IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

特開2024-99157ニッケル粉末、防カビ剤、塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品
<>
  • 特開-ニッケル粉末、防カビ剤、塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099157
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ニッケル粉末、防カビ剤、塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20240718BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240718BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240718BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240718BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240718BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P3/00
C01G53/00 Z
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002887
(22)【出願日】2023-01-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】牧野 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】西村 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】王 昌麟
(72)【発明者】
【氏名】今西 功一
(72)【発明者】
【氏名】堀田 太洋
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遼
(72)【発明者】
【氏名】奥平 義弘
【テーマコード(参考)】
4G048
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
4H011AA03
4H011BB18
4J038EA011
4J038HA066
4J038KA02
4J038KA08
4J038NA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、熱や光に対して安定で、防カビ作用に優れるニッケル粉末の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係るニッケル粉末は、ニッケル又はニッケル合金を主成分とするニッケル粉末であって、水素元素を含み、当該ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.050質量%以上であり、ガス吸着法により測定される比表面積が1m/g以上11m/g以下である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル又はニッケル合金を主成分とするニッケル粉末であって、
水素元素を含み、
当該ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.050質量%以上であり、
ガス吸着法により測定される比表面積が1m/g以上11m/g以下であるニッケル粉末。
【請求項2】
防カビ剤として用いられる請求項1に記載のニッケル粉末。
【請求項3】
ニッケル元素の含有量が70質量%以上である請求項1又は請求項2に記載のニッケル粉末。
【請求項4】
上記水素元素の含有量が1質量%以下である請求項1又は請求項2に記載のニッケル粉末。
【請求項5】
請求項1に記載のニッケル粉末を含有する塗料。
【請求項6】
請求項5に記載の塗料を表面の少なくとも一部に有する部材。
【請求項7】
請求項1に記載のニッケル粉末を含有する樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂組成物を有する樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉末、塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生上の観点からカビの抑制を目的としたコーティングがあらゆる場面で施されており、コーティング剤に防カビ剤を添加、塗布することが一般的に実施されている。例えば、下記特許文献1には防カビ剤としてカチオン性基含有重合体を含むものが記載されている。また、下記特許文献2には銅酸化物粒子を含む抗菌抗カビ用塗料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-79239号公報
【特許文献2】特開2019-99783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の有機物を主成分とした防カビ剤は熱や光によって劣化しやすいため、適用製品の使用期間に対し防カビ効果の持続性が十分でない場合がある。また、特許文献2に記載の抗菌抗カビ用塗料では、銅は抗菌性が高い一方、カビに対する効果はそれほど大きくないことが分かっている。
【0005】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、熱や光に対して安定で、防カビ作用に優れるニッケル粉末、並びにこのニッケル粉末を用いた塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るニッケル粉末は、ニッケル又はニッケル合金を主成分とするニッケル粉末であって、水素元素を含み、当該ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.050質量%以上であり、ガス吸着法により測定される比表面積が1m/g以上11m/g以下である。
【0007】
本発明の別の一態様に係る塗料は、本発明のニッケル粉末を含有する。
【0008】
本発明の別の一態様に係る部材は、本発明の塗料を表面の少なくとも一部に有する。
【0009】
本発明の別の一態様に係る樹脂組成物は、本発明のニッケル粉末を含有する。
【0010】
本発明の別の一態様に係る樹脂成形品は、本発明の樹脂組成物を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のニッケル粉末は、熱や光に対して安定で、防カビ作用に優れる。また、本発明の塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品は、その防カビ作用の持続性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例における水素元素の含有量-比表面積のプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
(1)本発明の一態様に係るニッケル粉末は、ニッケル又はニッケル合金を主成分とするニッケル粉末であって、水素元素を含み、当該ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.050質量%以上であり、ガス吸着法により測定される比表面積が1m/g以上11m/g以下である。
【0014】
本発明者らは、安定で、防カビ作用に優れる粉末について鋭意検討した結果、ニッケル粉末が防カビ作用を奏することをつきとめ、本発明を完成させた。本発明者らは、本発明のニッケル粉末が防カビ作用を奏する理由を次のように推察している。当該ニッケル粉末は、ニッケル又はニッケル合金を主成分としており、使用状態でその粉末表面に少量存在し得る吸着水にニッケルイオンが溶出する。このニッケルイオンが吸着水内で増殖し得る菌やカビに接触して死滅させることができる。
【0015】
そして、当該ニッケル粉末は、上記下限以上の水素元素を含む。水素元素は還元作用を有するため、当該ニッケル粉末の表面の酸化や変質を抑制する。これにより、当該ニッケル粉末の活性状態が維持され、ニッケルイオンが安定的に溶出する。また、水素元素は、菌やカビを構成するたんぱく質を変質させる水素化物を形成するため、防カビ作用をさらに向上することができる。
【0016】
さらに、当該ニッケル粉末は、ガス吸着法により測定される比表面積を上記範囲内とする。上記比表面積を上記範囲内とすることで、粒子同士の凝集の発生を抑止しつつ、ニッケルイオンの溶出量を確保し防カビ作用を高めている。
【0017】
(2)従って、上記(1)に記載のニッケル粉末は、防カビ剤として好適に用いることができる。
【0018】
(3)上記(1)又は(2)に記載のニッケル粉末において、ニッケル元素の含有量としては、70質量%以上が好ましい。このようにニッケル元素の含有量を上記下限以上とすることで、防カビ作用をさらに高められる。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載のニッケル粉末において、上記水素元素の含有量としては、1質量%以下が好ましい。上記水素元素の含有量が上記上限を超えると、当該ニッケル粉末の生産性が低下するおそれがある。
【0020】
(5)本発明の別の一態様に係る塗料は、上記(1)から(4)のいずれかに記載のニッケル粉末を含有する。
【0021】
(6)本発明の別の一態様に係る部材は、上記(5)に記載の塗料を表面の少なくとも一部に有する。
【0022】
(7)本発明の別の一態様に係る樹脂組成物は、上記(1)から(4)のいずれかに記載のニッケル粉末を含有する。
【0023】
(8)本発明の別の一態様に係る樹脂成形品は、上記(7)に記載の樹脂組成物を有する。
【0024】
本発明の塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品は、上記(1)から(4)のいずれかに記載のニッケル粉末を含有しているので、その防カビ作用の持続性に優れる。
【0025】
ここで、ニッケル粉末の「水素元素の含有量」は、不活性ガス融解法によって測定される量を指す。また、ガス吸着法により測定される「比表面積」は、Nガスを用いた吸着量をBET法により解析し算出した量を指す。その具体的条件としては、前処理条件は200℃で3時間の真空脱気とし、吸着温度は-196℃とする。
【0026】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末、塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品について説明する。
【0027】
〔ニッケル粉末〕
本発明の一態様に係るニッケル粉末は、ニッケル又はニッケル合金を主成分とし、水素元素を含む。当該ニッケル粉末は、防カビ剤として好適に用いることができる。
【0028】
当該ニッケル粉末の平均粒径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましい。一方、上記平均粒径の上限としては、20μmが好ましく、15μmがより好ましい。上記平均粒径が上記下限未満であると、当該ニッケル粉末の製造コストが高くなるおそれがある。逆に、上記平均粒径が上記上限を超えると、当該ニッケル粉末の比表面積を十分に大きくし難くなることで、防カビ作用を十分に奏し難くなるおそれがある。なお、「平均粒径」とは、一般的な粒度分布計によって粒子の粒度分布を測定し、その測定結果に基づいて算出される小粒径側からの体積積算値50%の粒度(D50)を意味する。
【0029】
<ニッケル又はニッケル合金>
当該ニッケル粉末の全質量に対するニッケル元素の含有量の下限としては、所望の防カビ作用を得る観点から、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、上記ニッケル元素の含有量の上限は特に限定されないが、例えば99質量%とすることができる。
【0030】
当該ニッケル粉末は、ニッケル以外の金属を含んでいてもよい。また、当該ニッケル粉末は上述の通りニッケル合金を主成分とした粉末であってもよい。当該ニッケル粉末に含まれるニッケル以外の金属元素としては、例えば、Fe、Co、Zn等が挙げられる。
【0031】
当該ニッケル粉末におけるニッケル以外の金属元素の含有量は、当該ニッケル粉末全質量に対しニッケル元素の含有量が上述の好ましい範囲内となる範囲で設定することが好ましい。一方、当該ニッケル粉末は、金属元素として実質的にニッケルのみを含むものとしてもよい。なお、「金属元素として実質的にニッケルのみを含む」とは、金属元素が、ニッケル及び不可避的に含まれる金属元素のみから構成されていることを意味する。
【0032】
<水素元素>
水素元素は、例えばニッケルに固溶した状態あるいはニッケル表面に吸着した状態などの状態で当該ニッケル粉末に含まれる。なお、水素元素が吸着した状態で含まれる場合としては、例えば水素原子単独でニッケル格子間に存在している場合や、有機物の形態で吸着している場合などが挙げられる。なお、水素元素が含まれる状態は、上記例示に限定されるものではない。水素元素が還元作用を示す他の形態で含まれていてもよい。
【0033】
当該ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量の下限としては、0.050質量%であり、0.070質量%がより好ましく、0.075質量%がさらに好ましい。一方、上記水素元素の含有量の上限としては、1.000質量%が好ましく、0.800質量%がより好ましく、0.600質量%がさらに好ましい。上記水素元素の含有量が上記下限未満であると、当該ニッケル粉末の酸化や変質の抑止効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記水素元素の含有量が上記上限を超えると、水素元素を含有させるための工程に時間を要し、当該ニッケル粉末の生産性が低下するおそれがある。
【0034】
ニッケル又はニッケル合金の粉末に水素元素を導入する方法としては、例えば水素元素を含む化合物を含有する水溶液に、上記粉末を浸漬する方法が挙げられる。上記水溶液としては、例えば塩酸、リン酸、フッ酸などの酸性水溶液を用いることができる。当該ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量は、例えば上記水溶液への浸漬時間で調整することができる。
【0035】
また、湿式粉砕を行うことにより水素元素を導入することもできる。湿式粉砕処理により水素元素を導入する場合には、処理時間や溶媒の種類により水素元素の含有量を制御できる。上記溶媒としては、水素元素を含む溶媒であれば特に限定されないが、中でも水やエタノールが好ましい。
【0036】
<比表面積>
当該ニッケル粉末のガス吸着法により測定される比表面積の下限としては、1m/gであり、2m/gがより好ましく、3m/gがさらに好ましい。一方、上記比表面積の上限としては、11m/gであり、10m/gがより好ましく、9m/gがさらに好ましい。上記比表面積が上記下限未満であると、ニッケルイオンの溶出量が十分に確保できず、防カビ作用が低下するおそれがある。逆に、上記比表面積が上記上限を超えると、粒子同士の凝集が発生することでニッケルイオンの溶出が阻害され、防カビ作用が低下するおそれがある。
【0037】
当該ニッケル粉末の比表面積を調整する方法は、特に限定されないが、例えばジェットミル、ローラーミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミル等の粉砕機による処理時間の制御のほか、酸などの水溶液への浸漬・溶出による方法を用いることができる。なお、粉砕機による粉砕は乾式であっても、湿式であってもよい。
【0038】
<利点>
当該ニッケル粉末は、ニッケル又はニッケル合金を主成分としており、使用状態でその粉末表面に少量存在し得る吸着水にニッケルイオンが溶出する。このニッケルイオンが吸着水内で増殖し得る菌やカビに接触して死滅させることができる。そして、当該ニッケル粉末は、0.050質量%以上の水素元素を含む。水素元素は還元作用を有するため、当該ニッケル粉末の表面の酸化や変質を抑制する。これにより、当該ニッケル粉末の活性状態が維持され、ニッケルイオンが安定的に溶出する。また、水素元素は、菌やカビを構成するたんぱく質を変質させる水素化物を形成するため、防カビ作用をさらに向上することができる。さらに、当該ニッケル粉末は、ガス吸着法により測定される比表面積を1m/g以上11m/g以下とする。上記比表面積を上記範囲内とすることで、粒子同士の凝集の発生を抑止しつつ、ニッケルイオンの溶出量を確保し防カビ作用を高めている。
【0039】
〔塗料及び部材〕
<塗料>
本発明の別の一態様に係る塗料は、塗料材料と、本発明のニッケル粉末とを含有する。当該塗料は、例えば当該ニッケル粉末を上記塗料材料に添加して調製される。当該ニッケル粉末については、上述したとおりであるので、詳細説明を省略する。
【0040】
上記塗料材料は、溶剤を含んでもよく、溶剤を含まなくてもよい。当該塗料又は上記塗料材料の形態としては、溶剤系、水系、又は粉体のいずれかであってもよい。
【0041】
上記塗料材料は、通常、樹脂を含む。上記塗料材料に含まれる樹脂は、特に限定されず、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。すなわち、当該塗料又は上記塗料材料は、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料、アクリル系塗料、シリコーン系塗料のいずれかであってもよい。
【0042】
当該塗料における当該ニッケル粉末の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0043】
<部材>
本発明の別の一態様に係る部材は、上述した当該塗料を表面の少なくとも一部に有する。当該部材は、例えば被塗布部材と、この被塗布部材に塗布された当該塗料とを有する。
【0044】
上記被塗布部材としては、特に限定されず、防カビ性が要求される種々の部材であってもよい。上記被塗布部材としては、屋外照明用カバー、スマートメーターカバー等の屋外設備用カバー;台所、風呂、トイレ等の水周りで使用される部材又は住宅設備;冷蔵庫、エアコン等の家電;コンビニエンスストア等に設置されているATM(現金自動預け払い機);POS端末;携帯電話、スマートフォン、タブレット等の携帯用端末;パソコン等の計算機器;各種包装材;壁紙;各種フィルター;スイッチ;日用品・生活用資材;衛生材;衣料品;車両関連の各種プラスチック部品等の部材が挙げられる。
【0045】
<利点>
当該塗料及び当該部材は、本発明のニッケル粉末を含有しているので、その防カビ作用の持続性に優れる。
【0046】
〔樹脂組成物及び樹脂成形品〕
<樹脂組成物>
本発明の別の一態様に係る樹脂組成物は、樹脂と、本発明のニッケル粉末とを含有する。当該樹脂組成物は、例えば当該ニッケル粉末を樹脂に添加して調製される。当該ニッケル粉末については、上述したとおりであるので、詳細説明を省略する。
【0047】
上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0048】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリプロレン、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート系共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のポリアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AN樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等のポリエステル系樹脂;ナイロン66、ナイロン69、ナイロン612、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6-66共重合体、ナイロン6-12共重合体等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリカーボネート-ABS樹脂アロイ等のポリカーボネート系樹脂;ポリアセタール樹脂;熱可塑性ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0049】
上記熱硬化性樹脂としては、グリコールと、不飽和及び飽和二塩基酸から誘導される不飽和ポリエステルと、他のビニルモノマーとの架橋共重体等の不飽和ポリエステル樹脂;ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂のポリアミン、酸無水物等による硬化樹脂等のエポキシ樹脂;ポリウレタンフォーム等の熱硬化性ポリウレタン樹脂;架橋ポリアクリルアミドの部分加水分解物、架橋されたアクリル酸-アクリルアミド共重合体等の高吸水性樹脂等が挙げられる。
【0050】
当該樹脂組成物における当該ニッケル粉末の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0051】
<樹脂成形品>
本発明の別の一態様に係る樹脂成形品は、上述した当該樹脂組成物を有する。当該樹脂成形品は、例えば当該樹脂組成物を成形して得られる成形物を有する。当該樹脂成形品は、当該樹脂組成物以外の部材、化合物等を有していてもよい。
【0052】
当該樹脂成形品としては、特に限定されず、例えば当該部材において被塗布部材として例示された部材であってもよい。
【0053】
<利点>
当該樹脂組成物及び当該樹脂成形品は、本発明のニッケル粉末を含有しているので、その防カビ作用の持続性に優れる。
【0054】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。したがって、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0055】
当該ニッケル粉末は、ニッケル又はニッケル合金、水素及びその他不可避的に含まれる不純物以外の化合物を含有することを妨げない。当該ニッケル粉末は、例えばニッケル酸化物をさらに含有していてもよい。
【実施例0056】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
<ニッケル粉末の調製>
[No.1]
No.1では、市販の原料ニッケル粉を用いた。市販の原料ニッケル粉としては、本発明の比表面積を満たすように、化学気相反応法により製造された平均粒子径がサブミクロンの超微細原料ニッケル粉を選定した。
【0058】
また、別途リン酸濃度0.1質量%の水溶液を調製し、この水溶液に原料ニッケル粉を固体と液体との質量比(固体/液体)が1.0となるように投入した。その後、上記水溶液を、室温で1時間攪拌した。攪拌後の上記水溶液を濾過し、濾液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した後、乾燥機で乾燥させることによって、ニッケル粉末を調製した。
【0059】
[No.2]
No.2では、水アトマイズ法により原料ニッケル粉を調製した。その後、上記原料ニッケル粉を、ビーズミル粉砕機を用いて比表面積が5m/gになるまで湿式粉砕した。湿式粉砕の際は、エタノールを分散媒とし、固形分濃度を30質量%とした。湿式粉砕の後、得られた懸濁液を濾過し、乾燥機で乾燥させることによって、No.2のニッケル粉末を調製した。
【0060】
[No.3]
No.3では、水アトマイズ法により原料ニッケル粉を調製した。その後、上記原料ニッケル粉を、ビーズミル粉砕機を用いて比表面積が8m/gになるまで湿式粉砕した。湿式粉砕の際は、水を分散媒とし、固形分濃度を30質量%とした。湿式粉砕の後、得られた懸濁液を濾過し、乾燥機で乾燥させることによって、No.3のニッケル粉末を調製した。
【0061】
[No.4]
No.4では、No.1とは異なる市販の原料ニッケル粉(比表面積<1m/g)を用いたことを除き、No.1と同様の手順で、No.4のニッケル粉末を調製した。
【0062】
[No.5]
No.5では、No.1の市販の原料ニッケル粉をそのままNo.5のニッケル粉末とした。
【0063】
[No.6]
No.6では、No.2の水アトマイズ法で調製した原料ニッケル粉を湿式粉砕することなくそのままNo.6のニッケル粉末とした。
【0064】
[No.7]
No.7では、比表面積が12m/gになるまで湿式粉砕したことを除き、No.2と同様の手順で、No.7のニッケル粉末を調製した。
【0065】
<分析方法>
No.1~No.7のニッケル粉末の水素元素の含有量をそれぞれ測定した。水素元素の含有量は不活性ガス融解法によって測定した。結果を表1に「H含有量[質量%]」として示す。水素元素の含有量は、小数点第4位を四捨五入した値である。
【0066】
また、No.1~No.7のニッケル粉末の比表面積をそれぞれ測定した。比表面積はNガスを用いた吸着量データをBET法により解析することで算出した。なお、比表面積測定の前処理として、200℃で真空脱気を3時間行い、吸着温度は-196℃とした。結果を表1に「比表面積[m/g]」として示す。比表面積は結果を整数値で示し、分析精度の観点から、1m/g未満は、「<1m/g」とした。
【0067】
<防カビ試験>
No.1~No.7のニッケル粉末に対して防カビ試験を行った。防カビ試験は、最小発育阻止濃度測定試験によって実施した。初めにニッケル粉末が1mg/mLになるように減菌水を用いて希釈し、サブローデキストロース液体培地(SDB)と混合した。これを試験試料とし、SDBを用いて2倍希釈系列を10段階調製し試験培地とした。
【0068】
試験菌はCladosporium cladosporioidesを用い、ポリデキストロース寒天培地(PDA)に接種し、25℃で5日間培養後、0.05Tween80液及び生理食塩水を用いて、胞子数が106個/mL以上107個/mL以下になるように調製したものを試験胞子液とした。
【0069】
各試験培地に試験胞子液を接種し、22.5℃で48時間培養した。培養後、試験菌の発育有無を肉眼で観察し、発育が認められなかった試料の試料粉末濃度の最大値を「最小発育阻止濃度[ppm]」として求めた。結果を表1に示す。また、No.1~No.7のニッケル粉末の(水素元素の含有量、比表面積)を、最小発育阻止濃度が250ppm未満であるものを「○」、250ppm以上であるものを「×」としてプロットした(図1)。
【0070】
【表1】
【0071】
表1及び図1に示すように、水素元素の含有量が0.05質量%以上であり、かつ比表面積を1m/g以上11m/g以下を満たすNo.1からNo.3は、市販のニッケル粉末(No.5)の最小発育阻止濃度250ppmよりも低い値を示しており、優れた防カビ作用を奏していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のニッケル粉末は、熱や光に対して安定で、防カビ作用に優れる。また、本発明の塗料、部材、樹脂組成物及び樹脂成形品は、その防カビ作用の持続性に優れる。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-07-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル又はニッケル合金を主成分とするニッケル粉末であって、
水素元素を含み、
ニッケル元素の含有量が70質量%以上であり、
当該ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.050質量%以上1質量%以下であり、
ガス吸着法により測定される比表面積が1m/g以上10m /g以下であるニッケル粉末。
【請求項2】
ガス吸着法により測定される比表面積が9m /g以下である請求項1に記載のニッケル粉末。
【請求項3】
当該ニッケル粉末の平均粒径が0.2μm以上20μm以下である請求項1または請求項2に記載のニッケル粉末。
【請求項4】
請求項1に記載のニッケル粉末からなる防カビ剤。
【請求項5】
請求項1に記載のニッケル粉末を含有する塗料。
【請求項6】
請求項5に記載の塗料を表面の少なくとも一部に有する部材。
【請求項7】
請求項1に記載のニッケル粉末を含有する樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂組成物を有する樹脂成形品。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0068
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0068】
試験菌はCladosporium cladosporioidesを用い、ポリデキストロース寒天培地(PDA)に接種し、25℃で5日間培養後、0.05Tween80液及び生理食塩水を用いて、胞子数が10 個/mL以上10 個/mL以下になるように調製したものを試験胞子液とした。