(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098663
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】皮膚保護材
(51)【国際特許分類】
A61L 26/00 20060101AFI20240717BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240717BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240717BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240717BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240717BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240717BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240717BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240717BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240717BHJP
A61K 8/65 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61L26/00
A61L27/22
A61L27/40
A61L27/54
A61K45/00
A61P17/00
A61K47/26
A61K8/60
A61K8/34
A61K8/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002282
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】000190943
【氏名又は名称】新田ゼラチン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597175651
【氏名又は名称】新日本薬業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柚木 俊二
(72)【発明者】
【氏名】大藪 淑美
(72)【発明者】
【氏名】杉本 清二
(72)【発明者】
【氏名】平岡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】岸本 真徳
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬三
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩一郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA24
4C076CC18
4C076DD38
4C076DD67
4C076FF70
4C081AA06
4C081AA12
4C081BB04
4C081CD15
4C081CE02
4C081CE07
4C081DA15
4C083AC131
4C083AC132
4C083AD201
4C083AD202
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC02
4C083EE06
4C083EE12
4C084AA17
4C084NA10
4C084ZA891
4C084ZA892
(57)【要約】
【課題】新規皮膚保護材の提供。
【解決手段】本発明は、ゼラチンと、フルクトース及びソルビトールから成る群から選択される1又は複数の糖と、を含む、皮膚保護材を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンと、フルクトース及びソルビトールから成る群から選択される1又は複数の糖と、を含む、皮膚保護材。
【請求項2】
前記ゼラチンと前記糖との配合比率が1:1~1:2である、請求項1に記載の皮膚保護材。
【請求項3】
グリセロール、スクロース、又はグルコースを含まない、請求項1又は2に記載の皮膚保護材。
【請求項4】
デンプンを含まない、請求項1又は2に記載の皮膚保護材。
【請求項5】
皮膚への塗布前に水溶液の形態であり、皮膚への塗布後に皮膚上でゲル化し、当該ゲルが乾燥して被膜を形成する、請求項1又は2に記載の皮膚保護材。
【請求項6】
前記ゼラチンが非架橋ゼラチンである、請求項1又は2に記載の皮膚保護材。
【請求項7】
体表温度以上に加温して皮膚に適用される、請求項1又は2に記載の皮膚保護材。
【請求項8】
前記皮膚保護材が皮膚上でゲル化し、当該ゲルが乾燥して被膜を形成する、請求項1又は2に記載の皮膚保護材。
【請求項9】
前記被膜が40℃以上の温水で融解して皮膚から除去される、請求項8に記載の皮膚保護材。
【請求項10】
前記被膜が保湿性又は耐掻破性を有する、請求項8に記載の皮膚保護材。
【請求項11】
皮膚を保湿する成分を更に含む、請求項1又は2に記載の皮膚保護材。
【請求項12】
容器内に封入されている、請求項1又は2に記載の皮膚保護材。
【請求項13】
前記容器がスプレー剤容器又はゲル剤容器である、請求項12に記載の皮膚保護材。
【請求項14】
請求項1に記載の皮膚保護材を含む、皮膚外用組成物。
【請求項15】
皮膚疾患を治療又は予防するための成分を更に含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の皮膚保護材を含む、化粧品組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の化粧品組成物を用いる美容方法(但し医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広く、新規皮膚保護材又はその皮膚保護材を含む組成物やその用途の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アトピー性皮膚炎、乾癬等の皮膚疾患患者が増加の一途を辿っている。その治療はステロイド剤、タクロリムス軟膏、ビタミンD3製剤、抗ヒスタミン剤、抗菌剤、抗ウイルス剤などの薬剤を患部に塗布することで行われている。
【0003】
現在の皮膚疾患治療では、外用剤として主に軟膏とゲル剤が使用される。これらの外用剤は、含有している有効成分の薬効と、基剤を構成する油分による保湿効果により症状の緩和が期待されているものの、薬剤をそのまま皮膚に適用した場合には着衣や掻破により容易に除去されるという問題がある。そのため、患部が広範囲の場合、外用剤を直接患部に適用するのはふさわしくない場合がある。
【0004】
また、アトピー性皮膚炎の患者は痒みにより無意識に掻破してしまい、角層がダメージを受けて病態が増悪化するという問題がある。ドレッシング材(創傷被覆材)又はフィルム材等で患部を保護することにより、掻破による刺激を低減することは可能である。しかし、皮膚疾患を呈した角層は健常状態に比べて脆く乾燥していることが多く、ドレッシング材又はフィルム材の剥離により角層がダメージを受け、病態の増悪をきたす。
【0005】
着衣や掻破による薬剤の除去を防ぐ手段として、患部をガーゼや包帯で被覆・固定する場合もある。しかし、痂皮に付着したガーゼを除去する際に患部へ損傷を与える場合があるほか、包帯での固定により関節の動きが拘束され、日常生活の質が低下するという問題がある。
【0006】
そのため、保湿効果及び耐掻破性を有し、かつ患部又は衣服から容易に除去可能な保護材が待望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fraga AN et al. Thermal properties of gelatin films. Polymer. 26, 113 (1985).
【非特許文献2】Fakirov S et al. Mechanical properties and transition temperatures of crosslinked-oriented gelatin II. Colloid Polym Sci. 275, 307 (1997).
【非特許文献3】Hernandex-Izquierdo and Krochta. Thermoplastic processing of proteins for film formation A review. Journal of Food Science. 73, R30 (2008).
【非特許文献4】Krishna M et al. Development of fish gelatin edible films using extrusion and compression molding. Journal of Food Engineering. 108, 337 (2012).
【非特許文献5】Vanin FM et al. Effects of plasticizers and their concentrations on thermal and functional properties of gelatin-based films. Food Hydrocolloids 19, 899 (2005).
【非特許文献6】Arvanitoyannis I et al. Edible films made from gelatin, soluble starch and polyols. Part 3. Food Chemistry, 60, 593 (1997).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、先行する研究において、高いゲル化温度を有する非架橋ゼラチンから濃度5%以上のゾルを調製し、そのゾルが皮膚表面温度でゲル化することを明らかにした。ゼラチンゲルが乾燥すると皮膚表面に被膜を形成し、非架橋ゼラチンの水溶性は保持されている。このため、ゼラチンゾルを皮膚炎の患部に塗布してフィルム状の膜を形成させ、入浴で除去することが可能と考えられた。しかし、発明者らのその後の研究で、ゼラチンが徐々に被膜を形成する過程で皮膚を強く引っ張るため痛みを伴うという問題、乾燥したゼラチン被膜が極めて硬く柔軟性に乏しいため皮膚の動きに追随できず容易に剥がれてしまう問題が明らかになり、単にゼラチンを皮膚に塗布しただけでは皮膚炎用の皮膚保護材として十分でないことが判明した。
【0010】
ゼラチンが硬くなる原因は「タンパク質のガラス化」であり、ゼラチンのガラス転移温度は約120℃と報告された(Fraga et al 1985)。大気中の湿気と平衡状態のゼラチンの含水率は経験的に10%~20%の範囲であり、その範囲であってもガラス転移温度は50℃を超え(Fakirov S et al 1997)、皮膚表面温度では完全にガラス化すると考えられた。
【0011】
食品科学分野では、タンパク質フィルムに可食性の可塑剤を加えてガラス化を抑える研究が盛んに行われ、ポリオール、脂肪酸、エステル化合物、糖などが可塑剤として有効であることが示された(Hernandex-Izquierdo and Krochta 2008)。可塑剤の中でもポリオールの一種であるグリセロールが最も盛んに研究され、ゼラチンの可塑化にも応用されている。例えば、グリセロールをゼラチンに対して20~25%の範囲で加えることでゼラチンを軟化させ、ゼラチンの熱可塑化と押出成形が可能であることが報告された(Krishna M et al 2012)。グリセロールの他、ポリオールとしてプロピレングリコール、エチレングリコール、およびジエチレングリコールをゼラチンフィルムに添加し、ガラス転移温度の低下およびフィルムの破壊強度の低下が報告された(Vanin FM et al 2005)。可塑化効果はグリセロールが最も高く、フィルムの破壊強度は他のポリオールを添加した場合に比べ52~54%であった。ポリオール以外の可塑剤についても報告があり、水溶性スターチを混合したゼラチンフィルムに対してソルビトールおよびスクロースがガラス転移温度を下げることが報告された(Arvanitoyannis I et al 1997)。
【0012】
また、可塑化された乾燥ゼラチンフィルムの機械的特性は、4種類のポリオール添加による破壊強度が調べられたのみであり、ポリオール群においてさえ柔軟化効果が大きく異なっていた(Vanin FM et al 2005)。このことから、皮膚に接触させても安全なゼラチンの可塑剤のうち、べたつき等の使用感、皮膚への付着性、および耐掻破性の観点から、どの種類の化合物をどのくらい添加すれば皮膚保護膜として適切な物性を示すかについて明らかとなっていなかった。
【0013】
例えば、グリセロールは優れたゼラチン可塑化効果を示すものの、得られる乾燥ゼラチンフィルムはべたつきが強いという問題があった。べたつきが強いと着衣時に剥がれを生じやすいうえに使用感も悪く、皮膚保護材としては適さない。その他のポリオールはゼラチンの可塑化効果が低く、皮膚への付着性や柔軟性は皮膚保護材として十分でなかった。ソルビトールおよびスクロースをゼラチンに対して最大で0.92(w/w)となるように添加するとゼラチンのガラス転移温度が低下することが分かっているが、同じく可塑化効果を持つスターチがゼラチンと等量混合された場合の報告しか無いため、これらの糖のゼラチン可塑化効果は不明であり、べたつきに関する知見も無い。すなわち、皮膚に接触させても安全な可食性のゼラチン可塑剤のうち、べたつき等の使用感、皮膚への付着性、および耐掻破性の観点から、どの可塑剤をどのくらい添加すれば皮膚保護材として適切な物性を示すかについては不明であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく、様々な材料を検討したところ、フルクトースおよびソルビトールから選択された少なくとも1種類の糖を特定の濃度範囲で含むゼラチンが、皮膚保護材として有用な物性、特に柔軟性を示す被膜を形成することを突き止め、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]
ゼラチンと、フルクトース及びソルビトールから成る群から選択される1又は複数の糖と、を含む、皮膚保護材。
[2]
前記ゼラチンと前記糖との配合比率が1:1~1:2である、[1]に記載の皮膚保護材。
[3]
グリセロール、スクロース、又はグルコースを含まない、[1]又は[2]に記載の皮膚保護材。
[4]
デンプンを含まない、[1]又は[2]に記載の皮膚保護材。
[5]
皮膚への塗布前に水溶液の形態であり、皮膚への塗布後に皮膚上でゲル化し、当該ゲルが乾燥して被膜を形成する、[1]又は[2]に記載の皮膚保護材。
[6]
前記ゼラチンが非架橋ゼラチンである、[1]又は[2]に記載の皮膚保護材。
[7]
体表温度以上に加温して皮膚に適用される、[1]又は[2]に記載の皮膚保護材。
[8]
前記皮膚保護材が皮膚上でゲル化し、当該ゲルが乾燥して被膜を形成する、[1]又は[2]に記載の皮膚保護材。
[9]
前記被膜が40℃以上の温水で融解して皮膚から除去される、[8]に記載の皮膚保護材。
[10]
前記被膜が保湿性又は耐掻破性を有する、[8]に記載の皮膚保護材。
[11]
皮膚を保湿する成分を更に含む、[1]又は[2]に記載の皮膚保護材。
[12]
容器内に封入されている、[1]又は[2]に記載の皮膚保護材。
[13]
前記容器がスプレー剤容器又はゲル剤容器である、[12]に記載の皮膚保護材。
[14]
[1]に記載の皮膚保護材を含む、皮膚外用組成物。
[15]
皮膚疾患を治療又は予防するための成分を更に含む、[14]に記載の組成物。
[16]
[1]に記載の皮膚保護材を含む、化粧品組成物。
[17]
[16]に記載の化粧品組成物を用いる美容方法(但し医療行為を除く)。
【発明の効果】
【0016】
ゼラチンと、フルクトース及びソルビトールから成る群から選択される1又は複数の糖と、を含む水溶液は皮膚上で適切な強度と柔軟性を示す被膜へと変化する。そのため、本発明によれば、アトピー性皮膚炎や褥瘡などの皮膚疾患の患部を長期間保護することが可能になる。また、ゼラチンと上記糖を有効成分とする皮膚保護材は温水等で容易に溶ける。本発明は、その性質を活かし、皮膚から除去する際にも患部に物理的な刺激を与えない被膜の提供も可能である。一方、特開2018-2657号公報に開示されているような非架橋ゼラチンのみから形成される乾燥被膜はガラス化して皮膚に刺激を与え、しかも剥がれやすい。
【0017】
Arvanitoyannis(上掲)では、ゼラチンとほぼ等量のデンプンが含まれているゼラチン/デンプン複合フィルムが開示されており、そのTable 3には、糖を含まない複合フィルムのtensile modulusが含水率5%(乾燥状態)において29.6 MPaもしくは37.5 MPaしかないことが示されている。一方、ゼラチン単独フィルムのヤング率は、ガラス化している故にGPaオーダーになる。そのため、Arvanitoyannisでは、でんぷんがゼラチンに対して可塑剤として機能していることが示されている。このように、既に著しくゼラチンの可塑化・柔軟化が進んだゼラチン/デンプン複合フィルムに対してソルビトールの添加効果を評価したデータからは、ゼラチン単独に対するソルビトールの可塑化効果を予想することは困難である。
【0018】
また、Arvanitoyannisにおけるソルビトールの添加量は、ゼラチンとデンプンの基材に対する重量比(w/w)で最大0.46(ソルビトール30%:ゼラチン+デンプン65%)、ゼラチンに対する重量比(w/w)で最大0.92(ソルビトール30%:ゼラチン32.5%)のように低い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0020】
(皮膚保護材)
第一の実施形態において、ゼラチンと、フルクトース及びソルビトールから成る群から選択される1又は複数の糖と、を含む、皮膚保護材が提供される。
【0021】
本実施形態に用いられるゼラチンとしては、特に制限されず、公知のゼラチンを使用することが可能である。しかしながら、ゲル化温度が高く、皮膚上で固まりやすいという観点から、非架橋ゼラチンが好ましい。非架橋ゼラチンは、特開2018-2657号公報等に記載のような公知の手法を用いて得られる。本明細書で使用する場合、「非架橋ゼラチン」とは、JIS K 6503:2001(にかわ及びゼラチン)に基づき測定した水分率が15質量%以下であるゼラチン乾燥体又はその水溶液(ゲル状態)に対し紫外線を照射するなどの種々の加工処理を行なうことにより、分子間又は分子内を架橋した「架橋ゼラチン」ではないゼラチンをいう。さらに本明細書で使用する場合、「非架橋ゼラチン」、「化粧料用ゼラチン」、「医薬用ゼラチン」及び「ゼラチン混合体」の用語は、ゲル状態のみならず、ゼラチンが溶解している水溶液の状態のももの包含する。本明細書において「X~Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味しており、Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。
【0022】
ゼラチンの原料となるコラーゲンは、α鎖と呼ばれる3本のポリペプチド鎖から成る螺旋構造を有する。ゼラチンはその調製過程でα鎖が加水分解して分子量が低下し得るが、分子量が低すぎると固まりにくくフィルムも脆くなるため、コラーゲンα鎖がほぼ消失するほど分子量を極端に低下させた、いわゆる加水分解ゼラチンではなく、主成分として分子量が10万のコラーゲンα鎖、もしくはそのダイマー(β鎖)、トライマー(γ鎖)、オリゴマーを主成分とした高分子量ゼラチンが好ましい。市販されているゼラチンの多くは、溶けやすさを重視した加水分解ゼラチン製品を除き、コラーゲン鎖が主成分となっている高分子量のものである。
【0023】
ゼラチンの原料としては、例えば牛、豚、鶏、ダチョウ、魚等の動物に由来するコラーゲン等が挙げられ、好ましくは牛、豚、鶏、ダチョウ等が挙げられ、より好ましくは豚が挙げられる。これらの動物からコラーゲンを採取する部分としては、皮膚、骨、軟骨、腱、鱗等が挙げられる。これらのうちで腱は高分子量成分が多量に含まれているため好ましい。
【0024】
特開2018-2657号公報(上掲)に記載の非架橋ゼラチンは、5質量%水溶液中で以下のような性質を有する。
5質量%水溶液以下の特性(i)および(ii)を示す。
(i)パギイ法による融点が31℃以上である。
(ii)32℃で3時間以上ゲル状態を維持する。
【0025】
皮膚保護材におけるゼラチンは、パギイ法による融点が31℃以上であることが好ましい。
【0026】
「ゲル状態を維持する」とは、ゲル形状が目視において崩れないで維持される状態のことをいう。したがって、非架橋ゼラチンに含まれる水分が一部蒸発するなどしても、その形状が維持される限り、「ゲル状態を維持する」ことに含まれる。さらに、「ゲル状態を維持する」ことを脱する臨界点、すなわちゲル状態を維持しなくなったと判断される臨界点は、その形状が崩れることが目視において確認された時点をいうものとする。よって、非架橋ゼラチンの形状が目視においてその一部でも崩れたことが確認された場合、もはや「ゲル状態を維持する」とはいえない。
【0027】
かかる特性を有する非架橋ゼラチンを製造する場合、腱由来コラーゲン、例えば牛、豚、鶏、ダチョウ等の動物の腱由来コラーゲンを出発材料として使用することが好ましい。
【0028】
コラーゲンの種類としては、アテロコラーゲン、酸抽出コラーゲン、アルカリ処理コラーゲン等を用いることができる。好ましくはアテロコラーゲンが用いられる。アテロコラーゲンは、例えばペプシン、キモシン、カテプシンD、レニン等のタンパク質分解酵素を加え、N末端またはC末端に存在するテロペプチドを消化することにより調製されたコラーゲンであり、粘性が低く、取扱いが容易である。
【0029】
ゼラチンは、その側鎖となる原子団が化学修飾されているアミノ酸残基を含んでいてもよい。たとえば、ゼラチンの側鎖のカルボキシル基およびアミノ基が化学修飾されていてもよく、さらにペプチド鎖中のプロリンが化学修飾されていてもよい。カルボキシル基の化学修飾としては、たとえばアンモニア、アミン、グリシンメチルエステルなどによるアミド化が挙げられる。アミノ基の化学修飾としては、たとえばサクシニル化、フタル化、フマリル化、アセチル化などが挙げられる。プロリンは、たとえばゼラチンにプロリル4-ヒドロキシラーゼを作用させることにより、そのγ位の炭素原子にヒドロキシル基が導入されて水酸化される。これらの化学修飾に用いられる官能基のうち、アミノ基とカルボキシル基はコラーゲンの立体構造上、らせんの外側に向いているため、このらせん構造の部分回復現象であるゼラチンのゲル化現象がこれらの官能基修飾によって阻害されにくい。このような修飾を受けた非架橋ゼラチンは、30℃を超える程度の比較的高い融点を有するという効果を損なわずに、その他の種々のゼラチン物性を変えることが可能である。
【0030】
プロリンの水酸化は、コラーゲンのらせん構造内の水素結合に寄与し、ゲル化を安定化させる。好ましい化学修飾体としては、導入される側鎖が生体内代謝物質であり、水溶性を高める効果を持つサクシニル化が挙げられる。化学修飾の度合いは、ゼラチンの物性が所望のものとなるように適宜、調整することが好ましい。サクシニル化は、ゼラチンに存在するアミノ基全体のうちの80%以下であれば、ゼラチンの融点をほとんど変化させないで、その水溶性を向上させることができる。より好ましいサクシニル化の割合は、ゼラチンに存在するアミノ基全体のうちの40~70%である。カルボキシル基およびアミノ基の化学修飾、ならびにプロリンの水酸化は従来公知の方法により行なうことができる。
【0031】
ゼラチンのゲル化点及び融点は、限定することを意図するものではないが、ゼラチン抽出に用いる生体組織の種類(動物種・部位)や、それらの生体組織からゼラチンを抽出する条件(温度・時間・pHなど)によりコントロールすることができる。ゼラチンのゲル化点及び融点は生体組織に含まれるコラーゲンのアミノ酸組成により変化することが知られ、特にプロリン・ヒドロキシプロリン含有量が多く変性温度が高いコラーゲンからは、ゲル化点及び融点の高いゼラチンが得られることが知られている。ゼラチンの平均分子量が高いほどゲル化点及び融点が高くなる傾向があり、ゼラチンの抽出温度を低く、時間を短く、pHを中性に近づけることで加水分解によるゼラチン分子量の低下が抑えられ、ゲル化点及び融点の高いゼラチンを得ることができる。
【0032】
ゼラチンは室温又は体表温度でゲル状であるものが好ましい。本明細書で使用する場合、「室温」とは約23℃を指し、「体表温度」とは約33℃を指す。ただし、ゲル化は温度以外の条件によっても促進されたり、遅延する場合があり、例えば、空冷効果や乾燥に伴う濃縮効果によりゲル化が促進される場合がある。空冷効果と濃縮効果を加味できる適切な機器分析方法が無いため、体表温度でゲル化するかどうかをレオメーターで評価する場合、装置設定温度を33℃とするのが妥当と思われる。例えば、レオメーターを用いて体表温度でゼラチンのゲル化能を評価する場合、33℃でのゲル化を追跡する。もしゲル化すれば、「体表でゲル化する能力がある」ことを判断できる。
【0033】
ゼラチンは、牛、豚、鶏、ダチョウなどの動物から抽出されたコラーゲンを熱分解により調製することにより得ることができる。非架橋ゼラチンの製造には、上記のとおり上記動物の腱由来コラーゲンを用いることが好ましく、コラーゲンの種類としては、上記のとおりアテロコラーゲンを用いることが好ましく、腱由来のアテロコラーゲンを用いることがさらに好ましい。
【0034】
コラーゲンを熱分解により調製する方法は、具体的には以下のとおりである。まず上記動物から塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などの酸により抽出されたコラーゲンを、0.1~10質量%の濃度になるように上記イオン交換水を加え、特定のpHに調整する。コラーゲンの濃度は、0.15~5質量%とすることが好ましく、0.2~3質量%とすることがさらに好ましい。pHは、例えば2~9、好ましくは3~8、より好ましくは4~8に調整する。続いて、上記コラーゲンが溶解した水溶液を例えば40~80℃の温度範囲で5分間~24時間保持することで熱変性させる。熱変性温度は、好ましくは45~70℃であり、より好ましくは50~60℃である。熱変性時間は、熱変性温度が低ければ長時間とし、熱変性温度が高ければ短時間とする反比例の関係に基づいて適宜調整することが好ましい。熱変性時間としては、例えば15分~15時間とすることができる。
【0035】
最後に、熱変性させたコラーゲンの水溶液、すなわちゼラチンの水溶液を乾燥させることにより非架橋ゼラチンを得ることができる。乾燥の方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば通風乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥などを挙げることができる。さらに得られたゼラチンに対し、上述のように従来公知の方法を用いてその側鎖を化学修飾することができる。
【0036】
ゼラチンとともに皮膚保護材に配合される糖類としてフルクトース及び/又はソルビトールがある。これらの糖類は市販されている。これらの糖類は、皮膚保護材を皮膚に適用することで形成される被膜の力学的特性、例えばヤング率や破断応力を改変、具体的には低下させることができ、その結果、不快感なしに外部からの物理的刺激から皮膚を保護する最適な硬さを有し、尚且つ、べたつき感が生じ難い被膜が得られる。フルクトースとソルビトールはいずれも、硬さと滑らかさのバランスが良い被膜を形成する皮膚保護材の有効成分として他の可塑剤より優れており、それらの機能は互いに同程度であるが、ソルビトールは、その添加量が増えるとゼラチンシート内で結晶化し、全体的に白濁したり局所的に白い斑点ができる場合もある。そのため、形成される被膜の美観から、糖類はフルクトースであることが特に好ましい。
【0037】
皮膚保護材は、ゼラチンとフルクトース及び/又はソルビトールとの組み合わせによる効果を阻害しない限り更に任意の成分を含んでよいが、グリセロール、スクロース、又はグルコースやデンプンを含まないことが好ましい。例えば、グリセロールは優れたゼラチン可塑化効果を示すものの、得られる乾燥ゼラチンフィルムはべたつきが強いという問題がある。べたつきが強いと着衣時に剥がれを生じやすいうえに使用感も悪く、皮膚保護材としては適さない。その他のポリオールはゼラチンの可塑化効果が低く、皮膚への付着性や柔軟性は皮膚保護材として十分でない。
【0038】
皮膚保護材を調製する際に使用するゼラチンや糖類の量は所望とするゲル又はその後形成される被膜によって適宜調節され得る。皮膚保護材を皮膚上でゲル化させ、乾燥により被膜化させるためには、ゼラチンの濃度は8%~20%、好ましくは10%~15%である。皮膚保護材におけるゼラチンの濃度を固定し、糖類の添加量を増やすと、相対的に水分が減少し、ゼラチンの濃度が増大するため、ゲル化しやすい皮膚保護材が得られる。一態様において、ゼラチンとフルクトース及び/又はソルビトールとの配合比率は、1:1~1:2の範囲内で適宜調節される。適切な硬さを有する乾燥ゼラチン膜を得る観点からは、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4又は1:1.5の範囲で調節するのが好ましい。この範囲外でも皮膚保護材は製造できるが、ゼラチンに対する糖の添加量が1w/w未満、例えば、フルクトース/ゼラチン、特にフルクトースの比率が0.7w/w未満の場合、乾燥ゼラチン膜が硬くなる傾向があり、また、ゼラチンに対する糖の添加量が1.5w/w超の場合には乾燥ゼラチン膜が軟らかくなる傾向がある。例えば、フルクトースの比率が1.6w/w超の場合には柔らかすぎる乾燥ゼラチン膜が形成されることになる。更に、ゼラチンに対する糖の添加量が3w/wを超える場合、乾燥ゼラチン膜が軟らかすぎて掻破に対する保護性が悪化するうえ、べたつきが顕著になるため着衣によって剥がれてしまう場合がある。
【0039】
水分量も所望とするゲル又はその後形成される被膜によって適宜調節され得る。例えば、皮膚保護材における水の配合量を減少させると(すなわち、皮膚保護材におけるゼラチン濃度を増大させると)、加温状態で溶液の糸引きが生じやすくなったり、速く固まりすぎて皮膚に均一に塗り広げることが困難になるなどの取り扱い性が低下する場合がある。
【0040】
一態様において、15%ゼラチン水溶液1重量部に対し、糖類を含む水溶液1.0重量部、2.0重量部又は3.0重量部、好ましくは1.0~1.4重量部が添加される。
【0041】
一態様において、皮膚保護材は、ゼラチン12%、フルクトース16%、水72%を含む(糖/ゼラチン=1.33(w/w))。ゼラチン濃度を13~14%に増やし、フルクトース又は水の量を減少させてもよい。
【0042】
皮膚保護材の製造は構成成分を適宜添加することで調製される。例えば、全ての構成成分に対し水を添加して皮膚保護材を調製してもよいし、それらの一部を水溶液とした後、他の構成成分と混合してもよい。ゼラチンと糖類をそれぞれ水溶液にして混合する場合、既に溶解している2つの溶液を混ぜることになるが、構成成分が均一に混ざりやすいため好ましい。この場合、糖類の水溶液で薄まることを見越して、ゼラチン水溶液は高濃度のものを調製してもよい(例えば30%)。
【0043】
糖とゼラチンをそれぞれ水溶液にした後に混合する方法は、成分が均一に混合されるという観点で好ましい。しかしながら、調製されたゼラチン水溶液は、混合工程までに一定期間保存される場合があるが、冷凍するとゼラチンが不溶化し、冷蔵すると冷蔵保管の間に消費期限が短くなるという問題が生じる。また、糖とゼラチンの比率や濃度を変更する場合、濃度を変えた原料溶液を再調製しなければならない場合がある。一方、乾燥した糖粉末をゼラチン水溶液に加えると、糖粉末が玉状になり溶けにくくなる場合がある。乾燥した糖粉末とゼラチン粉末を水に加えると、ゼラチン粉末の水和を糖が妨害して溶けにくくなる場合がある。以上の理由から、糖類を含む水溶液に乾燥したゼラチンを添加し、ゼラチンの水和後に加温して水溶液中でゼラチンを溶解することがより好ましい。
【0044】
皮膚への適用は、ゼラチン等の有効成分をゲル化温度、例えば体表温度以上に加温して行ってもよい。ゼラチン等の有効成分を皮膚等の局部へ適用する方法は特に限定されないが、噴射塗布が好ましく、霧状で噴霧塗布する方法がより好ましい。
【0045】
皮膚保護材は水溶液の状態で提供され得る。水溶液の状態の皮膚保護材は、皮膚への塗布後に皮膚上でゲル化する。当該ゲルは、皮膚上で乾燥されて保湿性及び/又は耐掻破性を有する被膜を形成し、最終的に皮膚を保護する。被膜はゼラチンと糖類とから成るものが好ましい。
【0046】
被膜の特性は主にゼラチンと糖類の比率で決定され得る。硬すぎず柔らかすぎない(剥がれない)被膜を得るためには、ゼラチンに対する糖類の量が1(w/w)以上、3(w/w)以下の比率であることが好ましい。かかる比率は1.0~1.4の範囲内であることがより好ましい。被膜の特性としてヤング率や破断応力のような力学的特性があるが、最適な被膜が形成されるよう、ヤング率は10.00MPa以上50.0MPa未満、破断応力は2.00MPa以上8.00MPa未満の範囲で適宜調節され得る。ヤング率は25.0~45.0MPaが好ましく、30.0~40.0MPaがより好ましく、32.0~37.0MPaが最も好ましい。破断応力は2.0~5.0MPaが好ましく、2.1~3.5MPaがより好ましく、2.3~3.1MPaが最も好ましい。皮膚を保護する最適な被膜を得るためには、ヤング率と破断応力の両方が上記の数値範囲内であることが好ましい。ヤング率と破断応力の調節は当業者が技術常識に基づき適宜行うことができる。例えば、糖を添加するとヤング率も破断応力も低下する一方で、材料は伸びやすくなり、糖の量を減らすとその逆が起こる。
【0047】
皮膚保護材は、30℃以上45℃以下の温水中で溶かすことがよりさらに好ましい。溶解温度は配合されるゼラチンの種類等により調節することができる。温水の温度が高いことはゼラチン被膜を溶かすには好都合だが、高すぎると皮膚への刺激が強くなってしまい、その一方で、温度が低すぎると皮膚への刺激は少なくなるが、ゼラチン被膜が溶けにくいため除去に時間を要する。そのため、皮膚保護材を溶かす温水の温度は30℃以上42℃以下が好ましい。
【0048】
皮膚保護材を塗布した患部をお湯に浸し、手で軽く撫でると皮膚保護材が除去される。
温水シャワーの場合、シャワーの圧力で皮膚保護材を除去することもできる。
【0049】
ゼラチン等の有効成分を封入する容器は所望とする適用方法に応じて適宜最適なものが使用される。容器としてはゲル剤容器などが挙げられる。いずれも市販のものが使用可能である。好ましい態様において、乾燥した顆粒状又は粉末状のゼラチン1重量部に対し、ゼラチンが所定濃度になるような容量の水に1~3重量部の糖類を溶かした糖水溶液を調製し、この糖水溶液をゼラチンに加えて十分に水和させ、その後、加温してゼラチンを完全に溶解させ、容器に分注する。
【0050】
ゼラチン等の有効成分を含む皮膚保護材は、化粧料、医薬品、医薬部外品等、種々の用途に使用可能であり、皮膚保護効果に悪影響を及ぼさない限り、所望とする用途に応じて適宜追加の成分を含むことができる。皮膚保護材の応用の例として、ファンデーション、化粧下地、美容液、乳液、クリーム等が挙げられる。
【0051】
特に、ゼラチン等の有効成分を含む皮膚保護材は温水で簡単に皮膚から除去することができるため、従来にない、新規の化粧用途又は医薬用途の提供が可能になる。例えば、化粧と化粧落としを繰り返し行うことで肌荒れが引き起こされる場合があるが、皮膚保護材を化粧下地として使用することで、メイク落としの際の皮膚へのダメージを最小限におさえることができる。
【0052】
皮膚保護材は美容方法以外にも種々のアレルギー性皮膚疾患又は褥瘡の治療乃至予防にも利用可能である。例えば、アトピー性皮膚炎患者のように全身の皮膚バリア機能が低下している患者の場合には患部が全身に広がっており、薬剤の塗布は困難を伴う。また、薬剤を塗布しても着衣や掻破により容易に除去されてしまうという問題がある。しかしながら、皮膚保護材を噴霧剤とすることで塗布が容易となり、また、一旦塗布された後は皮膚上で保護膜が形成されるという利点がある。皮膚疾患には悪性黒色腫等の皮膚癌も含まれる。
【0053】
皮膚保護材は皮膚疾患以外の用途でも使用可能である。例えば、整形外科関連疾患(筋肉痛、外傷後腫脹、変形性関節症、腱周囲炎、テニス肘等)では、従来より消炎鎮痛剤等の薬剤を配合したゲル、軟膏、貼付剤、テープ剤等が使用されているが、皮膚保護材で患部を覆うことにより、被膜化により自然な状態で長期間患部を保護することが可能になる。
【0054】
用途に応じて適宜追加の成分、例えば保湿成分(グリセロールを除く)や、薬剤等を配合することができる。これらの成分はポリマーのゲル化能に影響を与えない。皮膚保護材に配合された成分は徐放効果も期待できる。
【0055】
(皮膚外用組成物)
第二の実施形態において、ゼラチンと、フルクトース及びソルビトールから成る群から選択される1又は複数の糖と、を含む、皮膚保護材を含む皮膚外用組成物が提供される。
【0056】
皮膚外用組成物は任意の目的に使用することができ、例えば医薬又は化粧料としての使用が想定される。皮膚外用組成物には目的に応じて適宜必要な成分を含めることができる。
【0057】
一態様において、皮膚外用組成物は皮膚の疾患を治療乃至予防するための医薬組成物であって、皮膚疾患を治療又は予防するための成分を含む医薬組成物である。
【0058】
皮膚疾患は任意のものでよく、特に限定されないが、アトピー性皮膚炎、乾癬を包含する。
【0059】
(美容方法)
第三の実施形態において、ゼラチンと、フルクトース及びソルビトールから成る群から選択される1又は複数の糖と、を含む、皮膚保護材を含む皮膚外用組成物を用いる美容方法が提供される。このような美容方法は医療行為を意図するものではない。
【0060】
一態様において、化粧品組成物としての皮膚外用組成物は皮膚に適用される。
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない
【実施例0062】
1.実験方法
1-1.物質
顆粒状ゼラチン(牛骨由来Bタイプ;新田ゼラチン社製)、グリセロール、グルコース、フルクトース、スクロース、ソルビトール(以上、富士フイルム和光純薬社製)を購入し、そのまま各種実験に使用した。
【0063】
1-2.材料作製
・ゼラチン水溶液の調製
濃度10%の可塑剤(グリセロール、グルコース、フルクトース、スクロース、又はソルビトール)水溶液をそれぞれ調製した。15%ゼラチン水溶液1重量部と可塑剤水溶液2.0重量部を、それぞれ60℃に予備加温した後に1つのビーカーに加え、撹拌子で十分に撹拌し、ゼラチン5%/可塑剤6.67%の混合水溶液を得た。固まり始める前に遠心分離機で脱泡し、冷蔵庫に保存した。対照として、可塑剤を含まない10%ゼラチン水溶液も調製した。
【0064】
・乾燥ゼラチンシートの作製
上記の通り調製したゼラチン/可塑剤混合水溶液およびゼラチン水溶液は冷蔵庫でゲル化しているので、60℃の水浴で加温して融解させ、縦25mm×横25mm×深さ3mmのシリコーンゴム製の枠に流し込み、室温で2日静置して風乾させた。得られた乾燥ゼラチンシートの計算上の組成を表1に示す。
【表1】
【0065】
1-3.乾燥ゼラチンシートの評価
・力学試験
1-2で作製した乾燥ゼラチンシートの引っ張り試験を行い、力学特性を評価した。ゼラチンシートをダンベル型(平行部の幅4mm、長さ20mm)に打ち抜き、平行部の厚みをデジタルマイクロメーターで計測した。テクスチャ試験機(Texture Analyser TA.XT plus; Stable Micro Systems社製)を用いて、ダンベル型試験片を速度1mm/sで引っ張り、応力‐歪曲線を得た。なお、延伸過程で初期断面積は変化せず、平行部のみが延伸されるものとして応力および歪を求めた。応力‐歪曲線よりヤング率および破断応力を算出した。
【0066】
・示差走査熱量計によるガラス転移温度測定
1-2で作製した乾燥ゼラチンシートを2~3mm四方に細断し、重量を計測した後にアルミニウム製のサンプルパンに封入した。示差走査熱量計(DSC)(DSC-60(島津製作所社製))にサンプルパンをセットし、窒素雰囲気下にて-30℃~120℃(昇温速度 5℃/min)で加温し、このときの吸熱ピーク温度をガラス転移温度(TG)とした。なお、測定時の対照サンプルは空のサンプルパンとした。測定した各サンプルのガラス転移温度を表2に示す。
【表2】
丸括弧内の数値は、DSCのピークが2つ出現した場合の低温側のピーク温度を示す。
【0067】
1-4.乾燥ゼラチン被膜の官能評価
ヒトの皮膚上にゼラチン水溶液を薄く塗布したときに形成される乾燥被膜を模し、1-2で調製したゼラチン水溶液を指でシリコーンゴムシートに均一に塗り広げた。乾燥後に形成された薄い膜に指で触れ、そのべたつきを「プラスチックのような滑らかさ」(P)、「べたつく」(S)、および「PとSの中間」(M)の3水準に官能的に分類した。触れた時の硬さについては、「可塑剤なしのゼラチンと同様に硬く感じる」(硬)、「ラテックスゴムのように軟らかい」(軟)、および「硬と軟の中間」(中)の3水準に官能的に分類した。
【0068】
3.結果
1-2で作製した乾燥ゼラチンシートの力学的試験結果を表3に、官能評価試験結果を表4に示す。
【表3】
【0069】
可塑剤を含まない比較例1のシートは極めて脆く、ダンベル打ち抜きの際に亀裂を生じ、1検体のみ試験に供した。その他の試験は繰り返し回数3~5で実施した。
【表4】
【0070】
(1)硬さ(ヤング率、官能評価)
皮膚保護材に求められる性質として、物理的刺激から皮膚を保護するという目的を達成しつつ、不快感なく使用できるための適切な硬さがある。硬すぎる(官能評価で“硬”と感じられる、あるいはヤング率および破断応力がそれぞれ比較例3の197MPaおよび8MPaほどに高くなる)と、皮膚保護性には優れるが、皮膚の変形に対して抵抗性を示すようになりツッパリ感が増し、時に痛みを伴うので好ましくない。一方、軟らかすぎる(官能評価で“軟”と感じられる、あるいはヤング率および破断応力がそれぞれ比較例2の7MPaおよび0.44MPaほどに低くなる)と、皮膚への馴染みは良くなるが、引っ掻き等により容易に変形や破れを生じ、皮膚から剥がれてしまい皮膚保護の目的を達成できなくなる場合があるので好ましくない。官能評価で“中”と感じられ、ヤング率と破断応力が適切な範囲にある皮膚保護材は、物理的刺激から皮膚を保護するという目的を達成しつつ、不快感なく使用できる柔軟性を示す。
【0071】
(2)べたつき(官能評価)
ゼラチンを可塑化するとべたつきを生じる場合が多い。官能評価で酷いべたつきを感じる場合(“S”と評価される場合)、着衣時には身体の動きにより衣服との摩擦を生じて剥がれてしまう場合があり、指などで触れると粘着して剥がれてしまう場合があり好ましくない。理想は官能評価の“P”であるが、“M”も許容範囲である。PおよびMと判定されるべたつき感の皮膚保護材は、着衣時に不具合を生じない。