(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098778
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】包装原紙
(51)【国際特許分類】
D21H 27/10 20060101AFI20240717BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
D21H27/10
D21H27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002479
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】米山 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 信之
(72)【発明者】
【氏名】田中 光次
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AA03
4L055AC06
4L055AG08
4L055AG47
4L055AG50
4L055AG72
4L055AG97
4L055AH09
4L055AH11
4L055AH16
4L055BD17
4L055BD18
4L055BE02
4L055BE08
4L055EA03
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA14
4L055EA40
4L055FA13
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、紙が折れても破れにくく、鋭利物や突起物と接触しても破れにくく、さらには突き刺し強度が均一な包装原紙を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の課題は、パルプを主成分とする包装原紙であって、前記パルプの70質量%以上が針葉樹パルプであり、離解フリーネスが550~690ml(CSF)であり、β線地合計で測定した地合指数が1以下であり、米坪量が50~150g/m2であることを特徴とする包装原紙によって解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主成分とする包装原紙であって、前記パルプの70質量%以上が針葉樹パルプであり、離解フリーネスが550~690ml(CSF)であり、β線地合計で測定した地合指数が1以下であり、米坪量が50~150g/m2であることを特徴とする、包装原紙。
【請求項2】
原紙が2層以上の抄き合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の包装原紙。
【請求項3】
紙力増強剤および/またはサイズ剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の包装原紙。
【請求項4】
突き刺し強度の最小値が6.50N以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の包装原紙。
【請求項5】
パルプ中70質量%以上が針葉樹パルプであるパルプスラリーを調整し、その後、抄紙機入口原料の濃度(原料濃度)を0.1~0.9質量%として、抄紙機により抄紙することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の包装原紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包装原紙に関し、紙が折れても破れにくく、鋭利物や突起物と接触しても破れにくく、さらには突き刺し強度が均一な包装原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミ問題が深刻化している。世界のプラスチックの生産量は4億トン/年を超えると言われ、その中でも包装容器セクターでのプラスチック生産量が特に多く、プラスチックゴミの主な原因になっている。包装容器に使用されるプラスチックとしては、飲料のボトル等に使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)、レジ袋や容器のラミネートに使用されるポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)が最も多く使用されている。プラスチックは半永久的に分解せず、そのゴミは自然環境下でマイクロプラスチック化して生態系に深刻な悪影響を与えており、特にマイクロプラスチックによる海洋の汚染は著しく、そのプラスチックゴミは回収不可能と言われている。今後、プラスチックの使用を低減することが地球環境にとって必要である。
【0003】
この問題に対し、プラスチック包装を紙素材の包装に置き換える動きが盛んである。例えば、密封包装であれば、紙基材にラミネートやヒートシール層を設けた形態の製品が種々発売されている。しかし、紙はプラスチック素材と比べて折れやすいため、折り曲げに対する強度が不十分であれば折り目から破れやすく、また流通時に鋭利物や突起物との接触により穴が開きやすく破れやすいといった問題がある。このような問題が発生すると、内容物が漏れてしまうため、密封容器としては不適切である。
【0004】
このような問題を回避するためには、紙の強度、特に耐折強度や鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性を高める必要があるが、前述の抵抗性を高める技術はこれまで報告されていない。
【0005】
紙基材に強度を付与する技術として、特許文献1では優れたサイズ性と、湿潤および乾燥時の紙力を有するために、置換度0.3~0.6のカルボキシメチルセルロースを0.01~3.0質量%添加することを特徴とする包装紙についての提案されている。また、特許文献2では優れた内部結合強度および耐折強度を得るため、10~100質量%のアクリル酸メチルと0~90質量%のメタクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸エチルとに由来する構成単位を75~98質量%、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドのN-アルキル置換体および(メタ)アクリル酸から選ばれた1種以上の単量体に由来する構成単位を2~15質量%、各々含有し、且つ、ガラス転移温度(Tg)が-30~+30℃であるアクリル酸エステル系共重合体からなることを特徴とする含浸用樹脂を含浸させた含浸紙について提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-027399号公報
【特許文献2】特開2005-281431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の包装紙は、鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性(突き刺し強度)が低く、流通時等に穴が開きやすく破れやすいといった問題があった。また、特許文献2に記載の発明は、優れた強度を得るために樹脂を多く含浸する必要があり、プラスチック使用量が多すぎるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、折れ曲げに対する強度が高く、鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性に優れ、さらには鋭利物や突起物に対してより均一な強度を有し、内容物を包装した後の流通時等でも破れにくい強度を保持した包装原紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の包装原紙は、パルプを主成分とする包装原紙であって、前記パルプの70質量%以上が針葉樹パルプ(以下、「Nパルプ」とも示す)であり、包装原紙の離解フリーネスが550~690ml(CSF)であり、β線地合計で測定した地合指数が1以下であり、米坪量が50~150g/m2であることを特徴とする。このような構成によれば、高い耐折強度が得られ、折れ曲げに対する強度が高くなる。また、鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性(突き刺し強度)が高く、内容物を包装した後も破れにくい密封容器を得ることができる。なお、本発明において、密封容器とは、食品用のレトルトパウチなど比較的気密性の高い容器だけではなく、気体は透過するものの、通常の取り扱い、運搬または保存状態において、固体や液状の異物が侵入せず、内容物の損失、風解、潮解または蒸発を防ぐことのできる容器をも含む。
【0010】
また、本発明の包装原紙は、原紙が2層以上の抄き合わせであってもよい。このような構成によれば、地合の良い原紙としやすく、より鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性(突き刺し強度)を高くしやすくなる。また、本発明の包装原紙は、紙力増強剤および/またはサイズ剤を含有していても良い。これによって、突き刺し強度の高い包装原紙を得ることができる。
【0011】
本発明の包装原紙は、突き刺し強度の最小値が6.50N以上であることが好ましく、突き刺し強度が極端に弱い箇所が存在することなく均等に突き刺しに対する強度を有する包装原紙とすることができる。また、本発明の包装原紙からなる密封容器は、内容物を包装した後の流通時等での衝撃などでも破れにくいことから保管や輸送に適した容器となり、特に液体や粉体の容器として好適である。したがって、本発明の包装原紙は、密封容器用の包装原紙であることが好ましい。また、本発明の包装原紙は、パルプ中70質量%以上が針葉樹パルプであるパルプスラリーを調整し、その後、抄紙機入口原料の濃度(原料濃度)を0.1~0.9質量%として、抄紙機により抄紙することにより製造されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の包装原紙は、折れ曲げに対する強度が高く、突き刺し強度が高いことから、例えば、7.50N以上である突き刺し強度を有することから、内容物の包装後に流通時の衝撃などへの抵抗性に優れるため、包装袋などの密封容器として好適に使用することができ、従来プラスチック包装であったものの一部または全部を紙製包装に代替するための原紙として好適に用いることができる。さらには、突き刺し強度の最小値が6.50N以上である包装原紙を得ることができ、このような包装原紙であれば、突き刺し強度が極端に弱い箇所が存在することなく、結果的に突き刺しに対する強度を均一に有する包装原紙を得ることができる。ここで、本発明による突き刺し強度は、「JIS Z 1707:2019 食品包装用プラスチックフィルム通則」の「7.5突き刺し強さ試験」の規定による強度であり、さらに後に示す単位坪量当たりの突き刺し強度は、当該突き刺し強度を米坪量で除して求めたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0014】
本発明に用いる包装原紙はパルプを主成分とする。ここで用いるパルプとしては、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒サルファイトパルプ(LUSP)、針葉樹未晒サルファイトパルプ(NUSP)に代表される木材未漂白化学パルプ、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)に代表される木材漂白化学パルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、砕木パルプ(GP)に代表される機械パルプなどが挙げられる。本発明の包装原紙におけるパルプの占める割合としては、特に限定するものではないが、90質量%以上、例えば、包装原紙中において、パルプが90~99質量%とすることが好ましい。填料などの充填剤を添加することでパルプの占める割合を低くすることは可能であるが、同時に紙の諸強度の低下も招くため、好ましくない。
【0015】
本発明においては、前記パルプの70質量%以上を針葉樹パルプとする。好ましくは75質量%以上、80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上である。例えば、全パルプ中針葉樹パルプを70~100質量%、さらには75~100質量%、80~100質量%、85~100質量%、90~100質量%、例えば、95~100質量%とすることが好ましい。針葉樹パルプ以外のパルプを使用するとすれば、コスト等の観点から広葉樹パルプが好ましく、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を使用することが好ましい。例えば、全パルプ中針葉樹パルプを70~100質量%および広葉樹パルプを30~0質量%を含むパルプを使用すればよく、さらには全パルプ中針葉樹パルプを75~100質量%および広葉樹パルプを25~0質量%を含むパルプ、全パルプ中針葉樹パルプを80~100質量%および広葉樹パルプを20~0質量%を含むパルプ、全パルプ中針葉樹パルプを85~100質量%および広葉樹パルプを15~0質量%を含むパルプ、全パルプ中針葉樹パルプを90~100質量%および広葉樹パルプを10~0質量%を含むパルプ、または、全パルプ中針葉樹パルプを95~100質量%および広葉樹パルプを5~0質量%を含むパルプを使用すればよい。針葉樹パルプとしては、特に限定するものではないが、NUKP、NUSP、NBKPまたはNBSPなどを用いることができる。これらの中でも、耐折強度等の強度物性がより向上しやすいNUKPがより好ましい。全パルプにおける針葉樹パルプの割合が70質量%未満となると、折れ曲げに対する強度を満足しにくくなるとともに、紙中の長繊維パルプの比率が下がることで十分な突き刺し強度を得られなくなる。
【0016】
本発明においては、包装原紙の離解フリーネスを550~690ml(CSF)とする。好ましくは560~670ml(CSF)であり、より好ましくは570~650ml(CSF)である。原紙における全パルプの70質量%以上を針葉樹パルプとした上で離解フリーネスをこの範囲とすることにより突き刺し強度をより向上させることができる。離解フリーネスが550ml(CSF)未満だと突き刺し強度の向上効果に乏しい。逆に離解フリーネスが690ml(CSF)を超えると、パルプのフィブリル化が十分ではなく、また、β線地合計で測定した地合指数が大きくなりやすい(地合が悪くなりやすい)ことから突き刺し強度の向上効果に乏しくなる。なお、ここで離解フリーネスとは、JIS P 8220-1:2012の方法に従って離解されて得られたパルプスラリーを用い、JIS P 8121-2:2012の方法に従って測定したカナディアンスタンダードフリーネス(カナダ標準パルプ濾水度)の値を指す。
【0017】
原料パルプの叩解方法は特に限定するものではなく、ビーター、ジョルダン、デラックス・ファイナー、ダブル・ディスク・レファイナー等、いずれの叩解機を単独または併用して使用してもよい。
【0018】
本発明の包装原紙には、紙力増強剤を含有させてもよい。突き刺し強度を向上させることができる。乾燥紙力増強剤としては、酸化澱粉、カチオン化澱粉または変性澱粉などの澱粉類、ポリアクリルアミド系樹脂、植物ガム、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ゴム系ラテックス、ポリエチレンオキサイド、ポリアミド樹脂などがあげられ、これらの中から1種以上使用することができる。これらの中でもポリアクリルアミド系樹脂、特に定着性に優れる両性ポリアクリルアミド系樹脂が好ましい。これらの原紙への適用方法は特に限定するものではなく、内添法または外添法を用いることができるが、パルプスラリーに添加(内添)して用いることで突き刺し強度に優れた原紙を得やすくなる。
【0019】
包装原紙における乾燥紙力増強剤の含有量としては、パルプ100質量部に対して、0.10~2.2質量部、さらには0.12~1.0質量部であることが好ましい。より好ましくは0.15~0.8質量部である。0.1質量部未満では突き刺し強度の向上効果に乏しくなるおそれがある。逆に2.5質量部を超えると、抄紙機において紙力増強剤由来の凝集物が発生し、紙に汚れが生じる恐れがある。
【0020】
本発明においては、包装原紙に、さらにサイズ剤を含有させてもよい。ここで用いることができるサイズ剤としては、パラフィンワックス系サイズ剤、マイクロクリスタリンワックス系サイズ剤、カルナウバ(カルナバワックス)系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、ロジン系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、スチレンアクリル系サイズ剤等の中から1種以上を使用することができる。基紙へのサイズ剤の付与方法としては、特に限定するものではなく、内添法または外添法を用いることができるが、パルプスラリーに添加(内添)して用いることが好ましい。サイズ剤の含有量としては、パルプ100質量部に対して、0.1~0.5質量部、さらには0.15~0.35質量部であることが好ましい。本発明においては、例えば、サイズ剤としてロジン系サイズ剤、好ましくは変性ロジンエマルションをパルプ100質量部に対して、0.1~0.5質量部加えることが好ましい。
【0021】
本発明の包装原紙には、本発明の目的とする効果を損なわない範囲で、湿潤紙力増強剤、硫酸バンド、填料、歩留まり向上剤、着色染料、着色顔料、嵩高剤等の各種製紙用資材を含有させることができる。填料としては、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミノケイ酸塩、焼成クレー、硫酸バリウム、合成樹脂填料などの公知の填料を1種以上使用することができる。例えば、パルプ100質量部に対して、0.1~2.0質量部の硫酸バンドを含むことができる。
【0022】
本発明において基紙の抄紙方法は特に限定するものではなく、円網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機、これらの抄紙機のコンビネーション抄紙機など従来から周知の抄紙機を使用して抄造できる。抄紙機における乾燥方法としては特に限定するものでは無く、多筒シリンダードライヤー方式、ヤンキードライヤー方式、熱風乾燥に代表される空気乾燥方式、赤外線装置に代表される輻射乾燥方式などを用いることができる。それらの中でも多筒シリンダードライヤー方式またはヤンキードライヤー方式が好ましく、特にヤンキードライヤー方式がより好ましい。ヤンキードライヤー方式で乾燥することにより基紙の片面にヤンキードライヤーの鏡面が転写されて片艶の紙となり、より突き刺し強度に優れた包装原紙を得ることができる。
【0023】
本発明において包装原紙は、2層以上の抄き合わせとすることが好ましい。このような構成とすることで地合のムラを抑制し、より突き刺し強度に優れた包装原紙とすることができる。後述するように、地合ムラが存在すると、地合の薄い箇所で破れやすく、局所的に突き刺し強度に乏しい箇所が生じるおそれがある。そのため、地合ムラはなるべく少ない方がよいが、比較的米坪量の大きい原紙、例えば、米坪量が60g/m2を超える場合には単層で抄くよりも、1層あたりの米坪量を小さくして多層の抄き合わせとした方が全体としての地合ムラを小さくしやすい。β線地合計で測定した地合指数を1以下とするには、層数が多いほど有利であり、3層以上が好ましく、より好ましくは4層以上である。層数の上限は特に限定されないが、本発明の包装原紙は坪量が50~150g/m2の範囲であることもあり、7層以下であることが好ましく、6層以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の包装原紙は23℃×50%RH環境下で24時間調湿後の含有水分率(以下「平衡水分率」と言うことがある)が6.5~8.5質量%であることが好ましい。より好ましくは7.0~8.0質量%である。突き刺し強度の向上効果がある。平衡水分率が6.5質量%未満では突き刺し強度の向上効果に乏しいおそれがある。逆に平衡水分率が8.5質量%を超えても突き刺し強度の向上効果は頭打ちとなるが、平衡水分率を8.5質量%以上とするには紙に過剰な保水性を付与する必要があり、包装袋等への加工適性を低下させるおそれがある。尚、本発明の包装原紙を例えば40℃×90%RHの環境下で24時間調湿すると含有水分率が12質量%程度になることがあるが、この場合でも突き刺し強度は良好であることがわかった。従って、本発明の包装原紙を用いた容器は、高湿度環境下でも十分な突き刺し強度を有する容器とすることができる。
【0025】
本実施形態において、包装原紙の米坪量は50~150g/m2とする。70~130g/m2が好ましく、例えば、75g/m2~85g/m2または80g/m2~110g/m2がより好ましい。このような範囲であれば、包装袋等への加工適性を維持しながら耐折強度および突き刺し強度に優れたものとなる。坪量が50g/m2未満であれば折り曲げや突き刺し強度に劣るおそれがある。また、150g/m2を超えると突き刺し強度は高くなるが、剛度も高くなり過ぎるため、包装袋等への加工適性が低下するおそれがある。
【0026】
本発明の包装原紙は、パルプ中70質量%以上が針葉樹パルプであるパルプスラリーを調整し、その後、抄紙機入口原料の濃度(原料濃度)を0.1~0.9質量%として、抄紙機により抄紙することによって製造することができる。本発明の製造方法において包装原紙は、カレンダー処理をすることができる。カレンダー方法は特に限定されるものではなく、マシンカレンダーやスーパーカレンダー等を使用することが可能である。
【0027】
本発明の包装原紙は、β線地合計で測定した地合指数を1以下とする。β線地合計で測定した地合指数を1以下とすることで局所的に突き刺し強度の低い箇所を減じ、破れにくい包装原紙とすることができる。地合指数は0.8以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。地合指数が1を超えると地合ムラすなわち米坪量のムラが大きくなり、原紙に局所的に米坪量の大きい箇所と小さい箇所が生じてしまう。その結果、突き刺し強度にも局所的なバラツキが生じ、突き刺し強度に乏しい箇所は鋭利物や突起物との接触時に破れやすくなるおそれがある。地合指数の下限値は特に限定されないが、0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。地合指数を小さくすると米坪量のムラが小さくなり、突き刺し強度のバラツキを抑えることができる一方で、地合指数を小さくしすぎても突き刺し強度の向上効果は頭打ちとなり、後述する原料濃度を極端に低下させる必要があるなど製造上の問題が生じることもある。更には原紙の伸長率が低下することから袋状に加工する際など原紙の伸びが必要な際の加工適性を損ねるおそれがある。
【0028】
β線地合計で測定した地合指数を1以下とする方法としては、抄紙機入口原料の濃度、すなわち原料スラリーの濃度(原料スラリーの質量/水の質量+原料スラリーの質量、以降、原料濃度ということもある。)を低くすることで原紙の地合を良くし、結果として地合指数を減少させることが好ましい。原料濃度としては、0.9質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、0.3質量%以下が更に良い。円網抄紙機の場合、抄紙機入口のバット内原料濃度、長網抄紙機の場合、ヘッドボックスのインレット濃度が原料濃度に対応する。原料濃度が高すぎると地合の調整が難しくなり、結果的に地合指数が1を超えやすい。このように地合指数は原料濃度で調整するのが好ましいが、原料濃度は0.1質量%未満となるとワイヤーからシートが剥がれづらくなりまたワイヤー上の歩留りも低下するため、0.1質量%が実質の下限値となる。原料濃度の下限値は、0.15質量%であることがより好ましい。特に多層抄紙の場合、表層および裏層の上記原料濃度がこの範囲となることが好ましい。また、長網抄紙機で抄紙する場合、シェーキング装置を使用することにより地合が良くなり、地合指数を小さくすることができる。他には、使用条件によっては、歩留まり向上剤や、硫酸バンドなどの凝結剤を使用することで地合指数を小さくすることができる。したがって、本発明の包装原紙の製造方法においては、パルプスラリーを調整し、その後、抄紙機入口原料の濃度(原料濃度)を0.1~0.9質量%として、抄紙機により抄紙することによって製造することによって、適切な地合指数を有する包装原紙を得ることができる。
【0029】
前述のように、本発明の包装原紙は、針葉樹パルプを比較的多く配合し、離解フリーネスも比較的高い数値範囲としている。単に地合を良くするためならば針葉樹パルプよりも広葉樹パルプを多く配合し、パルプの叩解を進め、離解フリーネスを比較的低い範囲とする方が良い。しかし、これらのアクションは地合を良くして得られる効果以上に突き刺し強度の低下を招いてしまう。本発明の包装原紙は、針葉樹パルプを70質量%以上配合し、離解フリーネスを550~690ml(CSF)としながらも地合の良い原紙とすることで突き刺し強度を向上させるものである。
【0030】
本発明における地合指数の測定で使用する地合計はβ線地合計、すなわちβ線放射線源を使用した地合計であり米坪量(坪量と呼ばれることもある。)の分布を示すものである。広く使用される地合計は光透過によるものであるが、パルプ成分、填料の種類および量、色相、白色度、パルプの叩解度合なども変動要素となり地合評価としては適していない。β線地合計を用いて測定した地合指数は、包装原紙の直径1mmで測定された坪量(単位坪量という。)の隔たりを指数化したものである。β線地合計を用いて測定した地合指数が1以下であれば、局所的な坪量の隔たりが小さい。一方、β線地合計を用いて測定した地合指数が1を超えると、局所的な坪量の隔たりが大きくなり単位坪量の小さな部分で突き刺し強度が低くなる。そのため、本発明の包装原紙では地合の良いことが重要となる。
【0031】
本発明の包装原紙は、突き刺し強度が7.50N以上(平均値として)、突き刺し強度の最小値が6.50N以上、かつ単位坪量当たりの突き刺し強度が0.090N/g/m2以上であることが好ましく、内容物の包装後に流通時の衝撃などへの抵抗性に優れる。さらに突き刺し強度の最小値が6.50N以上であることで、突き刺し強度が極端に弱い箇所が存在することなく均等に突き刺しに対する強度を有する包装原紙とすることができる。さらに、本発明の包装原紙であれば、従来プラスチック包装の一部または全部を紙製包装に代替するための原紙として好適に用いることができる。さらに、本発明の包装原紙は、例えば、接着剤やヒートシール性のある樹脂等を塗布し、そのまま製袋加工を行って袋状の密封容器として使用することも可能である。また、一方の面にポリエチレン等のラミネートを施した後に製袋加工を行って密封容器とすることも可能である。このようなラミネートを施すことはプラスチック材料の使用となるが、密封容器の一部が紙製となることでプラスチックの減量に繋がる。製袋加工の形態は特に限定されず、用途に応じて、例えばピロー包装やキャラメル包装、またはこれらを組み合わせた包装等を採用することができる。このように、本発明の包装原紙は、密封容器用包装原紙として好適であり、特に袋状の密封容器用の包装原紙として好適である。
【0032】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」は、特に断らない限りそれぞれ「固形部」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0033】
(実施例1)
<原紙の製造>
叩解した針葉樹晒クラフトパルプ100部を水中に分散してパルプスラリーを調製し、該パルプスラリー中に乾燥紙力増強剤(商品名:DS4433/星光PMC社製、ポリアクリルアミド樹脂)を0.2部、サイズ剤(商品名:AL1300/星光PMC社製、変性ロジンエマルション)を0.5部、硫酸バンド1.2部を添加し、原料スラリーを得た。得られた原料スラリーを用い、長網抄紙機によって抄紙して単層の基紙を得た。ヘッドボックスのインレット濃度(原料濃度)は0.2質量%であった。その後、2本ロールサイズプレスにて1%濃度の澱粉水溶液を基紙の両面あたり固形分換算で2.0g/m2(片面あたり1.0g/m2)となるように塗布して乾燥後、カレンダー処理を行って目的とする包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は81.3g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0034】
(実施例2)
実施例1において、パルプスラリーの調整に、叩解した針葉樹晒クラフトパルプを75部、叩解した広葉樹晒クラフトパルプ25部を使用した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は82.0g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0035】
(実施例3)
実施例1において、針葉樹晒クラフトパルプの叩解の程度を調整した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は78.2g/m2、離解フリーネスは650mlCSFであった。
【0036】
(実施例4)
実施例1において、ヘッドボックスのインレット濃度を0.35質量%とした以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は81.5g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0037】
(実施例5)
実施例1において、ヘッドボックスのインレット濃度を0.45質量%とした以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は81.5g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0038】
(実施例6)
長網抄紙機を用いず、円網抄紙機を用いて2層の基紙を得た以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。基紙は同じ原料スラリーを用い、各層の米坪量が同等となるようにして2層抄き合わせて抄紙した。円網抄紙機入口のバット内原料濃度は2層とも0.2質量%であった。得られた包装原紙の米坪量は79.4g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0039】
(実施例7)
長網抄紙機を用いず、円網抄紙機を用いて3層の基紙を得た以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。基紙は同じ原料スラリーを用い、各層の米坪量が同等となるようにして3層抄き合わせて抄紙した。円網抄紙機入口のバット内原料濃度は3層とも0.2質量%であった。得られた包装原紙の米坪量は79.0g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0040】
(比較例1)
実施例1において、パルプスラリーの調整に、叩解した針葉樹晒クラフトパルプを50部、叩解した広葉樹晒クラフトパルプ50部を使用した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は81.3g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0041】
(比較例2)
実施例1において、針葉樹晒クラフトパルプの叩解の程度を調整した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は81.3g/m2、離解フリーネスは480mlCSFであった。
【0042】
(比較例3)
実施例1において、ヘッドボックスのインレット濃度を1.0質量%とした以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は81.3g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0043】
得られた包装原紙について、以下に示す方法により評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0044】
(突き刺し強度)
オートグラフ精密万能試験機(AGS-10kNX:(株)島津製作所製)を用い、「JIS Z 1707:2019 食品包装用プラスチックフィルム通則」の「7.5突き刺し強さ試験」に準じて下記の方法で測定した。包装原紙の試験片は23℃×50%rhの条件で24時間調湿したものを用いた。
1.試験片を治具で固定し、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を試験速度50mm/minで突き刺し、針が貫通するまでの最大力(N)を測定した。
2.1個の試験片について1点突き刺し、15個の試験片について突き刺し強度(N)を測定した。得られた15の測定値の平均値と最小値とを表1に示す。
【0045】
(単位坪量当たり突き刺し強度)
下記式(1)によって単位坪量あたりの突き刺し強度を求めた。突き刺し強度は米坪量に比例する傾向があるため、本実施形態では単位坪量あたりの突き刺し強度で比較を行う。
式(1):突き刺し強度平均値(N)/米坪量(g/m2)=単位坪量当たり突き刺し強度(N/g/m2)
【0046】
(地合指数)
地合指数は、アンバーテック社製 β線地合計を使用し、下記の測定条件で測定し、算出した。
測定条件:測定面積70mm×70mm、測定ピッチ3.5mm×3.5mm
算出方法:地合指数=STD÷(米坪量)1/2
この時のSTDは、米坪量からの質量の標準偏差である。地合指数が小さいほど、地合が良好であるといえる。
【0047】
各実施例および比較例で得られた包装原紙の構成の概要と評価結果を表1に示す。各実施例で得られた包装原紙は突き刺し強度に優れるものであった。これに対して比較例1で得られた包装原紙はNパルプの配合率が低すぎて突き刺し強度の劣るものであった。比較例2で得られた包装原紙は離解フリーネスが低く、地合指数は小さくなったものの突き刺し強度に劣るものであった。比較例3で得られた包装原紙は地合指数が大きくなり突き刺し強度の最小値が非常に小さくなり、突き刺し強度が極端に弱い箇所が存在するものであった。
【0048】