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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009881
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】光子増倍材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20240116BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240116BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20240116BHJP
   H01L 31/055 20140101ALI20240116BHJP
【FI】
C09K11/08 G
C09K11/06
C09K11/06 610
C09K11/66
H01L31/04 622
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023173567
(22)【出願日】2023-10-05
(62)【分割の表示】P 2020530371の分割
【原出願日】2018-12-03
(31)【優先権主張番号】1720190.6
(32)【優先日】2017-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】501308812
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ラオ,アクシャイ
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,ナサニエル
(72)【発明者】
【氏名】アラーディス,ジェシー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】量子ドットに結合した配位子における一重項開裂による光子の増倍を、量子ドットへのエネルギー移動とともに起こし、増倍した光子を得る光子増倍材料を提供する。
【解決手段】一重項開裂可能な有機半導体分子が付着した発光材料を含む光子増倍材料であって、前記有機半導体分子が結合基により前記発光材料に化学的に結合しており、結合した前記有機半導体分子の一重項開裂により形成される励起子三重項状態が前記発光材料にエネルギー移動するように、前記結合基及び前記発光材料のバンドギャップが選択されていることを特徴とする光子増倍材料である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一重項開裂可能な有機半導体分子が付着した発光材料を含む光子増倍材料であって、前
記有機半導体分子が結合基により前記発光材料に化学的に結合しており、結合した前記有
機半導体分子の一重項開裂により形成される励起子三重項状態が前記発光材料にエネルギ
ー移動するように、前記結合基及び前記発光材料のバンドギャップが選択されていること
を特徴とする光子増倍材料。
【請求項2】
前記結合基は、結合した前記有機半導体分子の1つ以上が、量子ドットの2.0nm以
下、好ましくは1.0nm以下、より好ましくは0.5nm以下の範囲内にあることを提
供する、請求項1に記載の光子増倍材料。
【請求項3】
前記結合基は、量子ドット上の隣接する半導体分子が互いに2.0nm以下、好ましく
は1.0nm以下、より好ましくは0.5nm以下になるように、単一の有機半導体分子
に結合する、請求項2に記載の光子増倍材料。
【請求項4】
前記結合基は、各半導体分子が他方の半導体分子の2.0nm以下、好ましくは1.0
nm以下、より好ましくは0.5nm以下になるように、2つの半導体分子に結合する、
請求項2に記載の光子増倍材料。
【請求項5】
前記結合基は、それ自体が別の結合基によって第2の半導体分子に結合している半導体
分子に結合する、請求項2に記載の光子増倍材料。
【請求項6】
前記結合基は、カルボキシル(-CO2-)、チオカルボキシル(-CSO又は-COS-)、アミド
(-NHO又は-NRO-)、アミジノ(-NHN-又は-NRN-)、チオカルバミル(-CSN-)、スルファ
ニル(-S-)、及びホスファチジル(-PO3-)のうちの1つ以上を含む、請求項1~5のい
ずれか1項に記載の光子増倍材料。
【請求項7】
前記結合基は、アセチレン、アルケン、チオフェン、フラン、ピロール、p-フェニレン
又はオリゴ(p-フェニレン)、p-フェニレンエチニレン、及びp-フェニレンビニレンを含
む、請求項1~6のいずれか1項に記載の光子増倍材料。
【請求項8】
前記有機半導体分子が、小分子、二量体、オリゴマー、ホモポリマー、コポリマー、デ
ンドリマー、又は有機金属錯体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の光子増倍材
料。
【請求項9】
前記有機半導体分子が、アセン、ペリレン、リレン、ジケトピロロピロール、フルオレ
ン、カロテノイド、又はベンゾフランのうちの1つ以上を含む、請求項1~8のいずれか
1項に記載の光子増倍材料。
【請求項10】
前記半導体分子が、1.4から4.0eV、好ましくは2.0から3.0eV、より好
ましくは2.3から2.6eVの範囲のバンドギャップを有する、請求項1~9のいずれ
か1項に記載の光子増倍材料。
【請求項11】
前記発光材料が、有機遷移金属リン光化合物、熱遅延蛍光有機化合物、無機半導体ナノ
粒子、2D半導体、又はペロブスカイト材料を含む、請求項1~10のいずれか1項に記
載の光子増倍材料。
【請求項12】
前記発光材料が、量子ドットのようなコロイド状ナノ結晶である、請求項1~11のい
ずれか1項に記載の光子増倍材料。
【請求項13】
前記量子ドットが、CdSe、CdS、ZnTe、ZnSe、PbS、PbSe、PbTe、HgS、HgSe、HgTe、HgC
dTe、CdTe、CZTS、ZnS、CuInS2、CuInSexS2-x、CuGaS2、AgInSe2、CuInGaSe、CuInGaS、
シリコン、InAs、InP、InSb、SnS2、CuS、ゲルマニウム、及びFe2S3のうちの1つ以上を含
むコア構造を有する、請求項12に記載の光子増倍材料。
【請求項14】
前記量子ドットの直径が、50nm以下、好ましくは20nm以下、好ましくは10n
m以下、より好ましくは5nm以下である、請求項12又は13に記載の光子増倍材料。
【請求項15】
前記発光材料のバンドギャップが、0.6eV~2.0eV、好ましくは0.8eV~
1.7eV、より好ましくは0.9eV~1.4eVの範囲である、請求項1~14のい
ずれか1項に記載の光子増倍材料。
【請求項16】
前記有機半導体分子の三重項エネルギーが、前記発光材料のバンドギャップより大きい、
請求項1~15のいずれか1項に記載の光子増倍材料。
【請求項17】
前記有機半導体分子の三重項エネルギーが、前記発光材料の励起状態から0.4eV以
内、好ましくは0.3eV以内、より好ましくは0.2eV以内である、請求項16に記
載の光子増倍材料。
【請求項18】
光子の増倍は、300nm~600nmの波長の光による照射によって励起され得る、
請求項1~17のいずれか1項に記載の光子増倍材料。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の光子増倍材料を含む光子増倍フィルム。
【請求項20】
太陽電池、光検出器、発光ダイオード、電界効果トランジスタ、ディスプレイ、センサ
又は生体撮像デバイスのような光電子素子と光通信状態にある請求項17に記載の光子増
倍フィルムを含む光電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子増倍材料及びこの材料を含む光子増倍フィルム、並びにこのフィルムを
含む太陽電池又は光起電力電池などの光電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶及び多結晶シリコンのような低バンドギャップ太陽電池は、世界の太陽光発電市
場の90%以上を占めている。単結晶シリコンを用いた最高効率(26.3%)は理論限
界の29.4%に近い。光学的損失及び電荷再結合を低減することを目的とした改良は、
得ることが困難であり、コストがかかる。
【0003】
従って、最近の研究は理論的限界を超えるアプローチに向けられている。これらのアプ
ローチは、キャリア増倍(最大理論効率約39%)を伴う単一接合太陽電池、キャリア増
倍(理論効率39~47%)を伴う又は伴わない材料の異なる組み合わせ、及び光子増倍
を伴う又は伴わないスペクトル(上下)変換を提供するタンデム太陽電池として分類する
ことができる。
【0004】
太陽光発電における一重項開裂材料(例えば有機半導体)の使用は、スペクトル範囲内
で二倍の光子又は電荷を生成する可能性があるため、2006年頃から活発に研究されて
きた。
【0005】
有機半導体における一重項開裂は、光吸収により形成された一重項励起子(S1)が二つ
の三重項励起子(T1)に変換されるスピン許容過程である。
【0006】
一重項開裂が起こるためには、三重項励起子レベルが一重項励起子のエネルギーの半分
近くになっている必要があり、例えば、S1≒2*T 1である。単結晶シリコン(1.1 eVのバ
ンドギャップEg)の場合、一重項開裂材料は、2.3-2.6eVのS1レベル(青緑色光
吸収)及び1.2-1.3eVのT1レベルを有している必要がある。
【0007】
一重項開裂は吸熱的か発熱的かに分類できることに留意されたい。発熱開裂では、最低
一重項励起子(S1)のエネルギーは最低三重項エネルギー(T1)の2倍以上、すなわちS1
>2T1である。吸熱開裂では、最低一重項励起子 (S1)のエネルギーは最低三重項エネルギ
ー(T1)の2倍以下、すなわちS1<2T1である。この場合、一重項励起子は最初に、そのエ
ネルギーが一重項励起子のそれに近い相関三重項対状態(TT状態)に変換される。そして
TT状態は、熱活性化により自由三重項励起子(T1)に分解する。
【0008】
国際公開第2014/001817号公報(A1)には、無機半導体層の上に、多重励
起子発生が可能な有機半導体層を設けた太陽電池が開示されている。
【0009】
一重項開裂スペクトル変換による太陽光発電効率の増強に関しても太陽電池において研
究が進められている。光子増倍フィルムとその下にある低バンドギャップ太陽電池との間
の純粋な光学的な結合は、一重項開裂物質の機能性に対する条件が低減される点で有利で
あり、例えば電流を生成して伝導させるという条件が必要とされない。さらに、光子増倍
フィルムは、十分に最適化された市販のセル生産とは独立して開発することができる。
【0010】
国際公開第2014/052530号公報(A1)には、シリコンセル上に堆積された
有機感光窓層として使用される一重項開裂光子増倍フィルムが開示されている。有機感光
窓層は、燐光発光体ドーパントを含む一重項開裂ホスト材料からなり、一重項開裂ホスト
材料は、燐光発光体ドーパントの三重項エネルギー以上、あるいはそれと同等の三重項エ
ネルギーを有する。一重項開裂ホストによって1つの高エネルギー光子を吸収して生成さ
れた一重項は、2つの三重項に開裂し、各三重項はそれぞれ別の燐光発光体ドーパントに
移行する。このプロセスの結果、燐光発光体ドーパントから2つの近赤外光子が放出され
、その後当該光子は隣接するシリコンセルに吸収され、2つの電子-正孔対が生成される
【0011】
米国特許出願公開第2014/0224329号明細書(A1)及び国際公開第201
6/009203号公報(A1)の各々は、アセン及び/又は鉛カルコゲニド量子ドット
を含む二重層を有する光子増倍フィルムを開示している。
【0012】
これらのフィルムでは、励起ドナーと励起アクセプタ間の軌道重複に依存するDexterエ
ネルギー移動により、非発光三重項励起子が赤外発光量子ドットに移行している。
【0013】
これらのシステムにおける三重項励起子の注入は、非常に短い長さスケール(1nm未
満)でのみ効率的に起こると予想されるが、光子の増倍のために量子ドットを有機半導体
分子と直接結合させることは開示されていない。
しかし、光子アップコンバージョンのために量子ドットと有機半導体分子とを直接結合
させることは知られている(例えば、Mahboub et al., Nanoletters, 2016, 16, 7169-71
75を参照されたい)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2014/001817号
【特許文献2】国際公開第2014/052530号
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0224329号明細書
【特許文献4】国際公開第2016/009203号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Mahboub et al., Nanoletters, 2016, 16, 7169-7175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者らは、この状況を、量子ドットに結合した配位子における一重項開裂が、隣接
する配位子において、逐次的に量子ドット内に移動し、再結合して、配位子によって吸収
された各光子に対して2つの光子が量子ドットから放出され得るような三重項励起子を形
成しそうにないという当技術分野における先入観によるものであると考える。
【0017】
本発明者らは、量子ドットに結合した配位子における一重項開裂による光子の増倍が、
三重項励起子の量子ドットへのエネルギー移動とともに起こり得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明は、第1の観点において、一重項開裂可能な有機半導体分子が付着した
発光材料を含む光子増倍材料であって、前記有機半導体分子が結合基により前記発光材料
に化学的に結合しており、結合した前記有機半導体分子の一重項開裂により形成される励
起子三重項状態が前記発光材料にエネルギー移動するように、前記結合基及び前記発光材
料のバンドギャップが選択されていることを特徴とする光子増倍材料を提供する。
【0019】
量子ドットが有機半導体分子と直接結合する既存の光子アップコンバージョンシステム
においては、適切な一重項開裂及び三重項状態の発光材料への移動は期待できないことに
留意されたい。
【0020】
アップコンバージョンの場合、量子ドットは光子により励起され、励起子は量子ドット
から配位子の三重項準位に移動する。配位子上の三重項が量子ドットに結合していない分
子上に移動するので、1つの三重項のみが移動し、配位子間の相互作用は生じない。
【0021】
さらに、発光材料の表面に結合した有機半導体分子における一重項開裂を介した三重項
の生成は、配位子が一重項開裂に好ましい相互配向をとるとは考えられないので、驚くべ
きことである。一重項開裂のプロセスは、特に吸熱開裂において、分子配置に非常に敏感
であることが知られている。
【0022】
加えて、そのような配位子における吸熱開裂は、吸熱システムにおける一重項開裂の速
度(ピコ秒)が、発光材料(準ピコ秒)への一重項励起子のエネルギー移動の速度(フェ
ルスター共鳴エネルギー移動、FRETなど)よりも一般的に遅いので、想定されていない。
【0023】
単一の三重項状態ではなく、両方の三重項状態の逐次的な移動もまた驚く点がある。な
ぜならば、第一の三重項状態の注入に続いて、第二の三重項状態は、量子ドット内で第一
の三重項状態が再結合する間、その配位子上に数マイクロ秒間、維持されなければならな
いからである。このような遅延は、第2の三重項状態のクエンチングによって、著しい非
放射再結合及び/又は減衰をもたらすことが予想される。
【0024】
なお、結合基は、結合した有機半導体分子のうちの1つ以上が、量子ドットの2.0n
m以下、好ましくは1.0nm以下、より好ましくは0.5nm以下であるものを提供す
べきである。
【0025】
さらに、一重項開裂が起こるためには、有機半導体分子の発光材料への結合は、隣接す
る半導体分子の少なくとも一部が、互いに2.0nm以下、好ましくは1.0nm以下、
より好ましくは0.5nm以下であるものを提供すべきであることに留意されたい。
【0026】
一実施形態では、結合基は、隣接する半導体分子が互いに2.0nm以下、好ましくは
1.0nm以下、より好ましくは0.5nm以下になるように、単一の有機半導体分子に
結合する。
【0027】
別の実施形態では、結合基は、各半導体分子が他方の半導体分子の2.0nm以下、好
ましくは1.0nm以下、より好ましくは0.5nm以下になるように、2つの半導体分
子に結合する。
【0028】
さらに別の実施形態では、結合基は、それ自体が別の結合基によって第2の半導体分子
に結合している半導体分子に結合する。その場合、さらなる結合基は、励起子三重項状態
が、発光材料から最も遠い半導体部分から発光材料に最も近い半導体部分に移動され得る
ことを提供する長さを有するだけでよい。
【0029】
有機半導体分子は、小分子、二量体、オリゴマー、ホモポリマー、コポリマー、デンド
リマー、又は有機金属錯体のうちの1つ以上であり得る。
【0030】
したがって、いくつかの実施形態では、有機半導体分子は、アセン、ペリレン、リレン
、ジケトピロロピロール、フルオレン、カロテノイド、又はベンゾフランのうちの1つ以
上を含む。
【0031】
好ましい実施形態では、有機半導体分子は、アセン、特に置換トリアセン、テトラセン
及びペンタセンなどの置換アセンを含む。
【0032】
この実施形態において、結合基は、半導体部分が発光材料から実質的に離れて延在する
ことを提供する位置 (例えば2-position) において、アセンを発光材料と結合させ得る。
【0033】
好ましい実施形態では、半導体分子は、1.4から4.0eV4、好ましくは2.0か
ら3.0eV、より好ましくは2.3から2.6eVの範囲の(エネルギー)バンドギャ
ップを有する。
【0034】
結合基 (同様に、さらなる結合基) は、例えば、カルボキシル(-CO2-)、チオカルボ
キシル(-CSO又は-COS-)、アミド(-NHO又は-NRO-)、アミジノ(-NHN-又は-NRN-)、チ
オカルバミル(-CSN-)、スルファニル(-S-)、及びホスファチジル(-PO3-)のうちの
1つ以上を含んでもよい。それはまた、例えば、アセチレン、アルケン、チオフェン、フ
ラン、ピロール、p-フェニレン又はオリゴ(p-フェニレン)、p-フェニレンエチニレン、
及びp-フェニレンビニレンにおける剛性又は不飽和の程度を含んでもよい。
【0035】
しかしながら、結合基の大きさ及び性質は、隣接する半導体部分間の一重項開裂に必要
な発光材料上の柔軟性を提供するはずである。
【0036】
一実施形態では、有機半導体分子は、6,11ビス-((トリイソプロピルシリル)エチニ
ル)テトラセン-2-カルボン酸又はその塩 (例えば、ナトリウム又はカリウム塩) を含む
【0037】
発光材料は、結合された半導体分子から励起子三重項状態が連続的に移動され、配位子
によって吸収された各光子に対して2つの光子が量子ドットから放出されるように再結合
され得る有機材料又は無機材料であり得る。
【0038】
それは、有機遷移金属リン光化合物、熱遅延蛍光有機化合物、無機半導体ナノ粒子、2
D半導体、又はペロブスカイト材料を含み得る。
【0039】
好ましくは、発光材料は、量子ドットなどのコロイド状半導体ナノ結晶である。量子ド
ットは、無機半導体材料の1つ以上のシェルが存在するコア-シェル構造を含むことがで
きる。
【0040】
コアシェル構造は、CdSe、CdS、ZnTe、ZnSe、PbS、PbSe、PbTe、HgS、HgSe、HgTe、HgC
dTe、CdTe、CZTS、ZnS、CuInS2、CuInSexS2-x、CuGaS2、AgInSe2、CuInGaSe、CuInGaS、
シリコン、InAs、InP、InSb、SnS2、CuS、ゼラニウム、及びFe2S3のうちの1つ以上を含み
得る。
【0041】
ナノ結晶の直径は、50nm以下、好ましくは20nm以下、好ましくは10nm以下
、より好ましくは5nm以下である。
【0042】
いくつかの実施形態では、発光材料の(エネルギー)バンドギャップは、0.5eV~
2.0eV、好ましくは0.8eV~1.7eV、より好ましくは0.9eV~1.4e
Vの範囲である。
【0043】
この点に関し、準備の際、量子ドットのバンドギャップは、量子ドットの大きさ(直径
)を制御することにより調整され得ることに留意されたい(例えば、Hines, M.A. and Sc
holes, G.D., Advanced Materials, 2003, 15(21), 1844-1849を参照)。
【0044】
また、有機半導体分子の励起子三重項状態のエネルギーは、発光材料のバンドギャップ
よりも大きくなければならないことに留意されたい。好ましくは、発光材料のバンドギャ
ップの0.4eV以内、より好ましくは0.3eV以内、最も好ましくは0.2eV以内
である。
【0045】
なお、量子ドットは、結合基及び半導体分子以外の配位子を有していてもよい。これら
の配位子は、量子ドットの生成に起因し、量子ドットの表面を不動態化するために使用さ
れる。それらは、例えば、オレイン酸のようなカルボン酸に由来する長鎖炭化水素を含み
得る。
【0046】
これらの配位子は、半導体分子の相対的なバルクのために生じる量子ドットの表面上の
ギャップを有利に充填することができる。
【0047】
光子増倍材料は、300nm~600nmの間の波長の光による照射によって励起(光
子を増倍する)され得る。
【0048】
第2の態様で、本発明は、第1の態様に関する光子増倍材料を含む光子増倍フィルムを
提供する。
【0049】
フィルムは、光子増倍材料の分散物を含む連続フィルム又はマトリックスフィルムであ
ってもよい。フィルムの材料は、多種多様なポリマー及びそれらの誘導体から選択するこ
とができる。適切なポリマーとしては、ポリブチラール、ポリビニルブチラール、ポリシ
ロキサン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリチオール、ポリエステル、ポリアクリレート
、エポキシ、ポリカーボネート、ポリオレフィン、エチルビニルアセテート、シリコン、
炭水化物、タンパク質、核酸及び脂質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
以上の説明から、第2の実施形態が明らかとなる。
【0051】
第3の態様では、本発明は、第2の態様の光子増倍フィルムを含む光電子デバイスを提
供する。
【0052】
光子増倍フィルムは、太陽電池、光検出器、発光ダイオード、電界効果トランジスタ、
ディスプレイ、センサ、又は生体撮像デバイスなどの光電子素子と光通信してもよい。
【0053】
以上の説明から、第3の実施形態が明らかとなる。
【0054】
第4の態様では、本発明は、一重項開裂可能な有機半導体分子が結合している発光材料
を含む材料であって、前記有機半導体分子が結合基によって前記発光材料に化学的に結合
しており、結合している前記有機半導体分子の一重項開裂によって形成される励起子三重
項状態が前記発光材料にエネルギー移動するように、前記結合基及び前記発光材料のバン
ドギャップが選択されている材料を、光子増倍材料として使用することを提供する。
【0055】
以上の説明から、第4の実施形態が明らかとなる。
【0056】
第5の態様では、本発明は、一重項開裂可能な有機半導体分子が結合している発光材料
を含む材料から成るフィルムであって、前記有機半導体分子が結合基により前記発光材料
に化学的に結合しており、結合している前記有機半導体分子の一重項開裂によって形成さ
れる励起子三重項状態が前記発光材料にエネルギー移動するように、前記結合基及び前記
発光材料のバンドギャップが選択されているフィルムを、光子増倍フィルムとして使用す
ることを提供する。
【0057】
以上の説明から、第5の実施形態が明らかとなる。
【0058】
第6の態様において、本発明は、一重項開裂可能な有機半導体分子が結合された発光材
料を含む材料を提供することを含み、前記有機半導体分子が結合基によって前記発光材料
に化学的に結合され、結合された前記有機半導体分子の一重項開裂によって形成された励
起子三重項状態が前記発光材料にエネルギー移動され得るように、前記結合基及び前記発
光材料のバンドギャップが選択される方法であって、該方法は、一重項開裂及び前記移動
を励起する波長の光で当該材料を照射することを含む、光子増倍方法を提供する。
【0059】
以上の説明から、第6の実施形態が明らかとなる。発光材料に伝達された励起子三重項
状態は、発光材料の発光を生じる。発光の波長は、300nm~600nmの範囲であっ
てもよい。上述したように、この材料はフィルム(例えば、光電子デバイス内)を備えて
いてもよい。
【0060】
以下、本発明を、以下の実施例及び添付図面を参照して、実施例のみを用いて詳細に説
明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】本発明の光子増倍材料の一実施形態による光子増倍を示すスキームである。
図2】(a)~(c)は、本発明の光子増倍材料の実施形態の概略図である。
図3】(a)図1の実施形態のナノ結晶及びオレイン酸由来の配位子のみを含む量子ドットの写真、及び(b)それぞれのサイズ分布を示すグラフである。
図4】(a)オレイン酸由来の配位子のみを含む量子ドットの光吸収スペクトル及び光発光スペクトルと比較した、図1の実施形態の光吸収スペクトル及び光発光スペクトル、及び(b)図1の実施形態の光吸収スペクトル及び励起スペクトルを示すグラフである。
図5】(a)532nm及び785nmの波長の光による照射に関する図1の実施形態の光発光スペクトル及び光発光量子効率値、及び(b)530nm及び650nmでの励起に関する図1の実施形態の過渡光発光を示すグラフである。
図6】(i)波長532nm(o)の光及び波長785nm(x)の光、及び(ii)波長520nm(o)の光及び波長658nm(x)の光、による照射に関する、図1の実施形態の光発光量子効率値の比較を示すグラフであって、短い(青緑色)波長の光は、配位子及び量子ドットの両方を励起し、長い(赤色)波長の光は、量子ドットのみを励起する。
図7図1の実施形態の過渡吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明の一実施形態によると、図1において、全体的に10で示される光子増倍材料は
、硫化鉛(PbS)コア構造(11)を有する発光量子ドットと、6、11ビス-((トリイソ
プロピルシリル)エチニル)-テトラセン-2-カルボン酸(以下「TIPS-Tet-CA」という。
)から誘導される配位子を含むコーティング(12)が付着された外面と、を含む。
【0063】
したがって、光子増倍材料は、一重項開裂可能な有機半導体分子がカルボキシル(-CO2
-)結合基によって化学的に結合された発光材料を含む。
【0064】
化学的結合は、カルボン酸と発光材料の表面との共有結合によるものであってもよい。
【0065】
選択された波長の光における材料への照射は、一重項開裂によってより低いエネルギー
の2つの三重項状態T1に減衰する。コーティング(12)のテトラセン部分における励起
子の一重項状態S1を励起する。
【0066】
隣接する半導体部分上にある三重項状態T1は、連続的にコア構造(11)にエネルギー
が伝達され、その結果、コア構造(11)は、直接励起された場合よりも最大で2倍の光
発光量子効率で発光する。
【0067】
TIPS-Tet部分からコア構造(11)への1つだけの三重項状態T1ではなく、両方の三重
項状態T1の注入は、第1の三重項状態の注入に続いて、第2の三重項状態がTIPS-Tet部分
上に数マイクロ秒にわたって維持されなければならず、一方、第1の三重項状態はコア構
造内で再結合して光子を生成する点において、驚くべきことである。第2の三重項状態の
注入の遅延は、クエンチングによる第2の三重項の著しい非放射再結合又は減衰をもたら
すと予想される。
【0068】
ここで図2において、本発明の別の実施形態では、コアシェル構造上のそれらの相対的
配置が異なる。
【0069】
図1にも示される一実施形態(a)では、結合基(ここでは●と表示されている)は、
コア構造(11)に十分近接した1つの有機半導体部分(OSC)の結合を可能にする。
【0070】
別の実施形態(b)では、結合基は、コア構造及び相互に十分近接して2つの有機半導
体部分の結合を可能にする。
【0071】
さらなる実施形態(c)では、有機半導体分子は、より近い有機半導体部分がコア構造
(11)に十分に近く、さらなる有機半導体部分がその中に形成された三重項状態のエネ
ルギー移動のために、コア構造(11)に近い有機半導体部分に十分に近くなるように、
さらなる結合基(●とも表記される)によって連結された2つの有機半導体部分(OSC)
を含む。
【0072】
なお、有機半導体分子(OSC)は同一であってもよく、結合基とさらなる結合基は同一
であっても異なっていてもよい。
【実施例0073】
光子増倍量子ドット
不動態化量子ドットの調製
Hines, M.A. and Scholes, G.D., Advanced Materials, 2003, 15(21), 1844-1849の文
献に記載の修正方法に従って、不動態化硫化鉛量子ドットを合成した。
【0074】
酸化鉛(PbO、0.62g、2.8mmol)、オレイン酸(8ml、22.4mmo
l、7.2g)、及びオクタデセン(25.0ml、76.3mmol、19.5g) を
三口反応フラスコ中で一緒に撹拌し、減圧下(10-2mbar以上) 、110℃で脱気
した。
【0075】
2時間後、反応フラスコを窒素でフラッシュし、溶液を115℃に加熱した。オクタデ
セン(C18H36、13.9ml、42.4mmol、10.8g)中のビス(トリメチルシ
リル)硫化溶液(TMS、(Me3 Si) 2S、286μl、1.4mmol)をフラスコに迅速に
加え、反応フラスコを氷水浴に置くことによって反応を直ちにクエンチした。
【0076】
オレイン酸(OA)からの炭化水素配位子により不動態化された硫化鉛(PbS)量子ドッ
トを、溶媒としてのヘキサンと反溶媒としての1‐ブタノール/エタノール/アセトンの混
合物でもって混濁するまで凝集することにより反応混合物から単離した。
【0077】
精製後、不動態化(PbS-OA)量子ドットを洗浄し、約10mg~100mg/mlの濃
度でオクタン又はトルエン中に再分散させた。分散液をアルゴン又は窒素雰囲気下、標準
温度及び標準圧力で保存した。
【0078】
不動態化量子ドットの(エネルギー)バンドギャップは、反応混合物中のオレイン酸(
OA)濃度を調節することによって、又は反応温度を調節することによって調節することが
できることに留意されたい。
【0079】
光子増倍量子ドットの調製
Garakyaraghi, S. et al., Journal of Physical Chemistry Letters, 2017, 8(7), 14
58-1463の手順に従って、新規配位子に6、11ビス-((トリイソプロピルシリル)エチニ
ル)テトラセン-2-カルボン酸(TIPS-Tet-CA)を用いることで、不動態化量子ドット(Pb
S-OA)上で配位子交換反応を行った。
【0080】
トルエン(1ml)中の不動態化量子ドット(20mg)溶液の撹拌溶液に、TIPS-Tet
-CAを(過剰に)添加した。得られた溶液を暗所で16時間撹拌し、アセトンを添加して
、PbS/TIPS-Tet-CA量子ドット(以下、Tet-CA-1量子ドット)を沈殿させた。
【0081】
別の実験において、TIPS-Tet-CAのナトリウム塩を、トルエン及びテトラヒドロフラン
(THF)の混合物中の不動態化量子ドット(20mg)の溶液に添加した。得られた溶液
を暗所で16時間撹拌し、アセトンを添加して、PbS/TIPS-Tet-CA量子ドット(以下、Tet
-CA-2量子ドット)を沈殿させた。
【0082】
PbS/TIPS-Tet-CA量子ドットを、4000rpmで5分間の遠心分離によって収集し、
(上清を除去した後)トルエン(1mL)中に分散させた。
【0083】
これらの量子ドットを、溶液中に遊離TIPS-Tet-CAが検出されなくなるまで、沈殿、分
散及び遠心分離工程を繰り返す(例えば6回以上)ことによって精製した。最後に、PbS/
TIPS-Tet-CA量子ドットをトルエン(1mL)中に分散させ、窒素下-20℃の暗所に貯
蔵した。
【0084】
光子増倍量子ドットの特性
電子顕微鏡下でTet‐CA‐1量子ドットをPbS/OA量子ドットと比較した。アルゴン又は窒
素を充填したグローブボックス内のTEMグリッド(200メッシュCu、Agar Scientific)
上に貯蔵したトルエン溶液を滴下キャスティングしてTEM試料を調製し、200kVで操
作したFEI Tecnai F 20顕微鏡を用いて撮像した。
【0085】
図3(a)は、PbS/OA量子ドット(左手側)及びPbS/TIPS-Tet-CA量子ドット(右手側
)の調製されたフィルムの顕微鏡写真を示す。
【0086】
図3(b)は、PbS/OA量子ドットと比較したTet-CA-1量子ドットのサイズ分布を示す。
【0087】
ナノ結晶サイズ分布をソフトウェアパッケージImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/)
を用いて測定した。簡単に述べると、画像バックグラウンドではなくナノ結晶粒子のみを
含むコントラスト閾値を選択した。閾値を超えるコントラストの領域をカウントする分析
粒子関数を用いて、覆われたナノ結晶を除外した指定最大値に粒子サイズを制限したうえ
で、ナノ結晶の総数とそれらのサイズを測定した。
【0088】
図3から分かるように、Tet-CA-1量子ドットは、PbS/OA量子ドットと構造的に類似して
いる。
【0089】
光子増倍量子ドットの光子増倍
PbS/OA、Tet-CA-1量子ドット、及びTet-CA-2量子ドットのトルエン溶液の光発光を、連
続波レーザによる520nm、532nm、及び785nmの励起波長において積分球中
で調べた。キャリブレートされたAndor iDus DU490A InGaAs検出器を用いて、レーザと発
光信号を測定し、定量化した。
【0090】
次に図4(a)を参照すると、不動態化量子ドットに対する光発光スペクトルは、約1
150nmで強い吸収励起子的特徴を示し、約1275nmで青色及びピーク光発光に延
びる吸収を伴う。
【0091】
Tet-CA-1量子ドットに対する光発光スペクトルは、TIPS-Tet-CA配位子に対応する追加
的な吸収が認められるが、同様の吸収を示した。しかし、de Mello, J., et al, Advance
d Materials 1997, 9(3), 230-232において計算されているように、天然オレイン酸配位
子からTIPS-Tet-CA配位子への配位子交換後の励起波長が785nmのとき、光発光量子
効率は35.2%から8.9%に低下することに留意されたい。
【0092】
次に、図4(b)を参照すると、Tet-CA-1量子ドットに関する1250nmの励起波長
における励起スペクトルは、TIPS-Tet-CA吸収からの明らかな寄与を示す。
【0093】
吸収は対数スケールで示され、発光は主に量子ドットから生じることに留意されたい。
【0094】
次に、図5(a)を参照すると、テトラセン部分及び量子ドット(532nm)の両方
の励起に対するTet-CA-1量子ドットの光発光量子効率は、17.6%であることがわかっ
た。量子ドット単独(785nm)の励起での光発光量子効率は8.9%であることが分
かった。
【0095】
光発光量子効率の増加は、 TIPS-Tet-CA配位子で一重項開裂が起こり、配位子によって
吸収されたものと比較して量子ドットから追加の光子が放出されることを実証した。
【0096】
励起中に量子ドット当たりにおいて1つ以上の光子の吸収の確率を減少させるために、
光発光の影響が低く保たれることに留意されたい。
【0097】
ここで図5(b)を参照すると、Tet-CA-1量子ドットの光発光寿命は、TIPS-Tet-CA配
位子が530nmで励起された場合には1.8μsであるのに比較して、量子ドットが励
起された場合(TIP-Tet-CA配位子の吸収範囲外、すなわち650nm)においては1.4
μsであることが分かった。
【0098】
この増加した光発光寿命は、TIPS-Tet-CA配位子における長寿命三重項励起子の生成、
及び発光をもたらすPbS量子ドットへの移動と一致する。これは、Tabachnyk, M. et al.,
Nature Materials, 2014, 13, 1033~1038にて報告されているPbSe量子ドット/ペンタセ
ン二重層の結果と一致する。
【0099】
次に、図6を参照すると、不動態化量子ドット、Tet-CA-1及びTet-CA-2量子ドットの光
発光量子効率が、異なる励起波長において比較される。
【0100】
不動態化量子ドット(コントロールとして使用され、「オレイン酸」と表記)の光発光
量子効率は、波長658nm(x)の光で照射した場合と比較して、波長520nm(●
)の光で照射した場合と実験誤差程度しか生じず、変化はなかった。
【0101】
Tet-CA-1量子ドットとTet-CA-2量子ドットの両方の場合、TIPS-Tet-CA配位子に吸収さ
れない光(x、Tet-CA-1では785nm、Tet-CA-2では658nm)で照射される場合と
比較して、TIPS-Tet-CA配位子に吸収される波長の光(o;Tet-CA-1は532nm、Tet-C
A-2は520nm)で照射される場合、光発光量子効率の増加が見られる。
【0102】
Tet-CA-2量子ドットでは、光発光量子効率は520nmで9.6%+/-0.5%、
658nmで8%+/-0.5%であった。
【0103】
Tet-CA-1及びTet-CA-2量子ドットの光発光量子効率の差は、励起波長への依存性を反映
していることに留意されたい。
【0104】
また、この図では、532nmレーザの出力における明らかな不安定性が、その波長で
の励起におけるTet-CA-1量子ドットの光発光量子効率における実験誤差(+/-5%、「
バー」を参照)に反映されていることにも留意されたい。対照的に、520nmレーザの
出力ははるかに安定しており、Tet-CA-2量子ドットの光発光量子効率における実験誤差の
可能性は、その波長で励起されたときにはかなり低くなる。
【0105】
ここで図7を参照すると、光励起後のTet-CA-1量子ドットの過渡光吸収スペクトルは、
初期に(1ps)、PbSコア構造からの広い光誘起吸収特徴の上に重ね合わされたTIPS-Te
t-CAの一重項のような特徴を示す。
【0106】
後に(5ナノ秒)、TIPS-Tet-CAの三重項-三重項対状態のスペクトル特徴特性が見られ
、TIPS-Tet-CA上の一重項励起子状態が一重項開裂によって三重項状態の対に効率的に変
換されることが実証された。
【0107】
50ナノ秒において、スペクトル特性はTIPS‐Tet‐CA配位子上の三重項、及びPbSコア
構造上の励起と一致し、三重項‐三重項対状態からの三重項がPbSコア構造に注入された
ことを示した。
【0108】
より長い時間(5マイクロ秒)では、 TIPS-Tet-CAの三重項励起子がまだ見られる。
【0109】
これらの実験結果は、化学的に結合した有機半導体分子が励起されると、励起が一重項
開裂を起こし、その結果生じる三重項励起子が量子ドットに移動することを示している。
【0110】
観測された光発光量子効率の増加をもたらす移動が、過渡光発光と過渡吸収研究により
確認された。
【0111】
したがって、本発明は、300nm~600nmの間の光の波長で励起することができ
る光子増倍材料を提供することができ、また、その光子増倍材料は以下の利点を有する。
一重項開裂分子と量子ドットの密接な接触。そして、
量子ドットへの三重項の非常に効率的な注入を行うこと(光発光量子効率の増加によっ
て証明されるように)。
効率的な開裂を保証するために、一重項開裂分子の特定の配置の必要性を取り除くこと
。また、配位子は量子ドットの表面上で柔軟であるため、開裂のために探索される複数の
配置を可能にすることが可能である。
有機-無機界面アセンブリを設計する必要がなくなるため、フィルムの処理がはるかに
容易になる。有機-無機界面アセンブリは、フィルムの加工前に、非常に良好に制御して
構築することができる。及び
フィルムに使用する量子ドットの最小数を決定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【外国語明細書】