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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099158
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】包装袋の製造方法及び包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240718BHJP
   B65D 30/02 20060101ALI20240718BHJP
   B65D 30/16 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D30/02
B65D30/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002888
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】後藤 拓己
【テーマコード(参考)】
3E064
4F100
【Fターム(参考)】
3E064AB23
3E064BA30
3E064BA40
3E064BB03
3E064BC08
3E064BC18
3E064EA05
3E064EA07
3E064HM01
4F100AA01D
4F100AA20D
4F100AH06E
4F100AH08E
4F100AK01E
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK21E
4F100AK41G
4F100AK51G
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100EC12
4F100EC18
4F100EH66D
4F100EJ37A
4F100EJ37B
4F100EJ55B
4F100GB16
4F100JA03A
4F100JD02E
4F100JK12A
4F100JL12C
4F100YY00
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】シール部のシール強度を確保しつつ、シール部の歪み及びカールを低減できる包装袋の製造方法を提供すること。
【解決手段】基材層と、中間層と、シーラント層と、を少なくとも備える積層体を製袋してなる包装袋の製造方法であって、基材層、中間層及びシーラント層がいずれもポリプロピレンを含み、積層体全量の90質量%以上がポリプロピレンであり、積層体を、シーラント層同士を対向させた状態でヒートシールすることでシール部を形成するヒートシール工程を含み、ヒートシール工程において、未シール部における基材層のマルテンス硬度HMに対するシール部における基材層のマルテンス硬度HMの下記式(1)で求められる変化率が20~30%となるようにヒートシールを行う、包装袋の製造方法。
マルテンス硬度の変化率(%)={1-(HM/HM)}×100 …(1)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、中間層と、シーラント層と、を少なくとも備える積層体を製袋してなる包装袋の製造方法であって、
前記基材層、前記中間層及び前記シーラント層がいずれもポリプロピレンを含み、
前記積層体全量の90質量%以上がポリプロピレンであり、
前記積層体を、前記シーラント層同士を対向させた状態でヒートシールすることでシール部を形成するヒートシール工程を含み、
前記ヒートシール工程において、未シール部における前記基材層のマルテンス硬度HMに対する前記シール部における前記基材層のマルテンス硬度HMの下記式(1)で求められる変化率が20~30%となるようにヒートシールを行う、包装袋の製造方法。
マルテンス硬度の変化率(%)={1-(HM/HM)}×100 …(1)
【請求項2】
前記ヒートシール工程におけるヒートシール温度が145~164℃である、請求項1に記載の包装袋の製造方法。
【請求項3】
前記基材層は、150℃で15分間オーブンにて加熱した後の、下記式(2)で求められるMD方向の熱収縮率が7.0%以下であり、下記式(3)で求められるTD方向の熱収縮率が9.0%以下である、請求項1又は2に記載の包装袋の製造方法。
MD方向熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(2)
TD方向熱収縮率(%)=(加熱前のTD方向長さ-加熱後のTD方向長さ)/加熱前のTD方向長さ×100 …(3)
【請求項4】
前記積層体が、前記基材層の少なくとも一方の表面上、又は、前記中間層の少なくとも一方の表面上に形成された無機酸化物層と、前記無機酸化物層上に形成されたガスバリア性被覆層とを更に備え、
前記ガスバリア性被覆層が、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成される、請求項1又は2に記載の包装袋の製造方法。
【請求項5】
前記包装袋が自立性包装袋である、請求項1又は2に記載の包装袋の製造方法。
【請求項6】
基材層と、中間層と、シーラント層と、を少なくとも備える積層体を製袋してなる包装袋であって、
前記基材層、前記中間層及び前記シーラント層がいずれもポリプロピレンを含み、
前記積層体全量の90質量%以上がポリプロピレンであり、
前記包装袋は、前記積層体を、前記シーラント層同士を対向させた状態でヒートシールすることで形成されたシール部を有し、
未シール部における前記基材層のマルテンス硬度HMに対する前記シール部における前記基材層のマルテンス硬度HMの下記式(1)で求められる変化率が20~30%である、包装袋。
マルテンス硬度の変化率(%)={1-(HM/HM)}×100 …(1)
【請求項7】
前記基材層は、150℃で15分間オーブンにて加熱した後の、下記式(2)で求められるMD方向の熱収縮率が7.0%以下であり、下記式(3)で求められるTD方向の熱収縮率が9.0%以下である、請求項6に記載の包装袋。
MD方向熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(2)
TD方向熱収縮率(%)=(加熱前のTD方向長さ-加熱後のTD方向長さ)/加熱前のTD方向長さ×100 …(3)
【請求項8】
前記積層体が、前記基材層の少なくとも一方の表面上、又は、前記中間層の少なくとも一方の表面上に形成された無機酸化物層と、前記無機酸化物層上に形成されたガスバリア性被覆層とを更に備え、
前記ガスバリア性被覆層が、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成される、請求項6又は7に記載の包装袋。
【請求項9】
自立性を有する、請求項6又は7に記載の包装袋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は包装袋の製造方法及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
ベースフィルムとして耐熱性及び強靭性に優れた二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムと、シーラント層としてポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムとを備える積層体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-178357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
世界でプラスチックごみ問題が注目される中、循環型社会の実現にむけて環境配慮型包装材料の需要がますます高まっている。包装材料に関し、グローバル企業の多くがより優れたプラスチック資源循環に向けた目標を設定し、さまざまな施策を打ち出している。また、米国では、PE(ポリエチレン)の回収から再利用までのリサイクルルートが整備され始めているなど、世界的にモノマテリアル(単一素材)を前提とするリサイクルへの取り組みが加速しつつある。すなわち、従来、様々な異種材料を組み合わせることで高性能化を図ってきた包装用の積層体においても、モノマテリアル化が求められるようになってきている。
【0005】
レトルト用の包装材料としては、従来のマルチマテリアル(複合素材)の包装材料をモノマテリアル化する場合、シーラント特性の観点からPP(ポリプロピレン)単一素材の包装材料への変更が考えられる。しかし、包装材料をモノマテリアル化する場合、最内層(内容物側の層)と最外層とで融点が非常に近いものになる。
【0006】
最外層は製袋時のヒートシール工程において最も熱がかかる部分であるため、熱融着しにくいフィルムが用いられるが、ヒートシール工程で最内層であるシーラントを融着させるために高い温度をかけると、最外層が熱収縮により変形していまい、シール部に歪みやカールが生じ、搬送性が低下したり、内容物封入時の作業性が低下したりするなどの問題が発生する。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、シール部のシール強度を確保しつつ、シール部の歪み及びカールを低減できる包装袋の製造方法、及び、包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、以下の包装袋の製造方法及び包装袋を提供する。
[1]基材層と、中間層と、シーラント層と、を少なくとも備える積層体を製袋してなる包装袋の製造方法であって、上記基材層、上記中間層及び上記シーラント層がいずれもポリプロピレンを含み、上記積層体全量の90質量%以上がポリプロピレンであり、上記積層体を、上記シーラント層同士を対向させた状態でヒートシールすることでシール部を形成するヒートシール工程を含み、上記ヒートシール工程において、未シール部における上記基材層のマルテンス硬度HMに対する上記シール部における上記基材層のマルテンス硬度HMの下記式(1)で求められる変化率が20~30%となるようにヒートシールを行う、包装袋の製造方法。
マルテンス硬度の変化率(%)={1-(HM/HM)}×100 …(1)
[2]上記ヒートシール工程におけるヒートシール温度が145~164℃である、上記[1]に記載の包装袋の製造方法。
[3]上記基材層は、150℃で15分間オーブンにて加熱した後の、下記式(2)で求められるMD方向の熱収縮率が7.0%以下であり、下記式(3)で求められるTD方向の熱収縮率が9.0%以下である、上記[1]又は[2]に記載の包装袋の製造方法。
MD方向熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(2)
TD方向熱収縮率(%)=(加熱前のTD方向長さ-加熱後のTD方向長さ)/加熱前のTD方向長さ×100 …(3)
[4]上記積層体が、上記基材層の少なくとも一方の表面上、又は、上記中間層の少なくとも一方の表面上に形成された無機酸化物層と、上記無機酸化物層上に形成されたガスバリア性被覆層とを更に備え、上記ガスバリア性被覆層が、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の包装袋の製造方法。
[5]上記包装袋が自立性包装袋である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の包装袋の製造方法。
[6]基材層と、中間層と、シーラント層と、を少なくとも備える積層体を製袋してなる包装袋であって、上記基材層、上記中間層及び上記シーラント層がいずれもポリプロピレンを含み、上記積層体全量の90質量%以上がポリプロピレンであり、上記包装袋は、上記積層体を、上記シーラント層同士を対向させた状態でヒートシールすることで形成されたシール部を有し、未シール部における上記基材層のマルテンス硬度HMに対する上記シール部における上記基材層のマルテンス硬度HMの下記式(1)で求められる変化率が20~30%である、包装袋。
マルテンス硬度の変化率(%)={1-(HM/HM)}×100 …(1)
[7]上記基材層は、150℃で15分間オーブンにて加熱した後の、下記式(2)で求められるMD方向の熱収縮率が7.0%以下であり、下記式(3)で求められるTD方向の熱収縮率が9.0%以下である、上記[6]に記載の包装袋。
MD方向熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(2)
TD方向熱収縮率(%)=(加熱前のTD方向長さ-加熱後のTD方向長さ)/加熱前のTD方向長さ×100 …(3)
[8]上記積層体が、上記基材層の少なくとも一方の表面上、又は、上記中間層の少なくとも一方の表面上に形成された無機酸化物層と、上記無機酸化物層上に形成されたガスバリア性被覆層とを更に備え、上記ガスバリア性被覆層が、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成される、上記[1]又は[7]に記載の包装袋。
[9]自立性を有する、上記[6]~[8]のいずれかに記載の包装袋。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、シール部のシール強度を確保しつつ、シール部の歪み及びカールを低減できる包装袋の製造方法、及び、包装袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。
図2図2は、一実施形態に係る自立性包装袋の正面図を示す。
図3図3は、図2における破線Cに沿った自立性包装袋の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
<積層体>
図1は、一実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。図1に示す積層体100は、基材層11、中間層12及びシーラント層13をこの順に備える。基材層11及び中間層12、並びに中間層12及びシーラント層13は、それぞれ接着剤層Sで接着されていてよい。基材層、中間層及びシーラント層は、いずれもポリプロピレンを含む。基材層、中間層及びシーラント層は、ポリプロピレンフィルムを含んでいてよい。積層体は、水蒸気や酸素に対するガスバリア性向上の観点から、基材層11の少なくとも一方の表面上、又は、中間層12の少なくとも一方の表面上に、無機酸化物層及びガスバリア性被覆層を備えていてよい。基材層11は、積層体100の一方の最表面に配置されて最外層(包装袋とした場合の内容物側とは反対側の層)を形成していてもよく、シーラント層13は、積層体100の他方の最表面に配置されて最内層(包装袋とした場合の内容物側の層)を形成していてもよい。
【0013】
[基材層11]
基材層は支持体の一つとなる層であり、ポリプロピレンを含む。基材層はポリプロピレンフィルムを含んでいてよく、ポリプロピレンフィルムからなるものであってよい。
【0014】
ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリプロピレンフィルム等であってもよい。また、ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。
【0015】
基材層を構成するポリプロピレンフィルムには、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤、静電防止剤等の各種添加材が添加されてよい。
【0016】
基材層を構成するポリプロピレンフィルムは、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性等の観点から、ポリプロピレンフィルムは延伸フィルムであることが好ましい。これにより、製袋時のヒートシール工程において基材層が熱融着することを抑制することができる。また、レトルト処理やボイル処理を施す用途に、積層体をより好適に用いることができる。延伸方法としては特に限定されず、インフレーションによる延伸、または一軸延伸、二軸延伸など、寸法が安定したフィルムが供給可能であれば、どのような方法でもよい。
【0017】
基材層の厚さは特に限定されない。用途に応じ、当該厚さを6~200μmとすることができるが、環境負荷低減のための材料削減の観点、及び、優れた耐熱性、耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、9~50μmであってよく、12~38μmであってよく、18~30μmであってよい。
【0018】
基材層には、その積層面に、バリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けても構わない。
【0019】
基材層は、150℃で15分間オーブンにて加熱した後の、下記式(2)で求められるMD方向の熱収縮率が7.0%以下であり、下記式(3)で求められるTD方向の熱収縮率が9.0%以下であってよい。
MD方向熱収縮率(%)=(加熱前のMD方向長さ-加熱後のMD方向長さ)/加熱前のMD方向長さ×100 …(2)
TD方向熱収縮率(%)=(加熱前のTD方向長さ-加熱後のTD方向長さ)/加熱前のTD方向長さ×100 …(3)
【0020】
基材層はヒートシール時にヒートシールバーに直接接する又は近接する部分であり、積層体の各層の中でも特に熱がかかる部分である。そのため、基材層の熱収縮率は、積層体の熱変形に大きく影響する。この基材層の熱収縮率が上記条件を満たすことにより、積層体がポリプロピレンを主構成とする(積層体におけるポリプロピレンの含有量が90質量%以上である)、モノマテリアルの積層体である場合でも、製袋時の変形を低減することができる。
【0021】
製袋時の変形をより低減する観点から、上記基材層は、150℃で15分間オーブンにて加熱した後の、上記式(2)で求められるMD方向の熱収縮率が3.0~7.0%、又は、5.0~7.0%であってよく、上記式(3)で求められるTD方向の熱収縮率が2.0~9.0%、又は、8.0~9.0%であってよい。
【0022】
上記積層体において、中間層の熱収縮率は、上述した基材層の熱収縮率と同様の条件を満たしていてよい。中間層の熱収縮率が上記条件を満たすことにより、積層体がポリプロピレンを主構成とする(積層体におけるポリプロピレンの含有量が90質量%以上である)、モノマテリアルの積層体である場合でも、製袋時の変形をより低減することができる。
【0023】
上述した基材層及び中間層の熱収縮率は、測定サンプルをオーブン中で150℃で15分間加熱し、加熱前後のMD方向長さ及びTD方向長さの変化に基づいて求めることができる。
【0024】
[密着層]
積層体が基材層上に無機酸化物層を備える場合、基材層の、無機酸化物層を積層する面には密着層(アンカーコート層)が設けられてよい。密着層は基材層上に設けられ、基材層と無機酸化物層との密着性能向上と、基材層表面の平滑性向上との二つの効果を得ることができる。なお、平滑性が向上することで無機酸化物層を欠陥なく均一に成膜し易くなり、高いバリア性を発現し易い。密着層はアンカーコート剤を用いて形成することができる。
【0025】
アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。アンカーコート剤としては、耐熱性及び層間接着強度の観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0026】
密着層の厚さは特に限定されないが、0.01~5μmの範囲であることが好ましく、0.03~3μmの範囲であることがより好ましく、0.05~2μmの範囲であることが特に好ましい。密着層の厚さが上記下限値以上であると、より十分な層間接着強度が得られる傾向にあり、他方、上記上限値以下であると所望のガスバリア性が発現し易い傾向にある。
【0027】
密着層を基材層上に塗工する方法としては、公知の塗工方法が特に制限なく使用可能であり、浸漬法(ディッピング法);スプレー、コーター、印刷機、刷毛等を用いる方法が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0028】
密着層の塗布量としては、アンカーコート剤を塗工して乾燥した後の1mあたりの質量が0.01~5g/mであることが好ましく、0.03~3g/mであることがより好ましい。アンカーコート剤を塗工して乾燥した後の1mあたりの質量が上記下限以上であると、成膜が十分となる傾向にあり、他方、上記上限以下であると十分に乾燥し易く溶剤が残留し難い傾向にある。
【0029】
密着層を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、上記コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤー等を用いる方法を挙げることができる。さらに、乾燥の条件としては、乾燥させる方法により適宜選択することができ、例えばオーブン中で乾燥させる方法においては、温度60~100℃にて、1秒間~2分間程度乾燥することが好ましい。
【0030】
密着層として、上記ポリウレタン樹脂に代えて、ポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルエステル単位がケン化されてなるビニルアルコール単位を有するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。
【0031】
密着層としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、密着層の形成方法としては、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いた塗布や、多層押出等が挙げられる。
【0032】
[無機酸化物層]
無機酸化物層は、ガスバリア性の向上に寄与する。無機酸化物層に含まれる無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。透明性及びバリア性の観点から、無機酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択されてよい。また、加工時に引っ張り延伸性に優れる観点から、無機酸化物層を酸化ケイ素を用いた層とすることが好ましい。無機酸化物層を用いることにより、積層体のリサイクル性に影響を与えない範囲のごく薄い層で、高いバリア性を得ることができる。
【0033】
無機酸化物層のO/Si比は1.7以上であることが望ましい。O/Si比が1.7以上であると金属Siの含有割合が抑制されて良好な透明性が得られ易い。また、O/Si比は2.0以下であることが好ましい。O/Si比が2.0以下であるとSiOの結晶性が高くなって無機酸化物層が硬くなり過ぎることを防ぐことができ、良好な引張り耐性が得られる。これにより、ガスバリア性被覆層を積層する際に無機酸化物層にクラックが発生することを抑制することができる。また、包装袋に成形後もボイルやレトルト処理時の熱により基材層又は中間層が収縮することがあるが、O/Si比が2.0以下であることで無機酸化物層が上記収縮に追従し易く、バリア性の低下を抑制することができる。これらの効果をより十分に得る観点から、無機酸化物層のO/Si比は1.75以上1.9以下であることが好ましく、1.8以上1.85以下であることがより好ましい。
【0034】
無機酸化物層のO/Si比は、X線光電子分光法(XPS)により求めることができる。例えば、測定装置はX線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)にて、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定することができる。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いることができる。
【0035】
無機酸化物層の膜厚は、10nm以上50nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm以上であると、十分な水蒸気バリア性を得ることができる。また、膜厚が50nm以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、水蒸気バリア性の低下を抑制することができる。なお、膜厚が50nmを超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。上記と同様の観点から、無機酸化物層の膜厚は、20nm以上40nm以下であることがより好ましい。
【0036】
無機酸化物層は、例えば真空成膜で形成することができる。真空成膜では、物理気相成長法あるいは化学気相成長法を用いることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
上記真空成膜では、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、プラズマ化学気相堆積法(PECVD法)等が特に好ましく用いられる。但し、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましい。
【0038】
[ガスバリア性被覆層]
ガスバリア性被覆層は、無機酸化物層を保護するとともに、ガスバリア性の向上に寄与し、無機酸化物層との相乗効果による高いガスバリア性を発現させるためのものである。ガスバリア性被覆層は、例えば、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成された層であってよい。
【0039】
ガスバリア性被覆層は、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするガスバリア性被覆層形成用組成物(以下、コーティング剤ともいう)を用いて形成することができる。コーティング剤は、レトルト処理等の熱水処理後のガスバリア性をより十分に維持する観点から、少なくともシランカップリング剤又はその加水分解物を含有することが好ましく、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド及びそれらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種と、シランカップリング剤又はその加水分解物とを含有することがより好ましく、水酸基含有高分子化合物又はその加水分解物と、金属アルコキシド又はその加水分解物と、シランカップリング剤又はその加水分解物とを含有することが更に好ましい。コーティング剤は、例えば、水溶性高分子である水酸基含有高分子化合物を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液に、金属アルコキシドとシランカップリング剤とを直接、或いは予め加水分解させるなどの処理を行ったものを混合して調製することができる。
【0040】
コーティング剤に用いられる水酸基含有高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でもポリビニルアルコール(PVA)をガスバリア性被覆層のコーティング剤に用いた場合、ガスバリア性が特に優れるので好ましい。
【0041】
金属アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン〔Si(OC〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-2’-C〕などが挙げられる。テトラエトキシシラン及びトリイソプロポキシアルミニウムは、加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0042】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤は、これらの多量体であってもよい。
【0043】
コーティング剤には、ガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、あるいは、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。コーティング剤には、必要に応じて酸触媒、アルカリ触媒、光重開始剤等を加えてよい。
【0044】
ガスバリア性被覆層の厚さは、積層体中のポリプロピレンの含有量を90質量%以上としつつ優れたガスバリア性を得る観点から、50~1000nmであることが好ましく、100~500nmであることがより好ましい。ガスバリア性被覆層の厚さが50nm以上であると、より十分なガスバリア性を得ることができる傾向があり、1000nm以下であると、十分な柔軟性を保持できる傾向がある。
【0045】
ガスバリア性被覆層を形成するためのコーティング剤は、例えば、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等により塗布することができる。このコーティング剤を塗布してなる塗膜は、例えば、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、高周波照射法、赤外線照射法、UV照射法、またはそれらの組み合わせにより乾燥させることができる。
【0046】
上記塗膜を乾燥させる際の温度は、例えば、温度50~150℃とすることができ、温度70~100℃とすることが好ましい。乾燥時の温度を上記範囲内とすることで、無機酸化物層やガスバリア性被覆層にクラックが発生することをより一層抑制でき、優れたバリア性を発現することができる。
【0047】
[中間層12]
中間層の構成は、基材層の構成に関し記載した上記内容を適宜参照することができる。また、上述した密着層、無機酸化物層、ガスバリア性被覆層は、中間層の少なくとも一方の表面上に設けてもよい。積層体が中間層を備えることで、中間層を備えない場合と比較して、製袋時の積層体の変形をより低減することができる。
【0048】
中間層の厚さは、特に限定されないが、基材層の厚さと同様であってよく、これらの層の厚さの比(基材層の厚さ/中間層の厚さ)は、1.00以上であってよく、1.00超であってよく、1.25以上であってよく、1.50以上であってよい。基材層はヒートシール時にヒートシールバーに直接接する又は近接する部分であり、積層体の各層の中でも特に熱がかかる部分であるため、ヒートシール時に熱収縮しやすい。そのため、中間層よりも基材層を厚くすることで、基材層の熱収縮を抑制することができる。
【0049】
[印刷層]
積層体は、印刷層を備えていてよい。印刷層は、基材層の少なくとも一方の表面上、又は、中間層の少なくとも一方の表面上に設けることができる。印刷層は、内容物に関する情報の表示、内容物の識別、隠蔽性の向上、あるいは包装袋の意匠性向上を目的として、積層体の外側から見える位置に設けられる。印刷方法及び印刷インキは特に制限されず、既知の印刷方法及び印刷インキの中からフィルムへの印刷適性、色調などの意匠性、密着性、食品容器としての安全性などを考慮して適宜選択される。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。中でもグラビア印刷法は生産性や絵柄の高精細度の観点から、好ましく用いることができる。
【0050】
印刷層の密着性を高めるため、印刷層を設ける層の表面には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けても構わない。印刷層を設ける層の表面は、基材層又は中間層の表面、ガスバリア性被覆層の表面が挙げられる。
【0051】
[接着剤層S]
接着剤層を介して、基材層と中間層とを積層することができる。接着剤の材料としては、例えば、ポリエステル-イソシアネート系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂などを用いることができる。包装袋をレトルト用途に使用するには、レトルト耐性のある2液硬化型のウレタン系接着剤を好ましく用いることができる。なお、環境配慮の点からは、接着剤は3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を含まなくてもよい。
【0052】
接着剤層の厚さは特に限定されないが、例えば、0.5~5μmであってよく、2~3μmであってよい。接着剤層の厚さが0.5μm以上であると、基材層と中間層との密着性を向上させ易く、5μm以下であると、積層体のバリア性及びリサイクル性を向上させ易い。
【0053】
[シーラント層13]
シーラント層は、積層体においてヒートシールによる封止性を付与する層であり、ポリプロピレンを含む。シーラント層はポリプロピレンフィルムを含んでいてよく、ポリプロピレンフィルムからなるものであってよい。
【0054】
ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリプロピレンフィルム等であってもよい。また、ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。
【0055】
シーラント層を構成するポリプロピレンフィルムは、ヒートシールによる封止性を高める観点から、無延伸フィルムであることが好ましい。
【0056】
シーラント層を構成するポリプロピレンフィルムには、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤、静電防止剤等の各種添加材が添加されてよい。
【0057】
シーラント層の厚さは、内容物の質量や、包装袋の形状などにより定められるが、概ね30~150μmの厚さであってよく、40~100μmの厚さであってよく、50~80μmの厚さであってよい。
【0058】
シーラント層の形成方法としては、上述のポリプロピレンからなるフィルム状のシーラント層を1液硬化型もしくは2液硬化型ウレタン系接着剤等の接着剤で貼りあわせるドライラミネート法、フィルム状のシーラント層を無溶剤接着剤を用いて貼りあわせるノンソルベントドライラミネート法、上述したポリプロピレンを加熱溶融させ、カーテン状に押し出し、貼りあわせるエクストルージョンラミネート法等、いずれも公知の積層方法により形成することができる。
【0059】
上記形成方法の中でも、レトルト処理、特に120℃以上の高温熱水処理に対する耐性が高く好ましいのは、ドライラミネート法である。一方、包装袋を85℃以下の温度で処理する用途に用いるのであれば、ラミネート方式は特に制限されない。
【0060】
シーラント層と中間層とは、上述した接着剤層Sを介して積層することができる。
【0061】
積層体は、積層体全量の90質量%以上がポリプロピレンである。これにより、積層体は、単一素材からなる(モノマテリアルの)包装材料と言うことができ、リサイクル性に優れる。リサイクル性をより向上させる観点から、積層体におけるポリプロピレンの含有量は、積層体全量を基準として95質量%以上であってよい。
【0062】
<包装袋>
本実施形態に係る包装袋は、上述した本実施形態に係る積層体を製袋してなるものであり、特に形状の限定はないが、例えば、平パウチ形状の包装袋や、自立性包装袋(スタンディングパウチ)などが挙げられる。
【0063】
包装袋は、内容物として食品、医薬品等の内容物を収容し、レトルト処理やボイル処理などの加熱殺菌処理を施すことができる。
【0064】
レトルト処理は、一般に食品、医薬品等を保存するために、カビ、酵母、細菌などの微生物を加圧殺菌する方法である。通常は、食品等を包装した包装袋を、105~140℃、0.15~0.30MPaで10~120分の条件で加圧殺菌処理をする。レトルト装置は、加熱蒸気を利用する蒸気式と加圧加熱水を利用する熱水式があり、内容物となる食品等の殺菌条件に応じて適宜使い分ける。ボイル処理は、食品、医薬品等を保存するため湿熱殺菌する方法である。通常は、内容物にもよるが、食品等を包装した包装袋を、60~100℃、大気圧下で、10~120分の条件で湿熱殺菌処理を行う。ボイル処理は、通常、熱水槽を用いて100℃以下で処理を行う。方法としては、一定温度の熱水槽の中に浸漬し一定時間処理した後に取り出すバッチ式と、熱水槽の中をトンネル式に通して処理する連続式がある。
【0065】
上記包装袋は、製袋時の変形が少ないため、搬送性及び内容物封入時の作業性に優れる。
【0066】
平パウチ形状の包装袋は、1枚の上記積層体をシーラント層が対向するように二つ折りにした後、3方をヒートシールすることによって袋形状にしたものであってもよく、2枚の上記積層体をシーラント層が対向するように重ねた後、4方をヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよい。
【0067】
図2は、一実施形態に係る自立性包装袋の正面図であり、図3は、図2における破線Cに沿った自立性包装袋の断面図である。自立性包装袋200は、胴部4と折込部5とを備え、胴部4及び折込部5は、縦方向縁部6、船底型の底部7及び上部シール部8によりシールされている。自立性包装袋200は、胴部4を形成する2枚のフィルム41,42のシーラント層を対向させ、フィルム41,42の間に折込部5を形成するフィルム51をシーラント層が外面を向くように二つ折りにして挿入し、縦方向縁部6と、船底型の底部7、及び上部シール部8を加熱、加圧することにより形成される。
【0068】
上述した本実施形態に係る積層体は、上記胴部4におけるフィルム41及び42、並びに、上記折込部5におけるフィルム51に用いられる。なお、フィルム41、フィルム42及びフィルム51に用いる積層体の構成は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。例えば、内容物に関する情報の表示、隠蔽性の向上、及び、包装袋の意匠性向上の観点から、胴部4におけるフィルム41及び42は白色であることが好ましく、いずれかの層に白色顔料を含むことが好ましい。一方、折込部5におけるフィルム51は、内容物識別のために透明であることが好ましく、いずれの層にも白色顔料を含まないことが好ましい。
【0069】
包装袋は、積層体を、シーラント層同士を対向させた状態でヒートシールすることで形成されたシール部を有し、未シール部における基材層のマルテンス硬度HMに対するシール部における基材層のマルテンス硬度HMの下記式(1)で求められる変化率が20~30%である。
マルテンス硬度の変化率(%)={1-(HM/HM)}×100 …(1)
【0070】
マルテンス硬度HMの測定対象となる未シール部の測定位置は、シール部に近接していない位置であればよく、包装袋のサイズにもよるが、例えばシール部から10mm以上離れた位置であってよく、50mm以上離れた位置であってよい。、例えば図2に示す自立性包装袋200においては、包装袋の中央付近の未シール部A1においてマルテンス硬度HMを測定してもよい。
【0071】
マルテンス硬度HMの測定対象となるシール部は、シール強度を確保しつつ歪み及びカールを低減したいシール部であればよい。すなわち、例えば図2に示す自立性包装袋200においては、縦方向縁部6、底部7及び上部シール部8のうち、上記課題を達成したいシール部を、マルテンス硬度HMの測定対象とすればよい。よって、本実施形態に係る包装袋は、シール部のうちの少なくとも一つのマルテンス硬度HMが、上記変化率の条件を満たしていればよく、全てのシール部のマルテンス硬度HMが、上記変化率の条件を満たしていてもよい。自立性包装袋200においては、包装袋の自立性及び耐久性の観点からは、底部7において上記課題が達成できていることが好ましく、少なくとも底部7のマルテンス硬度HMが、上記変化率の条件を満たしていることが好ましい。この場合、例えば図2に示すように、底部7のシール部A2においてマルテンス硬度HMを測定すればよい。
【0072】
上記マルテンス硬度の変化率が20%以上であることで、シール部のシール強度を確保することができる。上記マルテンス硬度の変化率が30%以下であることで、シール部の歪み及びカールを低減することができる。シール部のシール強度をより高める観点から、マルテンス硬度の変化率は25%以上であってよく、27%以上であってよい。
【0073】
本開示においてマルテンス硬度HM及びHMは、基材層の断面に対して以下の方法で測定される値である。すなわち、包装袋の未シール部の基材層及びシール部の基材層を切り出して断面を露出させ、当該断面に対してマルテンス硬度計を用いてマルテンス硬度を測定する。測定は常態(23℃、50%RH)で行う。マルテンス硬度は、測定対象に圧子を押し込み、一定の深さの凹みに作るのに要した荷重で硬さの度合いを表したものである。
【0074】
<包装袋の製造方法>
本実施形態に係る包装袋の製造方法は、上述した本実施形態に係る積層体を、シーラント層同士を対向させた状態でヒートシールすることでシール部を形成するヒートシール工程を含み、ヒートシール工程において、未シール部における基材層のマルテンス硬度HMに対するシール部における基材層のマルテンス硬度HMの下記式(1)で求められる変化率が20~30%となるようにヒートシールを行う方法である。
マルテンス硬度の変化率(%)={1-(HM/HM)}×100 …(1)
【0075】
上記製造方法によれば、マルテンス硬度の変化率が上記範囲内となるようにヒートシールを行うことで、シール部のシール強度を確保しつつ、シール部の歪み及びカールを低減することができる。
【0076】
ヒートシール工程におけるヒートシール温度は、マルテンス硬度の変化率が上記範囲内となる条件であれば特に限定されないが、例えば145~164℃であってよく、150~160℃であってよい。ヒートシール温度が上記範囲内であると、マルテンス硬度の変化率を20~30%の範囲内に調整し易い。なお、使用する積層体の構成によって、マルテンス硬度の変化率を20~30%の範囲内にできるヒートシール温度は変動する。そのため、ヒートシール温度は、上述した温度範囲に限定されず、使用する積層体の構成に応じて適宜調整することが好ましい。上記ヒートシール温度とは、シールバーの実温度、すなわちシールバーの熱源となるヒートブロックの温度を熱電対にて測定した温度を意味する。また、上側シールバーと下側シールバーとで実温度が異なる場合には、高温側のシールバーにおける実温度を上記範囲内とすることが好ましい。
【実施例0077】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0078】
<密着層形成用組成物の調製>
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加し、これらを混合することで密着層形成用組成物(アンカーコート剤)を調製した。
【0079】
<ガスバリア性被覆層形成用組成物の調製>
下記のA液、B液及びC液を、それぞれ65/25/10の質量比で混合することで、ガスバリア性被覆層形成用組成物を調製した。
A液:テトラエトキシシラン(Si(OC)17.9gとメタノール10gに0.1N塩酸72.1gを加えて30分間攪拌して加水分解させた固形分5質量%(SiO換算)の加水分解溶液。
B液:ポリビニルアルコールの5質量%水/メタノール溶液(水:メタノールの質量比は95:5)。
C液:1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを水/イソプロピルアルコールの混合液(水:イソプロピルアルコールの質量比は1:1)で固形分5質量%に希釈した加水分解溶液。
【0080】
[実施例1]
(積層体の作製)
中間層としての片面にコロナ処理が施された延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ20μm)のコロナ処理面に、上記密着層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、60℃で乾燥及び硬化させ、塗布量が0.1g/mであるポリエステル系ポリウレタン樹脂からなる密着層を形成した。次に、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、厚さ30nmの酸化ケイ素からなる透明な無機酸化物層(シリカ蒸着層)を形成した。シリカ蒸着層としては、蒸着材料種を調整し、O/Si比が1.8である蒸着層を形成した。O/Si比は、X線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)にて、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定した。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いて行った。
【0081】
次に、無機酸化物層上に、上記ガスバリア性被覆層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、オーブン中、張力20N/m、乾燥温度120℃の条件で加熱乾燥させ、厚さ0.3μmのガスバリア性被覆層を形成した。これにより、中間層/密着層/無機酸化物層/ガスバリア性被覆層の積層構造を有するガスバリアフィルムを得た。
【0082】
次に、上記ガスバリアフィルムのガスバリア性被覆層上に、基材層としての延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ20μm)を、2液硬化型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤PP6263/硬化剤A50)を介してドライラミネート法によってラミネートした。ここで、基材層としては、150℃で15分間オーブンにて加熱した後のMD方向の熱収縮率が6.4%であり、TD方向の熱収縮率が8.7%であるフィルムを用いた。
【0083】
次に、中間層の非コロナ処理面にコロナ処理を施し、中間層上に、シーラント層としての無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ60μm)を、2液硬化型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤PP6263/硬化剤A50)を介してドライラミネート法によってラミネートした。これにより、基材層/接着剤層/ガスバリア性被覆層/無機酸化物層/密着層/中間層/接着剤層/シーラント層の積層構造を有する積層体を製造した。
【0084】
(スタンディングパウチの作製)
得られた積層体を用いて胴部及び折込部を形成し、図2に示す構造を有するスタンディングパウチ(自立性包装袋)を作製した。スタンディングパウチの幅(図2のW)は130mm、高さ(図2のH)は220mm、折込量(図2のa-b間の距離)は40mmとした。また、製袋時のヒートシールは、船底型の底部及び縦方向縁部に対して順次行い、船底型の底部のシール幅は5~10mm、縦方向縁部のシール幅は7mmとした。ヒートシール条件は、トタニ技研工業株式会社製の製袋機(上側シールバー:アルミ製、下側シールバー:ラバー製)を用いて、上側シールバー実温度:157℃、下側シールバー実温度:90℃、シール時間:0.5秒とした。
【0085】
[比較例1]
実施例1と同様にして積層体を作製した。得られた積層体を用い、ヒートシール時の上側シールバー実温度を142℃に変えたこと以外は実施例1と同様にして、スタンディングパウチを作製した。
【0086】
[比較例2]
実施例1と同様にして積層体を作製した。得られた積層体を用い、ヒートシール時の上側シールバー実温度を165℃に変えたこと以外は実施例1と同様にして、スタンディングパウチを作製した。
【0087】
<マルテンス硬度の測定>
実施例及び比較例で得られたスタンディングパウチにおいて、基材層のマルテンス硬度を以下の方法で測定した。未シール部A1の基材層、及び、底部のシール部A2の基材層をカッターで切り出し、測定用のサンプルとした。サンプルを2液硬化型樹脂により固定し、サンプルの基材層断面に対し、株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製のマイクロレンジ押込み硬さ試験機(商品名:HM-2000 XYp)を用いて、常態(23℃、50%RH)でのマルテンス硬度を測定した。また、未シール部における基材層のマルテンス硬度HMに対するシール部における基材層のマルテンス硬度HMの変化率を、下記式(1)により求めた。結果を表1に示す。
マルテンス硬度の変化率(%)={1-(HM/HM)}×100 …(1)
【0088】
<シール強度の測定>
実施例及び比較例で得られたスタンディングパウチを、シール部A2が含まれるように幅15mm×長さ60mmにカッターでカットし、短冊状のシール強度測定用サンプルを得た。得られたサンプルに対し、テンシロン万能試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフ)を用いて、チャック間距離10mm、剥離速度100m/分の条件で、常態(23℃、50%RH)でのシール部の剥離試験を行った。また、得られたシール強度の実測値から、下記基準に基づいて評価を行った。結果を表1に示す。
A:シール強度が35N/15mm以上
B:シール強度が35N/15mm未満
【0089】
<カール高さの測定>
スタンディングパウチを平面上に置き、その中央に100gの重りを載せ、平面と接する側のスタンディングパウチの表面内で、平面から最も浮き上がった部分の平面からの高さを金尺により測定し、その値をカール高さとした。また、得られたカール高さの実測値から、下記基準に基づいて評価を行った。結果を表1に示す。
A:カール高さが15mm未満
B:カール高さが15mm以上
【0090】
<歪みの評価>
実施例及び比較例で得られたスタンディングパウチの、船底型の底部のシール部における歪み(熱シワ)の有無を目視観察し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
A:シール部に歪み(熱シワ)が認められない。
B:シール部に歪み(熱シワ)が認められる。
【0091】
【表1】
【符号の説明】
【0092】
11…基材層、12…中間層、13…シーラント層、S…接着剤層、4…胴部、5…折込部、6…縦方向縁部、7…底部、8…上部シール部、41,42,51…フィルム、100…積層体、200…自立性包装袋。

図1
図2
図3