(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098873
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】光デバイス、光送信装置及び光受信装置
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20240717BHJP
G02B 6/42 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G02B6/122 311
G02B6/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002656
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹
【テーマコード(参考)】
2H137
2H147
【Fターム(参考)】
2H137AB06
2H137AB08
2H137AB11
2H137BA01
2H137BA36
2H137BA52
2H137BA53
2H137BB02
2H137BB12
2H137EA02
2H137EA04
2H137EA05
2H137EA11
2H147AB02
2H147AB04
2H147AB05
2H147BA05
2H147BA06
2H147BA17
2H147BB02
2H147BB04
2H147BD10
2H147CB01
2H147CB02
2H147CD02
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14A
2H147EA14B
2H147EA14D
2H147FA05
2H147FC03
2H147FC08
(57)【要約】
【課題】光損失の低減を図りながら長期信頼性を確保できる光デバイス等を提供する。
【解決手段】光デバイスは、基板上に形成されたコアと、前記コアを覆うクラッド層と、前記クラッド層上に形成されたパッシベーション層とを有する。光デバイスは、前記コア内を導波する光のスポットサイズを前記基板の端部に向けて大きくするスポットサイズ変換器を備えている。前記パッシベーション層は、前記クラッド層よりも材料屈折率が高く、かつ、当該スポットサイズ変換器の少なくとも上部を除く領域に形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたコアと、前記コアを覆うクラッド層と、前記クラッド層上に形成されたパッシベーション層とを有する光デバイスであって、
前記コア内を導波する光のスポットサイズを前記基板の端部に向けて大きくするスポットサイズ変換器を備え、
前記パッシベーション層は、
前記クラッド層よりも材料屈折率が高く、かつ、当該スポットサイズ変換器の少なくとも上部を除く領域に形成されていることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記スポットサイズ変換器は、
前記光のスポットサイズが前記基板の端部に向けて大きくなるように前記コアの幅を前記基板の端部に向けて小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記クラッド層の上部に、前記クラッド層よりも材料屈折率が小さい材料の膜を設けることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記コアの材料は、
Si、SiN、SiONの内、少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記コアにある前記スポットサイズ変換器と前記基板の端部とのなす角が垂直以外であることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記コアにある前記スポットサイズ変換器の先端がダイシングラインを隔てて対になる2個の前記スポットサイズ変換器が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記スポットサイズ変換器が複数配列して構成することを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記スポットサイズ変換器は、
半導体若しくは誘電体を光導波部とし、その周囲が前記光導波部より屈折率の小さいカバー層で覆われている光導波路を備え、比屈折率差の大きな光導波路から比屈折率差の小さな光導波路に光を導波して光のスポットサイズを大きくし、
前記パッシベーション層は、
前記比屈折率差の小さな光導波路の少なくとも一部の上部を除く領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記光導波路を構成する半導体若しくは誘電体の材料は、Si、SiO2、SiN、SiONの内、少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項8に記載の光デバイス。
【請求項10】
前記カバー層が空気層であることを特徴とする請求項8に記載の光デバイス。
【請求項11】
電気信号に対する信号処理を実行するプロセッサと、
光を発生させる光源と、
前記プロセッサから出力される電気信号を用いて、前記光源から発生する光を変調する光送信器と、を有する光送信装置であって、
前記光送信器内の光デバイスは、
基板上に形成されたコアと、前記コアを覆うクラッド層と、前記クラッド層上に形成されたパッシベーション層とを有し、
前記コア内を導波する光のスポットサイズを前記基板の端部に向けて大きくするスポットサイズ変換器を備え、
前記パッシベーション層は、
前記クラッド層よりも材料屈折率が高く、かつ、当該スポットサイズ変換器の少なくとも上部を除く領域に形成されていることを特徴とする光送信装置。
【請求項12】
光を発生させる光源と、
前記光源からの光を用いて受信光を復調する光受信器と、を有する光受信装置であって、
前記光受信器内の光デバイスは、
基板上に形成されたコアと、前記コアを覆うクラッド層と、前記クラッド層上に形成されたパッシベーション層とを有し、
前記コア内を導波する光のスポットサイズを前記基板の端部に向けて大きくするスポットサイズ変換器を備え、
前記パッシベーション層は、
前記クラッド層よりも材料屈折率が高く、かつ、当該スポットサイズ変換器の少なくとも上部を除く領域に形成されていることを特徴とする光受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス、光送信装置及び光受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信容量の増加に伴って、光ファイバ通信の需要が増大している。光ファイバ通信では、例えば、コンピュータで用いられる電気信号を光ファイバに通すための光信号に変換する光デバイスが必要となる。光デバイスは市場の要求に合わせて小型かつ低電力で大容量なものが求められており、それを実現するためにSi基板上に導波路や電極基板を集積させたSiPh(Silicon-Photonics)素子が非常に高い注目を集め、日々活発に研究・開発が行われている。SiPhの大きな利点は、CMOS製造に用いられる高精細プロセス技術を生かして、多数の要素デバイスから構成される大規模な光集積回路を容易に製造できる点にある。
【0003】
こうした光集積素子(Photonics Integrated Circuit: PIC)を光通信用のモジュールとして実装するには、光集積素子のSi導波路をチップ端面まで引き回し、Si導波路と光ファイバとを光学的に接続して光の入出力を行う必要がある。従って、Si導波路と光ファイバとの間の接続には低い結合損失と長期的信頼性とが要求されている。
【0004】
SiPh-PICでは酸化ケイ素中のSiやSi3N4を光導波路として用いるが、SiO2の比屈折率差が大きいために導波する光のスポットサイズ(モード径)が小さくなる。そして、そのまま光導波路を光ファイバに接合した場合、光ファイバを導波する光のスポットサイズのミスマッチにより大きな光損失が発生する。しかしながら、エネルギー効率の観点から光損失は小さい方が好ましいため、光のスポットサイズの変換構造を用いて光結合を行っている。光結合としては、例えば、レンズを介して光カプラと光ファイバとを繋ぐレンズ結合と、光カプラと光ファイバとを直接突き合わせて繋ぐBJ(But Joint)結合とが知られている。
【0005】
レンズ結合を用いる場合、PICの光カプラ自体の光のスポットサイズが小さい場合でも、レンズを使用して光導波路を導波する光のスポットサイズを光ファイバ、例えば、SMF(Single Mode Fiber)のスポットサイズまで拡大することができる。しかしながら、光カプラの出力光モードは一般的に偏光依存性があり、レンズ等の空間結合系を用いた場合には結合効率の偏波依存性が大きくなる。また、チップと光ファイバとの間にレンズを挟んだ光学系を構築する上ではデバイス面積が増加し、小型モジュールへの実装が困難になる。更に、光軸調整のためにデバイス製造に要する工数が増え、又は、特殊な調整装置が必要になる等、コスト面でも課題がある。
【0006】
これに対して、BJ結合では、レンズ結合の課題を解決できるが、レンズを用いずに通常径のSMFの光のスポットサイズと同程度までPICの出力光のスポットサイズを大きくするのは困難である。
【0007】
そこで、BJ結合でよく用いられる構造の一つとして逆テーパSSC(Spot Size Converter)構造がある。
図28は、逆テーパSSC構造を備えた基板型光導波路素子200の平面模式図である。
図28に示す基板型光導波路素子200は、光導波路201と、光導波路201と光結合する導波路が基板端面Eに向かって徐々に狭くなる逆テーパ型のSSC202と、光導波路201及びSSC202を覆うクラッド層203とを有する。SSC202では、導波路のサイズをテーパ状に徐々に狭くすることで、導波路のコアからの光の浸み出しであるエバネッセント波を増加させ、クラッド層203にまたがって広く光を分布させる。その結果、SSC202は、基板端面Eの接続先にある光ファイバに向かって光のスポットサイズを広げることができる。つまり、基板型光導波路素子200と光ファイバとの間の異なる光導波路のスポットサイズのミスマッチが低減され、低損失な接続が可能となる。
【0008】
しかしながら、基板型光導波路素子200と光ファイバとの間を低損失に接続するためには、基板型光導波路素子200内でスポットサイズを広げる際の光損失を抑える必要がある。そのためには、基板型光導波路素子200内でクラッド層203へ広がった光に対して、余計な光損失を生じさせないようにする必要がある。
【0009】
また、従来の基板型光導波路素子200では、例えば、変調器、受光器、VOA(Variable Optical Attenuator)等の複数の半導体光素子が基板上に配置されている。そして、基板型光導波路素子200では、これらの半導体光素子に効率よく電気を伝えるためにアルミニウム、タングステン、チタン、ゲルマニウム等の金属が使われている。しかしながら、これらの金属は、水分により腐食して、酸化による高抵抗化で光素子の特性が劣化するために長期信頼性を確保する必要がある。従って、長期的信頼性の観点から基板型光導波路素子200の上部にパッシベーション層を設けて、吸湿等による材料特性の変動等を抑えて長期信頼性を確保することが一般的である。
【0010】
図29は、従来の基板型光導波路素子210の一例を示す略断面模式図である。
図29に示す基板型光導波路素子210は、Si基板211と、Si基板211上に積層されたBOX(Buried Oxide)層212と、BOX層212に積層されたクラッド層213と、を有する。更に、基板型光導波路素子210は、クラッド層213内に配置された光導波路214と、クラッド層213上に積層されたパッシベーション層215とを有する。BOX層212は、例えば、SiO
2等で形成する下部クラッドである。クラッド層213は、例えば、SiO
2等で形成する上部クラッドである。光導波路214は、例えば、Si
3N
4で形成する光導波路である。BOX層212上に積層されたSiO
2層の一部と、SiO
2層上に積層されたSi
3N
4層の一部とをエッチングすることで、Si
3N
4のコアを形成する。更に、コアが剥き出しにならないようにSiO
2層及びエッチング後のSi
3N
4層上にSiO
2を堆積させることで、クラッド層213内に光導波路214を形成する。
【0011】
光導波路214は、直線導波路221と、基板型光導波路素子210の基板端面Eに向かってテーパ状に徐々に狭くなるSSC222とを有する。更に、パッシベーション層215は、クラッド層213上に、例えば、Si3N4膜を堆積させることで形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003-202533号公報
【特許文献2】特開2016-090711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、パッシベーション層215のSi3N4の材料屈折率は、クラッド層213のSiO2よりも材料屈折率が高い。例えば、導波する光の波長が1.55μmとした場合、Si3N4の材料屈折率が約2.0に対して、SiO2の材料屈折率が約1.44である。従って、SSC222で広がった光がパッシベーション層215に分布した場合、全反射による光閉じ込めが成立せずに、パッシベーション層215に光が遷移してしまい、SSC222における光損失の増加につながることが検証で判明した。
【0014】
図30は、検証対象の基板型光導波路素子210の一例を示す略断面模式図、
図31は、検証対象の基板型光導波路素子210内のSSC222の一例を示す平面模式図である。
図30に示す基板型光導波路素子210では、BOX層212の厚さは3.0μm、クラッド層213の厚さは2.89μm、パッシベーション層215の厚さは0.3μmとする。更に、クラッド層213の生成の過程でBOX層212から0.49μmの高さにSi
3N
4の光導波路214のコアを厚さ0.3μmで形成する断面構造とした。
図31に示すSi
3N
4のSSC222は、先端部分の横幅Wsinを0.34μmとして1.0μmまで導波路を拡大して、そのテーパの全長は200μmである逆テーパ形状のSSCとする。また、SSC222は、スポットサイズ径が4μmの光ファイバと接続するSSCとする。尚、スポットサイズ径は、コア中心から電界の大きさがピークの1/eとなる位置までの距離を半径とした場合の直径を表す。
【0015】
そこで、基板型光導波路素子210内のSSC222にTE0及びTM0の光を入力し、出力されるTE0及びTM0の光のパワーを測定し、入力パワーに対する出力パワーの比から光損失をそれぞれ測定した。尚、TE0は、基板に水平な成分が主となるTEモードの内、実効屈折率が最も大きい導波モードであり、TM0は、基板に垂直な成分が主となるTMモードの内、実効屈折率が最も大きい導波モードである。
【0016】
図32は、
図31に示すSSC222のTE0及びTM0の入力波長毎の光損失の測定結果の一例を示す説明図である。
図32の測定結果を検証すると、TE0の場合、入力波長毎の光損失は小さいが、TM0の場合、入力波長毎の光損失は大きいことが解る。
【0017】
図33は、
図31に示すSSC222のTM0の電界分布の一例を示す説明図である。光損失の原因を確認するため、SSC222の断面を導波するTM0の光電界分布を有限要素法により計算した。
図33に示す通り、SSC222のコアに電界が集中しているが、導波路幅が狭いためクラッド層213に電界が染み出してスポットサイズが広がっていることが確認できる。更に、広がった電界がパッシベーション層215に達するため、パッシベーション層215にも電界が分布していることがわかる。その結果、本来はコアの中心から広がるはずの光が、パッシベーション層215に遷移されることで光損失が増加することが解る。
【0018】
従って、
図31に示す基板型光導波路素子210では、長期信頼性の確保とスポットサイズ変換時の損失低減を同時に両立させるのは困難である。尚、クラッド層213のSiO
2層を厚くすることでパッシベーション層215をSSC222のコアから遠ざけることも可能である。しかしながら、クラッド層213が厚くなるほど応力が強まり、基板型光導波路素子210を含む光集積回路ウエハが歪む等の製造上の問題が生じ得るため、クラッド層213の厚さを厚くするには限度があるのが実情である。
【0019】
一つの側面では、光損失の低減を図りながら長期信頼性を確保できる光デバイス等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一つの態様の光デバイスは、基板上に形成されたコアと、前記コアを覆うクラッド層と、前記クラッド層上に形成されたパッシベーション層とを有する。光デバイスは、前記コア内を導波する光のスポットサイズを前記基板の端部に向けて大きくするスポットサイズ変換器を備えている。前記パッシベーション層は、前記クラッド層よりも材料屈折率が高く、かつ、当該スポットサイズ変換器の少なくとも上部を除く領域に形成されている。
【発明の効果】
【0021】
一つの側面によれば、光損失の低減を図りながら長期信頼性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例1の基板型光導波路素子の一例を示す略断面模式図である。
【
図2】
図2は、基板型光導波路素子の一例を示す略平面模式図である。
【
図3】
図3は、接着剤塗布後の基板型光導波路素子の一例を示す略断面模式図である。
【
図4】
図4は、検証対象の基板型光導波路素子の一例を示す略断面模式図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すSSCのTM0の電界分布の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、
図4に示すSSCのTE0及びTM0の入力波長毎の光損失の測定結果の一例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、基板型光導波路素子のクラッド層の屈折率変化に伴う透過率の影響の一例を示す説明図である。
【
図8A】
図8Aは、基板型光導波路素子に使用するSOI基板の一例を示す説明図である。
【
図8B】
図8Bは、Si層除去後のSOI基板の一例を示す説明図である。
【
図9A】
図9Aは、成膜工程後のSOI基板の一例を示す説明図である。
【
図9B】
図9Bは、光導波路のマスク工程の一例を示す説明図である。
【
図10B】
図10Bは、光導波路の形成工程後のSOI基板の一例を示す略平面模式図である。
【
図12A】
図12Aは、パッシベーション層のマスク工程の一例を示す説明図である。
【
図13A】
図13Aは、SSCと光ファイバとを接合した状態での接着剤塗布工程の基板型光導波路素子の一例を示す説明図である。
【
図13B】
図13Bは、接着剤塗布工程後の基板型光導波路素子の一例を示す略平面模式図である。
【
図14】
図14は、実施例2の基板型光導波路素子の一例を示す略断面模式図である。
【
図15】
図15は、実施例3の基板型光導波路素子の一例を示す略平面模式図である。
【
図17】
図17は、パッシベーション層のマスク工程の一例を示す説明図である。
【
図18】
図18は、実施例4の光集積回路ウエハの一例を示す平面模式図である。
【
図19】
図19は、パッシベーション層のマスク工程の光集積回路ウエハの一例を示す説明図である。
【
図20】
図20は、実施例5の光集積回路ウエハの一例を示す平面模式図である。
【
図21】
図21は、パッシベーション層のマスク工程の光集積回路ウエハの一例を示す説明図である。
【
図22】
図22は、実施例6の基板型光導波路素子の一例を示す略断面模式図である。
【
図23】
図23は、実施例6の基板型光導波路素子の一例を示す平面模式図である。
【
図24A】
図24Aは、SSC内の第1のテーパ導波路をSiO
2層上に形成する工程の一例を示す説明図である。
【
図25】
図25は、中空構造のSSCの形成工程の一例を示す説明図である。
【
図26】
図26は、接着剤塗布工程後の基板型光導波路素子の一例を示す略断面模式図である。
【
図27】
図27は、本実施例の基板型光導波路素子を内蔵した光通信装置の一例を示す説明図である。
【
図28】
図28は、逆テーパSSC構造を備えた基板型光導波路素子の平面模式図である。
【
図29】
図29は、従来の基板型光導波路素子の一例を示す略断面模式図である。
【
図30】
図30は、検証対象の基板型光導波路素子の一例を示す略断面模式図である。
【
図31】
図31は、検証対象の基板型光導波路素子内のSSCの一例を示す平面模式図である。
【
図32】
図32は、
図31に示すSSCのTE0及びTM0の入力波長毎の光損失の測定結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本願の開示する光デバイス等の実施例を詳細に説明する。尚、本実施例により、開示技術が限定されるものではない。また、以下に示す各実施例は、矛盾を起こさない範囲で適宜組み合わせても良い。
【実施例0024】
図1は、実施例1の基板型光導波路素子1の一例を示す略断面模式図、
図2は、基板型光導波路素子1の一例を示す略平面模式図である。
図1に示す基板型光導波路素子1は、Si基板11と、Si基板11上に積層されたBOX(Buried Oxide)層12と、BOX層12に積層されたクラッド層13と、クラッド層13内に配置された光導波路14と、を有する。更に、基板型光導波路素子1は、クラッド層13上に積層されたパッシベーション層15を有する。BOX層12は、例えば、SiO
2層で形成する下部クラッドである。クラッド層13は、例えば、SiO
2層で形成する上部クラッドである。光導波路14は、例えば、Si
3N
4層で形成するコアを有する導波路である。BOX層12上に積層されたSiO
2層の一部と、SiO
2層上に積層されたSi
3N
4層の一部とをエッチングすることで、Si
3N
4層のコアを形成する。コアが剥き出しにならないようにSiO
2層及びエッチング後のSi
3N
4層上にSiO
2を堆積させることで、クラッド層13内に光導波路14を形成する。
図2に示す光導波路14は、直線導波路21と、光ファイバと光結合する、基板型光導波路素子1の基板端面Eに向かってテーパ状に徐々に狭くなるSSC22とを有する。
【0025】
直線導波路21は、例えば、Si3N4層で形成するコアを有する光導波路である。SSC22は、直線導波路21と基板端面Eとの間に配置され、基板端面Eに向かって徐々にコア幅がテーパ状に徐々に狭く、コア内を導波する光のスポットサイズが基板端面Eに向かって徐々に大きくなる逆テーパ構造のSSCである。
【0026】
更に、パッシベーション層15は、クラッド層13上に、例えば、Si3N4膜を堆積させることで形成する。パッシベーション層15は、Si3N4層で形成するため、クラッド層13よりも材料屈折率が高い。更に、パッシベーション層15は、SSC22の少なくとも上部を除く領域に形成されることで、SSC22の上部にあるクラッド層13を露出する開口部15Aが形成されている。
【0027】
図3は、接着剤塗布後の基板型光導波路素子1の一例を示す略断面模式図である。
図3に示すパッシベーション層15内の開口部15Aから露出するクラッド層13には、クラッド層13よりも材料屈折率が小さい材料の接着剤16を塗布し、当該接着剤16を用いて、基板端面EにあるSSC22のコアと光ファイバのコアとを光結合する。
【0028】
次に実施例1の基板型光導波路素子1の性能について検証する。
図4は、検証対象の基板型光導波路素子1の一例を示す略断面模式図である。
図4に示す基板型光導波路素子1では、BOX層12の厚さを例えば3.0μm、クラッド層13の厚さを例えば2.89μm、パッシベーション層15の厚さを例えば0.3μmとする。更に、クラッド層13の生成の過程でBOX層12から例えば0.49μmの高さの位置に厚さ0.3μmのSi
3N
4の光導波路14を形成している。光導波路14内のSSC22は、先端部分の横幅W
SINを0.34μmとして1.0μmまで導波路幅を徐々に広くし、そのテーパの全長を200μmとする逆テーパ型のSSCとする。尚、SSC22は、スポットサイズ径が4μmの光ファイバと接続するSSCとする。また、パッシベーション層15の開口部15Aの幅は、例えば、20μmとする。尚、SSC22上のパッシベーション層15の開口部15Aは、パッシベーション層15のSi
3N
4膜を堆積後に、例えば、リソグラフィ及びエッチングを実行することで形成する。
【0029】
図5は、
図4に示すSSC22のTM0の電界分布の一例を示す説明図である。SSC22上のパッシベーション層15を除去した場合のSSC22の断面を導波するTM0の光電界分布を有限要素法により計算した。基板に対してTM0の電界成分は、コアを中心に広がり、
図33に比較して、パッシベーション層215があった付近に広がるTM0の電界成分が
図5では消失していることが解る。つまり、SSC22上のパッシベーション層15を除去することで、SSC22のコアからパッシベーション層15への光遷移による光損失を軽減できる。
【0030】
図6は、
図4に示すSSC22のTE0及びTM0の入力波長毎の光損失の測定結果の一例を示す説明図である。
図6に示す測定結果を検証すると、SSC22の上部のパッシベーション層15を除去することで、TE0の場合、入力波長毎の光損失は小さいことは勿論のこと、TM0の場合でも、入力波長毎の光損失が小さくなったことが解る。
【0031】
次に、SSC22上のパッシベーション層15の除去、すなわち開口部15Aによる長期的信頼性への影響について検証する。SiO2のクラッド層13の形成は、例えば、プラズマCVDによる膜堆積方法が知られている。プラズマCVDによる膜堆積方法では、有機シリコン材をプラズマでO-H基に分解して、ターゲットにSiO2として堆積させていく。しかしながら、O-H基のまま膜内に取り残される場合があり、この場合、外部からの吸湿の影響で、時間経過とともに、このO-H基がSiO2に変化する。このとき、光学的な特性が変化し、例えば、材料屈折率が変化してしまうことになる。
【0032】
そこで、
図4に示すSSC22において、クラッド層13のSiO
2の材料屈折率が変化した場合の光学的な特性への影響を検討した。材料屈折率の変化は、基板型光導波路素子1のスポットサイズ径が変化してしまうことで光ファイバとの接続効率が低下することになる。SSC22は、クラッド層13への光の浸み出しによりスポットサイズが広がることになるが、クラッド層13の屈折率が変化すると、浸み出しの程度が変化して、スポットサイズ径が変化してしまう。そこで、SSC22の出力端である基板型光導波路素子1の基板端面Eにおける十分拡大した光と、光ファイバのコアの光との接続効率を計算した。
【0033】
具体的には、基板型光導波路素子1では、クラッド層13の材料屈折率の増加率が-1%~+1%の間で変化した場合の4μmのスポットサイズ径をもつ光ファイバとの接続効率を有限差分領域法で計算した。尚、屈折率の変化の範囲は、-1%~+1%の間の範囲以上に変化することはないのが一般的に知られている。また、計算に当たり、実際の実装精度を考慮して、光ファイバとSSC22の出力端との間の距離を3μm離間した場合を想定し、SSC22のコアを導波する光の波長は1.5475μmとする。
図7は、基板型光導波路素子1のクラッド層13の屈折率変化に伴う透過率の影響の一例を示す説明図である。透過率は、SSC22を出力した光が光ファイバに入力される効率を表す。クラッド層13の材料屈折率の増加率が、-1%~+1%に変化したとしても、透過率は変化前に対して、-0.011dB~0.007dB、すなわち、99.974%~100.016%しか変化していない。その結果、SSC22の上部のパッシベーション層15を除去した、すなわちパッシベーション層15内に開口部15Aを形成したとしても、クラッド層13の透過率の変化は軽微で長期的信頼性を確保できることが解る。つまり、基板型光導波路素子1では、SSC22の光損失の低減及び長期信頼性の確保の両立を図ることができる。
【0034】
次に実施例1の基板型光導波路素子1の製造工程について説明する。
図8Aは、基板型光導波路素子1に使用するSOI(Si on Insulator)基板の一例を示す説明図である。
図8Aに示すSOI基板は、Si基板11と、Si基板11上に積層されたBOX層12と、BOX層12上に積層されたSi層31とを有する。Si基板11の厚さは、例えば、750μm、BOX層12の厚さは、例えば2.5μm、Si層(SOI層)31の厚さは、例えば、250μmとする。基板型光導波路素子1のウエハには、例えば、変調器や受光器等で本構造以外にもドーピング等の工程を必要とする構造もあるが、ここでは、そうした工程は省略するものとする。
【0035】
図8Bは、Si層除去後のSOI基板の一例を示す説明図である。
図8Bに示すSOI基板は、コアにSi層31を使用しないので、
図8Aに示すSOI基板上のSi層31をエッチングにより除去する。
【0036】
図9Aは、成膜工程後のSOI基板の一例を示す説明図である。次に、プラズマCVD法を用いてBOX層12上にSiO
2層32を成膜した後、SiO
2層32上に光導波路14のSi
3N
4層33を成膜する。つまり、
図9Aに示すSOI基板は、BOX層12上に積層されたSiO
2層32と、SiO
2層32上に積層されたSi
3N
4層33とを有する。
【0037】
図9Bは、光導波路14のマスク工程の一例を示す説明図である。
図9Bに示すSi
3N
4層33上に、Si
3N
4の光導波路14のコアを形成する位置にフォトレジスト34を配置する。
【0038】
図10Aは、光導波路14の形成工程の一例を示す説明図、
図10Bは、光導波路14の形成工程後のSOI基板の一例を示す略平面模式図である。
図10Bに示すSiO
2層32上に形成された光導波路14内の直線導波路21は、導波路幅が、例えば、1000nmのパターンである。光導波路14内の逆テーパのSSC22は、導波路幅が、基板端面Eに向かって、例えば、1000nmから340nmまで徐々に変化させる全長250μmのパターンである。直線導波路21及びSSC22のパターンをマスクしてドライエッチングを実行することで、Si
3N
4の直線導波路21及びSi
3N
4のSSC22のパターンをSiO
2層32上に形成する。
【0039】
図11Aは、クラッド層13の形成工程の一例を示す説明図である。
図10Aに示すSOI基板のSiO
2層32、直線導波路21及びSSC22上にプラズマCVD法でSiO
2を成膜することで、BOX層12上にクラッド層13を形成する。クラッド層13は、直線導波路21及びSSC22を覆うことで囲むことになる。クラッド層13の厚さは、例えば、5μmとする。その結果、直線導波路21及びSSC22のSi
3N
4のコアは、SiO
2のクラッド層13に囲まれている状態になり、Si
3N
4とSiO
2との比屈折率差によりコア内に光が閉じ込められ光が伝搬するようになる。
【0040】
図11Bは、パッシベーション層15の形成工程の一例を示す説明図である。クラッド層13上にプラズマCVD法でSi
3N
4を成膜してクラッド層13上にパッシベーション層15を形成する。パッシベーション層15の厚さは、例えば、300nmとする。
【0041】
図12Aは、パッシベーション層15のマスク工程の一例を示す説明図である。SSC22上部にあるパッシベーション層15を除去、すなわち開口部15Aを形成すべく、SSC22上部以外の部分のパッシベーション層15上にフォトレジスト35を配置する。
【0042】
図12Bは、開口部15Aの形成工程の一例を示す説明図である。
図12Aに示すフォトレジスト35が配置されたパッシベーション層15をエッチングすることで、SSC22上部にあるパッシベーション層15が除去される。その結果、SSC22上のパッシベーション層15内に開口部15Aが形成される。開口部15Aの幅は、例えば、20μmの範囲である。これらの工程を経て
図4に示す基板型光導波路素子1が形成される。
【0043】
図13Aは、SSC22と光ファイバXとを接合した状態での接着剤塗布工程の基板型光導波路素子1の一例を示す説明図、
図13Bは、接着剤塗布工程後の基板型光導波路素子1の一例を示す略平面模式図である。基板型光導波路素子1の基板端面EにあるSSC22の先端と光ファイバXとを接続し、パッシベーション層15内の開口部15Aで露出するクラッド層13上に接着剤16を塗布する。尚、接着剤16は、クラッド層13に比較して材料屈折率が小さい材料である。クラッド層13の屈折率は、例えば1.44の場合、接着剤16の屈折率は、例えば1.41とする。SSC22の上部にあたるパッシベーション層15の開口部15A内に塗布された接着剤16を用いて光ファイバXと基板端面EにあるSSC22とが接続されている状態である。尚、光ファイバXは、基板型光導波路素子1との接続を安定させる構造の一つとして、例えば、コアの周囲にガラス等の微小なブロックであるキャピラリが付いているキャピラリ付きファイバである。
【0044】
実施例1の基板型光導波路素子1では、Si3N4のSSC22の上部を除く領域にパッシベーション層15を形成した。その結果、SSC22のコアからパッシベーション層15への光遷移による光損失を低減できると共に、パッシベーション層15による長期的な信頼性を確保できる。
【0045】
尚、SSC22のコアのサイズは、コア厚を光の進行方向に沿って変えてもよいし、コア幅を変えても良い。コア幅は、リソグラフィ及びエッチングを実行することで、容易に変更可能である。基板型光導波路素子1は、光導波路14のコアがSi3N4、クラッド層13がSiO2、パッシベーション層15がSi3N4の場合を例示したが、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、BOX層12とクラッド層13とで異なる材料を使用しても良い。また、パッシベーション層15がクラッド層13よりも高い屈折率を有する基板型光導波路素子1であれば他の材料を使用しても良く、適宜変更可能である。基板型光導波路素子1の接続先は光ファイバXを例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、レンズ結合や他の基板型光導波路素子との突合せ結合等でも良く、適宜変更可能である。また、SSC22でスポットサイズを拡大する場合であれば、どのような接続先にも適用可能である。パッシベーション層15を除去した部分のクラッド層13に、更に、SiO2等の膜を堆積、又は樹脂等の材料を塗布しても良く、適宜変更可能である。この際、追加する材料はクラッド層13の材料屈折率と同程度か、小さいものとする。これらの材料を追加すると、追加した空間の屈折率が、空気層の場合(材料屈折率=1)に比較して、クラッド層13の材料屈折率に近くなる。材料屈折率差が大きいほど、クラッド層13の光の浸み出しが抑えられるため、スポットサイズの広がりが小さくなる。しかしながら、追加材料を加えることで、追加した空間への光の染み出しが大きくなり、空気層の場合よりもスポットサイズを拡大できて、スポットサイズ拡大の調整が柔軟になる。
【0046】
また、光導波路14は、光閉じ込めが強いことから、デバイスの小型化ができるチャネル導波路を例示したが、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。光導波路14は、チャネル導波路の代わりに、例えば、リブ導波路、リッジ導波路やハイメサ導波路でも良い。光導波路14をリブ導波路に代えた場合、リブ導波路のスラブ部分にも光が染み出すため、コアの側壁荒れの影響を受けづらく、低損失な伝搬が可能となる効果が得られる。
【0047】
また、パッシベーション層15の開口部15Aの範囲は、SSC22のコアの上部に相当するクラッド層13の一部を含む範囲であればよい。電界は、SSC22のコアを中心に広がる。しかしながら、基板に垂直な方向に対して、同一の高さ、すなわち、パッシベーション層15が配置されている高さでの電界強度を比較した場合、コア上部の電界が支配的になる。従って、その上部のパッシベーション層15を除去することで、本願の効果を得ることができる。より広い範囲でパッシベーション層15を除去した場合、支配的でない部分の電界のパッシベーション層15への遷移が抑えられ、光損失の更なる低下を図ることができる。
【0048】
実施例1では、パッシベーション層15の下部とSSC22のコアの中心との距離でのスポットサイズをdとした場合、1.5dより小さい場合であれば、本願の効果を得ることができる。一般に光導波路14の電界分布はガウス分布に近似し、スポットサイズは電界の大きさピークから1/eになるような範囲と定められる。すなわち、スポットサイズをdとした場合、光導波路14のコアの中心から上部にかけて、電界が1/eとなる距離はd/2となる。コア中心から1.5d離れた電界の大きさは、約1/e^3であり、エネルギーに比例する強度に換算すると、約1/e^6=0.0025となる。このとき、1.5dから離れたパッシベーション層15のある位置の強度は、中心に対して、約0.25%となり十分無視することが可能となる。従って、1.5dよりパッシベーション層15が低い場合は、SSC22のコア上部のパッシベーション層15を除去したことによる本願の効果が得られる。
【0049】
また、クラッド層13上の開口部15Aの形成箇所にレジストを配置した後、パッシベーション層15のSi3N4膜を成膜した後、レジストを除去してパッシベーション層15内に開口部15Aを形成しても良い。また、SSC22の上部にパッシベーション層15が配置されない方法であれば、これらの方法に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0050】
尚、実施例1の光導波路14のコアの材料は、例えば、Si3N4で構成する場合を例示したが、コアの材料として、これに限定されるものではなく、例えば、Si、SiN、SiONの何れかを含むものであればよく、適宜変更可能である。そこで、光導波路14のコアの材料として、例えば、Siを使用した場合の実施の形態につき、実施例2として以下に説明する。尚、実施例1の基板型光導波路素子1と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
実施例2の基板型光導波路素子1Aでは、SiのSSC22の上部を除く領域にパッシベーション層15を形成する。その結果、SSC22のSiのコアからパッシベーション層15への光遷移による光損失を低減できると共に、パッシベーション層15による長期的な信頼性を確保できる。