IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-導電性フィルム 図1
  • 特開-導電性フィルム 図2
  • 特開-導電性フィルム 図3
  • 特開-導電性フィルム 図4
  • 特開-導電性フィルム 図5
  • 特開-導電性フィルム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098656
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
B32B15/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002266
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】竹下 翔也
(72)【発明者】
【氏名】曽根 大希
(72)【発明者】
【氏名】竹安 智宏
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA00B
4F100AA17C
4F100AA33B
4F100AB17C
4F100AB31C
4F100AJ04A
4F100AK01A
4F100AK03A
4F100AK12A
4F100AK25A
4F100AK36A
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AK43A
4F100AK45A
4F100AK46A
4F100AK49A
4F100AK54A
4F100AK55A
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EA02
4F100EH66
4F100EH66B
4F100EJ60
4F100EJ61
4F100EJ64
4F100GB41
4F100JD02
4F100JD02B
4F100JD03
4F100JD06
4F100JD06C
4F100JG01
4F100JG01C
4F100JK06
4F100JK17
4F100JK17A
4F100JN01A
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】有機樹脂基材からのアウトガスが銅層に接触することを抑制できながら、比抵抗に優れる導電性フィルムを提供する。
【解決手段】導電性フィルム1は、有機樹脂基材2と、有機樹脂基材2の厚み方向一方側に配置される無機層3と、無機層の厚み方向一方面に直接配置される銅層4とを備え、無機層3近傍の銅層4において、エネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%以上、15原子%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂基材と、
前記有機樹脂基材の厚み方向一方側に配置される無機層と、
前記無機層の厚み方向一方面に直接配置される銅層とを備え、
前記無機層近傍の前記銅層において、エネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される、Cu、O、および、前記無機層由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%以上、15原子%以下である、導電性フィルム。
【請求項2】
前記銅層の厚みが、50nm以上である、請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項3】
前記銅層の厚みが、300nm以下である、請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項4】
前記無機層の厚みが、2nm以上、15nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材と、金属層とを順に備える導電性フィルムが知られている。このような導電性フィルムは、例えば、フラットパネルディスプレイ、タッチパネルなどの各種デバイスにおいて、電極をパターン形成するための導体層として用いられる。
【0003】
また、このような導電性フィルムは、例えば、スパッタリング法によって、基材の厚み方向一方面に金属層を配置することにより、製造される。
【0004】
一方、上記した導電性フィルムの製造では、基材からのアウトガスが発生する場合がある。このようなアウトガスによって、金属層の厚み方向他方面に、金属酸化物が形成される。そうすると、基材および金属層の間の密着性が低下するという不具合がある。
【0005】
これに対して、基材および金属層の間に、バリア層(無機層)を備える導電性フィルムが検討されている。バリア層によれば、基材からのアウトガスが金属層に接触することを抑制できるため、上記不具合を解消することができる。
【0006】
このような導電性フィルムとして、樹脂フィルムと、無機層と、銅層とをこの順に含む導電性フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-100368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、バリア層を設けると、金属層(銅層)の比抵抗が高くなるという不具合がある。
【0009】
本発明は、有機樹脂基材からのアウトガスが銅層に接触することを抑制できながら、比抵抗に優れる導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明[1]は、有機樹脂基材と、前記有機樹脂基材の厚み方向一方側に配置される無機層と、前記無機層の厚み方向一方面に直接配置される銅層とを備え、前記無機層近傍の前記銅層において、エネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される、Cu、O、および、前記無機層由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%以上15原子%以下である、導電性フィルムを含んでいる。
【0011】
本発明[2]は、前記銅層の厚みが、50nm以上である、上記[1]に記載の導電性フィルムを含んでいる。
【0012】
本発明[3]は、前記銅層の厚みが、300nm以下である、上記[1]または[2]に記載の導電性フィルムを含んでいる。
【0013】
本発明[4]は、前記無機層の厚みが、2nm以上15nm以下である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の導電性フィルムを含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性フィルムは、無機層を備える。そのため、導電性フィルムの製造時に、有機樹脂基材からのアウトガスが銅層に接触することを抑制できる。その結果、有機樹脂基材および銅層の間の密着性が低下することを抑制できる。
【0015】
しかも、本発明の導電性フィルムは、無機層近傍の銅層において、エネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%以上15原子%以下である。そのため、銅層の比抵抗を低くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の導電性フィルムの一実施形態を示す。
図2図2A図2Cは、導電性フィルムの製造方法の一実施形態を示す。図2Aは、有機樹脂基材を準備する第1工程を示す。図2Bは、有機樹脂基材の厚み方向一方面に、無機層を配置する第2工程を示す。図2Cは、無機層の厚み方向一方面に、銅層を配置する第3工程を示す。
図3図3は、実施例3において、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって、有機樹脂基材から銅層にわたって厚み方向一方向に、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の元素濃度を測定したデータである。
図4図4は、図3のデータのグラフである。
図5図5は、比較例1において、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって、有機樹脂基材から銅層にわたって厚み方向一方向に、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の元素濃度を測定したデータである。
図6図6は、図5のデータのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.導電性フィルム
図1を参照して、本発明の導電性フィルムの一実施形態を説明する。
【0018】
図1において、紙面上下方向は、上下方向(厚み方向)である。また、紙面上側が、上側(厚み方向一方側)である。また、紙面下側が、下側(厚み方向他方側)である。また、紙面左右方向および奥行き方向は、上下方向に直交する面方向である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0019】
導電性フィルム1は、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む。)を有する。導電性フィルム1は、厚み方向と直交する面方向に延びる。導電性フィルム1は、平坦な上面および平坦な下面を有する。
【0020】
図1に示すように、導電性フィルム1は、有機樹脂基材2と、有機樹脂基材2の厚み方向一方側に配置される無機層3と、無機層3の厚み方向一方面に直接配置される銅層4とを備える。具体的には、導電性フィルム1は、有機樹脂基材2と、有機樹脂基材2の上面(厚み方向一方面)に直接配置される無機層3と、無機層3の上面(厚み方向一方面)に直接配置される銅層4とを備える。
【0021】
導電性フィルム1の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0022】
<有機樹脂基材>
有機樹脂基材2は、フィルム形状を有する。有機樹脂基材2は、可撓性を有する。有機樹脂基材2は、無機層3の下面に接触するように、無機層3の下面全面に、配置されている。有機樹脂基材2は、導電性フィルム1の最下層である。
【0023】
有機樹脂基材2としては、例えば、高分子フィルムが挙げられる。
【0024】
高分子フィルムの材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、および、ポリスチレン樹脂が挙げられ、好ましくは、ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0025】
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートが挙げられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートが挙げられる。
【0027】
オレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、および、シクロオレフィンポリマーが挙げられる。
【0028】
セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロースが挙げられる。
【0029】
有機樹脂基材2の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上、より好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、50μm以上、とりわけ好ましくは、100μm以上、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下、より好ましくは、150μm以下である。
【0030】
有機樹脂基材2の厚みは、ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、「DG-205」)を用いて測定できる。
【0031】
また、有機樹脂基材2は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、有機樹脂基材2の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0032】
<無機層>
無機層3は、後述する導電性フィルム1の製造方法において、有機樹脂基材2からのアウトガスが銅層4に接触することを抑制するための層である。
【0033】
無機層3は、フィルム形状を有する。無機層3は、有機樹脂基材2の上面に接触するように、有機樹脂基材2の上面全面に、配置されている。また、無機層3は、銅層4の下面に接触するように、銅層4の下面全面に、配置されている。
【0034】
また、無機層3は、詳しくは後述するが、スパッタリング法により形成されることから、スパッタ層である。
【0035】
無機層3の材料は、純金属としての銅以外の無機物であれば、特に限定されない。具体的には、無機層3の材料として、好ましくは、金属(純金属としての銅を除く。)、および、金属酸化物(酸化銅を除く。)が挙げられる。
【0036】
金属として、例えば、Ni、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Pd、W、これらの合金、および、これらと銅との合金が挙げられる。
【0037】
金属酸化物は、例えば、上記金属の酸化物が挙げられる。金属酸化物として、好ましくは、インジウム含有酸化物が挙げられる。インジウム含有酸化物としては、例えば、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。
【0038】
また、金属酸化物は、結晶質および非晶質のいずれであってもよい。
【0039】
無機層3の材料として、好ましくは、金属酸化物が挙げられる。
【0040】
無機層3の材料は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0041】
無機層3の厚みは、例えば、ガスバリア性の観点から、2nm以上、また、例えば、加工性の観点から、15nm以下、好ましくは、10nm以下、より好ましくは、7nm以下である。
【0042】
なお、無機層3の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて、導電性フィルム1の断面を観察することにより測定することができる。
【0043】
<銅層>
銅層4は、導体層である。銅層4は、必要により、所望のパターンに形成される。
【0044】
銅層4は、フィルム形状を有する。銅層4は、無機層3の上面に接触するように、無機層3の上面全面に、配置されている。銅層4は、導電性フィルム1の最上層である。
【0045】
また、銅層4は、詳しくは後述するが、スパッタリング法により形成されることから、スパッタ層である。
【0046】
銅層4の材料としては、例えば、銅(純金属としての銅)および銅合金が挙げられる。
【0047】
銅合金を構成する金属としては、特に限定されないが、例えば、銀、錫、クロム、および、ジルコニウムが挙げられる。
【0048】
銅層4の材料として、導電性の観点から、好ましくは、銅(純金属としての銅)が挙げられる。つまり、銅層4は、好ましくは、銅(純金属としての銅)からなる。
【0049】
銅層4の比抵抗は、例えば、2.300×10-8Ω・m以下、好ましくは、2.280×10-8Ω・m以下、より好ましくは、2.200×10-8Ω・m以下、また、通常、1.000×10-8Ω・m以上である。
【0050】
なお、比抵抗は、JIS K7194に準拠して、4端子法により測定した表面抵抗値と銅層4の厚みとを乗ずることにより算出できる。
【0051】
銅層4の表面抵抗値は、例えば、0.222Ω/□以下、好ましくは、0.220Ω/□以下、より好ましくは、0.210Ω/□以下である。
【0052】
銅層4の表面抵抗値の下限は、特に限定されない。例えば、銅層4の表面抵抗値は、通常、0Ω/□超過である。
【0053】
なお、表面抵抗値は、JIS K7194に準拠して、4端子法により測定することができる。
【0054】
銅層4の厚みは、例えば、抵抗値の観点から、50nm以上、好ましくは、70nm以上、より好ましくは、90nm以上、さらに好ましくは、100nm以上、また、例えば、生産性の観点から、300nm以下、好ましくは、250nm以下、より好ましくは、200nm以下、さらに好ましくは、150nm以下、とりわけ好ましくは、120nm以下である。
【0055】
無機層3近傍の銅層4において、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって測定される、Cu(銅元素)、O(酸素元素)、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%以上、好ましくは、2.0原子%以上、より好ましくは、2.5原子%以上、さらに好ましくは、3.0原子%以上、とりわけ好ましくは、4.0原子%以上、また、15原子%以下、好ましくは、10原子%以下、より好ましくは、7原子%以下、さらに好ましくは、5原子%以下である。
【0056】
なお、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素濃度の測定方法および測定条件は、後述する実施例で詳述する。
【0057】
無機層3近傍の銅層4とは、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって、有機樹脂基材2から銅層4にわたって、厚み方向一方向に、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の元素濃度を測定し、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Cuの元素濃度が50原子%以上となり、かつ、Cuおよび無機層3由来の無機元素の総和に対して、無機元素の元素濃度が1原子%以下となった最初の時点の銅層4である。
【0058】
無機層3近傍の銅層4において、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって測定される、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が上記した範囲であれば、銅層4は、比抵抗に優れる。
【0059】
2.導電性フィルムの製造方法
図2A図2Cを参照して、導電性フィルム1の製造方法を説明する。
【0060】
導電性フィルム1の製造方法は、有機樹脂基材2を準備する第1工程と、スパッタリング法によって、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に、無機層3を配置する第2工程と、スパッタリング法によって、無機層3の厚み方向一方面に、銅層4を配置する第3工程とを備える。また、この方法では、各層を、例えば、ロールトゥロール方式で、順に配置する。このような場合には、搬送速度は、例えば、1.0m/分以上、また、例えば、20.0m/分以下である。
【0061】
また、導電性フィルム1の製造方法では、第2工程および第3工程において、スパッタリングガスを供給しながら、スパッタリング法を実施する。
【0062】
導電性フィルム1の製造方法では、第2工程では、スパッタリングガスとして、例えば、不活性ガス(後述)を供給する。好ましくは、第2工程では、スパッタリングガスとして、不活性ガス(後述)を供給するとともに、酸素ガスを供給する。
【0063】
導電性フィルム1の製造方法では、第3工程では、所望の銅層4を形成するために、ターゲット材やスパッタリングの条件などを適宜設定して複数回スパッタリングを実施する。第3工程において、スパッタリングの回数としては、例えば、2回以上、好ましくは、4回以上、また、例えば、20回以下、好ましくは、10回以下である。
【0064】
導電性フィルム1の製造方法では、第3工程では、スパッタリングガスとして、例えば、不活性ガス(後述)を供給する。好ましくは、第3工程の1回目のスパッタリングでは、スパッタリングガスとして、不活性ガス(後述)を供給するとともに、酸素ガスを供給し、第3工程の2回目以降のスパッタリングでは、スパッタリングガスとして、不活性ガス(後述)のみを供給する。
【0065】
つまり、導電性フィルム1の製造方法では、例えば、第2工程において、スパッタリング法によって、不活性ガスとともに、酸素ガスを供給して、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に、無機層3を配置し、第3工程において、スパッタリング法によって、不活性ガスのみを供給して、無機層3の厚み方向一方面に、銅層4を配置する。また、例えば、第2工程において、スパッタリング法によって、不活性ガスのみを供給して、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に、無機層3を配置し、第3工程において、スパッタリング法によって、1回目のスパッタリングでは、不活性ガスとともに、酸素ガスを供給し、2回目以降のスパッタリングでは、不活性ガスのみを供給して、無機層3の厚み方向一方面に、銅層4を配置する。さらに、例えば、第2工程において、スパッタリング法によって、不活性ガスとともに、酸素ガスを供給して、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に、無機層3を配置し、第3工程において、スパッタリング法によって、1回目のスパッタリングでは、不活性ガスとともに、酸素ガスを供給し、2回目以降のスパッタリングでは、不活性ガスのみを供給して、無機層3の厚み方向一方面に、銅層4を配置する。好ましくは、導電性フィルム1の製造方法では、第2工程において、スパッタリング法によって、不活性ガスとともに、酸素ガスを供給して、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に、無機層3を配置し、第3工程において、スパッタリング法によって、1回目のスパッタリングでは、不活性ガスとともに、酸素ガスを供給し、2回目以降のスパッタリングでは、不活性ガスのみを供給して、無機層3の厚み方向一方面に、銅層4を配置する。
【0066】
以下の説明では、導電性フィルム1の製造方法を詳述する。
【0067】
[第1工程]
第1工程では、図2Aに示すように、有機樹脂基材2を準備する。
【0068】
[第2工程]
第2工程では、図2Bに示すように、スパッタリング法によって、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に、無機層3を配置する。
【0069】
スパッタリング法によって、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に、無機層3を配置するには、まず、必要により、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に表面処理を施す。
【0070】
表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、および、ケン化処理が挙げられる。
【0071】
次いで、スパッタリング法では、スパッタ成膜装置における真空チャンバー内にターゲット(無機層3の材料)および有機樹脂基材2を対向配置する。次いで、スパッタリングガスを供給するとともに電源から電圧を印加することによりガスイオンを加速しターゲットに照射させて、ターゲット表面からターゲット材料をはじき出す。そして、そのターゲット材料を有機樹脂基材2の表面(厚み方向一方面)に堆積させて、無機層3を形成する。
【0072】
また、スパッタリングガスとして、例えば、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)のみを供給する、または、不活性ガスおよび酸素ガスを供給する。好ましくは、スパッタリングガスとして、不活性ガスおよび酸素ガスを供給する。
【0073】
不活性ガスとともに、酸素ガスを供給する場合、その流量は、例えば、5sccm以上、好ましくは、10sccm以上、より好ましくは、20sccm以上、さらに好ましくは、30sccm以上、とりわけ好ましくは40sccm以上、また、例えば、200sccm以下、好ましくは、100sccm以下である。
【0074】
また、不活性ガスとともに、酸素ガスを供給する場合において、酸素ガスの流量に対する不活性ガスの流量の流量比は、例えば、3.5以上、好ましくは、10以上、また、例えば、200以下、好ましくは、100以下、より好ましくは、50以下、さらに好ましくは、30以下である。
【0075】
スパッタリング時の気圧は、例えば、0.1Pa以上、好ましくは、0.2Pa以上、また、例えば、2.0Pa以下、好ましくは、1.0Pa以下である。
【0076】
電源は、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、および、RF電源のいずれであってもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。
【0077】
放電出力は、例えば、1.0kW以上、好ましくは、5.0kW以上、また、例えば、20kW以下である。
【0078】
これにより、有機樹脂基材2の厚み方向一方面に、無機層3を配置する。
【0079】
[第3工程]
第3工程では、図2Cに示すように、スパッタリング法によって、無機層3の厚み方向一方面に、銅層4を配置する。
【0080】
スパッタリング法では、スパッタ成膜装置における真空チャンバー内にターゲット(銅層4の材料)および無機層3を対向配置する。次いで、スパッタリングガスを供給するとともに電源から電圧を印加することによりガスイオンを加速しターゲットに照射させて、ターゲット表面からターゲット材料をはじき出す。そして、そのターゲット材料を無機層3の表面(厚み方向一方面)に堆積させて、銅層4を形成する。
【0081】
第3工程では、所望の銅層4を形成するために、ターゲット材やスパッタリングの条件などを適宜設定して複数回スパッタリングを実施する。第3工程において、スパッタリングの回数としては、例えば、2回以上、好ましくは、4回以上、また、例えば、20回以下、好ましくは、10回以下である。
【0082】
また、スパッタリングガスとして、例えば、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)のみを供給する、または、不活性ガスおよび酸素ガスを供給する。より具体的には、スパッタリングガスとして、例えば、すべてのスパッタリングにおいて、不活性ガスのみを供給する、または、1回目のスパッタリングでは、不活性ガスおよび酸素ガスを供給し、2回目以降のスパッタリングでは、不活性ガスのみを供給する。好ましくは、スパッタリングガスとして、1回目のスパッタリングでは、不活性ガスおよび酸素ガスを供給し、2回目以降のスパッタリングでは、不活性ガスのみを供給する。
【0083】
不活性ガスとともに、酸素ガスを供給する場合、その流量は、上記した第2工程の酸素ガスの流量よりも少なく、例えば、1sccm以上、好ましくは、3sccm以上、より好ましくは、5sccm以上、また、例えば、30sccm以下、好ましくは、20sccm以下、より好ましくは、15sccm以下である。
【0084】
また、不活性ガスとともに、酸素ガスを供給する場合において、酸素ガスの流量に対する不活性ガスの流量の流量比は、例えば、20以上、好ましくは、40以上、また、例えば、500以下、好ましくは、200以下、より好ましくは、100以下、さらに好ましくは、50以下である。
【0085】
スパッタリング時の気圧は、例えば、0.1Pa以上、好ましくは、0.2Pa以上、また、例えば、2.0Pa以下、好ましくは、1.0Pa以下である。
【0086】
電源は、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、および、RF電源のいずれであってもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。
【0087】
放電出力は、例えば、5.0kW以上、好ましくは、10.0kW以上、また、例えば、20kW以下である。
【0088】
成膜温度(無機層3が配置された有機樹脂基材2の温度)は、例えば、30℃以上、また、例えば、60℃以下である。
【0089】
これにより、無機層3の厚み方向一方面に、銅層4が形成される。
【0090】
このように形成された銅層4は、無機層3近傍の銅層4において、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって測定される、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%以上15原子%以下ある。
【0091】
以上により、導電性フィルム1を製造する。
【0092】
<作用効果>
導電性フィルム1は、無機層3を備える。そのため、導電性フィルム1の製造時に、有機樹脂基材2からのアウトガスが銅層4に接触することを抑制できる。
【0093】
詳しくは、導電性フィルム2の製造では、有機樹脂基材2からのアウトガスが発生する場合がある。このようなアウトガスによって、銅層4の厚み方向他方面に、酸化銅が形成する。そうすると、有機樹脂基材2および銅層4の間の密着性が低下する場合がある。
【0094】
一方、導電性フィルム1は、無機層3を備える。これにより、上記アウトガスが銅層4に接触することを抑制できる。そうすると、銅層4の厚み方向他方面に、酸化銅が形成されることを抑制でき、その結果、有機樹脂基材2(無機層3)および銅層4の密着性が低下することを抑制できる。
【0095】
また、導電性フィルム1の銅層4は、無機層3近傍の銅層4において、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって測定される、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%以上15原子%以下である。そのため、銅層4の比抵抗を低くできる。
【0096】
<変形例>
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0097】
また、上記した説明では、導電性フィルム1は、有機樹脂基材2と、無機層3と、銅層4とを厚み方向に向かって順に備えるが、有機樹脂基材2および無機層3の間に、機能層(例えば、ハードコート層)を配置することもできる。このような場合には、導電性フィルム1は、有機樹脂基材2と、ハードコート層と、無機層3と、銅層4とを厚み方向に向かって順に備える。
【実施例0098】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替できる。
【0099】
<導電性フィルムの製造>
実施例1
以下の手順で、導電性フィルムを製造した。
【0100】
[第1工程]
有機樹脂基材として、ポリエチレンテレフタレート(125U48、東レ社製、厚み125μm)を準備した。
【0101】
[第2工程]
以下の条件に基づいて、スパッタリング法によって、有機樹脂基材の厚み方向一方面に、無機層(ITO層)(厚み5nm)を配置した。
【0102】
{条件}
装置:ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置(巻取式のDCマグネトロンスパッタリング装置)
無機層の材料:ITO
ガス:アルゴンガスおよび酸素ガス(酸素ガスの流量20sccm)
酸素ガスの流量に対する不活性ガスの流量の流量比:35
放電出力:7.2kW
成膜室内の気圧:0.4Pa
走行速度:8.0m/分
【0103】
[第3工程]
以下の条件に基づいて、スパッタリング法によって、無機層の厚み方向一方面に、銅層(104nm)を配置した。なお、スパッタリングは、所望する厚みになるまで、8回行った。
【0104】
{条件}
装置:ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置(巻取式のDCマグネトロンスパッタリング装置)
ガス:アルゴンガス
放電出力:14.7kW
成膜室内の気圧:0.4Pa
成膜温度:40℃
走行速度:8.0m/分
【0105】
なお、第2工程のスパッタリング後、連続して、第3工程おける、1回目のスパッタリングを行った。
【0106】
実施例2
実施例1と同様の手順に基づいて、導電性フィルムを製造した。但し、表1の記載に基づいて、第2工程における、酸素ガスの流量を変更した。
【0107】
実施例3
第1工程および第2工程は、実施例2と同様の手順を用い、第3工程は以下の手順で、導電性フィルムを製造した。
【0108】
[第3工程]
以下の条件に基づいて、スパッタリング法によって、無機層の厚み方向一方面に、銅層(厚み12nm)を配置した。なお、スパッタリングは、1回のみ行った。
【0109】
{条件}
装置:ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置(巻取式のDCマグネトロンスパッタリング装置)
ガス:アルゴンガスおよび酸素ガス(酸素ガスの流量15sccm)
酸素ガスの流量に対する不活性ガスの流量の流量比:47
放電出力:14.7kW
成膜室内の気圧:0.4Pa
成膜温度:40℃
走行速度:8.0m/分
【0110】
なお、第2工程のスパッタリング後、連続して、第3工程おける、1回目のスパッタリングを行った。
【0111】
次いで、以下の条件に基づいて、スパッタリング法によって、さらに、銅層(厚み92nm)を配置した。なお、スパッタリングは、所望する厚みになるまで、7回行った。
【0112】
{条件}
装置:ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置(巻取式のDCマグネトロンスパッタリング装置)
ガス:アルゴンガス
放電出力:14.7kW
成膜室内の気圧:0.4Pa
成膜温度:40℃
走行速度:8.0m/分
【0113】
比較例1
実施例1と同様の手順に基づいて、導電性フィルムを製造した。ただし、表1の記載に基づいて、酸素ガスの流量を変更した。具体的には、第2工程において、酸素ガスを供給しなかった。
【0114】
比較例2
実施例3と同様の手順に基づいて、導電性フィルムを製造した。ただし、表1の記載に基づいて、酸素ガスの流量を変更した。具体的には、第3工程において、酸素ガスの流量を100sccm(酸素ガスの流量に対する不活性ガスの流量の流量比:7)とした。
【0115】
<評価>
(表面抵抗)
各実施例および各比較例の銅層の表面抵抗を、JIS K7194に準拠して、4端子法により測定した。その結果を表1に示す。
【0116】
(比抵抗)
各実施例および各比較例の銅層の比抵抗を、表面抵抗値と銅層の厚みとを乗ずることにより算出した。その結果を表1に示す。
【0117】
(Oの元素濃度)
各実施例および各比較例において、マイクロサンプリング法を用い、集束イオンビーム装置(FIB)により、試料を調製した。調製した装置および条件は下記に示す。次いで、調製した試料を、電界放射型分析透過電子顕微鏡(FE-TEM)により、断面を観察し、次いで、エネルギー分散型X線分析(EDX)により、有機樹脂基材から厚み方向一方向に、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の元素濃度を測定した。観察および測定に用いた装置および条件は下記に示す。無機層近傍の銅層における、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度を表1に示す。また、実施例3および比較例1のエネルギー分散型X線分析(EDX)によって、有機樹脂基材から厚み方向一方向に、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の元素濃度を測定したデータおよびそのグラフを、図3図6に示す。
【0118】
{装置および条件}
FIB(FB2200、Hitachi社製)、加速電圧:10~40kV
FE-TEM(JEM-2800、日本電子社製)、加速電圧:200kV
EDX(検出器:JED-2300T(SD100GV)、JEOL社製)、(アナライザ:NORAN System7、Thermo Fisher Scientific社製)、(解析ソフト:NSS、Thermo Fisher Scientific社製)
【0119】
<考察>
実施例1~実施例3、比較例1、および、比較例2は、無機層を備えるため、有機樹脂基材からのアウトガスが銅層に接触することを抑制できるとわかる。
【0120】
また、図3は、実施例3における、有機樹脂基材から銅層にわたって厚み方向一方向に、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の元素濃度を測定したデータを示し、図4は、そのグラフを示している。有機樹脂基材からの厚み方向一方向への移動距離が、13.2μmにおいて、無機元素の元素濃度が増加していることから、有機樹脂基材から無機層に切り替わっていることが確認できる。さらに、有機樹脂基材からの厚み方向一方向への移動距離が、23.1μmにおいて、Cuの元素濃度が増加していることから、無機層から銅層に切り替わっていることが確認できる。
【0121】
無機層近傍の銅層とは、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の総和に対して、Cuの元素濃度が50原子%以上となり、かつ、Cuおよび無機層由来の無機元素の総和に対して、無機元素の元素濃度が1原子%以下となった最初の時点の銅層である。実施例3において、図3より、有機樹脂基材からの厚み方向一方向への移動距離が、26.4μmにおいて、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の総和に対して、Cuの元素濃度が94.8原子%、Cuおよび無機層由来の無機元素の総和に対して、無機元素の元素濃度が0.54原子%となり、上記した条件を初めて満たすことから、無機層近傍の銅層となる。つまり、有機樹脂基材からの厚み方向一方向への移動距離が、26.4μmにおける、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の総和に対する、Oの元素濃度が、実施例3における無機層近傍の銅層のOの元素濃度であり、4.69原子%である。
【0122】
同様に、比較例1において、図5より、有機樹脂基材からの厚み方向一方向への移動距離が、33.1μmにおいて、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の総和に対して、Cuの元素濃度が98.05原子%、Cuおよび無機層由来の無機元素の総和に対して、無機原子の元素濃度が0.67原子%となり、上記した条件を初めて満たすことから、無機層近傍の銅層となる。つまり、有機樹脂基材からの厚み方向一方向への移動距離が、33.1μmにおける、Cu、O、および、無機層由来の無機元素の総和に対する、Oの元素濃度が、比較例1における無機層近傍の銅層のOの元素濃度であり、1.29原子%である。
【0123】
したがって、表1より、無機層を備える場合であっても、無機層3近傍の銅層4における、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%以上15原子%以下である実施例1~実施例3は、無機層3近傍の銅層4における、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、1.4原子%未満である比較例1、および、無機層3近傍の銅層4における、Cu、O、および、無機層3由来の無機元素の総和に対して、Oの元素濃度が、15原子%超過である比較例2よりも、比抵抗を低くできるとわかる。
【0124】
実施例1~実施例3は、比抵抗を、2.300×10-8Ω・m以下にすることができる。具体的には、とりわけ、フラットパネルディスプレイ、タッチパネルなどの各種デバイスにおいて、電極をパターン形成するための導体層の用途として、実用レベルの比抵抗を実現できる実用性を確保することができるとわかる。
【0125】
【表1】
【符号の説明】
【0126】
1 導電性フィルム
2 有機樹脂基材
3 無機層
4 銅層
図1
図2
図3
図4
図5
図6