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  • 特開-回転アーク溶接方法 図1
  • 特開-回転アーク溶接方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099106
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】回転アーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/022 20060101AFI20240718BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B23K9/022 Z
B23K9/12 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002806
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081AA13
4E081BB15
4E081CA07
4E081DA53
4E081DA66
(57)【要約】
【課題】正逆送給アーク溶接と回転アーク溶接とを組み合わせて溶接する場合において、溶接状態を安定化すること。
【解決手段】アーク期間中は溶接ワイヤ1を正送し、短絡期間中は溶接ワイヤ1を逆送する正逆送給を行い、アーク3を円弧状に回転させながら溶接する回転アーク溶接方法において、回転の周波数Rfrに応じて正逆送給の周波数Ffrを設定する。回転の周波数Rfrが大きくなるほど正逆送給の周波数Ffrが大きくなるように設定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク期間中は溶接ワイヤを正送し短絡期間中は前記溶接ワイヤを逆送する正逆送給を行い、
アークを円弧状に回転させながら溶接する回転アーク溶接方法において、
前記回転の周波数に応じて前記正逆送給の周波数を設定する、
ことを特徴とする回転アーク溶接方法。
【請求項2】
前記回転の周波数が大きくなるほど前記正逆送給の周波数が大きくなるように設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転アーク溶接方法。
【請求項3】
溶接速度に応じて前記回転の周波数を設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転アーク溶接方法。
【請求項4】
前記溶接速度が速くなるほど前記回転の周波数が大きくなるように設定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の回転アーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク期間中は溶接ワイヤを正送し短絡期間中は溶接ワイヤを逆送する正逆送給を行い、アークを円弧状に回転させて溶接する回転アーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤをアーク期間中は正送し短絡期間中は逆送する正逆送給アーク溶接が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この正逆送給アーク溶接では、一定の送給速度の従来技術に比べて、短絡とアークとの繰り返しの周期を安定化することができるので、スパッタ発生量の削減、ビード外観の改善等の溶接品質の向上を図ることができる。
【0004】
また、給電チップを回転運動させることによって溶接ワイヤ及びアークを円弧状に回転させて溶接する回転アーク溶接方法が知られている(特許文献2参照)。回転アーク溶接方法は、溶接トーチを左右にウィービングさせて溶接する場合に比べて、アークを常に一定の速度で円弧状に移動させることができ、かつ、その移動速度も高速にすることができる。回転アーク溶接方法では、ビード幅を広げることができるので、高速溶接及びギャップを有するワークの溶接に対して溶接性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-1270号公報
【特許文献2】特公平4-8148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
正逆送給アーク溶接と回転アーク溶接とを組み合わせて溶接を行うと、2m/minを超える高速溶接が可能となる。しかし、この場合において、正逆送給の周期及び回転の速度が適正値でないと、溶接状態は不安定になる。
【0007】
そこで、本発明では、正逆送給アーク溶接と回転アーク溶接とを組み合わせて溶接する場合において、溶接状態を安定化することができる回転アーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
アーク期間中は溶接ワイヤを正送し短絡期間中は前記溶接ワイヤを逆送する正逆送給を行い、
アークを円弧状に回転させながら溶接する回転アーク溶接方法において、
前記回転の周波数に応じて前記正逆送給の周波数を設定する、
ことを特徴とする回転アーク溶接方法である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記回転の周波数が大きくなるほど前記正逆送給の周波数が大きくなるように設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転アーク溶接方法である。
【0010】
請求項3の発明は、
溶接速度に応じて前記回転の周波数を設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転アーク溶接方法である。
【0011】
請求項4の発明は、
前記溶接速度が速くなるほど前記回転の周波数が大きくなるように設定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の回転アーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る回転アーク溶接方法によれば、正逆送給アーク溶接と回転アーク溶接とを組み合わせて溶接する場合において、溶接状態を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る回転アーク溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
図2】本発明の実施の形態に係る回転アーク溶接方法を示す図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る回転アーク溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0016】
破線で囲まれた溶接トーチWTは、主にノズル5、給電チップ4、溶接ワイヤ1及び回転機構8を備えている。
【0017】
ノズル5の内側には、ガスボンベGB及びガス配管から炭酸ガス、炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガス、アルゴンガス等のシールドガス6が供給される。ガス配管にはシールドガス6の流量を調整するためのガス流量調整器GFが設けられている。
【0018】
給電チップ4は、中心軸から偏心した位置にあり、回転機構8によって中心軸周りに円弧状に回転する。円弧の直径は、2~10mm程度である。
【0019】
回転機構8は、特許文献2等に開示されたモータを含む公知の機
構であり、後述する回転周波数設定信号Rfrを入力として、この値に設定された回転周波数RFで給電チップ4を回転させる。
【0020】
溶接ワイヤ1は、給電チップ4の貫通孔から給電及び送給される。溶接ワイヤ1は、送給機WMを駆動源とする送給ロール7の回転によって送給される。溶接ワイヤ1と母材2との間には、アーク3が発生している。アーク3を包むようにシールドガス6が流れる。
【0021】
溶接電源PSは、給電チップ4を介して溶接ワイヤ1と母材2との間に、溶接電圧Vwを印加し、溶接電流Iwを通電する。さらに、溶接電源PSは、後述する正逆送給周波数設定信号Ffrを入力として、アーク期間中は正送ピーク値で正送させ、短絡期間中は逆送ピーク値で逆送させる正逆送給制御によって溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給するための送給制御信号Fcを送給機WMに出力する。正送ピーク値及び逆送ピーク値は、正逆送給周波数が正逆送給周波数設定信号Ffrの値と等しくなるように設定される。
【0022】
溶接速度設定回路WSRは、予め定めた溶接速度設定信号Wsrを出力する。図示しない溶接ロボットを使用する場合には、図示しないロボット制御装置から溶接速度設定信号Wsrが出力される。
【0023】
回転周波数設定回路RFRは、上記の溶接速度設定信号Wsrを入力として、予め定めた回転周波数設定関数によって算出された回転周波数設定信号Rfrを出力する。
【0024】
正逆送給周波数設定回路FFRは、上記の回転周波数設定信号Rfrを入力として、予め定めた正逆送給周波数設定関数によって算出された正逆送給周波数設定信号Ffrを出力する。
【0025】
図2は、本発明の実施の形態に係る回転アーク溶接方法を示す図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接ワイヤの先端位置と溶接線との離反距離Lw[mm]の時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fw[m/min]の時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vw[V]の時間変化を示し、同図(D)は溶接電流Iw[A]の時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0026】
溶接ワイヤの先端位置はアーク発生部の中心位置であり、溶接線を中心として、その周りを円弧状に回転運動している。したがって、同図(A)に示すように、溶接ワイヤの先端位置と溶接線との離反距離Lwは、時刻t1に0mmとなり、その後は正弦波状に正の方向に大きくなった後に小さくなり、時刻t2に再び0mmとなり、その後は正弦波状に負の方向に大きくなった後に小さくなり、時刻t3に0mmにもどる。時刻t1~t3を1周期として、図1の回転周波数設定信号Rfrによって設定される回転周波数で繰り返すことになる。同時に、図示しない円弧の中心位置は、図1の溶接速度設定信号Wsrによって設定される溶接速度で溶接線上を移動する。離反距離Lwの正の値は溶接線から右方向への離反距離を示し、負の値は左方向への離反距離を示している。
【0027】
同図では、時刻t1~t2の半周期中に、2回の短絡期間とアーク期間とが繰り返されている。同図(B)に示すように、送給速度Fwは、短絡期間中は負の値の逆送ピーク値となり、アーク期間中は正の値の正送ピーク値となっている。送給速度Fwの正逆送給周波数が図1の正逆送給周波数設定信号Ffrの値と等しくなるように逆送ピーク値及び正送ピーク値が設定される。 同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは短絡期間中は数Vの短絡電圧値となり、アーク期間中は数十Vのアーク電圧値となる。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中は、50A程度の小電流値の一定期間を経て、その後は傾斜を有して増加し、400A程度のピーク値に達するとその値を維持し、溶滴のくびれを検出すると40A程度の小電流値へと急減し、アークが発生するまでその状態を維持する。また、同図(D)に示すように、溶接電流Iwは、アーク期間中は、300A程度の大電流値の第1アーク期間、次第に減少する第2アーク期間、50A程度の小電流値の第3アーク期間へと経時的に切り換えられて通電する。時刻t2~t3の半周期中も、同様に2周期の短絡期間とアーク期間とが繰り返している。実際には、回転運動の半周期中に約5周期の短絡期間とアーク期間とが含まれることになる。
【0028】
以下に回転周波数及び正逆送給周波数の設定方法について説明する。
1)図1の溶接速度設定回路WSRによって溶接速度設定信号Wsrが出力される。
【0029】
2)図1の回転周波数設定回路RFRにおいて、溶接速度設定信号Wsr[m/min]が予め定めた回転周波数設定関数に入力されて回転周波数設定信号Rfr[Hz]が出力される。関数の例を以下にしめす。
Rfr=Wsr×10
したがって、溶接速度に応じて回転の周波数を設定している。また、溶接速度が速くなるほど、回転の周波数が大きくなるように設定している。このようにすることによって、溶接速度に応じて回転の周波数が適正化されるので、溶接状態を安定化することができる。
【0030】
3)正逆送給設定回路FFRにおいて、回転周波数設定信号Rfr[Hz]が予め定めた正逆送給周波数設定関数に入力されて正逆送給周波数設定信号Ffr[Hz]が出力される。関数の例を以下にしめす。
Ffr=Rfr×10+20
したがって、回転の周波数に応じて正逆送給の周波数を設定している。また、回転の周波数が大きくなるほど、正逆送給の周波数が大きくなるように設定している。このようにすることによって、回転の周波数に応じて正逆送給の周波数が適正化されるので、溶接状態を安定化することができる。
【0031】
上記の数値例を以下に示す。
Wsr=0.5m/min Rfr=5Hz Ffr=70Hz
Wsr=1m/min Rfr=10Hz Ffr=120Hz
Wsr=2m/min Rfr=20Hz Ffr=220Hz
Wsr=3m/min Rfr=30Hz Ffr=320Hz
【符号の説明】
【0032】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 給電チップ
5 ノズル
6 シールドガス
7 送給ロール
8 回転機構
Fc 送給制御信号
FFR 正逆送給周波数設定回路
Ffr 正逆送給周波数設定信号
GB ガスボンベ
GF ガス流量調整器
Iw 溶接電流
PS 溶接電源
RFR 回転周波数設定回路
Rfr 回転周波数設定信号
Vw 溶接電圧
WM 送給機
WSR 溶接速度設定回路
Wsr 溶接速度設定信号
WT 溶接トーチ
図1
図2