(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098682
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】窒化物あるいは酸窒化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/068 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
C01B21/068 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002313
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】313004414
【氏名又は名称】株式会社燃焼合成
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100174528
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 晋朗
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】原田 和人
(72)【発明者】
【氏名】鏡 好晴
(57)【要約】
【課題】未反応物を効果的に抑制できる窒化物あるいは酸窒化物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の窒化物あるいは酸窒化物の製造方法は、燃焼合成法により窒化物を得る製造方法であって、原料に穴を空けた状態で、窒素雰囲気下にて燃焼合成法により、前記窒化物あるいは酸窒化物を合成する、ことを特徴とする。本発明では、前記原料を貫通する穴を形成することが好ましい。また、先端角度が40°以下の穴あけ治具を用いて、前記原料に前記穴を形成することが好ましい。また、針径が1mm以上6mm以下の穴あけ治具を用いて、前記原料に前記穴を形成することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼合成法により窒化物あるいは酸窒化物を得る製造方法であって、
原料に穴を空けた状態で、
窒素雰囲気下にて燃焼合成法により、前記窒化物あるいは前記酸窒化物を合成する、
ことを特徴とする窒化物あるいは酸窒化物の製造方法。
【請求項2】
前記原料を貫通する穴を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物あるいは酸窒化物の製造方法。
【請求項3】
先端角度が40°以下の穴あけ治具を用いて、前記原料に前記穴を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物あるいは酸窒化物の製造方法。
【請求項4】
針径が1mm以上6mm以下の穴あけ治具を用いて、前記原料に前記穴を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物あるいは酸窒化物の製造方法。
【請求項5】
前記原料には、複数の穴が空いており、
各穴の開口面積を足した総面積の、前記原料の上面積に対する開口率が、1%以上30%以下である、ことを特徴とする請求項1あるいは酸窒化物に記載の窒化物の製造方法。
【請求項6】
前記原料の層厚を、20mm以上400mm以下に調整する、ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物あるいは酸窒化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼合成法により窒化物あるいは酸窒化物を合成する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物であるSi3N4、BN、AlN、MgSiN2や、酸窒化物であるSiAlON、AlON、Si2N2O等の合成に関し、燃焼合成法で合成可能とする報告がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-16805号公報
【特許文献2】特開2020-23406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、量産化において、未反応物を制御することが困難であり、決定的な解決策はまだ報告されていない。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、未反応物を効果的に抑制できる窒化物あるいは酸窒化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における窒化物あるいは酸窒化物の製造方法は、燃焼合成法により窒化物あるいは酸窒化物を得る製造方法であって、原料に穴を空けた状態で、窒素雰囲気下にて燃焼合成法により、前記窒化物あるいは酸窒化物を合成する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明では、前記原料を貫通する穴を形成することが好ましい。
本発明では、先端角度が40°以下の穴あけ治具を用いて、前記原料に前記穴を形成することが好ましい。
【0008】
本発明では、針径が1mm以上6mm以下の穴あけ治具を用いて、前記原料に前記穴を形成することが好ましい。
【0009】
本発明では、前記原料には、複数の穴が空いており、各穴の開口面積を足した総面積の、前記原料の上面積に対する開口率が、1%以上30%以下であることが好ましい。
本発明では、前記原料の層厚を、20mm以上400mm以下に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の窒化物あるいは酸窒化物の製造方法によれば、未反応物を効果的に抑制でき、量産化技術に適する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、原料に穴あけを行った際の模式図である。
【
図2】
図2は、沈み込み深さを定義する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、「~」の表記は、下限値及び上限値の双方の数値を含む。
【0013】
<従来技術における問題点>
燃焼合成法は、物質の化学結合時に生じる生成熱を利用し、無機化合物を合成するプロセスとして知られている。このように、燃焼合成法は、反応による発熱を利用した合成方法であるため、燃焼反応を開始(着火)させるためのエネルギーを除けば、基本的には、その後、エネルギーの投入なしで合成が可能であり、且つ反応の進行が早いため、生産性の優れた合成方法である。
【0014】
ところで、燃焼合成法では、窒化物であるSi3N4、BN、AlNや酸窒化物であるSiAlONを合成が可能であるとの報告がある。燃焼合成法は、省エネルギーな合成方法として、また、環境問題に対応する技術として優れた方法であるが、上記組成物の量産工程は困難との指摘もされている。
【0015】
この主たる要因は、その制御の難しさである。すなわち、研究室で作製するラボスケールから、量産設備へとスケールアップする量産スケールへ移行する際に、未反応物の増加や内部焼結等が起こり、生成物の安定性や粉砕性の悪化などの問題が生じる。上記窒化物や酸窒化物は、気体個体反応により合成されるため、これらの現象が顕著に起こり、量産化の課題となっている。
しかしながら、現在までに上記の課題に対し、決定的な改善策はまだ報告されていない。
【0016】
<本実施の形態の窒化物及び酸窒化物の製造方法における具体的構成>
そこで本発明者らは、鋭意研究を行った結果、原料に穴を空けた状態で、窒素雰囲気下にて燃焼合成法により、窒化物や酸窒化物を合成することで、未反応物を効果的に抑制できることを見出した。
【0017】
未反応物の発生メカニズムは、以下の通りと考えられる。すなわち、Si3N4やAlN等の窒化物、SiAlON等の酸窒化物を合成する際の気体固体反応の場合、ガス雰囲気中から原料内部へガス(N2など)が拡散していく。このとき、燃焼が早く進みガスの拡散速度が遅いと、燃焼波の前段階である余熱時間が長くなり、原料同士が融着する。これにより、さらに燃焼不良が起こり、焼結や未反応が発生する。すなわち、原料内部へのガスの拡散速度が重要であると分かった。
【0018】
そこで、原料内部へのガスの拡散速度を促進させるために、原料の上面から下面方向に向けて穴を形成した。穴は、原料を貫通していることが好ましい。これにより、原料内部へのガスの拡散性を高めることができ、ガスの拡散速度が原料の層厚方向に略均一に保たれ、未反応物の発生を抑制でき、窒化物及び酸窒化物の量産化を図ることができる。
【0019】
また、合成前の真空ガス置換時において、ガス充填速度よりも原料内部への拡散速度が遅いと、ガス充填に伴うガス圧で原料粉末が圧縮される。これにより、原料を構成する粒子同士の距離が近くなり、融着を起こし、焼結や未反応などの問題が発生しやすくなるが、本実施の形態では、原料に穴を形成することで、ガスの拡散速度を速めることができるので、合成前の真空ガス置換時における圧縮の課題も改善できる。
また、原料に穴あけを行うことで、通常よりも速い速度でのガス充填が可能となり、生産効率も向上する。
【0020】
穴は、原料の上面から下面方向に向けて、少なくとも原料の層厚の半分以上を占めることが好ましく、3/4以上を占めることがより好ましく、上面から下面にまで貫通することが最も好ましい。穴あけ治具の押し込み量を調整することで、穴の深さを制御できる。また、穴あけ治具の先端は鋭角であり、原料を充填する坩堝の底面に突き刺すように穴あけ治具を押し込むことで、原料の上面から下面にまで貫通する穴を容易に形成することができる。
【0021】
[穴あけ治具について]
穴あけ治具について説明する。
図1は、原料に穴あけを行った際の模式図である。
図1(a)に示すように、坩堝1には、凹形状の収容部1aが設けられている。この収容部1a内に原料2を充填する。そして、
図1(a)に示す穴あけ治具3により、原料2に複数の穴2aを空ける。
【0022】
図1(a)に示すように、穴あけ治具3には、複数本の針部3aと、各針部3aの基端を固定支持する基台3bとを備える。
【0023】
複数の針部3aは、行列状に所定の間隔(ピッチ)にて配置されることが好ましい。このように、複数の針部3aを有する穴あけ治具3を用いることで、原料2に一度に複数の穴2aを形成することができ好適である。
【0024】
図1(a)に示すように、各針部3aの先端は、鋭角形状である。先端角度θは、40°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、10°以下であることがさらに好ましい。「先端角度θ」は、
図1(a)に示す断面にて現れる2つの先端側面3cの間の角度で示される。なお先端角度θは5°以上であることが、適切に穴を形成するうえで好ましい。
【0025】
このように、針部3aの先端角度を鋭角とし、特に40°以下とすることで、穴あけ時の抵抗による粉の圧縮を抑制でき、沈み込み深さを抑制でき、未反応物の発生を少なくできる。
【0026】
また、上記したように、各穴2aを原料2に貫通させることが好ましく、この場合、先端角度が鋭角の穴あけ治具3を原料2の上面から下面方向に押し込み、このとき、各針部3aの先端が、坩堝1の収容部1aの底面1bに突き当たるまで押す。
図1(a)では、穴2aの形状は、原料2の上面から下面に至るまでストレート形状で示されるが、実際には、針部3aの先端は鋭角であるため、穴2aの下面付近も穴2aの上面及び中間に比べて径が小さくなっていてもよい。
【0027】
「沈み込み深さ」は、以下の通り定義される。
図2に示すように、点線Aが原料2を坩堝1に充填した初期状態の上面位置であり、すなわち、穴あけ加工前の状態を示す。原料2に穴2aを空けると、粉の圧縮により、沈み込みが生じる。本実施の形態では、測定する原料上面の略中央位置にて、原料2の上面の点線Aからの沈み込み量を測定し、これを「沈み込み深さd」とした。なお、使用する原料の粉の粒径などにも影響するため、限定するものではないが、本実施の形態では、例えば、沈み込み深さdを約20mm以下にでき、好ましくは約15mm以下にでき、より好ましくは約10mm以下にできる。
【0028】
本実施の形態では、原料の沈み込み量を小さくできる、すなわち粉の圧縮を抑制できるとともに、穴2aを形成したことで、穴2aを通じて原料内部へのガスの拡散速度を促進でき、未反応物の発生を少なくできる。
【0029】
原料2に貫通する穴2aを形成するために、穴あけ治具3の各針部3aの長さは、原料2の層厚tより長くなっている。層厚tについては後述する。
【0030】
本実施の形態では、各針部3aの針径φは、1mm以上6mm以下であることが好ましい。これにより、沈み込み深さを抑制でき、ひいては、未反応物の発生を少なくできる。針径φは、2mm以上4mm以下であることがより好ましく、2mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
針径φは、針部3aのうち、傾斜する先端部を除き、径が略一定である中間位置あたりで測定する。
【0032】
図1(a)に示す針部3aは、断面が略円形状であるが、略円形に限定されるものではない。例えば、楕円形状や多角形状であってもよい。かかる場合の針径φは、断面に現れる長辺あるいは最も長さの長い部分で設定される。
【0033】
穴あけ治具3の材質を限定するものではないが、金属、ステンレス、セラミックス、プラスチックなどであり、具体的には、ステンレス(SUS304など)を例示できる。
【0034】
図3は、穴2aの空いた原料2を真上から見た模式図である。
図3に示すように、例えば、X方向、及びX方向に直交するY方向にて区画された一定面積Sの上面内に、複数の穴2aが開いており、これら穴2aの開口面積sを足した総面積/面積Sで表される開口率(100分率)が、1%以上30%以下であることが好ましい。これにより、沈み込み深さを抑制でき、未反応物の発生を少なくできる。開口率は、2%以上20%以下であることがより好ましく、2%以上15%以下であることがさらに好ましく、2%以上10%以下であることがさらにより好ましい。ここで一定面積Sは、坩堝1の収容部1aの内面の面積で定義できる。
【0035】
ここで、各穴2aは、
図2に示すように、上面付近では鈍って、開口が広くなりやすいので、開口の内径が略一定値となる開口深さの略中心位置の開口面積を用いて、上記の開口率を求めることが好ましい。
【0036】
なお、開口率は、穴あけ治具3側の各針部3aの針径φ及びピッチ(間隔)P(
図1(a)参照)を調整することで制御できる。針径φは、上記したように、1mm以上6mm以下であることが好ましく、2mm以上4mm以下であることがより好ましい。またピッチは、2mm以上20mm以下程度であることが好ましく、2mm以上15mm以下であることがより好ましく、5mm以上15mm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
図1(b)に示すように、原料2の外周を敷粉4で覆う構成では、敷粉4の箇所も貫通するように穴2aを形成することが好ましい。
図1(b)に示すように、原料2の下面に敷粉4が敷いてあることで、原料2に貫通する穴2aを形成しやすくなる。敷粉の詳細については後述する。
【0038】
[原料の層厚について]
未反応や焼結は、原料の層厚が厚くなるほど生じやすい。その一方で、量産性を上げるには、層厚を厚くすることが必要となる。
【0039】
ここで、特許文献1、2には、層厚に関する記載がある。特許文献1には、AlNの製造方法に関する発明が開示されている。特許文献1では、AlNの原料を仕込む際の原料の層厚について記載されており、層厚は、10mm~80mmとされる。層厚が10mm未満では、発熱量が放熱量に比べて小さくなるため、燃焼温度が低下してしまい、窒化率が低下し、一方、層厚が80mmを超えると粉体層表面からの窒素供給が粉体層最下部まで到達しにくくなるため、最下部での窒化率が低下するおそれがあると記載されている(特許文献1の段落0020)。
【0040】
また、特許文献2には、高純度窒化ケイ素粉末の製造方法に関する発明が開示されている。特許文献2では層厚の上限値を70mmとしている。
【0041】
このように、特許文献1、2では、層厚の上限を70mm、或いは80mmとしている。しかしながら、反応炉内に充填可能な原料の体積から算出して層厚をより厚くできるなら量産性には有利となる。
【0042】
また、原料の希釈率を下げると、燃焼速度が速くなり、原料内部に向かうほどガスの拡散速度差が大きくなり、従来では、原料の層厚を薄くせざるを得なかった。
【0043】
これに対し、本実施の形態では、原料に穴を設けたことで、原料内部に向けてのガスの拡散速度の遅延を抑制でき、したがって層厚を厚くできる。本実施の形態では、原料の層厚を20mm以上400mm以下に設定した。ここでいう「層厚」は、穴あけ前の数値である。なお、穴あけにより多少の沈み込みが見られるが、穴あけ後であっても、穴あけ前に比べて層厚は、数mm~10mm程度低くなるだけである。「層厚」は、複数点における層厚を測定し、平均化して求めることができる。原料の層厚を厚くした場合に、ガスの吸気は、主に原料上面より行われるため、原料下部へのガスの拡散速度が遅くなるが、本実施の形態のように、原料に穴を形成したことで、ガスの拡散速度を原料の上面から下面に至る略全域にわたって促進でき、かつ層厚を厚くしたことで量産性も向上できる。また、希釈率を下げても、原料に穴を形成したことで、原料内部に向けての拡散速度の遅延を効果的に抑制できる。
【0044】
層厚は、50mm以上300mm以下であることが好ましく、100mm以上300mm以下であることがより好ましい。
【0045】
[敷粉について]
敷粉の厚みは、10mm以上40mm以下であることが好ましく、20mm以上30mm以下とすることがより好ましい。本実施の形態では、燃焼合成により原料内部の到達温度が高く、これにより、坩堝の断熱材が蒸発することで、原料が反応することを抑制すべく、敷粉の厚みを上記範囲に調整する。敷粉を用いることで、断熱作用をより効果的に上げることができる。
【0046】
敷粉は、例えば、坩堝の側面、及び底面に敷き詰める。また敷粉を原料の上面に敷いてもよく、
図1(b)に示すように敷粉4により原料2の外周を覆うことが好ましい。敷粉の材質を限定するものではないが、例えば、無機物を用いる。無機物の中でも窒化物、或いは酸化物であることが好ましい。例えば、窒化物としては、Si
3N
4粉、AlN粉、及びBN粉等を用いることができる。また、酸化物には、Al
2O
3粉を用いることができる。
【0047】
本実施の形態にて、燃焼合成により生成された窒化物は、例えば、AlN、Si3N4、BN、MgSiN2等であるが、これらに限定されるものでなく、周期表で似た特性を示す13族のGaN、InN、14族のGe3N4等にも適用できる。また、燃焼合成により生成された酸窒化物は、例えば、SiAlON、AlON、Si2N2O等であるが、これらに限定されるものでない。
【実施例0048】
以下、本発明の効果を明確にするために実施した実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
<実験1:穴あけ治具の先端角度の実験>
[原料]
この実験で使用した原料は、以下の通りである。
Si:純度4N、粒子径6μm
α-Si3N4(希釈材):純度2N、粒子径1μm、希釈率10wt%
【0050】
上記原料を、振動ボールミルで、ウレタンポットとφ10窒化ケイ素ボールにて、平均粒子径D50が3μm以下となるまで粉砕混合を行い、嵩密度0.65g/ccに調整した。「平均粒子径D50」は、例えば、レーザ回折粒度分布測定装置(HORIBA製LA-950)にて測定することができ、「D50」とは、累積個数が、全粒子数の50%となる粒径である。
[実験方法]
上記原料を、100mm角×深さ200mmのカーボン質からなる耐熱性の容器に1000g入れた。
次に、原料の上面が平坦になるように整えた。層厚は、約150mmであった。次に、下記の穴あけ治具により、容器底までの貫通穴を空けた。
【0051】
そして、沈み込み深さdを測定した。沈み込み深さdは、
図2に示すように、原料上面の略中央における、穴あけ前の粉体上面の位置(点線A)からの沈み込み量にて求めた。
【0052】
原料に穴あけを行った後、500KPaの窒素雰囲気下で燃焼合成を行った。その後、合成物を乳鉢で粉砕し、XRD(Mini Flex600-C、Rigaku社製)にて、未反応Si量の定量を行った。
針径φが4mmでピッチを10mmとした針部を81本(横9列、縦9列)備えた剣山状の穴あけ治具を用いた。なお各針部の長さは、250mmであった。
【0053】
各針部の先端角度が、60°、50°、40°、30°、20°、10°となる穴あけ治具を用いて、沈み込み深さ及び未反応Siを測定した。その実験結果を、以下の表1に示す。
【0054】
【0055】
表1に示すように、先端角度が小さくなるほど(鋭角になるほど)、沈み込み深さを小さくでき、未反応Siの発生を抑制できることがわかった。これは、先端角度を小さくすることで、穴あけ治具により原料を押し込んだときの原料に対する圧縮を小さくできるからである。
【0056】
実験結果により、先端角度は40°以下とすることが好ましいとした。また先端角度を30°以下とすることで、未反応Siが検出されず良好な結果が得られることがわかった。また、先端角度は20°以下とすることがさらに好ましく、10°以下とすることがさらにより好ましいと設定した。なお下限値は、5°とした。これ以上の先端角度を有することで、穴あけ治具の先端を坩堝の底面に突き当てて貫通する穴を形成しやすくなる。
【0057】
<実験2:穴あけ治具の針径の実験>
実験2で使用した[原料]は、実験1と同じとした。[実験方法]に関しても、実験1で使用した穴あけ治具に代えて、針径が異なる穴あけ治具を用い、それ以外は、実験1の[実験方法]と同じとした。
【0058】
実験2では、先端角度が20°でピッチを10mmとした針部を81本(横9列、縦9列)備えた剣山状の穴あけ治具を用いた。なお各針部の長さは250mmであった。
【0059】
各針部の針径φが、1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mmとなる穴あけ治具を用いて、沈み込み深さ及び未反応Siを測定した。その実験結果を、以下の表2に示す。
【0060】
【0061】
表2の実験結果に基づいて、針径φを、1mm~6mmの範囲とした。これにより、合成時においても穴が埋まることの不具合を抑制でき、また原料の圧縮を抑制でき、未反応Siの発生を少なくできることがわかった。また、表2の実験結果から、針径φを、2mm~4mmとすることが好ましいとした。これにより、沈み込み深さをより小さくでき、かつ、未反応Siが検出されないことがわかった。
【0062】
<実験3:開口率の実験>
実験3で使用した[原料]は、実験1と同じとした。[実験方法]に関しても、実験1で使用した穴あけ治具に代えて、針径が異なる穴あけ治具を用い、それ以外は、実験1の[実験方法]と同じとした。
【0063】
実験3では、先端角度が20°で、針径を2mmとし、ピッチを5mmとした針部を289本備えた剣山状の穴あけ治具、先端角度が20°で、針径を2mmとし、ピッチを10mmとした針部を81本備えた剣山状の穴あけ治具、先端角度が20°で、針径を2mmとし、ピッチを15mmとした針部を49本備えた剣山状の穴あけ治具、先端角度が20°で、針径を4mmとし、ピッチを5mmとした針部を289本備えた剣山状の穴あけ治具、端角度が20°で、針径を4mmとし、ピッチを10mmとした針部を81本備えた剣山状の穴あけ治具、先端角度が20°で、針径を4mmとし、ピッチを15mmとした針部を49本備えた剣山状の穴あけ治具をそれぞれ用いた。なお各針部の長さは250mmであった。
【0064】
上記の各穴あけ治具を用いて、沈み込み深さ、未反応Si及び開口率を測定した。開口率は、
図3に示すように、一定面積Sの上面内に、複数の穴2aが開いており、これら穴2aの開口面積sを足した総面積/面積Sで表される比率(100分率)で求めた。その実験結果を、以下の表3に示す。
【0065】
【0066】
表3の実験結果に示すように、開口率を1%~30%の範囲とすることで、沈み込み深さを小さくでき、未反応Siの発生を抑制できることがわかった。開口率が大きすぎても、原料に対する圧縮度が大きくなり、沈み込み深さが大きくなり、未反応Siが増加することがわかった。表3の実験結果により、開口率は、2%以上20%以下であることがより好ましく、2%以上15%以下であることがさらに好ましく、2%以上10%以下であることがさらにより好ましいとした。