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特開2024-98976抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法
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  • 特開-抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法 図1
  • 特開-抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098976
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/16 20060101AFI20240717BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240717BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B23K11/16 311
B23K11/11
B23K11/24 394
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002831
(22)【出願日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2023002713
(32)【優先日】2023-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】冨田 海
(72)【発明者】
【氏名】谷口 公一
(72)【発明者】
【氏名】牧水 洋一
(72)【発明者】
【氏名】田中 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 林太
(72)【発明者】
【氏名】西池 遼人
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AA03
4E165AB02
4E165BB02
4E165BB12
4E165EA12
(57)【要約】
【課題】金属めっき層を有する表面処理鋼板を重ね合わせた板組の抵抗スポット溶接において、適切な溶接条件を決定する方法を提供する。
【解決手段】抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法は、溶融部5における板組Cの板面に沿う方向における直径をナゲット径dnとし、吐き出し部7の外周の直径を吐き出し径dnとし、ナゲット径dnの目標値を狙い径とした場合、予備試験としてスポット溶接を行った場合における溶接条件の内、ナゲット径dnが、狙い径の4分の1以上且つ2分の3以下、且つ、吐き出し径dnをナゲット径dnで除した値として求めた判定指数が1.1以上3未満となる溶接条件を、適正なスポット溶接条件と決定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属めっき層を有する第一鋼板と、前記金属めっき層に対向させて重ね合わせた第二鋼板とを含む板組を一対の電極で挟み込んで加圧しながら前記電極間に通電し、前記第一鋼板と前記第二鋼板との間に溶融部を形成して前記板組を接合し、
前記溶融部からみて前記板組の板面に沿う方向における外側領域であって、前記第一鋼板と前記第二鋼板との間に、前記金属めっき層の成分を吐き出させて、吐き出し部を形成する抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法であって、
前記溶融部における、前記板組の板面に沿う方向における直径をナゲット径(dn)[mm]とし、前記吐き出し部の外周の直径を吐き出し径(dc)[mm]とし、前記ナゲット径(dn)の目標値を狙い径(D)[mm]とした場合、
予備試験としてスポット溶接を行った場合における溶接条件の内、
前記ナゲット径(dn)が、前記狙い径(D)の4分の1以上且つ2分の3以下、且つ、前記吐き出し径(dc)を前記ナゲット径(dn)で除した値として求めた判定指数(k)が1.1以上3未満となる溶接条件を、適正なスポット溶接条件と決定する、抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項2】
前記狙い径(D)が、前記第一鋼板と前記第二鋼板とのうち、厚みの薄い方の鋼板の板厚[mm]の平方根の4倍以上である請求項1に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項3】
前記金属めっき層が、アルミニウム又は亜鉛を主成分とする請求項1又は2に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項4】
前記金属めっき層が、アルミニウム及び亜鉛を、合計、85%以上99.5%以下含む請求項3に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項5】
前記金属めっき層が、亜鉛、マグネシウム及びスズのうち、少なくとも一つを、合計、0.5%以上15%以下含む請求項4に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項6】
前記予備試験では、
前記電極間の加圧力を第一加圧力とし、且つ、前記電極間に通電させる時間を第一通電時間として、溶接電流値を違えた継手サンプルを複数個作製してそれぞれの継手サンプルの前記ナゲット径(dn)を測定し、これにより前記溶接電流値と前記ナゲット径(dn)との関係であるウェルドロブを求め、
前記ウェルドロブに基づいて、前記ナゲット径(dn)が、前記第一鋼板と前記第二鋼板とのうち、厚みの薄い方の鋼板の板厚の平方根の4倍と等しくなる溶接電流値から、散りが発生するまでの溶接電流値までの適正電流範囲(ΔW)を求め、
前記適正電流範囲(ΔW)が所定の目標値未満の場合、
前記電極間の加圧力を前記第一加圧力とし、且つ、前記電極間に通電させる時間を前記第一通電時間よりも短い第二通電時間として第一判定用スポット溶接試験を行って前記判定指数を求め、
前記第一判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値に基づいて、前記電極間の加圧力を前記第一加圧力とは異なる第二加圧力とし、且つ、前記電極間に通電させる時間を前記第二通電時間として第二判定用スポット溶接試験を行って前記判定指数を求め、
前記第二判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が1.1以上3未満であれば、前記第二加圧力を適正なスポット溶接条件と決定する請求項1に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項7】
前記第二判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が1.1以上3未満でない場合、前記第二加圧力を別の値に変更して次の判定用スポット溶接試験を繰り返す請求項6に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項8】
前記判定用スポット溶接試験では、前記電極間に通電させる時間を前記第二通電時間とする請求項7に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項9】
直前に行った前記判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値に基づいて、新たに前記電極間の加圧力を定めて次の判定用スポット溶接試験を行って新たな前記判定指数を求め、
最後に求めた前記判定指数の値が1.1以上3未満であれば、最後に定めた前記電極間の加圧力を適正なスポット溶接条件と決定する請求項8に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項10】
最後に求めた前記判定指数の値が1.1以上3未満でない場合、最後に定めた前記電極間の加圧力を更に別の値に変更して前記判定用スポット溶接試験を繰り返す請求項9に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項11】
前記第一判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が1.1未満である場合、前記第二加圧力を前記第一加圧力よりも大きく設定する請求項6に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項12】
前記第一判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が3以上である場合、前記第二加圧力を前記第一加圧力よりも小さく設定する請求項6に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項13】
前記第二判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が1.1未満である場合、前記第二加圧力を大きな値に変更する請求項7に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項14】
前記第二判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が3以上である場合、前記第二加圧力を小さな値に変更する請求項7に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項15】
最後に求めた前記判定指数の値が1.1未満である場合、最後に定めた前記電極間の加圧力を大きな値に変更する請求項10に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【請求項16】
最後に求めた前記判定指数の値が3以上である場合、最後に定めた前記電極間の加圧力を小さな値に変更する請求項10に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗スポット溶接は、重ね抵抗溶接法の一種である。抵抗スポット溶接は、重ね合わせた鋼板同士の接合に用いることができる。抵抗スポット溶接法は、重ね合わせた2枚以上の鋼板の板組を挟み込み、その板組の上面と下面とを一対の電極で加圧しつつ、この電極間に大電流の溶接電流を短時間通電して板組を接合する方法である。
【0003】
抵抗スポット溶接では、散りと呼ばれる溶融金属が飛散する現象が生じることがある。散りは、スポット溶接における欠陥又は不具合として認識されている。散りは、溶接電流の電流値や加圧力が不適切である場合に生じやすくなる。
【0004】
非特許文献1では、めっき濡れ広がりが広範囲に及ぶ場合に、散り発生が抑制される可能性があるとの考察が示されている。
【0005】
特許文献1には、高張力亜鉛系めっき鋼板のスポット溶接方法が開示されている。このスポット溶接方法では、高張力亜鉛系めっき鋼板を3段以上の多段通電によりスポット溶接するにあたり、所望のナゲット径以上で、かつ溶融残厚が0.05mm以上であるナゲットを安定して形成できる、適正電流範囲ΔIが1.0kA以上、好ましくは2.0kA以上となるように、通電時間、溶接電流等の溶接条件を調整してスポット溶接で溶接する。このスポット溶接方法では、第1段通電の通電時間は2~6サイクルとし、第2段通電から最終段通電までの各段通電の間に、1~3サイクルの冷却時間を設けることが好ましいとされている。また、第2段通電から最終段通電までの合計通電時間が、第1段の通電時間の1~5倍となるように設定することが好ましいとされている。
【0006】
特許文献2には、抵抗スポット溶接方法が開示されている。この抵抗スポット溶接方法では、抵抗スポット溶接の初期通電において、「1.2≦合金層の外形寸法/溶接ナゲットの外形寸法≦1.5」となっている状態で、電極間の通電を停止し、所定のインターバルが経過した後、本通電を行う。これにより、上記インターバルの間に溶接ナゲットが冷却されることになり、この溶接ナゲットが成形されている領域での電気抵抗値を低くしてその後に本通電を開始しても局部的な溶接ナゲットの拡大は抑制されて、スパッタの発生を抑制することができるとされている。
【0007】
特許文献3には、抵抗スポット溶接方法が開示されている。この抵抗スポット溶接方法では、初期通電と本通電との間に、電極間に一定の電流を通電させる定電流期間を設け、この定電流期間中に、「1.2≦合金層の外形寸法/溶接ナゲットの外形寸法≦1.5」となった状態で、定電流期間を終了して本通電に移行する。これにより、定電流期間中において、発熱量を抑えると共に、熱伝導によって板組における温度分布を一様にすることが可能となり、合金層Aの外形寸法と溶接ナゲットNの外形寸法との比が適正に得られた状態で本通電に移行させることができ、このため、本通電でのスパッタの発生を抑制しながらも効率良く溶接ナゲットを成形することが可能になるとされている。
【0008】
特許文献4には、抵抗スポット溶接方法および抵抗スポット溶接の溶接条件判定方法が開示されている。この抵抗スポット溶接方法は、少なくとも1枚の鋼板が、引張強さが980MPa以上1770MPa以下で且つ接合面側の表面に亜鉛系めっき層を有する高強度亜鉛系めっき鋼板を溶接の対象としている。この抵抗スポット溶接方法は、予通電工程と、予通電工程後に予通電工程よりも高い電流値で通電する本通電工程とを有している。予通電工程は、予通電工程が終了した段階で、接合される隣り合う2枚の鋼板のうち板厚の薄い方の鋼板の板厚をt[mm]として、溶融部の径が2√t[mm]以下となり且つ径が3√t[mm]以上の亜鉛系めっきが吐き出された領域とが形成される溶接条件で行い、本通電工程は、径が3√t[mm]以上のナゲットが形成される溶接条件で行なう。この抵抗スポット溶接方法では、耐遅れ破壊特性に優れた溶接部を形成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-236676号公報
【特許文献2】特開2021-79416号公報
【特許文献3】特開2021-79410号公報
【特許文献4】特開2018-171649号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ji et al.、Journal of Mechanical Science and Technology 28 (11) (2014) 4761-4769
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、金属めっき層を有する表面処理鋼板を重ね合わせた板組の抵抗スポット溶接において、適切な溶接条件を決定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための、本発明に係る抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法は以下のとおりである。
【0013】
[1] 金属めっき層を有する第一鋼板と、前記金属めっき層に対向させて重ね合わせた第二鋼板とを含む板組を一対の電極で挟み込んで加圧しながら前記電極間に通電し、前記第一鋼板と前記第二鋼板との間に溶融部を形成して前記板組を接合し、
前記溶融部からみて前記板組の板面に沿う方向における外側領域であって、前記第一鋼板と前記第二鋼板との間に、前記金属めっき層の成分を吐き出させて、吐き出し部を形成する抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法であって、
前記溶融部における、前記板組の板面に沿う方向における直径をナゲット径(dn)[mm]とし、前記吐き出し部の外周の直径を吐き出し径(dc)[mm]とし、前記ナゲット径(dn)[mm]の目標値を狙い径(D)[mm]とした場合、
予備試験としてスポット溶接を行った場合における溶接条件の内、
前記ナゲット径(dn)が、前記狙い径(D)の4分の1以上且つ2分の3以下、且つ、前記吐き出し径(dc)を前記ナゲット径(dn)で除した値として求めた判定指数(k)が1.1以上3未満となる溶接条件を、適正なスポット溶接条件と決定する、抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0014】
[2] 前記狙い径(D)が、前記第一鋼板と前記第二鋼板とのうち、厚みの薄い方の鋼板の板厚[mm]の平方根の4倍以上である上記[1]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0015】
[3] 前記金属めっき層が、アルミニウム又は亜鉛を主成分とする上記[1]又は[2]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0016】
[4] 前記金属めっき層が、アルミニウム及び亜鉛を、合計、85%以上99.5%以下含む上記[3]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0017】
[5] 前記金属めっき層が、Zn、Mg及びSnのうち、少なくとも一つを、合計、0.5%以上15%以下含む上記[4]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0018】
[6] 前記予備試験では、
前記電極間の加圧力を第一加圧力とし、且つ、前記電極間に通電させる時間を第一通電時間として、溶接電流値を違えた継手サンプルを複数個作製してそれぞれの継手サンプルの前記ナゲット径(dn)を測定し、これにより前記溶接電流値と前記ナゲット径(dn)との関係であるウェルドロブを求め、
前記ウェルドロブに基づいて、前記ナゲット径(dn)が、前記第一鋼板と前記第二鋼板とのうち、厚みの薄い方の鋼板の板厚の平方根の4倍と等しくなる溶接電流値から、散りが発生するまでの溶接電流値までの適正電流範囲(ΔW)を求め、
前記適正電流範囲(ΔW)が所定の目標値未満の場合、
前記電極間の加圧力を前記第一加圧力とし、且つ、前記電極間に通電させる時間を前記第一通電時間よりも短い第二通電時間として第一判定用スポット溶接試験を行って前記判定指数を求め、
前記第一判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値に基づいて、前記電極間の加圧力を前記第一加圧力とは異なる第二加圧力とし、且つ、前記電極間に通電させる時間を前記第二通電時間として第二判定用スポット溶接試験を行って前記判定指数を求め、
前記第二判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が1.1以上3未満であれば、前記第二加圧力を適正なスポット溶接条件と決定する上記[1]から[5]の何れか一つに記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0019】
[7]前記第二判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が1.1以上3未満でない場合、前記第二加圧力を別の値に変更して次の判定用スポット溶接試験を繰り返す上記[6]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0020】
[8] 前記判定用スポット溶接試験では、前記電極間に通電させる時間を前記第二通電時間とする上記[7]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0021】
[9] 直前に行った前記判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値に基づいて、新たに前記電極間の加圧力を定めて次の判定用スポット溶接試験を行って新たな前記判定指数を求め、
最後に求めた前記判定指数の値が1.1以上3未満であれば、最後に定めた前記電極間の加圧力を適正なスポット溶接条件と決定する上記[8]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0022】
[10] 最後に求めた前記判定指数の値が1.1以上3未満でない場合、最後に定めた前記電極間の加圧力を更に別の値に変更して前記判定用スポット溶接試験を繰り返す上記[9]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0023】
[11] 前記第一判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が1.1未満である場合、前記第二加圧力を前記第一加圧力よりも大きく設定する上記[6]から[10]の何れか一つに記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0024】
[12] 前記第一判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が3以上である場合、前記第二加圧力を前記第一加圧力よりも小さく設定する上記[6]から[11]の何れか一つに記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0025】
[13] 前記第二判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が1.1未満である場合、前記第二加圧力を大きな値に変更する上記[7]から[10]の何れか一つに記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0026】
[14] 前記第二判定用スポット溶接試験における前記判定指数の値が3以上である場合、前記第二加圧力を小さな値に変更する上記[7]から[10]の何れか一つ又は上記[13]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0027】
[15] 最後に求めた前記判定指数の値が1.1未満である場合、最後に定めた前記電極間の加圧力を大きな値に変更する上記[10]又は[11]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【0028】
[16] 最後に求めた前記判定指数の値が3以上である場合、最後に定めた前記電極間の加圧力を小さな値に変更する上記[10]、[11]又は[15]に記載の抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、金属めっき層を有する表面処理鋼板を重ね合わせた板組の抵抗スポット溶接において、適切な溶接条件を決定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】抵抗スポット溶接の溶接方法を説明する図である。
図2】抵抗スポット溶接の溶接部分の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図面を参照しつつ、本実施形態に係る抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法を説明する。
【0032】
まず、本実施形態に係る抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法の概要を説明する。
【0033】
本実施形態に係る抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法は、図1に示すように、金属めっき層10を有する第一鋼板1と、金属めっき層10に対向させて重ね合わせた第二鋼板2とを含む板組Cを一対の電極3,4で挟み込んで加圧しながら電極3,4間に通電し、第一鋼板1と第二鋼板2との間に溶融部5を形成して板組Cを接合し、図2に示すように、溶融部5からみて板組Cの板面に沿う方向における外側領域であって、第一鋼板1と第二鋼板2との間に、金属めっき層の成分を吐き出させて、吐き出し部7を形成する抵抗スポット溶接に係るものである。
【0034】
なお、図1では、第二鋼板2も金属めっき層20を有する場合を例示して示している。図1に示す例では、第一鋼板1と第二鋼板2とは、金属めっき層10と金属めっき層20とを対向させた状態で重ね合わせられている。
【0035】
本実施形態に係る抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法は、図2に示すように、溶融部5における、板組Cの板面に沿う方向における直径をナゲット径dnとし、吐き出し部の外周の直径を吐き出し径dcとし、ナゲット径dnの目標値を狙い径Dとした場合、予備試験としてスポット溶接を行った場合における溶接条件の内、ナゲット径dnが、狙い径Dの4分の1以上且つ2分の3以下、且つ、吐き出し径dcをナゲット径dnで除した値として求めたが1.1以上3未満となる溶接条件を、適正なスポット溶接条件として設定する。なお、ナゲット径(dn)、吐き出し径(dc)及び狙い径(D)単位は、特にことわりがない限り[mm]である。
【0036】
すなわち、判定指数kは、次式(1)で定義される。そして、本実施形態に係る抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法は、ナゲット径dnが次式(2)を満たす場合を前提に、判定指数kが次式(3)を満たす溶接条件を、適正なスポット溶接条件として設定する。
【0037】
k=dc/dn・・・(1)
【0038】
D/4≦dn≦2D/3・・・(2)
【0039】
1.1≦k<3・・・(3)
【0040】
本実施形態に係る抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法によれば、金属めっき層を有する表面処理鋼板を重ね合わせた板組の抵抗スポット溶接において、適切な溶接条件を決定することができる。
【0041】
以下、本実施形態に係る抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法について詳述する。
【0042】
まず、抵抗スポット溶接の対象となる板組C、抵抗スポット溶接及び板組Cが溶接された場合における溶接部について説明する。
【0043】
板組Cは、第一鋼板1と第二鋼板2とを少なくとも含めばよい。板組Cが3枚以上の鋼板で形成される場合は排除されない。板組Cが含む鋼板(第一鋼板1、第二鋼板2及びこれら以外の鋼板)の鋼種は特に限定されない。これら鋼板の製造方法は、冷間圧延や熱間圧延など任意であり、鋼板の組織も同様に任意である。また、板組Cが含む鋼板は、熱間プレスされた鋼板を用いても何ら問題ない。また、板組Cが含む鋼板の板厚についても問わない。例えば、一般的な自動車車体に用いられ得る厚みの鋼板(厚みが0.5~4.0mm程度)はもちろん用いることができる。
【0044】
板組Cが含む鋼板は、それぞれ板厚が異なってもよい。第一鋼板1以外の鋼板(例えば第二鋼板2)は、金属めっき層を有していても、有していなくてもよい。
【0045】
金属めっき層10は、アルミニウム(Al)又は亜鉛(Zn)を主体としていることが好ましい。金属めっき層10には、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)及びスズ(Sn)のうち、少なくとも一つ以上が含まれていても良い。
【0046】
金属めっき層10は、アルミニウム及び亜鉛を、合計で、85%以上99.5%以下含むとよい。なお、本実施形態において、単に「%」と示す場合は、「質量%」を示すものとする。
【0047】
金属めっき層10は、亜鉛、マグネシウム及びスズのうち、少なくとも一つを、合計、0.5%以上15%以下含むとよい。
【0048】
金属めっき層20は、必須ではない。第二鋼板2が金属めっき層20を有する場合、金属めっき層20は、上述の金属めっき層10の場合と同様である。
【0049】
さて、抵抗スポット溶接(抵抗スポット溶接法)は、板組Cを挟み込んで加圧する電極3,4に大電流の溶接電流を流すことで板組Cに発生する抵抗発熱を利用して、点状の溶接部を形成する溶接方法である。
【0050】
図2に示す例では、溶接部は、点状の溶融部5と、溶融部5の外周部にそって外側領域に形成されたコロナボンド部6とを含む。
【0051】
点状の溶融部5はナゲットとも呼ばれ、電極3,4により板組Cに電流(以下、溶接電流と称する)を流した際(以下、単に溶接時と称する場合がある)に第一鋼板1と第二鋼板2との接触部分(以下、単に鋼板間と称する場合がある)が溶融し、その後凝固した部分である。本実施形態において、ナゲット径dnは、溶融部5における、板組Cの板面に沿う方向における直径、すなわち、溶融部5の外周形状の直径である。
【0052】
溶融部5の上面視(板組Cの板面に対して垂直になる方向の視点)での形状は、通常は円形状である。そのため、図2に示すように、溶接部分の断面観察によって計測した溶融部5の幅をナゲット径dnとみなしてよい。
【0053】
コロナボンド部6は、鋼板間が固相接合された部分である。
【0054】
第一鋼板1と第二鋼板2とは、溶融部5又は溶融部5とコロナボンド部6とで接合される。
【0055】
吐き出し部7は、金属めっき層10,20のめっき成分が溶接時に溶融し、板組Cの板面に沿う方向における溶接部(溶融部5及びコロナボンド部6)外側領域であって、第一鋼板1と第二鋼板2との間に流出してその後凝固したものである。本実施形態において、吐き出し径dcは、吐き出し部7における、板組Cの板面に沿う方向における外周形状の直径である。図2に示すように、溶接部分の断面観察によって計測した吐き出し部7の外周形状の幅を吐き出し径dcとみなしてよい。
【0056】
本実施形態に係る抵抗スポット溶接に使用可能な溶接装置は、上下一対の電極3,4を備え、電極3,4間の加圧力、すなわち、溶接中に板組Cに加える加圧力と、溶接電流とをそれぞれ任意に制御可能なものであればよい。電極3,4は、板組Cの板面に対して垂直に押し当ててもよいし、傾けて押し当ててもよい。
【0057】
溶接装置の加圧機構(エアシリンダやサーボモータ等)や形式(定置式、ロボットガン等)、電極形状等はとくに限定されない。電極3,4の先端の形式としては、例えば、JIS C 9304:1999に記載されるDR形(ドームラジアス形)、R径(ラジアス形)、D形(ドーム形)等を採用してよい。
【0058】
なお、溶接時の溶接電流値、通電時間及び加圧力は一定であってもよいし、一定でなくてもいい。例えば、溶接時の抵抗値や電圧値などのパラメータを監視し、その変動に基づいて溶接電流値や通電時間を変化させる制御方法を用いてもよい。
【0059】
判定指数k(dc/dn)の値が小さい場合、溶接時の電気的な経路(通電径)が小さく、鋼板間の発熱が過大となり、散りが発生しやすくなる。判定指数kの値が大きい場合、電気的な経路(通電径)も大きく、溶融部5を形成するための十分な発熱が得られなくなる場合がある。
【0060】
狙い径Dは、ナゲット径dnの目標値であり、適切な接合を実現するための溶融部5の大きさの目安である。狙い径Dは、第一鋼板1と第二鋼板2とのうち、厚みの薄い方の鋼板の板厚[mm]の平方根の4倍以上とするとよい。
【0061】
抵抗スポット溶接時に発生する散りは、通電初期の溶接部分の発熱形態に大きな影響を受けると考えられる。そして、この発熱形態は、鋼板間に金属めっき層10などのめっき成分が濡れ広がること(吐き出し部7の形成過程や吐き出し径dcの大きさ)と相関している。また、この濡れ広がりと電気的な経路(通電径、あるいは、抵抗)は相関している。そのため、抵抗スポット溶接時の加熱と冷却とを適切に繰り返すことで、濡れ広がり(吐き出し部7の形成状態)が安定し、また、これに相関して接合が安定するものと考えている。この結果、ナゲット径dnと吐き出し径dcの比が適切となるように溶接条件を設定することで、すなわち、判定指数kが式(3)を満たすようにすることで、溶融部5の形成を安定化することができるのである。
【0062】
板組Cの接合を所定の強度で行える前提で、散りの発生が少ない溶接条件を適正であると定義した場合、本実施形態に係る抵抗スポット溶接では、溶接電流の適正範囲(散りの発生を抑制できる溶接電流の範囲)が広くなる溶接条件であると、溶接条件として堅牢(ロバスト)であり、優れていると評価することができる。
【実施例0063】
以下では、比較例を示しつつ実施例を説明する。以下の実施例及び比較例では、表1に示す組板の抵抗スポット溶接について溶接の予備試験を行った後、予備試験結果に基づいて、適正なスポット溶接条件を決定した。以下では、本発明に従う実施例1及び比較例1を包括して説明する場合、本実施例等、と称する。
【0064】
【表1】
【0065】
なお、表1に示す鋼板1から3の母材の融点は1400~1570℃の範囲である。鋼板1から3は、金属めっき層を有するめっき鋼板であり、これら鋼板のめっき層のめっきの融点はそれぞれ400~700℃の範囲である。
【0066】
鋼板1から3のめっき層は、主成分としてアルミニウム及び亜鉛を合計95%含んでいる。
【0067】
表1に示す引張強度は、鋼板1から3について、圧延方向に対して平行方向にJIS5号引張試験片を作製し、JIS Z 2241:2011の規定に準拠して引張試験を実施して求めた引張強度である。
【0068】
本実施例等では、溶接装置としてインバータ直流抵抗スポット溶接機を用いた。溶接の電極にはDR形のクロム銅製電極を用いた。一組の電極は同じものを用いた。通電は本通電のみとし、通電中の電流値(溶接電流)を一定値とした。また、電極による板組への加圧力は通電終了時の加圧力である。通電中及び通電終了時の加圧力を保持する工程の間中、電極による板組への加圧力は一定とした。
【0069】
本実施例等では、抵抗スポット溶接は室温で行い、電極を常に水冷した状態で行った。
【0070】
本実施例等において、ナゲット径dnの狙い径は、表1に示す板組を構成する鋼板の内、板厚が薄い方の鋼板の板厚の平方根の4倍とした。
【0071】
表2には、比較例1における抵抗スポット溶接の実験条件及び評価結果を示す。表3には、実施例1における抵抗スポット溶接の実験条件及び評価結果を示す。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
実施例1及び比較例1において抵抗スポット溶接の評価対象としたナゲットは、表2,3中の項目「板組」における「鋼板」に記載した各鋼板間に形成されたナゲットである。すなわち、表2,3中、条件1-2と条件2-2とは、板組No.Bの鋼板1,2及び3を重ね合わせて抵抗スポット溶接を行い、鋼板2と鋼板3との間に形成されたナゲットのナゲット径dnを評価対象としている。その他の条件は、鋼板1と鋼板2との間に形成されたナゲットのナゲット径dnを評価対象としている。
【0075】
表2,3中、「加圧力」との記載は、電極間の加圧力、すなわち、電極による板組への加圧力Nを示す。「通電時間」は、抵抗スポット溶接を行うために電極を介して板組に通電した時間s(秒)である。
【0076】
表2,3中、「ΔW」との記載は、適正電流範囲ΔWを示す。適正電流範囲ΔWは、ナゲット径dnが狙い径Dの4分の1以上となる溶接電流値(C1)から、溶接時に散りが発生するまでの溶接電流値(C2)を確認したうえで、溶接電流値(C2)から溶接電流値(C1)を差し引いて求めた値(kA)であり、散りを発生させずに抵抗スポット溶接を行うことができる溶接電流の適正範囲である。表2,3中のその他の項目については後述する。
【0077】
実施例1及び比較例1の第一予備試験(表2,3中の適正電流範囲評価の列における1回目)について説明する。
【0078】
第一予備試験では、表2又は表3中の適正電流範囲評価の列における1回目に記載した所定の加圧力で、溶接電流値を3.0kAから8.0kAまで0.2kAずつ溶接電流値を増加させながら、25種の継手サンプル(溶接継手)を製造(すなわち、実験回数が25回)した。
【0079】
さらに各継手サンプルについて、溶接部を板組の厚み方向に切断した。そして、その断面を鏡面研磨し、光学顕微鏡(倍率10倍)で観察してナゲット径dnを測定した。そして、計測したナゲット径dnと、対応する溶接電流値との関係(すなわち、ウェルドロブ)を求めた。そしてウェルドロブからナゲット径dnが狙い径Dの4分の1以上となる溶接電流値(C1)と、溶接時に散りが発生するまでの溶接電流値(C2)を導いた。なお、溶接電流値(C1)と溶接電流値(C2)とは、例えばウェルドロブから対数近似関数を導いて、この対数近似関数から求めてよい。そして、溶接電流値(C1)と溶接電流値(C2)とから適正電流範囲ΔWを求めた。本実施例等では、適正電流範囲ΔWが目標値である1.0kA以上の場合は良好(OK)、1.0kA未満の場合は不良(NG)と判定した。
【0080】
比較例1の第二予備試験以降(表2中の適正電流範囲評価の列における2回目以降)について説明する。
【0081】
比較例1では、適正電流範囲ΔWが目標値である1.0kA以上になるまで、溶接条件(加圧力)を変えつつ、溶接条件(加圧力)ごとに、第一予備試験と同様に溶接電流値を違えた25種の継手サンプルを製造し、各回の予備試験ごとにウェルドロブを取得して適正電流範囲ΔWを求めた。詳細説明は省略するが、比較例1では最大6回目の予備試験まで行う必要があった。
【0082】
例えば、表2中に示す条件No.1-1では、加圧力1500N、通電時間0.42秒の条件では適正電流範囲ΔWが0.8kAであったため、2回目以降の試験では加圧力を2000N、2500Nといった具合に増加させていき、それぞれウェルドロブを取得し、適正電流範囲ΔWが1.0kA以上となる溶接条件(加圧力)を求めた。この条件では第一予備試験から第三予備試験までを行うことを要し、総実験回数(製造した継手サンプル数)は75回(75個)に及んだ。比較例1における他の条件でも、総実験回数は75回から150回を要した。
【0083】
実施例1では、表3に示すように、第一予備試験で求めた適正電流範囲ΔWが目標値である1.0kA未満(不良:NG)の場合、まず、予備試験として、第一判定用スポット溶接試験(表3における途中止め試験の1回目、判定用スポット溶接試験の一例)を行った。
【0084】
第一判定用スポット溶接試験では、電極間の加圧力を第一予備試験と同じ加圧力(以下、第一加圧力と称する)とし、且つ、電極間に通電させる通電時間を第一予備試験の通電時間(以下、第一通電時間と称する)よりも短い第二通電時間(本実施例では0.08s)とし、且つ、溶接電流を6.0kAとして抵抗スポット溶接試験を行って条件ごとに継手サンプルを一つ製造した。そして、第一予備試験と同様にして、判定指数を求め、継手サンプルの断面を光学顕微鏡で観察してナゲット径dnと吐き出し径dcとを計測して判定指数を求めた。
【0085】
次に、第一判定用スポット溶接試験で求めた判定指数に基づいて、第二判定用スポット溶接試験(表3における途中止め試験の2回目、判定用スポット溶接試験の一例)を行った。第二判定用スポット溶接試験は、電極間の加圧力を第一加圧力とは異なる第二加圧力とし、且つ、電極間に通電させる通電時間を第二通電時間とし、その他は第一判定用スポット溶接試験と同じとして抵抗スポット溶接試験を行って条件ごとに継手サンプルを一つ製造した。
【0086】
第二加圧力は以下のように決定した。第一判定用スポット溶接試験における判定指数の値が1.1未満である場合、第二加圧力を第一加圧力よりも大きく設定した。
【0087】
また、第一判定用スポット溶接試験における判定指数の値が3以上である場合、第二加圧力を第一加圧力よりも小さく設定した。
【0088】
第二判定用スポット溶接試験で製造した継手サンプルの判定指数の値が1.1以上3未満であれば、第二加圧力を適正なスポット溶接条件と決定した(条件No.2-1,2-4~2-8)。なお、表3では、判定指数の値が1.1以上3未満であれば適正(OK)と評価し、1.1以上3未満でなければ不良(NG)と評価した。
【0089】
条件No.2-1の場合について具体例を説明すると、第一予備試験(適正電流範囲評価の列における1回目)において、加圧力1500N、通電時間0.42sの溶接条件では適正電流範囲ΔWが0.8kAで不良であったため、同じ加圧力で第一判定用スポット溶接試験としての途中止め試験(1回目)を行って判定指数を求めた。しかし、第一判定用スポット溶接試験の判定指数は1.0で(NG)であったため、加圧力を2500Nに増加させて第二判定用スポット溶接試験としての途中止め試験(2回目)を行い、判定指数の値が1.2(OK)となった。これにより、条件No.2-1では、2500Nの加圧力を適正なスポット溶接条件として決定した。
【0090】
第二判定用スポット溶接試験で製造した継手サンプルの判定指数の値が1.1以上3未満でない場合、第二判定用スポット溶接試験と同様の判定用スポット溶接試験を、判定指数の値が1.1以上3未満になるまで繰り返した。
【0091】
この判定用スポット溶接試験では、直前に行った判定用スポット溶接試験(例えば、3回目に対する2回目の試験、4回目に対する3回目の試験)における判定指数の値に基づいて、新たに電極間の加圧力を定めて溶接試験を行って新たな判定指数を求めた。
【0092】
そして、最後に求めた判定指数の値が1.1以上3未満であれば(条件No.2-3の途中止め試験の3回目の試験)、最後に定めた電極間の加圧力を適正なスポット溶接条件と決定した。
【0093】
最後に求めた判定指数の値が1.1以上3未満でない場合(条件No.2-2の途中止め試験の3回目の試験)、最後に定めた電極間の加圧力を更に別の値に変更して判定用スポット溶接試験(条件No.2-2の途中止め試験の4回目の試験)を繰り返した。
【0094】
具体的には、第二判定用スポット溶接試験における判定指数の値が1.1以上3未満でない場合、第二加圧力は以下のようにして別の値に変更した。
【0095】
条件2-3の途中止め試験の2回目のように、第二判定用スポット溶接試験における判定指数の値が1.1未満である場合は、途中止め試験の3回目において、第二加圧力を2回目の(直前の)値よりも大きな値に変更した。
【0096】
また、条件2-2の途中止め試験の2回目及び3回目のように、第二判定用スポット溶接試験及びその後に行う判定用スポット溶接試験における判定指数の値が3以上である場合、途中止め試験の3回目、4回目において、第二加圧力を3回目、4回目の(直前の)値よりも小さな値に変更した。
【0097】
すなわち、判定用スポット溶接試験において、最後に求めた判定指数の値が1.1未満である場合、最後に定めた電極間の加圧力を大きな値に変更し、最後に求めた判定指数の値が3以上である場合、最後に定めた電極間の(直前の)加圧力を小さな値に変更した。
【0098】
なお、これら判定用スポット溶接試験における通電時間は第二通電時間とした。
【0099】
例えば、条件No.2-2の場合、判定用スポット溶接試験としての4回目の途中止め試験において、判定指数の値が2.8(OK)となった。これにより、条件No.2-2では、4回目の途中止め試験における加圧力である3600Nの加圧力を適正なスポット溶接条件として決定した。
【0100】
なお、条件No.2-1から2-8のいずれの場合にも、最後に行った途中止め試験で製造した継手サンプルのナゲット径dnは、狙い径Dの4分の1以上且つ2分の3以下であった。
【0101】
実施例1では、以上のようにして決定した適正なスポット溶接条件(加圧力)を採用して、確認試験(表3中の適正電流範囲評価の列における最終)を行い、第一予備試験と同様にしてウェルドロブを求めた。さらに第一予備試験と同様にしてウェルドロブから適正電流範囲ΔWを求め、決定した適正なスポット溶接条件が、実際に適性である(1.0kA以上である)ことを確認した。
【0102】
実施例1では、総実験回数(製造した継手サンプルの個数)は、最大(条件No.2-2)でも高々54回(54個)で足りた。
【0103】
すなわち、実施例1では、少ない試行回数で適正電流範囲ΔWが1.0kA以上となる適正な溶接条件を決定することができたのである。
【0104】
以上のようにして、金属めっき層を有する表面処理鋼板を重ね合わせた板組の抵抗スポット溶接において、適切な溶接条件を決定する方法を提供することができる。
【0105】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、抵抗スポット溶接の溶接条件の決定方法に適用できる。
【符号の説明】
【0107】
1 :第一鋼板
10 :金属めっき層
2 :第二鋼板
20 :金属めっき層
3 :電極
4 :電極
5 :溶融部
6 :コロナボンド部
7 :吐き出し部
C :板組
dc :吐き出し径
dn :ナゲット径
図1
図2