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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098974
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】検出器較正方法及び検出器較正装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/58 20240101AFI20240717BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20240717BHJP
   A61B 6/42 20240101ALI20240717BHJP
【FI】
A61B6/58 500B
A61B6/03 573
A61B6/03 560T
A61B6/42 530R
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002117
(22)【出願日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】18/152,856
(32)【優先日】2023-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケント・シー・バー
(72)【発明者】
【氏名】マルコフ ニコライ
(72)【発明者】
【氏名】イ チャン
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA13
4C093EB12
4C093EB13
4C093EB20
4C093FD03
4C093FD09
(57)【要約】
【課題】検出器の較正を行うこと。
【解決手段】実施形態に係る検出器較正方法は、X線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルをニューラルネットワークに入力して較正パラメータを出力し、前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する。
【選択図】図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、
検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルをニューラルネットワークに入力して較正パラメータを出力し、
前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する、
検出器較正方法。
【請求項2】
前記X線管の異なる電圧で、少なくとも2つのフル分解能エネルギースペクトルスキャンを取得し、前記少なくとも2つのフル分解能エネルギースペクトルスキャンを前記ニューラルネットワークに入力する、請求項1に記載の検出器較正方法。
【請求項3】
前記ニューラルネットワークに入力される前記第1のエネルギースペクトルは、6個以下のエネルギービンを含む、請求項1に記載の検出器較正方法。
【請求項4】
前記検出器の特定の機械的またはスペクトル特徴に基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含む、請求項1に記載の検出器較正方法。
【請求項5】
検出器応答をクラス分けする分類器ニューラルネットワークと、前記分類器ニューラルネットワークによりクラス分けされたクラスごとの別々の前記ニューラルネットワークとを訓練することを更に含む、請求項1に記載の検出器較正方法。
【請求項6】
チャンネルの位置を前記ニューラルネットワークにさらに入力することによって空間的ばらつきに基づいて前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含む、請求項4に記載の検出器較正方法。
【請求項7】
ボウタイフィルタによるボウタイ効果に基づいて前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含み、前記第1のエネルギースペクトルのばらつきは、前記ボウタイフィルタの厚さおよび材料を前記ニューラルネットワークにさらに入力することによって対処される、請求項4に記載の検出器較正方法。
【請求項8】
前記取得するステップおよび前記出力するステップを反復して、較正パラメータの変化を検出し、前記較正パラメータの変化および確立された許容差に基づいて、前記検出器を再較正することをさらに含む、請求項1に記載の検出器較正方法。
【請求項9】
前記第1のエネルギースペクトルを拡張して訓練データの量を増やすことと、
前記拡張された訓練データを使用して、前記ニューラルネットワークを訓練することと、をさらに含む、請求項1に記載の検出器較正方法。
【請求項10】
前記複数のチャンネルごとに、前記較正パラメータは、測定されたエネルギーを較正されたエネルギーに関連付ける線形関数を定義するゲインおよびオフセットである、請求項1に記載の検出器較正方法。
【請求項11】
同位元素ピーク位置、Kエッジ吸収特徴、およびKエッジ放射ピークから選択された2つ以上の測定値を使用して特定された訓練データを使用して、前記較正パラメータを出力するように前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含む、請求項1に記載の検出器較正方法。
【請求項12】
前記第1のエネルギースペクトルを取得するときに使用されるボウタイフィルタのタイプに基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含む、請求項4に記載の検出器較正方法。
【請求項13】
前記ニューラルネットワークは、前記第1のエネルギースペクトルを取得するときに使用されるボウタイフィルタのタイプを示す入力値を有する、請求項12に記載の検出器較正方法。
【請求項14】
前記ニューラルネットワークは、前記第1のエネルギースペクトルを取得するときに使用されるボウタイフィルタの厚さおよび材料を示す入力値を有する、請求項12に記載の検出器較正方法。
【請求項15】
前記第1のエネルギースペクトルを取得するときに使用されるスペクトルフィルタのタイプに基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含む、請求項4に記載の検出器較正方法。
【請求項16】
放射線源としてX線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、
検出器の対応する異なる空間領域に関して複数の異なるニューラルネットワークを訓練し、
前記検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルを前記複数の異なるニューラルネットワークに入力して前記異なる空間領域に関する較正パラメータを出力し、
前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する、検出器較正方法。
【請求項17】
X線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、
検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルをニューラルネットワークに入力して較正パラメータを出力し、
前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する
処理回路を含む、検出器較正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、検出器較正方法及び検出器較正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)において、検出される放射線のスペクトル特性は、光子カウント検出器を使用して特定される場合があり、このようなシステムは、フォトンカウンティングコンピュータ断層撮影(PCCT)と称される場合がある。PCCTの検出器によって検出される放射線は、物質の分離を特定するために使用されることがある。光子カウントには、検出器の測定値と実際の光子エネルギーとの良好な対応関係が必要であり、これは、検出器エネルギー較正によって調整される。
【0003】
PCCT検出器エネルギーの較正は通常、アメリシウム(Americium:Am)およびコバルト(Cobalt:Co)同位元素などの放射性同位元素からの単色スペクトル、いくつかの高原子番号材料(例えば、鉛(Pb)、タングステン(W))のKエッジ吸収、またはいくつかの高原子番号材料のKエッジ蛍光のいずれかを用いて行われる。X線吸収分光において、Kエッジとは、X線のエネルギーが光子と相互作用する原子の最内電子殻の結合エネルギーを超える際に起こるX線吸収の突然の増加である。この用語は、X線表記に基づくものであり、最内電子殻は、K殻と呼ばれている。物理的に、この減衰の突然の増加は、光子の光電吸収によって起こる。この相互作用を起こすためには、光子は、K殻電子の結合エネルギー(Kエッジ)よりも大きなエネルギーを有している必要がある。
【0004】
これらの典型的な較正方法には、システムにおける放射性物質の存在が必要であるか、または、Kエッジ吸収もしくは蛍光較正を行うために金属箔を設置して操作するといった追加の機械的構造および複雑化の要因が必要となる。この方法には、読み出しモジュールおよび電子モジュール、ならびに対応する冷却および電力容量、さらに必要な制御および読み出しソフトウェアの開発が必要である。
【0005】
課題となるのは、システムにおいて放射性物質が必要であることである。放射線源は、高価であり、通常、半減期が比較的短いため、頻繁に交換する必要がある。また、放射線源を使用する場合、CTシステムの使用者は追加のライセンス要件が課される。したがって、較正の際の放射性物質の使用を限りなく少なくすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0379133号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0285186号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書及び図面の開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、検出器の較正を行うことである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る検出器較正方法は、X線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルをニューラルネットワークに入力して較正パラメータを出力し、前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、光子カウンタ検出器のブロック図である。
図2図2は、本開示の例示的態様による、最初のPCCTエネルギー較正を行うための方法のフロー図である。
図3図3は、PCCTイメージング工程のフロー図である。
図4図4は、本開示の例示的態様による、再較正を行うための方法のフロー図である。
図5図5は、X線管の特定のエネルギーでのX線エネルギースペクトルを作成するためのシステムを示す図である。
図6図6は、異なるX線管電圧のスペクトルの比率のグラフ図である。
図7図7は、測定したスペクトルを平滑化するデータ前処理を示す図である。
図8図8は、本開示の例示的態様による、PCCTエネルギー較正向けのニューラルネットワークのアーキテクチャ図である。
図9図9は、ボウタイフィルタを装着したCTスキャニングシステムを示す図である。
図10図10は、本開示の例示的態様による、ニューラルネットワークを訓練するためのX線のスペクトルコンテンツの一例を示す図である。
図11図11は、本開示の例示的態様による、検出器モジュールの配置位置を示す図である。
図12図12は、本開示の例示的態様による、拡張させた訓練データのグラフ図である。
図13図13は、本開示の例示的態様による、エネルギー対ビン数の例示的線形関係のグラフ図である。
図14A図14Aは、ニューラルネットワークを訓練するためのターゲットの出力物を得るための例示的方法で得られる同位元素スペクトルによるピーク位置の特定を説明するグラフ図である。
図14B図14Bは、ニューラルネットワークを訓練するためのターゲットの出力物を得るための例示的方法で得られる同位元素スペクトルによるピーク位置の特定を説明するグラフ図である。
図15図15は、畳み込みによるスペクトルの平滑化の前処理工程を示すグラフ図である。
図16A図16Aは、ニューラルネットワーク入力値を示すグラフ図である。
図16B図16Bは、ニューラルネットワーク入力値を示すグラフ図である。
図17A図17Aは、X線管データが訓練されるニューラルネットワークへ入力される場合の同位元素ごとの推定されるピーク位置のヒストグラムを示すチャート図である。
図17B図17Bは、X線管データが訓練されるニューラルネットワークへ入力される場合の同位元素ごとの推定されるピーク位置のヒストグラムを示すチャート図である。
図18A図18Aは、2つのクラスのピクセルを示す出力図である。
図18B図18Bは、2つのクラスのピクセルを示す出力図である。
図19A図19Aは、異なる入射電子エネルギーのX線スペクトルおよび上記スペクトルの比率に関して、データをワイドエネルギービンにビニングして示したチャート図である。
図19B図19Bは、異なる入射電子エネルギーのX線スペクトルおよび上記スペクトルの比率に関して、データをワイドエネルギービンにビニングして示したチャート図である。
図20A図20Aは、入力値としてワイドビニングデータを使用した結果を示すチャート図である。
図20B図20Bは、入力値としてワイドビニングデータを使用した結果を示すチャート図である。
図21図21は、フォトンカウンティング検出器の較正のためにニューラルネットワークを動作させるためのコンピュータシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、検出器較正方法及び検出器較正装置の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
いくつかの図面の全体を通して、図中の同じ参照番号は、同一または対応する部品を示している。さらに、用語「約」、「おおよそ」、「およそ」および類似の用語は、概して、20%、10%または好ましくは5%の差の範囲内で識別される値、およびその範囲内の任意の値を含む範囲を指す。
【0012】
図1は、CTスキャナの主要な構成要素であるフォトンカウンティング検出器(Photon-Counting Detector:PCD)100のブロック図である。CTスキャナは、一般に、ソリッドステート検出器を使用し、類似の第3世代の回転-回転型設計を共有する。PCDには、光子検出および信号生成の役割を担う物理的メカニズムが根本的に異なるため、他の従来CTの検出器に優る多くの固有の利点がある。
【0013】
特に、PCDは、X線検出に関して直接変換技術を使用し、エネルギー積分型検出器(Energy-Integrating Detector:EID)におけるようなシンチレータ層を必要としない。PCDの半導体検出器材料104は、X線光子102を電子正孔対に直接変換する。PCD100は、カソード106、半導体検出器材料104およびアノード110を含む。半導体を通してバイアス電圧108が印加されると、電子は、アノード110に移動して収集され、電子信号112が生成される。
【0014】
PCDで使用される半導体材料は、テルル化カドミウムまたはテルル化カドミウム亜鉛を含んでいる場合があるが、シリコンおよびガリウムヒ素などの他の材料もこれまでに用いられたことがある。検出器の吸収効率は、使用する検出器材料およびその厚さによって異なる。テルル化カドミウムおよびテルル化カドミウム亜鉛などの高原子番号センサー材料は、単位厚さあたりの吸収効率が高く、ゆえに、PCDで最も一般的に使用されている検出器材料である。
【0015】
通常、電子ノイズは、低振幅信号として検出されるため、PCDでは、典型的なX線スペクトルの下端に位置するエネルギーを有する光子として解釈される。したがって、低エネルギー閾値を電子ノイズ信号振幅に関連するエネルギーレベル(例えば、25keV)よりもわずかに高く設定することによって、測定されるカウントデータから電子ノイズを容易に除外することができる。この閾値よりも低いエネルギーレベルの信号は、目的の対象物のイメージングを通して伝播する主要な光子によるものである可能性が非常に低いため、通常、臨床業務にきわめて重要な意味のある情報は含まれていない。しかし、電子ノイズは、その信号振幅が検出された光子の信号振幅に加わり、それにより、検出された光子のエネルギーが人為的に増加されるため、検出されたエネルギースペクトルへなんらかの影響を与える可能性がある。
【0016】
PCDは、直接変換技術を使用するため、検出器ピクセルは、機械的分離(隔壁)を伴わずに設計することができ、それにより、幾何学的線量効率が本質的に改善される。PCCTの特定の一態様は、高空間分解能画像およびマルチエネルギー画像の同時取得を可能にするその能力である。
【0017】
PCDは、特定のエネルギーレベルを超える個々の光子の数をカウントする。所与のX線光子に対する、アノード110での電荷収集によって生じる信号のパルス高は、光子のエネルギーに比例する。したがって、PCDからの電子信号112は、個々の検出された光子のそれぞれに関するエネルギー情報を含んでいる。PCDからの出力信号は、複数の電子比較器、およびカウンタ122、124、および126によって処理されるが、この際、比較器およびカウンタの数は、PCDおよびその特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)の電子設計によって異なる。検出された信号のそれぞれは、エネルギー閾値と呼ばれる特定の光子エネルギーレベル(132、134および136)を反映するように較正された電圧と比較される。検出された光子のエネルギーレベルがカウンタに関連付けられたエネルギー閾値を上回る場合、光子のカウントは1つ増える。このようにして、特定のエネルギーレベル以上のエネルギーを有する光子の数が測定される。このプロセスは、PCDにおける主要な要素である非常に高速なASICによって実現される。
【0018】
低エネルギー閾値より高い別のエネルギー閾値を導入することによって、PCDの出力をいくつかの個別のエネルギービンに分けることができる。したがって、入射X線スペクトルのヒストグラムを各ピクセルが測定するように、記録された光子のそれぞれは、そのエネルギーに応じて特定のビンに割り当てられる。このような「オープン」ビン間の(閾値から無限大までの)差が計算され、その結果、検出器は、「クローズド」ビン(低い閾値から高い閾値までの)の光子の数を報告する。3つ以上のエネルギービンを使用することで、一方では高密度の骨および石灰化と、他方では造影剤として使用される重い元素(一般にヨウ素またはガドリニウム)との識別が可能となる。検出器は、検出器内部へのエネルギービンに換算して、その測定値を出力することにも留意されたい。較正プロセスには、これらのビンと、測定される実際の絶対エネルギーとの対応関係を構築することが必要である。
【0019】
本開示のPCCTの較正システムおよび方法は、放射性物質の存在または金属箔の設置および操作を必要としない。開示する実施形態は、所定のX線管電圧での全てのX線スペクトルの入力値を有するニューラルネットワークを使用して、エネルギー較正を行う較正システムおよび方法である。較正システムおよび方法は、同位元素放射源(Am241およびCo57など)を使用する較正の代わりに、ニューラルネットワークによって処理されるX線管スペクトルに基づいて較正パラメータの生成を行うものである。較正システムおよび方法は、既知のX線管電圧でエネルギースキャンを実行する。一実施形態では、エネルギースキャンの際に、ある範囲の値をカウンタの閾値が段階的にとるようにすることで、多数の狭間隔エネルギービンを含むスペクトルが得られ、これにより、低電力生産の電子機器で利用可能な典型的な少数のワイドエネルギービンよりも優れた分解能が提供される。本発明者らは、狭間隔エネルギービンを伴うこのタイプのエネルギースキャンを、フル分解能エネルギースキャンと称する。
【0020】
図5のX線エネルギースペクトル520は、フル分解能スキャンの出力物の例である。一実施形態では、方法は、異なるX線管電圧でいくつかの(少なくとも2つの)エネルギースキャンを実行して、いくつかの較正ポイントを得る。この方法を行うために、ニューラルネットワークは、スペクトルを分析し、検出器のエネルギービンと実際のガンマエネルギーとの対応関係を設定するように訓練される。一実施形態では、比較は、線形のものが示されるため、この対応関係は、ゲインパラメータおよびオフセットパラメータの形態をとる場合がある。次に、訓練されるニューラルネットワークは、ピクセルごとにゲインおよびオフセットのうち1つ、またはゲインおよびオフセットを計算するのに使用される同位元素ピーク位置を出力する。方法は、限られた数のエネルギービン(例えば、6個)からデータを受け取り、標準的なPCCTエネルギービニングスキーマとデータ取得手順を使用するように拡張することができる。
【0021】
図2は、本開示の例示的態様による、最初のPCCTエネルギー較正を行うための方法のフロー図である。PCCTエネルギー較正は、ニューラルネットワークを使用して行われる。ニューラルネットワーク向けの訓練データは、訓練データ収集段階210の間に収集される。好ましい実施形態では、訓練データセットは、同じCTを使用して同じピクセルに対して取得されたスペクトルセットで構成される、(a)同位元素データと(b)X線管データとの多数の一致したセットで構成される必要がある。同位元素データを取得するためのCT電子機器セットアップは、ターゲットの訓練出力物(例えば、同位元素ピーク位置、または同様な意味合いで、ゲインおよびオフセット)を高精度で特定することができるように、フル分解能エネルギースキャンを行うことができるものが好ましい。CT電子機器は、製造工場またはR&D研究室のいずれかに設置することができる。電子機器セットアップは、PCCTスキャナの一部である必要はない。
【0022】
一実施形態では、訓練データは、ステップS202で特定され、2つ以上の異なる同位元素に基づいた較正定数(同位元素データ212)を含む。代替的な一実施形態では、訓練データは、Kエッジ吸収またはKエッジ蛍光に対応する2つ以上のエネルギー特徴を含む場合がある。
【0023】
ステップS204で、スペクトルスキャンが、いくつかの値のX線管電圧を用いて行われ、X線管904を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルであるX線データ214が得られる。特に、スペクトルスキャンは、2つの最小値のX線管電圧を用いてCTスキャナセットアップを使用して行われる。スペクトルスキャンは、例えば、全エネルギー範囲にわたって約6ビンで行われる粗いビニングとして、公称エネルギービンで行われる。すなわち、ニューラルネットワークに入力される第1のエネルギースペクトルは、6個以下のエネルギービンを含む。スペクトルスキャンは、粗いビンで直接取得されるか、または粗いビンに後処理される。
【0024】
ステップS220で、ニューラルネットワーク224は、訓練データを使用して訓練される。最初のデータ収集からの同位元素データ212およびPCCTを使用した最初のスペクトルスキャンからのX線データ214は、ニューラルネットワーク224を訓練するのに使用され、ニューラルネットワークへの入力値としてX線データ214を使用してターゲットの出力較正定数が回収される。
【0025】
ニューラルネットワーク224が好ましいエラー率および精度になるように訓練されると、その訓練済みニューラルネットワークは、較正段階230で使用される。較正段階230では、実際の患者に適用されるPCCTスキャナが使用される。PCCTスキャナは、フル分解能エネルギースキャンを行う必要はない。フル分解能スキャニングの機能は、較正操作には必要ではない。その代わりに、較正スキャンの目的のために、スキャナ構成は、訓練データ収集段階210の間に使用されたCTスキャナセットアップを厳密に再現していることが好ましい。
【0026】
ステップS232で、データが較正用に収集される。スペクトルスキャンは、2つの最小値のX線管電圧を用いてPCCTスキャナを使用して行われる。スペクトルスキャンは、全エネルギー範囲にわたって約6ビンでの粗いビニングである公称エネルギービンで行われ、かつ較正データ234を特定するために用いられる。CTスキャナは、最終用途医療環境におけるスペクトルスキャンのために用いられる。較正用のPCCTスキャナの構成は、医療環境向けのCTスキャナセットアップを再現している必要がある。可能な限り、X線管と検出器との間のウェッジの不在、および両方のセットアップにおいて同じタイプのX線管を使用することを含むがこれらに限定されない。
【0027】
ステップS236で、訓練データ向けに2つの同位元素が使用される場合、訓練済みニューラルネットワークは、PCCTスキャナから得られた較正データ234を使用してピクセルごとのゲインパラメータおよびオフセットパラメータを特定するか、またはゲインおよびオフセットが計算されるピーク位置を特定することができる。
【0028】
ステップS242で、ゲインおよびオフセットパラメータは、ピクセルごとに使用され、PCCTイメージングの操作に組み込まれる。特に、PCCTイメージングは、ステップS242で、較正に基づいて行われる。
【0029】
図3は、PCCTイメージングステップS242のフロー図であり、これは、事前に特定された較正パラメータを使用して未処理のPCCTデータ312にエネルギー補正を適用するエネルギー較正処理S314、および補正後のPCCTデータからCT画像320を再構成するステップS318を含む。一実施形態では、ステップS236は、ステップS314よりも少ない頻度で行われる。例えば、非限定的な一実装形態では、ステップS236は、異なるCTスキャナごとに1回行われ、結果として生じるエネルギー較正パラメータは、そのCTスキャナによっていくつかの異なるスキャンで使用される場合がある。
【0030】
PCCTイメージングのステップS242では、未処理のPCCTデータ312は、エネルギー較正ステップS236の結果物を使用してステップS314で補正される。次に、ステップS318で、CT画像320は、画像再構成処理を用いて、補正後のエネルギーデータから再構成される。
【0031】
一部の実施形態では、訓練データは、訓練データに3つ以上の放射性同位元素ピークを含むように拡張される。一実施形態では、3つ以上のパラメータを含む較正関数が使用され、非線形較正関数への適用が可能となる。
【0032】
図4は、本開示の例示的態様による、再較正を行うための方法のフロー図である。開示する較正方法は、PCCT検出器の最初の較正に限定されず、検出器パラメータを更新するために定期的に行うことができる。
【0033】
再較正方法は、ステップS402において、スペクトルスキャンを行うことと、いくつかの異なる値のX線管電圧でPCCT検出器を用いて検出データを得ることとを含む。
【0034】
ステップS404では、検出データは、データを分析するためにニューラルネットワークによって使用される。
【0035】
ニューラルネットワークは、S406で、ピクセルごとのゲインおよびオフセットパラメータを特定する。新たに得られたゲインおよびオフセットパラメータ値は、過去のゲインおよびオフセットパラメータ値と比較され、特に、その差が所定の差を上回る場合に、ゲインおよびオフセットパラメータ値を更新するために使用される。
【0036】
図5は、X線管の特定の電圧でのX線エネルギースペクトルを作成するためのシステムを示している。フォトンカウンティングコンピュータ断層撮影(PCCT)検出器502は、CTスキャナのX線管からX線を受け取る。CTスキャナは、ガントリと呼ばれるドーナツ状の構造物の円形開口部の周囲を回転する電動のX線源504を使用する。CTスキャン中、X線管は、回転し、X線514の狭ビームを放射する。CTスキャナは、X線源に正対して配置された光子カウント検出器502を使用する。X線514は、光子カウント検出器502によって検出され、対応する信号が、処理回路に伝送される。処理回路は、X線管の特定の電圧でのX線エネルギースペクトル520を作成する。
【0037】
図6は、異なるX線管電圧でのスペクトルの様々な比率のグラフ図である。異なるX線管電圧レベルでのX線放射線は、シャープな特徴を示さないまま、異なるスペクトルを示し、それにより、スペクトルの特徴を容易に識別することができ、かつ従来の分析方法を用いる較正に使用できる。典型的には、X線管スペクトルの範囲は、全ての操作範囲(すなわち、低エネルギーからX線管の最大通常操作kVpまで、またはわずかにそれを超えた範囲)をカバーすることになる。一実施形態では、異なるスペクトル間の形状の差は、機械学習ツールを使用して識別され、その形状の差は、較正に使用される。最終的に、この形状の差は、検出器出力のチャンネルと、keVのX線エネルギーとの間の対応関係を構築するのに使用される。X線管放射のフィルタリングを通して加えられる特性構造を有する追加のエネルギースペクトル(例えば、Kエッジ材料または他のフィルタを用いた送信スペクトル)が、同様に含まれる場合がある。
【0038】
一部の実施形態では、ニューラルネットワークの性能を向上させるために、データ前処理が行われる。図7は、測定したスペクトルを平滑化するデータ前処理を示す図である。測定したスペクトルは、ニューラルネットワークの性能を低下させる可能性のある人工的特徴およびノイズを除去するのに十分な幅を有するガウシアンを用いて畳み込みを行うことによって平滑化することができる。
【0039】
図8は、本開示の例示的態様による、PCCTエネルギー較正向けのニューラルネットワークのアーキテクチャ図である。一実施形態では、ニューラルネットワーク224は、単一の隠れ層802および線形出力層804を含む。一非限定的例では、ネットワークへの入力値は、110kVpスペクトル、145kVpスペクトル、または2つのスペクトルの比率からの複数のサンプルである。しかし、他のkeVおよび/または異なる取得時間での追加のスペクトルも、訓練データに含むことができることを理解すべきである。ニューラルネットワークの訓練中、ターゲットの出力物は、2つの同位元素の測定されたピーク位置、好ましくはAm241およびCo57のピークのものである。
【0040】
PCCTエネルギー較正用のニューラルネットワークは、較正中の放射性物質の使用を必要とすることなくPCCT検出器の較正に十分な較正パラメータを特定する。しかし、ニューラルネットワークは、線形関数を特定することに限定されない。訓練データ中の異なる材料のKエッジピークの3つ以上の放射性同位元素ピークまたは位置を用いて多層型のニューラルネットワークを訓練して、非線形モデルのパラメータを特定することができる。較正関数は、非線形関数に対する3つ以上のパラメータを含む場合がある。
【0041】
一実施形態では、訓練後、ニューラルネットワークの出力物は、ピクセルごとにゲインおよびオフセットを特定するために使用される。ゲインおよびオフセットは、PCCT検出器のエネルギー較正に使用される。ニューラルネットワークの性能は、対応するピクセルごとに適合Am241およびCo57ピーク位置にゲインおよびオフセットを適用することと、推定したAm241およびCo57ピーク位置(keV)のヒストグラムを生成することと、によって、評価される。すなわち、複数のチャンネルごとに、較正パラメータは、測定されたエネルギーを較正されたエネルギーに関連付ける線形関数を定義するゲインおよびオフセットである。
【0042】
CTスキャニングシステムの他の構成要素も、ニューラルネットワークの性能に影響を与える場合がある。他の構成要素の影響は、ニューラルネットワークを洗練するのに使用することができる。実施形態は、光子カウント検出器502の特定の機械的またはスペクトル特徴に基づいて、ニューラルネットワークを訓練してもよい。例えば、図9は、ボウタイフィルタを装着したCTスキャニングシステムを示している。ボウタイフィルタ932は、X線源904(管)とファントム908(または患者)の間に設置され、光子カウント検出器502の表面全体にわたってX線強度を均一にすることができるCTスキャニングシステムの構成要素である。しかし、X線強度を修正することに加えて、ボウタイフィルタ932は、X線スペクトルも修正する。特に、ボウタイフィルタには、ボウタイ材料の吸収がエネルギーによって変化するため、ビームハードニング効果がある。
【0043】
図9は、「ヒール効果」を説明するために使用することができる。異なる角度でX線源によって放射されるX線は、異なる量のアノード材料を通過するため、異なる量のフィルタリングを受け、これにより、X線強度対角度に大きな影響を与え、また、これは「ヒール効果」と呼ばれる。これらの異なる量のフィルタリングはまた、X線のスペクトルコンテンツにも影響を与えるが、これがビームハードニング効果である。
【0044】
スペクトルヒール効果によるボウタイフィルタおよびスペクトルフィルタリングの使用は、検出器の表面全体にわたるX線スペクトルにおける不一致およびばらつきをもたらす可能性がある。種々の手法を使用して、これらの効果を軽減することができる。一手法は、X線放射のフィールドの範囲内の(x,y)ピクセル位置を表す追加の入力値をニューラルネットワークモデルに加えることである。例えば、全体のCT検出器アレイのピクセルの行および列番号が、ニューラルネットワークへの入力値として追加されてよい。別の手法は、ボウタイフィルタの厚さおよび材料、例えば、厚さに関してはmmの入力値、および材料に関しては電荷数を表す、追加の入力値をニューラルネットワークモデルに含むことである。さらなる手法は、画像視野のピクセルの異なる空間領域に関して異なるニューラルネットワークを訓練することである。この手法では、CTシステムの幾何学的対称軸によって、異なるニューラルネットワーク間に対称性を生じさせ、かつ、これを用いて、必要とされるネットワークの総数を減らすことができる。
【0045】
ニューラルネットワークモデルの展開の初期期間中、複数の全てのCT検出器から大量のデータが得られるまで、少数の検出器モジュールをX線管放射フィールドの範囲内の既知の位置に移動させることによって、訓練データを最初に生成することができる。これは、例えば、x-y移動ステージを用いて、またはX線管放射フィールドの範囲内に複数の固定位置にモジュールを設置させる固定治具を構築することによって行うことができる。このようにして、少数のモジュールを使用して、ボウタイおよびヒール効果から予測されるばらつきの範囲をカバーするデータを取得することができる。訓練データの取得中、モジュールの位置は、記録されて、後に、モジュールのピクセルごとに、全体の将来的なCT検出器アレイ内の絶対位置に変換される場合がある。訓練データを生成するためにこの方法を使用する場合、総幾何学的訓練範囲は、最終的なCT検出器の予測される幾何学的範囲を超えて拡張されることが望ましい。この拡張された訓練範囲により、ニューラルネットワーク応答の堅固性を向上させることができる。すなわち、実施形態は、第1のエネルギースペクトルを拡張して訓練データの量を増やすことと、拡張された訓練データを使用して、ニューラルネットワークを訓練することと、をさらに含んでもよい。
【0046】
CTスキャニングシステムが複数のボウタイまたはスペクトルフィルタを含む場合、他の手法を行うことができる。一手法は、ボウタイ/フィルタの組み合わせごとに異なるニューラルネットワークを訓練することである。別の手法としては、ボウタイおよびスペクトルフィルタ選択を表すニューラルネットワーク入力値を加えることである。例えば、1または2の値の入力値が、2つの選択ボウタイ選択肢に加えられてよく、かつ例えば、1、2、または3の値の入力値が、3つの選択フィルタ選択肢に加えられてよい。さらなる手法は、ボウタイフィルタの厚さおよび材料(例えば、厚さに関してはmm、および材料に関しては電荷数)を表す追加の入力値をニューラルネットワークに加えることである。次に、ニューラルネットワークは、おのずと異なるボウタイフィルタに一般化される。
【0047】
図10は、検出器に対するX線のスペクトルコンテンツの空間的ばらつきを示している。一実施形態では、訓練データ向けの全領域1004は、より堅固なニューラルネットワークモデルを作成するために、意図的に検出器領域1002全体よりも大きくされる。実施形態では、チャンネルの位置をニューラルネットワークにさらに入力することによって空間的ばらつきに基づいてニューラルネットワークを訓練してもよい。
【0048】
図11は、検出器に対するX線のスペクトルコンテンツの空間的ばらつきを示している。一実施形態では、固定治具により、X線管放射フィールドの範囲内に複数の固定反復可能位置に検出器モジュールが設置される。特に、検出器モジュール1104は、固定治具によって既知の位置1106にガイドされ得、それにより設置が容易になる。
【0049】
図12は、ニューラルネットワークモデルを訓練するために使用される訓練データの量を増やすデータ拡張を示している。ニューラルネットワークが現在利用可能なデータの範囲から多少外れた新しい入力データを良好に一般化する確率を高めるために、既存の訓練データが拡張され得る。訓練データは、測定されたAm241およびCo57ピーク位置を使用して拡張することができる。測定されたピーク位置を使用して、利用可能なX線スペクトルのそれぞれは、ピクセルごとに較正される。訓練データは、元の分布で見られるものよりも広い範囲をカバーする新しいランダムなAm241およびCo57ピーク位置を、ピクセルごとに複数回生成することによって拡張することがでる。この拡張手法では、較正方程式が反転され、結果として生じる較正されたスペクトルに線形変換が適用され、新しいスペクトルが生成される。さらなる拡張手法では、変換されたスペクトルは、新しい入力として使用され得る。この場合、対応するランダムに選択されたピーク位置は、新しいターゲットの出力物として使用され得る。さらなる手法では、元の訓練データのみから、テストデータならびにバリデーションデータが取得される。
【0050】
一実施形態では、エネルギー較正は、測定されたAm241ピーク位置および測定されたCo57ピーク位置にフィットする線形方程式に基づく。図13は、エネルギー対ビン数の非限定的例の線形関係のグラフ図である。図13に示す線形関係は、60keVのAm241ピーク位置および122keVのCo57ピーク位置に関するものである。他の同位元素ピークを適用することも可能であるが、基本的な線形関係は維持されることを理解する必要がある。線形関係は、単一のピクセルに対するゲインおよびオフセットを特定するために使用される。線形関係は、エネルギー(keV)=ゲイン*ビン数+オフセットであり、ここで、オフセットは、エネルギー切片であり、ゲインは、Am241およびCo57ピーク位置を通る直線の勾配である。上記の式では、線形関係は、ゲインおよびオフセットによって明確にパラメータ化され、これは、ゲインを勾配、かつ切片をオフセットとする、勾配-切片形式と呼ばれる場合がある。あるいは、同じ線形表現が、ポイント-勾配形式でパラメータ化され得、この際、1つのポイント(例えば、Am241もしくはCo57ピーク位置、または別の選択されるエネルギーの位置)および勾配(例えば、ゲイン)が特定されるか、または、同じ線形表現が、2つのポイント形式でパラメータ化され得、この際、2つのポイント(例えば、Am241およびCo57ピーク位置、もしくは2つの他の選択されたエネルギーの位置)が特定される。本開示の目的で、このようなパラメータの任意の組み合わせは、較正パラメータと呼ばれる場合がある。一実施形態では、エネルギー較正は、線形方程式に基づく。
【0051】
図14Aおよび14Bは、ピーク位置を特定する際に行われる前処理を説明するグラフ図である。前処理は、同位元素、例えば、Am241およびCo57ごとに、サンプルポイントからの曲線を生成するように補間を行うことを含む場合がある。補間を行った後に、各同位元素のピーク位置は、ピークに近い領域を、ガウシアンと線形バックグラウンドとの和に適合することによって特定することができる。
【0052】
図15は、X線スペクトルの平滑化の前処理工程を示している。X線スペクトルは、ガウシアン、例えば、4ビンの半値全幅(full width at half maximum:FWHM)を有するガウシアンを用いて畳み込みを行うことによって、平滑化するようにさらに処理することができる。
【0053】
前処理データは、ニューラルネットワーク向けの訓練データとして使用される。ニューラルネットワーク向けの入力データは、訓練、バリデーション、およびテストデータとして使用される場合がある。入力データは、同位元素のX線スペクトルから適宜選択されるサンプルである場合がある。図16Aに示すように、入力データは、例えば、110kVpスペクトルまたは145kVpスペクトルからのサンプルである場合がある。一実施形態では、図16Bに示すように、入力データは、例えば、110kVp対145kVpの2つのスペクトルの比率である。一実施形態では、ニューラルネットワークを訓練するためのターゲットの出力物は、同位元素ピークの測定された(ビン数内の)ピーク位置、例えば、前処理工程で推定されたAm241およびCo57ピークの測定されたピーク位置である。訓練済みニューラルネットワークからの出力は、検出器のピクセルごとに、ゲインおよびオフセットを特定するために使用される。
【0054】
一実施形態では、ニューラルネットワークモデルは、ニューラルネットワーク訓練向けのライブラリ関数、例えば、MATLAB(登録商標) Fitnet関数などを使用して作成される。各同位元素スペクトルのデータは、訓練、バリデーション、およびテストセットに分けられる。ベイズ正則化訓練アルゴリズムが使用される。一定のエポック数でバリデーション結果が改善されない場合、訓練は終了する。ニューラルネットワークの性能は、対応するピクセルごとに適合Am241およびCo57ピーク位置に「ゲイン」および「オフセット」を適用することと、推定したAm241およびCo57ピーク位置(keV)のヒストグラムを生成することと、によって、評価される。
【0055】
図17Aおよび17Bは、それぞれ、Am241およびCo57の較正されたピーク位置のヒストグラムチャート図である。一実施形態では、同位元素ごとに、個別のニューラルネットワークが訓練される。図17Aは、Am241ニューラルネットワークの(較正された)バリデーションおよびテストピクセルのヒストグラムである。図17Bは、Co57ニューラルネットワークの(較正された)バリデーションおよびテストピクセルのヒストグラムである。
【0056】
図18Aおよび18Bは、わずかに異なる検出器応答を示すピクセルの見かけのクラスを示すグラフ図である(詳細については図12および対応する説明を参照されたい)。図18Aは、2つのクラスのピクセルを示すAm241およびCo57ピーク位置のグラフ図である。図18Bは、較正されたX線スペクトルのグラフ図である。図18Bに示すように、測定されたAm241およびCo57ピーク位置を用いた較正後、2つのクラスの平均X線スペクトルも、異なるものとなる。
【0057】
一実施形態では、分類器ニューラルネットワークが、入力X線スペクトルデータに基づいて各ピクセルのクラスを識別するフロントエンドとして加えられる場合がある。2つの別々のニューラルネットワークが、クラスごとに訓練される場合がある。分類器ニューラルネットワークは、ピクセルが2つのクラスのどちらに属するかを特定するように訓練される。一実施形態では、入力X線データは、まず分類器ネットワークに入力され、各ピクセルが属するクラスが特定され、次いで、X線データからAm241およびCo57ピーク位置を特定するために使用されるニューラルネットワークが、ピクセルごとに、特定されたピクセルクラスに基づいて選択される。すなわち、実施形態は、検出器応答をクラス分けする分類器ニューラルネットワークを訓練することと、前記分類器ニューラルネットワークによりクラス分けされたクラスごとに、X線データからAm241およびCo57ピーク位置を特定するために使用される別々のニューラルネットワークを訓練することを含んでもよい。
【0058】
CTスキャナの特定の製造バージョンに応じて、CTスキャナビニングが正確に一致するように、異なるビンサイズ(より幅が広い、またはより幅が狭い)が、ネットワークを訓練するために使用される。図19Aおよび19Bは、エネルギービン、すなわち、対象の全エネルギースペクトルをカバーする6つのエネルギービンを用いる特定の一実施形態のチャート図である。図19Aは、平均スペクトルのビニングを示しており、一方で、図19Bは、2つのX線スペクトル110keV/145keVの比率のビニングを示している。
【0059】
一実施形態では、ビンは、[1,39],[40,79],[80,119],[120,159],[160,199]および[>=200]keVの6つのワイドエネルギービンである。
【0060】
図20Aおよび20Bは、入力データをワイドビニングデータとして前処理した結果のヒストグラムチャート図である。図20Aおよび20Bのヒストグラムチャート図は、Am241スペクトル結果が、Co57スペクトル結果よりも劣化していることを示している。異なるワイドビン幅が較正中に使用され得る場合、不均一な幅(低エネルギーでは狭い幅)により結果が改善する可能性がある。一実施形態では、最初の反復で全てのピクセルで同一の全ビン画定設定で開始し、続いて、次の反復で異なる設定に(最初の反復からのニューラルネットワーク出力物に基づいて、任意の単位ではなく各ピクセルのビンの境界を類似のkeVに設定することを目的とした設定で、2つの異なる反復で使用される2つの異なるニューラルネットワークを用いて)変更する、反復手法が使用される場合がある。X線kVpの異なる選択(低kVpスペクトルに対してはより低い値)もまた、Am241の60keVの結果(およびCo57の122keVの結果)を改善することを助力することができる。すなわち、実施形態では、第1のエネルギースペクトルを取得するステップおよび較正パラメータを推定/出力するステップを反復して、較正パラメータの変化を検出し、較正パラメータの変化および確立された許容差に基づいて、検出器を再較正してもよい。
【0061】
図21は、本開示の例示的態様による、機械学習訓練および推論方法を実装するための例示的なコンピュータシステム2100を示すブロック図である。コンピュータシステムは、例えば、Ubuntu Linux(登録商標) OS、Windows(登録商標) Server、Unix OS(登録商標)のバージョン、またはMac OS(登録商標) Serverのサーバオペレーティングシステムを実行するAIワークステーションとすることができる。コンピュータシステム2100は、複数のコアを有する1つまたは複数の中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)2150を含む。コンピュータシステム2100は、複数のGPUを有し、各GPUがGPUメモリを有するグラフィックボード2112を含む場合がある。グラフィックボード2112は、開示する機械学習法の数学的演算のいくつかを実施する。他の実施形態では、コンピュータシステム2100は、機械学習エンジンを含む場合がある。機械学習エンジンは、開示する機械学習法の数学的演算のいくつかを実施する。コンピュータシステム2100は、典型的には中央演算処理装置2150およびGPU2112によって実行されるソフトウェアを収容するランダムアクセスメモリRAMであるメインメモリ2102、ならびにデータおよびソフトウェアアプリケーションを格納する不揮発性の記憶装置2104を含む。I/Oバスインタフェース2110、例えば、キーボード、タッチパッド、マウスなどの入力/周辺装置2118、ディスプレイアダプタ2116および1つまたは複数のディスプレイ2108、ならびにネットワーク99を通して有線または無線通信を可能にするネットワークコントローラ2106を含む、コンピュータシステム2100と対話するためのいくつかのインタフェースが提供されてもよい。インタフェース、メモリおよびプロセッサは、システムバス2126を通じて通信することができる。コンピュータシステム2100は電源2121を含み、その電源は冗長電源である場合がある。
【0062】
一部の実施形態では、コンピュータシステム2100は、CPUおよびその中でGPUが複数のコアを有するグラフィックカードを含む。
【0063】
以上の実施形態に関し、発明の一側面および選択的な特徴として以下の付記を開示する。
【0064】
(付記1)
本発明の一つの側面において提供される検出器較正方法は、
X線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、
検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルをニューラルネットワークに入力して較正パラメータを出力し、
前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する。
【0065】
(付記2)
前記X線管の異なる電圧で、少なくとも2つのフル分解能エネルギースペクトルスキャンを取得し、前記少なくとも2つのフル分解能エネルギースペクトルスキャンを前記ニューラルネットワークに入力してもよい。
【0066】
(付記3)
前記ニューラルネットワークに入力される前記第1のエネルギースペクトルは、6個以下のエネルギービンを含んでもよい。
【0067】
(付記4)
前記検出器の特定の機械的またはスペクトル特徴に基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含んでもよい。
【0068】
(付記5)
検出器応答をクラス分けする分類器ニューラルネットワークと、前記分類器ニューラルネットワークによりクラス分けされたクラスごとの別々の前記ニューラルネットワークとを訓練することを更に含んでもよい。
【0069】
(付記6)
チャンネルの位置を前記ニューラルネットワークにさらに入力することによって空間的ばらつきに基づいて前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含んでもよい。
【0070】
(付記7)
ボウタイフィルタによるボウタイ効果に基づいて前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含み、前記第1のエネルギースペクトルのばらつきは、前記ボウタイフィルタの厚さおよび材料を前記ニューラルネットワークにさらに入力することによって対処されてもよい。
【0071】
(付記8)
前記取得するステップおよび前記出力するステップを反復して、較正パラメータの変化を検出し、前記較正パラメータの変化および確立された許容差に基づいて、前記検出器を再較正することをさらに含んでもよい。
【0072】
(付記9)
前記第1のエネルギースペクトルを拡張して訓練データの量を増やすことと、
前記拡張された訓練データを使用して、前記ニューラルネットワークを訓練することと、をさらに含んでもよい。
【0073】
(付記10)
前記複数のチャンネルごとに、前記較正パラメータは、測定されたエネルギーを較正されたエネルギーに関連付ける線形関数を定義するゲインおよびオフセットであってもよい。
【0074】
(付記11)
同位元素ピーク位置、Kエッジ吸収特徴、およびKエッジ放射ピークから選択された2つ以上の測定値を使用して特定された訓練データを使用して、前記較正パラメータを出力するように前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含んでもよい。
【0075】
(付記12)
前記第1のエネルギースペクトルを取得するときに使用されるボウタイフィルタのタイプに基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含んでもよい。
【0076】
(付記13)
前記ニューラルネットワークは、前記第1のエネルギースペクトルを取得するときに使用されるボウタイフィルタのタイプを示す入力値を有してもよい。
【0077】
(付記14)
前記ニューラルネットワークは、前記第1のエネルギースペクトルを取得するときに使用されるボウタイフィルタの厚さおよび材料を示す入力値を有してもよい。
【0078】
(付記15)
前記第1のエネルギースペクトルを取得するときに使用されるスペクトルフィルタのタイプに基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練することをさらに含んでもよい。
【0079】
(付記16)
本発明の一つの側面において提供される検出器較正方法は、放射線源としてX線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、検出器の対応する異なる空間領域に関して複数の異なるニューラルネットワークを訓練し、前記検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルを前記複数の異なるニューラルネットワークに入力して前記異なる空間領域に関する較正パラメータを出力し、前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する。
【0080】
(付記17)
本発明の一つの側面において提供される検出器較正装置は、
X線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、
検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルをニューラルネットワークに入力して較正パラメータを出力し、
前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する
処理回路を含む。
【0081】
(付記18)
前記処理回路は、前記X線管の異なる電圧での少なくとも2つのフル分解能エネルギースペクトルスキャンを取得するようにさらに構成されてもよい。
【0082】
(付記19)
前記処理回路は、6個以下のエネルギービンの前記第1のエネルギースペクトルを取得するようにさらに構成されてもよい。
【0083】
(付記20)
前記処理回路は、前記検出器の特定の機械的またはスペクトル特徴に基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練するようにさらに構成されてもよい。
【0084】
(付記21)
前記処理回路は、チャンネルの位置を前記ニューラルネットワークにさらに入力することによって空間的ばらつきに基づいて前記ニューラルネットワークを訓練するようにさらに構成されてもよい。
【0085】
(付記22)
前記処理回路は、ボウタイフィルタによるボウタイ効果に基づいて前記ニューラルネットワークを訓練するようにさらに構成され、前記第1のエネルギースペクトルのばらつきは、前記ボウタイフィルタの厚さおよび材料を前記ニューラルネットワークにさらに入力することによって対処されてもよい。
【0086】
(付記23)
前記処理回路は、較正パラメータの変化に基づいて、前記検出器を再較正するようにさらに構成されてもよい。
【0087】
(付記24)
前記処理回路は、
前記第1のエネルギースペクトルを強化して訓練データの量を増やし、
前記強化された訓練データを使用して、前記ニューラルネットワークを訓練するようにさらに構成されてもよい。
【0088】
(付記25)
前記処理回路は、前記複数のチャンネルごとに、測定されたエネルギーを較正されたエネルギーに関連付ける線形関数を定義する前記較正パラメータとして、ゲインおよびオフセットを推定するように構成されてもよい。
【0089】
(付記26)
本発明の一つの側面において提供されるX線CT装置は、
X線管と、検出器と、処理回路とを含み、前記処理回路は、前記X線管を使用するスキャンから得られた第1のエネルギースペクトルを取得し、検出器の複数のチャンネルごとに、前記第1のエネルギースペクトルをニューラルネットワークに入力して較正パラメータを出力し、前記較正パラメータを使用して前記複数のチャンネルのそれぞれを較正する処理回路とを含む。
【0090】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、検出器の較正を行うことができる。
【0091】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0092】
2100 コンピュータシステム
2102 メインメモリ
2104 記憶装置
2108 ディスプレイ
2112 グラフィックボード
2116 ディスプレイアダプタ
2118 入力/周辺装置
2150 中央演算処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20A
図20B
図21