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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099128
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240718BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240718BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240718BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16J15/3232 201
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002835
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田将史
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE24
3J006AE28
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006CA01
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA16
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC33
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA02
3J216DA12
3J216FA02
3J216FA03
3J216FA04
3J701AA02
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701AA82
3J701BA73
3J701DA09
3J701DA11
3J701DA16
3J701EA03
3J701EA06
3J701EA31
3J701EA49
3J701FA01
3J701FA13
3J701FA38
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを防止できるハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】回転フランジ10は、軸方向内側面の径方向内側部分に、ハブ3の中心軸を中心とする環状凹部13を有する。摺接環25は、環状凹部13の内側に配置されかつ該環状凹部13の内側に充填されたポッティング材28により該環状凹部13の内面に結合固定された部分、および、軸方向内側を向いた軸方向摺接面29を有する。シールリング26の複数本のシールリップ34a、34b、34cは、軸方向摺接面29に先端部を摺接させる軸方向リップを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する、外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する、ハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された、複数個の転動体と、
摺接環およびシールリングを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ、シール装置と、
を備え、
前記回転フランジは、軸方向内側面の径方向内側部分に、前記ハブの中心軸を中心とする環状凹部を有し、
前記摺接環は、前記環状凹部の内側に配置されかつ該環状凹部の内側に充填されたポッティング材により該環状凹部の内面に結合固定された部分、および、軸方向内側を向いた軸方向摺接面を有しており、
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定され、複数本のシールリップを有しており、
前記複数本のシールリップは、前記軸方向摺接面に先端部を摺接させる軸方向リップを含む、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記摺接環は、中空円板状の側板部と、該側板部の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて伸長する外径側筒部と、該側板部の径方向内側の端部から軸方向外側に向けて伸長する内径側筒部とを備え、
前記環状凹部の内側に配置されかつ該環状凹部の内側に充填されたポッティング材により該環状凹部の内面に結合固定された部分は、前記外径側筒部の少なくとも一部分および前記内径側筒部の少なくとも一部分を含み、
前記軸方向摺接面が、前記側板部の軸方向内側面により構成され、
前記側板部は、少なくとも1箇所に軸方向に貫通する通孔を有する、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記摺接環は、中空円板状の側板部と、該側板部の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長する外径側筒部と、該側板部の径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する内径側筒部とを備え、
前記環状凹部の内側に配置されかつ該環状凹部の内側に充填されたポッティング材により該環状凹部の内面に結合固定された部分は、前記側板部、前記外径側筒部の少なくとも一部分、および前記内径側筒部の少なくとも一部分を含み、
前記軸方向摺接面が、前記側板部の軸方向内側面により構成されている、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項4】
前記摺接環は、前記軸方向摺接面よりも径方向内側に位置する部分から軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する傾斜板部を有しており、
前記複数本のシールリップは、前記傾斜板部の径方向外側の側面により構成される傾斜摺接面に先端部を摺接させる中間リップを含む、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項5】
前記摺接環は、前記傾斜板部の径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する摺接筒部を有しており、
前記複数本のシールリップは、前記摺接筒部の外周面により構成される径方向摺接面に先端部を摺接させる径方向リップを含む、
請求項4に記載のハブユニット軸受。
【請求項6】
前記摺接筒部が、前記ハブの一部に隙間嵌めで外嵌されている、請求項5に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。外輪は、懸架装置に支持固定される。ハブの回転フランジには、車輪のホイールおよび制動用回転体が結合固定される。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側である。
【0004】
ハブユニット軸受は、外部からの泥水などの侵入を防止するため、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置をさらに備える。従来、このようなシール装置として、外輪の軸方向外側の端部に支持固定され、かつ、それぞれの先端部をハブの軸方向中間部外周面または回転フランジの軸方向内側面に全周にわたり摺接させた複数本のシールリップを有するシールリングが広く知られている。
【0005】
それぞれがシールリップの先端部を摺接させる部分である、ハブの軸方向中間部外周面および回転フランジの軸方向内側面には、総型の研削砥石である回転砥石を用いた仕上げの研削加工が施される。総型の研削砥石を用いてハブの表面に研削加工を施す際には、回転フランジの軸方向内側面に、対数螺旋状の研削筋目が形成される可能性がある。このような研削筋目が形成されると、シールリップの先端部が回転フランジの軸方向内側面に貼り付いて摩擦抵抗が増大したり、シールリップの先端部が研削筋目の凹部の内側に深く入り込み、ハブが回転した際に、径方向に往復移動させられて振動し、シール鳴きと呼ばれる異音が発生したりする可能性がある。
【0006】
その対策として、特開2017-129197号公報には、シール装置を、外輪の軸方向外側の端部に支持固定されたシールリングと、ハブの外周面のうち回転フランジと軸方向外側の内輪軌道との間に存在する円筒面状の溝肩部に圧入外嵌された金属板製の摺接環とにより構成して、シールリングを構成する複数のシールリップの先端部を摺接環の表面に摺接させることが提案されている。摺接環の素材となる金属板の表面には、圧延加工によって形成される該金属板の長手方向の微細な筋目は存在するものの、完成後の摺接環の表面には、対数螺旋状の筋目は存在せず、該表面の粗さは良好である。このため、当該シール装置によれば、シールリップの先端部の貼り付きによる摩擦抵抗の増大や異音の発生を抑えることができる。
【0007】
ところで、自動車が旋回走行する際に、旋回半径方向の外側の車輪を支持するハブユニット軸受には、大きな路面反力に基づくモーメント荷重が負荷される。この際に、溝肩部を含む、回転フランジの根元部の表面には、回転曲げ荷重が加わる。これに伴い、該表面には、半回転するごとに凹形状の変形と凸形状の変形とが交互に繰り返される態様の、繰り返し運動が生じる。このため、溝肩部に対する摺接環の嵌合力が不足していると、溝肩部に生じる凹凸変形の繰り返し運動を推進力として、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動する可能性がある。摺接環がハブに対して軸方向内側に移動すると、摺接環の表面に対するシールリップの先端部の軸方向の締め代が増大して、シールトルクが増大する可能性があり、好ましくない。
【0008】
これに対して、特開2017-129197号公報に記載の従来構造では、摺接環の径方向内端部に備えられた嵌合筒部を、素材となる金属板をU字形に折り返してなる高剛性の筒部としている。これにより、溝肩部に対する摺接環の嵌合筒部の嵌合力を高めている。さらに、該従来構造では、溝肩部に形成された凸部を、摺接環の嵌合筒部に対し、軸方向内側から対向させている。これにより、嵌合筒部と凸部との係合に基づいて、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを抑えられるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-129197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2017-129197号公報に記載の従来構造では、摺接環の嵌合筒部が高剛性であるため、嵌合筒部を溝肩部に圧入外嵌する際に、凸部を乗り越えさせることが困難である。また、従来構造では、加工精度の観点から、回転フランジと凸部との間で摺接環が軸方向に移動しないように設計することは困難であるため、回転フランジと凸部との間の軸方向寸法を、摺接環の軸方向寸法よりもやや大きく設計している。その結果、摺接環の嵌合筒部と凸部との間に、軸方向の隙間が生じ、該隙間の分だけ、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することが許容される。したがって、従来構造では、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを有効に防止できない。
【0011】
本開示は、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを防止できるハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シール装置とを備える。
【0013】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
【0014】
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する。
【0015】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0016】
前記シール装置は、摺接環およびシールリングを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
【0017】
前記回転フランジは、軸方向内側面の径方向内側部分に、前記ハブの中心軸を中心とする環状凹部を有する。
【0018】
前記摺接環は、前記環状凹部の内側に配置されかつ該環状凹部の内側に充填されたポッティング材により該環状凹部の内面に結合固定された部分、および、軸方向内側を向いた軸方向摺接面を有する。
【0019】
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定され、複数本のシールリップを有する。
【0020】
前記複数本のシールリップは、前記軸方向摺接面に先端部を摺接させる軸方向リップを含む。
【0021】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記摺接環は、中空円板状の側板部と、該側板部の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて伸長する外径側筒部と、該側板部の径方向内側の端部から軸方向外側に向けて伸長する内径側筒部とを備える。前記環状凹部の内側に配置されかつ該環状凹部の内側に充填されたポッティング材により該環状凹部の内面に結合固定された部分は、前記外径側筒部の少なくとも一部分および前記内径側筒部の少なくとも一部分を含む。前記軸方向摺接面が、前記側板部の軸方向内側面により構成されている。前記側板部は、少なくとも1箇所に軸方向に貫通する通孔を有する。
【0022】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記摺接環は、中空円板状の側板部と、該側板部の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長する外径側筒部と、該側板部の径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する内径側筒部とを備える。前記環状凹部の内側に配置されかつ該環状凹部の内側に充填されたポッティング材により該環状凹部の内面に結合固定された部分は、前記側板部、前記外径側筒部の少なくとも一部分、および前記内径側筒部の少なくとも一部分を含む。
【0023】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記摺接環は、前記軸方向摺接面よりも径方向内側に位置する部分から軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する傾斜板部を有する。前記複数本のシールリップは、前記傾斜板部の径方向外側の側面により構成される傾斜摺接面に先端部を摺接させる中間リップを含む。
【0024】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記摺接環は、前記傾斜板部の径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する摺接筒部を有する。前記複数本のシールリップは、前記摺接筒部の外周面により構成される径方向摺接面に先端部を摺接させる径方向リップを含む。
【0025】
本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記摺接筒部が、前記ハブの一部に隙間嵌めで外嵌されている。
【0026】
本開示のハブユニット軸受は、上述したそれぞれの態様を、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示の一態様のハブユニット軸受によれば、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す半部断面図である。
図2図2は、図1のA部拡大図である。
図3図3は、本開示の実施の形態の第2例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図4図4は、本開示の実施の形態の第3例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図5図5は、本開示の実施の形態の第4例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図6図6は、本開示の実施の形態の第5例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図7図7は、本開示の実施の形態の第6例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図8図8は、本開示の実施の形態の第7例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図9図9は、本開示の実施の形態の第8例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図10図10は、本開示の実施の形態の第9例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図11図11は、本開示の実施の形態の第10例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図12図12は、本開示の実施の形態の第11例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図13図13は、本開示の実施の形態の第12例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1例]
図1および図2は、本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す。
【0030】
本開示のハブユニット軸受は、各種構造のハブユニット軸受に適用可能であるが、本例では、従動輪用のハブユニット軸受に適用する場合について説明する。
【0031】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シール装置5とを備える。
【0032】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図1の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図1の右側である。
【0033】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有する。さらに、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0034】
外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0035】
ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道9a、9bを有し、かつ、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジ10を有する。さらに、ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部11を有する。ハブ3は、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。
【0036】
回転フランジ10は、径方向中間部の周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔12を有する。
【0037】
回転フランジ10は、軸方向内側面の径方向内側部分に、ハブ3の中心軸を中心とする環状凹部13を有する。
【0038】
本例では、環状凹部13は、その全体が、外輪2の軸方向外側の端部の外周面よりも径方向内側に位置している。本例では、環状凹部13は、矩形の断面形状を有する。環状凹部13の内面は、底面14と、外径側周面15と、内径側周面16とを備える。底面14は、環状凹部13の深さ方向の奥側の端部、すなわち軸方向外側の端部に位置しており、ハブ3の軸方向に対して直交する円輪状の平面により構成されている。外径側周面15は、底面14の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長する円筒面により構成されている。内径側周面16は、底面14の径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する円筒面により構成されている。
【0039】
ハブ3は、外周面のうち、回転フランジ10と軸方向外側の内輪軌道9aとの間に位置する部分に、円筒面状の溝肩部17、および、溝肩部17に対して軸方向外側に隣接する部分に軸方向外側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に傾斜した凹円弧形の断面形状を有する曲面部18を有する。本例では、曲面部18の径方向外側の端部は、環状凹部13の内径側周面16の軸方向内側の端部に接続されている。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、曲面部18の径方向外側の端部と、環状凹部13の内径側周面16の軸方向内側の端部とが、径方向に離隔して配置された構造を採用することもできる。本例では、溝肩部17はシール摺接面として用いられるため、溝肩部17に研削加工が施されている。溝肩部17の研削加工は、総型の研削砥石を用いて、軸方向外側の内輪軌道9aの研削加工と同時に行うことができる。
【0040】
ブレーキディスクなどの制動用回転体および車輪のホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、パイロット部11を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔を挿通したハブボルトを、回転フランジ10の取付孔12に螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。なお、回転フランジの取付孔に圧入したスタッドボルトを、制動用回転体およびホイールの通孔に挿通した状態で、該スタッドの先端部にハブナットを螺合することにより、制動用回転体およびホイールを回転フランジ10に結合固定することもできる。
【0041】
本例では、ハブ3は、内輪19とハブ輪20とを組み合わせてなる。
【0042】
内輪19は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪19は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道9bを有する。
【0043】
ハブ輪20は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪20は、軸方向外側の内輪軌道9aと、回転フランジ10と、パイロット部11とを備える。
【0044】
ハブ輪20は、軸方向外側の内輪軌道9aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪19が外嵌される小径段部21を有する。さらに、ハブ輪20は、小径段部21の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面22を有し、かつ、小径段部21の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部23を有する。
【0045】
ハブ3は、ハブ輪20の小径段部21に内輪19を外嵌し、かつ、ハブ輪20の段差面22とかしめ部23との間で内輪19を軸方向両側から挟持することにより、内輪19とハブ輪20とを結合固定することで構成されている。
【0046】
なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、ハブ輪と内輪とを結合することもできる。
【0047】
なお、本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。
【0048】
ただし、本開示のハブユニット軸受は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動される駆動軸の先端部が、スプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0049】
転動体4a、4bは、軸受鋼などの鉄合金製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道9a、9bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器24a、24bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0050】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径が軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径よりも大きい、異径PCD型の構造を備える。ただし、本開示のハブユニット軸受は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径が軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径よりも小さい、異径PCD型のハブユニット軸受や、それぞれの列の転動体のピッチ円直径が等しい、等径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0051】
シール装置5は、摺接環25およびシールリング26を有し、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間27の軸方向外側の開口を塞ぐ。これにより、該開口部を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間27に侵入したり、転動体設置空間27に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0052】
摺接環25は、図2に示すように、ステンレス鋼板などの耐食性を有する金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。摺接環25は、環状凹部13の内側に配置されかつ該環状凹部13の内側に充填されたポッティング材28により該環状凹部13の内面に結合固定された部分、および、軸方向内側を向いた軸方向摺接面29を有する。すなわち、摺接環25は、その一部分が環状凹部13の内側に充填されたポッティング材28により環状凹部13の内面に結合固定されることによって、回転フランジ10に固定されている。
【0053】
本例では、摺接環25は、中空円板状の側板部30と、側板部30の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて伸長する円筒状の外径側筒部31と、側板部30の径方向内側の端部から軸方向外側に向けて伸長する円筒状の内径側筒部32とを備える。軸方向摺接面29は、側板部30の軸方向内側面により構成されている。摺接環25のうち、少なくとも外径側筒部31および内径側筒部32が、環状凹部13の内側に配置されている。
【0054】
摺接環25は、外径側筒部31および内径側筒部32のそれぞれの軸方向外側の端部を環状凹部13の底面14に当接させることで、ハブ3に対して軸方向に位置決めされている。本例では、このように摺接環25がハブ3に対して軸方向に位置決めされた状態で、摺接環25のうち、側板部30の軸方向外側面よりも軸方向外側に位置する部分のみが、環状凹部13の内側に配置されている。本例では、摺接環25の側板部30は、環状凹部13の外側、すなわち環状凹部13から軸方向内側に突出した位置に配置されている。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、摺接環の側板部を環状凹部の内側に配置することもできる。
【0055】
摺接環25の外径側筒部31の外径は、環状凹部13の外径側周面15の内径よりも小さく設定されている。摺接環25の内径側筒部32の内径は、環状凹部13の内径側周面16の外径よりも大きく設定されている。本例では、摺接環25は、外径側筒部31の外周面を外径側周面15に近接対向させることにより、ハブ3に対して芯出しされている。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、内径側筒部32の内周面を内径側周面16に近接対向させること、あるいは、外径側筒部31の外周面を外径側周面15に近接対向させ、かつ、内径側筒部32の内周面を内径側周面16に近接対向させることにより、摺接環25がハブ3に対して芯出しされるようにすることもできる。
【0056】
本例では、摺接環25のうち、環状凹部13の内側に配置されかつ該環状凹部13の内側に充填されたポッティング材28により該環状凹部13の内面に結合固定された部分は、外径側筒部31の少なくとも一部分および内径側筒部32の少なくとも一部分を含む。具体的には、本例では、外径側筒部31および内径側筒部32のそれぞれの軸方向外端部から中間部にかけての部分が、環状凹部13の内側に充填されたポッティング材28に埋め込まれ、該ポッティング材28により環状凹部13の内面に結合固定されている。
【0057】
本例では、摺接環25の側板部30は、少なくとも1箇所に軸方向に貫通する通孔33を有する。具体的には、本例では、通孔33は、側板部30の径方向内側の端部の周方向複数箇所に備えられている。通孔33は、回転フランジ10に摺接環25を固定する作業を行う際に空気の流通孔として用いられる。
【0058】
すなわち、回転フランジ10に摺接環25を固定する作業を行う際には、環状凹部13の開口部を上に向けた状態で、環状凹部13の内側に未硬化状態のポッティング材28を充填した後、摺接環25の軸方向摺接面29を上に向けた状態で、該摺接環25に作用する重力により、該摺接環25の外径側筒部31および内径側筒部32を、該ポッティング材28の中に沈め、外径側筒部31および内径側筒部32のそれぞれの軸方向外側の端部を、環状凹部13の底面14に当接させる。そして、この状態で、環状凹部13の内側のポッティング材28を硬化させることにより、回転フランジ10に摺接環25を固定する。本例では、外径側筒部31および内径側筒部32を未硬化状態のポッティング材28の中に沈める作業を、該ポッティング材28と摺接環25との間に挟まれた環状空間内の空気をそれぞれの通孔33を通じて外部空間に排出しながら行えるため、該沈める作業を短時間で円滑に行うことができる。
【0059】
ポッティング材28は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、変成シリコーン、アクリル樹脂などの各種の樹脂を主成分とし、かつ、添加材の種類によって、未硬化状態の粘度、硬化状態の機械的強度、および室温硬化型、熱硬化型、紫外線硬化型などの硬化特性が決定される材料である。本例のハブユニット軸受1を実施する場合に用いることができるポッティング材28は、環状凹部13の内側に充填された未硬化状態で、摺接環25の一部分(本例では、外径側筒部31および内径側筒部32のそれぞれの一部分)が環状凹部13にしっかりと沈み、該一部分の軸方向外側の端部が環状凹部13の底面14に確実に接触することを可能にする低い粘度、該接触の作業を可能にする未硬化状態の維持時間(速乾性)、低収縮性、耐水性、および硬化状態で環状凹部13から摺接環25が離脱しない程度の機械的強度などを有している必要があり、たとえば、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化型のポッティング材が好適に使用できる。
【0060】
なお、熱硬化型のポッティング材28を用いる場合には、熱風を吹き付けることによる加熱、加熱雰囲気内に置くことによる加熱などの方法で、ポッティング材28を硬化させることができる。環状凹部13の内側へのポッティング材28の充填量は、回転フランジ10に対する摺接環25の固定状態を長期にわたり良好に維持できる範囲で調整することができる。また、該充填量は、環状凹部13に摺接環25を挿入することに伴ってポッティング材28の一部が環状凹部13の外側にはみ出さない程度に調整することが好ましい。本例では、摺接環25の一部分を環状凹部13に沈めて該一部分の軸方向外側の端部を環状凹部13の底面に接触させる作業を、摺接環25に作用する重力を利用して行うが、該作業は、作業者や組立装置により摺接環25を環状凹部13に押し込むことによって行うこともできる。
【0061】
シールリング26は、外輪2の軸方向外側の端部に固定され、複数本のシールリップ34a、34b、34cを有する。本例では、シールリング26は、3本のシールリップ34a、34b、34cを有する。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合、シールリップの本数を、3本よりも少なくあるいは多くすることもできる。3本のシールリップ34a、34b、34cは、摺接環25の軸方向摺接面29に先端部を摺接させる軸方向リップ(本例ではシールリップ34a)を含む。
【0062】
本例では、シールリング26は、芯金35と、シール材36とを備える。
【0063】
芯金35は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金35は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定されたシール嵌合筒部37と、シール嵌合筒部37の軸方向外側の端部から径方向内側に折れ曲がって径方向内側に向けて伸長した支持板部38とを備える。
【0064】
シール材36は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性材により構成され、芯金35の表面に加硫接着により結合固定されている。3本のシールリップ34a、34b、34cは、シール材36に備えられている。シール材36は、3本のシールリップ34a、34b、34cに加え、基部39を備える。なお、図2では、それぞれのシールリップ34a、34b、34cを、自由状態で示している。
【0065】
基部39は、芯金35の表面のうち、支持板部38の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側部を覆っている。
【0066】
3本のシールリップ34a、34b、34cのうち、外部空間に最も近いシールリップ34aは、基部39のうちで支持板部38の軸方向外側面の径方向中間部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、摺接環25の軸方向摺接面29のうちそれぞれの通孔33よりも径方向外側に位置する部分に摺接させている。
【0067】
ここで、摺接環25の素材となるステンレス鋼板などの金属板の表面には、圧延加工によって形成される該金属板の長手方向の微細な筋目は存在するものの、完成後の摺接環25の表面には、対数螺旋状の筋目は存在せず、該表面の粗さは良好である。このため、本例の構造によれば、摺接環25の表面の一部分である軸方向摺接面29に対するシールリップ34aの先端部の貼り付きによる摩擦抵抗の増大や異音の発生を抑えることができる。
【0068】
本例では、摺接環25は、その一部分が環状凹部13の内側に充填されたポッティング材28に埋め込まれることによって回転フランジ10に固定されており、溝肩部17には外嵌固定されていない。このため、ハブユニット軸受1に路面反力に基づくモーメント荷重が負荷され、溝肩部17に回転曲げ荷重が加わることに伴い、溝肩部17に凹凸変形の繰り返し運動が生じたとしても、摺接環25がハブ3に対して軸方向内側に移動することを防止できる。その結果、摺接環25の表面に対するシールリップ34aの先端部の軸方向の締め代が増大すること、すなわちシールトルクが増大することを防止できる。
【0069】
外部空間に2番目に近いシールリップ34bは、基部39のうちで支持板部38の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、溝肩部17の軸方向外側部分に摺接させている。外部空間から最も遠いシールリップ34cは、基部39のうちで支持板部38の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、溝肩部17の軸方向内側部分に摺接させている。
【0070】
ここで、ハブ3の表面において、対数螺旋状の研削筋目が不可避に形成される箇所は、ハブ3の中心軸に対して交角を持った箇所であり、円筒面状の溝肩部17には、対数螺旋状の研削筋目は形成されない。このため、本例の構造では、溝肩部17に対するシールリップ34b、34cの先端部の貼り付きによる摩擦抵抗の増大や異音の発生を抑えることができる。
【0071】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2の軸方向内側の開口部を塞ぐ有底円筒状の軸受キャップ40(図1参照、図示の例では回転センサ付きのキャップ)をさらに備える。これにより、該開口部を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間27に侵入したり、転動体設置空間27に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、軸受キャップ40に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間27の軸方向内側の開口を塞ぐこともできる。
【0072】
[第2例]
図3は、本開示の実施の形態の第2例のハブユニット軸受を示す。
【0073】
本例では、環状凹部13aのうち、ポッティング材28が充填された軸方向範囲において、環状凹部13aの径方向幅寸法を、環状凹部13aの底部側(軸方向外側、図3における左側)で開口部側(軸方向内側、図3における右側)よりも大きくしている。これにより、環状凹部13aの内側に充填されたポッティング材28が軸方向内側に向けて移動すること、すなわち摺接環25が軸方向内側に向けて移動することを、より確実に防止できるようにしている。
【0074】
具体的には、本例では、環状凹部13aの径方向幅寸法を、環状凹部13aの底部側で開口部側よりも大きくするために、環状凹部13aの外径側周面15aおよび内径側周面16aのそれぞれを、底部側が開口部側に対して径方向に凹んだ段付円筒状に構成している。より具体的には、外径側周面15aを、底部側に位置する円筒面状の大径部41と、開口部側に位置する円筒面状の小径部42と、大径部41と小径部42とを接続する軸方向外側を向いた段部43とにより構成している。また、内径側周面16aを、底部側に位置する円筒面状の小径部44と、開口部側に位置する円筒面状の大径部45と、小径部44と大径部45とを接続する軸方向外側を向いた段部46とにより構成している。本例では、ポッティング材28は、環状凹部13aの内側の領域のうち、底面14から小径部42および大径部45の軸方向中間部までの軸方向範囲に充填されている。このような構成により、それぞれの段部43、46と硬化状態のポッティング材28との係合に基づいて、該ポッティング材28が軸方向内側に向けて移動すること、すなわち摺接環25が軸方向内側に向けて移動することが、より確実に防止される。
【0075】
本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、環状凹部の外径側周面と内径側周面とのいずれか一方の周面のみを、底部側が開口部側に対して径方向に凹んだ段付円筒状に構成することもできる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0076】
[第3例]
図4は、本開示の実施の形態の第3例のハブユニット軸受を示す。
【0077】
本例では、環状凹部13bの内径側周面16bは、曲面部18の軸方向外側部分により構成されている。すなわち、本例では、曲面部18の径方向外側の端部が、環状凹部13bの底面14の径方向内側の端部に接続されている。本例では、環状凹部13bの径方向内側の端部の形状を簡素化することができるため、環状凹部13bを形成するための加工を容易化すること、および、環状凹部13bの径方向内側の端部に作用する応力を緩和することができる。このような環状凹部13bの形状は、本例と異なる形状の摺接環を用いる場合であっても、なんらかの不都合が生じない限り、採用することができる。
【0078】
本例では、摺接環25aは、軸方向摺接面29よりも径方向内側に位置する部分から軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する傾斜板部47を有する。
【0079】
本例では、傾斜板部47は、側板部30と内径側筒部32との間部分から、軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する円すい筒状に構成されている。傾斜板部47は、軸方向内側かつ径方向内側の端部に存在するU字形の折り返し部によって互いに接続された外径側傾斜板部48と内径側傾斜板部49とを径方向に重ね合わせてなる。外径側傾斜板部48の軸方向外側かつ径方向外側の端部は、側板部30の径方向内側の端部に接続されている。内径側傾斜板部49の軸方向外側かつ径方向外側の端部は、内径側筒部32の軸方向内側の端部に接続されている。
【0080】
本例では、3本のシールリップ34a、34b、34cは、傾斜板部47の径方向外側の側面により構成される傾斜摺接面50に先端部を摺接させる中間リップ(本例ではシールリップ34b)を含む。傾斜摺接面50に対するシールリップ34bの先端部の締め代は、軸方向の成分と径方向の成分とを有する。このため、運転時に生じる外輪2とハブ3との軸方向の相対変位や径方向の相対変位に対して、傾斜摺接面50に対するシールリップ34bの先端部の摺接状態、すなわちシール特性を良好に維持しやすい。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0081】
[第4例]
図5は、本開示の実施の形態の第4例のハブユニット軸受を示す。
【0082】
本例では、摺接環25bは、第1例との比較で、その軸方向の向きを反転させたような構成を有する。すなわち、本例では、摺接環25bは、中空円板状の側板部30aと、側板部30aの径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長する円筒状の外径側筒部31aと、側板部30aの径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する円筒状の内径側筒部32aとを備える。シールリップ34aの先端部を摺接させる軸方向摺接面29は、側板部30aの軸方向内側面により構成されている。本例では、側板部30aは、軸方向に貫通する通孔を有していない。
【0083】
摺接環25bは、側板部30a、外径側筒部31a、および内径側筒部32aのそれぞれが環状凹部13の内側に配置された状態で、環状凹部13の内側に充填されたポッティング材28により回転フランジ10に固定されている。
【0084】
本例では、摺接環25bは、側板部30aの軸方向外側面を環状凹部13の底面14に当接させることで、ハブ3に対して軸方向に位置決めされている。摺接環25bは、外径側筒部31aの外周面を環状凹部13の外径側周面15に近接対向させることで、ハブ3に対して芯出しされている。
【0085】
本例では、ポッティング材28は、摺接環25bの外周面と環状凹部13の外径側周面15との間、摺接環25bの内周面と環状凹部13の内径側周面16との間、および摺接環25bの軸方向外側面と環状凹部13の底面との当接部にのみ存在しており、摺接環25bの側板部30aの軸方向内側面(軸方向摺接面29)と外径側筒部31aの内周面と内径側筒部32aの外周面とにより三方を囲まれた環状空間には存在していない。すなわち、本例の構造では、ポッティング材28は、外径側筒部31aの内周面と内径側筒部32aの外周面との間に存在しないため、第1例の構造に比べてポッティング材28の使用量を抑えられる。また、摺接環25bの30aにおいて通孔の形成を省略できるため、摺接環25bの加工コストを抑えられる。
【0086】
本例の構造では、摺接環25bの軸方向摺接面29とシールリップ34aの先端部との摺接部は、摺接環25bの外径側筒部31aの径方向内側に配置されている。このため、外輪2の軸方向外端面と回転フランジ10の軸方向内側面との間を径方向外側から径方向内側に向けて通過する泥水などの水分が、摺接環25bの軸方向摺接面29とシールリップ34aの先端部との摺接部に勢いよくぶつかることを抑制できる。したがって、シールリップ34aのシール性能を向上させることができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0087】
[第5例]
図6は、本開示の実施の形態の第5例のハブユニット軸受を示す。
【0088】
本例では、第2例と同様、環状凹部13cのうち、ポッティング材28が充填された軸方向範囲において、環状凹部13cの径方向幅寸法を、環状凹部13cの底部側で開口部側よりも大きくしている。具体的には、本例では、環状凹部13cの外径側周面15bおよび内径側周面16cのそれぞれを、軸方向に関して開口部側から底部側に向かうにしたがって環状凹部13cの径方向幅寸法が大きくなる方向に傾斜した円すい筒面状に構成している。このような構成により、外径側周面15bおよび内径側周面16cのそれぞれと硬化状態のポッティング材28との係合に基づいて、環状凹部13cに対して該ポッティング材28が軸方向内側に向けて移動すること、すなわち摺接環25が軸方向内側に向けて移動することが、より確実に防止される。
【0089】
本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、環状凹部の外径側周面と内径側周面とのいずれか一方の周面のみを、軸方向に関して開口部側から底部側に向かうにしたがって環状凹部の径方向幅寸法が大きくなる方向に傾斜した円すい筒面状に構成することもできる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第4例と同様である。
【0090】
[第6例]
図7は、本開示の実施の形態の第6例のハブユニット軸受を示す。
【0091】
本例では、環状凹部13は、回転フランジ10の軸方向内側面の径方向内側部分の径方向一部に設けられており、環状凹部13の内径側周面16の軸方向内側の端部は、曲面部18の径方向外側の端部に対して径方向外側に離隔した位置に配置されている。回転フランジ10の軸方向内側面のうち、環状凹部13の内径側周面16の軸方向内側の端部と曲面部18の径方向外側の端部との間に位置する部分は、ハブ3の軸方向に対して直交する平面により構成されている。
【0092】
摺接環25cは、軸方向摺接面29よりも径方向内側に位置する部分である内径側筒部32aの軸方向内側の端部から軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する、円すい筒状の傾斜板部47aをさらに備える。本例では、中間リップであるシールリップ34bの先端部を、傾斜板部47aの径方向外側の側面により構成される傾斜摺接面50に摺接させている。傾斜板部47aの径方向内側の端部は、ハブ3の外周面に接触しておらず、図示の例では溝肩部17の軸方向外側の端部に対して径方向外側に離隔した位置に配置されている。傾斜板部47aの径方向内側の端部がハブ3の外周面に接触せず、シールリップ34bの先端部を傾斜摺接面50に対して適切に摺接させることができる限り、ハブ3の中心軸に対する傾斜板部47aの傾斜角度や傾斜板部47aの断面長さは、任意の大きさに設定することができる。該傾斜角度は、たとえば30゜~60゜の範囲に設定することができ、図示の例では45゜程度に設定されている。本例についてのその他の構成および作用効果は、第4例と同様である。
【0093】
[第7例]
図8は、本開示の実施の形態の第7例のハブユニット軸受を示す。
【0094】
本例では、摺接環25dの傾斜板部47bの断面形状を、径方向外側が凸となる円弧形状としている。このため、ハブユニット軸受が路面反力に基づくモーメント荷重を受け、外輪2に対しハブ3が傾いた状態になっても、シールリップ34bの締め代の変化を抑制できる。その他の構成および作用効果は、第6例と同様である。
【0095】
[第8例]
図9は、本開示の実施の形態の第8例のハブユニット軸受を示す。
【0096】
本例では、環状凹部13bの内径側周面16bが、第3例と同様に、曲面部18の軸方向外側部分により構成されている。また、摺接環25eに備えられた、軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する傾斜板部は、内径側筒部32bにより構成されている。さらに、傾斜板部である内径側筒部32bの断面形状は、径方向外側が凹となる円弧形状である。本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、傾斜板部である内径側筒部の断面形状を、直線形状または径方向外側が凸となる円弧形状とすることもできる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第6例または第7例と同様である。
【0097】
[第9例]
図10は、本開示の実施の形態の第9例のハブユニット軸受を示す。
【0098】
本例では、摺接環25fは、軸方向摺接面29よりも径方向内側に位置する部分である内径側筒部32aの軸方向内側の端部から軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する、円すい筒状の傾斜板部47aを備えるとともに、傾斜板部47aの径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する円筒状の摺接筒部51をさらに備える。摺接筒部51の内周面とハブ3の溝肩部17との間には、円筒状の隙間が存在する。
【0099】
本例では、3本のシールリップ34a、34b、34cは、摺接筒部51の外周面により構成される径方向摺接面52に先端部を摺接させる径方向リップ(本例ではシールリップ34c)を含む。
【0100】
本例の構造では、3本のシールリップ34a、34b、34cのそれぞれの先端部が、摺接環25fの表面に摺接しているため、ハブ3の表面に、研削加工が施されたシール摺接面を設ける必要がない。このため、本例では、ハブ3の溝肩部17に、研削加工が施されていない。したがって、その分、ハブ3の加工コストを抑えることができる。
【0101】
本例の構造では、最も径方向内側に位置するシールリップ34cの先端部が、溝肩部17よりも径方向外側に位置する径方向摺接面52に摺接している。このため、シール材36の内径を大きくして、シール材36の径方向幅を小さくすることで、シール材36の体積を減らすことができる。したがって、その分、シール材36の材料コストを抑えることができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第6例と同様である。
【0102】
[第10例]
図11は、本開示の実施の形態の第10例のハブユニット軸受を示す。
【0103】
本例では、環状凹部13bの内径側周面16bが、第3例および第8例と同様に、曲面部18の軸方向外側部分により構成されている。また、摺接環25gを構成する傾斜板部は、内径側筒部32bにより構成され、内径側筒部32bの断面形状は、径方向外側が凹となる円弧形状である。さらに、摺接環25gは、内径側筒部32bの径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する円筒状の摺接筒部51を備える。本例についてのその他の構成および作用効果は、第3例および第8例と同様である。
【0104】
[第11例]
図12は、本開示の実施の形態の第11例のハブユニット軸受を示す。
【0105】
本例では、環状凹部13は、回転フランジ10の軸方向内側面の径方向内側部分の径方向一部に設けられており、環状凹部13の内径側周面16の軸方向内側の端部は、曲面部18の径方向外側の端部に対して径方向外側に離隔した位置に配置されている。回転フランジ10の軸方向内側面のうち、環状凹部13の内径側周面16の軸方向内側の端部と曲面部18の径方向外側の端部との間に位置する部分は、ハブ3の軸方向に対して直交する平面により構成されている。摺接環25hは、内径側筒部32aの軸方向内側の端部から軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する、円すい筒状の傾斜板部47a、および傾斜板部47aの径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する円筒状の摺接筒部51aを備える。摺接筒部51aは、ハブ3の一部(本例では溝肩部17)に隙間嵌めで外嵌されている。これにより、摺接環25hは、ハブ3に対して芯出しされている。該芯出しの精度を高めるために、溝肩部17に研削加工を施してもよい。本例についてのその他の構成および作用効果は、第9例と同様である。
【0106】
[第12例]
図13は、本開示の実施の形態の第12例のハブユニット軸受を示す。
【0107】
本例では、環状凹部13bの内径側周面16bが、第3例および第8例と同様に、曲面部18の軸方向外側部分により構成されている。また、摺接環25hは、内径側筒部32aの軸方向内側の端部から軸方向内側かつ径方向内側に向けて伸長する、円すい筒状の傾斜板部47a、および傾斜板部47aの径方向内側の端部から軸方向内側に向けて伸長する円筒状の摺接筒部51aを備える。摺接筒部51aは、ハブ3の一部(本例では溝肩部17)に隙間嵌めで外嵌されている。その他の構成および作用効果は、第11例と同様である。
【0108】
本開示のハブユニット軸受は、上述した各実施の形態の構造を、矛盾を生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5 シール装置
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9a、9b 内輪軌道
10 回転フランジ
11 パイロット部
12 取付孔
13、13a、13b、13c 環状凹部
14 底面
15、15a、15b 外径側周面
16、16a、16b、16c 内径側周面
17 溝肩部
18 曲面部
19 内輪
20 ハブ輪
21 小径段部
22 段差面
23 かしめ部
24a、24b 保持器
25、25a、25b、25c、25d、25e、25f、25g、25h 摺接環
26 シールリング
27 転動体設置空間
28 ポッティング材
29 軸方向摺接面
30、30a 側板部
31、31a 外径側筒部
32、32a、32b 内径側筒部
33 通孔
34a、34b、34c シールリップ
35 芯金
36 シール材
37 シール嵌合筒部
38 支持板部
39 基部
40 軸受キャップ
41 大径部
42 小径部
43 段部
44 小径部
45 大径部
46 段部
47、47a 傾斜板部
48 外径側傾斜板部
49 内径側傾斜板部
50 傾斜摺接面
51、51a 摺接筒部
52 径方向摺接面
図1
図2
図3
図4
図5
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図13