィルタ用リアクトル12r,12s,12tのインダクタンス・形状・大きさ・重量等の仕様と同一のものに小さくすることができる。この部品の共通化により、コストの低減および構成の簡略化が図れる。
【0021】
[パッシブフィルタ11の回路基板11x]
パッシブフィルタ11は、
図3に示すように、電力変換器40とは別体の1つの回路基板11xに形成され、この回路基板に11xにフィルタ用リアクトル12r,12s,12t、フィルタ用コンデンサ13r,13s,13t、変換器用リアクトル14r,14s,14tを実装している。回路基板11xは、相対向する一対の長側辺11xa,11xbおよび相対向する一対の短側辺11xc,11xdからなる矩形形状を有する。
【0022】
そして、フィルタ用リアクトル12r,12s,12tを系統ラインLr,Ls,Ltに配線接続するための系統側接続端子(第1端子)11ar,11as,11atと、変換器用リアクトル14r,14s,14tを電力変換器40の出力端40r,40s,40tに配線接続するための変換器側端子(第2端子)11br,11bs,11btとを、回路基板11xの対象的な位置に配置している。対象的な位置として、具体的には、回路基板11xにおける長側辺11xaの近傍位置にその長側辺11xaに沿って系統側接続端子11ra,11sa,11taを配列し、長側辺11xbの近傍位置にその長側辺11xbに沿って変換器側接続端子11rb,11sb,11tbを配列している。
【0023】
さらに、回路基板11xにおける系統側接続端子11ra,11sa,11taより内側の領域に長側辺11xaに沿ってフィルタ用リアクトル12r,12s,12tを配列し、変換器側接続端子11rb,11sb,11tbより内側の領域に長側辺11xbに沿って変換器用リアクトル14r,14s,14tを配列している。フィルタ用リアクトル12r,12s,12tと変換器用リアクトル14r,14s,14tとの間の領域にフィルタ用コンデンサ13r,13s,13tを配列している。
【0024】
系統側接続端子11ar,11as,11atが誤って電力変換器40の出力端40r,40s,40tに配線接続され、変換器側接続端子11br,11bs,11btが誤って系統ラインLr,Ls,Ltに配線接続される誤配線が生じた場合でも、フィルタ用リアクトル12r,12s,12tおよび変換器用リアクトル14r,14s,14tは互いに同じ特性を有する共通部品なので、フィルタ用リアクトル12r,12s,12tは変換器用リアクトルとして機能し、変換器用リアクトル14r,14s,14tはフィルタ用リアクトルとして機能する。このように系統ラインLr,Ls,Ltと電力変換器40に対する回路基板11xの接続の方向性がなくなるので、誤配線や各部品の誤挿入の影響を受けることなく、高調波抑制装置10の通常の動作を実行することができる。このため、部品の共通化を図ることができるとともに製造性が向上する。さらに、系統ラインLr,Ls,Ltと電力変換器40に対する回路基板11xの接続の方向性がなくなるので、系統側接続端子11ar,11as,11atと変換器側接続端子11br,11bs,11btを誤接続防止用に別仕様のコネクタを使用する必要がなくなる。したがって、仕様が互いに同一のコネクタ、すなわちサイズ、差し込み構造や、差し込み寸法などが互いに同一のコネクタ、を使用することができる。この結果、更なる部品の共通化を図ることができ、製造性が向上する。
【0025】
[パッシブフィルタ11の共振周波数fc]
パッシブフィルタ11のゲイン特性を
図4に示す。フィルタ用リアクトル12rのインダクタンスをLf、フィルタ用コンデンサ13rの容量をCf、変換器用リアクトル14rのインダクタンスをLbとした場合、フィルタ用リアクトル12r,フィルタ用コンデンサ13r,系統連系用リアクトル14rからなるLCL回路の共振周波数fcは下式で表わされる。
【0026】
【数1】
フィルタ用リアクトル12rの特性と変換器用リアクトル14rの特性が同じなので、インダクタンスLfとインダクタンスLbを同じLで表わすと、共振周波数fcは下式で表わされる。
【0027】
【数2】
フィルタ用リアクトル12s,フィルタ用コンデンサ13s,変換器用リアクトル14sからなるLCL回路の共振周波数fc、およびフィルタ用リアクトル12t,フィルタ用コンデンサ13t,変換器用リアクトル14tからなるLCL回路の共振周波数fcも、同様の式で表わされる。
【0028】
[リアクトルの直流重畳特性]
リアクトルには、
図5に示すように、コイルに流れる直流電流が増えるのに伴いコアにおける磁気飽和が生じてインダクタンスが低下していく“直流重畳特性のあるリアクトル”と、コイルに流れる直流電流が増えても磁気飽和が生じない“直流重畳特性のないリアクトル”とがある。磁気飽和が生じない“直流重畳特性のないリアクトル”を用いるのが理想的であるが、そのためにコアを大型化したり特性の良い材料でコアを成形するなどの処置が必要で、コストの上昇を招いてしまう。“直流重畳特性のあるリアクトル”を用いる方がコスト面で有利である。
【0029】
本実施形態では、フィルタ用リアクトル12r~12tと変換器用リアクトル14r~14tの共通部品化によるコスト低減に加えてさらなるコスト低減を図るため、“直流重畳特性のあるリアクトル“をフィルタ用リアクトル12r~12tおよび変換器用リアクトル14r~14tとして用いている。
【0030】
ただし、“直流重畳特性のあるリアクトル“の採用に際しては、共振周波数fcが定まらないことに対処する必要がある。
図6は、パッシブフィルタ11の共振周波数fcが、フィルタ用リアクトル12r~12tおよび変換器用リアクトル14r~14tの直流重畳特性の有無に応じてどのように異なるかの3つの例を示している。
【0031】
“直流重畳特性のないリアクトル”をフィルタ用リアクトル12r~12tおよび変換器用リアクトル14r~14tとして用いる条件Aでは、電流の変化にかかわらず共振周波数fcが一定である。“直流重畳特性のないリアクトル”をフィルタ用リアクトル12r~12tとして用い、“直流重畳特性のあるリアクトル”を変換器用リアクトル14r~14tとして用いる条件Bでは、電流が大きいほど共振周波数fcが高くなり、電流が小さいほど共振周波数fcが低くなる。本実施形態のように、“直流重畳特性のあるリアクトル”をフィルタ用リアクトル12r~12tおよび変換器用リアクトル14r~14tとして用いる条件Cでは、電流の変化に伴う共振周波数fcの変化の度合いが条件Bの場合よりも大きくなる。
【0032】
2レベル変換器やマルチレベル変換器(MMC)を用いた電力変換器40では、全波整流回路(ダイオード整流器)3の急峻な電流変化に追従できるよう、電力変換器40に対する制御部30の電流制御の周波数帯域が通常のコンバータを用いる場合よりも広く設定される。このような状況では、負荷電流Ir,Is,It(高調波成分を含む)が小さくなる低負荷時、すなわち補償電流Icr,Ics,Ictが小さい時には、共振周波数fcが低下して電流制御帯域に近づく可能性がある。共振周波数fcが低下して電流制御帯域に近づくと、電流制御値が共振周波数fcの影響を受けて大きく振動し、電力変換器40およびその周辺回路に悪影響を与える可能性がある。
【0033】
この点を考慮し、制御部30は、負荷電流Ir,Is,Itから検出した高調波成分が予め定めた設定値未満の場合に、電力変換器40のスイッチングを停止する。この停止により、電流制御値が共振周波数fcの影響を受けて大きく振動する不具合を回避することができる。
【0034】
[変形例1]
電流制御値が共振周波数fcの影響を受けて大きく振動する不具合を回避する制御の変形例として、制御部30は、負荷電流Ir,Is,Itの値に応じて電力変換器40のスイッチング周波数を変化させる。具体的には、電力変換器40の各単位変換器50に対するスイッチング用のキャリア周波数を負荷電流Ir,Is,Itの値に応じて変化させる。これにより、負荷電流Ir,Is,It(高調波成分を含む)の変化に伴って共振周波数fcが変化しても、その共振周波数fcが電力変換器40のスイッチング周波数に近づいたり一致する状況を未然に防ぐことができる。
【0035】
[変形例2]
電流制御値が共振周波数fcの影響を受けて大きく振動する不具合を回避する制御の別の変形例として、制御部30は、検出器15で検出した負荷電流Ir,Isおよびその負荷電流Ir,Isから算出した負荷電流Itの所定周波数域をフィルタ処理により除去し、除去した負荷電流Ir,Is,Itから高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために負荷電流Ir,Is,Itに加えるべき補償電流の目標値Icrs,Icss,Ictsを求め、その補償電流の目標値Icrs,Icss,Ictsと実際に流れている補償電流値Icr,Ics,Ictとの差に基づきを系統ラインLr,Ls,Ltに供給するために必要な補償電圧Vcr0,Vcs0,Vct0を電力変換器40で生成し出力させる。
【0036】
そして、制御部30は、上記フィルタ処理のカットオフ周波数を上記検出および算出した負荷電流Ir,Is,Itの値に応じて変化させる。具体的には、負荷電流Ir,Is,Itの値が大きいほどカットオフ周波数を高く設定し、負荷電流Ir,Is,Itの値が小さいほどカットオフ周波数を低く設定する。これにより、負荷電流Ir,Is,It(高調波成分を含む)の変化に伴って共振周波数fcが変化しても、その共振周波数fcが電力変換器40のスイッチング周波数に近づいたり一致する状況を回避することができる。
【0037】
同様に、補償電流Icr,Ics,Ictの検出値に対して所定周波数域をフィルタ処理により除去することも共振回避に有効である。
【0038】
負荷電流Ir,Is,It及び補償電流Icr,Ics,Ictの双方をフィルタ処理した場合の制御部30の要部構成を
図7に示す。なお、フィルタ処理を行うのは負荷電流Ir,Is,It及び補償電流Icr,Ics,Ictのいずれか一方のみでもよい。
【0039】
コンデンサ電圧制御部60は、通常の高調波抑制制御において電圧検出回路51で検出される補償用コンデンサCのコンデンサ電圧Vcに対する電圧調整用電流指令値を出力する。ここで、コンデンサ電圧Vcは、クラスタ41における各単位変換器50内の補償用コンデンサCのコンデンサ電圧の合計値である。このコンデンサ電圧Vcとして例えば“Vc=Vcr1+Vcr2+Vcr3”が用いられる。通常時は、各補償用コンデンサCのコンデンサ電圧は同一なので、いずれか1つのコンデンサ電圧を代表として用いることも可能である。
【0040】
フィルタ61は、負荷電流Ir,Is,Itの所定周波数域を除去する例えばローパスフィルタまたはノッチフィルタであり、カットオフ周波数が負荷電流Ir,Is,Itの値に応じて変化する。すなわち、負荷電流Ir,Is,Itの値が大きいほどカットオフ周波数が高くなり、負荷電流Ir,Is,Itの値が小さいほどカットオフ周波数が低くなる。
【0041】
回転座標変換部62は、フィルタ61で所定周波数域が除去された負荷電流Ir,Is,Itの値を検出器16で検出される系統電圧Vr,Vs,Vtの位相θに基づいて回転座標変換することにより、負荷電流Ir,Is,Itに対応する回転座標軸上のd軸負荷電流Idを求める。ローパスフィルタ(LPF)63は、回転座標変換部62で得られるd軸負荷電流Idの低周波成分を抽出する。演算部64は、ローパスフィルタ63で抽出された低周波数成分を回転座標変換部62で得られるd軸負荷電流Idから減算することにより、d軸負荷電流Idの高調波成分Idhを検出する。
【0042】
演算部65は、演算部64で検出された高調波成分Idhを抑制するためにd軸負荷電流Idに加えるべきd軸補償電流の指令値(目標値)Idrefを算出するとともに、算出したd軸補償電流の指令値Idrefに対しコンデンサ電圧制御部60から供給される電圧調整用電流指令値を加える。
【0043】
d軸補償電流の指令値Idrefは、高調波成分Idhを抑制するために負荷電流Ir,Is,Itに加えるべき補償電流Icr,Ics,Ictの目標値に相当する。補償電流Icr,Ics,Ictとは、負荷電流Ir,Is,Itをできるだけ系統電圧Vr,Vs,Vtと同期する正弦波に近づけるために、その負荷電流Ir,Is,Itに足し合わせるべき電流のことである。
【0044】
フィルタ67は、検出器17で検出される補償電流Icr,Icsおよびその補償電流Icr,Icsから算出する補償電流Ictの所定周波数域を除去する例えばローパスフィルタまたはノッチフィルタであり、カットオフ周波数が負荷電流Ir,Is,Itの値に応じて変化する。すなわち、負荷電流Ir,Is,Itの値が大きいほどカットオフ周波数が高くなり、負荷電流Ir,Is,Itの値が小さいほどカットオフ周波数が低くなる。ここでは、フィルタ67として、フィルタ61と同じ特性のフィルタを使用している。
【0045】
回転座標変換部68は、フィルタ67で所定周波数域が除去された補償電流Icr,Ics,Ictの値を検出部16で検出される電源電圧Er,Es,Etの位相θに基づいて回転座標変換することにより、現時点で出力されている補償電流Icr,Ics,Ictに対応する回転座標軸上のd軸補償電流Icdを求める。演算部66は、演算部65で算出されるd軸補償電流の指令値Idrefと回転座標変換部68で得られるd軸補償電流Icdとの偏差を求める。
【0046】
電流制御部69は、演算部66で求められる偏差に対応する補償電流Icr,Ics,Ictを系統ラインLr,Ls,Ltに供給するために電力変換器40から出力させるべき補償電圧Vcr,Vcs,Vctを算出し、その補償電圧Vcr,Vcs,Vctが得られるように電力変換器40の各単位変換器50におけるスイッチ素子Q1~Q4のオン,オフ動作をパルス幅変調制御(PWM制御)する。
【0047】
その他、上記実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態および変形例は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1…交流系統(三相交流電源)、2…負荷、Lr,Ls,Lt…系統ライン、10…高調波抑制装置、11…パッシブフィルタ、11x…回路基板、12r~12t…フィルタ用リアクトル、13r~13t…フィルタ用コンデンサ、14r~14t…変換器用リアクトル、15,16,17…検出器、18…ノイズ除去用フィルタ、40…電力変換器、41,42,43…クラスタ、50…単位変換器、30…制御部。