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特開2024-99099ハイブリッド車両の制御方法および制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099099
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/19 20160101AFI20240718BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20240718BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20240718BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20240718BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240718BHJP
   B60W 20/50 20160101ALI20240718BHJP
   F02D 15/00 20060101ALI20240718BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240718BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240718BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240718BHJP
   B60L 58/14 20190101ALI20240718BHJP
【FI】
B60W20/19
B60K6/24 ZHV
B60K6/46
B60K6/485
B60W10/06 900
B60W20/50
F02D15/00 Z
F02D15/00 E
F02D45/00 364
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002790
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 崇志
【テーマコード(参考)】
3D202
3G092
3G384
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202AA09
3D202BB02
3D202BB08
3D202BB16
3D202BB53
3D202CC02
3D202CC15
3D202CC53
3D202CC59
3D202CC60
3D202DD00
3D202DD05
3D202DD11
3D202DD16
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD27
3D202DD29
3D202DD45
3D202DD50
3D202EE01
3G092AA12
3G092AC02
3G092EA13
3G092EA14
3G092EA22
3G092FA03
3G092HA01Z
3G092HA05Z
3G092HD05Z
3G092HE01Z
3G092HE08Z
3G092HG04Z
3G384AA28
3G384BA01
3G384BA22
3G384DA05
3G384FA01Z
3G384FA08Z
3G384FA28Z
3G384FA37Z
3G384FA56Z
3G384FA75Z
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA01
5H125BC15
5H125CA02
5H125CA18
5H125EE06
5H125EE16
5H125EE27
5H125EE31
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】加速要求時に可変圧縮比内燃機関の圧縮比を相対的に高い圧縮比に保ち、燃費の向上を図る。
【解決手段】ハイブリッド車両は、走行駆動源として内燃機関とモータとを備えており、内燃機関は可変圧縮比機構を有する。目標圧縮比は、内燃機関の負荷が高いほど低圧縮比となるように定められている。加速操作により要求トルクがノッキング限界トルクを越えたら一時的にモータアシストを行い、圧縮比は加速要求前の圧縮比に保つ。モータ温度が設定温度を越えたら、圧縮比を徐々に低下し、これに応じて内燃機関101の出力トルクを増加させるとともにモータ105の出力トルクを減少させる。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ走行駆動源となる内燃機関およびモータと、バッテリと、を備え、
上記内燃機関は、可変圧縮比機構を備え、機関負荷と機関回転速度とに基づいて機関負荷が高いほど目標圧縮比が低圧縮比側に設定される可変圧縮比内燃機関である、ハイブリッド車両の制御方法であって、
運転者により加速が要求されたときに、上記内燃機関の圧縮比を加速要求前の圧縮比に維持しつつ、要求加速に対し不足する車両駆動力を上記モータによってアシストする、
ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
加速が要求されたときに、上記内燃機関の圧縮比を加速要求前の圧縮比に維持しつつ、この圧縮比の下で可能な最大駆動力が生じるように上記内燃機関を制御する、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
上記モータによるアシストが所定期間継続したときは、上記内燃機関の圧縮比を徐々に低下させつつ当該内燃機関が負担する駆動力の割合を徐々に増加する、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
上記モータによるアシストが所定期間継続するまでは、上記内燃機関の圧縮比の低下を行わない、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
上記モータの温度が所定値以上であるとき、上記バッテリのSOCが所定値以下であるとき、または、上記モータないしその制御系統が異常であるとき、は、上記モータによるアシストを行わずに上記内燃機関の圧縮比を低下させて当該内燃機関の駆動力を増加させる、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
継続的な加速要求が発生するかどうかを予測し、
継続的な加速要求の発生が予測されたときは、予め上記内燃機関の圧縮比を低下させる、
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
要求された車両駆動力が上記内燃機関の上記最大駆動力と上記モータの定格出力との和を越えたときは、モータの定格出力を越える過電流運転を一時的に許容する、
請求項2に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項8】
一時的な過電流運転を行っている間に、上記内燃機関の圧縮比を低下させる、
請求項7に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項9】
上記内燃機関の圧縮比の低下に伴い増加するノッキング限界トルクと上記モータのトルクとの和が要求された車両駆動力を満足するように内燃機関とモータとを制御する、
請求項6に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項10】
走行駆動源として車両に搭載され、かつ可変圧縮比機構を備え、機関負荷と機関回転速度とに基づいて機関負荷が高いほど目標圧縮比が低圧縮比側に設定される可変圧縮比内燃機関と、
車両を駆動する駆動力を出力可能なモータおよびバッテリと、
を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
運転者により加速が要求されたときに、上記内燃機関の圧縮比を加速要求前の圧縮比に維持しつつ、要求加速に対し不足する車両駆動力を上記モータによってアシストする、
ハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可変圧縮比内燃機関を走行駆動源とするとともに、車両駆動力のアシストが可能なモータを備えたハイブリッド車両の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の機械的圧縮比を変更する可変圧縮比機構は、従来から種々の形式のものが知られている。例えば、複リンク式ピストンクランク機構のリンクジオメトリの変更によってピストン上死点位置を上下に変位させるようにした可変圧縮比機構が本出願人らによって多数提案されている(特許文献2)。また、クランクシャフトの中心位置に対しシリンダの位置を上下に変位させることで同様に機械的圧縮比を変化させるようにした可変圧縮比機構も公知である。
【0003】
特許文献1には、可変圧縮比内燃機関とモータジェネレータとを走行駆動源として車両に搭載したハイブリッド車両が開示されている。ここには、車両全体の効率が高くなるように内燃機関の圧縮比を含む多数のパラメータを最適に設定する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-044433号公報
【特許文献2】特開2004-190590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関の圧縮比は、基本的には、高圧縮比である方が効率が高くなって燃費が良好となるが、負荷が高くなるとノッキングが生じて点火時期リタードが必要となる。そのため、可変圧縮比内燃機関においては、機関負荷と機関回転速度とに基づいて、機関負荷が高いほど圧縮比が低くなる特性でもって目標圧縮比が設定される。
【0006】
ここで、この目標圧縮比の特性は、過渡時(換言すれば急加速時)の圧縮比変化の遅れを考慮して耐ノック性の上で余裕を有する設定となっている。つまり、急加速により要求トルクが急増したときに、目標圧縮比は速やかに低くなるが、実際の圧縮比変化速度は有限であり、相対的に圧縮比変化の遅れが生じる。そのため、このように急加速時に圧縮比変化が遅れたとしても過渡的なノッキングの発生を回避できるように、目標圧縮比は、燃費最良のレベルよりも低圧縮比寄りに設定せざるを得ないのである。
【0007】
そのため、可変圧縮比機構を用いる利点である燃費向上の上で、なお改善の余地があった。
【0008】
なお、特許文献1は、可変圧縮比内燃機関とモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両を開示しているが、具体的に圧縮比をどのように制御するか、については、記載がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、それぞれ走行駆動源となる内燃機関およびモータと、バッテリと、を備え、
上記内燃機関は、可変圧縮比機構を備え、機関負荷と機関回転速度とに基づいて機関負荷が高いほど目標圧縮比が低圧縮比側に設定される可変圧縮比内燃機関である、ハイブリッド車両の制御方法であって、
運転者により加速が要求されたときに、上記内燃機関の圧縮比を加速要求前の圧縮比に維持しつつ、要求加速に対し不足する車両駆動力を上記モータによってアシストする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、急な加速要求に対して内燃機関の圧縮比を低下させずにモータによるアシストを行うので、ノッキング発生限界を越えることなく比較的に高い圧縮比による内燃機関の運転で加速要求に対応することができ、加速性能と燃費向上とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が適用されるハイブリッド車両として四輪駆動車の例を示す構成説明図。
図2】本発明が適用されるハイブリッド車両として二輪駆動車の例を示す構成説明図。
図3】可変圧縮比機構を備えた内燃機関の構成説明図。
図4】目標圧縮比マップの特性を示す特性図。
図5】一実施例の制御のメインルーチンを示すフローチャート。
図6】ステップ12,13の処理の一例を示すフローチャート。
図7】ステップ12,13の処理の他の例を示すフローチャート。
図8】ステップ12,13の処理のさらに他の例を示すフローチャート。
図9】ステップ11の処理の例を示すフローチャート。
図10】加速要求時の動作を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明が適用されるハイブリッド車両として四輪駆動車の例を示している。このハイブリッド車両は、後述する可変圧縮比機構を備えた内燃機関101によって変速機102を介して前輪103が駆動される。後輪104は、各輪毎にモータ105によって駆動される。これらのモータ105は、バッテリ106の電力でもって図示せぬインバータ装置を介して駆動される。なお、内燃機関101はバッテリ106に接続されたジェネレータ107を備えている。
【0013】
図2は、この発明が適用されるハイブリッド車両として二輪駆動車の例を示している。このハイブリッド車両は、前輪103が内燃機関101とモータ105とによって駆動されるいわゆるパラレル形式の構成となっている。モータ105は、バッテリ106の電力でもって図示せぬインバータ装置を介して駆動される。モータ105は、発電機としても機能するモータジェネレータであり、バッテリ106の充電状態(SOC)が適当な範囲内にあるように力行と発電とが制御される。なお、102は変速機を示している。
【0014】
図1の四輪駆動車および図2の二輪駆動車のいずれにあっても、内燃機関101およびモータ105の双方が走行駆動源となり、内燃機関101の駆動力でもって走行している間に、モータ105の駆動力によるアシストが可能である。
【0015】
モータ105の動作やバッテリ106の充放電および内燃機関101の運転は、図示しない車両コントローラによって制御される。車両コントローラは、モータ105を制御するモータコントローラや内燃機関101を制御する後述するエンジンコントローラ、バッテリ106を管理するバッテリコントローラなど、互いに通信可能なように接続された複数のコントローラによって構成されている。車両コントローラには、図示しないアクセルペダルの開度や車速等の情報が入力される。
【0016】
図3は、内燃機関101の構成を概略的に示した説明図である。この内燃機関101は、例えば複リンク式ピストンクランク機構を利用した可変圧縮比機構2を備えた4ストロークサイクルの火花点火内燃機関(いわゆるガソリン機関)であって、図示するように、燃焼室3の天井壁面に、一対の吸気弁4および一対の排気弁5が配置されているとともに、これらの吸気弁4および排気弁5に囲まれた中央部に点火プラグ6が配置されている。
【0017】
上記吸気弁4によって開閉される吸気ポート15の下方には、燃焼室3内に燃料を直接に噴射する筒内噴射用燃料噴射弁16が配置されている。なお、吸気ポート15へ向けて燃料を噴射するポート噴射型の構成であってもよい。
【0018】
上記吸気ポート15に接続された吸気通路14のコレクタ部18上流側には、エンジンコントローラ31からの制御信号によって開度が制御される電子制御型スロットルバルブ19が介装されている。スロットルバルブ19の上流側に、吸入空気量を検出するエアフロメータ20が配設されており、さらに上流側に、エアクリーナ21が配設されている。
【0019】
また、排気ポート17に接続された排気通路25には、三元触媒からなる触媒装置26が介装されており、その上流側に、空燃比を検出する空燃比センサ28が配置されている。
【0020】
上記エンジンコントローラ31には、上記のエアフロメータ20、空燃比センサ28のほか、機関回転速度を検出するためのクランク角センサ32、冷却水温を検出する水温センサ33、コレクタ部18内の圧力を検出する吸気圧センサ34、等のセンサ類の検出信号が入力されている。さらに、上述した車両コントローラを介して種々の検出信号が入力されるとともに、車両コントローラから目標トルクの指令を受ける。エンジンコントローラ31は、これらの信号に基づき、燃料噴射弁16による燃料噴射量および噴射時期、点火プラグ6による点火時期、スロットルバルブ19の開度、等を最適に制御している。
【0021】
一方、可変圧縮比機構2は、公知の複リンク式ピストンクランク機構を利用したものであって、クランクシャフト41のクランクピン41aに回転自在に支持されたロアリンク42と、このロアリンク42の一端部のアッパピン43とピストン44のピストンピン44aとを互いに連結するアッパリンク45と、ロアリンク42の他端部のコントロールピン46に一端が連結されたコントロールリンク47と、このコントロールリンク47の他端を揺動可能に支持するコントロールシャフト48と、を主体として構成されている。上記クランクシャフト41および上記コントロールシャフト48は、シリンダブロック49下部のクランクケース49a内で軸受構造を介して回転自在に支持されている。上記コントロールシャフト48は、該コントロールシャフト48の回動に伴って位置が変化する偏心軸部48aを有し、上記コントロールリンク47の端部は、詳しくは、この偏心軸部48aに回転可能に嵌合している。上記の可変圧縮比機構2においては、コントロールシャフト48の回動に伴ってピストン44の上死点位置が上下に変位し、従って、機械的な圧縮比が変化する。
【0022】
また、上記可変圧縮比機構2の圧縮比を可変制御する駆動機構として、この実施例では、クランクシャフト41と平行な回転中心軸を有する電動アクチュエータ51がクランクケース49aの外壁面に配置されており、この電動アクチュエータ51の出力回転軸に固定された第1アーム52と、コントロールシャフト48に固定された第2アーム53と、両者を連結した中間リンク54と、を介して、電動アクチュエータ51とコントロールシャフト48とが連動している。電動アクチュエータ51は、軸方向に直列に配置された電動モータおよび変速機構を含んでいる。この電動アクチュエータ51は、機関運転条件に応じた目標圧縮比を実現するように、エンジンコントローラ31からの制御信号によって制御される。
【0023】
エンジンコントローラ31は、内燃機関101の運転条件として内燃機関101の負荷Te(換言すれば要求トルク)と回転速度Neとをパラメータとして目標圧縮比を割り付けた圧縮比マップを備えており、このマップに基づいて目標圧縮比を設定する。図4は、目標圧縮比マップの特性を概略的に示しており、ここに図示するように、目標圧縮比は、基本的には、低負荷側では高圧縮比であり、負荷が高いほどノッキング抑制等のために低圧縮比となる。図4には、代表的な圧縮比としてCR1~CR4の4つの圧縮比値の特性が図示されており、「CR1>CR2>CR3>CR4」である。なお、可変圧縮比機構2は、圧縮比を連続的に変化させることが可能であるが、実際の制御においては、制御の簡略化のために、目標圧縮比が複数段階に段階的に設定されている。
【0024】
上記のように構成された本実施例のハイブリッド車両においては、運転者により加速が要求されたとき、つまりアクセルペダルが大きく踏み込まれたときに、内燃機関101の圧縮比を加速要求前の圧縮比に維持しつつ、要求加速に対し不足する車両駆動力をモータ105によってアシストする制御がなされる。
【0025】
このとき、好ましくは、内燃機関101の圧縮比を加速要求前の圧縮比に維持しつつ、この圧縮比の下で可能な最大駆動力(ノッキング限界トルク)が生じるように内燃機関101を制御する。これによりモータ105が負担する駆動力が小さくなり、モータ105の温度上昇やバッテリ106の電力消費が抑制される。
【0026】
また、モータ105によるアシストが所定期間継続したときは、内燃機関101の圧縮比を徐々に低下させつつ内燃機関101が負担する駆動力の割合を徐々に増加することが望ましい。このようにすれば、ノッキングを回避しつつモータ105の負担を小さくしていくことができる。
【0027】
なお、モータ105によるアシストが所定期間継続するまでは、内燃機関101の圧縮比の低下を行わないことが望ましい。比較的に高い圧縮比の状態をできるだけ長く保つことで、燃費の向上が図れる。
【0028】
また、モータ105の温度が所定値以上であるとき、バッテリ106のSOCが所定値以下であるとき、または、モータ105ないしその制御系統の異常によりモータ105がトルクを十分に発生できないとき、は、モータ105によるアシストは行わない。この場合は、加速要求に対し、内燃機関101の圧縮比を低下させて内燃機関101の駆動力を増加させる。
【0029】
ところで、モータ105として比較的に小型のものを用いた場合、定格出力が比較的小さくなる。一つの例では、加速時に要求された車両駆動力が、内燃機関101のそのときの圧縮比の下で可能な最大駆動力(ノッキング限界トルク)とモータ105の定格出力との和を越えたときは、モータ105の定格出力を越える過電流運転を一時的に許容するようにしてもよい。これにより、小型のモータ105の利用が可能となる。
【0030】
そして、この場合、一時的な過電流運転を行っている間に、内燃機関101の圧縮比を低下させることが望ましい。内燃機関101の圧縮比を低下させることで、ノッキング限界トルクが高くなる。
【0031】
また、過度のモータアシストの利用を回避するために、継続的な加速要求が発生するかどうかを予測し、継続的な加速要求の発生が予測されたときは、予め内燃機関101の圧縮比を低下させるようにしてもよい。例えば、カーナビゲーションシステムの道路情報により平坦路や降坂路から登坂路に移行すると予測した場合、カーナビゲーションシステムの渋滞情報により渋滞が終了すると予測した場合、自動運転機能により追い越しなどの加速を行うと予測した場合、運転者の操作履歴に基づく運転傾向から急加速の操作が発生すると予測した場合、運転者が運転モードとしてスポーツモード(これに準ずるモードを含む)を選択した場合、などでは、加速要求が発生するものとして予め内燃機関101の圧縮比を低下させる。
【0032】
そして、このように圧縮比を予め低下させているときに実際に加速要求があった場合は、内燃機関101の圧縮比の低下に伴い増加するノッキング限界トルクとモータ105のトルクとの和が要求された車両駆動力を満足するように内燃機関101とモータ105とを制御することが望ましい。
【0033】
次に、図5図9は、上述した制御を簡易的なフローチャートの形で表したものであり、以下、これを説明する。なお、これらの図は、技術的に厳密なフローチャートではなく、アイデアを説明するための説明的なものである。図5は、加速要求を検出したときに始まる全体的なメインルーチンを示す。ステップ11,12,13は、任意選択的に付加される処理であり、これらについては後述する。図5のステップ1では、加速要求における要求駆動力がそのときの圧縮比の下でのノッキング限界トルクを越えているかどうか判定する。YESであれば、ステップ2へ進み、モータ105によるモータアシストを行う。NOであれば、ステップ6へ進み、モータアシストは行わず、内燃機関101の圧縮比は変更しない。要求を満たすように、ノッキング限界トルクの範囲内で内燃機関101の出力トルクを増加する。
【0034】
モータアシストの開始後、ステップ2に続いてステップ3に進み、要求駆動力が、ノッキング限界トルクとモータ105の定格出力との和よりも小さいかどうか判定する。YESであれば、ステップ4へ進み、定格出力内でモータ105によるモータアシストを行う。NOであれば、ステップ5へ進み、一時的に過電流でのモータアシストを行うとともに、徐々に内燃機関101の圧縮比を低下させる。なお、圧縮比の低下は、同時に内燃機関101の出力トルクの増加を意味する。
【0035】
図6は、図5のステップ12およびステップ13において任意選択的になされる処理の一例を示しており、ステップ61では、加速要求時間が設定時間よりも短いかを判定する。YESであれば、モータアシストを実行し、内燃機関101の圧縮比は変更しない(ステップ62)。なお、設定時間を越えたら圧縮比を徐々に低下する。
【0036】
図7は、図5のステップ12およびステップ13において任意選択的になされる処理の他の例を示しており、ステップ71では、モータ105の温度が所定値以上であるか、バッテリ106のSOCが所定値以下であるか、または、モータ105ないしその制御系統の異常によりモータ105がトルクを十分に発生できない状態であるか、判定する。YESであれば、モータ105によるアシストは行わず、内燃機関101の圧縮比を低下させて内燃機関101の駆動力を増加させる(ステップ72)。
【0037】
図8は、図5のステップ12およびステップ13において任意選択的になされる処理の他の例を示しており、ステップ81では、モータ105の温度が設定温度以上となったかどうか判定する。YESであれば、モータ105の出力を低下させる(ステップ82)。
【0038】
なお、図6図8の処理は、適当に組み合わせて実行することも可能である。
【0039】
図9は、図5のステップ11において任意選択的になされる処理の一例を示している。これは、前述したように、継続的な加速要求が発生するかどうかを予測し、継続的な加速要求の発生が予測されたときは、予め内燃機関101の圧縮比を低下させるようにする処理である。ステップ91では、例えば、カーナビゲーションシステムの道路情報により平坦路や降坂路から登坂路に移行すると予測した場合、カーナビゲーションシステムの渋滞情報により渋滞が終了すると予測した場合、自動運転機能により追い越しなどの加速を行うと予測した場合、運転者の操作履歴に基づく運転傾向から急加速の操作が発生すると予測した場合、運転者が運転モードとしてスポーツモード(これに準ずるモードを含む)を選択した場合、など、加速要求が予測されるかどうかを判定する。YESであれば、内燃機関101の圧縮比を低下させる(ステップ92)。
【0040】
次に、図10は、加速要求時の動作の一例を示すタイムチャートであり、上から順に、(a)アクセル開度、(b)要求トルク(車両の要求駆動力)、(c)出力トルク(内燃機関101の出力トルクおよびモータ105の出力トルク)、(d)スロットルバルブ開度、(e)内燃機関101の圧縮比、(f)モータ105の温度、を示している。
【0041】
この例では、(a)欄に示すように、運転者がステップ的に3回の加速操作を行っている。(c),(d),(e)欄における破線は、モータアシストを行わない従来の比較例の特性を示しており、基本的に要求トルクに対応してスロットルバルブ開度および内燃機関101の出力トルクが変化する。従って、最初の加速操作に対応して圧縮比が低下し、2回目の加速操作に対応してさらに圧縮比が低下する。目標圧縮比がステップ的に変化しても、圧縮比の変化速度は有限であるので、(e)欄の破線のように実際の圧縮比は徐々に変化する。このように、従来は、加速要求に応じて圧縮比が低圧縮比となるので、十分な燃費向上が図れない。
【0042】
一方、実施例においては、最初の加速要求における要求トルクがノッキング限界トルクを越えないことから、スロットルバルブ開度が増加して内燃機関101の出力トルクが増加するものの、モータアシストは行われず、圧縮比は低下しない。また、2回目の加速操作については、要求トルクがノッキング限界トルクを越えるので、(c)欄に示すようにモータアシストが開始される。内燃機関101の圧縮比は低下せず、内燃機関101の出力トルクは増加しない。3回目の加速要求によって要求トルクが増加するので、モータ105の出力トルクがさらに増加する。例えば定格出力を越えた過電流でのモータアシストが許容される。
【0043】
図示例では、3回目の加速要求に対応してモータ105の出力トルクが増加した後に、例えばモータ温度の制限あるいはモータアシスト継続時間の制限等によって、内燃機関101の圧縮比の低下が開始される。この圧縮比の低下に応じて内燃機関101の出力トルクが徐々に増加するとともにモータ105の出力トルクが徐々に減少していく。
【0044】
このように、上記実施例では、加速要求時にモータアシストを行うことで、内燃機関101の圧縮比が相対的に高い圧縮比に維持される。(e)欄に斜線を施して示す領域は、相対的に高圧縮比となる領域であり、これによって内燃機関101の燃費向上が図れる。なお、車両全体としてはモータアシストによる電力消費があるが、この電力消費による車両の燃費への影響は小さいので、モータアシストによる電力消費を考慮したとしても、車両の燃費が向上する。
【0045】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。上記実施例では、可変圧縮比機構として複リンク式ピストンクランク機構を利用した可変圧縮比内燃機関を例示したが、本発明においては他の形式の可変圧縮比機構であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
2…可変圧縮比機構
19…スロットルバルブ
31…エンジンコントローラ
101…内燃機関
105…モータ
106…バッテリ
図1
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図3
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図10