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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098719
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】反射防止フィルム及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/11 20150101AFI20240717BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20240717BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20240717BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240717BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240717BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20240717BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240717BHJP
【FI】
G02B1/11
G02B1/14
G02B1/18
B32B7/023
G09F9/00 313
H10K50/86
H10K59/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002368
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 聖彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 佳史
【テーマコード(参考)】
2K009
3K107
4F100
5G435
【Fターム(参考)】
2K009AA05
2K009AA07
2K009AA15
2K009BB28
2K009CC03
2K009CC09
2K009CC24
2K009CC26
2K009EE05
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC32
3K107CC33
3K107EE21
3K107FF07
3K107FF08
3K107FF15
4F100AK12B
4F100AK25B
4F100AL05B
4F100AT00A
4F100BA02C
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CA18B
4F100CA23B
4F100CB05E
4F100DE01B
4F100EJ08B
4F100EJ54B
4F100EJ65E
4F100GB41
4F100JG10
4F100JG10D
4F100JK12B
4F100JK14D
4F100JL06D
4F100JN01A
4F100JN06C
4F100JN18C
4F100YY00B
4F100YY00D
5G435AA16
5G435DD11
5G435FF02
5G435HH03
(57)【要約】
【課題】外光の映り込みを抑制しつつ、放電痕の発生を抑制できる反射防止フィルム、及び当該反射防止フィルムを用いた画像表示装置を提供する。
【解決手段】反射防止フィルム10は、透明フィルム基材11、ハードコート層12、反射防止層13及び防汚層19をこの順に有する。防汚層19は、反射防止フィルム10の最表層である。防汚層19の反射防止層13側とは反対側の主面19aの最大高さRzは、0.40μm以上である。反射防止フィルム10では、防汚層19の反射防止層13側とは反対側の主面19aに5.0Vのバイアス電圧を印加した際、主面19aの最大表面電位が5.8V以下である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム基材、ハードコート層、反射防止層及び防汚層をこの順に有し、かつ前記防汚層が最表層である反射防止フィルムであって、
前記防汚層の前記反射防止層側とは反対側の主面の最大高さRzが、0.40μm以上であり、
前記防汚層の前記反射防止層側とは反対側の主面に5.0Vのバイアス電圧を印加した際の前記主面の最大表面電位が、5.8V以下である、反射防止フィルム。
【請求項2】
前記反射防止層は、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなる、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層は、個数平均一次粒子径0.5μm以上の粒子を含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層と前記反射防止層との間に配置されたプライマー層を更に備える、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記透明フィルム基材の前記ハードコート層側とは反対側に配置された粘着剤層を更に備える、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
画像表示パネルと、前記画像表示パネルの視認側に配置された、請求項1に記載の反射防止フィルムとを備える、画像表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルム及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の視認側には、外光の反射による画質低下の防止、コントラスト向上等を目的として、反射防止フィルムが配置されている。反射防止フィルムは、透明フィルム基材上に、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる反射防止層を備える。
【0003】
例えば、特許文献1には、ハードコートフィルム上にSiOプライマー層を備え、その上に、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb)層と低屈折率層としての酸化シリコン(SiO)層との交互積層体からなる反射防止層を備える反射防止フィルムが開示されている。また、特許文献1には、反射防止フィルムの最表層として、フッ素含有化合物から得られる防汚層を設けてもよいことが記載されている。防汚層を設けることにより、反射防止フィルム表面に汚れが付きにくくなり、更に、汚れが付いた場合でも、拭き取り性能を上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-47876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反射防止フィルムは、帯電した使用者の手指等との間で静電気放電が発生する場合がある。反射防止フィルムと手指等との間で静電気放電が発生すると、反射防止フィルムの表面(例えば、防汚層の表面)に放電痕が生じる場合がある。この放電痕は、外光の映り込みを抑制する目的で表面に凹凸を形成した防眩性反射防止フィルムにおいて、顕著に発生する傾向がある。反射防止フィルムに生じた放電痕は、ディスプレイの視認性低下の原因となる。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、外光の映り込みを抑制しつつ、放電痕の発生を抑制できる反射防止フィルム、及び当該反射防止フィルムを用いた画像表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<本発明の態様>
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0008】
[1]透明フィルム基材、ハードコート層、反射防止層及び防汚層をこの順に有し、かつ前記防汚層が最表層である反射防止フィルムであって、
前記防汚層の前記反射防止層側とは反対側の主面の最大高さRzが、0.40μm以上であり、
前記防汚層の前記反射防止層側とは反対側の主面に5.0Vのバイアス電圧を印加した際の前記主面の最大表面電位が、5.8V以下である、反射防止フィルム。
【0009】
[2]前記反射防止層は、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなる、前記[1]に記載の反射防止フィルム。
【0010】
[3]前記ハードコート層は、個数平均一次粒子径0.5μm以上の粒子を含む、前記[1]又は[2]に記載の反射防止フィルム。
【0011】
[4]前記ハードコート層と前記反射防止層との間に配置されたプライマー層を更に備える、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の反射防止フィルム。
【0012】
[5]前記透明フィルム基材の前記ハードコート層側とは反対側に配置された粘着剤層を更に備える、前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の反射防止フィルム。
【0013】
[6]画像表示パネルと、前記画像表示パネルの視認側に配置された、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の反射防止フィルムとを備える、画像表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外光の映り込みを抑制しつつ、放電痕の発生を抑制できる反射防止フィルム、及び当該反射防止フィルムを用いた画像表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る反射防止フィルムの一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る反射防止フィルムの他の例を示す断面図である。
図3】本発明に係る画像表示装置の一例を示す断面図である。
図4】静電気放電試験用の試料の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「屈折率」は、温度23℃の雰囲気下における波長550nmの光に対する屈折率である。層状物(より具体的には、透明フィルム基材、ハードコート層、反射防止層、防汚層、粘着剤層等)の「主面」とは、層状物の厚み方向に直交する面をさす。反射防止フィルムを構成する各層の「厚み(膜厚)」の数値は、何ら規定していなければ、層を厚み方向に切断した断面の画像から無作為に測定箇所を10箇所選択し、選択した10箇所の測定箇所の厚みを測定して得られた10個の測定値の算術平均値である。
【0017】
粒子の個数平均一次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトウェア(例えば、アメリカ国立衛生研究所製「ImageJ」)を用いて測定した、100個の一次粒子の円相当径(ヘイウッド径:一次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。
【0018】
「固形分」とは組成物中の不揮発成分であり、例えば、溶媒以外の成分である。
【0019】
「静電気力顕微鏡(Electrostatic Force Microscope)」は、走査型プローブ顕微鏡の一種であり、試料表面にバイアス電圧を印加することで、試料表面の静電気力を画像化する顕微鏡である。以下、静電気力顕微鏡を、「EFM」と記載することがある。
【0020】
流量の単位「sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)」は、標準状態(温度:0℃、圧力:101.3kPa)における流量の単位「mL/min」である。
【0021】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリレート及びメタクリレートを包括的に「(メタ)アクリレート」と総称する場合がある。本明細書に例示の成分や官能基等は、特記しない限り、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
以下の説明において参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。また、説明の都合上、後に説明する図面において、先に説明した図面と同一構成部分については、同一符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0023】
<第1実施形態:反射防止フィルム>
本発明の第1実施形態に係る反射防止フィルムは、透明フィルム基材、ハードコート層、反射防止層及び防汚層をこの順に有する積層体である。第1実施形態に係る反射防止フィルムでは、防汚層が最表層である。防汚層の反射防止層側とは反対側の主面の最大高さRzは、0.40μm以上である。防汚層の反射防止層側とは反対側の主面に5.0Vのバイアス電圧を印加した際、上記主面の最大表面電位が5.8V以下である。
【0024】
以下、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面に5.0Vのバイアス電圧を印加した際の当該主面の最大表面電位を、単に「最大表面電位」と記載することがある。また、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面に5.0Vのバイアス電圧を印加した際の当該主面の最小表面電位を、単に「最小表面電位」と記載することがある。最大表面電位は、防汚層の電荷拡散性の指標となる。つまり、最大表面電位が低いほど、防汚層表面の電荷が拡散しやすくなる傾向がある。防汚層の表面電位(詳しくは、最大表面電位及び最小表面電位)は、例えば、ハードコート層の表面処理方法、防汚層の厚み、防汚層の表面形状(より具体的には、防汚層表面の最大高さRz等)、防汚層を形成するための材料、及び防汚層の形成方法のうちの少なくとも1つを変更することにより、調整できる。防汚層の最大表面電位及び最小表面電位の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0025】
第1実施形態に係る反射防止フィルムによれば、上述の構成を備えることにより、外光の映り込みを抑制しつつ、放電痕の発生を抑制できる。その理由は、以下のように推測される。
【0026】
第1実施形態に係る反射防止フィルムでは、最表層である防汚層の主面(詳しくは、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面)の最大高さRzが、0.40μm以上である。このため、第1実施形態に係る反射防止フィルムは、防眩性が高くなる傾向がある。よって、第1実施形態に係る反射防止フィルムによれば、外光の映り込みを抑制できる。
【0027】
また、防汚層表面の凹部は、防汚層表面の凸部に比べて電荷が滞留しやすい傾向があることが、本発明者らの検討により判明した。防汚層表面の凹部に電荷が滞留していると、反射防止フィルムと手指等との間で静電気放電が発生した際に、電荷が滞留した凹部を起点として放電痕が生じやすくなる。この傾向は、防汚層表面の凹凸が大きいほど、顕著にみられる。これに対し、第1実施形態に係る反射防止フィルムでは、防汚層の電荷拡散性の指標となる最大表面電位が、5.8V以下である。これにより、第1実施形態に係る反射防止フィルムは、防汚層表面の最大高さRzが0.40μm以上であるにもかかわらず、防汚層の電荷拡散性が高くなる傾向がある。よって、第1実施形態に係る反射防止フィルムは、放電痕の起点となる電荷の滞留が抑制されるため、放電痕の発生を抑制できる。
【0028】
第1実施形態において、放電痕の発生をより抑制するためには、最大表面電位が、5.70V以下であることが好ましく、5.60V以下であることがより好ましく、5.50V以下であることが更に好ましく、5.40V以下であることが更により好ましく、5.20V以下、5.00V以下、4.80V以下又は4.70V以下であってもよい。第1実施形態において、外光の映り込みをより抑制するためには、最大表面電位が、4.00V以上であることが好ましく、4.10V以上であることがより好ましく、4.20V以上、4.30V以上、4.40V以上又は4.50V以上であってもよい。
【0029】
第1実施形態において、放電痕の発生をより抑制するためには、最小表面電位が、5.50V以下であることが好ましく、5.40V以下であることがより好ましく、5.30V以下であることが更に好ましく、5.20V以下であることが更により好ましく、5.00V以下であることが特に好ましく、4.80V以下、4.60V以下又は4.40V以下であってもよい。第1実施形態において、外光の映り込みをより抑制するためには、最小表面電位が、3.70V以上であることが好ましく、3.80V以上であることがより好ましく、3.90V以上、4.00V以上、4.10V以上又は4.20V以上であってもよい。
【0030】
以下、第1実施形態に係る反射防止フィルムの構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る反射防止フィルムの一例を示す断面図である。図1に示す反射防止フィルム10は、透明フィルム基材11、ハードコート層12、反射防止層13及び防汚層19をこの順に有する。防汚層19は、反射防止フィルム10の最表層である。防汚層19の反射防止層13側とは反対側の主面19aの最大高さRzは、0.40μm以上である。反射防止フィルム10では、防汚層19の反射防止層13側とは反対側の主面19aに5.0Vのバイアス電圧を印加した際、主面19aの最大表面電位が5.8V以下である。
【0031】
また、反射防止フィルム10は、ハードコート層12と反射防止層13との間に配置されたプライマー層18を更に備える。つまり、反射防止フィルム10は、透明フィルム基材11、ハードコート層12、プライマー層18、反射防止層13及び防汚層19をこの順に有する。
【0032】
反射防止層13は、ハードコート層12側(プライマー層18側)から、高屈折率層14、低屈折率層15、高屈折率層16及び低屈折率層17の4層をこの順に有する。高屈折率層及び低屈折率層の詳細については、後述する。なお、反射防止フィルムの反射防止層は、反射防止層13のような4層構成に限定されず、2層構成、3層構成、5層構成、又は6層以上の積層構成であってもよい。また、反射防止フィルムの反射防止層は、単層構成であってもよい。反射防止フィルムの反射防止層は、好ましくは、2層以上の高屈折率層と2層以上の低屈折率層との交互積層体である。
【0033】
反射防止フィルムは、図1に示す反射防止フィルム10とは異なる層構成であってもよい。例えば、反射防止フィルムは、図2に示すように、透明フィルム基材11のハードコート層12側とは反対側に配置された粘着剤層21を更に備える、反射防止フィルム20であってもよい。
【0034】
粘着剤層21を構成する粘着剤は、特に限定されず、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、変性ポリオレフィン、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、天然ゴム、合成ゴム等のポリマーをベースポリマーとする透明な粘着剤を、適宜に選択して用いることができる。粘着剤層21の厚みは、特に限定されないが、薄層性及び接着性を両立させる観点から、5μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0035】
粘着剤層21の透明フィルム基材11側とは反対側の主面には、はく離ライナー(不図示)が仮着されていてもよい。はく離ライナーは、例えば、反射防止フィルム20を後述する画像表示パネル101(図3参照)と貼り合わせるまでの間、粘着剤層21の表面を保護する。はく離ライナーの構成材料としては、アクリル、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル等から形成されたプラスチックフィルムが好適に用いられる。はく離ライナーの厚みは、例えば、5μm以上200μm以下である。はく離ライナーの表面には、離型処理が施されていることが好ましい。離型処理に使用される離型剤の材料としては、シリコーン系材料、フッ素系材料、長鎖アルキル系材料、脂肪酸アミド系材料等が挙げられる。
【0036】
以上、図面を参照しながら第1実施形態に係る反射防止フィルムの構成について説明したが、本発明に係る反射防止フィルムは、上述した構成に限定されない。
【0037】
例えば、本発明に係る反射防止フィルムは、プライマー層を備えていない反射防止フィルムであってもよい。また、本発明に係る反射防止フィルムは、上述した構成に含まれる層(透明フィルム基材、ハードコート層、プライマー層、反射防止層及び防汚層)とは異なる光学機能層を備えていてもよい。
【0038】
次に、第1実施形態に係る反射防止フィルムの要素について説明する。
【0039】
[透明フィルム基材]
透明フィルム基材は、例えば可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。透明フィルム基材を構成する材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアリレート樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)が挙げられる。これらの材料は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。透明フィルム基材の材料としては、透明性及び強度の観点から、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びセルロース樹脂からなる群より選択される一種が好ましく、PET、COP、及びTACからなる群より選択される一種がより好ましく、TACが更に好ましい。つまり、透明フィルム基材としては、ポリエステル樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルム、及びセルロース樹脂フィルムからなる群より選択される一種のフィルムが好ましく、PETフィルム、COPフィルム、及びTACフィルムからなる群より選択される一種のフィルムがより好ましく、TACフィルムが更に好ましい。
【0040】
透明フィルム基材の厚みは、強度の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。透明フィルム基材の厚みは、取扱い性の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0041】
透明フィルム基材の一方の主面又は両主面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。
【0042】
透明フィルム基材の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、反射防止フィルムの透明性を向上させる観点から、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上100%以下である。
【0043】
[ハードコート層]
ハードコート層は、反射防止フィルムの硬度や弾性率等の機械的特性を高める層である。ハードコート層は、例えば、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)の硬化物からなる。硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、及びメラミン樹脂が挙げられる。これらの硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。ハードコート層の硬度を高める観点から、硬化性樹脂としては、アクリル樹脂及びウレタンアクリレート系樹脂からなる群より選択される一種以上が好ましく、ウレタンアクリレート系樹脂がより好ましい。
【0044】
また、硬化性樹脂組成物としては、例えば、紫外線硬化型の樹脂組成物、及び熱硬化型の樹脂組成物が挙げられる。反射防止フィルムの生産性向上の観点から、硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化型の樹脂組成物が好ましい。紫外線硬化型の樹脂組成物には、紫外線硬化型モノマー、紫外線硬化型オリゴマー及び紫外線硬化型ポリマーからなる群より選択される一種以上が含まれる。紫外線硬化型の樹脂組成物の具体例としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0045】
また、硬化性樹脂組成物は、個数平均一次粒子径が0.5μm以上の粒子(以下、「マイクロ粒子」と記載することがある)を含有してもよい。つまり、ハードコート層は、マイクロ粒子を含有してもよい。硬化性樹脂組成物にマイクロ粒子を配合することにより、ハードコート層における、硬さの調整、表面粗さの調整、屈折率の調整及び防眩性の調整が可能となる。特に、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面の最大高さRzを、0.40μm以上に容易に調整するためには、ハードコート層がマイクロ粒子を含有することが好ましい。マイクロ粒子としては、例えば、金属(又は半金属)の酸化物粒子、ガラス粒子、及び有機粒子が挙げられる。金属(又は半金属)の酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、及び酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、(メタ)アクリレート系化合物-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリメチルシルセスキオキサン及びポリカーボネートが挙げられる。
【0046】
ハードコート層の防眩性を容易に調整するためには、マイクロ粒子の個数平均一次粒子径が、1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上4.0μm以下であることがより好ましい。
【0047】
ハードコート層の防眩性を容易に調整するためには、ハードコート層におけるマイクロ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ハードコート層におけるマイクロ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0048】
また、硬化性樹脂組成物は、個数平均一次粒子径が0.5μm未満の粒子(以下、「ナノ粒子」と記載することがある)を含んでいてもよい。ハードコート層がナノ粒子を含む硬化性樹脂組成物の硬化物からなる場合、ハードコート層の表面に、微細な凹凸が形成され、ハードコート層と、その上に形成される層との密着性が向上する傾向がある。
【0049】
密着性向上に寄与する微細な凹凸形状を形成する観点から、ナノ粒子の個数平均一次粒子径は、20nm以上80nm以下であることが好ましく、25nm以上70nm以下であることがより好ましく、30nm以上60nm以下であることが更に好ましい。
【0050】
ナノ粒子の材料としては、無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化シリコン(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化マグネシウム等の金属(又は半金属)の酸化物が挙げられる。無機酸化物は、複数種の(半)金属の複合酸化物でもよい。例示の無機酸化物の中でも、密着性向上効果が高いことから、酸化シリコンが好ましい。つまり、ナノ粒子としては、酸化シリコンの粒子(シリカ粒子)が好ましい。ナノ粒子としての無機酸化物粒子の表面には、樹脂との密着性や親和性を高める目的で、アクリル基、エポキシ基等の官能基が導入されていてもよい。
【0051】
ハードコート層におけるナノ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ナノ粒子の量が5重量部以上であれば、ハードコート層上に形成される層との密着性をより向上させることができる。ハードコート層におけるナノ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0052】
硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)は、例えば、上述した硬化性樹脂、及び重合開始剤(例えば光重合開始剤)を含み、必要に応じてこれらの成分を溶解又は分散可能な溶媒を含む。また、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)は、上記成分の他に、マイクロ粒子、ナノ粒子、レベリング剤、粘度調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、分散安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0053】
ハードコート層形成用組成物がチクソトロピー剤を含むことにより、マイクロ粒子の沈降が抑制され、ハードコート層の表面にマイクロ粒子による凹凸が均一に形成されやすくなる傾向がある。チクソトロピー剤としては、有機粘土、酸化ポリオレフィン、変性ウレア等が挙げられる。中でも、スメクタイト等の有機粘土が好ましい。チクソトロピー剤の配合量としては、硬化性樹脂100重量部に対して、0.3重量部以上5重量部以下が好ましい。
【0054】
防汚層表面には、例えばハードコート層表面の凹凸形状が反映される。よって、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面の最大高さRzは、例えば、ハードコート層形成用組成物中のマイクロ粒子の粒子径、ハードコート層形成用組成物中のマイクロ粒子の量、ハードコート層形成用組成物中のチクソトロピー剤の種類、及びハードコート層形成用組成物中のチクソトロピー剤の量のうちの少なくとも1つを変更することにより、調整できる。
【0055】
ハードコート層の厚みは、ハードコート層の硬度を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。ハードコート層の厚みは、反射防止フィルムの柔軟性確保の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、更により好ましくは30μm以下である。
【0056】
[プライマー層]
ハードコート層と反射防止層との密着性を高めるためには、ハードコート層と反射防止層との間にプライマー層が設けられることが好ましい。プライマー層の材料としては、シリコン、ニッケル、クロム、スズ、金、銀、白金、亜鉛、チタン、インジウム、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム等の金属(又は半金属);これらの金属(又は半金属)の合金;これらの金属(又は半金属)の酸化物、フッ化物、硫化物又は窒化物等が挙げられる。プライマー層を構成する酸化物は、酸化インジウムスズ(ITO)等の複合酸化物でもよい。中でも、プライマー層の材料としては、無機酸化物が好ましく、酸化シリコン、酸化インジウム又はITOがより好ましく、SiOx(x<2)が更に好ましい。
【0057】
ハードコート層と反射防止層との密着性を高めつつ、プライマー層の光透過性を確保するためには、プライマー層の厚みは、0.5nm以上20nm以下であることが好ましく、0.5nm以上10nm以下であることがより好ましく、1.0nm以上10nm以下であることが更に好ましい。
【0058】
[反射防止層]
反射防止層は、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなることが好ましい。一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。反射防止層を、屈折率の異なる2層以上の薄膜の多層積層体とすることにより、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0059】
反射防止層を構成する薄膜の材料としては、金属(又は半金属)の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。反射防止層は、好ましくは、高屈折率層と低屈折率層の交互積層体である。
【0060】
高屈折率層は、屈折率が、例えば1.9以上であり、好ましくは2.0以上である。高屈折率層の材料としては、酸化チタン、酸化ニオブ(Nb等)、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、ITO、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。中でも、酸化チタン及び酸化ニオブからなる群より選択される一種以上が好ましい。低屈折率層は、屈折率が、例えば1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。低屈折率層の材料としては、酸化シリコン(SiO等)、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。中でも酸化シリコンが好ましい。特に、高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン薄膜とを交互に積層することが好ましい。低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.6超1.9未満の中屈折率層が設けられてもよい。
【0061】
高屈折率層及び低屈折率層の膜厚は、それぞれ、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。屈折率や積層構成等に応じて、可視光の反射率が小さくなるように、各層の膜厚を設計すればよい。例えば、高屈折率層と低屈折率層の積層構成としては、ハードコート層側から、光学膜厚20nm以上55nm以下の高屈折率層、光学膜厚25nm以上55nm以下の低屈折率層、光学膜厚80nm以上250nm以下の高屈折率層、及び光学膜厚100nm以上150nm以下の低屈折率層からなる4層構成が挙げられる。
【0062】
反射防止層が、高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン薄膜とを交互に積層させた、4層の交互積層体である場合、反射防止層の構成としては、ハードコート層側から、厚み5nm以上20nm以下の酸化ニオブ薄膜、厚み10nm以上40nm以下の酸化シリコン薄膜、厚み65nm以上120nm以下の酸化ニオブ薄膜、及び厚み60nm以上100nm以下の酸化シリコン薄膜をこの順に備える構成が挙げられる。
【0063】
耐屈曲性に優れる反射防止フィルムを得るためには、反射防止層の厚みは、140nm以上280nm以下であることが好ましく、170nm以上280nm以下であることがより好ましく、180nm以上260nm以下であることが更に好ましく、190nm以上250nm以下であることが更により好ましい。なお、本明細書において、「反射防止層の厚み」は、反射防止層を構成する各層の厚みの合計(合計厚み)である。
【0064】
[防汚層]
第1実施形態に係る反射防止フィルムは、最表層として防汚層を備える。最表層として防汚層が設けられることにより、例えば、外部環境からの汚染(指紋、手垢、埃等)の影響を低減できるとともに、反射防止フィルムの表面に付着した汚染物質の除去が容易となる。
【0065】
反射防止層の反射防止性能の低下を抑制するためには、防汚層は、反射防止層の最表層(例えば、酸化シリコン層)との屈折率差が小さいことが好ましい。防汚層の屈折率としては、1.6以下が好ましく、1.55以下がより好ましい。
【0066】
防汚層は、例えば、化学式CFO-(詳しくは、CF-O-)で表される末端構造を有するフッ素含有化合物を含む。化学式CFO-で表される末端構造を有するフッ素含有化合物は、防汚性に優れつつ、低屈折率化に寄与し得る。中でも、撥水性に優れ、高い防汚性を発揮できることから、フッ素含有化合物としては、パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物が好ましい。パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物としては、下記の一般式で表される化合物が挙げられる。
CF-(OCF-(OC-O-(CH-Si(OCH
【0067】
上記一般式において、mは、1以上51以下の整数を表し、nは、1以上50以下の整数を表す。
【0068】
また、化学式CFO-で表される末端構造を有するフッ素含有化合物は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。なお、フッ素含有化合物として、上記アルコキシシラン化合物を用いる場合、上記アルコキシシラン化合物は、末端のアルコキシ基が反応した状態(架橋した状態)で防汚層中に存在していてもよい。
【0069】
防汚層の厚みは、例えば、2nm以上50nm以下である。防汚層の厚みが大きいほど、防汚性が向上する傾向がある。防汚層の厚みは、5nm以上であることが好ましく、6nm以上であることがより好ましく、7nm以上であることが更に好ましい。一方、外光の映り込みをより抑制するためには、防汚層の厚みは、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることが更に好ましい。防汚層の厚みの測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。なお、反射防止フィルムの最表層に設けられる防汚層のような、ナノオーダーの有機フッ素化合物層は、通常、電子顕微鏡で厚みを測定することが困難である。
【0070】
(防汚層の表面形状パラメータ)
防汚層の反射防止層側とは反対側の主面(以下、単に「防汚層表面」と記載することがある)の最大高さRzは、0.40μm以上であり、外光の映り込みをより抑制するためには、0.45μm以上であることが好ましく、0.50μm以上であることがより好ましく、0.55μm以上であることが更に好ましい。放電痕の発生をより抑制するためには、防汚層表面の最大高さRzは、1.50μm以下であることが好ましく、1.40μm以下であることがより好ましく、1.30μm以下であることが更に好ましく、1.20μm以下であることが更により好ましい。
【0071】
防汚層表面の算術平均粗さRaは、0.05μm以上0.30μm以下であることが好ましく、0.06μm以上0.25μm以下であることがより好ましい。防汚層表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmは、0.06mm以上0.20mm以下であることが好ましく、0.08mm以上0.18mm以下であることがより好ましい。防汚層表面の平均傾斜角θaは、0.10°以上2.00°以下であることが好ましく、0.30°以上1.70°以下であることがより好ましく、0.50°以上1.50°以下であることが更に好ましい。平均傾斜角θaは、基準長さL(=4mm)の粗さ曲線において、隣り合う山の頂点と谷の最下点との差(高さh)の合計(h+h+h・・・+h)を基準長さLで割った値Δaを用いて、下記式から算出される。
θa=tan-1Δa
【0072】
防汚層の表面形状パラメータの測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0073】
[反射防止フィルムの製造方法]
次に、第1実施形態に係る反射防止フィルムの好適な製造方法(以下、「製造方法A」と記載することがある)について説明する。
【0074】
製造方法Aは、透明フィルム基材の一方の主面にハードコート層を形成するハードコート層形成工程と、ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側に反射防止層を成膜する反射防止層形成工程と、反射防止層のハードコート層側とは反対側に防汚層を形成する防汚層形成工程とを備える。
【0075】
また、製造方法Aは、上記工程以外の工程(他の工程)を備えていてもよい。他の工程としては、例えば、後述するハードコート層の表面処理工程及びプライマー層形成工程が挙げられる。
【0076】
以下、製造方法Aの一例が備える各工程について説明する。
【0077】
(ハードコート層形成工程)
ハードコート層形成工程は、透明フィルム基材の一方の主面にハードコート層を形成する工程である。例えば、透明フィルム基材上に硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)を塗布し、必要に応じて溶媒の除去及び樹脂の硬化を行うことにより、ハードコート層が形成される。ハードコート層形成用組成物は、例えば、上述した硬化性樹脂、及び重合開始剤(例えば光重合開始剤)を含み、必要に応じてこれらの成分を溶解又は分散可能な溶媒を含む。
【0078】
ハードコート層形成用組成物は、上記成分の他に、マイクロ粒子、ナノ粒子、レベリング剤、粘度調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、分散安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0079】
ハードコート層形成用組成物の塗布方法としては、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、スロットオリフィスコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、コンマコート法等の任意の適切な方法を採用し得る。塗布後の塗膜の乾燥温度は、ハードコート層形成用組成物の組成等に応じて、適切な温度に設定すればよく、例えば、50℃以上150℃以下である。ハードコート層形成用組成物中の樹脂成分が熱硬化性樹脂である場合は、加熱によって塗膜を硬化させる。ハードコート層形成用組成物中の樹脂成分が光硬化性樹脂である場合は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することによって塗膜を硬化させる。照射光の積算光量は、好ましくは100mJ/cm以上500mJ/cm以下である。
【0080】
(ハードコート層の表面処理工程)
ハードコート層の表面処理工程では、ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側の主面を表面改質処理する。表面改質処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。表面改質処理がプラズマ処理である場合、不活性ガスとしては、例えばアルゴンガス等の希ガスが使用される。以下、表面改質処理がプラズマ処理である場合の処理条件について説明する。
【0081】
最大表面電位を低下させることにより放電痕の発生をより抑制するためには、プラズマ処理装置内に希ガス及び酸素ガスを導入しながら、ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側の主面をプラズマ処理することが好ましい。以下、プラズマ処理装置内に希ガス及び酸素ガスを導入しながら、ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側の主面をプラズマ処理する工程を、「酸素併用プラズマ処理工程」と記載することがある。
【0082】
酸素併用プラズマ処理工程により最大表面電位を低下させることができる理由は、以下のように推測される。
【0083】
酸素併用プラズマ処理工程により、ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側の主面にナノサイズの微小凹凸形状が形成される。この微小凹凸形状に起因して、例えば、ハードコート層上に成膜するスパッタ膜(詳しくは、反射防止層等)の柱状成長が促進され、その結果、反射防止層の電荷拡散性が高くなると推測される。反射防止層の電荷拡散性が高いと、反射防止層上に形成される防汚層の表面の帯電量が低くなり、最大表面電位が低くなる傾向がある。
【0084】
最大表面電位を低下させることにより放電痕の発生をより抑制するためには、希ガスの導入量及び酸素ガスの導入量の合計に対する、酸素ガスの導入量の比(流量比)は、0.0009以上0.0500以下であることが好ましい。
【0085】
最大表面電位を低下させることにより放電痕の発生をより抑制するためには、酸素併用プラズマ処理工程における圧力は、0.1Pa以上1.0Pa以下であることが好ましく、0.3Pa以上0.8Pa以下であることがより好ましい。
【0086】
最大表面電位を低下させることにより放電痕の発生をより抑制するためには、酸素併用プラズマ処理工程における実効パワー密度は、0.01W・min/cm・m以上であることが好ましく、0.02W・min/cm・m以上であることがより好ましく、0.03W・min/cm・m以上であることが更に好ましい。酸素併用プラズマ処理工程において、透明フィルム基材の変形を抑制するためには、酸素併用プラズマ処理工程における実効パワー密度は、0.60W・min/cm・m以下であることが好ましく、0.55W・min/cm・m以下であることがより好ましく、0.50W・min/cm・m以下であることが更に好ましく、0.45W・min/cm・m以下であることが更により好ましく、0.40W・min/cm・m以下であることが特に好ましく、0.35W・min/cm・m以下であってもよい。なお、実効パワー密度とは、プラズマ出力のパワー密度(W/cm)をロールトゥロール方式によるフィルムの搬送速度(m/min)で割った値である。プラズマ出力が同一でも搬送速度が大きい場合は、実効的な処理パワーは低下する。
【0087】
(プライマー層形成工程)
プライマー層形成工程は、ハードコート層上にプライマー層を形成(成膜)する工程である。プライマー層の成膜方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましい。また、生産性を高める観点から、プライマー層の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。
【0088】
ロールトゥロール方式のスパッタ法では、長尺のフィルム(例えば、ハードコート層が形成された透明フィルム基材)を長手方向(MD方向)に搬送しながら、例えば、プライマー層及び反射防止層を連続成膜できる。スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス、及び必要に応じて酸素等の反応性ガスを成膜室内に導入しながら成膜が行われる。プライマー層として酸化物層を成膜する場合、スパッタ法による酸化物層の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、及び金属(又は半金属)ターゲットを用いる反応性スパッタのいずれでも実施できる。
【0089】
スパッタ法を実施するための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、RF電源、及び、MFAC電源(周波数帯が数kHz~数MHzのAC電源)が挙げられる。スパッタ法を実施する際のパワー密度は、例えば0.1W/cm以上20W/cm以下であり、好ましくは1W/cm以上15W/cm以下である。スパッタ法を実施する際の成膜ロールの表面温度は、例えば-25℃以上25℃以下であり、好ましくは-20℃以上0℃以下である。スパッタ法を実施する際の成膜室内の圧力は、好ましくは0.01Pa以上10Pa以下であり、より好ましくは0.05Pa以上5Pa以下であり、更に好ましくは0.1Pa以上1Pa以下である。
【0090】
(反射防止層形成工程)
反射防止層形成工程では、ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側(例えば、ハードコート層表面又はプライマー層表面)に反射防止層を成膜する。反射防止層の成膜方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましい。また、生産性を高める観点から、反射防止層の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ法が好ましい。反射防止層形成工程でスパッタ法を実施する際は、例えば、上述した(プライマー層形成工程)で説明した条件の中で成膜条件を適宜設定することができる。
【0091】
(防汚層形成工程)
防汚層形成工程は、反射防止層のハードコート層側とは反対側に防汚層を形成する工程である。防汚層形成工程では、例えばフッ素含有化合物を材料として用い、ウェットコーティング法(以下、「Wet法」と記載することがある)又はドライコーティング法(以下、「Dry法」と記載することがある)で防汚層を形成する。
【0092】
Wet法としては、フッ素含有化合物を含むフッ素系塗工液を、反射防止層の表面に塗布することにより塗膜を形成した後、この塗膜を加熱することにより乾燥させて、防汚層を形成する方法が挙げられる。外光の映り込みをより抑制しつつ、放電痕の発生をより抑制できる反射防止フィルムを得るためには、上記加熱前の塗膜の厚み(以下、「Wet厚み」と記載することがある)は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。Wet法における加熱温度は、例えば、40℃以上80℃以下である。Wet法における加熱時間は、例えば、30秒以上120秒以下である。
【0093】
なお、本明細書において、Wet法で得られた防汚層の厚みは、Wet厚み(単位:nm)と、フッ素系塗工液の固形分濃度(単位:体積%)とから算出される。詳しくは、Wet厚みをTWetとし、フッ素系塗工液の固形分濃度をCとした場合に、Wet法で得られた防汚層の厚み(単位:nm)は、式「Wet法で得られた防汚層の厚み=TWet×C/100」から算出される。外光の映り込みをより抑制しつつ、放電痕の発生をより抑制できる反射防止フィルムを得るためには、Wet法で得られた防汚層の厚みは、9nm以上30nm以下であることが好ましく、10nm以上20nm以下であることがより好ましい。
【0094】
Dry法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、及びCVD法が挙げられ、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法で防汚層を形成する場合、材料(蒸着源)の加熱温度は、例えば、200℃以上300℃以下である。
【0095】
外光の映り込みをより抑制しつつ、放電痕の発生をより抑制できる反射防止フィルムを得るためには、Dry法で得られた防汚層の厚みは、7nm以上20nm以下であることが好ましく、7nm以上15nm以下であることがより好ましい。Dry法で得られた防汚層の厚みの測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0096】
Wet法で形成した防汚層は、凹部の厚みが薄くなる傾向がある。防汚層の凹部の厚みが過度に薄くなると、当該凹部に電荷が滞留しやすくなり、最大表面電位が高くなる傾向がある。一方、Dry法で形成した防汚層は、凹部と凸部の厚みの差が比較的小さい傾向がある。よって、最大表面電位を5.8V以下に容易に調整するためには、防汚層を、Dry法で形成することが好ましく、真空蒸着法で形成することがより好ましい。つまり、最大表面電位を5.8V以下に容易に調整するためには、防汚層は、真空蒸着膜であることが好ましい。
【0097】
なお、防汚層形成工程では、反射防止層のハードコート層側とは反対側に、フッ素含有化合物を含む層(以下、「フッ素含有層」と記載することがある)を形成した後、フッ素含有層の表層に存在するフッ素含有化合物の余剰分を除去することにより、防汚層を形成してもよい。上記余剰分の除去方法としては、例えば、後述する実施例1の[防汚層形成工程]において説明する方法が挙げられる。
【0098】
[反射防止フィルムの好ましい態様]
外光の映り込みを更に抑制しつつ、放電痕の発生を更に抑制できる反射防止フィルムを得るためには、第1実施形態に係る反射防止フィルムは、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましく、下記条件3を満たすことが更に好ましい。
条件1:最大表面電位が4.00V以上5.80V以下であり、かつ防汚層の反射防止層側とは反対側の主面の最大高さRzが0.40μm以上1.50μm以下である。
条件2:上記条件1を満たし、かつ最小表面電位が3.70V以上5.50V以下である。
条件3:上記条件2を満たし、かつ防汚層が真空蒸着膜である。
【0099】
<第2実施形態:画像表示装置>
次に、本発明の第2実施形態に係る画像表示装置について説明する。第2実施形態に係る画像表示装置は、画像表示パネルと、画像表示パネルの視認側に配置された、第1実施形態に係る反射防止フィルムとを備える。以下、第1実施形態と重複する内容については説明を省略する。
【0100】
図3は、第2実施形態に係る画像表示装置の一例を示す断面図である。図3に示す画像表示装置100は、画像表示パネル101と、画像表示パネル101の視認側(図3中の上方側)に配置された、第1実施形態に係る反射防止フィルムの一例である反射防止フィルム10とを備える。画像表示装置100では、反射防止フィルム10の透明フィルム基材11と画像表示パネル101とが粘着剤層21を介して貼り合わせられている。
【0101】
画像表示パネル101としては、液晶セル、有機ELセル等の画像表示セルを含む画像表示パネルが例示できる。
【0102】
第2実施形態に係る画像表示装置は、画像表示パネルの視認側に反射防止フィルムが配置されているため、外光の反射が低減され、視認性に優れる。また、第2実施形態に係る画像表示装置は、第1実施形態に係る反射防止フィルムを備えるため、外光の映り込みが低減され、かつ放電痕の発生を抑制できる。
【実施例0103】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0104】
<実施例1の反射防止フィルムの作製>
[ハードコート層形成工程]
紫外線硬化型のウレタンアクリレート(DIC社製「ルクシディア」)100重量部と、架橋ポリスチレン単分散粒子(綜研化学社製「SX―350H」、個数平均一次粒子径:3.5μm、屈折率:1.59)14重量部と、チクソトロピー剤(クニミネ工業社製「スメクトンSAN」、有機粘土である合成スメクタイト)2.5重量部と、光重合開始剤(IGM Resins社製「Omnirad907」)5重量部と、レベリング剤(DIC社製「メガファックF5-556」)0.5重量部と、トルエンとを混合し、固形分濃度32重量%のハードコート層形成用組成物を得た。次いで、透明フィルム基材としてのTACフィルム(厚み:40μm)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を、温度100℃で60秒間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。紫外線照射する際は、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算光量を300mJ/cmとした。これにより、TACフィルム上に厚み5μmのハードコート層を形成した。
【0105】
[ハードコート層の表面処理工程]
次いで、ロールトゥロール方式のプラズマ処理装置により、0.6Paの真空雰囲気下、ハードコート層が形成されたTACフィルムを搬送しながら、ハードコート層の表面をプラズマ処理した。プラズマ処理する際は、不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、実効パワー密度を0.34W・min/cm・mとした。これにより、TACフィルムと、プラズマ処理されたハードコート層とを備える積層体(以下、「光学フィルムF1」と記載することがある)を得た。
【0106】
次に、プライマー層形成工程及び反射防止層形成工程について説明する。なお、プライマー層形成工程及び反射防止層形成工程において、酸化物膜を形成(成膜)する際は、アルゴンガスと酸素ガスとを成膜室内に導入しながら成膜した。また、酸化物膜を形成(成膜)する際は、アルゴンガスの導入量及び排気量を調整することにより圧力を一定に保ちつつ、プラズマエミッションモニタリング(PEM)制御により、成膜モードが遷移領域を維持するように酸素ガスの導入量を調整した。
【0107】
[プライマー層形成工程]
上記手順で得られた光学フィルムF1を、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、成膜室内を1×10-4Paまで減圧した。次いで、光学フィルムF1を搬送しながら、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、反応性スパッタ法により、ハードコート層の一方の主面に、プライマー層として厚み4nmのSiOx層(x<2)を形成(成膜)した。プライマー層の形成には、ターゲット材料として、Siターゲットを用いた。また、反応性スパッタ法により成膜する際は、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とし、パワー密度を3W/cmとし、成膜室内の圧力を0.4Paとした。
【0108】
[反射防止層形成工程]
プライマー層の形成に続いて、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いてプライマー層形成後の光学フィルムF1を搬送しながら、反応性スパッタ法により、プライマー層の一方の主面に、第1層:厚み16nmの酸化ニオブ層(屈折率:2.33)、第2層:厚み19nmの酸化シリコン層(屈折率:1.46)、第3層:厚み102nmの酸化ニオブ層、及び第4層:厚み71nmの酸化シリコン層をこの順に成膜した。これにより、プライマー層の一方の主面に、4層構成(第1層、第2層、第3層及び第4層からなる4層構成)の反射防止層を形成した。なお、第1層~第4層の各層の成膜では、いずれも、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とした。また、第1層及び第3層の成膜では、いずれも、Nbターゲットを用い、パワー密度を13W/cmとし、成膜室内の圧力を0.6Paとした。また、第2層及び第4層の成膜では、いずれも、Siターゲットを用い、パワー密度を8W/cmとし、成膜室内の圧力を0.5Paとした。
【0109】
[防汚層形成工程]
コーティング剤(信越化学工業社製「SHIN-ETSU SUBELYN KY1903-1」)を乾燥して固化したものを蒸着源として用い、蒸着源の加熱温度を260℃にして、真空蒸着法(Dry法)により、反射防止層のプライマー層側とは反対側の主面にフッ素含有化合物を含む層(フッ素含有層)を形成した。使用したコーティング剤(信越化学工業社製「SHIN-ETSU SUBELYN KY1903-1」)の有効成分は、パーフルオロポリエーテル骨格を含有し、かつ化学式CFO-で表される末端構造を有するアルコキシシラン化合物(フッ素含有化合物)であった。次いで、得られたフッ素含有層上に、保護フィルム(日東電工社製「RP300C」)を貼り合わせた後、24時間放置した。そして、フッ素含有層から保護フィルムをはく離することにより、フッ素含有層の表層に存在するフッ素含有化合物の余剰分を除去した。これにより、反射防止層のプライマー層側とは反対側の主面に厚み8nmの防汚層を形成し、実施例1の反射防止フィルムを得た。なお、実施例1において形成された防汚層の厚み、並びに後述する実施例2及び3において形成された防汚層の厚みの測定方法は、以下のとおりである。
【0110】
[実施例1~3において形成された防汚層の厚みの測定方法]
測定対象の防汚層(実施例1~3のいずれかにおいて形成された防汚層)について、蛍光X線分析装置(リガク社製「ZSX-PRIMUS II」、測定径:ψ30mm)を用いて、フッ素の蛍光X線強度を測定した。また、測定基準として、後述する比較例2において形成された防汚層についても、蛍光X線分析装置(リガク社製「ZSX-PRIMUS II」、測定径:ψ30mm)を用いて、フッ素の蛍光X線強度を測定した。そして、測定対象の防汚層のフッ素の蛍光X線強度Iと、測定基準の防汚層のフッ素の蛍光X線強度Iと、測定基準の防汚層の厚みT(8nm)とから、測定対象の防汚層の厚みTを、式「T=T×I/I」により算出した。
【0111】
<実施例2の反射防止フィルムの作製>
ハードコート層の表面処理工程において、プラズマ処理する際に装置内に導入するガスとして、アルゴンガスと酸素ガスとを併用し、アルゴンガスの導入量及び酸素ガスの導入量の合計に対する、酸素ガスの導入量の比を0.033としたこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、実施例2の反射防止フィルムを得た。
【0112】
<実施例3の反射防止フィルムの作製>
ハードコート層形成工程を以下のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、実施例3の反射防止フィルムを得た。
【0113】
[実施例3のハードコート層形成工程]
紫外線硬化型のウレタンアクリレート(三菱ケミカル社製「紫光UV1700B」)40重量部と、ナノシリカ粒子を含有するアクリルモノマー組成物(荒川化学工業社製「NC035HS」、ナノシリカ粒子の個数平均一次粒子径:40nm、固形分濃度:50重量%、固形分中のナノシリカ粒子の含有率:60重量%)20重量部と、アクリレート系化合物(大阪有機化学工業社製「ビスコート#300」)40重量部と、メチルメタクリレートとスチレンとの共重合体粒子(積水化成品工業社製「SSX-103DXE」、個数平均一次粒子径:3.0μm、屈折率:1.52)5重量部と、ポリメチルシルセスキオキサン粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製「トスパール130ND」、個数平均一次粒子径:3.0μm、屈折率1.42)3重量部と、チクソトロピー剤(クニミネ工業社製「スメクトンSAN」、有機粘土である合成スメクタイト)1.5重量部と、光重合開始剤(IGM Resins社製「Omnirad184」)3重量部と、レベリング剤(DIC社製「GRANDIC PC4100」)0.1重量部と、酢酸ブチル及びシクロペンタノンの混合溶媒(重量比:酢酸ブチル/シクロペンタノン=68/32)とを混合し、固形分濃度40重量%のハードコート層形成用組成物を得た。次いで、透明フィルム基材としてのTACフィルム(厚み:40μm)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を、温度90℃で60秒間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。紫外線照射する際は、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算光量を230mJ/cmとした。これにより、TACフィルム上に厚み5μmのハードコート層を形成した。
【0114】
<比較例1の反射防止フィルムの作製>
防汚層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、比較例1の反射防止フィルムを得た。
【0115】
<比較例2の反射防止フィルムの作製>
防汚層形成工程を以下のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、比較例2の反射防止フィルムを得た。
【0116】
[比較例2の防汚層形成工程(Wet法)]
コーティング剤(信越化学工業社製「SHIN-ETSU SUBELYN KY1903-1」)とフッ素系溶剤(3M社製「フロリナートFC40」)とを混合し、固形分濃度0.10体積%のフッ素系塗工液を調製した。次に、調製したフッ素系塗工液を、反射防止層の表面(詳しくは、第4層である酸化シリコン層の一方の主面)に、Wet厚みが8μmとなるように塗布し、形成された塗膜(フッ素系塗工液からなる膜)を温度60℃で60秒間加熱することにより乾燥させた。これにより、反射防止層のプライマー層側とは反対側の主面に防汚層を形成した。比較例2において形成された防汚層の厚み(計算値)は、8nmであった。なお、上記Wet厚みは、分光膜厚計(大塚電子社製「MCPD-3000」)を用いて測定した。
【0117】
<比較例3の反射防止フィルムの作製>
ハードコート層形成工程を以下のとおりに変更したこと以外は、比較例2と同じ作製方法により、比較例3の反射防止フィルムを得た。
【0118】
[比較例3のハードコート層形成工程]
紫外線硬化性アクリル系樹脂組成物(DIC社製「GRANDIC PC-1070」)に、オルガノシリカゾル(日産化学社製「MEK-ST-L」、シリカ粒子の個数平均一次粒子径:50nm、シリカ粒子の粒子径分布:30nm~130nm、固形分濃度:30重量%)を添加し、これらを混合することにより、ハードコート層形成用組成物を調製した。シリカ粒子の添加量は、紫外線硬化性アクリル系樹脂組成物の樹脂成分100重量部に対して、40重量部であった。次いで、透明フィルム基材としてのTACフィルム(厚み:40μm)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を、温度80℃で3分間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。紫外線照射する際は、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算光量を200mJ/cmとした。これにより、TACフィルム上に厚み4μmのハードコート層を形成した。
【0119】
<比較例4の反射防止フィルムの作製>
ハードコート層形成工程を以下のとおりに変更したこと以外は、比較例2と同じ作製方法により、比較例4の反射防止フィルムを得た。
【0120】
[比較例4のハードコート層形成工程]
紫外線硬化型のウレタンアクリレート(三菱ケミカル社製「UV1700TL」)50重量部と、アクリレート系化合物(大阪有機化学工業社製「ビスコート#300」)50重量部と、ポリメチルメタクリレート粒子(積水化成品工業社製「テクポリマー」、個数平均一次粒子径:3.0μm、屈折率:1.53)3重量部と、シリコーン粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製「トスパール130」、個数平均一次粒子径:3.0μm、屈折率:1.42)1.5重量部と、チクソトロピー剤(片倉コープアグリ社製「ルーセンタイトSAN」、有機粘土である合成スメクタイト)1.5重量部と、光重合開始剤(IGM Resins社製「Omnirad907」)3重量部と、レベリング剤(共栄社化学社製「LE303」)0.15重量部と、トルエン・酢酸エチル・シクロペンタノン混合溶媒(重量比:トルエン/酢酸エチル/シクロペンタノン=35/41/24)とを、超音波分散器を用いて混合し、固形分濃度55重量%のハードコート層形成用組成物を調製した。次いで、透明フィルム基材としてのTACフィルム(厚み:40μm)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を、温度80℃で60秒間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。紫外線照射する際は、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算光量を300mJ/cmとした。これにより、TACフィルム上に厚み5μmのハードコート層を形成した。
【0121】
<比較例5の反射防止フィルムの作製>
ハードコート層形成工程を以下のとおりに変更したこと以外は、比較例2と同じ作製方法により、比較例5の反射防止フィルムを得た。
【0122】
[比較例5のハードコート層形成工程]
ナノシリカ粒子を含有するアクリルモノマー組成物(荒川化学工業社製「NC035HS」、ナノシリカ粒子の個数平均一次粒子径:40nm、固形分濃度:50重量%、固形分中のナノシリカ粒子の含有率:60重量%)67重量部と、紫外線硬化型の多官能アクリレート(荒川化学工業社製「バインダーA」)33重量部と、ポリメチルメタクリレート粒子(積水化成品工業社製「テクポリマー」、個数平均一次粒子径:3.0μm、屈折率:1.53)3重量部と、シリコーン粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製「トスパール130」、個数平均一次粒子径:3.0μm、屈折率:1.42)1.5重量部と、チクソトロピー剤(片倉コープアグリ社製「ルーセンタイトSAN」、有機粘土である合成スメクタイト)1.5重量部と、光重合開始剤(IGM Resins社製「Omnirad907」)3重量部と、レベリング剤(共栄社化学社製「LE303」)0.15重量部と、トルエンとを、超音波分散器を用いて混合し、固形分濃度45重量%のハードコート層形成用組成物を調製した。次いで、透明フィルム基材としてのTACフィルム(厚み:40μm)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を、温度60℃で60秒間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。紫外線照射する際は、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算光量を200mJ/cmとした。これにより、TACフィルム上に厚み8μmのハードコート層を形成した。
【0123】
<測定方法及び評価方法>
以下、上述の手順で得られた各反射防止フィルムの各種物性の測定方法及び評価方法を説明する。なお、以下において、「防汚層」は、比較例1の場合、「反射防止層」と読み替えるものとする。また、以下において、「防汚層の反射防止層側とは反対側の主面」は、比較例1の場合、「反射防止層のプライマー層側とは反対側の主面」と読み替えるものとする。
【0124】
[防汚層の表面形状]
上述の手順で得られた各反射防止フィルムを5cm×5cmのサイズに切り出して、測定用試料を作製した。次いで、測定用試料のTACフィルム側の主面(反射防止層非形成面)に、厚み20μmのアクリル系粘着剤層を介して、厚み1.3mmのスライドガラス(MATSUNAMI社製「MICRO SLIDE GLASS」、45mm×50mm)を貼り合わせた。次いで、ダイヤモンド製先端部(曲率半径R=2μm)を備えた測定針を有する触針式表面粗さ測定器(小坂研究所社製「サーフコーダET4000」)を用い、走査速度0.1mm/秒、測定長4mmの条件で、上記測定用試料の防汚層の表面(詳しくは、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面)の表面形状を一定方向に測定した。得られた測定データを測定器に付属するプログラムにより解析し、JIS B0601:2001に準拠して、カットオフ値0.8mmの広域フィルタを通して得られた粗さ曲線から、算術平均粗さRa、最大高さRz、粗さ曲線要素の平均長さRSm、及び平均傾斜角θaを求めた。
【0125】
[最大表面電位及び最小表面電位]
まず、上述の手順で得られた各反射防止フィルムを、10mm×10mmのサイズに切り出した。次いで、切り出した反射防止フィルムのTACフィルム側の主面(反射防止層非形成面)に、導電性カーボン両面テープ(日新EM社製)を介して金属製試料台を貼り付けた後、導電性ペーストを用いて防汚層表面と金属製試料台とを接続し、測定用試料を得た。得られた測定用試料を、温度25℃かつ相対湿度50%の環境下に24時間放置した。次いで、カンチレバー(日立ハイテクフィールディング社販売「SI-DF3-A」)を備えた走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製「AFM5300E」)を用いて、EFMモードにて測定用試料の防汚層の表面電位を測定した。詳しくは、温度25℃かつ真空度8.0×10-5~1.5×10-4Paの真空環境下、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面に、上記カンチレバーの先端の電位を基準として+5.0Vのバイアス電圧を印加した状態で、上記主面から無作為に選択した測定領域(100μm×100μm)をスキャンし、静電気力を画像化したEFM像を得た。得られたEFM像内に等間隔で設けた測定点(合計:256×256点)において、それぞれ表面電位を求め、得られた表面電位の最大値を最大表面電位とし、得られた表面電位の最小値を最小表面電位とした。
【0126】
[映り込み]
上述の手順で得られた各反射防止フィルムのTACフィルム側の主面(反射防止層非形成面)に、厚み20μmのアクリル系粘着剤層を介して厚み1mmのアクリル樹脂製の黒色の板を貼り合わせ、評価用サンプルを得た。次いで、照度1000Lxの環境下(ディスプレイを用いる一般的なオフィス環境に相当)、評価用サンプルの反射防止フィルムの直上50cmの場所に設置した3波長形蛍光灯を点灯させた。そして、反射防止フィルム表面を目視で観察し、蛍光管の映り込みを下記の基準で確認した。Aの場合、「外光の映り込みを抑制できている」と評価し、B又はCの場合、「外光の映り込みを抑制できていない」と評価した。
A:反射防止フィルム表面において蛍光管の輪郭の像を確認できない。
B:反射防止フィルム表面において蛍光管の輪郭の像をわずかに確認できる。
C:反射防止フィルム表面において蛍光管の輪郭の像をはっきりと確認できる。
【0127】
[静電気放電試験(ESD試験)]
まず、図4に示す断面構造を有する評価用試料を準備した。詳しくは、上述の手順で得られた各反射防止フィルム200を、250mm×100mmのサイズに切り出して、TACフィルム側の主面(反射防止層非形成面)に、厚み15μmのアクリル系粘着剤層202を介してガラス基板201(サイズ:250mm×100mm、厚み:1.3mm)に貼り合わせた。次いで、反射防止フィルム200上に、枠状に形成されたPETシート203(中央部に230mm×80mmの開口部を有するPETシート、厚み:50μm)を載置し、更に、PETシート203上に、枠状に形成されたステンレス板204(中央部に230mm×80mmの開口部を有するステンレス鋼製の板)を載置した。PETシート203及びステンレス板204の幅Wは、いずれも10mmであった。次いで、ステンレス板204を、図示しないアース電極と接続した。次いで、静電気発生装置(SANKI社製「ESD-8012A」)を用いて、評価用試料の防汚層表面の中央付近に、1秒間隔で合計30回放電(気中放電)するESD試験を実施した。ESD試験の条件は、放電コンデンサの静電容量を330pFとし、抵抗値を330Ωとし、放電電圧を+15kV及び-15kVとした。次いで、ESD試験後の防汚層表面の中央付近を指で擦った後、防汚層のはがれがあったか否かを目視で確認した。防汚層のはがれがなかった場合を、A(放電痕の発生を抑制できている)と評価し、防汚層のはがれがあった場合を、B(放電痕の発生を抑制できていない)と評価した。
【0128】
<評価結果>
実施例1~3及び比較例1~5について、防汚層形成方法、防汚層の厚み、防汚層の表面形状、最大表面電位、最小表面電位、映り込みの評価結果、及びESD試験の評価結果を表1に示す。なお、表1において、「-」は、測定しなかったことを意味する。
【0129】
【表1】
【0130】
表1に示すように、実施例1~3では、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面の最大高さRzが0.40μm以上であった。実施例1~3では、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面に5.0V(詳しくは、+5.0V)のバイアス電圧を印加した際の上記主面の最大表面電位が、5.8V(詳しくは、+5.8V)以下であった。
【0131】
表1に示すように、実施例1~3では、映り込みの評価結果がAであった。よって、実施例1~3の反射防止フィルムは、外光の映り込みを抑制できていた。実施例1~3では、ESD試験の評価結果がAであった。よって、実施例1~3の反射防止フィルムは、放電痕の発生を抑制できていた。
【0132】
表1に示すように、比較例1の反射防止フィルムは、防汚層を備えていなかった。比較例2では、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面に5.0V(詳しくは、+5.0V)のバイアス電圧を印加した際の上記主面の最大表面電位が、5.8V(詳しくは、+5.8V)を超えていた。比較例3~5では、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面の最大高さRzが0.40μm未満であった。
【0133】
表1に示すように、比較例1及び2では、ESD試験の評価結果がBであった。よって、比較例1及び2の反射防止フィルムは、放電痕の発生を抑制できていなかった。比較例3~5では、映り込みの評価結果がB又はCであった。よって、比較例3~5の反射防止フィルムは、外光の映り込みを抑制できていなかった。
【0134】
以上の結果から、本発明によれば、外光の映り込みを抑制しつつ、放電痕の発生を抑制できる反射防止フィルムを提供できることが示された。
【符号の説明】
【0135】
10、20 反射防止フィルム
11 透明フィルム基材
12 ハードコート層
13 反射防止層
18 プライマー層
19 防汚層
21 粘着剤層
100 画像表示装置
101 画像表示パネル

図1
図2
図3
図4