(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098643
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】低体温の予防又は改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7004 20060101AFI20240717BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20240717BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240717BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61K31/197
A61P3/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002244
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴子
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有作
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZC21
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA45
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZC21
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、効率的かつ簡便に低体温の予防・改善ができる、低体温の予防又は改善用の剤及び組成物を提供することを課題とする。より具体的には、D-アルロースは、マウスでは3g/kg用量で低体温の予防・改善の効果を有することが知られる一方、1g/kg用量ではその効果は小さい。そこで、本発明の課題は、D-アルロースが少量でも低体温の予防・改善の効果が発揮できる新たな手段を提供することにある。
【解決手段】D-アルロースに少量のγアミノ酪酸(GABA)を組み合わせることにより、効率的に低体温の予防・改善ができる。より詳細には、D-アルロース1質量部に対してγアミノ酪酸を0.04質量部以上の比で併存させ、これを含んでなる低体温の予防又は改善用の組成物又は剤として提供すれば、上記課題は解決される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アルロース及びγアミノ酪酸を含む、低体温の予防又は改善用の組成物。
【請求項2】
D-アルロース1質量部に対してγアミノ酪酸を0.04質量部以上で含む、低体温の予防又は改善用の組成物。
【請求項3】
1回又は1日用量として、体重1kg当たりD-アルロース8~400mgに対してγアミノ酪酸を0.8~40mgで含む、低体温の予防又は改善用の組成物。
【請求項4】
D-アルロース及びγアミノ酪酸を含む、低体温の予防又は改善剤。
【請求項5】
D-アルロース1質量部に対してγアミノ酪酸を0.04質量部以上で含む、低体温の予防又は改善剤。
【請求項6】
1回又は1日用量として、体重1kg当たりD-アルロース8~400mgに対してγアミノ酪酸を0.8~40mgで含む、低体温の予防又は改善剤。
【請求項7】
空腹時に投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
空腹時に投与される、請求項4~6のいずれか一項に記載の剤。
【請求項9】
前記低体温が、直腸温度36.0℃未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記低体温が、直腸温度36.0℃未満である、請求項4~6のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低体温の予防若しくは改善用の剤又は組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢により体温は低下するといわれ、例えばヒトの場合、乳幼児では37.0℃前後であるのに対し、高齢者では36.0℃を下回ることが多い。低体温化は、内臓機能の低下や免疫力の低下を招き、風邪などの感染症や花粉症などの要因ともなりうる。したがって、低体温化の予防又は改善用の剤又は組成物が常に望まれている。
【0003】
一方、D-アルロース(D-プシコースに同じ)は、食品エネルギー値0kcal/kgであることに加えて、蔗糖やでんぷんと同時に経口摂取したときに血糖上昇抑制効果があることが知られ(特許文献1)、低体温の治療・改善に寄与しうることが開示されている(特許文献2)。また、γアミノ酪酸(GABAともいう)は、生体内において抑制系の神経伝達物質としての働きを有し、脳や脊髄等の中枢神経系に特に多く存在することが知られている(特許文献3)。しかし、D-アルロースにGABAを組み合わせたときに、相乗的に低体温の予防又は改善できることについては、これまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-213227号公報
【特許文献2】国際公開第2014/175119号
【特許文献3】特開2003-252756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、効率的かつ簡便に低体温の予防・改善ができる、低体温の予防又は改善用の剤及び組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる課題を解決しようと検討したところ、D-アルロースにGABAを組み合わせることにより、効率的に低体温の予防・改善ができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下から構成される。
[1]D-アルロース及びγアミノ酪酸を含む、低体温の予防又は改善用の組成物。
[2]D-アルロース1質量部に対してγアミノ酪酸を0.04質量部以上で含む、低体温の予防又は改善用の組成物。
[3]1回又は1日用量として、体重1kg当たりD-アルロース8~400mgに対してγアミノ酪酸を0.8~40mgで含む、低体温の予防又は改善用の組成物。
[4]D-アルロース及びγアミノ酪酸を含む、低体温の予防又は改善剤。
[5]D-アルロース1質量部に対してγアミノ酪酸を0.04質量部以上で含む、低体温の予防又は改善剤。
[6]1回又は1日用量として、体重1kg当たりD-アルロース8~400mgに対してγアミノ酪酸を0.8~40mgで含む、低体温の予防又は改善剤。
[7]空腹時に投与される、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[8]空腹時に投与される、[4]~[6]のいずれかに記載の剤。
[9]前記低体温が、直腸温度36.0℃未満である、[1]~[3]及び[7]のいずれかに記載の組成物。
[10]前記低体温が、直腸温度36.0℃未満である、[4]~[6]及び[8]のいずれかに記載の剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低用量で大きな効果を発揮することができるため、また、D-アルロースとGABAにはヒト食経験が豊富であるため、安全性が高く効率的な低体温予防・改善剤又は組成物を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】アルロース1g/kg、GABA200mg/kg、アルロース1g/kgとGABA200mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの摂食量の変化を示す図である。
【
図2】アルロース0.5g/kg、GABA20mg/kg、アルロース0.5g/kgとGABA20mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの摂食量の変化を示す図である。
【
図3】アルロース0.5g/kg、GABA10mg/kg、アルロース0.5g/kgとGABA10mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの摂食量の変化を示す図である。
【
図4】アルロース1g/kg、アルロース3g/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの直腸温の変化を示す図である。
【
図5】アルロース1g/kg、GABA200mg/kg、アルロース1g/kgとGABA200mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの直腸温の変化を示す図である。
【
図6】アルロース0.5g/kg、GABA20mg/kg、アルロース0.5g/kgとGABA20mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの直腸温の変化を示す図である。
【
図7】アルロース0.5g/kg、GABA10mg/kg、アルロース0.5g/kgとGABA10mg/kg、又は生理食塩水をマウスに投与したときの直腸温の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に詳述するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0011】
「D-アルロース」は、別名D-プシコースともいい、ズイナ等植物から抽出したもの、アルカリ異性化法によりD-グルコースやD-フラクトースを原料に異性化したもの(例えば、松谷化学工業株式会社の製品「レアシュガースウィート」)、微生物又はその組換体から得られる酵素(イソメラーゼやエピメラーゼ等)を利用する酵素法により、D-グルコースやD-フラクトースを原料として異性化したもの(例えば、松谷化学工業株式会社の製品「Astraea」)などがある。
【0012】
「GABA」は、γアミノ酪酸の略称であり、動植物界に広く分布するアミノ酸の一種であって、ほ乳動物の脳や脊髄の中枢神経系における抑制性神経伝達物質としてよく知られている。このGABAは、発酵法などにより商業生産され(例えば、特開2000-210075号公報)、近年では、血圧改善、ストレス緩和、疲労感の軽減、睡眠の改善、認知機能の改善の機能性関与成分として機能性表示食品に多く用いられるようになってきたことから、一般消費者にもその機能が広く知られるところとなっている。
【0013】
「低体温」とは、平熱(正常体温)より低い体温をいう。ヒトの正常体温は、「医学大辞典」(医歯薬出版株式会社)の「体温」の項目に、「腋窩にて測定すると、個人差はあるが、約35.5~37.5℃に分布するが、だいたい36.5℃前後である」とあるから、「低体温」とは、これより低い体温である。体温は、一般には、正常時の腋窩温であって、口腔温ではそれより0.2~0.4℃高く、直腸温ではそれより0.4~0.8℃高い(同辞典より)。したがって、本発明において「低体温」とは、深部体温である直腸温において、おおよそ36.0℃を下回ることをいい、当該直腸温は、直接に直腸の温度を計測することもできるが、腋下温、舌下温、体表温の計測値などから換算することもできる。
【0014】
一般に、「予防」とは、個体の疾患・症状の発症防止又は遅延をいい、「改善」とは、個体の疾患・症状の好転、疾患・症状の進行の防止若しくは遅延をいうから、「低体温の予防又は改善」とは、個体の体温が平熱より低い状態となることを防止若しくは遅延させること、又は個体の低体温化の進行を防止若しくは遅延させることである。もっとも、個体ごとに平熱(正常体温)は異なるため、その予防又は改善の効果は、ある個体の平熱との相対での判断とならざるをえないが、仮に絶対値で評価するとすれば、直腸温としての平熱が36.0℃を下回らない状態を維持する、若しくはその状態に至るまでの期間を短くすること、又は36.0℃を下回ったとしても、それ以上に低体温化しない状態を維持する、又はそれ以上に体温が低下するまでの期間を短くすることをいう。
【0015】
本発明のD-アルロースとGABAを含む組成物は、摂取したときに低体温の予防又は改善の効果を発揮するため、両成分は必須であるが、その組み合わせ比について特に限定はない。もっとも、効率よく当該効果を発揮するためには、D-アルロース1質量部に対してGABA0.04質量部以上の比率で用いるのがよい。また、具体的な投与量としては、後述のマウスの実験結果などから、体重1kg当たりD-アルロース0.1~5g、0.1~3g若しくは0.5~3gに対し、GABA10~500mg、20~300mg若しくは20~200mgであると考えられる。なお、これをJournal of Basic Clinical Pharmacy, March-May2016,7(2):27-31「A simple practice guide for dose conversion between animals and human」の表1及び数式2(ヒト用量=マウス用量×3/37)を参照し、ヒト用量に換算すると、ヒト体重1kg当たりD-アルロース8~400mg、8~240mg若しくは40~240mgに対し、GABA0.8~40mg、1.6~24mg若しくは1.6~16mgである。
【0016】
本発明の組成物は、低体温の予防・改善効果を発揮する有効量を含有すれば、粉末、顆粒、錠剤、液状、ゲル状など、どのような形状でもよい。また、一日の投与回数に制限はなく、上記有効量を分割して投与することもできるが、少なくとも一日1回投与できる形態であればよい。さらに投与タイミングの制限はないが、本発明の効果がいかんなく発揮されるためには、体温が比較的低い時間帯、例えば、起床時、日中(特に午前中)、空腹時などを選択することが好ましい。
【0017】
本発明の組成物の投与対象は、哺乳類の動物であればよく、その個体の病態及びその程度は問わないが、低体温の傾向にある中高年者において低体温の予防・改善効果が発揮されやすく、具体的には、平熱(正常体温)が直腸温として36℃以下、好ましくは35.8℃以下の個体において、本発明の目的とする効果が顕著に発揮される。
【実施例0018】
以下に、本発明の組成物の優れた効果を実験結果によって具体的に示す。
【0019】
<実験動物の準備>
実験動物として、C57BL/6J雄性マウスを用いた。マウスは個別ケージ内であらかじめ1週間以上予備飼育し、実験者によるハンドリングをして、飼育・実験環境(12時間の明暗サイクル。7:30~19:30が明期。室温23±2℃。湿度55±10%。)に順化させた。餌は、日本クレア社のCE-2飼料(栄養バランスのとれた一般的なマウス用飼料。3.4kcal/kg。)とし、水とともに自由摂取とした。動物実験は、京都府立大学の動物実験委員会のガイドラインに従い、承認を得て実施した。
【0020】
<被験試料>
D-アルロースは、松谷化学工業(株)の「Astraea」(結晶D-アルロース純度95%以上)、GABAは、(株)ファーマフーズのラクトギャバン(γアミノ酪酸純度95%以上)を用いた。
【0021】
<深部体温(直腸温)の測定>
直腸温は、無麻酔下でマウスを保定し、デジタル直腸温度計(BAT-10,Physitemp社製)のプローブ(RET-3(19×0.7mmシャフト径),Physitemp社製)の先端をマウス直腸に0.5~1cm挿入し、10~20秒間計測した。
【0022】
<データ解析の方法>
以降の実験データは、平均値±標準誤差で表記する。実験1~3の結果については、各時間において一元配置分散分析により解析をし、有意な場合はTukey’s検定にて各群間の有意差を検定した。実験4~7の結果については、二元配置分散分析により解析をし、主効果若しくは交差作用が有意な場合はTukey’s又はDunnett’s検定にて各群間の有意差若しくは同一群内の投与前(0時間)との有意差を検定した。なお、有意水準は5%に設定した。実験1~7の結果である
図1~7の*及び**は、それぞれp<0.05及びp<0.01を意味する(なお、無印は有意差がないことを意味する)。実験4~6の結果である
図4~6の#及び##は、それぞれp<0.05及びp<0.01を意味し、同一群内の投与前(0時間)との有意差を意味する。また、実験6の結果である
図6におけるアルファベットは、異なるアルファベット間でp<0.05の有意差を意味する。
【0023】
<被験物質投与後の摂食量変化(実験1)>
実験前日の18時から当日9時45分までの約16時間、上の手順で順化させたマウス(10週齢、5匹×4群)を絶食させておき、D-アルロース(1g/kg)、GABA(200mg/kg)、[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で単回経口胃内投与した。経口投与直後となる10時00分にCE-2飼料を含む餌鉢をケージ内に再設置し、餌の摂食量を0.5、1、2、3、6、24時間後まで経時的に測定した(
図1)。摂取した餌の量は累積摂食量(kcal)とし、これには投与したGABAのエネルギー(3.95kcal/g)も含まれる。その結果、0.5~6時間後の[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]投与群における摂食量は、ほかの群における摂食量より格段に低減していた。0.5時間の結果において、D-アルロース(1g/kg)若しくはGABA(200mg/kg)の単独投与においても、生理食塩水投与群と比較すると有意な摂食量低減作用が認められたが、[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]投与群においては、D-アルロース(1g/kg)もしくはGABA(200mg/kg)単独投与群よりもさらに有意に摂食量は低減した。そして、2~6時間後の[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]投与群における摂食量も、D-アルロース(1g/kg)若しくはGABA(200mg/kg)単独投与群よりも有意に低減した。一方、24時間後には投与群間に摂食量の差は認められなかった。
【0024】
<被験物質投与後の摂食量変化(実験2)>
被験物質の効果が発揮される適切な用量を検討するため、D-アルロース(0.5g/kg)、GABA(20mg/kg)、[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(20mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で投与する実験を、実験1と同様の手順で行った(但し、マウスは9週齢、6匹×4群)。その結果(
図2)、0.5~6時間後の[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(20mg/kg)]投与群における摂食量は、ほかの群における摂食量より格段に低減していた。D-アルロース(0.5g/kg)投与群では、いずれの時間帯においても有意な摂食低減作用は観察されなかった。GABA(20mg/kg)投与群は、投与0.5~1時間後の摂食量を有意に低減させたが、この作用は短期的な作用であった。[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(20mg/kg)]投与群は、投与6時間後まで比較的長期間、有意に摂食量を低減させた。一方、24時間後には投与群間に摂食量の差は認められなかった。
【0025】
<被験物質投与後の摂食量変化(実験3)>
引き続き、被験物質の効果が発揮される適切な用量を検討するため、D-アルロース(0.5g/kg)、GABA(10mg/kg)、[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(10mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で投与する実験を、実験1と同様の手順で行った(但し、マウスは11週齢、6匹×4群)。その結果(
図3)、0.5時間後の[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(10mg/kg)]投与群における摂食量は、ほかの群における摂食量より低減していたが、1時間後以降は、投与群間に摂食量の差は認められなかった。
【0026】
<被験物質投与後の直腸温変化(実験4)>
実験当日9時から14時までの5時間、上の手順で順化させたマウス(9または11週齢、16匹×3群)を絶食させておき、D-アルロース1g/kg若しくは3g/kgの水溶液、又は生理食塩水を各々10ml/kgの容量で単回経口胃内投与し、投与0、1、2、3時間後の直腸温を計測した(
図4)。その結果、D-アルロース1g/kg投与群では直腸温に上昇傾向はみられたものの有意差はなく、D-アルロース3g/kg投与群においてはじめて、投与1~2時間後の直腸温に有意な上昇が認められた。一方、投与3時間後には平熱まで回復していた。
【0027】
<被験物質投与後の直腸温変化(実験5)>
12~13週齢のマウス12匹×3群について、実験4と同じ手順でD-アルロース(1g/kg)、GABA(200mg/kg)、[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で単回経口胃内投与し、投与0、1、2、3時間後の直腸温を計測した(
図5)。その結果、[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]の併用投与群において、投与1~2時間後までは直腸温が有意に上昇した。また、投与3時間後には平熱まで回復していた。
【0028】
<被験物質投与後の直腸温変化(実験6)>
実験当日9時から14時までの5時間、上の手順で順化させたマウス(9週齢、5匹×4群)を絶食させておき、D-アルロース(0.5g/kg)、GABA(20mg/kg)、[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(20mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で単回経口胃内投与し、投与0、1、2、3時間後の直腸温を計測した(
図6)。その結果、[D-アルロース(1g/kg)+GABA(200mg/kg)]の併用投与群において、投与1~2時間後まで直腸温が有意に上昇した。また、投与3時間後にはほぼ平熱まで回復していた。
【0029】
<被験物質投与後の直腸温変化(実験7)>
実験当日9時から14時までの5時間、上の手順で順化させたマウス(10週齢、6匹×4群)を絶食させておき、D-アルロース(0.5g/kg)、GABA(10mg/kg)、[D-アルロース(0.5g/kg)+GABA(10mg/kg)]のいずれかの水溶液、又は生理食塩水を、各々10ml/kgの容量で単回経口胃内投与し、投与0、1、2、3時間後の直腸温を計測した(
図7)。その結果、いずれの時間においても直腸温は上昇せず、平熱であった。
【0030】
<考察>
D-アルロース3g/kg投与群では直腸温が有意に上昇し、先行文献(特許文献2)が示唆する内容が確認された。一方、D-アルロース1g/kg投与群では直腸温に上昇傾向はみられたものの有意差はみられなかった(以上、実験4)。また、GABA200mg/kgのみの投与で直腸温は上昇しなかったが、D-アルロース1g/kgに対してGABA200mg/kgを併用して投与すると、直腸温が有意に上昇した(以上、実験5)。次に、D-アルロースとGABAの併用量の低減可能性を検討したところ、D-アルロース0.5g/kg単独投与群、GABA20mg/kg単独投与群のいずれにおいても直腸温に変化はなかったが、D-アルロース0.5g/kgに対してGABA20mg/kgを併用すると、直腸温が有意に上昇した(以上、実験6)。しかしながら、D-アルロース0.5g/kgに対してGABA10mg/kgを併用した時には直腸温の上昇は認められなかった。なお、一般に、摂食量(摂取エネルギー量)が少ないと体温は上がりにくい。しかし、D-アルロースとGABAの併用群では摂食量が顕著に低減したにもかかわらず体温上昇がみられたことから、本発明のD-アルロースとGABAを含有する組成物又は剤が発揮する効果は驚くべきものといえる。
【0031】
以上より、本発明のD-アルロースとGABAが併存する組成物又は剤は、低体温の防止若しくは改善用の組成物又は剤として有利に利用できる。