(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099107
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20240718BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/095 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002807
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082CA01
4E082DA01
4E082EC03
4E082EC13
4E082EF07
4E082GA05
(57)【要約】
【課題】消耗電極アーク溶接において、溶接電圧の検出信号にノイズが重畳しても、くびれの誤検出を抑制して安定した溶接状態を維持すること。
【解決手段】溶接ワイヤ1を送給し、アーク期間と短絡期間とを繰り返し、短絡期間中は溶接電流Iwを上昇させ、溶滴のくびれを検出すると溶接電流Iwを減少させてアーク3を再発生させるアーク溶接制御方法において、短絡期間中の溶接電圧Vwの経時的変化を示す標準電圧波形Wsrを設定し、短絡期間中の溶接電圧の検出信号Vdと標準電圧波形Wsrとの差分値に基づいてくびれの検出Ndを行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給し、アーク期間と短絡期間とを繰り返し、
前記短絡期間中は溶接電流を上昇させ、溶滴のくびれを検出すると前記溶接電流を減少させてアークを再発生させるアーク溶接制御方法において、
前記短絡期間中の溶接電圧の経時的変化を示す標準電圧波形を設定し、
前記短絡期間中の溶接電圧の検出信号と前記標準電圧波形との差分値に基づいて前記くびれの検出を行う、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記標準電圧波形を、前記溶接電圧の検出信号の平均値を溶接中に算出することによって設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記くびれの検出を、前記溶接電圧の検出信号の上昇率及び前記差分値に基づいて行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項4】
前記短絡期間の開始時点又は前記溶接電流の上昇の開始時点から所定期間が経過した後は、前記くびれの検出を前記溶接電圧の検出信号の上昇率に基づいて行う、
ことを特徴とする請求項3に記載のアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出して溶接電流を減少させるアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中は溶接電流を上昇させ、その後にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このくびれ検出制御方法によって、アーク再発生時の溶接電流の値が小さくなるために、スパッタ発生量が非常に少なくなり、溶融池の振動が小さくなりビード外観が良好になる。
【0003】
くびれの検出は、短絡期間中の溶接電圧の微小な変化に基づいて行われる。この微小な溶接電圧の変化を検出するために、アーク発生部の近傍に検出線が配線される。しかし、溶接電圧の検出信号には、溶接ケーブルのインダクタンス値及び溶接電流の変化に伴う電磁的ノイズが重畳する。このために、溶接ケーブルのインダクタンス値が大きくなり、かつ、溶接電流の変化が急峻になると、溶接電圧の検出信号に重畳するノイズも大きくなる。この結果、くびれの誤検出が発生し、溶接状態が不安定になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明では、溶接電圧の検出信号にノイズが重畳しても、くびれの誤検出を抑制して安定した溶接状態を維持することができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給し、アーク期間と短絡期間とを繰り返し、
前記短絡期間中は溶接電流を上昇させ、溶滴のくびれを検出すると前記溶接電流を減少させてアークを再発生させるアーク溶接制御方法において、
前記短絡期間中の溶接電圧の経時的変化を示す標準電圧波形を設定し、
前記短絡期間中の溶接電圧の検出信号と前記標準電圧波形との差分値に基づいて前記くびれの検出を行う、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記標準電圧波形を、前記溶接電圧の検出信号の平均値を溶接中に算出することによって設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記くびれの検出を、前記溶接電圧の検出信号の上昇率及び前記差分値に基づいて行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法である。
【0009】
請求項4の発明は、
前記短絡期間の開始時点又は前記溶接電流の上昇の開始時点から所定期間が経過した後は、前記くびれの検出を前記溶接電圧の検出信号の上昇率に基づいて行う、
ことを特徴とする請求項3に記載のアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアーク溶接制御方法によれば、溶接電圧の検出信号にノイズが重畳しても、くびれの誤検出を抑制して安定した溶接状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0014】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0015】
上記の電源主回路PMの出力端子6aと溶接トーチ4とは溶接ケーブル7aで接続されており、もう一方の出力端子6bと母材2とは溶接ケーブル7bで接続されている。この溶接ケーブル7a、7bの長さは往復で最大40mになる場合もある。この溶接ケーブル7a、7bによるインダクタンス値がL(μH)となる。インダクタンス値Lは、長さ、敷設状態によって10~200μH程度の範囲で種々な値となる。
【0016】
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと出力端子6aとの間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。このために、くびれ検出制御によって減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0017】
溶接ワイヤ1は、送給機FDによって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0018】
溶接電圧検出回路VDは、アーク発生部の溶接電圧Vwを検出線5によって入力し、予め定めたカットオフ周波数のローパスフィルタを通して溶接電圧検出信号Vdを出力する。溶接電圧Vwは、給電チップ・母材間電圧である。給電チップの代わりに送給機FD又は溶接トーチ4の導電部から電圧を検出する場合もある。溶接電圧Vwは、くびれ検出の精度を高めるために、できる限りアーク発生部に近い位置での電圧であることが望ましい。検出線5は、溶接電圧Vwを検出するために、配線される。電源主回路PMのインバータ回路による高周波ノイズを除去するための上記のカットオフ周波数は、例えば10kHzに設定される。検出線5によって検出される溶接電圧検出信号Vdには、溶接ケーブル7a、7bのインダクタンス値L及び溶接電流Iwの変化に起因するノイズが重畳する。このノイズを上記のカットオフ周波数を低くすることによって除去しようとすると、溶滴のくびれ形成に伴う溶接電圧Vwの微小な変化まで除去されてしまうために、くびれの検出精度が低下することになる。このために、カットオフ周波数を低くすることは有効でない。
【0019】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。
【0020】
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値Vta(10V程度)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0021】
標準電圧波形設定回路WSRは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベルである短絡期間中の溶接電圧検出信号Vdを予め定めたサンプリング周期(10~100μs程度)ごとに検出して記憶し、記憶された時系列データを対応する時点ごとに平均化して標準電圧波形設定信号Wsrを出力する。上記の時系列データから後述する初期期間及びくびれが検出された後のデータを除外して標準電圧波形設定信号Wsrとしても良い。この標準電圧波形の設定を、予備実験によって事前に行っても良いし、実施工の溶接中に移動平均することによって行っても良い。
【0022】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の溶接電圧検出信号Vd及び上記の標準電圧波形設定信号Wsrを入力として、以下の1)~3)のいずれか一つの処理を行い、くびれ検出信号Ndを出力する。
1)溶接電圧検出信号Vdと標準電圧波形設定信号Wsrの短絡期間開始時点からの経過時間が同じである時系列データと比較して差分値=Vd-Wsrを算出する。この差分値が予め定めた正の値の基準差分値以上になった時点で溶滴のくびれの形成状態が基準状態に達したと判別してHighレベルとなり、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルに戻るくびれ検出信号Ndを出力する。
2)溶接電圧検出信号Vdと標準電圧波形設定信号Wsrの短絡期間開始時点からの経過時間が同じである時系列データと比較して差分値=Vd-Wsrを算出する。この差分値が予め定めた正の値の基準差分値以上になり、かつ、溶接電圧検出信号Vdの上昇率が予め定めた正の値の基準上昇率以上になった時点で溶滴のくびれの形成状態が基準状態に達したと判別してHighレベルとなり、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルに戻るくびれ検出信号Ndを出力する。
3)上記の2)において、短絡判別信号SdがHighレベルに変化した時点又はそれから初期期間が経過して溶接電流Iwの上昇が開始した時点から、所定期間が経過した後は、溶接電圧検出信号Vdの上昇率が予め定めた正の値の基準上昇率以上になった時点で溶滴のくびれの形成状態が基準状態に達したと判別してHighレベルとなり、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルに戻るくびれ検出信号Ndを出力する。
【0023】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。
【0024】
電流比較回路CMは、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0025】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。この結果、溶接電流Iwは、低レベル電流設定信号Ilrの値を維持する。
【0026】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後は、初期電流設定値から上昇する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)上昇中に、くびれ検出信号NdがHighレベル(くびれ検出)に変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
4)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化し、予め定めた遅延期間Tdが経過すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時傾斜で予め定めた高レベル電流設定値まで上昇させ、その値を維持する。
【0027】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、両値の誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0028】
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、両値の誤差を増幅して電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0029】
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して上記の遅延期間及び上記の高電流期間が経過した時点までの期間中は電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、それ以外の期間中は電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+遅延期間Td+高電流期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0030】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給機FDに出力する。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態に係るアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は短絡判別信号Sdの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0032】
(1)時刻t1の短絡発生から時刻t2のくびれ検出時点までの動作
時刻t1において溶接ワイヤ1が母材2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急減する。そして、
図1の溶接電圧検出信号Vdの値が短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別して、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルからHighレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1においてアーク期間の溶接電流値から減少し、時刻t1~t11の初期期間中は予め定めた初期電流値となり、時刻t11~t2の期間中は次第に上昇する。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t2~t3のくびれ時間Tn中はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(D)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t2~t21の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t2以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、
図1のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常のアーク溶接装置と同一の状態となる。例えば、上記の初期期間は0.5ms程度であり、初期電流値は50A程度であり、上記の溶接電流Iwの上昇速度は100A/ms程度であり300A程度まで上昇する。
【0033】
同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが上昇を継続している期間中に次第に上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。この溶接電圧Vwの変化を
図1の溶接電圧検出信号Vdによって検出する。くびれの検出方法の詳細については、後述する。
【0034】
(2)時刻t2のくびれ検出時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、後述するようにくびれの形成状態が基準状態に達したことを溶接電圧検出信号Vdに基づいて検出すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは急減する。そして、時刻t21において、溶接電流Iwが低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、
図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。この結果、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t21からアークが再発生する時刻t3まで低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t2にくびれが検出されてから時刻t21に溶接電流Iwが低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので時刻t2から一旦減少した後に急上昇する。例えば、上記の低レベル電流値Ilは40A程度に設定される。
【0035】
(3)時刻t3のアーク再発生から遅延期間Tdが経過して時刻t4の高電流期間が終了するまでの動作
時刻t3においてアーク3が再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは急増し、
図1の溶接電圧検出信号Vdの値は短絡/アーク判別値Vta以上となるので、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルに変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御によって、時刻t3~t31の遅延期間Td中は低レベル電流値Ilを維持し、時刻t31~t4の高電流期間中は上昇して高レベル電流値に達するとその値を維持する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中はアーク電圧値となり、時刻t31~t4の高電流期間中はそれよりも大の高レベル電圧値となる。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t3にアークが再発生するので、Lowレベルに変化する。例えば、上記の遅延期間Tdは0.1ms程度に設定され、上記の高電流期間は1ms程度に設定され、上記の高電流値は400A程度に設定される。
【0036】
(4)時刻t4の高電流期間終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
時刻t4において高電流期間が終了すると、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、アーク負荷に応じて高レベル電流値から次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは高レベル電圧値から次第に減少する。
【0037】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、短絡期間中の溶接電圧の経時的変化を示す標準電圧波形を設定し、短絡期間中の溶接電圧の検出信号と前記標準電圧波形との差分値に基づいてくびれの検出を行う。短絡期間中の溶接電圧の経時的変化を示す標準電圧波形は、
図1の標準電圧波形設定回路WSRによって設定される。標準電圧波形設定回路WSRは、短絡期間中の溶接電圧検出信号Vdを予め定めたサンプリング周期(10~100μs程度)ごとに検出して記憶し、記憶された時系列データを対応する時点ごとに平均化して標準電圧波形を設定する。時系列データから初期期間及びくびれが検出された後のデータを除外して標準電圧波形としても良い。この標準電圧波形の設定は、予備実験によって事前に行われる。そして、短絡期間中の溶接電圧の検出信号と標準電圧波形との差分値に基づいてくびれの検出を行う。くびれの検出は、
図1のくびれ検出回路NDによって以下のようにして行われる。溶接電圧検出信号Vdと標準電圧波形設定信号Wsrの短絡期間開始時点からの経過時間が同じである時系列データと比較して差分値=Vd-Wsrを算出する。この差分値が予め定めた正の値の基準差分値以上になった時点で溶滴のくびれの形成状態が基準状態に達したと判別してくびれの検出を行う。標準電圧波形はノイズが重畳した溶接電圧の検出信号から生成されるために、標準電圧波形にも平均化されたノイズが重畳している。一方、溶接電圧の検出信号はくびれの形成状態が進行すると電圧値が上昇する。このために、溶接電圧の検出信号と標準電圧波形との差分値を算出すると、差分値はノイズ分を除去したくびれの進行に伴う電圧の上昇に対応した値となる。したがって、この差分値が予め定めた基準差分値以上になったことによってくびれの検出を行うことによって、ノイズの影響を受けることなく高精度にくびれの検出を行うことができる。この結果、本実施の形態では、溶接電圧の検出信号にノイズが重畳しても、くびれの誤検出を抑制して安定した溶接状態を維持することができる。
【0038】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、標準電圧波形を、溶接電圧の検出信号の平均値を溶接中に算出することによって設定する。標準電圧波形の設定を、実施工の溶接中に、数十回の短絡期間における溶接電圧の検出信号の時系列データをそれぞれ移動平均することによって行う。このようにすると、事前に予備実験を行う必要がないので、操作性が向上する。さらには、溶接条件が変化しても、自動的に標準電圧波形が生成されるので、くびれの検出精度がさらに向上する。
【0039】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、くびれの検出を、溶接電圧の検出信号の上昇率及び差分値に基づいて行う。くびれの検出は、
図1のくびれ検出回路NDによって以下のようにして行われる。溶接電圧検出信号Vdと標準電圧波形設定信号Wsrの短絡期間開始時点からの経過時間が同じである時系列データと比較して差分値=Vd-Wsrを算出する。この差分値が予め定めた正の値の基準差分値以上になり、かつ、溶接電圧検出信号Vdの上昇率が予め定めた正の値の基準上昇率以上になった時点で溶滴のくびれの形成状態が基準状態に達したと判別してくびれの検出を行う。このように、溶接電圧の検出信号の上昇率が基準上昇率以上になったことを条件に加えることによって、くびれの検出精度をさらに向上させることができる。
【0040】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、短絡期間の開始時点又は溶接電流の上昇の開始時点から所定期間が経過した後は、前記くびれの検出を溶接電圧の検出信号の上昇率に基づいて行う。
図2において、時刻t1の短絡期間の開始時点又は時刻t11の溶接電流の上昇の開始時点から所定期間が経過した後の時点は、時刻t11~t2の期間の途中となる。時刻t1~t11の初期期間は0.5ms程度であり、時刻t11~t2の溶接電流の上昇期間は2.5ms程度である。したがって、所定期間を、例えば時刻t1から1.5ms程度経過した時点に設定する。所定期間の経過以前の期間中は、ノイズによるくびれの誤検出が生じやすいために、差分値及び上昇率の2つの条件によってくびれの検出を行うようにしている。このことによって、くびれの誤検出を抑制している。他方、所定期間の経過以後の期間中は、ノイズの影響は相対的に低くなるので、上昇率のみによってくびれの検出を行うことによって、くびれの検出確率を高めることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 検出線
6a、6b 出力端子
7a、7b 溶接ケーブル
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FD 送給機
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Il 低レベル電流値
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SW 制御切換回路
Td 遅延期間
TR トランジスタ
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WSR 標準電圧波形設定回路
Wsr 標準電圧波形設定信号