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  • 特開-摂食抑制用の剤及び組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098642
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】摂食抑制用の剤及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20240717BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240717BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240717BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20240717BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61K31/197
A61P3/04
A61P43/00 121
A23L33/125
A23L33/175
A23L29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002243
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴子
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有作
【テーマコード(参考)】
4B018
4B041
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE05
4B018MD19
4B018MD28
4B018ME01
4B041LC10
4B041LD10
4B041LK10
4B041LK13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA45
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA70
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡便かつ持続可能な摂食コントロールを達成することができる、摂食抑制用の剤及び組成物を提供することを課題とする。より具体的には、D-アルロースは、マウスでは3g/kg用量で摂食抑制効果を有することが知られる一方、1g/kg用量ではその効果は小さい。そこで、本発明の課題は、D-アルロースが少量でも摂食抑制の効果が発揮できる新たな手段を提供することにある。
【解決手段】D-アルロースに少量のγアミノ酪酸(GABA)を組み合わせることにより、効率的に摂食を抑制することができる。より詳細には、D-アルロース1質量部に対してγアミノ酪酸を0.04質量部以上の比で併存させ、これを含んでなる低体温の予防又は改善用の組成物又は剤として提供すれば、上記課題は解決される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アルロース及びγアミノ酪酸を含む、摂食抑制用の組成物。
【請求項2】
D-アルロース1質量部に対してγアミノ酪酸を0.04質量部以上で含む、摂食抑制用の組成物。
【請求項3】
1回又は1日用量として、体重1kg当たりD-アルロース8~400mgに対してγアミノ酪酸を0.8~40mgで含む、摂食抑制用の組成物。
【請求項4】
D-アルロース及びγアミノ酪酸を含む、摂食抑制剤。
【請求項5】
D-アルロース1質量部に対してγアミノ酪酸を0.04質量部以上で含む、摂食抑制剤。
【請求項6】
1回又は1日用量として、体重1kg当たりD-アルロース8~400mgに対してγアミノ酪酸を0.8~40mgで含む、摂食抑制剤。
【請求項7】
食前又は食事とともに摂取するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
食前又は食事とともに摂取するための、請求項4~6のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摂食量抑制の剤及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
過食は肥満に、肥満は万病に通ずるため、健康維持には食事量の調節は不可欠である。しかし、食事量の制限は常に空腹感とのたたかいであり、継続することはなかなか困難である。よって、苦なく食事制限を継続できるように、食後の満腹感を持続する、又は食欲を抑制する素材や方法が常に求められている。
【0003】
D-アルロース(D-プシコースに同じ)は、食品エネルギー値0kcal/kgであり、GLP-1(消化管ホルモン)分泌と求心性迷走神経を介した脳作用により、満腹感を持続させることが知られている(特許文献1)。一方、γアミノ酪酸(GABAともいう)は、生体内において抑制系の神経伝達物質としての働きを有し、脳や脊髄等の中枢神経系に特に多く存在することが知られている(特許文献2)。しかし、D-アルロースとGABAを組み合わせたときに、相乗的に摂食量が抑制されることについては、これまで開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-164900号公報
【特許文献2】特開2003-252756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡便かつ持続可能な摂食コントロールを達成することができる、摂食抑制用の剤及び組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる課題を解決しようと検討したところ、D-アルロースにGABAを組み合わせることにより、効率的に摂食量を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下から構成される。
[1]D-アルロース及びγアミノ酪酸を含む、摂食抑制用の組成物。
[2]D-アルロース100~5000質量部に対してγアミノ酪酸を1~200質量部の比で含む、[1]に記載の組成物。
[3]D-アルロース及びγアミノ酪酸を含む、摂食抑制剤。
[4]D-アルロース100~5000質量部に対してγアミノ酪酸を1~200質量部の比で含む、[3]に記載の剤。
[5]食前又は食事とともに摂取するための、[1]又は[2]に記載の組成物。
[6]食前又は食事とともに摂取するための、[3]又は[4]に記載の剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低用量で大きな効果が期待できるため、また、D-アルロースとGABAにはヒト食経験が豊富であるため、安全性の高い摂食抑制用の剤又は組成物を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アルロース0.3g/kg、1g/kg若しくは3g/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの摂食量の変化を示す図である。
図2】アルロース1g/kg、GABA200mg/kg、アルロース1g/kgとGABA200mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの摂食量の変化を示す図である。
図3】アルロース0.5g/kg、GABA20mg/kg、アルロース0.5g/kgとGABA20mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの摂食量の変化を示す図である。
図4】アルロース0.5g/kg、GABA10mg/kg、アルロース0.5g/kgとGABA10mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの摂食量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に詳述するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0011】
「D-アルロース」は、別名D-プシコースともいい、ズイナ等植物から抽出したもの、アルカリ異性化法によりD-グルコースやD-フラクトースを原料に異性化したもの(例えば、松谷化学工業株式会社の製品「レアシュガースウィート」)、微生物又はその組換体から得られる酵素(イソメラーゼやエピメラーゼ等)を利用する酵素法により、D-グルコースやD-フラクトースを原料として異性化したもの(例えば、松谷化学工業株式会社の製品「Astraea」)などがある。
【0012】
「GABA」は、γアミノ酪酸の略称であり、動植物界に広く分布するアミノ酸の一種であって、ほ乳動物の脳や脊髄の中枢神経系における抑制性神経伝達物質としてよく知られている。このGABAは、発酵法などにより商業生産され(例えば、特開2000-210075号公報)、近年では、血圧改善、ストレス緩和、疲労感の軽減、睡眠の改善、認知機能の改善の機能性関与成分として機能性表示食品に多く用いられ、一般消費者にもその機能が広く知られるところとなっている。
【0013】
「摂食抑制」の効果は、その個体がそれまでに摂取していた食事量に比して摂食量が低減することをいい、より好ましくは有意差検定で5%以上有意に低減していることをいう。
【0014】
本発明のD-アルロースとGABAを含む組成物は、摂取したときに摂食抑制効果を発揮するため、両成分は必須であるが、その組み合わせ比について特に限定はない。もっとも、効率よく当該効果を発揮するためには、D-アルロース1質量部に対してGABA0.04質量部以上の比率で用いるのがよい。また、具体的な投与量としては、後述のマウスの実験結果などから、体重1kg当たりD-アルロース0.1~5g、0.1~3g若しくは0.5~3gに対し、GABA10~500mg、20~300mg若しくは20~200mgであると考えられる。なお、これをJournal of Basic Clinical Pharmacy, March-May2016,7(2):27-31「A simple practice guide for dose conversion between animals and human」の表1及び数式2(ヒト用量=マウス用量×3/37)を参照し、ヒト用量に換算すると、ヒト体重1kg当たりD-アルロース8~400mg、8~240mg若しくは40~240mgに対し、GABA0.8~40mg、1.6~24mg若しくは1.6~16mgである。
【0015】
本発明の剤又は組成物は、摂食抑制効果を発揮する有効量を含有すれば、粉末、顆粒、錠剤、液状、ゲル状など、どのような形状でもよい。また、一日の投与回数は、上記有効量を少なくとも一日1回投与できる形態であればよく、当該有効量を分割して摂取することもできる。投与タイミングは特に問わないが、本発明の効果が如何なく発揮されるためには、比較的空腹時が好ましく、より具体的には食前又は食中であることが好ましい。食前の場合は、食前1時間前~5分前までの間、又は食前30分前から食直前を選択することが好ましく、食中である場合は、食事開始直後~30分以内に摂取することが好ましい。本発明の摂食抑制効果が、摂食後の満腹感を持続することによるものであるか、食欲そのものを抑制することによるものであるかは明確ではないが、いずれか若しくは両者を作用機序とすると推測される。なお、本発明の剤又は組成物は、単回投与・摂取によりその摂食抑制効果が即座に発揮されるため、摂取期間は特に限定されない。
【0016】
本発明の剤又は組成物の投与対象は、ヒトを含む動物であればよく、哺乳類であることが好ましい。また、本発明の剤又は組成物は、投与対象の個体の病態及びその程度はとくに問わないが、肥満傾向にある者や血糖値が高めの者が、本発明の効果が如何なく発揮される対象として好ましいといえる。もっとも、過剰な摂食抑制効果をもたらすものではないため、何ら病態がみられない健常者に対しても有利に用いることができる。
【0017】
本発明の剤又は組成物は、ヒトを含む動物に摂取又は投与したときに、摂食抑制効果を発揮する医薬品、医薬部外品、食品又は飼料として用いることができ、食品のうち機能性表示食品の場合は、例えば、「食前又は食事とともに摂取することで食事量を低減し、血糖値の急激な上昇を抑えます」などの表示が可能となる。
【実施例0018】
以下に、本発明の組成物の優れた効果を実験結果によって具体的に示す。
【0019】
<実験動物の準備>
実験動物として、C57BL/6J雄性マウスを用いた。マウスは個別ケージ内であらかじめ1週間以上予備飼育し、実験者によるハンドリングをして、飼育・実験環境(12時間の明暗サイクル。7:30~19:30が明期。室温23±2℃。湿度55±10%。)に順化させた。餌は、日本クレア社のCE-2飼料(栄養バランスのとれた一般的なマウス用飼料。3.4kcal/kg。)とし、水とともに自由摂取とした。動物実験は、京都府立大学の動物実験委員会のガイドラインに従い、承認を得て実施した。
【0020】
<被験試料>
D-アルロースは、松谷化学工業(株)の「Astraea」(結晶D-アルロース純度95%以上)、GABAは、(株)ファーマフーズのラクトギャバン(γアミノ酪酸純度95%以上)を用いた。GABAのエネルギー量は3.95kcal/kgとして計算した。
【0021】
<データ解析の方法>
以降の実験データは、平均値±標準誤差で表記する。実験1~4の結果については、各時間において一元配置分散分析により解析をし、有意な場合はTukey’s検定にて各群間の有意差を検定した。なお、有意水準は5%に設定した。実験1の結果である図1の異なるアルファベットは、p<0.05を意味する。実験2~4の結果である図2~4の*及び**は、それぞれp<0.05及びp<0.01を意味する。
【0022】
<被験物質投与後の摂食量の変化(実験1)>
実験前日の18時から当日9時45分までの約16時間、上の手順で順化させたマウス(9週齢、10匹×4群)を絶食させておき、D-アルロース0.3g/kg、1g/kg、3g/kgのいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で単回経口胃内投与した。経口投与直後に餌鉢をケージ内に再設置し、餌の摂食量を0.5、1、2、3、6、24時間後まで経時的に測定した(図1)。その結果、D-アルロース0.3g/kg投与群では、摂食低減作用は全く確認できなかった。一方、D-アルロース1g/kg投与群では、生理食塩水投与群と比較したときに、0.5~2時間後までは有意な摂食量低減効果がみられたが、3時間後以降はその効果はみられなかった。また、D-アルロース3g/kg投与群における摂食量は、0.5~6時間後までの全時間帯で有意な摂食低減作用がみられた(但し、24時間後にはその効果はみられなかった)。以上より、D-アルロース単独摂取による摂食抑制効果を得るためには少なくとも1g/kg以上が必要であり、長時間持続して得るためには3g/kg以上の投与が必要であることがわかった。
【0023】
<被験物質投与後の摂食量の変化(実験2)>
実験前日の18時から当日9時45分までの約16時間、上の手順で順化させたマウス(10週齢、5匹×4群)を絶食させておき、D-アルロース(1g/kg)、GABA(200mg/kg)、[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で単回経口胃内投与した。経口投与直後に餌鉢をケージ内に再設置し、餌の摂食量を0.5、1、2、3、6、24時間後まで経時的に測定した(図2)。その結果、D-アルロース(1g/kg)単独摂取群、GABA(200mg/kg)単独摂取群のいずれにおいても摂食低減の効果はみられなかったが、[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]投与群においては、0.5~6時間後には、ほかの群における摂食量より格段に低減していた。なお、24時間後には投与群間に摂食量の差は認められなかった。
【0024】
<被験物質投与後の摂食量の変化(実験3)>
被験物質の効果が発揮される適切な用量を検討するため、D-アルロース(0.5g/kg)、GABA(20mg/kg)、[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(20mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で投与する実験を、実験1と同様の手順で行った(但し、マウスは9週齢、6匹×4群)。その結果(図3)、0.5~6時間後の[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(20mg/kg)]投与群における摂食量は、ほかの群における摂食量より格段に低減していた。なお、24時間後には投与群間に摂食量の差は認められなかった。
【0025】
<被験物質投与後の摂食量の変化(実験4)>
引き続き、被験物質の効果が発揮される適切な用量を検討するため、D-アルロース(0.5g/kg)、GABA(10mg/kg)、[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(10mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で投与する実験を、実験1と同様の手順で行った(但し、マウスは11週齢、6匹×4群)。その結果(図4)、0.5時間後の[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(10mg/kg)]投与群における摂食量は、ほかの群における摂食量より低減していたが、1時間後以降は、投与群間に摂食量の差は認められなかった。
【0026】
<考察>
D-アルロースを少なくとも1g/kg以上を投与すると摂食量が有意に低減するが、長時間にわたってその効果を確実に持続させるためには3g/kg以上の投与が必要であることは、先行文献(特許文献1)に開示されたとおりである(以上、実験1)。そこで、D-アルロース1g/kgに対してGABA200mg/kgの併用を試みたところ、GABA200mg/kg単独摂取では摂食量の低減効果は認められなかったのに対し、有意な摂食量低減効果が長時間にわたって認められた。さらに、D-アルロース0.5g/kgに対してGABA20mg/kgの併用を試みたところ、D-アルロース0.5g/kg、又はGABA20mg/kg単独投与では摂食量の低減効果は認められなかったのに対し、有意な低減効果が認められた。次に、D-アルロース0.5g/kgに対してGABA10mg/kgの併用を試みたところ、0.5時間後までは併用による有意な低減効果が認められたが、それ以降、その効果は減弱して持続しなかった。
【0027】
以上より、D-アルロースにGABAを併用すれば、既存の摂食抑制のためのD-アルロースの用量を減らすことができるだけでなく、相乗的に摂食抑制効果を発揮する組成物又は剤を提供することができる。
図1
図2
図3
図4