(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098633
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】回転電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 21/44 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
H02K21/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002233
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】広江 隆治
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 遼
(72)【発明者】
【氏名】湯下 篤
(72)【発明者】
【氏名】新妻 瞬
【テーマコード(参考)】
5H621
【Fターム(参考)】
5H621BB07
5H621GA04
5H621HH09
(57)【要約】
【課題】ブラシ、整流子、および駆動回路を必要としない簡易な構成で、直流発電機、直流電動機、または直流と交流との電力変換器として動作することができる回転電気機械を提供する。
【解決手段】回転電気機械は、回転軸の軸線回りに回転する回転子と、前記回転子と空隙を開けて対向配置され、前記回転軸の軸方向に延びる円筒状の継鉄部と、前記継鉄部と前記回転子との間に設けられた磁石を含む歯と、を有する固定子と、前記固定子の前記歯に前記回転軸と平行に配置されるコイルと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸線回りに回転する回転子と、
前記回転子と空隙を開けて対向配置され、前記回転軸の軸方向に延びる円筒状の継鉄部と、前記継鉄部と前記回転子との間に設けられた磁石を含む歯と、を有する固定子と、
前記固定子の前記歯に前記回転軸と平行に配置されるコイルと、
を備える回転電気機械。
【請求項2】
前記歯は、前記継鉄部から半径方向に前記回転子に向かって突出する鉄心をさらに有し、
前記磁石は前記鉄心を半径方向に分割するように配置される、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項3】
前記歯は、前記継鉄部から半径方向に前記回転子に向かって突出するように配置された前記磁石からなる、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項4】
前記磁石は、前記継鉄部の回転子側の一部を絶縁するように前記継鉄部の内部に埋め込まれ、
前記歯は、前記磁石と、前記継鉄部の前記磁石で囲まれた領域とからなる、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項5】
前記磁石は永久磁石であり、磁極が半径方向を向くように配置される、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項6】
前記磁石は、磁極の向きが半径方向に対して傾斜するように配置され、
前記磁石の少なくとも一部は、半径方向において前記継鉄部と前記コイルとの間に位置する、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項7】
前記コイルの少なくとも一部は、前記歯の半径方向の中間点よりも回転子側に配置される、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項8】
前記回転子は、半径方向に前記固定子に向かって突出する突極を有する、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項9】
前記磁石は、回転子側を向く磁極の極性が周方向に隣り合う磁石と逆になるように配置され、
前記磁石の回転子側を向く磁極に応じて前記コイルの軸方向の電流の向きを交番させる、
請求項5に記載の回転電気機械。
【請求項10】
前記突極の周方向の弧の長さをW1、隣り合う前記突極の間の弧の長さをW1’、前記歯の周方向の弧の長さをW2、隣り合う前記歯の間の弧の長さをW2’、前記歯の数をnT、前記突極の数をnpsとしたとき、nT・(W2+W2’)=nps・(W1+W1’)を満たすように、{W1,W1’,W2,W2’,nT,nps}の値を定める、
請求項8に記載の回転電気機械。
【請求項11】
前記コイルは、前記歯の前記回転子を向く端面に設けられた溝の内部に、前記回転子との間の空隙と接するように配置される、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項12】
回転軸の軸線回りに回転する回転子と、
前記回転子と前記回転軸の軸方向に空隙を開けて対向配置され、前記回転軸の軸方向に延びる円筒状の継鉄部と、前記継鉄部と前記回転子との間に設けられた磁石を含む歯と、を有する固定子と、
前記固定子の前記歯に前記回転軸の半径方向に配置されるコイルと、
を備える回転電気機械。
【請求項13】
複数の前記コイルのうち直列接続するコイルの数を変更可能なスイッチをさらに備える、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項14】
前記磁石は電磁石である、
請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項15】
前記歯を巻回する第2のコイルをさらに備える、
請求項1に記載の回転電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、直流発電機、直流電動機、または電力変換器として動作する回転電気機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図30は、従来技術における直流発電機の構成を示す概略図である。直流発電機9Aは、直流電力を発電する発電機である。コイル95Aは直流発電機9Aの回転子93Aに巻回されており、回転子93Aと共に回転軸の軸線O回りに回転する。コイル95Aは、回転すると、固定子となる永久磁石92Aまたは電磁石による界磁束(field flux)を交差するよう配置される。コイル95Aはそれと共に回転する整流子96に接続され、ブラシ97を仲介して直流電源98に接続される。コイル95Aの回転軸方向の長さをL、コイル95Aの回転半径をr、界磁の磁束密度をB、直流電源98によりコイル95Aに発生している電流をi、コイル95Aの微小区間dlが界磁束を直角に横切る速度をuと記すと、コイル95Aが角速度ωで回転するとき、コイル95Aの一周の長さlに発生する誘導起電力eは、フレミングの右手の法則から次式(1)で表される。
【0003】
【0004】
図31は、コイル95Aが界磁の中を回転するとき、回転角度θを横軸に、コイル一周の誘導起電力eを縦軸に表したグラフである。コイル一周の誘導起電力eはコイル95Aの回転角度について180°毎に交番する。
図32は、コイル95Aの回転角度θに対する整流子96の後の電圧e
1のグラフである。整流子96はコイル95Aが180°回転する毎にコイル95Aと直流電源98の接続を反転させるので、直流電源98にかかる電圧e
1は、コイル95Aの誘導起電力eのグラフの負側を正側に折り返したものとなる。従来の直流発電機9Aは、このような仕組みにより直流電力を発電し、たとえば直流電池のような直流負荷に発電電力を供給(充電)する。
【0005】
従来の直流発電機9Aは、整流子96およびブラシ97が消耗部品であるので寿命が短い、ブラシ97から電気ノイズや騒音が発生するなどの課題がある。そこで、課題を解決する技術の一つに、ブラシと整流子を取り去ったブラシレス直流発電機がある。同発電機では、ブラシレスにするためにブラシと整流子の機械的な接触を、半導体素子のスイッチング動作に替えている。ブラシレス直流発電機は、寿命・メンテナンス性・音響ノイズの点で優れるが、駆動回路が必要となりコストアップすることが課題である。課題を解決する他の技術として、特許文献1および特許文献2は、
図33に示すようなブラシレス直流発電機9Bを開示している。ブラシレス直流発電機9Bは、固定子92Bにコイル95Bが設置され、回転子93Bに永久磁石931が設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-152602号公報
【特許文献2】特開2020-156193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のブラシレス直流発電機9Bの特徴は、磁石931の磁極を周方向に交番させないことである。すなわち、ブラシレス直流発電機9Bの界磁束は回転子93Bが回転しても、
図33に破線で示すように一方向であり交番しない。したがって、回転子を一方向に回すなら、コイル95Bの誘導起電力は直流であり、一つひとつのコイルを誘導起電力が相加するように接続するだけで直流発電機として機能する。しかし、ブラシレス直流発電機9Bは、固定子92Bを包むようにコイルを巻回しなければならずコイルが長くなり電気抵抗による損失が大きい、回転子93Bに磁石931を配置するので高速回転の用途では磁石の保持が困難である、という課題があった。
【0008】
本開示の目的は、ブラシ、整流子、および駆動回路を必要としない簡易な構成で、直流発電機、直流電動機、または直流と交流との電力変換器として動作し、高速回転の用途にも適する回転電気機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様によれば、回転電気機械は、回転軸の軸線回りに回転する回転子と、前記回転子と空隙を開けて対向配置され、前記回転軸の軸方向に延びる円筒状の継鉄部と、前記継鉄部と前記回転子との間に設けられた磁石を含む歯と、を有する固定子と、前記固定子の前記歯に前記回転軸と平行に配置されるコイルと、を備える。
【0010】
本開示の一態様によれば、回転電気機械は、回転軸の軸線回りに回転する回転子と、前記回転子と前記回転軸の軸方向に空隙を開けて対向配置され、前記回転軸の軸方向に延びる円筒状の継鉄部と、前記継鉄部と前記回転子との間に設けられた磁石を含む歯と、を有する固定子と、前記固定子の前記歯に前記回転軸の半径方向に配置されるコイルと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
上記態様によれば、ブラシ、整流子、および駆動回路を必要としない簡易な構成で、直流発電機、直流電動機、または直流と交流との電力変換器として動作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係る回転電気機械の構成の概略を示す断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る回転電気機械の第1の部分拡大図である。
【
図3】第1の実施形態に係る回転電気機械の第2の部分拡大図である。
【
図4】第1の実施形態に係る回転電気機械の第3の部分拡大図である。
【
図5】第1の実施形態に係る回転電気機械の第4の部分拡大図である。
【
図6】第1の実施形態に係る回転電気機械の第5の部分拡大図である。
【
図13】歯および突極の配置例を説明するための第1の図である。
【
図14】コイルの配置例を説明するための第1の図である。
【
図15】コイルの配置例を説明するための第2の図である。
【
図16】コイルの配置例を説明するための第3の図である。
【
図17】コイルの配置例を説明するための第4の図である。
【
図18】第2の実施形態に係る回転電気機械の構成の概略を示す斜視図である。
【
図19】第2の実施形態に係る回転電気機械の第1の部分拡大図である。
【
図20】第2の実施形態に係る回転電気機械の第2の部分拡大図である。
【
図21】第3の実施形態に係る回転電気機械のコイルの構成を示す第1の概略図である。
【
図22】第3の実施形態に係るスイッチと起電力の対応を示す表である。
【
図23】第3の実施形態に係る回転電気機械のコイルの構成を示す第2の概略図である。
【
図24】第4の実施形態に係る回転電気機械の第1の部分拡大図である。
【
図25】第4の実施形態に係る回転電気機械の第2の部分拡大図である。
【
図26】第5の実施形態に係る回転電気機械の第1の部分拡大図である。
【
図27】第5の実施形態に係る回転電気機械の第2の部分拡大図である。
【
図28】第5の実施形態に係る回転電気機械を電力変換器として動作させる例を示す図である。
【
図29】第6の実施形態に係る回転電気機械の部分拡大図である。
【
図30】従来技術における直流発電機の構成を示す第1の概略図である。
【
図31】従来技術における直流発電機の整流子前の電圧の例を示すグラフである。
【
図32】従来技術における直流発電機の整流子後の電圧の例を示すグラフである。
【
図33】従来技術における直流発電機の構成を示す第2の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る回転電気機械の構成の概略を示す断面図である。
図1に示す回転電気機械1は、直流発電機、直流電動機、または直流と交流とを変換する電力変換器として機能する。本実施形態では、回転電気機械1が直流電機(直流発電機または直流電動機)である態様を例として説明する。
【0014】
(回転電気機械の構成)
図1に示すように、回転電気機械1は、固定子2と、回転子3と、回転軸4と、コイル5とを備える。固定子2および回転子3は、回転軸4と同心に配置される。
図1は、回転電気機械1の回転軸4に対して垂直な断面を表したものである。
【0015】
回転軸4は、軸線Oに沿って延びる。以下の説明では、回転軸4の延びる方向を「軸方向Da」、周方向を「周方向Dc」、半径方向を「半径方向Dr」と記載する。
【0016】
回転子3は、回転軸4の軸線O回りに回転する。
【0017】
固定子2は、回転について固定されており、回転子3を半径方向Drの外側から囲うように回転子3と空隙Gをあけて対向配置される。なお、他の実施形態では、回転電気機械1は、回転子3が固定子2を半径方向Drの外側から囲うように配置されたアウターロータの構成であってもよい。
【0018】
なお、
図1には、断面の形状が軸方向Daの位置に依存しない一般的な回転電気機械の例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、たとえば固定子2の歯22や回転子3の突極32をスキュー配置としてもよい。
【0019】
図2は、第1の実施形態に係る回転電気機械の第1の部分拡大図である。
図2は、回転電気機械1の回転軸4に対して垂直な断面を表している。
図2に示すように、固定子2は、継鉄部21と、永久磁石222を含む歯22とを有する。継鉄部21は、軟磁性材料からなり、回転軸4の軸方向Daに延びる円筒状に形成される。歯22は、周方向Dcに複数が並べて配置される。たとえば歯22は、
図2に示すように、鉄心221と永久磁石222とからなる。鉄心221は、軟磁性材料からなり、継鉄部21から回転子3に向かって半径方向Drに突出する。永久磁石222は、鉄心221を半径方向Drに分割するように、鉄心221の内部に埋め込まれる。永久磁石222は、磁極が半径方向Drを向くように配置される。また、永久磁石222は、回転子3側を向く磁極の極性が、周方向Dcに隣り合う永久磁石222と逆になるように配置される。たとえば、各歯22a~22cの永久磁石222は、歯22bの回転子3側の磁極がN極である場合、隣り合う歯22a,22cの回転子3側の磁極はS極となるように配置される。
【0020】
回転子3は、継鉄部31と、突極32とを有する。継鉄部31は、軟磁性材料からなり、回転軸4の軸方向Daに延びる円筒状に形成される。突極32は、継鉄部31から固定子2に向かって半径方向Drに突出する。回転子3の継鉄部31および突極32は、回転子3の回転とともに周方向Dcに移動する。
【0021】
図3は、第1の実施形態に係る回転電気機械の第2の部分拡大図である。
図2および
図3に示すように、コイル5は、回転軸4と平行に、固定子2の歯22を軸方向Daに貫通するように配置される。たとえば、コイル5は、軸方向Daの一方側(
図2の紙面裏側、
図3の紙面上側)から他方側(
図2の紙面表側、
図3の紙面下側)に向かって歯22aを貫通し、軸方向Daの他方側の端面で折り返して隣の歯22bを他方側から一方側に貫通する。同様に、コイル5は、軸方向の一方側の端面で折り返し、さらに隣の歯22cを軸方向Daの一方側から他方側に貫通する。このように、コイル5は波巻きで各歯22に巻かれてもよい。なお、コイル5は、
図2の例のように、固定子2の鉄心221の回転子3側の端面に設けられた溝223の内部に設置されてもよい。また、一つの溝223に複数のコイル5を設置してもよい。
【0022】
上記した式(1)は、界磁束Bに直交する向きに電流を流すと、誘導起電力eが発生することを表している。
図30の直流発電機9Aは、コイル95Aが回転子93Aにあれば、磁極は固定子92Aに配置する。この場合、コイル95Aに交差する磁極はN極とS極が交番する。このため、式(1)によると、たとえばコイル95AがN極と交差する期間は正の電圧が発生しても、次にS極と交差すると負の電圧が発生し、両方を時間的に平均すると電圧は0となる。したがって、コイル95Aの電流が直流であるなら誘導起電力eの期待値は零となり、両者の積である電力は得られない。電力を得るためには、界磁束の交番に合わせて、コイル95Aの電流も交番さなければならない。すなわち、コイル95Aに交流を流さなければならない。
【0023】
これに対し、本実施形態に係る回転電気機械1は、コイル5と、磁極(永久磁石222)とを共に固定子2に配置するところが特徴である。コイル5と磁極を共に固定子2に配置すれば、コイル5からみたとき界磁束は交番しない。界磁束が交番しなければ、式(1)の誘導起電力は時間的な期待値が0にはならず、正または負のどちらかになる。固定子2のどの歯22に配置されたコイル5の電圧が正になるか、または負になるかは、磁極の向きで決まっている。したがって、一つひとつのコイル5をそれぞれに発生する誘導起電力を相加するように接続すると直流電力を得ることができる。なお、他の実施形態では、コイル5と永久磁石222とを共に回転子3に配置してもよい。
【0024】
特許文献2(
図33)のブラシレス直流発電機9Bは、磁極は回転子93Bに、コイル95Bは固定子92Bに配置しているが、磁極が周方向Dcに交番しないので、即ちコイル95Bは常にN極またはS極のどちら一方と交差する。したがって、本願と同様に、コイル95Bには直流電圧が発生し直流電力を得ることができる。
【0025】
たとえば
図2のような磁極(永久磁石222)を有する固定子2の歯22と、回転子3の突極32とを考える。磁極の方向は半径方向Drであり、磁極は周方向Dcに交番するよう配置する。
図2において歯22と突極32とが完全に交差したとき、空隙Gの界磁束密度はB
0であるとする。また、歯22と突極32を周方向Dcに等間隔W1でn
T個配置したとする。このとき、固定子2の界磁束密度は一周でn
T回交番するので、突極32が固定子2の角度θの位置にあるときの界磁束密度は式(2)で近似的に表すことにする。
【0026】
【0027】
突極32が回転子3とともに周方向Dcに速度uで移動すると、フレミングの右手の法則から、固定子2に軸方向Daに配置したコイル5には単位長さあたり式(3)の誘導起電力eが発生する。
【0028】
【0029】
コイル5がnT本あり、それぞれの固定子2上の角度を{θ1,θ2,…,θnT}とする。空隙Gの界磁束密度は式(2)のように角度θに依存するので、角度が分ると界磁束密度の正負がわかる。
【0030】
すると、
図2および
図3に示すように、たとえば磁束が半径方向Drに内向きの歯22bではコイル5に電流が紙面表側から裏側の方向に流れるように、磁束が半径方向Drに外向きの歯22a,22cではコイル5に電流が紙面裏側から表側に流れるように、コイル5を結線することにより、突極32が周方向Dcに速度uで移動するときにコイル5に発生する起電力が相殺しないように相加することができる。たとえば、起電力を正に揃えるなら、コイル5を接続する向きを符号関数sgn(cos(n
Tθ/2))が1なら順方向、-1なら逆方向のように設定する。そうすれば、コイル5の誘導起電力は全て正に揃うので相加することができる。
図2では、紙面表側から裏側に通電するコイル5は(×)で、紙面裏側から表側に通電するコイルは(・)で示している。
【0031】
コイルk(k番目のコイル5)の単位長さに発生する電力を、コイルkの電圧×コイルkの電流で計算すると、式(4)となる。
【0032】
【0033】
コイルが横切る界磁束の軸方向Daの長さをLで表すと、回転電気機械1の全体の電力P(θ)は式(5)となる。
【0034】
【0035】
回転子3の突極32の1回転について平均すると式(5)は式(6)のように表され、回転電気機械1が出力する平均的な電力が分る。
【0036】
【0037】
電力を角速度で偏微分するとトルクになる。空隙Gの半径をrとすると、トルクは次式(7)である。
【0038】
【0039】
図2のように、コイル5を歯22の溝223に設置すると、突極32と歯22との空隙Gが狭くなり、界磁束の磁束密度Bが増加して回転電気機械1の出力が向上する。
【0040】
図4は、第1の実施形態に係る回転電気機械の第3の部分拡大図である。
図5は、第1の実施形態に係る回転電気機械の第4の部分拡大図である。
コイル5は、
図4に示すように溝223をなくして、すなわち、コイル5の左右の鉄心221をなくして、空隙Gに裸で設置してもよい。コイル5を保持する目的で
図2のように歯22に溝223を形成する場合も、
図4のように空隙Gにコイル5を裸で設置するのと原理的には等価である。鉄心221が無いと空隙Gの磁束密度が低下するので、それを補うために永久磁石222を半径方向Drに厚くしてもよい。永久磁石222を極端に厚くすると、
図5の例のように永久磁石222が継鉄部21と接することになる。本実施形態では、継鉄部21と空隙Gとの間に形成される構造を歯と呼ぶことにする。すなわち、歯22は、
図5の例のように永久磁石222のみで形成されたものであってよい。
【0041】
図6は、第1の実施形態に係る回転電気機械の第5の部分拡大図である。
コイル5は、
図6に示すように永久磁石222の回転子3を向く端面に設けられた溝224の内部に設置してもよい。コイル5を永久磁石222の溝224に設置すれば空隙Gの磁束密度は維持され、
図2の形態と同様の出力が得られる。
【0042】
なお、
図5と
図6では、歯22は鉄心221がない。歯22に鉄心221が無いとコイル5のインダクタンスが小さくなる。これにより、回転電気機械1の接触器(不図示)などではサージ電圧が抑制されるので、運転の安全性や信頼性が向上する。
【0043】
(永久磁石の配置例)
図2に示す構成例は、本実施形態の回転電気機械1の標準的な形態であるが、これ以外にもいくつかの形態がある。ここでは、
図7~
図11を参照しながら永久磁石222の配置例について説明する。
【0044】
図7は、永久磁石の配置例を示す第1の図である。
図2の例では、永久磁石222を磁極の向きが半径方向Drと一致するように配置した。これに対し、変形例では、
図7のように、永久磁石222の磁極の向きが半径方向Drに対して傾斜するように配置してもよい。
図7の例では、V字形状に形成した永久磁石222を歯22の鉄心221に埋め込むことにより、永久磁石222を傾斜して配置している。このように、永久磁石222を傾斜させると、永久磁石222の法面の長さ(法長)が増すので、界磁束が増大し回転電気機械1の出力が向上する。
【0045】
また、
図7のように永久磁石222を傾斜して配置すると、継鉄部21と永久磁石222とを接続する継鉄延伸部221aが、歯22の周方向Dcの側面全体に占める比率を増やすことになる。継鉄延伸部221aの磁位は近似的に継鉄部21と等しいので、周方向Dcに隣接する歯22の継鉄延伸部221aの磁位も継鉄部21に等しく、結果的に両側面に磁位の差が無くなる。これにより、隣接する歯の側面に発生する磁束漏洩が減る。漏洩磁束が減れば界磁束が増えるので、回転電気機械1の出力が向上する。
【0046】
図8は、永久磁石の配置例を示す第2の図である。
図9は、永久磁石の配置例を示す第3の図である。
図8のように、歯22(鉄心221)を永久磁石222の法面より空隙G側に延長してもよい。また、
図9のように、永久磁石222は、V字形状の第1磁石222aと、第1磁石222aの周方向Dcの両端部を半径方向Drに空隙Gまで延長する第2磁石222bとを有していてもよい。第2磁石222bは、歯22の周方向Dcの側面のうち、継鉄延伸部221aよりも空隙G側の側面221bを覆う。第2磁石222bは、磁束が歯22の周方向Dcの側面221bから漏出することを防止することが目的である。このため、第2磁石222bは、歯22の周方向Dcの側面221bから歯22の周方向Dcの中心への磁束を助勢するように磁極を配置する。
【0047】
図10は、永久磁石の配置例を示す第4の図である。
図11は、永久磁石の配置例を示す第5の図である。
図10は、正負両方の磁極とその起磁力を具体的に破線の矢印で表したものである。
図11は、
図9の構成をさらに変形させて、永久磁石222を傾斜しない(矩形状の永久磁石222を周方向Dcに沿って配置する)場合の例である。これらの形態も本実施形態の一態様に含まれる。
【0048】
(歯の構成例)
図12は、歯の構成例を示す図である。
図2や
図7の例では、歯22は磁極毎に独立していた。
図12は、
図7の歯22を周方向Dcに互いに接するように形成、配置した例である。具体的には、継鉄部21の回転子3側の一部を絶縁するように、継鉄部21の内部にV字形状の永久磁石222が埋め込まれる。継鉄部21は、内部に埋め込まれた永久磁石222により、基端部211aと先端部211bとに分割される。コイル5は先端部211bに設置される。
【0049】
図12の例では、見掛け上は歯(回転子3に向かって半径方向Drに突出する部分)が無いものの、コイル5は永久磁石222で周囲を囲まれるので、
図2や
図7の構成と同様に界磁束が発生する。空隙Gとの境界(すなわち、継鉄部21の回転子3側の端面)から永久磁石222の基端部211a側の端部までが事実上の歯22である。つまり、
図12の例では、固定子2の歯22は、永久磁石222と、継鉄部21の永久磁石222で囲まれた先端部211bとからなる。
【0050】
(歯および突極の配置例)
図13は、歯および突極の配置例を説明するための第1の図である。
図13は、歯22および突極32の周方向Dcにおける配置例を示している。突極32の周方向Dcの弧の長さをW1、隣り合う突極32間の弧の長さをW1’、歯22の弧の長さをW2、隣り合う歯22間の弧の長さをW2’、歯22の数をn
T、突極32の数をn
psとする。磁極の正負が交番する周期はW2+W2’である。磁極は周方向Dcにn
T個あるので、磁極をn
T個配置するにはnT×(W2+W2’)の周長が必要である。一方、突極32の周期はW1+W1’であるので、突極をn
ps個配置するにはn
ps×(W1+W1’)の周長が必要である。磁極と突極32は半径方向Drに、例えば1mm程度の空隙Gがあるが、近似的に空隙Gが無いものとすると、磁極をn
T個配置する周長と、突極をn
ps個配置する周長は等しくなければならない。このことから、回転電気機械1の設計変数である{W1,W1’,W2,W2’,n
T,n
ps}は次式(8)を満たすように設定する。式(8)は、W2+W2’とW1+W1’との関係を示している。したがって、W1とW1’は両者の和が重要であり、W1とW1’は必ずしも同じ値でなくてもよい。W1=W1’を基本として、その周囲で微調整してもよい。W2についても同様である。W2=W1を基本として、その周囲で微調整してもよい。
【0051】
【0052】
(コイルの配置例)
図14は、コイルの配置例を説明するための第1の図である。
図2の例のように、コイル5は、回転軸4と平行に、歯22を軸方向Daに貫通するように配置される。さらに、
図14に示すように、コイル5の少なくとも一部が回転子3に近い側に位置するように配置されることが望ましい。具体的には、コイル5の回転子3側の端部が、歯22の半径方向Drの長さの中間点mと同じ位置、または、中間点mよりも回転子3側に位置するように配置される。
【0053】
図14のようにコイル5を空隙Gに近づけて配置すると、歯22と突極32が半径方向Drに対面する空隙Gの界磁束をコイル5で支配することができる。
図14の例では、空隙Gの界磁束が下向き(回転子3へ向かう方向)であるとして、コイル5に紙面裏側から表側に電流を流したとする。このとき、右ネジの法則(アンペールの法則)にしたがってコイル5の周囲に破線51で示すような反時計回りに磁界が作られる。その結果、空隙Gにはコイル5によって右向きの磁界ができて、破線52で示すように空隙Gを通る界磁の磁束線は湾曲する。このとき、コイル5には磁束線が直線になろうとする方向に電磁力Fが作用する。同時に突極32には逆向きに-Fが作用して回転子を駆動する。このように、回転電気機械1は電動機として機能する。また、突極32を外力で回すとコイル5の両端に誘導起電力が発生するので回転電気機械1は発電機として機能する。
図14では、コイル5を空隙Gに接するように配置してコイル5の一部を空隙Gに露出させている。こうすることにより、コイル5によって空隙Gに生じる磁界51が増大し、回転電気機械1の出力が向上する。コイル5は溝223に配置してもよい。一つの歯22に多数のコイル5を配置しようとすると、すべてのコイル5を空隙Gに露出させることが難しくなる。そのような場合、溝223は有効であり、複数のコイル5を溝223に配置してもよい。溝223が空隙Gに開口する領域には一つひとつのコイル5を合算した磁界51が発生し、等価的に溝223に配置したコイル5全てを空隙Gに露出させたことになる。
【0054】
図15は、コイルの配置例を説明するための第2の図である。
図15は、
図14の配置例との対比として、コイル5を空隙Gから遠ざけた配置例である。コイル5が空隙Gから遠ざかると、コイル5による磁界が空隙Gの界磁束に影響し難くなる。このため、
図15の配置例は、
図14の配置例と比較して電気出力が低下する。
【0055】
図16は、コイルの配置例を説明するための第3の図である。
図17は、コイルの配置例を説明するための第4の図である。
次に、一つの歯22に複数のコイル5を周方向Dcに分けて配置する例について説明する。
図16~
図17は一つの歯22に2条のコイル5a,5bを周方向Dcに分けて配置する例を示している。コイル5a、5bの間隔は歯22の間隔を等分割してもよい。
図16~
図17はコイル5を周方向Dcに2条に分けて配置するので、コイル5a,5bの間隔は歯22の弧の長さW2の半分としている。これは式(9)のように表されるが、式(8)と意味は同じである。
【0056】
【0057】
なお、
図17ではコイル5を波巻き(Wave Winding)とする例が示されているが、重ね巻き(Wrap Winding)であってもよい。
【0058】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る回転電気機械1は、回転軸4の軸線O回りに回転する回転子3と、回転子3と空隙Gを開けて対向配置され、回転軸4の軸方向Daに延びる円筒状の継鉄部21と、継鉄部21と回転子3との間に設けられた永久磁石222を含む歯22と、を有する固定子2と、固定子2の歯22に回転軸4と平行に配置されるコイル5と、を備える。
【0059】
従来技術では、コイルを回転子に配置し、磁石を固定子に配置して、コイルと磁石とを相対運動(交番)させていた。これに対し、本実施形態に係る回転電気機械1は、上記したように、コイル5および永久磁石222の両方を固定子2に配置して、両者の相対運動をさせないので、整流が不要となる。これにより、回転電気機械1は、ブラシ、整流子、および駆動回路を必要となしない簡易な構成で、直流発電機または直流電動機として動作することができる。これにより、直流発電機または直流電動機を安価かつ簡易な構造で製造することが可能となる。他方、特許文献2の技術では固定子92Bを包むようにコイル95Bを巻回しなければならずコイルが長くなり電気抵抗による損失が大きい、回転子93Bに磁石931を配置するので高速回転の用途では磁石の保持が困難である、という課題があった。これに対し、本実施形態に係る回転電気機械1は永久磁石222を固定子2に配置して磁石保持の課題を、コイル5を波巻きまたは重ね巻きによりコイルを短縮して電気抵抗による損失の課題を、解決することが可能となる。
【0060】
また、歯22は、継鉄部21から半径方向Drに回転子3に向かって突出する鉄心221をさらに有し、永久磁石222は鉄心221を半径方向Drに分割するように配置される。
【0061】
このようにすることで、回転電気機械1は、固定子2の歯22と回転子3との間の空隙Gを狭めて界磁束の磁束密度を増加させることができるので、出力(トルク)を高めることができる。
【0062】
また、歯22は、継鉄部21から半径方向Drに回転子3に向かって突出するように配置された永久磁石222からなる。
【0063】
回転電気機械1は、このように歯22から鉄心をなくすことによってコイル5のインダクタンスを小さくすることができる。これにより、回転電気機械1に用いられる接触器などのサージ電圧を抑制し、運転の安全性や信頼性を向上させることができる。
【0064】
また、永久磁石222は、継鉄部21の回転子3側の一部を絶縁するように継鉄部21の内部に埋め込まれ、歯22は、永久磁石222と、継鉄部21の永久磁石222で囲まれた領域(先端部211b)とからなる。
【0065】
このように、歯22が鉄心を有していないコアレスモータのような構成であっても、永久磁石222で囲まれた領域を歯22として機能させて、歯22を半径方向Drに突出させた構成と同様の効果を得ることができる。
【0066】
また、永久磁石222は、磁極が半径方向Drを向くように配置される。
【0067】
このように、回転電気機械1は、コイル5に対し常に一方の磁極(N極またはS極)の対向させることにより、コイル5から見て界磁束が交番しないので、従来技術で用いられるコイルの電流を交番させるための駆動回路を省略することができる。
【0068】
また、永久磁石222は、磁極の向きが半径方向Drに対して傾斜するように配置され、永久磁石222の少なくとも一部は、半径方向Drにおいて継鉄部21とコイル5との間に位置する。
【0069】
このようにすることで、回転電気機械1は、永久磁石222の法面の長さを増して界磁即を増大させ、出力を高めることができる。
【0070】
また、コイル5の少なくとも一部は、歯22の半径方向Drの中間点mよりも回転子3側に配置される。
【0071】
このようにすることで、回転電気機械1は、コイル5に電流を流したときに発生する界が、空隙Gの界磁束に与える影響を高めることができる。これにより、コイル5を中間点mよりも回転子3から遠ざけた場合と比較して、コイル5に作用する電磁力、または、コイル5の両端に発生する電圧を大きくし、回転電気機械1の出力を高めることができる。
【0072】
また、回転子3は、半径方向Drに固定子2に向かって突出する突極32を有する。
【0073】
このようにすることで、回転電気機械1は、固定子2の歯22と回転子3の突極32との間の空隙Gを狭めて界磁束の磁束密度を増加させることができるので、出力(トルク)を高めることができる。
【0074】
また、永久磁石222は、回転子3側を向く磁極の極性が周方向Dcに隣り合う永久磁石222と逆になるように配置され、永久磁石の回転子3側を向く磁極に応じてコイル5の軸方向Daの電流の向きを交番させる。
【0075】
このようにすることで、回転電気機械1は、回転子3が回転するときにコイル5に発生する起電力が相殺しないように相加することができる。
【0076】
また、突極32の周方向Dcの弧の長さをW1、隣り合う突極32の間の弧の長さをW1’、歯22の周方向Dcの弧の長さをW2、隣り合う歯22の間の弧の長さをW2’、歯22の数をnT、突極32の数をnpsとしたとき、nT・(W2+W2’)=nps・(W1+W1’)を満たすように、{W1,W1’,W2,W2’,nT,nps}の値を定める。
【0077】
このようにすることで、回転電気機械1は、突極32および歯22の数や、弧の長さを任意に変更することができる。
【0078】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る回転電気機械1について説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0079】
図18は、第2の実施形態に係る回転電気機械の構成の概略を示す斜視図である。
図19は、第2の実施形態に係る回転電気機械の第1の部分拡大図である。
図20は、第2の実施形態に係る回転電気機械の第2の部分拡大図である。
図18~
図20に示すように、本実施形態に係る回転電気機械1は、固定子2と回転子とを軸方向Daに並べたアキシャルギャップ電動機、またはアキシャルギャップ発電機である。
【0080】
フレミングの右手の法則によると、起電力はコイルの特定部分に発生する。特定部分とは、コイルの電流の方向が、界磁束の方向に垂直であり、かつ、コイルの移動方向にも垂直である部分である。第1の実施形態では、界磁束が半径方向である一般的な直流電機について説明した。一般的な直流電機は、界磁束は半径方向であり、コイルは界磁束に対して相対的に周方向に移動するから、コイルの電流が軸方向に流れる部分が上記した「コイルの特定部分」である。よって、直流電機の形状を軸方向に延ばすと式(6)におけるLが増大し電気出力が向上する。
【0081】
しかし、扁平形状が好まれる用途では、直流電機そのものが軸方向に制約されるので、コイルを軸方向に長く配置することができない。そこで、扁平形状の用途では、
図19のように界磁束を軸方向Daに生成し、かつ、コイル5を自転車の車輪のスポークのように半径方向Drに長く延ばして配置する。そうするとコイル5を半径方向Drに長く延ばした部分が界磁束に交差するので、電気出力の向上に役立つ。
【0082】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態に係る回転電気機械1について説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0083】
図21は、第3の実施形態に係る回転電気機械のコイルの構成を示す第1の概略図である。
図22は、第3の実施形態に係るスイッチと起電力との対応を示す表である。
図23は、第3の実施形態に係る回転電気機械のコイルの構成を示す第2の概略図である。
【0084】
直流電機の出力は、式(6)に示すようにコイルの電流に比例する。コイル5の電流は、電源の電圧と直流電機の起電力の差に比例する。たとえばコイル5が4個あるとして、
図21のように接続したとする。
【0085】
このとき、コイル5全体の起電力は、スイッチSW1,SW2,SW3を開閉することによって、
図22に示す対応表T1のように調節することができる。コイル5が4個の場合は起電力の切り替えは対応表T1のように4段階であるが、例えば12個であれば12段階に切り替えることができる。もちろん、コイルが12個あるからといって12段階にする必要はない。例えば12個を3個ずつ4組にわければ4段階に切り替えることができる。必要とされる段数に応じて組数を分ければよい。
【0086】
図21では、直列接続するコイル5の数を変更することにより、全てのコイル5を使いつつ起電力を調節した。一部のコイルを休止させるならば、シンプルに
図23のように多接点のスイッチSWを利用して起電力を切り替えても良い。
【0087】
一般に、直流電圧の変換にはチョッパーのような電力変換器が利用され、例えば1ミリ秒毎にスイッチのONとOFFとを切り替えている。1ミリ秒毎の切り替えは電圧変換のためのものであり、例えば鉄道車両の速度調整にはこのような高速の切り替えは不要である。鉄道車両は、運転士は力行の出力ハンドルを切替えて車両の速度を調節しているが、切り替えの段数(ノッチ数)は数段しかない。このような用途では出力の切り替えは低速のスイッチで充分であり本実施形態に記載の技術が好適である。
【0088】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態に係る回転電気機械1について説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0089】
図24は、第4の実施形態に係る回転電気機械の第1の部分拡大図である。
図25は、第4の実施形態に係る回転電気機械の第2の部分拡大図である。
図24に示すように、固定子2の歯22は、永久磁石222に代えて電磁石225を有していてもよい。また、
図25に示すように、固定子2の歯22は、永久磁石222と電磁石225の両方を有していてもよい。
【0090】
このように、歯22に電磁石225を設けることにより、永久磁石222の使用量を減らすことができる。これにより回転電気機械1のさらなる低コスト化が可能となる。
【0091】
また、電磁石225は電流を変えて起磁力を可変にできる。これにより、運転中に出力電圧を調整することができる。電磁石225の電源はコイル5と共通であってもよい。電磁石225は超電導電磁石であってもよい。
【0092】
電磁石225は永久磁石222を代替するものであって、電磁石225の起磁力の向きは永久磁石222の起磁力の向きと同一である。
図24の例のように、ひとつまたは全ての永久磁石222の磁極を電磁石で完全に置き換えてもよいし、
図25の例のように永久磁石222と電磁石225とを併用しても良い。
【0093】
<第5の実施形態>
次に、第5の実施形態に係る回転電気機械1について説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0094】
図26は、第5の実施形態に係る回転電気機械の第1の部分拡大図である。
図27は、第5の実施形態に係る回転電気機械の第2の部分拡大図である。
図26に示すように、本実施形態に係る回転電気機械1は、歯22に巻回された第2のコイル6をさらに備える。
【0095】
直流電機は、式(1)に示したように、交番しない直流の界磁をコイルが界磁と直角方向に移動することにより誘導起電力eを得ている。誘導起電力の大きさは、界磁の磁束密度Bに比例する。したがって、
図2の例のように、コイル5は磁束密度が最大となる磁極(歯22)の周方向中央に配置すべきである。逆向きの磁極が隣り合う位置では磁極が相殺され界磁の磁束密度は0となる。したがって、逆向きの磁極の境界にコイル5を配置しても無駄である。
【0096】
一方、式(10)のように交流電機はコイルを貫く交番磁束φの時間変化により起電力を得ている。
【0097】
【0098】
コイルを貫く磁束φが大きいと交番するときのdφ/dtも大きい。したがって、交流電機ではコイルを貫く磁束φを大きくすることが望ましい。このため、磁極が発生する磁束が全てコイルを貫くよう、周方向については磁束密度が0になる磁極の境界にコイルを配置すべきである。
【0099】
このように、交流電機は直流電機とコイルを配置する位置が異なり、前述の実施形態では交流電機のコイルに好適な磁極の境界が使われていない。そこで、本実施形態では、
図26に示すように、磁極の境界に第2のコイル6を巻回し、交流電機としての出力を追加的に得られるようにする。
【0100】
第2のコイル6を巻回するスペースを広げるために、
図26のように、第2のコイル6は2つの歯22を囲むように巻回してもよい。
図26では2つの歯22が二股に分かれている。突極32は二股のどちらか一方と交差するので、二股の根元の周方向Dcの幅W3は突極の幅W1と等しくしておけば磁束が通るのに充分である。したがって、二股の根元は歯一つ分の幅で充分であり、残りは第2のコイル6を巻回するスペースに使う事ができる。スペースが広くなれば、第2のコイルを太くして電気抵抗に起因するジュール発熱が低減でき、効率の改善に役立つ。
【0101】
図26において、歯22が二股に分かれる切込み部分には破線の矢印で表す磁極の起磁力により磁位差が発生するので、歯22の周方向Dcの側面から磁束が周方向Dc右向きに漏洩する。この漏洩の対策として、
図27に示すように歯22の周方向Dcの側面に磁位差を相殺するよう第2磁石222bを配置する。すると、周方向Dc左向きの磁束が発生して漏洩を相殺または軽減する。これは
図11の構成と同様である。
図27は破線で示すように起磁力が左向きとなるよう歯22の周方向Dcの側面に第2磁石222bを配置する様子を表している。
【0102】
第2のコイル6には式(10)の誘導起電力eが発生する。誘導起電力eに同期して同位相で第2のコイル6に交番電流を流すと、回転電気機械1は交流発電機として動作する。誘導起電力eに同期して逆位相で第2のコイル6に交番電流を流すと、回転電気機械1は交流電動機として動作する。このように、第2のコイル6に流れる電流の位相を調節することにより、コイルは回転子3に動力を与えることもできるし、回転子3から動力を取り出すこともできる。この性質を利用すると第2のコイル6を有する回転電気機械1を順変換器または逆変換器として利用することができる。
【0103】
図28は、第5の実施形態に係る回転電気機械を電力変換器として動作させる例を示す図である。
図28のように、第2のコイル6を交流電力系統に接続して有効電力P
ACを与え、コイル5を直流電力系統に接続してP
DCを与えると、式(11)のように回転子3に動力PRが発生する。
【0104】
【0105】
回転子3を開放して自由に回転させるとする。回転子3の慣性能率をJ、回転子3の角速度をωとすると、回転子3が発生する出力PRは次式(12)で表される。
【0106】
【0107】
回転子3の角速度が整定するとdP
R/dt=0となりP
DC+P
AC=0が成り立つ。これは、第2のコイル6を有する回転電気機械1が交流電力系統と直流電力系統の間の電力変換器として機能することを表している。例えば、コイル5を直流電力系統に接続して有効電力P
DCを与えると、第2のコイル6にはP
ACの有効電力が発生する。逆に、第2のコイル6にP
ACの有効電力を与えると、第1のコイル5にはP
DCの電力が発生する。このように、
図28のように電力系統と接続するだけでサイリスタやIGBTのようなパワー半導体を用いなくても、直流と交流の電力変換ができることは有効である。
【0108】
近年、送電のロスが少ないことから直流送電が実用化されはじめている。特に海底ケーブルでは直流送電のメリットが顕著であり、津軽海峡での北海道と本州の接続、紀伊水道での四国と本州の接続は直流送電方式で行われている。たとえば、津軽海峡での変換所ではパワー半導体を数十個直列接続するなど大量の半導体を要し、パワー半導体部分だけでも高さ11.5m、重量38.5トンにも及ぶ。さらに、パワー半導体にはミリ秒でON/OFFして電圧などを調整する制御装置も必要である。つまり、従来のパワー半導体を用いた直流送電はコストが膨大となる。
【0109】
これに対し、本実施形態に係る回転電気機械1は、極論すれば電線を繋ぐだけで電力変換器として機能する。
【0110】
さらに、コイル棒の直列の数を変えるだけで変換器の出力調整ができるので制御もシンプルである。最近は火力発電などの回転式の発電機が休止して、電力系統の慣性不足が懸念されている。本実施形態に係る回転電気機械1において、回転子3は慣性として機能し、電力系統の需給変動による周波数変動を抑制する働きがある。したがって、本実施形態に係る回転電気機械1において、回転子3にフライホイールを接続すれば、さらにその効果を高めることができる。
【0111】
<第6の実施形態>
次に、第6の実施形態に係る回転電気機械1について説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0112】
図29は、第6の実施形態に係る回転電気機械の部分拡大図である。
これまで、上述の実施形態では、回転子3が突極32を有する構成を例として説明してきた。しかし、上述の各実施形態では、回転子3の突極32は必須の構成要素ではない。このため、本実施形態では、
図29に示すように、回転子3が突極32を有していない構成について説明する。
【0113】
図29は、
図13の変形例であり、
図13の構成から回転子3の突極32を取り除いている。
図29の例では、
図13と同様に空隙Gの界磁束が下向きであるとして、コイル5に紙面裏側から表側に電流を流したときを表している。このとき、回転子3に突極32がなくても、右ネジの法則(アンペールの法則)にしたがってコイル5の周囲に破線51で示すように反時計回りに磁界ができる。したがって、突極32がなくても破線52で示すように空隙Gを通る磁束線は湾曲するので。つまり、突極32がなくても空隙Gを挟んで固定子2と回転子3との間には電磁力が作用する。回転子3に突極32が無い場合、空隙Gの磁束密度は回転子3の角度に依らず最大値B
0で一定となる。突極32がある場合、直流電機の平均的な出力は式(6)で表される。突極32が無い場合、空隙Gの磁束密度がB
0で一定となるので、式(13)のようにπ/2倍に向上する。
【0114】
【0115】
トルクも同様に、式(14)のようにπ/2倍に向上する。
【0116】
【0117】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0118】
<付記>
上述の実施形態に記載の回転電気機械1は、例えば以下のように把握される。
【0119】
(1)第1の態様によれば、回転電気機械1は、回転軸4の軸線O回りに回転する回転子3と、回転子3と空隙Gを開けて対向配置され、回転軸4の軸方向Daに延びる円筒状の継鉄部21と、継鉄部21と回転子3との間に設けられた磁石222,225を含む歯22と、を有する固定子2と、固定子2の歯22に回転軸4と平行に配置されるコイル5と、を備える。
【0120】
従来技術では、コイルを回転子に配置し、磁石を固定子に配置して、コイルと磁石とを相対運動(交番)させていた。これに対し、本実施形態に係る回転電気機械1は、上記したように、コイル5および永久磁石222の両方を固定子2に配置して、両者の相対運動をさせないので、整流が不要となる。これにより、回転電気機械1は、ブラシ、整流子、および駆動回路を必要となしない簡易な構成で、直流発電機または直流電動機として動作することができる。これにより、直流発電機または直流電動機を安価かつ簡易な構造で製造することが可能となる。
【0121】
(2)第2の態様によれば、第1の態様に係る回転電気機械1において、歯22は、継鉄部21から半径方向Drに回転子3に向かって突出する鉄心221をさらに有し、磁石222は鉄心を半径方向Drに分割するように配置される。
【0122】
このようにすることで、回転電気機械1は、固定子2の歯22と回転子3との間の空隙Gを狭めて界磁束の磁束密度を増加させることができるので、出力(トルク)を高めることができる。
【0123】
(3)第3の態様によれば、第1の態様に係る回転電気機械1において、歯22は、継鉄部21から半径方向Drに回転子3に向かって突出するように配置された磁石222からなる。
【0124】
回転電気機械1は、このように歯22から鉄心をなくすことによってコイル5のインダクタンスを小さくすることができる。これにより、回転電気機械1に用いられる接触器などのサージ電圧を抑制し、運転の安全性や信頼性を向上させることができる。
【0125】
(4)第4の態様によれば、第1の態様に係る回転電気機械1において、磁石222は、継鉄部21の回転子3側の一部を絶縁するように継鉄部21の内部に埋め込まれ、歯22は、磁石222と、継鉄部21の磁石222で囲まれた領域とからなる。
【0126】
このように、歯22が鉄心を有していないコアレスモータのような構成であっても、永久磁石222で囲まれた領域を歯22として機能させて、歯22を半径方向Drに突出させた構成と同様の効果を得ることができる。
【0127】
(5)第5の態様によれば、第1から第3の何れか一の態様に係る回転電気機械1において、磁石222は永久磁石であり、磁極が半径方向Drを向くように配置される。
【0128】
このように、回転電気機械1は、コイル5に対し常に一方の磁極(N極またはS極)の対向させることにより、コイル5から見て界磁束が交番しないので、従来技術で用いられるコイルの電流を交番させるための駆動回路を省略することができる。
【0129】
(6)第6の態様によれば、第1から第3の何れか一の態様に係る回転電気機械1において、磁石222は、磁極の向きが半径方向Drに対して傾斜するように配置され、磁石222の少なくとも一部は、半径方向Drにおいて継鉄部21とコイル5との間に位置する。
【0130】
このようにすることで、回転電気機械1は、永久磁石222の法面の長さを増して界磁即を増大させ、出力を高めることができる。
【0131】
(7)第7の態様によれば、第1から第6の何れか一の態様に係る回転電気機械1において、コイル5の少なくとも一部は、歯22の半径方向Drの中間点mよりも回転子3側に配置される。
【0132】
このようにすることで、回転電気機械1は、コイル5に電流を流したときに発生する界が、空隙Gの界磁束に与える影響を高めることができる。これにより、コイル5を中間点mよりも回転子3から遠ざけた場合と比較して、コイル5に作用する電磁力、または、コイル5の両端に発生する電圧を大きくし、回転電気機械1の出力を高めることができる。
【0133】
(8)第8の態様によれば、第1から第7の何れか一の態様に係る回転電気機械1において、回転子3は、半径方向Drに固定子2に向かって突出する突極32を有する。
【0134】
このようにすることで、回転電気機械1は、固定子2の歯22と回転子3の突極32との間の空隙Gを狭めて界磁束の磁束密度を増加させることができるので、出力(トルク)を高めることができる。
【0135】
(9)第9の態様によれば、第1から第8の何れか一の態様に係る回転電気機械1において、磁石222は、回転子3側を向く磁極の極性が周方向Dcに隣り合う磁石222と逆になるように配置され、磁石222の回転子3側を向く磁極に応じてコイル5の軸方向Daの電流の向きを交番させる。
【0136】
このようにすることで、回転電気機械1は、回転子3が回転するときにコイル5に発生する起電力が相殺しないように相加することができる。
【0137】
(10)第10の態様によれば、第8の態様に係る回転電気機械1において、突極32の周方向Dcの弧の長さをW1、隣り合う突極32の間の弧の長さをW1’、歯22の周方向Dcの弧の長さをW2、隣り合う歯22の間の弧の長さをW2’、歯22の数をnT、突極32の数をnpsとしたとき、nT・(W2+W2’)=nps・(W1+W1’)を満たすように、{W1,W1’,W2,W2’,nT,nps}の値を定める。
【0138】
このようにすることで、回転電気機械1は、突極32および歯22の数や、弧の長さを任意に変更することができる。
【0139】
(11)第11の態様によれば、第1から第10の何れか一の態様に係る回転電気機械1において、コイル5は、歯22の回転子3を向く端面に設けられた溝223の内部に、回転子3との間の空隙Gと接するように配置される。
【0140】
このようにすることで、コイル5によって空隙Gに生じる磁界51が増大するので、回転電気機械1の出力を向上させることができる。
【0141】
(12)第12の態様によれば、回転電気機械1は、回転軸4の軸線O回りに回転する回転子3と、回転子3と回転軸4の軸方向Daに空隙Gを開けて対向配置され、回転軸4の軸方向Daに延びる円筒状の継鉄部21と、継鉄部21と回転子3との間に設けられた磁石222を含む歯22と、を有する固定子2と、固定子2の歯22に回転軸4の半径方向Drに配置されるコイル5と、を備える。
【0142】
このようにすることで、回転電気機械1は、界磁束を軸方向Daに生成し、コイル5を半径方向Drに長く延ばして配置することができる。これにより、扁平形状が好まれる用途など、軸方向の寸法に制約がある場合であっても、回転電気機械1の電気出力の低下を抑制することができる。
【0143】
(13)第13の態様によれば、第1から第11の何れか一の態様に係る回転電気機械1は、複数のコイル5のうち直列接続コイルの数を変更可能なスイッチSWをさらに備える。
【0144】
このようにすることで、回転電気機械1は、スイッチSWを操作することにより起電力を調節することができる。
【0145】
(14)第14の態様によれば、第1から第11の何れか一の態様に係る回転電気機械1において、磁石は電磁石225である。
【0146】
このようにすることで、回転電気機械1は、永久磁石222の使用量を減らすことができる。これにより回転電気機械1のさらなる低コスト化が可能となる。
【0147】
(15)第15の態様によれば、第1から第12の何れか一の態様に係る回転電気機械1は、歯22を巻回する第2のコイル6をさらに備える。
【0148】
このようにすることで、回転電気機械1は、交流電機としての出力を追加的に得ることができる。
【符号の説明】
【0149】
1 回転電気機械
2 固定子
21 継鉄部
211a 基端部
211b 先端部
221 鉄心
221a 継鉄延伸部
221b 側面
22 歯
222 磁石(永久磁石)
222a 第1磁石
222b 第2磁石
223,224 溝
225 磁石(電磁石)
3 回転子
31 継鉄部
32 突極
4 回転軸
5 コイル(第1のコイル)
6 第2のコイル
G 空隙