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  • 特開-扁平電線 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098834
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】扁平電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/08 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
H01B7/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002582
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】白井 瑞木
(72)【発明者】
【氏名】南雲 哲也
【テーマコード(参考)】
5G311
【Fターム(参考)】
5G311CA05
5G311CB01
5G311CB02
5G311CC02
(57)【要約】
【課題】形状保持性と柔軟性との両立を図ることができる扁平電線を提供する。
【解決手段】扁平電線1は、並列に配置されて互いに接触状態となる複数本の導体部10と、複数本の導体部10を一括して被覆する絶縁体20とを備え、複数本の導体部10は、第1金属の素線11aが撚られて構成された撚線11と、第1金属よりも塑性変形し易い第2金属によって構成された単線12とを備え、単線12は撚線11の電気抵抗以下となる導体サイズであって、撚線11と単線12とは幅方向に対称となる配置とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に配置されて互いに接触状態となる複数本の導体部と、前記複数本の導体部を一括して被覆する絶縁体と、を備えた扁平電線であって、
前記複数本の導体部は、第1金属の素線が撚られて構成された撚線と、前記第1金属よりも塑性変形し易い第2金属によって構成された単線と、を備える
ことを特徴とする扁平電線。
【請求項2】
前記単線は、前記撚線の電気抵抗以下となる導体サイズとされている
ことを特徴とする請求項1に記載の扁平電線。
【請求項3】
前記撚線と前記単線とは、幅方向に対称となる配置とされている
ことを特徴とする請求項1に記載の扁平電線。
【請求項4】
前記第2金属は、純アルミニウムであり、
前記絶縁体は、ヤング率が35MPa以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の扁平電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体を絶縁体で被覆して全体を扁平形状とした扁平電線が提案されている。このような扁平電線には、導体がバスバーによって構成されたものや(例えば特許文献1参照)、多数本の素線を撚って形成された撚線を複数本並列配置して導体としたものもある(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-53377号公報
【特許文献2】特開2021-157968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような特許文献1に記載の扁平電線については、導体がバスバーによって構成される関係上、形状保持性能に優れるものの柔軟性に劣るものとなってしまう。これに対して、特許文献2に記載の扁平電線については、導体が複数本の撚線によって構成されていることから、柔軟性に優れるものの形状保持性能に劣るものとなる。このため、従来では、形状保持性が求められる箇所において特許文献1に記載の扁平電線を用い、柔軟性が求められる箇所において特許文献2に記載の扁平電線を用いていた。よって、形状保持性と柔軟性とを両立させた扁平電線が望まれている。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、形状保持性と柔軟性との両立を図ることができる扁平電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る扁平電線は、並列に配置されて互いに接触状態となる複数本の導体部と、前記複数本の導体部を一括して被覆する絶縁体と、を備えた扁平電線であって、前記複数本の導体部は、第1金属の素線が撚られて構成された撚線と、前記第1金属よりも塑性変形し易い第2金属によって構成された単線と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、形状保持性と柔軟性との両立を図ることができる扁平電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る扁平電線を示す断面図である。
図2】純銅と純アルミニウムとに対する応力と歪みとの相関を示す応力歪み線図である。
図3図1に示した単線の導体サイズを示す図表である。
図4】実施例及び比較例を示す図表である。
図5】形状保持試験の様子を示す工程図であり、(a)は第1工程であり、(b)は第2工程であり、(c)は第3工程である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る扁平電線を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る扁平電線1は、複数本の導体部10と、絶縁体20とを備えて構成されている。
【0011】
複数本の導体部10は、電力や信号等を伝送するための長尺な導電性の線条体であって、並列配置されて互いに接触状態となる撚線11及び単線12を備えている。本実施形態において複数本の導体部10は4本の撚線11と1本の単線12とによって構成されている。撚線11は、第1金属(例えば純銅)により構成された多数本の素線11aが撚られて形成されている。単線12は、第1金属より塑性変形し易い第2金属(例えば純アルミニウム)によって構成されたものである。
【0012】
図2は、純銅と純アルミニウムとに対する応力と歪みとの相関を示す応力歪み線図である。図2に示すように純銅は、応力歪み線図において歪みα1までは、所定の勾配α2を有し、歪みα1を超えると勾配α3を有した特性となっている。ここで、0.2%耐力により降伏点を求めると(すなわち歪み0.2%から勾配α2の直線を引き純銅特性との交点を求めると)、降伏点は歪みα4となる。よって、純銅は歪みα4以下が弾性変形可能であり、歪みα4を超えると塑性変形するといえる。
【0013】
また、図2に示す純アルミニウムは、応力歪み線図において歪みβ1までは、所定の勾配β2を有し、歪みβ1を超えると勾配β3を有した特性となっている。ここで、0.2%耐力により降伏点を求めると(すなわち歪み0.2%から勾配β2の直線を引き純アルミニウム特性との交点を求めると)、降伏点は歪みβ4となる。よって、純アルミニウムは歪みβ4以下が弾性変形可能であり、歪みβ4を超えると塑性変形するといえる。特に、歪みβ4は歪みα4よりも小さく、純アルミニウムは純銅よりも塑性変形し易い。このように、単線12に用いる第2金属は、撚線11を構成する第1金属よりも塑性変形し易いものとされる。
【0014】
なお、本実施形態において第1金属は例えば純銅であり第2金属は純アルミニウムであるが、特にこれらの金属に限られるものではない。
【0015】
再度図1を参照する。図1に示す単線12は、撚線11の電気抵抗以下となる導体サイズとされていることが好ましい。図3は、図1に示した単線12の導体サイズを示す図表である。第1金属を純銅とし第2金属を純アルミニウムとした場合、単線12の断面積及び導体外径は撚線11に対して図3に示す関係となる。
【0016】
具体的に説明すると、撚線11の断面積が1sqである場合において単線12の断面積は1.6sq以上とされる。同様に、撚線11の断面積が2sq、3sq、5sq、8sq、9sq、10sq、12sq、及び15sqである場合、単線12の断面積は、順に3.3sq、4.9sq、8.1sq、13.0sq、14.7sq、16.3sq、19.5sq、及び24.4sq以上とされる。また、撚線11の外径が1.2mmである場合において単線12の外径は1.4mm以上とされる。同様に、撚線11の外径が1.9mm、2.2mm、3.1mm、4.0mm、4.2mm、4.5mm、5.0mm、及び5.3mmである場合、単線12の外径は、順に2.0mm、2.5mm、3.2mm、4.1mm、4.3mm、4.6mm、5.0mm及び5.6mm以上とされる。
【0017】
このように、単線12の導体サイズについて、撚線11の電気抵抗以下となるようにすることで、複数本の導体部10のうち一部が異なる金属であることによる電気抵抗の増加を抑えることができる。
【0018】
再度図1を参照する。図1に示す複数本の導体部10において撚線11と単線12とは、幅方向に対称となる配置とされている。本実施形態において導体部10は4本の撚線11と1本の単線12とによって構成されていることから、単線12は5本の導体部10の中央に設けられることとなる。なお、複数本の導体部10は幅方向に対称となる配置であれば、特に単線12が中央に設けられる構成に限られない。例えば導体部10が4本の撚線11と、4本の撚線11の両端に設けられる2本の単線12とによって構成される等であってもよい。
【0019】
絶縁体20は、複数本の導体部10を一括して被覆するものである。この絶縁体20は、ヤング率が35MPa以下の樹脂(例えば軟質PVC)によって構成されている。ヤング率が35MPa以下の樹脂を絶縁体20として用いることで形状保持性を確保し易くできるためである。より詳細には例えば第1金属が純銅且つ第2金属が純アルミニウムであって、複数本の導体部10が4本の撚線11と中央に配置される1本の単線12とで構成される場合に、R30の90°曲げにおいて形状を保持することができるからである。
【0020】
次に、実施例及び比較例を説明する。図4は、実施例及び比較例を示す図表である。
【0021】
図4に示す比較例において複数本の導体部は5本の純銅による撚線によって構成した。撚線の降伏応力は155MPaであり、ヤング率は13GPaであった。また、絶縁体については降伏応力を0.8MPaとし、ヤング率を33MPaとした。
【0022】
また、実施例において複数本の導体部は4本の純銅による撚線と中央に配置される1本の純アルミニウムによる単線とによって構成した。撚線の特性は比較例と同じである。単線の降伏応力は30MPaであり、ヤング率は68GPaであった。絶縁体については比較例と同じである。
【0023】
図5は、形状保持試験の様子を示す工程図であり、(a)は第1工程であり、(b)は第2工程であり、(c)は第3工程である。図5に示す試験装置Tは、第1治具T1と、第2治具T2とを備えている。第1治具T1は、断面形状が上方を開放側とする凹形状とされると共に側面視してR30の90°曲げを行うための湾曲形状とされている。第1治具T1は、側面視して、その両端が扁平電線の載置部Pとなっている。また、第1治具T1は、第1部材T11と第2部材T12とを備え、湾曲中央部で分割された構造となっている。第2治具T2は、実施例及び比較例に示した扁平電線を屈曲させるための剛性を有すると共に側面視してR30の90°曲げを行うための湾曲形状とされている。この第2治具T2は、第1治具T1の上方に設けられ、上下移動する構成となっている。
【0024】
まず、形状保持試験においては、図5(a)に示すように、第1工程が実施される。この第1工程において、実施例及び比較例に係る扁平電線が第1治具T1の載置部Pに直線状に載置される。次いで、図5(b)に示すように、第2工程において、第2治具T2が下方に移動させられる。これにより、載置部Pに載置された扁平電線が屈曲させられる。その後、図5(c)に示すように、第2治具T2が更に下方移動させられ、扁平電線がR30で90°の屈曲状態とされる。その後、第2治具T2が上方移動させられると共に、扁平電線が取り出される。
【0025】
このような試験の結果、実施例に係る扁平電線はR30の90°屈曲状態を保持したが、比較例に係る扁平電線は90°屈曲状態を維持できなかった。
【0026】
よって、撚線11と単線12とを備える複数本の導体部10を有した扁平電線1は形状保持性能が撚線11のみの扁平電線よりも優れていることが確認された。また、4本の純銅よりなる撚線11と中央に配置された純アルミニウムによりなる単線12とを備え、ヤング率33MPaとすれば形状が保持されることもわかった。
【0027】
このようにして、本実施形態に係る扁平電線1によれば、複数本の導体部10が第1金属の素線が撚られて構成された撚線11を有しているため、柔軟性を確保し易くすることができる。さらに、複数本の導体部10が、第1金属よりも塑性変形し易い第2金属によって構成された単線12を備えている。このため、例えば曲げ箇所に用いられて扁平電線1が曲げられたときに単線12が塑性変形し易く曲げ形状を保持し易くなる。従って、形状保持性と柔軟性との両立を図ることができる扁平電線1を提供することができる。
【0028】
また、単線12は撚線11の電気抵抗以下となる導体サイズとされているため、撚線11の中に単線12が存在することによる電気抵抗の上昇を抑えることができる。
【0029】
また、撚線11と単線12とは幅方向に対称となる配置とされている。このため、例えば撚線11が幅方向の一方に配置され、単線12が幅方向の他方に配置される場合、幅方向の一方のみに配置される撚線11が曲げに対して戻ろうとする力を発揮して歪みの原因となってしまうが、対称配置とすることで歪みの発生を抑えることができる。
【0030】
また、第2金属が純アルミニウムである場合において、絶縁体20はヤング率が35MPa以下であるため、絶縁体20の応力が純アルミニウムによる形状保持性能を上回ることを防止して、形状保持を行うことができる。
【0031】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能であれば公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0032】
例えば、本実施形態においては、複数本の導体部10は5本によって構成されているが、特にこれに限らず、2本以上4本以下であってもよいし、6本以上であってもよい。また、撚線11は4本に限らず、1本以上3本以下であってもよいし、5本以上であってもよい。同様に単線12は1本に限らず、2本以上であってもよい。また、図1に示す例において素線11aは7本であるが、これに限らず、2本以上6本以下であってもよいし、8本以上であってもよい。
【0033】
さらに、上記実施形態において複数本の導体部10は5本が一列に並んで一層構造とされているが、特にこれに限らず、2層以上に積層されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 :扁平電線
10 :複数本の導体部
11 :撚線
11a :素線
12 :単線
20 :絶縁体
図1
図2
図3
図4
図5