(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098614
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】餌料生成装置に供給する海水の取水量制御方法
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20240717BHJP
A01K 61/50 20170101ALI20240717BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20240717BHJP
B01D 24/02 20060101ALI20240717BHJP
B01D 24/46 20060101ALI20240717BHJP
C02F 1/24 20230101ALI20240717BHJP
【FI】
A01K63/04 A
A01K61/50
A01G33/00
B01D23/16
B01D23/24 A
B01D23/24 C
C02F1/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002206
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000197746
【氏名又は名称】株式会社石垣
(72)【発明者】
【氏名】末次 康隆
【テーマコード(参考)】
2B026
2B104
4D037
4D116
【Fターム(参考)】
2B026AA01
2B026AA05
2B104AA22
2B104ED01
2B104ED05
2B104ED36
4D037AA06
4D037AB03
4D037BA03
4D037CA02
4D116BA01
4D116DD01
4D116FF02A
4D116GG09
4D116GG12
4D116QA53C
4D116QA53D
4D116QA53F
4D116RR01
4D116RR04
4D116RR12
4D116RR14
4D116RR24
4D116VV10
(57)【要約】
【課題】下水放流水が放流された下水放流域内の海水の取水量を制御し、植物系バイオマス量一定の海水を餌料生成装置に供給する海水の取水量制御方法を提供する。
【解決手段】水処理施設で処理された下水放流水を放流した下水放流域から海水を取水してろ過処理し、ろ過処理後の処理液を海藻類養殖域に給餌するとともに、ろ材逆洗浄時に剥離した懸濁物質を洗浄排液とともに貝類養殖域に給餌する海洋生物の餌料給餌方法において、予め幅を持たせたバイオマス量の基準値Pn0を設定し、ろ過処理工程時に下水放流域から取水する海水に含まれるバイオマス量を測定し、測定値Pnが基準値Pn0より高い場合は、海水ポンプ13の回転数を段階的に減少させるとともに、測定値Pnが基準値Pn0より低い場合は、海水ポンプ13の回転数を段階的に増加させ、バイオマス量を基準値Pn0の範囲内に制御することで、貝類及び海藻類に安定的に餌料を供給できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理施設で処理された下水放流水を放流した下水放流域から海水を取水してろ過処理し、ろ過処理後の処理液を海藻類養殖域に給餌するとともに、ろ材逆洗浄時に剥離した懸濁物質を洗浄排液とともに貝類養殖域に給餌する海洋生物の餌料給餌方法において、
予め幅を持たせたバイオマス量の基準値(Pn0)を設定し、
ろ過処理工程時に下水放流域から取水する海水に含まれるバイオマス量を測定し、
測定値(Pn)が基準値(Pn0)より高い場合は、海水ポンプ(13)の回転数を段階的に減少させるとともに、
測定値(Pn)が基準値(Pn0)より低い場合は、海水ポンプ(13)の回転数を段階的に増加させ、
バイオマス量を基準値(Pn0)の範囲内に制御する
ことを特徴とする餌料生成装置に供給する海水の取水量制御方法。
【請求項2】
前記バイオマス量は、ろ過処理工程時に測定された下水放流域の溶存酸素濃度を用いて下記(式1)より算出される植物系バイオマスの純生産量である
ことを特徴とする請求項1に記載の餌料生成装置に供給する海水の取水量制御方法。
Pn=(12L+12D)-0TIME・・・(式1)
Pn:植物系バイオマスの純生産量
12L+12D:12時間明条件下における溶存酸素濃度測定値+12時間暗条件下における溶存酸素濃度測定値
0TIME:初期の溶存酸素濃度測定値
【請求項3】
前記バイオマス量は、ろ過処理工程時に測定されたクロロフィル蛍光強度または撮像した画像のうち少なくとも一方の測定データから算出される植物系バイオマス量である
ことを特徴とする請求項1に記載の餌料生成装置に供給する海水の取水量制御方法。
【請求項4】
前記下水放流域から取水した海水を一時的に貯留する貯留槽を設置し、海水を貯留槽からろ過装置(2)に供給する
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の餌料生成装置に供給する海水の取水量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類や海藻類等の海洋生物の餌料生成装置に供給する海水の取水量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貝類や海藻類等の海洋生物が生息する海域において、窒素やリン等の栄養塩類が不足することにより貧栄養化が生じている。貧栄養化によって植物プランクトンが減少し、植物プランクトンを餌とする牡蠣が十分に成長しないといった問題や、栄養塩類を吸収して成長する海苔の色落ちが発生する等の問題が生じており、養殖業に支障をきたしている。
【0003】
特許文献1には、海藻類及び貝類を同時に養殖する技術が開示してあり、海藻類培養槽及び貝類養殖槽の各々の飽和溶存酸素量に応じて、海藻類培養槽から貝類養殖槽へ供給する海水の供給量を制御することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、海水中の栄養塩濃度をもとに栄養塩投入量を調整してプランクトンの生産量を制御し、プランクトンを捕食する海洋水産物の増殖を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-114928号公報
【特許文献2】特開2001-211777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、海苔は栄養塩類を吸収して成長するため、栄養塩類を餌とする植物プランクトンを捕食する牡蠣と生育上密接な関係にあるといえる。そこで、各海洋生物の餌料である栄養塩類及び植物プランクトンを1つの餌料生成装置で生成し、同時に給餌して効率的に養殖を行える方法がないか検討していた。
【0007】
特許文献1は、海藻類培養槽及び貝類養殖槽内の飽和溶存酸素量に基づいて、貝類養殖槽への海水供給量を制御する技術であるが、測定された溶存酸素量を制御の指標として用いるものであり、溶存酸素量を用いて算出された植物プランクトン量をもとに海水供給量を制御する技術ではない。また、制御の目的として海藻類及び貝類の餌料を安定的に得る等の記載はなく、単なる養殖場の溶存酸素量の制御にすぎない。さらに、海藻類及び貝類に餌料を給餌する場合は、各槽それぞれに餌料給餌装置を設置する必要がある。
【0008】
特許文献2は、測定された栄養塩濃度をもとに、海洋に供給する栄養塩の投入量を調整する技術であるが、海洋の濃度調整に使用される栄養塩は淡水に溶解させたものであり、水処理施設から放流された栄養塩を含む下水放流水ではない。そのため、別途、栄養塩を用意しなければならない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、下水放流水を放流した下水放流域内の溶存酸素濃度をろ過処理工程時に連続的に測定し、測定値をもとに算出された植物系バイオマスの純生産量を用いて海水の取水量を制御することで、常時一定量の植物系バイオマスを餌料生成装置に供給可能となり、貝類及び海藻類に安定的に餌料を供給できることを特徴とする餌料生成装置に供給する海水の取水量制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
水処理施設で処理された下水放流水を放流した下水放流域から海水を取水してろ過処理し、ろ過処理後の処理液を海藻類養殖域に給餌するとともに、ろ材逆洗浄時に剥離した懸濁物質を洗浄排液とともに貝類養殖域に給餌する海洋生物の餌料給餌方法において、予め幅を持たせたバイオマス量の基準値Pn0を設定し、ろ過処理工程時に下水放流域から取水する海水に含まれるバイオマス量を測定し、測定値Pnが基準値Pn0より高い場合は、海水ポンプの回転数を段階的に減少させるとともに、測定値Pnが基準値Pn0より低い場合は、海水ポンプの回転数を段階的に増加させ、バイオマス量を基準値Pn0の範囲内に制御することで、下水放流域からバイオマス量一定の海水を取水できる。
【0011】
前記バイオマス量は、ろ過処理工程時に測定された下水放流域の溶存酸素濃度を用いて下記(式1)より算出される植物系バイオマスの純生産量であることで、ろ過処理工程時に植物系バイオマス量一定の海水を餌料生成装置に供給できる。
Pn=(12L+12D)-0TIME・・・(式1)
Pn:植物系バイオマスの純生産量
12L+12D:12時間明条件下における溶存酸素濃度測定値+12時間暗条件下における溶存酸素濃度測定値
0TIME:初期の溶存酸素濃度測定値
【0012】
前記バイオマス量は、ろ過処理工程時に測定されたクロロフィル蛍光強度または撮像した画像のうち少なくとも一方の測定データから算出される植物系バイオマス量であることで、ろ過処理工程時に植物系バイオマス量一定の海水を餌料生成装置に供給できる。
【0013】
前記下水放流域から取水した海水を一時的に貯留する貯留槽を設置し、海水を貯留槽からろ過装置に供給することで、津波等の自然災害が発生した場合であっても、餌料の供給を継続的に行える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下水放流域から取水した海水中に含まれる植物系バイオマス量を測定し、測定値に応じて取水量を調整することで、常時一定量の植物系バイオマスを含む海水を餌料生成装置に供給できる。具体的には、下水放流域内における溶存酸素濃度をリアルタイムで測定し、それをもとに算出した植物系バイオマスの純生産量を用いて制御を実施するため、季節変動等により下水放流域内の水質が変化した場合であっても給餌効率が低下しない。また、植物系バイオマスが貝類養殖域に過剰に供給されることもないため、周辺海域の赤潮対策が可能となる。さらに、下水放流域には水処理施設で処理された下水放流水が放流されるため、別途、栄養塩類や植物系バイオマスを用意する必要がない。貝類及び海藻類への餌料の給餌を1つの装置で行うため、養殖の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る餌料生成装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明に係る餌料生成装置の概略構成図であり、
図2は本発明に係る下向流式のろ過装置である。
図1に示すように、本実施形態に係る餌料生成装置1は、水処理施設で処理された下水放流水が放流された下水放流域内の被処理液(海水)を取水してろ過装置2に供給する搬送部3と、海水を懸濁物質と処理液に分離するろ過装置2と、処理液を海藻類養殖域内の海藻類に給餌する給餌部4Aと、ろ過装置2に接続した洗浄流体供給管5から供給された洗浄流体によって剥離した懸濁物質を洗浄排液とともに貝類養殖域内の貝類に給餌する給餌部4Bと、を備える。各構成要素について、以下に詳述する。
【0017】
搬送部3は、下水放流域内に設置した海水ポンプ13と、一端を海水ポンプ13に接続し、他端をろ過装置2に接続した海水供給管6からなり、下水放流域内の海水をくみ上げてろ過装置2に供給する構成としている。本実施形態では、海水ポンプ13で取水した海水を直接ろ過装置2に供給する形態としたが、別途貯留槽(図示しない)を設置し、くみ上げた海水を一時的に貯留できる形態としてもよい。この場合、下水放流水が放流された後の海水を貯留しても、下水放流水放流前の海水を下水放流水とは別々に貯留槽に供給し貯留してもよい。
【0018】
下水放流域に放流される下水放流水は、し尿、下水、食品生産加工排水等の栄養塩類(窒素やリン等)を含む排水を一次処理して固形物を取り除いた後、生物処理した処理液である。具体的には、下水処理場に流入する被処理液を最初沈殿池にて沈降分離し、分離した上澄み液を酸素が供給された反応槽にて生物処理した後、さらに、最終沈殿池にて沈降分離して得られた上澄み液である。上澄み液は消毒した後、使用してもよい。
【0019】
水処理施設から排出される上澄み液は、一般的に海域等に放流されるが、前述した処理方法によって、被処理液中に含まれる栄養塩類を完全に除去することはできない。このことから、下水放流水が放流された下水放流域は、他の海域と比較して相対的に栄養塩類濃度が高くなっているといえる。加えて、栄養塩類濃度が高い下水放流域は、栄養塩類を餌料とする植物プランクトン(以下、植物系バイオマスと称する)も増殖するため、植物系バイオマス量も多くなっている。
【0020】
本実施形態では、栄養塩類濃度及び植物系バイオマス量の多い下水放流域内より海水をくみ上げ、くみ上げた海水をろ過装置2に供給する構成としている。なお、本実施形態における下水放流域は、外部からの水の流出入の少ない閉鎖性水域であり、栄養塩類が滞留しやすい海域である。
【0021】
ろ過装置2は、
図2に示す通り、ろ過槽7に海水供給管6を接続した下向流式ろ過装置であり、ろ過槽7上方から供給した海水を下方から排出する形態としている。ろ過槽7の内部には、槽の底部から所定の高さに配設したろ材流出防止スクリーン8を配設しており、スクリーンの上側には所定の厚みを有するろ材層9を形成している。
【0022】
ろ材層9は、不定形の粒状繊維ろ材を充填して形成しており、ろ材層9の上方から供給された海水中に含まれる懸濁物質を捕捉する。海水中の懸濁物質には植物系バイオマスが含まれているため、海水をろ過処理することにより、ろ過槽7内で植物系バイオマスを得ることができる。海水中の懸濁物質には、生物の死骸や糞に由来する有機物等も含まれているが、本実施形態では海洋生物(二枚貝)の餌料となる植物系バイオマスを得ることを目的としている。
【0023】
なお、ろ材は繊維ろ材に特定されず、樹脂製ろ材、砂等、その他のろ材を使用してもよい。径や形状等に関しても用途に応じて適宜選択する。また、条件に応じてろ過装置2をいかだ等に載置し、浮体式としてもよい。
【0024】
ろ過槽7の下方には、洗浄流体供給管5を接続してあり、ろ材洗浄時にろ過槽7の下方から洗浄流体を供給できる構成としている。本実施形態では、洗浄流体供給管5として洗浄液供給管を用いており、ろ過槽7下方から海水(洗浄液)を供給してろ材を洗浄する形態としているが、必要に応じて、圧縮空気や撹拌羽根等を併用してろ材を撹拌洗浄してもよい。また、洗浄流体は海水に限定されない。
【0025】
さらにろ過装置2は、ろ過槽7上方に泡沫分離装置10を内設している。泡沫分離装置10は、ろ過槽7に接続された海水供給管6の下方に配置してあり、海水供給管6から供給された海水を泡沫分離する構成としている。
【0026】
泡沫分離装置10は、一端を図示しないブロアやコンプレッサー等の空気供給源に接続した散気管で構成してあり、空気供給源を駆動することで、散気管上部に形成された多数の噴出孔12から海水に向かって微細気泡が噴出される。海水に微細気泡を供給することで海水中の懸濁物質が浮上分離され、水面に安定泡沫を形成する。
【0027】
安定泡沫は、後段で詳述する給餌部4Bから貝類養殖域に向かって供給されるが、この安定泡沫には植物系バイオマスが含まれているため、泡沫分離を行うことで植物系バイオマスの回収率を高めることができる。なお、泡沫分離装置10は、微細気泡を発生するものであればよく、散気管式に限定されない。
【0028】
給餌部4Aは、一端をろ過槽7の下方に接続し、他端を海藻類養殖域に接続した配管であり、ろ過処理後に排出される海水(処理液)を海藻類養殖域に供給する構成としている。海藻類養殖域に供給される処理液は、栄養塩類濃度が相対的に高くなっている下水放流域よりくみ上げた海水をろ過処理したものであるため、栄養塩類濃度が高い。
【0029】
海藻類養殖域内で養殖している海苔は栄養塩類を吸収して成長するため、栄養塩類濃度が高い処理液を供給することで、海苔の成長を促進する。そのため、色落ちのない良質な海苔を得ることができる。
【0030】
なお、必要に応じて、
図1に示すように給餌部4Aに返送管16を接続してもよい。返送管16の他方を海水供給管6に接続することで、処理液を海水供給管6から供給される被処理液(海水)に供給できるため、被処理液の濃度調整が可能となる。これによって、取水した海水中に植物系バイオマス以外の懸濁物質が含まれていた場合であっても、ろ過装置2への固形物負荷を軽減することができる。
【0031】
一方、給餌部4Bは、一端をろ過槽7の上方に接続し、他端を貝類養殖域に接続した配管であり、安定泡沫に含まれる植物系バイオマスと、ろ材層9の洗浄時に剥離した植物系バイオマスを洗浄排液とともに貝類養殖域に供給できる構成としている。貝類養殖域に供給される洗浄排液は、植物系バイオマス量が相対的に多くなっている下水放流域よりくみ上げた海水をろ過処理したものであるため、植物系バイオマス量が多い。
【0032】
貝類養殖域内で養殖している牡蠣は植物系バイオマスを捕捉して成長するため、この植物系バイオマス量が多い洗浄排液を供給することで、牡蠣の成長を促進する。
【0033】
本実施形態では、上述したろ過装置2を用いてろ過処理を行う際に、
図1に示す海水ポンプ13にて取水される海水中に含まれる植物系バイオマスの純生産量を把握し、純生産量に基づいて取水量を決定している。下水放流域内に設置された溶存酸素計からなる測定部14で測定した溶存酸素濃度の測定値が制御部15に送信されて、制御部15から海水ポンプ13に指令が送られる。なお、測定部14はろ過装置2へ供給される被処理液の溶存酸素濃度を測定できればよいため、海水供給管6に設置してもよい。また、溶存酸素濃度の測定のタイミングは、ろ過処理工程開始と同時であってもろ過処理工程の前段であってもよい。
【実施例0034】
以下、
図1、
図2に基づき、本実施形態における餌料生成方法を詳述する。
【0035】
<放流工程>
放流工程では、水処理施設の最終沈殿池で重力沈殿した後に得られる下水放流水(上澄み液)を任意の海域(下水放流域)に放流する。
【0036】
<搬送工程>
搬送工程では、下水放流域内の海水をくみ上げる。下水放流域内に設置した海水ポンプ13を駆動して海水をくみ上げ、海水供給管6を介して海水をろ過装置2に供給する。このとき、海水供給管6に介装する弁V1及び給餌部4Aに介装する弁V2は開放している。
【0037】
<ろ過処理工程>
ろ過処理工程では、くみ上げた海水をろ過装置2に供給してろ過処理を行う。海水供給管6からろ過槽7内に海水を供給し、泡沫分離装置10の噴出孔12からろ過槽7上方に向けて微細気泡を供給しつつ、ろ過槽7内に充填されたろ材層9にて懸濁物質を捕捉する。このとき、給餌部4Bに介装する弁V3は開放している。
【0038】
噴出された多数の微細気泡は、上方から供給された海水に混在する懸濁物質や、水圧等の影響を受けてろ材層9から自然に剥離した懸濁物質を吸着し、水面に向かって浮上する。そして、次々と浮上してくる懸濁物質を吸着した気泡が水面に集まって、水面に安定泡沫を形成する。
【0039】
水面に形成された安定泡沫は、ろ過槽7上方に接続された給餌部4Bから貝類養殖域に供給されるが、安定泡沫には貝類の餌料となる植物系バイオマスが含まれていることから、ろ過工程中に泡沫分離を行うことで、餌料を効率よく貝類へ給餌できるといえる。
【0040】
泡沫分離は、ろ過処理工程中に継続的に行うが、圧縮空気の供給を開始するタイミングは、適宜決定する。また、給餌部4Bから貝類養殖域への安定泡沫の供給方法は、例えば、ろ過処理工程中に、ろ過槽7内の水位を常時一定にしてオーバーフローさせながら排出させる等、排出方法は適宜選択する。条件に応じて、泡沫分離装置10を省略して通常のろ過処理工程のみ実施してもよい。
【0041】
ろ過処理工程中、ろ材層9を通過する海水中に含まれる植物系バイオマスがろ材層9に徐々に堆積する。一方、ろ材層9を通過した海水は処理液として給餌部4Aから海藻類養殖域に供給される。給餌部4Aから海藻類養殖域に供給される処理液は、泡沫分離装置10より噴出される微細気泡を含んでおり、この処理液を海藻類養殖域に供給することで、海苔の成長を促進する。
【0042】
なお、上向流式ろ過装置を用いてろ過処理を行ってもよい。その際には、ろ過槽7下方から被処理液(海水)を供給し、ろ過槽7上方から排出される処理液を海藻類養殖域に供給するとともに、上方から供給された洗浄液(海水)によってろ材から剥離した植物系バイオマスをろ過槽7下方から貝類養殖域に供給する。
【0043】
本実施形態では、ろ過処理工程時に下水放流域内の溶存酸素濃度をリアルタイムで測定し、測定値を用いて植物系バイオマスの純生産量Pnを算出する。そして、算出された純生産量Pnに基づいて海水ポンプ13を制御して海水の取水量を調整する。以下、植物系バイオマスの純生産量Pnの算出方法及び海水の取水量制御方法を詳述する。
【0044】
まず、植物系バイオマスの純生産量Pnは、下記(式1)より算出する。
Pn=(12L+12D)-0TIME…(式1)
Pn:植物系バイオマスの純生産量
12L+12D:12時間明条件下における溶存酸素濃度測定値+12時間暗条件下における溶存酸素濃度測定値
0TIME:初期の溶存酸素濃度測定値
【0045】
12L+12Dは、ろ過処理工程時に12時間明条件下にある下水放流域内で測定された溶存酸素濃度の測定値と12時間暗条件下にある下水放流域内で測定された溶存酸素濃度の測定値を足し合わせた値である。また、0TIMEは、12L+12D条件下における下水放流域内の溶存酸素濃度の測定を開始する前に、下水放流域内で測定された初期の溶存酸素濃度を示す。算出された12L+12Dの値から初期の溶存酸素濃度(0TIME)を差し引くことによって、下水放流域内で生息する植物系バイオマスの1日当たりの純生産量Pnを算出できる。
【0046】
続いて、海水の取水量制御方法を詳述する。予め所定の幅を持たせた植物系バイオマスの純生産量の基準値Pn0を設定しておく。そして、上述した方法で算出された純生産量Pnを予め設定した基準値Pn0と比較判断し、算出値Pnが基準値Pn0より高い場合は、海水ポンプ13の回転数を段階的に減少させて取水量を減らす。一方、算出値Pnが基準値Pn0より低い場合は、海水ポンプ13の回転数を段階的に増加させて取水量を増やす。算出値Pnが基準値Pn0の範囲内に収まるまで上記制御を繰り返す。
【0047】
算出値Pnが基準値Pn0の範囲内にある場合は、海水ポンプ13の回転数を維持した状態で運転を継続する。なお、制御はPID制御を用いて、算出値Pnが基準値Pn0の範囲内に収まるように、事前に定めた調整量αを段階的に増加もしくは減少させる。
【0048】
このように、下水放流域内の海水中に含まれる植物系バイオマスの純生産量Pnをもとに海水の取水量を調整することで、常時一定量の植物系バイオマスを餌料生成装置1に供給できる。餌料生成装置1を構成するろ過装置2に一定量の植物系バイオマスを含む海水を連続的に供給し、ろ過処理することで常時一定量の植物系バイオマスを得ることができる。得られた植物系バイオマスはろ材層9に堆積し、後述する逆洗浄によって剥離されて貝類養殖域に供給されるため、貝類に餌料を安定的に供給できる。
【0049】
加えて、後述する洗浄工程時にろ過装置2にて常時一定量の固形物(植物系バイオマス)を洗浄回収することで、ろ過効率が低下しないため、長時間にわたってろ過処理を継続できる。これにより、一定量の処理液が海藻類養殖槽内に供給され続けるため、海藻類に餌料を安定的に供給できる。
【0050】
本実施形態では、下水放流域に含まれる植物系バイオマス量を上述した式を用いて算出したが、植物系バイオマス量を把握するために、公知のクロロフィル蛍光センサを用いてクロロフィル蛍光強度の測定値と予め定めた基準値を比較判断して制御を行っても、公知の画像検出装置を用いて撮像した画像データをもとに制御を行ってもよい。クロロフィル蛍光センサ及び画像検出装置を併用してもよい。なお、クロロフィル蛍光強度及び撮像画像は、下水放流域からろ過装置2の間の任意の箇所で測定する。
【0051】
また、純生産量Pnを一定量とするために、下水放流域における海水の取水量を制御したが、水処理施設から放流される下水放流水量を制御してもよい。下水放流水には、植物系バイオマスの餌となる窒素やリン等の栄養塩類が含まれているため、下水放流水量を制御することで植物系バイオマスの純生産量を調整可能である。
【0052】
さらに、本実施形態では、ろ過処理工程時に連続的に測定された溶存酸素濃度を用いたリアルタイム制御としたが、連続する2つの測定値を所定間隔ごとに把握し、2つの測定値を用いて純生産量Pnをそれぞれ算出し、算出した純生産量Pnを用いて総生産量Pgと呼吸量Rを算出して、純生産量Pnが増加傾向にあるか、減少傾向にあるか、を予測する制御方法を用いてもよい。増減の予測制御方法を以下に詳述する。
【0053】
まず、連続する2つの溶存酸素濃度の測定値を把握するために、所定の測定時間Tn及びその直後Tn+1における溶存酸素濃度を測定する。そして、各測定値を用いて上記(式1)より純生産量Pn及びPn+1をそれぞれ算出する。
【0054】
続いて、下記(式2)より、総生産量Pgn及び総生産量Pgn+1を算出する。ここで、各総生産量Pgを算出するために下記(式3)より呼吸量Rn及びRn+1を算出しておく。なお、(式2)は純生産量を算出する下記(式4)を移行した式である。
Pg=Pn+R…(式2)
R=0TIME-24D…(式3)
Pn=Pg-R…(式4)
Pg:植物系バイオマスの総生産量
Pn:(式1)より算出した植物系バイオマスの純生産量
R:植物系バイオマスの呼吸量
0TIME:初期の溶存酸素濃度測定値
24D:24時間暗条件下における溶存酸素濃度測定値
【0055】
呼吸量Rn及びRn+1は、下水放流域内の初期の溶存酸素濃度の測定値から24時間暗条件下における溶存酸素濃度の測定値を差し引いたものである。初期の溶存酸素濃度から測定した溶存酸素濃度を差し引くことで、植物系バイオマスの呼吸量を把握できる。呼吸量Rn及びRn+1を算出した後、これらの値および上記(式1)にて算出された純生産量Pn及びPn+1を用いて、総生産量Pg及びPg+1を算出する。各総生産量Pgは、純生産量の算出値Pnに呼吸量Rを足し合わせて求める。
【0056】
上記(式1~3)から各測定時間における総生産量Pgn、Pgn+1と呼吸量Rn、Rn+1を算出し、算出された総生産量PgnとPgn+1を比較する。さらに、時間Tnにおける総生産量Pgnに対する呼吸量Rnの割合と時間Tn+1における総生産量Pgnに対する呼吸量Rnの割合を比較する。
【0057】
下記(式5)に示すように、例えば、総生産量Pgn+1が総生産量Pgnより大きい結果が得られた場合、時間Tn+1では、下水放流域内では植物系バイオマスの光合成が活発に行われており、光合成によって植物系バイオマスが大量に増殖していることがわかる。また、下記(式6)に示すように、総生産量Pgn+1に対する呼吸量Rn+1の割合が総生産量Pgnに対する呼吸量Rnの割合より大きい結果が得られた場合、時間Tn+1では、植物系バイオマスが光合成を活発に行っている一方で呼吸割合が高いことから、光合成で得られたエネルギーを大量に消費していることがわかる。
Pgn<Pgn+1…(式5)
Rn/Pgn<Rn+1/Pgn+1…(式6)
【0058】
上記(式5、6)より、総生産量Pg及び総生産量Pgに占める呼吸量Rが多い場合、植物系バイオマスのエネルギー消費量が大きいことから、総生産量から呼吸量を差し引いて算出される植物系バイオマスの純生産量Pnは、減少傾向に転じると予測される。一方、総生産量Pg及び総生産量Pgに占める呼吸量Rが時間Tn+1より小さい時間Tnは、植物系バイオマス量が少なく、エネルギー消費量も小さいことから植物系バイオマスの純生産量Pnは増加傾向に転じると予測される。
【0059】
このように、所定時刻Tn及びTn+1における純生産量Pn、Pn+1が増加傾向にあるか、減少傾向にあるか予測することで、下水放流域内の植物系バイオマスの純生産量の状態を把握できる。そして予測結果より、増加傾向にある場合は、海水ポンプ13の回転数を段階的に減少させて取水量を減らし、減少傾向にある場合は海水ポンプ13の回転数を段階的に増加させて取水量を増やすことで、一定量の植物系バイオマスをろ過装置2に供給できる。
【0060】
<ろ材洗浄工程>
ろ材洗浄工程では、ろ過槽7内に充填されたろ材層9を洗浄する。ろ材層9の下流側から洗浄液を供給してろ材層9を通水させた後、上流側より排出させる。この逆洗浄によってろ材層9で捕捉された植物系バイオマスが剥離する。剥離した植物系バイオマスは、ろ材層9上流から排出される洗浄排液(ろ材層9通過後の海水)とともに、給餌部4Bを介して貝類養殖域へ供給される。
【0061】
ろ材洗浄工程は、例えば、ろ過処理時にろ材層9で捕捉された懸濁物質による目詰まりによりろ過圧力が上昇した場合、または、累積稼働時間が所定時間や所定時刻に達した場合、または、処理液が所定の基準に達しなくなった場合に行う。ろ材洗浄時には、弁V1及び弁V2を閉とし、洗浄液供給管17に介装した弁V4を開放する。
【0062】
洗浄は、海水を用いて行うため、圧縮空気供給ラインを洗浄流体供給管5の下方に追加した場合には、撹拌洗浄時と同時に洗浄流体供給管5から供給された海水の泡沫分離が行われる。撹拌洗浄によって植物系バイオマスをろ材から剥離しつつ、植物系バイオマスを含む安定泡沫を給餌部4Bから貝類養殖域へ供給できるため、餌料を効率よく生成できる。
【0063】
本実施形態では、海苔及び牡蠣を列挙したが、栄養塩類及び植物系バイオマスを餌料とするその他の海洋生物に適用可能である。
【0064】
本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形実施可能である。
本発明は、常時一定濃度の植物系バイオマスを含む海水を餌料生成装置に供給可能であり、複数の海洋生物の餌料を安定的に得られるため、複数の海洋生物の養殖を行う上で有用な技術である。また、餌料生成装置を所定に海域に設置するだけで本技術を実施できるため、あらゆる海域で使用することができる。