(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098797
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02K 11/02 20160101AFI20240717BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H02K11/02
H02K7/116
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002513
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山岡 大祐
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直希
(72)【発明者】
【氏名】柳 高志
【テーマコード(参考)】
5H607
5H611
【Fターム(参考)】
5H607BB01
5H607BB07
5H607BB09
5H607BB14
5H607DD08
5H607DD19
5H607EE31
5H611AA03
5H611BB01
5H611BB07
5H611BB08
5H611UA04
(57)【要約】
【課題】出力部材と車輪とを連結するドライブシャフト等をアンテナとして外部に放射される高周波ノイズを、摺接ブラシを用いずに低減することが可能な技術を実現する。
【解決手段】車両用駆動装置100は、回転電機1、インバータ、及び動力伝達機構3を備える。回転電機1は、ロータ10と、コイル14を備えたステータ12と、を備える。インバータは、複数のスイッチング素子のスイッチングを行うことによりコイル14に流す電流を制御して、回転電機1を駆動する。動力伝達機構3は、ロータ10と一体的に回転するロータ軸30から車輪6に駆動連結される出力部材51,52までの動力伝達を行う。車両用駆動装置100は、環状に形成され、動力伝達機構3を構成する回転体である対象回転体41を囲むように配置された磁性体コア8を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、コイルを備えたステータと、を備えた回転電機と、
複数のスイッチング素子を備え、複数の前記スイッチング素子のスイッチングを行うことにより前記コイルに流す電流を制御して前記回転電機を駆動するインバータと、
前記ロータと一体的に回転するロータ軸と、車輪に駆動連結される出力部材と、を備え、前記ロータ軸から前記出力部材までの動力伝達を行う動力伝達機構と、
前記回転電機及び前記動力伝達機構を収容するケースと、を備えた車両用駆動装置であって、
環状に形成され、前記動力伝達機構を構成する回転体である対象回転体を囲むように配置された磁性体コアを備える、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記動力伝達機構による動力伝達経路が前記磁性体コアを貫通するように、前記磁性体コアが配置されている、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記ケースは、前記回転電機及び前記動力伝達機構を収容する第1収容室と、前記インバータを収容する第2収容室と、を備え、
前記インバータと前記コイルとを電気的に接続する接続線が、前記ケースの内部に配置されている、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記対象回転体の回転軸心に沿う方向を軸方向として、
前記対象回転体は、前記軸方向に窪んだ環状の凹部を備え、
前記磁性体コアの少なくとも一部が、前記凹部に収まるように配置されている、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記回転軸心に直交する方向を径方向として、
前記対象回転体は、軸部と、前記軸部に対して前記径方向の外側に配置された筒状部と、前記筒状部の外周面に形成されたギヤ歯部と、前記軸部と前記筒状部とを前記径方向に接続する接続部と、を備えたギヤであり、
前記筒状部の前記軸方向の寸法は、前記接続部の前記軸方向の寸法よりも大きく、
前記磁性体コアは、前記径方向に沿う径方向視で、前記軸部及び前記筒状部の双方と重複する位置に配置されている、請求項4に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と、回転電機を駆動するインバータと、回転電機のロータと一体的に回転するロータ軸から車輪に駆動連結される出力部材までの動力伝達を行う動力伝達機構と、回転電機及び動力伝達機構を収容するケースと、を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用駆動装置の一例が、特開2011-250583号公報(特許文献1)に開示されている。以下、背景技術の説明において括弧内に示す符号は特許文献1のものである。特許文献1の車両用駆動装置は、回転電機としてのモータ(1)と、モータ(1)を駆動するインバータ(2)と、動力伝達機構としての第1ギヤ減速機(3)と、を備えている。第1ギヤ減速機(3)は、モータ(1)のロータ(1c)が固定されたモータシャフト(1b)から、駆動輪(9)にドライブシャフト(3d’)を介して連結されるアウトプットシャフト(3d)までの、動力伝達を行うように構成されている。
【0003】
特許文献1の車両用駆動装置では、第1ギヤ減速機(3)を構成するカウンタシャフト(3c)のシャフト端部(3c’)に、車体(10)と電気的に接続された摺接ブラシ(5a)を摺接させることで、モータシャフト(1b)からアウトプットシャフト(3d)に至る動力伝達経路を車体(10)に接地している。これにより、インバータ(2)を発生源とする高周波ノイズが上記動力伝達経路を経由してドライブシャフト(3d’)に伝達され難くして、当該高周波ノイズがドライブシャフト(3d’)をアンテナとして放射されることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の車両用駆動装置では、摺接ブラシによる安定した接触抵抗を維持するために、潤滑油が存在するギヤ室とシール部材により分離されたブラシ室を設けると共に、当該ブラシ室の内部まで延びるようにカウンタシャフトを延長し、その延長した部分に摺接ブラシを接触させている。そのため、シール部材、ブラシ室を覆うカバー部材、及びカウンタシャフトの延長部分が必要となり、部品点数やコストの増大、車両用駆動装置の大型化を招きやすい。また、摺接ブラシをカウンタシャフトの延長部分に積極的に押し当てるため、当該ブラシの摩耗粉等の異物が発生する可能性もある。
【0006】
そこで、出力部材と車輪とを連結するドライブシャフト等をアンテナとして外部に放射される高周波ノイズを、摺接ブラシを用いずに低減することが可能な技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る車両用駆動装置は、ロータと、コイルを備えたステータと、を備えた回転電機と、複数のスイッチング素子を備え、複数の前記スイッチング素子のスイッチングを行うことにより前記コイルに流す電流を制御して前記回転電機を駆動するインバータと、前記ロータと一体的に回転するロータ軸と、車輪に駆動連結される出力部材と、を備え、前記ロータ軸から前記出力部材までの動力伝達を行う動力伝達機構と、前記回転電機及び前記動力伝達機構を収容するケースと、を備えた車両用駆動装置であって、環状に形成され、前記動力伝達機構を構成する回転体である対象回転体を囲むように配置された磁性体コアを備える。
【0008】
本構成によれば、インバータにおいて発生した高周波ノイズが、インバータからコイル、ロータ、動力伝達機構へと伝達される場合に、磁性体コアをローパスフィルタとして機能させて、当該高周波ノイズを対象回転体の配設箇所において減衰させることができる。従って、インバータにおいて発生した高周波ノイズが出力部材よりも車輪の側に伝達され難くして、出力部材と車輪とを連結するドライブシャフト等をアンテナとして外部に放射される高周波ノイズを低減することができる。
【0009】
以上のように、本構成によれば、出力部材と車輪とを連結するドライブシャフト等をアンテナとして外部に放射される高周波ノイズを、摺接ブラシを用いずに低減することができる。
【0010】
車両用駆動装置の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る車両用駆動装置の一例の一部を示す断面図
【
図2】実施形態に係る車両用駆動装置の別例の一部を示す断面図
【
図3】その他の実施形態に係る車両用駆動装置の一部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
車両用駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、
図1に示す車両用駆動装置100と
図2に示す車両用駆動装置100とは、細部は異なるものの基本的な構成は共通であり、以下では、
図1及び
図2を参照して本実施形態の車両用駆動装置100について説明する。本実施形態では、第1ギヤ41が「対象回転体」に相当し、第1サイドギヤ51及び第2サイドギヤ52が「出力部材」に相当し、第2軸A2が「対象回転体の回転軸心」に相当する。
【0013】
本明細書では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等)が含まれていてもよい。
【0014】
本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本明細書では、2つの部材の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線に直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの部材の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを意味する。
【0015】
図1及び
図2に示すように、車両用駆動装置100は、回転電機1と、インバータ2と、動力伝達機構3と、ケース9と、を備えている。回転電機1は車輪6の駆動力源である。回転電機1は、インバータ2を介して、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置と電気的に接続されている。車両用駆動装置100は、回転電機1の出力トルクを車輪6(本実施形態では、左右一対の車輪6)に伝達させて、車両用駆動装置100が搭載された車両を走行させる。
【0016】
図1に示すように、本実施形態では、動力伝達機構3は、ギヤ機構4と、差動歯車機構5と、を備えている。回転電機1は、第1軸A1上に配置され、ギヤ機構4は、第1軸A1とは異なる第2軸A2上に配置され、差動歯車機構5は、第1軸A1及び第2軸A2とは異なる第3軸A3上に配置されている。第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3は、互いに異なる仮想軸であり、互いに平行に配置されている。
【0017】
第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3に平行な方向を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」とする。また、第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする。なお、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合や、どの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0018】
回転電機1は、ロータ10と、コイル14を備えたステータ12と、を備えている。ステータ12は、円筒状のステータコア13を備えている。ステータコア13は、ケース9に固定されている。ステータコア13には、コイル14が巻装されており、コイル14におけるステータコア13から軸方向Lに突出する部分により、コイルエンド部15が形成されている。
【0019】
ロータ10は、円筒状のロータコア11を備えている。ロータコア11は、ステータコア13に対して回転可能に、ケース9に支持されている。本実施形態では、回転電機1は、インナロータ型の回転電機であり、ロータコア11は、ステータコア13に対して径方向Rの内側に配置されている。また、本実施形態では、回転電機1は、回転界磁型の回転電機であり、ロータコア11には、不図示の永久磁石が設けられている。
【0020】
図2に簡略化して示すように、インバータ2は、複数のスイッチング素子21を備えている。これら複数のスイッチング素子21は、インバータ回路を構成している。インバータ2は、これら複数のスイッチング素子21のスイッチングを行うことによりコイル14に流す電流を制御して、回転電機1を駆動する。スイッチング素子21は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とされる。
図2に示す例では、インバータ2は、複数のスイッチング素子21がモジュール化されたパワーモジュール20を備えている。図示は省略するが、インバータ2は、更に、インバータ回路の直流側の正負両極間電圧を平滑するコンデンサと、インバータ回路を制御する制御装置が実装された制御基板と、を備えている。
【0021】
図1に示すように、動力伝達機構3は、ロータ10と一体的に回転するロータ軸30と、車輪6に駆動連結される出力部材と、を備えている。そして、動力伝達機構3は、ロータ軸30から出力部材までの動力伝達を行う。上述したように、本実施形態では、動力伝達機構3は、ギヤ機構4と差動歯車機構5とを備えている。そして、本実施形態では、差動歯車機構5が備える後述する第1サイドギヤ51及び第2サイドギヤ52が、出力部材とされている。
【0022】
本実施形態では、ロータ軸30は、互いに一体的に回転するように連結(本例では、スプライン連結)された第1軸部材31と第2軸部材32とを備えている。第1軸部材31は、第1軸部材31と第2軸部材32との連結部から軸方向第1側L1に向かって延びるように配置され、第2軸部材32は、当該連結部から軸方向第2側L2に向かって延びるように配置されている。そして、第1軸部材31の外周面に、ロータコア11が固定されている。また、第2軸部材32に、回転電機1のトルクを出力するための出力ギヤ33が設けられている。本例では、出力ギヤ33は、第2軸部材32と一体的に形成されている。
【0023】
ギヤ機構4は、連結軸40と、第1ギヤ41と、第2ギヤ42と、を備えている。連結軸40は、第1ギヤ41と第2ギヤ42とをこれらが一体的に回転するように連結している。本実施形態では、第1ギヤ41は、連結軸40とは別部材であり、連結軸40と一体的に回転するように、連結軸40に連結(本例では、スプライン連結)されている。また、本実施形態では、第2ギヤ42は、連結軸40と一体的に形成されている。
【0024】
第1ギヤ41は、出力ギヤ33と噛み合い、第2ギヤ42は、後述する差動入力ギヤ55と噛み合っている。本実施形態では、第1ギヤ41は、第2ギヤ42よりも大径に形成されている。また、本実施形態では、第1ギヤ41は、第2ギヤ42に対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0025】
差動歯車機構5は、差動入力ギヤ55に伝達される回転電機1からの駆動力を、一対の車輪6に分配する。本実施形態では、差動歯車機構5は、傘歯車式の差動歯車機構であり、差動ケース50と、第1サイドギヤ51と、第2サイドギヤ52と、一対のピニオンギヤ53と、ピニオン軸54と、を備えている。差動入力ギヤ55は、差動ケース50と一体的に回転するように、差動ケース50に連結されている。
【0026】
差動ケース50は、第1サイドギヤ51、第2サイドギヤ52、及び一対のピニオンギヤ53を収容している。一対のピニオンギヤ53は、差動ケース50と一体的に回転するピニオン軸54に支持されており、ピニオン軸54を回転軸心として回転(自転)し、且つ、第3軸A3を回転軸心として回転(公転)するように構成されている。第1サイドギヤ51及び第2サイドギヤ52は、一対のピニオンギヤ53に噛み合っており、第3軸A3を回転軸心として回転するように構成されている。第1サイドギヤ51は、ピニオン軸54に対して軸方向第1側L1に配置され、第2サイドギヤ52は、ピニオン軸54に対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0027】
車両用駆動装置100が搭載される車両には、第1ドライブシャフト61と第2ドライブシャフト62とが設けられている。第1ドライブシャフト61は、例えば等速ジョイントを介して、軸方向第1側L1の車輪6に連結され、第2ドライブシャフト62は、例えば等速ジョイントを介して、軸方向第2側L2の車輪6に連結される。第1サイドギヤ51は、第1ドライブシャフト61と一体的に回転するように、第1ドライブシャフト61に連結され、第2サイドギヤ52は、第2ドライブシャフト62と一体的に回転するように、第2ドライブシャフト62に連結される。本実施形態では、第1サイドギヤ51は、軸方向Lに沿って延在する軸部材60を介して、第1ドライブシャフト61に連結される。
【0028】
ケース9は、回転電機1及び動力伝達機構3を収容する。ここで、「収容する」とは、収容対象物の少なくとも一部を収容することを意味する。
図2に示すように、本実施形態では、ケース9は、更に、インバータ2を収容する。すなわち、ケース9は、回転電機1及び動力伝達機構3を収容する第1収容室S1(
図1及び
図2参照)と、インバータ2を収容する第2収容室S2(
図2参照)と、を備えている。第1収容室S1と第2収容室S2とは、1つのケース9に一体的に形成されている。
【0029】
図1及び
図2に示すように、本実施形態では、ケース9は、周壁部90と、第1壁部91と、第2壁部92と、第3壁部93と、を備えている。第2壁部92は、第1壁部91に対して軸方向第2側L2に配置され、第3壁部93は、第2壁部92に対して軸方向第2側L2に配置されている。本実施形態では、ケース9は、更に、収容室形成部94を備えている。
【0030】
周壁部90は、回転電機1及び動力伝達機構3を径方向Rの外側から覆うように形成されている。そして、第1壁部91は、周壁部90の軸方向第1側L1の開口を塞ぐように配置され、第3壁部93は、周壁部90の軸方向第2側L2の開口を塞ぐように配置されている。これにより、第1収容室S1が、周壁部90と第1壁部91と第3壁部93とに囲まれて形成されている。また、第1収容室S1は、第2壁部92によって軸方向Lに区画されており、第1収容室S1における第2壁部92に対して軸方向第1側L1の部分に、回転電機1が収容され、第1収容室S1における第2壁部92に対して軸方向第2側L2の部分に、動力伝達機構3の少なくとも一部(本実施形態では、第2軸部材32、ギヤ機構4、及び差動歯車機構5)が収容されている。
【0031】
第2収容室S2は、周壁部90と、収容室形成部94と、ケース9が備える不図示のカバー部材と、に囲まれて形成されている。第1収容室S1と第2収容室S2とは、1枚の壁である周壁部90によって区画されている。
【0032】
図2に示すように、本実施形態では、インバータ2とコイル14とを電気的に接続する接続線22(例えば、バスバー)が、ケース9の内部に配置されている。具体的には、接続線22の一部は第1収容室S1に配置され、接続線22の残りの部分は第2収容室S2に配置されている。図示は省略するが、接続線22の一端は、第1収容室S1において、コイルエンド部15から引き出された動力線と電気的に接続され、接続線22の他端は、第2収容室S2において、パワーモジュール20の出力端子と電気的に接続されている。図示の例では、周壁部90を貫通するように端子台が設けられており、接続線22は、当該端子台を介してインバータ2とコイル14とを電気的に接続している。
【0033】
図1に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、第1軸受B1と、第2軸受B2と、第3軸受B3と、第4軸受B4と、第5軸受B5と、第6軸受B6と、第7軸受B7と、第8軸受B8と、を備えている。
【0034】
第1軸受B1は、第1壁部91と第1軸部材31との径方向Rの間に配置され、第1壁部91に対して回転自在に第1軸部材31を支持している。第2軸受B2は、第2壁部92と第1軸部材31との径方向Rの間に配置され、第2壁部92に対して回転自在に第1軸部材31を支持している。第3軸受B3は、第2壁部92と第2軸部材32との径方向Rの間に配置され、第2壁部92に対して回転自在に第2軸部材32を支持している。第4軸受B4は、第3壁部93と第2軸部材32との径方向Rの間に配置され、第3壁部93に対して回転自在に第2軸部材32を支持している。
【0035】
第5軸受B5は、第2壁部92と連結軸40との径方向Rの間に配置され、第2壁部92に対して回転自在に連結軸40を支持している。第6軸受B6は、第3壁部93と連結軸40との径方向Rの間に配置され、第3壁部93に対して回転自在に連結軸40を支持している。
【0036】
第7軸受B7は、第2壁部92と差動ケース50との径方向Rの間に配置され、第2壁部92に対して回転自在に差動ケース50を支持している。第8軸受B8は、第3壁部93と差動ケース50との径方向Rの間に配置され、第3壁部93に対して回転自在に差動ケース50を支持している。
【0037】
図1に示すように、車両用駆動装置100は磁性体コア8を備えている。磁性体コア8は、磁性体により形成されるコアであり、例えば、フェライト製のコア(フェライトコア)とされる。磁性体コア8は、カバー部材(例えば、樹脂製のカバー部材)に収容されていてもよく、以下では、このカバー部材も含めて磁性体コア8という。また、以下の磁性体コア8の説明において、軸方向Lは、後述する対象回転体の回転軸心(本実施形態では第2軸A2、以下同様)に沿う方向であり、径方向Rは、対象回転体の回転軸心に直交する方向である。
【0038】
磁性体コア8は、環状(具体的には、軸方向Lに沿う軸心を有する環状)に形成されている。ここで、「環状」には、円環状と多角形環状とを含む。本実施形態では、磁性体コア8は、円環状に形成されている。なお、磁性体コア8は、軸方向Lに沿う軸方向視で環状に形成されていればよく、軸方向Lの寸法は任意に設定可能である。よって、磁性体コア8は、径方向Rの寸法よりも軸方向Lの寸法が大きい筒状(例えば、円筒状や多角形筒状)に形成されていてもよい。
【0039】
磁性体コア8は、動力伝達機構3を構成する回転体である対象回転体を囲むように配置されている。具体的には、磁性体コア8は、対象回転体を径方向Rの外側から囲むように配置されている。
図1に示すように、本実施形態では、第1ギヤ41が対象回転体であり、磁性体コア8は、第1ギヤ41(具体的には、後述する軸部71)を囲むように配置されている。なお、対象回転体は、第1ギヤ41に限らず、ロータ軸30から出力部材(本実施形態では、第1サイドギヤ51及び第2サイドギヤ52)までのいずれの回転体(ロータ軸30及び出力部材を含む)であってもよい。
【0040】
このように、環状に形成された磁性体コア8を、動力伝達機構3を構成する対象回転体を囲むように配置することで、ドライブシャフト等をアンテナとして外部に放射される高周波ノイズを、摺接ブラシを用いずに低減することができる。なお、対象回転体は、磁性体コア8の内周面に囲まれて形成される貫通孔を、軸方向Lに貫通するように配置されていると好適である。本実施形態では、第1ギヤ41の後述する軸部71が、当該貫通孔を軸方向Lに貫通するように配置されている。
【0041】
磁性体コア8は、対象回転体の外周面に接するように配置されていても、対象回転体の外周面に対して径方向Rの外側に離間して配置されていてもよい。本実施形態では、磁性体コア8は、対象回転体の外周面に接するように配置されている。具体的には、磁性体コア8の内周面は、対象回転体(本実施形態では、第1ギヤ41の後述する軸部71)の外周面に嵌合されている。そして、磁性体コア8は、対象回転体と一体的に回転するように配置されている。上記の嵌合は、例えば、隙間嵌め又は締まり嵌め(圧入等)とされる。磁性体コア8は、締結ボルト等を用いて対象回転体(例えば、第1ギヤ41の後述する接続部74)に固定されていてもよい。
【0042】
図1に示すように、動力伝達機構3による動力伝達経路Tが磁性体コア8を貫通するように、磁性体コア8が配置されている。本実施形態では、動力伝達経路Tは、磁性体コア8を軸方向Lに貫通している。このように磁性体コア8を配置することで、磁性体コア8による高周波ノイズの減衰効果を高めやすく、この結果、外部に放射される高周波ノイズの低減効果を高めやすい。
【0043】
図1に動力伝達経路Tの一部を模式的に示すように、動力伝達経路Tは、ロータ軸30と出力部材との間の動力の伝達経路である。ここでは、ロータ軸30及び出力部材を含む複数の伝動部材及び伝動部材同士の連結部(例えば、ギヤ同士の噛み合い部)を通ってロータ軸30と出力部材とをつなぐ最短経路を、動力伝達経路Tとする。
図1に示すように、本実施形態では、ロータ軸30を通ってロータコア11の配設位置と出力ギヤ33の配設位置とをつなぐ最短経路、出力ギヤ33、出力ギヤ33と第1ギヤ41との噛み合い部、及び第1ギヤ41を通って、第1軸A1と第2軸A2とをつなぐ最短経路、及び、連結軸40を通って第1ギヤ41の配設位置と第2ギヤ42の配設位置とをつなぐ最短経路が、ロータ軸30と第2ギヤ42とをつなぐ最短経路(すなわち、ロータ軸30と出力部材とをつなぐ最短経路の一部)を構成している。そのため、第1ギヤ41に対して軸方向第1側L1(第2ギヤ42が配置される側とは反対側)にではなく軸方向第2側L2(第2ギヤ42が配置される側)に磁性体コア8を配置することで、動力伝達経路Tが磁性体コア8を貫通するように、磁性体コア8を配置することができる。
【0044】
図1に示すように、対象回転体の回転軸心(本実施形態では、第2軸A2)に沿う方向を軸方向Lとして、対象回転体(本実施形態では、第1ギヤ41)は、軸方向Lに窪んだ環状の凹部70を備え、磁性体コア8の少なくとも一部が、凹部70に収まるように配置されている。このように磁性体コア8を配置することで、対象回転体が備える凹部70を磁性体コア8の配置空間として利用することができ、磁性体コア8を配置することによる車両用駆動装置100の大型化を抑制しやすい。本実施形態では、凹部70は、軸方向第1側L1に窪むように形成されており、磁性体コア8における少なくとも軸方向第1側L1の部分(
図1に示す例では、磁性体コア8の全体)が凹部70に収まるように配置されている。
【0045】
具体的には、対象回転体の回転軸心(本実施形態では、第2軸A2)に直交する方向を径方向Rとして、本実施形態では、対象回転体(本実施形態では、第1ギヤ41)は、軸部71と、軸部71に対して径方向Rの外側に配置された筒状部72と、筒状部72の外周面に形成されたギヤ歯部73と、軸部71と筒状部72とを径方向Rに接続する接続部74と、を備えたギヤである。筒状部72の軸方向Lの寸法は、接続部74の軸方向Lの寸法(具体的には、接続部74における軸方向Lの最小寸法)よりも大きい。そして、磁性体コア8は、径方向Rに沿う径方向視で、軸部71及び筒状部72の双方と重複する位置に配置されている。具体的には、磁性体コア8は、軸部71と筒状部72との径方向Rの間であって、径方向視で軸部71及び筒状部72の双方と重複する位置に配置されている。
【0046】
このような構成によれば、対象回転体がギヤ(本実施形態では、第1ギヤ41)である場合に、軸部71と筒状部72と接続部74とにより囲まれて形成される凹部70を、磁性体コア8の配置空間として利用することができる。従って、磁性体コア8を配置することによる車両用駆動装置100の大型化を抑制しやすい。本実施形態では、軸部71と筒状部72とが、接続部74に対して少なくとも軸方向第2側L2に突出するように形成されており、軸方向第1側L1に窪む凹部70が、軸部71と筒状部72と接続部74とにより囲まれて形成されている。
【0047】
本実施形態では、筒状部72は、第2軸A2を軸心とする筒状に形成されている。また、本実施形態では、磁性体コア8は、当該磁性体コア8の全体が径方向視で軸部71及び筒状部72の双方と重複するように配置されている。言い換えれば、接続部74に対して軸方向第2側L2に配置された磁性体コア8の軸方向第2側L2の端部は、軸部71の軸方向第2側L2の端部と筒状部72の軸方向第2側L2の端部とのいずれよりも、軸方向第1側L1に配置されている。
【0048】
上述したように、本実施形態では、第1ギヤ41は、連結軸40とは別部材である。そのため、第1ギヤ41の軸部71は、連結軸40とは別部材である。このような構成とは異なり、第1ギヤ41が連結軸40と一体的に形成されている場合には、連結軸40の少なくとも一部が軸部71を構成する。
【0049】
図1に示すように、本実施形態では、動力伝達機構3は、対象回転体である第1ギヤ41に対して軸方向第2側L2に隣接して配置された第2ギヤ42を備えている。そして、磁性体コア8は、第1ギヤ41の接続部74と第2ギヤ42との軸方向Lの間であって、軸方向Lに沿う軸方向視で第2ギヤ42(具体的には、第2ギヤ42の歯部)と重複する位置に配置されている。具体的には、磁性体コア8における径方向Rの内側の部分が、軸方向視で第2ギヤ42と重複するように配置されている。
【0050】
上述したように、本実施形態では、ケース9は、回転電機1及び動力伝達機構3を収容する第1収容室S1と、インバータ2を収容する第2収容室S2と、を備えている。そして、インバータ2とコイル14とを電気的に接続する接続線22が、ケース9の内部に配置されている。
【0051】
このようにインバータ2とコイル14とを電気的に接続する接続線22がケース9の内部に配置される場合に、接続線22の周囲に磁性体コア8を配置しようとすると、車両用駆動装置100がその分大型化しやすい。上述したように、本実施形態の車両用駆動装置100では、動力伝達機構3を構成する対象回転体(本実施形態では、第1ギヤ41)の周囲に存在するデッドスペース(具体的には、凹部70)を利用して磁性体コア8を配置することが可能であるため、接続線22の周囲に磁性体コア8を配置する場合に比べて、車両用駆動装置100の大型化を抑制しやすい。
【0052】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、第1ギヤ41が対象回転体である構成を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、例えば
図3に示す例のように、ロータ軸30が対象回転体である構成とすることもできる。
図3に示す例では、ロータ軸30(具体的には第2軸部材32、以下同様)が「対象回転体」に相当し、ロータ軸30が配置される第1軸A1が「対象回転体の回転軸心」に相当する。
【0053】
図3に示す例では、ロータ軸30が、磁性体コア8の内周面に囲まれて形成される貫通孔を、軸方向Lに貫通するように配置されている。また、
図3に示す例では、上記の実施形態とは異なり、磁性体コア8は、対象回転体であるロータ軸30の外周面に対して径方向Rの外側に離間して配置されている。具体的には、ロータ軸30は、第2壁部92に形成された貫通孔を軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、磁性体コア8は、第2壁部92に形成された当該貫通孔の内周面に嵌合されている。
図3に示す例では、磁性体コア8は、第2軸受B2と第3軸受B3との軸方向Lの間に配置されている。なお、このようにロータ軸30が対象回転体である場合に、ロータ軸30と一体的に回転するように磁性体コア8が配置される構成としてもよい。詳細は省略するが、例えば
図2に示す車両用駆動装置100において、磁性体コア8が、ロータ軸30における第3軸受B3と出力ギヤ33との軸方向Lの間の部分の外周面に嵌合される構成とすることができる。
【0054】
(2)上記の実施形態では、ケース9が、回転電機1及び動力伝達機構3を収容する第1収容室S1と、インバータ2を収容する第2収容室S2とを備え、インバータ2とコイル14とを電気的に接続する接続線22が、ケース9の内部に配置される構成を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、接続線22の少なくとも一部がケース9の外部に配置される構成とすることもできる。例えば、ケース9が第2収容室S2を備えない場合に、接続線22の少なくとも一部がケース9の外部に配置される構成とすることができる。ケース9が第2収容室S2を備えない場合、例えば、ケース9とは別のケースに収容されたインバータ2が、ケース9の外部に取り付けられる。
【0055】
(3)上記の実施形態で示した動力伝達機構3の構成は一例であり、動力伝達機構3の構成は適宜変更することができる。例えば、動力伝達機構3がギヤ機構4及び差動歯車機構5の少なくとも一方を備えない構成とすることができる。動力伝達機構3が差動歯車機構5を備えない場合、回転電機1の出力トルクは、動力伝達機構3を介して、1つの車輪6に伝達される。この場合、例えば、動力伝達機構3における車輪6(又は車輪6に連結されたドライブシャフト)が連結される部材が、出力部材とされる。
【0056】
(4)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用すること(その他の実施形態として説明した実施形態同士の組み合わせを含む)も可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1:回転電機、2:インバータ、3:動力伝達機構、6:車輪、8:磁性体コア、9:ケース、10:ロータ、12:ステータ、14:コイル、21:スイッチング素子、22:接続線、30:ロータ軸、41:第1ギヤ(対象回転体)、51:第1サイドギヤ(出力部材)、52:第2サイドギヤ(出力部材)、70:凹部、71:軸部、72:筒状部、73:ギヤ歯部、74:接続部、100:車両用駆動装置、A2:第2軸(対象回転体の回転軸心)、L:軸方向、R:径方向、S1:第1収容室、S2:第2収容室、T:動力伝達経路