(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098920
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】エンジンの空燃比制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/14 20060101AFI20240717BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240717BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F02D41/14
F01N3/24 E
F01N3/24 C
F01N3/035 A
F01N3/035 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002741
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 豊史
【テーマコード(参考)】
3G091
3G190
3G301
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA21
3G091AB13
3G091BA07
3G091CB02
3G091DB10
3G091DC01
3G091EA01
3G091EA07
3G091EA16
3G091EA18
3G091EA34
3G091GA06
3G091GB17
3G091HA15
3G091HA36
3G091HA37
3G190AA02
3G190CA03
3G190CB13
3G190CB18
3G190CB34
3G190CB35
3G190EA01
3G190EA02
3G190EA25
3G190EA26
3G301HA01
3G301HA24
3G301JA21
3G301LB02
3G301MA01
3G301ND01
3G301ND18
3G301NE17
3G301NE19
3G301PA01
3G301PA11
3G301PD09
3G301PD12
3G301PE01
3G301PE08
3G301PF03
(57)【要約】
【課題】浄化反応に関与する排気浄化触媒を適切に切り換えることにより、触媒が浄化反応に不要に関与することに伴う弊害を抑制する。
【解決手段】第1排気浄化触媒に流入する排気の空燃比をリッチ側とリーン側とに振動させる空燃比振動制御を実行する空燃比振動制御手段と、空燃比振動制御により排気の空燃比を振動させる際の周波数を、制御周波数として特定する制御周波数特定手段と、エンジンの運転状態が、触媒温度と排気流量とに応じて定まる第1領域にあるか、第2領域にあるかを判定する運転領域判定手段と、を備え、制御周波数特定手段は、エンジンの運転状態が第1領域にある場合は、第1下流側排気センサにより検出された空燃比をもとに制御周波数を特定し、第2領域にある場合は、第2下流側排気センサにより検出された空燃比をもとに制御周波数を特定し、空燃比振動制御手段は、排気の空燃比を制御周波数で振動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に備わる排気浄化触媒として、第1排気浄化触媒と、前記第1排気浄化触媒よりも下流側に配置され、排気中の粒子状物質を捕集可能な排気フィルタに触媒成分が担持された第2排気浄化触媒と、を備えるエンジンの空燃比制御装置であって、
前記排気通路において前記第1排気浄化触媒と前記第2排気浄化触媒との間に配置され、前記第1排気浄化触媒を通過した排気の空燃比に応じた信号を出力可能に構成された第1下流側排気センサと、
前記排気通路において前記第2排気浄化触媒よりも下流側に配置され、前記第2排気浄化触媒を通過した排気の空燃比に応じた信号を出力可能に構成された第2下流側排気センサと、
前記第1および第2下流側排気センサにより出力された信号に基づき、エンジンの運転状態を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記第1排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を、ストイキ相当値に対してリッチ側とリーン側とに振動させる空燃比振動制御を実行する空燃比振動制御手段と、
前記空燃比振動制御により前記排気の空燃比を振動させる際の周波数を、制御周波数として特定する制御周波数特定手段と、
エンジンの運転状態が、前記排気浄化触媒の触媒温度と排気流量とに応じて定まる所定の第1領域にあるか、前記第1領域とは異なる第2領域にあるかを判定する運転領域判定手段と、を備え、
前記制御周波数特定手段は、エンジンの運転状態が前記第1領域にある場合は、前記第1下流側排気センサにより検出された空燃比をもとに、前記制御周波数を特定する一方、エンジンの運転状態が前記第2領域にある場合は、前記第2下流側排気センサにより検出された空燃比をもとに、前記制御周波数を特定し、
前記空燃比振動制御手段は、前記制御周波数特定手段による前記制御周波数の特定後、前記排気の空燃比を前記制御周波数で振動させる、エンジンの空燃比制御装置。
【請求項2】
前記運転領域判定手段は、前記排気浄化触媒の触媒温度が所定の第1温度以上でありかつ前記排気流量が所定の第1流量以下の場合に、エンジンの運転状態が前記第1領域にあると判定し、前記排気浄化触媒の触媒温度が前記第1温度よりも低いかまたは前記排気流量が前記第1流量よりも多い場合に、エンジンの運転状態が前記第2領域にあると判定する、請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記第2下流側排気センサにより検出された空燃比をもとに、前記空燃比振動制御における前記排気の空燃比の最大値および最小値を検出する第1特定空燃比検出手段をさらに備え、
前記運転領域判定手段は、前記第1特定空燃比検出手段により検出された空燃比の最小値が所定の第1判定値以下でありかつ検出された空燃比の最大値が所定の第2判定値以下である場合に、エンジンの運転状態が前記第1領域にあると判定する、請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記排気通路において前記第1排気浄化触媒よりも上流側に配置され、前記第1排気浄化触媒に流入する排気の空燃比に応じた信号を出力可能に構成された上流側排気センサと、
前記上流側排気センサにより検出された空燃比をもとに、前記第1排気浄化触媒に流入する排気の空燃比をストイキ相当値に制御する空燃比フィードバック制御を実行する空燃比フィードバック制御手段と、をさらに備え、
前記排気浄化触媒の触媒温度が前記第1温度よりも高い所定の第2温度以上でありかつ前記排気流量が前記第1流量よりも少ない所定の第2流量以下の場合に、前記空燃比フィードバック制御手段により前記空燃比フィードバック制御を実行する、請求項2に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記排気通路において前記第1排気浄化触媒よりも上流側に配置され、前記第1排気浄化触媒に流入する排気の空燃比に応じた信号を出力可能に構成された上流側排気センサと、
前記上流側排気センサにより検出された空燃比をもとに、前記第1排気浄化触媒に流入する排気の空燃比をストイキ相当値に制御する空燃比フィードバック制御を実行する空燃比フィードバック制御手段と、
前記第1下流側排気センサにより検出された空燃比をもとに、前記空燃比振動制御における前記排気の空燃比の最大値および最小値を検出する第2特定空燃比検出手段と、をさらに備え、
前記第2特定空燃比検出手段により検出された空燃比の最小値が所定の第3判定値以下でありかつ検出された空燃比の最大値が所定の第4判定値以下である場合に、前記空燃比フィードバック制御手段により前記空燃比フィードバック制御を実行する、請求項3に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項6】
前記制御周波数特定手段は、前記第1下流側排気センサまたは前記第2下流側排気センサにより検出された空燃比の最小値または検出された空燃比の最大値と最小値との差分が空燃比振動の周波数の対数に対してなす変化の傾きが所定の値に達するときの前記周波数を、前記制御周波数として特定する、請求項1から5のいずれか一項に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項7】
前記制御周波数特定手段は、前記傾きの絶対値が0.015から0.025までの範囲で予め設定された値に達するときの前記周波数を、前記制御周波数として特定する、請求項6に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気浄化触媒が収容された触媒コンバータと、触媒コンバータの下流側に配置され、排気中の粒子状物質を捕集可能な排気フィルタと、を排気通路に備えるエンジンが存在する。このようなエンジンとして、排気フィルタに触媒コンバータに備わる排気浄化触媒と同様の触媒、例えば、三元触媒を担持させたものも存在する。
【0003】
他方で、排気通路に三元触媒を備えるエンジンにおいて、混合気の空燃比を理論空燃比に対してリッチ側とリーン側とに強制的に振動させることで、触媒による排気の浄化率が向上することが知られている。混合気の空燃比がリッチ側であるとは、混合気に含まれる燃料が当量よりも多量であることをいい、リーン側であるとは、混合気に含まれる燃料が当量よりも少量であることをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒コンバータと排気フィルタとを排気通路に備えるエンジンでは、空燃比の強制振動による排気浄化を実施した場合に、次のことが問題となる。
【0006】
空燃比を振動させる際の周波数は、排気浄化触媒の下流側を流れる排気、つまり、排気浄化触媒による浄化後の排気の空燃比をもとに、適切に設定することが可能である。例えば、排気浄化触媒の下流側に排気の空燃比を検出可能な排気センサを設置するとともに、この排気センサにより検出された空燃比の最小値(下流側最小空燃比)を検出する。そして、下流側最小空燃比の周波数に対する変化の特異点を抽出し、その特異点の周波数を、振動させる際の周波数(つまり、制御周波数)に設定する。
【0007】
ここで、触媒コンバータと排気フィルタとの間の排気通路に排気センサを設置し、この排気センサにより検出される空燃比をもとに空燃比振動の周波数を設定する場合は、設定後の周波数が触媒コンバータに備わる排気浄化触媒にのみ適合したものとなり、排気フィルタに担持させた排気浄化触媒に対しては必ずしも適合したものとはならない。これにより、触媒コンバータに備わる排気浄化触媒を浄化反応に関与させることはできるものの、排気フィルタに担持された排気浄化触媒をも浄化反応に良好に関与させることまではできず、触媒コンバータおよび排気フィルタを含むシステム全体での浄化性能を有効に活用することが困難となる。よって、触媒温度が低かったり、排気流量が多かったりという理由で排気の浄化が困難な条件にある場合に、浄化性能が不足することが懸念される。
【0008】
これに対し、排気フィルタの下流側における排気通路に排気センサを設置し、この排気センサにより検出される空燃比をもとに空燃比振動の周波数を設定する場合は、設定後の周波数が触媒コンバータに備わる排気浄化触媒だけでなく、排気フィルタに担持された排気浄化触媒にも適合したものとなる。これにより、双方の排気浄化触媒を浄化反応に関与させ、システム全体での浄化性能を有効に活用することができ、排気の浄化が困難な条件にあっても高い浄化性能を維持することが可能となる。
【0009】
しかし、排気フィルタに担持された排気浄化触媒が浄化反応に関与する場合は、浄化反応に伴う触媒の発熱により排気が加熱されることで、排気の温度が上昇する。これにより、触媒コンバータに備わる排気浄化触媒のみで充分な浄化性能が確保されるにも拘わらず排気フィルタに担持された排気浄化触媒を浄化反応に関与させ続けることで、排気温度の上昇により排気の粘性が増大し、排気フィルタにおける圧損が過度に増大することが懸念される。
【0010】
さらに、触媒コンバータに備わる排気浄化触媒だけでなく、排気フィルタに担持された排気浄化触媒もが浄化反応に関与する場合は、システム全体での酸素吸蔵能力が増大するため、双方の排気浄化触媒に適合する周波数は、触媒コンバータに備わる排気浄化触媒にのみ適合する周波数と比較して低い傾向にある。これにより、空燃比振動における一周期当たりのリッチ期間が長くなるため、リッチ期間中に排気フィルタに堆積する粒子状物質の量が増大し、これに伴い、リーン期間中に燃焼する粒子状物質の量も増大する。そして、粒子状物質の燃焼による発熱量が増大して、排気フィルタに過度な熱負荷がかかり、排気フィルタの熱劣化が進行することが懸念される。
【0011】
そこで、本発明は、第1排気浄化触媒と、第1排気浄化触媒よりも下流側に配置され、排気フィルタに担持された第2排気浄化触媒と、を備えるエンジンにおいて、浄化反応に関与する排気浄化触媒を適切に切り換えることにより、双方の触媒が浄化反応に不要に関与することに伴う弊害を抑制しながら、エンジンの運転状態によらず高い浄化性能を維持することのできるエンジンの空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するため、本発明の一形態に係るエンジンの空燃比制御装置は、排気通路に備わる排気浄化触媒として、第1排気浄化触媒と、第1排気浄化触媒よりも下流側に配置され、排気中の粒子状物質を捕集可能な排気フィルタに触媒成分が担持された第2排気浄化触媒と、を備えるエンジンの空燃比制御装置であって、排気通路において第1排気浄化触媒と第2排気浄化触媒との間に配置され、第1排気浄化触媒を通過した排気の空燃比に応じた信号を出力可能に構成された第1下流側排気センサと、排気通路において第2排気浄化触媒よりも下流側に配置され、第2排気浄化触媒を通過した排気の空燃比に応じた信号を出力可能に構成された第2下流側排気センサと、第1および第2下流側排気センサにより出力された信号に基づき、エンジンの運転状態を制御するコントローラと、を備える。コントローラは、第1排気浄化触媒に流入する排気の空燃比を、ストイキ相当値に対してリッチ側とリーン側とに振動させる空燃比振動制御を実行する空燃比振動制御手段と、空燃比振動制御により排気の空燃比を振動させる際の周波数を、制御周波数として特定する制御周波数特定手段と、エンジンの運転状態が、排気浄化触媒の触媒温度と排気流量とに応じて定まる所定の第1領域にあるか、第1領域とは異なる第2領域にあるかを判定する運転領域判定手段と、を備え、制御周波数特定手段は、エンジンの運転状態が第1領域にある場合は、第1下流側排気センサにより検出された空燃比をもとに、制御周波数を特定する一方、エンジンの運転状態が第2領域にある場合は、第2下流側排気センサにより検出された空燃比をもとに、制御周波数を特定し、空燃比振動制御手段は、制御周波数特定手段による制御周波数の特定後、排気の空燃比を制御周波数で振動させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1排気浄化触媒と、第1排気浄化触媒よりも下流側に配置され、排気フィルタに担持された第2排気浄化触媒と、を備えるエンジンにおいて、浄化反応に関与する排気浄化触媒をエンジンの運転状態が属する領域に応じて切り換えることにより、排気の浄化が比較的容易な条件にあるにも拘らず第2排気浄化触媒が浄化反応に関与し続けることによる弊害を抑制しながら、エンジンの運転状態によらず高い浄化性能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの全体的な構成を示す概略図である。
【
図2】同上実施形態に係る空燃比制御の全体的な流れを示すフローチャートである。
【
図3】同上実施形態に係る空燃比制御において制御方式の切り換えに用いられる運転領域マップである。
【
図4】同上実施形態に係る空燃比振動制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【
図5】同上実施形態に係る空燃比フィードバック制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【
図6】空燃比振動制御における空燃比振動の周波数Frqと排気浄化触媒の浄化率η、下流側空燃比の最小値λr_minとの関係を、触媒高活性・排気低流量時について示す実験データのグラフである。
【
図7】空燃比振動制御における空燃比振動の周波数Frqと排気浄化触媒の浄化率η、下流側空燃比の最小値λr_minとの関係を、触媒高活性・排気高流量時について示す実験データのグラフである。
【
図8】空燃比振動制御における空燃比振動の周波数Frqと排気浄化触媒の浄化率η、下流側空燃比の最小値λr_minとの関係を、触媒低活性・排気低流量時について示す実験データのグラフである。
【
図9】空燃比振動制御における空燃比振動の周波数Frqと排気浄化触媒の浄化率η、下流側空燃比の最小値λr_minとの関係を、触媒低活性・排気高流量時について示す実験データのグラフである。
【
図10】空燃比振動制御における上流側排気センサおよび下流側排気センサの出力波形を、高周波数領域について示すグラフである。
【
図11】空燃比振動制御における上流側排気センサおよび下流側排気センサの出力波形を、低周波数領域について示すグラフである。
【
図12】本発明の他の実施形態に係る空燃比振動制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【
図13】同上実施形態に係る空燃比振動制御における空燃比振動の周波数Frqと排気浄化触媒の浄化率η、下流側空燃比の最大値λr_maxと最小値λr_minとの差分(空燃比レンジRlmb)との関係を、異なる触媒温度(a)Tcat1、(b)Tcat2(>Tcat1)について示す実験データのグラフである。
【
図14】同上実施形態に係る空燃比振動制御における空燃比振動の周波数Frqと排気浄化触媒の浄化率η、空燃比レンジRlmbとの関係を、異なる触媒温度(a)Tcat3(>Tcat2)、(b)Tcat4(>Tcat3)について示す実験データのグラフである。
【
図15】本発明の更に別の実施形態に係る空燃比制御の全体的な流れを示すフローチャートである。
【
図16】触媒温度Tcatと全炭化水素(THC)の浄化率ηthcとの関係を、空燃比振動の複数の周波数について示すグラフである。
【
図17】触媒温度Tcatと窒素酸化物(NOx)の浄化率ηnoxとの関係を、空燃比振動の複数の周波数について示すグラフである。
【
図18】触媒温度Tcatと下流側排気センサの最小出力値(下流側最小空燃比λr_min)との関係を、空燃比振動の複数の周波数について示すグラフである。
【
図19】触媒温度Tcatと下流側排気センサの最大出力値(下流側最大空燃比λr_max)との関係を、空燃比振動の複数の周波数について示すグラフである。
【
図20】下流側排気センサの最小出力値λr_min、最大出力値λr_maxと全炭化水素の浄化率ηthcとの関係を示す分布図である。
【
図21】下流側排気センサの最小出力値λr_min、最大出力値λr_maxと窒素酸化物の浄化率ηnoxとの関係を示す分布図である。
【
図22】下流側排気センサの最小出力値λr_min、最大出力値λr_maxと全炭化水素および窒素酸化物の平均浄化率ηaveとの関係を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃エンジン(以下単に「エンジン」という)Eの全体的な構成を示す概略図である。
【0017】
以下の説明において、「上流」および「下流」との用語は、エンジンEから排出される通常の排気の流れの方向との関係で用いられる。例えば、排気浄化装置の上流側とは、排気の流れの方向に排気浄化装置の上流側をいい、排気浄化触媒の下流側とは、排気の流れの方向に排気浄化触媒の下流側をいう。
【0018】
本実施形態において、エンジンEは、車両に搭載され、その駆動源を構成する。エンジンEは、バイフューエルエンジンであり、液体燃料と気体燃料とで燃料を切り換えて運転可能に構成されている。後に述べるように、エンジンEは、液体燃料供給用の第1燃料系統と、気体燃料供給用の第2燃料系統と、を備える。液体燃料とは、常温常圧下またはエンジンEへの供給時に液体の状態にある燃料をいい、本実施形態では、ガソリンが用いられる。これに対し、気体燃料とは、常温常圧下で気体の状態にある燃料をいい、本実施形態では、圧縮天然ガス(CNG)が用いられる。エンジンEは、バイフューエルエンジンに限らず、液体燃料または気体燃料の一方のみを燃料として運転するエンジンであってもよい。圧縮天然ガスを燃料とすることで、ガソリンを燃料とする場合と比較して、二酸化炭素排出量の削減を図ることが可能である。
【0019】
エンジンEは、燃焼室を有するエンジン本体1に加え、吸気システム2および排気システム3を備える。本実施形態において、エンジンEは、直列式の4気筒エンジンであるが、エンジンEの形式、つまり、エンジンEにおける気筒の数および配列は、これに限定されるものではない。単気筒、2気筒、6気筒、V型および水平対向型等、各種のエンジンを対象とすることが可能である。
【0020】
エンジン本体1は、シリンダブロック、シリンダヘッドおよびクランクケースを備え、シリンダブロックにはピストンが挿入され、ピストンの冠面とシリンダヘッドの内面との間に形成された空間が燃焼室となる。
【0021】
吸気システム2は、吸気管21および吸気マニホールド22を備えるとともに、吸気管21の導入部に取り付けられたエアクリーナ23を備える。エアクリーナ23を介して塵埃等の異物が除去された空気が、吸気管21に導入される。吸気管21は、吸気マニホールド22の集合部に接続され、吸気マニホールド22は、集合部から分岐して、シリンダヘッドの側面部に接続されている。吸気管21から吸気マニホールド22に流入した空気は、吸気マニホールド22の分岐部を介してそれぞれの気筒に分配される。
【0022】
本実施形態では、ポート噴射式の燃料供給システムを採用する。エンジンEは、シリンダヘッドに埋設された複数の燃料インジェクタ41(41a、41b)を備え、これら複数の燃料インジェクタ41のそれぞれから、対応する気筒に向けて燃料が噴射供給される。エンジンEは、バイフューエルエンジンであり、液体燃料供給用の第1燃料系統とは別に気体燃料供給用の第2燃料系統を備える。具体的には、エンジンEは、液体燃料を貯蔵する液体燃料タンク(図示せず)と、液体燃料を噴射する第1燃料インジェクタ41aと、気体燃料を貯蔵する気体燃料タンク(図示せず)と、気体燃料を噴射する第2燃料インジェクタ41bと、を備える。第1燃料インジェクタ41aは、液体燃料タンクに対して第1燃料配管を介して接続され、液体燃料タンクから液体燃料の供給を受ける。第2燃料インジェクタ41bは、気体燃料タンクに対して第2燃料配管を介して接続され、気体燃料タンクから気体燃料の供給を受ける。第1燃料インジェクタ41aと第2燃料インジェクタ41bとは、いずれも吸気マニホールド22の分岐部に設置され、対応する気筒の吸気ポートに向けて燃料を噴射する。燃料の供給方式は、これに限定されるものではなく、ポート噴射式以外の供給方式として、例えば、液体燃料の供給に直噴式を採用することが可能である。
【0023】
本実施形態において、第1燃料インジェクタ41aにより噴射された液体燃料および第2燃料インジェクタ41bにより噴射された気体燃料は、吸気マニホールド22の分岐部を通過した空気と混合し、対応する気筒に導入される。各気筒の筒内では、燃料と空気との混合が進み、混合気が形成される。そして、この混合気に点火プラグ51により点火を実行することで、混合気が燃焼する。
【0024】
排気システム3は、排気マニホールド31および排気管32を備えるとともに、触媒コンバータ33を備える。燃焼後、筒内に残る排気は、排気マニホールド31の分岐部に排出される。排気は、排気マニホールド31において分岐部から集合部に集められ、排気管32に導入される。排気管32には触媒コンバータ33が設置され、排気管32を流れる排気は、触媒コンバータ33に導入され、触媒コンバータ33に収められた排気浄化触媒(第1排気浄化触媒331、第2排気浄化触媒332)により、全炭化水素(THC)および窒素酸化物(NOx)を含む排気有害成分が浄化された後、大気へ放出される。
【0025】
ここで、本実施形態では、第1排気浄化触媒331に加え、その下流側に第2排気浄化触媒332が設置されている。触媒コンバータ33に導入された排気は、第1排気浄化触媒331を通過した後、第2排気浄化触媒332に流入し、これを通過する。第1排気浄化触媒331は、セラミック製のハニカム担体に触媒成分を担持させた構成であり、第2排気浄化触媒332は、排気フィルタに触媒成分を担持させた構成である。排気フィルタは、いわゆるウォールフロー式の排気フィルタであって、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)とも呼ばれ、第1排気浄化触媒331の担体と同様のハニカム構造を有するとともに、内部の空間を区画する隔壁が排気を通過させることのできる多孔質をなす。これにより、排気中の粒子状物質は、排気がこの隔壁を通過する際に、隔壁により捕集される。第1排気浄化触媒331および第2排気浄化触媒332、具体的には、これらの触媒331、332を形成する触媒成分は、いずれも三元触媒である。上流側の第1排気浄化触媒331は、本実施形態に係る「第1排気浄化触媒」を構成し、下流側の第2排気浄化触媒332は、本実施形態に係る「第2排気浄化触媒」を構成する。
【0026】
第2排気浄化触媒332は、第1排気浄化触媒331と共通の筐体(本実施形態では、触媒コンバータ33の筐体)に収容するだけでなく、第1排気浄化触媒331のものとは別体の筐体に収容することも可能である。具体的には、第1排気浄化触媒331の筐体と第2排気浄化触媒332の筐体とを別体に形成するとともに、第1および第2排気浄化触媒331、332をそれぞれの筐体に収容し、両者の筐体を直列に配置して、排気管を介して互いに接続するのである。
【0027】
以上に加え、エンジンEは、エンジンコントローラ101および各種のセンサ201~208を備える。
【0028】
エンジンコントローラ101は、電子制御ユニットとして、中央演算ユニット(CPU)、ROMおよびRAM等の記憶装置、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータにより構成される。
【0029】
エンジンEは、アクセルセンサ201およびエンジン回転速度センサ202を備えるとともに、エアフローメータ203、冷却水温度センサ204、触媒温度センサ205、上流側排気センサ206、第1下流側排気センサ207および第2下流側排気センサ208を備える。これらのセンサ201~208から出力される検出信号は、エンジンコントローラ101に入力される。
【0030】
アクセルセンサ201は、アクセル開度APOとして、運転者によるアクセルペダルの踏込量を検出する。アクセル開度APOは、エンジンEに求められる目標負荷の指標である。
【0031】
エンジン回転速度センサ202は、エンジンEの回転速度Neを検出する。エンジン回転速度センサ202として、クランク角センサを採用可能であり、クランク角センサにより検出される単位クランク角または基準クランク角当たりの経過時間を回転速度Neに換算する。
【0032】
エアフローメータ203は、吸入空気量Qaとして、エンジンEに導入される空気の流量を検出する。本実施形態において、吸入空気量Qaは、燃焼室から排出される排気の流量の指標として参照する。
【0033】
冷却水温度センサ204は、エンジン本体1のシリンダブロックに形成されている冷却水通路を流れる冷却水の温度Twを検出する。
【0034】
触媒温度センサ205は、触媒コンバータ33に備わる排気浄化触媒331、332の温度(以下「触媒温度」という)Tcatを検出する。本実施形態では、触媒温度Tcatとして、触媒コンバータ33の入口部における排気の温度、換言すれば、第1排気浄化触媒331に流入する排気の温度(以下「触媒入口ガス温度」という)Tcat_inを検出する。
【0035】
このように、本実施形態では、触媒温度Tcatとして、第1排気浄化触媒331の温度に近い排気の温度(触媒入口ガス温度Tcat_in)を採用するが、触媒温度Tcatとして採用可能なものは、これに限定されず、第1排気浄化触媒331と第2排気浄化触媒332との間を流れる排気の温度であってもよいし、第1排気浄化触媒331の担体の温度(触媒ベッド部温度)であってもよい。
【0036】
上流側排気センサ206は、触媒コンバータ33よりも上流側の排気管32に設置され、第1排気浄化触媒331に流入する前の排気の空燃比(以下「上流側空燃比」という)λfを検出する。上流側排気センサ206は、本実施形態に係る「上流側排気センサ」を構成する。
【0037】
第1下流側排気センサ207は、触媒コンバータ33の中間部に設置され、第1排気浄化触媒331と第2排気浄化触媒332との間を流れる排気、つまり、第1排気浄化触媒331を通過した排気の空燃比(以下「第1下流側空燃比」という)λr1を検出する。第1下流側排気センサ207は、本実施形態に係る「第1下流側排気センサ」を構成する。
【0038】
第2下流側排気センサ208は、触媒コンバータ33よりも下流側の排気管32に設置され、第2排気浄化触媒332を通過した排気の空燃比(以下「第2下流側空燃比」という)λr2を検出する。第2下流側排気センサ208は、本実施形態に係る「第2下流側排気センサ」を構成する。
【0039】
エンジンコントローラ101は、先に述べた各種のセンサ201~208から出力された検出信号をもとに、燃焼に用いられる混合気の空燃比を制御しながら、エンジンEの運転状態を制御する。エンジンコントローラ101は、本実施形態に係る「コントローラ」を構成する。
【0040】
エンジンコントローラ101は、空燃比の制御において、触媒コンバータ33に流入する排気の空燃比をストイキ相当値に対してリッチ側とリーン側とに強制的に振動させる空燃比振動制御を実行する。本実施形態において、空燃比振動制御は、燃焼室に形成される混合気の空燃比を振動させることによる。具体的には、燃料インジェクタ41(41a、41b)の燃料噴射量を強制的に増減させる。
【0041】
ここで、空燃比を振動させる際の周波数を、排気浄化触媒331、332の下流側を流れる排気、つまり、排気浄化触媒331、332による浄化後の排気の空燃比λr1、λr2をもとに設定する。本実施形態では、第1下流側排気センサ207により検出される第1下流側空燃比λr1または第2下流側排気センサ208により検出される第2下流側空燃比λr2の最小値λr1_min、λr2_minを算出するか、第1下流側空燃比λr1または第2下流側空燃比λr2の最大値と最小値との差分(空燃比レンジRlmb)を算出し、最小値λr1_min、λr2_minまたは差分が周波数の対数に対してなす変化の傾きglmba、glmbbを算出する。そして、この傾きglmba、glmbbが所定の値g01、g02を超える変化を示す特異点を抽出し、その特異点の周波数を、振動させる際の周波数(つまり、制御周波数)に設定する。
【0042】
さらに、本実施形態では、制御周波数を設定する際に用いる空燃比を、第1下流側空燃比λr1と第2下流側空燃比λr2とで、エンジンEの運転状態に応じて切り換える。
図3に示すように、エンジンEの運転領域を、排気浄化触媒331、332の触媒温度Tcat(本実施形態では、触媒入口ガス温度Tcat_in)と排気流量Qexhとに応じて定まる複数の領域A、B、Cに区画し、触媒温度Tcatが所定の第1温度Tcat1以上でありかつ排気流量Qexhが所定の第1流量Qexh1以下である領域Aを「第1領域」に、触媒温度Tcatが第1温度Tcat1よりも低いかまたは排気流量Qexhが第1流量Qexh1よりも多い領域Bを「第2領域」に設定する。後に述べるように、第1領域Aのうち、触媒温度Tcatが第1温度Tcat1よりも高い第2温度Tcat2以上でありかつ排気流量Qexhが第1流量Qexh1よりも少ない第2流量Qexh2以下である領域Cを、特に「第3領域」に設定する。そして、エンジンEの運転状態が第1領域Aにある場合は、第1下流側空燃比λr1を採用し、第2領域Bにある場合は、第2下流側空燃比λr2を採用する。第1温度Tcat1、第1流量Qexh1は、夫々本実施形態に係る「第1温度」、「第1流量」に相当し、第2温度Tcat2、第2流量Qexh2は、夫々本実施形態に係る「第2温度」、「第2流量」に相当する。
【0043】
以上に加え、本実施形態では、空燃比振動制御と空燃比フィードバック制御とを切り替えて実行する。空燃比振動制御は、先に述べたとおりであり、空燃比フィードバック制御は、上流側排気センサ206からの信号をもとに、混合気の空燃比を理論空燃比に調整する制御である。空燃比フィードバック制御の結果、触媒コンバータ33に流入する排気の空燃比がストイキ相当値に近付けられる。
【0044】
空燃比振動制御と空燃比フィードバック制御との切り替えは、エンジンEの運転状態が属する運転領域による。具体的には、エンジンEの運転状態が、先に述べた第3領域Cにある場合は、空燃比振動制御を停止させ、空燃比フィードバック制御を実行する。
【0045】
ここで、触媒温度Tcatは、排気浄化触媒331、332の活性状態の指標であり、触媒温度Tcatが高いほど排気浄化触媒331、332の活性化が進み、排気浄化触媒331、332が高活性状態にあることを示す。他方で、排気流量Qexhは、排気浄化触媒331、332による浄化が必要な排気有害物質の量の指標であり、排気流量Qexhが少ないほど浄化すべき排気有害物質が少量であり、活性化が進んだ排気浄化触媒331、332による処理が容易な条件にあることを示す。本発明者らが行った実験において、エンジンEの運転状態が触媒高活性かつ排気低流量側の第1領域Aにある場合は、制御周波数の最適化により第1排気浄化触媒331のみで充分な浄化性能が得られることが確認されている。そして、エンジンEの運転状態が第1領域Aのうち特に触媒高活性かつ排気低流量側の第3領域Cにある場合は、排気の浄化が特に容易な条件にあり、空燃比振動制御によらず、空燃比フィードバック制御によっても充分な浄化性能が得られることが確認されている。
【0046】
図2は、本実施形態に係る空燃比制御の全体的な流れを示すフローチャートである。
【0047】
本実施形態において、
図2に示すルーチンによる空燃比制御は、エンジンコントローラ101により、エンジンEの始動後、所定の時間毎に実行される。空燃比制御の開始に当たり、エンジンコントローラ101は、空燃比の制御方式として、空燃比振動制御を選択する。
【0048】
S101では、エンジンEの運転状態の指標として、エンジン回転速度Ne、吸入空気量Qa、上流側空燃比λf、第1下流側空燃比λr1、第2下流側空燃比λr2および触媒温度Tcat等を読み込む。
【0049】
S102では、エンジンEの運転状態が、
図3に示す第2領域Bにあるか否かを判定する。触媒温度Tcatが第1温度Tcat1より低いかまたは吸入空気量Qaが第1流量Qexh1に対応する所定の流量Qa1よりも多い場合は、エンジンEの運転状態が第2領域Bにあると判定し、S104へ進む。それ以外の場合、つまり、触媒温度Tcatが第1温度Tcat1以上でありかつ吸入空気量Qaが流量Qa1以下である場合は、エンジンEの運転状態が第1領域Aにあると判定し、S103へ進む。吸入空気量Qaは、排気流量Qexhに対する高い相関性を有する状態変数の一例であり、本実施形態では、排気流量Qexhに代えて吸入空気量Qaを採用する。
【0050】
S103では、エンジンEの運転状態が第3領域Cにあるか否かを判定する。触媒温度Tcatが第2温度Tcat2以上でありかつ吸入空気量Qaが第2流量Qexh2に対応する所定の流量Qa2以下である場合は、エンジンEの運転状態が第3領域Cにあると判定し、S106へ進む。それ以外の場合は、S105へ進む。S102およびS103の処理は、エンジンコントローラ101が本実施形態に係る「運転領域判定手段」として実行する処理に相当する。
【0051】
S104では、制御周波数の特定に第2下流側空燃比λr2を用いることにより、制御周波数を第1排気浄化触媒331と第2排気浄化触媒332との双方に適合させて、空燃比振動制御を実行する。空燃比振動制御は、
図4に示すフローチャートに従う。
【0052】
S105では、制御周波数の特定に第1下流側空燃比λr1を用いることにより、制御周波数を第1排気浄化触媒331のみに適合させて、空燃比振動制御を実行する。制御周波数を第1排気浄化触媒331のみに適合させることで、浄化反応に対する第2排気浄化触媒332の実質的な関与が抑制される。ただし、浄化反応への関与は抑制されるものの、排気フィルタ自体の機能は損なわれず、排気フィルタは、第1排気浄化触媒331を通過した排気中の粒子状物質を捕集する。空燃比振動制御は、S104と同様に、
図4に示すフローチャートに従う。
図4のフローチャートに示す処理は、エンジンコントローラ101が本実施形態に係る「空燃比振動制御手段」として実行する処理に相当する。
【0053】
S106では、空燃比フィードバック制御を実行する。空燃比フィードバック制御は、
図5に示すフローチャートに従う。
図5のフローチャートに示す処理は、エンジンコントローラ101が本実施形態に係る「空燃比フィードバック制御手段」として実行する処理に相当する。
【0054】
図4は、本実施形態に係る空燃比振動制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【0055】
S201では、制御周波数Fcnの設定が既に終了しているか否かを判定する。制御周波数Fcnは、空燃比振動制御を実行するに当たり排気浄化触媒331により最も高い浄化率(以下「極大浄化率」という)ηが得られる最適周波数であり、本実施形態では、制御周波数Fcnを、エンジンEの回転速度および負荷に応じて定まるエンジンEの運転領域毎に設定する。制御周波数Fcnの設定が既に終了している場合は、S202へ進み、未だ終了していない場合は、S203へ進む。エンジンEの負荷の指標として、吸入空気量Qaを採用することが可能である。
【0056】
S202では、制御周波数Fcnを読み込む。本実施形態では、エンジンEの回転速度および負荷に対応させて制御周波数Fcnを割付可能に設定された運転領域マップが設けられ、既に設定が終了している運転領域から、該当する制御周波数Fcnを読み込む。制御周波数Fcnの読込後、S210へ進む。
【0057】
S203では、フラグFRGの値が0であるか否かを判定する。フラグFRGの値が0である場合は、S204へ進み、0でない場合は、S206へ進む。
【0058】
S204では、空燃比振動の周波数Frqに基準周波数F0を設定する。基準周波数F0は、制御周波数Fcnの特定を開始するに当たり仮に設定される値であり、運転領域マップにおいて、周波数Frqの初期値として運転領域毎に予め設定される。これに限らず、簡易的には、エンジンEの運転領域全体に対して一律に1[Hz]に設定することも可能である。
【0059】
S205では、フラグFRGの値を1に設定する。
【0060】
S206では、空燃比振動の周波数Frqを所定の周波数ΔFだけ減少させる。具体的には、周波数Frqを、現在の周波数Frqから所定の周波数ΔFだけ減少させた周波数に更新し(Frq=Frq-ΔF)、更新後の新たな周波数Frqにより、空燃比振動制御を実行する。
【0061】
S207では、下流側空燃比λrをもとに、所定の時間内における下流側空燃比λrの最小値(以下「下流側最小空燃比」という)λr_minを算出するとともに、周波数FrqをΔFだけ減少させる前後における下流側最小空燃比λr_minの変化量(以下「空燃比変化量」という)Δλr_minを算出する。ここで、所定の時間は、空燃比振動の一周期分の時間であってもよいし、これよりも長い時間であってもよい。本実施形態では、空燃比振動の一周期分よりも長い時間とする。
【0062】
下流側空燃比λrには、第1下流側空燃比λr1または第2下流側空燃比λr2を採用する。具体的には、エンジンEの運転状態が第2領域Bにあり、
図2に示すフローチャートのS104の処理として空燃比振動制御を実行する場合は、第2下流側空燃比λr2を採用する。これに対し、エンジンEの運転状態が第1領域Aにあり、
図2に示すフローチャートのS105の処理として空燃比振動制御を実行する場合は、第1下流側空燃比λr1を採用する。
【0063】
S208では、空燃比変化量Δλr_minをΔFで除することにより、下流側最小空燃比λr_minの周波数Frqに対する変化の傾きglmbaを算出する。本実施形態では、傾きglmbaとして、周波数Frqを基準周波数F0から所定の周波数ΔFずつ減少させた場合に得られる、下流側最小空燃比λr_minの周波数Frqの対数log(Frq)に対する変化の傾きを採用する。そして、傾きglmbaの絶対値(=|glmba|)が所定の値g01以上であるか否かを判定する。所定の値g01以上である場合、換言すれば、周波数Frqの減少前後における下流側最小空燃比λr_minの変化の傾きglmaが減少して、その絶対値(=|glmba|)が所定の値g01に達した場合は、S209へ進み、所定の値g01未満である場合は、S209の処理を迂回して、S210へ進む。
【0064】
S209では、制御周波数Fcnを設定する。本実施形態では、傾きglmbaの絶対値(=|glmba|)が所定の値g01に達したときの周波数Frqを、制御周波数Fcnに設定する。
【0065】
S206からS209の処理は、エンジンコントローラ101が本実施形態に係る「制御周波数特定手段」として実行する処理に相当する。
【0066】
S210では、燃料噴射量Qfを算出する。空燃比振動制御では、吸入空気量Qaに対して当量となる燃料の基本噴射量Qfbを算出するとともに、基本噴射量Qfbに空燃比振動のための補正係数αを乗算し、さらに、冷却水温度Tw等に応じた各種の増量補正量Hを加算することで、燃料噴射量Qfを算出する。ここで、補正係数αは、1よりも大きな値と1よりも小さな値とに、制御周波数Fcnの半周期に相当する時間(=1/(2Fcn))毎に切り替わるように設定され、補正係数αの乗算により、混合気の空燃比が、例えば、空気過剰率換算で0.95と1.05との間で変動または振動する。
【0067】
S211では、燃料噴射量Qfにより燃料インジェクタ41(41a、41b)を駆動する。
【0068】
図5は、本実施形態に係る空燃比フィードバック制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【0069】
S301では、基本噴射量Qfbを算出する。基本噴射量Qfbは、吸入空気量Qaに対して当量となる燃料量に相当する噴射量である
【0070】
S302では、空燃比フィードバック補正量Hqfを算出する。本実施形態において、空燃比フィードバック補正量Hqfは、上流側排気センサ206により検出される上流側空燃比λfとストイキ相当値λst(つまり、1)との差分の関数として算出する。空燃比フィードバック補正量Hqfは、上流側空燃比λfとストイキ相当値λstとの差分が0よりも大きく、排気が空気過剰な状態にある場合は、燃料を増量させる増量補正量として、差分が0よりも小さく、排気が燃料過剰な状態にある場合は、燃料を減量させる減量補正量として算出される。
【0071】
S303では、燃料噴射量Qfを設定する。空燃比フィードバック制御では、基本噴射量Qfbに空燃比フィードバック補正量Hqfを加算するとともに、冷却水温度Tw等に応じた各種の増量補正量Hを加算することにより算出する。
【0072】
S304では、燃料噴射量Qfにより燃料インジェクタ41(41a、41b)を駆動する。
【0073】
S211、S304において、コントローラ101は、液体燃料による運転中は、燃料噴射量Qfに応じた液体燃料噴射用の駆動パルス信号を第1燃料インジェクタ41aの駆動回路に出力し、気体燃料による運転中は、燃料噴射量Qfに応じた気体燃料噴射用の駆動パルス信号を第2燃料インジェクタ41bの駆動回路に出力する。
【0074】
ここで、
図6から
図11を参照して、
図4のS206からS209の処理についてより詳細に説明する。
【0075】
図6から
図9は、空燃比振動制御における空燃比振動の周波数Frqに対する排気浄化触媒331の浄化率ηおよび下流側最小空燃比λr_minの変化を、触媒温度Tcatおよび排気流量Qexhを変えて、複数の条件のもとで測定した実験データのグラフである。
図6は、触媒高活性かつ排気低流量時のデータであり、
図7は、触媒高活性かつ排気高流量時のデータであり、
図8は、触媒低活性かつ排気低流量時のデータであり、
図9は、触媒低活性かつ排気高流量時のデータである。
【0076】
図6から
図9のそれぞれにおいて、横軸は、周波数Frqの対数を示し、縦軸は、浄化率ηおよび下流側最小空燃比λr_minを示す。log(Frq)=0は、1[Hz]に相当する。白抜きの四角は、全炭化水素THCの浄化率ηthcを示し、白抜きの丸は、窒素酸化物NOxの浄化率ηnoxを示す。三角は、下流側最小空燃比λr_minを示す。
【0077】
ここで、下流側最小空燃比λr_minのうち、浄化率ηが極大となる周波数よりも低周波側の領域で測定されたものを白抜きの三角により、高周波側の領域で測定されたものを黒塗りの三角により、夫々示す。太い点線は、低周波側の領域における下流側最小空燃比λr_minの近似直線であり、太い実線は、高周波側の領域における下流側最小空燃比λr_minの近似直線である。
【0078】
図6から
図9のそれぞれにおいて、浄化率ηが極大となる周波数の近傍で、下流側最小空燃比λr_minが不連続に変化するとともに、下流側最小空燃比λr_minの周波数Frq(具体的には、周波数の対数log(Frq))に対する変化の傾きが変化する事象を確認することができる。横軸の周波数Frqを対数log(Frq)とすることで、この事象をより顕著に確認することが可能である。本実施形態では、下流側最小空燃比λr_minおよびその傾きが不連続な変化を示す周波数Frqに着目して、これを「最適周波数」と呼び、制御周波数Fcnに設定する。周波数Frqの対数をとる場合に、所定の値g01を0.015から0.025までの範囲の値とするのが好ましく、これにより、適切な制御周波数Fcnを設定することが可能である。
【0079】
図10および
図11は、空燃比振動制御における上流側排気センサ206および第1下流側排気センサ207の出力波形を示すグラフであり、
図10は、これらの出力波形を高周波数(短周期)領域について示し、
図11は、低周波数(長周期)領域について示す。
図10でいう「高周波数領域」とは、
図6から
図9でいう「浄化率ηが極大となる周波数よりも高周波側の領域」の一部であり、
図11でいう「低周波数領域」とは、「浄化率ηが極大となる周波数よりも低周波側の領域」の一部である。
図10および
図11において、細い実線は、上流側空燃比λfを示し、太い実線は、下流側空燃比λrを示す。点線は、触媒温度Tcatを示す。第1下流側排気センサ207に代えて第2下流側排気センサ208によっても同様の傾向を示す出力波形が得られることが確認されている。
【0080】
図10を参照すると、高周波数領域では、触媒温度Tcatの上昇に拘わらず、上流側空燃比λfに対して下流側空燃比λr(第1下流側空燃比λr1)の振動が大きく減衰していることが分かる。これに対し、
図11を参照すると、低周波数領域では、下流側空燃比λrに減衰の事象を確認することはできず、寧ろ振動が増幅していることが分かる。これは、排気浄化触媒331の酸素貯蔵能力(OSC)に起因するものであると推察される。つまり、高周波数領域では、空燃比振動に伴う燃料および空気の不均衡が酸素貯蔵能力により補われ、触媒331通過後の排気の空燃比(下流側空燃比λr)がストイキ相当値の近傍に維持されるのに対し、低周波数領域では、燃料および空気の不均衡を酸素貯蔵能力では補い切れず、混合気における空燃比の変動がそのまま下流側空燃比λrの変化に現れるためである。これにより、酸素貯蔵能力が有効に作用する領域と酸素貯蔵能力が破綻する領域との境界で、下流側最小空燃比λr_minが不連続に変化するとともに、周波数Frqに対する変化の傾きに、閾値との比較により判定可能な程度の変化が生じる。
【0081】
以上の知見を踏まえ、最適周波数の抽出、つまり、制御周波数Fcnの特定の手順について、以下に説明する。
【0082】
空燃比振動制御を開始し、空燃比振動の周波数Frqを基準周波数F0から所定の周波数ΔF毎に減少させていく。下流側最小空燃比λr_minを検出し、周波数FrqをΔFだけ減少させる前後で検出された下流側最小空燃比λr_minの変化量を、空燃比変化量Δλr_minとして算出する。そして、空燃比変化量Δλr_minをΔF(本実施形態では、周波数の対数log(Frq)の変化量)で除することにより、下流側最小空燃比λr_minが周波数の対数log(Frq)に対してなす変化の傾きglmbaを算出し、その絶対値(=|glmba|)と所定の値g01とを比較する。傾きglmbaの絶対値(=|glmba|)が所定の値g01に達したときの周波数Frqを特定し、これを制御周波数Fcnに設定する。
【0083】
先に述べたように、制御周波数Fcnの設定は、下流側最小空燃比λr_minの変化の傾きglmbaを所定の値g01と対比することによる方法に代えて、周波数FrqをΔFだけ減少させる前後で下流側最小空燃比λr_minに所定の値を超える大きな変化(つまり、差分)が生じたときの周波数Frqを最適周波数として特定し、制御周波数Fcnに設定することによっても可能である。
【0084】
基準周波数F0は、空燃比振動を行うに当たり最初に設定される値であり、エンジンEの運転領域の全体に対して一律に設定してもよいし、運転領域毎に異なる値に設定してもよい。一律に設定する場合の基準周波数F0として、簡易的には、1[Hz](つまり、logF0=0)を採用することができる。さらに、制御周波数Fcnを運転領域毎に記憶可能に運転領域マップを設定し、特定された制御周波数Fcnを、運転領域毎に記憶または更新するようにしてもよい。
【0085】
本実施形態に係るエンジンEの空燃比制御装置は、以上の構成を有する。以下に、本実施形態により得られる効果について説明する。
【0086】
第1に、排気の浄化が困難な条件にある場合は、具体的には、エンジンEの運転状態が
図3に示す第2領域Bにある場合は、第2下流側排気センサ208により検出される第2下流側空燃比λr2をもとに制御周波数Fnを特定することで、空燃比振動制御により空燃比を振動させる際の周波数(つまり、制御周波数Fn)を第1排気浄化触媒331および第2排気浄化触媒332の双方に適合させ、第1排気浄化触媒331および第2排気浄化触媒332の双方を浄化反応に関与させることが可能となる。これにより、排気の浄化が困難な条件にあっても空燃比振動制御による高い浄化性能を維持することが可能となる。
【0087】
ここで、本実施形態において燃料として使用する圧縮天然ガスは、ガソリンと比較して二酸化炭素排出量の抑制を図ることが可能である一方、排気に主成分として含まれるメタンは、二酸化炭素と比較して25倍ほどの温室効果を有することが知られている。よって、ガソリンを使用する場合に対する利点を確保するうえで、メタンの排出を抑制することが重要となる。メタンは、他のHC種と比較して化学的に安定しており、他のHC種と同様の酸化による浄化を適用したのでは、充分な浄化率を達成することは困難である。
【0088】
制御周波数Fcnを適切に調整した空燃比振動制御によれば、メタンの浄化率を特異的に改善することが可能である。
【0089】
他方で、第1排気浄化触媒331の活性化が進んでいたり、浄化すべき排気有害物質が比較的少量であったりするなど、排気の浄化が比較的容易な条件にある場合は、第1下流側排気センサ207により検出される第1下流側空燃比λr1をもとに制御周波数Fcnを特定することで、制御周波数Fcnを第1排気浄化触媒331に適合させ、第1排気浄化触媒331により充分な浄化性能を確保しながら、第2排気浄化触媒332の浄化反応に対する関与を軽減することが可能となる。これにより、浄化反応に伴う第2排気浄化触媒332の発熱により排気が加熱され、排気温度の上昇により排気の粘度が増大して、圧損が過度に増大する事態を回避することが可能となる。
【0090】
さらに、浄化反応に対して第1排気浄化触媒331のみが実質的に関与する状況では、酸素吸蔵能力(OSC)に応じて空燃比振動の周波数を高め、周期を短縮することにより、空燃比振動における一周期当たりのリッチ期間が短くなるため、リッチ期間中に排気フィルタに堆積する粒子状物質の量を低減し、リーン期間中に燃焼させる粒子状物質の量を低減することが可能となる。これにより、粒子状物質の燃焼による発熱を抑制し、排気フィルタに対する熱負荷の軽減を図ることが可能となる。
【0091】
このように、第1排気浄化触媒331と、第1排気浄化触媒331よりも下流側に配置され、排気フィルタに担持された第2排気浄化触媒332と、が排気通路に備わる場合に、浄化反応に関与する排気浄化触媒を条件に応じて適切に切り換えることにより、双方の触媒331、332、特に第2排気浄化触媒332が浄化反応に不要に関与することに伴う弊害を抑制しながら、エンジンEの運転状態によらず高い浄化性能を維持することが可能となる。
【0092】
第2に、触媒温度Tcatが所定の第1温度Tcat1以上でありかつ排気流量Qexhが所定の第1流量Qexh1以下の場合に、エンジンEの運転状態が第1領域Aにあり、それ以外の場合、つまり、触媒温度Tcatが第1温度Tca1よりも低いかまたは排気流量Qexhが第1流量Qexh1よりも多い場合に、エンジンEの運転状態が第2領域Bにあると判定することで、排気の浄化が困難な条件にあるか、比較的容易な条件にあるかを容易かつ適切に判定することが可能となる。
【0093】
第3に、触媒温度Tcatが所定の第2温度Tca2以上でありかつ排気流量Qexhが所定の第2流量Qexh2以下の場合、つまり、排気の浄化が特に容易な条件にある場合は、空燃比振動制御を停止し、空燃比フィードバック制御を実行することで、充分な浄化性能を確保しながら、トルク変動や騒音等の原因となる空燃比の振動自体を回避して、運転性や乗り心地との両立を図ることが可能となる。
【0094】
第4に、第1または第2下流側排気センサ207、208により検出される空燃比の最小値(第1下流側最小空燃比λr1_min、λr2_min)が空燃比振動の周波数の対数log(Frq)に対してなす変化の傾きglmaを算出し、その絶対値が所定の値g01に達するときの周波数を、制御周波数Fcnとして特定することで、比較的簡易な構成でありながら適切な制御周波数Fcnを特定可能とし、より適切な制御周波数Fcnのもとで空燃比振動制御を実行することが可能となる。
【0095】
そして、所定の値g01を0.015から0.025までの範囲で設定することで、制御周波数Fcnとして、より適切な周波数を特定することが可能となる。
【0096】
以上の説明では、最適周波数の抽出ないし制御周波数Fcnの特定において、下流側最小空燃比λr_minの周波数Frqに対する変化の傾きまたは周波数Frqの減少前後における下流側最小空燃比λr_minの差分に着目することとした。制御周波数Fcnの特定は、これに限定されるものではなく、第1または第2下流側排気センサ207、208により検出される空燃比の最大値(以下「下流側最大空燃比」という)λr_maxと最小値λr_minとの差分(以下「空燃比レンジ」という)Rlmbの、周波数Frqに対する変化の傾きに着目して行うことも可能である。
【0097】
図12は、その場合の適用例として、本発明の更に別の実施形態に係る空燃比振動制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【0098】
本実施形態では、
図4に示すフローチャートのS207における処理に代えて、空燃比レンジRlmb(=λr_max-λr_min)を算出する(S601)。ここで、エンジンEの運転状態が
図3に示す第2領域Bにある場合は、排気の浄化が困難な条件にあるとして、空燃比レンジRlmbの算出に第2下流側排気センサ208により検出される空燃比(第2下流側空燃比λr2)を採用し、エンジンEの運転状態が第1領域Aにある場合は、排気の浄化が比較的容易な条件にあるとして、空燃比レンジRlmbの算出に第1下流側排気センサ207により検出される空燃比(第1下流側空燃比λr1)を採用する。
【0099】
さらに、S208の処理に代えて、空燃比レンジRlmbの周波数Frqまたはその対数log(Frq)に対する変化の傾きglmbbを算出し、この傾きの絶対値(=|glmbb|)が所定の値g02に達するときの周波数を最適周波数として特定し、制御周波数Fcnに設定する(S602)。周波数Frqの対数をとる場合に、所定の値g02を0.015から0.025までの範囲の値とするのが好ましく、これにより、適切な制御周波数Fcnを設定することが可能である。
【0100】
図13および
図14は、本実施形態に係る空燃比振動制御における空燃比振動の周波数Frqと排気浄化触媒331の浄化率η、空燃比レンジRlmbとの関係を、異なる触媒温度Tcatについて示す実験データのグラフである。
図13(a)は、比較的低い触媒温度Tcat1の場合を示し、
図13(b)は、Tcat1よりも高い触媒温度Tcat2の場合を示す。
図14(a)は、Tcat2よりも高い触媒温度Tcat3の場合を示し、
図14(b)は、Tcat3よりも高い触媒温度Tcat4の場合を示す。
【0101】
図13および
図14のそれぞれにおいて、横軸は、周波数Frqの対数を示し、縦軸は、浄化率ηおよび空燃比レンジRlmbを示す。白抜きの四角は、全炭化水素THCの浄化率ηthcを示し、白抜きの丸は、窒素酸化物NOxの浄化率ηnoxを示す。三角は、空燃比レンジRlmbを示し、浄化率ηが極大となる周波数よりも低周波側の領域で測定されたものを白抜きの三角により、高周波側の領域で測定されたものを黒塗りの三角により、夫々示す。太い点線は、低周波側の領域における空燃比レンジRlmbの近似直線であり、太い実線は、高周波側の領域における空燃比レンジRlmbの近似直線である。
【0102】
図13および
図14に示すように、触媒温度Tcatの上昇とともに浄化率ηが全炭化水素と窒素酸化物とのいずれについても増大し、さらに、より高い周波数Frqに至るまで高い浄化率ηが維持される傾向にあることが分かる。ここで、周波数Frqを所定の周波数ΔFずつ減少させた場合に、浄化率ηが極大となる周波数の近傍で、空燃比レンジRlmbの近似曲線が実線から点線に移行し、その周波数Frqに対する変化の傾きglmbbおよびその絶対値(=|glmbb|)が増大する事象を確認することができる。
【0103】
本実施形態では、この事象が生じる周波数を所定の値g02との対比により特異点として抽出し、制御周波数Fcnに設定する。
【0104】
このように、第1または第2下流側排気センサ207、208により検出される空燃比λr1、λr2の最大値と最小値との差分(空燃比レンジRlmb)が空燃比振動の周波数の対数log(Frq)に対してなす変化の傾きglmbbを算出し、その絶対値が所定の値g02に達するときの周波数を、制御周波数Fcnとして特定することで、比較的簡易な構成でありながら適切な制御周波数Fcnを特定可能とし、より適切な制御周波数Fcnのもとで空燃比振動制御を実行することが可能となる。
【0105】
エンジンEの運転状態が属する運転領域AからCの判定は、触媒温度Tcatおよび排気流量Qexhにより直接的に行うだけでなく、下流側排気センサ(第1または第2下流側排気センサ207、208)により検出される空燃比により間接的に行うことも可能である。
【0106】
図15は、その場合の適用例として、本発明の更に別の実施形態に係る空燃比制御の全体的な流れを示すフローチャートである。
【0107】
本実施形態では、
図2に示すフローチャートのS102およびS103の処理に代えて、S1021、S1022、S1031およびS1032の処理を実行する。
【0108】
S1021では、吸入空気量Qaが所定の流量Qa1よりも多いか否かを判定する。所定の流量Qa1よりも多い場合は、S104へ進み、所定の流量Qa1以下である場合は、S1022へ進む。流量Qa1は、
図3に示す第1領域Aと第2領域Bとの境界を定める排気の第1流量Qexh1に対応する吸入空気量である。
【0109】
S1022では、第2下流側空燃比λr2の最大値λr2_maxおよび最小値λr2_minを検出し、第2下流側最大空燃比λr2_maxが所定の判定値SL22以下でありかつ第2下流側最小空燃比λr2_minが所定の判定値SL21以下であるか否かを判定する。第2下流側最大空燃比λr2_maxが所定の判定値SL22以下でありかつ第2下流側最小空燃比λr2_minが所定の判定値SL21以下である場合は、S1031へ進み、それ以外の場合は、S104へ進む。S1022の処理は、エンジンコントローラ101が本実施形態に係る「第1特定空燃比検出手段」として実行する処理に相当し、第2下流側最小空燃比λr2_minと対比する判定値SL21は、「第1判定値」に相当し、第2下流側最大空燃比λr2_maxと対比する判定値SL22は、「第2判定値」に相当する。
【0110】
S1031では、吸入空気量Qaが流量Qa1よりも少ない所定の流量Qa2よりも多いか否か(つまり、流量Qa2、Qa1の間にあるか)否かを判定する。所定の流量Qa2よりも多い場合は、S105へ進み、所定の流量Qa2以下である場合は、S1032へ進む。流量Qa2は、
図3に示す第1領域Aと第3領域Cとの境界を定める排気の第2流量Qexh2に対応する吸入空気量である。
【0111】
S1032では、第1下流側空燃比λr1の最大値λr1_maxおよび最小値λr1_minを検出し、第1下流側最大空燃比λr1_maxが所定の判定値SL12以下でありかつ第1下流側最小空燃比λr1_minが所定の判定値SL11以下であるか否かを判定する。第1下流側最大空燃比λr1_maxが所定の判定値SL12以下でありかつ第1下流側最小空燃比λr1_minが所定の判定値SL11以下である場合は、S106へ進み、それ以外の場合は、S105へ進む。S1032の処理は、エンジンコントローラ101が本実施形態に係る「第2特定空燃比検出手段」として実行する処理に相当し、第1下流側最小空燃比λr1_minと対比する判定値SL11は、「第3判定値」に相当し、第1下流側最大空燃比λr1_maxと対比する判定値SL12は、「第4判定値」に相当する。
【0112】
以下に、
図16から
図22を参照して、
図15に示すS1022およびS1032の処理についてより詳細に説明する。
【0113】
図16から
図19は、空燃比振動の周波数Frqを異なる複数の周波数の間で切り替えて実施した場合に得られた実験データのグラフであり、触媒温度Tcatに対する浄化率η、下流側最小空燃比λr_minおよび下流側最大空燃比λr_maxの変化を示す。本実施形態では、触媒温度Tcatとして触媒入口ガス温度Tcat_inを採用し、下流側最小空燃比λr_minおよび下流側最大空燃比λr_maxは、第1下流側空燃比λr1の最大値および最小値である。
図16は、第1排気浄化触媒331による全炭化水素の浄化率ηthcの変化を、
図17は、第1排気浄化触媒331による窒素酸化物の浄化率ηnoxの変化を示す。
図18は、第1下流側最小空燃比λr1_minの変化を、
図19は、第1下流側最大空燃比λr1_maxの変化を示す。
図16から
図19に示すのと同様の傾向は、第2下流側空燃比λr2の最大値および最小値、第1および第2排気浄化触媒331、332による浄化率ηthc、ηnoxにおいても確認することが可能である。
【0114】
図16から
図19のそれぞれにおいて、白抜きの三角を二点鎖線で繋いだものは、周波数Frqが0.05[Hz]の場合を示し、白抜きの四角を長い点線で繋いだものは、周波数Frqが0.1[Hz]の場合を示す。さらに、白抜きの円を一点鎖線で繋いだものは、周波数Frqが0.2[Hz]の場合を示し、白抜きの三角を短い点線で繋いだものは、周波数Frqが0.5[Hz]の場合を示す。黒塗りの円を太い実線で繋いだものは、周波数Frqが1[Hz]の場合であるが、1[Hz]の周波数は、空燃比フィードバック制御による場合に得られる周波数に相当する。
【0115】
図16および
図17を参照すると、全体的な傾向として、触媒温度Tcatの上昇、つまり、第1排気浄化触媒331の活性化が進むとともに、全炭化水素および窒素酸化物の浄化率ηthc、ηnoxが上昇していることが分かる。さらに、0.5[Hz]以下の周波数で空燃比振動制御を実施した場合に、空燃比フィードバック制御を実施した場合に相当する1[Hz]の周波数で振動を付与した場合と比較して、特に低温側の領域で高い浄化率ηthc、ηnoxが得られ、0.5[Hz]と0.2[Hz]とでは、温度領域の全体に亘って1[Hz]の場合よりも高い浄化率ηthc、ηnoxが得られることが分かる。
【0116】
図18を参照すると、触媒温度Tcatの上昇とともに、下流側最小空燃比λr_min(第1下流側最小空燃比λr1_min)が低下していくことが分かる。これは、第1排気浄化触媒331の浄化率ηの上昇、つまり、触媒331の活性化の進行度合いと対応するものであり、空燃比がリッチ側に振れた際に第1排気浄化触媒331が水素を生成し、第1下流側空燃比センサ207がこの水素に反応するためである。このように、触媒温度Tcatと下流側最小空燃比λr_minとには相関性があり、下流側最小空燃比λr_minから、触媒温度Tcat、つまり、第1排気浄化触媒331の活性状態を間接的に把握することが可能である。本実施形態では、下流側最小空燃比λr_minを、空燃比制御における領域判定に使用する(
図15のS1022、1032)。
【0117】
ここで、周波数が0.05[Hz]の場合は、他の周波数の場合と同様に、触媒温度Tcatの上昇とともに、下流側最小空燃比λr_minが低下していくものの(
図18)、他の周波数の場合と比較して、窒素酸化物の浄化率ηnoxが特に低い。これは、0.05[Hz]という周波数が第1排気浄化触媒331の酸素貯蔵能力に対して低すぎるためであり、空燃比振動による空燃比の変動を酸素貯蔵能力によっては最早吸収することができず、触媒331の反応場における空燃比が定常リッチと定常リーンとを繰り返すのに近い状態となるためであると推察される。
【0118】
このように、単に下流側最小空燃比λr_minが低下したことのみをもっては酸素貯蔵能力が破綻した場合を判別することまではできず、実際には充分な浄化率ηが得られないにも拘らず、第1排気浄化触媒331の活性化が進んだものとして、誤った判定を下す事態になりかねない。
【0119】
このような事態は、下流側最大空燃比λr_maxを参照することにより回避可能である。
図19に示すように、下流側最大空燃比λr_max(第1下流側最大空燃比λr1_max)は、周波数が0.05[Hz]の場合に、触媒温度Tcatが上昇した状況にあっても比較的高い値、例えば、1よりも高い値を維持する。本実施形態では、
図15に示すフローチャートの領域判定(S1022、1032)において、第1下流側最小空燃比λr1_min、第2下流側最小空燃比λr2_minに併せて第1下流側最大空燃比λr1_max、第2下流側最大空燃比λr2_maxを参照する。
【0120】
図20から
図22は、下流側最小空燃比λr_minおよび下流側最大空燃比λr_maxに対して排気浄化触媒の浄化率ηを割り付けた分布図であり、
図20から
図22のそれぞれにおいて、異なる排気流量Qexhのもとで得られる浄化率ηを重ねて示している。例えば、SV値が26kの場合に得られる浄化率ηに加え、SV値が49kおよび98kの場合に得られる浄化率ηを重ねて示している。具体的には、第1排気浄化触媒331を対象とし、下流側最小空燃比λr_min、下流側最大空燃比λr_maxは、第1下流側最小空燃比λr1_min、第1下流側最大空燃比λr1_maxであり、浄化率ηは、第1排気浄化触媒331の浄化率ηである。空燃比振動制御による場合の浄化率ηを○印のプロットにより示すとともに、空燃比フィードバック制御による場合の浄化率ηを×印のプロットにより示している。○印および×印のプロットのそれぞれについて、色の濃いものほど、浄化率ηが高いことを示す。
図20は、全炭化水素の浄化率ηthcを示し、
図21は、窒素酸化物の浄化率ηnoxを示し、
図22は、全炭化水素と窒素酸化物との平均の浄化率ηaveを示す。
図20から
図22に示すのと同様の傾向は、第1および第2排気浄化触媒331、332を対象とした場合においても確認することが可能である。
【0121】
図20から
図22を参照すると、図の左下ほど、つまり、下流側最小空燃比λr_minが低くかつ下流側最大空燃比λr_maxも低いほど、浄化率ηが高い傾向にあることが分かる。このような傾向により、
図20から
図22において、下流側最小空燃比λr_min(第1下流側最小空燃比λr1_min)が閾値SL11以下であり、下流側最大空燃比λr_max(第1下流側最大空燃比λr1_max)が閾値SL12以下である太い点線の枠内では、空燃比フィードバック制御および空燃比振動制御のいずれによっても高い浄化率ηが得られるほどに触媒331の活性化が進み、例えば、閾値SL11を0.965とし、閾値SL12を1.000とした場合に、全炭化水素、窒素酸化物およびそれらの平均のそれぞれについて、枠内の領域で80%以上の浄化率ηが得られることが確認されている。つまり、
図15に示すフローチャートのS1032において、判定値SL11を、例えば、0.965とし、判定値SL12を、例えば、1.000とすることにより、エンジンEの運転状態が排気の浄化が容易な第3領域Cにあることを適切に判定することが可能である。判定値SL11、SL12は、夫々0.960±0.01、1.000±0.01の範囲内で、適宜に設定することができる。
【0122】
そして、第1および第2排気浄化触媒331、332を対象とした場合についても同様であり、閾値SL21を0.965とし、閾値SL22を1.000とした場合に、全炭化水素、窒素酸化物およびそれらの平均のそれぞれについて、枠内の領域で80%以上の浄化率ηが得られることが確認されている。つまり、
図15に示すフローチャートのS1022において、判定値SL21を、例えば、0.965とし、判定値SL22を、例えば、1.000とすることにより、エンジンEの運転状態が排気の浄化が比較的容易な第1領域Aにあるか、排気の浄化が困難な第2領域Bにあるかを適切に判定することが可能である。判定値SL21、SL22は、夫々0.960±0.01、1.000±0.01の範囲内で、適宜に設定することができる。
【0123】
このように、エンジンEの運転状態が第1領域Aにあるか否か、換言すれば、排気の浄化が容易な条件にあるか、困難な条件にあるかの判定を、第2下流側排気センサ208により空燃比振動制御の実行中に検出される空燃比(第2下流側空燃比λr2)をもとに、推定的に行う構成としたことで、第2下流側排気センサ208の出力に基づく空燃比振動制御から第1下流側排気センサ207の出力に基づく空燃比振動制御への切り換えを適切に行うとともに、部品点数の増加を抑制するなど、より簡易な構成による実現を図ることが可能となる。
【0124】
さらに、エンジンEの運転状態が第1領域Aのうち特に排気の浄化が容易な条件にあるか否かの判定を、第1下流側排気センサ207により空燃比振動制御の実行中に検出される空燃比(第1下流側空燃比λr1)をもとに、推定的に行う構成としたことで、空燃比振動制御から空燃比フィードバック制御への切り換えを適切に行うとともに、部品点数の増加を抑制するなど、より簡易な構成による実現を図ることが可能となる。
【0125】
このように、本実施形態では、下流側最小空燃比λr_minおよび下流側最大空燃比λr_maxとそれぞれの閾値との対比により、排気の浄化が容易な条件にあるか、困難な条件にあるかを、排気流量Qexhによらずに判別することが可能である。よって、排気流量Qexh、本実施形態では、吸入空気量Qaによる判定(
図15のS1021、1031)は、省略してもよい。ただし、吸入空気量Qaは、本実施形態に限らず、エンジン制御のために一般的に取得される状態変数であり、取得に際して部品の追加を伴うこともない一方、吸入空気量Qaを用いた簡単な手法により空燃比振動制御によるべき場合を判定することが可能である。よって、吸入空気量Qaによる判定は、制御の安定性を確保するうえで有効である。
【符号の説明】
【0126】
E…エンジン、1…エンジン本体、2…吸気システム、21…吸気管、22…吸気マニホールド、23…エアクリーナ、3…排気システム、31…排気マニホールド、32…排気管、33…触媒コンバータ、331…排気浄化触媒、41…燃料インジェクタ、41a…第1(液体燃料用)燃料インジェクタ、41b…第2(気体燃料用)燃料インジェクタ、51…点火プラグ、101…エンジンコントローラ、201…アクセルセンサ、202…エンジン回転速度センサ、203…エアフローメータ、204…冷却水温度センサ、205…触媒温度センサ、206…上流側排気センサ、207…第1下流側排気センサ、208…第2下流側排気センサ。