(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098867
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】マグネシアカーボンれんがの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/043 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
C04B35/043
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002644
(22)【出願日】2023-01-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩濱 満晴
(57)【要約】
【課題】、黒鉛の含有率が少なくても耐スポーリング性に優れ、しかも耐食性にも優れるマグネシアカーボンれんがを提供する。
【解決手段】マグネシアを85質量%以上含有しかつ黒鉛の含有率が12質量%以下(0を含む)である耐火原料配合物に、バインダーとして、ピッチ、ピッチを溶剤で希釈した希釈ピッチ、タール又はタールを溶剤で希釈した希釈タールであるピッチ・タール類を添加し、温間で混練後、温間で成形するマグネシアカーボンれんがの製造方法において、耐火原料配合物中のマグネシアの粒度構成を、粒径0.075mm以上1mm未満のマグネシアに対する粒径1mm以上のマグネシアの質量比が0.2以上1.5以下、及び粒径0.075mm未満のマグネシアに対する粒径1mm以上のマグネシアの質量比が3.0以上となるようにする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシアを85質量%以上含有しかつ黒鉛の含有率が12質量%以下(0を含む)である耐火原料配合物に、バインダーとして、ピッチ、ピッチを溶剤で希釈した希釈ピッチ、タール又はタールを溶剤で希釈した希釈タールであるピッチ・タール類を添加し、温間で混練後、温間で成形するマグネシアカーボンれんがの製造方法であって、
耐火原料配合物中のマグネシアの粒度構成が、粒径0.075mm以上1mm未満のマグネシアに対する粒径1mm以上のマグネシアの質量比が0.2以上1.5以下、及び粒径0.075mm未満のマグネシアに対する粒径1mm以上のマグネシアの質量比が3.0以上である、マグネシアカーボンれんがの製造方法。
【請求項2】
ピッチ・タール類の添加率が、耐火原料配合物100質量%に対して1質量%以上6質量%以下である、請求項1に記載のマグネシアカーボンれんがの製造方法。
【請求項3】
ピッチの軟化点が80℃以上250℃以下である、請求項1又は請求項2に記載のマグネシアカーボンれんがの製造方法。
【請求項4】
黒鉛の含有率が8質量%以下(0を含む)である、請求項1又は請求項2に記載のマグネシアカーボンれんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属容器、特に転炉、電気炉、取鍋、及び二次精錬炉などで使用されるマグネシアカーボンれんがの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシアカーボンれんがは、耐食性及び耐スポーリング性に優れており溶融金属容器に汎用されているが、カーボン源として鱗状黒鉛を多く含有しているため、熱伝導率が高く溶融金属の放散熱による熱損失の問題や、カーボンピックアップ、さらには酸化によるCO2の排出量が多くなる問題もある。そのため、近年は黒鉛を含有しないあるいは含有率が非常に少ないマグネシアカーボンれんがが開発されている(特許文献1、特許文献2)。これらは、二次精製錬炉などで良好な実績が出ているが、マグネシアカーボンれんがの需要が多い転炉や電気炉では耐スポーリング性の問題から未だ黒鉛含有率が15質量%前後のものが主流である。その理由は、転炉や電気炉は二次精錬炉と比較すると使用回数が圧倒的に多いため、スポーリングに起因するれんがの割れによる剥離や脱落等の発生が転炉や電気炉の寿命に大きな影響を及ぼすため、れんがの耐スポーリング性に対する要求レベルが非常に高いからである。
また、転炉や電気炉用のマグネシアカーボンれんがは上述のように鱗状黒鉛を15質量%前後含有しているため、鱗状黒鉛がスラグ中の酸化鉄との反応により消失し、それにより形成された気孔にスラグ成分が浸潤し耐火物骨材の溶解が加速されることが、れんがの損耗の要因となっていると考えられる。
【0003】
一方、マグネシアカーボンれんがの製造方法に関し、日本国内においてはバインダーとして以前はピッチやタールが使用されていた時期もあったが、近年は特許文献1及び特許文献2の実施例でも使用されているようにフェノール樹脂が一般的に使用されている。ピッチは室温で固形物であり、タールも室温では粘調な液体であるため成形に適した粘性となる温度まで材料を加熱して混練及び成形するため手間を要するが、フェノール樹脂は溶媒で溶解することによって、耐火物骨材との濡れがよくかつ粘着性も有することから常温でも混練及び成形することが可能であるためである。しかし、バインダーとしてフェノール樹脂を使用した場合、上述の通り耐スポーリング性が十分とはいえない。
【0004】
他方、バインダーとしてピッチを使用した例として特許文献3には、光学的異方性を有するバルク状メソフェーズピッチを60%以上含有する炭化収率70%以上のメソフェーズピッチ粉末0.5~15重量%をメソフェーズピッチ粉末が軟化する温度域で混練後、成形し適宜焼成する方法が開示されている。そして表2の実施例では黒鉛を17質量%含有するマグネシアカーボンれんがが開示されている。しかし、このマグネシアカーボンれんがは、黒鉛含有率が多いため上述の問題がある。
また特許文献4には、バインダーとしてコールタールピッチをアントラセン油に溶解したバインダーを使用し、加熱することなく混練して黒鉛含有率が10質量%程度のマグネシアカーボンれんがを製造することが開示されている。しかし、このマグネシアカーボンれんがでは、耐食性が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-70406号公報
【特許文献2】特開2020-100511号公報
【特許文献3】特開平5-270889号公報
【特許文献4】特許第5536299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、黒鉛の含有率が少なくても耐スポーリング性に優れ、しかも耐食性にも優れるマグネシアカーボンれんがを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マグネシアを主体とする耐火原料配合物に、バインダーとしてピッチ・タール類を添加し温間で混練及び成形を行うマグネシアカーボンれんがの製造方法において、耐火原料配合物中のマグネシアの粒度構成を種々検討することで、黒鉛を減量しても耐スポーリング性の低下を抑制することができ、しかも耐食性に優れるマグネシアカーボンれんがの製造方法を見出した。
【0008】
すなわち、本発明の一観点によれば、次のマグネシアカーボンれんがの製造方法が提供される。
マグネシアを85質量%以上含有しかつ黒鉛の含有率が12質量%以下(0を含む)である耐火原料配合物に、バインダーとして、ピッチ、ピッチを溶剤で希釈した希釈ピッチ、タール又はタールを溶剤で希釈した希釈タールであるピッチ・タール類を添加し、温間で混練後、温間で成形するマグネシアカーボンれんがの製造方法であって、
耐火原料配合物中のマグネシアの粒度構成が、粒径0.075mm以上1mm未満のマグネシアに対する粒径1mm以上のマグネシアの質量比が0.2以上1.5以下、及び粒径0.075mm未満のマグネシアに対する粒径1mm以上のマグネシアの質量比が3.0以上である、マグネシアカーボンれんがの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によって、黒鉛が少なくしかも耐スポーリング性及び耐食性に優れるマグネシアカーボンれんが得られるため、従来よりも転炉や電気炉の寿命を延ばすことができる。また、溶融金属の放散熱による熱損失、カーボンピックアップ、さらには酸化によるCO2の排出量などを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、上述の通り耐火原料配合物中のマグネシアの粒度構成を特定したことを技術的特徴の一つとしている。
具体的に本発明では、粒径0.075mm以上1mm未満のマグネシア(以下「中間粒のマグネシア」という。)に対する粒径1mm以上のマグネシア(以下「粗粒のマグネシア」という。)の質量比(「粗粒のマグネシア/中間粒のマグネシア」であり、以下「質量比A」という。)を0.2以上1.5以下とする。この質量比Aが0.2未満の場合、粒径1mm以上という粗粒のマグネシアが少なくなるため、実機稼働時に膨張収縮で形成される粒子周囲の気孔の形成が不十分で応力吸収能が得られないことから、結果として耐スポーリング性が低下してしまう。一方、質量比Aが1.5を超える場合には、損傷形態として粗粒のマグネシアの脱落溶損が助長されてしまうため、結果として耐食性が不十分となる。
【0011】
さらに本発明では、粒径0.075mm未満のマグネシア(以下「微粉のマグネシア」という。)に対する粗粒のマグネシアの質量比(「粗粒のマグネシア/微粉のマグネシア」であり、以下「質量比B」という。)を3.0以上とする。すなわち、微粉のマグネシアが多いと成形時の粒子同士の接触頻度が上昇し摩擦抵抗が増えるため成形性の低下要因となり緻密な成形体が得られ難くなる。また、微粒のマグネシアは、比表面積が大きくスラグへの溶解性が高いため耐食性が不足する要因となる。さらに、実機で熱負荷を受けると粒子同士の焼結が進行し適量であれば強度向上に寄与するが、多すぎると耐スポーリング性を低下させる要因となる。以上から本発明では質量比Bを3.0以上とする。なお、耐スポーリング性を優先する使用条件等では、微粒のマグネシアの含有率を0とすることもできる。この場合、質量比Bは無限大となる。すなわち、本発明において質量比Bの上限値は限定されない。また、本発明において粒径1mm以上という粗粒のマグネシアの粒径の上限値は特に限定されないが、技術常識からすると粗粒のマグネシアの粒径の上限値は8mm程度である。すなわち、本発明において粗粒のマグネシアの粒径は、典型的には粒径1mm以上8mm未満である。
【0012】
このように本発明では、質量比Aを0.2以上1.5以下とするとともに質量比Bを3.0以上とする。質量比A及び質量比Bをこのような範囲とすることで、例えば中間粒のマグネシアが増加した場合には微粒のマグネシアが減少することになり、結果として粒径1mm未満のマグネシア(中間粒と微粉のマグネシア)が過剰になることによる成形性の低下を防止することができる。
【0013】
ここで、本発明でいう粒径とは、耐火原料粒子を篩いで篩って分離したときの篩い目の大きさのことであり、例えば粒径0.075mm未満のマグネシアとは、篩い目が0.075mmの篩いを通過するマグネシアのことで、粒径0.075mm以上のマグネシアとは、篩い目が0.075mmの篩い目を通過しないマグネシアのことである。
【0014】
本発明で使用するマグネシアは、耐火物の原料として一般的に使用されているマグネシアであれば問題なく使用でき、例えば電融マグネシアや焼結マグネシアなどである。
黒鉛は耐スポーリング性を向上する効果を奏するが、適用される溶融金属容器の操業条件によって使用しないかあるいは12質量%以下で使用することができる。12質量%を超えると黒鉛がスラグ中の酸化鉄との反応により消失し、それにより形成された気孔にスラグ成分が浸潤し耐火物骨材の溶解が加速されることで耐食性の低下が顕著になる。さらに放散熱による熱損失や、カーボンピックアップ、さらには酸化によるCO2の排出量が多くなる。黒鉛の使用量、すなわち耐火原料配合物中の含有率は8質量%以下(0を含む)とすることが好ましい。黒鉛としては、鱗状黒鉛、合成黒鉛、コークス、膨張黒鉛等のうち1種以上を使用することができる。
また、マグネシア及び黒鉛以外の耐火原料としては、アルミニウム、金属シリコン等の金属粉、炭化ほう素、炭化けい素、スピネル、粉末ピッチ、繊維、及びカーボンブラック等のうち1種以上を合量で5質量%未満の含有率で使用することができる。
【0015】
本発明では使用する黒鉛量を減らす目的でバインダーとしてピッチ・タール類を使用する。ここで、本発明でいうピッチ・タール類とは、ピッチ、ピッチを溶剤で希釈した希釈ピッチ、タール又はタールを溶剤で希釈した希釈タールのことであり、言い換えると、ピッチ、ピッチを溶剤で希釈した希釈ピッチ、タール及びタールを溶剤で希釈した希釈タールの総称である。ピッチ・タール類は、フェノール樹脂と比較して液相を介して炭化することから黒鉛化しやすい性質(易黒鉛化性)を有する。よって、生成する炭化物の物性がフェノール樹脂と比較して高熱伝導率、低熱膨張率、低弾性率である。これによって、ピッチ・タール類をバインダーとした耐火物はフェノール樹脂をバインダーとした場合と比較して、耐火原料配合物中の黒鉛含有率が少なくても非常に高い耐スポーリング性を得ることができる。
【0016】
本発明においてピッチとしては、軟化点が60℃以上350℃以下のものを好適に使用することができ、より好適には軟化点が80℃以上250℃以下のものを使用することができる。軟化点が低すぎる場合には、成形後のれんがの保管中に保管場所の温度が高くなる場合にはれんがが変形するおそれがある。また、軟化点が高すぎると成形時に坏土の温度低下が大きくなり坏土が固くなりすぎて緻密な成形体が得られ難くなり、成形枠などの加熱にかかるコストもアップする。タールに関しては、通常耐火物で使用されているものであれば問題なく使用できる。ただし、常温では高粘性のため加熱して粘性を低下させて使用する。また、溶媒を添加して加熱温度をより低く調整することも可能である。
また、ピッチ・タール類のうちピッチ又はタールを溶剤で希釈した希釈ピッチ又は希釈タールにおいて、溶剤としては、例えば、アントラセン、キシレン、トルエン、メチルナフタリン、テトラハイドロフラン(THF)、2-メチル-1-ピロリン、フルオレン、フルフラール等を使用することができる。これらの溶剤は多すぎると、れんがの気孔率が高くなり耐食性が低下するおそれがあるため、ピッチ又はタールと溶剤との混合比は、質量比(ピッチ又はタール/溶剤)で1.5以上とすることが好ましく、溶剤は使用しないことがより好ましい。すなわち、ピッチ・タール類としては、ピッチ又はタールを溶剤で希釈した希釈ピッチ又は希釈タールではなく、ピッチ又はタールを使用することがより好ましい。
【0017】
本発明では耐火原料配合物にピッチ・タール類を添加して混練するが、この混練はピッチ・タール類の粘性を低下させてピッチ・タール類の添加率が過大にならないように温間で行う。その添加率の目安としては耐火原料配合物100質量%に対して、例えば1質量%以上8質量%以下であり、この程度の範囲の添加率での加圧成形で緻密な組織が形成されるような温度範囲で混練する。具体的には、ピッチ・タール類がピッチ又は希釈ピッチの場合には、混練中の坏土の温度がピッチの軟化点近傍かそれ以上の温度(あるいは、少なくともピッチの軟化点(℃)より20%低い温度以上)で混練する。温度が低すぎるとピッチ又は希釈ピッチの粘性が高くなり成形に適した坏土にするために過剰な量のピッチ又は希釈ピッチを必要とし緻密なれんがが得られず耐食性が低下する。なお、ピッチの軟化点を超える温度で混練することに特に問題はないが、ピッチの軟化点よりも高くなりすぎるとエネルギーの無駄となる。そのため、本発明において混練は、ピッチ・タール類がピッチ又は希釈ピッチの場合にはピッチの軟化点(℃)より60%高い温度以下で行う。言い換えると、本発明でいう温間とは、ピッチ・タール類がピッチ又は希釈ピッチの場合には概ね上述の温度範囲のことをいう。一方、ピッチ・タール類がタール又は希釈タールの場合には、概ね40℃以上150℃以下の温度範囲を温間という。ただし、これらの温度範囲は厳格なものではなくそのため「概ね」としており、「概ね」の範囲は技術常識による。
成形も混練と同様に温間で行う。混練直後あるいは坏土を保温していれば、成形機の金枠などを加熱することなく成形することができるが、金枠を加温してもよい。
【0018】
このように、本発明では温間で混練及び成形を行うため、ピッチ・タール類、すなわちピッチ、タールあるいは溶剤の添加量を少なくできるため、緻密な組織となりより耐食性に優れた耐火物が得られる。
ピッチ・タール類の具体的な添加率については、混練及び成形に適した坏土となるように適宜調整するが、その添加率の目安としては上述の通り、耐火原料配合物100質量%に対して、例えば1質量%以上8質量%以下の範囲とすることができ、1質量%以上6質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0019】
成形後は、例えば200℃以上800℃以下の温度で熱処理を行うことができる。ただしピッチを使用した系では成形後、成形体が常温になるとピッチが固化するため、れんがをハンドリングするための強度は十分あるので成形後熱処理せずに製品とすることもできる。
【実施例0020】
表1に、本発明の実施例及び比較例における耐火原料配合物の組成、及び得られたれんがの評価結果を示す。
【0021】
【0022】
使用した耐火原料としてマグネシアはMgO純度が98質量%の電融マグネシアを、鱗状黒鉛は固定炭素量が95質量%のものを使用した。なお、粗粒のマグネシアの粒度は粒径1mm以上5mm未満とした。バインダーとして使用するピッチ・タール類としては、ピッチ・タール類Aは軟化点が120℃で固定炭素量が50質量%のピッチを、ピッチ・タール類Bは軟化点が270℃で固定炭素量が54質量%のピッチを、ピッチ・タール類Cは軟化点が80℃で固定炭素量が49質量%のピッチを、ピッチ・タール類Dは、ピッチ・タール類Bのピッチと溶剤(アントラセン)とを質量比(ピッチ/溶剤)=4で混合した希釈ピッチを使用した。ピッチ・タール類Eは、タールとしてコールタールを、ピッチ・タール類Fはピッチ・タール類Eのタールと溶材(アントラセン)とを質量比(タール/溶剤)=4で混合した希釈タールを使用した。
【0023】
ピッチ・タール類Aを使用した実施例及び比較例は坏土の温度が130℃になるように加熱混練し、混練直後に坏土の温度が130℃で成形した。ピッチ・タール類Bを使用した実施例は坏土の温度が270℃になるように加熱混練し、混練直後に坏土の温度が270℃で成形した。ピッチ・タール類Cを使用した実施例は坏土の温度が90℃になるように加熱混練し、混練直後に坏土の温度が90℃で成形した。ピッチ・タール類Dを使用した実施例は坏土の温度が220℃になるように加熱混練し、混練直後に坏土の温度が220℃で成形した。ピッチ・タール類Eを使用した実施例は坏土の温度が80℃になるように加熱混練し、混練直後に坏土の温度が80℃で成形した。ピッチ・タール類Fを使用した実施例は坏土の温度が80℃になるように加熱混練し、混練直後に坏土の温度が80℃で成形した。
一方、バインダーとしてフェノール樹脂を使用した比較例8は常温で混練及び成形を行った。ここで、バインダーとしてのピッチ・タール類あるいはフェノール樹脂の添加率は表1に示した通りで、耐火原料配合物100質量%に対するいわゆる「外掛け」の添加率である。
なお、表1に示す実施例及び比較例においては成形機の加熱は行わず成形機は室温の雰囲気下で成形した。成形は230mm×114mm×100mmの形状に加圧成形した。成形後は、実施例20及び実施例22以外の実施例及び比較例の成形体については250℃で5時間熱処理し、実施例20及び実施例22の成形体については300℃で5時間熱処理した。成形体を常温まで十分に冷却した後、これらのれんがから物性測定用試料を切り出して耐食性及び耐スポーリング性を評価し、これらの評価結果に基づいて総合評価を行った。
【0024】
耐食性は、1400℃で5時間還元雰囲気下で焼成した試料を使用し、回転侵食試験にて評価した。回転侵食試験では、水平の回転軸を有する円筒の内面を供試れんが(試料)でライニングし、酸素-プロパンバーナーで加熱し、スラグを投入してれんが表面を侵食させた。試験温度及び時間は1700℃で5時間、スラグ組成はCaO/SiO2=3.4、FeO=20質量%、MgO=3質量%とし、30分毎にスラグの排出、投入を繰り返した。試験終了後、各れんがの最大損耗部のれんがの寸法(mm)を測定して残存寸法とし、表1に記載の「実施例1」の残存寸法を100とする耐食性指数で、損耗の特に少ない(残存寸法が大きい)130以上の場合を◎(優)、損耗が軽微である110以上130未満の場合を〇(良)、100以上110未満の場合を△(可)、損耗が大きい100未満の場合を×(不良)と評価した。
【0025】
耐スポーリング性は、40×40×190mmの試料を1400℃で5時間還元雰囲気下で焼成した試料を使用し、この試料を1600℃に昇温した溶銑中に90秒間浸漬後、30秒間水冷するサイクルを5回繰り返した。試験終了後、試料を切断し断面を観察し亀裂の程度を評価した。具体的には、試験終了後の試料の亀裂が認められないあるいは非常に軽微である場合を◎(優)、中程度の亀裂で使用上十分な耐熱スポーリング性を有すると判断される場合を○(良)、亀裂の程度が大きい、又は試料の剥落により5回繰り返しの試験に耐えらず実機使用には適さないと判断される場合を×(不良)と評価した。
【0026】
総合評価は、以下の3段階で評価した。
◎(優):耐スポーリング性及び耐食性がいずれも◎の場合。
○(良):耐スポーリング性及び耐食性が〇若しくは△の場合、耐スポーリング性及び耐食性の一方が〇で他方が◎の場合、又は耐スポーリング性及び耐食性の一方が△で他方が〇若しくは◎の場合。
×(不良):耐スポーリング性及び耐食性の少なくとも一方が×の場合。
【0027】
実施例1から実施例4は、質量比Aが異なる場合であるが、本発明の範囲内であり耐スポーリング性及び耐食性ともに◎又は〇で良好な結果になっている。これに対して比較例1は質量比Aが本発明の上限値を上回る場合であり耐食性が低下している。また比較例2は、質量比Aが本発明の下限値を下回る場合であり耐スポーリング性が低下している。
【0028】
実施例5から実施例9は、質量比Bが異なる場合であるが、本発明の範囲内であり耐スポーリング性及び耐食性ともに◎又は〇で良好な結果になっている。これに対して比較例3から比較例5は質量比Bが本発明の下限値を下回る場合であり、耐食性及び耐スポーリング性がともに低下している。
【0029】
実施例10から実施例13は、黒鉛の含有率が異なる場合であるが、本発明の範囲内であり耐スポーリング性及び耐食性ともに良好な結果になっている。これに対して比較例6は黒鉛の含有率が本発明の上限値を上回る場合であり、耐食性が低下している。
一方、比較例7はマグネシアの含有率が本発明の下限値を下回っており、実施例14と比較すると耐食性が低下している。
【0030】
実施例15及び実施例16は耐火原料配合物中に金属及び炭化ほう素を含有する場合であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となっている。
実施例17から実施例19はピッチ・タール類Aの添加率が異なる場合であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となっている。実施例20はピッチ・タール類Bを、実施例21はピッチ・タール類Cを、実施例22はピッチ・タール類Dを、実施例23はピッチ・タール類Eを、実施例24はピッチ・タール類Fを使用した場合であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となっている。
これに対して比較例8はバインダーとしてフェノール樹脂を使用した場合であり、耐スポーリング性が低下している。
マグネシアを85質量%以上含有しかつ黒鉛の含有率が12質量%以下(0を含む)である耐火原料配合物に、バインダーとして、ピッチ、ピッチを溶剤で希釈した希釈ピッチ、タール又はタールを溶剤で希釈した希釈タールであるピッチ・タール類を添加し、温間で混練後、温間で成形するマグネシアカーボンれんがの製造方法であって、
耐火原料配合物中のマグネシアの粒度構成が、粒径0.075mm以上1mm未満のマグネシアに対する粒径1mm以上のマグネシアの質量比が0.2以上1.5以下、及び粒径0.075mm未満のマグネシアに対する粒径1mm以上のマグネシアの質量比が3.0以上であり、
ピッチ・タール類の添加率が、耐火原料配合物100質量%に対して1質量%以上8質量%以下である、マグネシアカーボンれんがの製造方法。
本発明では耐火原料配合物にピッチ・タール類を添加して混練するが、この混練はピッチ・タール類の粘性を低下させてピッチ・タール類の添加率が過大にならないように温間で行う。その添加率の目安としては耐火原料配合物100質量%に対して、例えば1質量%以上8質量%以下であり、この程度の範囲の添加率での加圧成形で緻密な組織が形成されるような温度範囲で混練する。具体的には、ピッチ・タール類がピッチ又は希釈ピッチの場合には、ピッチの軟化点(℃)より20%低い温度以上で混練する。温度が低すぎるとピッチ又は希釈ピッチの粘性が高くなり成形に適した坏土にするために過剰な量のピッチ又は希釈ピッチを必要とし緻密なれんがが得られず耐食性が低下する。なお、ピッチの軟化点を超える温度で混練することに特に問題はないが、ピッチの軟化点よりも高くなりすぎるとエネルギーの無駄となる。そのため、本発明において混練は、ピッチ・タール類がピッチ又は希釈ピッチの場合にはピッチの軟化点(℃)より60%高い温度以下で行う。言い換えると、本発明でいう温間とは、ピッチ・タール類がピッチ又は希釈ピッチの場合には概ね上述の温度範囲のことをいう。一方、ピッチ・タール類がタール又は希釈タールの場合には、概ね40℃以上150℃以下の温度範囲を温間という。ただし、これらの温度範囲は厳格なものではなくそのため「概ね」としており、「概ね」の範囲は技術常識による。
成形も混練と同様に温間で行う。混練直後あるいは坏土を保温していれば、成形機の金枠などを加熱することなく成形することができるが、金枠を加温してもよい。