(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099143
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 13/00 20060101AFI20240718BHJP
C08J 3/03 20060101ALI20240718BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B01J13/00 C
C08J3/03 CER
B22F9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002860
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井 盾哉
(72)【発明者】
【氏名】土屋 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】南 秀人
【テーマコード(参考)】
4F070
4G065
4K017
【Fターム(参考)】
4F070AA38
4F070AB09
4F070AB13
4F070AC06
4F070AC12
4F070AC18
4F070AC40
4F070AE28
4F070AE30
4F070CA01
4F070CB03
4F070CB12
4G065AA01
4G065AA05
4G065AA07
4G065AB01X
4G065AB11X
4G065AB28Y
4G065BA02
4G065BA07
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4G065CA11
4G065DA09
4K017AA03
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017DA09
(57)【要約】
【課題】分散性に優れ、電気伝導率が低い金属ナノ粒子の水系分散液を高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】(i)金属ナノ粒子の保護剤として親水性基を有する化合物を含む金属ナノ粒子水系分散液と、非水溶媒と、疎水化剤と、塩析剤と、アリール基及び親水性保護基を有する界面活性剤とを混合して第1の混合液を調製する工程と、(ii)(i)の工程で調製した第1の混合液を第1の水相と金属ナノ粒子を含む非水溶媒相とに分離する工程と、(iii)(ii)の工程で分離した非水溶媒相を取り出し、非水溶媒相と第2の水相とを接触させ、金属ナノ粒子を第2の水相に移動させる工程と、(iv)(iii)の工程で移動させた金属ナノ粒子を含む第2の水相を取り出す工程とを含む、金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)金属ナノ粒子の保護剤として親水性基を有する化合物を含む金属ナノ粒子水系分散液と、非水溶媒と、疎水化剤と、塩析剤と、アリール基及び親水性保護基を有する界面活性剤とを混合して第1の混合液を調製する工程と、
(ii)(i)の工程で調製した第1の混合液を第1の水相と金属ナノ粒子を含む非水溶媒相とに分離する工程と、
(iii)(ii)の工程で分離した非水溶媒相を取り出し、非水溶媒相と第2の水相とを接触させ、金属ナノ粒子を第2の水相に移動させる工程と、
(iv)(iii)の工程で移動させた金属ナノ粒子を含む第2の水相を取り出す工程と
を含む、金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
(i)の工程において、前記界面活性剤が、親水性保護基として、エーテル結合、シロキサン結合及びヒドロキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)の工程において、前記界面活性剤の添加量が、金属ナノ粒子水系分散液100重量部に対して、0.01重量部以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の製造方法、特に金属ナノ粒子の水系分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク材料と異なる性質を有することがある金属ナノ粒子は、例えば触媒、電子部品部材など、様々な用途に使用されている。
【0003】
一方で、金属ナノ粒子は、通常分散液として得られるが、当該分散液は、製造時の副生成物を含むことが多く、当該分散液から副生成物などの不純物を取り除く方法も様々なものが考案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属微粒子と水に対して親和性を有する化合物(水系分散剤という)を含む金属微粒子水分散液から該金属微粒子を水と相分離する有機溶媒(非水溶媒という)に抽出する方法であって、非水溶媒と、上記金属微粒子水分散液と、上記水系分散剤を金属微粒子から離脱させる脱離液と、金属微粒子及び非水溶媒に対して親和性を有する化合物(非水系分散剤という)とを混合して上記金属微粒子を非水溶媒に移行させ、該金属微粒子が分散する非水溶媒層を水層から分離することを特徴とする金属微粒子の抽出方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、金属微粒子及び/又は金属化合物微粒子の非水分散液の調製方法にして、(1)金属微粒子及び/又は金属化合物微粒子の水分散液を、界面活性剤の存在下、かつ水溶性無機酸塩及び/又は実質的に界面活性作用を有さない水溶性有機酸塩の存在下又は不存在下で、水と相分離する非水液体と接触させ、その際水溶性無機酸塩及び/又は水溶性有機酸塩の不存在下で該水分散液と非水液体との接触を行なう場合には、該接触後に水溶性無機酸塩及び/又は水溶性有機酸塩を添加し、かくして該微粒子を該水分散液から該非水液体中に移動させ、該微粒子が分散した非水分散液相と実質的に該微粒子を含有しない水性相からなる二相混合物を得、(2)該非水分散液を該二相混合物から単離することを包含する調製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-270957号公報
【特許文献2】特開平5-271718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1又は2を含む従来技術では、得られる金属ナノ粒子が凝集してしまったり、得られる金属ナノ粒子分散液が非水系分散液になりインクなどの水系溶媒での使用ができなかったりする問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、分散性に優れ、電気伝導率が低い金属ナノ粒子の水系分散液を高収率で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段を種々検討した結果、金属ナノ粒子を製造する方法において、金属ナノ粒子の保護剤として親水性基を有する化合物を含む金属ナノ粒子水系分散液と、非水溶媒と、疎水化剤と、塩析剤と、アリール基及び親水性保護基を有する界面活性剤とを混合し、静置することで混合液を第1の水相と金属ナノ粒子を含む非水溶媒相(油相)とに分離し、続いて非水溶媒相を取り出し、取り出した非水溶媒相と第2の水相とを接触させることによって、金属ナノ粒子を高収率で第2の水相中に再分散(再抽出)できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)(i)金属ナノ粒子の保護剤として親水性基を有する化合物を含む金属ナノ粒子水系分散液と、非水溶媒と、疎水化剤と、塩析剤と、アリール基及び親水性保護基を有する界面活性剤とを混合して第1の混合液を調製する工程と、
(ii)(i)の工程で調製した第1の混合液を第1の水相と金属ナノ粒子を含む非水溶媒相とに分離する工程と、
(iii)(ii)の工程で分離した非水溶媒相を取り出し、非水溶媒相と第2の水相とを接触させ、金属ナノ粒子を第2の水相に移動させる工程と、
(iv)(iii)の工程で移動させた金属ナノ粒子を含む第2の水相を取り出す工程と
を含む、金属ナノ粒子の製造方法。
(2)(i)の工程において、前記界面活性剤が、親水性保護基として、エーテル結合、シロキサン結合及びヒドロキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する、(1)に記載の方法。
(3)(i)の工程において、前記界面活性剤の添加量が、金属ナノ粒子水系分散液100重量部に対して、0.01重量部以上である、(1)又は(2)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、分散性に優れ、電気伝導率が低い金属ナノ粒子の水系分散液を高収率で製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】分散液中の銀ナノ粒子の非水溶媒相への分散時に、(A)界面活性剤を添加しなかった場合、及び(B)界面活性剤としてBYK322を添加した場合における非水溶媒相(第1の水相との界面付近)の光学顕微鏡写真である。
【
図2】実施例における第1の水相から非水溶媒相への銀ナノ粒子の移動を模式的に示す図である。
【
図3】実施例の別法における第1の水相から非水溶媒相への銀ナノ粒子の移動を模式的に示す図である。
【
図4】実施例における非水溶媒相から第2の水相への銀ナノ粒子の再分散を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明の金属ナノ粒子の製造方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0014】
本発明は、(i)金属ナノ粒子の保護剤として親水性基を有する化合物を含む金属ナノ粒子水系分散液と、非水溶媒と、疎水化剤と、塩析剤と、アリール基及び親水性保護基を有する界面活性剤とを混合して第1の混合液を調製する工程と、(ii)(i)の工程で調製した第1の混合液を第1の水相と金属ナノ粒子を含む非水溶媒相とに分離する工程と、(iii)(ii)の工程で分離した非水溶媒相を取り出し、非水溶媒相と第2の水相とを接触させ、金属ナノ粒子を第2の水相に移動させる工程と、(iv)(iii)の工程で移動させた金属ナノ粒子を含む第2の水相を取り出す工程とを含む、金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【0015】
以下に、(i)~(iv)の各ステップについて説明する。
【0016】
本発明の(i)の工程では、金属ナノ粒子の保護剤として親水性基を有する化合物を含む金属ナノ粒子水系分散液と、非水溶媒と、疎水化剤と、塩析剤と、アリール基及び親水性保護基を有する界面活性剤とを混合、例えば撹拌及び/又は振盪により混合し、第1の混合液を調製する。
【0017】
ここで、金属ナノ粒子水系分散液は、水系溶媒中で合成された金属ナノ粒子を含む分散液であり、金属ナノ粒子(例えば、銀ナノ粒子、銅ナノ粒子など)と、金属ナノ粒子を水系溶媒中に分散するための保護剤(例えば、窒素原子や硫黄原子、酸素原子を有し、金属との強い吸着力及び親水性を有する化合物、例えばポリビニルピロリドン(PVP)など)と、金属ナノ粒子の原料として使用した塩の金属イオンに対応する対アニオン(例えば、硝酸塩を使用した場合の硝酸イオンなど)と、溶媒としての水系溶媒(例えば水、水とアルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノールなど)との混合物など)と、還元剤(例えばクエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸など)とを含む。金属ナノ粒子水系分散液としては、例えば特開2018-135566号公報に記載されている分散液が挙げられる。
【0018】
金属ナノ粒子水系分散液中の金属ナノ粒子の含有量は、限定されないが、安定した分散性の観点から、分散液の総体積に対して、通常0.001mmol/L~100mmol/L、好ましくは0.001mmol/L~10mmol/Lである。
【0019】
非水溶媒は、金属ナノ粒子水系分散液中に含まれる水系溶媒と相分離する溶媒であり、金属ナノ粒子水系分散液から金属ナノ粒子を抽出するために使用される。非水溶媒としては、例えばシクロヘキサン、n-オクタン、1-オクタノールなどが挙げられる。
【0020】
非水溶媒の添加量は、限定されないが、金属ナノ粒子水系分散液中に含まれる水系溶媒との分離性の観点から、金属ナノ粒子水系分散液100重量部に対して、通常1重量部~3000重量部、好ましくは10重量部~300重量部である。
【0021】
疎水化剤は、金属ナノ粒子水系分散液中に存在する金属ナノ粒子を疎水化すると共に非水溶媒中に分散させるための水相に可溶な化合物であり、したがって、金属ナノ粒子を非水溶媒中に移動するために使用される。疎水化剤としては、限定されないが、例えば、金属ナノ粒子に吸着する部位としてカルボニル基、チオール基及びアミン基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有し、且つ非水溶媒(油相)中で安定して存在することができるように長鎖炭化水素基を有する化合物、例えば1-ドデカンチオール、4,4’-ジノニル-2,2’-ジピリジル、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルアミンアセテート、オクタドデシルアミンアセテート、ジエチレントリアミン、ペンタエチレンヘキサミン、オレイン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0022】
疎水化剤の添加量は、限定されないが、金属ナノ粒子水系分散液中に存在する金属ナノ粒子の疎水化効率の観点から、金属ナノ粒子水系分散液100重量部に対して、通常0.01重量部~10重量部、好ましくは0.1重量部~1重量部である。
【0023】
塩析剤は、金属ナノ粒子を水系溶媒中に分散するための保護剤の一部を塩析させる化合物であり、金属ナノ粒子に吸着している保護剤の一部を金属ナノ粒子から分離するために使用される。塩析剤としては、限定されないが、例えば、電離することで、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸イオン(SO4
2-)、酢酸イオン(CH3COO-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、硝酸イオン(NO3
-)、塩素酸イオン(ClO3
-)、ヨウ化物イオン(I-)、又はチオシアン酸イオン(SCN-)を生じる化合物、例えば塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。塩析剤としては、電離することでホフマイスター系列において酢酸イオンよりも強い塩析効果を有するイオンを生じる化合物が好ましく、したがって、塩析剤としては、電離することで、クエン酸イオン、酒石酸イオン、又は硫酸イオンを生じる化合物、例えばクエン酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
塩析剤としてホフマイスター系列において酢酸イオンよりも強い塩析効果を有するイオンを生じる化合物を使用することにより、少量添加で塩析を生じさせ、さらに、疎水化剤の臨界ミセル濃度の塩析剤による低下を最小限にとどめ、非水溶媒中の疎水化剤の逆ミセル、すなわち親油基を外に親水基を内に向けて会合することで形成されるミセルの形成を抑制し、当該ミセル中に塩析剤などの塩が溶解することを妨げ、塩析剤の非水溶媒への溶解を避け、最終的に金属ナノ粒子の第2の水相への再分散後の第2の水相の電気伝導率を下げることができる。
【0025】
塩析剤の添加量は、限定されないが、金属ナノ粒子を水系溶媒中に分散するための保護剤の効率的な塩析の観点から、金属ナノ粒子水系分散液100重量部に対して、通常0.5重量部~10重量部、好ましくは0.5重量部~5重量部、より好ましくは0.5重量部~2重量部である。
【0026】
本発明における界面活性剤は、アリール基及び親水性保護基を有する化合物である。界面活性剤は、1つ以上のアリール基及び1つ以上の親水性保護基を有することが好ましい。界面活性剤は、アリール基として、フェニル基
【化1】
、ナフチル基、アラルキル基、例えばベンジル基(C
6H
5CH
2-)、C
6H
5CH(CH
3)CH
2-
【化2】
からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有することが好ましい。アリール基は、側鎖に存在してもよい。界面活性剤は、親水性保護基として、エーテル結合(エーテル基)、シロキサン結合(シロキサン基)及びヒドロキシ基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有することが好ましい。親水性保護基は、主鎖に存在してもよい。界面活性剤としては、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、例えばBYK322、BYK323(ビックケミー社製)を使用することができる。
【0027】
界面活性剤が親水性保護基を有することで、非水溶媒と水との界面エネルギーを低下させて、非水溶媒相と水相との分離を向上させる、すなわち、非水溶媒中における水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相(ミセル)の形成を抑制することができ、さらに、以下で説明する(iii)の工程で、金属ナノ粒子を第2の水相に再分散させるときに、水溶性不純物成分を非水溶媒相中に捕捉(トラップ)させたままにすることができる。また、界面活性剤が疎水性官能基としてのアリール基を有することで、以下で説明する(iii)の工程で、金属ナノ粒子を第2の水相に再分散させるときに、当該界面活性剤自体を非水溶媒相中に捕捉(トラップ)させたままにすることができる。
【0028】
界面活性剤の添加量は、金属ナノ粒子水系分散液100重量部に対して、通常0.01重量部以上、例えば0.01重量部~10重量部、好ましくは0.1重量部~1重量部である。
【0029】
本発明の(i)の工程では、各材料の添加順序、添加温度、混合方法、混合時間などは限定されず、各材料が均一に混じり合うように混合される。例えば、本発明の(i)の工程では、例えば通常15℃~30℃において、まず、金属ナノ粒子水系分散液を含む容器中に、非水溶媒を添加し、その後、疎水化剤、塩析剤、及び界面活性剤を順に添加し、通常1分~30分間撹拌することでこれらの材料を混合して、第1の混合液を調製する。
【0030】
なお、界面活性剤の添加タイミングについては、界面活性剤を、界面活性剤以外の各材料を添加するときに、同時に添加しても、あるいは、界面活性剤以外の各材料を添加、混合、静置、及び水相と非水溶媒相とに分離した後に添加して、再度混合してもよい。
【0031】
本発明の(i)の工程において、金属ナノ粒子水系分散液と、非水溶媒と、疎水化剤と、塩析剤と、界面活性剤とを混合することにより、金属ナノ粒子水系分散液中の金属ナノ粒子は疎水化剤が吸着することで疎水化されて非水溶媒に抽出され、金属ナノ粒子に吸着していた保護剤の一部は塩析剤により凝集して沈降し、水溶性の化合物、特に金属ナノ粒子水系分散液中の金属ナノ粒子以外の水溶性の化合物はそのまま金属ナノ粒子水系分散液の媒体である第1の水相中に残存し、さらに、第1の水相と非水溶媒相との間の分離は界面活性剤によりさらに強化され、その結果、金属ナノ粒子を、非水溶媒中に高純度且つ高効率で抽出することができる。
【0032】
本発明の(ii)の工程では、(i)の工程で調製した第1の混合液を、例えば静置、通常15℃~30℃で、通常5分~24時間静置することにより、第1の水相と金属ナノ粒子を含む非水溶媒相とに分離する。
【0033】
本発明の(ii)の工程において第1の混合液を第1の水相と非水溶媒相とに分離することにより、水溶性の化合物、特に金属ナノ粒子水系分散液中の金属ナノ粒子以外の水溶性の化合物が溶解したままになっている第1の水相と、金属ナノ粒子が抽出された非水溶媒相とが分離されることになる。なお、塩析された金属ナノ粒子に吸着していた保護剤の一部は、固体相として沈降する。さらに、本発明における界面活性剤によって、非水溶媒相中における水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相が、非水溶媒相から分離して第1の水相に移動し、非水溶媒相の収率、すなわち、金属ナノ粒子の収率を向上させることができる。
【0034】
本発明の(iii)の工程では、(ii)の工程で分離した非水溶媒相を取り出し、非水溶媒相と第2の水相とを接触、例えば通常15℃~30℃で、通常5分~24時間接触させ、金属ナノ粒子を第2の水相に移動させる。
【0035】
ここで、取り出した非水溶媒相と接触させる第2の水相は、通常200μS/cm以下、好ましくは100μS/cm以下、より好ましくは2μS/cm以下の電気伝導率を有する、非水溶媒相と相分離する水、例えば純水である。
【0036】
電気伝導率は、JIS K 0130「電気伝導率測定法通則」に基づいて測定することができる。
【0037】
接触とは、取り出した非水溶媒相と第2の水相とが触れ合うことである。非水溶媒相と第2の水相とを接触する方法としては、非水溶媒相に第2の水相をゆっくりと添加する、第2の水相に非水溶媒相をゆっくりと添加する、非水溶媒相と第2の水相とを混合、例えば撹拌及び/又は振盪するなどが挙げられる。
【0038】
第2の水相の添加量は、限定されないが、非水溶媒相100重量部に対して、通常10重量部~1000重量部、好ましくは30重量部~300重量部、より好ましくは30重量部~200重量部である。
【0039】
非水溶媒相と第2の水相とを接触させることにより、非水溶媒相中に含まれる金属ナノ粒子が、界面を介して非水溶媒相から第2の水相中に移動、すなわち再分散・再抽出される。なお、(iii)の工程では、(i)の工程において塩析されずに金属ナノ粒子に残存・付着していた保護剤が、金属ナノ粒子の再分散された第2の水相での立体安定化に寄与し、(i)の工程で添加された界面活性剤中のアリール基が、当該界面活性剤自体の非水溶媒相中での残存に寄与する。
【0040】
本発明の(iv)の工程では、(iii)の工程で移動させた金属ナノ粒子を含む第2の水相を取り出す。
【0041】
本発明の(iv)の工程で取り出された第2の水相中には、金属ナノ粒子以外の成分がほとんど含まれない。したがって、電気伝導率の低い金属ナノ粒子を含む水系分散液を得ることができる。
【0042】
本発明によれば、(iv)の工程で取り出された第2の水相中には、(i)の工程で使用した金属ナノ粒子水系分散液に含まれる金属ナノ粒子の、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上が再抽出される。
【0043】
本発明の金属ナノ粒子の製造方法により製造された金属ナノ粒子(金属ナノ粒子の水系分散液)は、ろ過による洗浄後に得られる金属ナノ粒子の水系分散液と同等の低い電気伝導率を有する。したがって、本発明により、金属ナノ粒子水系分散液を容易に精製することができる。
【0044】
本発明の金属ナノ粒子の製造方法により製造された金属ナノ粒子(金属ナノ粒子水系分散液)は、純度が高く、触媒、電子部品部材、塗料として使用することができる。
【実施例0045】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0046】
1.銀ナノ粒子水系分散液の精製
(1)金属ナノ粒子水系分散液として、特開2018-135566号公報に記載されている方法で調製した銀ナノ粒子分散液を準備した。銀ナノ粒子分散液中の銀ナノ粒子は、保護剤としてのポリビニルピロリドン(PVP、重量平均分子量:10000g/mol)が被覆されている平均粒径40nmのプレート状銀ナノ粒子であった。なお、各種薬剤の量は、反応液中で、硝酸銀(AgNO3)3.3mM、PVP8mM、クエン酸ナトリウム12mMになるように調整した。
【0047】
(2)下記の表1に示す配合量で銀ナノ粒子分散液が投入されている容器に非水溶媒相(シクロヘキサン)を添加した。
【0048】
(3)(2)の容器に、疎水化剤としてのオレイン酸ナトリウム
【化3】
を添加した。なお、オレイン酸ナトリウムは、前もって銀ナノ粒子分散液に添加しておいても、同様の結果が得られた。
【0049】
(4)(3)の容器に、塩析剤としての塩化ナトリウム(NaCl)又はクエン酸ナトリウム(クエン酸Na)を添加し、銀ナノ粒子の保護剤の立体安定化効果を消失させた。
【0050】
(5)(4)の容器中の混合液を撹拌し、1時間静置することで、銀ナノ粒子を水相から非水溶媒相に移動させた。このとき、銀ナノ粒子は、疎水化剤の疎水部により非水溶媒相中で立体安定化していた。
【0051】
(6)続いて、実施例1~6では、(5)の容器に、界面活性剤としてのBYK-322又はBYK-323(アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン)を添加した。比較例3では、(5)の容器に、界面活性剤としてのBYK326(ポリエーテル変性メチルアルキルポリシロキサン)を添加した。比較例1及び2では、(5)の容器に、界面活性剤を添加しなかった。なお、実施例1~6において、界面活性剤を、(4)の塩析剤添加の後、(5)の混合、静置及び分離前に添加する実験(別法、
図3を参照)を実施したが、当該実験においても、下記表2に示す結果と同様の結果が得られた。
【0052】
さらに、容器中の第1の混合液を撹拌し、1時間静置することで、銀ナノ粒子が第1の水相から非水溶媒相に移動した。
【0053】
図1に、分散液中の銀ナノ粒子の非水溶媒相(シクロヘキサン)への分散時に、(A)界面活性剤を添加しなかった場合、及び(B)界面活性剤としてBYK322を非水溶媒相の重量に対して0.8重量%添加した場合における非水溶媒相(第1の水相との界面付近)の状態を光学顕微鏡写真で示す。
【0054】
図1より、界面活性剤を添加しない場合には、非水溶媒相中に対イオンを含む水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相(粒径5μm~20μm)が形成されたが、界面活性剤を添加すると、その形成が確認できなかった。この非水溶媒相中の水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相は、以下の(8)において再分散した第2の水相中の電気伝導率を上昇させ得る。つまり、以下の(7)の非水溶媒相の取り出しでは、非水溶媒相と共に当該非水溶媒相中の水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相も一緒に取り出さないようにする必要があり、これは、非水溶媒相の収率の減少、ひいては銀ナノ粒子の収率の減少につながり得る。なお、これらの非水溶媒相中の水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相は、時間の経過とともに小さくなっていったものの、5日経過した後でもその存在を確認することができる程度の大きさを有していた。これと同様の結果は、比較例1及び2並びに実施例1~6でも観測された。したがって、比較例1及び2では、非水溶媒相中に水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相が形成されていたが、実施例1~6では、その形成が確認できなかった。
【0055】
(7)(6)の容器から、非水溶媒相のみを分液漏斗に取り出し、2μS/cmの電気伝導率を有する第2の水相と接触させた。
【0056】
(8)(7)の分液漏斗中の非水溶媒相及び第2の水相を撹拌し、1時間静置することで、銀ナノ粒子の移動(再分散)を確認した。
【0057】
【0058】
なお、表1における電気伝導率が2μS/cmである第2の水相(純水)は、純水製造装置から採取することで準備した。
【0059】
2.結果
1.銀ナノ粒子水系分散液の精製で調製した銀ナノ粒子の精製水系分散液について、銀ナノ粒子の非水溶媒相への移動/第2の水相への再分散性、再分散した第2の水相の電気伝導率、及び再分散した銀ナノ粒子水系分散液の分散安定性を評価した。表2に結果を示す。
【0060】
【0061】
ここで、銀ナノ粒子の非水溶媒相への移動/第2の水相への再分散については目視により調査した。銀ナノ粒子の移動元の溶液が透明になり、移動先の溶液の濃度勾配が均一であるとき、銀ナノ粒子が移動したと判断し、表中〇で示した。
【0062】
分散安定性については、目視で確認したときに、90日以上沈殿しない状態、又は濃度勾配ができない状態を良好な分散安定性と判断し、表中〇で示した。
【0063】
電気伝導率は、電気伝導率計(装置:HORIBA製 電気伝導率計ES-51 25℃、大気圧下の条件で測定)で測定した。
【0064】
表2より、アリール基としてのアラルキル基及び親水性保護基としてのシロキサン結合を有する界面活性剤(BYK-322又はBYK-323)を添加した実施例1~6は、界面活性剤を添加しなかった比較例1及び2と比較して、銀ナノ粒子の収率が高くなった。また、界面活性剤として、アリール基を有さないが親水性保護基としてのエーテル基を有する界面活性剤(BYK-326)を添加した比較例3は、収率は高かったものの、再分散した第2の水相の電気伝導率が高くなった。
【0065】
なお、表1及び2には示していないが、実施例2において、(6)の容器から取り出した非水溶媒相を風乾させて、その後水溶媒に置換する実験を実施したところ、得られた銀ナノ粒子水系分散液は、分散安定性が悪かった。
【0066】
図2及び3に、実施例における第1の水相から非水溶媒相への銀ナノ粒子の移動を模式的に示し、
図4に、実施例における非水溶媒相から第2の水相への銀ナノ粒子の再分散を模式的に示す。
【0067】
図2では、まず、銀ナノ粒子水系分散液と非水溶媒相であるシクロヘキサンとを混合する。銀ナノ粒子水系分散液中の銀ナノ粒子(銀ナノプレート)は、親水性の表面を有し、マイナス電荷(ζ電位:-36mV)であり、PVPにより立体安定化されている。なお、PVPは、銀ナノ粒子形成時の銀ナノ粒子の形状制御(プレート化)にも影響している。
【0068】
そこに、疎水化剤としてのオレイン酸ナトリウムを添加する。オレイン酸ナトリウムは、銀ナノ粒子水系分散液とシクロヘキサンとを混合する前に、銀ナノ粒子水系分散液に添加していてもよい。疎水化剤は、銀に配位子する官能基、例えばカルボニル基、チオール基、アミン基などを有し、非水溶媒相での安定化のために長鎖炭化水素などを有し(非水溶媒相との相性が重要)、さらに疎水化させる一方で、第1の水相で激しく凝集しない化合物である。なお、疎水化剤としてカチオン性の化合物を使用すると、第1の水相での凝集が速く、銀ナノ粒子の移動が起こらなかった。
【0069】
オレイン酸ナトリウムを添加することにより、銀ナノ粒子表面にオレイン酸ナトリウムが配位し、オレイン酸ナトリウムのマイナス電荷により銀ナノ粒子のζ電位は-36mVから-49mVに変化する。銀ナノ粒子の表面は疎水性になっているが、PVPの立体安定化効果により未だ第1の水相に分散している。
【0070】
続いて、塩析剤(電解質)としての塩化ナトリウムなどを添加する。塩析剤としては塩析能力の高い化合物(ホフマイスター順列によると、塩析能力は、塩素<硫酸塩<クエン酸塩である)が有利である。
【0071】
例えば、塩化ナトリウムを添加することにより、PVPの一部が塩析され、銀ナノ粒子の立体安定化効果が消失する。このとき、PVPが第1の水相で凝集し始める様子が観察される。立体安定化効果が消失した銀ナノ粒子は、粒子全体が疎水性となり、第1の水相で不安定になるため、非水溶媒相に移動する。なお、非水溶媒相中では、銀ナノ粒子は、オレイン酸の疎水部により立体安定化され、良好な分散性を保つことができる。
【0072】
各材料を添加した後、撹拌、静置(分離)させると、銀ナノ粒子は非水溶媒相中に移動し、不要なイオン物質(雑イオン)は第1の水相に残存し、非水溶媒相と第1の水相が分離する。なお、撹拌させることにより、混合液が懸濁して、水/非水溶媒の総界面積を増加させることができ、銀ナノ粒子の非水溶媒相への移動を促進することができる。
【0073】
ただし、この段階では、
図1の(A)の写真からも分かるように、非水溶媒相中に水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相が存在している。
【0074】
そこで、前記で作製した混合物中に、アリール基及び親水性保護基を有する界面活性剤として、アラルキル基及びシロキサン結合を有する界面活性剤であるSYK-322又は323を添加することにより、非水溶媒相と第1の水相との分離が向上し、非水溶媒相中に存在していた水相及び/又は水相と非水溶媒相との中間相が、非水溶媒相から分離して第1の水相に移動する。この結果、非水溶媒相の収率、ひいては銀ナノ粒子の収率を向上することができる。
【0075】
なお、当該界面活性剤の添加タイミングについては、当該界面活性剤を、
図2に示されているように、各材料の添加、撹拌、及び静置(分離)後に、添加し、再撹拌、及び再静置(再分離)しても、あるいは、
図3に示されているように、各材料と共に、添加し、撹拌、及び静置(分離)してもよい。
【0076】
続いて、
図4では、2相に分離した混合液から、銀ナノ粒子が分散している非水溶媒相のみを取り出し、続いて、非水溶媒相と新たに準備した電気伝導率が200μS/cm以下、好ましくは2μS/cm以下である第2の水相とを接触させる。
【0077】
非水溶媒相と第2の水相とを接触させることにより、非水溶媒相中の銀ナノ粒子が、第2の水相中に再分散される。
【0078】
さらに、界面活性剤におけるアラルキル基が、界面活性剤自体を非水溶媒中に留めることに寄与し、その結果、銀ナノ粒子が移動した先の第2の水相中の電気伝導率を低く保つことができる。