(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099081
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】NT3発現増強用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20240718BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002754
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】上野(坂井) 友美
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZC02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規なNT3の発現を増強する組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を有効成分として含有する、NT3の発現増強用組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を有効成分として含有する、NT3の発現増強用組成物。
【請求項2】
ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方が、植物抽出物由来である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NT3の発現増強作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Neurotrophin-3(NT3)は、NGF(Nerve Growth Factor)ファミリーに属する神経栄養因子の1つである。NT3は主として中枢神経や末梢神経、シナプスで発現し、Trkレセプターを通したシグナル伝達を行う。海馬や小脳などでは、NT3が絶えず産生され、神経細胞及びグリア細胞の生存と成長、神経新生の促進に関与することが知られている。また、非特許文献1ではNT3がシナプスの興奮を促し、神経伝達の促進に作用することが報告されており、非特許文献2では、加齢性難聴と内耳細胞におけるNT3発現の関係が報告されるなど、神経系における役割が注目されている。
【0003】
一方、NT3は視覚機能における役割も報告されている。網膜に達した光は視細胞が受容して電気信号へと変換されるが、NT3は視細胞を光刺激などによるダメージから保護する作用があること、視細胞の分化や再生を促進する作用があることが非特許文献3に記載されている。また、NT3は網膜の支持細胞であるミュラー細胞に作用し、視細胞変性抑制作用が知られているbFGFの発現を増強する作用も報告されており、直接的にも間接的にも視細胞に保護的な作用をもたらす。網膜中でNT3を産生する主要な細胞の1つにミュラー細胞がある。
これらの先行技術から、中枢神経系や末梢神経系において、神経栄養因子であるNT3の役割の重要性が注目されており、例えば、本出願人は、特許文献1において、ケルセチンを有効成分として含有するNT3の発現増強用組成物を提案している。
【0004】
ガランギンは、ナンキョウ(Alpinia galanga)の地下茎等に含まれる天然フラボノールの一種である。ガランギンには、抗炎症効果、活性酸素消去酵素の発現促進効果(特許文献2)、肝虚血再灌流障害の緩和効果、アルツハイマーの原因であるβアミロイドタンパク質前躯体(APP)のBACE阻害剤としての用途(特許文献3)、bFGFの発現増強作用(特許文献4)などが知られている。
ケンフェロールは、茶、キャベツ、ブロッコリー等に含まれる天然フラボノールの一種である。ケンフェロールには、Th2サイトカイン発現抑制作用(特許文献5)、抗アレルギー作用(特許文献6)などが知られている。
しかし、ガランギンとケンフェロールについて、NT3の発現に関わる作用や用途は、これまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-48818号公報
【特許文献2】特開2007-326799号公報
【特許文献3】国際公開第2013/142370号
【特許文献4】特開2020-147517号公報
【特許文献5】特開2001-114686号公報
【特許文献6】国際公開第2006/093194号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature. 1993 May 27;363(6427):350-3.
【非特許文献2】Elife. 2014 Oct 20;3.
【非特許文献3】Neuron. 2000 May;26(2):533-41.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なNT3の発現を増強する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1)ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を有効成分として含有する、NT3の発現増強用組成物。
(2)ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方が、植物抽出物由来である、(1)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を有効成分とする、新規なNT3の発現を増強する作用を有する組成物が提供される。本発明の組成物により、中枢神経系や末梢神経系の生成、機能維持、保護作用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ガランギン、ケンフェロールがNT3の発現を増強することを示すグラフ。
【
図2】クリシン、ミリセチンがNT3の発現を増強しないことを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について具体的に説明する。
本発明でいう「組成物」とは、ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を含有し、NT3の発現を増強するものをいう。本発明の組成物は、ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を含有すること以外は特に制限されず、飲食品、医薬品、健康食品、動物用飼料等を包含する。
【0012】
本発明に用いるガランギン、ケンフェロールとしては、その由来を特に限定されるものではない。しかし安全性の観点から、植物由来のものが好ましい。
ガランギン(galangin、C15H10O5)、ケンフェロール(kaempferol、C15H10O6)を植物から抽出する場合、抽出方法は、特に制限されないが、熱水抽出法、二相溶媒分配法、分配高速クロマトグラフィー法等を用いることができる。
【0013】
抽出溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、酢酸エチルや蟻酸エチルなどのエステル類、ヘキサン等の1種または2種以上を使用することができ、これらの中で、水、アルコール類、水とアルコール類の混合溶媒が好ましく、また、アルコール類としてはエタノールが好ましい。抽出温度は、通常、0~100℃の範囲内であり、5~50℃であることが好ましい。抽出溶媒量は、被抽出物に対して1~100倍、好ましくは5~10倍である。また、ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を含有する市販品の抽出物を用いることもできる。 ガランギン、ケンフェロールが植物抽出物由来である場合、得られたままの抽出液、精製や濃縮をした抽出エキス、あるいは、減圧濃縮、スプレ-ドライまたは凍結乾燥等の方法で粉末化したものを使用することができる。
【0014】
ガランギン、ケンフェロールをヒトに投与する場合は、経口投与が好ましく、具体的には、飲食品、医薬品、サプリメント等の健康食品として使用可能である。
ガランギン、ケンフェロールを食品・飲料として使用する場合、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等の飲料、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、スープ類等、あらゆる食品・飲料形態とすることができる。
【0015】
また、ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方をサプリメントや医薬品として使用する場合、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形成形剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤として利用することができる。
【0016】
ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を医薬品やサプリメントの製剤とする場合は、ガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を一般的な製造法により、直接又は製剤上許容し得る担体とともに混合、分散した後、所望の形態に加工することによって、容易に得ることができる。この場合、本発明に用いられる抽出物の他に、かかる形態に一般的に用いられる植物油、動物油等の油性分、ビタミン類、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素、香料等を本発明の効果を妨害しない範囲で適宜配合することができる。
【0017】
本発明のガランギン、ケンフェロールのいずれか、または両方を含有する組成物は、特に限定されるものではないが、好ましくは、ガランギンとケンフェロールを合計で、全組成の0.00001~99.5質量%の範囲で含有される組成物とする。
【実施例0018】
実施例を示し、本発明についてさらに説明する。
【0019】
(1)初代ミュラー細胞の調製
初代ミュラー細胞は次の方法で調製した。7日齢のSDラット10匹から網膜を単離した。単離した網膜は、PBS(-)で5倍希釈したトリプシン-EDTA(Sigma T3924)にDNaceI(Roche)を終濃度100ng/mlで添加した溶液10mL中で、37℃で30分間静置した。ピペッティング操作により網膜組織を分散させ、2,400rpm、室温で5分間遠心した。上清を吸引除去した後、10%FBS(Biosera)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma)を含むDMEM-F12培地(Gibco)25mLに縣濁した。懸濁液を70μMのセルストレーナー(FALCON)に通した後、細胞数を計測し、4.2×106cells/mLの濃度になるよう希釈した。T-75細胞培養用フラスコ(住友ベークライト)に10mLずつ播種し、37℃、5%CO2下で培養した(培養0日目)。培養3日目に、培地を吸引除去し、新しい培地20mLに交換し、再び37℃、5%CO2下で培養した。培養7日目に、Wei-Tao Songらの方法(Ophthalmol 2013;6(6):778-784)に準じて、ミュラー細胞を純化した。培養8日目に、ミュラー細胞を剥がし、4×105cell/mlの濃度になるよう縣濁し、96well cell culture plate(FALCON)に100μLずつ播種し、37℃、5%CO2下で培養した。
【0020】
<NT3の発現増強作用>
ケルセチンと分子構造が類似している、ガランギン、ケンフェロール、クリシン(chrysin、C
15H
10O
4)、ミリセチン(myricetin、C
15H
10O
8)について、NT3発現増強作用を以下の方法で試験した。各化合物の構造を、ケルセチンとともに示す。
【化1】
【0021】
(1)試験方法
1)試験試料
ガランギン(Galangin)はCAYMAN社(製品番号:15948)より入手し、DMSOで溶解し使用した。ケンフェロール(Kaempferol)はSIGMA社(製品番号:K0133)より入手し、DMSOで溶解し使用した。クリシンはLKT Laboratories(製品番号:C2968)より入手し、DMSOで溶解し使用した。ミリセチンは東京化成(製品番号:M2131)より入手し、DMSOで溶解して使用した。
【0022】
2)NT3発現増強
ラット初代ミュラー細胞でのNT3遺伝子発現に対する各試験物質の作用について、以下の方法で検討した。
培養9日目の初代ミュラー細胞の培地を全量除去し、1%FBSを含むDMEM-F12培地100μLに交換し、37℃、5%CO
2で90分間培養することで血清飢餓状態に置いた。ガランギン、ケンフェロールをそれぞれ
図1に表示した濃度になるように、また、クリシン、ミリセチンをそれぞれ
図2に表示した濃度になるように添加し、90分間培養後に上清を除去し、RNeasy96kit(QIAGEN)を用い添付の説明書に従ってRNAを調製した。RNA調製の際、DNase I Kit(QIAGEN)を用い、ゲノムDNAの除去を行った。調製した適正量のRNAを、PrimeScript RT reagent kit(Takara)を用いて添付の説明書に従いcDNAを作製した。
【0023】
NT3の遺伝子発現量はApplied Biosystems TaqMan Gene Expression Assayを用いて、次の方法で定量した。
1μLのcDNAとラットNT3転写産物のTaqman probe、Taqman Fast Advanced Master Mixを所定の割合で混合し、計10μLとなるようにPCR grade water(Invitrogen)を添加し混合したものを反応液とした。
調製した反応液は、Quant Studio5(Applied Biosystems)を用い、[(95℃、20秒)→(95℃、1秒)→(60℃、20秒)]×40サイクルの反応条件で測定を行った。
内在性コントロールにはラットGapDH Taqman probeを用い、上記と同様の反応条件で測定を行った。測定により得られたCt値からGapDHを内部標準としてΔΔCt法により、各サンプルの相対的遺伝子発現量を求めた。
使用したTaqman probeの製品情報、仕様は以下のとおりである。
GapDH:Applied biosystems Assay ID:Rn01462662_g1
NT3:Applied biosystems Assay ID:Rn00579280_m1
【0024】
(2)結果
測定結果を
図1、2に示す。
ラット初代ミュラー細胞において、ガランギン、ケンフェロールの添加により、NT3の遺伝子発現増強作用が認められた。
一方、類似骨格を有する化合物であっても、クリシン、ミリセチンは、NT3の遺伝子発現を増強しなかった。以上より、ガランギンとケンフェロールにNT3の発現増強作用があることが確かめられた。