(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009887
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】酸素化コレステロール硫酸塩(OCS)の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/575 20060101AFI20240116BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240116BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240116BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240116BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240116BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240116BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240116BHJP
【FI】
A61K31/575
A61P1/16
A61P9/10
A61P13/12
A61P29/00
A61P25/00
C12N5/071
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023173762
(22)【出願日】2023-10-05
(62)【分割の表示】P 2022152818の分割
【原出願日】2014-12-23
(31)【優先権主張番号】61/920,617
(32)【優先日】2013-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】502066627
【氏名又は名称】ヴァージニア コモンウェルス ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】519160624
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ ガバメント アズ レプリゼンテッド バイ ザ デパートメント オブ ベテランズ アフェアーズ
(71)【出願人】
【識別番号】508027589
【氏名又は名称】デュレクト コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レン,シュンリン
(72)【発明者】
【氏名】テーウウェス,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ジェームズ,イー.
(72)【発明者】
【氏名】リン,ウェイチー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】虚血、臓器機能障害及び/又は臓器不全、例えば、多臓器機能障害症候群(MODS)、並びに臓器機能障害/不全に関連するネクローシス及びアポトーシスを予防及び/又は処置する方法を提供する。
【解決手段】例えば、この方法は、臓器を酸素化コレステロール硫酸塩(OCS)、例えば、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程を伴う。臓器は、in vivo(例えば、OCSで処置される患者において)又はex vivo(例えば、ドナーから採取され、移植される予定の臓器)であり得る。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象において、外科手術によって引き起こされた虚血を予防的処置又は処置する方法であって、
前記虚血を予防的処置又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含む方法。
【請求項2】
虚血が、心虚血、脳虚血、腸管虚血、肢虚血、及び皮膚虚血から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
虚血の予防的処置又は処置が、対象において炎症、組織ネクローシス、臓器ネクローシス、脳卒中のリスク、及び再潅流傷害の1つ以上を減少させることを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
外科手術が、心臓血管手術、心臓手術、及び動脈瘤手術のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
25HC3Sが、外科手術前に7日間以下にわたって投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
25HC3Sが、外科手術中に投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
25HC3Sが、外科手術後に7日間以下にわたって投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
外科手術が肝臓手術ではない、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
外科手術が移植手術ではない、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
それを必要とする対象において1つ以上の臓器又は臓器系の機能障害又は不全を予防又は処置する方法であって、
前記臓器又は臓器系の前記機能障害又は不全を予防又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を対象に投与する工程
を含み、
前記1つ以上の臓器が肝臓を含む場合に、前記投与工程が、14日間以下にわたって行われる、方法。
【請求項11】
1つ以上の臓器が、肝臓、腎臓、心臓、脳、及び膵臓から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
機能障害又は不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
25HC3Sが、ATMPの投与の1週間以内に投与される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
機能障害又は不全が、多臓器機能障害症候群(MODS)である、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
1つ以上の細胞、臓器、又は組織を移植する方法であって、
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織をドナーから摘出する工程、
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程、及び
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織をレシピエントに移植する工程
を含む方法。
【請求項16】
1つ以上の細胞、臓器、又は組織が、肝臓細胞、肝臓臓器、又は肝臓組織ではない、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ex vivoの細胞、臓器、又は組織を保存する方法であって、
前記ex vivoの細胞、臓器、又は組織を、前記細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程
を含む方法。
【請求項18】
それを必要とする対象において急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置する方法であって、
前記対象に、急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置するのに有効な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を投与する工程
を含み、
前記急性肝不全及び/又は腎不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2013年12月24日に出願された米国特許仮出願第61/920,617号に対する優先権の利益を主張するものであり、この仮出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
本開示は一般に、虚血、臓器機能障害及び/又は臓器不全、並びに臓器機能障害/不全に関連するネクローシス及び/又はアポトーシスの予防及び/又は処置に関する。例えば、本開示は、臓器を1種以上の酸素化コレステロール硫酸塩(OCS)と接触させることによって、前記臓器の機能障害及び/又は不全を予防/処置する組成物及び方法を提供する。臓器は、in vivo又はex vivoであってもよい。
【背景技術】
【0003】
(序論)
ネクローシスは、自己融解によって、生きている組織において細胞の時期尚早な死を引き起こす、細胞傷害の形態である。ネクローシスは、細胞又は組織に対する外的な因子、例えば、感染、毒素、又は外傷によって生じ、細胞成分の無秩序な消化を引き起こす。対照的に、アポトーシスは、自然に生じるようにプログラムされており、細胞死における標的とされる原因である。アポトーシスは、多くの場合、有機体に対して有益な効果を提供するが、その一方で、ネクローシスは、ほとんどいつも有害であり、致命的にもなり得る。場合によって、これら2つは、ネクローシス性細胞が、周囲の細胞及び組織においてアポトーシスを誘起させる因子を放出するという点において関連している。
【0004】
ネクローシスが原因で死ぬ細胞は、アポトーシスシグナル伝達経路に従わず、むしろ様々なレセプターを活性化し、その結果として、細胞膜の無欠陥性の喪失及び細胞内空間内への細胞死の産生物の非制御の放出を引き起こす。これは、周囲の組織において、食細胞活動によって付近の食細胞が死んだ細胞を見つけて排除するのを防ぐ炎症反応を開始させる。この理由から、多くの場合、デブリードマンとして知られている手技によってネクローシス細胞を外科的に取り除く必要がある。処置されていないネクローシスは、結果として、細胞死の部位又はその付近において分解性の死んだ組織及び細胞破片の蓄積を引き起こす。典型的な例は、壊疽である。
【0005】
臓器機能障害は、臓器がその予期される機能、所望される機能、又は通常の機能を実行しない状態である。臓器不全は、外部からの臨床的介入なしには通常のホメオスタシスを維持することができない程の臓器機能障害である。これら2つの状態は、生理学的かく乱が徐々に増加する際に生じ、中程度臓器機能障害から完全に不可逆な臓器不全まで幅広く変わる。臓器機能障害及び臓器不全は、急性であり得、(例えば、細菌感染、重度の熱傷などの急性侵襲の結果として)急速に進行するか、又は慢性であり得、(例えば、臓器中毒性の薬物投与に対する長期の曝露の結果として)長い期間若しくは時間をかけて進行する。多臓器機能障害症候群(MODS、以前は多臓器不全(MOF)又は多系統臓器不全(MSOF)として知られる)は、例えば、心臓血管系と腎臓系など、同時の2つ以上の臓器又は臓器系の不全を意味する。いくつかの場合において、単一の病原物質又は病因事象は、疾患プロセスの開始として特定することができるが、これはいつもそうであるわけではなく、すなわち、機能障害及び不全は、複数の因子によって生じ得、及び/又は原因物質は決して特定され得ない。多くの場合の近位原因は、炎症及びネクローシスが後続する虚血である。
【0006】
臓器機能障害及び不全は、大きな臨床的及び経済的影響を有する。臨床的介入のコストは非常に高く、典型的には、急性及び慢性疾患の両方に対して集中的な生命維持手段を伴う。一般的に、死亡率は、約30%から約100%の範囲であり、1980年代以降ではあまり変化していない。関係する臓器の数が増えるほど、特に心臓血管機能障害が関係する場合、生存の可能性は減少する。生き残った患者も、正常な機能の完全な回復は、何年も生じ得ないか、又は二度と生じ得ない。
【0007】
現在のところ、確立した臓器不全を回復させることのできる利用可能な薬剤は存在せず、治療法は、分かっている場合には根本原因の処置と、支持療法、例えば、血行動態、体液レベル、pHバランス、及び呼吸の保護に限定される。
【0008】
重症の臓器不全に対する可能な処置の1つは、ドナーからの臓器移植である。しかしながら、移植のために採取された臓器も、虚血性体液喪失、pH変化、ケトアシドーシス、並びにドナーからの摘出並びに輸送及び貯蔵の間のex vivo環境への曝露に関連する他の問題に起因した機能障害を患い得る。例えば、移植前の臓器には高レベルの炎症性サイトカインが存在し得、これは、輸送及び貯蔵の間に損傷を生じ得る。例えば、輸送中に臓器を特殊な液体中に保存するなどによって、臓器機能を維持するように注意が払われ得るとしても、バイアビリティの維持は、依然として主要な課題であり、採取された臓器のバイアビリティを維持することができる代替の及び/又は改良された薬剤が必要とされている。提供された臓器及び移植レシピエントの身体に対して完全に生体適合性である、利用可能な薬剤を有することは、とりわけ有利であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
根本にある原因並びに/又は臓器機能障害及び不全の症状、例えば、敗血症、虚血、望ましくない炎症、及び細胞死の予防及び処置を含む、臓器及び臓器系の機能障害及び/又は不全を予防及び処置するための薬剤及び方法が、緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、虚血(例えば、外科手術による)、ネクローシス、アポトーシス、in vivo及びex vivoの臓器に対する臓器機能障害及び/又は臓器不全を予防及び/又は処置する方法を含む、酸素化コレステロール硫酸塩(OCS)の様々な使用を提供する。この方法は、対象臓器を少なくとも1種の酸素化コレステロール硫酸塩(OCS)と接触させる工程を含む。対象臓器が患者内にある場合(in vivo)、接触は、一般にて、前記臓器を有する患者に、前記臓器の機能障害及び/又は不全を予防及び/又は処置するのに効果的又は十分な量の少なくとも1種のOCSを投与する工程を伴う。有利には、少なくとも1種のOCSは、経口により投与された場合であっても、高度に生物学的利用可能であることが見出された。臓器が既に対象者から(すなわち、ドナーから)採取されている場合、及び/又はドナーから採取する準備ができている場合、接触は、一般に、少なくとも1種のOCSを臓器に適用する工程を伴う。
【0011】
さらに、本開示は、それを必要とする患者において、臓器機能障害/不全につながる及び/若しくは原因となる又はそうでなければそれらに関連する疾患及び状態を予防及び/又は処置する方法であって、前記疾患又は状態を予防及び/又は処置するのに有効な又は十分な量の少なくとも1種のOCSを前記患者に投与することによる、方法を提供する。
【0012】
本開示の態様は、それを必要とする対象において、外科手術が原因で生じる虚血を予防的処置又は処置する方法であって、虚血を予防的処置又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程を含む、方法を提供する。いくつかの態様において、虚血は、心虚血、脳虚血、腸管虚血、肢虚血、及び皮膚虚血から選択される少なくとも1つのメンバーを含む。他の態様において、虚血の予防的処置又は処置は、対象において、炎症、組織ネクローシス、臓器ネクローシス、脳卒中のリスク、及び再潅流傷害の1つ以上を減少させることを含む。追加の態様において、外科手術は、心臓血管手術、心臓手術、及び動脈瘤手術のうちの少なくとも1つを含む。さらなる態様において、25HC3Sは、外科手術前に7日間以下にわたって投与され、例えば、外科手術前に7日以内に開始されて少なくとも毎日投与される。他の態様において、25HC3Sは、外科手術中に投与される。さらなる他の態様において、25HC3Sは、外科手術後に7日間以下にわたって投与され、例えば、外科手術後に7日間以下にわたって少なくとも毎日投与される。いくつかの態様において、外科手術は、肝臓手術ではない。他の態様において、外科手術は、移植手術ではない。
【0013】
本開示の態様はさらに、それを必要とする対象において1つ以上の臓器又は臓器系の機能障害又は不全を予防又は処置する方法であって、前記臓器又は臓器系の機能障害又は不全を予防又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程を含み、前記1つ以上の臓器が肝臓を含む場合に、前記投与工程が、14日間(2週間)以下にわたって行われる、方法も提供する。いくつかの態様において、1つ以上の臓器は、肝臓、腎臓、心臓、脳、及び膵臓から選択される少なくとも1つのメンバーを含む。追加の態様において、機能障害又は不全は、アセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる。さらなる態様において、25HC3Sは、ATMPの投与の1週間以内に投与される。さらなる他の態様において、機能障害又は不全は、多臓器機能障害症候群(MODS)である。
【0014】
本開示のさらなる態様は、1つ以上の細胞、臓器、又は組織を移植する方法であって、i)前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織をドナーから摘出する工程、ii)前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程、及びiii)前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織をレシピエントに移植する工程を含む方法を提供する。さらなる態様において、1つ以上の細胞、臓器、又は組織は、肝臓細胞、肝臓臓器、又は肝臓組織ではない。
【0015】
本開示の追加の態様は、ex vivoの細胞、臓器、又は組織を保存する方法であって、前記ex vivoの細胞、臓器、又は組織を、前記細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程を含む方法を提供する。
【0016】
本開示のさらなる態様は、それを必要とする対象において急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置する方法であって、前記急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置するのに有効な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程を含み、この場合、前記急性肝不全及び/又は腎不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、方法を提供する。
【0017】
本開示のさらなる態様を以下に挙げる。
【0018】
1.ex vivoの細胞の死を防ぐ方法であって、
前記ex vivoの細胞を、前記細胞の死を防ぐのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程
を含む方法。
【0019】
2.前記細胞がアポトーシス又はネクローシスを起こしている、1に記載の方法。
【0020】
3.患者において細胞の死を防ぐ方法であって、
前記細胞の死を防ぐのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含む方法。
【0021】
4.前記細胞がアポトーシス又はネクローシスを起こしている、3に記載の方法。
【0022】
5.それを必要とする対象において虚血を予防的処置又は処置する方法であって、
虚血を予防的処置又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【0023】
6.前記虚血が、心虚血、脳虚血、腸管虚血、肢虚血、及び皮膚虚血から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、5に記載の方法。
【0024】
7.前記予防的処置又は処置が、前記対象における炎症、組織ネクローシス、臓器ネクローシス、脳卒中、及び再潅流傷害のうちの少なくとも1つを減少させることを含む、5又は6に記載の方法。
【0025】
8.前記虚血が外科手術によって引き起こされる、5から7のいずれか1つに記載の方法。
【0026】
9.前記外科手術が、心臓血管手術、心臓手術、及び動脈瘤手術のうちの少なくとも1つを含む、8に記載の方法。
【0027】
10.前記25HC3Sが、前記外科手術前に7日間以下にわたってされる、8又は9に記載の方法。
【0028】
11.前記25HC3Sが、前記外科手術中に投与される、8から10のいずれか1つに記載の方法。
【0029】
12.前記25HC3Sが、前記外科手術後に7日間以下にわたって投与される、8から11のいずれか1つに記載の方法。
【0030】
13.前記外科手術が肝臓手術ではない、8から12のいずれか1つに記載の方法。
【0031】
14.前記外科手術が移植手術ではない、8から13のいずれか1つに記載の方法。
【0032】
15.前記25HC3Sが、約0.001mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の用量で前記対象に投与される、5から14のいずれか1つに記載の方法。
【0033】
16.それを必要とする対象において、外科手術によって引き起こされた虚血を予防的処置又は処置する方法であって、
虚血を予防的処置又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含む、方法。
【0034】
17.前記虚血が、心虚血、脳虚血、腸管虚血、肢虚血、及び皮膚虚血から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、16に記載の方法。
【0035】
18.前記予防的処置又は処置が、前記対象における、炎症、組織ネクローシス、臓器ネクローシス、脳卒中のリスク、及び再潅流傷害の1つ以上の減少を含む、16又は17に記載の方法。
【0036】
19.前記外科手術が、心臓血管手術、心臓手術、及び動脈瘤手術のうちの少なくとも1つを含む、16から18のいずれか1つに記載の方法。
【0037】
20.前記25HC3Sが、前記外科手術前に7日間以下にわたって投与される、16から19のいずれか1つに記載の方法。
【0038】
21.前記25HC3Sが、前記外科手術中に投与される、16から20のいずれか1つに記載の方法。
【0039】
22.前記25HC3Sが、前記外科手術後に7日間以下にわたって投与される、16から21のいずれか1つに記載の方法。
【0040】
23.前記外科手術が肝臓手術ではない、16から22のいずれか1つに記載の方法。
【0041】
24.前記外科手術が移植手術ではない、16から23のいずれか1つに記載の方法。
【0042】
25.前記25HC3Sが、約0.001mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の用量で前記対象に投与される、16から24のいずれか1つに記載の方法。
【0043】
26.それを必要とする対象において細胞、組織、及び/又は臓器のネクローシスを予防又は処置する方法であって、
細胞、組織、及び/又は臓器のネクローシスを予防又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含む方法。
【0044】
27.前記細胞、組織、及び/又は臓器が、肝臓、腎臓、心臓、脳、及び膵臓から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、26に記載の方法。
【0045】
28.ネクローシス細胞を含む組織又は臓器内でのネクローシスの広がりを防ぐ方法であって、
前記組織又は臓器内でのネクローシスの広がりを防ぐのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記組織又は臓器に投与する工程
を含む方法。
【0046】
29.細胞のアポトーシスを防ぐ方法であって、
前記細胞を、前記細胞のアポトーシスを防ぐのに有効な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程
を含む方法。
【0047】
30.組織又は臓器における細胞のアポトーシスを最小限にする方法であって、
前記細胞を、前記組織又は臓器における前記細胞のアポトーシスを最小限にするのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程
を含む方法。
【0048】
31.それを必要とする対象において1つ以上の臓器又は臓器系の機能障害又は不全を予防又は処置する方法であって、
前記臓器又は臓器系の前記機能障害又は不全を予防又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含み、
前記1つ以上の臓器が肝臓を含む場合に、前記投与工程が14日間以下にわたって行われる、
方法。
【0049】
32.前記1つ以上の臓器が、肝臓、腎臓、心臓、脳、及び膵臓から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、31に記載の方法。
【0050】
33.前記機能障害又は不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、31又は32に記載の方法。
【0051】
34.前記25HC3Sが、前記ATMPの投与の1週間以内に投与される、33に記載の方法。
【0052】
35.前記機能障害又は不全が、多臓器機能障害症候群(MODS)である、31から34のいずれか1つに記載の方法。
【0053】
36.前記25HC3Sが、約0.001mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の用量で投与される、31から35のいずれか1つに記載の方法。
【0054】
37.それを必要とする対象において急性肝不全及び/又は急性腎不全を予防又は処置する方法であって、
急性肝不全及び/又は急性腎不全を予防又は処置するのに有効な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含む方法。
【0055】
38.前記急性肝不全及び/又は急性腎不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、37に記載の方法。
【0056】
39.前記25HC3Sが、前記急性肝不全及び/又は急性腎不全の発現の1日以内に投与される、37又は38に記載の方法。
【0057】
40.前記25HC3Sが、前記急性肝不全及び/又は急性腎不全の診断後、最長2週間投与される、37から39のいずれか1つに記載の方法。
【0058】
41.前記25HC3Sが、約0.001mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の用量で前記対象に投与される、37から40のいずれか1つに記載の方法。
【0059】
42.臓器又は臓器系の機能障害又は不全を経験する、又は経験するリスクのある対象において、死亡リスクを減少させる方法であって、
前記死亡リスクを減少させるのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含む方法。
【0060】
43.ex vivoの細胞、臓器、又は組織を保存する方法であって、
ex vivoの細胞、臓器、又は組織を、前記細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程
を含む方法。
【0061】
44.1つ以上の細胞、臓器、又は組織を移植する方法であって、
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織をドナーから摘出する工程、
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程、及び
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織をレシピエントに移植する工程、
を含む方法。
【0062】
45.前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織が、肝臓細胞、肝臓臓器、又は肝臓組織ではない、44に記載の方法。
【0063】
46.ex vivoの細胞、臓器、又は組織、及び
5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)
を含む組成物。
【0064】
47.生理学的適合性の酸素化分散媒をさらに含む、46に記載の組成物。
【0065】
48.イブプロフェン、アスピリン、及びアセトアミノフェンから選択される少なくとも1つのメンバーを含む活性薬剤、並びに
5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)
を含む組成物。
【0066】
49.それを必要とする対象において敗血症を予防的処置又は処置する方法であって、
前記敗血症を予防的処置又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含む方法。
【0067】
50.前記敗血症の予防的処置又は処置が、敗血症に関連する損傷の予防的処置又は処置を含み、前記損傷が、場合により、1つ以上の臓器の機能障害又は不全である、49に記載の方法。
【0068】
51.前記1つ以上の臓器が、肝臓、腎臓、心臓、脳、及び膵臓から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、50に記載の方法。
【0069】
52.それを必要とする対象において細胞又は組織のネクローシス及び/又はネクローシスに関連するアポトーシスを予防又は処置する方法であって、
前記ネクローシス及び/又はアポトーシスを予防又は処置するのに有効な量の、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)及び5-コレステン-3,25-ジオール,ジスルフェート(25HCDS)の一方又は両方を前記対象に投与する工程
を含む方法。
【0070】
53.前記組織が、肝臓組織及び/又は腎臓組織である、52に記載の方法。
【0071】
54.前記ネクローシスがアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、53に記載の方法。
【0072】
55.それを必要とする対象において急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置する方法であって、
前記急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置するのに有効な量の、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)及び5-コレステン-3,25-ジオール,ジスルフェート(25HCDS)の一方又は両方を前記対象に投与する工程
を含む方法。
【0073】
56.前記急性肝不全及び/又は腎不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、55に記載の方法。
【0074】
57.前記25HC3Sが、約0.001mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の用量で投与される、3、4、26から28、42、及び49から56のいずれか1つに記載の方法。
【0075】
58.前記投与が、経口的に又は注射によって実施される、3から28、31から42、及び49から57のいずれか1つに記載の方法。
【0076】
59.前記投与が、1日あたり1回から3回実施される、3から28、31から42、及び49から57のいずれか1つに記載の方法。
【0077】
60.細胞の死を防ぐことを含む医学的処置の方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0078】
61.ex vivoでの細胞の死を防ぐ方法であって、
前記細胞を、細胞の死を防ぐのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程
を含む方法。
【0079】
62.虚血を予防的処置又は処置する方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0080】
63.外科手術によって引き起こされた虚血を予防的処置又は処置する方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0081】
64.それを必要とする対象において細胞、組織、及び/又は臓器のネクローシスを予防又は処置する方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0082】
65.ネクローシス細胞を含む組織又は臓器内でのネクローシスの広がりを防ぐことを含む医学的処置の方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0083】
66.細胞のアポトーシスを防ぐことを含む医学的処置の方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0084】
67.組織又は臓器における細胞のアポトーシスを最小限にすることを含む医学的処置の方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0085】
68.それを必要とする対象において1つ以上の臓器又は臓器系の機能障害又は不全を予防又は処置する方法であって、前記1つ以上の臓器が肝臓を含む場合に、14日間以下にわたって5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を投与する工程を含む方法、において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0086】
69.それを必要とする対象において急性肝不全及び/又は急性腎不全を予防又は処置する方法、において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0087】
70.前記急性肝不全及び/又は急性腎不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、67の使用のための5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0088】
71.臓器又は臓器系の機能障害又は不全を経験しているか、又は経験するリスクのある対象において死亡リスクを減少させる方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0089】
72.1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、場合により外科手術によって、ドナーから摘出する工程、及び前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、ex vivoにおいて、前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程を含む処置の方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0090】
73.1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、ex vivoにおいて、前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程、及び前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、場合により外科手術によって、レシピエントに移植する工程を含む処置の方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0091】
74.1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、場合により外科手術によって、ドナーから摘出する工程、前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、ex vivoにおいて、前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程、及び前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、場合により外科手術によって、レシピエントに移植する工程を含む処置の方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0092】
75.敗血症を予防的処置又は処置する方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)。
【0093】
76.それを必要とする対象において細胞又は組織のネクローシス及び/又はネクローシスに関連するアポトーシスを予防又は処置する方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)及び/又は-5-コレステン-3,25-ジオール,ジスルフェート(25HCDS)。
【0094】
77.それを必要とする対象において急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置する方法において使用される5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)及び/又は-5-コレステン-3,25-ジオール,ジスルフェート(25HCDS)。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【
図1A-1D】アセトアミノフェンによって誘発された急性肝不全の回復への25HC3Sの効果を示す。正常は、正常対照マウス由来の血清を表し、ATMPは、アセトアミノフェン及びベシクル注射によって処置されたマウス由来の血清を表し、ATMP+25HC3Sは、アセトアミノフェン及び25HC3S注射によって処置されたマウス由来の血清を表す。Aにおいて、ALTは、アラニンアミノトランスフェラーゼを表し;Bにおいて、ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを表し;Cにおいて、ALKはアルカリホスファターゼを表し;Dにおいて、LDHは乳酸デヒドロゲナーゼを表す。各値は、2匹の動物の平均を表す。
【
図2A-2B】アセトアミノフェン(ATMP)の投与後の回復に対する25HC3Sの効果を示す。正常は、正常対照マウス由来の血清を表し、ATMPは、ATMP及びビヒクルによって処置されたマウス由来の血清を表し、ATMP+25HC3Sは、ATMP及び25HC3Sによって処置されたマウス由来の血清を表す。A:酵素活性:ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼを表し、ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを表し、ALKはアルカリホスファターゼを表し、LDHは乳酸デヒドロゲナーゼを表す。B: BUN(血中尿素窒素)及びグルコースの血清中濃度。各値は、2匹の動物の平均を表す。
【
図3A-3B】(A)高レベルのATMPに曝露されたラットの血液における25HC3Sの濃度、及び(B)高レベルのATMPに曝露されたラットの示された組織における25HC3Sの濃度を示す。
【
図4】肝臓虚血後、1、2、3、4、及び10日目における、対照及び25HC3Sで処置したラットの死亡率データを示す。
【
図5A-5D】(A)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、(B)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、(C)アルカリホスファターゼ(AKP)及び(D) 抗利尿ホルモン(ADH)に関する、対照ラット対処置されたラットの相対酵素活性(血液の1デシリットルあたりの単位)を示す。対照ラットにはビヒクルを投与し、処置されたラットは25HC3Sを投与した。
【
図6A-6B】腎虚血/再潅流実験での血清クレアチン値及び血清BUN値を示す。A:ビヒクルの百分率としての血清クレアチンレベルを表し、B: ビヒクルの百分率としての血清BUNレベルを表す。
【
図7】心臓虚血/再潅流実験での24時間生存率を示す。
【
図8A】脳虚血傷害後の結果を示す。A:7点のニューロスコア。
【
図8B】脳虚血傷害後の結果を示す。B:20点のニューロスコア。
【
図8C】脳虚血傷害後の結果を示す。C:肢置き直し。
【
図8D-8E】脳虚血傷害後の結果を示す。D:24時間での病変体積(mm
3);E:7日での病変体積(mm
3)。
【
図8F-8G】脳虚血傷害後の結果を示す。F:24時間での浮腫体積(mm
3);G: 7日での浮腫体積(mm
3)。
【
図8H-8I】脳虚血傷害後の結果を示す。H:24時間での病変体積(%);I:7日での浮腫体積(%)。
【
図8J-8K】脳虚血傷害後の結果を示す。J:24時間でのT2病変(ms);K:7日でのT2病変(ms)。
【
図8L】脳虚血傷害後の結果を示す。L:体重(ビヒクル/偽手術、ビヒクル/脳卒中、及びビヒクル/25HC3S)。
【
図9A】敗血症の研究を示す。2つの異なる濃度のリポポリサッカライド、次いでビヒクル又は25HC3Sをマウスに静脈内注射した。(A)LPS 40mg/kg。
【
図9B】敗血症の研究を示す。2つの異なる濃度のリポポリサッカライド、次いでビヒクル又は25HC3Sをマウスに静脈内注射した。(B)LPS 30mg/kg。
【
図9C】敗血症の研究を示す。2つの異なる濃度のリポポリサッカライド、次いでビヒクル又は25HC3Sをマウスに静脈内注射した。(C)LPS 4mg/ml。
【
図10】フェーズIのコホート1~4からの血漿試料中の25HC3Sのレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0096】
臓器不全に関連する望ましくないネクローシス及び/又はアポトーシスを処置する方法と同様に、臓器又は臓器系の機能障害及び/又は不全を予防及び/又は処置する方法について、本明細書において説明する。この方法は、対象臓器を少なくとも1種の酸素化コレステロール硫酸塩(OCS)と接触させる工程を含む。対象臓器が患者内にある場合(in vivo)、接触は、一般に、患者において1つ以上の臓器又は臓器系の機能障害及び/又は不全を予防及び/又は処置するのに有効な又は十分な、例えば、患者が示す臓器機能障害又は不全の少なくとも1つの症状を予防又は処置するのに十分な量の少なくとも1種のOCSを患者に投与する工程を伴う。臓器が既に対象から(すなわち、ドナーから)採取されている場合、したがって、ex vivoの場合、接触は、一般に、臓器が移植されるまで、臓器を保存するため、すなわち、臓器の生存能力を維持するため及び/又は臓器のメンテナンスを増強するために、臓器を少なくとも1種のOCSと接触させる工程、すなわち、少なくとも1種のOCSを臓器に適用する工程を伴う。
【0097】
臓器機能障害及び不全につながるか、それらを引き起こすか、それらによって引き起こされるか、又はそれらに関連する状態を予防及び/又は処置する方法、例えば、炎症、細胞死(例えば、ネクローシス)、虚血の結果、敗血症などの予防及び/又は処置の方法についても説明する。この方法は、前記状態を予防及び/又は処置するのに有効な又は十分な量の少なくとも1種のOCSを、それを必要とする対象に投与する工程を伴う。
【0098】
いくつかの態様において、本明細書において説明される方法によって処置された対象の集団は、高レベルのコレステロール(高コレステロール血症、例えば、約200mg/dl以上の範囲の血清中コレステロールレベル)、又は高レベルのコレステロールに関連する状態、例えば、高脂血症、アテローム性動脈硬化、心臓病、卒中、アルツハイマー病、胆石症、胆汁鬱滞性肝疾患などの症状を有していても若しくは有していなくてもよく、及び/又はそのように診断されていても若しくは診断されていなくてもよい。いくつかの態様において、本明細書において説明される方法によって処置された対象の集団は、コレステロールの高レベルの症状(高コレステロール血症、例えば、約200mg/dl以上の範囲の血清中のコレステロールレベル)、又はコレステロールの高レベルに関連する状態、例えば、高脂血症、アテローム性動脈硬化、心臓病、卒中、アルツハイマー病、胆石症、胆汁鬱滞性肝疾患などの症状を有しておらず、及び/又はそのように診断されていない。
【0099】
さらなる態様において、本明細書において説明される方法によって処置される対象の集団は、肝障害、例えば、肝炎、主に様々なウイルスよって、さらにいくつかの毒物(例えば、アルコール)によっても引き起こされる肝臓の炎症;自己免疫(自己免疫性肝炎)又は遺伝性疾患;非アルコール性脂肪性肝疾患、肝炎、すなわち、脂肪性肝炎及び/又は肝硬変につながり得る、肥満に関連し並びに肝臓における豊富な脂肪によって特徴付けられる様々な疾患;肝硬変、すなわち、死んだ肝臓細胞の置き換えに起因する肝臓の線維性瘢痕組織の形成(肝臓細胞の死は、例えば、ウイルス性肝炎、アルコール性中毒症、又は他の肝臓毒性化学薬品との接触によって引き起こされ得る);血色素症、身体内において鉄の蓄積を引き起し、最終的に肝臓損傷につながる遺伝性疾患;肝臓癌(例えば、通常は胃腸管の他の部分に由来する、原発性肝細胞癌又は胆管細胞癌及び転移癌);ウィルソン病、身体に銅が留まる原因となる遺伝性疾患;原発性硬化性胆管炎、本来はおそらく自己免疫性である胆道の炎症性疾患;原発性胆汁性肝硬変、細胆管の自己免疫疾患;バッド-キアリ症候群(肝静脈の閉鎖症);ギルバート症候群、ビリルビン代謝の遺伝子障害、人口の約5%に見出される;2型糖原貯蔵障害;並びに例えば、胆道閉鎖、α-1抗トリプシン欠乏症、アラジール症候群、及び進行性家族性肝内胆汁うっ滞症などを含む様々な小児肝臓疾患の症状を有していても若しくは有していなくてもよく、又はそのように診断されていても若しくは診断されていなくてもよい。さらに、外傷に由来する肝臓損傷、例えば、事故によって生じた損傷、銃創なども処置することができる。さらに、ある特定の薬物療法によって引き起こされた肝臓損傷も、予防又は処置することができ、例えば、抗不整脈薬であるアミオダロン、様々な抗ウイルス薬(例えば、ヌクレオシド類似体)、アスピリン(ごく稀に、小児におけるライエ症候群の一部として)、コルチコステロイド、メトトレキサート、タモキシフェン、テトラサイクリンなどの薬物は、肝臓損傷を引き起こすことが知られている。さらなる態様において、本明細書において説明される方法によって処置される対象の集団は、肝障害、例えば、肝炎、主に様々なウイルスよって、さらにいくつかの毒物(例えば、アルコール)によっても引き起こされる肝臓の炎症;自己免疫(自己免疫性肝炎)又は遺伝性疾患;非アルコール性脂肪性肝疾患、肝炎、すなわち、脂肪性肝炎及び/又は肝硬変につながり得る、肥満に関連し並びに肝臓における豊富な脂肪によって特徴付けられる様々な疾患;肝硬変、すなわち、死んだ肝臓細胞の置き換えに起因する肝臓の線維性瘢痕組織の形成(肝臓細胞の死は、例えば、ウイルス性肝炎、アルコール性中毒症、又は他の肝臓毒性化学薬品との接触によって引き起こされ得る);血色素症、身体内において鉄の蓄積を引き起し、最終的に肝臓損傷につながる遺伝性疾患;肝臓癌(例えば、通常は胃腸管の他の部分に由来する、原発性肝細胞癌又は胆管細胞癌及び転移癌);ウィルソン病、身体に銅が留まる原因となる遺伝性疾患;原発性硬化性胆管炎、本来はおそらく自己免疫性である胆道の炎症性疾患;原発性胆汁性肝硬変、細胆管の自己免疫疾患;バッド-キアリ症候群(肝静脈の閉鎖症);ギルバート症候群、人口の約5%に見出されるビリルビン代謝の遺伝子障害;2型糖原貯蔵障害;並びに例えば、胆道閉鎖、α-1抗トリプシン欠乏症、アラジール症候群、及び進行性家族性肝内胆汁うっ滞症などを含む様々な小児肝臓疾患の症状を有しておらず、及び/又はそのように診断されていていない。さらに、外傷に由来する肝臓損傷、例えば、事故によって生じた損傷、銃創なども処置することができる。さらに、ある特定の薬物療法によって引き起こされた肝臓損傷も、予防又は処置することができ、例えば、抗不整脈薬であるアミオダロン、様々な抗ウイルス薬(例えば、ヌクレオシド類似体)、アスピリン(ごく稀に、小児におけるライエ症候群の一部として)、コルチコステロイド、メトトレキサート、タモキシフェン、テトラサイクリンなどの薬物は、肝臓損傷を引き起こすことが知られている。
【0100】
さらなる態様において、本明細書において説明される方法によって処置される対象の集団は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び/又は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の症状を有していても又は有していなくてもよい。さらなる態様において、本明細書において説明される方法によって処置される対象の集団は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び/又は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の症状を有していない。
【0101】
(定義)
全体を通じて、以下の定義が用いられる。
【0102】
(予防及び処置)
本明細書において使用される場合、「予防的処置する」(「予防的処置」、「予防的処置すること」など)及び「予防する」(「予防」、「予防すること」など)は、それを必要とする対象への、少なくとも1種のOCSの予防的投与によって、疾患又は望ましくない状態、例えば、臓器機能障害又は不全の少なくとも1つの症状の発生を防ぐ又は避けることを意味する。一般に、「予防的」又は「予防法」は、患者が障害を発症する可能性の減少を意味する。典型的には、対象は、当業者によって、疾患若しくは望ましくない状態の少なくとも1つの症状を発症するリスクがあるか若しくはその影響を受けやすいとみなされるか、又は医学的介入がなければ疾患/状態の少なくとも1つの症状を発症する可能性があるとみなされる。しかしながら、一般に、「予防」又は「予防的処置」の場合、投与は、対象が、疾患(状態、障害、症候群など、明示されない限り、本明細書においてこれらの用語は、相互互換的に使用される)の症状を有する前、又は有することが知られるか若しくは確認される前に行われる。換言すれば、症状は、まだ明白でないか又は観察可能ではない場合もある。対象は、様々な因子、例えば、これらに限定されるわけではないが、遺伝的素因;近い将来の医学的若しくは外科的手技、例えば、外科手術、映像化における造影剤の使用、化学療法など);毒性薬剤(例えば、毒性の化学薬品若しくは医薬品、放射線など)に対する、最近のある特定の、若しくは疑われる、若しくは避けられない将来の曝露;又は、予防しようとしている疾患/状態への進行とつながりがあるか若しくは関連する別のストレス要因若しくはストレス要因の組合せへの曝露若しくはそれらを経験することを含む)に起因するリスクがあるとみなされ得る。臓器機能障害/不全の予防のいくつかの態様において、対象は、既に、臓器機能障害/不全、例えば、虚血、敗血症、有害な又は不適切なレベルの炎症、有害性の細胞死、ネクローシスなどの潜在的前兆の症状を示し得る。そのような態様において、対象の処置は、侵害性若しくは有害効果又は前兆状態の転帰(結果)を防ぐことができる。疾患若しくは状態の「予防」若しくは「予防的処置」は、検出可能な症状の発生の完全な予防を伴い得るか、或いは、本明細書において提供される医学的介入がない場合に、すなわち、1種以上のOCSが投与されないならば、生じるであろう疾患の少なくとも1つの症状の程度、重症度、若しくは継続時間の減少若しくは弱化を伴い得る。或いは、対象は、初期段階症状を経験している場合もあり、予防されるのは、末期の疾患への進行である。
【0103】
いくつかの態様において、予防される疾患の転帰又は結果は、対象の死亡である。
【0104】
「処置する」(処置、処置することなど)は、本明細書において使用される場合、既に疾患の少なくとも1つの症状を示している対象に少なくとも1種のOCSを投与することを意味する。換言すれば、疾患に関連することが知られている少なくとも1つのパラメータが、対象において測定、検出、又は観察されている。本明細書において説明されるように処置される臓器機能障害/不全及び/又はそれらの前兆は、いくらか予想可能な因子(例えば、臓器機能障害/不全につながり得る疾患及び状態についての前記の説明を参照されたい)によって、又は予期しない原因、例えば、事故(娯楽及び非娯楽の)、戦争、診断未確定のアレルギー、若しくは他のリスク因子などによる外傷などによって引き起こされる。疾患の「処置」は、1種以上のOCSの投与前又は投与時に存在した疾患の少なくとも1つの症状の、減少若しくは弱化、又はいくつかの例においては完全な根絶を伴う。したがって、例えば、虚血の処置は、虚血に関連する損傷を予防又は処置することを含み、例えば、敗血症の処置は、敗血症に関連する損傷を予防又は処置することを含む。
【0105】
当業者は、1つ以上の臓器機能障害、臓器不全、及び/又は臓器機能障害若しくは不全の前兆である1つ以上の状態が、併発され得ること、すなわち、対象又は個体において同時に存在し得ることを認識するであろう。例えば、ある対象は、結果として臓器不全を引き起こす活動性敗血症を有し得る。したがって、予防及び/又は処置は、敗血症の処置が、同時に、臓器不全の発生を防ぎ得るか、又は虚血の処置が、OCSの投与がなかったら臓器不全につながるであろう、虚血性事象の後に生じる炎症を予防又は処置し得るという点において重なり得る。
【0106】
本明細書において説明される方法及び組成物において使用されるOCSの例としては、これらに限定されるわけではないが、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)、5-コレステン,3b,25-ジオール,ジスルフェート(25HCDS)、(5-コレステン,3,27-ジオール,3-サルフェート)、(5-コレステン,3,27-ジオール,3,27-ジスルフェート)、(5-コレステン,3,7-ジオール,3-サルフェート)、(5-コレステン,3,7-ジオール,3,7-ジスルフェート)、(5-コレステン,3,24-ジオール,3-サルフェート)、(5-コレステン,3,24-ジオール,3,24-ジスルフェート)、及び(5-コレステン,3-オール,24,25-エポキシ-3-サルフェート)が挙げられる。25HC3Sの開示は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第8,399,441号に見出される。25HCDSの開示は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるWO2013/154752に見出される。ある特定の態様において、OCSは、(単独で又は組合せで)5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)及び5-コレステン,3b,25-ジオール,ジスルフェート(25HCDS)から選択される。さらなる態様において、OCSは、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)である。
【0107】
OCSは、典型的には、身体において自然に生じるOCSの合成版である。外因性OCSは、身体において天然に見出されない形態において、及び自然に生じる濃度より著しく高い濃度において投与され得る。25HC3Sの場合、通常のレベルは、典型的には、例えば、約2ng/ml以下から約5ng/mlまでの範囲である。OCS(例えば、25HC3S)で処置された患者の血液又は血漿中のOCS(例えば、25HC3S)の濃度は、一般に、約5ng/mlより高く、一般に、約50ng/mlから約5000ng/ml、例えば、約80ng/mlから約3000ng/ml、例えば、約100から約2000ng/ml又は約200から約1000ng/mlの範囲である。
【0108】
本明細書において使用される場合、「臓器」は、有機体の身体においていくつかの特殊な機能を実行する細胞及び組織を含む、分化した及び/又は比較的独立した身体の構造体を意味する。「臓器系」は、身体機能の実行において協働する2つ以上の臓器を意味する。中腔臓器は、中空管若しくは袋を形成するか、又は腔を含む内部内臓器官(内臓)である。1種以上のOCSの投与又はそれとの接触によりその機能障害又は不全が予防及び/又は処置される例示的臓器としては、これらに限定されるわけではないが、心臓、肺(例えば、例えば、慢性ぜん息などに関連した肺線維症によって損傷を受けた肺)、肝臓、膵臓、腎臓、脳、腸、結腸、甲状腺などが挙げられる。いくつかの場合において、1種以上のOCSの投与によって予防及び/又は処置される機能障害又は不全は、肝臓以外の臓器、例えば、心臓、肺、膵臓、腎臓、脳、腸、結腸などに関与する。一般に、本明細書において説明される方法及び組成物において、「臓器」について言及する場合、特に明記されない限り、「臓器系」も包含されると理解すべきである。
【0109】
「臓器機能障害」は、臓器がその予期される機能を実行しない状態又は健康状態を意味する。臓器の機能は、生理学的範囲内でのそれぞれの臓器の予期される機能を表す。当業者は、健康診断中の臓器のそれぞれの機能について知っている。臓器機能障害は、典型的には、場合により解剖学的傷害の不在下において、進行性で潜在的に可逆的な臓器の生理学的機能障害へと進行する臨床的な症候群に関与する。
【0110】
「臓器不全」は、外部の臨床的介入なしに正常なホメオスタシスを維持することができない程度の臓器機能障害を意味する。
【0111】
「急性臓器機能障害」は、通常は先行疾患を有さない患者において、急速に-数日又は数週間で(例えば、26週間以内、13週間以内、10週間以内、5週間以内、4週間以内、3週間以内、2週間以内、1週間以内、5日以内、4日以内、3日以内、又は2日以内に)生じる臓器機能の低下を意味する。
【0112】
「急性臓器不全」は、通常は先行疾患を有さない患者において、急速に-数日又は数週間で(例えば、26週間以内、13週間以内、10週間以内、5週間以内、4週間以内、3週間以内、2週間以内、1週間以内、5日以内、4日以内、3日以内、又は2日以内に)生じる臓器機能の喪失を意味する。例えば、用語「急性腎不全」は、身体における老廃物の蓄積を結果として引き起こすのに十分な、腎臓機能の急速な悪化を意味する。急性腎不全については、以下においてより詳しく説明する。
【0113】
本明細書において使用される場合、「虚血」は、臓器への血流の減少を意味する。
【0114】
用語「敗血症(sepsis)」及び「敗血症(septicemia)」は、微生物及びそれらの関連内毒素による血流の侵襲により結果として引き起こされる病的状態を意味する。
【0115】
「内毒素」は、微生物細胞の任意の有害成分、例えば、グラム陰性細菌の細胞壁に由来するリポポリサッカライド、グラム陽性菌に由来するペプチドグリカン、及び真菌の細胞壁に由来するマンナンを意味する。
【0116】
酸素化コレステロール硫酸塩(OCS)の投与の説明
この方法の実施は、一般に、臓器機能障害若しくは不全を患っているか又はそれを発症するリスクがあるか、又は臓器機能障害若しくは不全に関連する状態にある患者を識別する工程、及び適切な経路によって受容可能な形態の1種以上のOCSを投与する工程を伴う。投与される正確な投与量は、個々の患者の年齢、性別、体重、及び健康状態全体、並びに疾患の正確な原因に応じて変わり得る。しかしながら、一般的に、哺乳類(例えば、ヒト)への投与の場合、24時間あたり体重1kgあたり化合物約0.001から約100mg以上、好ましくは24時間あたり体重1kgあたり化合物約0.01から約50mg、より好ましくは24時間あたり体重1kgあたり化合物約0.1から約10mgの範囲の投与量が効果的である。一日用量は、一般に、1日あたり一人あたりOCS、例えば、25HC3S(又はそれらの薬学的に許容可能な塩)約0.1ミリグラムから約5000ミリグラムの範囲である。いくつかの態様において、用量は、1日あたり一人あたり約10ミリグラムから約2000ミリグラム、又は1日あたり一人あたり約100ミリグラムから約1000ミリグラムである。用量は、投与経路、バイオアベイラビリティ、及び投与される特定の剤型、並びに予防又は処置される病気の性質によって変わるであろう。さらに、有効用量は、患者の性別、年齢、及び他の状態、並びに処置される疾患状態の程度又は進行などの因子に応じて変わり得る。
【0117】
投与は、経口又は非経口投与、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内注射、腹腔内注射などであってもよいし、又は他の経路によって(例えば、経皮、舌下、直腸及び頬側送達によって、エアゾールの吸入によって、膣内に、鼻腔内に、局所的に、点眼剤として、スプレー剤によってなど)行ってもよい。投与経路は、処置される性質又は状態に依存し、例えば、臓器傷害並びに/又は臓器不全並びに/又は関連するネクローシス及び/若しくはアポトーシスのタイプ又は程度、並びに処置が予防的であるかそれとも回復に効果を及ぼすことが意図されるか否かに依存するであろう。例えば、臓器機能障害が生じる前に予防的効果を達成するために、経口服用は、特に経口投与されたOCSの優れたバイオアベイラビリティを考慮して、十分であり得る。さらに、任意の手段による化合物の投与は、単一の治療方法として、又は他の治療法及び処置様式、例えば、食事療法との併用において実施され得る。
【0118】
OCSが投与される対象は、一般に、哺乳類、多くの場合はヒトであるが、これは、いつもそうであるというわけではない。例えば、コンパニオンペット(ネコ、イヌなど)、又は家畜及び飼育動物、ウマ、さらには特別な価値を有するか又は獣医の対象に該当する「野生」動物、例えば、保護区又は動物園の動物、野生に戻す予定の負傷した動物などに対する、この技術の獣医学的用途も想到される。
【0119】
いくつかの態様において、組成物は、対象を苦しめている病気に応じて、他の処置様式、例えば、様々な痛み止め薬、抗関節炎剤、様々な化学療法剤、抗生物質剤などと併用して投与される。「と併用して」は、1種以上の追加の薬剤の別々の調製物の投与、並びに本開示の組成物中への1種以上の追加の薬剤の封入の両方を意味する。特に、OCSは、臓器損傷を防ぐために、臓器損傷を生じることが知られている薬剤と併用して投与され得る。例えば、アスピリン、イブプロフェン、及びアセトアミノフェンはすべて、長期に摂取する場合、又はある特定の尊ぶべき群(例えば、非常に若い人や高齢者など)によって摂取される場合、又は過剰用量が摂取される場合などに、重大な臓器損傷を与える潜在的副作用を有する。したがって、少なくとも1種のOCSと1種以上のそのような薬剤とを含む剤形が想到される。
【0120】
アスピリン-、イブプロフェン-、又はアセトアミノフェン誘発臓器傷害の予防において有効なOCSの量は、標準的な臨床技術によって特定することができる。さらに、場合により、最適用量範囲の識別に役立てるために、インビトロ又はin vivoアッセイを用いることができる。用いられる正確な用量は、投与経路に応じても変わるであろうし、開業医の判断及び各患者の情況に従って決定することができる。しかしながら、経口投与にとって好適な一日用量は、一般に、1日あたり一人あたりOCS、例えば、25HC3S(又はそれらの薬学的に許容可能な塩)約0.1ミリグラムから約5000ミリグラムである。いくつかの態様において、経口用量は、1日あたり一人あたり約10ミリグラムから約2000ミリグラム、又は1日あたり一人あたり約100ミリグラムから約1000ミリグラムである。経口組成物は、例えば、潜在的に危険な薬剤が長期間(数週間、数カ月、又は数年)にわたって摂取される場合、一般に、予防的使用が想到され、臓器損傷又は他の副作用を予防することが望まれる。しかしながら、既に生じている損傷に対して処置が必要な場合、組成物は、一般に、非経口投与、より通常には静脈内投与用に製剤化される。
【0121】
化合物は、純粋な形態において、若しくは好適なエリキシル剤、結合剤など(一般に「担体」と呼ばれる)を含む薬学的に許容可能な剤型において、又は薬学的に許容可能な塩(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、若しくはリチウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウムなど)若しくは他の錯体として、投与され得る。薬学的に許容可能な剤型は、注射可能な剤形及び固体剤形、例えば、錠剤及びカプセル剤並びにエアロゾル化された剤形を調製するために慣習的に用いられる液体若しくは固体材料を含むことを理解されたい。さらに、化合物は、水性ビヒクル又は油ベースのビヒクルと共に製剤化され得る。組成物(例えば、注射可能な組成物)の調製のための担体として水を使用することができ、これは、慣用的緩衝液及び組成物等張化薬剤も含み得る。他の潜在的添加剤及び他の材料(好ましくは、一般的に安全とみなされるもの[GRAS])としては、着色剤、風味剤、界面活性剤(TWEEN(登録商標)、オレイン酸など)、溶媒、安定化剤、エリキシル剤、及び結合剤又は封入剤(ラクトース、リポソームなど)が挙げられる。固体希釈剤及び賦形剤としては、ラクトース、デンプン、慣用的な崩壊剤、コーティング剤などが挙げられる。保存剤、例えば、メチルパラベン又は塩化ベンザルコニウムも使用することができる。剤型に応じて、活性成分(少なくとも1種のOCS)が組成物の約1%から約99%として存在すること、並びに媒剤としての「担体」が、組成物の約1%から約99%を構成することが予期される。本開示の医薬組成物は、任意の好適な薬学的に許容可能な添加剤又は助剤を、それらがOCSの治療効果を妨げない又は干渉しない程度にまで含み得る。同時投与又は同時処方され得る追加の好適な薬剤はさらに、例えば、アセトアミノフェン中毒を抑制するために使用される他の薬剤、これらに限定されるわけではないが、メチオニン及び/若しくはグルタチオン生合成経路の代謝物質、例えば、S-アデノシルホモシステイン(SAH)、S-メチルメチオニン(SMM)、シスチン、ベタインなど、又はそれらの様々な形態及び/若しくは塩、例えば、アセチルシステイン(例えば、静脈内N-アセチルシステイン))、様々な栄養補助食品なども含む。
【0122】
本開示の化合物の投与は、断続的であり得るか、又は逐次的若しくは連続的な一定の若しくは制御された速度においてであり得る。さらに、医薬製剤が投与される時刻及び1日あたりの回数は変わり得、医師などの熟練した開業医によって最良に決定される。例えば、化合物は、例えば臓器損傷を引き起こす薬剤などの過剰投与の1週間以内、例えば、1日以内、12時間以内、1時間以内、又は10分以内に投与され得る。化合物は、外科手術の前に少なくとも1カ月間又は少なくとも1週間又は少なくとも1日間外科手術の前に少なくとも1日1回(例えば、1日2回)、又は外科手術、例えば、臓器不全に関係するか又は関連する外科手術、又は臓器不全を引き起こし得る外科手術(例えば、意図的な虚血/再潅流を伴う外科手術))の間にも、投与され得る。化合物は、手術後、少なくとも1日間、少なくとも1週間、又は少なくとも1カ月間、少なくとも毎日(例えば、1日2回)投与してもよい。例えば、外科手術は、心臓手術(例えば、冠動脈バイパスグラフト術(CABG))、心臓血管手術、心肺移植、肺手術(例えば、肺塞栓症手術)、深部静脈血栓症(DVT)手術、脳手術、肝臓手術、胆道手術、腎臓手術(例えば、腎石手術)、消化管手術(例えば、腸手術、腸閉塞手術、憩室炎手術、又は腸捻転手術)、又は心室瘤手術であり得る。いくつかの場合において、例えば、処置される1種以上の臓器が肝臓を含む場合など、投与は、14日間以下にわたって、例えば、10日間以下、8日間以下、5日間以下、又は1日間以下にわたって行われ得る。
【0123】
OCSは、典型的には、固体形態、例えば、錠剤、丸剤、粉末剤、座剤、様々な徐放性若しくは持続放出性製剤などにおいて調製された組成物として、又は液体液剤、懸濁剤、乳剤など、又は注射及び/若しくは静脈内投与に好適な液体として、投与される。投与前の液体における溶液又は懸濁液にとって好適な固体形態も調製され得る。有効成分は、薬学的に許容可能で有効成分に適合性の賦形剤、例えば、薬学的に及び生理学的に許容可能な担体と混合され得る。好適な賦形剤としては、例えば、水、塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、又はそれらの組合せが挙げられる。さらに、組成物は、少量の助剤物質、例えば、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤などを含有し得る。経口剤形は、様々な増粘剤、風味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤、結合剤、コーティング剤などを含み得る。本開示の組成物は、意図された投与経路にとって好適な形態で組成物を提供するために、任意のそのような追加の成分を含有し得る。製剤中のOCSの最終的な量も変わり得るが、一般に、約1~99%であり得る。本開示における使用にとって好適なさらなる他の製剤は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Philadelphia, Pa., 19th ed.(1995);及びAkers, Michael J. Sterile Drug Products: Formulation, Packaging, Manufacturing and Quality; publisher Informa Healthcare (2010)に見出すことができる。
【0124】
本開示の組成物(調製物)は、当業者に公知の多くの好適な手段によって、例えば、これらに限定されるわけではないが、経口的に、注射によって、直腸内に、吸入によって、膣内に、鼻腔内に、局所的に、点眼剤として、スプレー剤によってなどのいずれかのために処方され得、並びにそれらによって投与され得る。いくつかの態様において、投与の様式は、経口的に、注射又は静脈内投与である。典型的には、経口投与は、例えば、そうでなければ、長期間、例えば、数週間、数カ月、又は数年にわたって臓器損傷性の薬剤を摂取する患者において生じるであろう、臓器損傷(例えば、ネクローシス及び/又はアポトーシスによって生じる)を予防するために、予防的に使用される場合に特に効果的である。損傷が既に生じている場合、及びとりわけ急性臓器不全と診断される場合、投与の経路は、一般に、OCSを速く送達するために非経口又は静脈内である。
【0125】
(臓器及び/又は臓器系の機能障害及び/又は不全の予防及び/又は処置)
いくつかの態様において、本開示は、それを必要とする対象において1つ以上の臓器又は臓器系の機能障害及び/又は不全を予防及び/又は処置する方法を提供する。いくつかの態様において、臓器及び/又は臓器系の機能障害及び/又は不全は急性である。
【0126】
この方法は、治療有効量又は十分な量の1種以上のOCSを対象に投与する工程を含み得る。量は、処置される臓器の機能障害を予防及び/又は処置するのに十分であるか、或いは処置される臓器の不全を予防及び/又は処置するのに十分である。いくつかの態様において、処置される臓器不全は、多臓器機能障害症候群(MODS)である。この方法は、一般に、そのような処置を必要とする対象、例えば、臓器の機能障害又は不全の影響を受けやすいか又は既に臓器機能障害又は不全の少なくとも1つの兆候又は症状を示しているために、そのような処置によって恩恵を受ける対象、を識別又は診断する工程を含む。例えば、対象は、特定の患者集団のメンバー、例えば、急性傷害(細菌感染、重度の熱傷、外傷などから結果として引き起こされる急性臓器障害)、又は慢性的な状態(臓器損傷性医薬に対する長期曝露)、及び/又は下記においてより詳細に説明される他の原因によって結果として引き起こされる疾患を有する患者であり得る。
【0127】
本開示によって対処される患者群は、以下のようにも定義することができる。SOFA系は、1994年の欧州集中治療医学会のコンセンサス会議及び1996年の改訂版において作製された。SOFAは、多臓器不全を毎日測定する6つの臓器の機能障害/不全のスコアである。各臓器は、0(正常)から4(最も異常)に等級付けされ、0から24ポイントのデイリースコアを提供する。SOFAの目的は、臨床スタッフのための単純で信頼できる継続的なスコアを作製することである。集中治療室(ICU)又は病院への入院の最初の数日間においての臓器機能障害の連続した評価は、予後の良好な標示である。平均及び最高SOFAスコアの両方は、特に有用な転帰の予測指標である。
【0128】
具体的な一態様において、本発明による患者群は、下側閾値として少なくとも1つのSOFAスコア(病院又は集中治療室(ICU)への入院の当日において、呼吸、又は肝臓、又は凝血、又は心臓血管、又はCNS、又は腎臓の臨床基準の1つに対して1である)を有するものである。したがって、前記患者群は、本発明による治療的介入を必要とし、したがって、臓器機能障害又は臓器不全の予防又は減少を必要とする。
【0129】
別の具体的な態様において、本開示による患者群は、下側閾値として少なくとも2つのSOFAスコア(病院又は集中治療室(ICU)への入院の当日において、呼吸、及び/又は肝臓、及び/又は凝血、及び/又は心臓血管、及び/又はCNS、及び/又は腎臓の臨床基準の2つそれぞれに対して1である)を有するものである。したがって、前記患者群は、本開示による治療的介入を必要とし、したがって、臓器機能障害又は臓器不全の予防又は減少を必要とする。
【0130】
別の具体的な態様において、本開示による患者群は、下側閾値として少なくとも3つのSOFAスコア(病院又は集中治療室(ICU)への入院の当日において、呼吸、及び/又は肝臓、及び/又は凝血、及び/又は心臓血管、及び/又はCNS、及び/又は腎臓の臨床基準の3つそれぞれに対して1である)を有するものである。したがって、前記患者群は、本開示による治療的介入を必要とし、したがって、臓器機能障害又は臓器不全の予防又は減少を必要とする。
【0131】
別の具体的な態様において、本開示による患者群は、下側閾値として少なくとも4つのSOFAスコア(病院又は集中治療室(ICU)への入院の当日において、呼吸、及び/又は肝臓、及び/又は凝血、及び/又は心臓血管、及び/又はCNS、及び/又は腎臓の臨床基準の4つそれぞれに対して1である)を有するものである。したがって、前記患者群は、本開示による治療的介入を必要とし、したがって、臓器機能障害又は臓器不全の予防又は減少を必要とする。
【0132】
別の具体的な実施形態において、本開示による腎臓機能障害又は腎不全の予防又は減少を必要とする患者群は、少なくとも1、又は2、又は3、又は4の腎臓SOFAスコアを有する。
【0133】
別の具体的な実施形態において、本開示による肝臓機能障害又は肝不全の予防又は減少を必要とする患者群は、少なくとも1、又は2、又は3、又は4の肝臓SOFAスコアを有する。
【0134】
別の具体的な実施形態において、本開示による心臓機能障害又は心臓不全の予防又は減少を必要とする患者群は、少なくとも1、又は2、又は3、又は4の心臓血管SOFAスコアを有する。
【0135】
別の具体的な実施形態において、本開示による肺臓機能障害又は肺臓不全の予防又は減少を必要とする患者群は、少なくとも1、又は2、又は3、又は4の呼吸器系SOFAスコアを有する。
【0136】
一般に、初期スコアに非依存的に、ICU又は病院での最初の48時間の間のSOFAスコアの増加は、少なくとも50%の死亡率を予測する。
【0137】
したがって、別の具体的な実施形態において、本開示による臓器機能障害/不全に対する治療的介入を必要とする患者群は、病院又は集中治療室(ICU)への入院後の最初の48時間内に増加した少なくとも1つのSOFAスコアを有することによって特徴付けられる。
【0138】
いくつかの態様において、不全を起こしやすい1つ若しくは複数の臓器又は臓器系は、以下:心臓血管、呼吸器、腎臓、血液系、神経性、胃腸系臓器、肝臓、心臓、肝臓、肺、腸、結腸、腎臓、脾臓、及び脳のうちの少なくとも1つのメンバーを含む。
【0139】
いくつかの実施形態において、OCSは、静脈内投与される流体と組み合わせて使用することが意図され、この場合、前記組合せは、患者の慢性若しくは急性疾患又は急性状態を有する対象の治療において、前記患者の臓器を保護するために使用される。静脈内投与される流体は、当然のことながら、全身投与される。
【0140】
一実施形態において、その臓器を保護することを必要とする慢性又は急性疾患若しくは状態を有する対象は、対象が静脈内流体を受ける必要性によって特徴付けられる。
【0141】
本開示の少なくとも1つのOCSは、臓器機能障害及び臓器不全の予防又は減少のために適用することができ、したがって、少なくとも1つのOCSは、必ずしも、慢性若しくは急性疾患又は急性の状態それ自体に対する一次処置又は第一選択処置の任意の方法を対象としたものではなく、したがって、それらを基礎疾患と呼ぶことができる。このことは、本開示は必ずしも、それぞれの臓器に存在する、例えば、感染症、癌、又は腫瘍などを治癒/治療する療法を提供するわけではなく、それぞれの臓器を生理的機能に向けて復活させるための療法を提供するということを意味する。したがって、本開示の範囲内の患者の慢性若しくは急性疾患又は急性の状態のための療法は、急性事象として、任意の種類の不十分な又は乏しい臓器機能を含む。
【0142】
(腎機能障害及び/又は腎不全の予防及び/又は処置)
腎臓疾患は、急性又は慢性であってもよく、或いは以下において説明するような慢性腎不全の急性増悪でさえあってもよい。
【0143】
急性腎傷害(AKI、以前は急性腎不全(ARF)と呼ばれていた)は、例えば約7日以内に発症する腎臓機能の突然の喪失を意味する。AKIは、一般に、任意の原因、例えば、低血圧、腎臓に有害な物質への曝露、腎臓での炎症プロセス、又は尿の流れを妨害する尿路の閉鎖、による腎血流の減少(腎虚血)によって生じる腎臓組織への損傷が原因で生じる。急性腎臓傷害の原因としては、長時間にわたって腎臓の正常な血液の流れが奪われるような、事故、傷害、又は外科手術に由来する併発症が挙げられる。心臓バイパス手術は、そのような手技の一例である。偶発的又は薬物、例えば、抗生物質又は化学療法剤などの化学過負荷による薬物の過剰投与も、急性腎傷害の発現を引き起こし得る。AKIは、特性臨床検査、例えば、血中尿素窒素(BUN)及びクレアチニンの上昇、腎臓が十分な量の尿を産生できないこと(例えば、成人で1日あたり400ml未満、小児で0.5mL/kg/h未満、又は乳幼児で1mL/kg/h未満)に基づいて診断される。したがって、本方法は、対象におけるこれらのパラメータの1つ以上を測定又は検出する工程、及び、測定されたパラメータの1つ以上が陽性の場合、したがって、約7日以内に発症する腎臓機能不全の存在を示す場合に、次いで、急性腎傷害を診断する工程、及び本明細書において説明されるように、対象に少なくとも1種のOCSを投与する工程を含み得る。
【0144】
慢性腎臓疾患(CKD)は、通常、ゆっくりと発症し、最初、患者は、わずかな症状しか示し得ない。CKDは、不可逆の急性疾患又は疾患進行の一部による長期の結果であり得る。CKDは、糖尿病、長期にわたる非制御の高血圧症、腎多嚢胞病、感染病、例えばハンタウイルス、及びある特定の遺伝的素因、例えば、APOL1遺伝子変異体を含む、多数の原因を有する。本方法は、CKDを有する対象に少なくとも1種のOCSを投与する工程を含む。
【0145】
いくつかの場合において、患者群が腎臓機能障害/不全であることを示す臨床基準は以下の通りである:
腎臓機能障害/不全のリスクがある患者:GFRが>25%の減少、血清クレアチニンが1.5倍に増加、又は6時間で<0.5ml/kg/時の尿産生
現在肝臓傷害を有する患者:GFRが>50%の減少、クレアチニンが二倍、又は12時間で<0.5ml/kg/時の尿産生
腎不全を有する患者:GFRが>75%の減少、クレアチニンが3倍若しくはクレアチニン>355μmol/l(>44の上昇)(>4mg/dl)、又は24時間で0.3ml/kg/時未満の尿排出量
腎臓機能を喪失した患者:持続的な急性腎臓傷害(AKI)又は4週間を超える腎臓機能の完全な喪失
末期の腎疾患:3カ月を超える腎臓機能の完全な喪失。
【0146】
アスピリン、イブプロフェン、及びアセトアミノフェン(パラセタモール)などの薬物の過度の使用も、慢性腎疾患を引き起こし得る。このタイプの損傷は、これらの薬剤を少なくとも1種のOCSと組み合わせて投与することによって、又は薬剤の投与と連携したOCSの投与を介して(例えば、その前、又はその後、又は同時だが別々の調製物において)、或いは、1)肝臓に有毒な薬物、例えば、アスピリン、イブプロフェン、及び/又はアセトアミノフェンと、2)少なくとも1種のOCSと、を含む組成物を投与することによって、避けることができる。したがって、アスピリンと1種以上のOCSとを含む組成物が提供され、イブプロフェンと1種以上のOCSとを含む組成物及びアセトアミノフェンと1種以上のOCSとを含む組成物も同様である。
【0147】
アスピリンと1種以上のOCSとを含む組成物において、アスピリンは、一般に、単位用量(例えば、丸剤、錠剤、液体などの単一の経口剤形)あたり80mgから1000mgのおおよその範囲において、すなわち、約80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、又は1000mgにおいて存在する。イブプロフェンと1種以上のOCSとを含む組成物において、イブプロフェンは、単位用量(例えば、丸剤、錠剤、液体などの単一の経口剤形)あたりおよそ50mgから500mg、通常はおよそ100mgから350mg、最も通常にはおよそ125mgから250mgの範囲において存在する。イブプロフェンの例示的用量としては、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、及び500mgが挙げられる。アセトアミノフェンの投与量は、用量あたり約50から約4000mgの範囲であり、例えば、約50、75、100、125、150、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800.825、850、875、900、925、950、975、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、又は約4000mg/用量である。
【0148】
そのような組成物は、固体形態、例えば、錠剤、丸剤、粉末剤、座剤、様々な徐放性若しくは持続放出性製剤などで、又は液体液剤、懸濁剤、乳剤などで、又は注射及び/又は静脈内投与に好適な液体として、調製され得る。投与前の液体における溶液又は懸濁液にとって好適な固体形態も調合され得る。有効成分は、薬学的に許容可能で有効成分に適合性の賦形剤と混合され得る。好適な賦形剤としては、例えば、水、塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、又はそれらの組合せが挙げられる。さらに、組成物は、少量の助剤物質(例えば、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤など)を含有し得る。経口剤形は、様々な増粘剤、風味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤、結合剤、コーティング剤などを含み得る。本開示の組成物は、意図された投与経路にとって好適な形態において組成物を提供するために、任意のそのような追加の成分を含有し得る。製剤中のアスピリン、イブプロフェン、及び/又はアセトアミノフェンの最終的な量は変わり得るが、一般に、約1~99%であり得る。製剤中のOCSの最終的な量も変わり得るが、一般に、約1~99%であり得、特に推奨される用量は、前記において説明される量である。本開示における使用にとって好適なさらなる他の製剤は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Philadelphia, Pa., 19th ed.(1995);及びAkers, Michael J. Sterile Drug Products: Formulation, Packaging, Manufacturing and Quality; publisher Informa Healthcare (2010)に見出すことができる。
【0149】
本開示の組成物(少なくとも1種のOCS、例えば、25HC3Sも含む)において使用され得るアセトアミノフェン製剤は、例えば、米国特許第6,936,601号、同第6,926,907号、同第6,924,273号、同第6,916,788号、同第6,855,310号、同第6,852,336号、同第6,841,544号、同第6,833,362号、同第6,828,328号、同第6,787,164号、同第6,740,333号、同第6,702,850号、同第6,696,066号、同第6,686,390号、同第6,642,243号、同第6,627,234号、同第6,622,856号、同第6,613,346号、同第6,602,518号、同第6,593,331号、同第6,586,023号、同第6,569,439号、同第6,566,401号、同第6,566,361号、同第6,544,548号、同第6,528,097号、同第6,524,623号、同第6,511,982号、同第6,509,380号、同第6,492,334号、同第6,485,747号、同第6,482,831号、同第6,479,551号、同第6,475,526号、同第6,475,494号、同第6,458,809号、同第6,444,665号、同第6,440,983号、同第6,429,223号、同第6,413,512号、同第6,406,716号、同第6,391,886号、同第6,391,337号、同第6,391,294号、同第6,384,054号、同第6,383,527号、同第6,383,515号、同第6,375,957号、同第6,369,084号、同第6,369,082号、同第6,355,666号、同第6,350,467号、同第6,335,034号、同第6,309,669号、同第6,306,842号、同第6,303,632号、同第6,284,274号、同第6,277,384号、同第6,254,891号、同第6,245,802号、同第6,245,357号、同第6,242,493号、同第6,225,295号、同第6,221,377号、同第6,217,911号、同第6,217,907号、同第6,214,386号、同第6,187,338号、同第6,162,647号、同第6,159,500号、同第6,139,861号、同第6,127,352号、同第6,126,967号、同第6,077,533号、同第6,077,530号、同第6,057,347号、同第6,054,451号、同第6,048,540号、同第6,028,222号、同第6,007,841号、同第5,998,434号、同第5,972,916号、同第5,968,551号、同第5,965,167号、同第5,965,166号、同第5,945,416号、同第5,942,530号、同第5,919,826号、同第5,914,129号、同第5,897,880号、同第5,891,801号、同第5,891,477号、同第5,872,145号、同第5,863,922号、同第5,840,731号、同第5,837,729号、同第5,827,852号、同第5,776,462号、同第5,773,031号、同第5,739,139号、同第5,733,578号、同第5,724,957号、同第5,654,334号、同第5,639,475号、同第5,612,061号、同第5,603,959号、同第5,538,959号、同第5,474,757号、同第5,468,482号、同第5,466,865号、同第5,458,879号、同第5,417,980号、同第5,409,944号、同第5,409,709号、同第5,336,691号、同第5,322,689号、同第5,296,241号、同第5,273,759号、同第5,260,340号、同第5,238,686号、同第5,204,118号、同第5,154,926号、同第5,100,675号、同第5,036,097号、同第5,023,085号、同第5,011,688号、同第4,971,960号、同第4,971,785号、同第4,829,064号、同第4,822,781号、同第4,812,446号、同第4,794,112号、同第4,730,007号、同第4,703,045号、同第4,478,822号、同第4,476,115号、同第4,466,960号、同第4,460,368号、同第4,401,665号、同第4,314,989号、同第4,307,073号、同第4,260,629号、同第4,242,353号、同第4,237,140号、同第4,234,601号、同第4,233,317号、同第4,233,316号、同第4,233,315号、同第4,233,314, 号、同第4,233,313号、同第4,207,340号、同第4,132,788号及び同第4,049,803号、並びに係属中の米国特許出願公開第2012/0172324号に記載されており、これらの文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0150】
様々なタイプの画像化のために使用されるコントラスト強調染料、特に、ヨウ素含有染料も、特に、影響を受けやすい集団、例えば、高齢者、糖尿病患者、既に何らかの形態の腎障害を有している人などにおいて、腎臓損傷を引き起こすことが知られている。コントラスト誘起腎障害は、例えば、X線又はコンピューター断層撮影(CT)スキャンなどのための染料の投与後における25%を超える血清クレアチニン増加又は0.5mg/dLの血清クレアチニンの絶対値増加のどちらかとして定義される。ヨウ素含有染料としては、これらに限定されるわけではないが、イオヘキソール、イオジキサノール、及びイオベルソール、並びに他のイオン性ヨード染料、例えば、ダイアトリゾエート(Hypaque 50)、メトリゾアート(Isopaque 370)、及びイオキサグレート(Hexabrix);並びに非イオン性造影剤、例えば、イオパミドール(Isovue 370)、イオヘキソール(Omnipaque 350)、イオキシラン(Oxilan 350)、イオプロミド(Ultravist 370)、及びイオジキサノール(Visipaque 320)が挙げられる。本明細書において説明されるOCSは、例えば、そのような染料の投与前、及び/又は染料と同時に、及び/又は染料の投与後に投与された場合、染料に曝露されても腎臓値を正常なレベルに維持するために、又は染料の投与後にそのような値の安全で正常な範囲への回復を促進若しくは速めるために、そのような染料の影響を防ぐか又は減少させることができる。
【0151】
(肝機能障害/肝不全の予防及び/又は処置)
本開示の例示的態様は、急性肝不全、特にネクローシスによって引き起こされる急性肝不全、の処置を伴う。急性肝不全は、肝細胞機能障害への急速な進行、特に、既知の以前の肝臓疾患を有さない患者における凝固障害及び精神状態の変化(脳障害)、を伴う。この病気は、その共通のテーマが肝細胞の重大な傷害及び/又は大量ネクローシス、例えば、肝細胞の80~90%の機能の喪失である、多くの状態を包含する。肝細胞機能の喪失は、肝疾患の最初の兆候(例えば、黄疸)のすぐ後の重度の合併症の急速な出現によって特徴付けられる多臓器反応を引き起こす。合併症としては、例えば、血清アルブミンのレベル及び血液中のプロトロンビン時間によって測定されるような、肝脳障害及びタンパク質合成の悪化が挙げられる。いまのところ、急性肝不全のための処置オプションは限定されており、死亡は、しばしば、肝臓が元の損傷から回復し始めた後にさえ突然に生じる。
【0152】
急性肝不全の診断(すなわち、急性肝不全を経験しており、本方法の実践から恩恵を受け得る対象の識別)は、一般に、健康診断、検査所見、患者病歴、及び確立した過去の病歴、例えば、精神状態の変化、凝固障害、発現の速さ、及び既知の以前の肝疾患が無いことに基づいている。「急速な」の正確な定義は、使用される特定の慣例に依存する。最初の肝臓症候群の発現から脳障害の発現までの時間に基づいた異なる細分が存在する。1つのスキームは、「急性肝不全」を任意の肝臓症候群の発現の26週間内での脳障害への進行として定義する。これは、8週間以内での脳障害の発現を必要とする「劇症肝不全」と、8週後から26週前に脳障害の発現を表す「亜劇症肝不全」とに細分される。別のスキームは、「超急性」肝不全を7日間以内での発現として、「急性」肝不全を7から28日までの発現として、及び「亜急性」肝不全を28日から24週までの発現として定義する。これらの基準のいずれかによって急性肝不全経験していると識別された対象は、本明細書において説明される方法によって処置され得る。
【0153】
いくつかの場合において、肝機能障害/肝不全の患者群は、>1.2mg/dL、好ましくは>1.9mg/dL、より好ましくは>5.9mg/dLのビリルビンの下限閾値によって特徴付けられる。急性肝不全は、多くの潜在的原因を有し、なんらかの理由から急性肝不全を経験していると識別された対象は、本明細書において説明される方法によって処置することができる。考えられる原因としては:
アセトアミノフェン(ATMP)。アセトアミノフェン(パラセタモール、Tylenol(登録商標)、他)の過剰摂取は、米国における急性肝不全の最も一般的な原因である。急性肝不全は、非常に多量の用量のATMPを一回で一気に摂取した場合に生じ得、又は、推奨されるより多い用量を数日間にわたって毎日摂取した場合に生じ得る。慢性肝疾患を有する人は、高齢者、非常に若い人など、特に脆弱である。そのような対象において、ATMPの「過剰用量」は、慢性肝疾患を有さない人、又は高齢者でも非常に若くもない人にとって安全な用量又は一般的な用量であろう用量であり得る。本開示のこの態様は、以下において詳細に説明される。
処方薬。抗生物質、非ステロイド系抗炎症薬、及び抗痙攣薬を含むいくつかの処方薬は、急性肝不全を引き起こし得る。
ハーブ系サプリメント。キャバ、マオウ、頭蓋冠、及びボレイハッカを含む、漢方薬及びハーブ系サプリメントは、急性肝不全とつながりがある。
肝炎及び他のウイルス。A型肝炎、B型肝炎、及びE型肝炎は、急性肝不全を引き起こし得る。急性肝不全を引き起こし得る他のウイルスとしては、エプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス、及び単純性疱疹ウイルスが挙げられる。
毒素。急性肝不全を引き起こし得る毒素としては、時として食用種と間違われる、野生の毒キノコであるタマゴテングタケ(Amanita phalloides)が挙げられる。
自己免疫疾患。肝不全は、自己免疫性肝炎、免疫系が肝細胞を攻撃し、炎症及び傷害を引き起こす疾患によって引き起こされ得る。
肝臓の静脈の疾患。血管病、例えば、バッド-キアリ症候群は、肝臓の静脈に阻害物を形成し得、急性肝不全につながり得る。
代謝性疾患。稀な代謝性疾患、例えば、ウィルソン病及び急性妊娠脂肪肝は、急性肝不全を引き起こし得る。
癌。肝臓において始まる癌又は身体の他の部位から肝臓に広がる癌は急性肝不全を引き起こし得る。
他のもの。他の原因としては、薬物投与に対する特異体質反応(例えば、テトラサイクリン、トログリタゾン)、過剰なアルコール摂取(重度のアルコール性肝炎)、ライ症候群(ウイルス感染している小児における急性肝不全、例えば、アスピリンがある役割を果たす水痘など)、並びに他のもの、が挙げられる。急性肝不全の多くの症例は明白な原因を持たない。
【0154】
任意の原因に由来する急性肝不全は、本開示の方法及び組成物によって予防及び/又は処置することができる。組成物は、肝臓に対して潜在的に有害である少なくとも1種の医薬又はハーブ系サプリメントと、少なくとも1種のOCS、例えば、25HC3Sとを含み得る。
【0155】
さらに、肝臓毒性の様々な症状は、末期のALFへの進行の前に、本開示の方法及び組成物によって予防及び/又は処置され得る。例示的な症状としては、これらに限定されるわけではないが、以下:脳浮腫及び脳障害(肝脳障害、昏睡、脳質ヘルニアなどにつながり得る);凝固障害(例えば、プロトロンビン時間の延長、血小板機能低下症、血小板減少症、脳内出血など);腎不全(例えば、結果として急性腎尿細管壊死を引き起こす元の傷害、例えば、ATMP過剰用量に起因するか、又は肝腎症候群若しくは機能的腎不全につながる収縮過多性循環に由来する);炎症及び感染症(例えば、全身性炎症性症候群、これは、感染の有無に関係なく、敗血症及び多臓器不全につながり得る);様々な代謝異常、例えば、低ナトリウム血症、低血糖症、低カリウム血症、低リン酸塩血症、代謝性アルカローシス、及び乳酸アシドーシス(主にアセトアミノフェンの過剰用量において生じる);血行動態及び心肺停止の悪化(例えば、低血圧、組織での酸素摂取の減少、組織低酸素、及び乳酸アシドーシス);肺合併症(例えば、敗血症の有無での急性呼吸窮促迫症候群(ARDS)、肺出血、胸膜浸出液、肺拡張不全、及び肺内シャントなど);妊娠末期併発症(その場合、ALFの早期臨床症状としては、活力低下、食欲減退、暗琥珀色の尿、濃い黄疸、嘔気、嘔吐、及び腹部膨隆などが挙げられる)が挙げられる。これらの症状又は状態の1つ以上を示す対象は、少なくとも1種のOCSの投与から恩恵を受け得る。
【0156】
(ATMP毒性に起因する急性肝不全)
いくつかの態様において、本開示は、ATMP関連毒性及びそれらに関連する症状又はそれらの特性、とりわけ、上記において説明されるような肝傷害又はALFを予防及び/又は処置するための方法及び組成物を提供する。ATMP毒性は、世界中において中毒の最も一般的な原因の1つであり、米国及び英国では、急性肝不全の最も一般的な原因である。ATMP毒性を有する多くの個体は、過剰投与後の最初の24時間は全く症状を有し得ない。それ以外の個体は、最初に、非特異的な病訴,例えば、あいまいな腹痛及び嘔気を有し得る。疾患が進行すると、通常は肝不全の兆候が現れ、そのようなものとしては、低い血糖値、低血液pH、容易な出血、及び肝脳障害が挙げられる。肝臓への損傷、又は肝臓毒性は、ATMP自体に起因するわけではないが、その代謝物質の1つであるN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)(N-アセチルイミドキノンとしても知られている)によって生じる。NAPQIは、肝臓の天然抗酸化グルタチオンを使い果たし、肝臓の細胞に直接損傷を与え、肝不全につながる。ATMP毒性に対するリスク要因としては、過度の慢性アルコール摂取、絶食又は神経性無食欲症、及びイソニアジドなどのある特定の薬物の使用が挙げられる。
【0157】
本明細書において提示されるデータは、25HC3Sの投与が、アセトアミノフェン(ATMP)誘発急性肝不全を患っている対象の死亡率を劇的に減少させることを示している。それを必要とする患者においてALF、とりわけ、ATMP毒性に関連する肝臓機能障害及び/又は急性肝不全を予防又は処置する方法が、本開示において説明される。この方法は、ATMP毒性を予防及び/又は処置するために、ATMPの投与の前に、及び/又はATMPの投与と同時に、及び/又はATMPの投与の後に、少なくとも1種のOCS(例えば、25HC3S)を投与する工程を含み得る。
【0158】
本開示は、上記の「腎機能障害及び腎不全」において説明された、少なくとも1種のOCSと一緒に製剤化されたアセトアミノフェンを含む新規の組成物も提供する。少なくとも1種のOCSは、組成物が投与される対象においてアセトアミノフェンの毒性を防ぐ(又は少なくとも減少させる)のに十分な量に組成物中に存在する。組成物は、少なくとも1種の実質的に精製されたOCS、アセトアミノフェン、及び1種以上の薬学的に好適な担体を含む。
【0159】
(膵臓機能障害及び不全の予防及び/又は処置)
膵臓は、脊椎動物の消化器系及び内分泌系において機能する腺器官である。それは、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドなどのいくつかの重要なホルモンを産生し、小腸での栄養素の消化及び吸収を助ける消化酵素を含む膵液も分泌する。膵臓の炎症(膵臓炎)は、いくつかの原因を有し、典型的には即座の処置を必要とする。それは、突然始まって数日間続く急性であり得るか、或いは数年間にわたって生じる慢性であり得る。膵臓炎の症例の80パーセントは、アルコール又は胆石によって生じ、胆石は、急性膵臓炎の最も一般的な単一の原因であり、アルコールは、慢性膵臓炎の最も一般的な単一の原因である。重症膵炎は、臓器不全、ネクローシス、感染性ネクローシス、偽嚢胞、及び膿瘍に関連しており、約2~9%の死亡率を有し、ネクローシスが生じている場合にはより高くなる。重症膵炎は、以下:患者の年齢が55歳を超える;血液PO2酸素が60mmHg又は7.9kP未満である;白血球が>15,000WBC/マイクロリットル(mcL)である;カルシウムが<2mmol/Lである;尿素が>16mmol/Lである;乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)が>600iu/Lである;アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)が>200iu/Lである;アルブミンが<32g/Lである;及びグルコースが>10mmol/Lである、のうちの少なくとも3つが当てはまる場合に、診断される。
【0160】
本開示のある態様は、それを必要とする患者に少なくとも1種のOCSを投与することによる、膵臓機能障害/不全の処置である。好適な患者又は患者集団は、上記に列挙した症状及び評価基準のうちの少なくとも1つを示すとして、熟練した開業医によって識別される。
【0161】
(心臓機能障害/不全の予防及び/又は処置)
心不全(HF)は、しばしば、慢性心不全(CHF)を意味するために使用され、心臓が、身体の要求を満たすために血流を維持するのに十分にポンプ流送することができない場合に生じる。うっ血性心不全(congestive heart failure(CHF))又はうっ血性心不全(congestive cardiac failure(CCF))なる用語は、しばしば、慢性心不全と相互互換的に使用される。症状としては、共通して、息切れ(とりわけ、運動時、臥床時、及び就寝中の夜中)、過度の疲労、及び下肢腫脹が挙げられる。心不全の共通の原因としては、以前の心筋梗塞(心発作)を含む冠状動脈疾患、高血圧、心房細動、心弁膜疾患、及び心筋障害が挙げられる。心不全は、心臓の筋肉の一部が死んでいる心筋梗塞並びに完全に血流が止まっている心拍停止とは異なる。
【0162】
心不全は、典型的には、症状の病歴、並びに心エコー検査、血液検査、及び/又は胸部のX線撮影によって確認される身体所見に基づいて診断される。心エコー検査は、超音波を使用することにより、心拍出量(SV、各拍動によって心室を出る心臓の血液の量)、拡張終期容積(EDV、心臓拡張の終わりの血液の総量)、及びEDVに対するSVの割合、駆出率(EF)として知られる値を特定する。これらのうちの1つ以上における異常は、心臓機能障害/心不全を示唆又は確証し得る。心電図(ECG/EKG)は、不整脈、虚血性心疾患、右及び左心室肥大、並びに伝導遅延若しくは異常(例えば、左脚ブロック)を識別するために使用される。これらのうちの1つ以上における異常も、心臓機能障害/不全を示唆又は確証し得る。心臓機能障害/不全を診断又は確証するために決まって実施される血液検査は、電解質(ナトリウム、カリウム)、腎機能の測定、肝機能試験、甲状腺機能試験、完全血球算定、及び、感染が疑われる場合には、しばしば、C反応性タンパク質、を含む。これらのうちの1つ以上における異常も、心臓機能障害/心不全の存在を示唆又は確証し得る。B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の上昇は、心不全を示す特異的試験である。心筋梗塞が疑われる場合には、これらに限定されるわけではないが、トロポニンクレアチンキナーゼ(CK)-MB(クレアチンキナーゼのイソ体)、乳酸デヒドロゲナーゼ、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼとも呼ばれる)、ミオグロビン、虚血変性アルブミン(IMA)、プロ脳ナトリウム利尿ペプチド、グリコーゲンホスフォリラーゼイソ酵素BBなどを含む様々な心筋マーカーが試験され得る。これらの1つ以上における異常(通常、異常に高いレベル)は、心臓機能障害又は心不全に対する処置を必要とする対象を識別すると考えられている。
【0163】
心機能障害又は不全を有するか又は有する疑いがあると確認された対象は、治療有効量の上記において説明されるような少なくとも1種のOCS(例えば、25HC3S)の投与によって処置され、この場合、量は、心臓機能障害又は心不全の症状を予防するのに、或いは心臓機能障害又は心不全の症状を改善する、例えば、心臓の機能を正常若しくは正常近くまで少なくとも部分的に回復させる並びに/又は心臓機能及び患者の健康のさらなる悪化を防ぐのに十分である。
【0164】
(脳機能障害及び不全の予防及び/又は処置)
脳機能障害及び/又は不全(すなわち、器質性脳症候群「OBS」)は、精神病以外の医学的疾患による精神機能の低下を説明する総称である。原因としては、これらに限定されるわけではないが、外傷によって生じた脳傷害;脳内への出血(脳内出血);脳の周りの空間への出血(クモ膜下出血);脳への圧迫を引き起こす頭蓋骨内部の血栓(硬膜下血腫);脳震盪;様々な呼吸条件、例えば、身体における低酸素(低酸素血症)及び身体における高二酸化炭素レベル(高炭酸ガス血症);様々な心血管障害、例えば、多くの脳卒中による認知症又は多発脳梗塞性痴呆、心臓感染症(心内膜炎、心筋炎)、脳卒中(例えば、突発性脳卒中)及び一過性脳虚血発作(TIA)、又はいわゆる「軽度の脳卒中」;又は様々な変性疾患によるもの、例えば、アルツハイマー病、クロイツフェルト-ヤコブ病、びまん性レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症、正常圧水頭症、パーキンソン病、及びピック病;代謝の原因、例えば、腎疾患、肝疾患、若しくは甲状腺疾患及び/又はビタミン欠乏症(B1、B12、又は葉酸)による認知症;並びに薬物及びアルコール関連の状態、例えば、アルコール離脱状態、薬物又はアルコール使用による中毒、ウェルニッケ-コルサコフ症候群(過剰なアルコール摂取又は栄養失調の長期間の影響)、及び薬物からの離脱(とりわけ、催眠鎮静薬及びコルチコステロイド));及び突然の発現(急性)又は長期間の(慢性)感染症、例えば、敗血症、脳炎、髄膜炎、プリオン感染症、及び晩期梅毒;並びに癌又は癌治療の合併症が挙げられる。OBSの症状としては、興奮、精神錯乱;脳機能の長期喪失(認知症)及び重度の脳機能の短期喪失(譫妄)、並びに例えば呼吸を制御する自律神経系への影響が挙げられる。OBSの存在の診断又は確認は、様々な方法、例えば、血液検査、脳波図(EEG)、頭部CTスキャン、頭部MRI、及び/又は腰椎穿刺を検出又は測定することによって特定される(それらの正常な値は、典型的には、以下の通りの範囲である:圧力:70~180mmHg、脳脊髄液(CSF)の外観:無色透明、CSF総タンパク質:15~60mg/100mL、γ-グロブリン:総タンパク質の3~12%、CSFグルコース:50~80mg/100mL(又は血糖値の2/3を超える)、CSF細胞数:0~5の白血球(すべて単核)及び赤血球なし、並びにCSFクロリド:110~125mEq/L)。
【0165】
これらの検査又は分析又は兆候の1つ以上が異常である場合、対象は、一般に、OBSの疑いがあるか又は既にOBSを患っているとみなされる。OBS(早期の段階又は進行した段階のいずれか)を有するか又は有する疑いがあると確認された対象は、本明細書において説明されるような少なくとも1種のOCS(例えば、25HC3S)の治療有効量の投与によって処置され、量は、OBSの症状を予防するのに、又はOBSの症状を改善する、例えば、脳の機能を正常若しくは正常近くまで少なくとも部分的に回復させる、並びに/又は脳機能及び患者の健康のさらなる悪化を防ぐのに十分である。
【0166】
心不全も、化学療法、例えば、乳癌などの癌の治療として受けた化学療法の副作用及び/又は後遺症として生じ得る。化学療法を受けている、又は既に受けたことがある患者への、本明細書において説明されるような少なくとも1種のOCSの投与は、癌化学療法中の及びその後の心臓(及び他の臓器、臓器系、組織、及び細胞)への望ましくない損傷を防ぐことができる。換言すると、少なくとも1種のOCSは、化学療法の有害作用に対する保護剤として使用される。
【0167】
(外傷による臓器機能障害及び/又は不全)
いくつかの態様において、臓器機能障害/不全は外傷に起因する。外傷性傷害の例としては、これらに限定されるわけではないが、自動車事故による創傷;銃創(狩猟関連アクティビティ中の事故、及び故意に追わされたもの、例えば、犯罪活動又は戦争に関連するものなどの両方);鈍的外傷又は鈍的傷害、例えば、非穿孔性の鈍力による外傷、例えば、身体の一部への、例えば、衝撃、傷害又は物理的攻撃による物理的外傷などが挙げられる。鈍的外傷の例としては、これらに限定されるわけではないが、震盪、例えば、スポーツ選手における震盪又は事故、落下などを伴う人における震盪、及び落下物などの飛翔体との遭遇の結果として被る鈍的外傷などが挙げられる。
【0168】
そのような鈍的外傷の疑いのある個体(例えば、スポーツ選手、高齢者)は、1種以上のOCSの予防的投与から恩恵を受け得、震盪などの鈍的外傷が対象において診断される場合、対象は、傷害が疑われるか確認された後の可能な限り早い投与によって恩恵を受け得る。
【0169】
(虚血によって引き起こされる状態の予防及び/又は処置)
虚血は、組織又は臓器への不十分な血液の供給を意味し、細胞代謝のため及び組織の生存を維持するために必要な酸素及びグルコースの不足を生じる。低酸素症(低酸素状態(hypoxiation)又は無酸素血症としても知られる)は、虚血によって引き起こされ、身体又は身体のある領域が適切な酸素供給を受けられない状態を意味する。虚血は、結果として、虚血の滝(ischemic cascade)として知られるプロセスにおいて組織損傷を引き起こす。損傷は、主に代謝老廃物の蓄積、細胞膜の維持の不能、ミトコンドリア損傷、並びに細胞及び周囲の組織への自己分解性タンパク質分解酵素の最終的な漏れの結果である。その後の炎症も、細胞及び組織に損傷を与える。即座の介入が無ければ、虚血は、組織のネクローシスへと急速に進行し、最終的には、例えば、臓器機能障害又は不全へと進行する。
【0170】
さらに、虚血組織への血液供給の再灌流は、再灌流傷害として知られるさらなる損傷を引き起こし得る。再灌流傷害は、最初の虚血より大きな損傷を与え得る。血流の再導入は、組織に酸素を戻し、細胞に損傷を与えるフリーラジカル及び反応性酸素種のさらなる生成を引き起こす。それは、より多くのカルシウムイオンも組織にもたらし、それは、カルシウム過負荷を引き起こし得、並びに、結果として潜在的に致命的な心不整脈を引き起こし得、それは細胞の自己破壊を促進し得る。回復した血流は、損傷を受けた組織の炎症反応も悪化させ得、損傷を受けたがまだ生存している細胞に対する白血球による破壊を引き起こし得る。
【0171】
本開示は、それを必要とする対象において虚血/再潅流傷害を含む虚血の有害反応又は有害結果を予防及び/又は処置する方法を提供する。この方法は、虚血及び/又は虚血/再潅流の症状を予防又は処置するのに十分な治療有効量の1種以上のOCSを投与する工程を含み得る。この方法はさらに、虚血及び/又は虚血/再潅流を経験するであろう、経験している、又は経験したことがある対象を識別又は診断する工程も含み得る。虚血及び/又は虚血/再潅流は、疾患プロセス(例えば、アテローム性動脈硬化症、血栓など)に起因し得るか、又は事故(例えば、動脈又は他の血液導管の切断)に起因し得るか、又は例えば、身体の定められた領域又は限局した領域への血流を一時的に止めるためにいくつかの心臓手術又は他の手術中に行われるように意図(計画)されたものであり得る。
【0172】
本明細書において説明される方法に関連する虚血のタイプとしては、これらに限定されるわけではないが、以下:
心虚血:例えば、心臓筋肉又は心筋層が受け取る血流が不十分である場合に生じる心筋虚血。これは、最も頻繁には、冠状動脈におけるコレステロールが豊富なプラークの長期蓄積であるアテローム性動脈硬化症の結果として生じる。
腸管虚血:大腸及び小腸の両方が、虚血傷害によって影響を受け得る。大腸の虚血傷害は、結果として、虚血性大腸炎として知られ、手術及び癒着発症の結果としても知られる炎症プロセスを引き起こし得る。小腸の虚血は、腸間膜虚血と呼ばれる。
脳虚血:脳への不十分な血流であり、急性(すなわち、急速)又は慢性(すなわち、持続性)であり得る。急性虚血性脳卒中は、迅速に処置された場合には可逆的であり得る神経緊急疾患である。脳の慢性虚血は、結果として、血管性痴呆と呼ばれる認知症の形態を引き起こし得る。脳に影響を及ぼす虚血の短いエピソードは、一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれ、しばしば、誤って「軽い脳卒中」と呼ばれる。
肢虚血:四肢への血流結果の不足は、結果として、急性肢虚血を引き起こす。
皮膚虚血:皮膚層への血流の減少を意味し、結果として、斑文若しくは凹凸、皮膚の斑状変色を引き起こし得、及びチアノーゼ、又は床ずれ(例えば、褥創、褥創など)などの他の状態への進行につながり得る。
可逆的虚血:医薬品又は外科手術の使用によって元の状態に戻すことができる、特定の臓器への血流の不足を生じるような状態を意味する。それは、多くの場合、心筋への血流の阻害を意味するが、脳を含む身体の任意の臓器を閉鎖する閉鎖症を意味し得る。虚血の症例が元の状態に戻すことができるか否かは、根本原因によるであろう。動脈へのプラークの蓄積、弱化した動脈、低血圧、血栓、及び心拍の乱れはすべて、可逆的虚血の原因となり得る。
心尖性虚血:心臓の頂端又は底端への血流の不足を意味する。
腸間膜虚血:不十分な血液供給に起因して生じる、小腸の炎症及び傷害を意味する。血流減少の原因は、全身循環における変化(例えば、低血圧)、又は血管の収縮若しくは血栓などの局所的要因を含み得る。
様々な臓器の虚血:これらに限定されるわけではないが、肝臓(肝虚血)、腎臓、腸などが挙げられる。
【0173】
虚血、虚血/再灌流はさらに、炎症及び臓器機能障害/不全に対し、原因として関連し得る。例えば、大脳(脳)虚血は、典型的には、サイトカイン、接着分子、及び他の炎症仲介物質、例えば、プロスタノイド及び一酸化窒素の虚血誘起発現によって開始される、顕著な炎症反応を伴う。そのような炎症を減少させることを目的とする介入は、例えば大脳虚血の末期などに生じる脳損傷の進行を減少させることが知られている。さらに、腎内(腎臓)不全(ARF)の最も頻繁な原因は、一過性又は長期の腎血流量の低下(虚血)である。
【0174】
その影響を本明細書において説明されるように処置又は予防することができるような他のタイプの虚血としては、これらに限定されるわけではないが、虚血性脳卒中、小血管虚血、虚血/再潅流傷害などが挙げられる。
【0175】
虚血の診断は、一般に、影響を受ける特定の臓器若しくは臓器系又は組織又は細胞における機能不全の1つ以上の症状を識別することによって実施される。したがって、症状は、個々の臓器の機能障害/不全に対して本明細書に列挙されたもの、並びに虚血の文書それ自体(例えば、患者の病歴(例えば、臓器又は組織への血液の供給を妨げる動脈の既知の閉塞、阻害、又は断絶など)についての記述、そのような知見を示すか又は知見に一致する映像化などによる)を含む。
【0176】
1つ以上の好適な検査又は分析又は兆候が異常である場合、対象は、一般に、虚血の疑いがあるか又は既に虚血を患っているとみなされる。虚血を有するか又は有する疑いがあると確証された対象(又は、例えば外科的手技の間に、将来に計画された虚血を受けることが分かっている対象)は、本明細書において説明されるような少なくとも1種のOCS(例えば、25HC3S)の治療有効量の投与によって処置することができ、量は、虚血及び/又は虚血-再灌流傷害の症状を予防するのに、或いは虚血及び/若しくは虚血-再灌流傷害の症状を改善する、例えば、血流が再確立されたときに臓器若しくは組織の機能を正常又は正常近くまで少なくとも部分的に回復させる、及び/又は臓器若しくは組織の機能及び患者の健康のさらなる悪化を防ぐのに十分である。
【0177】
(望ましくない細胞死の影響の予防及び/又は処置)
活性で調整された細胞死は、「プログラムされた細胞死」又は「PCD」と呼ばれ、細胞内経路によって媒介される調整されたプロセスである。PCDは、一般に、有機体にとって有益であるが、シグナル伝達における異常又は極度のストレスの存在は、望ましくないPCDを生じさせる原因となり得る。PCDの形態としては、アポトーシス、細胞自殺を引き起こす、ストレスに応じての制御された細胞内シグナル伝達の開始;及びネクロプトーシス、例えば、アポトーシスシグナル伝達が、内因性又は外因性の要因、例えば、ウイルス又は突然変異によって妨げられる場合にアポトーシスに対するバックアップとしての役割を果たすPCDの形態が挙げられる。
【0178】
PCDとは対照的に、ネクローシスは、生きている組織において有害で時期尚早の細胞の死を結果として引き起こす、無秩序で受動的な細胞死を意味する。ネクローシスは、典型的には、細胞又は組織に対する外部の因子、例えば、感染、毒素、又は外傷、虚血などによって引き起こされる。理論に縛られるわけではないが、ネクローシスは、細胞膜の無欠陥性の喪失及び細胞内空間への細胞死による産生物の非制御な放出を伴い、それにより、食細胞活動によって付近の食細胞が死んだ細胞を見つけて排除するのを防ぐ周囲組織において炎症反応を開始させると考えられる。ネクローシス組織の外科的除去は、ネクローシスの広がりを止めることができるが、いくつかの場合において、例えば、内部組織又は臓器が関与する場合などにおいては、外科的介入は可能ではないか若しくは実用的ではない。したがって、内部臓器のネクローシスは、多くの場合、危険で、多くの場合、致命的な臓器機能障害/不全につながる。
【0179】
本開示は、それを必要とする対象において望ましくない細胞死の影響、とりわけ、臓器機能障害及び/又は臓器不全に関連する望ましくないアポトーシス及びネクローシス、を予防及び/又は処置する方法を提供する。細胞死は、望ましくないPCD(例えば、望ましくないか又は有害なアポトーシス、自家融解、又はネクロプトーシス)又は定義上望ましくないネクローシス;及び/又はこれらの組合せ、により結果として引き起こされ得るか、又はそれらに関連し得る。この方法は、1種以上のOCSの治療有効量を投与する工程含み、量は、望ましくない細胞死が生じるのを防ぐのに、又は対象において既に生じている望ましくない細胞死の影響を処置するのに十分である。
【0180】
アポトーシスによる望ましくない又は有害な細胞死は、例えば、虚血の後遺症又はアルツハイマー病などにおいて生じる。望ましくないアポトーシスは非常に有害であり、広範な組織損傷の原因となる。
【0181】
本明細書において説明される方法によって予防及び/又は処置され得るネクローシスのタイプとしては、これらに限定されるわけではないが、以下:
無菌性壊死:通常は外傷性の股関節脱臼の後の大腿骨の頭部において生じる、感染を伴わないネクローシスである。
急性尿細管壊死:通常は、間毒性、大手術の後の虚血、外傷(挫滅症候群)、重度の血液量減少、敗血症、又は熱傷のいずれかに続発する、尿細管細胞の中度から重度の損傷又はネクローシスを伴う急性腎不全を意味する。
虚血性(avascular)壊死:骨への血流の一時的又は永久的停止の結果である。血液の欠如は、骨細胞の死を引き起こし、結果として骨全体の破壊又は崩壊を引き起こす。
膵性脂肪組織壊死:大網滑液嚢炎及び脂肪細胞のネクローシスの斑の広がりを伴う、壊疽性の膵臓炎である。
架橋壊死:亜急性肝壊死に特徴的な肝小葉及び門脈三管の隣接中心静脈に架橋する癒合性ネクローシスの隔膜のネクローシスである。
乾酪壊死又は「チーズ様」壊死:組織が、柔らかく、乾燥して、カッテージチーズ様であるネクローシスであり、ほとんどの場合、結核及び梅毒において見られ、死んだ組織が湿って柔らかい湿潤壊死とは対照的である。
中心壊死:影響を受ける骨、肝臓の細胞又は小葉の中心部分に影響を及ぼすネクローシスである。
凝固壊死:線維性梗塞の形成を伴う、臓器又は組織の一部のネクローシスを意味し、細胞の原形質は、タンパク質要素の凝固により、固定され、不透明になり、細胞の外形は長い間存続する。
液化壊死又は融解壊死:ネクローシス物質が軟化して液化するネクローシスである。
収縮性帯壊死:超収縮した筋細線維及び収縮帯によって特徴付けられる心臓障害を意味し、死ぬ細胞へのカルシウム流入によって引き起こされるミトコンドリア損傷は、結果として細胞を収縮状態に留める。
脂肪壊死:脂肪組織の中性脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解されるネクローシスであり、通常、急性出血性膵炎において膵臓及び脾臓周囲脂肪に影響を及ぼす。
壊疽性壊死:細菌作用と組み合わされた虚血が腐敗を引き起こすネクローシスである。「壊疽」は、乾性壊疽、湿性壊疽、ガス壊疽、内部壊疽、及び壊疽性筋膜炎を包む。
歯肉壊死:歯肉の細胞及び他の構成要素の死又は変性を意味する(例えば、壊死性潰瘍性歯肉炎)。
歯間壊死:乳頭の組織を破壊し、歯間クレーターを生じさせる進行性の疾患である。進行した歯間壊死は、歯周担持部の喪失につながる。
虚血性(ischemic)壊死:血液供給による干渉の結果として生じる組織の死及び崩壊を意味し、したがって、代謝性物質に必要な物質へのアクセスの組織を奪う。
黄斑変性:黄斑変性(湿潤形態及び乾燥形態の両方)は、黄斑として知られる、網膜の小さい中心部分が悪化する場合に生じる。疾患は人が年をとるにつれて発症するため、しばしば、加齢黄斑変性症(AMD)と呼ばれる。
急性黄色肝萎縮症:広範囲の、通常は致命的な、肝臓のネクローシスを意味し、肝臓毒への曝露又は薬物アレルギーによって生じ得るウイルス性肝炎(激症肝炎)の稀な合併症である。
リン壊死:リンへの曝露による、顎骨のネクローシスである。
分娩後下垂体壊死:産後期の下垂体のネクローシスを意味し、多くの場合、分娩の際のショック及び過度の子宮出血に関連しており、様々なパターンの下垂体機能不全につながる。
放射線壊死:放射線によって引き起こされる組織の死である。
選択的心筋細胞壊死:筋原繊維変性を意味する。
ゼンカー壊死:横紋筋のヒアリン変性及びネクローシスを意味し、ゼンカー変性とも呼ばれる。
が挙げられる。
【0182】
そのような望ましくない又は病理学的な細胞死は、影響を受ける細胞を、細胞の死を予防又は処置するのに十分な、及び/又は隣接する細胞への細胞死シグナル伝達の広がりを防ぐのに十分な量の1種以上のOCSと接触させることによって予防又は処置することができる。処置の候補の細胞、又は処置の候補の細胞を含む臓器は、任意の又はいくつかの公知の技術によって、例えば、細胞死の明白な影響(組織破壊、液状化、臭いなど)を観察し、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を検出することによって、様々なスキャン、例えば、断層撮影又は核磁気共鳴によって、抗体などを使用して原因菌の存在を検出する(例えば、PCRを使用して)、ことによって、識別される。
【0183】
(敗血症(炎症応答症候群、又はSIRS)に関係するか又はそれらによって引き起こされる症状の予防及び/又は処置)
敗血症は、免疫反応の引き金となる重度の感染症によって引き起こされる、潜在的に生命に危険を及ぼす全身性の炎症である。感染症は、典型的には、細菌によって引き起こされるが、血液、尿管、肺、皮膚、又は他の組織における菌類、ウイルス、又は寄生生物にも起因し得る。残念ながら、症状は、感染症が消失した後でも継続し得る。重症敗血症は、例えば、低血圧、高血中乳酸、及び/又は低尿排出量などによって証明されるような、乏しい臓器機能又は不十分な血流を引き起こす敗血症である。実際に、敗血症は、感染症から多臓器機能障害症候群(MODS)までの範囲内に入ると考えられている。敗血症ショックは、十分な量の点滴液を与えた後に改善しない敗血症に起因する低血圧である。
【0184】
これまで、敗血症は、典型的には点滴液及び抗生物質によって、しばしば、集中治療室において処置された。様々な薬物投与及び他の介入を使用することができ、例えば、機械的人工呼吸、透析、酸素飽和も使用することができる。転帰は、疾患の重症度に依存し、死亡の危険性は、敗血症で30%、重症敗血症では50%、敗血症ショックでは80%にもなる。
【0185】
本明細書において提供されるのは、それを必要とする対象又は患者に治療有効量の少なくとも1種のOCSを投与することによって敗血症を予防又は処置する方法である。例えば、本開示は、哺乳動物のエンドトキシン血症及び敗血症、並びにエンドトキシン血症及び敗血症ショックを処置するために使用されるカテコールアミンによって誘発される腎血管収縮及び腸間膜血管収縮の処置を含む。用語「エンドトキシン血症」は、血流中における微生物性内毒素の存在を意味する。エンドトキシン血症に罹っている対象は、通常、敗血症も有している。本開示は、敗血症/エンドトキシン血症を処置する方法を含む。本開示はさらに、敗血症/エンドトキシン血症によって引き起こされた急性腎不全を処置する方法も含む。さらに、本開示は、敗血症/エンドトキシン血症によって引き起こされた腎血管収縮を処置する方法も含む。なおさらに、本開示は、カテコールアミン誘発腎血管収縮及び腸間膜血管収縮を減少させる方法も含む。いっそうさらに、本開示は、内毒素及び/又は血圧上昇薬の作用に起因する、患者の腸及び腎臓への損傷を予防する方法も含む。
【0186】
敗血症は、ミトコンドリア機能障害に関連し、これは、酸素消費障害につながり、敗血症誘発多臓器不全につながり得る。このことは、とりわけ、敗血症患者における組織酸素圧力の上昇に当てはまり、これは、酸素を使用する臓器の能力の低下を示唆する。ミトコンドリア酸化的リン酸化によるATP産生は、総酸素消費の90%以上を占めるために、ミトコンドリア機能障害は直接的に、おそらく、インビトロでのミトコンドリア呼吸を阻害することが知られており且つ敗血症において過剰に産生される一酸化窒素により、結果として臓器不全を引き起こし得る。したがって、本開示の具体的な実施形態において、OCSは、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重症敗血症、敗血症ショックの患者のための臓器機能障害及び不全の予防方法において使用される。
【0187】
この方法は、例えば、異常温度(101°F(38.3℃、「発熱」)を超える体温又は96.8°F(36℃)を下回る体温)、心拍数の増加、呼吸数の増加、感染症の疑い又は確証、並びに精神錯乱など、敗血症の少なくとも1つの症状を検出又は測定することなどによって、そのような処置を必要とする好適な患者を識別する工程を含み得る。重症敗血症の患者は、臓器が機能し得ないことを示す以下の兆候及び症状:尿排出量の著しい減少、精神状態の突然の変化、血小板数の減少、呼吸困難、心ポンプ機能異常、及び腹痛、の少なくとも1つを示す。敗血症ショックの診断は、一般に、重症敗血症の兆候及び症状の観察、並びに単純体液補充に適切に反応しない異常に低い血圧の測定に基づいている。
【0188】
いくつかの場合において、対象は、咳嗽/痰/胸痛、腹痛/膨満/下痢、ライン感染、心内膜炎、排尿障害、頚部硬直を伴う頭痛、蜂巣炎/創傷/関節感染、及び/又は任意に感染に対する陽性微生物学、に基づく敗血症のOCSによる予防的処置又は治療的処置の候補であり得る。
【0189】
他の場合において、対象は、敗血症の診断、並びに最高血圧が<90/平均;<65mmHG;ラクテートが>2mmol/L;ビリルビンが>34μmol/L;尿排出量が2時間で<0.5mL/kg/h;クレアチニンが>177μmol/L;血小板が<100×109/L;及びSpO2が>90%(O2が与えられない場合)、から選択される任意の臓器機能障害の少なくとも1つの臨床的疑いに基づく重症敗血症のOCSによる予防的処置又は治療的処置の候補であり得る。
【0190】
いくつかの場合において、対象は、処置に反応しない難治性低血圧が存在し、全身性点滴液投与単独では、患者の血圧が低血圧にならないように維持するのに不十分である場合に、敗血症ショックのOCSによる予防的処置又は治療的処置の候補であり得る。
【0191】
早期敗血症、重症敗血症、又は敗血症ショックの(兆候を示す)診断を有する患者は、例えば、治療有効量の本明細書において説明されるような少なくとも1種のOCS(例えば、25HC3S)の投与などによる、本明細書において説明されるOCSによる処置のための候補である。投与される量は、敗血症の症状が発症又は継続するのを防ぐのに、又は敗血症の症状の影響を少なくとも減少させるのに、十分であり得る。
【0192】
(採取された臓器、組織、及び細胞への採取後損傷の予防)
本明細書において提供されるのは、生存率を保持するための、及び/又は体外の細胞、組織、又は臓器への損傷及びそれらの悪化を防ぐ(から保護する)ための方法、組成物、及びシステム(例えば、機器)である。いくつかの態様において、臓器又は組織が移植に使用可能な期間の長さは延長することができ、及び/又はそれをしなければ移植に好適ではない臓器を、1種以上のOCSと接触させることによって「救う」ことができる。いくつかの態様において、細胞、組織、又は臓器は、ドナーから採取され、ex vivoである。ドナーは、生存するドナー又は死体であり得、並びに、ドナーは任意の種であり得るが、多くの場合、ヒトなどの哺乳動物である。他の態様において、細胞、組織、又は臓器は、人工的に作り出され、すなわち、実験室において制御された条件下での増殖によって人工的に発生させられる。いくつかの態様において、臓器は、移植レシピエントに植え込む又はグラフトされることが意図される。レシピエントは、任意の種であり得るが、多くの場合、ヒトなどの哺乳動物である。いくつかの態様において、細胞、組織、及び/又は臓器は、生存するドナーそれ自体に移植することは意図されないが、実験手順において使用することが意図される。
【0193】
OCSの適用は、一般に、とりわけドナーが生きたドナーの場合には、移植される材料がドナーの身体から取り出された後に行われるが、しかしながら、死体から取り出される場合には、適用は、ドナーの死が確認された後の任意の時点で行うことができる。そのような場合において、OCSは、移植される材料が採取されるまで、死体の循環系又は他の系を通して、又は方向性を持った方法において、採取される1つ以上の組織又は臓器を通して、OCSを含む組成物を人工的に循環させるか又はポンプ流送することによって、死体内のいくつかの細胞、組織、及び/又は臓器に対して同時に提供することができる。材料が人工的に発生させられている場合、適用/接触は、材料の発達又は使用の任意の好都合な段階において行うことができる。
【0194】
この方法は、一般に、例えば、採取された細胞、組織、又は臓器に1種以上のOCSを適用することによって、例えば、細胞、組織、又は臓器を、1種以上のOCSを含む組成物の中で又は組成物によって、漬ける、洗い流す又は浸漬することによって、及び/又は、組織及び臓器の場合、組織又は臓器の中に又はそれらを通して組成物をポンプ流送又は循環させることにより組織又は臓器を灌流することによって、細胞、組織、又は臓器を1種以上のOCSと接触させる工程を伴う。この組成物における使用にとって好適なOCSとしては、これらに限定されるわけではないが、5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)及び5-コレステン,3b,25-ジオール,ジスルフェート(25HCDS)、(5-コレステン,3,27-ジオール,3-サルフェート)、(5-コレステン,3,27-ジオール,3,27-ジスルフェート)、(5-コレステン,3,7-ジオール,3-サルフェート)、(5-コレステン,3,7-ジオール,3,7-ジスルフェート)、(5-コレステン,3,24-ジオール,3-サルフェート)、(5-コレステン,3,24-ジオール,3,24-ジスルフェート)、及び(5-コレステン,3-オール,24,25-エポキシ-3-サルフェート)が挙げられる。
【0195】
一般に、1種以上のOCSは、好適な生体適合性の液体担体又は溶液(媒体)中に存在し、並びに、冷たい(例えば、0~4℃)又は暖かい(例えば、約37℃まで)輸送及び/又は貯蔵のどちらかにとって適切であり得る。
【0196】
少なくとも1種のOCSを含む移植媒体は、典型的には水性である。水性媒体は、少なくとも1種のOCSに加えて、電解質、緩衝剤、不浸透剤、コロイド、ROS捕捉剤、及び基剤のうちの少なくとも1つを含み得る。電解質の例としては、これらに限定されるわけではないが、カルシウム、塩素、マグネシウム、リン酸塩、カリウム、ナトリウム、及び硫酸塩が挙げられる。緩衝剤の例としては、これらに限定されるわけではないが、クエン酸、ヒスチジン、K2HPO4、KH2PO4、Na2HPO4、NaHCO3、及びNaH2PO4が挙げられる。不浸透剤の例としては、これらに限定されるわけではないが、グルコース、ヒスチジン、ラクトビオナート、マンニトール、ラフィノース、及びスクロースが挙げられる。コロイドの例としては、これらに限定されるわけではないが、ヒドロキシエチルデンプン(HES)及びポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。ROS捕捉剤の例としては、これらに限定されるわけではないが、アロプリノール、グルタチオニン、マンニトール、及びトリプトファンである。基剤の例としては、これらに限定されるわけではないが、アデノシン、グルタメート、及びケトグルタレートが挙げられる。
【0197】
いくつかの場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにラクトビオナート、ラフィノース、HES、ステロイド、及びインスリンのうちの少なくとも1つを含む。他の場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにラクトビオン酸カリウム、KH2PO4、MgSO4、ラフィノース、アデノシン、グルタチオニン、アロプリノール、及びHESのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにリン酸緩衝液及びグルコースのうちの少なくとも1つを含む。ある特定の場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにリン酸緩衝液及びスクロースのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにクエン酸緩衝剤、マンニトール、クエン酸、及びマグネシウムのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにヒスチジン緩衝剤、マンニトール、及びヒスチジンビオネートのうちの少なくとも1つを含む。ある特定の場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにリン酸緩衝液、ラフィノース、及びラクトビオネートのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにリン酸緩衝液、マンニトール、及びラクトビオネートのうちの少なくとも1つを含む。他の場合において、水性媒体は、少なくとも1種のOCS並びにトレハロース、グルコネート、及びHESのうちの少なくとも1つを含む。さらなる他の場合において、水性媒体は、ラクトビオン酸カリウム、KH2PO4、MgSO4、ラフィノース、アデノシン、グルタチオニン、アロプリノール、及びPEGを含む。いくつかの場合において、水性媒体は、捕捉剤、例えば、マンニトール及びグルタチオンのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの場合において、水性媒体は、ケトグルタレート、アデノシン、及びグルタメートのうちの少なくとも1つを含む。
【0198】
水性媒体は、典型的には、約7.1から約7.4の範囲のpHを有する。水性媒体は、典型的には、約300から約400、例えば、約310から約390の範囲の浸透圧を有する。
【0199】
いくつかの移植媒体は、酸素化されている(例えば、酸素のマイクロバブルを使用、米国特許第7,749,692号を参照されたい)。媒体は、様々な生体適合性の保存剤、例えば、凍結保存剤を含んでいてもよい。媒体は、全血液を含んでいてもよく、又は全血液であってもよい。好適な媒体の例としては、これらに限定されるわけではないが、Steen Solution(商標);Perfadex(登録商標);ヒスチジン-トリプトファン-ケトグルタレート溶液又はCustodiol HTK(商標);Viaspan(商標);TransMedics Solutions;並びに、米国特許第8,409,846号、同第7,981,596号、同第7,977,383号、同第7,592,023号、同第7,537,885号、同第7,476,660号、同第6,365,338号及び同第5,306,711号、又は公開された米国特許出願公開第2014/0234827号、同第2013/0102059号、同第2011/0300237号、同第2010/0272789号、及び同第2005/0164156号に記載されているものが挙げられ、これらの文献の全内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。1種以上のOCSは、一般に、約1から約1000mg/リットル(例えば、約0.05mMから約50mM)の濃度において媒体中に存在する。さらなる態様において、提供されるのは、1)細胞若しくは複数の細胞;組織若しくは複数の組織;及び/又は少なくとも1つの臓器若しくは臓器系のうちの1つ以上、2)1種以上のOCS;並びに、3)生体適合性媒体、例えば、上記に述べられた水性媒体のうちの1つを含むインビトロ組成物である。なおさらなる態様において、提供されるのは、1種以上のOCS並びに生体適合性の担体、例えば、上記において述べられた水性媒体のうちの1つを含む媒体又は組成物である。
【0200】
組成物は、細胞、組織、又は臓器、保存媒体、並びに場合により媒体を循環又はポンプ流送するためのメカニズムを収容するための容器を含む、臓器保存及び/又は輸送システムに組み入れることができる。このシステムは、携帯式であり得る。組成物は、既存のシステム(例えば、TransMedics独自のOrgan Care System、XVIVOのLung Perfusionシステムなど)に組み込んでもよく、又は、新規に開発されたシステムに含ませることもできる。
【0201】
この方法において処置され輸送される例示的臓器としては、これらに限定されるわけではないが、腎臓(片方の腎臓、及び一括して両方の腎臓)、心臓、心臓と肺を一緒に、肝臓(それらの一部、右葉若しくは左葉、及び側部、又は他の部位)、肺(一方の肺、両方の肺、又は肺葉を含む)、膵臓(脾臓及び脾動脈を含み得る)、胃などが挙げられる。臓器、組織、及び細胞は、同種移植片、同系移植片、又は異種移植片(例えば、ヒトへの移植に使用されるブタ心臓弁など)でさえあってもよい。いくつかの場合において、この方法において処置され輸送される臓器は、肝臓を含まない。この方法において処置され輸送される例示的組織としては、これらに限定されるわけではないが、骨、腱、靭帯、皮膚、心臓弁、血管、角膜、神経組織などが挙げられる。この方法において処置され輸送される例示的細胞としては、これらに限定されるわけではないが、幹細胞、すい臓島細胞、神経細胞などが挙げられる。
【0202】
本発明を、以下の実施例によってさらに例示する。これらの実施例は、非限定的であり、本発明の範囲を制限するものではない。特に明記されない限り、実施例において提示されるすべての百分率、部などは、質量ベースである。
【0203】
[実施例]
[実施例1A及び1B]
アセトアミノフェン(ATMP)の高用量を受けたマウスでの25HC3S投与の影響
[実施例1A]
(材料及び方法)
雌のマウスに、アセトアミノフェン(PBS中における10%エタノール中における500mg/kg)を腹腔内注射し、その0.5時間又は2時間後に25HC3S(PBS中における10%プロピレングリコール中における20又は25mg/kg)の投与によって処置した。アセトアミノフェン投与の24時間又は48時間後に血清を収集し、酵素活性及び他の血清パラメータを測定した。正常値は、何も注射していない10匹のマウスから得て、対照マウスにはアセトアミノフェン(ATMP)及びビヒクルのみを注射し、実験マウスにはATMP及び25HC3Sを注射した。
【0204】
(結果)
結果は、ATMP投与が、肝臓組織に著しい損傷を与え、血清ALT活性を6倍に、並びにAST及びLDHを20倍に増加させることを示した。
図1A~Dに示されるように、ATMP投与の2時間後における25HC3Sによる処置は、24時間以内に、LDHを60%;ALTを58%;及びASTを45%減少させた。さらに、ATMP投与の0.5時間後における25HC3Sによる処置は、48時間で肝臓及び腎臓の機能のほとんどのマーカーを正常なレベルに戻したが(
図2)、その一方で、処置されていない対照の値は、上昇したままであった。
【0205】
図3A及び3Bは、投与後の示された時点での血液(3A)及び示された組織(3B)における25HC3Sのレベルを示している。理解されるように、血行中における25HC3Sの半減期は約30時間であり、化合物は、身体において異なる組織に広く分配される。
【0206】
[実施例1B]
(材料及び方法)
実験の別のセットにおいて、雌のマウスに、アセトアミノフェン(PBS中における20%EtOH中における600mg/kg)を腹腔内注射し、次いで、2時間及び24時間後に25HC3S(PBS中における10%PG中における25mg/kg)の腹腔内注射によってさらに処置した。対照マウスには、25HC3Sを用いずにATMPを注射した。死亡率を10日間モニターした。
【0207】
(結果)
図4に見られるように、25HC3Sで処置された動物の生存率は、対照の動物よりはるかに高く、25HC3Sが、高レベルのATMPによる死から動物を保護したことを示している。
【0208】
図5A~Dは、個々の生き残ったマウスにおける肝臓機能(損傷)マーカーALT、AST、AKP、及びADHの値を示している。マウスを、ATMP及びビヒクルを注射された対照(「CON」)又はATMP及び25HC3Sを注射されたマウスのどちらかとしてグループ分けした。48時間の時点で血清を採取した。理解されるように、25HC3Sを投与された動物は、一般に、25HC3Sを注射されていない対照動物より、各酵素においてより低い値(すなわち、より正常に近い値)を有する傾向にあった。(
図5は、採取前に死んだ動物のデータを含んでいないことに留意されたい)。
【0209】
実施例1A及び1Bの概要:25HC3Sによる処置は、ATMPを注射されたマウスにおけるALT、AST、及びADH活性の血清レベルを顕著に減少させ、それに続いて、ATMPを注射したマウスの死亡率を著しく減少させた。これらの知見は、高レベルのATMPによって引き起こされた肝臓損傷からの動物の保護における25HC3Sの有効性に一致しており、25HC3Sが、ATMPによって誘発された急性肝不全の治療のためのバイオ医薬品として使用することができることを示している。
【0210】
[実施例2]
高用量のアセトアミノフェンを受けたマウスの血液生化学検査値に対する25HC3Sの影響
(材料及び方法)
マウスにアセトアミノフェン(300mg/kgPO)を投与し、次いで、アセトアミノフェン投与の1時間及び24時間後に、IP注射又はPO強制投与によってビヒクル又は25HC3S(25mg/kg)で処置した。測定及び試料は、血清及び臨床化学分析(ALT、AST、ALK、LDH、BUN、及びグルコース)のための全血液、並びにホルマリン固定及び組織構造のための肝臓及び腎臓を含んでいた。
【0211】
(結果)
アセトアミノフェン投与群の中で、POビヒクルで処置された群は、IPビヒクルで処置された群と比較した場合に、より高い臨床化学値を示すこと、及びこれは、25HC3Sを投与された群についても当てはまることがわかった。同様に、この一般的な裏付けにおいて、体重損失は、IP処置された群に対してPO処置された群においてより大きかった。
【0212】
アセトアミノフェン投与は、結果として体重損失及び臨床化学パラメータ(LDH、AST、及びALT)の著しい上昇(投与の24時間後に最高となり、48時間では正常へと戻っている)を引き起こした。25HC3S処置群を、適切な投与経路のビヒクル対照と比較した場合、体重損失又は臨床化学パラメータの上昇において統計的に有意な減弱はなかった。
【0213】
結論として、及び試験した条件下において、アセトアミノフェンを投与されたマウスに対する1時間後の25HC3S(25mg/kg、IP又はPO)による後処置は、300mg/kgのアセトアミノフェンのPO投与によって誘発される急性肝不全後の血液生化学検査値をあまり変化させなかった。
【0214】
[実施例3]
腎虚血-再灌流
(材料及び方法)
製剤調製手順:
IP注射用の製剤の調製:
25HC3Sを、20mg/mLでプロピレングリコールに溶解させ、ストック溶液として室温で貯蔵した。使用前に、3部のPBSを1部のDV928ストック溶液と混合した。注射用の最終濃度は5mg/mlであった。
【0215】
経口強制投与用の製剤の調製:
25HC3Sを、10mg/mLで、0.05%のTween-80を含有する0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)に懸濁させ、室温で貯蔵し、使用前に十分に混合した。
【0216】
(方法)
動物:
成体(9週から11週齢)の雄のルイス(LEW, RE1l)ラット(225~250グラム)を、制御された12時間の明暗サイクル環境において収容し、水は自由に、ラット用餌は規則的に摂取させた。すべてのラットを、40mg/kgのペントバルビタールを腹腔内投与することによって麻酔にかけた。左腎の虚血は、左腎動脈及び静脈を一時的に閉鎖し、血管マイクロチップにより尿管を50分間閉鎖することによって実施した。皮膚を、虚血の期間中、一時的に閉鎖し、ラットを、37℃の温度に維持した加熱シート上に配置した。再潅流では、右腎を除去した後、4-0絹製縫合糸により腹部を閉じた。
【0217】
実験設計
動物をランダムに5つの群に分けた:
A群.25HC3S-腹腔内投薬(前処理として) N=12
B群.25HC3S-腹腔内投薬(後処理として) N=12
C群.25HC3S-経口投薬(前処理として) N=12
D群.ビヒクル対照、腹腔内投与(前処理として) N=6
E群.ビヒクル対照、経口投与(前処理として) N=6
【0218】
すべての動物に、以下のスキームに示されるような指定された期間にわたって、有効成分(25HC3S)又はビヒクルのどちらかを1日1回与えた。前処理群のラットに、外科的介入(I/R事象)の1日前(-1日目)に有効成分又はビヒクルを与え、合計4日間継続した。後処理群のラットに、腎動脈閉塞の30分後に最初の処理を与え、合計3日間継続した。血清クレアチニン及び血中尿素窒素(BUN)分析のために、外科手術の2日前(ベースラインとして)、外科手術の3日後、及び外科手術の7日後にすべてのラットから血液試料を採取した。すべてのラットは、7日目に犠牲にした。
【0219】
【0220】
(結果)
結果は、
図6A及びBに提示した。理解されるように、外科手術の前の日の25HC3SのIP注射による前処理は、ラットの血清クレアチニン及びBUNレベルを著しく改善した。IP注射による後処理も、ラットの血清クレアチニン及びBUNレベルを減少させた。経口強制投与による25HC3Sの投与は、外科手術の前の日に高い用量において与えて、3日目においてラットの血清クレアチニン及びBUNレベルを減少させてはいるが、注射による投与よりも程度は低かった。
【0221】
[実施例4]
心虚血-再灌流
(材料及び方法)
野生型C67B16マウス(雄及び雌の両方)を実験に使用した。麻酔後、各マウスの胸郭を開き、心臓に、左前下行枝冠状動脈の血管結紮により45分間の虚血性期間を施し、次いで、冠状動脈の動脈閉塞を除去することによって再潅流させた。胸郭を閉じ、マウスを24時間回復させた。すべての動物は、心臓組織へのアクセスを得るために、手術の24時間後の研究の終了時に犠牲にした。心臓を凍結し、切開してスライスにし、次いで梗塞サイズを特定するために染色した。
【0222】
手術(冠状動脈の閉塞)により動物の25~30%が24時間以内に死亡し得る経験を前提として、すべての群に12匹の動物を含ませた。ビヒクル処置群(12匹のマウス)を、25HC3S処置群(24匹のマウス)と比較した。マウスの1つの群には、虚血/再潅流(I/R)の直前に薬物(25HC3S)を投与し、別の群には、I/Rの16~20時間前に薬物を投与した。投与は、ビヒクル(PBS中における10%プロピレングリコール)又は同じビヒクル中における25mg/kgの用量の25HC3Sのどちらかを腹腔内経路により行った。
【0223】
(結果)
データは、ビヒクル処置マウスと薬物処置マウスを比較した場合に、梗塞のサイズに統計的に有意な差のないことを示した。しかしながら、25HC3S処置群の24時間生存率が86%である(
図7)のに対し、ビヒクル処置群の生存率は64%であり、これは、25HC3Sの投与が、心臓虚血-再灌流傷害後の死亡率を減少させることを示している。
【0224】
[実施例5]
ラットにおける脳卒中の研究
(方法及び材料)
麻酔下における雄のSprague-Dawleyラットにおいて、右側中大脳動脈(MCA)閉塞によって一過性脳虚血を生じさせた。虚血の120分後に、MCA血流を回復させた。したがって、この手術をtMCAOと命名した。すべてのラットは、手術後に生理食塩水(ラットあたり4ml)を腹腔内注射した。以下の研究においてラットの3つの群を使用した:
A群:腹腔内注射によってビヒクルを投与した12匹の偽手術されたラット
B群:腹腔内注射によってビヒクルを投与した12匹のtMCAOラット
C群:腹腔内注射によって25HC3Sを投与した12匹のtMCAOたラット
測定したパラメータは以下の通りであった:
経時的な平均体重
経時的な平均7点及び20点ニューロスコア
経時的な肢置き直し試験の結果
平均梗塞体積(mm3)、浮腫体積(mm3)、及びT2-緩和時間(ms)
【0225】
一過性中脳動脈塞栓(tMCAO)の24時間後、3日後、及び7日後に行動性試験を実施した。虚血後運動性及び行動欠陥を評価するために、20点ニューロスコア及び7点ニューロスコア試験を実施した。触覚及び固有受容性刺激に対する前肢及び後肢反応の感覚-運動統合を評価するために、肢置き直し試験を実施した。tMCAOの24時間後及び7日後に、すべてのラットに対してin vivoのMRI取得を実施した。絶対T2-MRIを使用して、病変サイズ、組織生存率(ミリ秒でのT2)、及び脳浮腫を特定した。有効視野撮像マトリクスを使用して、厚さ1mmの18枚の冠状断面を取得した。組織生存率の参考値として、対側性皮質のT2絶対値を使用した。Matlabソフトウェアを使用して、すべてのMRIデータを分析した。梗塞体積/浮腫分析は、処置された群に対して盲検化された観察者が行った。
【0226】
(結果)
tMCAOの手術は、典型的には、動物に20~25%の死亡率をもたらす。この研究において、処置群の2匹の動物が脳手術の直後に死亡した。偽手術群の1匹の動物、ビヒクル群の1匹の動物、及び処置群の2匹の動物が、手術の24時間後、MRI測定中に死亡した。ビヒクル群の1匹の動物及び処置群の1匹の動物が、手術の2日後又は3日後に死亡した。さらに、ビヒクル群の1匹の動物は、3つすべての行動性試験、MRI測定(排除の評価基準)、又は体重変化によって、tMCAO傷害のいかなる兆候も示さず、これは、手術閉塞が起こらなかったことを示している。この動物からのデータは、分析から排除した。ビヒクル群の別の動物も、3つすべての行動性試験及び組織生存率(msでのT2)によってtMCAO傷害の最小兆候を示したが、その一方で、病変体積及び脳浮腫(偽手術と同じ値)による傷害の兆候は示さなかった。その体重は、他のすべての動物と同じようには減少しなかったが、手術後には増加した。しかしながら、この動物からのデータは、すべての分析において含ませた。
【0227】
この研究において、tMCAOは、すべての動物において、機能欠陥(行動性試験により)及び脳病理(MRIによる)の両方を特徴的に誘発した。25HC3Sを投与した動物では、ビヒクルを投与した動物よりもあらゆる試験及びあらゆる時点において良好なスコアの一貫した傾向が存在するが、7点ニューロスコア(
図8A)、20点ニューロスコア(
図8B)、又は脚置き換え試験(
図8C)において、ビヒクル群及び処置群の間において統計的に有意な差はなかった。3つすべての行動性試験の中で、tMCAO後の経時における回復の傾向は、すべての動物において顕著であった。良好な傾向でない場合、3つすべての行動性試験において、ビヒクル群と比較して処置動物に差がないことは、25HC3Sによる処置は、これらの動物において、刺激性、不快感、又は任意の有害な副作用を生じないということを示した。
【0228】
脳浮腫は、虚血/再灌流傷害後の急性反応であり、典型的には、tMCAO後3日以内にピークを迎え、ほとんどは前記手術の7日後に回復する。この研究において、すべての動物は、tMCAO後において特徴的な脳浮腫を示した。25HC3Sを投与された動物は、ビヒクル群の動物と比較して、tMCAOの24時間後においてより小さな浮腫体積(
図8F)又は%浮腫(
図8H)を示したが、差は統計的に有意ではなかった。tMCAOの7日後に、ビヒクル群及び処置群の両方において、脳浮腫(浮腫体積又は%浮腫)はほとんど回復した(
図8G及び8I)。
【0229】
25HC3Sで処置した動物は、tMCAOの24時間後(
図8D)及び7日後(
図8E)の両方において、ビヒクルを投与された動物と比べてより小さい脳病変体積を有するように見えたが、その差は統計的に有意ではなかった。病変体積は、tMCAOの24時間後と7日後を比較すると、両方の群とも経時において減少及び回復する傾向にあった。
【0230】
より短いT2緩和時間(ms)によって表されるように、25HC3Sで処置した動物は、ビヒクルを投与した動物と比べて、統計的により高い細胞生存率を示した。ビヒクル群と比較して、処置された動物におけるこのより高い脳組織生存率(又はmsでのより低いT2)は、tMCAOの24時間後(
図8J)及び7日後(
図8K)において明白であった。両群において、回復の傾向が見られた。
【0231】
tMCAO手術を受けたすべての動物において、著しいが予想された体重減少が観察されたが(
図8L)、処置群における体重は、投薬の1日後又はtMCAO手術前において減少した。しかしながら、統計的に有意であるにもかかわらず、他の差と一致して、脳病理及び行動性試験において見られる傾向を含め、25HC3Sを投与した動物は、ビヒクルを投与したビヒクル動物よりも、体重が速く回復し、手術後4日目から回復し始めた。
【0232】
(まとめ)
結果は、このラットtMCAOモデルにおける25HC3Sの有益な効果を示している。例えば、MRIの結果は、25HC3Sが急性虚血傷害から脳を保護するように思われることを示している。手術の24時間後において、25HC3S処置ラットは、より小さい脳病変体積及び統計的に有意なより小さいT2病変を示した。脳浮腫値(浮腫体積及び%浮腫の両方)は、ビヒクル群のラットより少ない傾向にあった。いくつかのより高いレベルの浮腫(浮腫体積及び%浮腫の両方)が、手術の7日後に25HC3S処置ラットにおいて見られたが、病変体積及びT2病変は、やはり、ビヒクルを投与したラットと比べて25HC3S処置ラットにおいてより小さかった。特に、処置は、結果として、手術の24時間後及び7日後の両方において、未処置のラットと比べて、25HC3S処置ラットにおいて脳T2病変値において統計的に有意な向上を引き起こした。
【0233】
[実施例6A~C]
敗血症
[実施例6A及び6B]
(材料及び方法)
内毒素リポポリサッカライド(LPS)によって誘発された敗血症に対する25HC3Sの効果を調べるために、11週齢の雌のC57BL/6Jマウスに対し、LPS(PBS中における30mg/kg又は40mg/kg)を静脈内注射し、その2時間後に25HC3S(25mg/kg、PBS中における10%プロピレングリコール)の投与によって処置して、死亡率をモニターした(%生存)。
【0234】
(結果)
これら2つの実験のデータは、
図9A及びBに表されている。理解されるように、両実験において、25HC3Sを投与したマウスは、ビヒクルのみを投与したマウスと比べて、著しく長く生存した。
【0235】
[実施例6C]
(材料及び方法)
LPSによって誘発された死亡率に対する25HC3Sの前処置の効果を調べるさらなる実験を行った。この実験において、11週齢の雌のC57BL/6Jマウスに、LPS(PBS中における4mg/kg)を静脈内注射した。マウスを、LPS投与の2時間前に、25HC3S(50mg/kg、PBS中における10%プロピレングリコール)の投与によって処置し、死亡率(%生存)をモニターした。結果は、以下及び
図9Cに提示されている。理解されるように:
結果
対照群:
1日目において、5匹中1匹(1/5)のマウスが死亡し、すなわち、生存率は80%であった、 2日目までに、5匹中2匹(2/5)のマウスが死亡し、すなわち、生存率は60%であった、
3日目までに、5匹中3匹(3/5)のマウスが死亡し、すなわち、生存率は40%であった、
25HC3S投与群:3日目の時点で、25HC3Sで処置した5匹のマウスのいずれも死亡しておらず、すなわち、生存率は100%であった。
【0236】
(まとめ)
25HC3Sの投与は、LPSに曝露したマウスの寿命を延ばす。
【0237】
[実施例7]
ヒトフェーズI単回投与漸増研究
無作為二重盲検プラセボ対照単回投与漸増ヒト初回投与フェーズI研究を実施した。活性薬剤25HC3Sを、ORA-Blend(登録商標)SF無糖風味付け経口懸濁ビヒクルの60mL中に30、100、300、及び600mgで懸濁させた。プラセボ剤形として、炭酸カルシウム(USP)を、ORA-Blend(登録商標)SF無糖風味付け経口懸濁ビヒクルの60mL中に30、100、300、及び600mgで懸濁させた。活性薬剤又はプラセボのどちらかの懸濁液を、各被験者に経口投与した。各用量群には、活性薬剤を投与される4人の被験者と、プラセボの単回用量を投与される2人の被験者とが含まれていた。すべての被験者を、投与後7日間にわたって、任意の潜在的有害事象について保険専門家がモニターした。
図10に示されているように、投与の前後に、選択された時間間隔において血漿試料を採取した。
【0238】
25HC3Sを600mg投与した群を含め、いずれの用量群においても有害事象は観察されなかった。活性薬剤及びプラセボの両方が、良好に忍容性を示した。薬物動態的に、この薬物は、高いバイオアベイラビリティを示した(
図10)。
【0239】
特に明記されない限り、化合物又は成分に対する言及は、単独での化合物又は成分、並びに他の化合物又は成分との組合せ、例えば、化合物の混合物における化合物又は成分を包含する。
【0240】
本明細書において使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されていない限り、複数の指示対象を包含する。
【0241】
本明細書において提供されるすべての数値範囲に対し、範囲は、範囲の最高値と最低値の間のすべての整数、並びにこれらの値の間にあるすべての少数を、例えば0.1の増分において含むことは理解されるべきである。
【0242】
本明細書において提供されるすべての数値に対し、値は、数値を囲むすべての統計的に有意な値を包含することが意図される。
【0243】
その好ましい実施形態の観点から本発明を説明してきたが、本発明に対して添付の態様及びクレームの趣旨及び範囲内において変更を実施できることは当業者の認めるところであろう。したがって、本発明は、上記において説明されたような実施形態に限定されるものではないが、本明細書において提供された説明の趣旨及び範囲内におけるすべてのその変更例及び等価物を包含するものである。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容可能な塩を含む組成物であって、前記組成物は、敗血症の処置を必要とする対象において、敗血症を処置又は予防的に処置するためのものであり、
組成物に含まれる前記5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)又はその薬学的に許容可能な塩の量が、敗血症を処置又は予防的に処置するのに十分な量である、前記組成物。
【請求項2】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、非経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内注射、腹腔内注射、経皮投与、舌下投与、直腸投与、頬側送達、エアゾールの吸入、膣内投与、鼻腔内投与、及び、局所的投与の少なくとも1つにより投与されるためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、経口投与、皮下投与、及び筋肉内投与の少なくとも1つにより投与されるためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、静脈内投与により投与されるためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、注射により投与されるためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
水をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
緩衝剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
水及び緩衝剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、25HC3Sの薬学的に許容可能な塩を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、約0.001mg/kgから約100mg/kgの範囲の用量で投与されるためのものである、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、約0.001mg/kgから約10mg/kgの範囲の用量で投与されるためのものである、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、約0.1mg/kgから約10mg/kgの範囲の用量で投与されるためのものである、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記25HC3S又はその薬学的に許容可能な塩が、1日当たり1回~3回、投与されるためのものである、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0243
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0243】
その好ましい実施形態の観点から本発明を説明してきたが、本発明に対して添付の態様及びクレームの趣旨及び範囲内において変更を実施できることは当業者の認めるところであろう。したがって、本発明は、上記において説明されたような実施形態に限定されるものではないが、本明細書において提供された説明の趣旨及び範囲内におけるすべてのその変更例及び等価物を包含するものである。
本発明の実施形態として例えば以下を挙げることができる。
[実施形態1]
それを必要とする対象において、外科手術によって引き起こされた虚血を予防的処置又は処置する方法であって、
前記虚血を予防的処置又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を前記対象に投与する工程
を含む方法。
[実施形態2]
虚血が、心虚血、脳虚血、腸管虚血、肢虚血、及び皮膚虚血から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
虚血の予防的処置又は処置が、対象において炎症、組織ネクローシス、臓器ネクローシス、脳卒中のリスク、及び再潅流傷害の1つ以上を減少させることを含む、実施形態1又は2に記載の方法。
[実施形態4]
外科手術が、心臓血管手術、心臓手術、及び動脈瘤手術のうちの少なくとも1つを含む、実施形態1から3のいずれかに記載の方法。
[実施形態5]
25HC3Sが、外科手術前に7日間以下にわたって投与される、実施形態1から4のいずれかに記載の方法。
[実施形態6]
25HC3Sが、外科手術中に投与される、実施形態1から5のいずれかに記載の方法。
[実施形態7]
25HC3Sが、外科手術後に7日間以下にわたって投与される、実施形態1から6のいずれかに記載の方法。
[実施形態8]
外科手術が肝臓手術ではない、実施形態1から7のいずれかに記載の方法。
[実施形態9]
外科手術が移植手術ではない、実施形態1から8のいずれかに記載の方法。
[実施形態10]
それを必要とする対象において1つ以上の臓器又は臓器系の機能障害又は不全を予防又は処置する方法であって、
前記臓器又は臓器系の前記機能障害又は不全を予防又は処置するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を対象に投与する工程
を含み、
前記1つ以上の臓器が肝臓を含む場合に、前記投与工程が、14日間以下にわたって行われる、方法。
[実施形態11]
1つ以上の臓器が、肝臓、腎臓、心臓、脳、及び膵臓から選択される少なくとも1つのメンバーを含む、実施形態10に記載の方法。
[実施形態12]
機能障害又は不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、実施形態10又は11に記載の方法。
[実施形態13]
25HC3Sが、ATMPの投与の1週間以内に投与される、実施形態12記載の方法。
[実施形態14]
機能障害又は不全が、多臓器機能障害症候群(MODS)である、実施形態10から13のいずれかに記載の方法。
[実施形態15]
1つ以上の細胞、臓器、又は組織を移植する方法であって、
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織をドナーから摘出する工程、
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を、前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程、及び
前記1つ以上の細胞、臓器、又は組織をレシピエントに移植する工程
を含む方法。
[実施形態16]
1つ以上の細胞、臓器、又は組織が、肝臓細胞、肝臓臓器、又は肝臓組織ではない、実施形態15に記載の方法。
[実施形態17]
ex vivoの細胞、臓器、又は組織を保存する方法であって、
前記ex vivoの細胞、臓器、又は組織を、前記細胞、臓器、又は組織を保存するのに十分な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)と接触させる工程
を含む方法。
[実施形態18]
それを必要とする対象において急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置する方法であって、
前記対象に、急性肝不全及び/又は腎不全を予防又は処置するのに有効な量の5-コレステン-3,25-ジオール,3-サルフェート(25HC3S)を投与する工程
を含み、
前記急性肝不全及び/又は腎不全がアセトアミノフェン(ATMP)によって引き起こされる、方法。