(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098796
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 5/00 20060101AFI20240717BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240717BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H01F5/00 F
H01F27/28 K
H01F27/28 176
H05B6/36 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002512
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥充
【テーマコード(参考)】
3K059
5E043
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059CD77
3K059CD79
5E043AB09
5E043BA01
5E043DA06
(57)【要約】
【課題】導体抵抗の増大が抑制されるコイルを提供する。
【解決手段】コイル100は、中心軸2の対象区間の周りに螺旋状に複数回巻回された電線1を備える。電線1は、電線1の長手方向に直交する平面における断面形状11が細長い導体10を含む。導体10は、対象区間3のうちの一方の端部側に位置する第1区間3aの周りに巻回される第1部分10aと、対象区間3のうちの他方の端部側に位置する第2区間3bの周りに巻回される第2部分10bと、を有する。第1部分10aおよび第2部分10bの断面形状11は、断面形状11の長手方向に沿った2つの縁12を有し、2つの縁12のうちの一方が凸状縁12aとなり、他方が凹状縁12bとなるように曲がっている。導体10に交流電流が流されたとき、凸状縁12aの周囲の磁束は、凸状縁12aに亘って凸状縁12aに沿った同一方向を向く。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に磁性体を配置した状態で交流電流が流されるコイルであって、
中心軸の対象区間の周りに螺旋状に複数回巻回された電線を備え、
前記電線は、前記電線の長手方向に直交する平面における第1断面形状が細長い導体を含み、
前記導体は、
前記対象区間のうちの一方の端部側に位置する第1区間の周りに巻回される第1部分と、
前記対象区間のうちの他方の端部側に位置する第2区間の周りに巻回される第2部分と、を有し、
前記第1部分および前記第2部分の前記第1断面形状は、
前記第1断面形状の長手方向に沿った2つの縁を有し、
前記2つの縁のうちの一方が凸状の縁となり、他方が凹状の縁となるように曲がっており、
前記導体に前記交流電流が流されたとき、前記凸状の縁の周囲の磁束は、前記凸状の縁に亘って前記凸状の縁に沿った同一方向を向く、コイル。
【請求項2】
内側に磁性体を配置した状態で交流電流が流されるコイルであって、
中心軸の対象区間の周りに螺旋状に複数回巻回された電線を備え、
前記電線は、前記電線の長手方向に直交する平面における第1断面形状が細長い導体を含み、
前記導体は、
前記対象区間のうちの一方の端部側に位置する第1区間の周りに巻回される第1部分と、
前記対象区間のうちの他方の端部側に位置する第2区間の周りに巻回される第2部分と、を有し、
前記第1部分および前記第2部分の前記第1断面形状は、
前記第1断面形状の長手方向に沿った2つの縁を有し、
前記2つの縁のうちの一方が凸状の縁となり、他方が凹状の縁となるように曲がっており、
前記導体は、前記第1部分における前記凹状の縁と前記第2部分における前記凹状の縁とが互いに対向するように配置される、コイル。
【請求項3】
前記電線は、前記平面で切ったときに、前記凹状の縁との間に閉空間が形成されるように前記導体に接続される不導体の蓋をさらに含む、請求項1または2に記載のコイル。
【請求項4】
前記電線は、前記平面における第2断面形状が前記第1断面形状を取り囲む環状であるカバー管をさらに含み、前記カバー管は不導体であり、
前記第2断面形状と前記第1断面形状との間に隙間が形成される、請求項1または2に記載のコイル。
【請求項5】
前記第1断面形状は、前記凸状の縁よりも前記凹状の縁に近い位置に形成された中空部分を有する、請求項1または2に記載のコイル。
【請求項6】
誘導加熱コイルである、請求項1または2に記載のコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘導加熱装置が知られている。例えば、特開2010-108602号公報(特許文献1)には、磁性材からなる略筒形状の発熱部を覆うように、発熱部の軸方向に所定の間隔を開けて巻回されるコイルを有する高周波誘導加熱装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-108602号公報
【特許文献2】特開2000-144237号公報
【特許文献3】特開2022-2226号公報
【特許文献4】特開2015-220063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高周波誘導加熱装置のコイルにおいては、表皮効果や近接効果の影響により電流分布の偏り及び逆流電流が生じうる。電流分布の偏り及び逆流電流が生じると、導体抵抗が増大する。特許文献1には、このような導体抵抗の増大について考慮されていない。
【0005】
本開示は、上記の問題点に着目してなされたもので、導体抵抗の増大が抑制可能なコイルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るコイルは、内側に磁性体を配置した状態で交流電流が流される。コイルは、中心軸の対象区間の周りに螺旋状に複数回巻回された電線を備える。電線は、電線の長手方向に直交する平面における第1断面形状が細長い導体を含む。導体は、対象区間のうちの一方の端部側に位置する第1区間の周りに巻回される第1部分と、対象区間のうちの他方の端部側に位置する第2区間の周りに巻回される第2部分と、を有する。第1部分および第2部分の第1断面形状は、第1断面形状の長手方向に沿った2つの縁を有し、2つの縁のうちの一方が凸状の縁となり、他方が凹状の縁となるように曲がっている。導体に交流電流が流されたとき、凸状の縁の周囲の磁束は、凸状の縁に亘って凸状の縁に沿った同一方向を向く。
【0007】
本開示の別の側面に係るコイルは、内側に磁性体を配置した状態で交流電流が流される。コイルは、中心軸の対象区間の周りに螺旋状に複数回巻回された電線を備える。電線は、電線の長手方向に直交する平面における第1断面形状が細長い導体を含む。導体は、対象区間のうちの一方の端部側に位置する第1区間の周りに巻回される第1部分と、対象区間のうちの他方の端部側に位置する第2区間の周りに巻回される第2部分と、を有する。第1部分および第2部分の第1断面形状は、第1断面形状の長手方向に沿った2つの縁を有し、2つの縁のうちの一方が凸状の縁となり、他方が凹状の縁となるように曲がっている。導体は、第1部分における凹状の縁と第2部分における凹状の縁とが互いに対向するように配置される。
【0008】
上記のコイルによれば、導体における逆流電流の発生及び電流分布の偏りが抑制される。その結果、導体抵抗の増大が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、導体抵抗の増大が抑制可能なコイルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るコイルの外観斜視図である。
【
図4】本実施の形態に係る電線が有し得る第1冷却構造を示す図である。
【
図5】本実施の形態に係る電線が有し得る第2冷却構造を示す図である。
【
図6】本実施の形態に係る電線が有し得る第3冷却構造を示す図である。
【
図10】第1~第5モデルにおける導体の電流分布の解析結果を示す図である。
【
図11】第1モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
【
図12】第3モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
【
図13】第4モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
【
図14】第5モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
【
図15】第6モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
【
図16】磁性体の底面の半径R2を40mmに設定したときの第1モデルの電流分布を示す図である。
【
図17】磁性体の底面の半径R2を30mmに設定したときの第1モデルの電流分布を示す図である。
【
図18】磁性体の底面の半径R2を5mmに設定したときの第1モデルの電流分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0012】
<コイルの構成>
図1は、実施の形態に係るコイルの外観斜視図である。コイル100は、内側に磁性体200を配置した状態で交流電流が流される。実施の形態に係るコイル100は、誘導加熱コイルとして使用される。コイル100に交流電流が流されると、コイル100によって形成される磁束に応じて磁性体200に渦電流が誘導され、磁性体200が加熱される。
【0013】
図1に示されるように、コイル100は、中心軸2の周りに螺旋状に複数回巻回された電線1を備える。
【0014】
図2は、第1実施例のコイルの断面図である。
図3は、第2実施例のコイルの断面図である。
図2および
図3には、電線1の長手方向に直交する平面(言い換えると、中心軸2を含む平面)におけるコイル100の断面図が示される。
図2および
図3に示されるように、電線1は、中心軸2の対象区間3の周りに、中心軸2からの距離(つまり、コイル半径)がR1となるように複数回巻回される。なお、
図2および
図3には、コイル100の一部のみが描かれている。すなわち、
図2および
図3において、中心軸2の左側に存在するコイル100の断面の図示が省略されている。
【0015】
図2および
図3に示されるように、電線1は、電線1の長手方向に直交する平面における断面形状11が細長い導体10を含む。
【0016】
導体10は、中心軸2の対象区間3のうちの一方の端部側に位置する第1区間3aの周りに巻回される第1部分10aと、対象区間3のうちの他方の端部側に位置する第2区間3bの周りに巻回される第2部分10bと、を有する。さらに、
図3に示す第2実施例のコイル100では、導体10は、対象区間3のうち第1区間3aと第2区間3bとの間の第3区間3cの周りに巻回される第3部分10cを有する。
【0017】
図2に示す第1実施例のコイル100では、第1部分10aは、第1区間3aの周りに4回巻かれており、第2部分10bは、第2区間3bの周りに4回巻かれている。一方、
図3に示す第2実施例のコイル100では、第1部分10aは、第1区間3aの周りに3回巻かれており、第3部分10cは、第3区間3cの周りに2回巻かれており、第2部分10bは、第2区間3bの周りに3回巻かれている。
【0018】
第1部分10aおよび第2部分10bにおける導体10の断面形状11は、断面形状11の長手方向に沿った2つの縁12を有し、2つの縁12のうちの一方が凸状の縁(以下、「凸状縁12a」と称する。)となり、他方が凹状の縁(以下、「凹状縁12b」と称する。)となるように曲がっている。
【0019】
導体10は、第1部分10aにおける凹状縁12bと第2部分10bにおける凹状縁12bとが互いに対向するように配置される。これにより、第1部分10aおよび第2部分10bにおいて、表皮効果の影響により凸状縁12a側に順電流が集中しやすくなる。ただし、後述するように、交流電流が流されたときの凸状縁12aの周囲の磁束は、凸状縁12aに亘って凸状縁12aに沿った同一方向を向く。その結果、凸状縁12aの全体に亘って、逆流電流の発生及び電流分布の偏りが抑制され、導体10の抵抗の増大が抑制される。
【0020】
なお、第1部分10aから第2部分10bに遷移する間に、断面形状11は、第1部分10aの曲がり状態(第2部分10bから第1部分10aに向けた方向に凸となる状態)から、第2部分10bの曲がり状態(第1部分10aから第2部分10bに向けた方向に凸となる状態)に変化する。
【0021】
図2に示す第1実施例のコイル100では、導体10における第1部分10aと第2部分10bとの間において、断面形状11は、第1部分10aの曲がり状態から第2部分10bの曲がり状態に変化する。具体的には、導体10を、電線1の長手方向に沿った軸を中心としてねじり、180°回転してもよい。あるいは、断面形状11の曲がり方向が反転した状態で連結させてもよい。これらにより、第1部分10aにおける凹状縁12bと第2部分10bにおける凹状縁12bとが互いに対向する。
【0022】
図3に示す第2実施例のコイル100では、第3部分10cにおける導体10の断面形状11は、矩形(I字状)である。すなわち、断面形状11の2つの縁12は、直線状である。そして、第1部分10aと第3部分10cとの間において、導体10の断面形状11は、第1部分10aの曲がり状態から第3部分10cのI字状に変化する。第3部分10cと第2部分10bとの間において、導体10の断面形状11は、第3部分10cのI字状から第2部分10bの曲がり状態に変化する。
【0023】
導体10は、厚みt(つまり、2つの縁12の間隔)が一定となるように形成されていることが好ましい。厚みtは、コイル100の使用周波数における表皮深さ(電流が表面電流の1/eになる深さ)の2倍以下であることが好ましい。
【0024】
導体10の第1部分10aおよび第2部分10bにおける断面形状11は、
図2および
図3に示されるように、中心角θの円弧状であることが好ましい。これにより、導体10における逆流電流の発生及び電流分布の偏りがより一層抑制される。
【0025】
断面形状11が中心角θの円弧状である場合、中心角θは、15°以上300°以下であることが好ましく、45°以上270°以下であることがより好ましい。これにより、導体10において、逆流電流の発生及び電流分布の偏りが効果的に抑制される。中心角θが15°未満の場合、凸状縁12aが直線状に近くなるため、磁束が凸状縁12aに沿って同一方向に向くことが困難となり、電流分布の偏り及び逆流電流が発生しやすくなる。中心角θが300°より大きい場合、断面形状がO字状に近くなるため、磁束が凸状縁12aに沿って同一方向に向くことが困難となり、電流分布の偏り及び逆流電流が発生しやすくなる。
【0026】
なお、導体10の第1部分10aおよび第2部分10bの断面形状11は、円弧状に限定されず、断面形状11の長手方向に沿った2つの縁12のうちの一方が凸状の縁となり、他方が凹状の縁となるように曲げられた形状であればよい。例えば、導体10の第1部分10aおよび第2部分10bの断面形状11は、U字状またはV字状であってもよい。
【0027】
電線1は、導体10を被覆する絶縁体を備えてもよい。絶縁体の材料は、特に限定されないが、電気絶縁性のポリマー組成物であることが好ましく、1×1012Ω・cm以上の体積抵抗率を有するポリマー組成物であることがより好ましい。
【0028】
<冷却構造>
従来の高周波誘導加熱装置は、電線の過熱を抑制するために、電線を冷却するための構造(以下、「冷却構造」と称する。)を採用している。そのため、本実施の形態に係るコイル100を誘導加熱コイルとして使用する場合、電線1は、導体10の過熱を抑制するために冷却構造を有することが好ましい。以下、冷却構造の例について説明する。
【0029】
(第1冷却構造)
特開2000-144237号公報(特許文献2)は、樋状部材に蓋体を取り付けてパイプ状にした部材によって構成された誘導加熱コイルを開示している。特許文献2に開示の誘導加熱コイルでは、パイプ状の部材の内部に冷却液が循環されることにより、誘導加熱コイルの過熱が防止される。
【0030】
特許文献2に開示の誘導加熱コイルにおいて、蓋体が導電性を有する場合、誘導加熱コイルに交流電流を流したときに、逆流電流が発生しやすくなり、導体抵抗が増大する。そのため、導体抵抗の増大を抑制しつつ、冷却することの可能な電線が望まれている。
【0031】
図4は、本実施の形態に係る電線が有し得る第1冷却構造を示す図である。
図4には、電線1の長手方向に直交する平面で切ったときの電線1の断面が示される。
図4に示されるように、電線1は、導体10に加えて、電線1の長手方向に直交する平面で切ったときに、導体10の断面形状11の凹状縁12bとの間に閉空間25が形成されるように導体10に接続される不導体の蓋20をさらに含む。蓋20は、例えばセラミック、高耐熱性樹脂等によって構成される。
【0032】
導体10および蓋20を含む電線1は、パイプ状となる。そのため、閉空間25に冷却液を流すことにより、電線1の過熱を抑制できる。また、蓋20が不導体によって構成されるため、蓋20に起因する、導体10における逆流電流の発生が抑制され、導体10の抵抗の増大が抑制される。
【0033】
なお、電線1は、導体10および蓋20の取り囲む絶縁体を含んでもよい。これにより、絶縁体は、導体10および蓋20を支持するとともに、導体10と蓋20との接続部のシール材としても機能する。絶縁体の材料は、以下に限定されないが、電気絶縁性のポリマー組成物であることが好ましく、1×1012Ω・cm以上の体積抵抗率を有するポリマー組成物であることがより好ましい。
【0034】
(第2冷却構造)
特開2022-2226号公報(特許文献3)は、コイル状扁平パイプと、コイル状扁平パイルを収容する円筒形状のコイルカバーとを含む加熱コイルを開示している。特許文献3に開示の加熱コイルでは、コイルカバーの内部空間に冷却水が流されることにより、コイル状扁平パイプの過熱が防止される。
【0035】
特許文献3に開示の加熱コイルでは、螺旋状に巻回されたコイル状扁平パイプの内側の空間もコイルカバーの内部に位置する。そのため、特許文献3に開示の加熱コイルは、金属製ボルトの軸孔内に挿入され、金属製ボルトの軸孔内面を加熱するために使用される。すなわち、コイル状扁平パイプの内側の空間に配置された磁性体を加熱することができない。従って、螺旋状に巻回されたときに内側の空間に配置された磁性体を加熱可能であり、かつ、過熱を防止できる電線が望まれている。
【0036】
図5は、本実施の形態に係る電線が有し得る第2冷却構造を示す図である。
図5には、電線1の長手方向に直交する平面で切ったときの電線1の断面が示される。
図5に示されるように、電線1は、導体10に加えて、電線1の長手方向に直交する平面における断面形状23が導体10の断面形状11を取り囲む環状であるカバー管22をさらに含む。カバー管22は不導体である。カバー管22は、例えばセラミック、高耐熱性樹脂等によって構成される。カバー管22の断面形状23と導体10の断面形状11との間に隙間が形成される。そのため、当該隙間に冷却液を流すことにより、電線1の過熱を抑制できる。
【0037】
なお、カバー管22の内部における導体10の位置を一定にするために、導体10の断面形状11の外周の一部は、カバー管22の断面形状23の内周の一部に固定されてもよい。
【0038】
カバー管22が不導体によって構成されるため、カバー管22に逆流電流が発生しない。
【0039】
さらに、カバー管22は、導体10とともに螺旋状に巻回可能である。そのため、螺旋状に巻回された電線1に交流電流を流すことにより、内側に配置された磁性体200を加熱することができる。
【0040】
(冷却構造の第3の例)
特開2015-220063号公報(特許文献4)は、断面円形のパイプによって構成された高周波加熱用コイルを開示している。特許文献4に開示の高周波加熱用コイルでは、パイプの内部に冷却水が流されることにより、高周波加熱用コイルの過熱が防止される。
【0041】
しかしながら、特許文献4に開示の高周波加熱用コイルでは、交流電流を流したときの、パイプにおける逆流電流の発生及び電流の偏在について考慮されていない。そのため、交流電流を流したときにパイプの抵抗が増大し得る。そのため、交流電流を流したときの抵抗の増大が抑制される電線が望まれている。
【0042】
図6は、本実施の形態に係る電線が有し得る第3冷却構造を示す図である。
図6には、電線1の長手方向に直交する平面で切ったときの電線1の断面が示される。
図6に示されるように、電線1は、上記の導体10を備える。導体10の断面形状11は、凸状縁12aよりも凹状縁12bに近い位置に形成された中空部分14を有する。中空部分14は、凸状縁12aおよび凹状縁12bに沿った形状を有する。
【0043】
後述するように、電線1を螺旋状に巻回し、電線1に交流電流を流したとき、順電流は、凸状縁12a側に偏りやすい。そのため、中空部分14が凸状縁12aよりも凹状縁12bに近い位置に形成されることにより、中空部分14を設けたことによる、導体10の抵抗の増大が抑制される。
【0044】
なお、
図3に示す第2実施例のコイル100に第3冷却構造を適用する場合、導体10の第3部分10cの断面形状11において、中空部分14は、2つの縁12の中間に形成される。
【0045】
中空部分14を有する導体10は、公知の技術を用いて製造される。例えば、中空部分14を有する導体10は、3Dプリンターを用いて製造される。
【0046】
<シミュレーション>
解析ソフトFemtet(登録商標)(Version 2018.1.2.70140)を用い、表1に示される解析条件で、導体の断面形状または導体の姿勢の異なる複数のコイルの各々のモデルを評価した。
【0047】
【0048】
評価対象のモデルは、第1~第6モデルを含む。第1モデルおよび第2モデルは、
図2に示す第1実施例のコイル100に対応する。ただし、第1モデルには、冷却構造が適用されておらず、第2モデルには、
図6に示す第3冷却構造が適用されている。第3モデルは、
図3に示す第2実施例のコイル100に対応する。第4モデルは、
図7に示す第1参考例のコイルに対応する。第5モデルは、
図8に示す第2参考例のコイルに対応する。第6モデルは、
図9に示す第3参考例のコイルに対応する。
【0049】
図7は、第1参考例のコイルを示す断面図である。
図7に示すように、第1参考例のコイルは、
図2に示す第1実施例のコイル100と比較して、電線1の長手方向に直交する平面における導体10の断面形状11がリング状(O字状)である点でのみ相違する。
【0050】
図8は、第2参考例のコイルを示す断面図である。
図8に示すように、第2参考例のコイルは、
図2に示す第1実施例のコイル100と比較して、中心軸2の対象区間3の全てにおいて、導体10の断面形状11の凹状縁12bが上を向くように電線1が巻回される点でのみ相違する。
【0051】
図9は、第3参考例のコイルを示す断面図である。
図9に示すように、第3参考例のコイルは、
図2に示す第1実施例のコイル100と比較して、中心軸2の対象区間3の全てにおいて、導体10の断面形状11の凸状縁12aが中心軸2と対向するように電線1が巻回される点でのみ相違する。
【0052】
第1~第5モデルにおいて、導体10の断面積、導体10の巻き方、および磁性体200の形状は、以下の条件(a)~(f)を満たすように設定される。
(a)導体10の断面形状11の断面積:36mm
2、
(b)コイル半径R1(
図2,
図3,
図7~
図9参照):50mm、
(c)巻回数:8回、
(d)導体10の間隔P(
図2,
図3,
図7,
図8参照):10mm、
(e)円柱状の磁性体200の底面の半径R2(
図2,
図3,
図7~
図9参照):30mm、
(f)円柱状の磁性体200の高さH(
図2,
図3,
図7,
図8参照):70mm。
【0053】
また、第1モデルおよび第5モデルの導体10の断面形状11,及び、第3モデルにおける導体10の第1部分10aおよび第2部分10bの断面形状11は、以下の条件(g),(h)を満たす円弧状に設定される。第3モデルにおける導体10の第3部分10cの断面形状11、及び、第4モデルの導体10の断面形状11は、以下の条件(g)を満たすように設定される。
(g)導体10の厚みt(
図2,
図3,
図7~
図9参照):1.8mm、
(h)中心角θ(
図2,
図3,
図8,
図9参照):135°。
【0054】
第2モデルの導体10の断面形状11は、上記の条件(h)と以下の条件(i)~(k)を満たす円弧状に設定される。
(i)導体10の中空部分14と凸状縁12aとの間の厚み:1.7mm、
(j)導体10の中空部分14と凹状縁12bとの間の厚み:0.1mm、
(k)中空部分14の厚み:0.9mm。
【0055】
第6モデルにおいて、導体10の断面積、導体10の断面形状11、導体10の巻き方、および磁性体200の形状は、上記の条件(a)~(c),(e),(g),(h)と、以下の条件(d’),(f’)とを満たすように設定される。
(d’)導体10の間隔P(
図9参照):20mm、
(f’)円柱状の磁性体200の高さH(
図9参照):140mm。
【0056】
図10は、第1~第5モデルにおける導体の電流分布の解析結果を示す図である。
図10において、逆流電流が発生している主な箇所が破線枠で囲まれている。
【0057】
図10に示されるように、断面形状11がO字状である導体10を有する第1参考例のコイルに対応する第4モデルでは、8巻の導体10のうち上下端に近い導体10において、近接効果による逆流電流が発生している(破線枠で囲まれた部分)。そのため、第4モデルのコイルの損失は、26.7Wと大きい。
【0058】
これに対し、第1~第3モデルでは、断面形状11が円弧状である導体10において、凸状縁12a側に電流が集中しやすくなるものの、凸状縁12aに亘って電流が比較的均一に流れている。そして、第1~第3モデルでは、近接効果が抑制され、逆流電流が少ないことがわかる。そのため、第1~第3モデルにおける損失は、それぞれ19.2W,21.7W,20.0Wとなり、第4モデルと比較して小さい。
【0059】
凹状縁12bが上を向くように電線1が8回巻回された第2参考例のコイルに対応する第5モデルでは、下端に近い導体10では、凸状縁12aに亘って電流が比較的均一に流れているものの、上端に近い導体10では、大きな逆流電流が発生している。そのため、第5モデルのコイルの損失は、25.4Wと大きい。
【0060】
図11は、第1モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
図12は、第3モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
図13は、第4モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
図14は、第5モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
図15は、第6モデルにおける磁界分布の解析結果を示す図である。
【0061】
図11および
図12に示されるように、第1モデルおよび第3モデルでは、導体10に交流電流が流されたとき、凸状縁12aの周囲の磁束は、凸状縁12aに亘って凸状縁12aに沿った同一方向を向く。別の言い方をすると、凸状縁12aに亘って、第4モデル~第6モデルのように、時計回り、反時計回りというような磁束の向きが異なる領域が存在しない。例えば、
図11および
図12に示す解析結果では、枠線30によって囲まれた領域において、凸状縁12aの周囲の磁束は、時計回りの方向に向いている。
【0062】
これに対し、
図13に示されるように、第4モデルでは、断面形状11がO字状の外周縁40の周囲の磁束は、枠線30によって囲まれた領域では時計回りの方向に向き、枠線31によって囲まれた領域では反時計回りの方向に向く。そのため、凸状縁12aにおいて逆流電流が発生する。
図10および
図13に示す例では、導体10において、枠線31によって囲まれた領域において、逆流電流が発生していることがわかる。
【0063】
図14に示されるように、第5モデルでは、下端に近い導体10では、凸状縁12aの周囲の磁束は、凸状縁12aに亘って凸状縁12aに沿った同一方向を向く。しかしながら、上端に近い導体10において、凸状縁12aの周囲の磁束は、枠線30によって囲まれた領域では時計回りの方向に向き、枠線31によって囲まれた領域では反時計回りの方向に向く。そのため、凸状縁12aにおいて逆流電流が発生する。
図10および
図14に示す例では、導体10において、枠線31によって囲まれた領域において、逆流電流が発生していることがわかる。また、枠線30によって囲まれた領域(つまり、上端の導体10における磁性体200側の端部)では、磁束が極度に集中している。そのため、
図10に示されるように、上端の導体10における磁性体200側の端部の電流密度が高くなり、導体10の抵抗がさらに増大する。
【0064】
図15に示されるように、第6モデルにおいても、凸状縁12aの周囲の磁束は、枠線30によって囲まれた領域では時計回りの方向に向き、枠線31によって囲まれた領域では反時計回りの方向に向く。そのため、凸状縁12aにおいて逆流電流が発生し、導体10の抵抗が増大する。
【0065】
図16は、磁性体の底面の半径R2を40mmに設定したときの第1モデルの電流分布を示す図である。
図17は、磁性体の底面の半径R2を30mmに設定したときの第1モデルの電流分布を示す図である。
図18は、磁性体の底面の半径R2を5mmに設定したときの第1モデルの電流分布を示す図である。
【0066】
図16~
図18に示されるように、磁性体200の半径R2に応じて、導体10の電流分布が異なることがわかる。そのため、コイル100の内側に配置される磁性体200の形状に合わせて、凸状縁12aの周囲の磁束が凸状縁12aに亘って凸状縁12aに沿った同一方向を向くように、導体10の断面形状11、導体10の姿勢等を適宜調整することが好ましい。
【0067】
<変形例>
上記の説明では、コイル100は、高周波誘導加熱コイルとして使用されるものとした。しかしながら、本実施の形態に係るコイル100は、内側に磁性体200を配置した状態で交流電流が流される限り、別の用途で使用されてもよい。例えば、コイル100は、磁性体200としてフェライトコアが配置されるトランス等として使用されてもよい。
【0068】
<付言>
以上のように、本実施の形態は以下のような開示を含む。
【0069】
[構成1]
内側に磁性体(200)を配置した状態で交流電流が流されるコイル(100)であって、
中心軸(2)の対象区間(3)の周りに螺旋状に複数回巻回された電線(1)を備え、
前記電線(1)は、前記電線(1)の長手方向に直交する平面における第1断面形状(11)が細長い導体(10)を含み、
前記導体(10)は、
前記対象区間(3)のうちの一方の端部側に位置する第1区間(3a)の周りに巻回される第1部分(10a)と、
前記対象区間(3)のうちの他方の端部側に位置する第2区間(3b)の周りに巻回される第2部分(10b)と、を有し、
前記第1部分(10a)および前記第2部分(10b)の前記第1断面形状(11)は、
前記第1断面形状(11)の長手方向に沿った2つの縁(12)を有し、
前記2つの縁(12)のうちの一方が凸状の縁(12a)となり、他方が凹状の縁(12b)となるように曲がっている。
【0070】
上記の構成において、前記導体(10)に前記交流電流が流されたとき、前記凸状の縁(12a)の周囲の磁束は、前記凸状の縁(12a)に亘って前記凸状の縁(12a)に沿った同一方向を向く。あるいは、前記導体(10)は、前記第1部分(10a)における前記凹状の縁(12b)と前記第2部分(10b)における前記凹状の縁(12b)とが互いに対向するように配置される。
【0071】
[構成2]
電線(1)であって、
前記電線(1)の長手方向に直交する平面における断面形状(11)が細長い導体(10)を備え、
前記断面形状(11)は、
前記断面形状(11)の長手方向に沿った2つの縁(12)を有し、
前記2つの縁(12)のうちの一方が凸状の縁(12a)となり、他方が凹状の縁(12b)となるように曲がっており、
前記電線(1)は、
前記平面で切ったときに、前記凹状の縁(12b)との間に閉空間が形成されるように前記導体(10)に接続される不導体の蓋(20)をさらに備える、電線(1)。
【0072】
[構成3]
電線(1)であって、
前記電線(1)の長手方向に直交する平面における第1断面形状(11)が細長い導体(10)を備え、
前記第1断面形状(11)は、
前記第1断面形状(11)の長手方向に沿った2つの縁(12)を有し、
前記2つの縁(12)のうちの一方が凸状の縁(12a)となり、他方が凹状の縁(12b)となるように曲がっており、
前記電線(1)は、
前記平面における第2断面形状(23)が前記第1断面形状(11)を取り囲む環状であるカバー管(22)をさらに備え、前記カバー管(22)は不導体であり、
前記第2断面形状(23)と前記第1断面形状(11)との間に隙間が形成される、電線(1)。
【0073】
[構成4]
電線(1)であって、
前記電線(1)の長手方向に直交する平面における第1断面形状(11)が細長い導体(10)を備え、
前記第1断面形状(11)は、
前記第1断面形状(11)の長手方向に沿った2つの縁(12)を有し、
前記2つの縁(12)のうちの一方が凸状の縁(12a)となり、他方が凹状の縁(12b)となるように曲がっており、
前記凸状の縁(12a)よりも前記凹状の縁(12b)に近い位置に形成された中空部分(14)を有する、電線(1)。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1 電線、2 中心軸、3 対象区間、3a 第1区間、3b 第2区間、3c 第3区間、10 導体、10a 第1部分、10b 第2部分、10c 第3部分、11,23 断面形状、12 縁、12a 凸状縁、12b 凹状縁、14 中空部分、20 蓋、22 カバー管、25 閉空間、30,31 枠線、40 外周縁、100 コイル、200 磁性体。