(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098927
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】包装原紙
(51)【国際特許分類】
D21H 27/10 20060101AFI20240717BHJP
D21H 19/34 20060101ALI20240717BHJP
B65D 65/42 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
D21H27/10
D21H19/34
B65D65/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010535
(22)【出願日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2023002478
(32)【優先日】2023-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】米山 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 信之
(72)【発明者】
【氏名】田中 光次
【テーマコード(参考)】
3E086
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA25
3E086BA29
3E086BA35
3E086BB71
3E086BB85
3E086CA03
3E086DA08
4L055AA02
4L055AC00
4L055AC06
4L055AG46
4L055AG50
4L055AG72
4L055AH10
4L055AH16
4L055BE08
4L055BE10
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA14
4L055EA32
4L055FA13
4L055FA30
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、紙が折れても破れにくく、鋭利物や突起物と接触しても破れにくい包装原紙を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の課題は、パルプを主成分とする基紙からなり、前記パルプの70質量%以上が針葉樹パルプであり、離解フリーネスが400~690ml(CSF)であり、米坪量が50~150g/m2であり、基紙の少なくとも一方の面にカルボキシメチルセルロースの金属塩が塗布されていることを特徴とする包装原紙によって解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主成分とする基紙からなり、前記パルプの70質量%以上が針葉樹パルプであり、離解フリーネスが400~690ml(CSF)であり、米坪量が50~150g/m2であり、基紙の少なくとも一方の面にカルボキシメチルセルロースの金属塩が塗布されていることを特徴とする包装原紙。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースの金属塩の塗布量が基紙の片面当たり固形分換算で0.1~1.2g/m2であることを特徴とする請求項1に記載の包装原紙。
【請求項3】
紙力増強剤および/またはサイズ剤を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の包装原紙。
【請求項4】
単位坪量当たりの突き刺し強度が0.100N/g/m2以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の包装原紙。
【請求項5】
前記カルボキシメチルセルロースの金属塩がカルボキシメチルセルロースナトリウムである、請求項1または2に記載の包装原紙。
【請求項6】
叩解したパルプ100質量部と0.10~2.2質量部の乾燥紙力増強剤と0.1~0.5質量部のサイズ剤を含む原料スラリーを調整し、得られた原料スラリーを用い抄紙後、得られた基紙に、カルボキシメチルセルロース水溶液を含浸し、乾燥させることを特徴とする、請求項1または2に記載の包装原紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包装原紙に関し、紙が折れても破れにくく、鋭利物や突起物と接触しても破れにくい包装原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミ問題が深刻化している。世界のプラスチックの生産量は4億トン/年を超えると言われ、その中でも包装容器セクターでのプラスチック生産量が特に多く、プラスチックゴミの主な原因になっている。包装容器に使用されるプラスチックとしては、飲料のボトル等に使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)、レジ袋や容器のラミネートに使用されるポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)が最も多く使用されている。プラスチックは半永久的に分解せず、そのゴミは自然環境下でマイクロプラスチック化して生態系に深刻な悪影響を与えており、特にマイクロプラスチックによる海洋の汚染は著しく、そのプラスチックゴミは回収不可能と言われている。今後、プラスチックの使用を低減することが地球環境にとって必要である。
【0003】
この問題に対し、プラスチック包装を紙素材の包装に置き換える動きが盛んである。例えば、密封包装であれば、紙基材にラミネートやヒートシール層を設けた形態の製品が種々発売されている。しかし、紙はプラスチック素材と比べて折れやすいため、折り曲げに対する強度が不十分であれば折り目から破れやすく、また流通時に鋭利物や突起物との接触により穴が開きやすく破れやすいといった問題がある。このような問題が発生すると、内容物が漏れてしまうため、密封容器としては不適切である。
【0004】
このような問題を回避するためには、紙の強度、特に耐折強度や鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性を高める必要があるが、前述の抵抗性を高める技術はこれまで報告されていない。
【0005】
紙基材に強度を付与する技術として、特許文献1では優れたサイズ性と、湿潤および乾燥時の紙力を有するために、置換度0.3~0.6のカルボキシメチルセルロースを0.01~3.0質量%添加することを特徴とする包装紙についての提案されている。また、特許文献2では優れた内部結合強度および耐折強度を得るため、10~100質量%のアクリル酸メチルと0~90質量%のメタクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸エチルとに由来する構成単位を75~98質量%、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドのN-アルキル置換体および(メタ)アクリル酸から選ばれた1種以上の単量体に由来する構成単位を2~15質量%、各々含有し、且つ、ガラス転移温度(Tg)が-30~+30℃であるアクリル酸エステル系共重合体からなることを特徴とする含浸用樹脂を含浸させた含浸紙について提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-027399号公報
【特許文献2】特開2005-281431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の包装紙は、鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性(突き刺し強度)が低く、流通時等に穴が開きやすく破れやすいといった問題があった。また、特許文献2に記載の発明は、優れた強度を得るために樹脂を多く含浸する必要があり、プラスチック使用量が多すぎるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、折れ曲げに対する強度が高く、鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性に優れ、内容物を包装した後の流通時等でも破れにくい強度を保持した包装原紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の包装原紙は、パルプを主成分とする基紙からなり、前記パルプの70質量%以上が針葉樹パルプ(以下、「Nパルプ」とも示す)であり、包装原紙の離解フリーネスが400~690ml(CSF)であり、米坪量が50~150g/m2であり、基紙の少なくとも一方の面にカルボキシメチルセルロースの金属塩、好ましくはカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(カルボキシメチルセルロースナトリウム)が塗布されていることを特徴とする。このような構成によれば鋭利物や突起物との接触に対する抵抗性(突き刺し強度)が高く、内容物を包装した後も破れにくい密封容器を得ることができる。なお、本発明において、密封容器とは、食品用のレトルトパウチなど比較的気密性の高い容器だけではなく、気体は透過するものの、通常の取り扱い、運搬または保存状態において、固体や液状の異物が侵入せず、内容物の損失、風解、潮解または蒸発を防ぐことのできる容器をも含む。
【0010】
また、本発明の包装原紙は、前記カルボキシメチルセルロースの金属塩の塗布量が基紙の片面当たり固形分換算で0.1~1.2g/m2であってもよい。より突き刺し強度
の高い包装原紙とすることができる。また、本発明の包装原紙は、さらにサイズ剤を含有していても良い。このような構成によればカルボキシメチルセルロースが基紙の表面に分布しやすく、より突き刺し強度の高い包装原紙を得ることができる。
【0011】
また、本発明の包装原紙は紙力増強剤を含有していても良い。これによって、突き刺し強度の高い包装原紙を得ることができる。本発明の包装原紙は、0.100N/g/m2以上の単位坪量当たりの突き刺し強度を有するとよい。そのような包装原紙からなる密封容器は内容物を包装した後の流通時等での衝撃などでも破れにくいことから保管や輸送に適した容器となり、特に液体や粉体の容器として好適である。ここで、本発明による突き刺し強度は、「JIS Z 1707:2019 食品包装用プラスチックフィルム通則」の「7.5突き刺し強さ試験」の規定による強度であり、単位坪量当たりの突き刺し強度は、当該突き刺し強度を米坪量で除して求めたものである。
【0012】
また、本発明の包装原紙は、叩解したパルプ100質量部と0.10~2.5質量部の乾燥紙力増強剤と0.1~0.5質量部のサイズ剤を含む原料スラリーを調整し、得られた原料スラリーを用い抄紙後、基紙を得て、その後、得られた基紙に、カルボキシメチルセルロース水溶液を含浸し、乾燥させることにより製造されることが好ましい。また、本発明の包装原紙からなる密封容器は、内容物を包装した後の流通時等での衝撃などでも破れにくいことから保管や輸送に適した容器となり、特に液体や粉体の容器として好適である。したがって、本発明の包装原紙は、密封容器用の包装原紙であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の包装原紙は、引張強度に優れ破れにくいだけでなく、折れ曲げに対する強度が高く、突き刺し強度が高く、例えば、単位坪量当たりの突き刺し強度が0.100N/g/m2以上と高いことから内容物の包装後に流通時の衝撃などへの抵抗性に優れるため、包装袋などの密封容器として好適に使用することができ、従来プラスチック包装であったものの一部または全部を紙製包装に代替するための原紙として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0015】
本発明に用いる包装原紙はパルプを主成分とする。ここで用いるパルプとしては、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒サルファイトパルプ(LUSP)、針葉樹未晒サルファイトパルプ(NUSP)に代表される木材未漂白化学パルプ、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)に代表される木材漂白化学パルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、砕木パルプ(GP)に代表される機械パルプなどが挙げられる。本発明の包装原紙におけるパルプの占める割合としては、特に限定するものではないが、90質量%以上、例えば、包装原紙中において、パルプが90~99質量%とすることが好ましい。填料などの充填剤を添加することでパルプの占める割合を低くすることは可能であるが、同時に紙の諸強度の低下も招くため、好ましくない。
【0016】
本発明においては、前記パルプの70質量%以上を針葉樹パルプとする。好ましくは75質量%以上、80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上である。例えば、全パルプ中針葉樹パルプを70~100質量%、さらには75~100質量%、80~100質量%、85~100質量%、90~100質量%、例えば、95~100質量%とすることが好ましい。針葉樹パルプ以外のパルプを使用するとすれば、コスト等の観点から広葉樹パルプが好ましく、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を使用することが好ましい。例えば、全パルプ中針葉樹パルプを70~100質量%および広葉樹パルプを30~0質量%を含むパルプを使用すればよく、さらには全パルプ中針葉樹パルプを75~100質量%および広葉樹パルプを25~0質量%を含むパルプ、全パルプ中針葉樹パルプを80~100質量%および広葉樹パルプを20~0質量%を含むパルプ、全パルプ中針葉樹パルプを85~100質量%および広葉樹パルプを15~0質量%を含むパルプ、全パルプ中針葉樹パルプを90~100質量%および広葉樹パルプを10~0質量%を含むパルプ、または、全パルプ中針葉樹パルプを95~100質量%および広葉樹パルプを5~0質量%を含むパルプを使用すればよい。針葉樹パルプとしては、特に限定するものではないが、NUKP、NUSP、NBKPまたはNBSPなどを用いることができる。これらの中でも、耐折強度等の強度物性がより向上しやすいNUKPがより好ましい。全パルプにおける針葉樹パルプの割合が70質量%未満となると、折れ曲げに対する強度を満足しにくくなるとともに、紙中の長繊維パルプの比率が下がることで十分な突き刺し強度を得られなくなる。
【0017】
本発明においては、包装原紙の離解フリーネスを400~690ml(CSF)とする。好ましくは500~670ml(CSF)であり、より好ましくは530~650ml(CSF)である。原紙における全パルプの70質量%以上を針葉樹パルプとした上で離解フリーネスをこの範囲とすることにより突き刺し強度をより向上させることができる。カルボキシメチルセルロースの金属塩を塗布する前の基紙は、離解フリーネスの値が小さくなると、例えば500ml(CSF)を下回ると、突き刺し強度は低下していく傾向にあり、これは一定程度フィブリル化を進めると数値が向上する引張強度などの諸強度とは異なる傾向にある。それゆえ、これらの諸強度と突き刺し強度とのバランスをパルプのフリーネスのみで調整することは困難であるが、カルボキシメチルセルロースの金属塩を塗布することでこれを解決できる。すなわち、離解フリーネスの値が比較的小さい400~530ml(CSF)の基紙であっても、カルボキシメチルセルロースの金属塩を塗布することで突き刺し強度を向上させることができ、引張強度や引裂強度などの諸強度とのバランスを容易にとることができる。尚、カルボキシメチルセルロースの金属塩を塗布することによる突き刺し強度の向上効果は、離解フリーネスが小さいほど(カルボキシメチルセルロース塗布前の基紙の突き刺し強度が小さいほど)大きくなる傾向にあるが、離解フリーネスの値が比較的大きい531~690mlの範囲であっても認められる。包装原紙の離解フリーネスが400ml(CSF)未満だとパルプのフィブリル化が進みすぎてしまうためか、突き刺し強度の向上効果に乏しくなる。逆に離解フリーネスが690ml(CSF)を超えると、パルプのフィブリル化が十分ではないことから突き刺し強度の向上効果に乏しくなる。なお、ここで離解フリーネスとは、JIS P 8220-1:2012の方法に従って離解されて得られたパルプスラリーを用い、JIS P 8121-2:2012の方法に従って測定したカナディアンスタンダードフリーネス(カナダ標準パルプ濾水度)の値を指す。また、本発明において使用するカルボキシメチルセルロースの金属塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げれるが、ナトリウム塩が好ましい。カルボキシメチルセルロースの金属塩は、一般にカルボキシメチルセルロースと呼ばれることがあるが、本明細書中においても、カルボキシメチルセルロースの金属塩を「カルボキシメチルセルロース」または「CMC」とも示し、特に金属塩の金属種を明記する必要がある場合は、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどと示す。
【0018】
原料パルプの叩解方法は特に限定するものではなく、ビーター、ジョルダン、デラックス・ファイナー、ダブル・ディスク・レファイナー等、いずれの叩解機を単独または併用して使用してもよい。
【0019】
本発明の包装原紙には、紙力増強剤として、乾燥紙力増強剤を含有させてもよい。突き刺し強度を向上させることができる。乾燥紙力増強剤としては、酸化澱粉、カチオン化澱粉または変性澱粉などの澱粉類、ポリアクリルアミド系樹脂、植物ガム、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ゴム系ラテックス、ポリエチレンオキサイド、ポリアミド樹脂などがあげられ、これらの中から1種以上使用することができる。これらの中でもポリアクリルアミド系樹脂、特に定着性に優れる両性ポリアクリルアミド系樹脂が好ましい。これらの原紙への適用方法は特に限定するものではなく、内添法または外添法を用いることができるが、パルプスラリーに添加(内添)して用いることで突き刺し強度に優れた原紙を得やすくなる。
【0020】
包装原紙における乾燥紙力増強剤の含有量としては、パルプ100質量部に対して、0.10~2.2質量部、さらには0.12~1.0質量部であることが好ましい。より好ましくは0.15~0.8質量部である。0.1質量部未満では突き刺し強度の向上効果に乏しくなるおそれがある。逆に2.2質量部を超えると、抄紙機において紙力増強剤由来の凝集物が発生し、紙に汚れが生じる恐れがある。
【0021】
本発明においては、包装原紙に、さらにサイズ剤を含有させてもよい。ここで用いることができるサイズ剤としては、パラフィンワックス系サイズ剤、マイクロクリスタリンワックス系サイズ剤、カルナウバ(カルナバワックス)系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、ロジン系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、スチレンアクリル系サイズ剤等の中から1種以上を使用することができる。本発明の密封容器用包装原紙は、後述するように基紙の表面にカルボキシメチルセルロースが塗布されたものであるが、基紙にサイズ剤を含有させることによって、カルボキシメチルセルロースが基紙内部に浸透することを抑制し、原紙表面に残りやすくなる。結果として、より突き刺し強度の高い包装原紙とすることができる。基紙へのサイズ剤の付与方法としては、特に限定するものではなく、内添法または外添法を用いることができるが、パルプスラリーに添加(内添)して用いることが好ましい。外添する場合は原紙にサイズ剤を塗布した後にカルボキシメチルセルロースを塗布することが好ましい。サイズ剤の含有量としては、パルプ100質量部に対して、0.1~0.5質量部、さらには0.15~0.35質量部であることが好ましい。本発明においては、例えば、サイズ剤としてロジン系サイズ剤、好ましくは変性ロジンエマルションをパルプ100質量部に対して、0.1~0.5質量部加えることが好ましい。
【0022】
本発明の包装原紙には、本発明の目的とする効果を損なわない範囲で、湿潤紙力増強剤、硫酸バンド、填料、歩留まり向上剤、着色染料、着色顔料、嵩高剤等の各種製紙用資材を含有させることができる。填料としては、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミノケイ酸塩、焼成クレー、硫酸バリウム、合成樹脂填料などの公知の填料を1種以上使用することができる。例えば、パルプ100質量部に対して、0.1~2.0質量部の硫酸バンドを含むことができる。
【0023】
本発明において基紙の抄紙方法は特に限定するものではなく、円網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機、これらの抄紙機のコンビネーション抄紙機など従来から周知の抄紙機を使用して抄造できる。抄紙機における乾燥方法としては特に限定するものでは無く、多筒シリンダードライヤー方式、ヤンキードライヤー方式、熱風乾燥に代表される空気乾燥方式、赤外線装置に代表される輻射乾燥方式などを用いることができる。それらの中でも多筒シリンダードライヤー方式またはヤンキードライヤー方式が好ましく、特にヤンキードライヤー方式がより好ましい。ヤンキードライヤー方式で乾燥することにより基紙の片面にヤンキードライヤーの鏡面が転写されて片艶の紙となり、より突き刺し強度に優れた包装原紙を得ることができる。
【0024】
本発明において包装原紙は、2層以上の抄き合わせとすることが好ましい。このような構成とすることで地合のムラを抑制し、より突き刺し強度に優れた包装原紙とすることができる。地合ムラが存在すると、地合の薄い箇所で破れやすく、局所的に突き刺し強度に乏しい箇所が生じるおそれがある。そのため、地合ムラはなるべく少ない方がよいが、比較的米坪量の大きい原紙、例えば、米坪量が60g/m2を超える場合には単層で抄くよりも、1層あたりの米坪量を小さくして多層の抄き合わせとした方が全体としての地合ムラを小さくしやすい。地合を良くするには、層数が多いほど有利であり、3層以上が好ましく、より好ましくは4層以上である。層数の上限は特に限定されないが、本発明の包装原紙は坪量が50~150g/m2の範囲であることもあり、7層以下であることが好ましく、6層以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明の包装原紙はカルボキシメチルセルロースを原紙の少なくとも一方の面に塗布する。カルボキシメチルセルロースを基紙表面に塗布することで、繊維間結合の補強、繊維間の空隙の補填、被膜による強度付与等の効果が得られ、耐折強度および破断伸びが向上するとともに、突き刺し強度が向上する。また、紙は、紙中の含有水分率が高い程、突き刺し強度が向上する。カルボキシメチルセルロースは保水性が高いことから、紙中水分を高く保つ効果も期待され、突き刺し強度が向上すると予想される。
【0026】
本発明の包装原紙は23℃×50%RH環境下で24時間調湿後の含有水分率(以下「平衡水分率」と言うことがある)が6.5~8.5質量%であることが好ましい。より好ましくは7.0~8.0質量%である。突き刺し強度の向上効果がある。平衡水分率が6.5質量%未満では突き刺し強度の向上効果に乏しいおそれがある。逆に平衡水分率が8.5質量%を超えても突き刺し強度の向上効果は頭打ちとなるが、平衡水分率を8.5質量%以上とするには紙に過剰な保水性を付与する必要があり、包装袋等への加工適性を低下させるおそれがある。尚、本発明の包装原紙を例えば40℃×90%RHの環境下で24時間調湿すると含有水分率が12質量%程度になることがあるが、この場合でも突き刺し強度は良好であることがわかった。従って、本発明の包装原紙を用いた容器は、高湿度環境下でも十分な突き刺し強度を有する容器とすることができる。
【0027】
本発明に用いるカルボキシメチルセルロースは、例えば、置換度0.6~0.7、重合度220~250、分子量47000~135000のものを用いることができる。分子量は、特に47000~54000が好ましい。上記範囲であれば水に容易に溶解し、粘度も低いことから操業性も良く、基紙に均一に浸透・含浸しやすく、突き刺し強度が向上しやすい。
【0028】
カルボキシメチルセルロースの塗布方法は特に限定するものでなく、各種公知の塗工装置または含浸装置を用いることができ、例えば、サイズプレス方式、ディッピング方式、コーター方式、スプレー方式等の塗布方式が使用可能である。カルボキシメチルセルロースを基紙表面に付着させることで、紙の表面強度が向上し、擦れや突き刺し強度が向上することから、包装原紙として好適に用いることができる。基紙へのカルボキシメチルセルロースの付着量は基紙の片面あたり、固形分換算で0.1~1.2g/m2、例えば、0.2~1.0g/m2が好ましい。より好ましくは0.3~0.8g/m2である。0.1g/m2未満では被膜による強度付与の効果や平衡水分率を高く保つ効果が得られにくく、突き刺し強度の向上に劣るおそれがある。1.2g/m2を超えると、紙の平衡水分率をより高くすることができるが、包装原紙の剛度が高くなりすぎて紙割れが発生しやすく、破れやすくなるおそれがあり、包装袋等への加工適性も低下するおそれがある。本発明においては、基紙の両面にカルボキシメチルセルロースを塗布することでより突き刺し強度の高い包装原紙とすることができる。例えば、基紙の両面に、含浸装置を用いて、固形分換算で0.2~2.2g/m2、好ましくは0.4~2.0g/m2、より好ましくは0.5~1.5g/m2のカルボキシメチルセルロースを含浸させることで、より突き刺し強度の高い包装原紙を得ることができる。
【0029】
カルボキシメチルセルロースを基紙に塗布した後の乾燥方式としては、特に限定するものでなく、多筒シリンダードライヤー方式、ヤンキードライヤー方式、エアードライヤー方式などの熱風乾燥に代表される空気乾燥方式、赤外線装置に代表される輻射乾燥方式などを用いることができる。
【0030】
本実施形態において、包装原紙の米坪量は50~150g/m2とする。より好ましくは70g/m2~130g/m2、例えば、75g/m2~85g/m2または80g/m2~110g/m2がより好ましい。このような範囲であれば、包装袋等への加工適性を維持しながら耐折強度および突き刺し強度に優れたものとなる。坪量が50g/m2未満であれば折り曲げや突き刺し強度に劣るおそれがある。また、150g/m2を超えると突き刺し強度は高くなるが、剛度も高くなり過ぎるため、包装袋等への加工適性が低下するおそれがある。
【0031】
本発明において包装原紙は、叩解したパルプと乾燥紙力増強剤とサイズ剤を含む原料スラリーを調整し、得られた原料スラリーを用い抄紙後、得られた基紙に、カルボキシメチルセルロース水溶液を含浸し、乾燥させることにより製造されることができる。本発明の製造方法においては、乾燥後さらに、カレンダー処理をすることができる。カレンダー方法は特に限定されるものではなく、マシンカレンダーやスーパーカレンダー等を使用することが可能である。カレンダー処理により繊維間の空隙を潰すことで、空隙が多く繊維密度が低いために衝撃に対して局所的に弱い箇所を減らすことができ、より突き刺し強度の高い包装原紙とすることができる。
【0032】
本発明の包装原紙は、単位坪量当たりの突き刺し強度が0.100N/g/m2以上であることが好ましく、それに加えて、引張強度が7.00kN/m以上であることが好ましい。また、本発明の包装原紙は、突き刺し強度が8.20N以上、さらには、8.50N以上であることが好ましい。これだけの強度を有すれば、物理的強度に優れ、破れにくく、折れ曲げに対する強度が高く、内容物の包装後に流通時の衝撃などへの抵抗性に優れる包装原紙とすることができ、従来のプラスチック包装の一部または全部を紙製包装に代替するための原紙として好適に用いることができる。さらに、本発明の包装原紙は、例えば、接着剤やヒートシール性のある樹脂等を塗布し、そのまま製袋加工を行って袋状の密封容器として使用することも可能である。また、一方の面にポリエチレン等のラミネートを施した後に製袋加工を行って密封容器とすることも可能である。このようなラミネートを施すことはプラスチック材料の使用となるが、密封容器の一部が紙製となることでプラスチックの減量に繋がる。製袋加工の形態は特に限定されず、用途に応じて、例えばピロー包装やキャラメル包装、またはこれらを組み合わせた包装等を採用することができる。このように、本発明の包装原紙は、密封容器用包装原紙として好適であり、特に袋状の密封容器用の包装原紙として好適である。
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」は、特に断らない限りそれぞれ「固形部」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0034】
(実施例1)
<原紙の製造>
叩解した針葉樹未晒クラフトパルプ100部を水中に分散してパルプスラリーを調製し、該パルプスラリー中に乾燥紙力増強剤(商品名:DS4433/星光PMC社製、ポリアクリルアミド樹脂)を0.2部、サイズ剤(商品名:AL1300/星光PMC社製、変性ロジンエマルション)を0.25部、硫酸バンド0.5部を添加し、原料スラリーを得た。得られた原料スラリーを用い、標準角型シートマシンによって抄紙後、熱風乾燥機にて120℃で乾燥し、カレンダー処理を行って米坪が81.0g/m2の基紙を得た。
【0035】
<塗布>
得られた基紙に、カルボキシメチルセルロース(表中「CMC」と示す)水溶液(商品名:SGセロゲンPR、カルボキシメチルセルロースナトリウム、第一工業製薬社製、置換度0.6~0.7、重合度220~250、分子量47000~54000)を含浸し、回転乾燥機にて130℃で乾燥させ、目的とする包装原紙を得た。基紙へのカルボキシメチルセルロースの付着量は基紙の両面あたり固形分換算で1.0g/m2(片面あたり0.5g/m2)であった。得られた包装原紙の米坪量は82.0g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0036】
(実施例2)
実施例1において、針葉樹未晒しクラフトパルプ100部を、針葉樹晒クラフトパルプを75部と広葉樹晒クラフトパルプ25部に変更した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は82.0g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0037】
(実施例3)
実施例1において、パルプの叩解強さを調整した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は82.0g/m2、離解フリーネスは650mlCSFであった。
【0038】
(実施例4)
実施例1において、パルプの叩解強さを調整した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は82.0g/m2、離解フリーネスは450mlCSFであった。
【0039】
(実施例5)
実施例1において、カルボキシメチルセルロースの付着量を基紙の両面当たり固形分換算で0.4g/m2(片面あたり0.2g/m2)とした以外は実施例1と同様にして密封容器用包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は81.4g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0040】
(実施例6)
実施例1において、カルボキシメチルセルロースの付着量を基紙の両面当たり固形分換算で2.0g/m2(片面あたり1.0g/m2)とした以外は実施例1と同様にして密封容器用包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は83.0g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、針葉樹未晒しクラフトパルプ100部を、針葉樹未晒クラフトパルプを50部と広葉樹未晒クラフトパルプ50部に変更した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は82.0g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0042】
(比較例2)
実施例1において、パルプの叩解強さを調整した以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は82.0g/m2、離解フリーネスは380mlCSFであった。
【0043】
(比較例3)
実施例1において、カルボキシメチルセルロース水溶液の含浸を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして密封容器用包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は81.0g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0044】
(比較例4)
実施例1において、カルボキシメチルセルロース水溶液の含浸を行わず、ポリビニルアルコール水溶液(表中「pva」と示す)を基紙の両面当たり固形分換算で4.0g/m2(片面あたり2.0g/m2)含浸したこと以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は85.0g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0045】
(比較例5)
実施例1において、カルボキシメチルセルロース水溶液の含浸を行わず、澱粉水溶液を基紙の両面当たり固形分換算で2.5g/m2(片面あたり1.25/m2)含浸したこと以外は実施例1と同様にして包装原紙を得た。得られた包装原紙の米坪量は83.5g/m2、離解フリーネスは580mlCSFであった。
【0046】
得られた包装原紙について、以下に示す方法により評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0047】
(突き刺し強度)
オートグラフ精密万能試験機(AGS-10kNX:(株)島津製作所製)を用い、「JIS Z 1707:2019 食品包装用プラスチックフィルム通則」の「7.5突き刺し強さ試験」に準じて下記の方法で測定した。包装原紙の試験片は23℃×50%rhの条件で24時間調湿したものを用いた。
1.試験片を治具で固定し、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を試験速度50mm/minで突き刺し、針が貫通するまでの最大力(N)を測定した。
2.1個の試験片について15点突き刺し、その平均値を突き刺し強度(N)とした。
【0048】
(単位坪量当たり突き刺し強度)
下記式(1)によって単位坪量あたりの突き刺し強度を求めた。突き刺し強度は米坪量に比例する傾向があり、本実施形態では単位坪量当たりの突き刺し強度で比較を行う。
式(1):突き刺し強度(N)/米坪量(g/m2)=単位坪量当たり突き刺し強度(N/g/m2)
【0049】
(引張強度)
JIS P 8113「紙及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に規定される方法により、密封容器用包装原紙の引張強度(kN/m)を測定した。
【0050】
各実施例および比較例で得られた包装原紙の構成の概要と評価結果を表1に示す。各実施例で得られた包装原紙は突き刺し強度に優れるものであった。これに対して比較例1で得られた包装原紙はNパルプの配合率が低すぎて突き刺し強度の劣るものであった。比較例2で得られた包装原紙は離解フリーネスが低く突き刺し強度に劣るものであった。比較例3で得られた包装原紙はカルボキシメチルセルロースが塗布されておらず突き刺し強度に劣るものであった。
【0051】
さらに、比較例4で得られた包装原紙においては、カルボキシメチルセルロースに代わりに樹脂(ポリビニルアルコール)を多量に塗布したが、引張強度は改善したものの、特に坪量当たりの突き刺し強度を比較例3と比較すればほぼ同じであり、ポリビニルアルコールを塗布することで突き刺し強度は改善されなかった。比較例5で得られた包装原紙においては、カルボキシメチルセルロースに代わりに澱粉を塗布したが、引張強度は改善したものの、突き刺し強度は改善されなかった。以上のように引張強度を改善することができる樹脂や澱粉を塗布しても突き刺し強度は改善されなかった。それと比較して、カルボキシメチルセルロースが塗布された本発明の各実施例で得られた包装原紙は、引張強度を維持しつつ、突き刺し強度に優れるものであった。
【0052】