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特開2024-99171沈降分離処理装置、沈降分離処理装置における沈殿物除去方法、及び、沈降分離処理装置を用いて行うフェロニッケルの製造方法
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  • 特開-沈降分離処理装置、沈降分離処理装置における沈殿物除去方法、及び、沈降分離処理装置を用いて行うフェロニッケルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099171
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】沈降分離処理装置、沈降分離処理装置における沈殿物除去方法、及び、沈降分離処理装置を用いて行うフェロニッケルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/24 20060101AFI20240718BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20240718BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20240718BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20240718BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B01D21/24 H
B01D21/02 N
B01D21/24 D
B01D21/24 M
C22B23/02
C22C33/04 H
F27D17/00 105K
F27D17/00 104G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002908
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨紀
(72)【発明者】
【氏名】黒木 太
【テーマコード(参考)】
4K001
4K056
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA09
4K001CA16
4K001DA05
4K001GA02
4K001GA13
4K001GB09
4K001HA01
4K001KA00
4K056AA02
4K056CA02
4K056DB04
4K056DB27
(57)【要約】
【課題】貯留槽の底面に沈殿する沈殿物を1か所に誘導する集泥機構を備えていなくても、沈殿物の除去作業を効率良く行うことができる沈降分離処理装置を提供すること。
【解決手段】貯留槽10は、底面11が平らな略円筒形状の槽であって、排水装入管20は、貯留槽10の側壁32上の任意の1か所である排水装入起点から貯留槽10の中心Oに向かう水平方向に沿って延在する水平搬送部21を有し、排出口から排出される排水の貯留槽への着水位置が、前記貯留槽の中心Oの近傍域となるように設置されていて、沈殿物抜き取り管31が貯留槽10の側壁上における排水装入起点P1と対向する位置である沈殿物排出起点P2の近傍域に形成される主沈殿領域A内において、貯留槽10の天面側から鉛直下方に向けて挿入される態様で配置されている、沈降分離処理装置1とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水中に含まれる懸濁物質の比重分離を行う沈降分離処理装置であって、
貯留槽と、
排水装入管と、
沈殿物排出機構と、を備え、
前記貯留槽は、底面が平らな略円筒形状の槽であって、
前記排水装入管は、前記貯留槽の側壁上の任意の1か所である排水装入起点から該貯留槽の中心に向かう水平方向に沿って延在する水平搬送部を有し、排出口から排出される排水の貯留槽への着水位置が、前記貯留槽の中心の近傍域となるように設置されていて、
前記沈殿物排出機構は、沈殿物抜き取り管と、沈殿物吸い上げ用ポンプと、を備え、
前記沈殿物抜き取り管が、前記貯留槽の側壁上における前記排水装入起点と対向する位置である沈殿物排出起点の近傍域に形成される主沈殿領域内において、前記貯留槽の天面側から鉛直下方に向けて挿入される態様で配置されている、
沈降分離処理装置。
【請求項2】
前記排水装入管は、前記水平搬送部の先端において、前記底面に向かう方向に向けて折り曲げられており、前記水平搬送部の先端における管の折り曲げ角度が90°以上95°以下である、
請求項1に記載の沈降分離処理装置。
【請求項3】
前記沈殿物抜き取り管には、管内に洗浄水を供給する洗浄水供給管が接続されている、
請求項1又は2に記載の沈降分離処理装置。
【請求項4】
排水中に含まれる懸濁物質の比重分離を行う沈降分離処理装置における沈殿物除去方法であって、
底面が平らな略円筒形状の槽である貯留槽と、
前記貯留槽の側壁上の任意の1か所である排水装入起点から該貯留槽の中心に向かう水平方向に沿って延在する水平搬送部を有し、排出口から排出される排水の貯留槽への着水位置が、前記貯留槽の中心の近傍域となるように設置されている排水装入管と、
を備える沈降分離処理装置において、
前記貯留槽の側壁上における前記排水装入起点と対向する位置である沈殿物排出起点の近傍域に形成される主沈殿領域に沈殿物吸い上げ用ポンプに接続されている沈殿物抜き取り管を挿入して沈殿物を吸い上げる、
沈降分離処理装置における沈殿物除去方法。
【請求項5】
乾燥工程又は焼成工程から排出される排ガスを湿式処理によって処理する排ガス処理工程が行われる乾式の製錬工程において、
前記排ガス処理工程から排出される排水に含まれる懸濁物質の分離処理を、
請求項1から3の何れかに記載の沈降分離処理装置によって行う、
フェロニッケルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈降分離処理装置、沈降分離処理装置における沈殿物除去方法、及び、沈降分離処理装置を用いて行うフェロニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一例として、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する乾式製錬法製造プロセス(特許文献1参照)において、湿式の集塵装置から排出される排水等、様々な工業プロセスから排出される排水中の懸濁物質(SS)を比重差で分離する沈降分離処理装置が広く用いられている。
【0003】
上記の沈降分離処理装置においては、懸濁物質を含む排水は、貯留槽内で、十分な対流時間を経て比重分離が施され、懸濁物質の濃度が低減された上澄み液がオーバーフローとして排出される。このとき、懸濁物質は貯留槽の底面に沈殿して重泥状態となる。貯留槽の底面に沈殿した沈殿物は、例えば、特許文献2に開示されているような集泥機構によって貯留槽の底面中央部に設けられている集泥部(底面に設けられた凹部等)に集められた後に、排出ポンプと配送管等からなる排泥機構によって槽外に排出されている。
【0004】
しかしながら、沈降分離処理装置の中には、特に年式の旧い装置において、上記のような集泥機構や集泥部が設けられてはおらず円筒形等の貯留槽のみからなる単純な構造の装置も多く現存する。現在の各所の工業プラントでは、そのような単純な構造の沈降分離処理装置(以下、「旧式の沈降分離処理装置」)も実際に広く稼働している。
【0005】
このような「旧式の沈降分離処理装置」においては、底面に大量の沈殿物が堆積した状態となると、懸濁物質が十分に沈殿せずにオーバーフローとして排出されてしまうリスクが高まるので、これを防ぐために、定期的に貯留槽の底面に沈殿した重泥の除去作業を行う必要がある。
【0006】
「旧式の沈降分離処理装置」における上述の沈殿物の除去作業は、多くの場合、図4に示すように、バケット3によって表面部の重泥を除去した後に、貯留槽10内にパワーショベル等の重機4を搬入して底面部に残る重泥を除去回収する方法等により行われている。
【0007】
上記の沈殿物の除去作業中には、一般的に1週間以上の沈降分離処理装置の稼働停止を余儀なくされる。例えば、上述の集泥機構や排泥機構(集泥用のポンプや配管)を新設すれば、上記の沈殿物の除去作業中の稼働停止期間を低減或いは回避することはできる。これらの機構のうち排泥機構(集泥用のポンプや配管)の設置は比較的容易ではある。しかしながら、集泥機構については沈降分離処理装置の基本構造に係る設備であるため、後から単独で新設することは困難である。従って、「旧式の沈降分離処理装置」においては、依然として、その都度1週間以上に及ぶ長期の稼働停止を甘受して、沈殿物の除去作業が繰り返し定期的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-206344号公報
【特許文献2】実開昭58-151407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、貯留槽の底面に沈殿する沈殿物を1か所に誘導する集泥機構を備えていなくても、沈殿物の除去作業を効率良く行うことができる沈降分離処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、沈殿物排出機構を排水の挿入方向に対して適切な位置に設置することにより、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 排水中に含まれる懸濁物質の比重分離を行う沈降分離処理装置であって、貯留槽と、排水装入管と、沈殿物排出機構と、を備え、前記貯留槽は、底面が平らな略円筒形状の槽であって、前記排水装入管は、前記貯留槽の側壁上の任意の1か所である排水装入起点から該貯留槽の中心に向かう水平方向に沿って延在する水平搬送部を有し、排出口から排出される排水の貯留槽への着水位置が、前記貯留槽の中心の近傍域となるように設置されていて、前記沈殿物排出機構は、沈殿物抜き取り管と、沈殿物吸い上げ用ポンプと、を備え、前記沈殿物抜き取り管が、前記貯留槽の側壁上における前記排水装入起点と対向する位置である沈殿物排出起点の近傍域に形成される主沈殿領域内において、前記貯留槽の天面側から鉛直下方に向けて挿入される態様で配置されている、沈降分離処理装置。
【0012】
(1)の沈降分離処理装置においては、貯留槽の底面に沈殿する沈殿物を1か所に誘導する集泥機構を備えていなくても、沈殿物の除去作業を効率良く行うことができるので、沈殿物の除去作業時における稼働停止期間を短縮して、従来装置よりも装置の稼働率を向上させることができる。
【0013】
(2) 前記排水装入管は、前記水平搬送部の先端において、前記底面に向かう方向に向けて折り曲げられており、前記水平搬送部の先端における管の折り曲げ角度が90°以上95°以下である、(1)に記載の沈降分離処理装置。
【0014】
(2)の沈降分離処理装置によれば、より確実により効率良く沈殿物の除去作業を行うことができるので、更に稼働率を向上させることができる。
【0015】
(3) 前記沈殿物抜き取り管には、管内に洗浄水を供給する洗浄水供給管が接続されている、(1)又は(2)に記載の沈降分離処理装置。
【0016】
(3)の沈降分離処理装置によれば、沈殿物の除去作業の作業進行中の沈殿物抜き取り管の閉塞のリスクを低減させることにより、当該作業の進捗の安定性を高めることができる。
【0017】
(4) 排水中に含まれる懸濁物質の比重分離を行う沈降分離処理装置における沈殿物除去方法であって、底面が平らな略円筒形状の槽である貯留槽と、前記貯留槽の側壁上の任意の1か所である排水装入起点から該貯留槽の中心に向かう水平方向に沿って延在する水平搬送部を有し、排出口から排出される排水の貯留槽への着水位置が、前記貯留槽の中心の近傍域となるように設置されている排水装入管と、を備える沈降分離処理装置において、前記貯留槽の側壁上における前記排水装入起点と対向する位置である沈殿物排出起点の近傍域に形成される主沈殿領域に沈殿物吸い上げ用ポンプに接続されている沈殿物抜き取り管を挿入して沈殿物を吸い上げる、沈降分離処理装置における沈殿物除去方法。
【0018】
(4)の沈殿物除去方法によれば、貯留槽の底面に沈殿する沈殿物を1か所に誘導する集泥機構を備えていない沈殿物処理装置において、沈殿物の除去作業を効率良く行うことができる。
【0019】
(5) 乾燥工程又は焼成工程から排出される排ガスを湿式処理によって処理する排ガス処理工程が行われる乾式の製錬工程において、前記排ガス処理工程から排出される排水に含まれる懸濁物質の分離処理を、(1)から(3)の何れかに記載の沈降分離処理装置によって行う、フェロニッケルの製造方法。
【0020】
(5)のフェロニッケルの製造方法によれば、(1)から(3)の何れかに記載の沈降分離処理装置の奏する上記効果を享受することにより、フェロニッケルを製造するプロセス全体の生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、貯留槽の底面に沈殿する沈殿物を1か所に誘導する集泥機構を備えていなくても、沈殿物の除去作業を効率良く行うことができる沈降分離処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の沈降分離処理装置の構成を模式的に示す側面図(断面図)である。
図2】本発明の沈降分離処理装置の構成を模式的に示す平面図である。
図3】本発明の沈降分離処理装置を好適に用いて実施することができるフェロニッケルの製造方法のフローの一例を示す工程図である。
図4】「旧式の沈降分離処理装置」における、沈殿物の除去作業の実施態様の説明に供する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0024】
<沈降分離処理装置>
本発明の「沈降分離処理装置」は、排水中に含まれる懸濁物質を比重分離によって分離する処理を行う装置である。図1及び図2は、本発明の好ましい実施形態の一例である沈降分離処理装置1の全体構成を模式的に示す図面である。沈降分離処理装置1は、貯留槽10、排水装入管20、及び、沈殿物排出機構30を含んで構成されている。
【0025】
[貯留槽]
図1及び図2に示すように、貯留槽10は、底面が平らな略円筒形状の槽である。貯留槽10は、処理対象とする懸濁物質を含む排水を内部に貯留して、当該排水中に含まれる懸濁物質の比重分離を行うことで懸濁物質の濃縮を行う槽である。沈降分離処理装置1の稼働中には、排水から比重分離されて沈降した懸濁物が、沈殿物Sとして貯留槽10の平らな底面11上に堆積されていく。尚、貯留槽10の天面は、通常、開放面であることが想定されているが、本発明において必須とされる他の構成部分の動作を妨げない限りにおいて、天面は開閉式であってもよいし、一部が閉鎖されていてもよい。
【0026】
尚、本明細書においては、図2に示す通り、貯留槽10の側壁上における排水装入管20の起点(排水装入管20と貯留槽10の側壁が交差する位置)のことを「排水装入起点P1」と称する。又、同様に貯留槽10の側壁上において排水装入起点P1と対向する位置に規定される沈殿物排出機構の設置基準となる位置のことを「沈殿物排出起点P2」と称する。
【0027】
[排水装入管]
排水装入管20は、処理対象となる排水を排出する上流側の設備から、当該排水を搬送して貯留槽10内に装入するための搬送管である。排水装入管20は、貯留槽10の側壁12上の任意の1か所である排水装入起点P1から貯留槽10の中心Oに向かう水平方向dに沿って延在する水平搬送部21を有する。水平搬送部21は、図1図2に示すように、排水装入管20の末端の排出口24から排出される排水の貯留槽への着水位置が、貯留槽10の中心Oの近傍域となるように設置されている。本明細書における貯留槽10の中心Oの近傍域とは、具体的には、貯留槽の半径をrとした場合に、中心から0.2r以内の距離にある範囲のことを言う。
【0028】
又、排水装入管20は、水平搬送部21の先端の折れ曲がり部22において、貯留槽10の底面11の方向に向けて折り曲げられていて、折れ曲がり部22よりも先の部分である排出部23が底面11の方向に向かう形状であることが好ましい。水平搬送部21の先端の折れ曲がり部22は、水平搬送部21の先端に曲がり管(エルボ)を接続することにより構成することができる。この折れ曲がり部22において、貯留槽10の底面11に対して略平行となる方向dに沿って水平搬送される排水の向きは、貯留槽10の底面11に対して下向きに変えられる。排水は、折れ曲がり部22において流れの向きを下向きに変えられた後に、排出部23の末端の排出口24から貯留槽10内に貯留される排水Lの液面に向けて排出される。
【0029】
そして、排水装入管20における水平搬送部21の先端の折れ曲がり部22における管の折り曲げ角度α(図1参照)は、90°以上とすることが好ましい。本明細書において、「水平搬送部の先端における管の折り曲げ角度」とは、排出口24の中心を通り、且つ、排出口24を含む平面に対して垂直方向に伸びる軸線と、水平搬送部21の中心軸との成す角α(図1参照)のことを言うものとする。尚、排水装入管20においては、上記の軸線と中心軸は、共に貯留槽10の底面11に垂直で、且つ、水平搬送部21の延在方向と平行な平面上に含まれるように形成されていることが好ましい。
【0030】
水平搬送部21内において管内の排水は、図2に示すように、主沈殿領域Aに向かう方向dに沿って搬送され、少なくとも90°以上の折れ曲がり角度を有する折れ曲がり部22を経て排出口24から排出される。水平搬送部21の先端の折れ曲がり部22における管の折り曲げ角度αを、90°以上とすることによって、図2に示すように、沈殿物排出起点P2の近傍域に形成される主沈殿領域Aに相対的により多くの沈殿物Sを堆積させることができる。本明細書において「主沈殿領域」とは、沈殿物排出起点P2の近傍域において他の領域よりも相対的に多くの沈殿物Sが堆積されている領域のことを言う。目安としては沈殿物排出起点P2からの距離が2m以内程度の範囲である。
【0031】
沈降分離処理装置1において、主沈殿領域Aに、相対的により多くの沈殿物Sを堆積させることができるのは、排水装入管20における上記の折り曲げ角度αを90°以上にすることにより、排出口24から排出された排水に、主沈殿領域Aに向かう方向への若干の流れを形成することが可能な程度に、同方向への運動エネルギーを残留させることができるからである。これにより、排出口24から排出される排水は、貯留槽10内に貯留されている排水の液面に着水しても、直ちに不特定な方向に分散されることはなく、貯留槽10内においては、主沈殿領域Aに向けて適度な速度で移動する流れが形成される。そして、沈降分離処理装置1においては、貯留槽10内における、そのような流れの中で、排水中に含まれる懸濁物質が比重分離し、主沈殿領域Aに相対的により多くの割合の沈殿物Sを堆積させることができる。
【0032】
沈降分離処理装置1における排水装入管20の折り曲げ角度α(図1参照)は、95°以下とすることが好ましい。折り曲げ角度αが95°を超える場合には、主沈殿領域Aに向けての流れを形成することがより容易にはなるが、その流れの速度が大きくなり過ぎて排水が主沈殿領域Aに到達するまでの時間が短くなり、その結果、充分な比重分離が進行しないリスクが高まるからである。
【0033】
尚、上記の折り曲げ角度αが85°以上90°未満である場合は、排出口24から排出された排水が主沈殿領域Aに向かう流れが十分に形成されなくなり、貯留槽10内に貯留されている排水の液面に着水した排水は、直ちに不特定な方向に分散される懸念がある。更に、上記の折り曲げ角度αが85°未満であると、折れ曲がり部22における排水の流れの曲げ量が大きくなりすぎて、折れ曲がり部22における管内の摩耗が進行しやすくなり、排水装入管20の寿命が短くなるリスクが大きくなる。
【0034】
以上より、沈降分離処理装置1においては、排水装入管20の水平搬送部21の先端の折れ曲がり部22における管の折り曲げ角度α(図1参照)を、90°以上95°以下とすることが好ましい。
【0035】
[沈殿物排出機構]
沈殿物排出機構30は、貯留槽10の平らな底面11において、主沈殿領域Aに相対的により多く堆積されている沈殿物Sを貯留槽10の槽外に除去するための機構であり、少なくとも、沈殿物抜き取り管31と、沈殿物吸い上げ用ポンプ32と、を含んで構成される。
【0036】
沈殿物排出機構30を構成する沈殿物抜き取り管31は、貯留槽10の側壁上における排水装入起点P1と対向する位置である沈殿物排出起点P2の近傍域に形成される主沈殿領域A内において、貯留槽10の天面側から鉛直下方に向けて挿入される態様で配置されている。又、沈殿物抜き取り管31は、上記範囲内において、排水装入起点P1と沈殿物排出起点P2とを結ぶ線上において、貯留槽10の天面側から鉛直下方に向けて貯留槽10の底面11の近傍に先端部が到達するように配置されていることがより好ましい。
【0037】
ここで、沈降分離処理装置1における主沈殿領域Aの具体的範囲は、貯留槽10のサイズ(内径及び深さ)や、処理対象とする排水中の懸濁物質の濃度、排出量、及び排出速度によって変動するので一定の数値範囲に限定されるものではないが、実際に沈殿物Sの底面での各領域毎における堆積量を測定した結果として、他の領域よりも堆積量が相対的に一定以上の割合で多くなっている部分を主沈殿領域Aに決定すればよい。或いは、一般的な沈降分離処理の操業条件の下で、沈殿物の堆積量が多くなる蓋然性が高いと推認可能な範囲として沈殿物排出起点P2からの距離が2m以内程度の範囲を便宜的に主沈殿領域Aと規定してもよい。このようにして決定される主沈殿領域A内に沈殿物抜き取り管31の配置位置を限定することによって、その他の任意の領域に沈殿物抜き取り管31を設置する場合よりも、確実に効率良く沈殿物Sを吸い上げることができる。
【0038】
又、沈殿物抜き取り管31には、吸い上げた沈殿物Sが管内に詰まって沈殿物抜き取り管31が閉塞したときに、その閉塞を取り除くための機構として、管内に洗浄水を供給する洗浄水供給管34が接続されていることがより好ましい。洗浄水供給管34は、図1に示すように沈殿物抜き取り管31の途中に設けた分岐管に接続し、又、この場合に、洗浄水供給管34において、この分岐管よりも排出側(貯留槽10から離れる方向)に進んだ位置にも開閉弁33Aを設けるようにすることが好ましい。沈殿物抜き取り管31側の開閉弁33Aの閉鎖後に、洗浄水供給管34の途中に設けた開閉弁33Bを開放することで、上記分岐管よりも貯留槽10側の管内を洗浄することができる。沈殿物Sの閉塞を取り除くための機構は、上記した態様に限られず、例えば、分岐管に代えて三方弁を設置してこれに洗浄水供給管34を接続してもよい。この場合は、上記開閉弁を更に設ける必要がなくなるので、より簡便に洗浄を行うことができる。
【0039】
<沈降分離処理装置における沈殿物除去方法>
本発明の実施態様の一つである「沈降分離処理装置における沈殿物除去方法」(以下、単に「沈殿物除去方法」とも言う)は、排水中に含まれる懸濁物質の比重分離を行う沈降分離処理装置における沈殿物除去方法であって、底面が平らな略円筒形状の槽である貯留槽と、貯留槽の側壁上の任意の1か所である排水装入起点から貯留槽の中心に向かう水平方向に沿って延在する水平搬送部を有し、排出口から排出される排水の貯留槽への着水位置が、貯留槽の中心の近傍域となるように設置されている排水装入管と、を備える沈降分離処理装置において、貯留槽の側壁上における排水装入起点と対向する位置である沈殿物排出起点の近傍域に形成される主沈殿領域に沈殿物吸い上げ用ポンプに接続されている沈殿物抜き取り管を挿入して沈殿物を吸い上げる、沈殿物除去方法である。
【0040】
本発明の「沈殿物除去方法」は、沈降分離装置が、上記において詳細を説明した沈降分離処理装置1である場合に、上述の態様で貯留槽10の底面に形成される主沈殿領域Aから沈殿物Sを、沈降分離処理装置1に常設されている沈殿物排出機構30の備える沈殿物抜き取り管31によって吸い上げることにより実施することができる。但し、「沈殿物除去方法」の実施態様はこれに限定されるものではなく、例えば、貯留槽10と排水装入管20とを備え、沈殿物排出機構30は備えていない構成の沈降分離処理装置においても、沈殿物Sを除去する作業の実施中においてのみ、沈殿物吸い上げ用ポンプ32に接続されている沈殿物抜き取り管31を、貯留槽10の主沈殿領域Aに挿入して沈殿物Sを吸い上げる実施態様によっても実施することができる。
【0041】
「沈殿物除去方法」による沈殿物Sの除去作業は、例えば、山なりに堆積した沈殿物Sの頂部が、貯留槽10の側壁の高さに対して概ね50%を超えた時点を作業開始が必要となる時点と予め規定しておき、これを目安として必要に応じて適宜行えばよい。具体的には、沈降分離処理装置を停止させた後に貯留槽10内の排水を排出して行う。この点については、従来法と同様であるが、本発明の「沈殿物除去方法」においては、図4に示すような旧来の沈殿物の除去作業のように、貯留槽10内に重機(例えば、パワーショベル)を搬入する必要がない。そのため、本発明の「沈殿物除去方法」によれば、沈殿物Sの除去作業に伴う「旧式の沈降分離処理装置」の停止期間(排水の排出と供給に係る停止期間を除いた期間)を、旧来の沈殿物の除去作業による場合における4日から1日へと大幅に短縮することが可能である。しかも、除去作業に係るコストが小さく、これを頻繁に行い易いため、貯留槽10内において大量に沈殿物が堆積してしまうことを防止しやすく、貯留槽10の上部中央から供給された排水中の懸濁物質が、十分に沈殿せずにそのままオーバーフローとして排出してしまうといった不都合を効果的に回避しやすくなる。
【0042】
又、「沈殿物除去方法」においては、山なりに堆積した沈殿物Sの高さを検出するためのセンサーを設置することで、沈殿物が所定の高さになった時点で自動的に沈殿物の抜き取りを行うようにしてもよい。本発明においては、沈殿物Sが堆積しやすい領域である主沈殿領域Aを容易に推定できるので、センサーの設置位置を容易に最適化することもできる。
【0043】
<フェロニッケルの製造方法>
本発明の沈降分離処理装置を用いて好適に行うことができる「フェロニッケルの製造方法」は、ニッケル酸化鉱石等を原料鉱石として投入し、乾燥工程S1、焼成工程S2、及び、熔融還元工程S3を順次行うことによって、フェロニッケルを得る製造方法である。又、乾式製錬法によるフェロニッケルの製造方法においては、熔融還元工程S3において得られる粗フェロニッケル(以下、単に「メタル」とも言う)は、精製工程において硫黄等の不純物が除去されフェロニッケル製品となる。一方で、この工程で分離除去されるフェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」とも言う)は、高圧水による水砕処理工程S4が行われた後、鉄鋼の造滓材、コンクリート用細骨材、土木工事用資材等として利用されている。
【0044】
本発明の「フェロニッケルの製造方法」は、広義においては、上記の乾式製錬法において、乾燥工程S1及び/又は焼成工程S2で発生する排ガスから、原料鉱石由来のダストを回収する排ガス処理工程S5において排出される、当該ダストを懸濁物質として含有する排水中の懸濁物質の沈降分離処理を、本発明による「沈降分離処理装置」を用いて行うようにしたことを主たる特徴とする製造方法である。
【0045】
[乾燥工程]
乾燥工程S1は、原料鉱石(ニッケル酸化鉱石)に乾燥処理を施し、鉱石中に含まれる付着水分が15質量%以上25質量%以下程度にまで減少するように乾燥させた乾燥鉱石を得る工程である。
【0046】
[焼成工程]
焼成工程S2は、乾燥工程S1で得た乾燥鉱石を、炭素質還元剤(石炭)、及び、必要に応じて添加される熔剤と共に、800℃以上1000℃以下程度の温度にまで加熱する処理により、乾燥鉱石に残留している付着水及び結晶水を完全に除去(乾燥)すると共に、乾燥鉱石の一部を還元し、乾燥及び部分還元された焼鉱13を得る工程である。
【0047】
[熔融還元工程]
熔融還元工程S3は、焼成工程S2で結晶水分の分解(焼成)と部分的な還元処理が行われた鉱石である焼鉱13を、還元熔解手段として機能する電気炉や熔鉱炉等の還元炉(図示せず)に投入して還元熔解することにより、粗フェロニッケル(メタル)とフェロニッケルスラグ(スラグ)とを形成する工程である。
【0048】
[排ガス処理工程]
排ガス処理工程S5は、乾燥工程S1及び/又は、焼成工程S2において発生する排ガスから、当該排ガス中に含有されている原料鉱石由来のダストを回収する工程である。又、排ガス処理工程S5は、より好ましい実施態様として、乾燥工程S1において発生する排ガスから原料鉱石由来のダストを回収する工程として実施することができる。
【0049】
ここで、本発明の「フェロニッケルの製造方法」の排ガス処理工程S5から排出される排水中の懸濁物質は、主沈殿領域Aにおいて沈殿状態となった後も、適度な流動性を有しており、沈殿物抜き取り管31末端の吸い込み口の周囲に順次沈殿物が流れ込むので、沈殿物抜き取り管31の周囲のみが局所的に吸い上げられた状態にはなり難い。そのため、主沈殿領域Aに堆積する沈殿物Sの大部分を効率良く吸い上げることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 沈降分離処理装置
10 貯留槽
11 底面
12 側壁
20 排水装入管
21 水平搬送部
22 折れ曲がり部
23 排出部
24 排出口
30 沈殿物排出機構
31 沈殿物抜き取り管
32 沈殿物吸い上げ用ポンプ
33(33A、33B) 開閉弁
34 洗浄水供給管
2 旧式の沈降分離処理装置
3 バケット
4 重機(ショベルカー)
S1 乾燥工程
S2 焼成工程
S3 熔融還元工程
S4 水砕処理工程
S5 排ガス処理工程
図1
図2
図3
図4