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特開2024-98707ホルダおよびそれを備える分析装置、ならびに電池の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098707
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】ホルダおよびそれを備える分析装置、ならびに電池の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20240717BHJP
   G01N 23/2209 20180101ALI20240717BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N23/2209
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002340
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小桧山 朝華
(72)【発明者】
【氏名】大森 崇史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢治
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA01
2G001GA01
2G001LA11
2G001QA02
(57)【要約】
【課題】ラミネート型電池について、大気中において充放電可能な状態で電池材料のX線分光分析が行なうことが可能な手段を提供する。
【解決手段】
X線分析の分析対象である電池Btを保持するホルダHである。電池Btは、正極と、負極と、ラミネート材と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。ラミネート材は、正極および負極を覆い、X線を透過可能であり、正極および負極を励起X線に曝露することができる。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダHは、ボディ4と、窓材1と、正極端子Tm1と、負極端子Tm2とを備える。ボディ4は、電池Btを配置するための試料室R1が内部に形成され、X線分析用の窓Wが形成される。窓材1は、窓Wに配置され、X線を透過させる。正極端子Tm1は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子Tm2は、負極タブリードに電気的に接続される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線分析の分析対象である電池を保持するホルダであって、
前記電池は、正極と、負極と、前記正極および前記負極を覆うラミネート材と、前記正極に電気的に接続される正極タブリードと、前記負極に電気的に接続される負極タブリードとを含み、
前記ラミネート材は、X線を透過可能であり、前記正極および前記負極を励起X線に曝露することができ、
前記ホルダは、
前記電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成されたボディと、
前記窓に配置され、X線を透過させる窓材と、
前記正極タブリードに電気的に接続された正極端子と、
前記負極タブリードに電気的に接続された負極端子とを備える、ホルダ。
【請求項2】
前記試料室の下方に配置され、前記正極タブリードと電気的に接続される第1配線と、前記負極タブリードと電気的に接続される第2配線とを含むプリント基板と、
前記第1配線と前記正極端子とを電気的に接続させるための第1コンタクトピンと、
前記第2配線と前記負極端子とを電気的に接続させるための第2コンタクトピンとをさらに備える、請求項1に記載のホルダ。
【請求項3】
前記ラミネート材は、樹脂フィルム材を含んで形成され、前記正極と前記電池の外部とを絶縁し、前記負極と前記電池の外部とを絶縁し、前記正極および前記負極を大気から保護する、請求項1に記載のホルダ。
【請求項4】
前記プリント基板の下方に配置され、前記プリント基板に対して付勢力を与えるスプリングをさらに備える、請求項2に記載のホルダ。
【請求項5】
前記第1コンタクトピンおよび前記第2コンタクトピンの各々は、上下方向に伸縮可能に形成されている、請求項2に記載のホルダ。
【請求項6】
前記窓材は、ベリリウム板である、請求項1または2に記載のホルダ。
【請求項7】
X線分析の分析対象である電池を保持するホルダであって、
前記電池は、正極と、負極と、前記正極に電気的に接続される正極タブリードと、前記負極に電気的に接続される負極タブリードとを含み、
前記ホルダは、
前記電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成されたボディと、
前記窓に配置され、X線を透過させる窓材と、
前記正極タブリードに電気的に接続された正極端子と、
前記負極タブリードに電気的に接続された負極端子とを備える、ホルダ。
【請求項8】
電池の分析装置であって、
前記電池を保持するためのホルダと、
前記ホルダに保持された前記電池に励起X線を照射し、発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出する分光器と、
前記分光器から出力された信号を処理する信号処理装置とを備え、
前記電池は、正極と、負極と、前記正極および前記負極を覆うラミネート材と、前記正極に電気的に接続される正極タブリードと、前記負極に電気的に接続される負極タブリードとを含み、
前記ラミネート材は、X線を透過可能であり、前記正極および前記負極を励起X線に曝露することができ、
前記ホルダは、
前記電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成されたボディと、
前記窓に配置され、X線を透過させる窓材と、
前記正極タブリードに電気的に接続された正極端子と、
前記負極タブリードに電気的に接続された負極端子とを含む、分析装置。
【請求項9】
電池の分析方法であって、
ホルダに保持された前記電池を準備するステップであって、前記電池は、正極と、負極と、前記正極および前記負極を覆うラミネート材と、前記正極に電気的に接続される正極タブリードと、前記負極に電気的に接続される負極タブリードとを含むステップと、
前記ホルダに保持された前記電池に対して励起X線を照射し、前記ラミネート材を介して前記正極および前記負極を励起X線に曝露するステップと、
前記電池から発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出するステップと、
前記特性X線の波長ごとの強度を示す信号を処理するステップとを備え、
前記ホルダは、
前記電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成されたボディと、
前記窓に配置され、X線を透過させる窓材と、
前記正極タブリードに電気的に接続された正極端子と、
前記負極タブリードに電気的に接続された負極端子とを含む、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホルダおよびそれを備える分析装置、ならびに電池の分析方法に関し、より特定的には、電池材料のX線分光分析を行なう際に用いるための電池のホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの二次電池の開発において、電池を構成する電池材料の充放電による状態変化および劣化による状態変化を調べるために、電池材料のX線分光分析が有効である。二次電池の電池材料は、一般的に大気と反応しやすい性質を有する。よって、電池材料を大気から保護するために、電池材料を樹脂等のラミネート材で覆ったラミネート型電池が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/163023号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】http://www.hohsen.co.jp/jp/products/detail.php?id=291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなラミネート型電池の電池材料のX線分光分析を行なうためには、ラミネート材を除去し、電池を解体して内部の電池材料を取り出すことが主流であった。特許文献1(国際公開第2019/163023号)には、ラミネート型電池を解体し、分析対象の電池材料を試料ホルダにセットして分析を行なう、X線分光分析装置が開示されている。
【0006】
しかし、このようにラミネート型電池を解体して分析する手法の場合、充放電中のある時点の電池材料の状態は分析できても、充放電中の電池材料の継続的な変化を分析することが難しいという問題がある。また、X線分析時に、剥き出しの電池材料を大気から保護するための特殊な環境を準備する必要がある。そのため、ラミネート型電池について、充放電可能な状態で、大気中で簡易に電池材料のX線分光分析が行なうことが可能な手段が待ち望まれていた。
【0007】
本開示は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ラミネート型電池について、大気中において充放電可能な状態で電池材料のX線分光分析が行なうことが可能な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、X線分析の分析対象である電池を保持するホルダである。電池は、正極と、負極と、ラミネート材と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。ラミネート材は、正極および負極を覆い、X線を透過可能であり、正極および負極を励起X線に曝露することができる。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダは、ボディと、窓材と、正極端子と、負極端子とを備える。ボディは、電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成される。窓材は、窓に配置され、X線を透過させる。正極端子は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子は、負極タブリードに電気的に接続される。
【0009】
本発明の第2の態様は、X線分析の分析対象である電池を保持するホルダである。電池は、正極と、負極と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダは、ボディと、窓材と、正極端子と、負極端子とを備える。ボディは、電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成される。窓材は、窓に配置され、X線を透過させる。正極端子は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子は、負極タブリードに電気的に接続される。
【0010】
発明の第3の態様は、電池の分析装置である。分析装置は、ホルダと、分光器と、信号処理装置とを備える。ホルダは、電池を保持する。分光器は、ホルダに保持された電池に励起X線を照射し、発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出する。信号処理装置は、分光器から出力された信号を処理する。電池は、正極と、負極と、ラミネート材と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。ラミネート材は、正極および負極を覆い、X線を透過可能であり、正極および負極を励起X線に曝露することができる。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダは、ボディと、窓材と、正極端子と、負極端子とを備える。ボディは、電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成される。窓材は、窓に配置され、X線を透過させる。正極端子は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子は、負極タブリードに電気的に接続される。
【0011】
発明の第4の態様は、電池の分析方法であって、ホルダに保持された電池を準備するステップであって、電池は、正極と、負極と、正極および負極を覆うラミネート材と、正極に電気的に接続される正極タブリードと、負極に電気的に接続される負極タブリードとを含むステップと、ホルダに保持された電池に対して励起X線を照射し、ラミネート材を介して正極および負極を励起X線に曝露するステップと、電池から発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出するステップと、特性X線の波長ごとの強度を示す信号を処理するステップとを備える。電池は、正極と、負極と、ラミネート材と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。ラミネート材は、正極および負極を覆う。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダは、ボディと、窓材と、正極端子と、負極端子とを備える。ボディは、電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成される。窓材は、窓に配置され、X線を透過させる。正極端子は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子は、負極タブリードに電気的に接続される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ラミネート型電池について、大気中において充放電可能な状態で電池材料のX線分光分析を行なうことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る分析装置の構成を示す概略図である。
図2】装置本体の内部構成を模式的に示す図である。
図3】装置本体の内部構成を模式的に示す図である。
図4】電池の構成の一例を示す断面図である。
図5】実施形態に係るホルダの構成の一例を示す斜視図である。
図6】ホルダの内部構成の一例を示す断面図である。
図7】プリント基板周辺の構成の一例を示す断面図である。
図8】X線分光分析に関する処理を説明するフローチャートである。
図9】実施形態に係るホルダによる充放電試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0015】
[1.分析装置の構成]
図1は本発明の実施の形態に従う分析装置100の構成を示す概略図である。本実施の形態に従う分析装置100は、波長分散型の分光器を備えたX線分光分析装置である。以下では、本実施の形態に係るX線分光分析装置の一例として、波長分散型蛍光X線分析装置を説明する。「波長分散型」は、特性X線を分光素子により分光し、目的の波長ごとの特性X線強度を測定して特性X線スペクトルを検出する方式である。
【0016】
図1を参照して、分析装置100は、装置本体10および信号処理装置20を有する。装置本体10は、試料に励起X線を照射し、試料から発生する特性X線を検出するように構成される。本実施の形態に係る分析装置100では、試料はホルダに保持された簡易的な構成を有する電池である。励起X線は、典型的にはX線であるため、本明細書においては「励起X線」とも称する。特性X線と蛍光X線は同義である。装置本体10により検出された特性X線に対応する検出信号は、信号処理装置20に送信される。
【0017】
信号処理装置20は、コントローラ22と、ディスプレイ24と、操作部26とを含む。信号処理装置20は、装置本体10の動作を制御する。また、信号処理装置20は、装置本体10から送信された検出信号を処理し、その結果などをディスプレイ24に表示するように構成される。
【0018】
コントローラ22には、ディスプレイ24および操作部26が接続される。ディスプレイ24は、例えば画像を表示可能な液晶パネルで構成される。操作部26は、分析装置100に対するユーザの操作入力を受け付ける。操作部26は、典型的には、タッチパネル、キーボード、マウスなどで構成される。
【0019】
コントローラ22は、主な構成要素として、プロセッサ30と、メモリ32と、通信インターフェイス(I/F)34と、入出力I/F36とを有する。これらの各部は、バスを介して互いに通信可能に接続される。
【0020】
プロセッサ30は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)などの演算処理部である。プロセッサ30は、メモリ32に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、分析装置100の動作を制御する。具体的には、プロセッサ30は、当該プログラムを実行することによって、電池Btから発生する特性X線の検出および、検出した特性X線データの分析を含む処理を実現する。なお、図1の例では、プロセッサが単数である構成を例示しているが、コントローラ22は複数のプロセッサを有する構成であってもよい。
【0021】
メモリ32は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリなどの不揮発性メモリによって実現される。メモリ32は、プロセッサ30によって実行されるプログラム、またはプロセッサ30によって用いられるデータなどを記憶する。
【0022】
入出力I/F36は、プロセッサ30と、ディスプレイ24および操作部26との間で各種データをやり取りするためのインターフェイスである。
【0023】
通信I/F34は、装置本体10と、各種データをやり取りするための通信インターフェイスであり、アダプタまたはコネクタなどによって実現される。なお、通信方式は、無線LAN(Local Area Network)などによる無線通信方式であってもよいし、USB(Universal Serial Bus)などを利用した有線通信方式であってもよい。
【0024】
[2.波長分散型X線分析の原理]
図2および図3は、装置本体10の内部構成を模式的に示す図である。図2および図3を参照して、装置本体10は、電池Btが保持されたホルダHと、励起源120と、スリット130と、分光結晶140と、検出器150とを有する。図2において、ホルダHの電池Btが保持される面をX-Y平面とし、励起源120からの励起X線の照射方向をZ軸方向とする。本明細書において、「上」はZ軸正方向を、「下」はZ軸負方向を指す。分光結晶140および検出器150は、本開示における「分光器」を構成する。
【0025】
励起源120は、励起光(励起X線)を電池Btに照射するX線源である。励起源120として、X線源の代わりに、電子線源を用いてもよい。励起源120から発せられた励起光は、電池Btに照射される。図2の例では、電池Btの表面に対して垂直に励起光を照射する構成としたが、電池Btの表面に対して傾斜した角度で励起光を照射する構成としてもよい。
【0026】
分光結晶140においては、特定の結晶面が、結晶の表面に平行になっている。特定の結晶面のみを特性X線の検出に用いることができる。これにより、他の結晶面でブラッグ反射した特性X線が誤って検出されることを防止することができる。
【0027】
検出器150は、複数の検出素子151を含む。複数の検出素子151の各々は、図2のY軸方向に延伸している(図3参照)。
【0028】
次に、本実施の形態に係る分析装置100の動作を説明する。図2に示すように、励起源120から電池Btに励起X線を照射すると、電池Btから特性X線が放出される。放出される特性X線は、電池Btを構成する物質によって異なる波長を有する。図2では、励起源120から発せられた励起X線が位置A1から位置A2までの領域に照射される。当該領域から放出された特性X線は、スリット130を通過して分光結晶140へ到達する。図2においては、例示的に、位置A1および位置A2において発生している特性X線が破線で示されている。位置A2は、X軸方向において、位置A1の正方向の位置にある。
【0029】
電池Btから放出される特性X線は、スリット130を通過して分光結晶140へ照射される。電池Btにおける特性X線の発生位置に応じて、分光結晶140への特性X線の入射角が異なる。
【0030】
電池Btから分光結晶140に入射した特性X線のうち、ブラッグ反射の条件を満たす波長を有する特性X線のみが、分光結晶140で回折されて検出器150に到達する。
【0031】
分光結晶140で回折された特性X線は入射角と同じ角度で出射される。よって、ブラッグ反射した特性X線は、複数の検出素子151のうちの出射角に対応した位置に配置された検出素子151によって検出される。このように、複数の検出素子ごとに、異なる回折角のブラッグ条件を満たす波長の特性X線が検出される。言い換えれば、特性X線が検出された検出素子を知ることによって、特性X線に含まれる波長を認識することができる。一方で、特性X線の波長は物質ごとに異なる。したがって、検出器150において特性X線が検出された検出素子を特定することによって、分析対象の電池Btに含まれる物質を特定することができる。
【0032】
このように、装置本体10の分光器は、励起X線が照射された電池Btが発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出する。装置本体10は、各検出素子毎の強度(複数の検出素子ごとの強度)を、信号処理装置20に送信する。これにより、信号処理装置20は、複数の波長と、該複数の波長の各々に対応する特性X線の強度とを取得できる。
【0033】
次に、信号処理装置20によるピークエネルギーの算出について説明する。エネルギーEと、特性X線の波長λとにおいて、E=hc/λという式が成り立つ。ここで、hは、プランク定数であり、cは光の速さである。この式により、信号処理装置20は、エネルギーと、該エネルギーに対応する特性X線の強度とを取得する。信号処理装置20は、特性X線の強度がピークとなるエネルギー(以下、「ピークエネルギー」という。)を測定する。
【0034】
以上のように、分析装置100において、装置本体10の分光器は、励起X線が照射された電池Btが発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出する。また、信号処理装置20は、装置本体10から出力された信号を処理する。よって、分析装置100は、電池Btの状態をX線分光分析することができる。
【0035】
また、図2に例示したように、装置本体10は、充放電装置170を含んでもよい。充放電装置170は信号処理装置20のプロセッサ30により制御される。充放電装置170が後に詳述するホルダHの正極端子Tm1および負極端子Tm2の各々と接続されると、充放電装置170は、電池Btの充放電を実行する。なお、充放電装置170は、電池Btの充放電ができればよく、装置本体10と独立の装置であってもよい。
【0036】
[3.電池の構成]
次に、分析装置100において分析される電池Btの構成を説明する。
【0037】
図4は、電池の構成の一例を示す断面図である。
【0038】
電池Btは、正極Bt1と、負極Bt2と、セパレータBt3と、電解液Bt4と、ラミネート材Bt5と、正極タブリードTb1と、負極タブリードTb2とを含む。図4の例において、電池Btはラミネート型リチウムイオン二次電池である。
【0039】
正極Bt1は、図示しない正極材料と正極集電体とを含む。正極材料は、例えば、コバルト、ニッケル、マンガンの単一または複合の金属酸化物、または、LiFePO4のようなリン酸鉄系の材料である。正極集電体は、例えばアルミニウムである。負極Bt2は、図示しない負極材料を含む。負極材料は、例えば炭素系材料または合金系の材料である。負極Bt2は、図示しない負極集電体を含んでもよい。負極集電体は例えば銅である。セパレータBt3は正極Bt1と負極Bt2との間に設けられる。セパレータBt3は、例えばポリオレフィン製の微多孔膜である。電解液Bt4は、例えば、リチウム塩と有機溶媒とを含む。
【0040】
ラミネート材Bt5は、例えば樹脂フィルム材を含んで形成される。ラミネート材Bt5は、例えばナイロンおよび/またはポリプロプレンを含んで形成される。
【0041】
ラミネート材Bt5は、正極Bt1および負極Bt2を覆うように配置される。これにより、ラミネート材Bt5は、正極Bt1と電池Btの外部とを絶縁し、負極Bt2と電池Btの外部とを絶縁する。また、ラミネート材Bt5は、ラミネート材Bt5内への大気の侵入を防ぐことにより、正極Bt1および負極Bt2を大気から保護する。
【0042】
ラミネート材Bt5は、X線を透過させる性質を有する。例えば、ラミネート材Bt5は、セパレータBt3および正極集電体より励起X線および特性X線を弱める作用が充分に低い。そのため、ラミネート材Bt5越しに正極Bt1のX線分光分析を行なうことができる。
【0043】
正極タブリードTb1および負極タブリードTb2の各々は、電池Btの内部から電気を取り出すためのリード線である。正極タブリードTb1は、正極に電気的に接続される。負極タブリードTb2は、負極に電気的に接続される。
【0044】
[4.ホルダの構成]
次に、電池Btが分析装置100において分析される際に、電池Btが保持されるホルダHの構成を説明する。
【0045】
図5は、実施形態に係るホルダHの構成の一例を示す斜視図である。図5を参照して、ホルダHは、ボディ4と、窓材1と、ベース板51と、正極端子Tm1とを含む。また、ホルダHは、ボディ4の下部に負極端子Tm2を含む(図2参照)。
【0046】
ベース板51は、ホルダHの最下部に配置される。ベース板51は、電気と絶縁される材料で構成される。ベース板51は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)製である。
【0047】
ベース板51の上にボディ4が配置される。ボディ4は、円筒形状のセルボディ42と、セルボディ42の上に配置された窓ボディ41とを含む。ボディ4は、内部に電池Btが配置される試料室が形成される。窓ボディ41において、試料室と励起源120との間に窓Wが形成される。窓Wには、窓材1が配置される。ボディ4は金属製であることが好ましい。例えば、セルボディ42はステンレス製である。
【0048】
正極端子Tm1および負極端子Tm2の各々は、充放電装置170と接続される。電池Btは、正極端子Tm1および負極端子Tm2を介して充放電装置170により充放電される。
【0049】
正極端子Tm1は、ホルダHに設置される電池Btの正極Bt1と、充放電装置170とを、電気的に接続する部分である。図4の例では、正極端子Tm1は、セルボディ42に接続される金属製の棒状あるいは板状の端子である。正極端子Tm1は、例えば、セルボディ42と一体に構成されてもよい。このように構成すると、正極端子Tm1とセルボディ42は安定的に接続される。また、例えば、正極端子Tm1は、セルボディ42と取り外し可能に構成されてもよい。このように構成すると、電池Btを充放電装置170と接続する必要が無いときには、正極端子Tm1をセルボディ42から取り外すことができる。よって、電池Btの側面はシンプルな円筒形となる。したがって、例えば電池Btを回転させる時などに邪魔にならない。なお、正極端子Tm1の構成は上記の例に限定されず、例えば正極端子Tm1は、充放電装置170に電気的に接続されホルダHに取り外し可能な端子と電池Btの正極との間の部分(例えばセルボディ42)を含む。
【0050】
負極端子Tm2は、ホルダHに設置される電池Btの負極Bt2と充放電装置170とを電気的に接続する部分である。図4の例では、負極端子Tm2は、ベース板51に接続される金属製の棒状あるいは板状の端子である。
【0051】
図6は、ホルダの内部構成の一例を示す断面図である。図6を参照して、ホルダHは、さらに、スプリング55と、電極支持部56と、Oリング59と、プリント基板Pbと、コンタクトピンP1と、コンタクトピンP2とを含む。コンタクトピンP1およびコンタクトピンP2を、コンタクトピンPとも総称する。コンタクトピンP1は、「第1コンタクトピン」の一実施例に対応する。コンタクトピンP2は、「第2コンタクトピン」の一実施例に対応する。
【0052】
ボディ4の内部には、試料室R1が形成される。図6の例では、試料室R1は、窓材1と、窓ボディ41と、電極支持部56とに囲まれる空間である。試料室R1には電池Btが配置される。図6の例では、さらに、ホルダHの内部には空間R2も形成される。空間R2は、ボディ4と、プリント基板Pbとによって囲まれる空間である。
【0053】
ボディ4の内側には、下側から順に、スプリング55およびコンタクトピンPと、プリント基板Pbと、電極支持部56と、試料室R1内に配置される電池Btとが設置される。また、窓ボディ41と、セルボディ42との間にOリング59が配置される。
【0054】
Oリング59は、例えばゴム製である。Oリング59は、窓ボディ41と、セルボディ42との間を密着させることで、窓ボディ41と、セルボディ42とを安定的に保持させる。
【0055】
スプリング55は、プリント基板Pbおよび電極支持部56に対して付勢力を与える。スプリング55は、例えば板ばねである。また、スプリング55の中央部には穴が開いており、コンタクトピンP2を貫通させることが可能である。望ましくは、スプリング55は、コンタクトピンP2をスプリング55と接触させないで貫通させるように構成される。このように構成すると、スプリング55を導電性の材料で作成したとしても、コンタクトピンP2と導通しないので、コンタクトピンP2からの電流がスプリング55に漏れない。よって、強度の高い金属製の板ばねを採用できる。また、スプリング55とコンタクトピンP2とが摩擦によりひっかかったり、損傷する可能性をなくすことができる。スプリング55とコンタクトピンP2とが接触する構成の場合、スプリング55は絶縁されることが好ましい。
【0056】
プリント基板Pbおよび電極支持部56は、スプリング55の上に配置され、スプリング55の付勢力を、電池Btに伝える。これにより、電池Btは試料室R1において安定的に保持される。特に、電池Btの上下方向の厚みの多少の変化が合った場合にも、試料室R1の上下方向の厚みを変化させることで、電池Btは試料室R1において安定的に保持される。電極支持部56は、電気を絶縁する材料で構成される。電極支持部56は、例えばPPSで構成される。プリント基板Pbについては、図7においてより詳細に述べる。
【0057】
窓ボディ41と、窓材1とは、試料室R1に対する蓋の役割を果たす。以下、窓ボディ41と、窓材1とを合わせて「蓋部」と称する。ユーザはこの蓋部を開けて、試料室R1に電池Btを配置する。
【0058】
矢印AR1は、励起源120から電池Btに照射される励起X線を示す。矢印AR2は、電池Btから発生し、分光器により検出される特性X線を示す。例えば、電池Btの正極Bt1に励起X線が照射され(矢印AR1)、正極Bt1から特性X線が発生する(矢印AR2)。
【0059】
窓材1は、X線透過性が高い材質で形成される。窓材1は、例えばベリリウム板である。これにより、矢印AR1およびAR2で示したように、励起源120から照射される励起X線および電池Btから発生する特性X線は、窓材1を透過する。これにより、窓材1越しにX線分光分析が可能である。
【0060】
このように構成すれば、励起源120から照射される励起X線は、窓材1およびラミネート材Bt5を透過して、電池Btの正極Bt1に照射される。また、正極Bt1から発生する特性X線は、窓材1およびラミネート材Bt5を透過して分光器に検出される。したがって、電池Btを解体することなく、電池材料のX線分光分析を行なうことができる。
【0061】
図7は、プリント基板周辺の構成の一例を示す断面図である。図7において、プリント基板Pbの上下方向(Z軸)および左右方向(X軸)の向きは図6と逆になっている。
【0062】
図7を参照して、プリント基板Pbは、基板本体Pb0と、配線W1と、配線W2とを含む。
【0063】
基板本体Pb0は、絶縁体でできた板状部材である。
【0064】
配線W1は、基板本体Pb0上に形成され、正極タブリードTb1と電気的に接続される。配線W2は、基板本体Pb0上に形成され、負極タブリードTb2と電気的に接続される。配線W1は、「第1配線」の一実施例に対応する。配線W2は、「第2配線」の一実施例に対応する。なお、正極タブリードTb1は、ホルダHの他の部分と導通しないように、絶縁テープ等を使用して基板本体Pb0に固定されている。負極タブリードTb2は、ホルダHの他の部分と導通しないように、絶縁テープ等を使用して基板本体Pb0に固定されている。
【0065】
コンタクトピンPは、導電性の棒状部材である。コンタクトピンP1は、例えば金属製である。コンタクトピンP1は、その一方を配線W1に接合され、他方をセルボディ42に接するように配置される。セルボディ42は、上記のように正極端子Tm1と導通される。よって、コンタクトピンP1により、配線W1と正極端子Tm1とを電気的に接続させることができる。これにより、電池Btの正極Bt1から正極端子Tm1までが導通する。
【0066】
コンタクトピンP2は、その一方を配線W2に接合され、他方をスプリング55の間を通って、負極端子Tm2に接するように配置される。よって、コンタクトピンP2により、配線W2と負極端子Tm2とを電気的に接続させることができる。これにより、電池Btの負極Bt2から負極端子Tm2までが導通する。
【0067】
このように構成すれば、プリント基板Pb上の配線W1,W2およびコンタクトピンPを用いて、電池BtとホルダHの外部の充放電装置170とを電気的に導通させることができる。したがって、電池BtをホルダHに収容した状態で、電池Btの充放電を行なうことが可能である。
【0068】
望ましくは、コンタクトピンPは、上下方向に伸縮可能に形成されている。これにより、コンタクトピンP1からセルボディ42への付勢力が生成される。よって、コンタクトピンP1とセルボディ42とを確実に接触させ、安定的に導通させることができる。また、コンタクトピンP2から負極端子Tm2への付勢力が生成される。よって、コンタクトピンP2と負極端子Tm2とを確実に接触させ、安定的に導通させることができる。これにより、コンタクトピンPを用いた電気的接続がより確実になる。
【0069】
以上のように、本実施形態に係るホルダHを含む分析装置100によれば、ホルダHの窓Wに配置された窓材1およびラミネート材Bt5を介して正極Bt1のX線分光分析を行なうことができる。また、正極タブリードTb1に電気的に接続された正極端子Tm1および負極タブリードTb2に電気的に接続された負極端子Tm2を用いて、電池の充放電も可能である。よって、ラミネート型電池について、充放電可能な状態で、大気中でX線分光分析が可能である。
【0070】
なお、以上では、電池Btの正極Bt1のX線分光分析を行なう例を示したが、ホルダHに対して電池Btの上下(Z軸方向)を逆に設置し、タブリードと配線との接続を整えることで、大気中において充放電可能な状態で負極Bt2のX線分光分析を行なうことも可能である。
【0071】
[5.従来のラミネート型電池のX線分光分析との比較]
従来、ラミネート型電池の電池材料のX線分光分析においては、ラミネート材および電解液を除去し、分析対象となる電池材料だけを取り出して分析する方法が主流であった。
【0072】
しかし、分析のたびに電池を解体する手法の場合、分析が面倒になるという問題がある。
【0073】
また、一度解体してX線分光分析を行なったリチウムイオン電池の電池材料を用いて、解体前の電池の状態を完全に復元することは、技術的には非常に難しい。具体的には、例えば、復元時に電池材料の損傷が生じてしまうおそれがある。また、例えば、電池材料の接触条件が変化してしまい、接触抵抗のような電気的特性が変化してしまうおそれがある。よって、この手法においては充放電中の電池材料の継続的な構造変化を分析することは難しい。
【0074】
さらに、X線分光分析時に剥き出しの電池材料を大気に触れさせないために、X線分光分析を行なうことができる特別な分析環境を準備する必要があった。特別な環境とは、例えば、真空引きした環境、不活性ガスおよび乾燥空気で満たした環境である。このような分析環境の準備のために、ユーザには時間やコストが必要となっていた。
【0075】
また、非特許文献1には、ラミネート型電池を解体することなく、充放電が可能な試験装置が開示されているが、当該試験装置ではX線分光分析は実施できない。そのため、当該試験装置において充放電した後に、電池を解体してX線分光分析を行なう必要があった。
【0076】
以上のようにラミネート型電池を解体して分析する従来の方法においては、繰り返し評価が必要なラミネート型電池の状態変化において、電池の分解、X線分光分析のための装置への設置および取りはずし、電池の組み立て、充放電装置への設置および取り外しなどの煩雑な行程を繰り返す必要があった。
【0077】
このような実情を鑑みて、充放電可能な状態のまま、X線分光分析が可能なラミネート型電池の分析方法が強く望まれていた。
【0078】
ゆえに、本実施の形態に係る分析装置100においては、ホルダHの窓Wに、X線を透過する窓材1を配置する。これにより、窓材1およびラミネート材Bt5越しに、電池材料にX線を照射することで、電池材料の非破壊X線分光分析が行なえる。
【0079】
加えて、分析装置100においては、ホルダHは、電池Btを設置したままで、電池材料の充放電を行なうことも可能である。これにより、電池BtのX線分光分析と充放電とを繰り返し順に行なうことが容易である。よって、充放電中の電池材料の離散的な変化を分析することができる。加えて、図3に示したように、装置本体10に、充放電装置170が含まれる場合、電池Btの充放電を行ないながらリアルタイムでX線分光分析を行なうことも可能である。この場合、充放電中の電池材料の連続的な変化を分析することができる。従って、本実施の形態に従うホルダHを用いれば、設置された電池Btの継続的な変化を分析することができる。
【0080】
[6.分析装置における処理の流れ]
上記のようなホルダHを用いて、ユーザは分析装置100を用いて、以下のような処理に基づいて電池BtのX線分光分析を行なう。
【0081】
図8は、X線分光分析に関する処理を説明するフローチャートである。
【0082】
S01において、ユーザは、電池Btを準備し、充放電を行なう。電池Btは、正極Bt1と、負極Bt2と、正極Bt1および負極Bt2を覆うラミネート材Bt5と、正極Bt1に電気的に接続される正極タブリードTb1と、負極Bt2に電気的に接続される負極タブリードTb2とを含む。具体的には、ユーザはホルダHの蓋部を開けて、上記の構成を有する電池Btを組み込む。続いて、ユーザは例えば充放電装置170により電池Btの充放電を行なう。
【0083】
充放電装置170が装置本体10に含まれる場合、ユーザはまず装置本体10に、ホルダHを設置し、充放電装置170を接続して、電池Btの充放電を行なう。一方で、充放電装置170が装置本体10外に設けられる場合、ユーザはまず充放電装置170にホルダHを接続して電池Btの充放電を行ない、その後、装置本体10にホルダHを移動させる。
【0084】
ステップST02において、信号処理装置20のプロセッサ30は、ユーザが操作部26により分析開始の指示を入力したか否かを判定する。分析開始の指示の入力がなかった場合(ステップST02においてNO)、プロセッサ30はステップST02を繰り返す。
【0085】
分析開始の指示の入力があった場合(ステップST02においてYES)、ステップST04において、プロセッサ30の指令により、装置本体10の励起源120は、ホルダHに保持された電池Btに対して励起X線を照射し、ラミネート材Bt5を介して正極Bt1および負極Bt2を励起X線に曝露する。
【0086】
ステップST06において、分光器は、電池Btが発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出する。また、検出された特性X線の波長ごとの強度を示す信号は、信号処理装置20に送信される。
【0087】
ステップST08において、信号処理装置20のプロセッサ30は、特性X線の波長ごとの強度を示す信号を処理する。ステップST10において、プロセッサ30は、処理の結果をメモリ32に格納する。また、プロセッサ30は、処理の結果をディスプレイ24に表示し、処理を終了する。
【0088】
以上の処理により、分析装置100は、電池Btについて、充放電可能な状態で、大気中で簡易に電池材料のX線分光分析が行なえる。また、分析装置100は、X線分光分析の結果を、ユーザに通知することができる。
【0089】
[7.充放電試験の結果]
図9は、実施形態に係るホルダにおける充放電試験の結果を示す図である。図9には、実施形態に係るホルダHを用いた充放電における容量維持率の経時変化と、従来手法による充放電における容量維持率の経時変化とが示されている。図9のグラフの横軸は、充放電サイクル回数を示す。図9のグラフの縦軸は、容量維持率を示す。なお、従来手法においては、電池を分解し、電池材料にクランプ器具で圧力をかけることで充放電を行なった。図9を参照して、本実施形態に係るホルダHを用いた充放電における容量維持率の経時変化と、従来手法による充放電における容量維持率の経時変化とは、略同じ値を示していた。よって、本実施形態に係るホルダHを用いた充放電は、従来手法による充放電と同等である。これにより、X線分光分析後にラミネート型電池を分析装置から取り外さずとも充放電が可能になり、ユーザビリティが向上された。
【0090】
なお、以上ではホルダHを用いてラミネート型電池の充放電およびX線分光分析を行なう場合を例示したが、タブリードを有する電池であれば、ラミネート材Bt5を有しない電池であっても、ホルダHを用いて電池の充放電およびX線分光分析が行なえることは言うまでも無い。ただし、この場合には、電池材料の保護のために、真空引きした状態等の特殊な状態においてX線分光分析を行なう必要がある。
【0091】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0092】
(第1項)一態様に係るホルダは、X線分析の分析対象である電池を保持する。電池は、正極と、負極と、ラミネート材と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。ラミネート材は、正極および負極を覆い、X線を透過可能であり、正極および負極を励起X線に曝露することができる。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダは、ボディと、窓材と、正極端子と、負極端子とを備える。ボディは、電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成される。窓材は、窓に配置され、X線を透過させる。正極端子は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子は、負極タブリードに電気的に接続される。
【0093】
第1項に記載のホルダによれば、電池を解体することなく、ホルダの窓に配置された窓材およびラミネート材を介して電池のX線分光分析を行なうことができる。また、正極タブリードに電気的に接続された正極端子および負極タブリードに電気的に接続された負極端子を用いて、ホルダに設置された状態での電池の充放電も可能である。よって、ラミネート型電池について、大気中において充放電可能な状態で電池材料のX線分光分析が行なうことが可能である。
【0094】
(第2項)第1項に記載のホルダにおいて、試料室の下方に配置され、正極タブリードと電気的に接続される第1配線と、負極タブリードと電気的に接続される第2配線とを含むプリント基板と、第1配線と正極端子とを電気的に接続させるための第1コンタクトピンと、第2配線と負極端子とを電気的に接続させるための第2コンタクトピンとをさらに備える。
【0095】
第2項に記載のホルダによれば、プリント基板上の配線およびコンタクトピンを用いて、電池とホルダの外部の充放電装置とを電気的に導通させることができる。したがって、電池をホルダに収容した状態で、電池の充放電を行なうことが可能である。
【0096】
(第3項)第1または2項に記載のホルダにおいて、ラミネート材は、樹脂フィルム材を含んで形成され、正極と電池の外部とを絶縁し、負極と電池の外部とを絶縁し、正極および負極を大気から保護する。
【0097】
第3項に記載のホルダによれば、上記のような性質を有するラミネート材により正極および負極を覆われたラミネート型電池についても、大気中において充放電可能な状態で電池材料のX線分光分析が行なうことが可能である。
【0098】
(第4項)第2項に記載のホルダにおいて、プリント基板の下方に配置され、プリント基板に対して付勢力を与えるスプリングをさらに備える。
【0099】
第4項に記載のホルダによれば、電池は試料室において安定的に保持される。特に、電池の上下方向の厚みの多少の変化が合った場合にも、試料室の上下方向の厚みを変化させることで、電池は試料室において安定的に保持される。
【0100】
(第5項)第2または4項に記載のホルダにおいて、第1コンタクトピンおよび第2コンタクトピンの各々は、上下方向に伸縮可能に形成されている。
【0101】
第5項に記載のホルダによれば、コンタクトピンが接触する部位への付勢力が生成され、コンタクトピンを用いた電位の導通がより確実になる。
【0102】
(第6項)第1~4のいずれか1項に記載のホルダにおいて、窓材は、ベリリウム板である。
【0103】
第6項に記載のホルダによれば、X線透過性が高い材質であるベリリウム板を介して、電池のX線分光分析が可能になる。
【0104】
(第7項)他の態様に係るホルダHは、X線分析の分析対象である電池を保持する。電池は、正極と、負極と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダは、ボディと、窓材と、正極端子と、負極端子とを備える。ボディは、電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成される。窓材は、窓に配置され、X線を透過させる。正極端子は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子は、負極タブリードに電気的に接続される。
【0105】
第7項に記載のホルダによれば、電池を解体することなく、ホルダの窓に配置された窓材を介して電池のX線分光分析を行なうことができる。また、正極タブリードに電気的に接続された正極端子および負極タブリードに電気的に接続された負極端子を用いて、ホルダに設置された状態での電池の充放電も可能である。よって、タブリードを有する電池について、充放電可能な状態で電池材料のX線分光分析が行なうことが可能である。
【0106】
(第8項)一態様に係る分析装置は、電池の分析装置である。分析装置は、ホルダと、分光器と、信号処理装置とを備える。ホルダは、電池を保持する。分光器は、ホルダに保持された電池に励起X線を照射し、発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出する。信号処理装置は、分光器から出力された信号を処理する。電池は、正極と、負極と、ラミネート材と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。ラミネート材は、正極および負極を覆い、X線を透過可能であり、正極および負極を励起X線に曝露することができる。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダは、ボディと、窓材と、正極端子と、負極端子とを備える。ボディは、電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成される。窓材は、窓に配置され、X線を透過させる。正極端子は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子は、負極タブリードに電気的に接続される。
【0107】
第8項に記載の分析装置によれば、電池を解体することなく、ホルダの窓に配置された窓材およびラミネート材を介して電池のX線分光分析を行なうことができる。また、正極タブリードに電気的に接続された正極端子および負極タブリードに電気的に接続された負極端子を用いて、ホルダに設置された状態での電池の充放電も可能である。よって、ラミネート型電池について、大気中において充放電可能な状態で電池材料のX線分光分析が行なうことが可能である。
【0108】
(第9項)一態様に係る分析方法は、電池の分析方法であって、ホルダに保持された電池を準備するステップであって、電池は、正極と、負極と、正極および負極を覆うラミネート材と、正極に電気的に接続される正極タブリードと、負極に電気的に接続される負極タブリードとを含むステップと、ホルダに保持された電池に対して励起X線を照射し、ラミネート材を介して正極および負極を励起X線に曝露するステップと、電池から発生する特性X線を分光して波長ごとの強度を検出するステップと、特性X線の波長ごとの強度を示す信号を処理するステップとを備える。電池は、正極と、負極と、ラミネート材と、正極タブリードと、負極タブリードとを含む。ラミネート材は、正極および負極を覆う。正極タブリードは、正極に電気的に接続される。負極タブリードは、負極に電気的に接続される。ホルダは、ボディと、窓材と、正極端子と、負極端子とを備える。ボディは、電池を配置するための試料室が内部に形成され、X線分析用の窓が形成される。窓材は、窓に配置され、X線を透過させる。正極端子は、正極タブリードに電気的に接続される。負極端子は、負極タブリードに電気的に接続される。
【0109】
第9項に記載の分析方法によれば、電池を解体することなく、ホルダの窓に配置された窓材およびラミネート材を介して電池のX線分光分析を行なうことができる。また、正極タブリードに電気的に接続された正極端子および負極タブリードに電気的に接続された負極端子を用いて、ホルダに設置された状態での電池の充放電も可能である。よって、ラミネート型電池について、大気中において充放電可能な状態で電池材料のX線分光分析が行なうことが可能である。
【0110】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
1 窓材、4 ボディ、10 装置本体、20 信号処理装置、22 コントローラ、24 ディスプレイ、26 操作部、30 プロセッサ、32 メモリ、34 通信I/F、36 入出力I/F、41 窓ボディ、42 セルボディ、51 ベース板、55 スプリング、56 電極支持部、59 Oリング、100 分析装置、120 励起源、130 スリット、140 分光結晶、150 検出器、151 検出素子、170 充放電装置、Bt 電池、Bt1 正極、Bt2 負極、Bt3 セパレータ、Bt4 電解液、Bt5 ラミネート材、H ホルダ、P,P1,P2 コンタクトピン、Pb プリント基板、Pb0 基板本体、R1 試料室、R2 空間、Tb1 正極タブリード、Tb2 負極タブリード、Tm1 正極端子、Tm2 負極端子、W 窓、W1,W2 配線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9