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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098647
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】肛門周辺部用清浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/891 20060101AFI20240717BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K8/891
A61Q19/10
A61K8/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002253
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】納城 隆一
(72)【発明者】
【氏名】宮村 猛史
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083AC011
4C083AC012
4C083AC021
4C083AC022
4C083AC031
4C083AD151
4C083AD152
4C083BB51
4C083CC24
4C083DD08
4C083DD23
4C083DD28
4C083DD38
4C083DD47
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE10
(57)【要約】
【課題】従来よりも使用感が向上したものでありながら、環境に対する負荷が軽減された肛門周辺部用清浄剤組成物を提供すること。
【解決手段】肛門周辺部用清浄剤組成物は、(A)メチルポリシロキサン、(B)流動パラフィン、(C)軽質イソパラフィン及び(D)植物由来のスクワランを含む。(A)ないし(D)の合計量は前記肛門周辺部用清浄剤組成物に対して90質量%以上である。肛門周辺部用清浄剤組成物は、(A)を10質量%以上45質量%未満含むことが好ましい。肛門周辺部用清浄剤組成物は、更に(E)ホホバ油を5質量%未満含むことが好ましい。肛門周辺部用清浄剤組成物は、更に(F)油性の消炎剤を0.0005質量%以上0.01質量%未満含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、(B)、(C)、及び(D)を全て含む肛門周辺部用清浄剤組成物であって、
(A)ないし(D)の合計量が前記肛門周辺部用清浄剤組成物に対して90質量%以上である、肛門周辺部用清浄剤組成物。
(A)メチルポリシロキサン。
(B)流動パラフィン。
(C)軽質イソパラフィン。
(D)植物由来のスクワラン。
【請求項2】
以下の(A)、(B)、(C)、及び(D)の混合物を配合してなる肛門周辺部用清浄剤組成物であって、
(A)ないし(D)の合計量が前記肛門周辺部用清浄剤組成物に対して90質量%以上である、肛門周辺部用清浄剤組成物。
(A)メチルポリシロキサン。
(B)流動パラフィン。
(C)軽質イソパラフィン。
(D)植物由来のスクワラン。
【請求項3】
(A)を10質量%以上45質量%未満含む、請求項1又は2に記載の肛門周辺部用清浄剤組成物。
【請求項4】
更に(E)ホホバ油を5質量%未満含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の肛門周辺部用清浄剤組成物。
【請求項5】
更に(F)油性の消炎剤を0.0005質量%以上0.01質量%未満含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の肛門周辺部用清浄剤組成物。
【請求項6】
(F)がジメチルイソプロピルアズレンである、請求項5に記載の肛門周辺部用清浄剤組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の肛門周辺部用清浄剤組成物をスプレー容器に充填してなる、スプレー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肛門周辺部用清浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肛門周辺部の清浄・清拭剤組成物に関する従来の技術として本出願人は先に、シリコーンオイル及び動物油としてのスクワランを含有する組成物を提案した(特許文献1ないし3参照)。これらの文献に記載の組成物は、トイレットペーパーに噴霧して使用されたり、又は肛門周辺に直接噴霧して使用されたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59-227816号公報
【特許文献2】特開平3-264520号公報
【特許文献3】特開2004-346017号文献
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境保護に対する関心の高まりに起因して、環境に対する影響が懸念される物質を環境負荷が軽い物質に代替しようとする動きが広がっている。特許文献1ないし3に記載の組成物ではシリコーンオイルが用いられているところ、シリコーンオイルのうち環状シリコーンは環境への残留性に対するリスクが危惧され、パーソナルケア用途への使用が欧州において規制され始めている。また、スクワランは主として鮫の肝油を原料とするところ、生態系保護の観点から動物を原料としないスクワランの要求が高まりつつある。
したがって、本発明の課題は、従来よりも使用感が向上したものでありながら、環境に対する負荷が軽減された肛門周辺部用清浄剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の(A)、(B)、(C)、及び(D)を全て含む肛門周辺部用清浄剤組成物に関する。
一実施形態において、(A)ないし(D)の合計量が前記肛門周辺部用清浄剤組成物に対して90質量%以上であることが好ましい。
(A)メチルポリシロキサン。
(B)流動パラフィン。
(C)軽質イソパラフィン。
(D)植物由来のスクワラン。
【0006】
また本発明は、以下の(A)、(B)、(C)、及び(D)の混合物を配合してなる肛門周辺部用清浄剤組成物に関する。
一実施形態において、(A)ないし(D)の合計量が前記肛門周辺部用清浄剤組成物に対して90質量%以上であることが好ましい。
(A)メチルポリシロキサン。
(B)流動パラフィン。
(C)軽質イソパラフィン。
(D)植物由来のスクワラン。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来よりも使用感が向上したものでありながら、環境に対する負荷が軽減された肛門周辺部用清浄剤組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、肛門周辺部用清浄剤組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)に関するものである。本発明の組成物は、これが塗布されたトイレットペーパーを用いて肛門及びその周辺部を清拭するのに使用されたり、又は排便前後に肛門及びその周辺部の皮膚に塗布されて使用されたりする。本発明の組成物は、上述した(A)ないし(D)の成分を全て含むものである。
【0009】
本発明の組成物は、その構成成分の一つとして、(A)メチルポリシロキサンを含んでいる。メチルポリシロキサンは、ジメチルポリシロキサンにおけるケイ素と結合したメチル基を、トリメチルシロキシ基(-OSi(CH)に置換した直鎖シロキサンの重合体をいい、直鎖シリコーンオイルである。メチルポリシロキサンは、一般式(CHSiO[(CHSiO]Si(CHで表される。式中、nは1以上の数を表す。
シリコーンオイルとしては、一般に直鎖シリコーンオイルや環状シリコーンオイルが知られているところ、(A)のメチルポリシロキサンは、直鎖シリコーンオイルであり、環状シリコーンオイルを包含しない。
本明細書にいう「直鎖」とは、環状以外の分子構造を意味するものであり、狭義の直鎖だけでなく分岐鎖も包含する概念である。
【0010】
本発明の組成物が(A)のメチルポリシロキサンを含むことによって、該組成物をトイレットペーパーや肌に塗布して使用するときに、良好なすべり感を与えることができ、その結果、従来知られている組成物よりも使用感を向上させることができる。
【0011】
(A)のメチルポリシロキサンは、25℃における粘度が好ましくは4mPa・s以上であり、より好ましくは5mPa・s以上であり、更に好ましくは8.5mPa・s以上である。また、25℃における粘度が好ましくは12mPa・s以下であり、より好ましくは10.5mPa・s以下である。(A)のメチルポリシロキサンの粘度がこの範囲にあることで、本発明の組成物を使用した後の肌への残存感を抑制することができ、その結果、従来知られている組成物よりも使用感を向上させることができる。また、例えば本発明の組成物をスプレー容器に充填して噴霧して使用する場合に、該組成物の噴霧性を向上させることができる。
【0012】
(A)のメチルポリシロキサンの粘度は、JIS Z 8803:2011に準拠して測定する。具体的には、25℃の恒温槽に接続したE型粘度計(東機産業社製RE-85L型)において標準コーンロータ(1°34‘×R24)を用い、測定する。
【0013】
(A)のメチルポリシロキサンの鎖長は特に限定されないが、従来知られている組成物よりも使用感、噴霧性及び保存安定性を向上させる観点から、上述の一般式におけるnの数は好ましくは1以上30以下であり、より好ましくは3以上29以下であり、更に好ましくは6以上28以下である。
【0014】
(A)のメチルポリシロキサンは、一種を単独で又は粘度若しくは鎖長が異なる二種以上を組み合わせて用いることができる。また、(A)のメチルポリシロキサンとしては、例えば信越化学工業社製のKF-96A-10cs、KF-96A-6cs、KF-96A-5cs、KF-96A-1cs、ダウ・東レ社製のDOWSIL(登録商標) SH 200 C FLUID 10CS、DOWSIL(登録商標) SH 200 C FLUID 5CS、DOWSIL(登録商標) SH 200 C FLUID 2CS等の市販品を用いることができる。
【0015】
本発明の組成物は、環状シリコーンオイルを非含有であることが好ましい。環状シリコーンオイルは、上述のとおり環境への残留性に対するリスクが危惧されている。本発明の組成物が環状シリコーンオイルを非含有であることで、従来知られている組成物よりも環境に対する負荷を軽減することができる。本明細書において「環状シリコーンオイルを非含有である」とは、本発明の組成物に意図的に環状シリコーンオイルを含有させないが、該組成物の製造工程において環状シリコーンオイルが不可避的に混入することは許容することを意味する。具体的には、本発明の組成物が環状シリコーンオイルを含む場合であっても、その含有量は該組成物に対して0.5質量%以下であることが望ましい。
【0016】
本発明の組成物は、(A)のメチルポリシロキサンを、該組成物に対して10質量%以上含むことが好ましく、12質量%以上含むことがより好ましく、14質量%以上含むことが更に好ましい。また、(A)のメチルポリシロキサンを、組成物に対して45質量%未満含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、35質量%以下含むことが更に好ましい。(A)のメチルポリシロキサンの含有量がこの範囲にあることで、従来知られている組成物よりも使用感や噴霧性を向上させることができる。また、本発明の組成物を長期保存した場合の保存安定性を向上させることができる。更に、直鎖シリコーンオイルである(A)メチルポリシロキサンが、本発明の組成物の一定量を占めるようにすることで、組成物中に環状シリコーンオイルが含まれる余地を減らすことができ、その結果、本発明の組成物によれば、従来知られている組成物よりも環境に対する負荷を軽減することができる。
【0017】
本発明の組成物は、その構成成分の一つとして、(B)流動パラフィンを含んでいる。流動パラフィンは、1気圧、20℃で液体であり、不揮発性の炭化水素油である。流動パラフィンは、一般式C2n+2で表される。式中、nは1以上の数を表す。
【0018】
(B)の流動パラフィンは化学的に不活性であり、且つ酸化安定性が高いことから、本発明の組成物における基剤として有用である。また、(B)の流動パラフィンを用いることで本発明の組成物を長期保存した場合の保存安定性を向上させることができる。更に、(B)の流動パラフィンは肌への浸透性が低いことから、本発明の組成物が該流動パラフィンを含むことによって、該組成物をトイレットペーパーや肌に塗布して使用するときに、肌から水分が蒸発することを抑制することができる。その結果肌を軟化させたり、柔軟にしたりする等のエモリエント効果を発現させることができる。
【0019】
(B)の流動パラフィンは、25℃における粘度が好ましくは20mPa・s以上であり、より好ましくは21mPa・s以上である。また、25℃における粘度が好ましくは55mPa・s以下であり、より好ましくは25mPa・s以下である。(B)の流動パラフィンの粘度がこの範囲にあることで、本発明の組成物を使用した後の肌への残存感を抑制することができ、その結果、従来知られている組成物よりも使用感を向上させることができる。また、例えば本発明の組成物をスプレー容器に充填して噴霧して使用する場合に、該組成物の噴霧性を向上させることができる。
(B)の流動パラフィンの粘度は、(A)のメチルポリシロキサンの粘度と同様の方法で測定される。
【0020】
(B)の流動パラフィンにおける炭素鎖長は特に限定されないが、従来よりも使用感、噴霧性及び保存安定性を向上させる観点から、上述の一般式におけるnの数は好ましくは20以上29以下であり、より好ましくは21以上26以下である。
【0021】
(B)の流動パラフィンは、一種を単独で用いることができ、又は粘度若しくは炭素鎖長が異なる二種以上を組み合わせて用いることもできる。
(B)の流動パラフィンとしては、例えば島貿易社から入手可能なセレンホワイト(登録商標)15BL、カネダ社製のハイコール(登録商標)K-230等の市販品を用いることができる。
【0022】
従来よりも使用感、噴霧性及び保存安定性を向上させる観点から、本発明の組成物は、(B)の流動パラフィンを、該組成物に対して45質量%以上含むことが好ましく、48質量%以上含むことがより好ましい。また、(B)の流動パラフィンを、組成物に対して65質量%以下含むことが好ましく、62質量%以下含むことがより好ましい。
【0023】
本発明の組成物は、(A)のメチルポリシロキサンに対する(B)の流動パラフィンの含有量の比が所定の範囲にあることが好ましい。それによって、従来よりも使用感、噴霧性及び保存安定性をバランスよく向上させることができる。この観点から、本発明の組成物は、(A)のメチルポリシロキサンに対する(B)の流動パラフィンの含有量の比((B)/(A))が1以上12以下であることが好ましく、1.2以上10以下であることがより好ましく、1.5以上8以下であることが更に好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、その構成成分の一つとして、(C)軽質イソパラフィンを含んでいる。軽質イソパラフィンは、1気圧、20℃で液体であり、分子式C1226で表される不揮発性の炭化水素油である。(C)の軽質イソパラフィンは、飽和炭化水素であり、不飽和炭化水素及び芳香族炭化水素を含有しない。(C)の軽質イソパラフィンは、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタンを主として含むが、従来知られている組成物よりも後述する使用感を向上させる効果が奏される限り、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタンの異性体を含むことは許容される。
【0025】
(C)の軽質イソパラフィンは揮発性が高いことから、本発明の組成物が(C)の軽質イソパラフィンを含むことによって、するっと感、さらっと感等の揮発性の高さに起因する使用感を従来知られている組成物よりも向上させることができる。
【0026】
(C)の軽質イソパラフィンは、一種を単独で用いることができ、又は主成分が異なる二種以上を組み合わせて用いることもできる。
(C)の軽質イソパラフィンとしては、例えばCosmetics Innovations and Technologies Sarl社製のクレアシルID CG、丸善石油化学社製マルカゾールR等の市販品を用いることができる。
【0027】
従来知られている組成物よりも使用感を向上させる観点から、本発明の組成物は、(C)の軽質イソパラフィンを、該組成物に対して5質量%以上含むことが好ましく、8質量%以上含むことがより好ましい。また、(C)の軽質イソパラフィンを、組成物に対して30質量%以下含むことが好ましく、28質量%以下含むことがより好ましい。
【0028】
本発明の組成物は、その構成成分の一つとして、(D)植物由来のスクワランを含んでいる。スクワランは、不揮発性の炭化水素油である。本明細書において(D)の植物由来のスクワランは、(ア)植物油から抽出されたスクワレンを水素添加して得られる植物性スクワランと、(イ)砂糖由来のファルネセンを二量化した後水素添加して得られるスクワランとを少なくとも包含する。スクワランとしては、一般に主として鮫の肝油を原料とする動物性スクワランが知られているところ、(D)の植物由来のスクワランは、動物性スクワランを包含しない。
【0029】
本発明の組成物は、動物性スクワランを非含有であることが好ましい。動物性スクワランは、上述のとおり主として鮫の肝油を原料とすることが知られており、生態系保護の観点から動物性スクワランを、動物を原料としないスクワランへ置き換えることが要求されつつある。したがって、本発明の組成物が動物性スクワランを非含有であることで、従来知られている組成物よりも環境に対する負荷、なかでも生態系への負荷を軽減することができる。本明細書において「動物性スクワランを非含有である」とは、本発明の組成物に意図的に動物性スクワランを含有させないが、該組成物の製造工程において動物性スクワランが不可避的に混入することは許容することを意味する。具体的には、本発明の組成物が動物性スクワランを含む場合であっても、その含有量は該組成物に対して0.1質量%以下であることが望ましい。
【0030】
(D)のスクワランは酸化安定性が高いことから、本発明の組成物における基剤として有用である。また、本発明の組成物を長期保存した場合の保存安定性を向上させることができる。更に、(D)のスクワランは肌への浸透性が高いことから、本発明の組成物が該スクワランを含むことによって、しっとり感等の浸透性の高さに起因する使用感を従来知られている組成物よりも向上させることができる。
【0031】
(D)の植物由来のスクワランは、25℃における粘度が好ましくは24mPa・s以上であり、より好ましくは26mPa・s以上である。また、25℃における粘度が好ましくは40mPa・s以下であり、より好ましくは30mPa・s以下である。(D)の植物由来のスクワランの粘度がこの範囲にあることで、本発明の組成物を使用した後の肌への残存感を抑制することができ、その結果、従来知られている組成物よりも使用感を向上させることができる。また、例えば本発明の組成物をスプレー容器に充填して噴霧して使用する場合に、該組成物の噴霧性を向上させることができる。
(D)の植物由来のスクワランの粘度は、(A)のメチルポリシロキサンの粘度と同様の方法で測定される。
【0032】
(D)の植物由来のスクワランは、前記(ア)及び/又は前記(イ)のスクワランを含むものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、これらのスクワランの他に、意図的に又は不可避的に不純物を含んでいてもよい。換言すれば(D)の植物由来のスクワランは、スクワラン及びスクワラン以外の物質を含む混合物(以下「スクワラン混合物」ともいう。)でもよい。つまり、(D)の植物由来のスクワランは、有姿での純度が100%であってもよく、あるいは100%未満であってもよい。
前記スクワラン混合物に含まれる不純物としては、例えばオリーブ油や米ぬか油等の搾油に含まれる不けん化物のうち、化学構造、沸点、極性等の物性がスクワランと近似する種々の成分等が挙げられる。このような成分としては、例えば炭素数がスクワランと同程度の飽和炭化水素及び不飽和炭化水素等が挙げられる。本発明の効果を一層顕著なものとする観点から、これら不純物の合計量は、前記スクワラン混合物に対して好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは8質量%以下である。(D)の植物由来のスクワランが前記スクワラン混合物である場合、前記「(D)の植物由来のスクワラン」の濃度や粘度とは、該スクワラン混合物の濃度や粘度のことである。
【0033】
(D)の植物由来のスクワランが、(ア)の植物性スクワランである場合、該植物性スクワランとしては、例えばオリーブ油由来の植物性スクワラン、米ぬか油由来の植物性スクワラン等が挙げられる。
【0034】
(D)の植物由来のスクワランは、一種を単独で用いることができ、又は粘度若しくは不純物量が異なる二種以上を組み合わせて用いることもできる。また、(D)の植物由来のスクワランとしては、例えば日光ケミカルズ社製のシュガースクワラン(登録商標)等の市販品を用いることができる。従来知られている組成物よりも使用感、噴霧性及び保存安定性を向上させる観点から、(D)の植物由来のスクワランとして、前記(イ)のスクワランを単独で用いることが好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、(D)の植物由来のスクワランを、該組成物に対して0.1質量%以上含むことが好ましく、1質量%以上含むことがより好ましく、6質量%以上含むことが更に好ましい。また、(D)の植物由来のスクワランを、組成物全体の質量に対して30質量%以下含むことが好ましく、15質量%以下含むことがより好ましく、12質量%以下含むことが更に好ましい。(D)の植物由来のスクワランの含有量がこの範囲にあることで、従来知られている組成物よりも使用感や噴霧性を向上させることができる。また、本発明の組成物を長期保存した場合の保存安定性を向上させることができる。更に、植物由来であるスクワランが、本発明の組成物の一定量を占めるようにすることで、該組成物中に動物性スクワランが含まれる余地を減らすことができ、その結果、従来知られている組成物よりも環境に対する負荷、なかでも生態系への負荷を軽減することができる。
【0036】
本発明の組成物は、(A)ないし(D)の合計量が該組成物に対して90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが一層好ましい。(A)ないし(D)の合計量がこの範囲にあることで、本発明の組成物は、従来知られている組成物よりも使用感が向上するとともに、環境に対する負荷が軽減する。
【0037】
従来よりも使用感、噴霧性及び保存安定性を向上させる観点から、本発明の組成物は、25℃における粘度が好ましくは5mPa・s以上である。また、25℃における粘度が好ましくは40mPa・s以下であり、より好ましくは20mPa・s以下であり、更に好ましくは13mPa・s以下である。
本発明の組成物の粘度は、(A)のメチルポリシロキサンの粘度と同様の方法で測定される。
【0038】
本発明の組成物の粘度は、例えば該組成物における(A)ないし(D)の配合比をそれぞれ変更することによって調整することができる。
【0039】
本発明の組成物は、上述した(A)ないし(D)を全て含むことに加え、更に(E)ホホバ油を含んでもよい。ホホバ油は、1気圧、20℃で液体であり、ホホバの種子から得られるオイルである。
【0040】
(E)のホホバ油は酸化安定性が高く、且つ肌への親和性が高い。そのことによって、本発明の組成物が(E)のホホバ油を含むことによって、しっとり感等の親和性の高さに起因する使用感を従来よりも向上させることができる。
【0041】
従来知られている組成物よりも使用感を向上させる観点から、本発明の組成物は、(E)のホホバ油を、該組成物に対して0.1質量%以上含むことが好ましく、1質量%以上含むことがより好ましい。また、(E)のホホバ油を、組成物に対して5質量%未満含むことが好ましく、3.5質量%以下含むことがより好ましい。
【0042】
本発明の組成物が上述した(A)ないし(D)を全て含むことに加え、更に(E)を含む場合、以下の計算式に基づいて求められる、(A)ないし(E)の含有量の比Rが所定の範囲にあることが好ましい。それによって、従来よりも使用感、噴霧性及び保存安定性をバランスよく向上させることができる。この観点から、本発明の組成物は、前記比Rが0.15以上であることが好ましく、0.17以上であることがより好ましく、0.33以上であることが更に好ましい。また、前記比Rが0.70以下であることが好ましく、0.66以下であることがより好ましい。
比R=((A)の含有量+(D)の含有量+(E)の含有量)/((B)の含有量+(C)の含有量+(E)の含有量)
【0043】
本発明の組成物は、上述した(A)ないし(D)を全て含むことに加え、更に(F)油性の消炎剤を含んでもよい。油性の消炎剤は、親油性が高く、且つ炎症が起きた組織に作用してその症状を改善させる剤である。(F)の油性の消炎剤は、医薬品と医薬部外品とを包含する。
【0044】
本発明の組成物が(F)の油性の消炎剤を含むことによって、該組成物をトイレットペーパーや肌に塗布して使用するときに、肌に起きた炎症の症状を改善させることができる。
【0045】
(F)の油性の消炎剤としては、例えばステロイド系抗炎症薬、非ステロイド系抗炎症薬等が挙げられるが、症状の改善と安全性の高さとのバランスの観点から、非ステロイド系抗炎症薬を用いることが好ましい。非ステロイド系抗炎症薬としては、例えばジメチルイソプロピルアズレン、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸ステアリル、イブプロフェンピコノール、ウフェナマート、ケトプロフェン等を用いることができる。(F)の油性の消炎剤は、一種を単独で又は異なる二種以上を組み合わせて用いることができる。症状の改善と安全性の高さとのバランスの観点から、(F)の油性の消炎剤として、ジメチルイソプロピルアズレンを用いることが好ましい。
【0046】
症状の改善と安全性の高さとのバランスの観点から、本発明の組成物は、(F)の油性の消炎剤を、該組成物に対して0.0005質量%以上含むことが好ましく、0.001質量%以上含むことがより好ましい。また、(F)の油性の消炎剤を、組成物に対して0.01質量%未満含むことが好ましく、0.005質量%以下含むことがより好ましい。
【0047】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した(A)ないし(D)を全て含むことに加え、通常、化粧料や医薬品の分野で配合されている各種成分を含んでいてもよい。各種成分としては、例えばD-α-トコフェロール(ビタミンE)、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤;塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、セチルリン酸化ベンザルコニウム、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル類等の抗菌剤;香料;ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の可溶化剤;グリセリン、ポリオキシエチレン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン等の保湿剤;アルキル変性ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン等の改質剤等が挙げられる。各種成分は、一種を単独で又は異なる二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
本発明の組成物は、これが塗布されたトイレットペーパーを用いて肛門及びその周辺部を清拭するのに使用されたり、排便前後に肛門及びその周辺部の皮膚に塗布されて使用されたりする。それによって、例えば排便後、排泄物を拭き取った後に肛門周辺部に残存する排泄物を容易に除去することができる。また、摩擦に起因する肌の損傷、あるいは拭き取り時の痛みを軽減し、肛門周辺部を清潔に保持することによって、痔疾、かぶれ、かゆみ、その他肛門周辺部の諸症状の悪化を抑制することができる。
【0049】
本発明の組成物を塗布する方法に特に制限はないが、該組成物を容易に塗布する観点から、該組成物は容器に充填されて使用に供されることが好ましい。なかでもスプレー容器に充填されたスプレー製品として、噴霧されて使用されることが特に好ましい。スプレー容器の形状は噴射ガスによるものでも蓄圧式ポンプボトルによるものでもよい。この場合、本発明の組成物はトイレットペーパーに噴霧して使用されたり、又は肛門周辺部に直接噴霧して使用されたりする。
【0050】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0052】
〔実施例1ないし5、並びに比較例1ないし7〕
(A)メチルポリシロキサン、(B)流動パラフィン、(C)軽質イソパラフィン、(D)植物由来のスクワラン、及び(E)ホホバ油を、以下の表1に示す配合比で配合し、組成物を調製した。表1に示すそれぞれの成分の詳細は、以下に示すとおりである。
【0053】
・(A)メチルポリシロキサン:信越化学工業社製、KF-96A-10CS(n数7~27、25℃における粘度9.4mPa・s)
【0054】
・(B)流動パラフィン:島貿易社から入手したセレンホワイト(登録商標)15BL(平均n数24、25℃における粘度22.4mPa・s)
【0055】
・(C)軽質イソパラフィン:Cosmetics Innovations and Technologies Sarl社製、クレアシルID CG
【0056】
・(D)植物由来のスクワラン:日光ケミカルズ社製、シュガースクワラン(登録商標)(25℃における粘度28.0mPa・s、不純物の合計量6%)
【0057】
・(E)ホホバ油:香栄興業社製、精製ホホバ油
【0058】
〔評価〕
上述の方法に従い、(B)/(A)及び比Rを算出した。
また、上述の方法に従い、実施例及び比較例で得られた組成物の25℃における粘度を測定した。
また、以下の方法に従い、実施例及び比較例で得られた組成物の噴霧性、保存安定性及び使用感を評価した。使用感は、拭き取ったときの肌の感覚、及び使用後の肌の状態の面から評価した。結果を表1に示す。
【0059】
〔噴霧性〕
実施例及び比較例で得られた組成物をポンプスプレー容器に入れ、恒温室(5℃)にて5℃に調温した試験品を用意した。角度30°の傾斜面上に、キムタオル(登録商標)を固定した。キムタオルとスプレーヘッドとが鉛直方向に10cm離れるように、治具を用いてポンプスプレー容器を固定した。キムタオルに向けて組成物を噴霧したとき、噴霧パターンが円形又は楕円形に広がるかどうかを、以下の評価基準に従い評価した。
【0060】
〔評価基準〕
○:良好。
△:低温での噴霧にやや難あり(不安定噴霧)。
×:低温での噴霧に難あり(噴霧できない)。
【0061】
〔保存安定性〕
実施例及び比較例で得られた組成物を50mLスクリュー管(マルエム社製、No,7)に40mL注入した。恒温室(5℃)内でスクリュー管を保管し、保管から1週間後の組成物の外観を、目視観察した。以下の評価基準に従い、組成物の保存安定性について評価した。
【0062】
〔評価基準〕
○:問題がない。
×:問題がある(析出物の発生など)。
【0063】
〔拭き取ったときの肌の感覚〕
プッシュ式スプレーポンプに実施例及び比較例で得られた組成物を詰め、サンプルを調製した。5人のパネラーを対象とし、排便後、トイレットペーパーにサンプルを噴霧させて肛門周辺部を拭き取らせ、以下の評価基準に従い、そのときの肌の感覚を評価させた。具体的には、拭き取ったときにするっと感やさらっと感を感じるか否か、痛みを感じないか否か、及び肌への残存感が抑制されるか否か評価させた。評価は、以下の評価基準において、◎=4点、○=3点、△=2点、及び×=1点として評価点の平均値を算出し、該平均値を小数点第一位で四捨五入した値を、再度◎、○、△、及び×の4段階に換算して行った。
【0064】
〔評価基準〕
◎:非常に良い。
○:良い。
△:やや良くない。
×:良くない。
【0065】
〔使用後の肌の状態〕
5人のパネラーに、組成物が噴霧されたトイレットペーパーによって肛門及びその周辺部を拭き取らせたときの肌の感覚を評価させた後、以下の評価基準に従い、該組成物を使用しない場合と比較した使用後の肌の状態を評価させた。具体的には、使用後の肌が快適(違和感がない)か否か評価させた。評価は、以下の評価基準において、◎=4点、○=3点、△=2点、及び×=1点として評価点の平均値を算出し、該平均値を小数点第一位で四捨五入した値を、再度◎、○、△、及び×の4段階に換算して行った。
【0066】
〔評価基準〕
◎:良い。
○:やや良い。
△:同程度からやや良くない。
×:良くない。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた組成物は、各比較例で得られた組成物よりも、噴霧性、保存安定性及び使用感がバランス良く向上したことが分かる。