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  • 特開-皮膚通電用組成物及びその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098727
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】皮膚通電用組成物及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240717BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20240717BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240717BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P17/00
A61K9/06
A61K47/38
A61P29/00
A61P39/06
A61P17/18
A61K31/197
A61K38/02
A61P31/04
A61P31/12
A61P23/02
A61K48/00
A61K31/7088
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/375
A61Q19/08
A61Q19/00
A61K8/02
A61K8/73
A61K31/365
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002384
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小暮 健太朗
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC24
4C076CC32
4C076CC35
4C076EE31
4C076EE32
4C076FF34
4C083AB282
4C083AC581
4C083AC842
4C083AD261
4C083AD262
4C083AD281
4C083AD282
4C083AD411
4C083AD601
4C083AD641
4C083BB32
4C083BB36
4C083CC02
4C083DD41
4C083EE11
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA03
4C084BA44
4C084MA28
4C084MA63
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA11
4C084ZA21
4C084ZA89
4C084ZB11
4C084ZB33
4C084ZB35
4C084ZC37
4C084ZC52
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086BA18
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA63
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA11
4C086ZA21
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC37
4C086ZC52
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA48
4C206MA83
4C206NA05
4C206NA10
4C206NA11
4C206ZA21
4C206ZA89
4C206ZB11
4C206ZB33
4C206ZB35
4C206ZC37
4C206ZC52
(57)【要約】
【課題】皮膚内に有用成分を送達可能な新たな手段を提供することを目的とする。
【解決手段】微弱電流を流した電解液に浸漬して通電処理するための皮膚に用いられる、皮膚通電用組成物であって、水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物であることを特徴とする、前記皮膚通電用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微弱電流を流した電解液に浸漬して通電処理するための皮膚に用いられる、皮膚通電用組成物であって、
水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物であることを特徴とする、前記皮膚通電用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子が、ノニオン性の水溶性高分子である、請求項1に記載の皮膚通電用組成物。
【請求項3】
前記ノニオン性の水溶性高分子が、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種のセルロース誘導体である、請求項2に記載の皮膚通電用組成物。
【請求項4】
前記有用成分が、保湿成分、抗炎症成分、抗シワ成分、抗酸化成分、水溶性ビタミン類、アミノ酸類、ペプチド類、タンパク質、抗菌成分、抗ウイルス成分、局所麻酔成分、核酸医薬、抗体医薬及び核酸タンパク質複合体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の皮膚通電用組成物。
【請求項5】
次の(1)及び(2)を、それぞれ別個の包装形態で含む、皮膚浸漬用キット:
(1)水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物、
(2)電解液又は電解液調製用電解質。
【請求項6】
次の工程を含む、皮膚通電処理方法:
水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物を接触させた皮膚を、微弱電流を流した電解液中に浸漬する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
微弱電流を流した電解液に浸漬して通電処理するための皮膚に用いられる皮膚通電用組成物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質を細胞に送達させるための技術が開発されており、該技術の一例として、エレクトロポレーション(electroporation、電気穿孔法)、イオントフォレシス(iontophoresis)等の物理的手法が知られている。エレクトロポレーションは、高電圧パルスを負荷することで細胞膜に一過的な穿孔を形成し、該穿孔を介して、物質を細胞内に送達させる方法である。イオントフォレシスは、物質を浸透させたい皮膚部分に電極をあてて該部分で物質を皮膚内に送達させる方法であり、イオンの電気的反発特性(陰イオンは陰極から離れようとする特性、陽イオンは陽極から離れようとする特性)を利用して、イオン化させた物質を皮膚内に押し込むように送達する方法である。イオントフォレシスは、エレクトロポレーションのように細胞膜に穿孔を形成させない点で望ましいといえる。また、イオントフォレシスは、注射による注入と比較して、痛み及び痛みに伴う精神的苦痛が少なく、また比較的簡便であるという利点を有するといえる。
【0003】
しかし、イオントフォレシスは、例えば図1に示すモデル図の通り、物質を送達させたい皮膚部分に電極を接触させることを必須とする。例えば、特許文献1には、皮膚部分に電極を接触させる手段として経皮パッチが報告されており、経皮パッチを当接させた皮膚部分に電極を作用させることにより物質を局所的に送達する。このように従来のイオントフォレシスは、電極をあてた狭い部分でしか物質を送達できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-296511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膚内に有用成分を送達可能な新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、皮膚部分に電極を接触させることなく有用成分を効果的に皮膚内に送達できる新たな手法を見出した。具体的には、水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物を接触させた皮膚を、微弱電流を流した電解液中に浸漬させることにより、皮膚に電極を接触させていないにもかかわらず有用成分を効果的に皮膚内に送達できることを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねて完成されたものであり、本開示は例えば下記に代表される発明を包含する。
項1.微弱電流を流した電解液に浸漬して通電処理するための皮膚に用いられる、皮膚通電用組成物であって、
水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物であることを特徴とする、前記皮膚通電用組成物。
項2.前記水溶性高分子が、ノニオン性の水溶性高分子である、項1に記載の皮膚通電用組成物。
項3.前記ノニオン性の水溶性高分子が、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種のセルロース誘導体である、項2に記載の皮膚通電用組成物。
項4.前記有用成分が、保湿成分、抗炎症成分、抗シワ成分、抗酸化成分、水溶性ビタミン類、アミノ酸類、ペプチド類、タンパク質、抗菌成分、抗ウイルス成分、局所麻酔成分、核酸医薬、抗体医薬及び核酸タンパク質複合体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の皮膚通電用組成物。
項5.次の(1)及び(2)を、それぞれ別個の包装形態で含む、皮膚浸漬用キット:
(1)水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物、
(2)電解液又は電解液調製用電解質。
項6.次の工程を含む、皮膚通電処理方法:
水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物を接触させた皮膚を、微弱電流を流した電解液中に浸漬する工程。
【発明の効果】
【0007】
水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物を接触させた皮膚を、微弱電流を流した電解液中に浸漬させることにより、皮膚に電極を接触させていないにもかかわらず、有用成分を効果的に皮膚内に送達できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、従来のイオントフォレシスのモデル図を示す。
図2図2は、試験例1(比較例1)の試験結果を示す。
図3図3は、試験例1(実施例1)の試験結果を示す。
図4図4は、試験例2(実施例2、比較例2及び3)の試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に包含される実施形態について更に詳細に説明する。本開示において「含有する」は、「実質的にからなる」、「からなる」という意味も包含する。
【0010】
本開示は、微弱電流を流した電解液に浸漬して通電処理するための皮膚に用いられる、皮膚通電用組成物であって、水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物であることを特徴とする皮膚通電用組成物を包含する。
【0011】
皮膚通電用組成物
本開示において皮膚通電用組成物は、水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物である。
【0012】
水溶性高分子
水溶性高分子は、本開示の効果が得られる限り制限されず、セルロース誘導体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドナトリウム、ポリアクリルアミド-2-メチル-1-プロパン硫酸ナトリウム、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩、ポリスチレン硫酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルアミド、ポリアミン、ポリ-N-ビニルアセトアミド、デキストラン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ペクチン等が例示される。
【0013】
セルロース誘導体としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が例示される。
【0014】
水溶性高分子は、この限りにおいて制限されないが、好ましくはノニオン性の水溶性高分子が例示される。ノニオン性の水溶性高分子の一例として、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0015】
水溶性高分子は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。水溶性高分子は商業的に入手可能であり、適宜入手して使用すればよい。
【0016】
有用成分
有用成分は、皮膚内に送達させたい成分であれば特に制限されない。有用成分として、保湿成分、抗炎症成分、抗シワ成分、抗酸化成分、水溶性ビタミン類、アミノ酸類、ペプチド類、タンパク質、抗菌成分、抗ウイルス成分、局所麻酔成分、核酸医薬、抗体医薬、核酸タンパク質複合体等が例示される。
【0017】
本開示を制限するものではないが、有用成分の一例として説明すると、保湿成分、抗炎症成分、抗シワ成分及び/又は抗酸化成分としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、エラスチン、アルブチン、クエルセチン、レスベラトロール、コエンザイムQ10等が例示される。これらの成分が、保湿成分、抗炎症成分、抗シワ成分、抗酸化成分のいずれの作用を有するかについては当業者であれば容易に理解できる。
【0018】
水溶性ビタミン類としては、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、葉酸、ナイアシン、ビタミンB12等が例示される。
【0019】
アミノ酸類としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、リジン、アルギニン、グリシン等が例示される。ペプチド類としては、ラクトトリペプチド、サーデンペプチド、カゼインホスホペプチド、グロビンペプチド等が例示される。タンパク質としては、インスリン、イムノグロブリン、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ等が例示される。
【0020】
核酸医薬は本分野で通常使用される意味と同様に説明される。核酸医薬として、siRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)、アンチセンス、アプタマー、デコイ、リボザイム、CpGオリゴデオキシヌクレオチド等を利用する医薬が例示される。抗体医薬、核酸タンパク質複合体も本分野で通常使用される意味と同様に説明され、例えば核酸タンパク質複合体としてゲノム編集用核酸タンパク質複合体等が挙げられる。
【0021】
有用成分として、電荷を有する成分がより好ましい。
【0022】
有効成分として、本開示を制限するものではないが、例えば、分子量5000以下程度のペプチド類、タンパク質、核酸、多糖体等を用いる場合、分子量1000あたりの電荷が-1以下又は+1以上である成分が更に好ましく例示される。+は正電荷、-は負電荷を意味する。また、有用成分として、分子量1000あたりの電荷が、負電荷の場合は-20以上-1以下、-15以上-1以下、-10以上-1以下等の成分が特に好ましく例示され、正電荷の場合は+1以上+20以下、+1以上+15以下、+1以上+10等の成分が特に好ましく例示される。本開示において分子量1000あたりの電荷は次のように算出する。
【0023】
一例として核酸を挙げて説明する。分子量12000のsiRNAを例に挙げると、1本鎖RNAの塩基数は21塩基であり、siRNAは、2本鎖RNAであることから、塩基数は42である。また、塩基1つあたりの電荷は-1(1つのリン酸残基)であることから、siRNAの合計電荷は-42である。分子量(12000)と合計電荷(-42)から、分子量1000あたりの電荷を算出すると、該siRNAは分子量1000あたりの電荷-3.5と算出される(合計電荷-42×1000/分子量12000=-3.5/1000)。
【0024】
また、一例としてペプチド類を挙げて説明する。10個のアミノ酸から構成される分子量1000のペプチドを例に挙げると、例えばpHが塩基性側の場合であって、ペプチド中、カルボキシル基が1つ存在する場合、ペプチドの合計電荷は-1である。分子量(1000)と合計電荷(-1)から、分子量1000あたりの電荷を算出すると、該ペプチドは分子量1000あたり電荷-1と算出される(合計電荷-1×1000/分子量1000)。また、該ペプチドについて、例えばpHが酸性の場合であって、ペプチド中、アミノ基が1つ存在する場合、ペプチドの合計電荷は+1である。分子量(1000)と合計電荷(+1)から、分子量1000あたりの電荷を算出すると、該ペプチドは分子量1000あたり電荷+1と算出される(合計電荷+1×1000/分子量1000)。有用成分は、好ましくは、浸漬に使用する電解液中(温度25℃)でこのような電荷を示すことが例示される。
【0025】
後述の試験例1で有用成分のモデルとして使用したカルセインは分子量1000あたり電荷-6.4であり、後述の試験例2で有用成分のモデルとして使用したFITCデキストランは分子量1000あたり電荷-1.35である。
【0026】
siRNA等の核酸医薬は、脂質やブロック共重合体等を構成成分とするナノ粒子、高分子ミセル等の送達キャリアと組み合わせた形態で使用されてもよく、siRNAを所望の成分に結合させたコンジュゲートの形態等で使用されてもよい。ホルモンペプチド等のペプチド類や他の有用成分も、送達キャリアと組み合わせた形態で使用されてもよく、所望の成分に結合させたコンジュゲートの形態等で使用されてもよい。また、有用成分は、エクソソーム等の生体由来の細胞外微粒子と組み合わせた形態で使用されてもよい。本開示を制限するものではないが、例えば脂質としては、DOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine))、DOPS(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine)、DOPG(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phospho-glycerol)、卵黄レシチン等の物質送達に従来使用されている成分等が例示される。これらの送達キャリア、コンジュゲート形態等は、従来のイオントフォレシスをはじめとする物質送達分野でも利用されており、従って、当業者が適宜選択して使用すればよい。
【0027】
従来のイオントフォレシスにおいても、電極を当接させた局所的部分ではあるものの、前述するような様々な成分を皮膚へ浸透可能であることが知られている。この観点から、本開示の有用成分は、従来のイオントフォレシスにおいて皮膚への浸透が可能な成分を包含する。すなわち、本開示は通電下で有用成分の送達を行うことから、有用成分として、通電下でイオン化する成分が好ましく例示される。本開示は、皮膚通電用組成物を皮膚に適用しつつ、電極を皮膚に当接(接触)させることなく有用成分を皮膚へ浸透可能である点で、従来のイオントフォレシスとは大きく異なるといえる。
【0028】
また、本開示によれば分子量200万よりも大きい有用成分であっても皮膚内に送達できる。例えば、本開示によれば、従来のイオントフォレシスにより送達可能な成分は、少なくとも送達させることができる。本開示において有効成分の分子量は制限されず、例えば分子量10000万以下が好ましく例示され、より好ましくは分子量50~5000万、分子量100~1000万等が例示される。本開示において分子量は重量平均分子量(Mw)を意味する。
【0029】
有用成分は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本開示において皮膚通電用組成物はハイドロゲル組成物である。本開示においてハイドロゲル組成物とは、ハイドロゲルの状態にある組成物を意味し、ハイドロゲルは本分野における一般的な意味と同様にして説明される。すなわち、ハイドロゲル組成物は、水溶性高分子が水を吸い込んで膨潤し、水に不溶な三次元構造を有する。
【0031】
皮膚通電用組成物中の水溶性高分子の含有量は、前述の通りハイドロゲルの状態にある限り制限されず、使用する水溶性高分子の種類、目的とする該組成物の硬さ等に応じて適宜変更すればよい。皮膚通電用組成物中の水溶性高分子の含有量として、好ましくは1~15質量%が例示され、より好ましくは3~10質量%が例示される。なお、本開示において「3~10質量%」は「3質量%以上10質量%以下」を意味する。本開示における数値範囲はいずれも同様にして説明される。
【0032】
本開示を制限するものではないが、水溶性高分子としてノニオン性のセルロース誘導体を用いる場合、その含有量として、皮膚通電用組成物中、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%、更に好ましくは3~8質量%、4~7質量%等が例示される。
【0033】
皮膚通電用組成物中の有用成分の含有量も、本開示の効果が得られる限り制限されず、使用する有用成分の種類、目的とする効果等に応じて適宜変更すればよい。本開示を制限するものではないが、皮膚通電用組成物中の有用成分の含有量として、100mg/mL以下が例示され、好ましくは0.05~50mg/mL、より好ましくは0.1~10mg/mLが例示される。
【0034】
皮膚通電用組成物は、本開示の効果を妨げない範囲で、薬学的又は香粧品学的に許容可能な任意の他の成分を含有していてもよい。他の成分として、香料、着色剤、粘度調整剤、安定化剤、可塑剤、可溶化剤、pH調節剤、乳化剤、粘着増強剤、防腐剤、酸化防止剤等が例示される。他の成分は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、また、該組成物中の他の成分の含有量も制限されない。
【0035】
本開示において皮膚通電用組成物は、そのまま皮膚に適用(塗布、貼付、噴霧等)してもよく、皮膚通電用組成物を担持可能な担体と共に皮膚に適用してもよい。皮膚通電用組成物は皮膚に接触するように直接適用されることが好ましい。皮膚通電用組成物の形状は特に制限されず、例えば、スパチュラやスプーン等で掬って皮膚に適用されるものでもよく、チューブ等の収容容器に収容されて押し出すことにより皮膚に適用されるものであってもよく、シート状であってシートを皮膚に貼付して皮膚に適用されるものであってもよい。
【0036】
皮膚通電用組成物の皮膚への適用量は制限されず、有効成分の種類、求める効果等に応じて適宜決定すればよい。本開示の効果が得られる限り制限するものではないが、皮膚へ適用する皮膚通電用組成物の厚みとして好ましくは0.1~5mmが例示され、より好ましくは0.5~3mm、更に好ましくは1~2mmが例示される。
【0037】
皮膚通電用組成物を担持可能な担体と共に皮膚に適用する場合、担体の形状、素材、厚み等は本開示の効果を妨げない限り制限されない。担体と共に皮膚に適用する例示として、シート状の担体が例示される。例えばシート状の担体である場合、担体の片面の一部又は全部に皮膚通電用組成物を塗布等し、皮膚通電用組成物を担体ごと皮膚に適用することが例示される。皮膚通電用組成物を担体ごと皮膚に適用する場合も、皮膚通電用組成物が皮膚に接触するように直接適用されることが好ましい。担体の形状は、皮膚通電用組成物を適用した皮膚の形状やその面積を考慮して適宜決定すればよい。担体は、不織布、織布、樹脂シート等、これらを任意に組み合わせた構造体(積層体等)等が例示される。例えば不織布、織布の繊維素材として、綿、麻、絹、紙等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン、レーヨン、アクリル等の合成繊維、天然繊維と合成繊維との混合繊維等が例示される。例えば樹脂シートとして、ポリプロピレン製シート、ポリエステル製シート、ポリプロピレンテレフタレート製シート等の従来公知の樹脂シートが例示される。担体を用いた場合であっても効率よく有用成分を皮膚内に送達する点から、担体は、担体が施された側から皮膚通電用組成物に電解液が到達できる水透過性を有する担体が好ましく例示される。このような担体の例示として、水透過性を有する不織布、織布、樹脂シート(細孔を有する等)等が例示され、例えば市販の化粧用コットン(コットンパフ)等であってもよい。また、皮膚通電用組成物を皮膚に適用したのちに、皮膚通電用組成物の一部又は全面を担体で覆うことにより皮膚通電用組成物を皮膚に固定させてもよい。
【0038】
本開示の皮膚通電用組成物は、微弱電流を流した電解液に浸漬して通電処理するための皮膚に用いられる。皮膚通電用組成物を適用した皮膚を、微弱電流を流した電解液に浸漬させておくことにより、皮膚通電用組成物に含まれる有用成分が皮膚内に送達される。
【0039】
電解液は、電気伝導性を有する溶液であり、この限りにおいて制限されない。本開示を制限するものではないが、電解液として、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リン酸緩衝液、生理食塩水、MESバッファー、Trisバッファー、HEPESバッファー等が例示される。このような溶液は本分野で公知である。電解液は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
電解液は、皮膚通電用組成物を適用した皮膚を浸漬可能であるように容器に充填すればよい。電解液の量は、皮膚通電用組成物を適用した皮膚の一部分又は全部を電解液に浸漬できる限り制限されない。電解液の量として好ましくは10mL~100L、より好ましくは100mL~10Lが例示される。電解液の量は、皮膚に適用する皮膚通電用組成物の面積、該組成物が適用される皮膚の形状、容器の形状等に応じて適宜決定すればよい。電解液が収容される容器の形状、容量等も、皮膚通電用組成物を適用した皮膚の一部分又は全部を電解液に浸漬できる限り制限されず、例えば片方の手首から指先迄を全て浸漬可能な容器であってもよく、浴槽等の全身が浸漬可能な容器であってもよい。このように浸漬は、皮膚通電用組成物を適用した部分の全てを電解液中に浸漬させてもよく一部分のみを電解液中に浸漬させてもよい。より効率よく有用成分を皮膚内に送達させる点からは、皮膚通電用組成物を適用した皮膚部分の全てを電解液中に浸漬させることが好ましく例示される。
【0041】
電解液に微弱電流を流す手段も制限されない。例えば、電源に接続された陽極側電極及び陰極側電極が設けられた容器内で電解液に通電させることにより、容易に電解液に微弱電流を流すことができる。電源は、通電手段に応じて適宜決定すればよく、直流電流電源、交流電流電源、パルス電流電源等が例示され、好ましくは直流電流電源、パルス電流電源等が例示される。陽極側電極及び陰極側電極はいずれも、棒状、板状、シート状(布状)等のいずれの形態であってもよい。電極の素材として、白金、カーボン、銀、塩化銀、銅、黒鉛、リチウム等の電気伝導性物質が例示され、電極は電気伝導性物質のめっき層等を有するものであってもよい。必要に応じて、電圧計、電流計等を接続させてもよい。
【0042】
微弱電流としては、電解液に通電させ、電解液を介して皮膚通電用組成物から皮膚へと通電できる限り制限されないが、例えば、直流電流の場合、0.1~2mA/cm程度が例示され、好ましくは0.5~1.5mA/cm程度、更に好ましくは0.7~1.2mA/cm程度等が例示される。また、この限りにおいて制限されないが、電源電圧として1~50Vが例示され、より好ましくは5~10Vが例示される。通電時間は、使用する有効成分、皮膚通電用組成物に含まれる成分、期待する効果等により適宜設定すればよく、好ましくは1~60分、好ましくは5~30分等が例示される。
【0043】
電解液の温度は、本開示が得られる限り制限されないが、皮膚の浸漬中、好ましくは5~45℃が例示され、更に好ましくは15~40℃が例示される。特に比較的大きな面積の皮膚を浸漬させる場合、心身の負担を軽減する点から、電解液の温度は、皮膚の浸漬中、好ましくは20~40℃が例示され、更に好ましくは30~38℃、特に好ましくは25~35℃等が例示される。
【0044】
微弱電流の電解液への通電開始と、皮膚通電用組成物を適用した皮膚の電解液への浸漬は、同時であってもよく異なってもよい。異なる場合、通電後の電解液に該皮膚を浸漬させてもよく、電解液に該皮膚を浸漬後、電解液に通電させてもよい。
【0045】
従来のイオントフォレシスでは、皮膚に電極を接触させることを必須とする。具体的には、従来のイオントフォレシスでは、有用成分を送達させたい皮膚上に、有用成分を含む溶液等と電極とが積層された状態で配置される。すなわち、特許文献1に示されるように、皮膚に電極が当接される。本開示において電極は、皮膚及び皮膚通電用組成物のいずれにも接触しない。また、皮膚通電用組成物が担体と共に皮膚に適用される場合は、該担体にも電極は接触しない。本開示では、通電させた電解液中に、前述の通り、皮膚通電用組成物を適用した皮膚を浸漬させることにより、電解液を介して皮膚通電用組成物に通電され、これにより該皮膚が通電処理される。
【0046】
また、このように従来のイオントフォレシスでは皮膚に電極を接触(当接)させることが必須であり、従って皮膚上の非常に狭い面積(一般的にせいぜい10cm迄)でしか成分を送達できなかった。これに対して、本開示では皮膚への電極の当接が不要であり、皮膚通電用組成物を適用した皮膚を、微弱電流を流した電解液に浸漬させておくだけで、皮膚通電用組成物に含まれる有用成分を皮膚内に送達できる。このため、該組成物を皮膚に適用する面積を目的に応じて自由に決定でき、例えば腕全体、上半身、全身等の任意の範囲に該組成物を適用でき、本開示の通電処理により広い面積でも一度に有用成分の送達を実施できる。このように、該処理は有用成分の全身送達等も可能であり、この観点から、本開示によれば効率よく有用成分を皮膚内に送達できる。
【0047】
このことから、本開示は、水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物(皮膚通電用組成物)を接触させた皮膚を、微弱電流を流した電解液中に浸漬する工程を含む、皮膚通電処理方法を提供するともいえる。該方法において、水溶性高分子、有用成分、ハイドロゲル組成物(皮膚通電用組成物)、接触、皮膚、微弱電流を流した電解液、浸漬等はいずれも前述と同様に説明される。
【0048】
また、このように前記ハイドロゲル組成物と前記電解液とは組み合わせて使用されることから、本開示はまた、(1)水溶性高分子及び有用成分を含有するハイドロゲル組成物(皮膚通電用組成物)と、(2)電解液又は電解液調製用電解質とを、それぞれ別個の包装形態で含む、皮膚浸漬用キットを提供することを包含する。
【0049】
該キットにおいて、ハイドロゲル組成物は前述と同様に説明される。電解液も前述と同様に説明される。また、電解液調製用電解質は、前記電解液に含まれる電解質である。例えば電解液としてPBS(1×PBS)を例に挙げると、希釈等を行うことなくそのまま浸漬に使用可能な濃度でキットに含まれていてもよく、または、使用時に水で希釈して使用する、使用時に電解質を混合して使用するなど用事調製して使用される状態でキットに含まれていてもよい。該キット中、ハイドロゲル組成物の含有量や、電解液又は電解液調製用電解質の含有量は制限されず、適用する皮膚面積、有用成分等に応じて適宜決定すればよい。それぞれ別個の包装形態とは、キット内で、ハイドロゲル組成物と電解液又は電解液調製用電解質とが互いに接することなく(例えば別々の個包装形態で)含まれていることを意味する。
【0050】
また、該キットは、更に必要に応じて任意の成分等を更に含んでいてもよい。該成分等として電解液を収容(充填)するための容器(すなわち、皮膚を浸漬するための容器)、電極、電源、使用説明書等が例示される。該容器は、電極等が既に内蔵された容器(電極設置容器)であってもよい。電極等が既に内蔵された容器である場合、例えば、電解液を収容した容器において電源スイッチを入れることにより、電解液に微弱電流を容易に通電できる。使用説明書はウェブページのURLや読み取りコード等が記載されているものであってもよく、該URLや読み取りコード等を介して使用手順等を入手できるものであってもよい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
従来のイオントフォレシスは、例えば注射による注入よりは非侵襲的であったものの、皮膚に電極を接触(当接)させる点でいまだ侵襲的であったといえる。本開示によれば、皮膚への電極非接触下で、容器(浴槽等)に充填した電解液に皮膚を浸漬させることにより有用成分の送達を行うことから、皮膚内に有用成分を一層非侵襲的に浸透できる。本開示は、皮膚内に送達された有用成分に基づく有用作用を発揮に役立つ。
【0052】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0053】
試験例1
試験手順
1)ハイドロゲル組成物の調製
ヒプロメロース(商品名TC-5S、信越化学工業社製)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS; phosphate-buffered saline)と混合し、得られた混合物(5%ヒプロメロース)1g(0.96 mLに相当)にカルセイン0.1mgを溶解させて、ハイドロゲル組成物を調製した(実施例1)。
【0054】
本試験例では、水溶性高分子の一例としてヒプロメロースを用い、有用成分の一例として、染色剤として知られているカルセイン(商品名calcein、同仁化学研究所製、分子量は622.53)を用いて、ハイドロゲル組成物(カルセイン含有量0.104mg/mL)を作製した。カルセインは、分子量622、カルボキシル基(カルボン酸)を4つ持つことから電荷は-4といえる。これに基づき計算すると、カルセインの分子量1000あたりの電荷は-6.4であった(-4×1000/622)。
【0055】
2)電解液の調製
電解液として、細胞培養等で汎用するリン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline(PBS))を用いた。PBSは、NaCl 40g、KCl 1g、Na2HPO4・12H2O 14.5g、KH2PO4 1gを脱イオン蒸留水500 mlに溶解し、オートクレーブ滅菌したもの(10倍濃度PBS)を、脱イオン蒸留水で10倍希釈したものを使用した。前記1)のハイドロゲル組成物調整時も同様のPBS(1×PBS)を用いた。
【0056】
3)ハイドロゲル組成物の皮膚への適用、電解液への浸透手順
ハイドロゲル組成物1 g(0.96 mL相当)を、麻酔条件下で毛を剃ったマウス(BALB/Cマウス、雄、5週齢)の背部皮膚全面に塗布した後、電解液(PBS)で満たした細胞培養用プラスチック製培養皿(直径8.5cm)に背部皮膚を浸し、培養皿の壁に設置したヒト心電図用Ag/AgCl電極(商品名レッドダッド(TM)、3 M Health Care社製、)を用いて0.9 mA/cm2(各電極面積1.8cm2)で微弱電流処理を1時間実施した(n=3)。
【0057】
4)評価手順
微弱電流処理を行ったマウスを安楽死させた後、切り取った背部皮膚を凍結切片作製用包埋剤(商品名Optimal Cutting Temperature (OCT) Compound、サクラファインテックジャパン(株)社製)に浸し凍結したものを凍結切片作製装置クライオスタット(商品名CM1850、LEICA社製)を用いて凍結切片とした。得られた凍結切片を共焦点レーザー顕微鏡(商品名LSM700、Carl Zeiss社製)により蛍光像を観察することでカルセインの皮内浸透を評価した。
【0058】
なお、本試験例において、ハイドロゲル組成物を用いず、電解液中にカルセインを添加して微弱電流を流した以外は実施例1と同様にして試験を行った場合を比較例1とした。電解液のカルセインの含有量はハイドロゲル組成物中の含有量とほぼ同じ0.1mg/mLとした(n=3)。
【0059】
結果
比較例1では、皮膚内にカルセインが浸透した場合と浸透しなかった場合が認められた(図2)。これに対して、ハイドロゲル組成物をマウスに塗布し、電解液中に浸漬させて微弱電流を流した実施例1では、カルセインが皮膚内に浸透した(図3)。特に、実施例1では前記手順を複数回行ったところ、いずれにおいてもカルセインの皮膚内への良好な浸透が認められた。
【0060】
このことから、比較例1のように、有用成分を添加した電解液に微弱電流を通電させた状態で、該電解液に皮膚を浸漬させても、有用成分を皮膚内へ効果的に送達できないことが分かった。一方、実施例1のように、水溶性高分子及び有用成分を含むハイドロゲル組成物を適用した皮膚を、微弱電流を通電させた電解液に浸漬させることにより、皮膚内に有用成分を非侵襲的に再現性良く浸透できた。
【0061】
試験例2
試験手順
カルセインに代えて、FITCで蛍光染色したデキストラン(商品名FITC dextran、東京化成工業社製、分子量は10000、以下、FITCデキストランと記載する)を含有するハイドロゲル組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてハイドロゲル組成物を調製し、試験を行った(実施例2)。本試験例では、5%ヒプロメロース1g(0.96 mL)に、FITCデキストラン0.5mgを混合して、ハイドロゲル組成物を調製した。FITCデキストランは、1ユニット(FITC含む)あたり、分子量が740であり電荷はFITCに由来する-1といえる。これに基づき計算すると、FITCデキストランの分子量1000あたりの電荷は-1.35であった(-1×1000/740)。
【0062】
実施例2で用いたゲル組成物に代えて、FITCデキストランを配合せず調製したゲル組成物を用いた以外は実施例2と同様にして試験を行った場合を比較例2とした。また、電流を流すことなく電解液に浸漬させた以外は実施例2と同様にして試験を行った場合を比較例3とした。
【0063】
結果
比較例2及び3ではFITCデキストランの皮膚内への浸透が認められなかった。一方、実施例2では、FITCデキストランの皮膚内への良好な浸透が認められた。
【0064】
比較例3から理解できるように、前述の通り調製したハイドロゲル組成物を皮膚に適用し、通電させていない電解液に浸漬させるだけでは、有用成分を皮膚に送達できなかった。比較例3の結果は、有用成分を用いていない比較例2の結果と同等であった。一方、実施例2のように、水溶性高分子及び有用成分を含むハイドロゲル組成物を適用した皮膚を、微弱電流を通電させた電解液に浸漬させることにより、皮膚内に有用成分を非侵襲的に再現性良く浸透できた。
【0065】
このことから、電極設置容器(浴槽等)において、水溶性高分子と有用成分とを含有するハイドロゲル組成物と、微弱電流を流した電解液とを組み合わせて使用することにより、皮膚への電極非接触下で、皮膚内に有用成分を非侵襲的に再現性良く浸透できることが分かった。
図1
図2
図3
図4