(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098757
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】劣化抑制回路
(51)【国際特許分類】
H03K 19/0175 20060101AFI20240717BHJP
H04L 25/02 20060101ALI20240717BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H03K19/0175 240
H04L25/02 R
H04L25/02 V
H01L27/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002430
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓祐
(72)【発明者】
【氏名】大塚 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】古田 善一
(72)【発明者】
【氏名】根塚 智裕
【テーマコード(参考)】
5F038
5J056
5K029
【Fターム(参考)】
5F038BH15
5F038BH16
5F038BH19
5F038CD02
5F038EZ20
5J056AA01
5J056BB37
5J056BB39
5J056CC01
5J056DD13
5J056DD25
5J056FF07
5J056FF09
5J056JJ00
5J056KK01
5K029DD24
5K029HH01
(57)【要約】
【課題】回路規模の増大を招くことなくBTIによるMOSトランジスタの特性劣化を抑制する。
【解決手段】非反転入力端子および反転入力端子のそれぞれを介して入力される一対の入力信号の差に応じた出力信号を出力する差動対回路2が備える一対のMOSトランジスタの特性劣化を抑制する劣化抑制回路1は、切替回路3を備える。切替回路3は、一対のMOSトランジスタのうち非反転入力端子にゲートが接続されるMOSトランジスタである第1トランジスタのゲートに中間電圧に対して閾値電圧だけ高い電圧である第1電圧を印加するとともに一対のMOSトランジスタのうち反転入力端子にゲートが接続されるMOSトランジスタである第2トランジスタのゲートに中間電圧に対して閾値電圧だけ低い電圧である第2電圧を印加する通常印加状態と、第1トランジスタのゲートに第2電圧を印加するとともに第2トランジスタのゲートに第1電圧を印加する逆相印加状態と、を切り替えることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力端子および第2入力端子のそれぞれを介して入力される一対の入力信号の差に応じた出力信号を出力する差動対回路(2)が備える一対のMOSトランジスタ(Q1、Q2)の特性劣化を抑制する劣化抑制回路であって、
前記一対のMOSトランジスタのうち前記第1入力端子にゲートが接続されるMOSトランジスタを第1トランジスタ(Q1)とするとともに、前記一対のMOSトランジスタのうち前記第2入力端子にゲートが接続されるMOSトランジスタを第2トランジスタ(Q2)とすると、
前記第1トランジスタのゲートに中間電圧に対して閾値電圧だけ高い電圧である第1電圧を印加するとともに前記第2トランジスタのゲートに前記中間電圧に対して前記閾値電圧だけ低い電圧である第2電圧を印加する通常印加状態と、前記第1トランジスタのゲートに前記第2電圧を印加するとともに前記第2トランジスタのゲートに前記第1電圧を印加する逆相印加状態と、を切り替えることができる切替回路(3、3A、3B、3H、3L)を備える劣化抑制回路。
【請求項2】
前記差動対回路は、他の装置との間で通信を行う通信装置の受信回路を構成するものであり、
前記一対の入力信号は、前記他の装置から送信された送信データを表す差動の通信信号であり、
前記切替回路は、前記送信データを1フレーム受信する毎に前記通常印加状態と前記逆相印加状態とを切り替えるようになっている請求項1に記載の劣化抑制回路。
【請求項3】
前記切替回路は、フレームデータが確定するタイミングで前記通常印加状態と前記逆相印加状態とを切り替えるようになっている請求項2に記載の劣化抑制回路。
【請求項4】
前記差動対回路は、他の装置との間で通信を行う通信装置の受信回路を構成するものであり、
前記一対の入力信号は、前記他の装置から送信された送信データを表す差動の通信信号であり、
前記切替回路は、前記通信信号を受信する毎に前記通常印加状態と前記逆相印加状態とを切り替えるようになっている請求項1に記載の劣化抑制回路。
【請求項5】
前記切替回路(3A)は、
一方の端子が前記第1入力端子に接続される第1抵抗(R1)と、
一方の端子が前記第2入力端子に接続される第2抵抗(R2)と、
前記第1抵抗に電流を流すことにより前記第1抵抗の一方の端子に前記第1電圧を発生させる動作を実行することができる第1電流回路(11)と、
前記第1抵抗に電流を流すことにより前記第1抵抗の一方の端子に前記第2電圧を発生させる動作を実行することができる第2電流回路(12)と、
前記第2抵抗に電流を流すことにより前記第2抵抗の一方の端子に前記第1電圧を発生させる動作を実行することができる第3電流回路(13)と、
前記第2抵抗に電流を流すことにより前記第2抵抗の一方の端子に前記第2電圧を発生させる動作を実行することができる第4電流回路(14)と、
を備え、
前記通常印加状態では、前記第1電流回路および前記第4電流回路の動作を実行させるとともに前記第2電流回路および前記第3電流回路の動作を停止させ、
前記逆相印加状態では、前記第2電流回路および前記第3電流回路の動作を実行させるとともに前記第1電流回路および前記第4電流回路の動作を停止させる請求項1から4のいずれか一項に記載の劣化抑制回路。
【請求項6】
前記切替回路(3B)は、
前記第1トランジスタとともにカレントミラー回路を構成するMOSトランジスタである第3トランジスタ(Q3)と、
前記第2トランジスタとともにカレントミラー回路を構成するMOSトランジスタである第4トランジスタ(Q4)と、
を備え、
前記通常印加状態では、前記第3トランジスタのゲートに前記第1電圧を印加するとともに前記第4トランジスタのゲートに前記第2電圧を印加し、
前記逆相印加状態では、前記第3トランジスタのゲートに前記第2電圧を印加するとともに前記第4トランジスタのゲートに前記第1電圧を印加する請求項1から4のいずれか一項に記載の劣化抑制回路。
【請求項7】
さらに、前記切替回路(3H、3L)により前記逆相印加状態に切り替えられている期間に前記出力信号が表す論理を反転する反転回路(21)を備える請求項2から4のいずれか一項に記載の劣化抑制回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の入力信号の差に応じた出力信号を出力する差動対回路が備える一対のMOSトランジスタの特性劣化を抑制する劣化抑制回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Pチャネル型のMOSトランジスタを用いて構成した差動対回路がある。なお、本明細書では、Pチャネル型のMOSトランジスタのことをPMOSトランジスタと称することがある。PMOSトランジスタは、特にNBTIによる特性劣化が生じること、具体的にはゲート閾値電圧が変動することが知られている。なお、NBTIは、Negative Bias Temperature Instabilityの略称である。NBTIによる特性劣化は、MOSトランジスタのゲートとバックゲートとの間にDC的に電位差が生じている期間に生じるものであり、特に高温下で長時間使用される際に顕著に現れる。ただし、MOSトランジスタのゲートとバックゲートとの間にDC的に電位差が生じていない期間にはNBTIによる特性劣化は生じない。
【0003】
例えば通信装置の受信回路を差動対回路を用いて構成する場合、差動対回路を構成するMOSトランジスタの特性劣化が生じると、受信回路による通信信号の受信動作に影響が生じるおそれがある。そのため、従来、MOSトランジスタのNBTIによる特性劣化への対策が種々考案されている。特許文献1には、NBTIによる特性劣化が生じ易いPMOSトランジスタではなく、NBTIによる特性劣化が生じ難いNチャネル型のMOSトランジスタを用いて出力段を構成した差動対回路が開示されている。なお、本明細書では、Nチャネル型のMOSトランジスタのことをNMOSトランジスタと称することがある。
【0004】
特許文献2には、NBTIによる特性劣化の発生を可能な限り抑制するため、PMOSトランジスタのゲートとバックゲートとを同電位にする制御回路を搭載した差動対回路が開示されている。特許文献3には、finFET構成のバックゲート電圧を調整する機能を用いてゲート閾値電圧の変動を補正するように調整する技術が開示されている。なお、以下の説明では、特許文献1、特許文献2および特許文献3に開示された各従来技術のことを、それぞれ第1従来技術、第2従来技術および第3従来技術と称することとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-129627号公報
【特許文献2】特開2012-199664号公報
【特許文献3】米国特許第8049214号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1従来技術によれば、NMOSトランジスタを採用したことにより、NBTIによる特性劣化は生じ難いが、NBTIに比べて影響は小さいもののPBTIによる特性劣化が生じることになる。なお、PBTIは、Positive Bias Temperature Instabilityの略称である。また、本明細書では、NBTIおよびPBTIは、いずれもMOSトランジスタのゲートとバックゲートとの間にDC的に電位差が生じている期間にゲート閾値電圧が変動するものであることから、それらを区別する必要がない場合にはBTIと総称することがある。
【0007】
第2従来技術によれば、差動対回路の非動作時などに制御回路を動作させてPMOSトランジスタのゲートとバックゲートとを同電位にすることでPBTIによる特性劣化を抑制することが可能であるが、差動対回路の動作時には制御回路を動作させることができないことから、PBTIによる特性劣化が少なからず生じることになる。そのため、第2従来技術では、特に車載用途など、高温下で長時間使用される場合、PBTIによる特性劣化が無視できないものになるおそれがある。第3従来技術によれば、ゲート閾値電圧が変動したとしてもその変動を補正するように調整を行うことができるが、そのような調整を行うためのアナログ回路が必要になる分だけ回路規模が大きくなってしまう。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、回路規模の増大を招くことなくBTIによるMOSトランジスタの特性劣化を抑制することができる劣化抑制回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の劣化抑制回路は、第1入力端子および第2入力端子のそれぞれを介して入力される一対の入力信号の差に応じた出力信号を出力する差動対回路(2)が備える一対のMOSトランジスタ(Q1、Q2)の特性劣化を抑制する回路であり、通常印加状態と逆相印加状態とを切り替えることができる切替回路(3、3A、3B、3H、3L)を備える。ここで、前記一対のMOSトランジスタのうち前記第1入力端子にゲートが接続されるMOSトランジスタを第1トランジスタ(Q1)とするとともに、前記一対のMOSトランジスタのうち前記第2入力端子にゲートが接続されるMOSトランジスタを第2トランジスタ(Q2)とすると、前記通常印加状態および前記逆相印加状態は、次のような状態である。
【0010】
すなわち、前記通常印加状態は、前記第1トランジスタのゲートに中間電圧に対して閾値電圧だけ高い電圧である第1電圧を印加するとともに前記第2トランジスタのゲートに前記中間電圧に対して前記閾値電圧だけ低い電圧である第2電圧を印加する状態である。前記逆相印加状態は、前記第1トランジスタのゲートに前記第2電圧を印加するとともに前記第2トランジスタのゲートに前記第1電圧を印加する状態である。
【0011】
この場合、BTIによるMOSトランジスタの特性劣化が、つまりBTI変動が、MOSトランジスタのゲートとバックゲートとの間にDC的に電位差が生じている期間にゲート閾値電圧が変動するものであることから、MOSトランジスタのゲートとバックゲートとの間に逆バイアスを生じさせると劣化が改善するという点に着目している。上記構成によれば、差動対回路の入力に正相の電圧を印加するフェーズとなる通常印加状態に加えて、逆相の電圧を印加するフェーズとなる逆相印加状態を設けることにより、BTI変動の同相の変動量がキャンセルされる。
【0012】
つまり、上記構成では、差動対回路が備える一対のMOSトランジスタのゲートとバックゲートとの間にDC的な電位差がほとんど生じないようにすることが可能となり、その結果、MOSトランジスタの特性の変動が抑えられる。また、上記構成では、切替回路は、差動対回路の動作時にも逆相印加状態に切り替えることができるため、差動対回路の動作時にもBTIによる特性劣化を抑えることができる。さらに、上記構成では、第3従来技術のようなアナログ回路を必要としないことから、その分だけ、回路規模を小さく抑えることができる。従って、上記構成によれば、回路規模の増大を招くことなくBTIによるMOSトランジスタの特性劣化を抑制することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る劣化抑制回路および差動対回路の構成を模式的に示す図
【
図2】第1実施形態に係る差動対回路の具体的な構成例を示す図
【
図3】第1実施形態に係る通常印加状態および逆相印加状態における差動対回路の各入力電圧を模式的に示す図
【
図4】第1実施形態に係る切替回路の具体的な第1構成例を示す図
【
図5】第1実施形態に係る切替回路の具体的な第2構成例を示す図
【
図6】第1実施形態に係る切替回路が通常印加状態と逆相印加状態とを切り替える具体的な第1タイミング例を示す図
【
図7】第1実施形態に係る切替回路が通常印加状態と逆相印加状態とを切り替える具体的な第2タイミング例を示す図
【
図8】第1実施形態に係る切替回路が通常印加状態と逆相印加状態とを切り替える具体的な第3タイミング例を示す図
【
図9】比較例に係る差動対回路の各入力電圧を模式的に示す図
【
図10】第2実施形態に係る劣化抑制回路および差動対回路の構成を模式的に示す図
【
図11】第2実施形態に係る切替回路が通常印加状態と逆相状態とを切り替える具体的なタイミング例を示すとともに反転回路による作用を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について
図1~
図9を参照して説明する。
【0015】
<全体構成>
図1に示すように、本実施形態の劣化抑制回路1は、差動対回路2が備える一対のMOSトランジスタの特性劣化を抑制する回路である。差動対回路2は、例えば車載用途、産業機器向けなどに適用される通信装置に適用される。具体的には、差動対回路2は、他の装置との間で通信を行う通信装置の受信回路を構成するものである。劣化抑制回路1および差動対回路2は、半導体集積回路、つまりICとして構成されている。
【0016】
劣化抑制回路1は、通常印加状態と逆相印加状態とを切り替えることができる切替回路3と、切替回路3の動作を制御する制御回路4と、を備えている。詳細は後述するが、切替回路3の動作は、制御回路4により生成される信号VSW、VSWバーに基づいて制御される。なお、
図1などでは、信号VSWバーについて、VSWの上に「-」を付して示している。差動対回路2は、第1入力端子として機能する非反転入力端子および第2入力端子として機能する反転入力端子のそれぞれを介して入力される一対の入力信号VinP_i、VinN_iの差に応じた出力信号Voutを出力する。つまり、差動対回路2は、比較器として機能する。
【0017】
本実施形態では、一対の入力信号VinP_i、VinN_iは、他の装置から送信された送信データを表す差動の通信信号となっている。一対の入力信号VinP_i、VinN_iは、一対の信号線L1、L2を介して入力された後、劣化抑制回路1が備える切替回路3を介して差動対回路2に与えられている。この場合、差動対回路2の非反転入力端子の電圧を入力電圧VinPと称するとともに、その反転入力端子の電圧を入力電圧VinNと称する。差動対回路2は、電源線L3、L4を介して与えられる電源電圧Vccの供給を受けて動作する。
【0018】
差動対回路2は、例えば
図2に示すように、その入力段として、一対のMOSトランジスタQ1、Q2および一定の電流を出力する電流源5を備えた構成となっている。MOSトランジスタQ1、Q2は、NMOSトランジスタであり、それらのソースは電流源5を介して回路の基準電位Vssが与えられる電源線L4に接続されている。MOSトランジスタQ1、Q2の各バックゲートには、基準電位Vssが与えられている。図示は省略しているが、MOSトランジスタQ1、Q2の各ドレインは、能動負荷を介して電源電圧Vccが与えられる電源線L3に接続されている。
【0019】
MOSトランジスタQ1のゲートには、入力電圧VinPが与えられる。MOSトランジスタQ2のゲートには、入力電圧VinNが与えられる。以下の説明では、一対のMOSトランジスタQ1、Q2のうち差動対回路2の非反転入力端子にゲートが接続されるMOSトランジスタQ1のことを第1トランジスタQ1とも称するとともに、一対のMOSトランジスタQ1、Q2のうち差動対回路2の反転入力端子にゲートが接続されるMOSトランジスタQ2のことを第2トランジスタQ2とも称することとする。
【0020】
切替回路3による切替状態のうち、通常印加状態は、第1トランジスタQ1のゲートに第1電圧V1を印加する、つまり入力電圧VinPを第1電圧V1にするとともに、第2トランジスタQ2のゲートに第2電圧V2を印加する、つまり入力電圧VinNを第2電圧V2にする状態である。切替回路3による切替状態のうち、逆相印加状態は、第1トランジスタQ1のゲートに第2電圧V2を印加する、つまり入力電圧VinPを第2電圧V2にするとともに、第2トランジスタQ2のゲートに第1電圧V1を印加する、つまり入力電圧VinNを第1電圧V1にする状態である。
【0021】
第1電圧V1は、下記(1)により表されるように、中間電圧Vmに対して所定の閾値電圧VTHだけ高い電圧である。ただし、中間電圧Vmは、下記(2)式により表されるように、電源電圧Vccの1/2の電圧である。
V1=Vm+VTH …(1)
Vm=Vcc/2 …(2)
【0022】
第2電圧V2は、下記(3)式により表されるように、中間電圧Vmに対して閾値電圧VTHだけ低い電圧である。
V2=Vm-VTH …(3)
【0023】
図3に示すように、切替回路3により通常印加状態に切り替えられた期間Taでは、入力電圧VinPが中間電圧Vmに対して閾値電圧VTHだけ高い第1電圧V1となり、入力電圧VinNが中間電圧Vmに対して閾値電圧VTHだけ低い第2電圧V2となる。また、切替回路3により逆相印加状態に切り替えられた期間Tbでは、入力電圧VinPが第2電圧V2となり、入力電圧VinNが第1電圧V1となる。
【0024】
上記構成では、通常印加状態と逆相印加状態とが切り替えられることにより、差動対回路2の各入力電圧VinPおよびVinNの差電圧ΔVdは、下記(4)式により表されるように「0」となる。
ΔVd=(Vm+VTH-(Vm-VTH))+(Vm-VTH-(Vm+VTH))
=(2×VTH)+(-2×VTH)=0 …(4)
このように、上記構成によれば、通常印加状態と逆相印加状態とが切り替えられることによりBTI変動がキャンセルされる。
【0025】
<切替回路の具体的な構成>
切替回路3の具体的な構成としては、例えば
図4に示すような第1構成例または
図5に示すような第2構成例を採用することができる。
[1]第1構成例
図4に示すように、第1構成例の切替回路3Aは、第1抵抗R1、第2抵抗R2、電流源I1a、I1b、I2a、I2b、I3a、I3b、I4a、I4b、スイッチS1a、S1b、S2a、S2b、S3a、S3b、S4a、S4bなどを備えている。
【0026】
第1抵抗R1は、その一方の端子が差動対回路2の非反転入力端子に接続されているとともに、その他方の端子が信号線L1に接続されている。第2抵抗R2は、その一方の端子が差動対回路2の反転入力端子に接続されているとともに、その他方の端子が信号線L2に接続されている。8つの電流源I1a~I4bは、いずれも一定の電流を出力する定電流源として構成されている。
【0027】
第1抵抗R1の一方の端子は、スイッチS1aおよび電流源I1aを介して電源線L3に接続されている。第1抵抗R1の他方の端子は、スイッチS1bおよび電流源I1bを介して電源線L4に接続されている。第1抵抗R1の他方の端子は、スイッチS2aおよび電流源I2aを介して電源線L3に接続されている。第1抵抗R1の一方の端子は、スイッチS2bおよび電流源I2bを介して電源線L4に接続されている。
【0028】
第2抵抗R2の一方の端子は、スイッチS3aおよび電流源I3aを介して電源線L3に接続されている。第2抵抗R2の他方の端子は、スイッチS3bおよび電流源I3bを介して電源線L4に接続されている。第2抵抗R2の他方の端子は、スイッチS4aおよび電流源I4aを介して電源線L3に接続されている。第2抵抗R2の一方の端子は、スイッチS4bおよび電流源I4bを介して電源線L4に接続されている。
【0029】
上記構成において、スイッチS1a、S1bがオンされる期間、第1抵抗R1の一方の端子から他方の端子に向けて電流源I1a、I1bの各電流値に応じた電流が流れる。この場合、スイッチS1a、S1bがオンされる期間における第1抵抗R1の他方の端子の電圧が中間電圧Vmになるとともに第1抵抗R1での電圧降下が閾値電圧VTHとなるように、言い換えると第1抵抗R1の一方の端子に第1電圧V1が発生するように、第1抵抗R1の抵抗値および電流源I1a、I1bの各電流値が設定されている。上記構成では、スイッチS1a、S1bおよび電流源I1a、I1bは、第1抵抗R1に電流を流すことにより第1抵抗R1の一方の端子に第1電圧V1を発生させる動作を実行することができる第1電流回路11として機能する。
【0030】
上記構成において、スイッチS2a、S2bがオンされる期間、第1抵抗R1の他方の端子から一方の端子に向けて電流源I2a、I2bの各電流値に応じた電流が流れる。この場合、スイッチS2a、S2bがオンされる期間における第1抵抗R1の他方の端子の電圧が中間電圧Vmになるとともに第1抵抗R1での電圧降下が閾値電圧VTHとなるように、言い換えると第1抵抗R1の一方の端子に第2電圧V2が発生するように、第1抵抗R1の抵抗値および電流源I2a、I2bの各電流値が設定されている。上記構成では、スイッチS2a、S2bおよび電流源I2a、I2bは、第1抵抗R1に電流を流すことにより第1抵抗R1の一方の端子に第2電圧V2を発生させる動作を実行することができる第2電流回路12として機能する。
【0031】
上記構成において、スイッチS3a、S3bがオンされる期間、第2抵抗R2の一方の端子から他方の端子に向けて電流源I3a、I3bの各電流値に応じた電流が流れる。この場合、スイッチS3a、S3bがオンされる期間における第2抵抗R2の他方の端子の電圧が中間電圧Vmになるとともに第2抵抗R2での電圧降下が閾値電圧VTHとなるように、言い換えると第2抵抗R2の一方の端子に第1電圧V1が発生するように、第2抵抗R2の抵抗値および電流源I3a、I3bの各電流値が設定されている。上記構成では、スイッチS3a、S3bおよび電流源I3a、I3bは、第2抵抗R2に電流を流すことにより第2抵抗R2の一方の端子に第1電圧V1を発生させる動作を実行することができる第3電流回路13として機能する。
【0032】
上記構成において、スイッチS4a、S4bがオンされる期間、第2抵抗R2の他方の端子から一方の端子に向けて電流源I4a、I4bの各電流値に応じた電流が流れる。この場合、スイッチS4a、S4bがオンされる期間における第2抵抗R2の他方の端子の電圧が中間電圧Vmになるとともに第2抵抗R2での電圧降下が閾値電圧VTHとなるように、言い換えると第2抵抗R2の一方の端子に第2電圧V2が発生するように、第2抵抗R2の抵抗値および電流源I4a、I4bの各電流値が設定されている。上記構成では、スイッチS4a、S4bおよび電流源I4a、I4bは、第2抵抗R2に電流を流すことにより第2抵抗R2の一方の端子に第2電圧V2を発生させる動作を実行することができる第4電流回路14として機能する。
【0033】
スイッチS1a、S1b、S4a、S4bは、制御回路4から与えられる2値の信号VSWに基づいてオンオフされる。スイッチS2a、S2b、S3a、S3bは、制御回路4から与えられる信号VSWバーに基づいてオンオフされる。信号VSW、VSWバーは、いずれも2値の信号である。本明細書では、信号VSW、VSWバーのような2値の信号について、相対的に高いレベルのことをハイレベルと称するとともに、相対的に低いレベルのことをロウレベルと称することとする。
【0034】
具体的には、スイッチS1a、S1b、S4a、S4bは、信号VSWがハイレベルである期間にオンされるとともに、信号VSWがロウレベルである期間にオフされる。スイッチS2a、S2b、S3a、S3bは、信号VSWバーがハイレベルである期間にオンされるとともに、信号VSWバーがロウレベルである期間にオフされる。この場合、信号VSWバーは、信号VSWの反転信号となっている。そのため、上記構成では、スイッチS1a、S1b、S4a、S4bと、スイッチS2a、S2b、S3a、S3bと、は、相補的にオンオフされる。
【0035】
制御回路4は、切替回路3Aによる切替状態を通常印加状態とする場合、信号VSWをハイレベルにする。これにより、通常印加状態では、スイッチS1a、S1b、S4a、S4bがオンするとともに、スイッチS2a、S2b、S3a、S3bがオフする。つまり、制御回路4は、通常印加状態では、第1電流回路11および第4電流回路14の動作を実行させるとともに第2電流回路12および第3電流回路13の動作を停止させる。これにより、通常印加状態では、入力電圧VinPが第1電圧V1になるとともに、入力電圧VinNが第2電圧V2になる。
【0036】
制御回路4は、切替回路3Aによる切替状態を逆相印加状態とする場合、信号VSWバーをハイレベルにする。これにより、逆相印加状態では、スイッチS2a、S2b、S3a、S3bがオンするとともに、スイッチS1a、S1b、S4a、S4bがオフする。つまり、制御回路4は、逆相印加状態では、第2電流回路12および第3電流回路13の動作を実行させるとともに第1電流回路11および第4電流回路14の動作を停止させる。これにより、逆相印加状態では、入力電圧VinPが第2電圧V2になるとともに、入力電圧VinNが第1電圧V1になる。
【0037】
[2]第2構成例
図5に示すように、第2構成例の切替回路3Bは、MOSトランジスタQ3、Q4、スイッチS11、S12、S13、S14などを備えている。この場合、差動対回路2は、2つの電流源15、16を備えている。第1トランジスタQ1のソースは、電流源15を介して電源線L4に接続されており、第2トランジスタQ2のソースは、電流源16を介して電源線L4に接続されている。第1トランジスタQ1および第2トランジスタQ2の各ドレインは、2つのPMOSトランジスタによるカレントミラー回路からなる能動負荷17を介して電源線L3に接続されている。
【0038】
MOSトランジスタQ3、Q4は、NMOSトランジスタである。MOSトランジスタQ3のソースは、電流源15を介して電源線L4に接続されており、MOSトランジスタQ4のソースは、電流源16を介して電源線L4に接続されている。MOSトランジスタQ3、Q4の各バックゲートには、基準電位Vssが与えられている。MOSトランジスタQ3、Q4の各ドレインは、能動負荷17を介して電源線L3に接続されている。
【0039】
上記構成において、MOSトランジスタQ3は、第1トランジスタQ1とともにカレントミラー回路を構成する第3トランジスタとして機能する。また、上記構成において、MOSトランジスタQ4は、第2トランジスタQ2とともにカレントミラー回路を構成する第4トランジスタとして機能する。以下の説明では、MOSトランジスタQ3のことを第3トランジスタQ3とも称するとともに、MOSトランジスタQ4のことを第4トランジスタQ4とも称することとする。
【0040】
第3トランジスタQ3のゲートは、スイッチS11を介して第1電圧V1が供給される電圧線18に接続されているとともに、スイッチS12を介して第2電圧V2が供給される電圧線19に接続されている。第4トランジスタQ4のゲートは、スイッチS13を介して電圧線18に接続されているとともに、スイッチS14を介して電圧線19に接続されている。
【0041】
スイッチS11、S14は、制御回路4から与えられる信号VSWに基づいてオンオフされる。スイッチS12、S13は、制御回路4から与えられる信号VSWバーに基づいてオンオフされる。信号VSW、VSWバーは、いずれも第1構成例において説明したものと同様の信号である。スイッチS11、S14は、信号VSWがハイレベルである期間にオンされるとともに、信号VSWがロウレベルである期間にオフされる。スイッチS12、S13は、信号VSWバーがハイレベルである期間にオンされるとともに、信号VSWバーがロウレベルである期間にオフされる。上記構成では、スイッチS11、S14と、スイッチS12、S13と、は、相補的にオンオフされる。
【0042】
制御回路4は、切替回路3Bによる切替状態を通常印加状態とする場合、信号VSWをハイレベルにする。これにより、通常印加状態では、スイッチS11、S14がオンするとともに、スイッチS12、S13がオフする。つまり、制御回路4は、通常印加状態では、第3トランジスタQ3のゲートに第1電圧V1を印加するとともに第4トランジスタQ4のゲートに第2電圧V2を印加するように切替回路3Bの動作を制御する。
【0043】
制御回路4は、切替回路3Bによる切替状態を逆相印加状態とする場合、信号VSWバーをハイレベルにする。これにより、逆相印加状態では、スイッチS12、S13がオンするとともに、スイッチS11、S14がオフする。つまり、制御回路4は、逆相印加状態では、第3トランジスタQ3のゲートに第2電圧V2を印加するとともに第4トランジスタQ4のゲートに第1電圧V1を印加するように切替回路3Bの動作を制御する。
【0044】
[3]各構成例の特徴
第1構成例によれば、差動対回路2の動作電流となる電流源5の電流値に関係なく、第1抵抗R1および第2抵抗R2の各抵抗値と電流源I1a~I4bの各電流値により閾値電圧VTHを任意の値に定めることができるため、差動対回路2の各入力端子に対して第1電圧V1および第2電圧V2を精度良く印加することができる。ただし、第1構成例では、差動対回路2の入力レンジが削られるというデメリットがある。
【0045】
第2構成例では、第1構成例に比べ差動対回路2の各入力端子に対して印加する第1電圧V1および第2電圧V2の精度が低下するものの、劣化抑制回路1が差動対回路2の入力レンジに影響を及ぼすことがなく、その入力レンジを十分に確保することができる。また、第2構成例によれば、第1構成例に比べ、必要となる電流源の数が少ない分だけ、回路規模を小さく抑えることができる。
【0046】
<切替回路による各状態の具体的な切り替えタイミング>
切替回路3が通常印加状態と逆相印加状態とを切り替える具体的なタイミングとしては、例えば
図6に示すような第1タイミング例、
図7に示すような第2タイミング例または
図8に示すような第3タイミング例を採用することができる。
【0047】
[1]第1タイミング例
図6に示すように、切替回路3は、他の装置から送信された送信データを1フレーム受信する毎に通常印加状態と逆相印加状態とを切り替えることができる。具体的には、切替回路3は、通信フレームn+1を受信する期間に通常印加状態に切り替え、その次の通信フレームn+2を受信する期間に逆相印加状態に切り替え、さらにその次の通信フレームn+3を受信する期間に通常印加状態に切り替える、といった具合で送信データを1フレーム受信する毎に切替状態を変化させることができる。
【0048】
[2]第2タイミング例
第2タイミング例は、第1タイミング例と同様、送信データを1フレーム受信する毎に切替状態を変化させるものであるが、切り替えのタイミングがより具体化されている。すなわち、この場合、
図7に示すように、切替回路3は、フレームデータが確定するタイミングt1で通常印加状態と逆相印加状態とを切り替えることができる。なお、
図7などにおいて、差動電圧は、入力信号VinP_i、VinN_iの差に相当するものであり、デジタル値は、差動対回路2の出力信号Voutから得られるデジタル値に相当するものである。
【0049】
第2タイミング例では、通信フレームが周期的に送信される場合を想定している。この場合、
図7に示すように、切替回路3は、周期的に送信される通信フレームを受信した後にフレームデータが確定されるのを待って通常印加状態から逆相印加状態に切り替える、といった具合でフレームデータが確定するタイミングで切替状態を変化させることができる。
【0050】
[3]第3タイミング例
第3タイミング例では、通信信号が連続的に送信される場合を想定している。この場合、
図8に示すように、切替回路3は、通信信号を受信する毎に通常印加状態と逆相印加状態とを切り替えることができる。具体的には、切替回路3は、通信信号を受信した後にデータが確定するタイミングで切替状態を変化させることができる。なお、
図8では、データが確定するタイミングを黒塗りの矢印で表している。
【0051】
[4]各タイミング例の特徴
第1タイミング例および第2タイミング例によれば、送信データを1フレーム受信する毎に切替状態を変化させるようになっているため、第3タイミング例に比べ、切り替え回数が少なく抑えられ、その結果、切り替えに関連する制御の煩雑化を抑制することができる。一方、第3タイミング例によれば、通信信号が連続的に送信される場合にも適用することができることから、第1タイミング例および第2タイミング例に比べ、用途の汎用性を高めることができるというメリットがある。
【0052】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
劣化抑制回路1が備える切替回路3は、差動対回路2の非反転入力端子、つまり第1トランジスタQ1のゲートに中間電圧Vmに対して閾値電圧VTHだけ高い電圧である第1電圧V1を印加するとともに差動対回路2の反転入力端子、つまり第2トランジスタQ2のゲートに中間電圧Vmに対して閾値電圧VTHだけ低い電圧である第2電圧V2を印加する通常印加状態と、第1トランジスタQ1のゲートに第2電圧V2を印加するとともに
第2トランジスタQ2のゲートに第1電圧V1を印加する逆相印加状態と、を切り替えることができる。
【0053】
本実施形態では、BTIによるMOSトランジスタQ1、Q2の特性劣化が、つまりBTI変動が、MOSトランジスタQ1、Q2のゲートとバックゲートとの間にDC的に電位差が生じている期間にゲート閾値電圧が変動するものであることから、MOSトランジスタQ1、Q2のゲートとバックゲートとの間に逆バイアスを生じさせると劣化が改善するという点に着目している。上記構成によれば、差動対回路2の入力に正相の電圧を印加するフェーズとなる通常印加状態に加えて、逆相の電圧を印加するフェーズとなる逆相印加状態を設けることにより、BTI変動の同相の変動量がキャンセルされる。
【0054】
つまり、上記構成では、差動対回路2が備える一対のMOSトランジスタQ1、Q2のゲートとバックゲートとの間にDC的な電位差がほとんど生じないようにすることが可能となり、その結果、MOSトランジスタQ1、Q2の特性の変動が抑えられる。また、上記構成では、切替回路3は、差動対回路2の動作時にも逆相印加状態に切り替えることができるため、差動対回路2の動作時にもBTIによる特性劣化を抑えることができる。さらに、上記構成では、第3従来技術のようなアナログ回路を必要としないことから、その分だけ、回路規模を小さく抑えることができる。従って、本実施形態によれば、回路規模の増大を招くことなくBTIによるMOSトランジスタQ1、Q2の特性劣化を抑制することができるという優れた効果が得られる。
【0055】
なお、このような本実施形態により得られる効果は、従来技術に相当する比較例との比較により一層明らかなものとなる。すなわち、
図9に示すように、比較例では、入力電圧VinPが常に中間電圧Vmに対して閾値電圧VTHだけ高い第1電圧V1となり、入力電圧VinNが常に中間電圧Vmに対して閾値電圧VTHだけ低い第2電圧V2となっている。
【0056】
比較例では、差動対回路2の各入力電圧VinPおよびVinNの差電圧ΔVdは、下記(5)式により表されるように「2×VTH」となる。
ΔVd=(Vm+VTH)-(Vm-VTH)=2×VTH …(5)
【0057】
このように、比較例では、BTI変動が生じていることが分かる。これに対し、本実施形態の構成によれば、
図3および(4)式に示したように、差動対回路2の各入力電圧VinPおよびVinNの差電圧ΔVdが「0」となっている。つまり、本実施形態の構成によれば、通常印加状態と逆相印加状態とが切り替えられることによりBTI変動がキャンセルされる。
【0058】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について
図10および
図11を参照して説明する。
図10に示すように、本実施形態では、通信装置の受信回路が2系統設けられる場合を想定しており、第1実施形態の切替回路3および差動対回路2と同様の構成が2つずつ設けられている。本実施形態の通信装置は、マンチェスター符号を用いた通信を行うようになっている。
【0059】
この場合、2つの切替回路3のうち、上側の閾値に対応するものを切替回路3Hと称するとともに、下側の閾値に対応するものを切替回路3Lと称する。また、この場合、2つの差動対回路2のうち、上側の閾値に対応するものを差動対回路2Hと称するとともに、下側の閾値に対応するものを差動対回路2Lと称する。本実施形態では、切替回路3H、3Lおよび制御回路4と、後述する反転回路21と、から劣化抑制回路22が構成されている。
【0060】
この場合、差動対回路2Hの非反転入力端子の電圧を入力電圧VinPaと称するとともに、その反転入力端子の電圧を入力電圧VinNbと称する。また、この場合、差動対回路2Lの非反転入力端子の電圧を入力電圧VinPcと称するとともに、その反転入力端子の電圧を入力電圧VinNdと称する。差動対回路2Hは、一対の入力信号VinP_i、VinN_iの差に応じた出力信号VoutPを出力する。また、差動対回路2Lは、一対の入力信号VinP_i、VinN_iの差に応じた出力信号VoutNを出力する。出力信号VoutPおよびVoutNは、反転回路21に入力されている。
【0061】
反転回路21は、切替回路3H、3Lにより逆相印加状態に切り替えられている期間に出力信号VoutP、VoutNが表す論理を反転するものであり、スイッチS21、S22、S23、S24を備えている。反転回路21は、出力信号VoutPを入力する入力ノードN21と、出力信号VoutNを入力する入力ノードN22と、出力信号VoutPに対応した出力信号VoutP_oを出力する出力ノードN23と、出力信号VoutNに対応した出力信号VoutN_oを出力する出力ノードN24と、を備えている。
【0062】
スイッチS21は、入力ノードN21と出力ノードN23との間に接続されている。スイッチS22は、入力ノードN22と出力ノードN23との間に接続されている。スイッチS23は、入力ノードN21と出力ノードN24との間に接続されている。スイッチS24は、入力ノードN22と出力ノードN24との間に接続されている。スイッチS21、S24は、制御回路4から与えられる信号VSWに基づいてオンオフされる。スイッチS22、S23は、制御回路4から与えられる信号VSWバーに基づいてオンオフされる。
【0063】
スイッチS21、S24は、信号VSWがハイレベルである期間にオンされるとともに、信号VSWがロウレベルである期間にオフされる。スイッチS22、S23は、信号VSWバーがハイレベルである期間にオンされるとともに、信号VSWバーがロウレベルである期間にオフされる。上記構成では、スイッチS21、S24と、スイッチS22、S23と、は、相補的にオンオフされる。
【0064】
これにより、反転回路21は、切替回路3H、3Lにより通常印加状態に切り替えられている期間、出力信号VoutPと同じ論理を表す出力信号VoutP_oおよび出力信号VoutNと同じ論理を表す出力信号VoutN_oを出力する。また、反転回路21は、切替回路3H、3Lにより逆相印加状態に切り替えられている期間、出力信号VoutPとは逆の論理を表す出力信号VoutP_oおよび出力信号VoutNとは逆の論理を表す出力信号VoutN_oを出力する。この場合、出力信号VoutP_o、VoutN_oが、受信回路の出力となる。
【0065】
本実施形態では、切替回路3H、3Lが通常印加状態と逆相印加状態とを切り替える具体的なタイミングとして、
図7に示した第2タイミング例を採用している。そのため、
図11に示すように、切替回路3H、3Lは、送信データを1フレーム受信する毎に切替状態を変化させるようになっている。具体的には、切替回路3H、3Lは、通信フレームnを受信する期間に通常印加状態に切り替え、その次の通信フレームn+1を受信する期間に逆相印加状態に切り替える、といった具合で送信データを1フレーム受信する毎に切替状態を変化させることができる。この場合、フレームデータが確定するタイミングで通常印加状態と逆相印加状態とを切り替えるようになっている。
【0066】
ここで、通信フレームnと、通信フレームn+1と、が同じデータを表しているものとする。上記構成では、差動対回路2H、2Lの出力信号VoutP、VoutNのマンチェスター符号の論理が、通信フレームnと通信フレームn+1とで反転したものとなってしまう。しかし、上記構成では、反転回路21の出力信号VoutP、VoutNのマンチェスター符号の論理は、通信フレームnと通信フレームn+1とで反転することはなく、同じ論理を表したものとなる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の劣化抑制回路22は、通信装置の受信回路が2系統設けられる場合に適用されるものであり、切替回路3H、3Lにより逆相印加状態に切り替えられている期間に出力信号VoutP、VoutNが表す論理を反転する反転回路21を備えている。反転回路21を備えていない構成によれば、逆相印加状態では、通常印加状態に対し、受信閾値電圧が逆相になるため、受信回路の出力となる出力電圧VoutP、VoutNのマンチェスター符号の論理が反転する。
【0068】
このような構成によれば、通信装置が正しい通信を行えなくなるおそれがある。これに対し、本実施形態の構成によれば、逆相印加状態においても、反転回路21の作用により、受信回路の出力となる出力電圧VoutP、VoutNのマンチェスター符号の論理が反転することはなく、通常印加状態と同じ論理を表したものとなり、その結果、通信装置による通信を正常に行い得ることができる。
【0069】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記各実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
【0070】
劣化抑制回路1、22は、車載用途、産業機器向けなどに適用することができる通信装置の受信回路に用いられる差動対回路2などに限らず、各種の差動対回路を対象として、それらが備える一対のMOSトランジスタの特性劣化を抑制することができる。また、上記各実施形態では、差動対回路として、一対のNMOSトランジスタであるMOSトランジスタQ1、Q2を備えた構成を例示したが、差動対回路としては一対のPMOSトランジスタを備えた構成であってもよい。
【0071】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0072】
1、22…劣化抑制回路、2…差動対回路、3、3A、3B、3H、3L…切替回路、11…第1電流回路、12…第2電流回路、13…第3電流回路、14…第4電流回路、21…反転回路、Q1…第1トランジスタ、Q2…第2トランジスタ、Q3…第3トランジスタ、Q4…第4トランジスタ、R1…第1抵抗、R2…第2抵抗。