(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098930
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】地域防災クラウドシステム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20240717BHJP
G01W 1/10 20060101ALI20240717BHJP
G08B 27/00 20060101ALI20240717BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
G01W1/10 P
G08B27/00 A
G08B31/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023010552
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】523028596
【氏名又は名称】株式会社ソフト開発
(71)【出願人】
【識別番号】523028611
【氏名又は名称】一般社団法人日本シニア起業支援機構
(72)【発明者】
【氏名】松崎 敦志
(72)【発明者】
【氏名】川添 明
(72)【発明者】
【氏名】福田 直三
(72)【発明者】
【氏名】新田 秀二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋之介
(72)【発明者】
【氏名】藤川 博巳
【テーマコード(参考)】
5C087
【Fターム(参考)】
5C087AA21
5C087DD02
5C087EE14
5C087FF01
5C087FF02
5C087GG09
5C087GG14
5C087GG17
5C087GG68
5C087GG82
(57)【要約】
【課題】 従来の水害氾濫用防災システムは、大雨の際の数時間先の水位予測精度が低く、地域での情報共有が難しかった。更には、多数台設置しようとすると装置コストが高くなり、防災機関への新規導入に障害となっていた。
【解決手段】 水位センサー2とカメラ4をセットにした観測端末装置1、タンクモデルを用いるクラウド水位予測部6、サーバー7を含む防災システム。降雨強度や地域性への適合を、タンクモデルのパラメーター調整のみで行え、且つ映像情報とセットとすることにより予測精度、学習能力が向上する。水位観測、管理者による制御、情報共有の機能を分離して、クラウド上でリンクすることにより、従来のオールインワン型に比べ、観測端末の多数台設置費用が低減し、普及を促進できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水位を測定し、そのデータを送信する観測端末装置、観測データを記憶する観測情報記憶部、気象情報の記憶部、観測場所を雨水貯留タンクと見なすタンクモデルを使用して演算する水位予測部、クラウドサーバーを少なくとも構成要素として含む防災システム
【請求項2】
観測端末にカメラを備えた、請求項1の防災システム。
【請求項3】
気象情報の一つが気象庁発表による速報版降水短時間予報値、又は速報版解析雨量のいずれかである請求項1~2の防災システム。
【請求項4】
現在の水位を基に、次の時刻の水位を推定するプロセスを繰り返すことにより、数時間以上先の水位を予測する請求項1~の防災システム。
【請求項5】
水位の状態を規定するモデルとして、観測場所を雨水貯留タンクと見なすタンクモデルを使用し、水位を予測するための1時刻先予測式として下記の式(1)を使用する、請求項4の防災システム。
x(k|k-1);時刻k-1までのデータに基づく時刻kにおける水位予測値
x(k-1|k-1):時刻k-1における水位予測値
k:時刻
d:流出パラメーター
q(k-1);流入による水位上昇パラメーター
u(k-1):時刻kにおける降水予報値
【請求項6】
1時刻先予測式(1)のkを逐次変化させることにより少なくとも数時間先の水位を予測するものであって、気象庁の雨量予報値の更新があったときに、それまでの予測値を更新させる請求項6の防災システム。
【請求項7】
気象情報、地形情報の少なくとも何れかに依存して、パラメーターq(k)及び/又はdを変化させることにより、水位を予測、更新する請求項6~7の防災システム。
【請求項8】
実測水位値と予測水位の差を計算し、その乖離が大きくなった場合に、予測値を修正、更新するプロセスを含む請求項6~8の防災システム。
【請求項9】
降雨予報値に一つもしくは複数の閾値を設け、降雨予報値がその閾値に達したときに、パラメーターq(k)、dを変化させて水位の予測値を更新する、請求項6~9の防災システム。
【請求項10】
観測端末に雨量計を備えた、請求項1の防災システム
【請求項11】
雨量計が、転倒ます型雨雪量計である、請求項2の防災システム
【請求項12】
地域情報記憶部を予測部上に有する、請求項1~11の防災システム。
【請求項13】
地域情報が地図情報、下水道情報、河川情報、潮位等の少なくとも一つである請求項12の防災システム。
【請求項14】
地図情報が水位観測場所周囲の標高差情報であり、その情報に基づきタンクモデルのパラメーターを調整し、水位予測を行う請求項13の防災システム。
【請求項15】
観測装置の水位測定センサーが圧力センサーである、請求項1-14の水位予測装置。
【請求項16】
水位観測値、水位予測情報、監視カメラ画像情報を、クラウドサーバーを介して、自治体、防災組織、地域住民、自動車ナビゲーションシステムの管理者等のクライアントに提供する、請求項1~15の防災システム。
【請求項17】
観測端末装置が、市街地などの電柱上もしくは電柱近くの場所、アンダーパス、破堤が懸念される河川堤防の堤内地、下水配管内等に設置される、請求項1~16の防災システム。
【請求項18】
観測端末装置近くに警告表示灯が設置され、所定の水位に達したときに、その信号を表示灯が受信して警告表示する、請求項1~17の防災システム。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線状降水帯等の大雨による市街地での水害が予想される場合に、水位を精度よく予測・更新することができ、関係者、地域住民との情報共有が容易且つ高い学習能力をもつ、ディジタル技術を活用した低コスト防災システムに関する。
【背景技術】
【0002】
気候変動、市街地の住宅密集、道路舗装化などの影響により、降雨に伴う水害が激甚化しており、そのための予知情報提供の重要度が増している。その中、レーダー情報を取り込んだ気象情報の精緻化が進んでいる反面、降雨強度が大きくなると降雨予報値と実測値の間の相関性が低下する等の未解決課題も指摘されている(非特許文献1)。
【0003】
そのような気象情報だけに依存するのではなく、現地での水位観測データと気象情報を組み合わせて水位予測精度を上げ、防災活動に活かそうとする試みも数多くなされている。
【0004】
特許文献1には、予測対象場所の降雨強度と下水管内水位のデータから内水氾濫に至るまでの時間を予測する装置が示されている。この方法では、下水管内の水位上昇速度と降雨強度の比例関係と現在の水位データを組み合わせ、危険水位到達時間を予測している。しかしながら。水位上昇速度と降雨強度の比例関係は、例えば下水管直径や道路の傾斜、排水ポンプの運転状況によっても変動するものであり、その予測精度は高いものとはいえない。そのため、数時間先以上の水位予測は困難であり、また一旦出された予測データの更新、住民との情報共有化等についても解決策を与えていない。
【0005】
特許文献2には気象データと、5m~25mメッシュの区画毎の地形データ、水位演算部で演算された現在の水位から、浸水危険度を表示させるための装置が開示されている。しかしながら実際の水位測定を行わないため、その予測精度の信頼性は低く、また予測情報を更新する機能も示されていない。
【0006】
特許文献3には、蓄積された過去の水位情報を基に、危険水位到達時間を予測すると共に、避難経路情報などを提供するオールインワン型システムが示されている。このシステムでは予め登録された河川の水位上昇速度、気象庁の予想雨量データ、観測水位の上昇速度、過去の雨量データ等を基に、危険水位到達時間を予測するとしている。しかしながら、この文献では具体的な予測方法は何ら示されていない。また実測値と予測値との乖離が生じた時に、どのように更新するか示されておらず、またその予測精度にも懸念がある。またオールインワン型であるために、複数の場所に設置する場合には多額の費用を必要とする。
【0007】
以上述べた如く、従来の水位予測装置はシステムが複雑な割には、その予測精度が低く、高コストのため普及が進まなかった。今後普及を進めるためにはこれらの課題に加え、学習能力が高く、関係者間の情報共有の課題を併せて解決する必要がある。更に望ましくは、水位予測の機能以外に、例えば積雪量の観測機能を持たせることが出来ると、一つのシステムで夏場の豪雨対策に加え、冬場は道路の積雪状態のリアル観測が可能となり好ましい。そのような多機能型の新しいディジタル防災システムは、一つのシステムを介して住民の多様なニーズに応える上でこのましく、その開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2020-201704号公報
【特許文献2】特開2017-201243号公報
【特許文献3】特開2003-162785号公報
【非特許文献】
【非特許文献1】雨量と土中水分量を用いた高速道路における斜面防災対策の高度化に関する研究、p14,学位論文、2018年9月25日、大阪大学、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的とする浸水防災システムが広く社会に受け入れられ、普及するためには、以下の課題を併せて解決することが必要とされている。
(1)線状降水帯などの大雨の場合でも、水位予測の精度が高いこと。
(2)避難準備などに必要な数時間先までの予測を行える。
(3)予測雨量と実測雨量との乖離が生じた時に、迅速に予測データを更新できる。
(4)地域性を反映した予測が可能なこと。
(5)経験値を蓄積して、システムの学習能力を高めることができること。
(6)現地に行かずとも、必要情報を得て、的確な判断材料を提供できること。
(7)地域住民、関係者の間の情報共有が容易であること。
(8)低コストで普及しやすいこと
(9)ディジタル技術を活用して、住民の多様なニーズに対応できること。
【0009】
前述の文献で示したように、従来のシステムでは、予測のために過去の事例データの蓄積を必要としている場合が多い。その多くがオールインワン型で高価であり、且つ防災機関内でのクローズドなシステムのため、住民との情報共有が難しく、またシステム自身の学習能力が不足しているために、貴重な経験値を次のリスク回避に向けて活用できないケースも多い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記(1)~(5)の課題解決に最適な水位予測モデルを作ることが最重要と考え鋭意検討すると共に、上記(6)~(8)のシステム機能を向上させるための方策を検討した。その結果、上記(1)~(5)の目的に対しては、タンクモデルを使用することにより解決し、上記(6)については観測端末にカメラを内蔵させること、(7)~(8)はクラウドシステムを使用することにより解決することができる。更に、予測精度を上げる目的の加温型水量計をオプションとして付加することにより、冬季の積雪状況のリモート観測が可能となり、上記(9)の課題解決の上でも有効であることを見出し本発明に到達した。即ち、本発明の概要は下記の通りである。
(a)観測場所を雨水貯留タンクとするモデルを使用し、気象庁発表の降雨情報、外部からタンクに流入する雨水量、及びタンクから流出する雨水量の三つをパラメーターとして1時刻先予測式を設定、現在時刻の水位から次の時刻の水位を予測する。この予測プロセスの繰り返しにより、複雑な演算や処理を必要とせずに長時間先の予測操作を行うことができる。
(b)気象庁発表の気象データが更新された場合や、予測値と観測地の乖離が大きくなった場合、上記パラメーターを調整することにより、水位予測を簡単な操作で更新できる。
(c)上記予想雨量、観測雨量、パラメーター、予測水位結果をデータベース化することにより、次の降雨時の予測に反映させることができる。それにより過去データに強く依存せずとも、システムの学習機能により防災対策を進化させることが容易となる。
(d)カメラの映像情報を活用することにより、現地に行かずともクラウドを介して観測水位と現地の映像情報を得ることができる。
(e)全機能一体型ではなく、水位観測、水位予測、中央制御、情報共有のそれぞれの部分を分離した上で、クラウドを介して結合することにより、1台のサーバーを置くだけで、多くの観測端末、ユーザー端末を接続できるため、コストパーフォーマンスが向上、普及の上で好ましい。
(f)雨量雪量計を観測端末に併設することにより、予測精度が向上するのみならず、冬季の積雪状況のリモート観測など、住民の多様なニーズに対応することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、気象庁予報雨量データ、取り扱い容易なタンクモデルを基に数時間後の水位の予測を行うことができる。更に必要に応じて、その予測水位を観測データを参照して、容易に更新できる。また、使用したタンクモデルのパラメーターなどの経験値をデータベース化することにより、次の予測のための学習教材として活用できる。また予測のための演算は、簡単なソフトウエアを用いてサーバー上で行うことができ、且つ水位観測端末、クラウド予測部、サーバーを機能分離することが可能となり、1台のサーバーにより多数の観測端末を制御することが可能となる。更にはスマートフォンなどの端末とインターネットで結合することにより、関係者や地域住民等との情報共有が進み、住民の適切な避難を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】クラウド予測部の構成を示すブロックダイアグラム
【
図4】本システムで水位予測を行うためのプロセス図
【
図5】タンクのパラメーター調整による水位予測を行う模式図
【
図6】水位閾値Thを設定し、それに到達する時間を予測することによる効果を示す図
【
図7】水位閾値Thに到達する予測時間を基に避難情報を伝えるためのフロー図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施態様について図面を参照しながら説明する。
【第1の実施形態】
【0014】
図1は、本発明の第一の実施形態に係るシステム構成図である。本発明のシステムは、水位センサーからの観測データおよびカメラ映像情報をクラウドに送信する観測端末装置、観測情報と気象情報を得て水位を予測する水位予測部、クラウドサーバーを少なくとも有する防災システムである。
【0015】
図2はクラウド水位予測部の主要な部分の構成を示すブロック図である。観測端末による水位情報、映像情報をネットワークを介して取込み、記憶する水位情報記憶部、気象庁の気象情報(降雨量データ、降水予報)を記憶する気象情報記憶部、タンクモデルを用いて水位を演算、予測する予測部、その結果をネットワークを介してクラウド外に出力する出力部を有する。サーバーにより、気象情報の取り込み、水位予測パラメーター設定、演算・予測、結果の出力などの制御がなされる。
【0016】
図3は、タンクモデルを模式的に示した図である。
以下に使用する記号、用語の定義を表1に示す。ここでは、気象庁発表の気象情報として最も典型的なデータベースを示しているが、本発明においては、必ずしもこれらに限定されるものではない。目的や使用環境によって、適宜他のデータベースを選択することも可能である。
【表1】
【0017】
ここで、浸水などの被害が懸念される観測場所を一つのタンクとして捉え、そのタンクに時刻kにおいてu(k)の降雨が直接に入る。それと共に、当該場所の外から降雨強度u(k)に比例した雨水が流入、水位を上昇(流入パラメーターq)させ、且つ水位x(k)に比例して貯留雨水は外部に流出する。時刻k-1からkに遷移する時のタンク内水位予測値の計算は、タンクの底面積をAとしたとき、下記の1時刻先予測式として表される
ここで、x(k|k-1)は、時刻k-1までのデータに基づく時刻kにおける水位予測値であり、x(k-1|k-1)は時刻k-1における水位予測値である。またu(k-1)、q(k-1)はそれぞれ時刻k-1における降雨強度、流入パラメーターである。
上記(2)式においてRは流出抵抗を示すものであり、水位が高い程、またRが低い程、タンクからの流出量が大きくなる。-1/AR=d(d<0)と置き換えると次の漸化式(3)式が得られる。
【0018】
前述の非特許文献1では、レーダー・アメダス解析雨量予報(時間当たりの予測降雨強度)と当該時刻における実測降雨強度の相関が、降雨強度が例えば10mm/時以上に高まると、相関性が著しく低下することを示している。更に同文献では、解析雨量予報値を累積した雨量と実測の累積雨量の比較を行ったところ、その相関が著しく高くなることを示した。
【0019】
非特許文献(1)から考察するに、上記(3)式が意味する重要な点として、下記の二点が指摘される。
(a)u(k-1)という降水強度情報を水位x(k)という累積情報に変換することにより、次の時刻の水位予測がなされることがあげられる。強度情報を累積情報に変換することにより、相関性の小さかった予測雨量データを水位(累積情報)に変換することにより、信頼性を高めることが出来る。
(b)更に、降雨強度を水位に変換するパラメーターとして、時刻その他に依存する変数qを導入することにより、刻々と変化する状況に応じて予測式を柔軟に更新できる。
これらの特徴により。低雨量の場合に限らず、線状降水帯などの大雨の際にも、その高い精度を維持できる点で、本システムのタンクモデルは非常に有効である。
【0020】
具体的には、以下のとおりである。
即ち、時刻kでの水位x(k)を(1+d)倍した値と、降水強度u(k)を{1+q(k)}倍したものを加えたものが時刻k+1の水位となる。この漸化式を用いて、x(k+1)の計算結果を次のx(k)として次々と計算する。
dは負値であり、(1+d)x(k)は1時刻あたりの減水の大きさ、{1+q(k))u(k)は1時刻あたりの増水を示す。
ここで、q(k)、dは管理者の経験、システムのデータベースで検索した値などを参照して設定される。
【0021】
このタンクモデルを基に、気象庁発表の速報版降水短時間予報を用いて、6時間後までの長時間予測をおこなう手順は
図4及び
図5に示される。
【0022】
図4のフローにおいて、気象庁発表の速報版降水短時間予報値は、その更新時間間隔10分のため、1時刻は10分となる。この計算を36回繰り返すと6時間先まで10分ごとの水位が得られる。降水強度u(k)は短時間降水予報値をmm/10minに換算して得られる。
【0023】
図4において最初の水位予測を行った後、次の時刻が来た時に更新処理が行われる。新たに取得した気象情報と、水位実測値を基に、6時間先までの予測値が更新される。更新に際しては、後述する閾値Thや、カメラの映像情報などを参照して、パラメーターq(k)、dを調整することも好ましい。
【0024】
図4においては、実測水位値からノイズを除去するフィルタリング処理した値を水位の初期値として使用している。しかしながら、必ずしもフィルタリング処理は必須ではなく、ノイズが大きくない場合には、観測端末による水位値をそのまま使用することも可能である。
【0025】
図5は、過去の事例を参考にした仮想的な降雨強度予報曲線(1)、及び前述の(3)式を基にq、d(k)を変化させたときの、水位の変化を模式的に示したものである。ここで降雨強度予報曲線は、気象庁発表の速報版降水短時間予報を時間的につなぎ合わせて30時間まで演算したものである。予測水位曲線(2)~(5)で分るように、流入雨量が多くなると水位が増加し、流出水量が大きくなると水位が低下する。
【0026】
実際に台風などの豪雨を経験した際に得た気象庁の気象情報、6時間先までの予測データ、実測水位値、予測に使用したパラメーターq(k)、d、Thをデータベースに保存しておくことにより、次の豪雨などの際にそのデータを検索して、より精度の高い予測をすることが容易となる。
【0027】
前述したように、本発明のシステムの特徴は、降雨強度情報u(k)を累積情報に変換するタンクモデルを使用することにある。それに加えて、降雨予報値、雨水流入にともなう水位上昇を表す流入パラメータq(k)、流出パラメーターdを用いることにより、豪雨などの際でも高い予測精度を維持できる。またu(k)、q(k)、dのみの線形方程式というシンプルなモデルで、演算、制御、更新を行える。そのために低価格のシステムとなり、更にその学習効果により管理者の熟練が必要なくなる点で、大きな効果を有する。
【第2の実施形態】
【0028】
一般に、降雨強度が増加するほど、水位が急激に増加しやすいと言われていることから、それを想定して予測の見直しを行うことが好ましい。
図6はその一例を示したもので、特定の短時間降水予報値を閾値Thとして予め設定(
図6では仮に、閾値Th=35mmに設定)し、その時刻が来た時に、q(k)を増大させて、予測値が大きくなるように調整している。q(k)を増大する要因としては、河川堤防の破堤、地形原因で生じる周囲からの流入などが考えられ、またdに関する要因としては、下水処理能力の低下、潮位の上昇による河川排水ポンプの稼働低下などが考えられる。短時間降水予報値や実測水位を見ながらq(k)、dを調整して予測曲線を更新すると共に、その後の実測水位を追跡していくことが重要である。
【0029】
予測更新などを行う際のパラメーターの変更は上記の例に限定されず、過去のデータベースや管理者の経験を基に、例えば表2のような考え方でも行われる。
【表2】
【第3の実施形態】
【0030】
実際の降水強度が特定の閾値Th以上になると、急激に観測水位が増加する場合が多いことが経験的に知られている。
図6の実施形態では、その閾値に到達するとパラメーターq(k)、dを更新する処理の一例を模式的に示している。そのような更新処理を行う効果としては、予測精度を上げるという効果以外に、住民に避難準備を呼びかけたり、観測端末の映像を通して避難路の安全確認を行うための判断基準として使えることが挙げられる。また、そのような閾値は複数設けることが可能であり、上記Th以外に、例えば危険水位Ldを予め設定しておくことにより、複数の段階に分けて住民に情報や警報発信を行うことが容易となる。そのような閾値Th、危険水位Ldを設定して、防災活動を行うプロセスは、例えば
図7のフローで示される。
【0031】
尚、
図7の例では水位情報を基に危険予知情報等の発出を行っている例を示しているが、カメラによる現地映像も加えて、情報発出のタイミングを適宜設定することが好ましい。
【第4の実施形態】
【0032】
前述した如く、本発明の防災システムにとって観測端末に撮像機能を持たせることは特に重要であり、その理由として、前述に加え以下の理由が挙げられる。
(1)予測水位、観測水位などの数値だけでは、その場所の情報をリアルに捉えることが難しい。防災機関の職員などが現地に行き、状況確認することも多いが、そのような危険個所が多いとその対応も困難になる。
(2)例えばマンホールからの雨水吹き出しなどが起きていても見逃す場合がある。
図8のような市街地の電柱などにカメラ付きの観測端末を設置できれば、現地に行かずとも状況をリアルに観察でき、事前に注意報を出すことが容易となる。
(3)観測端末を避難路に設置することにより、水位予測情報と一緒に画像情報をクラウド上で住民に提供することにより、住民の自主的避難路確保などに役立つ。
(4)気象庁情報、観測水位、予測水位に用いたパラメーターと共に、現地画像情報をセットにしてデータベース化することにより、次の危険予知のための学習効果を高めることができる。
【第5の実施形態】
【0033】
前述したように予測水位と観測水位の間に大きな乖離を生じやすい。その乖離は、予測雨量と実際の雨量の差異などのシステム上の誤差、水位センサーに漂流物が触れるなどして生じる測定ノイズなど多くの要因がある。そのようなノイズをフィルター除去して、予測値を真の値に近づける方法がフィルタリングと言われる。本発明においても、必要により、フィルタリング処理して、予測値の修正を行うことも好ましい。
【0034】
ノイズのフィルタリング処理としては、例えばカルマンフィルターが使用される。
カルマンフィルター通過した後の状態(補正された水位)は次式で表される。
(5)式は下記の意味を有する。
時刻kにおける補正後の水位推定値 = フィルター通過前の水位であり、時刻k-1において1時刻先予測式により推定した値+カルマンゲイン×(観測値-フィルタ通過前の時刻k-1における水位推定値)
【0035】
実測値ym(k)と前時刻k-1における水位推定値値x(k|k-1)の差にカルマンゲインKgを乗算した値を計算し、その結果を前時刻k-1の予測水位に加えて、時刻kの水位予測値とする。これで分るように、観測値やシステムに大きなノイズを含むと予想され場合にカルマンフィルタリング処理を行うことで、ノイズを除いた値を推測できる点で有効である。一方で、カルマンフィルター処理は実測値を常に必要するため、実測値のない将来のフィルタリングはできず、観測値が得られる現時刻での適用に限定される点に留意する必要がある。
【0036】
上記の制限があることを留意した上で、フィルタリング処理して得た真値に近い補正値を予測式(3)式に代入することにより、予測情報を更新することもできる。
【第6の実施形態】
【0037】
本発明の防災システムは、観測端末に水位計に加えて雨量計を併設することが特に好ましい。ぞの理由として下記の二つの点があげられる。
(1) 気象庁データと実測雨量データとの対比から、観測場所の違いの影響評価が可能
気象庁の解析雨量は1km四方の細かさで降水量分布を解析したものであるが、線状降水帯などの場合、その1km四方の中でも場所により降水量が変わる場合が想定される。本システムの観測端末に雨量計を併設し、その雨量データと気象庁データを比較し、本システムの雨量計データがより高い雨量数値を示す場合には、より高いリスクを想定し、その対応が容易となる。
(2)本システムの水位計測定値と雨量計測定値の対比から、リスク予測をより精度高く行える。
水位計と雨量計は、降雨量が小さい場合には相関性の高い時間変化を示すが、降水強度が大きくなってくると、その相関が低下し、水位計の測定値の増加が、雨量計のそれよりも大きくなる。その理由は、雨量計の測定値は降雨強度に比例して増加するが、水位計のばあいには降雨量が大きくなると、外部から流れ込む雨水が増加(qの増大)し、また下水処理能力の低下などの理由で水位計から外部へ排出しにくくなる(dの増加)ためである。降雨量が増加してくると、それまでパラレルに増加してきた水位計の値と、雨量計の数値の変化にズレが生じ、水位計の数値の増加が大きくなる。このような変化を読み取ることにより、迫りくるリスクをより鋭敏にキャッチすることができる。
【0038】
本発明のシステムに用いられる雨量計には、大きく分けて貯水型雨量計と転倒ます型雨量計の2種類がある。特に観測端末に接続し、遠隔地から観測する上では、転倒ます型雨量計が好ましい。
【0039】
転倒ます型雨量計には、左右2個の三角形の「ます」を取り付けたものが入っており、受水口で受けた雨や固形降水は、転倒ますの片方に溜められ、それが一定量溜まると転倒ますが転倒する構造となっている。転倒ますに連結されている磁石の作用によってその近くにあるスイッチをオンにすることにより、雨量計から電気パルス信号が出力される。その電気パルス信号が観測装置に送られ、時間毎に合計された降水量を求めることができる。転倒ます型雨量計の「ます」は、例えば降水量0.5ミリに相当する容積となっており、その場合には0.5ミリ単位で観測できる。
【0040】
また、気温が低いとき(約5℃以下)は、雨量計の受水口をヒーターで温めることにより、固形降水を溶かして水にしたものを降水量として測定できる装置も提供されており、積雪が予想される場合でも好適に使用できる。
【第7の実施形態】
【0041】
雨量計を観測端末に併設することにより、水位予測システムの精度が改良されることを前述した。ヒーター付きの転倒ます型の雨量計を使用することにより、雪量計としての機能を持たせることができる。観測端末のカメラを併用することにより、現地の積雪状況を定量的に測定し、リモートで状況を把握することができる。河川近くの積雪量の多い地域では夏、冬共に地域住民へ防災情報を提供できる点で、有用である。
【第8の実施形態】
【0042】
本発明のシステムは、必要により地域情報記憶部を有することができる(
図2)。ここで地域情報としては地形情報、下水道配置情報、河川情報などがある。必要によっては潮位も使用される。ここで地形情報しては地図情報、航空レーザー測量などから得ることができる。特に航空レーザー測量データからは位置、高さ情報を高精度で得られ、更にその情報を種々の方法で加工しやすい点で好ましい。
【0043】
例えば観測地点を中心に、その観測地標高よりも高いエリアと、低い標高のエリアのそれぞれの面積の大きさ、比率を計算し、その結果をタンクモデル中のq(k)、dの値に反映させることにより、観測場所に適合した予測を行うことができる。
【第9の実施形態】
【0044】
本発明の防災システムでは、水位センサーとカメラを併設することで、より正確なモニタリングを可能にする。
図9は、そのような観測端末の構成を示す一例である。
【0045】
地表に設置された水位センサーの情報を、IoT向けのLPWAネットワーク、例えばSigfox(登録商標)通信を介してクラウドに送信する。更に、カメラ撮影情報をインターネット経由で送信することにより数値情報と共に映像情報を併せて、リモートで把握することが出来る。例えば、下水マンホールからの雨水吹き出しを観察できれば、危険が近いことを察知でき、道路の交通状況などを把握することにより、適切な避難誘導に役立てることができる。
【0046】
観測端末で用いる水位計を、例えば道路の電柱に設置して、その架線から電源を引き込むことが出来れば、電池消耗によるシステムダウンのリスクを回避できると共に、コスト削減につながる。Sigfox(登録商標)通信の採用は、部品コストと共に通信コスト削減にも有効である。
【0047】
本防災システムに使用する水位センサーとしては、電波式水位計、超音波水位計、静電容量式水位計、圧力式水位計などがある。その中でも圧力式と超音波式が好ましく、特に圧力式センサーが流入水中の浮遊物の影響受けにくい等の点で好ましい。
【0048】
本防災システムの観測端末には、オプション機能として雨量計を接続し、その測定結果を送信できる機能を持たせることが特に好ましい。雨量計による現地の雨量を直接測定することにより、リスクをより鋭敏に検知することが可能となる。
【0049】
更に、雨量計として加温機能を持たせた雨量計を接続可能とすることにより、降雪量の測定が可能となり、カメラの映像情報との併用により積雪期における雪害対策を有効に行う上で好ましい。
【0050】
本システムの観測端末の設置場所としては、電柱に限られず、消火栓などの公的設備に接して設置してもよい。またカメラを内蔵している本観測端末を、下水配管の中、見通しの悪いアンダーパスなど、現地に行かず目視で確認したい場所に設置することは、全体状況を的確に把握できる点で効果が特に大きい。また、破堤が懸念される河川堤防の堤内地(市街地側)に設置することは、いち早く危険を知らせる上でも好ましい。
【0051】
本システムの観測端末場所もしくはその近くに、警告表示灯が設置することも好ましい。例えば観測端末がアンダーパスに設置されている場合、アンダーパスの出入り口近くに警告表示灯を設置し、警告情報を受信、表示することにより、自動車等の侵入を未然に防ぐことが可能となる。警告表示灯としては赤、青、黄色の3色の表示灯、回転式表示灯など、一般に使用される表示灯を適宜使用することが出来る。
【0052】
本発明のシステムに使用されるカメラとしては、▲1▼電子式であること、▲2▼動画、静止画両方可能、▲3▼視野角が大きい、▲4▼暗所における補助照明程度でも撮像可能な感度、解像力を有してしていることが好ましい。そのようなものとして赤外線カメラを含む市販の一般的な電子式カメラを使用することも可能であるが、上記▲3▼、▲4▼の条件を満たす上でドームカメラ、特に赤外線ドームカメラが好ましい。ドームカメラは防犯システムにも広く使用されており、防災と防犯を兼ねた端末としての機能を持たせる意味でも、好適である。
【第10の実施形態】
【0053】
本発明の防災システムはクラウドサーバーを介して、自治体、防災組織、地域住民、自動車ナビゲーションシステムの管理者等のクライアントと接続することができる(
図1)。水位予測部で水位予測曲線を求めた上で、管理者がサーバー上で水位閾値Thや危険水位Ldに到達したときに、避難誘導情報等を発信することができる。クラウドを介することにより、スマートフォンなどによる住民、防災機関からのアクセスが容易となり、効率的に予測情報を活用することが可能となる。
【0054】
本発明の防災システムは、気象情報と観測情報を組み合わせて、シンプルなタンクモデルを基に単純な演算処理を行うことに特徴がある。そのための本発明のシステムに用いる管理者用のサーバーとしては、市販の安価なパーソナルコンピュータ(PC)の使用が可能である。また予測のために高度に複雑なソフトウエアは必要とせず、システムの低価格化を可能としている。
【0055】
本発明の防災システムはクラウド上で、クライアント(防災関係者、地域住民など)間で情報を共有できる。そのための端末としては、スマートフォン、PCなど一般的な機器を使用できるため、どこでもいつでもアクセスできる。
【符号の説明】
【0056】
1 観測端末、 2 水位センサー、3 雨水桝、4 カメラ、 5 マイコン、6 クラウド水位予測部、 7 サーバー、 8 気象情報、 9 情報端末、11 観測情報記憶部、 12 ネットワーク、 13 地域情報記憶部、 14 出力部、15 タンクモデルを用いた水位予測部、 16 気象情報記憶部、 21 SIMカード、 22 画像通信アンテナ、 23 水位センサー情報通信アンテナ、 24 水位センサ通信基板、 25 非常用電源、 26 防水コネクタ、 27 AC アダプタ、 28 電源コード、29 雨量計