(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098650
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】布帛用処理剤、捺染用インクセット、前処理済布帛、捺染方法、及び捺染布帛
(51)【国際特許分類】
D06P 5/06 20060101AFI20240717BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240717BHJP
C09D 11/32 20140101ALI20240717BHJP
D06M 13/473 20060101ALI20240717BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
D06P5/06
C09D11/54
C09D11/32
D06M13/473
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41M5/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002258
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 有由見
【テーマコード(参考)】
2H186
4H157
4J039
4L033
【Fターム(参考)】
2H186AB01
2H186AB02
2H186AB06
2H186AB13
2H186AB15
2H186AB23
2H186AB54
2H186AB56
2H186AB57
2H186AB58
2H186AB62
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB53
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA12
4H157CA11
4H157CA29
4H157CB11
4H157CB13
4H157CB14
4H157CC01
4H157DA01
4H157DA24
4H157DA34
4H157FA42
4H157GA05
4J039BC07
4J039BC10
4J039BE02
4J039BE22
4J039CA03
4J039EA21
4J039EA43
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
4L033AB04
4L033AC15
4L033BA89
(57)【要約】
【課題】捺染布帛の発色性、風合い、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を高い水準で両立させることができる布帛用処理剤、捺染用インクセット、前処理済布帛、及び捺染方法、並びに発色性、風合い、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を高い水準で両立された捺染布帛を提供することである。
【解決手段】本発明の布帛用処理剤は、昇華色材による捺染に用いられる布帛用処理剤であって、芳香族複素環式化合物を含有し、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
関係式(1):100≦A≦1000
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華色材による捺染に用いられる布帛用処理剤であって、
芳香族複素環式化合物を含有し、
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たす
ことを特徴とする布帛用処理剤。
関係式(1):100≦A≦1000
【請求項2】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2)を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の布帛用処理剤。
関係式(2):350≦A+B
【請求項3】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3)を満たす
ことを特徴とする請求項2に記載の布帛用処理剤。
関係式(3):A+B≦1500
【請求項4】
無機性値と有機性値との比の値(I/O値)が1以上3以下の範囲内である溶剤を更に含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の布帛用処理剤。
【請求項5】
前記芳香族複素環式化合物が、芳香族環を3つ以上有する
ことを特徴とする請求項1に記載の布帛用処理剤。
【請求項6】
前記芳香族複素環式化合物が、芳香族環を5つ以上有する
ことを特徴とする請求項1に記載の布帛用処理剤。
【請求項7】
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1′)満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の布帛用処理剤。
関係式(1′):200≦A≦600
【請求項8】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2′)を満たす
ことを特徴とする請求項7に記載の布帛用処理剤。
関係式(2′):450≦A+B
【請求項9】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3′)を満たす
ことを特徴とする請求項8に記載の布帛用処理剤。
関係式(3′):A+B≦1200
【請求項10】
昇華色材を含有する捺染用インクと、布帛用処理剤と、を含む捺染用インクセットであって、
前記布帛用処理剤が、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の布帛用処理剤である
ことを特徴とする捺染用インクセット。
【請求項11】
昇華色材による捺染に用いられる前処理済布帛であって、
芳香族複素環式化合物を含有し、
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たす
ことを特徴とする前処理済布帛。
関係式(1):100≦A≦1000
【請求項12】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2)を満たす
ことを特徴とする請求項11に記載の前処理済布帛。
関係式(2):350≦A+B
【請求項13】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3)を満たす
ことを特徴とする請求項12に記載の前処理済布帛。
関係式(3):A+B≦1500
【請求項14】
芳香族複素環式化合物の存在下、昇華色材で布帛を染色する捺染方法であって、
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たす
ことを特徴とする捺染方法。
関係式(1):100≦A≦1000
【請求項15】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2)を満たす
ことを特徴とする請求項14に記載の捺染方法。
関係式(2):350≦A+B
【請求項16】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3)を満たす
ことを特徴とする請求項15に記載の捺染方法。
関係式(3):A+B≦1500
【請求項17】
前記布帛が、天然繊維又は合成セルロース繊維を含有する
ことを特徴とする請求項14から請求項16までのいずれか一項に記載の捺染方法。
【請求項18】
染色方式が、昇華転写方式である
ことを特徴とする請求項14から請求項16までのいずれか一項に記載の捺染方法。
【請求項19】
芳香族複素環式化合物と昇華色材とを含有する捺染布帛であって、
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たす
ことを特徴とする捺染布帛。
関係式(1):100≦A≦1000
【請求項20】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2)を満たす
ことを特徴とする請求項19に記載の捺染布帛。
関係式(2):350≦A+B
【請求項21】
前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3)を満たす
ことを特徴とする請求項20に記載の捺染布帛。
関係式(3):A+B≦1500
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛用処理剤、捺染用インクセット、前処理済布帛、捺染方法、及び捺染布帛に関する。
より詳しくは、捺染布帛の発色性、風合い、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を高い水準で両立させることができる布帛用処理剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昇華色材を含有する捺染用インクを用いて布帛を染色する捺染方法が知られている。昇華色材は、一般的に疎水性を示すため、同じく疎水性を示す布帛に対しては吸着しやすく、染色しやすい。一方、昇華色材は、親水性を示す布帛に対しては、繊維内に入り込みにくく、十分な発色性を示す程度に染色することが困難である。また、親水性を示す布帛に対する捺染は、昇華色材が布帛の繊維内に入り込みにくいため、染色できたとしても、捺染後の布帛の洗濯堅牢性やアイロン耐性が悪い傾向にあった。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、セルロース系の布帛(親水性を示す布帛)に対して、染色前の布帛に膨潤剤(多価アルコール類)を付与することで、染色性を向上させている。また、当該技術では、さらに染色後の布帛に樹脂を付与して色材を封入固着させることで、染着した色材が布帛から外部に移行することを防止している。当該技術では、布帛の発色性は向上するが、樹脂を用いて色材を封入固着させているため、布帛の風合いが大きく悪化する。
【0004】
特許文献2に記載の技術では、ヒドロキシ基を有する繊維を含む布帛(親水性を示す布帛)を染色しやすくするために、染色前に、多価カルボジイミド基を有する化合物と芳香族カルボン酸を布帛に付与している。これによって、当該技術は、色材を吸着しやすい芳香環を布帛の繊維に導入しており、結果として、染色性ひいては発色性を向上させている。当該技術の場合、樹脂を用いないため布帛の風合いは悪化しないが、発色性を十分には向上させることができていなかった。また、当該技術では、布帛の洗濯堅牢性やアイロン耐性も十分に向上させることができなかった。
【0005】
以上のように、布帛の発色性を向上させる捺染技術はいくつか知られている。しかし、布帛(特に親水性を示す布帛)の発色性、風合い、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を高い水準で両立させることができる捺染技術はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-216763号公報
【特許文献2】特開2022-073505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、捺染布帛の発色性、風合い、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を高い水準で両立させることができる布帛用処理剤、捺染用インクセット、前処理済布帛、及び捺染方法、並びに発色性、風合い、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を高い水準で両立された捺染布帛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記課題の原因等について検討した。その結果、本発明者は、分子量が特定の条件を満たす芳香族複素環式化合物を含有する布帛用処理剤を用いることによって、上記課題を解決できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.昇華色材による捺染に用いられる布帛用処理剤であって、
芳香族複素環式化合物を含有し、
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たす
ことを特徴とする布帛用処理剤。
関係式(1):100≦A≦1000
【0010】
2.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2)を満たす
ことを特徴とする第1項に記載の布帛用処理剤。
関係式(2):350≦A+B
【0011】
3.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3)を満たす
ことを特徴とする第2項に記載の布帛用処理剤。
関係式(3):A+B≦1500
【0012】
4.無機性値と有機性値との比の値(I/O値)が1以上3以下の範囲内である溶剤を更に含有する
ことを特徴とする第1項に記載の布帛用処理剤。
【0013】
5.前記芳香族複素環式化合物が、芳香族環を3つ以上有する
ことを特徴とする第1項に記載の布帛用処理剤。
【0014】
6.前記芳香族複素環式化合物が、芳香族環を5つ以上有する
ことを特徴とする第1項に記載の布帛用処理剤。
【0015】
7.前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1′)満たす
ことを特徴とする第1項に記載の布帛用処理剤。
関係式(1′):200≦A≦600
【0016】
8.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2′)を満たす
ことを特徴とする第7項に記載の布帛用処理剤。
関係式(2′):450≦A+B
【0017】
9.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3′)を満たす
ことを特徴とする第8項に記載の布帛用処理剤。
関係式(3′):A+B≦1200
【0018】
10.昇華色材を含有する捺染用インクと、布帛用処理剤と、を含む捺染用インクセットであって、
前記布帛用処理剤が、第1項から第9項までのいずれか一項に記載の布帛用処理剤である
ことを特徴とする捺染用インクセット。
【0019】
11.昇華色材による捺染に用いられる前処理済布帛であって、
芳香族複素環式化合物を含有し、
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たす
ことを特徴とする前処理済布帛。
関係式(1):100≦A≦1000
【0020】
12.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2)を満たす
ことを特徴とする第11項に記載の前処理済布帛。
関係式(2):350≦A+B
【0021】
13.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3)を満たす
ことを特徴とする第12項に記載の前処理済布帛。
関係式(3):A+B≦1500
【0022】
14.芳香族複素環式化合物の存在下、昇華色材で布帛を染色する捺染方法であって、
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たす
ことを特徴とする捺染方法。
関係式(1):100≦A≦1000
【0023】
15.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2)を満たす
ことを特徴とする第14項に記載の捺染方法。
関係式(2):350≦A+B
【0024】
16.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3)を満たす
ことを特徴とする第15項に記載の捺染方法。
関係式(3):A+B≦1500
【0025】
17.前記布帛が、天然繊維又は合成セルロース繊維を含有する
ことを特徴とする第14項から第16項までのいずれか一項に記載の捺染方法。
【0026】
18.染色方式が、昇華転写方式である
ことを特徴とする第14項から第16項までのいずれか一項に記載の捺染方法。
【0027】
19.芳香族複素環式化合物と昇華色材とを含有する捺染布帛であって、
前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たす
ことを特徴とする捺染布帛。
関係式(1):100≦A≦1000
【0028】
20.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(2)を満たす
ことを特徴とする第19項に記載の捺染布帛。
関係式(2):350≦A+B
【0029】
21.前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、下記関係式(3)を満たす
ことを特徴とする第20項に記載の捺染布帛。
関係式(3):A+B≦1500
【発明の効果】
【0030】
本発明の上記手段により、捺染布帛の発色性、風合い、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を高い水準で両立させることができる布帛用処理剤等を提供することができる。
【0031】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0032】
芳香族複素環式化合物を含有する布帛用処理剤を用いることで、布帛の繊維内に昇華色材を導入しやすくなる。また、芳香族複素環式化合物が繊維内で昇華色材を捕捉することによって、布帛用処理剤を使用しない場合と比べて、布帛の発色濃度が著しく向上する。また、昇華転写による捺染で従来一般的に採用されていた樹脂可染層を用いた方式は、布帛の風合いを劣化させてしまう。これに対して、本発明は、樹脂を必須としないため、布帛の発色性と風合いの両立が可能である。
【0033】
布帛の発色性と風合いをより高い水準で両立させる観点からは、芳香族複素環式化合物の分子量Aは、適度に小さい方が好ましい。具体的には、芳香族複素環式化合物の分子量Aが1000以下であることによって、布帛の発色性と風合いを高い水準で両立させることができる。芳香族複素環式化合物の分子量Aが1000よりも大きいと、芳香族複素環式化合物が布帛の繊維内に入り込み難くなる。そのため、昇華色材を繊維内に導入することができず、布帛の発色濃度が十分に向上しない。また、繊維表面に分子量の大きい芳香族複素環式化合物が重なり合うように存在すると布帛の風合いも硬くなってしまう。したがって、芳香族複素環式化合物の分子量Aが1000以下であることによって、布帛の発色性と風合いをより高い水準で両立させることができる。
【0034】
芳香族複素環式化合物は芳香族性を示す構造を有するため、昇華色材とπ-π相互作用により吸着する。この作用により、昇華色材は芳香族複素環式化合物を介して布帛の繊維に捕捉された状態になる。また、芳香族複素環式化合物に吸着した昇華色材は、見かけの分子量が大きくなるため、動きにくくなり、洗濯時に洗液に流出し難くなる。すなわち、布帛の洗濯堅牢性が向上する。また同様に、昇華色材と芳香族複素環式化合物が吸着した状態で見かけの分子量が大きいと、熱をかけた時に分子が動きにくくなるため、昇華色材が昇華し難くなる。すなわち、布帛のアイロン耐性が向上する。
【0035】
布帛の洗濯堅牢性とアイロン耐性を高い水準にする観点からは、芳香族複素環式化合物の分子量Aは、適度に大きい方が好ましい。具体的には、芳香族複素環式化合物の分子量Aが100以上であることによって、布帛の洗濯堅牢性とアイロン耐性を高い水準にできる。芳香族複素環式化合物の分子量Aが100よりも小さいと、色材捕捉力が十分でないため、布帛の洗濯堅牢性を十分に向上させることができない。したがって、芳香族複素環式化合物の分子量Aが100以上であることによって、布帛の洗濯堅牢性とアイロン耐性を高い水準にできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の布帛用処理剤は、昇華色材による捺染に用いられる布帛用処理剤であって、芳香族複素環式化合物を含有し、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、上記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
この特徴は、下記実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0038】
本発明の布帛用処理剤の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、上記関係式(2)を満たすことが好ましい。A+Bが小さ過ぎないことによって、芳香族複素環式化合物と吸着した昇華色材が昇華しにくくなるため、布帛のアイロン耐性をより向上させることができる。
【0039】
本発明の布帛用処理剤の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、上記関係式(3)を満たすことが好ましい。A+Bが大き過ぎないことによって、布帛の発色性と風合いをさらに高い水準で両立させることが可能となる。
【0040】
本発明の布帛用処理剤の実施形態としては、無機性値と有機性値との比の値(I/O値)が1以上3以下の範囲内である溶剤を更に含有することが好ましい。これによって、溶剤が、適度に親水性の部位と疎水性の部位を有するため、親水性を示す繊維とも、疎水性を示す昇華色材とも、相互作用しやすくなる。その結果、溶剤が布帛の繊維を膨潤させやすくなり、さらに、繊維の内部に昇華色材や芳香族複素環式化合物等を導入しやすくなる。
【0041】
本発明の布帛用処理剤の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物が、芳香族環を3つ以上有することが好ましい。これによって、芳香族複素環式化合物の芳香族性が高くなるため、昇華色材とのπ-π相互作用が強くなる。これによって、芳香族複素環式化合物の色材捕捉力が向上するため、布帛の発色性、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を、より向上させることができる。
【0042】
本発明の布帛用処理剤の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物が、芳香族環を5つ以上有することが好ましい。これによって、芳香族複素環式化合物の芳香族性が高くなるため、昇華色材とのπ-π相互作用が強くなる。これによって、芳香族複素環式化合物の色材捕捉力が向上するため、布帛の発色性、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を、より向上させることができる。
【0043】
本発明の布帛用処理剤の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、上記関係式(1′)を満たすことが好ましい。これによって、布帛の発色性、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を、より向上させることができる。
【0044】
本発明の布帛用処理剤の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、上記関係式(2′)を満たすことが好ましい。A+Bが小さ過ぎないことによって、芳香族複素環式化合物と吸着した昇華色材が昇華しにくくなるため、布帛のアイロン耐性をより向上させることができる。
【0045】
本発明の布帛用処理剤の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、上記関係式(3′)を満たすことが好ましい。A+Bが大き過ぎないことによって、布帛の発色性と風合いをさらに高い水準で両立させることが可能となる。
【0046】
本発明の捺染用インクセットは、昇華色材を含有する捺染用インクと、布帛用処理剤と、を含む捺染用インクセットであって、前記布帛用処理剤が、本発明の布帛用処理剤であることを特徴とする。
【0047】
本発明の前処理済布帛は、昇華色材による捺染に用いられる前処理済布帛であって、芳香族複素環式化合物を含有し、前記昇華色材の分子量B及び前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、上記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
【0048】
本発明の捺染方法は、芳香族複素環式化合物の存在下、昇華色材で布帛を染色する捺染方法であって、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、上記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
【0049】
本発明の捺染方法の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、上記関係式(2)を満たすことが好ましい。A+Bが小さ過ぎないことによって、芳香族複素環式化合物と吸着した昇華色材が昇華しにくくなるため、布帛のアイロン耐性をより向上させることができる。
【0050】
本発明の捺染方法の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、上記関係式(3)を満たすことが好ましい。A+Bが大き過ぎないことによって、布帛の発色性と風合いをさらに高い水準で両立させることが可能となる。
【0051】
本発明の捺染方法の実施形態としては、前記布帛が、天然繊維又は合成セルロース繊維を含有することが、本発明の効果を顕著に発現できることから好ましい。
【0052】
本発明の捺染方法の実施形態としては、染色方式が、昇華転写方式であることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0053】
本発明の捺染布帛は、芳香族複素環式化合物と昇華色材とを含有する捺染布帛であって、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、上記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
【0054】
本発明の捺染布帛の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、上記関係式(2)を満たすことが好ましい。A+Bが小さ過ぎないことによって、芳香族複素環式化合物と吸着した昇華色材が昇華しにくくなるため、布帛のアイロン耐性をより向上させることができる。
【0055】
本発明の捺染布帛の実施形態としては、前記芳香族複素環式化合物の分子量A及び前記昇華色材の分子量Bが、上記関係式(3)を満たすことが好ましい。A+Bが大き過ぎないことによって、布帛の発色性と風合いをさらに高い水準で両立させることが可能となる。
【0056】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0057】
<1 布帛用処理剤>
本発明の布帛用処理剤は、昇華色材による捺染に用いられる布帛用処理剤であって、芳香族複素環式化合物を含有し、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、下記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
関係式(1):100≦A≦1000
【0058】
芳香族複素環式化合物の分子量Aは、下記関係式(1′)を満たすことが好ましい。これによって、布帛の発色性、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を、より向上させることができる。
関係式(1′):200≦A≦600
【0059】
また、芳香族複素環式化合物の分子量Aと昇華色材の分子量Bを合わせた見かけの分子量A+Bが、下記関係式(2)を満たすことが好ましく、下記関係式(2′)を満たすことがより好ましい。A+Bが小さ過ぎないことによって、芳香族複素環式化合物と吸着した昇華色材が昇華しにくくなるため、布帛のアイロン耐性をより向上させることができる。
関係式(2):350≦A+B
関係式(2′):450≦A+B
【0060】
また、芳香族複素環式化合物の分子量Aと昇華色材の分子量Bを合わせた見かけの分子量A+Bが、下記関係式(3)を満たすことが好ましく、下記関係式(3′)を満たすことがより好ましい。A+Bが大き過ぎないことによって、芳香族複素環式化合物だけでなく昇華色材の分子量も大きく過ぎないため、昇華色材が繊維内に入り込みやすくなる。これによって、布帛の発色性をより向上させることができる。また、A+Bが大き過ぎないことによって、繊維表面に見かけの分子量の大きい昇華色材と芳香族複素環式化合物が重なり合うように存在することを抑制できる。そのため、布帛の風合いを悪化させにくくなる。したがって、A+Bが大き過ぎないことによって、布帛の発色性と風合いをさらに高い水準で両立させることが可能となる。
関係式(3):A+B≦1500
関係式(3′):A+B≦1200
【0061】
分子量A及び分子量Bは、芳香族複素環式化合物及び/又は昇華色材を付与した捺染布帛から切り出したサンプルを用いて、ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析で求められる。分析装置には、JMS-T2000GC AccuTOF GC-Alpha(高性能ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計、日本電子社製)を用いることができる。布帛用処理剤や捺染布帛に含まれる未知の成分の分子量についても、この分析方法により導き出すことが可能である。なお、芳香族複素環式化合物、昇華色材、及びこれらに類似の化合物は、高分子量体ではない。そのため、本願における「分子量」とは、平均の分子量ではなく、単一の化合物の分子量を意味する。
【0062】
本発明において、「染色」とは、色材を用いて、布帛に色素を定着させることをいう。「染色性」とは、色素の定着の程度・度合いのことをいう。「発色」とは、色材を用いて、布帛に所望の色を呈色させることをいう。「発色性」とは、所望の色に対する呈色の程度・度合いのことをいう。
【0063】
<1.1 芳香族複素環式化合物>
本発明の布帛用処理剤は、芳香族複素環式化合物を含有することを特徴とする。
【0064】
本発明において、「芳香族複素環式化合物」とは、炭素原子と炭素原子以外のヘテロ原子で構成される芳香族環(芳香族複素環)を有する化合物のことをいう。芳香族環を構成する原子が炭素原子のみであり、芳香族環が有する置換基にのみヘテロ原子が含まれる芳香族環は、芳香族複素環に該当しない。
【0065】
芳香族複素環を構成するヘテロ原子は、色材捕捉力の観点から、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子であることが好ましく、窒素原子であることがより好ましい。
【0066】
芳香族複素環は、単環であっても、縮環であってもよい。
【0067】
芳香族複素環としては、例えば、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、トリアジン環、ピリジン環、ピラゾール環、アリジン環、インドール環、キノリン環、ピロール環、チオフェン環等が挙げられる。これらのうち、ピラゾール環、トリアゾール環、又はイミダゾール環が、色材捕捉力の観点から好ましい。
【0068】
芳香族複素環は、更に置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキルエステル基、アルキルエーテル基、カルボキシ基、アシル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲノ基等が挙げられる。
【0069】
芳香族複素環式化合物は、芳香族環を3つ以上有することが好ましく、芳香族環を5つ以上有することがより好ましい。また、2つの芳香族環が互いに単結合で結合して構成される構造を、一部又は全体として有することが好ましい。芳香族複素環式化合物がこれらの構造を有すると、芳香族性が高くなるため、昇華色材とのπ-π相互作用が強くなる。これによって、芳香族複素環式化合物の色材捕捉力が向上するため、布帛の発色性、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を、より向上させることができる。
【0070】
本発明に係る芳香族複素環式化合物を例示する。なお、本発明に係る芳香族複素環式化合物は、これらに限定されない。
【0071】
【0072】
【0073】
本発明に係る芳香族複素環式化合物は、色材捕捉力の観点から、布帛用処理剤全体に対して1質量%以上30質量%以下の範囲内で含有されていることが好ましく、10質量%以上20質量%以下の範囲内で含有されていることがより好ましい。
【0074】
<1.2 溶剤>
本発明の布帛用処理剤は、溶剤を含有し得る。溶剤は、布帛の繊維を膨潤させる性質(膨潤性)及び昇華色材を溶解する性質(色材溶解性)を有することが好ましい。このような溶剤を含有することにより、繊維のより内部に昇華色材や芳香族複素環式化合物等を運び入れることができる。その結果、布帛の発色性、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性をより向上させることができる。
【0075】
布帛用処理剤が含有し得る溶剤の例としては、
ジプロピレングリコールジメチルエーテル(I/O値:0.38)、
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(I/O値:1.00)、
2-ピロリドン(I/O値:1.15)、
エチレングリコールモノエチレンエーテル(I/O値:1.5)、
ジメチルスルホキシド(I/O値:1.75)、
酪酸(I/O値:1.875)、
ポリエチレングリコール(I/O値:2.0)、
イソ酪酸(I/O値:2.143)、
2,3-ブタンジオール(I/O値:2.5)、
トリメチロールエタン(I/O値:3.0)、
プロピレングリコール(I/O値:3.3)、
ポリプロピレングリコール(I/O値:3.3)、
エチレングリコール(I/O値:5.0)等が挙げられる。
【0076】
「I/O値」とは、無機性値(I)と有機性値(O)との比(無機性値/有機性値)の値である。I/O値は、IOB(Inorganic Organic Balance)値とも称されるものであり、化合物の極性の大小を示す指標の一つである。
【0077】
I/O値は、有機概念図(甲田善生著、三共出版(1984年));KUMAMOTO PHARMACEUTICAL BULLETIN,第1号、第1~16項(1954年);化学の領域、第11巻、第10号、719~725項(1957年)などの文献に詳細な説明がある。
【0078】
「無機性値(I)」とは、有機化合物が有している種々の置換基又は結合等の沸点への影響力の大小を、ヒドロキシ基を基準に数値化したものである。具体的には、直鎖アルコールの沸点曲線と直鎖パラフィンの沸点曲線との距離を炭素数5の付近で取れば約100℃となるので、ヒドロキシ基1個の影響力を数値で100と定める。この数値を基準として各種の置換基又は各種の結合などの沸点への影響力を数値化した値が、無機性値(I)となる。例えば、カルボキシ基(-COOH)の無機性値(I)は150であり、二重結合の無機性値(I)は2である。ある種の有機化合物の無機性値(I)とは、その有機化合物が有している各種置換基又は結合等の無機性値(I)の総和を意味する。
【0079】
「有機性値(O)」とは、分子内のメチレン基を単位とし、そのメチレン基を代表する炭素原子の沸点への影響力を基準にして定めたものである。具体的には、直鎖飽和炭化水素化合物の炭素数5~10付近で炭素1個が加わることによる沸点上昇の平均値は20℃であるから、これを基準に炭素原子1個の有機性値を20と定める。この数値を基準として各種の置換基又は各種の結合などの沸点への影響力を数値化した値が、有機性値(O)となる。例えば、ニトロ基(-NO2)の有機性値(O)は70である。ある種の有機化合物の有機性値(O)とは、その有機化合物が有している各種置換基又は結合等の有機性値(O)の総和を意味する。
【0080】
一般に、I/O値は、値が小さいほど非極性である(疎水性が大きい、有機性が大きい)ことを示し、値が大きいほど極性である(親水性が大きい、無機性が大きい)ことを示す。
【0081】
溶剤のI/O値は、1以上3以下の範囲内が好ましい。これによって、溶剤が、適度に親水性の部位と疎水性の部位を有するため、親水性を示す繊維とも、疎水性を示す昇華色材とも、相互作用しやすくなる。その結果、溶剤が布帛の繊維を膨潤させやすくなり、さらに、繊維の内部に昇華色材や芳香族複素環式化合物等を導入しやすくなる。
【0082】
布帛用処理剤において、上記溶剤は、布帛用処理剤全体に対して5質量%以上95質量%以下の範囲内で含有されていることが好ましく、50質量%以上80質量%以下の範囲内で含有されていることがより好ましい。
【0083】
<1.3 その他の成分>
本発明の布帛用処理剤は、必要に応じて上記以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分の例には、水、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が含まれる。
【0084】
水の例には、イオン交換水、蒸留水、純水等が含まれる。布帛用処理剤における水の含有量は、0質量%以上95質量%以下の範囲内が好ましく、0質量%以上50質量%以下の範囲内がより好ましい。
【0085】
界面活性剤は、特に制限されない。ただし、インクの構成成分にアニオン性の化合物を含有する場合、界面活性剤のイオン性は、アニオン性又はノニオン性であることが好ましい。界面活性剤のイオン性が両性である場合は、ベタイン型であることが好ましい。
【0086】
具体的には、静的な表面張力の低下能が高いフッ素系又はシリコーン系界面活性剤や、動的な表面張力の低下能が高いジオクチルスルホサクシネートが挙げられる。また、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤、比較的分子量の低いポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック型界面活性剤(プルロニックは登録商標)、ソルビタン誘導体などのノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0087】
静的な表面張力の低下能が高いフッ素系又はシリコーン系界面活性剤と、動的な表面張力の低下能が高い界面活性剤を併用してもよい。
【0088】
防腐剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、PreventolCMK(LANXESS社製))、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXELGXL、Lonza社製)等が含まれる。
【0089】
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム等が含まれる。
【0090】
本発明の布帛用処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば樹脂を含有し得るが、布帛の風合いを維持する観点からは、樹脂を含有しないことが好ましい。
【0091】
<1.4 布帛用処理剤の物性>
布帛用処理剤の、25℃における粘度は、布帛への付与方法等に応じて適宜調整され得る。例えば布帛用処理剤をインクジェット方式で付与する場合、布帛用処理剤の粘度は、4mPa・s以上20mPa・s以下の範囲内が好ましい。布帛用処理剤の粘度は、E型粘度計により、25℃で測定できる。
【0092】
<2 捺染用インクセット>
本発明の捺染用インクセットは、昇華色材を含有する捺染用インクと、布帛用処理剤とを含む捺染用インクセットであって、前記布帛用処理剤が、本発明の布帛用処理剤であることを特徴とする。
【0093】
当該捺染用インクセットに含まれる布帛用処理剤については、上述のとおりである。また、当該捺染用インクセットに含まれる捺染用インクについては、以下説明する。
【0094】
<3 捺染用インク>
本発明の捺染用インクセットが含む捺染用インクは、少なくとも昇華色材を含有する。また、昇華色材以外にも、水、有機溶剤、分散剤等を含有し得る。
【0095】
<3.1 昇華色材>
本発明において、「昇華色材」とは、加熱により昇華する性質を有する色材のことをいう。
【0096】
昇華色材は、水に不溶又は難溶な染料である分散性染料であることが好ましい。ここで、水に不溶又は難溶であるとは、25℃における水への溶解度が、10mg/L以下、好ましくは5mg/L以下、より好ましくは1mg/L以下であることを意味する。
【0097】
昇華色材の化学構造は、特に制限されないが、芳香族環を複数有することが好ましい。昇華色材が芳香族環を複数有することによって、昇華色材と芳香族複素環式化合物との間でのπ-π相互作用が強くなり、昇華色材が布帛により定着しやすくなる。
【0098】
昇華色材のうち分散性染料の例には、以下の染料が含まれる。
【0099】
C.I.Disperse Yellow3、4、5、7、9、13、24、30、33、34、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、186、192、198、199、202、204、210、211、215、216、218、224等、
【0100】
C.I.Disperse Orange1、3、5、7、11、13、17、20、21、25、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、61、66、71、73、76、78、80、89、90、91、93、96、97、119、127、130、139、142等、
【0101】
C.I.Disperse Red1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、56、58、59、60、65、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、289、298、302、303、310、311、312、320、324、328等、
【0102】
C.I.Disperse Violet1、4、8、23、26、27、28、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77等、
【0103】
C.I.Disperse Green9等、
【0104】
C.I.Disperse Brown1、2、4、9、13、19等、
【0105】
C.I.Disperse Blue3、7、9、14、16、19、20、26、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、71、72、73、75、79、81、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、139、141、142、143、146、148、149、153、154、158、165、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、267、268、270、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333、359、360等、
【0106】
C.I.Disperse Black1、3、10、24等。
【0107】
昇華色材の分子量Bは、特に制限されないが、200以上が好ましい。分子量Bが200以上であることによって、布帛の繊維の内部に入り込んだ昇華色材が抜けにくくなる。
さらに好ましくは、分子量Bが500以下であるとよい。分子量Bが500以下であることによって、昇華色材が布帛の繊維の内部にさらに入り込みやすくなる。
【0108】
捺染用インクに含有される昇華色材は、結晶化されていても、されていなくてもよい。
【0109】
捺染用インク中の昇華色材の数平均粒子径は、特に制限されないが、インクジェット方式による射出安定性の観点では、例えば300nm以下とし得る。昇華色材の数平均粒子径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機により求めることができる。粒径測定装置としては、例えばマルバーン社製ゼータサイザー1000等を挙げることができる。
【0110】
捺染用インクにおける昇華色材の含有量は、特に制限されないが、捺染用インク全体に対して2質量%以上10質量%以下の範囲内が好ましい。昇華色材の含有量が2質量%以上であると、高濃度の画像を形成しやすくなる。昇華色材の含有量が10質量%以下であると、捺染用インクの粘度が高くなりすぎないため、射出安定性が損なわれにくい。昇華色材の含有量は、同様の観点から、捺染用インク全体に対して5質量%以上10質量%以下の範囲内がより好ましい。
【0111】
<3.2 水>
捺染用インクが含有し得る水の例には、イオン交換水、蒸留水、純水等が含まれる。捺染用インクにおける水の含有量は、40質量%以上98質量%以下の範囲内が好ましく、50質量%以上70質量%以下の範囲内がより好ましい。
【0112】
<3.3 有機溶剤>
捺染用インクが含有し得る有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。水と水溶性有機溶剤の合計含有量は、捺染用インク全体に対して、90質量%以上98質量%以下の範囲内が好ましく、90質量%以上95質量%以下の範囲内がより好ましい。
【0113】
水溶性有機溶剤の例には、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、下記一般式(1)で表される化合物)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル)、アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド)、複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)、スルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0114】
【0115】
[一般式(1)中、R11は、いずれもエチレングリコール基又はプロピレングリコール基を表し、x、y及びzはいずれも正の整数であり、x+y+z=3~30である。]
【0116】
布帛への浸透性、及びインクジェット方式での射出安定性の観点から、捺染用インクは、乾燥により増粘しにくいことが好ましい。したがって、捺染用インクは、水溶性有機溶剤の中でも、沸点が200℃以上である高沸点溶剤を含有することが好ましい。
【0117】
沸点が200℃以上である高沸点溶剤としては、ポリオール類やポリアルキレンオキサイド類を挙げることができる。沸点が200℃以上のポリオール類の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)等の3価以上のアルコール類が含まれる。沸点が200℃以上のポリアルキレンオキサイド類の例には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点305℃)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点256℃);及びポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類のエーテルや、グリセリン(沸点290℃)、ヘキサントリオール等の3価以上のアルコール類のエーテルが含まれる。
【0118】
水溶性有機溶剤の含有量は、捺染用インク全体に対して20質量%以上70質量%以下の範囲内が好ましい。水溶性有機溶剤の含有量が20質量%以上であると、昇華色材の分散性や射出性をより高めやすい。水溶性有機溶剤の含有量が70質量%以下であると、捺染用インクの乾燥性が損なわれにくい。
【0119】
<3.4 分散剤>
捺染用インクが含有し得る分散剤は、昇華色材の種類に応じて選択できる。分散剤の例には、クレオソート油スルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、クレゾールスルホン酸ナトリウムと2-ナフトール-6-スルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、クレゾールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、フェノールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、β-ナフトールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、β-ナフタリンスルホン酸ナトリウム及びβ-ナフトールスルホン酸ナトリウムを含むホルマリン縮合物、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドを含むアルキレンオキシド、脂肪アルコール、脂肪アミン、脂肪酸、フェノール類、アルキルフェノール及びカルボン酸アミンを含むアルキル化可能な化合物、リグニンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンと無水マレイン酸の共重合物、並びに公知のくし型ブロックポリマーが含まれる。
【0120】
くし型ブロックポリマーの例には、ビックケミー社製のDISPERBYK-190、DISPERBYK-194N、DISPERBYK-2010、DISPERBYK-2015、及びBYK-154(「DISPERBYK」及び「BYK」は同社の登録商標)が含まれる。
【0121】
分散剤の含有量は、特に制限されないが、昇華色材100質量部に対して、20質量部以上200質量部以下の範囲内が好ましい。分散剤の含有量が20質量部以上であると、昇華色材の分散性がより高まりやすい。分散剤の含有量が200質量部以下であると、捺染用インクのインクジェット法での射出安定性の低下を抑制しやすい。
【0122】
<3.5 その他の成分>
捺染用インクは、必要に応じて他の成分を更に含み得る。他の成分の例には、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤等が含まれる。これらには、布帛用処理剤が含有し得る界面活性剤、防腐剤、pH調整剤と同様のものを使用できる。
【0123】
<3.6 捺染用インクの物性>
捺染用インクの25℃における粘度は、インクジェット方式による射出性が良好となる程度であればよく、特に制限されないが、3mPa・s以上20mPa・s以下の範囲内が好ましく、4mPa・s以上12mPa・s以下の範囲内がより好ましい。捺染用インクの粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0124】
<3.7 芳香族複素環式化合物を含有する捺染用インク>
上述の芳香族複素環式化合物は、捺染用インクに含有させることもできる。芳香族複素環式化合物を含有する捺染用インクを用いることで、布帛用処理剤及びそれによる布帛の前処理を不要としながらも、芳香族複素環式化合物による効果を得ることができる。
【0125】
なお、芳香族複素環式化合物を含有する捺染用インクは、布帛用処理剤及びそれによる布帛の前処理を不要とするが、布帛用処理剤によって前処理された布帛(前処理済布帛)に対して用いることもできる。
【0126】
<4 捺染方法>
本発明の捺染方法は、芳香族複素環式化合物の存在下、昇華色材で布帛を染色する捺染方法であって、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、上記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
【0127】
本発明において、「芳香族複素環式化合物の存在下」とは、芳香族複素環式化合物を含有する布帛用処理剤によって前処理された布帛(前処理済布帛)に対して染色する場合と、芳香族複素環式化合物を捺染用インクに含有させて染色する場合とを含む。いずれの場合であっても、芳香族複素環式化合物が存在することで、昇華色材が布帛に定着しやすくなり、布帛の発色性、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性が向上する。
【0128】
<4.1 布帛>
本発明に係る布帛が含有する繊維は、特に制限されないが、天然繊維(天然セルロース繊維、麻、羊毛、絹等を含む。)、合成セルロース繊維(レーヨン等の再生セルロース繊維、及びアセテート等の半合成セルロース繊維を含む。)、ビニロン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。
【0129】
布帛は、本発明の効果を顕著に発現できることから、天然繊維又は合成セルロース繊維を含有することが好ましい。布帛における天然繊維又は合成セルロース繊維の含有量は、30質量%以上であることがより好ましい。また、天然繊維の中では、綿繊維等の天然セルロース繊維が特に好ましい。
【0130】
布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布等、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布又は混紡不織布であってもよい。
【0131】
<4.2 前処理工程>
前処理済布帛(布帛用処理剤によって前処理された布帛)に対して染色する場合、前処理工程によって前処理済布帛を作製できる。前処理工程においては、布帛用処理剤を布帛の少なくとも一部の表面に付与する。布帛への布帛用処理剤の付与は、布帛の表面全体に行ってもよいし、印捺される画像に応じて昇華色材で染色する領域のみに選択的に行ってもよい。
【0132】
布帛に布帛用処理剤を付与する方法としては、公知の方法が、特に制限なく使用できる。具体的には、スプレー法、マングル法(パッド法又はディッピング法)、コーティング法、インクジェット法等が挙げられる。例えば、後述する染色工程において、昇華色材を含有する捺染用インクの付与と連続的に行えるようにする観点では、インクジェット法が好ましく、短時間で所定量の布帛用処理剤を付与する観点では、マングル法やコーター法が好ましい。
【0133】
マングル法では、浴槽中に貯めた布帛用処理剤に、布帛を浸漬した後、絞りを行うことで布帛用処理剤の付与量を調整する。布帛用処理剤の温度は、特に制限されないが、15℃以上30℃以下とし得る。インクジェット法における条件は、染色工程における捺染用インクの付与と同様とすることができる。
【0134】
布帛用処理剤の付与量は、特に制限されず、布帛用処理剤中の芳香族複素環式化合物の含有量や捺染用インクの付与量などに応じて調整され得る。
【0135】
布帛用処理剤を布帛に付与した後、布帛に付与した布帛用処理剤の塗膜から溶剤を除去する工程、すなわち、乾燥する工程を行ってもよいが、溶剤が残っている方が好ましい。乾燥方法は、特に限定されず、温風、ホットプレート、又はヒートローラーによる加熱であることが好ましい。短時間で十分に液状媒体を除去する観点では、加熱乾燥がより好ましい。乾燥温度は、100℃以上130℃以下の範囲内が好ましい。
【0136】
<4.3 染色工程>
染色工程における染色方式としては、昇華転写方式とダイレクト昇華方式が挙げられる。昇華転写方式では、捺染用インクを転写媒体に付与した後、当該転写媒体から捺染用インクを布帛に転写して染色を行う。ダイレクト昇華方式では、捺染用インクを布帛に直接付与して染色を行う。本発明の効果発現の観点からは、昇華転写方式が好ましい。
【0137】
前処理済布帛に対して染色する場合、前処理済布帛は、未乾燥状態であることが好ましい。具体的には、布帛用処理剤が、前処理前の布帛質量に対して、20質量%以上残っていることが好ましい。これによって、布帛の繊維内部が膨潤した状態になるため、昇華色材がより定着しやすくなり、布帛の発色性、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性がより向上する。
【0138】
(昇華転写方式)
昇華転写方式による染色では、まず、転写媒体上に捺染用インクを付与した後、乾燥させて、印捺画像に対応するインク層(転写用画像)を形成する。捺染用インクの付与方法は、特に限定されないが、高精度な印捺が可能であることから、インクジェット方式を用いることが好ましい。
【0139】
昇華転写方式による染色で用いられる転写媒体としては、転写媒体の表面にインク層を形成でき、さらに、そのインク層を布帛に転写可能なものを、特に制限なく使用できる。具体的には、例えば転写時に昇華色材の昇華を妨害しないものを転写媒体として使用できる。転写媒体としては、例えば、シリカなどの無機微粒子でインク受容層が表面上に形成されている紙が好ましく、インクジェット用の専用紙や転写紙が挙げられる。
【0140】
次いで、転写媒体上の転写用画像の表面を、布帛(前処理済布帛を含む。)の表面と接触させて、加熱(熱プレス)する。これにより、転写媒体上に形成された転写用画像中の昇華色材を布帛に昇華転写させて、布帛を染色する。
【0141】
転写温度(熱プレス温度)は、昇華色材の昇華温度にもよるが、例えば、180℃以上210℃以下の範囲内が好ましい。プレス圧力は、平型の場合は200g/cm2以上500g/cm2以下の範囲内、連続式の場合は2kg/cm2以上6kg/cm2以下の範囲内が好ましい。プレス時間は、転写温度及びプレス圧力にもよるが、30秒以上180秒以下の範囲内が好ましい。
【0142】
(ダイレクト昇華方式)
ダイレクト昇華方式による染色では、布帛(前処理済布帛を含む。)に、印捺画像に応じて、捺染用インクを直接付与する。捺染用インクの付与方法は、特に限定されないが、高精度な印捺が可能であることから、インクジェット方式を用いることが好ましい。インクジェット方式では、具体的には、インクジェット記録装置を用いて、インクジェット記録ヘッドから捺染用インクの液滴を布帛に向けて吐出させる。
【0143】
捺染用インクの液滴が着弾するときの布帛の表面の温度は、特に限定されないが、発色前の画像の滲み抑制などの観点から、35℃以上70℃以下の範囲内で加熱されてもよい。
【0144】
着弾後のインク塗膜を加熱することで、昇華色材を昇華させて、布帛を染色する。加熱方法は、従来公知の方法でよく、捺染用インク、色材捕捉化合物、及び布帛の種類に応じて適宜選択される。例えば、蒸気によるスチーミング;乾熱によるベーキング、サーモゾル;過熱蒸気によるHTスチーマー;熱プレスなどが挙げられる。中でも、スチーミング方式、ベーキング方式、熱プレス方式が好ましい。加熱温度は、特に限定されないが、例えば95℃以上220℃未満とすることができる。
【0145】
<5 前処理済布帛>
本発明の前処理済布帛は、昇華色材による捺染に用いられる前処理済布帛であって、芳香族複素環式化合物を含有し、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、上記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
【0146】
本発明において、「芳香族複素環式化合物を含有する前処理済布帛」とは、芳香族複素環式化合物が、布帛が含有する繊維に物理的吸着した状態、又は化学的吸着した状態等の布帛を意味する。
【0147】
当該前処理済布帛は、布帛に対して上述の前処理を行うことで得ることができる。
【0148】
<6 捺染布帛>
本発明の捺染布帛は、芳香族複素環式化合物と昇華色材とを含有する捺染布帛であって、前記芳香族複素環式化合物の分子量Aが、上記関係式(1)を満たすことを特徴とする。
【0149】
本発明において、「芳香族複素環式化合物と昇華色材とを含有する捺染布帛」とは、芳香族複素環式化合物及び昇華色材が、布帛が含有する繊維に物理的吸着した状態、又は化学的吸着した状態等の布帛を意味する。
【0150】
当該捺染布帛は、布帛に対して、上述の捺染を行うことで得ることができる。具体的には、芳香族複素環式化合物を含有する捺染用インク及び前処理済布帛のうち少なくとも一方を用いて布帛を染色することによって、本発明の捺染布帛を得ることができる。
【実施例0151】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0152】
[布帛用処理剤の調製]
表Iに記載の成分を混合し、布帛用処理剤1~11をそれぞれ調製した。表Iに記載の数値は、布帛用処理剤の全量を100質量%としたときの各成分の含有量[質量%]を示す。
【0153】
【0154】
芳香族複素環式化合物I~VIIの構造は以下に示すとおりである。なお、芳香族複素環式化合物Iは、分子量Aが100未満である比較化合物として用いた。芳香族複素環式化合物IIは、分子量Aが1000超である比較化合物として用いた。
【0155】
【0156】
【0157】
布帛用処理剤2が含有する安息香酸ナトリウムは、芳香族複素環式化合物ではない比較化合物として用いた。
【0158】
表Iに記載の樹脂、有機溶剤、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤については、以下のとおりである。
(樹脂)
・MD2000(バイナロール社製、ポリエステル樹脂エマルジョン、ガラス転移点Tg:67℃、数平均分子量:18×103、樹脂濃度:40質量%)
(有機溶剤)
・グリセリン(I/O値:5.00)
・EG(エチレングリコール、I/O値:5.00)
・DPGME(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、I/O値:1.00)
・DPGDME(ジプロピレングリコールジメチルエーテル、I/O値:0.38)
・DMSO(ジメチルスルホキシド、I/O値:1.75)
(紫外線吸収剤)
・LA-32(ADEKA社製、アデカスタブLA-32、ベンゾトリアゾール化合物)
(酸化防止剤)
・AO-60(ADEKA社製、アデカスタブAO-60、フェノール系化合物)
【0159】
[捺染用インクの調製]
分散剤としてDisperbyk-190(ビックケミー・ジャパン株式会社製、酸価10mgKOH/g)とイオン交換水とを均一になるまで撹拌混合した。その後、昇華色材(分散性染料)としてC.I.Disperse Red 60を加えて、予備混合した。そして、動的光散乱法によって測定されるZ-平均粒子径が150nm以上200nm以下の範囲内になるまで分散させて、昇華色材濃度が20質量%の分散液を調製した。このとき、昇華色材の含有量が分散液の全質量に対して20質量%となり、分散剤の固形分の量が昇華色材の全質量に対して30%になるよう、分散剤、イオン交換水及び昇華色材の量を調整した。動的光散乱法によるZ-平均粒子径の測定は、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーで、ゼータサイザー1000(マルバーン社製、「ゼータサイザー」は同社の登録商標)を使用して行った。
【0160】
下記成分を合計100質量%となるように混合した後、1μmメッシュのフィルターでろ過した。
上記調製した分散液 30質量%
グリセリン 10質量%
エチレングリコール 25質量%
防腐剤(プロキセルGXL) 適量
pH調整剤(クエン酸Na水和物) 適量
イオン交換水 残部
【0161】
これにより、昇華色材としてC.I.Disperse Red 60を含有する捺染用インク1を得た。
【0162】
上記捺染用インク1の調製において、昇華色材をC.I.Disperse Red 4に変更した以外は同様にして、捺染用インク2を得た。
【0163】
上記捺染用インク1の調製において、昇華色材をC.I.Disperse Red 177に変更した以外は同様にして、捺染用インク3を得た。
【0164】
上記捺染用インク1の調製において、昇華色材をC.I.Disperse Blue 201に変更した以外は同様にして、捺染用インク4を得た。
【0165】
上記捺染用インク1の調製において、昇華色材をN,N-Bis(2-cyanoethyl)anilineに変更した以外は同様にして、捺染用インク5を得た。
【0166】
上記捺染用インク1の調製において、昇華色材をC.I.Disperse Blue 139に変更した以外は同様にして、捺染用インク6を得た。
【0167】
[捺染]
表IIに記載の組み合わせで布帛用処理剤と捺染用インクを用いて、以下の手順で捺染を行った。なお、比較例1では、布帛用処理剤による布帛の前処理を行わなかった。
【0168】
(1)布帛用処理剤による布帛の前処理(前処理済布帛の作製)
布帛として、綿ブロード40(綿100%)を用いた。そして、布帛用処理剤を満たした浴槽中に、布帛を浸漬させた。その後、余分な布帛用処理剤を、マングルロールで、ピックアップ率(布帛の質量に対する布帛用処理剤の付与量の割合)80%で絞った。また、浴槽内の温度は20℃以上25℃以下の範囲内とした。
【0169】
(2)転写紙への捺染用インクの付与
捺染装置として、インクジェット用ヘッド「KM1024iMAE」(コニカミノルタ株式会社製)を有するインクジェットプリンターを準備した。そして、捺染用インクを、上記インクジェット用ヘッドのノズルから吐出させて、転写紙としてのA4昇華転写紙糊付(システムグラフィ社製)上にベタ画像を形成した。具体的には、主走査540dpi×副走査720dpiにて、細線格子、諧調、及びベタ部を含んだ画像(全体で200mm×200mm)を形成した。dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。その後、捺染用インクを付与した転写紙を、乾燥機にて50℃以上80℃以下の範囲内で30秒間乾燥させた。
【0170】
(3)布帛への捺染用インクの昇華転写
捺染用インクを付与した転写紙と、布帛用処理剤を付与した布帛とを、転写装置(ヒートプレス機)を用いて、200℃で50秒間、プレス圧300g/cm2で熱圧着させた。これにより、捺染布帛を得た。
【0171】
【0172】
表II中の昇華色材の略称は、それぞれ以下のものを示す。
DR60 :C.I.Disperse Red 60
DR4 :C.I.Disperse Red 4
DR177:C.I.Disperse Red 177
DB201:C.I.Disperse Blue 201
DB139:C.I.Disperse Blue 139
【0173】
分子量A及び分子量Bは、各成分を含む捺染布帛から切り出したサンプルを用いて、ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析で求めた。分析装置には、JMS-T2000GC AccuTOF GC-Alpha(高性能ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計、日本電子社製)を用いた。
【0174】
[発色性の評価]
得られた捺染布帛の、L*a*b*色空間におけるL*、a*、及びb*を、分光測色機(コニカミノルタ社製CM-25d、測定光源:D65)により測定した。そして、以下の基準に基づき、発色性を評価した。A~Dを実用上問題がないとした。
【0175】
A:L*が、40以上50未満である。
B:L*が、50以上60未満である。
C:L*が、60以上70未満である。
D:L*が、70以上80未満である。
E:L*が、80以上90未満である。
【0176】
[風合いの評価]
得られた捺染布帛について、以下の折り曲げ試験を実施した。
1)捺染布帛を5cm×20cmの大きさに切り出し、試料片1とした。次いで、
図1に示すように、試料片1の長さ方向の一方の先端Aと、当該先端から3cm離れた位置Bとを、折り曲げ試験機KES-FB2-A純曲げ試験機(カトーテック)のクリップに挟んだ。そして、当該先端Aを、位置Bを基点として回動させ、位置B付近の試料片1の曲率が2.5cm
-1になるまで曲げる時に必要な力(画像形成部の折り曲げトルク)を測定した。
2)同様の試験を、未処理の布帛(5cm×20cmの試料片)についても行った(白字部の折り曲げトルク)。
3)上記1)と2)で得られた折り曲げトルクの差を算出した。
そして、折り曲げ性を、以下の基準で評価した。A~Dを実用上問題がないとした。
【0177】
A:折り曲げトルクの差が、0.001gf・cm以下である。
B:折り曲げトルクの差が、0.001gf・cm超0.002gf・cm以下である。
C:折り曲げトルクの差が、0.002gf・cm超0.004gf・cm以下である。
D:折り曲げトルクの差が、0.004gf・cm超0.006gf・cm以下である。
E:折り曲げトルクの差が、0.006gf・cm超である。
【0178】
[洗濯堅牢性の評価]
得られた捺染布帛について、下記手順にて洗濯試験を実施した。
4cm×20cmのサイズに切り出した捺染布帛に、1.5cm×10cmのサイズに切り出した多繊交織布(F35-8010)を縫い付け、捺染布帛の余りの部分は切断した。
多繊交織布を縫い付けたサンプルIと切断した余りのサンプルIIを、ともに0.1質量%濃度の洗濯用洗剤水溶液(以下、洗液)50mLの入った容器に入れた。これを卓上型恒温振とう槽に固定し、50℃160rpmの条件で30分間振とうした。洗液から取り出したサンプルIから多繊交織布を外し、室温で1日乾燥した。
多繊交織布のナイロン部の、洗濯試験前後のL*a*b*色空間におけるL*、a*及びb*を、分光測色機「CM-25d」(コニカミノルタ株式会社製、測定光源:D65)により測定した。洗濯試験前後の各値同士の差であるΔL*、Δa*及びΔb*を求め、さらに、下記式により色差ΔE*abを算出した。そして、以下の基準に基づき、洗濯堅牢性を評価した。A~Dを実用上問題がないとした。
(式)ΔE*ab={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2
A:ΔE*abが、10未満である。
B:ΔE*abが、10以上15未満である。
C:ΔE*abが、15以上20未満である。
D:ΔE*abが、20以上25未満である。
E:ΔE*abが、25以上30未満である。
【0179】
[アイロン耐性の評価]
ホットプレス台の上に白綿布1枚を置き、その上に捺染布帛を乗せた。さらにその上に、予め200℃に加熱した電気アイロンを置き、15秒間圧力を加えた。これをアイロン耐性試験とする。
【0180】
白綿布の、アイロン耐性試験前後のL*a*b*色空間におけるL*、a*及びb*を、分光測色機「CM-25d」(コニカミノルタ株式会社製、測定光源:D65)により測定した。アイロン耐性試験前後の各値同士の差であるΔL*、Δa*及びΔb*を求め、さらに、下記式により色差ΔE*abを算出した。そして、以下の基準に基づき、アイロン耐性を評価した。A~Dを実用上問題がないとした。
(式)ΔE*ab={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2
【0181】
A:ΔE*abが、10未満である。
B:ΔE*abが、10以上15未満である。
C:ΔE*abが、15以上20未満である。
D:ΔE*abが、20以上25未満である。
E:ΔE*abが、25以上30未満である。
【0182】
【0183】
上記結果から、本発明の布帛用処理剤は、比較例の布帛用処理剤に比べて、捺染布帛の発色性、風合い、洗濯堅牢性、及びアイロン耐性を高い水準で両立させることができていることが確認できる。