(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098610
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】肥料組成物の製造方法、発酵鶏糞処理方法、及び光合成抑制剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05F 3/00 20060101AFI20240717BHJP
C05G 5/20 20200101ALI20240717BHJP
C05G 5/10 20200101ALI20240717BHJP
C05F 11/02 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C05F3/00
C05G5/20
C05G5/10
C05F11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002200
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】510152426
【氏名又は名称】前川 義雄
(71)【出願人】
【識別番号】523011509
【氏名又は名称】株式会社ティーズリンク
(71)【出願人】
【識別番号】508077159
【氏名又は名称】有限会社薔薇園植物場
(74)【代理人】
【識別番号】100134706
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 俊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151161
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 彩
(72)【発明者】
【氏名】前川 義雄
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA02
4H061CC38
4H061CC58
4H061EE02
4H061FF01
4H061FF06
4H061GG13
4H061GG41
4H061GG43
4H061GG48
4H061GG52
4H061GG54
4H061GG64
4H061HH07
4H061HH50
4H061LL06
4H061LL09
4H061LL25
(57)【要約】
【課題】発酵鶏糞の利用展開をさらに広げることが期待できる肥料組成物の製造方法、発酵鶏糞処理方法、及び光合成抑制剤の製造方法を提供する。
【解決手段】肥料組成物の一例である液肥組成物11は粉砕分級工程S1と、フルボ酸混合工程S2とを有する製造方法により製造される。粉砕分級工程S1は、整粒された発酵鶏糞15を粉砕し、分級して相対的に大きな粒径の粒を除去する。フルボ酸混合工程S2は、粉砕分級工程S1を経て得られた発酵鶏糞である発酵鶏糞粒15に、フルボ酸21を混合する。この製造方法は発酵鶏糞処理方法でもあり、液肥組成物11は光合成抑制剤として利用することができるのでこの製造方法は光合成抑制剤の製造方法でもある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
整粒された発酵鶏糞を粉砕し、分級して相対的に大きな粒径の粒を除去する粉砕分級工程と、
前記粉砕分級工程を経た前記発酵鶏糞に、フルボ酸を混合するフルボ酸混合工程と
を有する肥料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記フルボ酸混合工程は、前記発酵鶏糞の体積をXとするときに、0.03X以上0.3X以下の範囲内の体積の前記フルボ酸を混合する請求項1に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記肥料組成物は液肥組成物であり、
前記フルボ酸混合工程は、水の存在下で前記フルボ酸を発酵鶏糞に混合する請求項1または2に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記フルボ酸混合工程の前に、前記粉砕分級工程を経て得られた発酵鶏糞粒と前記水とを混合した鶏糞粒液を、高くても23kHzの周波数の超音波で処理する超音波処理工程
を有し、
前記フルボ酸混合工程は、前記超音波処理工程を経た前記鶏糞粒液に、前記フルボ酸を添加して攪拌し、
さらに、前記フルボ酸混合工程を経た前記鶏糞粒液を大きくても1mmの孔径のフィルタでろ過してろ液を得るろ過工程
を有する請求項3に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記超音波処理工程は、前記鶏糞粒液における下部を攪拌する請求項4に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記肥料組成物は固体肥料組成物であり、
前記フルボ酸混合工程は、前記発酵鶏糞に、前記フルボ酸を含有する腐植酸を混合し、攪拌する請求項1または2に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項7】
整粒された発酵鶏糞を粉砕し、分級して相対的に大きな粒径の粒を除去する粉砕分級工程と、
前記粉砕分級工程を経た前記発酵鶏糞に、フルボ酸を混合するフルボ酸混合工程と
を有する発酵鶏糞処理方法。
【請求項8】
整粒された発酵鶏糞を粉砕し、分級して相対的に大きな粒径の粒を除去する粉砕分級工程と、
前記粉砕分級工程を経た前記発酵鶏糞に、フルボ酸を混合するフルボ酸混合工程と
を有する光合成抑制剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料組成物の製造方法、発酵鶏糞処理方法、及び光合成抑制剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵鶏糞は、固体肥料や液体肥料としても古くから利用されている。例えば特許文献1には、固形有機肥料を水で抽出する液体肥料の製造方法において、発酵鶏糞と水との混合物を、攪拌下に超音波処理して抽出し、抽出液より固形分を分離することで液体有機肥料を製造する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される製造方法により得られる液体有機肥料は、発酵鶏糞の肥料用途として従来から知られている効能をもつにすぎず、発酵鶏糞の利用展開をさほど広げるとは言えない。
【0005】
そこで、本発明は、発酵鶏糞の利用展開をさらに広げることが期待できる肥料組成物の製造方法、発酵鶏糞処理方法、及び光合成抑制剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の肥料組成物の製造方法は、粉砕分級工程とフルボ酸混合工程とを有する。粉砕分級工程は、整粒された発酵鶏糞を粉砕し、分級して相対的に大きな粒径の粒を除去する。フルボ酸混合工程は、粉砕分級工程を経た発酵鶏糞に、フルボ酸を混合する。
【0007】
フルボ酸混合工程は、発酵鶏糞の体積をXとするときに、0.03X以上0.3X以下の範囲内の体積のフルボ酸を混合することが好ましい。
【0008】
上記肥料組成物は液肥組成物であり、上記フルボ酸混合工程は、水の存在下でフルボ酸を発酵鶏糞に混合することが好ましい。フルボ酸混合工程の前に、粉砕分級工程を経て得られた発酵鶏糞粒と上記水とを混合した鶏糞粒液を、高くても23kHzの周波数の超音波で処理する超音波処理工程を有することが好ましく、この場合には、フルボ酸混合工程は、超音波処理工程を経た鶏糞粒液にフルボ酸を添加して攪拌し、さらにろ過工程を有する。このろ過工程は、フルボ酸混合工程を経た鶏糞粒液を大きくても1mmの孔径のフィルタでろ過してろ液を得る。超音波処理工程は、鶏糞粒液における下部を攪拌することが好ましい。
【0009】
上記肥料組成物は固体肥料組成物であり、上記フルボ酸混合工程は、発酵鶏糞に、フルボ酸を含有する腐植酸を混合し、攪拌することが好ましい。
【0010】
本発明の発酵鶏糞処理方法及び光合成抑制剤の製造方法は、粉砕分級工程とフルボ酸混合工程とを有する。粉砕分級工程は、整粒された発酵鶏糞を粉砕し、分級して相対的に大きな粒径の粒を除去する。フルボ酸混合工程は、粉砕分級工程を経た発酵鶏糞に、フルボ酸を混合する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発酵鶏糞の利用展開をさらに広げることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態である液体の肥料組成物の製造フローである。
【
図5】固体の肥料組成物の製造設備の概略図である。
【
図6】比較例であるイチゴの苗における光合成活性及び呼吸の評価結果を示すグラフである。
【
図7】実施例であるイチゴの苗における光合成活性及び呼吸の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
本発明の一実施形態である肥料組成物の製造方法は、
図1に示すように、液体の肥料組成物(以下、液肥組成物と称する)11を製造する。この製造方法は、発酵鶏糞12を処理して液肥組成物11を得ることから発酵鶏糞処理方法でもあり、また、発酵鶏糞12は生鶏糞(図示無し)を発酵して得ることから、生鶏糞処理方法でもある。液肥組成物11は、後述の通り光合成を抑制する光合成抑制組成物として利用可能であることから、肥料組成物の製造方法は光合成抑制組成物の製造方法でもある。
【0014】
液肥組成物11の製造方法は、粉砕分級工程S1と、フルボ酸混合工程S2とを有する。液肥組成物の製造方法は、さらに予備整粒工程S3、第2分級工程S4、混合工程S5、超音波処理工程S6、ろ過工程S7を有することが好ましく、本例でもそのようにしている。
【0015】
発酵鶏糞12は、生鶏糞を発酵することにより得られる。生鶏糞は弱酸性であり、有機リン酸及びカルシウム(Ca)を含有する。含有される有機リン酸の多くはフィチン酸(myo-イノシトールの六リン酸エステル)であり、下記の式1に示す、フィチン酸のカルシウム(Ca)錯体や、マグネシウム(Mg)錯体として含有されていることが広く知られている。フィチン酸は、イノシトール酸の六リン酸エステルであるので植物の生育に好適な有機リン酸であるものの、近年ではCa錯体などの形で含有されるCa含有率が高いものが見られるようになっている。Caは、土壌中から植物に吸収された場合には生育に寄与するが、土壌に残ると土壌が硬くなり、水をはじくようになり、そのため、植物に吸収されなくなる。この点、フィチン酸のCa錯体は難分解性であり、植物に吸収されにくく、土壌に残りやすい。
【0016】
【0017】
本例において生鶏糞から発酵鶏糞12を得る発酵工程(図示無し)は、多段発酵としており、具体的には、好気性発酵、通性嫌気性発酵、嫌気性発酵の3段階の発酵処理としている。これにより、発酵鶏糞12は水が加えられると、Ag(銀)/AgCl(塩化銀)電極を用いた電位測定で例えば-550mV前後という低い電位にまで電位が降下し、弱塩基性を示す。上記のフィチン酸のCa錯体は、生鶏糞を発酵して得られる発酵鶏糞12にも同様に含有される。前述の粉砕分級工程S1及びフルボ酸混合工程S2は、Caとリン酸との両方が植物に吸収されるよう、フィチン酸のCa錯体から、植物に吸収されるまたはされやすい可給態を生成するためのものである。
【0018】
予備整粒工程S3は、粉砕分級工程S1に供する前に、発酵鶏糞12を整粒しておくためのものである。具体的には、大きな塊状のものを含み、大きさがばらついた発酵鶏糞12を、より小さく、より揃った粒径のものにする。本例の予備整粒工程S3は、粒径が大きくても10mmである粒状の発酵鶏糞12にしている。予備整粒工程S3は無くてもよいが、予備整粒工程S3を実施することにより、発酵鶏糞12に大きな異物(ごみ)が含まれていた場合に、当該異物が発見しやすいので除去しやすいとともに、粉砕分級工程S1での粉砕がより効率的になるので好ましい。異物としては例えば羽毛、卵殻、工具あるいは工具片等の金属類などがあり、異物が確認された場合には、当該異物は除去することが好ましい。本例において当該異物の除去は作業者の除去作業によって行っている。なお、予備整粒工程S3に供している本例の発酵鶏糞12は、含水率が概ね10%程度、高くても20%と非常に低いものである。
【0019】
粉砕分級工程S1は、目視で確認される白色のCa含有化合物のうち、サイズが大きめ、すなわち粒径が大きいものを除去して、液肥組成物11のCa含有率を過度に高くしないためのものである。Ca含有化合物は、構造内にCaを有する化合物であり、錯体や塩なども含まれる。例えば、前述のフィチン酸のCa錯体、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)などであり、粒子状となっている。粉砕分級工程S1は、整粒された発酵鶏糞を粉砕し(粉砕工程)、分級して相対的に大きな粒径の粒を除去する(第1分級工程)。Ca含有化合物には硬いものが多く、これらは粉砕工程を経ても細かには粉砕されずに比較的大きな粒径を保持する。第1分級工程は、比較的大きなサイズの粒を、細粒化されてサイズが小さな粒と分級して、除去する。粉砕工程により細粒化されて第1分級工程により得られた粒状の発酵鶏糞12を、発酵鶏糞粒15と称する。
【0020】
粉砕分級工程S1の分級処理における大粒径区分と小粒径区分とに分ける分級区分の境界は、特に限定されず、発酵鶏糞12に含有されているCa含有率、液肥組成物11における目的とするCa含有率などに応じて設定することができる。分級区分の境界は、例えば、大きくても4mmの粒径に設定することが好ましく、より好ましくは大きくとも3mmの粒径に設定することが好ましく、さらに好ましくは大きくとも2mmの粒径に設定することである。本例では分級区分の境界は2mmとしており、そのため、粒径が2mm以下の小粒径区分の粒を発酵鶏糞粒15として得ている。
【0021】
第2分級工程S4は、粉砕分級工程S1で行う分級処理の工程を第1分級工程とした場合に、第1分級工程の後に行う分級処理の工程である。第2分級工程S4は、発酵鶏糞粒15のうち、相対的に大粒径のものを液肥組成物11とする場合、または、相対的に小粒径のものを液肥組成物11とする場合に、実施するとよい。したがって、粉砕分級工程S1で得られた発酵鶏糞粒15を粒径によらず液肥組成物11の原材料とする場合には第2分級工程S4は省略される。
【0022】
第2分級工程S4での分級区分の境界は、液肥組成物11における目的とするCa含有率などに応じて設定すればよい。例えば、粉砕分級工程S1で得られた発酵鶏糞粒15のうち、所定の粒径を超えた大粒径区分のものと当該所定の粒径以下のものとを比較して、Ca含有率が異なる場合には、いずれか一方を、液肥組成物11の目的とするCa含有率に応じて選択する。このように、分級区分の境界によって液肥組成物11におけるCa含有率を微調整することができる。また、本例のように液肥組成物11を製造する場合には、発酵鶏糞粒15の粒径が大きすぎると液肥組成物11において沈殿してしまい、沈殿物の量が多くなるので、このような沈殿を抑制したい場合には分級区分の境界を1mmなどと小さめに設定して、相対的に小粒径の小粒径区分を次工程の混合工程S5に供するとよい。本例では、粉砕分級工程S1で得られた粒径2mm以下の発酵鶏糞粒15について、第2分級工程S4での分級区分の境界を0.5mmと設定し、相対的に小粒径の小粒径区分(0.5mm以下)のものを次工程の混合工程S5に供している。
【0023】
混合工程S5は、粉砕分級工程S1により得られた発酵鶏糞粒15と水とを混合して、発酵鶏糞粒15と水とを含有する鶏糞粒液16を得る。混合工程S5は、発酵鶏糞と水とを含有する鶏糞粒液16を得るためのものであるから、発酵鶏糞12と混合する水は、単体の水、水に他の物質が溶解した溶液、水に他の物質が分散した分散液などでもよい。本例では微量のホウ素(B)及びマンガン(Mn)などが水に溶解した肥料液19を発酵鶏糞粒15と混合することにより鶏糞粒液16としている。
【0024】
発酵鶏糞粒15に対する水の量は、次工程である超音波処理工程S6において発酵鶏糞粒15の全量に超音波振動が確実に付与される範囲内、すなわち、発酵鶏糞粒15の全量が水に浸っている状態になれば特に限定されない。例えば、発酵鶏糞粒15の質量をXとするときに、水の質量は10X以上40X以下の範囲内が好ましく、12X以上30X以下の範囲内がより好ましく、15X以上25X以下の範囲内がさらに好ましい。本例の水の質量は、発酵鶏糞粒15の質量Xに対して17X(質量Xを5.5としたときに水の質量94)としている。なお、肥料液19に含有されるB及びMn等は極めて微量であるため、肥料液19の質量を水の質量とみなしており、このように含有される微量物質の質量は無視してよい。
【0025】
発酵鶏糞粒15と水(この例では肥料液19)とが混合されることで、鶏糞粒液16においてコロイドが生成され、さらに、コロイドよりも大きな保護コロイドを生成するようになる。保護コロイドは、フィチン酸などの有機リン酸及び/または有機リン酸の分解物と、Caとの反応によって生じるものと考えられる。例えば、フィチン酸のCa錯体が複数集まって(例えば凝集など)形成したものや、フィチン酸のCa錯体と他の化合物とが集まって形成したもの等である。こうしたフィチン酸のCa錯体が含有される保護コロイドは、フィチン酸のCa錯体そのものと同様に、土壌中において難分解性であるので、できるだけ少ない方が好ましい。また、Ca錯体がこの保護コロイドを形成していると、後工程で混合されるフルボ酸21との反応が抑制される傾向がある。そこで、超音波処理工程S6は、フィチン酸のCa錯体が含有される保護コロイドの生成を抑制するため、及び、生成された保護コロイドを分解するために行う。
【0026】
超音波処理工程S6は、鶏糞粒液16に対して、高くても23kHzの周波数の超音波振動を与える。これにより、フィチン酸のCa錯体が含有される保護コロイドの生成が抑制され、また、保護コロイドが生成されてしまってもその保護コロイドが分解される。超音波振動の周波数は、より好ましくは高くても22kHz、さらに好ましくは高くても21kHz、特に好ましく高くても20kHzであり、本例では20kHzとしている。24kHz及びこれよりも高い周波数の超音波振動の場合には保護コロイドの生成が急激に増すが、23kHz以下の低周波数にすることにより保護コロイドの生成が明らかに抑制される。保護コロイドは、生成すると鶏糞粒液16の液面に、灰汁(あく)状の浮遊物として目視で確認されるので、保護コロイドの抑制効果も目視で確認することができる。例えば、灰汁状の浮遊物はスカム層として液面に現れるので、このスカム層の有無や厚み等によって保護コロイドの生成の程度を確認することができる。周波数が20kHzの場合には24kHzの場合と比べて、保護コロイドの量が1/3倍以下になることが確認されている。このことから、周波数が24kHzから下がるに従い、鶏糞粒液16におけるキャビテーションが二次関数的に増加していると考えられる。保護コロイドは上記のように液面に生成するので、生成量が多い場合には超音波処理の処理能を阻害するが、23kHz以下の周波数とすることで保護コロイドの生成自体が抑制されるので、超音波処理の処理能は確実に維持される。超音波の発振出力(超音波出力)は、特に限定されない。
【0027】
超音波処理工程S6は、鶏糞粒液16の下部を攪拌する攪拌工程を有してもよい。攪拌工程は、超音波処理工程S6の間、連続的に攪拌処理を行うものでもよいし、断続的に攪拌処理を行うものでもよい。この攪拌工程は、鶏糞粒液16に含まれる発酵鶏糞粒15中の各種菌体を分散、破壊するためのものである。発酵鶏糞粒15は発酵鶏糞12の粒状物であるから、上記菌体は発酵鶏糞12に含有されていたものである。菌体は、例えば好気性微生物、通性嫌気性微生物(酵母)などである。これら菌体を破壊するか否かは、液肥組成物11を与える植物及び当該植物に与える生育時期等に応じて決めることができる。また、攪拌工程の有無、攪拌処理の時間(攪拌時間)は、菌体の破壊の目的とする程度に応じて設定するとよい。したがって、菌体を破壊しない場合には攪拌工程を省略し、菌体をより細かにする場合には攪拌処理の時間を長めに設定するとよい。また、最も多い成分(主成分)が後述のフルボ酸21のCa錯体である液肥組成物11を得る場合には攪拌処理を実施し、主成分が後述の酵母等微生物の疎水性微粒子である液肥組成物11を得る場合には、攪拌処理を実施しない或いは攪拌処理の時間を短めに設定すればよい。
【0028】
フルボ酸混合工程S2は、フィチン酸のCa錯体からCaを分離させるためのものである。フルボ酸混合工程S2は、粉砕分級工程を経た発酵鶏糞12の一例である、鶏糞粒液16中の発酵鶏糞粒15に、水の存在下でフルボ酸21を混合する。これにより、フィチン酸のCa錯体からCaが分離する。Caはフルボ酸21と反応して、フルボ酸21のCa錯体が生成する。前工程である超音波処理工程S6により、前述のように保護コロイドは生成が抑制、あるいは仮に生成しても分解されて小さくなっているから、フルボ酸21を混合した場合に、有機コロイドとフルボ酸カルシウムとがより確実かつ効率的に生成し、これらが安定化する。このように、フィチン酸のCa錯体からCaが分離することにより、Caがフルボ酸21と錯体化し、フィチン酸がリン酸をもつ可給態として生成すると推定している。これにより、光合成(植物からのTVOC(総揮発性有機化合物)の発生量)が確実に抑制され、さらに、光合成が抑制されながらも呼吸量は維持される。また、土壌または根などに与えるように使用されてもリン酸残留物(Legacy P)の増加とCaの土壌中への残留とが抑制される。このため、土壌のリン酸残留物とCaの増加を抑制しつつも植物体の生育を促すという新たな使い方により、発酵鶏糞12の利用展開がさらに広がる。
【0029】
フィチン酸のCa錯体からCaが分離されたこと、あるいは、フルボ酸21とCaとの錯体化は、フルボ酸混合工程S2の前後における各鶏糞粒液16の液層についてリン酸態Pと水溶性Caとの定量により確認することができる。例えば水溶性Caはキレート法、リン酸態Pは4-アミノアンチピリン法(酵素法)を用いた測定及び算出により確認することができる。
【0030】
フルボ酸21は、腐植酸(腐植土)に水を加え、自然ろ過により抽出することができる、このように抽出すると、本例ではフルボ酸21が0.6wt/vol%で含有されるフルボ酸水溶液が得られており、フルボ酸混合工程S2ではこのフルボ酸含有水を発酵鶏糞粒15(この例では発酵鶏糞粒15を含有する鶏糞粒液16)に加えている。なお、フルボ酸は、フミン酸などとともに腐植酸(腐植土)に含有されており、アルカリ可溶性で、腐植酸のアルカリ溶液を酸性にし、pH1での可溶成分とされている。しかし、腐植酸からのフルボ酸21の抽出において、水抽出ではなく酸抽出を行った場合には、抽出液にフルボ酸21とともに酸可能性の不純物も含有されてしまい、抽出されたフルボ酸は有機JAS(Japanese Agricultural Standards、日本農林規格)の認証は受けられないものとなってしまう。したがって、有機JASの認証を考慮すると腐植酸からの抽出は水を抽出溶媒として用いた水抽出が好ましい。
【0031】
粒状の発酵鶏糞12である発酵鶏糞粒15に混合するフルボ酸21の質量は、発酵鶏糞粒15の質量をXとするときに、0.03X以上0.3X以下の範囲内とすることがフィチン酸のCa錯体のほとんどからCaを分離することができる点で好ましく、0.05以上0.25以下の範囲内とすることがより好ましく、0.08以上0.2以下の範囲内とすることがさらに好ましい。本例では、フルボ酸21の質量は0.09X(質量Xを5.5としたときにフルボ酸21の質量0.5)としている。
【0032】
超音波処理工程S6及びフルボ酸混合工程S2を実施しても鶏糞粒液16の液面に灰汁状の浮遊物がわずかに確認されることがある。そこで、ろ過工程S7は、フルボ酸混合工程S2を経た鶏糞粒液16を、大きくても1mmの孔径のフィルタでろ過してろ液を得る。これにより灰汁状の浮遊物はろ別されて除去され、ろ液が液肥組成物11として得られる。このようにして液肥組成物11は製造される。フィルタの孔径は大きくても0.8mmであることがより好ましく、大きくても0.6mmであることがさらに好ましく、大きくても0.5mmであることが特に好ましい。本例では孔径0.5mmとしている。
【0033】
本例では、得られる液肥組成物11は、105個/mL(mLはミリリットル)以上106個/mL以下の範囲で微粒子を含む微粒子含有液肥組成物となっている。この微粒子のほとんどは微生物(酵母)バイオマスの疎水性微粒子となっている。液肥組成物11における微粒子の含有濃度(単位;個/mL)は、超音波処理工程S6に供する鶏糞粒液16の発酵鶏糞粒15の含有率を増減させることで調整することができる。例えば、超音波処理工程S6は、周波数を20kHzにした場合には、発酵鶏糞粒15を10%という高配合率で仕込んで処理することができ、そのような高配合率で仕込んだ場合に得られる液肥組成物11の微粒子の含有濃度は107個/mL以上108個/mL以下の範囲内という高い値になる。このような場合には、例えば使用時に、105個/mL以上106個/mL以下の範囲となるように水で希釈してよい。なお、微粒子の含有濃度は、例えば格子が形成されている菌体計数盤に液肥組成物11を添加し、光学顕微鏡で観察しながら任意の区画内の微粒子をカウントし、カウント値を1mLあたりに換算することで求めることができる。
【0034】
上記の製造方法は、
図2に示す肥料組成物の製造設備(以下、液肥製造設備と称する)31により実施することができる。液肥製造設備31は、予備整粒装置32と、粉砕分級装置33と、第2分級装置36と、超音波処理装置37と、ろ過装置38とを備える。
【0035】
予備整粒装置32は、予備整粒工程S3のためのものである。予備整粒装置32は、塊状の大きなものを含む発酵鶏糞12を、粒径がより小さく揃った粒状にすることができるものであれば特に限定されない。例えば、市販のピンミルを用いることができ、本例でもピンミルを用いている。予備整粒工程S3を実施しない場合の液肥製造設備31は、予備整粒装置32を備えなくてよい。
【0036】
粉砕分級装置33は、粉砕分級工程S1、すなわち粉砕工程と第1分級工程のためのものである。粉砕分級装置33は、整粒された発酵鶏糞12を粉砕し、分級して相対的に大きな粒径の粒を除去することができれば、特に限定されない。例えば分級具としてのフィルタ(スクリーン)を備えるピンミルが挙げられる。本例では、発酵鶏糞12が供給され、複数のピンが内壁面に対して起立した姿勢で設けられ、上記内壁面を構成する内壁材の回転によりピンが移動して発酵鶏糞12を粉砕する粉砕部本体と、フィルタとを備えるピンミルを用いている。粉砕部本体の上部には、発酵鶏糞12が供給される供給口が形成され、下部には発酵鶏糞粒15を排出する排出口が形成されている。排出口には、分級のためのフィルタが設けられ、粉砕によりフィルタの孔径を通過する程度に細粒化された発酵鶏糞粒15がこの排出口から排出される。フィルタの孔径は、第1分級工程での分級区分の境界であるので、目的とする分級区分に応じて孔径を決定してフィルタを選定するとよい。粉砕分級装置33には市販品利用してもよく、本例においても市販品である相互産業(株)のピンミル1号型を利用している。
【0037】
上記供給口には、スクリューコンベアを接続し、スクリューコンベアによる発酵鶏糞12の移送速度を、粉砕部本体による粉砕処理速度(ピンの移動速度)に応じて調整し、発酵鶏糞12の供給流量と発酵鶏糞粒15の排出流量とを等しくしてもよい。これにより粉砕分級工程S1を簡易に連続して行うことができ、本例でもこのような連続処理としており、スクリューコンベアの移送速度を1t/hrとしている。
【0038】
第2分級装置36は、第2分級工程S4を実施するためのものである。第2分級装置36としては例えば自動ふるい機を用いることができ、市販のものでもよい。本例においても、例えば(株)興和工業所製の円型振動ふるい機KGO-800型など、市販品を用いている。第2分級工程S4を実施しない場合の液肥製造設備31は、第2分級装置36は備えなくてよい。
【0039】
超音波処理装置37は、混合工程S5、超音波処理工程S6、及びフルボ酸混合工程S2を実施するためのものである。この超音波処理装置37の詳細については別の図面を用いて後述する。ろ過装置38は、ろ過工程S7を実施するためのものであり、市販のフィルタを用いることができ、本例でも市販品を用いている。
【0040】
超音波処理装置37は、
図3に示すように、鶏糞粒液16を収容する液槽41と超音波振動子(図示無し)と超音波発振器(図示無し)と攪拌ユニット42等から構成される。液槽41には、第2分級工程S4を経た発酵鶏糞粒15が収容され、この中に肥料液19が添加されることにより混合工程S5が実施される。ただし、液槽41とは別の容器において混合工程S5を行い、得られた混合物を液槽41に移し入れてもよい。なお、
図3においては鶏糞粒液16における発酵鶏糞粒15を大きく誇張して描いてある。
【0041】
超音波振動子は、振動素子のヘッド部分が鶏糞粒液16に浸漬される位置に配されている。また、当該ヘッド部分が、後述の回転子45の回転による攪拌強度が保持される位置、かつ、鶏糞粒液16の回転渦の中心部を避ける位置となるように、超音波振動子を配してある。このように超音波振動子が配置された液槽41に鶏糞粒液16が収容されて超音波処理工程S6は実施される。液槽41、超音波振動子、及び超音波発生器は、23kHz以下という低周波の超音波振動を発生させるものであれば超音波洗浄機として市販されているものであってよい。なお、本例では50リットル容量の液槽41を用いている。
【0042】
攪拌ユニット42は、回転子(攪拌子)45と、回転子45を回転させるマグネチックスターラ46と、第1落下防止部材48及び第2落下防止部材49とを備える。マグネチックスターラ46は、回転子45の回転速度を調整するための制御部(図示無し)を有する。回転子45とマグネチックスターラ46とは市販品でよく、本例でも市販品を用いている。回転子45は液槽41の底部に沈められた状態で、マグネチックスターラ46により回転する。これにより鶏糞粒液16の下部が攪拌して超音波処理工程S6における前述の攪拌工程が実施される。鶏糞粒液16の液面LSに生じる灰汁状の浮遊物FMが液層41の底部、第1落下防止部材48、第2落下防止部材49の上に堆積しないように、鶏糞粒液16の下部を攪拌してその攪拌強度(回転子45の回転速度)を調節する。下部とは、鶏糞粒液16の液面高さの2分の1の高さ以下の領域を意味する。
【0043】
第1落下防止部材48及び第2落下防止部材49は、発酵鶏糞粒15が落下して回転子45の回転が阻害されないように、発酵鶏糞粒15の落下を防止するためのものである。なお、鶏糞粒液16は、第1落下防止部材48、第2落下防止部材49、回転子45を液槽41にセットした状態で、液槽41内に供給される。
【0044】
第1落下防止部材48は、網目(メッシュ)が形成されたステンレス製の籠である。第1落下部材48は、これに限られず、回転子45の回転により鶏糞粒液16が液槽41内を流動することができ、発酵鶏糞粒15の落下を抑止するために発酵鶏糞粒15の粒径よりも小さな孔径をもつものであればよく、既存のメッシュフィルタでよい。本例の第1落下防止部材48は、網目の開口径が2mm以上5mm以下の範囲のものとしてある。第2落下防止部材49は、回転子45の上方を覆うように概ね水平に配された板49aと、この板49aを回転子45の上方において水平姿勢に支持する4本の脚部49bとで構成されている。板49aは、回転中の回転子45の浮上を考慮して、回転子45の高さよりも高い位置に配しており、この例では10cmの高さに配してある。この板49aにより、第1落下防止部材48の網目を極小さな発酵鶏糞粒15が上方から通過してきても、回転子45が回転する回転領域における堆積が抑制され、回転子45の回転が保持される。4本の脚部49bは、回転子45が回転したときに当たらない位置に、板49aの下面に設けられている。複数の脚部49bを互いに間隔を設けて配することにより、脚部49bと脚部49bとの間を鶏糞粒液16が通過するので、回転子45の回転により鶏糞粒液16が液槽41内を効果的に流動し、第1落下部材48よりも上方において発酵鶏糞粒15とフルボ酸21との接触効率が高く維持される。
【0045】
攪拌ユニット42における攪拌条件、すなわち回転子45の回転のオンオフと回転速度とは前述のように、菌体の目的とする破壊の程度に応じて設定するとよい。本例では、菌体を1μm以下程度の大きさに破壊する場合には回転速度を回転渦が液面で発生しない程度に回転数に抑え、断続的に攪拌を行っている。断続的な攪拌(インターバル攪拌)は、回転子45の回転をオンとする時間を15分とした攪拌を、回転をオフとする休止間隔を設けて複数回行い、当該休止の時間を5分とし、トータルで30分以上60分以内の時間行っている。
【0046】
攪拌ユニット42の代わりに、攪拌翼と、攪拌翼を支持し、起立した姿勢で配される支持棒と、この支持棒を周方向に回転する回転駆動部とを有する攪拌機(図示無し)を用いてもよい。この場合には、攪拌翼を鶏糞粒液16の下部に位置させる。攪拌翼は、液槽41の内部の底面から浮いた位置に配してもよい。このように、攪拌翼を底面から浮いた位置に配した場合には、超音波振動子は、本例に限定されず、例えば、液槽41内に沈めて用いるいわゆる投込振動子や、底部に穴が開いた液槽を用いた場合の底部の穴に取り付ける振動子が板上に配された振動板でもよい。
【0047】
超音波振動をオフにした状態で、フルボ酸21を添加して攪拌ユニット42による攪拌を行うことで、フルボ酸混合工程S2は実施される。
【0048】
[第2実施形態]
本発明の別の一実施形態である肥料組成物の製造方法は、
図4に示すように、固体の肥料組成物(以下、固体肥料組成物と称する)である粉状肥料組成物61及び造粒肥料組成物62を製造する。この製造方法も第1実施形態の上記製造方法と同様に、発酵鶏糞12を処理して粉状肥料組成物61及び造粒肥料組成物62を得ることから発酵鶏糞処理方法でもあり、また、生鶏糞処理方法でもある。粉状肥料組成物61及び造粒肥料組成物62は、光合成を抑制する光合成抑制組成物として利用可能であることから、この製造方法は光合成抑制組成物の製造方法でもある。
【0049】
固体肥料組成物の製造方法は、粉砕分級工程S1と、腐植酸混合工程S11とを有し、さらに予備整粒工程S3を有することが好ましい。ペレット等に造粒(成形)した造粒肥料組成物62を製造する場合には、造粒(成形)工程S12をさらに有する。また、腐植酸混合工程S11で発酵鶏糞粒15に混合する予備混合物65を得るために、この製造方法は、予備混合工程S22を有する。予備混合物65は、珪藻土71、フルボ酸21(
図1参照)を含有する腐植酸75、グアノリン酸76を原材料としている。
【0050】
予備混合工程S22は、珪藻土71と腐植酸75とグアノリン酸76とを混合する。珪藻土71は、周知の通り多孔質体であり、脱臭、ガス状の窒素化合物の吸着に用いている。
【0051】
腐植酸75は、加水してフルボ酸21の抽出処理を経たものを用いている。一般に流通する腐植酸75は、酸抽出が施されており、この酸抽出により、含有されるフルボ酸21の多くが除去されて固形分のほとんどはフミンとフミン酸である。しかし、本例では、前述のように、天然の腐植酸に加水して、自然ろ過によりフルボ酸21を抽出している(抽出した液のフルボ酸21の濃度は0.6t/vol%)。このように抽出及び自然ろ過した腐植酸75は、フミン、フミン酸の粒子間に相当量のフルボ酸21が残存している。この腐植酸中のフルボ酸21を、発酵鶏糞粒15に含まれているフィチン酸のCa錯体からの加水下におけるCaの分離に利用する。
【0052】
腐植酸75の質量は、含有されるフルボ酸21の質量が発酵鶏糞粒15の質量Xに対して前述の範囲内となるように設定することが好ましい。腐植酸75に含有されるフルボ酸21の質量割合は、精密分析で求めることが困難であるので、例えば以下の方法で求めることができる。すなわち、腐植酸75の原料とした原料腐植酸との含水率と全炭素(C/Nコーダ,全炭素・窒素同時定量装置)とを測定し、自然ろ過後の固体を酸で洗浄した後、含水率と全炭素を測定して、乾物換算で酸により原料した炭素量を求めることによりフルボ酸21の質量を求めて腐植酸75における質量割合を算出する方法である。この方法により、腐植酸75におけるフルボ酸21の質量割合は、予め求めておくとよい。この例では、発酵鶏糞粒15の質量Xを83としたときに珪藻土71が質量1、腐植酸75が質量1となるように、これらを混合している。
【0053】
グアノリン酸76は新規工程規格の普通肥料に混合する特殊肥料原料として用いている。グアノリン酸76は、この予備混合工程S22において珪藻土71と腐植酸75を混合すればよい。グアノリン酸76は、粉状肥料組成物61及び造粒肥料組成物62に成分として含有させたい場合、腐植酸混合工程S11において珪藻土71及び腐植酸75をこれらに対して量が極めて多い発酵鶏糞粒15とより確実かつより迅速に均一に混合させたい場合などに用いられる。本例では発酵鶏糞粒15の質量Xに対して珪藻土71と腐植酸75との各質量(Xを83とするときに、それぞれ1)が上記のように極めて小さいため、腐植酸混合工程S11において均一に混ざりにくい。そのため、発酵鶏糞粒15の質量Xを83とするときに、グアノリン酸76の質量が15となる配合割合で、グアノリン酸76を用いて発酵鶏糞粒15と混合する腐植酸75を増量(嵩まし)している。このようにして予備混合工程S22では、大量の発酵鶏糞粒15に対してより確実に均一に混合されやすい予備混合物65が得られる。
【0054】
この予備混合物65と、第1実施形態と同じように得られた発酵鶏糞粒15とは、腐植酸混合工程S11に供される。腐植酸混合工程S11は、整粒された発酵鶏糞12である発酵鶏糞粒15に予備混合物65を加えることにより、腐植酸75に微量に含まれていたフルボ酸21(
図1参照)が混合される。予備混合物65において腐植酸75に含有されていたフルボ酸21は、施肥後の土壌中での加水により、発酵鶏糞粒15に含有されている微生物バイオマスによる電位降下の環境下で、有機リン酸として含まれるフィチン酸のCa錯体のCaと反応して、フィチン酸のCa錯体からCaを分離し、フルボ酸21のCa錯体が生成する。これにより、液肥組成物11(
図1参照)と同様に、フィチン酸もリン酸化合物として可給態となり、Caも可給態のフルボ酸カルシウムとなる。このようにして、固体肥料組成物の一例としての粉状肥料組成物61が得られる。
【0055】
造粒工程S12は、一定の粒径をもつ例えば球形あるいはペレットなどの粒状の造粒肥料組成物62を製造する場合に実施される。造粒工程S12は、粉状肥料組成物61を造粒(成形)する。
【0056】
上記の製造方法は、
図5に示す肥料組成物の製造設備(以下、固体肥料製造設備と称する)81により実施することができる。固体肥料製造設備81は、予備整粒装置32と、粉砕分級装置33と、腐植酸混合装置83と、造粒装置84と、予備混合装置88とを備える。
図5において
図2に示す装置と同じものには同じ符号を付し、説明を略す。
【0057】
予備混合装置88は、予備混合工程S22を実施するためのものである。予備混合装置88は、粒状の固体同士を均一に混ぜ合わせることができるものならばよく、例えば市販の万能混合機を用いることができる。本例でも市販の万能混合機である(株)品川工業所製の混合攪拌機60DM-rrを用いている。
【0058】
腐植酸混合装置83は、腐植酸混合工程S11のためのものであり、市販のV型混合機やタンブラ混合機を用いることができる。本例でも市販のタンブラ混合機である(株)昭和化学機械工作所 TM-1000S型を用いている。造粒装置84は、粉状肥料を成形することができる市販の造粒装置が用いられる。なお、本例の粉砕分級装置33は、槙野産業(株)製のマキノ式粉砕機CI-40型を利用している。
【0059】
以上の各方法で製造された液肥組成物11、粉状肥料組成物61、造粒肥料組成物62は、いずれも加水系において、フィチン酸等のCa錯体からCaが分離して可給態のリン酸化合物となっており、またCaも可給態となっている。例えば、イチゴ、ナス、ジャガイモ、サツマイモなどにおける施肥試験において、有意な差が確認され、リン酸の肥効が顕著に示されている。液肥組成物11は、葉面に対する散布剤として用いることができ、粉状肥料組成物61、造粒肥料組成物62は、土壌に対して基肥または追肥として用いることができる。
【0060】
従前の鶏糞肥料は、有機リン酸(フィチン酸等)と無機リン酸(Ca3(PO4)2)とを豊富に含有することから有用な肥料源と考えられている反面、いずれも難溶性であり化成肥料同様に土壌蓄積が問題とされている。この問題については、製造段階で何らかの対策を必要とされている。これに対し、上記実施形態を含む本発明は、発酵鶏糞12中のバイオマスリン(地力P)は可給態リン酸濃度と正の相関を有していることから、土壌残留が指摘されているフィチン酸等の有機リン化合物、無機リン酸化合物を可給態にする技術が組み込まれた方法であることが特徴である。このように、本実施形態によれば、光合成抑制の観点で葉面散布する場合には液肥組成物11に、土壌でのリン酸化合物及びCaの残留等を図るために例えば土壌に対する基肥または追肥として用いる場合には粉状肥料組成物61、造粒肥料組成物62に、発酵鶏糞12から製造することができる。したがって、従前の発酵鶏糞の有用性とは異なるあるいは当該有用性を超えた肥料組成物に発酵鶏糞を利用することができ、発酵鶏糞の利用展開が拡大する。
【0061】
液肥組成物11、粉状肥料組成物61、造粒肥料組成物62は、光合成抑制剤として使用することができる。この場合、呼吸量は下がらないように維持しながらも光合成が抑制されているのがわかる。例えば、イチゴの苗における光合成及び呼吸量の測定において、有意な差が確認されている(
図6及び
図7)。これによると、呼吸量の低下はほとんどみられない一方で、光合成のピークが低く抑えられている。これにより、植物体における活性酸素量の増加が抑制され、植物体の生育に好影響を与える。
【0062】
光合成及び呼吸量の測定は、幅690cm×奥行430cm×高さ430cmのグローブボックスに、液肥組成物11を水で1000倍に希釈したものを葉面散布したイチゴの苗を収容して行った(実施例)。また、肥料要素(化学肥料)を成分とする肥料液を水で1000倍に希釈したものについても同様に、イチゴの苗に葉面散布し、このイチゴの苗をグローブボックスに収容して光合成及び呼吸量の測定を行った(比較例)。グローブボックスとしては、可撓性の透明樹脂シートで袋状に形成されたものを用いた。葉面散布は、晴天が予想される測定開始日の前日の15時~16時の間に行った。グローブボックス内には、TVOC(単位:mg/L、Lはリットル)とCO2(mg/L)とを測定するモニタ付測定器を、校正した後に電源をオフにして収容した。グローブボックスには開口を設け、この開口から外気を流入させて充填した後に、開口を閉じた。その後、測定器の電源をオンにして30分後(概ね14時30分)から、日照条件5時間以上の気象条件での太陽光の下で、加温処理は行わずに測定を行った。測定期間は散布後、24時間以内とした。TVOCは光合成、CO2は呼吸量として測定したものである。
【0063】
比較例では
図6に示されるように、TVOCは最高値で2300mg/Lに達し、CO
2は最高値で1000mg/Lであった。これに対して液肥組成物11を用いた場合には、
図7に示されるように、CO
2は最高値で1000mg/Lと
図6に示される最高値と同程度が維持されているにも関わらず、TVOCは最高値が750mg/Lに抑えられていることがわかる。TVOC値に対して雰囲気(CO
2=500mg/L)を補正するとTVOC2300mg/LのときCO
2は500mg/Lとなり、TVOCに対してCO
2値は0.20~0.25の正の相関関係を示す.したがって、TVOCが750mg/Lに抑えられるとCO
2は188mg/L以下となり、CO
2の上限は688mg/Lとなりほとんどピークとしては認められない。このことから実施例1によると呼吸への影響は少なく、光合成が顕著に抑制されていると解釈される。粉状肥料組成物61及び造粒肥料組成物62を水に溶かしたサンプルを用いた場合でも
図7とほぼ同程度の結果が確認されている。
【0064】
また、上記実施形態で得られる製造物の施肥による土壌残留及び土壌中のリン酸の変化については、経年での土壌分析を要することから加水モデル系でのリン酸及びCaの変化及び実圃場でのリン酸の肥効に係る試験で評価しておりその効果は明らかであった。この試験は、バイオマス肥料が土壌中で加水されたときの挙動を知るものである。バイオマスの場合には、肥料成分だけでなく、土壌還元資材として湛水還元に使用することもある。Ag/AgCl電極で-250mV以下(水素電極で0mV以下)になると病原性微生物は増殖できなくなることを利用した土壌消毒法に使用される。この試験は、固体肥料を原料として液体肥料を製造するための方法を開示するものでもある。有機液体肥料は高価であるが、固体肥料から液体肥料が容易にできれば物流面及び経済面でも有用となる。なお、液体肥料とするには、加水状態で窒素及びリン酸の可給化が不可欠となる。すなわち以下のように評価した。
【0065】
以下のサンプル1~5について、含水率を測定し、乾物として10%になるように秤量し、加水して全量を100mLとし密栓した。これを、4週間、外気温下で発泡スチロール容器内に静置した。施肥後、4週間での懸濁液中の施肥成分をカルシウムはキレート法、リン酸態Pを4-アミノアンチピリン法(酵素法)で定量した。結果は表1に示す。
サンプル1(実施例);粉状肥料組成物61
サンプル2(実施例);造粒肥料組成物62
サンプル3(実施例);造粒肥料組成物62にさらにフルボ酸水溶液(フルボ酸21の濃度は0.6wt/vol%)を0.5mL添加したもの
サンプル4(比較例);粉状の発酵鶏糞
サンプル5(比較例);粉状の発酵鶏糞を粒状に造粒したもの(造粒発酵鶏糞)
【0066】
【0067】
リン酸(P)は、核酸の構成成分であり生物の細胞膜の構成成分であり、糖類と結合して生体内で呼吸作用に作用する。植物では開花・結実を促進、根の伸長、発芽や花芽のつきをよくする働きがあり、果実の成熟や品質の向上にも寄与する。リン酸(P)が欠乏すると、花数が減少し、開花・結実が不良となり成熟が遅れる。急激な欠乏症では、新葉が小さく、葉色が濃くなり、茎も細くなる。果実では、甘味が低下し品質が低下する。そこで、圃場試験で、サツマイモ、施設越冬ナス、秋植えジャガイモの各々で、表2~4に示すサンプルについて評価した。サツマイモは表2、施設越冬ナスは表3、秋植えジャガイモは表4に、それぞれ結果を示す。なお、いずれのサンプルも、施肥量は基肥30kg/10aで行った。サンプル8は、バイオマスリン、難溶性リン酸の肥効について評価できるものとして用いた。
サンプル6;粉状肥料組成物61(3(N)-7(P)-3(K))
サンプル7;造粒肥料組成物62(3(N)-7(P)-3(K))
サンプル8;有機・化成複合肥料(6(N)-9(P)-5(K))
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
秋植えジャガイモは、収穫一か月前での地上部を調査した結果を示している。葉数の結果から、サンプル7の生育ステージはサンプル8とほぼ同等であった。成長点葉長の結果から、サンプル7では草丈だけでなく葉長も比例して生育が促進されていることがわかる。本評価直後に低温による霜害が発生したところ、サンプル8では茎葉部が萎凋黒変したため早期収穫した。そのためサンプル8では、塊茎重を測定し10a当たりの収量を算出して表4に記載している。サンプル7については、霜害は茎葉部で僅かに認められた程度であった。
【符号の説明】
【0072】
11 液肥組成物
12 発酵鶏糞
15 発酵鶏糞粒
16 鶏糞粒液
21 フルボ酸
33 粉砕分級装置
37 超音波処理装置
42 攪拌ユニット
61 粉状肥料組成物
62 成型肥料組成物
65 予備混合物
71 珪藻土
75 腐植酸
S1 粉砕分級工程
S2 フルボ酸混合工程
S3 予備整粒工程
S6 超音波処理工程
S7 ろ過工程
S11 腐植酸混合工程
S12 造粒工程
S22 予備混合工程