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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098762
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】燃料噴射ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/10 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
F02M59/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002439
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 峻
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AC09
3G066BA46
3G066CA01S
3G066CD30
3G066CE05
(57)【要約】
【課題】タペットの回動限界位置で、回止部材と回止溝との接触時のストレスを低減し、塑性変形を抑制する燃料噴射ポンプを提供する。
【解決手段】タペット400は、カムに当接して転動するローラ、ローラ支持部材及びタペットボデー40を有する。ハウジング30の内周壁31に回止部材53が取り付けられ、タペットボデー40の外周壁41に回止溝42が形成されている。回止部材53が回止溝42に嵌合した状態でタペット400は軸方向に摺動可能、且つ、周方向に所定角度範囲で回動可能である。タペット400の軸zに垂直な断面において、回止溝42の内側辺45は、タペット基準中心線ytに対して、タペット400の径方向外側ほど対向距離が大きくなるように傾斜している。タペット400の回動限界位置で、回止部材53の外側辺55と回止溝42の内側面45とがなす接触角度αの絶対値が回動可能角度θrよりも小さくなるように設定されている。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力軸と連動して回転するカム(75)を有するカムシャフト(70)と、
円筒状の内周壁(31)が形成されたハウジング(30)と、
前記カムに当接して転動するローラ(60)、前記ローラを支持するローラ支持部材(61、62)、及び、前記ローラ支持部材を保持し、前記カムの回転に伴って、外周壁(41)が前記ハウジングの前記内周壁にガイドされて軸方向に摺動するタペットボデー(40)を有するタペット(400)と、
前記タペットと一体に往復移動し、加圧室(22)に吸入された燃料を加圧して吐出するプランジャ(27)と、
を備える燃料噴射ポンプであって、
前記ハウジングの内周壁又は前記タペットボデーの外周壁の一方に、前記タペットの径方向に突出する回止部材(53、54)が取り付けられ、
前記ハウジングの内周壁又は前記タペットボデーの外周壁の他方に、前記回止部材が嵌合する回止溝(42、32)が形成されており、
前記回止部材が前記回止溝に嵌合した状態で、前記タペットは軸方向に摺動可能、且つ、周方向に所定角度範囲で回動可能であり、
前記タペットの軸(z)に垂直な断面において、
前記タペットの軸と、前記ハウジングに取り付けられた前記回止部材(53)、又は、前記ハウジングに形成された前記回止溝(32)の周方向中心とを結ぶ直線をハウジング基準中心線(yh)と定義し、
前記タペットの軸と、前記タペットボデーに取り付けられた前記回止部材(54)、又は、前記タペットボデーに形成された前記回止溝(42)の周方向中心とを結ぶ直線をタペット基準中心線(yt)と定義し、
前記タペット基準中心線が前記ハウジング基準中心線に一致する回動中立位置から片方の回動限界位置までの回動角度を回動可能角度(θr)と定義すると、
互いに対向する前記回止溝の内側面(45、35)又は前記回止部材の外側辺(55)の少なくとも一方は、当該回止溝又は回止部材に対応する前記ハウジング基準中心線又は前記タペット基準中心線に対して、前記タペットの径方向外側ほど対向距離が大きくなるように傾斜しており、
前記タペットの回動限界位置で、前記回止部材の前記外側辺と前記回止溝の前記内側面とがなす接触角度(α)の絶対値が前記回動可能角度よりも小さくなるように設定されている燃料噴射ポンプ。
【請求項2】
前記回止部材(53)は前記ハウジングの内周壁に取り付けられ、前記回止溝(42)は前記タペットボデーに形成されている請求項1に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項3】
前記回止部材(54)は前記タペットボデーの外周壁に取り付けられ、前記回止溝(32)は前記ハウジングに形成されている請求項1に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項4】
前記タペットの回動限界位置で前記接触角度が0となり、前記回止部材の前記外側辺が前記回止溝の前記内側面に当接するように設定されている請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料噴射ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カムの回転に伴ってタペットがハウジングの内周壁に沿って摺動し、燃料を加圧して吐出する燃料噴射ポンプにおいて、ピン等の回止部材が回止溝に嵌合することで、ハウジングに対するタペットの回動を規制する回り止め構造が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された燃料噴射ポンプでは、回止部材の先端部が二面幅加工されている。タペット摺動方向において回止部材が回止溝の内側面に接触する範囲が増えることで、回止部材と回止溝との接触面圧の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102016224835号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タペットを構成するローラとカムとの角度ミスアライメントによる片当たりが生じる場合、タペットの回動可能範囲が小さ過ぎると局所的に面圧が高い状態が継続し、ローラの破壊等に至るおそれがある。そこで、回止部材が回止溝に嵌合した状態でタペットが適度に回動し、片当たりが解消されるように自動的に調整されることが好ましい。
【0006】
しかし、タペットの軸に垂直な断面において、回止溝の内側面と回止部材の外側辺とが平行であると、タペットが回動したとき、回止溝の内側面と回止部材の外側辺とがエッジで点接触する。このとき、回止部材の外側辺と回止溝の内側面とがなす接触角度の絶対値が大きいほど、接触時のストレスが増大する。このストレスにより回止部材や回止溝の塑性変形が生じ、適正な回り止め機能が損なわれるおそれがある。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、タペットの回動限界位置で、回止部材と回止溝との接触時のストレスを低減し、塑性変形を抑制する燃料噴射ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による燃料噴射ポンプは、カムシャフト(70)と、ハウジング(30)と、タペット(400)と、プランジャ(27)と、を備える。カムシャフトは、内燃機関の出力軸と連動して回転するカム(75)を有する。ハウジングは、円筒状の内周壁(31)が形成されている。
【0009】
タペットは、カムに当接して転動するローラ(60)、ローラを支持するローラ支持部材(61、62)、及び、タペットボデー(40)を有する。タペットボデーは、ローラ支持部材を保持し、カムの回転に伴って、外周壁(41)がハウジングの内周壁にガイドされて軸方向に摺動する。プランジャは、タペットと一体に往復移動し、加圧室(22)に吸入された燃料を加圧して吐出する。
【0010】
ハウジングの内周壁又はタペットボデーの外周壁の一方に、タペットの径方向に突出する回止部材(53、54)が取り付けられる。ハウジングの内周壁又はタペットボデーの外周壁の他方に、回止部材が嵌合する回止溝(42、32)が形成されている。回止部材が回止溝に嵌合した状態でタペットは軸方向に摺動可能、且つ、周方向に所定角度範囲で回動可能である。
【0011】
タペットの軸(z)に垂直な断面において、タペットの軸と、ハウジングに取り付けられた回止部材(53)、又は、ハウジングに形成された回止溝(32)の周方向中心とを結ぶ直線をハウジング基準中心線(yh)と定義する。タペットの軸と、タペットボデーに取り付けられた回止部材(54)、又は、タペットボデーに形成された回止溝(42)の周方向中心とを結ぶ直線をタペット基準中心線(yt)と定義する。タペット基準中心線がハウジング基準中心線に一致する回動中立位置から片方の回動限界位置までの回動角度を回動可能角度(θr)と定義する。
【0012】
互いに対向する回止溝の内側面(45、35)又は回止部材の外側辺(55)の少なくとも一方は、当該回止溝又は回止部材に対応するハウジング基準中心線又はタペット基準中心線に対して、タペットの径方向外側ほど対向距離が大きくなるように傾斜している。タペットの回動限界位置で、回止部材の外側辺と回止溝の内側面とがなす接触角度(α)の絶対値が回動可能角度よりも小さくなるように設定されている。好ましくは、接触角度が0となり、回止部材の外側辺が回止溝の内側面に当接するように設定されている。
【0013】
本発明では、回止溝の内側面と回止部材の外側辺とが平行である従来技術に比べ、接触時のストレスを低減し、塑性変形を抑制することができる。よって、回り止め機能を好適に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】燃料噴射ポンプのプランジャ軸方向断面図。
図2】シューローラ式タペットの(a)側面図、(b)軸方向断面図。
図3】(a)カムの回転途中の状態、(b)タペットが最高点にある状態を示すピンローラ式タペットの軸方向断面図。
図4】カム当接面がローラ回転軸に対して傾いた状態の図。
図5】タペットの回動可能範囲が過小である場合に図3(a)の状態でのローラとカムとの間に発生する面圧を示す模式図。
図6】タペットの回動可能範囲が適切である場合に図3(a)の状態でのローラとカムとの間に発生する面圧を示す模式図。
図7】タペットの回動可能範囲が過大であり、タペットが大きく回動した場合に図3(b)の状態でのローラとカムとの間に発生する面圧を示す模式図。
図8】ピンローラ式タペットの(a)側面図、(b)軸方向断面図。
図9図8のIX-IX線に対応する第1実施形態のタペット径方向断面図。
図10】(a)タペット下降時、(b)上昇時の図9のX-X線断面模式図。
図11】第1実施形態のタペット回動限界位置での図9の拡大断面図。
図12】比較例の図11に相当する拡大断面図。
図13】第1実施形態の変形例Aの図11に相当する拡大断面図。
図14】第1実施形態の変形例Bの図11に相当する拡大断面図。
図15】傾斜角度θk又は接触角度αと接触時ストレスとの関係を示す図。
図16】第2実施形態のタペット径方向断面図。
図17】第3実施形態のタペット径方向断面図。
図18】第4実施形態のタペット径方向断面図。
図19】第5実施形態のタペット径方向断面図。
図20】第6実施形態のタペット径方向断面図。
図21】第7実施形態のタペット径方向断面図。
図22】第8実施形態の(a)タペット下降時、(b)上昇時の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
燃料噴射ポンプの複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。第1~第8実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態の燃料噴射ポンプは、例えばディーゼルエンジンのコモンレールシステムにおいて高圧燃料をコモンレールに圧送するサプライポンプとして適用される。本実施形態の燃料噴射ポンプの符号として包括的な説明では「100」を用い、各実施形態の説明では「10」に続く3桁目に実施形態の番号を付す。
【0016】
図1図2を参照し、本実施形態の燃料噴射ポンプ100の全体構成を説明する。便宜上、図1の上下方向を上下として記す。燃料噴射ポンプ100は、ポンプボデー20、プランジャ27、ハウジング30、タペット400、カムシャフト70等を備える。
【0017】
ポンプボデー20はハウジング30の上部に組み付けられており、上下方向のプランジャ軸zに沿ってシリンダ26内をプランジャ27が摺動する。シリンダ26の上部には、燃料が加圧される加圧室22が形成されている。加圧室22の燃料入口側には入口側調量弁(逆止弁)23が設けられており、加圧室22の燃料出口側には出口側逆止弁24が設けられている。プランジャ27は、タペット400と一体に往復移動し、加圧室22に吸入された燃料を加圧して吐出する。
【0018】
ハウジング30には、ジャーナル部71を介してカムシャフト70が軸Xcを中心として回転可能に支持されている。カムシャフト70は、内燃機関(ディーゼルエンジン)の出力軸と連動して回転するカム75を有する。カムシャフト70とハウジング30との間はオイルシール72によりシールされている。またハウジング30には、カム75の上方に、円筒状の内周壁31が形成されている。
【0019】
カムシャフト70の一端側には、ポンプカバー78内に収納されたフィードポンプ77が結合されている。フィードポンプ77は、カムシャフト70に回転駆動されることにより、燃料タンクから吸入した燃料を吐出し、入口側調量弁23を介して加圧室22に供給する。
【0020】
図2に示すように、タペット400は、タペットボデー40、ローラ60、及び、ローラを支持するローラ支持部材61を有する。タペット400の構造には複数のタイプがあり、図2には、図1に対応するシューローラ式タペットを示す。シューローラ式タペットでは、ローラ支持部材としてシュー61が用いられる。なお、後述の各実施形態の説明ではピンローラ式タペットを図示する。また、図2(a)に示される回止溝42については後述する。
【0021】
ポンプボデー20とタペット400の上面との間に設けられたスプリング28により、タペット400はカム75側に付勢されており、ローラ60は常にカム75の上面に当接する。したがって、カム75が回転すると、ローラ60はカム75に当接して転動する。タペットボデー40は、ローラ支持部材61を保持し、カム75の回転に伴って、外周壁41がハウジング30の内周壁31にガイドされて軸z方向に摺動する。これにより、プランジャ27はタペット400と一体に往復移動する。
【0022】
次に図3図7を参照し、タペットの回動について説明する。図3図7で例示されるタペットは、図2(a)、(b)とは別タイプのピンローラ式タペットである。図4に示すように、ピンローラ式タペットでは、ローラ60を支持するローラ支持部材としてピン62が用いられる。図3(a)にカム75の回転途中の状態を示す。図3(b)に、カム75の長軸がプランジャ27の軸方向(z方向)を向き、タペット400が最高点にある状態を示す。各状態でローラ60は、カム75の当接部76からブロック矢印の方向に押し上げる作用力Fを受ける。
【0023】
量産工程では、ハウジング30の内周壁31の寸法バラツキによるタペット400の傾きや、カムシャフト70の軸Xcに対するカム75の当接部76の平行度バラツキが生じ得る。すると図4に示すように、ローラ60とカム75との角度ミスアライメントによる片当たり等の現象が発生する可能性がある。そして、タペット400を軸z中心に回動させようとする力が働く。
【0024】
従来、タペット400が無制限に回動することを防ぐため、ピン等の回止部材が回止溝に嵌合する回り止め構造が知られている。回止部材の周方向幅に対して回止溝の周方向幅を大きく設定することで回動可能な角度範囲が規定される。図5図6図7に、それぞれ、タペット400の回り止め構造による回動可能範囲が過小、適切、過大である場合にローラ60とカム75との間に発生する面圧を模式的に示す。図5及び図6図3(a)の状態に対応し、図7図3(b)の状態に対応する。
【0025】
まず、図6に示すように回動可能範囲が適切である場合を想定する。タペット400の上昇行程、下降行程において角度ミスアライメントによる片当たりが発生すると、ローラ60とカム75との間の面圧が左右不均等になることに起因する回動トルクによりタペット400が回動する(矢印R)。これにより、ローラ60とカム75との片当たりが解消されるように自動的に調整される。
【0026】
図5に示すように回動可能範囲が過小である場合、タペット400が回動できず、片当たりによって局所的に面圧が高い状態が継続する。その結果、ローラ60が破壊したり、タペットボデー40のピン62を保持する部位が摩耗したりするおそれがある。
【0027】
図7に示すように回動可能範囲が過大である場合、タペット400の最高点においてローラ60とカム75とがローラ60の中央の一点で当たり、面圧が一点に集中するおそれがある。その結果、ローラ60が破壊したり、ピン62が中央付近で折損したりするおそれがある。
【0028】
したがって、タペット400が適度な範囲で回動可能なようにタペット400の回り止め構造が設けられることが必要である。その背反として、タペット400の回動限界位置では回止部材と回止溝との接触時に相応のストレスが発生する。そこで本実施形態では、タペット400の回動限界位置での回止部材と回止溝との接触時のストレスを低減することを目的とする。
【0029】
図8(a)、(b)に、以下の各実施形態のベースとなるピンローラ式タペットの形状を示す。ピンローラ式のタペット400では、ローラ支持部材としてのピン62がブッシュ63を介してローラ60を支持する。ローラ60の両端とタペットボデー40との間にはワッシャ64が介装されている。また、ローラ60の抜け止め用の止め輪65が装着される。タペットボデー40の側面において回止溝42は外縁部の下端に開放している。図10(a)、(b)には図8(a)の側面形状が反映される。ただし、各実施形態の回止溝42は、図2(a)に示されるような上下両端が閉じた穴形状であってもよい。
【0030】
第1~第4実施形態では、ハウジング30の内周壁31又はタペットボデー40の外周壁41の一方に回止部材が取り付けられ、他方に回止溝が形成されている。ハウジング30に取り付けられた回止部材の符号を「53」、タペットボデー40に取り付けられた回止部材の符号を「54」と記す。また、タペットボデー40に形成された回止溝の符号を「42」、ハウジング30に形成された回止溝の符号を「32」と記す。
【0031】
ハウジング30に取り付けられた回止部材53はタペット400の径内方向に突出し、タペットボデー40に形成された回止溝42に嵌合する。タペットボデー40に取り付けられた回止部材54はタペット400の径外方向に突出し、ハウジング30に形成された回止溝32に嵌合する。
【0032】
(第1実施形態)
図9図11を参照し、第1実施形態の燃料噴射ポンプ101の回止部材及び回止溝の構成を説明する。各実施形態で図9図11に準ずる径方向断面図は、「タペットの軸に垂直な断面」を示す図である。図9図8のIX-IX線に対応するタペット400の径方向断面図であるが、タペットボデー40の内部形状を簡略化して中実の円柱状に示す。なお、図21に示す第7実施形態のように、タペットボデー40の内部は中空円筒状であってもよい。
【0033】
第1実施形態の燃料噴射ポンプ101では、ハウジング30の内周壁31に回止部材53が取り付けられ、タペットボデー40の外周壁41に回止溝42が形成されている。例えば回止部材53は、ハウジング30の取付穴に固定される基端部が大径であり、回止溝42に嵌合する先端部が小径である二段の円筒状に形成されている。以下、回止部材53の基端部については言及しない。回止部材53の周方向幅や外側面とは、回止溝42に嵌合する先端部における周方向幅や外側面を意味する。
【0034】
回止溝42の周方向幅は回止部材53の周方向幅より大きく、回止部材53が回止溝42に嵌合した状態でタペット400は周方向に所定角度範囲で回動可能である。ここで、タペット軸zと回止部材53の周方向中心とを結ぶ直線をハウジング基準中心線yhと定義し、タペット軸zと回止溝42の周方向中心とを結ぶ直線をタペット基準中心線ytと定義する。また、タペット軸zを通りハウジング基準中心線yhに直交する直線をハウジング基準直交線xhと定義し、タペット軸zを通りタペット基準中心線ytに直交する直線をタペット基準直交線xtと定義する。
【0035】
図9には、タペット基準中心線ytがハウジング基準中心線yhに一致する回動中立位置を示す。理想的に、回動中立位置ではローラ60の軸がカムシャフト70の軸Xcと平行になるように設計される。タペット400は、回動中立位置から左右両方向に回動限界位置まで回動可能である。回動可能範囲は左右対称であるものとし、回動中立位置から片方の回動限界位置までの回動角度を回動可能角度θrと定義する。タペット400は、回動中立位置を基準として±θrの角度範囲で回動可能である。
【0036】
図10(a)にタペット下降時、図10(b)にタペット上昇時の状態を示すように、回止部材53が回止溝42に嵌合した状態でタペット400は軸方向に摺動可能である。第1実施形態等ではタペット軸方向における回止部材53の断面は円形、すなわち、回止部材53は基本的に円柱(円錐を含む)状であり、外側面は曲面をなす。図9において符号「55」は、回止部材53の直径を含む断面Sでの外側面の輪郭線を示しているため、この輪郭線を「外側辺55」と呼ぶ。
【0037】
一方、回止溝42は、タペット軸方向(図の上下方向)に沿ってストレートに延びており、図9において符号「45」は、断面Sでの回止溝42の内側面45を代表的に表している。したがって、二次元断面の図9において、回止部材53の外側辺55と回止溝42の内側面45との関係が表される。回止部材53の外側辺55は回止溝42の内側面45に対向し、回止部材53の先端面56は回止溝42の底面46に対向する。回止部材53の外側辺55は、ハウジング基準中心線yhに平行に形成されている。図9における回止部材53の周方向の幅、すなわち回止部材53の直径に相当する長さを部材幅Wと表し、部材幅Wの2分の1、すなわち回止部材53の半径に相当する長さをオフセット距離Dと表す。
【0038】
回止溝42の内側面45は、タペット径方向外側ほどハウジング基準中心線yhから離れるように、すなわち、回止部材53の外側辺55との対向距離が大きくなるように、ハウジング基準中心線yhに対して傾斜している。その傾斜角度θkは、回動可能角度θrと同等に設定されている(θk=θr)。詳しくは、ハウジング基準中心線yhに対し回動可能角度θrだけ傾けたタペット基準中心線ytからオフセット距離Dだけオフセットした位置に回止溝42の内側面45が形成されている。
【0039】
図11に示すように、回動限界位置で、回止部材53の外側辺55が回止溝42の内側面45に当接する。ここで、回動限界位置において回止部材53の外側辺55と回止溝42の内側面45とがなす角度を接触角度α(=θr-θk)と定義する。傾斜角度θkが回動可能角度θrに等しいとき、接触角度αは0となり、L部において回止部材53の外側辺55が回止溝42の内側面45に線接触する。
【0040】
図12に示す比較例の燃料噴射ポンプ109では、回止部材53の外側辺55は、ハウジング基準中心線yhに平行に形成されており、回止溝42の内側面45は、タペット基準中心線ytに平行に形成されている。比較例では、回動限界位置で、E部において回止部材53の外側辺55が回止溝42の内側面45の口元エッジに点接触する。そのため、接触時のストレスが増大し、塑性変形によって回り止め機能が損なわれるおそれがある。それに対し第1実施形態では、接触時のストレスを低減し塑性変形を抑制することで、回り止め機能を好適に維持することができる。
【0041】
ところで実際の製品では、加工や組立精度のばらつき等により接触角度αが厳密に0になるとは限らないため、接触角度αの狙い値をピンポイントの0から所定範囲にまで拡張する必要がある。図13に示す第1実施形態の変形例Aの燃料噴射ポンプ101Aでは、傾斜角度θkが「0<θk<θr」の範囲に設定されている。この場合、回止部材53の外側辺55は回止溝42の内側面45の口元エッジに点接触するが、接触角度αは「0<α<θr」となり、比較例の値θrよりも0に近い。
【0042】
また、図14に示す第1実施形態の変形例Bの燃料噴射ポンプ101Bでは、傾斜角度θkが「θr<θk<2θr」の範囲に設定される。この場合、回止部材53の外側辺55の先端エッジが回止溝42の内側面45に点接触する。接触角度α(=θr-θk)は負の値となり、その絶対値はθrよりも0に近い。
【0043】
図15に傾斜角度θk又は接触角度αと接触時ストレスとの関係を示す。傾斜角度θkは横軸の左方から右方に向かって値が大きくなり、接触角度αは横軸の右方から左方に向かって値が大きくなる。傾斜角度θkが回動可能角度θrに等しく、接触角度αが0のとき、接触時ストレスは最小となる。接触角度αが0から離れるほど、接触時ストレスは増大する。ここでは、接触角度αの正負によらず、接触角度αの絶対値に対する接触時ストレスの変化特性は同程度と仮定する。
【0044】
少なくとも比較例に対し接触時ストレスを低減するための接触角度αの必須管理範囲は「-θr<α<+θr」すなわち「|α|<θr」である。つまり、図13図14の変形例A、Bを含む第1実施形態では、タペット400の回動限界位置で、接触角度αの絶対値が回動可能角度θrよりも小さくなるように設定されている。さらに、目標ストレス上限値に対応する接触角度αに基づき、「|α|≦δ(又は|α|<δ)」の範囲を目標管理範囲に設定してもよい。これにより、量産品を適切に品質管理することができる。
【0045】
特に図9図11に示す最良の形態では、タペット400の回動限界位置で接触角度αが0となり、回止部材53の外側辺55が回止溝42の内側面45に当接するように設定されている。最良の形態では、接触時のストレスを最も低減し、塑性変形を最も抑制することができる。
【0046】
次に、第1実施形態に対し、タペットボデー40とハウジング30とにおける回止部材と回止溝との配置、及び、傾斜部が設けられる位置に関するバリエーションを第2~第4実施形態として説明する。図16図18には傾斜角度θkが回動可能角度θrと同等に設定される最良の形態を例示する。なお、第1実施形態の変形例A、Bに準じ、接触角度αの絶対値が「|α|<θr」や「|α|≦δ(又は|α|<δ)」の範囲で管理されるように傾斜角度θkが設定されてもよい。第2~第4実施形態では第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0047】
(第2実施形態)
図16に示す第2実施形態の燃料噴射ポンプ102では、第1実施形態と同様に、ハウジング30の内周壁31に回止部材53が取り付けられ、タペットボデー40の外周壁41に回止溝42が形成されている。
【0048】
回止部材53の外側辺55は、タペット径方向外側ほどハウジング基準中心線yhに近づくように、すなわち、回止溝42の内側面45との対向距離が大きくなるように、ハウジング基準中心線yhに対して傾斜している。その傾斜角度θkは、回動可能角度θrと同等に設定されている(θk=θr)。回止溝42の内側面45は、タペット基準中心線ytに平行に形成されている。回動限界位置で、回止部材53の外側辺55が回止溝42の内側面45に当接する。
【0049】
(第3実施形態)
図17に示す第3実施形態の燃料噴射ポンプ103では、タペットボデー40の外周壁41に回止部材54が取り付けられ、ハウジング30の内周壁31に回止溝32が形成されている。回止部材54の外側辺55は回止溝32の内側面35に対向し、回止部材54の先端面56は回止溝32の底面36に対向する。この構成では、タペット軸zと回止部材54の周方向中心とを結ぶ直線をタペット基準中心線ytと定義し、タペット軸zと回止溝32の周方向中心とを結ぶ直線をハウジング基準中心線yhと定義する。
【0050】
回止部材54の外側辺55は、タペット径方向外側ほどタペット基準中心線ytに近づくように、すなわち、回止溝32の内側面35との対向距離が大きくなるように、タペット基準中心線ytに対して傾斜している。その傾斜角度θkは、回動可能角度θrと同等に設定されている(θk=θr)。回止溝32の内側面35は、ハウジング基準中心線yhに平行に形成されている。回動限界位置で、回止部材54の外側辺55が回止溝32の内側面35に当接する。
【0051】
(第4実施形態)
図18に示す第4実施形態の燃料噴射ポンプ104では、第3実施形態と同様に、タペットボデー40の外周壁41に回止部材54が取り付けられ、ハウジング30の内周壁31に回止溝32が形成されている。
【0052】
回止部材54の外側辺55は、タペット基準中心線ytに平行に形成されている。回止溝32の内側面35は、タペット径方向外側ほどハウジング基準中心線yhから離れるように、すなわち、回止部材54の外側辺55との対向距離が大きくなるように、ハウジング基準中心線yhに対して傾斜している。その傾斜角度θkは、回動可能角度θrと同等に設定されている(θk=θr)。詳しくは、ハウジング基準中心線yhに対し回動可能角度θrだけ傾けたタペット基準中心線ytからオフセット距離Dだけオフセットした位置に回止溝32の内側面35が形成されている。回動限界位置で、回止部材54の外側辺55が回止溝32の内側面35に当接する。
【0053】
次に、第1実施形態に対する形状変更バリエーションを第5~第8実施形態として説明する。第5~第8実施形態の構成は、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0054】
(第5実施形態)
図19に示す第5実施形態の燃料噴射ポンプ105では、第1実施形態に対し回止部材53の先端面56の外縁に面取り56cが形成されている。また、回止溝42の内周口元にも面取り42cが形成されている。面取りの大きさや角度は適宜設定されてよい。
【0055】
(第6実施形態)
図20に示す第6実施形態の燃料噴射ポンプ106では、第1実施形態に対し回止溝42の底面が中央底面46及び左右の傾斜底面47の三面からなっている。傾斜底面47は、タペット基準中心線ytに対して傾斜した内側面45に直交している。例えば回止溝42の加工時にタペットボデー40を傾斜角度θk傾けてセットし、ストレートエンドミルを用いて切削すると、刃先端面で傾斜底面47が加工されると同時に刃の側面で内側面45が加工される。左右対称に傾斜底面47を加工した後、中央に残ったエッジを正面から切削すると中央底面46が形成される。第1実施形態では例えばテーパエンドミルを用いた加工が必要となるが、第6実施形態ではストレートエンドミルにより簡易な加工が可能となる。
【0056】
(第7実施形態)
図21に示す第7実施形態の燃料噴射ポンプ107ではタペットボデー40は中空円筒状であり、回止溝42は中空部まで貫通している。例えば図2(b)に示すタペットボデー40はこの形態である。
【0057】
(第8実施形態)
図22(a)、(b)に示す第8実施形態の燃料噴射ポンプ108では、図10(a)、(b)に示す第1実施形態に対し、回止部材53wは、タペット周方向(図の左右方向)の両側部がタペット軸方向(図の上下方向)に沿って直線状にカットされている。つまり、特許文献1の二面幅加工された回止部材と同様の断面形状を呈している。ただし、断面Sにおける回止部材53のタペット径方向の形状は、図9に示す通り、22(a)、(b)の奥行き方向にカット平面がスロープ状をなしている。この形態では、タペット400の回動限界位置で、回止部材53wの外側辺55を含む「外側面」と回止溝42の内側面45とが面同士で当接可能である。
【0058】
(その他の実施形態)
上記第1~第4実施形態では、回止部材53、54の外側辺55、又は、回止溝42、32の内側面45のいずれか一方が基準中心線yt、yhに対して傾斜している。その他、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせるか、或いは、第3実施形態と第4実施形態とを組み合わせ、外側辺55及び内側面45の両方が基準中心線yt、yhに対して傾斜するように構成してもよい。
【0059】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0060】
100(101-108)・・・燃料噴射ポンプ、
22・・・加圧室、 27・・・プランジャ、
30・・・ハウジング、 31・・・内周壁、
400・・・タペット、
40・・タペットボデー、 41・・・外周壁、
42、32・・・回止溝、 45、35・・・内側面、
53、54・・・回止部材、 55・・・外側辺、
60・・・ローラ、
61・・・シュー(ローラ支持部材)、 62・・・ピン(ローラ支持部材)
70・・・カムシャフト、 75・・・カム。
図1
図2
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